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  • 特許-鋼板の酸洗方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】鋼板の酸洗方法
(51)【国際特許分類】
   C23G 1/36 20060101AFI20220426BHJP
   B01D 61/16 20060101ALI20220426BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20220426BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20220426BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20220426BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20220426BHJP
   C23G 1/08 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
C23G1/36
B01D61/16
B01D69/00
B01D71/02
B01D61/14 500
B01D65/02
C23G1/08
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020527815
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 IB2018060407
(87)【国際公開番号】W WO2019123353
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-07-16
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2017/058271
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナベス・アルナルドス,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ピエドラ・フェルナンデス,エレナ
(72)【発明者】
【氏名】メネンデス・デルミロ,バネサ
(72)【発明者】
【氏名】ロペス・ゴンサレス,サロメ
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-320824(JP,A)
【文献】特開昭63-002814(JP,A)
【文献】特開2005-105364(JP,A)
【文献】独国特許発明第04116353(DE,C1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00-5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板(8)の酸洗方法であって、前記鋼板が、酸洗溶液(10)を含有する酸洗浴(1)に連続的に浸漬され、前記浴が、再循環槽(3)、循環手段(12)及び(13)、限外濾過装置(2)、並びに前記再循環槽(3)と前記限外濾過装置(2)とを接続する2つのパイプを含む処理ユニットに接続され、ここで、前記溶液の連続流入流(11)は、前記再循環槽(3)から前記パイプの一方を経由して限外濾過装置(2)に供給されるものであり、2つの流れが前記限外濾過装置から出ており、1つの濾過された流出流(21)は、次いで、前記再循環槽(3)の内部に前記パイプの他方を経由して戻され、及び1つは未濾過流(22)であり、ここで前記循環手段(12)及び(13)の一方は、前記酸洗溶液(10)を前記再循環槽(3)に供給し、前記循環手段(12)及び(13)の他方は、前記再循環槽(3)に戻された流出流(21)を含む流れを、前記再循環槽(3)から前記酸洗浴(1)に供給し、前記処理ユニットが、前記限外濾過装置(2)へ供給される溶液の重合度を高めるために備えられた貯蔵槽を含まない、方法。
【請求項2】
前記酸洗溶液(10)が、1つ又は異なる酸の組合せで構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸洗溶液(10)が、前記限外濾過装置(2)に供給される前に熱処理されない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記限外濾過装置(2)に供給される前記溶液(11)の重合度を増加させるために、添加剤も装置も使用しない、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記限外濾過装置(2)が、クロスフロー限外濾過装置である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記限外濾過装置(2)が、1つ又はいくつかの膜を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記限外濾過装置(2)の前記膜がセラミック製である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記限外濾過装置(2)の前記膜が、1~10nmの間に含まれる孔径を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記溶液の前記連続流(11)が、5~50m.h-1の間に含まれる流量で限外濾過装置(2)に供給され、1時間当たり、再循環槽に存在する酸の体積の1~10倍の間を新しい状態に戻す、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記精製された流出流(21)が、限外濾過装置に供給される前記溶液の前記流(11)の50~95%の間を構成する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記連続流(11)が、少なくとも60mg.L-1のケイ素含有量を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記限外濾過装置(2)が、いくつかのクロスフロー限外濾過装置で構成される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記限外濾過システム(2)が、膜を洗浄するために逆洗される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
