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特許7064034可溶性ヒトST-2抗体およびアッセイ法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】可溶性ヒトST-2抗体およびアッセイ法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20220426BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20220426BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/53 X
C07K16/28 ZNA
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021034217
(22)【出願日】2021-03-04
(62)【分割の表示】P 2019137023の分割
【原出願日】2011-04-08
(65)【公開番号】P2021092587
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2021-04-05
(31)【優先権主張番号】61/345,837
(32)【優先日】2010-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/322,578
(32)【優先日】2010-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【微生物の受託番号】ATCC  PTA-10431
【微生物の受託番号】ATCC  PTA-10432
(73)【特許権者】
【識別番号】508317295
【氏名又は名称】クリティカル ケア ダイアグノスティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】スナイダー ジェームス ブイ.
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0264779(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0196817(US,A1)
【文献】国際公開第2010/025393(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C07K 16/00-16/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象を心血管疾患を発症するリスクが高いと同定するためのインビトロの方法であって、
該方法が、
アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)(ATCC)に寄託されかつ特許寄託指定番号(Patent Deposit Designation)PTA-10431で指定されるハイブリドーマによって産生される単離された抗体を用いて、対象から得られた血液、血清または血漿を含む試料中のヒト可溶性増殖刺激発現遺伝子2(ST2)のレベルを決定する段階;ならびに
該試料中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、N末端(NT)-プロBNP、プロBNP、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、プロANP、NT-プロANP、トロポニン、およびC反応性タンパク質(CRP)からなる群より選択される1つまたは複数の追加マーカーのレベルを決定する段階
を含み、
該対象がヒト可溶性ST2の閾値レベルと比較して高いレベルのヒト可溶性ST2を有し、かつ1つまたは複数の追加マーカーの閾値レベルと比較して高いレベルの1つまたは複数の追加マーカーを有することが、該対象が心血管疾患を発症するリスクが高いことを示す、
前記方法。
【請求項2】
対象を心血管疾患を発症するリスクが高いと同定するためのインビトロの方法であって、
該方法が、
アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される単離された抗体を用いて、対象から得られた血液、血清または血漿を含む試料中のヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階;ならびに
該試料中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、N末端(NT)-プロBNP、プロBNP、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、プロANP、NT-プロANP、トロポニン、およびC反応性タンパク質(CRP)からなる群より選択される1つまたは複数の追加マーカーのレベルを決定する段階
を含み、
該対象がヒト可溶性ST2の閾値レベルと比較して高いレベルのヒト可溶性ST2を有し、かつ1つまたは複数の追加マーカーの閾値レベルと比較して高いレベルの1つまたは複数の追加マーカーを有することが、該対象が心血管疾患を発症するリスクが高いことを示す、
前記方法。
【請求項3】
対象を心血管疾患を発症するリスクが高いと同定するためのインビトロの方法であって、
該方法が、
アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の少なくとも1つの抗原結合断片を用いて、対象から得られた血液、血清または血漿を含む試料中のヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階;ならびに
該試料中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、N末端(NT)-プロBNP、プロBNP、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、プロANP、NT-プロANP、トロポニン、およびC反応性タンパク質(CRP)からなる群より選択される1つまたは複数の追加マーカーのレベルを決定する段階
を含み、
該対象がヒト可溶性ST2の閾値レベルと比較して高いレベルのヒト可溶性ST2を有し、かつ1つまたは複数の追加マーカーの閾値レベルと比較して高いレベルの1つまたは複数の追加マーカーを有することが、該対象が心血管疾患を発症するリスクが高いことを示す、
前記方法。
【請求項4】
対象を心血管疾患を発症するリスクが高いと同定するためのインビトロの方法であって、
該方法が、
アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の少なくとも1つの抗原結合断片を用いて、対象から得られた血液、血清または血漿を含む試料中のヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階;ならびに
該試料中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、N末端(NT)-プロBNP、プロBNP、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、プロANP、NT-プロANP、トロポニン、およびC反応性タンパク質(CRP)からなる群より選択される1つまたは複数の追加マーカーのレベルを決定する段階
を含み、
該対象がヒト可溶性ST2の閾値レベルと比較して高いレベルのヒト可溶性ST2を有し、かつ1つまたは複数の追加マーカーの閾値レベルと比較して高いレベルの1つまたは複数の追加マーカーを有することが、該対象が心血管疾患を発症するリスクが高いことを示す、
前記方法。
【請求項5】
前記対象が男性であり、かつ前記ヒト可溶性ST2の閾値レベルが37.2 ng/mLである、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記対象が女性であり、かつ前記ヒト可溶性ST2の閾値レベルが23.7 ng/mLである、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記抗体が標識されている、請求項1または2記載の方法。
【請求項8】
前記対象が、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、または高血圧を有する、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記対象が、腎機能不全を有する、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記対象が、≧30の肥満指数を有する、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
前記心血管疾患が心不全である、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
対象をST2関連病状を有すると同定するためのインビトロの方法であって、
該方法が、
アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431で指定されるハイブリドーマによって産生される単離された抗体を用いて、対象から得られた血液、血清または血漿を含む試料中のヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階;ならびに
該試料中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、N末端(NT)-プロBNP、プロBNP、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、プロANP、NT-プロANP、トロポニン、およびC反応性タンパク質(CRP)からなる群より選択される1つまたは複数の追加マーカーのレベルを決定する段階
を含み、
該対象がヒト可溶性ST2の閾値レベルと比較して高いレベルのヒト可溶性ST2を有し、かつ1つまたは複数の追加マーカーの閾値レベルと比較して高いレベルの1つまたは複数の追加マーカーを有することが、該対象がST2関連病状を有することを示し、
該ST2関連病状が、冠動脈疾患、急性冠症候群、狭心症、肺疾患、敗血症、川崎病、およびTh2関連疾患からなる群より選択される、
前記方法。
【請求項13】
対象をST2関連病状を有すると同定するためのインビトロの方法であって、
該方法が、
アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される単離された抗体を用いて、対象から得られた血液、血清または血漿を含む試料中のヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階;ならびに
該試料中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、N末端(NT)-プロBNP、プロBNP、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、プロANP、NT-プロANP、トロポニン、およびC反応性タンパク質(CRP)からなる群より選択される1つまたは複数の追加マーカーのレベルを決定する段階
を含み、
該対象がヒト可溶性ST2の閾値レベルと比較して高いレベルのヒト可溶性ST2を有し、かつ1つまたは複数の追加マーカーの閾値レベルと比較して高いレベルの1つまたは複数の追加マーカーを有することが、該対象がST2関連病状を有することを示し、
該ST2関連病状が、冠動脈疾患、急性冠症候群、狭心症、肺疾患、敗血症、川崎病、およびTh2関連疾患からなる群より選択される、
前記方法。
【請求項14】
対象をST2関連病状を有すると同定するためのインビトロの方法であって、
該方法が、
アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の少なくとも1つの抗原結合断片を用いて、対象から得られた血液、血清または血漿を含む試料中のヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階;ならびに
該試料中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、N末端(NT)-プロBNP、プロBNP、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、プロANP、NT-プロANP、トロポニン、およびC反応性タンパク質(CRP)からなる群より選択される1つまたは複数の追加マーカーのレベルを決定する段階
を含み、
該対象がヒト可溶性ST2の閾値レベルと比較して高いレベルのヒト可溶性ST2を有し、かつ1つまたは複数の追加マーカーの閾値レベルと比較して高いレベルの1つまたは複数の追加マーカーを有することが、該対象がST2関連病状を有することを示し、
該ST2関連病状が、冠動脈疾患、急性冠症候群、狭心症、肺疾患、敗血症、川崎病、およびTh2関連疾患からなる群より選択される、
前記方法。
【請求項15】
対象をST2関連病状を有すると同定するためのインビトロの方法であって、
該方法が、
アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の少なくとも1つの抗原結合断片を用いて、対象から得られた血液、血清または血漿を含む試料中のヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階;ならびに
該試料中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、N末端(NT)-プロBNP、プロBNP、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、プロANP、NT-プロANP、トロポニン、およびC反応性タンパク質(CRP)からなる群より選択される1つまたは複数の追加マーカーのレベルを決定する段階
を含み、
該対象がヒト可溶性ST2の閾値レベルと比較して高いレベルのヒト可溶性ST2を有し、かつ1つまたは複数の追加マーカーの閾値レベルと比較して高いレベルの1つまたは複数の追加マーカーを有することが、該対象がST2関連病状を有することを示し、
該ST2関連病状が、冠動脈疾患、急性冠症候群、狭心症、肺疾患、敗血症、川崎病、およびTh2関連疾患からなる群より選択される、
前記方法。
【請求項16】
前記対象が男性であり、かつ前記ヒト可溶性ST2の閾値レベルが37.2 ng/mLである、請求項12~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
前記対象が女性であり、かつ前記ヒト可溶性ST2の閾値レベルが23.7 ng/mLである、請求項12~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
前記抗体が標識されている、請求項12または13記載の方法。
【請求項19】
前記対象が、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、または高血圧を有する、請求項12~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
前記対象が、腎機能不全を有する、請求項12~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
前記対象が、≧30の肥満指数を有する、請求項12~15のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2010年4月9日に提出された米国特許仮出願第61/322,578号、および2010年5月18日に提出された米国特許仮出願61/345,837号の優先権を主張し、それらのそれぞれの内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本明細書において、ヒト可溶性増殖刺激発現遺伝子2(Growth Stimulation-Expressed Gene 2)(ST2)タンパク質に結合する抗体および抗体の抗原結合性断片、これらの抗体および抗体断片を含むキット、ならびにこれらの抗体および抗体断片を用いるアッセイ法について説明する。
【背景技術】
【0003】
背景
ST2はインターロイキン-1受容体ファミリーのメンバーであり、これには膜貫通性アイソフォーム(ST2L)および可溶性アイソフォーム(sST2または可溶性ST2)がある(Iwahana et al., Eur. J. Biochem. 264:397-406, 1999(非特許文献1))。最近刊行された複数の論文に、ST2と炎症性疾患との関連に関する最新の知見が記述されている(Arend et al., Immunol. Rev. 223:20-38, 2008(非特許文献2);Kakkar et al., Nat. Rev. Drug Discov, 7:827-840, 2008(非特許文献3);Hayakawa et al., J. Biol. Chem. 282:26369-26380, 2007(非特許文献4);Trajkovic et al., Cytokine Growth Factor Rev. 15:87-95, 2004(非特許文献5))。全身性エリテマトーデスおよび喘息を含む、異常な2型Tヘルパー細胞(Th2)応答を伴うさまざまな障害のほか、Th2応答とはほとんど関係のない敗血症性ショックまたは外傷などの炎症性病状に罹患した患者においては、ヒト可溶性ST2の流血中濃度が高い(Trajkovic et al., Cytokine Growth Factor Rev. 15:87-95, 2004(非特許文献5);Brunner et al., Intensive Care Med. 30:1468-1473, 2004(非特許文献6))。その上、インターロイキン-33/ST2Lシグナル伝達は、機械的過負荷の場合に極めて重要な心保護機構でもある(Seki et al., Circulation Heart Fail. 2:684-691, 2009(非特許文献7);Kakkar et al., Nat. Rev. Drug Discov. 7:827-40, 2008(非特許文献3);Sanada et al., J. Clin. Invest. 117:1538-1549, 2007(非特許文献8))。ヒト可溶性ST2が高いことにより、心不全(HF)患者および心筋梗塞の患者における予後不良も予測される(Kakkar et al., Nat. Rev. Drug Discov. 7:827-40, 2008(非特許文献3);Weinberg et al., Circulation 107:721-726, 2003(非特許文献9);Shimpo et al., Circulation 109:2186-2190, 2004(非特許文献10);Januzzi et al., J. Am. Coll. Cardiol. 50:607-613, 2007(非特許文献11);Mueller et al., Clin. Chem. 54:752-756, 2008(非特許文献12);Rehman et al., J. Am. Coll. Cardiol. 52:1458-65, 2008(非特許文献13);Sabatine et al., Circulation 117:1936-1944, 2008(非特許文献14))。ヒト可溶性ST2のレベルが高いことにより、対象の1年以内の死亡も予測される(例えば、WO 07/127749(特許文献1)を参照)。以上を総合すると、ヒト可溶性ST2はある種の炎症性疾患および心保護性傍分泌系に関係していると考えられており、心不全患者の予後および対象の1年以内の死亡に関する予測マーカーでもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO 07/127749
【非特許文献】
【0005】
【文献】Iwahana et al., Eur. J. Biochem. 264:397-406, 1999
【文献】Arend et al., Immunol. Rev. 223:20-38, 2008
【文献】Kakkar et al., Nat. Rev. Drug Discov, 7:827-840, 2008
【文献】Hayakawa et al., J. Biol. Chem. 282:26369-26380, 2007
【文献】Trajkovic et al., Cytokine Growth Factor Rev. 15:87-95, 2004
【文献】Brunner et al., Intensive Care Med. 30:1468-1473, 2004
【文献】Seki et al., Circulation Heart Fail. 2:684-691, 2009
【文献】Sanada et al., J. Clin. Invest. 117:1538-1549, 2007
【文献】Weinberg et al., Circulation 107:721-726, 2003
【文献】Shimpo et al., Circulation 109:2186-2190, 2004
【文献】Januzzi et al., J. Am. Coll. Cardiol. 50:607-613, 2007
【文献】Mueller et al., Clin. Chem. 54:752-756, 2008
【文献】Rehman et al., J. Am. Coll. Cardiol. 52:1458-65, 2008
【文献】Sabatine et al., Circulation 117:1936-1944, 2008
