(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】マウスピース
(51)【国際特許分類】
A61C 19/00 20060101AFI20220426BHJP
【FI】
A61C19/00 M
(21)【出願番号】P 2021165405
(22)【出願日】2021-10-07
【審査請求日】2021-10-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】302016819
【氏名又は名称】田巻 真澄
(74)【代理人】
【識別番号】110003096
【氏名又は名称】特許業務法人第一テクニカル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田巻 真澄
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-103031(JP,A)
【文献】特開2019-030742(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0121594(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0231412(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0109051(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0048347(US,A1)
【文献】米国特許第7610919(US,B2)
【文献】味蕾,ウィキペディア, [online],2018年08月06日,[令和3年10月25日検索], インターネット <URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/蕾>,(URLは、インターネットアーカイブのウェイバックマシンに蓄積されたウェブページを示します。)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の上歯と下歯とによって噛合わされる弾性樹脂材料から構成されたマウスピースであって、
前記マウスピースは、
利用者の口腔内に装着した状態で上歯と下歯の前側に位置する外壁部と、
利用者の口腔内に装着した状態で上歯と下歯の裏側に位置する内壁部と、
利用者の口腔内に装着した状態で上歯と下歯の間に位置する分離壁部と、
が一体に形成され、
前記外壁部には、前面に開口する空気取り入れ穴が設けられ、
前記外壁部又は前記内壁部の少なくとも一方には、前面又は裏面に開口する一つ以上の液体流出穴が設けられ、
前記分離壁部には、前記空気取り入れ穴と前記液体流出穴とを連通する導管部が形成され、
前記導管部には、
苦み成分を有する液体が充填されている、
マウスピースであって、
前記空気取り入れ穴を、利用者の口腔内の左右中心付近に形成し、
前記液体流出穴を、苦味によって刺激が認識されやすい奥歯付近に設けることにより、マウスピースを装着して睡眠している利用者が歯ぎしり又は噛みしめを行ったとき、その歯ぎしり又は噛みしめの加圧力によって前記分離壁部を押し潰し、前記導管部に充填された苦み成分を有する液体を前記液体流出穴から流出させて利用者の舌を刺激することで、利用者を睡眠から覚醒させるようにした
ことを特徴とするマウスピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マウスピースに係わり、特に、睡眠時に使用するマウスピースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、睡眠時の歯ぎしり又は噛みしめに伴う歯の損傷や摩滅、或いは、歯茎への悪影響を抑制するためにマウスピースを装着することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなマウスピースは、上歯と舌歯との直接的な干渉を抑制することはできるものの、歯ぎしり又は噛みしめそのものを抑制するというものではなかった。
【0005】
