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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】トレッド配合物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20220426BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20220426BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220426BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20220426BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20220426BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
C08L9/06
C08L9/00
C08K3/36
C08K3/06
C08K5/10
B60C1/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020521967
(86)(22)【出願日】2018-10-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 EP2018078847
(87)【国際公開番号】W WO2019081406
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2020-05-08
(31)【優先権主張番号】102017000121295
(32)【優先日】2017-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】518333177
【氏名又は名称】ブリヂストン ヨーロッパ エヌブイ/エスエイ
【氏名又は名称原語表記】BRIDGESTONE EUROPE NV/SA
【住所又は居所原語表記】Kleine Kloosterstraat 10, B-1932 Zaventem (BE)
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】クラウディア アーリシチオ
(72)【発明者】
【氏名】ラファエレ ディ ロンザ
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-159714(JP,A)
【文献】特開2016-183263(JP,A)
【文献】特開2016-037556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
B60C 1/00- 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋後にエラストマーの化学的、物理的および機械的特性のすべてを想定できる、少なくとも1種の架橋可能な不飽和鎖ポリマーベースと、シリカを含む充填剤と、可塑剤と、硬化システムと、を含む、空気入りタイヤのトレッド部分を調製するためのゴム配合物であって;
前記架橋可能な不飽和鎖ポリマーベースが、-15℃~5℃の間にTanδのピーク値を有し、且つ前記架橋可能な不飽和鎖ポリマーベースが、溶液重合スチレン-ブタジエンゴムと、乳化重合スチレン-ブタジエンゴムと、ポリブタジエンゴムとの混合物から構成され、
前記可塑剤が、少なくとも1つの極性基を含む脂肪族鎖からなり、5℃~40℃の溶融温度を有し、前記極性基が、エステル基であり、前記脂肪族鎖が、C12~C18の長さを有し、且つ前記可塑剤が、配合物中に、1~10phrの量で存在し、
前記硬化システムが、少なくとも硫黄および促進化合物を含む成分の複合体であることを特徴とする、ゴム配合物。
【請求項2】
前記架橋可能な不飽和鎖ポリマーベースが、-8℃~5℃の間にTanδのピーク値を有し、
前記可塑剤が、15℃~30℃の溶融温度を有することを特徴とする、請求項1に記載の配合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の配合物で製造された、トレッド部分。
【請求項4】
請求項に記載のトレッド部分を具える、空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド配合物に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの分野における研究の一部は、様々な使用条件において性能が向上したトレッドを得ることに集中している。当業者に知られているように、例えば、ウィンター性能、ウェットグリップ、転がり抵抗および耐摩耗性などの異なる特性に関して同時に改善がなされたトレッドを作製することは、しばしば技術的に困難である。
【0003】
上述の特性を互いに独立して改善することは可能であるが、結果として、1つの改善が他のすべての悪化につながることなく、すべての特性を同時に改善することは非常に困難である。
【0004】