【発明の概要】
【0006】
概要
本発明は、少なくとも一部には、ヒト可溶性ST2タンパク質に対して特異的な新たな抗体の開発に基づく。これらの抗体およびそれらの抗原結合性断片は、例えば、生体試料(例えば、臨床試料)におけるヒト可溶性ST2タンパク質の定量のために、対象における1年以内の死亡のリスクを予測するために、対象の治療処置(例えば、入院患者治療)を終えて退院させるか、または開始するか、または継続するかを判定するために、および臨床研究への参加について対象を選択するために有用である。本明細書において、これらの抗体およびそれらの抗原結合性断片、これらの抗体および抗体断片を含むキット、ならびにこれらの抗体および抗体断片を用いるさまざまな方法を提供する。
【0007】
本明細書において、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)(ATTC)に寄託されかつ特許寄託指定番号(Patent Deposit Designation)PTA-10431およびPTA 10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体であるかまたは該抗体と競合的に結合する、単離された抗体およびそれらの抗原結合性断片を提供する。いくつかの態様において、抗体またはその断片は、D066-3抗体もしくはD067-3抗体(MBL International)(米国特許第7,087,396号に記載)の一方もしくは両方とは競合的に結合しないか、またはヒト可溶性ST2への結合に関して、1.51×10-9Mと等しいかもしくはそれ未満であるKDを有する。いくつかの態様において、抗体またはその断片は、ヒト可溶性ST2への結合に関して、8.59×10-10Mと等しいかまたはそれ未満であるKDを有する。いくつかの態様において、抗体またはその断片は、キメラであるかまたはヒト化されている。いくつかの態様において、断片は、Fab断片、F(ab')2断片およびscFv断片からなる群より選択される。いくつかの態様において、抗体またはその断片はグリコシル化されている。いくつかの態様において、抗体またはその断片は、ATCCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の軽鎖または重鎖の1つまたは複数の相補性決定領域を含む。いくつかの態様において、抗体は、ATCCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体もしくはその抗原結合性断片、ATCCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体もしくはその抗原結合性断片である。
【0008】
また、ヒト可溶性ST2に特異的に結合する、単離された抗体およびそれらの抗原結合性断片であって、非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウシ、ブタ、サルまたはウマ)に、ヒト細胞(例えば、ヒト線維芽細胞、神経細胞、上皮細胞または内皮細胞、胚細胞または成体細胞、特にヒト胚性腎細胞)から単離された組換えヒト可溶性ST2による免疫処置を行うことを含む過程によって産生される抗体およびそれらの抗原結合性断片も提供する。いくつかの態様において、単離された組換えヒト可溶性ST2は完全にグリコシル化されている、すなわち、ヒト血清中に存在する天然の内因性ヒト可溶性ST2と実質的に同じグルコシル化を有する。本明細書に記載の抗体および断片すべてのいくつかの態様において、抗体またはその断片は標識されている。
【0009】
また、ATCCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431で指定されるハイブリドーマの細胞、およびATCCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10432で指定されるハイブリドーマの細胞も提供する。
【0010】
また、対象由来の試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを定量する方法も提供する。本方法は、試料を本明細書に記載の抗体またはその断片の少なくとも1つと接触させる段階、およびヒト可溶性ST2への該抗体またはその断片の結合を検出する段階を含む。いくつかの態様において、本方法は、本明細書に記載の抗体またはそれらの断片の少なくとも異なる2つの、使用を含む。
【0011】
また、対象における1年以内の死亡のリスクを予測する方法も提供する。本方法は、対象から試料を入手する段階、および本明細書に記載の抗体またはその断片の少なくとも1つを用いて、ヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階を含み、該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルがヒト可溶性ST2の基準レベルと比較して高いことにより、該対象の1年以内の死亡のリスクが高いこと(例えば、ヒト可溶性ST2のレベルが同じ対照に比べて低いかまたは実質的に同じである対象(例えば、同じ疾患を有する対象)に比べて1年以内の死亡のリスクが高いこと)が示され、かつ、ヒト可溶性ST2のレベルが低いかまたは実質的に同じであることにより、該対象の1年以内の死亡のリスクが低いこと(例えば、ヒト可溶性ST2のレベルが同じ対照に比べて高いかまたは実質的に同じである対象(例えば、同じ疾患を有する対象)に比べて1年以内の死亡のリスクが低いこと)が示される。
【0012】
また、対象から試料を入手する段階、および本明細書に記載の抗体または断片の少なくとも1つを用いて、該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階を含む、入院患者を退院させるかどうかまたは入院患者としての対象の治療を開始もしくは継続するかどうかを判定する方法であって、該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルがヒト可溶性ST2の基準レベルと比較して高いことにより、入院患者治療を開始または継続すべきであることが示され、ヒト可溶性ST2のレベルが低いかまたは等しいことにより、該対象の退院を考慮に入れるべきであることが示される方法も提供する。いくつかの態様において、対象は、以下の症状のうちの少なくとも1つまたは複数を有する:胸痛または胸部不快感、息切れ、悪心、嘔吐、おくび、発汗、動悸、もうろう状態、疲労および失神。
【0013】
また、対象から試料を入手する段階、本明細書に記載の抗体またはその断片の少なくとも1つを用いて、試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階、および、ヒト可溶性ST2の基準レベルと比べた該対象のヒト可溶性ST2のレベルにより、臨床研究への参加について該対象を選択すべきであることが示される場合に、臨床研究への参加のために該対象を選択する段階を含む、臨床研究への参加について対象を選択する方法も提供する。いくつかの態様において、高いレベルのヒト可溶性ST2の存在により、臨床研究への参加について対象を選択すべきであることが示される。
【0014】
また、本明細書に記載の抗体またはその断片の少なくとも1つを用いて、対象由来の生体試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階を含む、該対象に対する治療処置を選択するための方法であって、ヒト可溶性ST2の基準レベルに比べての該対象のヒト可溶性ST2のレベルを用いて、該対象に対する治療処置を選択するための方法も提供する。いくつかの態様においては、高いレベルのヒト可溶性ST2の存在を用いて、対象に対する治療処置を選択する。
【0015】
本明細書に記載した方法のいずれかのいくつかの態様において、対象は診断されていないもしくは疾患状態の症状の2つもしくはそれ以上(例えば、少なくとも3つ、4つもしくは5つ)を示さないか;対象は疾患(例えば、心不全、冠動脈疾患、心血管疾患、急性冠症候群、腎機能不全、脳卒中、または本明細書に記載の疾患のいずれか)を有すると診断されているか;または対象は、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、高血圧、および≧30の肥満指数のうちの1つまたは複数を有する。本明細書に記載した方法のいずれかのいくつかの態様において、決定する段階は、本明細書に記載の抗体またはそれらの断片の少なくとも2つを用いて行われる。
【0016】
本明細書に記載した方法のいずれかのいくつかの態様において、ヒト可溶性ST2の基準レベルは、ヒト可溶性ST2の閾値レベルである。いくつかの態様において、閾値レベルは、健康患者(healthy patient)集団(例えば、男性健康患者集団または女性健康患者集団)におけるヒト可溶性ST2の平均レベルである。本明細書に記載した方法のいずれかのいくつかの態様において、基準レベルは、疾患の2つまたはそれ以上の症状を示さない対象、疾患を有すると診断されていない対象、または疾患を発症するリスクがあると特定されていない対象の試料中に存在する、ヒト可溶性ST2のレベルである。
【0017】
本明細書に記載した方法のいずれかにおいて、対象は、疾患(例えば、心不全、冠動脈疾患、心血管疾患、急性冠動脈疾患、急性冠症候群、腎機能不全もしくは脳卒中、または本明細書に記載の疾患のいずれか)を有すると診断されていない。本明細書に記載した方法のいずれかにおいて、試料は血液、血清または血漿を含む。本明細書に記載の抗体およびそれらの断片のいずれかを、本明細書に記載した方法のいずれかに用いることができる。
【0018】
また、対象から試料を入手する段階、本明細書に記載の抗体またはその断片の少なくとも1つ、および少なくとも1つの追加マーカーのレベルを用いて、該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階を含む、対象における疾患を診断する方法であって、該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルがヒト可溶性ST2の基準レベルと比較して高いこと、および少なくとも1つの追加マーカーのレベルが少なくとも1つの追加マーカーの基準レベルに比べて変化していることにより、該対象が疾患(例えば、心血管疾患、肺疾患、敗血症、川崎病もしくはTh2関連疾患、または本明細書に記載の他の疾患のいずれか)を有することが示される方法も提供する。
【0019】
また、対象から試料を入手する段階、および該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階を含む、正常なヒト可溶性ST2レベルを対象が有する(かつ、それ故に心血管疾患などの重症疾患が存在しない可能性が高く、例えば1年以内の死亡または入院のリスクが平均的である)かどうかを判定するための方法であって、ヒト可溶性ST2のレベルが特定の範囲(例えば、約14.5~約25.3ng/mLの間または約18.1~約19.9ng/mLの間)に収まる場合には該対象が正常なヒト可溶性ST2レベルを有すると判定される方法も提供する。いくつかの態様において、男性対象は、ヒト可溶性ST2のレベルが表9に列記されたいずれかの範囲にある場合には、正常なヒト可溶性ST2レベルを有すると判定される。いくつかの態様において、女性対象は、ヒト可溶性ST2のレベルが表9に列記されたいずれかの範囲にある場合には、正常ヒト可溶性ST2を有すると判定される。
【0020】
また、本明細書に記載の抗体またはそれらの抗原結合性断片のうちの少なくとも1つ(例えば、2つ、3つ、4つまたは5つ)を含むキットも提供する。これらのキットのいくつかの態様は、本明細書に記載の2つの抗体またはそれらの抗原結合性断片を含む。これらのキットのいくつかの態様において、抗体またはそれらの断片のうちの少なくとも1つは、ヒト可溶性ST2(例えば、組換えヒト可溶性ST2)への結合に関して、8.59×10-10Mと等しいかまたはそれ未満であるKDを有する。いくつかの態様において、キットは酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)として提供される。いくつかの態様において、キットはさらに、ヒト細胞から単離された組換えヒト可溶性ST2(例えば、ヒト胚性腎細胞)を含む。いくつかの態様において、組換えヒト可溶性ST2は完全にグリコシル化されている。
【0021】
「可溶性ST2」という用語は、NCBIアクセッション番号NP_003847.2(SEQ ID NO:1)に対して少なくとも90%同一の(例えば、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%同一の)配列を含む可溶性タンパク質、またはNCBIアクセッション番号NM_003856.2(SEQ ID NO:2)に対して少なくとも90%同一の(例えば、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%同一の)配列を含む核酸を意味する。
【0022】
「高い」または「高いこと」という用語は、決定または測定したレベル(例えば、ヒト可溶性ST2タンパク質レベル)の、基準レベル(例えば、疾患を有しない対象、疾患の2つもしくはそれ以上の症状を示さない対象、もしくは疾患を発症するリスクがあると特定されていない対象におけるヒト可溶性ST2のレベル、またはヒト可溶性ST2の閾値レベル)と比較した差、例えば統計的に有意な差(例えば、増加)を意味する。いくつかの態様において、基準は閾値レベル、および「高い」と見なされるものを上回る任意のレベルである。ヒト可溶性ST2のそのほかの基準レベルについても本明細書で説明している。
【0023】
「医療施設」という用語は、対象が医療従事者(例えば、看護師、医師または医療補助者)から医療ケアを受けることのできる場所を意味する。医療施設の非限定的な例には、病院、診療所および介護ケア施設(例えば、ナーシングホーム)が含まれる。
【0024】
「入院患者」という用語は、医療施設(例えば、病院または介護ケア施設)に収容された対象を意味する。
【0025】
「入院患者治療」という用語は、医療施設(例えば、病院または介護ケア施設)に収容された対象のモニタリングおよび/または診療を意味する。例えば、入院患者治療を受ける対象が、医療従事者によって1つもしくは複数の治療薬を投与されてもよいか、または医学的手技(例えば、外科手術(例えば、臓器移植、心臓バイパス手術)、血管形成術、映像法(例えば、磁気共鳴映像法、超音波映像法およびコンピュータ断層撮影法))を受けてもよい。他の例では、疾患または対象の病状の重症度または進行を評価するために、疾患の、または病状の重症度の1つまたは複数のマーカーを、医療従事者が定期的に測定することができる。
【0026】
「基準レベル」という用語は、閾値レベル、または対照対象もしくは対照患者集団におけるレベルを意味する。基準レベルは実施するアッセイ法に依存すると考えられ、当業者によって決定されうる。基準レベルは、ベースラインレベル、またはより以前もしくは後の時点に測定した、同じ患者におけるレベルであってよい。ヒト可溶性ST2の基準レベルのいくつかの非限定的な例には、以下の対象におけるヒト可溶性ST2のレベルが含まれる:疾患を有すると診断されていない対象;疾患の症状の少なくとも2つもしくはそれ以上を示さない対象;CVDのリスクが高くない対象;腎不全を有しない;高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、高血圧を有しない、および/または<30の肥満指数(例えば、BMIが25未満)である対象;疾患を発症するリスクがない対象;ならびに/または高いST2レベルと関連性のある疾患(例えば、心血管疾患、肺疾患、敗血症、川崎病もしくはTh2関連疾患、または本明細書に記載の他の疾患のいずれか)に罹患していない対象。そのほかの対照患者集団についても本明細書で説明している。ヒト可溶性ST2の基準レベルのそのほかの例には、ヒト可溶性ST2の閾値レベルがある。ヒト可溶性ST2の基準レベルは、当技術分野において公知の方法を用いて決定することができ;いくつかの例示的なレベルは本明細書に説明されている。
【0027】
いくつかの態様においては、対象における2つのヒト可溶性ST2レベルの比を算出する。基準比を、対象(例えば、本明細書に記載の対照対象のいずれか、または同じ対象)で測定したヒト可溶性ST2レベルの基準比と比較することができ、例えば基準比は、疾患(例えば、心疾患(例えば、心不全、冠動脈疾患、心血管疾患、急性冠症候群および狭心症)、腎機能不全もしくは脳卒中、または本明細書に記載した通りのヒト可溶性ST2レベルの増加と関連性のある他の疾患のいずれか)の発症の前および後のヒト可溶性ST2のレベルの比;疾患(例えば、心疾患(例えば、心不全、冠動脈疾患、心血管疾患、急性冠症候群および狭心症)、腎機能不全もしくは脳卒中、または本明細書に記載の他の疾患のいずれか)の診断の前および後のヒト可溶性ST2のレベルの比;疾患((例えば、心疾患(例えば、心不全、冠動脈疾患、心血管疾患、急性冠症候群および狭心症)、腎機能不全もしくは脳卒中、または本明細書に記載の他の疾患のいずれか)に対する治療処置の前および後のST2のレベルの比;疾患(例えば、心疾患(例えば、心不全、冠動脈疾患、心血管疾患、急性冠症候群および狭心症)、腎機能不全もしくは脳卒中、または本明細書に記載の他の疾患のいずれか)に対する治療処置(例えば、入院患者治療または外来患者治療)中の2つの時点でのヒト可溶性ST2レベルの比;または心イベント(例えば、心筋梗塞)の前および後のヒト可溶性ST2レベルの比であってよい。
【0028】
いくつかの態様においては、対象で測定したヒト可溶性ST2のレベルの比を、閾値基準比と比較することができる。ヒト可溶性ST2の基準比は、当技術分野において公知の方法を用いて決定することができ;ヒト可溶性ST2の基準比は、本明細書に記載のデータを用いて算出することができる。例えば、ヒト可溶性ST2の基準比は、約0.7と約1.1との間、または約1であってよい。
【0029】
「治療処置」または「治療」という用語は、対象への1つもしくは複数の薬剤の投与、または対象の身体に対する医学的手技(例えば、臓器移植または心臓手術などの外科手術)の実施を意味する。対象に投与しうる薬剤の非限定的な例には、硝酸薬、カルシウムチャンネル遮断薬、利尿薬、血栓溶解薬、ジギタリス、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)調節薬(例えば、β-アドレナリン遮断薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アルドステロン拮抗薬、レニン阻害薬およびアンジオテンシンII受容体遮断薬)およびコレステロール低下薬(例えば、スタチン)が含まれる。また、治療処置という用語は、対象が服用しうる1つもしくは複数の薬剤の用量もしくは頻度の調整(例えば、増加または減少)、対象への1つもしくは複数の新たな薬剤の投与、または対象の治療計画からの1つもしくは複数の薬剤の除去も含む。
【0030】
本明細書で用いる場合、「対象」は哺乳動物、例えばヒトである。
【0031】
本明細書で用いる場合、「生体試料」は、血液、血清、血漿、尿および体組織のうちの1つまたは複数を含む。一般に、生体試料は、血清、血液または血漿を含む試料である。
【0032】
本明細書で用いる場合、「抗体」という用語は、重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドを一般に含むタンパク質のことを指す。抗原認識および抗原結合は、重鎖および軽鎖の可変領域内で起こる。1つの重鎖および1つの軽鎖を有する単ドメイン抗体、ならびに軽鎖を持たない重鎖抗体も公知である。どの抗体もα、δ、ε、γおよびμと呼ばれる5種類の重鎖のうちの1つを含み、その分類は重鎖定常領域のアミノ酸配列に基づく。これらの異なる種類の重鎖は、抗体の5つのクラス、それぞれIgA(IgA1およびIgA2を含む)、IgD、IgE、IgG(IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含む)およびIgMを生じさせる。また、どの抗体もκまたはλと呼ばれる2種類の軽鎖のうちの1つを含み、その分類は軽鎖定常ドメインのアミノ酸配列に基づく。IgG抗体、IgD抗体およびIgE抗体は一般に、2つの同一の重鎖および2つの同一の軽鎖、ならびにそれぞれが重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)で構成される2つの抗原結合ドメインを含む。一般にIgA抗体は2つの単量体で構成され、各単量体は2つの重鎖および2つの軽鎖で構成される(IgG抗体、IgD抗体およびIgE抗体の場合)。この結果、IgA分子は4つの抗原結合ドメインを有し、それぞれはやはりVHおよびVLで構成される。ある種のIgA抗体は、2つの重鎖および2つの軽鎖で構成される点で単量体性である。分泌性IgM抗体は一般に5つの単量体で構成され、各単量体は2つの重鎖および2つの軽鎖で構成される(IgG抗体およびIgE抗体の場合)。この結果、分泌性IgM分子は10個の抗原結合ドメインを有し、それぞれはやはりVHおよびVLで構成される。IgMの細胞表面型も存在し、これはIgG抗体、IgD抗体およびIgE抗体に類似した2つの重鎖/2つの軽鎖という構造を有する。
【0033】