酸洗浴(1)と、前記酸洗浴に鋼板を連続的に浸漬するシステムと、再循環槽(3)、少なくとも1つの限外濾過装置(2)、前記酸洗浴(1)から酸洗溶液(10)を前記再循環槽(3)へ流入させるための循環手段(12)、連続流入流(11)を前記再循環槽(3)から前記少なくとも1つの限外濾過装置(2)へ流入させるためのパイプ、濾過された流出流(21)を含有する溶液を、前記少なくとも1つの限外濾過装置(2)から前記再循環槽(3)へ流入させるためのパイプ、及び前記少なくとも1つの限外濾過装置(2)から前記濾過された流出流(21)を含む流れを前記再循環槽(3)から前記酸洗浴(1)へ流入させるための循環手段(13)を含む処理ユニットと、を含む装置であって、ここで、前記少なくとも1つの限外濾過装置(2)は、水道水流(24)を前記少なくとも1つの限外濾過装置(2)に投入するためのパイプ、前記少なくとも1つの限外濾過装置(2)から逆洗溶液排出流(23)を排出するためのパイプ、及び前記少なくとも1つの限外濾過装置(2)からの未濾過流(22)を処理部(4)へ排出するためのパイプ、並びにポンプを含み、前記処理ユニットが、前記少なくとも1つの限外濾過装置(2)へ供給される溶液の重合度を高めるために設けられた貯蔵槽を含まない、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸洗溶液を精製しながら、酸洗溶液を含む酸洗浴に連続的に浸漬した鋼板を酸洗する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ますます多くの元素を含む合金の開発によって、解決すべき新しい問題が生じる。例えば、とりわけ非常に高耐性な鋼を作る1つの方法は、そのケイ素含有率を増加させることである。残念ながら、合金元素は酸洗処理中に溶解することにより酸洗浴を汚染する。非常に高耐性な鋼の場合、ケイ素の溶解はモノケイ酸Si(OH)の形成をもたらし、これはその後凝縮してコロイド状ケイ素を形成し、最終的に懸濁液及び/又は他の物質と共沈を形成するため、大きな関心事である。酸洗槽及び再循環槽に溶解したケイ素は、装置、特に下流の装置の表面に蓄積し、最終的に沈殿し、蓄積及び沈殿の決定的な場所はパイプ及び熱交換器である。沈殿物を除去し、目詰まりを解消するために、洗浄処理の間、酸洗処理を停止する必要がある。
【0003】
また、使用された酸洗溶液の管理も、その化学的性質のために大きな関心事であり、酸洗溶液は、例えば酸再生工場又は廃水処理工場で処理されなければならない。
【0004】
特許DE4116353号は、水、酸又はアルカリ処理溶液、特に鉄-ケイ素合金リボンの化学処理用循環溶液から、非晶質で部分的に溶解したケイ素を除去する方法を記載している。ケイ素を含む処理溶液の一部は、貯蔵容器に供給される。前記貯蔵容器は、濾過膜に供する溶液を収容し、ケイ素を含まない濾液を処理溶液に送り、高濃度のケイ素を含む溶液を貯蔵槽に送り、貯蔵槽内の高度に濃縮されたケイ素溶液は取り除かれ、廃棄される。
【0005】
国際公開第2014/36575号には、使用された酸洗浴の精製及び前記浴からのシリカの除去方法が記載されている。この方法では、得られた酸洗溶液を沈殿槽で沈殿させた後、プレフィルターとしてのクロスフローマイクロフィルター及び下流の限外濾過装置で洗浄する。次いで、対応する酸洗用酸及び酸化鉄を回収するために、濾液をスプレーロースターシステム又はHClの流動床処理に供給する。
【0006】
特許AT411575号は、クロスフロー精密濾過を用いて汚染された酸性酸洗廃水を精製するための方法に関する。そのするためには、生じた酸洗溶液を沈殿容器で鎮静化させた後、10~55℃の温度範囲で、クロスフローマイクロフィルターで精製する。その後、酸洗溶液を酸再生工場で噴霧焙焼原理に従い処理する。この処理は、配管の付着物、フィルター及びノズルの目詰まりの結果としての工場の故障を防止することを目的としている。
【0007】
しかし、上記の方法とその装置を用いることにより、設備は、沈殿槽及びいくつかの濾過システムのように使用されている多数の装置のためかさばり、設備には大きな空間が必要となる。また、上記方法の目的は、酸再生工場で得られた酸化鉄の混入を回避することであり、循環回路の目詰まり問題を最小限にすることではないため、酸洗用の酸を循環させる回路が目詰まりすることを防止しない。
【0008】
その結果、目詰まりから再循環回路を保護し、設備の設置面積を減少させる方法を見つける必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】独国特許第4116353号明細書
【文献】国際公開第2014/36575号
【文献】オーストリア特許第411575号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、目詰まりを回避するか、又は少なくとも遅らせることができる方法、並びに先行技術で存在するものよりも設置面積が小さい設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、請求項1に記載の方法を提供することによって達成される。この方法はまた、請求項2~14に記載の任意の特徴を有することができる。この目的は、請求項15に記載の装置を提供することによっても達成される。
【0012】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0013】
