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特許7064088加飾成型用積層フィルム、該フィルムの製造方法、および加飾成型体
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  • 特許-加飾成型用積層フィルム、該フィルムの製造方法、および加飾成型体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】加飾成型用積層フィルム、該フィルムの製造方法、および加飾成型体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20220427BHJP
【FI】
B32B27/00 B
B32B27/00 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021166124
(22)【出願日】2021-10-08
【審査請求日】2021-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2020218119
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳
(72)【発明者】
【氏名】宮本 彩子
(72)【発明者】
【氏名】江草 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小島 知也
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170246(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/198406(WO,A1)
【文献】特開2011-128606(JP,A)
【文献】特開2015-203807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面保護層と基材層とを有する加飾成型用積層フィルムであって、
前記加飾成型用積層フィルムの表面保護層側から測定するマルテンス硬さが100~300N/mmであり、
前記表面保護層はドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を呈し、前記マトリックス(M)が水酸基を有し、光硬化性官能基を有しない(メタ)アクリレート樹脂(a)と光硬化性官能基を有しないイソシアネート系硬化剤(b)との硬化物であり、前記ドメイン(D)がウレタン(メタ)アクリレート(c)および/または重量平均分子量が400~5000の(メタ)アクリレートを含む多官能の活性エネルギー線硬化性成分の硬化物であり、
ドメイン(D)のクルムバイン径が0.05~0.5μmであって、
ドメイン(D)とマトリックス(M)との比率D:Mが5~44:95~56であることを特徴とする、
加飾成型用積層フィルム。
【請求項2】
前記加飾成型用積層フィルムを140℃の引張試験での表面保護層の伸び率が50~200%である、請求項1記載の加飾成型用積層フィルム。
【請求項3】
前記表面保護層のJIS K 7361で規定されるヘイズが5%以下である、請求項1または2に記載の加飾成型用積層フィルム。
【請求項4】
水酸基を有し、光硬化性官能基を有しない(メタ)アクリレート樹脂(a)と、光硬化性官能基を有しないイソシアネート系硬化剤(b)と、ウレタン(メタ)アクリレート(c)および/または重量平均分子量が400~5000の(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性成分と、有機溶剤とを含む保護剤を、
基材層に塗工し、乾燥し、前記(メタ)アクリレート樹脂(a)の少なくとも一部を前記イソシアネート系硬化剤(b)と反応させた後、
活性エネルギー線を照射し、前記活性エネルギー線硬化性成分を硬化し、表面保護層を形成する、
請求項1~3いずれか1項に記載の加飾成型用積層フィルムを製造する方法。
【請求項5】
水酸基を有し、光硬化性官能基を有しない(メタ)アクリレート樹脂(a)と、光硬化性官能基を有しないイソシアネート系硬化剤(b)と、ウレタン(メタ)アクリレート(c)および/または重量平均分子量が400~5000の(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性成分と、有機溶剤とを含む保護剤を、
離形フィルムに塗工し、乾燥し、前記(メタ)アクリレート樹脂(a)の少なくとも一部を前記イソシアネート系硬化剤(b)と反応させた後、
活性エネルギー線を照射し、前記活性エネルギー線硬化性成分を硬化し、表面保護層を形成し、
次いで、接着剤層を介して前記表面保護層を基材層に貼り合わせる、
請求項1~3いずれか1項に記載の加飾成型用積層フィルムを製造する方法。
【請求項6】
被加飾体と、前記被加飾体の少なくとも一部を被覆する請求項1~3いずれか1項に記載の加飾成型用積層フィルムとを具備する加飾成型体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の硬さおよび海島構造を呈する表面保護層を有する加飾成型用積層フィルム、該フィルムの製造方法、および加飾成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の携帯情報端末機器、ノート型パソコン、家電製品、自動車内外装部品などには樹脂成型品が多く用いられている。これらの樹脂成型品の最表面にはハードコート層等の表面保護層が、スプレー塗装やディッピング塗装によって設けられたり、ハードコート層を予め設けた加飾用フィルムを成型時に一体化することにより設けられたりしている。
【0003】
特許文献1には、アクリル系樹脂(A)からなる層と、脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)からなる層とを、各々少なくとも1層有する多層体を、前記2種類の樹脂を共押しして得る旨記載されている。
特許文献2にはカルボキシル基と水酸基を有し、固形分酸価が15~150mgKOH/gであり、固形分水酸基価が2~80mgKOH/gであり、ガラス転移温度が70~140℃であるビニル系重合体と、ポリイソシアネート化合物を含有し、ポリイソシアネート化合物の含有量がビニル系重合体の固形分水酸基価2~80mgKOH/gと反応する含有量である熱成型用の加飾フィルム向け硬化性樹脂組成物が開示されている。
特許文献3には、基材フィルム上に、樹脂を含有する表面保護層を設けてなる成型用積層ハードコートフィルムであって、23℃、50%RHの雰囲気下における伸び率が10%以上である成型用積層ハードコートフィルムが開示されている。ハードコート層に含まれる樹脂として、活性エネルギー線硬化性樹脂の利用が開示されている。
特許文献4には、電離放射線硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを特定割合で含有する樹脂組成物を架橋硬化した表面保護層を基材上に有する加飾シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-161871号公報
【文献】特開2012-097248号公報
【文献】特開2012-210755号公報
【文献】特開2007-290392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加飾成型用積層フィルムは、例えば自動車の内装および外層に用いられる用途もあるため優れた意匠性が要求される一方、3次元成型できる優れた成型性も求められる。加えて成形後は高度な耐擦性、耐薬品性(耐日焼け止めクリーム性等)が求められる。さらに屋外での使用を想定し、砂や石がぶつかっても傷が付きにくく、仮に傷が付いても目立たないことが求められる(耐チッピング性)。ところで、耐チッピング性には瞬間的な衝撃に対する抵抗力が必要であり、塗膜の単純な硬質化と柔軟化とのバランスを取るだけでは解決できない課題であり、上記特許文献1~4においてもこれらの特性を全て満足するものは無かった。
【0006】
本発明は上記背景に鑑みて成されたものであり、成型性に優れる加飾成型用積層フィルムであって、耐チッピング性、耐擦性、および耐薬品性に優れる加飾成型体を形成できる加飾成型用積層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、加飾成型用積層フィルムの表面保護層側が特定のマルテンス硬さを呈し、表面保護層が特定のクルムバイン径の島を特定比率で有することで前記課題を解決した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[7]に関する。
【0008】
[1] 表面保護層と基材層とを有する加飾成型用積層フィルムであって、
前記加飾成型用積層フィルムの表面保護層側から測定するマルテンス硬さが100~300N/mmであり、
前記表面保護層はドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を呈し、
ドメイン(D)のクルムバイン径が0.05~0.5μmであって、
ドメイン(D)とマトリックス(M)との比率D:Mが5~44:95~56であることを特徴とする、
加飾成型用積層フィルム。
【0009】
[2] 前記マトリックス(M)が水酸基を有し、光硬化性官能基を有しない(メタ)アクリレート樹脂(a)と光硬化性官能基を有しないイソシアネート系硬化剤(b)との硬化物であり、
前記ドメイン(D)がウレタン(メタ)アクリレート(c)および/または重量平均分子量が400~5000の(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性成分の硬化物である、[1]記載の加飾成型用積層フィルム。