本発明の目的は、睡眠時に歯ぎしり又は噛みしめをしていることを認識させ、歯ぎしり又は噛みしめそのものの抑制効果を期待することができるマウスピースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、利用者の上歯と下歯とによって噛合わされる弾性樹脂材料から構成されたマウスピースであって、前記マウスピースは、利用者の口腔内に装着した状態で上歯と下歯の前側に位置する外壁部と、利用者の口腔内に装着した状態で上歯と下歯の裏側に位置する内壁部と、利用者の口腔内に装着した状態で上歯と下歯の間に位置する分離壁部と、が一体に形成され、前記外壁部には、前面に開口する空気取り入れ穴が設けられ、前記外壁部又は前記内壁部の少なくとも一方には、前面又は裏面に開口する一つ以上の液体流出穴が設けられ、前記分離壁部には、前記空気取り入れ穴と前記液体流出穴とを連通する導管部が形成され、前記導管部には、苦み成分を有する液体が充填されている、マウスピースであって、前記空気取り入れ穴を、利用者の口腔内の左右中心付近に形成し、前記液体流出穴を、苦味によって刺激が認識されやすい奥歯付近に設けることにより、マウスピースを装着して睡眠している利用者が歯ぎしり又は噛みしめを行ったとき、その歯ぎしり又は噛みしめの加圧力によって前記分離壁部を押し潰し、前記導管部に充填された苦み成分を有する液体を前記液体流出穴から流出させて利用者の舌を刺激することで、利用者を睡眠から覚醒させるようにしたものである。
【0007】
本発明のマウスピースは、外観上は公知のマウスピースと同様とすることができる。このマウスピースは、利用者の口腔内に装着した状態で上歯と下歯の前側に位置する外壁部と、利用者の口腔内に装着した状態で上歯と下歯の裏側に位置する内壁部と、利用者の口腔内に装着した状態で上歯と下歯の間に位置する分離壁部と、が弾性樹脂材料によって一体に形成されている。
【0008】
また、マウスピースの外壁部には、前面に開口する空気取り入れ穴が設けられ、外壁部又は内壁部の少なくとも一方には、前面又は裏面に開口する一つ以上の液体流出穴が設けられている。そして、分離壁部には、空気取り入れ穴と液体流出穴とを連通する導管部が形成されている。
【0009】
さらに、この導管部には、刺激性を有する液体が充填されている。
【0010】
これにより、利用者がマウスピースを装着して睡眠しているとき、歯ぎしり又は噛みしめを行うと、その加圧力によって分離壁部が押し潰され、導管部に充填された刺激性を有する液体が液体流出穴から流出され、利用者の舌を刺激する。
【0011】
したがって、利用者は、その刺激によって歯ぎしり又は噛みしめを行ったことを認識することができるとともに、その不快感を学習して歯ぎしり又は噛みしめそのものの抑制効果を期待することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、睡眠時に歯ぎしり又は噛みしめをしていることを認識させ、歯ぎしり又は噛みしめそのものの抑制効果を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るマウスピースを示し、(A)は正面図、(B)は斜視図である。
【
図2】空気取り入れ穴と液体流出穴と導管部との関係の一例を示し、(A)は液体流出穴が外向きの場合を示す説明図、(B)は液体流出穴が内向きの場合を示す説明図である。
【
図3】本発明に係るマウスピースを装着した場合の利用者の歯との関係を示す模式図である。
【
図4】人体の舌表面における味覚エリアの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の一実施形態に係るマウスピースについて、図面を参照して説明する。
【0015】
図1に示すように、マウスピース10は、利用者の口腔内に装着した状態で上歯と下歯の前側に位置する外壁部11と、利用者の口腔内に装着した状態で上歯と下歯の裏側に位置する内壁部12と、利用者の口腔内に装着した状態で上歯と下歯の間に位置する分離壁部13と、が利用者の上歯と下歯とによって噛合わされるように弾性樹脂材料から一体に構成されている。
【0016】
外壁部11には、前面に開口する空気取り入れ穴14が設けられ、外壁部11(又は内壁部12の少なくとも一方)には、前面(又は裏面)に開口する一つ以上の液体流出穴15(図では4つ)が設けられている。
【0017】
