(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】マイクロサンプリングチップ
(51)【国際特許分類】
G01N 1/00 20060101AFI20220427BHJP
G01N 1/14 20060101ALI20220427BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20220427BHJP
G01N 27/28 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
G01N1/00 101G
G01N1/14 Z
G01N21/78 C
G01N27/28 M
G01N27/28 301B
G01N27/28 321F
(21)【出願番号】P 2018230506
(22)【出願日】2018-12-10
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】516336334
【氏名又は名称】テクノグローバル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519367935
【氏名又は名称】ピコテクバイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山口 佳則
(72)【発明者】
【氏名】小山 将司
(72)【発明者】
【氏名】高田 弘之
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-211212(JP,A)
【文献】特開平10-132712(JP,A)
【文献】特開平11-056821(JP,A)
【文献】特開2012-002508(JP,A)
【文献】特開2012-208105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00-1/44
G01N 27/26-27/404,27/414-27/416,27/42-27/49
G01N 21/75-21/83
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状のサンプルを吸入するための吸入口を先端に有するとともに、前記吸入口から吸入されたサンプルを収容するためのサンプル収容空間が前記吸入口を介してのみ外部と流体的に連通するように内部に設けられているマイクロサンプリングチップであって、
前記マイクロサンプリングチップの内部に、前記サンプル収容空間とは隔壁によって仕切られた密閉空間が設けられており、前記密閉空間の内部の圧力が大気圧よりも低い圧力に減圧されており、
所定位置が前記マイクロサンプリングチップの外部から押圧されたときに前記隔壁が破断するように構成され、
前記吸入口がサンプルに浸された状態で前記隔壁が破断したときに、所定量のサンプルが前記サンプル収容空間内に吸入されるように構成されている、マイクロサンプリングチップ。
【請求項2】
前記所定位置は、前記マイクロサンプリングチップの基端側の壁面の一部である、請求項1に記載のマイクロサンプリングチップ。
【請求項3】
前記サンプル収容空間内に、前記サンプル収容空間内に所定量のサンプルが吸入されたときに前記サンプルと接して前記サンプルの測定を行なうためのセンサ部が収容されている、請求項1又は2に記載のマイクロサンプリングチップ。
【請求項4】
前記センサ部は前記サンプルの電気化学測定を行なうための測定用電極であり、
前記マイクロサンプリングチップの基端側の外部から前記測定用電極に対して電気的接続をとるために、前記測定用電極が前記サンプル収容空間を画する壁面を貫通して前記マイクロサンプリングチップの基端側へ接続端子として引き出されている、請求項3に記載のマイクロサンプリングチップ。
【請求項5】
前記サンプル収容空間内に、前記サンプル収容空間内に所定量のサンプルが吸入されたときに前記サンプルと接し、前記サンプル中の特定成分量に応じた発色反応を示す発色体が収容されている、請求項1又は2に記載のマイクロサンプリングチップ。
【請求項6】
前記マイクロサンプリングチップの基端側の外部から前記発色体の発色を測定できるように、前記サンプル収容空間を画する壁面のうち少なくとも前記マイクロサンプリングチップの基端側の壁面が透明である、請求項5に記載のマイクロサンプリングチップ。
【請求項7】