【0010】
[3] 前記加飾成型用積層フィルムを140℃で引っ張った場合の表面保護層の伸び率が50~200%である、[1]または[2]記載の加飾成型用積層フィルム。
【0011】
[4] 前記表面保護層のJIS K 7361で規定されるヘイズが5%以下である、[1]~[3]いずれか1項に記載の加飾成型用積層フィルム。
【0012】
[5] 水酸基を有し、光硬化性官能基を有しない(メタ)アクリレート樹脂(a)と、光硬化性官能基を有しないイソシアネート系硬化剤(b)と、ウレタン(メタ)アクリレート(c)および/または重量平均分子量が400~5000の(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性成分と、有機溶剤とを含む保護剤を、
基材層に塗工し、乾燥し、前記(メタ)アクリレート樹脂(a)の少なくとも一部を前記イソシアネート系硬化剤(b)と反応させた後、
活性エネルギー線を照射し、前記活性エネルギー線硬化性成分を硬化し、表面保護層を形成する、
[2]~[4]いずれか1項に記載の加飾成型用積層フィルムを製造する方法。
【0013】
[6] 水酸基を有し、光硬化性官能基を有しない(メタ)アクリレート樹脂(a)と、光硬化性官能基を有しないイソシアネート系硬化剤(b)と、ウレタン(メタ)アクリレート(c)および/または重量平均分子量が400~5000の(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性成分と、有機溶剤とを含む保護剤を、
離形フィルムに塗工し、乾燥し、前記(メタ)アクリレート樹脂(a)の少なくとも一部を前記イソシアネート系硬化剤(b)と反応させた後、
活性エネルギー線を照射し、前記活性エネルギー線硬化性成分を硬化し、表面保護層を形成し、
次いで、接着剤層を介して前記表面保護層を基材層に貼り合わせる、
[2]~[4]いずれか1項に記載の加飾成型用積層フィルムを製造する方法。
【0014】
[7] 被加飾体と、前記被加飾体の少なくとも一部を被覆する、[1]~[4]いずれか1項に記載の加飾成型用積層フィルムとを具備する加飾成型体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、様々な形状に対応可能な優れた成形性を有する加飾成型用積層フィルムを提供できる。またこれを用いた加飾成形体は表面に薬品が触れても変色や白化が起こりにくく、過酷な環境においても傷がつきにくい、高い意匠性を有する加飾成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】表面保護層の断面のSPM測定の弾性率像。
図2】画像処理ソフトによるドメイン(D)の解析画像。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本明細書において特定する数値「A~B」とは、数値A以上B以下を示す。また、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよびメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを意味する。
また、活性エネルギー線硬化性成分を光硬化性成分と略すこともある。
本明細書の重量平均分子量は、東ソ-製GPC(ゲルパ-ミエ-ションクロマトグラフィ-)を用いて測定した値である。詳細は実施例の欄に記載する。
【0018】
<加飾成型用積層フィルム>
本発明の加飾成型用積層フィルムは、少なくとも表面保護層と基材層を具備し、表面保護層側から測定するマルテンス硬さが100~300N/mmであって、150~250N/mmがより好ましい。マルテンス硬さが100N/mm以上であることにより、スチールウールで擦っても傷が付きにくくなり、300N/mm以下であることにより、耐チッピング性と伸長性が良好となる。
尚、マルテンス硬さは超微小硬度計として、フィッシャー・インストルメンツ社製の「フィッシャースコープ H-100C」を用い、本発明の加飾成型用積層フィルムの表面保護層に対して、Vickers圧子(四角錐)を3mNの力で押し込み5秒間保持させた際の値である。また、端子の押し込み深さは表面保護層の厚みを超えてはならない。表面保護層の厚みに対して、5%~50%分に相当する距離を押し込み深さとすることが好ましい。
マルテンス硬さは、後述するウレタン(メタ)アクリレート(c)等の分子量を下げたり、または1分子辺りの官能基数(アクリレート基)を上げたりすることで上昇し、ウレタン(メタ)アクリレート(c)等の分子量を上げたり、または1分子辺りの官能基数を下げたりすることで減少する。
【0019】
<表面保護層>
表面保護層は、ドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を呈する。本発明における海島構造は、表面保護層の断面を走査型プローブ顕微鏡(以下SPMと省略する場合がある)で観察し、検出される弾性率の違いによって特定されるものである。
SPMとは、試料表面を微小な探針(カンチレバー)でタッピングしながら走査することによって、表面状態を観察する顕微鏡である。凹凸に代表されるような一般的な表面形状の他、タッピングの際に発生する電圧のピーク値は測定表面の弾性率と対応するため、該電圧ピーク値により表面の弾性率の大小を像として表現することができる。
具体的には表面保護層の断面をオックスフォードインストゥルメンツ社のMFP-3Dを用い、カンチレバー:AC-160TS、ダイナミック測定モードで観察する。測定範囲は2μm×2μm範囲とし弾性率像を観察する。SPMで観察する断面を得る方法として、液体窒素等で凍結させた対象サンプルを割る(凍結割断法)、カミソリのような鋭利な刃物で対象サンプルを切断する(ミクロトーム法)、カッター等で切り出した対象サンプルの断面を研磨紙によって整える、クロスセクションポリッシャー装置によりイオンビームを試料に照射して加工を行う方法(イオンミリング法)があり、種々の方法で断面を得ることが出来るが、これらの中でもイオンミリング法が最も好ましい。
【0020】
ところで、無機フィラーや有機フィラーを樹脂中に分散した状態を広義には海島構造ということがある。また、本発明における表面保護層は、無機フィラーや有機フィラーを含むことができる。しかし、無機フィラーや有機フィラーは、本発明におけるマトリックス(M)、ドメイン(D)のいずれの概念にも含まれない。その点で、本発明における海島構造は一般的な意味での海島構造とは少々異なる。
即ち、無機フィラーや有機フィラーを含む表面保護層の断面を観察すると、前記フィラーによる凹凸が観察される。フィラーの大きさにもよるが、観察される凹凸は小さくとも5nm以上である。5nm以上の凹凸として観察される島は、本発明におけるドメイン(D)の概念には含めないものとする。本発明におけるドメイン(D)とは、凹凸としては検出されないが、弾性率の違いによって検出される島をいうものとする。
【0021】
凹凸では海島構造が観察されず、弾性率の違いによって海島構造が観察される表面保護層は、例えば、水酸基を有し、光硬化性官能基を有しない(メタ)アクリレート樹脂(a)と、光硬化性官能基を有しないイソシアネート系硬化剤(b)と、ウレタン(メタ)アクリレート(c)および/または重量平均分子量が400~5000の(メタ)アクリレートを含む光硬化性成分と、有機溶剤とを含む保護剤を用いることによって形成できる。形成できる理由や機構は解明できてはいないが、以下のように推測している。
即ち、後述するように均一だった保護剤を基材や離形フィルムに塗工し、乾燥する際、前記(メタ)アクリレート樹脂(a)と前記イソシアネート系硬化剤(b)とが反応し、マトリックス(海)を形成する過程で、均一だった保護剤から前記光硬化性成分の一部が徐々に分離し、将来ドメイン(島)となる予定のドメイン(島)前駆部を形成する。前記(メタ)アクリレート樹脂(a)と前記イソシアネート系硬化剤(b)と反応がある程度進行した後、活性エネルギー線を照射することによって、ドメイン(島)前駆部およびマトリックス(海)中に含まれる前記光硬化性成分を硬化することによって、凹凸では海島構造が観察されず、弾性率の違いによって海島構造が観察される表面保護層が形成されるのではないかと考えている。
つまり、ウレタン(メタ)アクリレート(c)および/または重量平均分子量が400~5000の(メタ)アクリレートを含む光硬化性成分は、前記(メタ)アクリレート樹脂(a)と適度に親和するので、全体が均一で透明な保護剤を形成できる。そして、「ウレタン」結合を有したり、ある程度の分子量を有したりするが故に、前記(メタ)アクリレート樹脂(a)と前記イソシアネート系硬化剤(b)との硬化反応の過程で、相溶性が低下し、微視的に見ると一種の分離が生じ、マトリックス(海)と高低差のほとんどないドメイン(島)が形成されるものと推測している。
【0022】
表面保護層がこのような特異な海島構造を呈することによって、前記(メタ)アクリレート樹脂(a)と前記イソシアネート系硬化剤(b)との硬化反応の過程で光硬化性成分の相溶性が低下しない場合や、有機フィラーを単に配合した場合よりも、高度な成形性と耐チッピング性と耐薬品性を付与することができる。有機フィラーを単に配合した場合、有機フィラーとマトリックス(海)と界面で光の乱反射が生じやすいが、本発明における海島構造の場合は、ドメイン(島)とマトリックス(海)との境界での光の乱反射も少なく高い透明性を発現できる。
【0023】
<クルムバイン径、およびドメイン(D)とマトリックス(M)との比率>
本発明における表面保護層のドメイン(D)のクルムバイン径は0.05~0.5μmであって、ドメイン(D)とマトリックス(M)の比率D:Mは5~44:95~56である。なお、両者の比率に関して、ドメイン(D)の比率に着目し、ドメイン(D)の比率が5~44%である、ということがある。