本明細書で用いる場合、「キメラ抗体」という用語は、少なくとも1つのヒト定常領域を含むように操作された抗体のことを指す。例えば、マウス抗体(例えば、マウスモノクローナル抗体)の軽鎖の1つもしくはすべて(例えば、1つ、2つまたは3つ)の可変領域、および/または重鎖の1つもしくはすべての(例えば、1つ、2つまたは3つ)の可変領域をそれぞれ、限定するものではないがIgG1ヒト定常領域などのヒト定常領域と連結させることができる。キメラ抗体は典型的には、非キメラ抗体に比べてヒトに対する免疫原性が弱く、それ故に特定の状況では治療上の有益性がある。当業者はキメラ抗体を把握していると考えられ、それらの作製のために適した手法も把握していると考えられる。例えば、米国特許第4,816,567号;同第4,978,775号;同第4,975,369号;および米国特許第4,816,397号を参照。
【0034】
本明細書で用いる場合、「完全ヒト抗体」という用語は、ヒト由来のアミノ酸配列のみを含む、抗体または抗体の抗原結合性断片のことである。例えば、完全ヒト抗体はヒトB細胞またはヒトハイブリドーマ細胞から産生させることができる。さらなる態様において、ヒト重鎖免疫グロブリンおよびヒト軽鎖免疫グロブリンの遺伝子座を含むかまたは特定のヒト抗体の重鎖および軽鎖をコードする核酸を含むトランスジェニック動物から、抗体を産生させることもできる。
【0035】
「相補性決定領域」または「CDR」は、これらの用語が本明細書で用いられる場合、特異的抗原認識を媒介する主な原因となる、重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドの両方の可変領域内の短いポリペプチド配列のことを指す。CDRは、Kabat, et al., J. Biol. Chem. 252, 6609-6616, 1977;Chothia et al., J. Mol. Biol. 196:901-917, 1987;およびMacCallum et al., J. Mol. Biol. 262:732-745, 1996によって記載されている。各VLおよび各VHの内部には、3つのCDR(CDR1、CDR2およびCDR3と称される)が存在する。
【0036】
「断片」または「抗体断片」は、これらの用語が本明細書で用いられる場合、完全長抗体ポリペプチドは含まないが、それでもなお、抗原に結合しうる完全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部分を含む、抗体ポリペプチド分子に由来するポリペプチド(例えば、抗体重鎖ポリペプチドおよび/または抗体軽鎖ポリペプチド)のことを指す。抗体断片は完全長抗体ポリペプチドの切断された一部分を含みうるものの、この用語はそのような切断断片には限定されない。抗体断片には、例えば、Fab断片、F(ab')2断片、scFv(単鎖Fv)断片、直鎖抗体、単一特異性または多重特異性の抗体断片、例えば二重特異性抗体、三重特異性抗体および多重特異性抗体(例えば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)など、ミニボディ、キレート性組換え抗体、トリボディまたはバイボディ、イントラボディ、ナノボディ、小型モジュラー免疫薬(small modular immunopharmaceutical)(SMIP)、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ化(camelized)抗体、およびVHH含有抗体が含まれうる。抗原結合性抗体断片の別の例も当技術分野において公知である。
【0037】
「フレームワーク領域」は、この用語が本明細書で用いられる場合、CDR配列ではなく、かつ、抗原結合を可能にするCDR配列の正しい配置を維持する主な原因となる、重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドの両方の可変領域内のアミノ酸配列のことを指す。フレームワーク領域はそれ自体では抗原結合に直接は関与しないことが典型的であるが、当技術分野において公知である通り、ある種の抗体のフレームワーク領域内のある種の残基は抗原結合に直接関与することができるか、またはCDR内の1つまたは複数のアミノ酸が抗原と相互作用する能力に影響を及ぼすことができる。
【0038】
「ヒト化抗体」は、この用語が本明細書で用いられる場合、可変領域内に、1つまたは複数のヒトフレームワーク領域を、非ヒト(例えば、マウス、ラットまたはハムスター)性の重鎖および/または軽鎖の相補性決定領域(CDR)とともに含むように操作された抗体のことを指す。いくつかの態様において、ヒト化抗体は、CDR領域を除き、すべてがヒト性である配列を含む。ヒト化抗体は典型的には、非ヒト化抗体に比べてヒトに対する免疫原性が弱く、それ故に特定の状況では治療上の有益性がある。ヒト化抗体は当技術分野において公知であり、ヒト化抗体を作製するために適した手法も公知である。例えば、Hwang et al., Methods 36:35, 2005;Queen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 86:10029-10033, 1989;Jones et al., Nature 321:522-25, 1986;Riechmann et al., Nature 332:323-27, 1988;Verhoeyen et al., Science 239:1534-36, 1988;Orlandi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 86:3833-3837, 1989;米国特許第5,225,539号;同第5,530,101号;同第5,585,089号;同第5,693,761号;同第5,693,762号;および同第6,180,370号;ならびにWO 90/07861を参照。
【0039】
本明細書で用いる場合、「Th2関連疾患」という用語は、異常な2型ヘルパーT細胞(Th2)応答と関連性のある疾患のことを指す。
【0040】
本明細書で用いる場合、「心血管疾患」という用語は、心臓および血管の障害のことを指し、これには動脈、静脈、細動脈、細静脈および毛細血管の障害が含まれる。
【0041】
本明細書で用いる場合、「肺疾患」という用語は、肺の障害のことを指す。
【0042】
「追加マーカー」という用語は、特定の疾患の存在の診断に役立つ、タンパク質、核酸、脂質もしくは糖質、またはそれらの(例えば、2つまたはそれ以上の)組み合わせを意味する。対象が疾患を有すると診断するための本明細書に記載された方法は、対象由来の試料における可溶性ヒトST2のレベルおよび少なくとも1つの追加マーカーのレベルを検出する段階を含みうる。疾患の診断のために有用であるいくつかの追加マーカーが、当技術分野において公知である(例えば、プロANP、NT-プロANP、ANP、プロBNP、NT-プロBNP、BNP、トロポニン、CRP、クレアチニン、血中尿素窒素(BUN)、肝機能酵素、アルブミンおよび細菌内毒素;ならびに、それぞれが参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願第2007/0248981号;同第2011/0053170号;同第2010/0009356号;同第2010/0055683号;同第2009/0264779号に記載されたマーカー)。
【0043】
「高トリグリセリド血症」という用語は、180ng/mLよりも大きいかまたはそれと等しい(例えば、200ng/mLよりも大きいかまたはそれと等しい)トリグリセリドレベルを意味する。
【0044】
「高コレステロール血症」という用語は、対象におけるコレステロールの少なくとも1つの型のレベルまたは総コレステロールの高いレベルを意味する。例えば、高コレステロール血症の対象は、≧40mg/dLの高密度リポタンパク質(HDL)レベル(例えば、≧50mg/dLまたは≧60mg/mL)、≧130mg/dLの低密度リポタンパク質(LDL)レベル(例えば、≧160mg/dLまたは≧200mg/dL)、および/または≧200mg/dLの総コレステロールレベル(例えば、240mg/dL)を有しうる。
【0045】
「高血圧」という用語は、収縮期および/または拡張期血圧のレベルの増加を意味する。例えば、高血圧の対象は、≧120mmHg(例えば、≧140mmHgまたは≧160mmHg)である収縮期血圧、および/または≧80mmHg(例えば、≧90mmHgまたは≧100mmHg)である拡張期血圧を有しうる。
【0046】
「健康対象」という用語は、疾患(例えば、心血管疾患または肺疾患)を有しない対象を意味する。例えば、健康対象は疾患を有すると診断されておらず、かつ、疾患状態の1つまたは複数(例えば、2つ、3つ、4つもしくは5つ)の症状を示さない。
【0047】
「死亡のリスク」とは、対象における、基準集団(例えば、健康対照集団)と比較した、疾患または疾患と関連性のある合併症による死亡のリスクを意味する。本明細書で用いる場合、死亡のリスクという用語から、故意の死亡または偶発死、例えば、自動車事故などの鈍的外傷または圧挫外傷による死亡は除外される。
【0048】
特に定めがない限り、本明細書で用いる技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。方法および材料は、本発明における使用に関して本明細書に記載されている。当技術分野において公知である他の適した方法および材料を用いることもできる。材料、方法および例は例示に過ぎず、限定を意図したものではない。本明細書で言及した刊行物、特許出願、特許、配列、データベース項目、および他の参考文献はすべて、それらの全体が参照により組み入れられる。食い違いがある場合は、定義を含め、本明細書が優先するものとする。
【0049】
[本発明1001]
アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)(ATTC)に寄託されかつ特許寄託指定番号(Patent Deposit Designation)PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される、単離された抗体またはその抗原結合性断片。
[本発明1002]
キメラである、本発明1001の抗体または断片。
[本発明1003]
ヒト化されている、本発明1001の抗体または断片。
[本発明1004]
前記断片が、Fab断片、F(ab')2断片およびscFv断片からなる群より選択される、前記本発明のいずれかの抗体または断片。
[本発明1005]
グリコシル化されている、前記本発明のいずれかの抗体または断片。
[本発明1006]
ATTCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される前記抗体の軽鎖または重鎖の相補性決定領域のうちの1つまたは複数を含む、前記本発明のいずれかの抗体または断片。
[本発明1007]
前記抗体が、ATTCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体であるか、またはATTCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431で指定されるハイブリドーマによって産生される該抗体の抗原結合性断片である、前記本発明のいずれかの抗体または断片。
[本発明1008]
前記抗体が、ATTCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体であるか、またはATTCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される該抗体の抗原結合性断片である、本発明1001~1006のいずれかの抗体または断片。
[本発明1009]
アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431で指定されるハイブリドーマ、およびATCCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10432で指定されるハイブリドーマからなる群より選択される、ハイブリドーマ。
[本発明1010]
試料を本発明1001~1008のいずれかの抗体またはその断片の少なくとも1つと接触させる段階;および
ヒト可溶性ST2への該抗体またはその断片の結合を検出する段階
を含む、対象由来の該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを定量する方法。
[本発明1011]
本発明1001~1008のいずれかの抗体またはそれらの断片の少なくとも異なる2つの使用を含む、本発明1010の方法。
[本発明1012]
対象から試料を入手する段階;および
本発明1001~1008のいずれかの抗体またはその断片の少なくとも1つを用いて、該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階
を含む、対象における1年以内の死亡のリスクを予測する方法であって、
該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルがヒト可溶性ST2の基準レベルと比較して高いことにより、該対象の1年以内の死亡のリスクが高いことが示され、かつ、該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルがヒト可溶性ST2の基準レベルと比較して低いかまたは等しいことにより、該対象の1年以内の死亡のリスクが低いことが示される方法。
[本発明1013]
対象から試料を入手する段階;および
本発明1001~1008のいずれかの抗体またはその断片の少なくとも1つを用いて、該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階
を含む、対象を退院させるかどうか、または入院患者としての対象の治療を開始もしくは継続するかどうかを判定する方法であって、
該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルがヒト可溶性ST2の基準レベルと比較して高いことにより、該対象の入院患者治療を開始または継続すべきであることが示され、かつ、該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルが該試料におけるヒト可溶性ST2の基準レベルと比較して低いかまたは等しいことにより、該対象を退院させるべきであることが示される方法。
[本発明1014]
対象から試料を入手する段階;
本発明1001~1008のいずれかの抗体またはその断片の少なくとも1つを用いて、該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階;および
ヒト可溶性ST2の基準レベルと比べた該対象のヒト可溶性ST2のレベルにより、臨床研究への参加について該対象を選択すべきであることが示される場合に、臨床研究への参加について該対象を選択する段階
を含む、臨床研究への参加について対象を選択する方法。
[本発明1015]
高いレベルのヒト可溶性ST2の存在により、臨床研究への参加について前記対象を選択すべきであることが示される、本発明1014の方法。
[本発明1016]
前記対象が、診断されていないか、または疾患の2つもしくはそれ以上の症状を示さない、本発明1010~1015のいずれかの方法。
[本発明1017]
前記対象が、疾患を有すると診断されている、本発明1010~1015のいずれかの方法。
[本発明1018]
前記疾患が、心不全、冠動脈疾患、心血管疾患、急性冠症候群、腎機能不全および脳卒中からなる群より選択される、本発明1017の方法。
[本発明1019]
前記対象が、疾患を発症するリスクがあると特定されている、本発明1010~1015のいずれかの方法。
[本発明1020]
前記対象が、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、高血圧、および≧30の肥満指数のうちの1つまたは複数を有する、本発明1010~1019のいずれかの方法。
[本発明1021]
前記決定する段階が、本発明1001~1008のいずれかの抗体またはそれらの断片の少なくとも2つを用いて行われる、本発明1012~1020のいずれかの方法。
[本発明1022]
ヒト可溶性ST2の前記基準レベルがヒト可溶性ST2の閾値レベルである、本発明1012~1021のいずれかの方法。
[本発明1023]
ヒト可溶性ST2の前記閾値レベルが、健康患者(healthy patient)集団におけるヒト可溶性ST2の平均レベルである、本発明1022の方法。
[本発明1024]
前記健康患者集団が男性健康患者集団である、本発明1023の方法。
[本発明1025]
前記健康患者集団が女性健康患者集団である、本発明1023の方法。
[本発明1026]
前記基準レベルが、疾患の2つまたはそれ以上の症状を示さない対象の試料中に存在するヒト可溶性ST2のレベルである、本発明1012~1021のいずれかの方法。
[本発明1027]
前記基準レベルが、疾患を有すると診断されていない対象の試料中に存在するヒト可溶性ST2のレベルである、本発明1012~1021のいずれかの方法。
[本発明1028]
前記疾患が、心不全、冠動脈疾患、心血管疾患、急性冠症候群、腎機能不全および脳卒中からなる群より選択される、本発明1027の方法。
[本発明1029]
前記試料が、血液、血清または血漿を含む、本発明1010~1028のいずれかの方法。
[本発明1030]
前記対象が、以下の症状のうちの少なくとも1つまたは複数を有する、本発明1012の方法:胸痛または胸部不快感、息切れ、悪心、嘔吐、おくび、発汗、動悸、もうろう状態、疲労、および失神。
[本発明1031]
本発明1001~1008のいずれかの抗体またはその抗原結合性断片の少なくとも1つを含む、キット。
[本発明1032]
2つの抗体またはそれらの抗原結合性断片を含む、本発明1031のキット。
[本発明1033]
ヒト可溶性ST2への結合に関して、前記抗体または前記断片のうちの少なくとも1つが、8.59×10-10Mと等しいかまたはそれ未満であるKDを有する、本発明1031または1032のキット。
[本発明1034]
酵素結合免疫吸着検査法として提供される、本発明1031~1033のいずれかのキット。
[本発明1035]
ヒト細胞から単離された組換えヒト可溶性ST2をさらに含む、本発明1031~1034のいずれかのキット。
[本発明1036]
前記ヒト細胞がヒト胚性腎細胞である、本発明1035のキット。
本発明のその他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および図面から、ならびに特許請求の範囲から、明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】組換えヒト可溶性ST2タンパク質精製物からの画分のSDS-PAGEゲル分析の結果を示している画像である。レーン(各試料レーン当たり10μL)は以下の通りである:1‐MWM(5μL);2‐Hisラダー(3μL);3‐非トランスフェクト陰性対照;4‐精製前の上清;5‐カラム流出液;6‐結合緩衝液洗浄液1;7‐5mM洗浄液2;8‐5mM洗浄液3;9‐200mM溶出液画分2;10‐200mM溶出液画分3;11‐200mM溶出液画分4;12‐200mM溶出液画分5;13‐200mM溶出液画分6;14‐200mM溶出液画分7;および15‐0.3μgの可溶性ST2。
図2】組換えヒト可溶性ST2タンパク質中のヒスチジンタグを検出する、精製画分のウエスタンブロット法を示している。レーン(各レーン当たり10μL)は以下の通りである:1‐MWM(5μL);2‐Hisラダー(3μL);3‐精製前の上清;4‐カラム流出液;5‐結合緩衝液洗浄液1;6‐結合緩衝液洗浄液2;7‐5mM洗浄液2;8‐5mM洗浄液3;9‐200mM溶出液画分2;10‐200mM溶出液画分3;11‐200mM溶出液画分4;12‐200mM溶出液画分5;13‐200mM溶出液画分6;14‐200mM溶出液画分7;および15‐0.3μgの可溶性ST2。
図3A図3A~3Cは、市販の抗ST2抗体D066(MBL International)(図3B)をヘキサヒスチジン抗体(図3C)と比較した、精製した組換え可溶性ST2のクーマシーゲル(図3A)および2つのウエスタンブロットを示している。レーン(10μL/試料レーン)は以下の通りである:1‐MWM;2‐Hisラダー;3‐血清ST2-His 1000ng;4‐血清ST2-His 500ng;5‐血清ST2-His 200ng;6‐血清ST2-His 100ng;7‐血清ST2-His 50ng;8‐無血清ST2-His 1000ng;9‐無血清ST2-His 500ng;10‐無血清ST2-His 200ng;11‐無血清ST2-His 100ng;および12‐無血清ST2-His 50ng。
図3B図3B図3Aの続きを示す図である。
図3C図3C図3Bの続きを示す図である。
図4】7E4抗体および9F8抗体の抗原感度評価の結果を示している折れ線グラフである。
図5】7E4抗体および9F8抗体の抗原感度評価の結果を示している折れ線グラフである。7E4抗体および9F8抗体を96ウェルプレートの個々のウェル中に5μg/mL~0の範囲にわたる濃度でコーティングして、単一濃度のビオチン結合組換え可溶性ST2に対して試験した。
図6】7E4抗体または9F8抗体のいずれかをビオチン化して、それらをモノクローナル抗体サンドイッチ酵素イムノアッセイ(EIA)構成でともに用いうるかの能力に関して試験した結果を示している折れ線グラフである。
図7A図7A~7Fは、抗体-抗原複合体形成の表面プラズモン共鳴(SPR)分析の結果を示している6つのグラフである。図7Aは抗体9F8(L1)のSPR分析を示している。
図7B図7A~7Fは、抗体-抗原複合体形成の表面プラズモン共鳴(SPR)分析の結果を示している6つのグラフである。図7Bは抗体7E4(L2)のSPR分析を示している。
図7C図7A~7Fは、抗体-抗原複合体形成の表面プラズモン共鳴(SPR)分析の結果を示している6つのグラフである。図7Cは抗体11A7(L3)のSPR分析を示している。