前記サンプル収容空間内に複数の前記発色体が収容されており、前記マイクロサンプリングチップの基端側からすべての前記発色体を測定できるように、複数の前記発色体が同一平面内に配置されている、請求項6に記載のマイクロサンプリングチップ。
【請求項8】
前記発色体は、前記サンプル収容空間の内壁面に塗布された試験液である、請求項5から7のいずれか一項に記載のマイクロサンプリングチップ。
【請求項9】
前記密閉空間の内部容量は500μL以下である、請求項1から8のいずれか一項に記載のマイクロサンプリングチップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属測定に代表される環境検査、尿試験紙を利用することを代表とする生化学検査、臨床検査、残留農薬を検出することに代表される食物検査などの検査を行なうためのマイクロサンプリングチップに関する。
【背景技術】
【0002】
カドミウム、コバルト、水銀、銅、亜鉛、鉛、ヒ素、マグネシウムといった重金属は多くを摂取すると人体に有害であり、水や土壌、食物、野菜、米、飲料水に含まれる重金属量を体内に摂取する前に把握することは非常に重要である。重金属の測定方法として種々の方法が提案され、実施もなされている(特許文献1、2参照。)。また、穀物、野菜、果実などの食物へ農薬を散布することによる残留農薬の問題は深刻であり、2013年にはインドでモノクロトホスが野菜に残留していたことによって、23人の児童が死亡するといった重大な事件が起こっている。
【0003】
また、医療や食品検査の現場において、その場で的確に必要な検査をできることは、その後の診断や治療方針、予防、安心を保障することにおいて重要である。その場で検査を数分のうちに検出でき、その疾患や食品の安全、残留農薬の有無を測定できることによって、患者にはできるだけ早い診断、投薬が実現し、飲料水や食品については、飲食前の安全を保障できる。さらに、尿検査に代表される非侵襲の生化学臨床検査を、家庭、老人ホーム、介護施設などの現場で行うことができれば、容易に日々の健康状態を知り、日々の行動に反映することができ、健康被害のリスクを軽減してより健康な生活を保障できる。
【0004】
電気化学測定のための高感度センサを利用し、現場において、複数種類の重金属を一斉にppbレベルの濃度までを安定して測定することができる技術、具体的には、1kg以下の装置で短時間(例えば、20分以内程度)に、例えば河川のそばや田んぼの畦などで測定することができる技術は確立されていない。ろ紙などの紙媒体に発色試薬を固定した試験紙を利用した、ヒトの尿中や血中における特定物質を検査、イムノアッセイ、残留農薬の検査、土壌汚染の検査が一般的に行なわれている。しかし、試験紙を使用して一斉に行うことのできる、さらに現場において簡易迅速に検査を行なうことのできる技術は確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-174054号公報
【文献】特開2009-034041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気化学測定や試験紙等を用いて行なう検査は、サンプルを測定用電極や試験紙といったセンサ部分に接触させて行なわれるが、センサ部分に接触させるサンプル量の定量性は検査結果の正確性や再現性にとって重要な要素である。そのため、ピペットを用いて一定量のサンプルを採取して検査に供することが一般的である。つまり、定量のサンプル量を保障することで正確な濃度が決定できる。また、内部センサには表面に特殊試薬や酵素を固定化した状態で測定する場合があり、より正確に定量性を求められる場合には滴下されるサンプルの量が正確であればあるほどよい。また、試験紙などについても、その表面へ湿潤することでその量が定量されるとはいえ、滴下若しくは導入されるサンプルの量は正確であるほど内部成分の定量を正確に行なうことができる。さらに、測定する際に検査技師などの測定者への感染を防ぎ、また、サンプル同士のコンタミネーションを防ぐためにも電極を含む検査部分(チップ)を使い捨てにすることが求められる。
【0007】