本発明を説明するために、特に以下の図を参照して、様々な実施形態及び非限定的な実施例の試験を記述する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】設備の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、鋼板8を酸洗する方法に関し、前記鋼板が、酸洗溶液10を含有する酸洗浴1に連続的に浸漬され、前記浴が、再循環槽3、循環手段12及び13を含む処理ユニットに接続され、前記溶液の連続流入流11は、再循環槽3から限外濾過装置2に供給され、2つの流れが限外濾過装置から出ており、1つの濾過流出流21は、次いで、前記再循環槽3の内部に戻され、及び1つは未濾過流22であり、前記処理ユニットは貯蔵槽を含まない。
【0016】
先行技術では、再循環システムの目詰まりは取り扱われない。反対に、本発明による方法では、目詰まりを遅らせ、明らかに再循環システム、すなわち、ポンプ、ノズル、パイプ及びバルブの寿命を延ばしたと考えられる。
【0017】
また、最も近い先行技術と比較して、本方法による酸洗方法は貯蔵槽を使用しない。これにより、本方法はコロイド状ケイ素の重合速度を最小限に抑え、膜の汚れ傾向を低下させることができる。
【0018】
好ましくは、前記酸洗溶液10は、1種類又は異なる酸の組合せで作られる。例えば、15%の塩酸が酸洗浴1中にあり、又は塩酸と硫酸の混合物が浴中にある。
【0019】
好ましくは、前記酸洗溶液10は、前記限外濾過装置に供給される前に熱処理されない。それにより、酸洗用の酸を直ちに処理できるようになり、空間も少なくて済むと考えられる。
【0020】
好ましくは、前記限外濾過装置に供給される前記溶液の重合度を上げるために、添加剤も装置も使用されない。しかし、先の特許では、酸洗廃水は槽中で沈殿させられて、重合度を上げ、それによってより大きな粒子を得ることができる、とされる。先の特許で提示されたこの沈殿処理は、濾過される粒径の全体的な増加により濾過を容易にすると考えられる。その結果、達成された除去率は特許WO2014/36575号の場合99%超、AT411575号の場合75%である。反対に、本発明は、使用された酸洗溶液中の総ケイ素含有量のわずか40%の除去率で、目詰まりを劇的に遅らせるという明らかに主要な利点を有する。そのため、目的は達成されるが、必要な空間は減少する。
【0021】
好ましくは、限外濾過装置2は、クロスフロー限外濾過装置である。クロスフロー濾過の場合、デッドエンド濾過とは反対に、流れは膜の表面を横切って接線方向に適用されると考えられる。いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、供給物が膜を横切って流れるので、濾液は膜の穴を通過し、一方、濾過されない流れは膜の反対側の端で出ていく。明らかに、膜の接線方向の流れは膜の表面にせん断効果を生み出し、それが今度は汚れを減らす。
【0022】
好ましくは、使用された酸洗用の酸はポンプを用いて循環されており、前記ポンプは、懸濁固体を濾過できるカートリッジフィルターによって保護される。
【0023】
好ましくは、限外濾過装置2は、1つ又は複数の膜を有する。
【0024】
好ましくは、限外濾過装置2の膜はセラミック製である。
【0025】
好ましくは、限外濾過装置2の膜は、1~10nmの間の孔径を有する。例えば膜の孔径は7nmである。
【0026】
好ましくは、連続流は少なくとも60mg.L-1、より好ましくは100mg.L-1、さらにより好ましくは150mg.L-1のケイ素含有量を有する。明らかに、本発明は、より多くのコロイド状ケイ素が存在し、したがって濾過を容易にするので、より高いケイ素濃度でより効率的であるという有利な効果も有する。いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、この技術は、膜の孔径よりも大きいコロイド状物質及び懸濁物質の100%の排除率を保証する。
【0027】
好ましくは、前記溶液の連続流11を、5~50m.h-1の間、好ましくは15~30m.h-1の間の流量で限外濾過装置に供給し、再循環槽に存在する酸体積の1時間当たり1~10倍の間、好ましくは1時間当たり4倍を新しい状態に戻すことができる。
【0028】
好ましくは、精製された流出流は、限外濾過装置に供給される前記溶液の流量の50~95%の間、より好ましくは65~85%の間を構成する。
【0029】
好ましくは、限外濾過システムは、膜を洗浄するために逆洗される。例えば限外濾過システムは、水道水24の流れによって8分毎に逆洗され、膜を洗浄するために使用される水道水流23は、前記限外濾過装置から出る。
【0030】
限外濾過装置はいくつかのクロスフロー限外濾過装置で構成されることも可能である。例えば限外濾過装置は2つのクロスフロー限外濾過装置で構成される。
【0031】
好ましくは、限外濾過システム(2)から出る、濾過されていない流れ、すなわちケイ素が濃縮された流れが処理される。好ましくは、この処理はデカンター又はハイドロサイクロンで行うことができる。この処理の後、精製流、すなわち最低ケイ素濃度を有する流れを、再循環槽3又は限外濾過装置2に戻すことができる。好ましくは、処理装置から出る最も高いケイ素濃度を有する流れは、酸再生工場又は廃水処理4に送ることができる。
【0032】
また、本発明は、酸洗浴1と、前記酸洗浴に鋼板を連続的に浸漬するシステムと、再循環槽3、少なくとも1つの限外濾過装置2、前記再循環槽及び水道水投入部24及び逆洗溶液排出部23を接続するパイプ、並びにポンプを含む処理ユニットとを含む装置に関するものであり、前記処理ユニットが、貯蔵槽を含まず、前記未濾過流22に対する最終的な処理4を含む。
【実施例
【0033】
[実施例1]
再循環槽3は、約59mg.L-1のケイ素含有量を有する15%の塩酸60mを収容する。酸は異なる鋼種、例えば格子間鋼、中炭素、HSLA及び二相鋼を酸洗する。使用した酸洗用酸を、ポンプによって17m.h-1の流量で限外濾過装置に送る。限外濾過装置2は、細孔径7nm(10kDa分子量)を有する68mのセラミック膜領域で構成される。38mg.L-1のケイ素を含む流量14m.h-1の濾過の流れを浴に戻し、流量3m.h-1の未濾過流は157mg.L-1のケイ素を含む。
【0034】
【表1】
図1