また、分離壁部13には、空気取り入れ穴14と液体流出穴15とを連通するように、
図2(A)(又は
図2(B))に示すように、導管部16が形成されている。さらに、この導管部16には、例えば、空気取り入れ穴14から注入された刺激性を有する液体(図示せず)が充填されている。
【0018】
なお、マウスピース10は、例えば、幅Wが6.0cm、高さHが2.5cm、奥行Dが4.5cm、であり、その大きさは利用者の歯の構造等によって任意である。また、マウスピース10の材質としては、人の口に直接触れる食器等にも用いられ、かつ、弾性を有するものが好ましく、樹脂材料として熱可塑性エラストマー(TPE)等が好ましい。
【0019】
なお、その硬さや各種サイズ(例えば、外壁部11の厚さなど)は、利用者が口腔内に対する装着・離脱時の変形性、装着時の保形性、歯ぎしり又は噛みしめに伴う加圧時の変形性、を考慮して適宜設定することができる。
【0020】
刺激性を有する液体には、例えば、
図4に示すように、人体の舌の表面には、甘味を感じる甘未エリア、塩味を感じる塩味エリア、酸味を感じるエリア、苦味を感じる苦味エリア等の味覚識別エリアが存在するため、これらの各味を備える液体とすることができる。なお、例えば、ミントなどのように、味覚的な刺激に加えて鼻腔を刺激する臭いを含ませてもよい。
【0021】
空気取り入れ穴14は、利用者の口腔内の左右中心付近の1か所に形成されており、空気の流入が利用者の唇によって塞がれ難いようにするのが好ましい。
【0022】
刺激性を有する液体は、上述したように、舌の表面に存在する味覚識別エリアの少なくとも1味エリアに対応した味覚成分を含有しているため、液体流出穴15は、その1味エリアに対応した部位に対応して設けることによって液体の刺激が利用者に伝達され易くすることができる。
【0023】
ここで、刺激性を有する液体は、舌の表面に存在する味覚識別エリアのうち苦味識別エリア(有郭乳頭部)に対応した苦味成分を含有し、液体流出穴15は、
図3に示すように、当該苦味識別エリアに対応した奥歯付近に設けることがより好ましく、これによって睡眠時であっても覚醒し易い刺激性の強い苦味によって刺激が利用者に認識され易くすることができる。
【0024】
ここで、歯ぎしり又は噛みしめで起こる口の症状(悪影響)としては、以下のようなものが考えられている。
【0025】
(1)歯がしみる
歯ぎしり又は噛みしめがある方は歯がしみることがある。歯ぎしり又は噛みしめによって歯の根元が削れたり下がったりすることで歯の神経が敏感になり冷たいもので歯がしみることがある。主に奥歯がしみることが多い。
【0026】
(2)歯が痛い
歯ぎしり又は噛みしめによって長時間歯に負担がかかることで歯に痛みが出ることがある。歯医者に行っても虫歯などは見つかりません。痛みは上下の歯に出ることが多い。
【0027】
(3)噛むと痛い
歯ぎしり又は噛みしめによって歯が揺さぶられると噛んだときに痛みや違和感を感じる。歯には歯根膜という、噛んだ時に硬いもの、軟らかいものなど判断する膜がある。歯ぎしり又は噛みしめによりこの膜に強い力がかかり、噛んだ時の痛みとして感じる。
【0028】
(4)歯の根元が削れている
歯の根元が削れていたり、段差があることに気付いた方は歯ぎしり又は噛みしめをしている可能性がある。歯ぎしり又は噛みしめにより強い力が歯の根元に加わると応力が集中し、歯の根元がくさびのように削れていきます。
【0029】
(5)歯が短くなる
歯ぎしり又は噛みしめによって歯の噛む面が削れてしまい、歯が短くなることがある。前歯は歯がギザギザする部分が増えたり、歯が平らになっていく場合もある。奥歯は歯の表面にあるエナメル質が削れ、歯の真ん中にある象牙質が見えてくることで歯が黄色く見えるようになります。
【0030】
(6)歯茎が下がる
歯ぎしり又は噛みしめによって歯が揺さぶられ歯茎下がりが起こることがある。歯が長く見えたり、知覚過敏などの症状を伴うことがある。
【0031】
(7)詰め物が取れる
歯の詰め物や被せ物が取れることがある。銀歯が取れる、セラミックが割れる、プラスチックの詰め物がとれる、といったことが起こり易くなる。
【0032】
(8)歯が割れる
歯ぎしり又は噛みしめによって歯の表面がかけたり、根元まで割れることがある。歯の神経がある歯が割れると激痛が発生することがある。