ここで、サンプルの検査を容易迅速に行なうことができるように、ピペット自体にサンプルの測定機能をもたせることが考えられる。そのようなピペット型の検査装置は、ピペットの先端に取り付けられたチップを介してサンプルを吸入するためのポンプ機構を具備する必要がある。また、そのようなピペット型の検査装置では、コンタミネーションの防止の観点から、ピペットにサンプルが付着しないようにチップの取り扱いを注意する必要がある。例えば、チップ内にサンプルを採取した状態でピペットを横向きにすると、チップ内のサンプルがピペットの先端に付着してしまうため、チップ内にサンプルを採取した後はチップの先端が下方を向いた状態で維持しておく必要があり、取扱いが容易であるとはいえない。特に、従来のピペットの構造では、検査装置の本体側にポンプ機構を設ける必要があり、吸入されたサンプルが本体側に微量ながらも蓄積され、複数回、吸入や排出を繰り返すことによって、本体内部に設けられているポンプが汚染されることが多くあった。これは、特に、サンプルを吸入する際に、手動でポンプ機構を急激に駆動すると、サンプルが急激に吸われることで、サンプルが筐体内部のポンプまで到達してしまうこともあった。
【0008】
そこで、本発明は、マイクロサンプリングチップの先端からのサンプルの吸入とサンプルを吸入した後のマイクロサンプリングチップの取扱いを容易にすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るマイクロサンプリングチップは、液状のサンプルを吸入するための吸入口を先端に有するとともに、前記吸入口から吸入されたサンプルを収容するためのサンプル収容空間が前記吸入口を介してのみ外部と流体的に連通するように内部に設けられているマイクロサンプリングチップである。当該マイクロサンプリングチップの内部には、前記サンプル収容空間とは隔壁によって仕切られた密閉空間が設けられており、前記密閉空間の内部の圧力が大気圧よりも低い圧力に減圧されている。そして、当該マイクロサンプリングチップの所定位置が外部から押圧されたときに前記隔壁が破断するように構成され、前記吸入口がサンプルに浸された状態で前記隔壁が破断したときに、所定量のサンプルが前記サンプル収容空間内に吸入されるように構成されている。
【0010】
すなわち、本発明に係るマイクロサンプリングチップでは、内部の圧力が大気圧よりも低い圧力に減圧された密閉空間がサンプル収容空間と隔壁によって仕切られており、吸入口をサンプルに浸した状態で隔壁を破断させるだけで、所定量のサンプルがサンプル収容空間内に吸入されるようになっているので、ポンプ機構を用いることなくサンプル収容空間へのサンプルの吸入を行なうことができる。さらに、吸入口から吸入されたサンプルを収容するサンプル収容空間が吸入口を介してのみ外部と流体的に連通しているため、吸入口からサンプル収容空間内に吸入されたサンプルが吸入口以外の箇所から漏出することがなく、当該マイクロサンプリングチップの取扱いが容易になる。当該マイクロサンプリングチップを用いる検査装置側に、サンプルを吸入するためのポンプ機構を設ける必要がないので、マイクロサンプリングチップ内に吸入されるサンプルが検査装置側へ到達することなくマイクロサンプリングチップ内に留まり、マイクロサンプリングチップの外部、特に、検査装置の本体を汚染することが防止される。
【0011】
本発明に係るマイクロサンプリングチップは、基端部を検査装置に保持させることを想定している。そのため、前記所定位置は、前記マイクロサンプリングチップの基端側の壁面の一部であってよい。そうすれば、マイクロサンプリングチップの基端部を保持する検査装置にマイクロサンプリングチップの基端面を押圧する機構を設けて、サンプル収容空間と密閉空間との間の隔壁を自動的に破断させることが容易になる。
【0012】
前記サンプル収容空間内には、前記サンプル収容空間内に所定量のサンプルが吸入されたときに前記サンプルと接して前記サンプルの測定を行なうためのセンサ部が収容されていてもよい。そうすれば、マイクロサンプリングチップ内にサンプルが吸入されたと同時にサンプルの測定を行なうことができる。マイクロサンプリングチップの内側に設置されたセンサ部としては、圧力や温度を検出できる物理センサ、イムノアッセイを含む生化学反応や電気化学的な反応を検出できるセンサでもよい。
【0013】
上記センサ部はサンプルの電気化学測定を行なうための測定用電極とすることができる。その場合、前記マイクロサンプリングチップの基端側の外部から前記測定用電極に対して電気的接続をとるために、前記測定用電極が前記サンプル収容空間を画する壁面を貫通して前記マイクロサンプリングチップの基端側へ接続端子として引き出されていてもよい。そうすれば、マイクロサンプリングチップに設けられた測定用電極への電気的アクセスが容易になる。
【0014】