図7D図7A~7Fは、抗体-抗原複合体形成の表面プラズモン共鳴(SPR)分析の結果を示している6つのグラフである。図7Dは抗体D066(L4)のSPR分析を示している。
図7E図7A~7Fは、抗体-抗原複合体形成の表面プラズモン共鳴(SPR)分析の結果を示している6つのグラフである。図7Eは抗体D067(L5)のSPR分析を示している。
図7F図7A~7Fは、抗体-抗原複合体形成の表面プラズモン共鳴(SPR)分析の結果を示している6つのグラフである。図7Fは無関係な抗体(L6)のSPR分析を示している。
図8A図8A~8Fは、抗体-抗原複合体形成のSPR分析の結果を示している6つのグラフである。図8Aは抗体9F8(L1)のSPR分析を示している。
図8B図8A~8Fは、抗体-抗原複合体形成のSPR分析の結果を示している6つのグラフである。図8Bは抗体7E4(L2)のSPR分析を示している。
図8C図8A~8Fは、抗体-抗原複合体形成のSPR分析の結果を示している6つのグラフである。図8Cは抗体11A7(L3)のSPR分析を示している。
図8D図8A~8Fは、抗体-抗原複合体形成のSPR分析の結果を示している6つのグラフである。図8Dは抗体15D6(L4)のSPR分析を示している。
図8E図8A~8Fは、抗体-抗原複合体形成のSPR分析の結果を示している6つのグラフである。図8Eは抗体D066(L5)のSPR分析を示している。
図8F図8A~8Fは、抗体-抗原複合体形成のSPR分析の結果を示している6つのグラフである。図8Fは抗体D067(L6)のSPR分析を示している。
図9】抗凝固剤チューブの種類別にみたヒト可溶性ST2濃度を示している箱ひげ図である。
図10】健常ドナーのヒト可溶性ST2濃度分布を示しているヒストグラムである。
図11】健常ドナーの性別および年齢に応じたヒト可溶性ST2濃度を示している箱ひげ図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
詳細な説明
本明細書において、ヒト可溶性ST2に特異的に結合する抗体およびそれらの抗原結合性断片、これらの抗体および断片を含むキット、ならびにこれらの抗体および断片を用いる方法について説明する。
【0052】
ST2
ST2遺伝子は、タンパク質産物が膜貫通型、ならびに血清中で検出しうる可溶性受容体の両方として存在するインターロイキン-1受容体ファミリーのメンバーである(Kieser et al., FEBS Lett. 372(2-3):189-193, 1995;Kumar et al., J. Biol. Chem. 270(46):27905-27913, 1995;Yanagisawa et al., FEBS Lett. 302(1):51-53, 1992;Kuroiwa et al., Hybridoma 19(2):151-159, 2000)。可溶性ST2は心不全の実験モデルにおいて顕著に上方制御されていることが記載されており(Weinberg et al., Circulation 106(23):2961-2966, 2002)、ヒト可溶性ST2濃度は、慢性重症心不全の人々(Weinberg et al., Circulation 107(5):721-726, 2003)、さらには急性心筋梗塞の人々(Shimpo et al., Circulation 109(18):2186-2190, 2004)でも高いことがデータから示唆されている。
【0053】
理論に拘束されることは望まないが、膜貫通型のST2は2型ヘルパーT細胞の応答の調節に役割を果たすと考えられており(Lohning et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95(12):6930-6935, 1998;Schmitz et al., Immunity 23(5):479-490, 2005)、重症炎症または慢性炎症の状態における寛容の発生にも役割を果たしている可能性があるが(Brint et al., Nat. Immunol. 5(4):373-379, 2004)、その一方、可溶型のST2は増殖刺激を受けた線維芽細胞で上方制御される(Yanagisawa et al., 1992、前記)。実験データからは、心筋細胞伸展の状態において、ST2遺伝子が、BNP遺伝子の誘導(Bruneau et al., Cardiovasc. Res. 28(10):1519-1525, 1994)に似た様式で、顕著に上方制御されることが示唆されている(Weinberg et al., 2002、前記)。
【0054】
Tominagaら(FEBS Lett. 258:301-304, 1989)は、BALB/c-3T3細胞において増殖刺激によって特異的に発現されるマウス遺伝子を単離した。Hagaら(Eur. J. Biochem. 270:163-170, 2003)は、ST2遺伝子が、増殖刺激によるその誘導に基づいて命名されたことを記載している。ST2遺伝子は以下の2種のタンパク質産物をコードする:可溶性分泌型であるST2またはsST2、およびインターロイキン-1受容体に極めて類似した膜貫通性受容体型のST2L。HUGO命名委員会(HUGO Nomenclature Committee)は、Tominaga et al., Biochim. Biophys. Acta. 1171:215-218, 1992にそのクローニングが記載されたST2のヒトホモログを、インターロイキン1受容体様1(Interleukin 1 Receptor-Like 1)(IL1RL1)と名付けた。この2つの用語は本明細書において互換的に用いられる。
【0055】
ヒトST2の短い方である可溶性アイソフォームのmRNA配列はGenBankアクセッション番号NM_003856.2(SEQ ID NO:2)に見ることができ、ポリペプチド配列はGenBankアクセッション番号NP_003847.2(SEQ ID NO:1)にある。ヒトST2のより長い型のmRNA配列はGenBankアクセッション番号NM_016232.4(SEQ ID NO:4)にあり、ポリペプチド配列はGenBankアクセッション番号NP_057316.3(SEQ ID NO:3)にある。そのほかの情報は、公開データベースで、GeneID:9173、MIM ID # 601203およびUniGene番号Hs.66として入手可能である。一般に、本明細書に記載した方法では、ヒトの可溶型ST2ポリペプチドを測定している。
【0056】
抗体および抗原結合性抗体断片
本明細書において、ヒト可溶性ST2と結合する、単離された抗体およびそれらの抗原結合性断片を提供する。提供される抗体およびそれらの断片は、ATCCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体(それぞれ7E4抗体および9F8抗体に対応)と競合的に結合することができる。いくつかの態様において、抗体または断片は、D066-3抗体またはD067-3抗体(MBL International)(米国特許第7,087,396号に記載)とは競合的に結合せず、かつ、ヒト可溶性ST2への結合に関して、1.51×10-9Mと等しいかもしくはそれ未満であるKDを有する。いくつかの態様において、抗体または断片は、ヒト可溶性ST2への結合に関して、8.59×10-10Mと等しいかまたはそれ未満であるKDを有する。ヒト可溶性ST2への結合に関して抗体または断片の親和性(KD)を測定するための方法は、本明細書に記載されており(例えば、表面プラズモン共鳴)、そのほかの方法も当技術分野において公知である。また、本明細書に記載した方法によって産生される7E4モノクローナル抗体および9F8モノクローナル抗体、ならびにそれらの抗原結合性断片も提供する。
【0057】
本明細書で用いる場合、「競合的に結合する」という語句は、所与の抗原への1つの抗体または抗体断片の結合により、その同じ抗原への第2の抗体または抗体断片の結合が減少する状況のことを指す。いくつかの態様において、2つの抗体または断片が、所与の抗原(例えば、ヒト可溶性ヒトST2)上に存在する実質的に同じエピトープと結合する場合には、抗体または断片は別の抗体または断片と競合的に結合する。以下の実施例でより詳細に示している通り、特許寄託指定番号PTA-10431およびPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体のそれぞれは、試験したさまざまな他の抗体とは異なるエピトープを認識し(例えば、MBL InternationalによるD066-3抗体およびD067-3抗体)、それ故にそれらの被験抗体とは競合的に結合しない。いくつかの態様において、本明細書に記載の抗体または断片は、特許寄託指定番号PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体によって認識されるヒト可溶性ST2上のエピトープと結合する。2つの異なる抗体または断片が競合的に結合するかどうかを判定するための方法は、本明細書に記載されており、当技術分野において公知である(例えば、競合的酵素結合免疫吸着検定法)。
【0058】
いくつかの態様において、抗体または断片は、ヒト細胞(例えば、ヒトの線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞もしくは神経細胞、胚細胞もしくは成体細胞、またはHEK293などのヒト胚性腎細胞)から産生される組換えヒト可溶性ST2タンパク質中に存在し、非ヒト細胞種で産生される組換えヒト可溶性ST2中には存在しないエピトープに結合するか、または該エピトープに対する結合性の改善を示す。いくつかの態様において、抗体または断片は、完全にグリコシル化されたヒト可溶性ST2タンパク質(例えば、ヒト細胞から単離されたヒト可溶性ST2タンパク質)中に存在し、グリコシル化されていないか、またはミスグリコシル化(mis-glycosylated)もしくは低グリコシル化されている(例えば、完全にはグリコシル化されていないか、またはヒトに、例えばヒト血清中に存在する天然のヒト可溶性ST2中には存在しないパターン(例えば、数、位置および/または糖の種類)でグリコシル化されている)組換えヒト可溶性ST2タンパク質中には存在しないエピトープに結合するか、またはそれに対する結合性の改善を示す。いくつかの態様において、抗体および抗体断片は、市販の他の抗体に比べて、天然のヒト可溶性ST2により良好に(例えば、より増大した親和性で)結合する。
【0059】
いくつかの態様において、抗体は、ATCCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431で指定されるハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体(7E4抗体)であるか、またはATTCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の抗原結合性断片(7E4抗体の断片)である。いくつかの態様において、抗体は、ATCCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体(9F8抗体)であるか、またはATCCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の抗原結合性断片(9F8抗体の断片)である。本明細書に記載の抗体または断片の2つまたはそれ以上(例えば、7E4抗体、7E4抗体断片、9F8抗体および9F8抗体断片のうちの2つまたはそれ以上)の組み合わせは、本明細書に記載した方法のいずれかにおいて有用である。
【0060】
特許寄託指定番号PTA-10431および特許寄託指定番号PTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生されるヒト可溶性ST2結合性モノクローナル抗体のそれぞれを、非ヒト哺乳動物に、ヒト胚腎臓(HEK)-293細胞由来の単離された組換えヒト可溶性ST2による免疫処置を行うことによって作製した。ヒト可溶性ST2はかなりの量/数の翻訳後修飾を有する。そのアミノ酸配列に基づけば、ヒト可溶性ST2の予想分子量は約36kDaである。しかし、天然タンパク質の分子量は、翻訳後修飾の存在のため、約58kDaである。当技術分野において公知である通り、そのような翻訳後修飾は、抗体または抗体断片が所与のタンパク質と結合する能力に影響を及ぼしうる。したがって、以下の実施例の項でより詳細に説明している通り、特許寄託指定番号PTA-10431で指定されるハイブリドーマによって産生されるヒト可溶性ST2結合性モノクローナル抗体は、天然のヒト可溶性ST2に対して、他の抗体よりも高い親和性を有し、そのため診断薬および他の試薬として有用である。
【0061】
いくつかの態様において、本明細書に記載の抗体または断片は、特許寄託指定番号PTA-10431および/またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の重鎖および/または軽鎖(またはその断片)を含む。いくつかの態様において、本明細書に記載の抗体または断片は、特許寄託指定番号PTA-10431および/またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域(またはその断片)を含む。
【0062】
当技術分野において公知である通り、所与の抗原に対する抗体の特異性は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域によって媒介される。特に、所与の抗原に対する抗体の特異性は主として、相補性決定領域またはCDRと呼ばれる重鎖可変領域内および軽鎖可変領域内の短い配列によって決まる。いくつかの態様において、本明細書に記載の抗体または断片は、特許寄託指定番号PTA-10431および/またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の軽鎖および/または重鎖の1つまたは複数(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つ)のCDRを含む。いくつかの態様において、本明細書に記載の抗体または断片は、特許寄託指定番号PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の重鎖のCDRのそれぞれを含む。いくつかの態様において、本明細書に記載の抗体または断片は、特許寄託指定番号PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の軽鎖のCDRのそれぞれを含む。いくつかの態様において、本明細書に記載の抗体または断片は、特許寄託指定番号PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体のCDRのそれぞれ(重鎖CDRおよび軽鎖CDRのすべて)を含む。
【0063】
また、腎細胞(例えば、ヒトの腎細胞、胚性腎細胞およびヒト胚性腎細胞)由来の単離された組換えヒト可溶性ST2による免疫処置を非ヒト哺乳動物に行うことを含む過程によって産生され、ヒト可溶性ST2に特異的に結合する、単離された抗体および抗原結合性抗体断片も提供する。いくつかの態様において、組換えヒト可溶性ST2は、完全にグリコシル化されているか、または天然の可溶性ST2タンパク質中に存在する翻訳後修飾のすべてを含む。
【0064】
いくつかの態様において、本明細書に記載の抗体または断片は、それが少なくとも1つのヒト定常領域を含む点でキメラである。例えば、特許寄託指定番号PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の定常領域を、ヒト定常領域によって置き換えることができる。キメラ抗体は典型的には、非キメラ抗体に比べてヒトに対する免疫原性が弱く、それ故に特定の状況では治療上の有益性がある。いくつかの態様において、本明細書に記載のキメラ抗体はIgG1定常領域を含む。当業者は種々のヒト定常領域を把握していると考えられる。キメラ抗体を作るための方法は当技術分野において公知である。
【0065】
いくつかの態様において、本明細書に記載の抗体または断片は、それが少なくとも1つのヒトフレームワーク領域を含むという点でヒト化されている。例えば、特許寄託指定番号PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の1つまたは複数(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つ)のフレームワーク領域を、1つまたは複数(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つ)のヒトフレームワーク領域によって置き換えることができる。ヒト化抗体は典型的には、非ヒト化抗体に比べてヒトに対する免疫原性が弱く、それ故に特定の状況では治療上の有益性がある。当業者は種々のヒトフレームワーク領域を把握していると考えられる。ヒト化抗体を生産するための方法は当技術分野において公知である。
【0066】
例えば、CDR相同性に基づく方法をヒト化のために用いることができる(例えば、Hwang et al., Methods 36:35, 2005を参照)。これらの方法は一般に、類似した構造を持つ非ヒトおよびヒトのフレームワークではなく、類似した構造を持つ非ヒトCDRおよびヒトCDRに基づく、ヒト可変ドメインフレームワークへの非ヒトCDRの置換を伴う。非ヒトCDRおよびヒトCDRの類似性は一般に、非ヒト(例えば、マウス)結合性分子と同じ、標準的(canonical)CDR構造の組み合わせを有し、それ故にCDRペプチド骨格の三次元コンフォメーションを保っている、同じ鎖型(軽または重)のヒト遺伝子を同定することによって決定される。第2に、適合する標準的構造を有する候補可変遺伝子のそれぞれについて、非ヒトCDRと候補ヒトCDRとの間で残基毎の相同性を評価する。最後に、ヒト化された結合性分子を作製するために、非ヒトCDRと既に同一ではない選ばれたヒト候補CDRのCDR残基を、非ヒト(例えば、マウス)配列に変換する。いくつかの態様において、ヒト化された結合性分子の中にヒトフレームワークの突然変異は全く導入されない。
【0067】
いくつかの態様において、ヒト可変ドメインフレームワークへの非ヒトCDRの置換は、CDRの由来となった非ヒト可変ドメインフレームワークと同じコンフォメーションを保つと考えられるヒト可変ドメインフレームワークを同定することによる、非ヒト可変ドメインフレームワークの正しい空間定位の保持に基づく。いくつかの態様において、これは、CDRの由来となった非ヒト可変フレームワークドメインに対してフレームワーク配列が高度の配列同一性を示す、ヒト結合性分子から、ヒト可変ドメインを入手することによって達成される。例えば、Kettleborough et al., Protein Engineering 4:773, 1991;Kolbinger et al., Protein Engineering 6:971, 1993;およびWO 92/22653を参照。
【0068】
いくつかの態様において、本明細書に記載の抗体または断片は、それが単一のエピトープのみを認識するという点で単一特異性である。単一特異性抗体は当技術分野において公知である(例えば、WO/9639858を参照)。いくつかの態様において、本明細書に記載の抗体または断片は、それが複数のエピトープ(例えば、2つのエピトープ)を認識するという点で二重特異性である。二重特異性抗体は当技術分野において公知である(例えば、米国特許出願公開第2009/0162360号を参照)。いくつかの態様において、本明細書に記載の単一特異性または二重特異性の抗体または断片は、特許寄託指定番号PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体のCDRを有する抗体または抗体断片によって認識されるエピトープと結合する。いくつかの態様において、二重特異性抗体または断片は、ヒト可溶性ST2のほかに、異なる非ST2ポリペプチドとも結合する。いくつかの態様において、二重特異性抗体または断片は、ヒト可溶性ST2の異なる2つのエピトープと結合する。いくつかの態様において、本明細書に記載の抗体または断片は二価である(例えば、WO/1999/064460を参照)。特許寄託指定番号PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体のCDRのうちの1つまたは複数を含みうる、他の種類の抗体および断片のさらなる説明については、米国特許出願公開第20070105199号およびWO/2007/059782を参照されたい。
【0069】
いくつかの態様において、断片(例えば、抗原結合性断片)は、モノクローナル抗体などの全長抗体(whole antibody)分子に由来する。抗体は、例えば、そのヒンジ領域のカルボキシ末端側を(例えば、ペプシンで)切断してF(ab')2断片を生成させることもできるか、またはそのヒンジ領域のアミノ末端側を(例えば、パパインで)切断してFab断片を生成させることもできる。いくつかの態様において、本明細書に記載の抗原結合性断片は、Fab断片、F(ab')2断片、scFv断片、直鎖抗体、多重特異性抗体断片、例えば二重特異性抗体、三重特異性抗体もしくは多重特異性抗体(例えば、ダイアボディ、トリアボディもしくはテトラボディ)など、ミニボディ、キレート性組換え抗体、イントラボディ、ナノボディ、小型モジュラー免疫薬(SMIP)、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ科動物(camelid)抗体、またはVHH含有抗体である。これらの断片を生産するための方法は当技術分野において公知である。
【0070】