ドメイン(D)のクルムバイン径、およびドメイン(D)の比率を上記範囲とすることで、耐薬品性と成形性と耐チッピング性を高度な次元で両立できる効果が得られる。
【0024】
クルムバイン径とは、各ドメイン(D)を横断する最も長い直線で結ばれる2点間の距離の平均値であり、0.05~0.3μmが好ましく、0.08~0.15μmがより好ましい。具体的には、任意の3箇所の2μm×2μmの範囲に確認される全てのドメイン(D)それぞれについて、前記の「最も長い直線で結ばれる2点間の距離」を求め、その平均を求める。
クルムバイン径は、後述するウレタン(メタ)アクリレート(c)の重量平均分子量(以下、Mw)を大きくすると大きくなる傾向にある。また、保護剤に用いる溶剤(S)の組成を変化させることでもその大きさをコントロール出来る。具体的にはケトン系溶剤を用いるとクルムバイン径が小さくなり、アルコール系溶剤を用いることによりクルムバイン径を大きく調整することが可能である。
クルムバイン径は、上述したSPM観察画像においてドメイン(D)とマトリックス(M)の境界面が視認できるため、これをMac-View Ver.4(マウンテック社)の解析ソフトを用いて画像解析することで測定できる。
【0025】
ドメイン(D)の比率は、上記のSPMによる弾性率像をMac-View Ver.4(マウンテック社)の解析ソフトによって計測するドメイン(D)の面積、およびマトリックス(M)の面積を用いて、下記数式(1)から求められる。
ドメイン(D)の面積とは観察像内の各ドメイン(D)の面積の合計であり、マトリックス(M)の面積とは、観察領域の面積から観察像内の各ドメイン(D)の合計面積、無機フィラーの合計面積、および有機フィラーの合計面積を除いたものである。
表面保護層が無機フィラーや有機フィラーを含む場合、それらの存在は前述の通り凹凸として検出される。凹凸像の検出は、SPMによる弾性率像と同時に行われる。そこで、観察領域の面積から凹凸像として検出される無機フィラーのドメインや有機フィラーのドメインの占める面積を差し引き、これを弾性率像の観察による観察領域の面積、即ち、各ドメイン(D)の面積の合計とマトリックス(M)の面積との合計とする。
ドメイン(D)の比率(%)=各ドメイン(D)の面積の合計×100/(各ドメイン(D)の面積の合計+マトリックス(M)の面積)・・・数式(1)
【0026】
ドメイン(D)の比率は、各ドメイン(D)の大きさと個数から調整できる。ドメイン(D)の比率は5~44%であり、5~30%が好ましく、10~20%がより好ましい。
各ドメイン(D)の大きさは、後述する(メタ)アクリレート樹脂(a)のMwを大きくしたり、または水酸基価を高くしたりすることによって大きくできる。
【0027】
また、表面保護層の透明性(ヘイズ値)は、加飾成型用積層フィルムの意匠性を高める観点から5%以下が好ましく、で3.5%以下がより好ましく、1.5%以下がさらに好ましく、0.5%未満が最も好ましい。ドメイン(D)のクルムバイン径および比率を上記の範囲とすることで、光の散乱を抑制し透明性を高めることができる。
【0028】
表面保護層は保護剤を用いて形成する。保護剤は、適度に親和性のある複数の成分と、前記成分のうち少なくとも一種と反応し得る硬化剤および溶剤(s)を含むことが好ましい。上記成分は目的に応じて適宜選定できるが中でも、水酸基を有し、光硬化性官能基を有しない(メタ)アクリレート樹脂(a)と、イソシアネート系硬化剤(b)と、ウレタン(メタ)アクリレート(c)および/または重量平均分子量が400~5000の(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性成分とを含むことが好ましい。この場合、水酸基を有し、光硬化性官能基を有しない(メタ)アクリレート樹脂(a)とイソシアネート系硬化剤(b)の硬化物がマトリックス(M)を形成し、ウレタン(メタ)アクリレート(c)および/または重量平均分子量が400~5000の(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性成分の硬化物がドメイン(D)を形成する。以下、各成分について詳細を説明する。
【0029】
<水酸基を有し、光硬化性官能基を有しない(メタ)アクリレート樹脂(a)>
前記(メタ)アクリレート樹脂(a)は、水酸基を有する(メタ)アクリレート系モノマーと水酸基を有さない他の(メタ)アクリレート系モノマーとを共重合することにより得られる。即ち、(メタ)アクリレート樹脂(a)は、水酸基を有する(メタ)アクリレート系モノマー由来のユニットと他の(メタ)アクリレート系モノマー由来のユニットからなる共重合体である。
【0030】
水酸基を有する(メタ)アクリレート系モノマーは、その水酸基が一級水酸基であることが好ましい。
一級水酸基であることにより後述するイソシアネート系硬化剤(b)との反応も円滑に進み加飾成型用積層フィルムの品質が安定化する。さらに(メタ)アクリレート樹脂(a)とイソシアネート系硬化剤(b)との反応が密になりやすく、ウレタン(メタ)アクリレート(c)との相分離が円滑に進む。
【0031】
水酸基を有する(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートや前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートにε-カプロラクトンが付加した化合物などが挙げられ、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0032】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのアルキル基の炭素数が1~4のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートにε-カプロラクトン付加した化合物の具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクトン1モル付加物、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクトン2モル付加物、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクトン3モル付加物などの炭素数が1~4のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε-カプロラクトン付加物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
これらの水酸基含有モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、併用してもよい。イソシアネート硬化剤で架橋した際に分子間の距離が比較的近しく、耐擦性や耐薬品性が向上する観点から2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0033】
水酸基を有しない他の(メタ)アクリレート系モノマーとしては、次に示すような種々のモノマーを挙げることができる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、tert-ブチルヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、2-アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
脂環式炭化水素基を有するモノマーとしては、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0034】
エポキシ基を有するモノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレート、α-メチルグリシジルアクリレート、α-メチルグリシジルメタクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0035】
前記(メタ)アクリレート樹脂(a)は、前記した種々のモノマーのうち、メタクリレート系のモノマーを重合してなるものであることが好ましい。特に、耐擦性と成形性、耐薬品性の観点から、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレートが好ましく、さらにウレタン(メタ)アクリレート(c)との相分離の観点からエチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレートが好ましく、程よい柔軟性のため耐チッピング性が良化するエチルメタクリレートが最も好ましい。
【0036】
前記(メタ)アクリレート樹脂(a)の水酸基価は、5~190mgKOH/gが好ましく、55~150mgKOH/gがより好ましく、70~120mgKOH/gがさらに好ましい。好ましい範囲にあることで、よりウレタン(メタ)アクリレート(c)と相分離しやすく海島構造を形成しやすい。
なお、水酸基価は固形分水酸基価を表し、JIS K1557-1に則り測定した値である。
【0037】
前記(メタ)アクリレート樹脂(a)は、酸価を有していてもよい。酸価を有することで、水酸基とイソシアネートとの反応が促進され、未反応物を低減することができる。
酸価を付与する場合、(メタ)アクリレート樹脂(a)の酸価は20mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価を有することで(メタ)アクリレート樹脂(a)とウレタン(メタ)アクリレート(c)との相溶性を高めてしまい、海島構造が安定して形成しづらくなるためである。