例えば、当業者に知られているように、補強充填剤の含有量が多いトレッド配合物は、その転がり抵抗を改善するが、そのウェットグリップを悪化させる。逆に、補強充填剤の含有量が少ないトレッド配合物は、そのウェットグリップを改善するが、その転がり抵抗を悪化させる。
【0005】
実際に、配合物中のシリカの量を増加させること、または配合物に低分子量樹脂を使用することは、ウェットグリップの改善をもたらしたとしても、転がり抵抗および耐摩耗性の悪化をもたらすことが知られている。
【0006】
この点において、トレッド配合物の補強充填剤としてシリカを使用することが長期にわたって知られていることを覚えておくべきである。シリカは、カーボンブラックの部分的または全体的な代替品として、シランバインダーと組み合わせて使用される。シランバインダーは、シラノール基に結合して、シリカ粒子間の水素結合の形成を阻害する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、ウィンター性能、ウェットグリップ、転がり抵抗および耐摩耗性を1つのソリューションで確実に改善できる、シリカ含有トレッド配合物のソリューションが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、Tanδの特定のピーク値を特徴とするポリマーベースと、特定の範囲内の溶融温度を有する可塑剤と、を組み合わせることにより、得られたトレッド配合物に前述の要件に沿った改善を与えられることを知見した。
【0009】
当業者に知られているように、Tanδは、せん断弾性率(shear modulus)と弾性率(elastic modulus)との比である。本質的に、Tanδは、粘弾性材料の損失を定量化するために使用される。Tanδのピーク値は、ポリマーベースのTanδの値が最大になる温度を示す。
【0010】
本発明の対象は、空気入りタイヤのトレッド部分を調製するためのゴム配合物である。当該ゴム配合物は、少なくとも1種の架橋可能な不飽和鎖ポリマーベースと、シリカを含む充填剤と、可塑剤と、硬化システムと、を含む、ゴム配合物であって;架橋可能な不飽和鎖ポリマーベースが、-15℃~5℃の間にTanδのピーク値を有し、可塑剤が、少なくとも1つの極性基を含む脂肪族鎖からなり、5℃~40℃の溶融温度を有することを特徴とする。
【0011】
ここで、および以下において、「架橋可能な不飽和鎖ポリマーベース」という用語は、硫黄または過酸化物系との架橋(硬化)後にエラストマーに通常想定されるすべての化学的、物理的および機械的特性を想定できる、天然または合成の非架橋ポリマーをいう。
【0012】
ここで、および以下において、硬化システムという用語は、少なくとも硫黄および促進化合物を含む成分の複合体であって、配合物の調製時に最終ブレンド段階で添加され、配合物が硬化温度にさらされるとポリマーベースの硬化を促進することを目的とする複合体をいう。
【0013】
好ましくは、架橋可能な不飽和鎖ポリマーベースが、-8℃~5℃の間にTanδのピーク値を有し、可塑剤が、15℃~30℃の溶融温度を有する。
【0014】
好ましくは、極性基が、エステル基である。
【0015】
好ましくは、脂肪族鎖が、C12~C18の長さを有する。
【0016】
好ましくは、可塑剤が、配合物中に、1~10phrの量で存在する。
【0017】
好ましくは、架橋可能な不飽和鎖ポリマーベースが、スチレン-ブタジエンゴムとポリブタジエンゴムとの混合物から構成される。
【0018】
本発明のさらなる対象は、本発明によるゴム配合物で製造されたトレッド部分、およびそのようなトレッド部分を含む空気入りタイヤである。
【0019】
以下の実施例は、本発明をよりよく理解するために、例示的かつ非限定的な目的で含まれている。
【実施例
【0020】
2組の配合物を準備した。
【0021】
第1の組は、従来のアプローチが使用された3つの比較例の配合物(配合物A~C)と、本発明の教示による配合物(配合物D)と、を含む。第1の組のすべての配合物は、本発明の教示によるTanδのピーク値を特徴とする、同じポリマーベースを含む。具体的には、配合物Aは、可塑剤を含まず、
配合物Bは、本発明の可塑剤の溶融温度よりも低いガラス遷移温度を特徴とする可塑剤を含む、という点で配合物Aとは異なり、
配合物Cは、本発明の可塑剤の溶融温度よりも高い軟化温度を特徴とする可塑剤を含む、という点で配合物Aとは異なり、
配合物Dは、本発明により提供されるものと一致する溶融温度を有する可塑剤を含む、という点で配合物Aとは異なっている。
【0022】
第2の組は、本発明により提供されるものよりも低いTanδのピーク値を特徴とする、同じポリマーベースを使用する2つの比較例の配合物(配合物EおよびF)を含む。具体的には、配合物Eは、可塑剤を含まず、
配合物Fは、本発明により提供されるものと一致する溶融温度を特徴とする可塑剤を含む、という点で配合物Eとは異なっている。
【0023】
実施例に記載される配合物は、以下に説明する手順に従って得た。
【0024】
-配合物の調製-
【0025】
[第1の混合ステップ]
混合を開始する前に、接線ロータを有し、内容積が230~270リットルのミキサーに、架橋可能なポリマーベース、シリカ、シランバインダー、および提供される場合は可塑剤を充填した。これより、充填率が66~72%に達した。