また、前記サンプル収容空間内には、前記サンプル収容空間内に所定量のサンプルが吸入されたときに前記サンプルと接し、前記サンプル中の特定成分量に応じた発色反応を示す発色体が収容されていてもよい。そうすれば、マイクロサンプリングチップを用いて種々の発色試薬を用いた尿検査等の検査を行なうことができる。
【0015】
上記の場合、前記マイクロサンプリングチップの基端側の外部から前記発色体の発色を測定できるように、前記サンプル収容空間を画する壁面のうち少なくとも前記マイクロサンプリングチップの基端側の壁面が透明であってもよい。そうすれば、マイクロサンプリングチップの基端部を保持する検査装置に発色体の発色を光学的に検出する光学素子を設けて、マイクロサンプリングチップ内の発色体の発色度を自動的に測定することができる。透明とは、橙色、青色など発色体から発せられる特定波長域の光を透過させる性質を有することを意味し、完全な無色透明のみを意味するものではない。
【0016】
前記発色体は、前記サンプル収容空間内に複数収容され、前記マイクロサンプリングチップの基端側からすべての前記発色体を測定できるように、複数の前記発色体が同一平面内に配置されていてもよい。
【0017】
また、前記発色体は、前記サンプル収容空間の内壁面に塗布された試験液であってもよい。そうすれば、試験液を浸み込ませた濾紙等の固体をサンプル収容空間内に固定しておく構造が不要になるので、マイクロサンプリングチップの構造が簡単になり、コストの低減を図ることができる。
【0018】
また、前記密閉空間の内部容量は500μL以下であってよい。そうすれば、マイクロサンプリングチップ内に吸入されるサンプルの最大量が500μL以下に規定されるので、微少量のサンプルの採取に適応させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るマイクロサンプリングチップでは、内部の圧力が大気圧よりも低い圧力に減圧された密閉空間が隔壁によってサンプル収容空間と仕切られており、吸入口をサンプルに浸した状態で隔壁を破断させたときに所定量のサンプルがサンプル収容空間内に吸入されるようになっているので、マイクロサンプリングチップを装着した検査装置にポンプ機構を設けなくても、サンプル収容空間へのサンプルの吸入を行なうことができる。さらに、吸入口から吸入されたサンプルを収容するサンプル収容空間が吸入口を介してのみ外部と流体的に連通しているため、吸入口からサンプル収容空間内に吸入されたサンプルが吸入口以外の箇所から漏出することがなく、当該マイクロサンプリングチップの取扱いが容易になる。また、サンプル収容空間と減圧された密閉空間との間を仕切っている隔壁は、マイクロサンプリングチップの外部から物理的に破断させることができるので、サンプルの吸入のタイミングを制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】検査装置の先端にマイクロサンプリングチップが装着された状態の一例を示す図である。
【
図2】マイクロサンプリングチップの一実施例を示す断面図である。
【
図3】マイクロサンプリングチップの他の実施例を示す断面図である。
【
図4】マイクロサンプリングチップのさらに他の実施例を示す断面図である。
【
図5】マイクロサンプリングチップのさらに他の実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明に係るマイクロサンプリングチップの実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1に示されているように、以下に説明する実施例のマイクロサンプリングチップ1(以下、単にチップ1という。)は、検査装置100の先端に着脱可能に取り付けられて使用される使い捨てのチップである。
【0023】
チップ1の構造については後述するが、チップ1は自らがポンプ機能を備えている。そのため、チップ1の先端の吸入口6(
図1等を参照)を介してサンプルを吸入するためのポンプ機構を検査装置100に設ける必要がない。さらには、チップ1にポンプ機能が設けられているため、チップ1の内部空間と検査装置100とを流体的に連通させる必要がない。したがって、チップ1の内部の空間は、先端の吸入口6を介してのみチップ1の外部と流体的に連通し、検査装置100とは流体的に遮断される。このため、チップ1内に吸入されたサンプルが検査装置100に付着することがない。
【0024】
また、チップ1には、電気化学測定のためのセンサ部である測定用電極16(
図2、