前記(メタ)アクリレート樹脂(a)に酸価を付与する方法としては、酸価を有するモノマーと他のモノマーとを共重合することにより得られる。酸価を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-ヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドフォスフェートなどが上げられる。
なお、酸価は固形分酸価を表し、JIS K1557-5に則り測定した値である。
【0038】
前記(メタ)アクリレート樹脂(a)のガラス転移温度が20℃~120℃以下が好ましい。ガラス転移温度が20℃以上であることにより、良好な耐擦傷性と耐擦性が得られ、120℃以下であることにより、成型性が向上する。前記(メタ)アクリレート樹脂(a)のガラス転移温度は、前記水酸基を有する(メタ)アクリレート系モノマーとともに共重合する他の(メタ)アクリレート系モノマーの種類と共重合比によって決まる。
なお、ここで示すガラス転移温度とは、前記(メタ)アクリレート樹脂(a)の固形分100%について、示差走査熱量分析(DSC)によって測定したガラス転移温度のことをいう。
【0039】
前記(メタ)アクリレート樹脂(a)の重量平均分子量(Mw)は50,000~500,000が好ましく、100,000~300,000がより好ましい。重量平均分子量を50,000以上とすることにより、成型性と耐擦性が向上し、500,000以下であることにより、ゲル物の生成を防止して、表面平滑性の良好な表面保護層を得ることができる。
【0040】
前記(メタ)アクリレート樹脂(a)の多分散度(Mw/Mn)は2.3~10であることが好ましい。重量平均分子量が同程度の重合体を比べた場合、多分散度が小さい重合体に含まれる低分子量成分は相対的に少なく、多分散度が大きい重合体には低分子量成分が相対的に多く含まれる。重合体中には硬化反応に直接関与しない分子も含まれ得る。硬化反応に直接関与しない分子のうち、低分子量成分は可塑剤として働くため、多分散度により硬化後の膜物性が大きく変化する。すなわち、多分散度が2.3以上であることで、硬化塗膜の架橋密度を適度に低下し成型性が良化する。一方、多分散度が10以下であることで、硬化塗膜の可塑性を適度に抑制し、耐擦性を保つことができる。多分散度は、2.3~9であることがより好ましく、さらに、2.3~8であることがより好ましい。
【0041】
(メタ)アクリレート系モノマーを重合させる方法としては、例えば、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法などが挙げられるが、得られる反応混合物をそのまま使用することができることから、溶液重合法が好ましい。
【0042】
(メタ)アクリレート系モノマーを溶液重合させる際に用いられる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;n-ブチルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ダイアセトンアルコール、エチルセロソルブなどのアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテートなどのエステル系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジメチルホルムアミドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。溶媒の量は、単量体混合物の濃度、目的とする(メタ)アクリレート樹脂の分子量などに応じて適宜決定することが好ましい。
表面保護層形成時にケトン系溶媒とアルコール系溶媒を併用することでドメインサイズの調整が可能であるため、合成時にはケトン系溶媒又はアルコール系溶媒を使用する事が好ましい。
【0043】
重合開始剤の例としては、アゾ系化合物や有機過酸化物などが挙げられる。アゾ系化合物としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルや2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン1-カルボニトリル)や2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)やジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリック酸)や2,2’-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]などが挙げられる。また、アゾ系化合物としては、過酸化ベンゾイルやtert-ブチルパーベンゾエート、クメンヒドロパーオキシドやジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネートやジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシネオデカノエートやtert-ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシドやジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシドなどが挙げられる。
本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0044】
<イソシアネート系硬化剤(b)>
イソシアネート系硬化剤(b)は、前述の水酸基を有し、光硬化性官能基を有しない(メタ)アクリレート樹脂(a)中の架橋性官能基である水酸基と反応し、マトリックス(M)を形成するために用いる。前記(メタ)アクリレート樹脂(a)とイソシアネート系硬化剤(b)の配合比は、イソシアネート系硬化剤(B)中のイソシアネート基と前記アクリル系共重合体(A)中の水酸基とのmol比が、NCO/OH=0.5/1~3/1であることが好ましく、NCO/OH=1.01/1~1.5/1がより好ましい。特に水酸基1molに対しイソシアネート基が1molを超えることにより、前記アクリル系共重合体(a)中の水酸基とイソシアネート系硬化剤(b)との架橋反応が円滑に進行し、相分離化が進み、耐薬品性と耐チッピング性の良好な表面保護層が得られる。水酸基1molに対しイソシアネート基が3mol以下であることにより、過度の架橋反応を抑制して、成形性が良化する。水酸基1molに対しイソシアネート基が0.5mol以上であることにより、架橋による耐薬品性向上とドメイン(D)の相分離が促される効果が明確にみられる。
【0045】
イソシアネート系硬化剤(b)は、一分子中に2個以上のイソシアネート基を有することが好ましく、骨格は例えば、芳香族イソシアネート、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート等が挙げられる。中でも、成型加飾フィルムの黄変を防止する点から、脂肪族のイソシアネート系硬化剤を用いることが好ましい。イソシアネート系硬化剤(b)は、1種類でもよく、2種類以上の硬化剤を併用してもよい。また、本発明の加飾フィルムの物性に影響を与えない範囲で、他の水酸基と反応する硬化剤を用いてもよい。
【0046】
芳香族イソシアネートとしては、1,3-フェニレンジイソシアネート、4,’-ジフェニルジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-トルイジンジイソシアネート、2,4,6-トリイソシアネートトルエン、1,3,5-トリイソシアネートベンゼン、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’,4”-トリフェニルメタントリイソシアネート等が挙げられる。
【0047】
脂肪族イソシアネートとしては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0048】
脂環族イソシアネートとしては、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等が挙げられる
【0049】
これらイソシアネート系硬化剤はさらに、上記イソシアネートとトリメチロールプロパン等のポリオール化合物とのアダクト体、上記イソシアネートのビュレット体やイソシアヌレート体、更には上記イソシアネートと公知のポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等とのアダクト体として用いることが好ましい。
【0050】
これらイソシアネート系硬化剤(b)の中でも、意匠性の観点から、低黄変型の脂肪族または脂環族のイソシアネートが好ましく、硬化被膜の被膜強度の観点からは、アダクト体が好ましい。より具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のアダクト体、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)のアダクト体が好ましい。また、これらの混合体も好適に用いられる。
【0051】
また、本発明では、保護剤の保存安定性の観点から、ブロック化イソシアネート硬化剤を用いてもよい。ブロック化イソシアネート硬化剤としては、上記の非ブロック化イソシアネート硬化剤を種々のブロック化剤でブロックしたものが用いられ、ブロック化剤としては80℃~120℃程度の比較的低温で乖離するものが好ましい。また、非ブロック化イソシアネート硬化剤を用いる場合には、水酸基を有する(メタ)アクリル樹脂(a)とイソシアネート系硬化剤(b)とは別々にパッケージングして、使用する直前に混合して使用する方法が好適に用いられる。
【0052】
<活性エネルギー線硬化性成分(光硬化性成分)>
本発明における光硬化性成分は、ドメイン(D)を形成するものであり、ウレタン(メタ)アクリレート(c)および/または重量平均分子量が400~5000の(メタ)アクリレートを含む。