【0033】
(9)歯周病が改善しない
歯ぎしり又は噛みしめによって歯が揺さぶられ、歯を支えている骨が溶けて歯周病になる。常に歯ぎしり又は噛みしめによって歯が揺さぶられるため、歯周病が急激に進行し易くなる。定期的に歯石を取り除くことと、マウスピースで歯を保護する必要がある。
【0034】
(10)顎が痛くなる
歯ぎしり又は噛みしめによって顎の関節が強く圧迫されて痛くなる。顎関節は顎と頭をつなげている関節で、関節の間には関節円盤という軟骨が存在し、この関節円盤は顎をスムーズに動かす機能を有しているが、歯ぎしり又は噛みしめにより関節円盤が圧縮され、ずれたり、穴があいたりしていて、顎をスムーズに動かすことができなくなる。
【0035】
(11)肩が凝る
歯ぎしり又は噛みしめによって筋肉が緊張し、肩が凝り易くなる。歯ぎしり又は噛みしめの間は無意識のうちに強い力で噛み締めます。その時、噛む力を出す筋肉は肩や首、頭の方まで繋がっており、その筋肉が緊張することによって肩や首筋が凝ったりします。
【0036】
(12)偏頭痛
歯ぎしり又は噛みしめによって偏頭痛を起こすことがある。歯ぎしり又は噛みしめのとき動く筋肉の中には顎から頭の横まで繋がっている筋肉(側頭筋)があり、側頭筋が歯ぎしり又は噛みしめによって緊張し、偏頭痛として現れます。
【0037】
また、歯ぎしり又は噛みしめのメカニズムの一因として、睡眠時の脳の異常が考えられている。睡眠時の歯ぎしり又は噛みしめは音を立てて歯をこすり合わせる「グラインディング(歯ぎしり)」と、歯を擦らずに食いしばる「クレンチング(食いしばり)」とがある。この寝ている時の歯ぎしり又は噛みしめは脳の興奮によって起こるもので、眠りが浅い時間帯(ノンレム睡眠)に起こる。
【0038】
そこで、このような歯ぎしり又は噛みしめ(食いしばりを含む)をしている際に、その旨を認識することができれば、睡眠の妨げとなるため学習することができ、歯ぎしり又は噛みしめの抑制を期待することができる。
【0039】
これは、例えば、バイブレーションスプリントとして、歯ぎしり又は噛みしめ用マウスピースに感圧フィルムを埋め込み、歯ぎしり又は噛みしめを感知したら、振動刺激を与えるというシステムにより歯ぎしり又は噛みしめを50%程度抑制できることが実証されたことから、味覚(又は臭い)による刺激であっても同様の歯ぎしり又は噛みしめ抑制効果を期待することができると考えられる。
【0040】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明した。しかしながら、本発明の技術的思想の範囲は、ここで説明した実施の形態に限定されないことは言うまでもない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想の範囲内において、様々な変更や修正、組み合わせなどを行うことに想到できることは明らかである。したがって、これらの変更や修正、組み合わせなどの後の技術も、当然に本発明の技術的思想の範囲に属するものである。
【0041】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0042】
10 マウスピース
11 外壁部
12 内壁部
13 導管部
14 空気取り入れ穴
15 流出穴
16 導管部
【要約】 (修正有)
【課題】睡眠時に歯ぎしり又は噛みしめをしていることを認識させ、歯ぎしり又は噛みしめそのものの抑制効果を期待することができるマウスピースを提供する。
【解決手段】利用者の上歯と下歯とによって噛合わされる弾性樹脂材料から構成されたマウスピース10であって、前記マウスピースは、利用者の口腔内に装着した状態で上歯と下歯の前側に位置する外壁部11と、利用者の口腔内に装着した状態で上歯と下歯の裏側に位置する内壁部12と、利用者の口腔内に装着した状態で上歯と下歯の間に位置する分離壁部13と、が一体に形成され、前記外壁部には、前面に開口する空気取り入れ穴14が設けられ、前記外壁部又は前記内壁部の少なくとも一方には、前面又は裏面に開口する一つ以上の液体流出穴15が設けられ、前記分離壁部には、前記空気取り入れ穴と前記液体流出穴とを連通する導管部が形成され、前記導管部には、刺激性を有する液体が充填されている。
【選択図】
図1