図5を参照)、又はサンプル中の特定成分(生化学物質、化学物質)と反応して発色反応を示す発色体22,24(
図3、
図4を参照)が設けられている。検査装置100は、マイクロサンプリングチップ1に設けられた測定用電極16を介してサンプルの電気化学測定を行なうための回路基板、又はマイクロサンプリングチップ1に設けられた発色体22,24の発色度を検出するための光センサとその光センサで得られた信号を解析する回路基板を内部に備えている。
【0025】
【0026】
チップ1は先端側に比べて幅広に形成された基端部2をもち、その基端面に検査装置100の先端部を嵌め込むための窪み4が設けられている。チップ1の基端面の窪み4に検査装置100の先端部が嵌め込まれることにより、検査装置100の先端部の外周面と窪み4の内周面との摩擦力によって検査装置100の先端にチップ1が装着される。
【0027】
なお、チップ1を検査装置100の先端に装着するための構造は上記のものに限定されるものではなく、いかなる構造であってもよい。例えば、チップ1が検査装置100の先端に設けられた窪みと嵌合する突起を備え、その突起が検査装置100の先端に嵌め込まれることによってチップ1が検査装置100の先端に装着されるようになっていてもよい。
【0028】
チップ1の先端にサンプルを吸入するための吸入口6が設けられている。チップ1の基端部2の内部には、吸入口6と流路10を介して流体的に連通するサンプル収容空間7、及びサンプル収容空間7とは隔壁14によって仕切られた空間8が設けられている。サンプル収容空間7及び空間8の基端面(図において上端面)は壁面20によって封止されている。これにより、サンプル収容空間7は吸入口6を介してのみチップ1の外部と流体的に連通しており、空間8は密閉空間となっている。空間8は、例えばチップ1の作成時から予め減圧されている。
【0029】
サンプル収容空間7の基端側端部(図において上端部)と密閉空間8の基端側端部(図において上端部)との間に細い流路12が設けられており、流路12が隔壁14によって閉鎖されている。隔壁14は、例えば薄い(例えば、0.02mm程度の厚さ)ガラス板からなるものであり、チップ1の所定位置、例えば壁面20の隔壁14の近傍の位置が外部から押圧されると破断するように設けられている。隔壁14の表面にはポリマーコーティングが施されていてもよい。隔壁14の表面にポリマーコーティングが施されていることで、隔壁14を破断させる際に破断方向を制御できるとともに、隔壁14をなすガラスが裁割されることを防ぐことができる。また、さらに成形の際の隔壁14のインサートが容易である。チップ1は樹脂成形により作成することができる。その場合、隔壁14は、インサート成形によって流路12に設けることができる。チップ1の材質として、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)が挙げられる。
【0030】
空間8内の圧力は大気圧よりも低い圧力に予め減圧されている。減圧された空間8を形成する方法としては、減圧条件下でチップ1を成形する方法、チップ1を成形した後に空間8を画する壁面に設けた孔から空間8内の空気を吸入して減圧し、その後、空間8の壁面の孔を溶着する方法などが挙げられる。
【0031】
サンプル収容空間7と空間8との間を仕切っている隔壁14が破断すると、サンプル収容空間7内の空気が減圧された空間8へ引き込まれ、サンプル収容空間7内が減圧される。このため、吸入口6をサンプルに浸した状態で隔壁14を破断させると、サンプルが吸入口6からサンプル収容空間7内に吸入される。サンプル収容空間7内へのサンプルの吸入量は、空間8の内部容量や減圧度によって調整することができる。空間8の内部容量は500μL以下とすることができる。これにより、チップ1内に吸入されるサンプルの最大量を500μL以下に規定することができるので、微小量のサンプルの取扱いに適応させることができる。
【0032】
サンプル収容空間7内には、サンプル収容空間7内に吸入されたサンプルの測定を行なうためのセンサ部である測定用電極16が設けられている。測定用電極16は、サンプルに直接的に接触して当該サンプルの電気化学測定を行なうためのものである。測定用電極16は、サンプル収容空間7の基端側の壁面20を貫通して窪み4内に接続端子18として引き出されている。接続端子18は、検査装置100が測定用電極16と電気的な接触をとるためのものである。
【0033】