<ウレタン(メタ)アクリレート(c)>
ウレタン(メタ)アクリレートとは、イソシアネート基を有する化合物と、水酸基を有する(メタ)アクリレートとの反応生成物であり、分子の末端に(メタ)アクリロイル基を有する。イソシアネート基を有する化合物としては、多官能のものを用い、水酸基を1個有する(メタ)アクリレートを反応させたり、単官能のイソシアネート基を有する化合物を用い、水酸基を複数有する(メタ)アクリレートを反応させたりして、(メタ)アクリロイル基を複数有するウレタン(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。ジオール類、ジアミン類で延長することもできる。(メタ)アクリロイル基を複数有すウレタン(メタ)アクリレートリゴマーは、(メタ)アクリレート由来の不飽和炭素結合により、紫外線や電子線等の活性エネルギーにより速やかに硬化する。得られた硬化物は、架橋密度が高く耐薬品性に優れている。ラジカル重合性の架橋成分を紫外線等により架橋させる場合には、光重合開始剤を用いる事ができ、さらに重合促進剤を併用することも可能である。電子線により架橋させる場合においてはこれらを配合しなくても良い。
【0053】
ウレタン(メタ)アクリレート(c)の重量平均分子量(Mw)は300~4000が好ましい。4000以下であることで、(メタ)アクリレート樹脂(a)との相溶性が低下し、海島構造を形成しやすくなり、300以上であることによってドメイン(D)の柔軟性が向上し、加飾成型用積層フィルムを成型した後も耐薬品性を高レベルで維持できる。これはマトリックス(M)の形状変形と共にドメイン(D)が変形しやすくなるためである。
Mwの大きなウレタン(メタ)アクリレート(c)は、種々のジオール類やジアミン類と比較的低分子量のイソシアネート基を有する化合物とを反応させてなるイソシアネート基を有するプレポリマーを、水酸基を有する(メタ)アクリレートと反応させることによって得ることができる。
【0054】
ジオール類としては、直鎖状脂肪族構造を有するジオールや分岐鎖状脂肪族構造を有するジオールが挙げられる。ジアミン類としては、同様に直鎖状脂肪族構造を有するジアミンや分岐鎖状脂肪族構造を有するジアミンの他、脂環族構造を有するジアミン等が挙げられる。
【0055】
ウレタン(メタ)アクリレート(c)の形成に用いられる水酸基を1個有するヒドロキシ(メタ)アクリレート類としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-クロロプロピル(メタ)アクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アリルオキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシ-3-アリルオキシプロピル、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0056】
ウレタン(メタ)アクリレート(c)の形成に用いられる水酸基を複数有するヒドロキシ(メタ)アクリレート類としては、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0057】
ウレタン(メタ)アクリレート(c)の形成に用いられるイソシアネート基を有する化合物としては、光硬化性官能基を有しないイソシアネート系硬化剤(b)として例示したものを同様に例示できる。
さらに、ウレタン(メタ)アクリレート(c)の形成に用いられるイソシアネート基を有する化合物としては、、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチルイソシアナート、1,1-(ビス(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等のように、イソシアネート基と(メタ)アクリロイル基とを有する化合物も例示できる。
【0058】
<重量平均分子量が400~5000の(メタ)アクリレート>
重量平均分子量が400~5000の(メタ)アクリレート(以下、オリゴマーということもある)もドメイン(D)の形成のために用いることができる。
例えば、カルボキシ基を有するポリエステルを形成し、該ポリエステル中のカルボキシ基にグリシジル(メタ)アクリレートを反応させることにより、(メタ)アクリロイル基を有するポリエステルが得られる。末端だけにカルボキシ基を導入したポリエステルを用いれば(メタ)アクリロイル基を末端だけに導入できる。末端および側鎖にカルボキシ基を導入したポリエステルを用いれば(メタ)アクリロイル基を末端および側鎖に導入できる。
あるいは、カルボキシ基を有する(メタ)アクリレートと他の(メタ)アクリレート等を共重合し共重合体を得、該共重合体中のカルボキシ基にグリシジル(メタ)アクリレートを反応させることにより、(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーを得たり、グリシジル(メタ)アクリレートと他の(メタ)アクリレート等を共重合し共重合体を得、該共重合体中のグリシジル基に(メタ)アクリル酸を反応させることにより、(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーを得たりすることができる。
あるいは、水酸基を有し、光硬化性官能基を有しない(メタ)アクリレートと他の(メタ)アクリレート等を共重合し共重合体を得、該共重合体中の水酸基に、イソシアネート基と(メタ)アクリロイル基とを有する化合物を反応させることにより、(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーを得ることもできる。
【0059】
本発明における光硬化性成分は、水酸基を有し、光硬化性官能基を有しない(メタ)アクリレート樹脂(a)と光硬化性官能基を有しないイソシアネート系硬化剤(b)との反応によるマトリックス(M)形成の際の、
ウレタン(メタ)アクリレート(c)や重量平均分子量が400~5000の(メタ)アクリレートの相分離を損なわない範囲で、前記ウレタン(メタ)アクリレート(c)や前記(メタ)アクリレート以外のその他(メタ)アクリレート系モノマーを含むことができる。
【0060】
保護剤は、光硬化性成分の光重合を促進するため光重合開始剤を含むことが好ましい。光重合開始剤としては例えば以下のものが挙げられる。
ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルメチルケタール、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン}、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン等のアセトフェノン類;
ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;
2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド等のホスフィン類;
その他フェニルグリオキシリックメチルエステル等が挙げられるが、これらに限定されない。
より具体的には、イルガキュアー651、イルガキュアー184、ダロキュアー1173、イルガキュアー500、イルガキュアー1000、イルガキュアー2959、イルガキュアー907、イルガキュアー369、イルガキュアー379、イルガキュアー1700、イルガキュアー149、イルガキュアー1800、イルガキュアー1850、イルガキュアー819、イルガキュアー784、イルガキュアー261、イルガキュアーOXE-01(CGI124)、CGI242(BASF社)、アデカオプトマーN1414、アデカオプトマーN1717(ADEKA社)、EsACure1001M(LAmBerti社)、ジアゾニウム化合物公報、有機アジド化合物、オルト-キノンジアジド類、ヨードニウム化合物をはじめとする各種オニウム化合物、金属アレーン錯体、ルテニウム等の遷移金属を含有する遷移金属錯体、アルミナート錯体、2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体、四臭化炭素や有機ハロゲン化合物、スルホニウム錯体またはオキソスルホニウム錯体、アミノケトンオキシムエステル化合物等が挙げられる。
【0061】
また、光重合開始剤として、水素引き抜き型のラジカル開始剤を用いることが可能であり、具体的には、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーケトン、チオキサントン、またはアントラキノン等の芳香族ケトン類が挙げられるが、これらに限定されない。こられの化合物は、3級アミンを併用することが当技術分野では一般的であり、具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、p-ジメチルアミノフェニルアルキルエステルなどが挙がられるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
光重合開始剤としては、これらの中でも、好ましくは、アセトフェノン類、ホスフィンオキサイド類などを用いることができる。
【0063】
光重合開始剤は、単独または複数の組み合わせで使用することが可能であり、反応硬化物に求める特性や活性エネルギー線により硬化する化合物に応じて、任意に混合使用が可能である。これらの光重合開始剤を用いる場合の使用量は、ウレタン(メタ)アクリレート(c)等を含む活性エネルギー線硬化性成分の固形分の合計100質量部に対して、0.1~50質量部が好ましい。
【0064】