いくつかの態様において、本明細書に記載のヒト可溶性ST2結合性抗体または抗原結合性抗体断片は、特許寄託指定番号PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の重鎖および/または軽鎖と比較して、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失または挿入を有するポリペプチドを含む。置換、欠失または挿入は、特許寄託指定番号PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の重鎖および/または軽鎖を含むポリペプチドをコードする核酸分子(または例えば、重鎖もしくは軽鎖のCDR領域の1つもしくは複数(例えば、1つ、2つもしくは3つ)をコードする核酸)の、部位指定突然変異誘発またはPCRを介する突然変異誘発などの標準的な手法によって、導入することができる。いくつかの態様においては、1つまたは複数の位置に保存的アミノ酸置換を作製する。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基によって置き換えられるものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当技術分野において定められており、これには塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン;ヒスチジン)が含まれる。したがって、抗ヒト可溶性ST2抗体またはヒト可溶性ST2結合性抗体断片のポリペプチド中のアミノ酸残基を、同じ側鎖ファミリーからの別のアミノ酸残基によって置き換えることができる。
【0071】
いくつかの態様において、本明細書に記載のヒト可溶性ST2結合性抗体またはヒト可溶性ST2結合性抗体断片は、特許寄託指定番号PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の重鎖および/または軽鎖に対して少なくとも90%同一の、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一の(または例えば、特許寄託指定番号PTA-10431もしくはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の重鎖もしくは軽鎖のCDRの少なくとも1つ(例えば、1つ、2つもしくは3つ)に対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%同一の)アミノ酸配列を含む。例えば、本明細書に記載のヒト可溶性ST2結合性抗体またはヒト可溶性ST2結合性抗体断片は、特許寄託指定番号PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体の重鎖または軽鎖中に見いだされる対応するCDR配列中に1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失または挿入を含む1つまたは複数のCDRを含んでもよい。
【0072】
いくつかの態様において、本明細書に記載の組成物は、本明細書に記載のヒト可溶性ST2結合性抗体またはヒト可溶性ST2結合性抗体断片の異なる2つまたはそれ以上を含む。例えば、本明細書に記載の組成物は、特許寄託指定番号PTA-10431およびPTA-10432で指定されるハイブリドーマのそれぞれによって産生される抗体を含みうる。以下の実施例の項でより詳細に説明している通り、抗体のそのような組み合わせは、個別のいずれかの抗体と比較して、および市販の他の抗体と比較して、ST2抗原に対する増大した親和性を示す。本明細書に記載の抗体または抗原結合性断片を含むそのような組成物は、診断方法などの種々の方法において有用であると考えられる。いくつかの態様において、本明細書に記載の組成物は、特許寄託指定番号PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体に由来する断片などの、2つまたはそれ以上の異なるST2結合性断片(例えば、Fab断片、F(ab)2断片またはscFv断片)を含む。
【0073】
上記の方法のいずれかにおいて、抗体または抗体断片をグリコシル化または標識することができる。例えば、抗体および抗体断片を、さまざまな酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質および放射性物質を非限定的に含む検出可能な物質によって標識することができる。適した酵素の例には西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼまたはアセチルコリンエステラーゼが含まれ;適した補欠分子族複合体の例にはストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンが含まれ;適した蛍光物質の例にはウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド、量子ドットまたはフィコエリトリンが含まれ;発光物質の例にはルミノールが含まれ;生物発光物質の例にはルシフェラーゼ、ルシフェリンおよびエクオリンが含まれ、適した放射性物質の例には125I、131I、35Sまたは3Hが含まれる。
【0074】
ハイブリドーマ
また、ヒト可溶性ST2と結合する抗体を産生する新規ハイブリドーマも本明細書で提供する。当技術分野において公知である通り、「ハイブリドーマ」という用語は、抗体産生性リンパ球と、抗体非産生性癌細胞、通常は骨髄腫またはリンパ腫との融合によって作製される細胞を指す。融合後に、ハイブリドーマは増殖し、融合させたリンパ球によって元々産生されていた特異的モノクローナル抗体を産生する。いくつかの態様において、提供されるハイブリドーマは、ATCCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマである。いくつかの態様において、ATCCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431またはPTA-10432で指定されるハイブリドーマに由来する、個々の細胞、採取される細胞、および細胞を含む培養物も提供する。
【0075】
提供される抗体および断片を用いる方法
本明細書に記載の任意の抗体または抗体断片のうちの1つまたは複数を、特に、1年以内の死亡のリスクを予測するために、対象を退院させるかどうかまたは入院患者としての対象の治療を開始もしくは継続するかどうかを判定するために、臨床研究への参加について対象を選択するために、疾患を有すると対象を診断するために、または疾患を発症するリスクのある対象を特定するために、試料における、例えば対象由来の試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを定量するための方法に用いることができる。
【0076】
ヒト可溶性ST2のレベルを定量する方法
本明細書において、試料を本明細書に記載の抗体または抗体断片の少なくとも1つと接触させる段階;およびヒト可溶性ST2への該抗体または該断片の結合を検出する段階を含む、対象由来の試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを決定するための方法を提供する。いくつかの態様においては、本明細書に記載の抗体または抗体断片の少なくとも2つ(例えば、2つ、3つまたは4つ)を用いて、対象由来の試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを決定する。いくつかの態様において、対象は診断されていないか、または疾患の1つもしくは複数(例えば、2つ、3つもしくは4つ)の症状を示さない。いくつかの態様において、対象は、高いST2レベルと関連性のある疾患(例えば、心不全、冠動脈疾患、心血管疾患、急性冠症候群、腎機能不全、脳卒中、または本明細書に記載の他の疾患のいずれか)を有すると診断されている。いくつかの態様において、対象は、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、高血圧、および≧30の肥満指数のうちの1つまたは複数(例えば、2つ、3つまたは4つ)を有する。いくつかの態様において、試料は血液、血清または血漿を含む。
【0077】
いくつかの態様において、試料は、対象から医療従事者(例えば、静脈採血の訓練をうけた医療従事者、医師、看護師、医療補助者または検査技師)によって収集されうる。試料をある期間にわたって(例えば、≦4℃、≦0℃または-80℃で)保存し、その後に試料を本明細書に記載の抗体または断片の少なくとも1つと接触させて、抗体または断片の結合を検出する。生体試料を抗体または抗体断片と接触させるための、および抗体または断片の結合を検出するための方法は本明細書に記載されており、そのほかの方法も当技術分野において公知である。また、定量には、精製した組換えヒト可溶性ST2(例えば、ヒト胚腎臓細胞由来の単離された組換えヒト可溶性ST2)への、本明細書に記載の抗体または抗体断片の少なくとも1つの結合を検出するための対照実験も含まれうる。
【0078】
いくつかの態様においては、正常対象または健康対象におけるヒト可溶性ST2のレベルを定量する。正常対象または健康対象とは、ST2関連病状(例えば、本明細書に記載した通りのST2関連病状)に罹患しておらず、疾患(例えば、本明細書に記載の疾患のいずれか)を有すると診断されておらず、かつ、疾患の2つまたはそれ以上(例えば、2つ、3つまたは4つ)の症状を示さない対象のことである。正常対象または健康対象は、バイオマーカーのスクリーニングまたは身体診察による(例えば、ST2関連病状または本明細書に記載の他のいずれかの疾患と関連性のある2つまたはそれ以上の症状が存在しないことが外的に明示されることによる)ということを非限定的に含む、当技術分野において公知の種々の手法のいずれかによって確定することができる。例えば、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、プロカルシトニン(PCT)、C反応性タンパク質(CRP)およびインターロイキン-6(IL-6)を非限定的に含む1つまたは複数のマーカーのレベルが低いことに関して、正常対象または健康対象をスクリーニングすることによって、潜在性CVDまたは炎症性疾患が存在しないことに関してスクリーニングすることができる。当業者は、正常対象または健康対象が、潜在性CVDもしくは炎症性疾患、または本明細書に記載の他の疾患のいずれかを示さないことを判定するための他の適したマーカーを把握していると考えられる。
【0079】
対象(例えば、正常対象または健康対象)由来の試料におけるヒト可溶性ST2レベルの定量は、種々の状況において有用である。いくつかの態様において、対象(例えば、正常対象または健康対象、疾患を発症するリスクが高い対象、疾患を有すると診断された対象、または疾患の2つもしくはそれ以上の症状を示す対象)のヒト可溶性ST2レベルを、例えば毎日、毎週、2週間毎、毎月、2カ月毎、毎年などといった定期的な間隔で、または定期的な身体診察時に定量することができる。本明細書に記載の抗体および抗体の抗原結合性断片を用いて対象におけるヒト可溶性ST2レベルを定量するために、本明細書に記載されたものを含む当業者に公知の種々の手法のいずれかを用いることができる。
【0080】
いくつかの態様においては、対照対象(例えば、正常対象または健康対象)におけるヒト可溶性ST2のレベルを定量して、対象がST2関連病状を有しないこと、疾患を発症するリスクがあること、または1年以内の死亡のリスクがあることを判定するのに用いるための基準レベルを導き出す。例えば、心血管疾患、心不全、冠動脈疾患、急性冠症候群、腎機能不全、脳卒中、肺疾患、敗血症、川崎病もしくはTh2関連疾患、または本明細書に記載の他のいずれかの疾患などの、ただしそれらには限定されない疾患に罹患していない対象におけるヒト可溶性ST2レベルを定量して、ヒト可溶性ST2基準レベルを導き出すことができる。
【0081】
いくつかの態様において、本明細書に開示された抗体または抗原結合性断片のいずれかのうちの少なくとも1つを、対象(例えば、正常対象または健康対象)におけるヒト可溶性ST2レベルを定量するために用いることができる。例えば、対象(例えば、正常対象または健康対象)におけるヒト可溶性ST2レベルを、本明細書に記載のいずれかの抗体または抗原結合性断片のうちの少なくとも1つ(例えば、ATCCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431もしくはPTA-104312またはその両方で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体と競合的に結合する抗体または断片)を用いるイムノアッセイ法において定量することができる。
【0082】
いくつかの態様においては、ルーチン作業、基準範囲、臨床的カットオフ値などの再現性を確保する目的で、試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを定量する。例えば、2つまたはそれ以上の試料における、例えば基準試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを定量して、2つまたはそれ以上の試料のヒト可溶性ST2レベル間の変動係数(「CV」)を評価することができる。追加的または代替的に、試料(または対象)におけるヒト可溶性ST2のレベルを別個に2回またはそれ以上定量し(例えば、基準試料の異なるバッチ、または同じ対象から採取した異なる試料を用いる)、ヒト可溶性ST2レベル間のCVを決定することもできる。いくつかの態様において、ヒト可溶性ST2レベル間のCVは20%未満であり、例えば、19%未満、18%未満、17%未満、16%未満、15%未満、14%未満、13%未満、12%未満、11%未満、10%未満、9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満またはそれ未満である。
【0083】
いくつかの態様においては、対象が正常なヒト可溶性ST2レベルを有するかどうかを判定するための方法を提供する。対象が正常なヒト可溶性ST2レベルを有するかどうかの判定は、種々の状況において有用である。いくつかの態様において、対象が正常なヒト可溶性ST2レベルを有するかどうかを判定するための方法は、対象由来の試料(例えば、血液、血清または血漿を含む試料などの、ただしそれらには限定されない、上記の試料のいずれか)におけるヒト可溶性ST2のレベルをアッセイする段階を含み、対象は、試料におけるヒト可溶性ST2のレベルがヒト可溶性ST2の公知の正常レベルもしくは中央値レベルと実質的にほぼ同等であることが見いだされた場合には、または試料におけるヒト可溶性ST2のレベルがある特定の範囲内、例えばヒト可溶性ST2の公知の正常レベルまたは中央値レベルの前後(例えば、95%信頼区間もしくは四分位数間範囲、または表9に列記された範囲のいずれか)に収まる場合には、正常なヒト可溶性ST2レベルを有すると判定される。例えば、対象由来の試料をアッセイして、試料におけるヒト可溶性ST2のレベルが、ヒト可溶性ST2の公知の正常レベルまたは中央値レベル、例えば正常対象または健康対象における中央値レベルの前後の95%信頼区間内にあることが見いだされた場合には、対象は正常なヒト可溶性ST2レベルを有すると判定することができる。追加的または代替的に、対象由来の試料をアッセイして、試料におけるヒト可溶性ST2のレベルがヒト可溶性ST2の公知の正常レベルまたは中央値レベルの前後の四分位数間範囲内にあることが見いだされた場合には、対象は正常なヒト可溶性ST2レベルを有すると判定することができる。
【0084】
いくつかの態様において、対象は、対象由来の試料におけるヒト可溶性ST2レベルが約18.8ng/mLである場合には、正常なヒト可溶性ST2レベルを有すると判定される。いくつかの態様において、対象は、試料におけるヒト可溶性ST2レベルが約14.5~約25.3ng/mLの範囲内にある場合には、正常なヒト可溶性ST2レベルを有すると判定される。いくつかの態様において、対象は、試料におけるヒト可溶性ST2レベルが約18.1~約19.9ng/mLの範囲内にある場合には、正常なヒト可溶性ST2レベルを有すると判定される。
【0085】
いくつかの態様において、女性対象は、対象由来の試料におけるヒト可溶性ST2レベルが約16.2ng/mLである場合には、正常なヒト可溶性ST2レベルを有すると判定される。いくつかの態様において、女性は、試料におけるヒト可溶性ST2レベルが表9に列記された範囲のいずれかの中にある場合には、正常なヒト可溶性ST2レベルを有すると判定される。
【0086】
いくつかの態様において、男性対象は、対象由来の試料におけるヒト可溶性ST2レベルが約23.6ng/mLである場合には、正常なヒト可溶性ST2レベルを有すると判定される。いくつかの態様において、男性は、試料におけるヒト可溶性ST2レベルが表9に列記された範囲のいずれかの中にある場合には、正常なヒト可溶性ST2レベルを有すると判定される。
【0087】
いくつかの態様において、対象(例えば、男性対象または女性対象)は、対象由来の試料におけるヒト可溶性ST2レベルが閾値(例えば、25.3ng/mLもしくは19.9ng/mL(女性の場合)、または30.6ng/mL(男性の場合))未満である場合には、正常な可溶性ST2レベルを有すると判定される。
【0088】
対象におけるヒト可溶性ST2レベル(例えば、正常なヒト可溶性ST2レベルの範囲)の値または範囲に言及して用いる場合の「約」または「実質的に同じ」という用語は、基準の値または範囲、例えば、ヒト可溶性ST2レベル(例えば、正常なヒト可溶性ST2レベル、または疾患を有するかもしくは2つもしくはそれ以上の疾患症状を示す患者の群におけるヒト可溶性ST2レベル)を評価するための基準の値または範囲(例えば、表9に列記された範囲のいずれか)と等価であると当業者がみなすと考えられる値または範囲の前後の区間のことを指す。本明細書で用いる場合、ヒト可溶性ST2レベル(例えば、正常なヒト可溶性ST2レベル)の値または範囲は、それが基準値または範囲の+/-25%以内、例えば、値または範囲の+/-20%以内、+/-15%以内、+/-10%以内、+/-9%以内、+/-8%以内、+/-7%以内、+/-6%以内、+/-5%以内、+/-4%以内、+/-3%以内、+/-2%以内、または+/-1%以内にある場合には、「およそ」の基準の値または範囲である。
【0089】
いくつかの態様においては、本明細書に記載の抗体または抗原結合性断片のいずれかのうちの少なくとも1つまたは2つを、対象が正常なヒト可溶性ST2レベルを有するかどうか、疾患と相関するヒト可溶性ST2のレベル、または疾患を発症するリスクが高いこともしくは1年以内の死亡のリスクが高いことと相関するヒト可溶性ST2のレベルを判定するために用いることができる。
【0090】
1年以内の死亡のリスクを予測する方法
また、対象から試料を入手する段階、および本明細書に記載の抗体または抗体断片の少なくとも1つを用いて、試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階を含む、対象における1年以内の死亡のリスクを予測する方法も提供する。試料におけるヒト可溶性ST2のレベルがヒト可溶性ST2の基準レベルと比較して高いかまたは実質的に同じであることにより、対象の1年以内の死亡のリスクが高いこと(例えば、試料におけるヒト可溶性ST2のレベルがST2の同じ基準レベルと比較して低い対象(例えば、同じ疾患を有するかまたは有すると診断された対象)と比較して、1年以内の死亡のリスクが高いこと)が示される。試料におけるヒト可溶性ST2のレベルがヒト可溶性ST2の基準レベルと比較して低いことにより、対象の1年以内の死亡のリスクがより低いこと(例えば、試料におけるヒト可溶性ST2のレベルがヒト可溶性ST2の同じ基準レベルと比較して高いかまたは実質的に同じである対象(例えば、同じ疾患を有するかまたは有すると診断された対象)と比較して、死亡のリスクがより低いこと)が示される。本明細書に記載した方法によって判定される1年以内の死亡のリスクのレベルは、疾患状態に依存すると考えられる。
【0091】
いくつかの態様において、対象は、診断されていないか、または疾患の1つもしくは複数(例えば、2つ、3つ、4つもしくは5つ)の症状を示さない。いくつかの態様において、対象は、疾患(例えば、心不全、冠動脈疾患、心血管疾患、急性冠症候群、腎機能不全もしくは脳卒中、または本明細書に記載の疾患のいずれか)を有すると診断されている。いくつかの態様において、対象は、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、高血圧、および≧30の肥満指数のうちの1つまたは複数(例えば、1つ、2つ、3つまたは4つ)を有する。いくつかの態様において、決定する段階は、本明細書に記載の抗体または断片の少なくとも1つの(例えば、2つ、3つ、4つもしくは5つ)を用いて行われる。
【0092】
いくつかの態様において、ヒト可溶性ST2の基準レベルは、ヒト可溶性ST2の閾値レベル(例えば、ヒト可溶性ST2の中央値レベル、または健康患者集団、例えば男性健康患者集団もしくは女性健康患者集団におけるヒト可溶性ST2の中央値レベルまたはパーセンタイル(例えば、75パーセンタイル、80パーセンタイル、85パーセンタイル、90パーセンタイルもしくは95パーセンタイル、または表9に列記された範囲もしくは濃度のいずれか))である。いくつかの態様において、基準レベルは、ST2の高いレベルと関連性のある疾患の1つまたは複数の症状を示さない対象の試料中に存在するヒト可溶性ST2のレベルであってよい。いくつかの態様において、基準レベルは、疾患(例えば、心不全、冠動脈疾患、心血管疾患、急性冠症候群、腎機能不全、脳卒中、または本明細書に記載の疾患のいずれか)を有すると診断されていない対象、または疾患(例えば、本明細書に記載の疾患のいずれか)を発症するリスクがないと特定された対象の試料中に存在するヒト可溶性ST2のレベルであってよい。そのほかの基準レベルが当業者によって決定されてもよい。