また、チップ1のサンプル収容空間7には、測定用電極16などのセンサ部に代えて、サンプル中の特定成分(生化学物質、化学物質)と反応して発色反応を示す発色体を設けることができる。
【0034】
図3及び
図4は、サンプル収容空間7内に発色体が設けられたチップ1の内部構造の例をそれぞれ示している。
【0035】
図3の例では、サンプル収容空間7の内壁面に、サンプル中の特定成分と反応して発色反応を示す性質を有する試験液22が発色体として塗布されている。隔壁14を破断させてサンプル収容空間7内にサンプルを吸入させると、サンプルが試験液22に接し、それによって試験液22がサンプル中の特定成分濃度に応じて特定色に発色する。サンプル収容空間7の基端側の壁面20は、試験液22から発せられる光を透過させる透明の材質:例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、汎用ポリスチレン(GPPS)樹脂、AS樹脂(アクリロニトリルとスチレンの共重合化合物))で構成されており、チップ1を先端に保持する検査装置100に搭載された光センサによって試験液22の発色を検出することができる。また、橙色や青色などのプラスチック素材を光学フィルタ(特定波長範囲の光を透過させるバンドパスフィルタ、特定波長よりも長い波長範囲の光を通すロングパスフィルタ)として使用することもできる。
【0036】
サンプル収容空間7の内壁面には、複数種類の試験液22を塗布しておくことができる。それにより、サンプルに対する複数項目の試験を同時に実施することができる。なお、サンプル収容空間7の内壁面に試験液22を塗布する方法としては、成形金型に予め試験液22を塗布しておく方法などが挙げられる。
【0037】
また、
図4の例では、互いに異なる種類の検査試薬が浸み込まされた複数の球体24(例えば濾紙を丸めたもの)がサンプル収容空間7内において同一平面上に設けられている。各球体24は板状(例えば円盤状)の保持部材26の基端側の面(図において上面)に保持されている。保持部材26は、隔壁14が破断したときに吸入口6からサンプル収容空間7へのサンプルの吸入を妨げないように、流体を通過させるための貫通孔28を有する。球体24を保持した保持部材26は、例えばインサート成形によって、サンプル収容空間7内に設けることができる。
【0038】
隔壁14を破断させてサンプル収容空間7内にサンプルを吸入させると、サンプルが発色体である球体24に接し、それによって球体24がサンプル中の特定成分濃度に応じて特定色に発色する。球体24の発色は、チップ1を先端に保持する検査装置100に搭載された光センサによって検出することができる。なお、発色体としての球体24は、必ずしもサンプル収容空間7内に複数設けられている必要はないが、互いに異なる発色反応を示す複数の球体24をサンプル収容空間7内に設けておくことで、サンプルに対する複数項目の試験を同時に実施することができる。そして、複数の球体24がチップ1の基端側から同時に観察できるように同一平面上に設けておくことで、CCDカメラ等の撮像装置によって複数の球体24の発色度を同時に画像として撮像することができ、その画像を解析して複数の球体24の発色度を同時に数値化することが可能となる。
【0039】
以上において説明した実施例では、サンプル収容空間7と減圧された空間8とを仕切る隔壁14が流路12を閉鎖するように設けられているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、
図5に示されているように、空間8の基端側面(図において上面)を封止するように、隔壁14’を設けてもよい。この場合、隔壁14’の直上の壁面をゴムなどの弾性材料からなる板材30で構成しておくことで、壁面30を窪み4側から押圧して隔壁14’を破断させることができる。板材30は、例えばインサート成形によって設けることができる。
【0040】
なお、
図5は、サンプル収容空間7に測定用端子16が設けられている例を示しているが、
図3及び
図4のようにサンプル収容空間7内に発色体が設けられている構造に対して、
図5の隔壁14’の構造を適用することもできる。
【符号の説明】
【0041】
1 マイクロサンプリングチップ
2 基端部
4 窪み
6 吸入口
7 サンプル収容空間
8 空間(密閉空間)
10,12 流路
14,14’ 隔壁
16 測定用電極
18 接続端子
20 壁面
22 試験液(発色体)
24 球体(発色体)
26 保持部材
28 貫通孔
30 板材
100 検査装置