さらに、増感剤を含有させることができる。増感剤としては例えば、カルコン誘導体やジベンザルアセトン等に代表される不飽和ケトン類、ベンジルやカンファーキノン等に代表される1,2-ジケトン誘導体、ベンゾイン誘導体、フルオレン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、キサンテン誘導体、チオキサンテン誘導体、キサントン誘導体、チオキサントン誘導体、クマリン誘導体、ケトクマリン誘導体、シアニン誘導体、メロシアニン誘導体、オキソノ- ル誘導体等のポリメチン色素、アクリジン誘導体、アジン誘導体、チアジン誘導体、オキサジン誘導体、インドリン誘導体、アズレン誘導体、アズレニウム誘導体、スクアリリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、テトラフェニルポルフィリン誘導体、トリアリールメタン誘導体、テトラベンゾポルフィリン誘導体、テトラピラジノポルフィラジン誘導体、フタロシアニン誘導体、テトラアザポルフィラジン誘導体、テトラキノキサリロポルフィラジン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、サブフタロシアニン誘導体、ピリリウム誘導体、チオピリリウム誘導体、テトラフィリン誘導体、アヌレン誘導体、スピロピラン誘導体、スピロオキサジン誘導体、チオスピロピラン誘導体、金属アレーン錯体、有機ルテニウム錯体、ミヒラーケトン誘導体、ビイミダゾール誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
ウレタン(メタ)アクリレート(c)等を含む活性エネルギー線硬化性成分の配合量は、(メタ)アクリレート樹脂(a)とイソシアネート(b)とウレタン(メタ)アクリレート(c)等を含む活性エネルギー線硬化性成分の固形分の合計100質量%中、25~49質量%であり、30~40質量%がより好ましい。25質量%以上とすることで耐薬品性や耐チッピング性が向上する。一方、50質量%以下とすることで、海島構造のバランスが良好となり成形性が向上する。
【0066】
<溶剤(s)>
保護剤に使用する溶剤(s)は、公知のものを適宜選択して使用してよく、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテートなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;メチレンクロリド、エチレンクロリドなどのハロゲン化炭化水素類;ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホアミド;水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル-1-メトキシ-2-プロパノールなどのアルコール類などが挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を任意に組み合わせて使用しても良い。特に、本発明のドメイン(D)は溶剤組成でその大小がコントロール可能であり、ケトン類と2級または3級アルコール類とを併用することが好ましく、ケトン類に対する2級または3級アルコール類の質量比が1~10であることがさらに好ましい。質量比を好ましい範囲にすることでマトリックス(M)とドメイン(D)の相分離が促され、所望の海島構造を得ることが可能となる。2級または3級アルコール類はイソシアネート硬化剤との反応性が低く、溶剤としても用いても硬化反応に影響せず使用可能である。
【0067】
保護剤は必要に応じて、無機フィラー、有機フィラー、充填剤、チクソトロピー付与剤、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、熱伝導性改良剤、可塑剤、ダレ防止剤、防汚剤、防腐剤、殺菌剤、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、顔料分散剤、シランカップリング剤等の各種の添加剤をさらに添加してもよい。中でも表面保護層の表面に凹凸を形成しブロッキング防止効果を付与する目的や、表面保護層に強度を与え耐擦性を向上する目的等から、無機フィラーおよび/又は有機フィラーを含むことが好ましい。尚、既に説明したように本発明におけるマトリックス(M)およびドメイン(D)の概念には無機フィラーおよび有機物フィラーは含まれない。
【0068】
無機フィラーの具体例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ジルコニウム、モリブデン、ケイ素、アンチモン、などの金属の酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩などを含有する無機系微粒子が挙げられる。さらに詳細な具体例としては、シリカ、シリカゲル、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、アルミノシリケート、タルク、マイカ、ガラス繊維、ガラス粉末などを含有する無機系粒子が挙げられる。無機フィラーは、1種類で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0069】
有機フィラーの具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン樹脂やポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、メタクリレート樹脂、アクリレート樹脂などのポリマー微粒子、あるいは、セルロースパウダー、ニトロセルロースパウダー、木粉、古紙粉、殻粉、澱粉などが挙げられる。有機フィラーは1種類を用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0070】
上記の無機フィラーおよび有機フィラーは、(メタ)アクリレート樹脂(a)100質量部に対して夫々0.1~20質量部含有することができ、0.5~5質量部含有することが好ましい。含有量が0.1質量部以上とすることにより上記効果が期待でき、20質量部以下とすることにより成型性に優れ、透明性を阻害しない。
【0071】
無機フィラーおよび有機フィラーは、必要に応じて分散剤とともに単に混合して調製しても、十分に目的とする効果が得られるが、ニーダー、ロール、アトライター、スーパーミル、乾式粉砕処理機等により機械的に混合すればさらに良好な効果を得ることができる。
【0072】
<加飾成型用積層フィルムとその製造方法>
本発明の加飾成型用積層フィルムは、特定のマルテンス硬さの表面保護層と基材層とを有するものであり、前述の通り、表面保護層は特定のドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を呈する。
【0073】
<基材層>
基材層は、支持体としての役割を果たすフィルムや支持体としての役割を果たすフィルム上に意匠性付与のための塗料を用いて形成した意匠層、金属層(蒸着膜含む)、接着剤層、偏光層などを設けたものをいう。
支持体としての役割を果たすフィルムそのものとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアクリロニトリルフィルムなどが挙げられ、1種または複数種類が積層されたものを使用することができる。特に、透明性、成型性の観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルムが好ましい。これらのフィルムにおいても、単独で用いることも複数種類が積層されたものを用いることもでき、例えば、ポリカーボネート(PC)上にポリメチルメタクリレート(PMMA)が共押し出しされたPMMA/PCフィルムや、ポリカーボネートフィルムとポリエステルフィルムが接着剤でラミネートされたフィルムなどを用いることもできる。使用用途によりフィルムやその組み合わせを適宜選択して使用することができる。
【0074】
本発明の加飾成型用積層フィルムは、基材層上に保護剤を塗工し、乾燥して製造し、前記(メタ)アクリレート樹脂(a)の少なくとも一部を前記イソシアネート系硬化剤(b)と反応させた後、活性エネルギー線を照射し、前記活性エネルギー線硬化性成分を硬化し、表面保護層を形成することができる。活性エネルギー線照射後、エージングし、前記(メタ)アクリレート樹脂(a)と前記イソシアネート系硬化剤(b)との反応をさらに進めることができる。
【0075】
支持体としての役割を果たすフィルムの軟化温度が60~150℃を基材層として用いる場合、保護剤の乾燥、エージング等の加温される製造工程において、フィルムの弾性率が低下し、変形や寸法変化、ブロッキング等を起こすことがある。そこで、軟化温度の低いフィルムを用いる場合には、表面保護層を接着剤によって基材層上に転写し形成する転写法を採用しても良い。
具体的には、まず、離形フィルムの剥離剤処理面に保護剤を塗工し、乾燥オーブン中に投入し、溶剤を揮発、エージング、硬化させて、表面保護層を得、次いで、接着剤を前記表面保護層上または基材層上に塗工して接着剤層を形成し接着剤層を介して表面保護層と基材層を貼り合わせる。離形フィルムはラミネート後剥離しても良い。
【0076】
保護剤を基材層や離形フィルムに塗工する方法としては、公知の方法を用いることができ、具体的には、コンマコーティング、グラビアコーティング、リバースコーティング、ロールコーティング、リップコーティング、スプレーコーティングなど挙げることができる。
【0077】
剥離フィルムに使用されるフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、
ポリエチレンナフタレート等のポリエステルからなるポリエステルフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィンからなるポリオレフィンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリ酢酸ビニルフィルムといったプラスチックフィルム、パルプといった紙製フィルムなどのいずれか、または、これらの2種以上の材料層からなる積層体などをあげることができ、前記フィルム上に剥離剤処理しているものを使用できる。