【0093】
いくつかの態様において、ヒト可溶性ST2基準レベルは約30ng/mL~約35ng/mLである。対象が心不全を有するいくつかの態様において、ヒト可溶性ST2基準レベルは約30ng/mL~約35ng/mLである。いくつかの態様において、ヒト可溶性ST2基準レベルは約35ng/mLまたは約60ng/mLである。
【0094】
いくつかの態様において、試料は血液、血清または血漿を含む。試料を入手して、本明細書に記載の抗体または断片の少なくとも1つを用いるヒト可溶性ST2のレベルの決定を、本明細書に記載した通りに行うことができる。
【0095】
対象を退院させるかどうかまたは入院患者としての対象の治療を開始もしくは継続するかどうかを判定する方法
また、対象から試料を入手する段階、および本明細書に記載の抗体または抗体断片の少なくとも1つ(例えば、2つ)を用いて、該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階を含む、対象を退院させるかどうかまたは入院患者としての対象の治療を開始もしくは継続するかどうかを判定する方法であって、該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルがヒト可溶性ST2の基準レベルと比較して高いことにより、該対象の入院患者治療(例えば、入院、または介護ケア施設への入所)を開始または継続すべきであることが示され、かつ、該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルが該試料におけるヒト可溶性ST2の基準レベルと比較して低いかまたは等しいことにより、該対象を退院させるべきであることが示される方法も提供する。本方法は、入院患者治療を継続すべきであるかどうかを判定する目的で、同じ対象に対して何度か行うこと(例えば、毎週1回、週2回、週3回、月1回、月2回、月3回および月4回行うこと)ができる。
【0096】
いくつかの態様において、対象は、診断されていないか、疾患状態の2つもしくはそれ以上の症状を示さないか、または疾患(例えば、本明細書に記載の疾患のいずれか)を発症するリスクがあると特定されていない。いくつかの態様において、対象は、疾患(例えば、心不全、冠動脈疾患、心血管疾患、急性冠症候群、腎機能不全もしくは脳卒中、または本明細書に記載の疾患のいずれか)を有すると診断されているか、疾患(例えば、本明細書に記載の疾患のいずれか)の1つもしくは複数の症状を示すか、または疾患(例えば、本明細書に記載の疾患のいずれか)を発症するリスクがあると特定されている。いくつかの態様において、対象は、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、高血圧、および≧30の肥満指数のうちの1つまたは複数(例えば、1つ、2つ、3つまたは4つ)を有する。いくつかの態様において、対象は、心不全、冠動脈疾患、心血管疾患、急性冠症候群、腎機能不全もしくは脳卒中、または本明細書に記載の疾患のいずれかを有すると診断されていない。いくつかの態様において、ヒト可溶性ST2のレベルの決定は、本明細書に記載の抗体または抗体断片の少なくとも2つを用いて行われる。
【0097】
いくつかの態様において、ヒト可溶性ST2の基準レベルは、本明細書に記載の基準レベルのいずれかであってよい。そのほかのヒト可溶性ST2基準レベルが当業者によって決定されてもよい。いくつかの態様において、試料は血液、血清または血漿を含む。試料を入手して、本明細書に記載の抗体または断片の少なくとも1つを用いるヒト可溶性ST2のレベルの決定を、本明細書に記載した通りに行うことができる。
【0098】
臨床研究への参加について対象を選択する方法
また、臨床研究への参加について対象を選択するための方法も提供する。これらの方法は、対象から試料を入手する段階、本明細書に記載の抗体または抗体断片の少なくとも1つを用いて、試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階、および、ヒト可溶性ST2の基準レベルと比べた、該対象のヒト可溶性ST2のレベルにより、臨床研究への参加について該対象を選択すべきであることが示される場合に、臨床研究への参加について該対象を選択する段階を含む。いくつかの態様において、高いレベルのヒト可溶性ST2の存在により、臨床研究への参加について対象を選択すべきであることが示される。いくつかの態様において、高いレベルのヒト可溶性ST2の存在により、対象を臨床研究への参加から除外すべきであることが示される。
【0099】
いくつかの態様において、対象は診断されていないか、疾患(例えば、本明細書に記載の疾患のいずれか)の1つもしくは複数の症状を示さないか、または疾患(例えば、本明細書に記載の疾患のいずれか)を発症するリスクがあると特定されていない。いくつかの態様において、対象は疾患(例えば、心不全、冠動脈疾患、心血管疾患、急性冠症候群、腎機能不全もしくは脳卒中、または本明細書に記載の疾患のいずれか)を有すると診断されているか、疾患(例えば、本明細書に記載の疾患のいずれか)の1つもしくは複数の症状を示すか、または疾患(例えば、本明細書に記載の疾患のいずれか)を発症するリスクが低いと特定されている。いくつかの態様において、対象は、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、高血圧、および≧30の肥満指数のうちの1つまたは複数(例えば、1つ、2つ、3つまたは4つ)を有する。いくつかの態様において、決定する段階は、本明細書に記載の抗体または断片の少なくとも2つを用いて行われる。
【0100】
いくつかの態様において、ヒト可溶性ST2の基準レベルは、本明細書に記載の基準レベルのいずれかであってよい。そのほかのヒト可溶性ST2基準レベルが当業者によって決定されてもよい。いくつかの態様において、試料は血液、血清または血漿を含む。試料を入手して、本明細書に記載の抗体または断片の少なくとも1つを用いるヒト可溶性ST2のレベルの決定を、本明細書に記載した通りに行うことができる。
【0101】
治療を選択する方法
また、対象から試料を入手する段階、および本明細書に記載の抗体および断片のうちの少なくとも1つを用いて、該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを決定する段階を含む、対象に対する治療処置を選択する方法、該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルがヒト可溶性ST2の基準レベルに比べて高いことにより、該対象に特異的な治療処置が提供されるべきであることが示される方法も提供する。例えば、特異的な治療は、以下の群から選択することができる:硝酸薬、カルシウムチャンネル遮断薬、利尿薬、血栓溶解薬、ジギタリス、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)調節薬(例えば、β-アドレナリン遮断薬(例えば、アルプレノロール、ブシンドロール、カルテオロール、カルベジロール、ラベタロール、ナドロール、ペンブトロール、ピンドロール、プロプラノロール、ソタロール、チモロール、セブトロール(cebutolol)、アテノロール、ベタキソロール、ビソプロロール、セリプロロール、エスモロール、メトプロロールおよびネビボロール)アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ベナゼプリル、カプトプリル、エナラプリル、フォシノプリル、リシノプリル、モエキシプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリルおよびトランドラプリル)、アルドステロン拮抗薬(例えば、スピロノラクトン、エプレレノン、カンレノン(カンレノ酸カリウム)、プロレノン(prorenone)(プロレノアートカリウム)およびメクスレノン(メキスレノ酸カリウム))、レニン阻害薬(例えば、アリスキレン、レミキレンおよびエナルキレン)、アンジオテンシンII受容体遮断薬(例えば、バルサルタン、テルミサルタン、ロサルタン、イルベサルタンおよびオルメサルタン))ならびにコレステロール低下薬(例えば、スタチン)。治療のためのそのほかの方法も、当技術分野において、例えば、Braunwald's Heart Disease: A Textbook of Cardiovascular Medicine, Single Volume, 9th Editionにおいて公知である。また、特異的な治療が、対象への少なくとも1つもしくは複数の新たな治療薬の投与、対象への1つもしくは複数の治療薬の投与の頻度、投与量もしくは長さの変更(例えば、増加もしくは減少)、または患者の治療レジメンからの、少なくとも1つもしくは複数の治療薬の除去であってもよい。治療がまた、対象の入院患者ケア(例えば、病院(例えば、集中治療室もしくは救命救急室)または介護ケア施設への対象の入所または再入所)であってもよい。いくつかの態様において、治療は外科手術(例えば、臓器移植もしくは組織移植、または血管形成術)である。
【0102】
いくつかの態様において、ヒト可溶性ST2の基準レベルは、本明細書に記載の基準レベルのいずれかであってよい。そのほかのヒト可溶性ST2基準レベルが当業者によって決定されてもよい。いくつかの態様において、試料は血液、血清または血漿を含む。試料を入手して、本明細書に記載の抗体または断片の少なくとも1つを用いるヒト可溶性ST2のレベルの決定を、本明細書に記載した通りに行うことができる。
【0103】
対象を診断する方法
本明細書に記載した方法は、多岐にわたる臨床的状況において有用である。例えば、そのような方法を、例えば病院および外来診療所、さらには救急治療室における、医師によるスクリーニングを含む、一般集団スクリーニングのために用いることができる。
【0104】
いくつかの態様において、本明細書に記載した方法は、対象における疾患の存在の尤度を判定するために有用である。高いレベルのヒト可溶性ST2は、心血管疾患、肺疾患、敗血症、川崎病およびTh2関連疾患、ならびに本明細書に記載の他の疾患のいずれかなどの、ただしそれらには限定されない特定の疾患の存在と往々にして関連性がある。
【0105】
Th2関連疾患とは、異常な2型ヘルパーT細胞(Th2)応答と関連性のある疾患のことである。Th2関連疾患は、TNF-α、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10およびIL-13の存在を非限定的に含むいくつかの因子によって特徴づけられるが、IFN-γについてはそうではない(Robinson, J. Allergy Clin. Immunol. 92:313, 1993)。CD4+ T細胞は、それらが分泌するサイトカインに従って分類される。Th2細胞は大量のインターロイキン-4(IL-4)、IL-5およびIL-13を分泌し、それらはB細胞による抗体産生および線維芽細胞によるコラーゲン合成を促進するが、その一方、Th1細胞は大量のインターフェロン-γおよび関連する炎症誘発性サイトカインを分泌する。Th1型およびTh2型のサイトカインは、お互いの応答を交差調節することができる。Th1/Th2応答の不均衡は、さまざまな感染症、アレルギー反応および自己免疫疾患の発病の一因になると考えられている。いくつかの例示的なTh2関連疾患には、全身性エリテマトーデスおよび喘息のほか、Th2応答とはほとんど関係のない敗血症性ショックまたは外傷などの炎症性病状が非限定的に含まれる(Trajkovic et al., Cytokine Growth Factor Rev. 15:87-95, 2004;Brunner et al., Intensive Care Med. 30:1468-1473, 2004)。他の例示的なTh2関連疾患には、子癇前症および多発性硬化症が含まれる。いくつかの態様において、Th2関連疾患は自己免疫疾患である。自己免疫疾患は典型的には、対象の1つまたは複数の構成成分(細胞、組織、または細胞/組織のない分子)に対する対象の免疫系が活性化されて、その対象自身の正常な臓器、組織または細胞を攻撃した場合に生じる。例示的な自己免疫疾患には、アドレナリン作動薬耐性、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、自己免疫性アジソン病、副腎の自己免疫疾患、アレルギー性脳脊髄炎、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性炎症性眼疾患、自己免疫性新生児血小板減少症、自己免疫性好中球減少症、自己免疫性卵巣炎および精巣炎、自己免疫性血小板減少症、自己免疫性甲状腺炎、ベーチェット症候群、類天疱瘡、心筋症、心切開後症候群、セリアックスプルー皮膚炎、慢性活動性肝炎、慢性疲労免疫不全症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、クレスト症候群、寒冷凝集素症、クローン病、デンスデポジット病、臓器移植による影響と関連のある疾患、円板状ループス、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛症-線維筋炎、糸球体腎炎(例えば、IgA腎症)、グルテン過敏性腸症、グッドパスチャー症候群、移植片対宿主病(GVHD)、グレーブス病(例えば、グレーブス甲状腺炎およびグレーブス眼症を含む)、ギラン・バレー病、甲状腺機能亢進症(すなわち、橋本甲状腺炎)、特発性肺線維症、特発性アジソン病、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgAニューロパチー、インスリン抵抗性症候群、若年性関節炎、扁平苔癬、エリテマトーデス、メニエール病、メタボリックシンドローム、混合性結合組織病、多発性硬化症、重症筋無力症、心筋炎、糖尿病(例えば、I型糖尿病またはII型糖尿病)、神経炎、他の内分泌腺不全、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性内分泌障害、多腺性症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎および皮膚筋炎、心筋梗塞後症、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー現象、再発性多発性軟骨炎、ライター症候群、リウマチ性心疾患、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、全身硬直症候群、全身性エリテマトーデス、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、潰瘍性大腸炎、蕁麻疹、ブドウ膜炎、ブドウ膜炎眼炎(uveitis opthalmia)、疱疹状皮膚炎血管炎(dermatitis herpetiformis vasculitis)などの血管炎、白斑、ならびにウェゲナー肉芽腫症が非限定的に含まれる。
【0106】
心血管疾患は心臓および血管の障害であり、これには動脈、静脈、細動脈、細静脈および毛細血管の障害が含まれる。本明細書に記載した方法によって診断される心血管疾患には、うっ血性心不全(HF)、急性冠動脈疾患(CAD)、不整脈、非対称性心室中隔肥大(例えば、結果的に拡張期機能不全を伴う左室肥大)、心筋症、弁機能不全、心膜炎、アテローム性動脈硬化および急性心筋梗塞(MI)が非限定的に含まれうる。
【0107】
肺疾患は肺の障害である。本明細書に記載した方法によって診断される肺疾患には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、肺炎、気胸、肺塞栓症、進行性(advanced)呼吸促迫症候群(ARDS)、胸水、転移性疾患、肺水腫、誤嚥を伴う胃食道逆流症、間質性線維症、塵肺症、肉芽腫症、膠原血管病、および拘束性肺疾患が非限定的に含まれうる。
【0108】
対象のヒト可溶性ST2のレベルが、例えば基準レベルと比較して高い場合には、対象を積極的に治療するという決断を下すことができ、対象を、例えば病院(例えば、急性期治療部門もしくは救命救急部門)または介護ケア施設に、入院患者としての治療のために入院させることができる。対象が心血管疾患または肺疾患、敗血症、川崎病もしくはTh2関連疾患、または本明細書に記載の疾患のいずれかなどの疾患を有するかどうかの判定は、種々の状況において望ましい。例えば、携帯型検査キットは、救急医療スタッフが、対象を現場で評価すること、対象を救急部門に搬送すべきかどうかを判定することを可能にすると考えられる。さらに、例えば救急部門または他の臨床の場において、本明細書に記載した方法によって得られる情報に基づいて、トリアージの判断を下すこともできる。高いヒト可溶性ST2レベルを示している患者を、レベルがより低い患者よりも優先することができる。
【0109】
いくつかの態様において、ヒト可溶性ST2のレベルは、例えば、対象が疾患を有すると疑われた時点(例えば、医療専門施設または医療施設への受診時)で1回決定される。いくつかの態様において、ヒト可溶性ST2のレベルは、対象が疾患を有すると疑われてから(例えば、医療専門施設または医療施設への受診時)2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、12時間後、18時間後および/もしくは24時間後、ならびに/または1~7日後もしくはそれよりも後のうちの1つまたは複数の時点で決定される。
【0110】
いくつかの態様において、ヒト可溶性ST2のレベルは複数回決定される。ヒト可溶性ST2のレベルを複数回決定するいくつかの態様においては、最も高いレベルを用いることもできるか、またはレベルの変化を決定して用いることもできる。また、治療に対する対象の反応を評価するために、ヒト可溶性ST2のレベルを多数回決定することもできる。例えば、治療の投与後、例えば治療の1回または複数回の投薬またはサイクルの後に取得したヒト可溶性ST2のレベルを、治療を開始する前のヒト可溶性ST2のレベル、例えばベースラインレベルと比較することができる。ヒト可溶性ST2レベルの変化により、治療が有効であったかどうかが示されると考えられ;例えば、ヒト可溶性ST2レベルの低下により、治療が有効であったことが示されると考えられる。
【0111】
いくつかの態様においては、対象におけるヒト可溶性ST2のレベルをアッセイして、ヒト可溶性ST2基準レベルと比較する。当業者に公知の種々の手法のいずれかを、対象におけるヒト可溶性ST2レベルをアッセイするために用いることができる。例示的なアッセイ方法には、定量的PCRまたはノーザンブロット分析などの、当技術分野において公知の方法が非限定的に含まれる。いくつかの態様において、対象におけるヒト可溶性ST2のレベルは、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)などのイムノアッセイ法を用いてアッセイされる。例えば、いくつかの態様においては、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合性断片を、対象由来の試料と接触させる。試料は、対象の種々の細胞または組織のいずれかを含むこと、またはそれらに由来することができる。例えば、試料は、血液、血清または血漿のうちの1つまたは複数を含みうる。続いて、抗体または抗体断片の結合を検出して、任意で定量し、タンパク質のレベルを、抗体または抗体断片の結合のレベルに基づいて決定する。いくつかの態様において、試料はST2L型のST2タンパク質を実質的に全く含まず、そのため、本明細書に開示された方法に従って検出される試料中のST2のすべてまたは大半は、ヒト可溶性ST2である。いくつかの態様において、試料は検出可能なST2Lを全く含まず、そのため、試料中で検出可能な唯一のST2はヒト可溶性ST2である。いくつかの態様において、ST2Lを実質的に全く含まないか、または検出可能なST2Lを全く含まない試料は、血清試料または血液試料である。いくつかの態様において、対象におけるヒト可溶性ST2レベルは、本明細書に記載の抗体または抗原結合性断片の少なくとも1つを用いるイムノアッセイ法においてアッセイされる。
【0112】
以下の実施例の項でより詳細に説明している通り、ATCCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体を含む抗体組成物は、市販の他の抗体と比較して、増大したヒト可溶性ST2抗原に対する親和性を示す。そのような抗体を、本明細書に記載した方法に従って用いることができる。
【0113】
本明細書に記載した方法は、ST2関連病状を有しない対象を判定するのに有用である。ST2関連病状とは、高いST2レベルと関連性のある病状のことである。いくつかの例示的なST2関連病状には、心血管疾患、肺疾患、敗血症、川崎病およびTh2関連疾患が非限定的に含まれる。ST2関連病状は一般に重篤であり、積極的な治療が往々にして適応となる。ある種の非特異的症状を示す対象は、ST2関連病状(例えば、心血管疾患、肺疾患、敗血症、川崎病またはTh2関連疾患)を有することもあれば有しないこともある。非特異的症状には、胸痛または胸部不快感、息切れ、悪心、嘔吐、おくび、発汗、動悸、もうろう状態、疲労および失神が非限定的に含まれる。各症状の原因はさまざまでありうる。
【0114】