【0026】
ミキサーを40~60回転/分の速度で操作し、140~160℃の温度に達したら、形成された混合物を取り出した。
【0027】
[第2の混合ステップ]
先のステップで得られた混合物を、40~60回転/分の速度で操作されるミキサーで再加工し、その後、130~150℃の温度に達したら取り出した。
【0028】
[第3の混合ステップ]
先のステップで得られた混合物に、硬化システム(硫黄、促進剤、酸化防止剤/オゾン劣化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸)を加え、充填率が63~67%に達した。
【0029】
ミキサーを20~40回転/分の速度で操作し、100~110℃の温度に達したら、形成された混合物を取り出した。
【0030】
表1に、6つの配合物のphr単位での組成を示す。
【0031】
【表1】
【0032】
S-SBRは、平均分子量がそれぞれ800~1500×10および500~900×10であり、スチレン含有量が20~45%である、溶液重合プロセスによって得られるポリマーベースである。
【0033】
E-SBRは、平均分子量がそれぞれ800~1500×10および500~900×10であり、スチレン含有量が20~45%であり、0~30%の油分を使用した、エマルション中の乳化重合プロセスによって得られるポリマーベースである。
【0034】
BRは、1,4シス含有量が少なくとも40%のブタジエンゴムである。
【0035】
配合物A~Dで使用されるポリマーベースは、1℃に等しいTanδのピーク値を特徴とする。一方で、配合物EおよびFで使用されるポリマーベースは、-38℃に等しいTanδのピーク値を特徴とする。
【0036】
使用するシリカは、EVONIK社によりVN3の名称で販売されているものであり、表面積が約170m/gである。
【0037】
使用するシランバインダーは、式(CHCHO)Si(CHSS(CHSi(OCHCHであり、EVONIK社によりSI75の名称で販売されているものである。
【0038】
可塑剤は、(本発明により使用される可塑剤の溶融温度よりも低い)約-60℃のガラス遷移温度を特徴とするMES油である。
【0039】
可塑剤**は、(本発明により使用される可塑剤の溶融温度よりも高い)約90℃の軟化温度を特徴とする芳香族樹脂である。
【0040】
可塑剤***は、(本発明により提供されるものと一致する)20℃の溶融温度を特徴とするペンタデカン酸メチルエステルである。
【0041】
TMQは、ポリ(1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン)の頭字語であり、酸化防止剤として使用されている。
【0042】
TBBSは、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアジルスルホンアミド化合物の頭字語であり、硬化促進剤として使用されている。
【0043】
MBTSは、メルカプトベンゾチアゾールジスルフィド化合物の頭字語であり、硬化促進剤として使用されている。
【0044】
DPGは、ジフェニルグアニジン化合物の頭字語であり、硬化促進剤として使用されている。
【0045】
配合物A~Fを一連の試験にかけ、ウィンター性能、ウェットグリップ、転がり抵抗および耐摩耗性を評価した。
【0046】
具体的には、ASTM D5992規格に従い、-20℃でE’値を測定してウィンター性能を評価し、ASTM D5992規格に従い、0℃でTanDを測定してウェットグリップおよび転がり抵抗を評価した。
【0047】
耐摩耗性は、DIN 53 516規格にしたがって得た。
【0048】
表2は、上記試験から得られた結果の一覧である。配合物A~Dに関連する値は、配合物Aに対する指数であり、配合物EおよびFに関連する値は、配合物Eに対する指数である。
【0049】
【表2】
【0050】
表2のデータから分かるように、本発明の教示により得られた配合物(配合物D)は、調査された4つの特性すべてについて全体的に改善されている。
【0051】
特には、配合物BおよびCに関する結果との比較から、本発明による範囲内に入らない溶融温度での可塑剤の使用は、必要な利点、すなわち、分析された4つの特性すべてを同時に改善する利点をもたらさないことが明らかである。実際に、配合物Bは、ウィンター性能および転がり抵抗を改善するが、それと同時にウェットグリップおよび耐摩耗性を低下させている。比較すると、配合物Cは、ウェットグリップを改善するが、それと同時に他の3つの特性を悪化させている。
【0052】
特に、特許請求されるTanδのピーク値を特徴とするポリマーベース、および特許請求された範囲内にある溶融温度を有する可塑剤の使用が、耐摩耗性の点で驚くほど顕著な改善をどのように保証しているかに注意されたい。
【0053】
配合物Eおよび配合物Fに関する値の比較から、特許請求される範囲内にある溶融温度を有する可塑剤を使用しても、配合物のポリマーベースが本発明によるTanδのピーク値の要件を満たさない場合、利点が得られないことは明らかである。