【0078】
本発明の加飾成型用積層フィルムを得るには、保護剤を50~200℃にて乾燥することが好ましく、70~120℃で乾燥することがより好ましい。乾燥後、保護剤の樹脂の硬化反応を終了させるため、室温~50℃程度の環境下10分~10日間程度、エージングすることが好ましい。
【0079】
表面保護層が積層されている基材層のもう一方の面には、傷つき防止のため剥離性フィルムを積層してもよい。特に、基材層にポリカーボネート系基材を用いる場合、傷付きやすいため使用直前まで剥離性フィルムにて基材表面を保護しておくことが好ましい。
【0080】
基材層の厚みは10~1000μmであることが好ましく、20~500μmであることがより好ましく、50~300μmがさらに好ましい。上記範囲とすることで、加飾成型用積層フィルムの成型性および、耐擦性が向上する。
【0081】
基材層上に形成される表面保護層の厚みは、1μm~20μmが好ましく、3μm~10μmがより好ましい。1μm以上とすることで耐薬品性および耐擦性が良化し、20μm以下とすることで成型性および耐チッピング性が良化する。
【0082】
加飾成型用積層フィルムの厚みは、インサート成型やインモールド成型、プレス成型が円滑に実施できる厚みであれば良く。15~1000μmの範囲にあることが好ましく、50~500μmの範囲にあることがより好ましい。好ましい範囲に有ることで、成型時の凹凸の追従が良好となり且つフィルム折れやシワが成型中につきにくくなる。
【0083】
加飾成型用積層フィルムは、JIS K 7161に準拠して測定した140℃で引張試験した場合に、表面保護層にクラックが生じたり、表面保護層が基材層から剥がれたり、表面保護層が破断したりするまでの伸び率
が50%~200%であることが好ましく、80%~200%がより好ましい。200%以下であることで成型中の熱によるヨレを軽減でき、成型時の金型による型痕が表面保護層に残りにくくなる。50%以上であることで適度な剛性を持ち成型性が良化する。尚、加飾成型用積層フィルムの伸び率は、試験開始前の状態を0%とし、その初期状態を基準に伸びの大きさを判定した数値である。
【0084】
<加飾成型体>
次に、本発明の加飾成型体について説明する。本発明の加飾成型体とは、加飾成型用積層フィルムで表面が覆われた成型体であり、被覆される成型体(以下、被加飾体とも呼ぶ)の素材に特に限定はなく、公知の素材を使用することができる。
本発明の加飾成型用積層フィルムを用いた加飾成型体の表面は、耐薬品性に優れる。表面保護層中のドメイン(D)を形成するため成分の一部は、マトリクス成分(M)との界面で微視的に相溶している状態にあると考えられる。観察されるドメイン(D)の比率の点から、配合したウレタン(メタ)アクリレート(c)および/または重量平均分子量が400~5000の(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性成分が全部ドメイン(D)の形成に供されてはいないと思われるからである。
成型の際、表面保護層中のマトリックス(M)が引き伸ばされることとなり、その延伸に伴いドメイン(D)も若干形状が変化し、被加飾体の表面に沿う方向への配向性が増すこととなる。その結果、成型後においても高い耐薬品性を発揮することが出来ると考えられる。
【0085】
被加飾体として用いることのできる素材の例として、木材、紙、金属、プラスチック、繊維強化プラスチック、ゴム、ガラス、鉱物、粘土などあげることができ、1種類又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
プラスチックとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエステル、ポリテトラフルオロロエチレンなどが挙げられ、1種類又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0086】
繊維強化プラスチックとしては、例えば、炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック、アラミド繊維強化プラスチック、ポリエチレン繊維強化プラスチックなどが挙げられ、1種類又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
金属としては、例えば、熱延鋼、冷延鋼、亜鉛メッキ鋼、電気亜鉛めっき鋼、溶融亜鉛めっき鋼、合金化溶融亜鉛めっき鋼、亜鉛合金めっき鋼、銅めっき鋼、亜鉛―ニッケルめっき鋼、亜鉛―アルミめっき鋼、鉄-亜鉛メッキ鋼、アルミメッキ鋼、アルミニウム-亜鉛メッキ鋼、スズめっき鋼等、アルミ、ステンレス鋼、銅、アルミ合金、電磁鋼などが挙げられ、1種類又は2種類以上組み合わせて使用することができる。また、金属の表面に防剤層などが設けられていてもよい。
【0087】
本発明の加飾成型用積層フィルムと被加飾体とは、公知の一体化方法、例えば、インサート成型、インモールド成型、真空成型、圧空成型、TOM成型、プレス成型などを用いて一体化することができる。
【0088】
また、例えば、本発明の加飾成型用積層フィルムを所望の形状に予備成型した後、加飾成型用積層フィルム側が最外層になるように、プラスチックや繊維強化プラスチックを射出成型し、加飾成型体を得ることもできる。
あるいは、プラスチック、繊維強化プラスチック、金属から成型体を得ておき、該成型体の表面に、本発明の加飾成型用積層フィルムを、もしくは加飾成型用積層フィルム所望の形状に予備成型した予備成型体を、表面保護層側が最外層になるように貼り付けて得ることもできる。
【0089】
本発明の加飾成型体は、前記加飾成型用積層フィルムの表面保護層側が最外層に位置する。加飾成型用積層フィルムには、表面保護層表面および基材層表面に塗工、乾燥、エージング、成型一体化などの各工程で生じうる、傷つき防止のため保護フィルムが設けられていてもよい。加飾成型体が使用される場面においては、前記保護フィルムは剥離される。
【0090】
本発明の加飾成型用積層フィルムを加飾フィルムとして用いて製造した加飾成型体は、金属調やピアノブラック調のインパネデコレーションパネルや、シフトゲートパネル、ドアトリム、エアコン操作パネル、カーナビゲーション等の自動車の内装部品として、あるいは自動車前後部のエンブレムや、タイヤホイールのセンターオーナメント、ネームプレート等の外装部品として用いられる。
また、自動車内外部品以外に、家電、スマートキー、スマートフォンや携帯電話、ノートパソコン等の外装材に限らず、ヘルメットやスーツケース等の外装材料、カーナビゲーションシステムや液晶テレビ等の液晶画面を保護する保護シート、蓄電デバイス等の外装材、テニスラケットやゴルフシャフトなどのスポーツ用品、住宅用のドアやパーテーション、壁材等の建材等に好適に用いることができる。
【0091】
<実施例>
以下に、実施例により、本発明の実施形態をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
また、以下の実施例において、(メタ)アクリレート樹脂(a)およびウレタン(メタ)アクリレート(c)の分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量であり、測定装置はGPC-8020(東ソー社製)によって、溶離液はテトラヒドロフランを使用し、カラムはTSKgelSuperHM-M(東ソー社製)を3本使用し、カラム温度40℃、流速0.6ml/分、試料濃度0.3%、注入量10μLで測定した。
なお、本明細書において、不揮発分は、サンプル1gを170℃で10分加熱させた場合の加熱後サンプル質量/加熱前サンプル質量から算出される値を意味する。ただし、市販品の場合においては、製造元指定の方法に基づいて算出される値を採用してもよい。
酸価はJIS K1557-5に則り、電位差滴定法により測定し、固形分酸価[mgKOH/g]=酸価[mgKOH/g]÷不揮発分[%]で算出した。
水酸基価はJIS K1557-1に則り、A法(アセチル化法)による電位差滴定により測定し、固形分水酸基価[mgKOH/g]=水酸基価[mgKOH/g]÷不揮発分[%]で算出した。
【0092】
[製造例1]
冷却管、撹拌装置、温度計および窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、メチルエチルケトン(MEK)を100部仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら昇温した。フラスコ内の温度が75℃になったらこの温度を合成温度として維持し、エチルメタクリレート76.8部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート23.2部および2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(V65)0.10部を混合したモノマー溶液を2時間かけて滴下した。モノマー滴下終了1時間後から、V65:0.05部をMEK20部に希釈したものを5分割して1時間ごとに加えて反応を続け、不揮発分測定から溶液中の未反応モノマーが5%以下になったことを確認した。プロピレングリコールモノメチルエーテル40部で希釈し、冷却して反応を終了し、固形分約40%の水酸基を有する(メタ)アクリレート樹脂(a-1)溶液を得た。水酸基を有する(メタ)アクリレート樹脂(a-1)は、ガラス転移温度:63℃、酸価:0mgKOH/g、水酸基価:100mgKOH/g、Mw:200,000であった。
【0093】
[製造例2~13]