いくつかの態様において、本明細書に記載した方法は、低重症度型または低リスク型のST2関連病状を有する対象を判定するといった、リスク層別において有用である。例えば、心血管疾患(例えば、心筋梗塞または心不全)を有するある種の対象は、死亡または再発性心イベントといった有害転帰のリスクが低く、有害転帰のリスクがより高い心血管疾患を有する他の対象で観察されるよりも低いヒト可溶性ST2濃度も示す。そのような対象は、「低重症度」または「低リスク」型のST2関連心血管病状を有するとみなすことができる。しかし、高リスク集団および低リスク集団の両方において、ST-2関連病状を有しない対象で観察されるよりも高濃度のヒト可溶性ST2が観察されている。低重症度型のST2関連病状を有する対象は、典型的には、基準ヒト可溶性ST2レベル(例えば、健康個体または正常個体のヒト可溶性ST2濃度の中央値)よりも高いヒト可溶性ST2濃度を有するが、その一方、高重症度型のST2関連病状を有する対象は、典型的には、基準ヒト可溶性ST2レベル(例えば、健康個体または正常個体で観察されるヒト可溶性ST2濃度)の80パーセンタイルよりも高いヒト可溶性ST2濃度を有する。ある種の非特異的症状を示す対象が、低重症度型のST2関連病状を有しないかまたは有するかの判定は、改善された診断および/またはより有効な治療決断をもたらすことができ、例えば、そのような対象は積極的な治療を必要としない可能性がある。例えば、急性心筋梗塞後にヒト可溶性ST2濃度が高い患者は、ヒト可溶性ST2濃度の低い患者よりも高度の心リモデリング(線維化の亢進)を示し、エプレレノンは、高いヒト可溶性ST2濃度を示した対象における心リモデリングを差次的に減弱させた(Weir et al., J. Am. Coll. Cardiol. 55:243-250, 2010)。したがって、ヒト可溶性ST2濃度を用いて、異なるおそらくは非標準的な入院患者治療、またはより積極的な治療を受けるべきである患者を特定することができる。
【0115】
胸痛
胸痛は外来受診の約1~2パーセントにおける主訴であり、その原因は多くの場合、心臓性ではないものの、心疾患は依然として米国における死亡の主因である。このため、胸痛の重篤な原因と良性原因とを鑑別することが極めて重要である。本明細書に記載した方法は、この判定を行うのに有用である。
【0116】
胸痛を訴えて救急部門を受診する対象は、食道痛、潰瘍、肺塞栓(PE)(致命の恐れあり)などの急性肺疾患、瘤の破裂または解離(致命率が高い)、胆嚢発作、心嚢炎(心臓周囲の嚢の炎症)、狭心症(損傷を伴わない心臓痛)または心筋梗塞(致命の恐れあり)を有する可能性がある。正しい診断を直ちに下すのは難しいことがあるが、対象を入院させるか、または彼らを積極的に治療するかに関する決断は一般に直ちに下されるべきである。本明細書に記載した方法により、対象の可溶性ST2レベルが高いこと、例えば、ST2関連病状に罹患していることが示される場合に、例えば、治療を行わないことによって起こると考えられる有害な恐れのある転帰を防ぐために、対象を積極的に治療するという決断を下すことができる。胸痛の治療および診断に関するそのほかの情報は、例えば、Cayley(Am. Fam. Phys. 72(100):2012-2028, 2005)に記載がある。
【0117】
呼吸困難
呼吸困難または息切れ(異常または不快な呼吸とも定義される)は、救急部門を受診する対象によくみられる症状である。呼吸困難に関する鑑別診断には、4つの一般的なカテゴリーが含まれる:(1)心臓性、(2)肺性、(3)心臓性と肺性の混合型、ならびに(4)非心臓性および非肺性。
【0118】
呼吸困難の心臓性原因には、結果的に収縮機能不全を伴う右室、左室または両心室のうっ血性心不全、冠動脈疾患、最近または陳旧性の心筋梗塞、心筋症、弁機能不全、結果的に拡張機能不全を伴う左室肥大、非対称性中隔肥厚、心嚢炎および不整脈が含まれる。
【0119】
肺性原因には、閉塞性プロセス(例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)および喘息)ならびに拘束性プロセス(例えば、肥満、脊柱または胸壁変形といった肺外の原因、および間質線維化、塵肺症、肉芽腫性疾患または膠原血管病といった肺固有の病態)が含まれる。心臓性と肺性の混合型の疾患には、肺高血圧および肺性心を伴うCOPD、デコンディショニング、肺塞栓、ARDSならびに外傷が含まれる。非心臓性および非肺性の疾患には、貧血、糖尿病性ケトアシドーシスおよび代謝性アシドーシスの他のより一般的でない原因といった代謝性疾患、胸壁または体内の別の場所での疼痛、ならびに多発性硬化症および筋ジストロフィーなどの神経筋疾患が含まれる。閉塞性の鼻咽頭障害には、ポリープまたは鼻中隔弯曲による鼻閉塞、扁桃腺肥大、および声門上部または声門下部の気道狭窄が含まれる。
【0120】
呼吸困難は、精神疾患の身体症状として、例えば、結果的に過呼吸を伴う不安障害として現れることもある。呼吸困難の評価および治療に関するそのほかの情報は、例えば、Morgan and Hodge, Am. Fam. Phys. 57(4):711-718, 1998に記載がある。
【0121】
本明細書に開示された抗体または抗原結合性断片のいずれかを、ST2関連病状を有しない対象を判定するために、用いることができる。いくつかの態様においては、対象におけるヒト可溶性ST2のレベルをアッセイして(例えば、上記の方法のいずれかにより)、ヒト可溶性ST2基準レベルと比較する。対象におけるヒト可溶性ST2のレベルがヒト可溶性ST2基準レベルとほぼ同等である場合には、対象がST2関連病状を有する尤度は極めて低いと判定することができる。対象におけるヒト可溶性ST2のレベルと、ヒト可溶性ST2基準レベルとは、この2つのレベルが、対象がST2関連病状を有する可能性がないほど十分に近い範囲にある場合には「ほぼ同等である」。一般に、対象におけるヒト可溶性ST2のレベルと、ヒト可溶性ST2基準レベルとは、この2つのレベルが互いに約25%以内、例えば、約25%、20%、15%、10%、5%以内またはそれより小さい範囲内にある場合には「ほぼ同等である」。当業者は、問題のST2関連病状に関する適したヒト可溶性ST2基準レベルを決定することができると考えられる。当業者はまた、そのようなヒト可溶性ST2レベルの正常変動も把握していると考えられ、本開示を読むことにより、決定されたヒト可溶性ST2レベルがヒト可溶性ST2基準レベルとほぼ同等であるかどうかを判定することができると考えられる。
【0122】
いくつかの態様において、ヒト可溶性ST2のレベルは、例えば、対象がST2関連病状を有すると疑われた時点で1回決定される。いくつかの態様において、ヒト可溶性ST2のレベルは、対象がST2関連病状を有すると疑われてから2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、12時間後、18時間後および/もしくは24時間後、ならびに/または1~7日後のうちの1つまたは複数の時点で決定される。いくつかの態様において、ヒト可溶性ST2のレベルは、例えば1回目のアッセイ法で決定されたヒト可溶性ST2のレベルを確認するかまたは確かめるために、複数回決定される。
【0123】
いくつかの態様において、本明細書に記載のヒト可溶性ST2結合性抗体およびそれらの抗原結合性断片は、米国特許出願公報番号US 2007/0248981、同US 2009/0264779、同US 2009/0305265および同US 2010/0009356、ならびにPCT出願公報番号WO2007/131031に記載された1つまたは複数の方法に用いることができる。
【0124】
いくつかの態様において、対象における疾患を診断する方法は、対象から試料を入手する段階、本明細書に記載の抗体または断片の少なくとも1つを用いて、該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを決定し、かつ少なくとも1つ(例えば、2つ、3つ、4つもしくは5つ)の追加マーカーのレベルを決定する段階を含み、該試料におけるヒト可溶性ST2のレベルがヒト可溶性ST2の基準レベルと比較して高いこと、および該少なくとも1つの追加マーカーのレベルが、該少なくとも1つ(例えば、2つ、3つ、4つもしくは5つ)の追加マーカーの基準レベルに比べて変化している(例えば、高いかまたは低い)ことにより、該対象が疾患(例えば、心血管疾患、肺疾患、敗血症、川崎病もしくはTh2関連疾患、または本明細書に記載の他のいずれかの疾患)を有することが示される。少なくとも1つの追加マーカーの基準レベルは、疾患を有すると診断されていない対象におけるマーカーのレベル、疾患の2つもしくはそれ以上の症状を示さない対象におけるマーカーのレベル、疾患を発症するリスクがない対象におけるマーカーのレベル、または以前の時点での同じ対象におけるレベルであってよい。追加マーカーは当技術分野において公知であり、追加マーカーの基準レベルを決定するための方法は当業者によって決定されうる。
【0125】
いくつかの態様において、ヒト可溶性ST2の基準レベルは、本明細書に記載の基準レベルのいずれかであってよい。そのほかのヒト可溶性ST2基準レベルが当業者によって決定されてもよい。いくつかの態様において、試料は血液、血清または血漿を含む。試料を入手して、本明細書に記載の抗体または断片の少なくとも1つを用いるヒト可溶性ST2のレベルの決定を、本明細書に記載した通り行うことができる。
【0126】
治療方法
いくつかの態様においては、ST2結合性抗体またはその抗原結合性断片を、種々の疾患または病状のいずれか(例えば、本明細書に記載の疾患のいずれか)を治療するために、対象に投与する。例えば、ヒト可溶性ST2レベルは、心血管疾患、肺疾患、敗血症、川崎病および/またはTh2関連疾患などの、ただしそれらには限定されない疾患を有する対象において高い。ヒト可溶性ST2結合性抗体またはそれらの抗原結合性断片のいずれか、さらにはそのような抗体または断片を基にした改変された抗体または抗原結合性断片(例えば、ヒトの、キメラな、またはヒト化された抗体または断片)を、そのような疾患または病状を治療するために用いることができる。
【0127】
いくつかの態様においては、対象に、ATCCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431もしくはPTA-104312またはその両方で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体と競合的に結合する抗体またはその抗原結合性断片を投与する。いくつかの態様においては、ヒトの、キメラな、またはヒト化されている本明細書に記載の抗体または抗原結合性断片を、対象に投与する。当技術分野において公知である通り、そのようなヒトの、キメラな、またはヒト化された抗体および断片は、典型的には、非ヒト抗体、非キメラ抗体または非ヒト化抗体に比べて免疫原性が弱い。したがって、そのようなヒトの、キメラな、またはヒト化された抗体および断片には、副作用の発生率の減少、用量増加に対する忍容性、ならびに薬物動態特性および/または薬力学特性の改善などの、ただしそれらには限定されない、治療上の有益性がある。いくつかの態様において、対象に投与しようとするヒトの、キメラな、またはヒト化された抗体または断片は、ATCCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431もしくはPTA-104312またはその両方で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体に由来する。例えば、そのような抗体の重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域をヒト定常領域またはその断片と連結させて、キメラ抗体または断片を作製することができる。代替的に、またはそのような抗体の1つもしくは複数のCDR(例えば、CDRのそれぞれ)を1つまたは複数のヒトフレームワーク領域に挿入して、ヒト化抗体または断片を作製することもできる。
【0128】
いくつかの態様において、抗ヒト可溶性ST2抗体またはヒト可溶性ST2結合性抗体断片は対象に直接投与される。ヒト可溶性ST2抗体または断片は、所望の結果を達成するために有効な量、それを達成するために必要な投与量および期間で投与することができる。例えば、抗体または断片の治療的有効量は、対象の疾患状態、年齢、性別および体重、ならびに抗体または断片が対象において所望の応答を誘発する能力といった要因に応じて異なりうる。最適な治療応答を得るために投薬レジメンを調整することができる。例えば、いくつかの分割用量を毎日投与すること、または用量を治療状況の緊急性によって指定される通りに相応に減らすこともできる。当業者は、対象へのヒト可溶性ST2抗体または断片の投与のために適した投与量および投薬レジメンを把握していると考えられる。例えば、Physicians Desk Reference 63rd edition, Thomson Reuters, November 30, 2008を参照。
【0129】
本明細書に記載の抗ヒト可溶性ST2抗体またはヒト可溶性ST2結合性抗体断片は、非経口的(例えば、静脈内)、皮内、皮下、経口、鼻、気管支、眼、経皮(局部)、経粘膜、直腸および膣の経路を非限定的に含む任意の利用可能な経路による送達のために、製剤化することができる。抗体または断片は、送達用物質(例えば、カチオン性ポリマー、ペプチド分子輸送体、界面活性剤など)を、薬学的に許容される担体との組み合わせで含むことができる。本明細書で用いる場合、「薬学的に許容される担体」という用語には、薬学的投与と適合する、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌薬および抗真菌薬、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。また、補助的活性化合物を、本明細書に記載した通りの抗体またはその抗原結合性断片を含む薬学的製剤中に組み入れることもできる。
【0130】
キット
また、本明細書に記載の抗ヒト可溶性ST2抗体または抗原結合性断片の少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つもしくは5つ)を含む試薬を含むキットも、本明細書で提供される。キットは一般に、以下の主要要素で構成される:包装、上記の結合性組成物を含む試薬、任意で対照、および説明書。包装は、前記結合性組成物を含む1つのバイアル(またはいくつかのバイアル)、対象を含む1つのバイアル(またはいくつかのバイアル)および本明細書に記載した方法に用いるための説明書を収容するために箱形の構造であってよい。当業者は、個々の要求に合わせて、包装を容易に改変することができる。
【0131】
いくつかの態様において、本明細書で提供されるキットは、本明細書に記載の抗体または抗原結合性断片のいずれかのうちの少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つもしくは5つ)を含みうる。例えば、キットは、ATCCに寄託されかつ特許寄託指定番号PTA-10431もしくはPTA-104312またはその両方で指定されるハイブリドーマによって産生される抗体と競合的に結合する、抗体またはその抗原結合性断片の少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つもしくは5つ)を含みうる。
【0132】
いくつかの態様において、本明細書で提供されるキットは、本明細書に記載の抗ヒト可溶性ST2抗体または抗原結合性断片の少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つもしくは5つ)、およびヒト可溶性ST2への抗体または抗原結合性断片の結合を検出するための1つまたは複数の試薬を含む。例えば、キットを、Abbot Diagnostics(Abbott Park, IL)によるARCHITECTアッセイ法などの化学発光微粒子イムノアッセイ法(CMIA)に用いるために、かつそれ故に抗BNP抗体でコーティングされた常磁性微粒子および抗ヒト可溶性ST2抗体でコーティングされた常磁性微粒子を含みうるように、設計することができる。これらの微粒子を試料と接触させると、試料中に存在するヒト可溶性ST2は、コーティングされた微粒子に結合することができる。任意で、試料を少なくとも2つのアリコートに分けて、それぞれの種類の微粒子を別々のアリコートと接触させることもできる。洗浄後に、抗ヒト可溶性ST2アクリジニウム標識結合物を添加して、第2の段階において反応混合物を生成することができる。さらなる洗浄サイクル後に、プレトリガー(pre-trigger)溶液およびトリガー溶液を反応混合物に添加する。その結果起こる化学発光反応を、例えば、ARCHITECT i Systemオプティクス(Abbot Diagnostics, Abbott Park, Illinois)を用いて測定する。試料におけるヒト可溶性ST2の量と検出される化学発光との間には直接的な関係が存在する。
【0133】
いくつかの態様において、本明細書で提供されるキットは、本明細書に記載の抗ヒト可溶性ST2抗体または抗原結合性断片の少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つもしくは5つ)、および、固相分析を介してヒト可溶性ST2を検出するための1つまたは複数の固相イムノアッセイ構成成分を含む。固相イムノアッセイ法では、リガンド-受容体ペアの一方のメンバー、例えば抗体またはその抗原結合性断片を結合させる固体支持体を使用する。固体支持体の非限定的な例には、ポリスチレン、ならびに例えばナイロン、ニトロセルロース、酢酸セルロースおよびガラス繊維などのさまざまな多孔性材料でできた、プレート、チューブ、ビーズが含まれる。例えば、米国特許第4,703,017号;同第4,743,560号;および同第5,073,484号を参照。いくつかの態様において、キットは、固相に結合した抗体またはその抗原結合性断片(例えば、抗ヒト可溶性ST2抗体またはその抗原結合性断片)を、関心対象の分析物(例えば、ヒト可溶性ST2)を含む試料と接触させ、その後に結合していない材料を除去するために固相を洗浄する、固相イムノアッセイ法のための構成成分を含む。
【0134】
いくつかの態様において、キットは、フロースルー式固相イムノアッセイ法のための構成成分を含む。フロースルー式固相イムノアッセイ法は、他のタイプの固相イムノアッセイ法に付随するインキュベーションおよび洗浄の段階の必要性がない。種々のフロースルー式固相イムノアッセイ法が当技術分野において公知である。例えば、米国特許第4,632,901号は、抗体(標的抗原分析物に対して特異的)を多孔性膜またはフィルターに結合させて、それに液体試料を添加するフロースルー式イムノアッセイ装置を開示している。液体が膜を通って流れるのに伴って、標的分析物が抗体に結合する。試料の添加の後に、標識抗体を添加する。標識抗体の視覚的検出により、試料中の標的抗原分析物の存在の徴候が得られる。さらに、米国特許第5,229,073号は、血漿リポタンパク質レベルを測定するための固定化された抗体を含む複数の捕捉区域または捕捉路を使用する、半定量的競合イムノアッセイ・ラテラルフロー法を記載している。分析物を検出するためのラテラルフロー式検査の別の例は、米国特許第4,168,146号;同第4,366,241号;同第4,703,017号;同第4,855,240号;同第4,861,711号;および同第5,120,643号;欧州特許第0296724号;WO 97/06439;ならびにWO 98/36278に開示されている。当業者は、他の適した固相イムノアッセイ法および装置を把握していると考えられ、本明細書に記載の抗ヒト可溶性ST2抗体および抗原結合性断片のうちの1つまたは複数をそのような方法および装置に用いることができると考えられる。
【0135】
いくつかの態様において、例えば、比色アッセイ法、ラジオイムノアッセイ法または化学発光アッセイ法といった他の検出方法を用いることができる。例えば、CISBIO International(France)によるIRMA-BNP2キット、およびShionoRIA BNPまたはANPキット(SHIONOGI USA Inc.)に用いられている、一方をヨウ素125で標識し、もう一方をビーズ上に吸着させた2つのモノクローナル抗体を用いるサンドイッチアッセイ法も、同様に用いることができる。
【0136】
本明細書で提供されるキットは、上記の方法のいずれか(例えば、診断方法)に従って用いることができる。例えば、本明細書に記載の抗ヒト可溶性ST2抗体またはその抗原結合性断片の少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つまたは5つ)を含むキットを、試料におけるヒト可溶性ST2のレベルを決定するために用いることができる。さらに、抗ヒト可溶性ST2抗体またはその抗原結合性断片の少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つもしくは5つ)を含むキットを、ヒト可溶性ST2基準レベルを決定するために用いることもできる。当業者は、本明細書で提供されるキットの他の適した用途を把握していると考えられ、そのような用途のためにキットを使用することができると考えられる。
【0137】
キットのいくつかの態様において、抗体または断片のうちの少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、3つまたは4つ)は、ヒト可溶性ST2への結合に関して、8.59×10-10Mと等しいかまたはそれ未満であるKDを有する。キットのいくつかの態様において、キットは酵素結合免疫吸着検査法として提供される。キットのいくつかの態様は、ヒト細胞(例えば、ヒト胚性腎細胞)から単離された組換えヒト可溶性ST2をさらに含む。キットのいくつかの態様は、完全にグリコシル化されたヒト可溶性ST2(例えば、細胞抽出物中に存在するか、または単離されたタンパク質として供給される)を、さらに含む。
【実施例
【0138】
本発明を以下の実施例でさらに説明するが、これらは特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定するものではない。
【0139】
実施例1:抗ST2モノクローナル抗体の作製および特徴決定
マウスに、sST2のヒトcDNA配列から産生された組換えタンパク質による免疫処置を行うことにより、ヒト可溶性ST2(sST2)タンパク質に対するモノクローナル抗体を作製した。
【0140】
抗原の作製および確認:ヒトsST2 cDNAクローン、GeneBankアクセッション番号NM_003856.2を、Rockville, MDのOrigene Technologies, Inc.から購入した。標準的なPCR手法を用いることにより、このクローンをソース配列として用いて、ヒト可溶性ST2の全配列を、タンパク質のアミノ末端領域に組み入れられたヘキサヒスチジン精製タグとともに含む発現ベクターを作製した。発現クローンの完全性はDNAシークエンシングによって確認した。ヒト胚腎臓細胞(HEK293)における一過性トランスフェクションおよび発現によって、組換えタンパク質を産生させた。発現されるタンパク質に組み入れられたヒスチジン精製タグと特異的に結合する金属キレートカラムに細胞溶解物を通すことによって、組換えヒト可溶性ST2タンパク質を精製した。組換えヒト可溶性ST2の精製は、クーマシー染色したポリアクリルアミドゲルによって、ならびに市販の抗ST2抗体(MBL Internationalから入手したモノクローナル抗体D067)および抗Hisタグ抗体の両方を用いるウエスタンブロット分析によって確認した。図1、2および3A~3Cを参照。アミノ酸配列に基づけばタンパク質それ自体の分子量は36kDであり、ヒト血清中の天然タンパク質の分子量はおよそ58kDであることがKuroiwaら(Biochem. Biophys. Res. Comm. 284:1104-1108, 2001)によって示されている。この発現システムから産生された精製した組換えタンパク質は、完全にグリコシル化されたタンパク質に関して適切なおよそ58kDの分子量を有し、これは市販の抗ST2抗体によって適切に認識された。定量はBradford全タンパク質アッセイ法によって行った。
【0141】
ハイブリドーマおよびモノクローナル抗体の作製:モノクローナル抗体は、マウスに、上記の通りに作製した組換えタンパク質による免疫処置を行うことによって作製した。3匹のBalb/cマウスに、以下の通り免疫処置を行った。
T1 CFA(完全フロイントアジュバント)とともに、20μg/動物個体
T1+3日間 IFA(不完全フロイントアジュバント)とともに、20μg/動物個体
T1+6日間 食塩水中、20μg/動物個体
T1+9日間 食塩水中、20μg/動物個体
【0142】
最後の免疫処置の後に、各動物個体からの尾部血から抗体価を測定した。抗体価の最も高い動物個体を、脾細胞融合およびハイブリドーマ樹立のために用いた。ハイブリドーマが96ウェルプレート中で安定した細胞培養物として樹立された後に、それらを、組換えヒト可溶性ST2タンパク質への結合について、およびヘキサ-his精製タグに対して特異的なハイブリドーマを排除するためのこのタグを含む包括的タンパク質への結合について、スクリーニングした。さらなる特徴決定および製品開発のために、2つのハイブリドーマを選択した:7E4および9F8。96ウェルマイクロタイタープレートの個々のウェルを一致量の各抗体9F8および7E4でコーティングすることによって、両方のモノクローナル抗体を組換えヒト可溶性ST2抗原に対する感度に関して試験し、続いて濃度範囲が300~0.41ng/mLであるビオチン結合組換えヒト可溶性ST2の3倍系列希釈物に対して試験した(図4参照)。
【0143】
これらの2つの抗体は類似の分析物感度を示し、およそ1.0という極めて強い吸光度値が、試験した最も低い分析物濃度0.41ng/mLで観察された。さらに、両方の抗体を96ウェルプレートの個々のウェル中に5μg/mL~0の範囲にわたる濃度でコーティングして、単一濃度のビオチン結合組換え可溶性ST2に対して試験した(図5参照)。両方の抗体とも≧1.25μg/mlの濃度で顕著な感度を示し、抗体9F8の方が幾分高い感度を示した。
【0144】
9F8抗体および7E4抗体を、モノクローナル抗体サンドイッチ酵素イムノアッセイ(EIA)構成でともに用いうるかの能力に関しても試験した。各モノクローナル抗体を、96ウェルマイクロタイタープレートの個々のウェル中に一定濃度でコーティングして、10ng/ml~0.01ng/mlの濃度範囲のヒト可溶性sST2の3倍系列希釈に対して、複合体の検出のためにビオチンと結合させた他のモノクローナル抗体を用いてアッセイした。図6に示されている通り、両方の抗体の組み合わせは類似の感度をもたらし、0.01ng/mLというわずかなヒト可溶性ST2も容易に検出する。
【0145】
表面プラズモン共鳴(SPR)を用いるさらなる分析により、抗体9F8および7E4がそれぞれ、MBL International Corporation(MBL)によってそのELISAで用いられているモノクローナル抗体である市販の抗体D066およびD067によって認識されるものとは異なるエピトープである固有のエピトープを認識することが確認された。図7は、抗体9F8、7E4、参照のために含めた第3の新規抗ヒト可溶性ST2抗体(11A7)、MBLから販売されている両方のモノクローナル抗体(D066およびD067)に、ベースライン決定のための無関係な抗体を加えたSPR分析の結果を図示している。個々のSPRチップは、各モノクローナル抗体に関するコーティングによって調製した。組換えヒト可溶性ST2を、チップを通過するように流して、結合させた。続いて、被験モノクローナル抗体を、第1の抗体-ヒト可溶性ST2複合体を通過するように流して、第2の抗体も、ヒト可溶性ST2タンパク質を通じて複合体に結合しうるかどうかを評価した。一次抗体と異なるエピトープを認識する二次抗体のみが複合体に結合すると考えられる。
【0146】
SPR分析の結果は図7A~Fに示されている。
【0147】
グラフA1(図7A):抗体9F8(A1)を一次捕捉抗体として用いた場合、各被験抗体は少なくともわずかな測定可能なシグナルを明らかに示した。被験抗体7E4(L2)が最も高度のシグナルを有し、無関係な抗体(L6)はシグナルが最も弱かった。このグラフからの結論は、抗体9F8が被験抗体のいずれとも異なるエピトープを認識したこと、および9F8-7E4ペアで最も強い総合的結合が得られたことである。
【0148】
グラフA2(図7B):抗体7E4(A2)を一次捕捉抗体被験抗体として用いた場合、9F8(L1)は非常に良好な結合を示し、無関係な抗体は測定可能なシグナルを全く示さず、残りの被験抗体は弱いものの測定可能なシグナルを示した。このグラフから の結論は、抗体7E4が被験抗体のいずれとも異なるエピトープを認識したこと、および9F8-7E4ペアで総合的結合が得られたことである。
【0149】
グラフA3(図7C):新規抗体11A7(A3)を一次捕捉抗体被験抗体として用いた場合、9F8(L1)は非常に良好な結合を示し、無関係な抗体は測定可能なシグナルを全く示さず、残りの被験抗体は弱いものの測定可能なシグナルを示した。これらの結果は、抗体7E4を捕捉抗体として用いて生じた結果とほぼ同一であった。
【0150】
グラフA4(図7D):MBL抗体D066(A4)を一次捕捉抗体被験抗体として用いた場合、9F8(L1)は非常に良好な結合を示し、抗体7E4(L2)による結合強度がそれに続いた。無関係な抗体は測定可能なシグナルを全く示さず、残りの被験抗体は弱いものの測定可能なシグナルを示した。このグラフからの結論は、抗体D066が被験抗体のいずれとも異なるエピトープを認識したこと、およびそれは第2のMBL抗体であるD067と結合ペアを形成したが、9F8-7E4ペアよりも結合親和性がはるかに低かったことである。
【0151】
グラフA5(図7E):MBL抗体D067(A5)を一次捕捉抗体被験抗体として用いた場合、9F8(L1)は非常に良好な結合を示し、抗体7E4(L2)およびD066(L4)による結合強度がそれに続いた。無関係な抗体は測定可能なシグナルを全く示さず、抗体11A7は非常に弱いシグナルを示した。このグラフからの結論は、抗体D067が被験抗体のいずれとも異なるエピトープを認識したこと、およびそれは第2のMBL抗体であるD066と結合ペアを形成したが、9F8-7E4ペアよりも結合親和性がはるかに低かったことである。
【0152】
グラフA6(図7F):無関係な抗体を一次被験抗体として用いた場合には、被験抗体のいずれからも測定可能なシグナルは生じず、ヒト可溶性ST2に対する親和性に関して試験した抗体の特異性が裏付けられた。
【0153】
この分析により、新規抗ヒト可溶性ST2モノクローナル抗体9F8および7E4がMBLモノクローナル抗体D066およびD067のいずれとも異なるエピトープを認識したことが確認された。さらに、この分析により、9F8-7E4ペアがD066-D067ペアよりも高い結合親和性を有することも確認された。
【0154】
9F8-7E4ペアに関して観察されたこの結合親和性の増大は、ヒト血漿試料の試験における2つのモノクローナル抗体の直接比較でも確認された。表1に概要を示した実験では、抗体ペアD066-D067で構成されるMBL ELISAを、新規な9F8-7E4抗体ペアと比較した。四(4)つの血漿試料を2倍系列希釈で試験し、ヒト可溶性ST2濃度の低いドナー由来のEDTA血漿およびヘパリン血漿のマッチドペア、ならびにヒト可溶性ST2濃度の高いドナー由来のEDTA血漿試料およびヘパリン血漿試料の両方を用いた。
【0155】
(表1)ヒト血漿試料を用いたD066-D067および9F8-7E4の感度の比較
LS=sST2低濃度試料、HS=sST2高濃度試料、ND=検出されず、EUL=検出上限を上回る。
【0156】
表1における結果は、各抗体ペアに関して最適化された較正物質に基づいてng/ml単位で報告された結果により、その個々の成績に関して最適化された各アッセイ法を用いることによって生成された。較正用タンパク質が互いに正規化されず、独立して定量されているため、ここに報告されている質量は一致しない。表1に示されている通り、D066-D067ペアに関する検出限界はLS EDTA試料の1:4希釈であり、精度も不良であったが、その一方、9F8-7E4ペアは1:256希釈まで優れた精度で正確に測定することができ、CVは10%未満であった。この感度の差は、HS EDTA血漿試料を試験した場合と一致する。同じく注目されることに、D066-D067ペアは最も希釈率の低いLSヘパリン血漿試料でさえ検出することができず、HS試料を用いた場合に、D066-D067ペアによるシグナルはEDTA血漿試料の方がヘパリン血漿試料よりもはるかに弱く、このことはヘパリンによるこの抗体ペアの感受性または阻害を示している。9F8-7E4ペアは、ヒト可溶性ST2濃度の低い血漿試料および最も高い血漿試料のいずれにおいても、このヘパリン感受性を示さず、優れた精度、小さいCVを維持した。
【0157】
実施例2:9F8-7E4モノクローナル抗体ペアに関するEIA特徴決定
9F8-7E4モノクローナル抗体ペアの特徴を、酵素イムノアッセイ法(EIA)で分析した。
【0158】
機能的感度(定量限界):さまざまな濃度に希釈した較正物質を20件ずつ反復してアッセイすることによって、機能的感度限界を決定した。緩衝液ブランクに加えて、試験する較正物質には0.0625、0.125および0.25ng/mLを含めた。機能的感度は、≦20%のCVがもたらされる最低濃度と定義される。以下の表2に示されている通り、試験した濃度はすべてこの標準を満たし、試験した最低濃度は0.0625ng/mLであった。
【0159】
(表2)機能的感度分析の概要
【0160】
本明細書に記載した方法によって産生された4つの抗体(9F8、7E4、11A7および15D06)ならびにMBL Internationalによって生産された2つの抗体(D066-3およびD067-3)の親和性の測定にも、SPRを用いた。各実験は、本明細書に記載の9F8抗体および7E4抗体を調製するために用いた、以下の濃度の組換えヒト可溶性ST2タンパク質の結合を検出することによって行った:50nM、25nM、12.5nM、6.25nM、3.25nMおよび0nM。これらの実験のデータは図8A~8Fに示されている。ヒト胚腎臓細胞由来の単離された組換えヒト可溶性ST2への結合に関して算出された各抗体のKDを、表3に示している。
【0161】
(表3)ヒト可溶性ST2に対する各抗体の結合についてのKD
【0162】
精度:アッセイ法の精度評価を、臨床・検査標準協会(Clinical and Laboratory Standards Institute)(CLSI)のガイドライン、Evaluation of Precision Performance of Quantitative Measurement Methods: Approved Guideline-Second Edition. (InVitro Diagnostics) EP5-A2に従って行った。プールした3件の患者血漿試料を、各濃度レベルについて20本ずつの1.5mLプラスチックチューブに等分して入れ、-80℃で凍結させた。これらの試料を1日当たり1回の分析で2件ずつ反復して、2カ月間の採血中に20日間にわたって分析した。CLSIの単回分析精度評価試験を用いて、分析内および総合的な分析不精密度(CVA)を算出した。アッセイ法の、平均濃度11ng/mL(プール1、低)での分析内CVAは2.4%、総CVAは4.0%であり、平均濃度87ng/mL(プール2、中間)での分析内CVAは2.0%、総CVAは3.9%であり、平均濃度140ng/mL(プール3、高)での分析CVAは2.2%、総CVAは3.9%であった。表4参照。
【0163】
(表4)精度分析の概要
【0164】
試験した濃度範囲全体を通じて、このアッセイ法はいかなる精度バイアスも示さなかった。
【0165】
干渉性物質(抗凝固剤に対する感受性)評価:外見上健康な志願者において、血漿試料を最も一般的な種類のチューブ内に採取した:血清、EDTA血漿、クエン酸血漿およびヘパリン血漿。分析は、単一のヒト可溶性ST2分析キットにおける試料の通常の遠心分離および処理の直後に行った。志願者は男性9人および女性21人からなり、年齢は22~66歳であった。この分析による結果の概要を表5に示している。表5に認められる通り、クエン酸チューブに関する中央値は他の種類のチューブよりも幾分低かったが、クエン酸チューブはチューブ内の液状抗凝固剤の容量が小さく、試料容量に影響を及ぼさない他の種類のチューブに比べて、収集された試料で生じる希釈が少なめであるため、これは予想外のことではない。測定値の一貫性を検証するために、各種類の血漿チューブを血清チューブと比較した。各比較により、0.849~0.964の範囲にわたる極めて有意なR2値が得られた。したがって、正常濃度測定に影響を及ぼす可能性のある、希釈が少なめなクエン酸チューブを除き、チューブの種類別に測定したバイアスはなかった。
【0166】
(表5)抗凝固剤試験の結果の概要
【0167】
正常濃度基準幅の決定:知っている範囲で重篤疾患の既往がなく、いかなる重篤疾患に対する治療も現在受けておらず健康であると自称し、性別に関して均等に分布し、年齢像が18~84歳であるドナー490人で構成されるコホートを、この分析のために募集した。
【0168】
表6は、この健康基準範囲コホートについて、各年齢群における、および性別毎の個体数の概要を提示しており、図10はヒト可溶性ST2濃度分布のヒストグラムである。図10中で、バーは実際のデータを表しており、バーの内側の縦線は理論上の正規分布を表している。これらの健康個体における濃度の分布は非正規性であった。表7は、性別に応じたヒト可溶性ST2濃度を比較している。この健常集団において、男性における濃度中央値は女性よりも有意に高かった(クラスカル-ウォリス検定;p<0.0001)。
【0169】
(表6)健康基準範囲コホート
【0170】
(表7)性別毎の中央値による基準群の比較
【0171】
性別毎のヒト可溶性ST2濃度の層別により、これらの群間に有意差はみられないことが判明した、図11(クラスカル-ウォリス検定;男性p=0.501、女性p=0.056)。このため、性別特異的基準値ならびに全群の値を、ノンパラメトリックパーセンタイル法(90%、片側)を用いて算出した。これらの結果の概要を表8に示している。
【0172】
(表8)CCD健康基準群の概要
【0173】
表9は、いくつかの特定閾値でのヒト可溶性ST2濃度を列記している。
【0174】
(表9)特定閾値でのsST2濃度、自己報告によるUS健康コホート
【0175】
空腹状態対非空腹状態におけるヒト可溶性ST2濃度の比較:さまざまな疾患状態(そのうちの8人は2型糖尿病である)を有する患者25人(男性19人および女性6人)から、一晩の空腹期間の後、午前7:00に血漿試料を採取した。患者にはその後、規格化された朝食(糖尿病のない患者には730kcal、糖尿病の患者には522kcal)を摂取させた。ヒト可溶性ST2判定のための2回目の採血は午前11:00とした。その後、患者全員に規格化された昼食(糖尿病のない患者には800kcal、糖尿病の患者には716kcal)を摂取させた。3回目の最後の採血は午後2:00とした。3つの時点すべてについて、個体25人の平均ヒト可溶性ST2濃度を算出した。非空腹時のヒト可溶性ST2血漿中濃度(すなわち、午前11:00および午後2:00の採血)と各々の空腹時の値(すなわち、午前7:00の採血)との間に差があるかどうかを判定するために、対応のあるt検定を用いた。分析物濃度に対する食事の影響を推定するために、経時的なヒト可溶性ST2濃度の相対的変化をRCVと比較した。
【0176】
午前7:00の空腹時平均ヒト可溶性ST2濃度は18U/mL(中央値、17U/mL;範囲9~26U/mL)であり、朝食後の午前11:00の平均ヒト可溶性ST2濃度は19U/mL(中央値、18U/mL;範囲、11~28U/mL;空腹時ST2との比較に関するp=0.025)であり、昼食後の午後2:00の平均ヒト可溶性ST2濃度は18U/mL(中央値、18U/mL;範囲、10~28U/mL;空腹時ヒト可溶性ST2との比較に関するp=0.014)であった。このように、午前11:00および午後2:00の平均ヒト可溶性ST2濃度は午前7:00に入手した空腹時平均値よりも高かったが、それは5%未満であった。
【0177】
正常ヒト可溶性ST2濃度と疾患状態濃度との比較:ヒト可溶性ST2の濃度は、心不全を有する入院患者における方が健常個体よりも明らかに高かった。以下の分析では、健康ドナー490人から求めた正常濃度を、さまざまな特異な集団と比較した;潜在性心血管疾患(CVD)も炎症性疾患(BNP、PCT、CRPおよびIL-6によりスクリーニング)も存在しないことがバイオマーカースクリーニングによって確定された健康志願者528人、急性心不全と診断された患者709人、慢性安定心不全と診断された患者1159人、肺動脈高血圧症(PAH)と診断された患者190人、喘息と診断された患者48人、喘息またはCOPDと診断された223人、肺塞栓症(PE)と診断された58人、肺炎(PNA)と診断された119人、進行呼吸器疾患症候群(advanced respiratory disease syndrome)(ARDS)と診断された109人、川崎病(KD)と診断された少年少女50人、および敗血症と診断された15人。表10は、各群におけるヒト可溶性ST2濃度に関する中央値、95%信頼区間および四分位数間範囲(IQR)を列記している。
【0178】
(表10)疾患状態別のsST2濃度
【0179】
ヒト可溶性ST2濃度と1年時における死亡のリスクとの比較:PRIDEコホートからの血液試料におけるヒト可溶性ST2の濃度も測定した(Junuzzi et al., J. Am. Coll. Cardiol. 50:607-613, 2007)。当初のPRIDEコホートの対象599人のうちの586人で、上記の方法を用いるヒト可溶性ST2の測定に利用しうる血液試料があった。用いた試料は、-80℃で凍結されたEDTA血漿アリコートであった。このアッセイ法にPRIDEコホートにおける全原因1年死亡率を予測する能力があることを判定するために、Hanleyら(Radiology 148:839-843, 1983)による方法に従って、1年時における死亡を参照標準とする受信者動作特性プロット(ROC)プロットを解析し、曲線下面積(AUC)を比較した。
【0180】
これらの実験において、アッセイ法に関する、コホート全体についての濃度中央値は27ng/mL(範囲、2未満~393ng/mL)であった。このコホートでは、ノンパラメトリック相関分析により、どちらの方法についても相関係数(rs)が0.955であることが判明した(95% CI、0.947-0.962;p<0.001)。患者586人のうち、個体92人(16%)は1年時に死亡しており、494人(84%)は生存していた。ROC曲線解析により、1年時における死亡を予測するためのアッセイ法によるAUCは0.803(95% CI、0.768~0.834)であることが明らかに示されている。
【0181】
その他の態様
本発明をその詳細な説明とともに記載してきたが、前記の説明は本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲を限定することは意図しておらず、それは添付の特許請求で定められることが理解されるべきである。その他の局面、利点および改変は、添付の特許請求の範囲に含まれる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9
図10
図11
【配列表】
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