表1に記載した原料と仕込み量に変更した以外は製造例1と同様にして合成を行い、水酸基を有する(メタ)アクリレート樹脂(a-2~a‐7、a-9~a‐13)並びに、水酸基を有さない(メタ)アクリレート樹脂(a-8)の溶液を得た。
なお、重合開始剤の3分の2をモノマー溶液に溶解し、フラスコに滴下し、モノマー溶液滴下終了後、3分の1を溶剤に溶かし滴下したが、表では合計の量を記載した。
【0094】
表1中の記号は以下の通りである。
EMA:エチルメタクリレート
tert-BMA:ターシャリーブチルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
HPMA:ヒドロキシプロピルメタクリレート
MAA:メタクリル酸
V65:2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)
MEK:メチルエチルケトン
PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル
【0095】
【表1】
【0096】
以下、表面保護層を作成するにあたり使用した材料の詳細を下記に示す。
<イソシアネート系硬化剤(b)>
・b-1 旭化成社製 デュラネートTSE-100 NCO基含有率:12.0%
【0097】
<活性エネルギー線硬化性成分>
<ウレタン(メタ)アクリレート(c)>
・c-1 Mw:400 3官能
・c-2 Mw:1000 3官能
・c-3 Mw:3000 4官能
・c-4 Mw:200 2官能
・c-5 Mw:14000 2官能
・c-6 三菱ケミカル社製 紫光UV-7605B Mw:1100 6官能
・c-7 MIWON社製 Miramer PU610 Mw:1800 6官能
・c-8 三菱ケミカル社製 紫光UV-7630B Mw:2200 6官能
・c-9 MIWON社製 Miramer MU9500 Mw:3200 10官能
・c-10 三菱ケミカル社製 紫光UV-7610B Mw:11000 9官能
・c-11 MIWON社製 Miramer SC2152 Mw:20787 15官能
<重量平均分子量が400~5000の(メタ)アクリレート>
・c-12 MIWON社製 Miramer PE210(ビスフェノールAエポキシジアクリレート) Mw:520 2官能
・c-13 MIWON社製 Miramer EA2280(変性エポキシジアクリレート) Mw:1580 2官能
・c-14 MIWON社製 Miramer PS420(ポリエステルアクリレート) Mw:3000 4官能
・c-15 MIWON社製 Miramer PE230(脂肪族エポキシジアクリレート) Mw:420 2官能
【0098】
<光開始剤>
・オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン
【0099】
<基材層>
・F-1 住化アクリル販売社製 S000(ポリメタクリル酸メチルフィルム、厚み125μm)
・F-2 三菱ガス化学社製 ユーピロンフィルム FE-2000 (ポリカーボネートフィルム、厚み200μm)
・F-3 出光ユニテック社製ピュアサーモ AG-301X (ポリプロピレンフィルム、厚み300μm)
【0100】
<フィラー分散体の製造>
[分散体(1)の製造]
アドマテックス社製合成球状シリカSO-C5(メーカーによる資料上の平均粒径1.3~1.7μm)25質量部、メチルエチルケトン35質量部、3-メトキシ-1-ブタノール30質量部混合し、ディスパー撹拌後、サンドミルにて分散処理を行い、不揮発分約25%の分散体(1)を作製した。得られた分散体中の酸化物のD50粒子径は1.6μmであった。D50粒子径の測定は日機装社製「ナノトラックUPA」を用いて行った。
【0101】
[分散体(2)の製造]
住友化学社製酸化アルミニウム(平均粒径150nm)25質量部、メチルエチルケトン35質量部、3-メトキシ-1-ブタノール30質量部混合し、ディスパー撹拌後、サンドミルにて分散処理を行い、不揮発分約25%の分散体(2)を作製した。得られた金属酸化物分散体中の金属酸化物のD50粒子径は150nmであった。D50粒子径の測定は日機装社製「ナノトラックUPA」を用いて行った。
【0102】
[分散体(3)の製造]
アドマテックス社製合成球状シリカSO-C5を、日本触媒社製「エポスターFS」(メラミン樹脂、平均一次粒子径:200nm)に変更した以外は分散体(1)と同様にして製造を行い、分散体(3)を得た。得られたフィラー分散液中のD50粒子径は200nmであった。
【0103】
[分散体(4)の製造]
アドマテックス社製合成球状シリカSO-C5を、綜研化学社製「MX―80H3wT」(アクリルレート架橋体、平均一次粒子径:800nm)に変更した以外は分散体(1)と同様にして製造を行い、分散体(4)を得た。得られた金属酸化物分散体中の金属酸化物のD50粒子径は800nmであった。
【0104】
<<保護剤および加飾成型用積層フィルムの作製と評価>>
[実施例1]
<保護剤の作製>
固形分約40%の(メタ)アクリレート樹脂(a-1)溶液:100部、イソシアネート硬化剤(b-1):27.5部、ウレタン(メタ)アクリレート(c-1):22.5部、前記(c-1)100部に対して5部に相当する光重合開始剤:オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノンを1.1部、前記フィラー分散体(1):8部、メチルエチルケトン(MEK)213.7部をディスパーで撹拌混合し、不揮発分25%の保護剤(X-1)を得た。
【0105】
<加飾成型用積層フィルムY-1の作製>
基材層(F-1)にバーコーターを用いて保護剤(X-1)を塗布し、100℃のオーブンで2分間乾燥させた後、膜厚5μmの塗工膜を得た。塗工膜をベルトコンベア式の紫外線照射装置(高圧水銀灯120W/cm、2灯)を用いて、コンベアスピード5m/分で紫外線照射を照射した後(積算光量1000mJ/cm)、40℃のオーブンに7日間保管(エージング)し、(メタ)アクリレート樹脂(a-1)と硬化剤(b-1)との未反応物を反応させ、表面保護層を形成した。これを加飾成型用積層フィルム(Y-1)とする。
得られた成型前の加飾成型用積層フィルムについて、後述する方法に従って、マルテンス硬さ、弾性率差による海島構造の確認、伸び率、耐チッピング性、耐擦傷性、耐薬品性等を評価するとともに、前記加飾成型用積層フィルムを用いて加飾成型体を作製し成型性を評価し、作製した加飾成型体の耐薬品性等を評価した。
【0106】
<透明性(ヘイズ)の評価>
基材層(F-1)の代わりに、剥離フィルム(東洋紡社製 PETフィルム TN-100)の剥離処理面に保護剤(X-1)を塗布した以外は、同様にして、表面保護層を形成した。
剥離フィルムから表面保護層を単離し、ヘイズメーターNDH-2000(東京電色社製)測定装置を用いて、ヘイズ値を測定した。
【0107】
[実施例2~5]
表2に記載したように、活性エネルギー線硬化性成分の配合量を変更した以外は実施例1と同様にして、保護剤、加飾成型用積層フィルムおよび透明性評価用サンプルを作成し評価した。
【0108】
[実施例6~9、27~36]
表2、4に記載したように、活性エネルギー線硬化性成分の種類を変更した以外は実施例1と同様にして、保護剤、加飾成型用積層フィルムおよび透明性評価用サンプルを作成し評価した。
【0109】
[実施例10~12]
表2に記載したように、イソシアネート系硬化剤(b)および活性エネルギー線硬化性成分の配合量を変更した以外は実施例1と同様にして、保護剤、加飾成型用積層フィルムおよび透明性評価用サンプルを作成し評価した。
【0110】
[実施例13~14]
保護剤(X-1)を用い、表2に記載したように表面保護層の厚みを変更した以外は実施例1と同様にして、保護剤、加飾成型用積層フィルムおよび透明性評価用サンプルを作成し評価した。
【0111】
[実施例15~24]
表3に記載したように、(メタ)アクリレート樹脂(a-1)溶液の代わりに、(メタ)アクリレート樹脂(a-2)~(a-10)溶液を用い、イソシアネート系硬化剤(b)および活性エネルギー線硬化性成分の配合量を変更した以外は実施例1と同様にして、保護剤、加飾成型用積層フィルムおよび透明性評価用サンプルを作成し評価した。
【0112】
[実施例25~26]
表3に記載したように、保護剤(X-3)を用い、基材層F-1の代わりに、基材層F-2、F-3を用いた以外は実施例1と同様にして、保護剤、加飾成型用積層フィルムおよび透明性評価用サンプルを作成し評価した。
【0113】
[比較例1~4]
表5に記載したように、活性エネルギー線硬化性成分を配合せず、前記フィラー分散体(1)の代わりに前記フィラー分散体(1)~(4)を配合した以外は実施例1と同様にして、保護剤、加飾成型用積層フィルムおよび透明性評価用サンプルを作成し評価した。
なお、後述する方法に従って、弾性率差による海島構造を確認しようとしたが、確認できなかった。
【0114】
[比較例5]
表5に記載したように、(メタ)アクリレート樹脂(a-1)溶液に対し、イソシアネート系硬化剤b-1を多量の配合し、活性エネルギー線硬化性成分の配合量を変えた以外は実施例1と同様にして、保護剤、加飾成型用積層フィルムおよび透明性評価用サンプルを作成し評価した。
【0115】
[比較例6]
表5に記載したように、(メタ)アクリレート樹脂(a-1)溶液に対し、イソシアネート系硬化剤b-1と、活性エネルギー線硬化性成分とを多量に配合した以外は実施例1と同様にして、保護剤、加飾成型用積層フィルムおよび透明性評価用サンプルを作成し評価した。
【0116】
[比較例7~9]
表5に記載したように、(メタ)アクリレート樹脂(a-1)溶液の代わりに、(メタ)アクリレート樹脂(a-11)~(a-13)溶液を用い、イソシアネート系硬化剤(b)および活性エネルギー線硬化性成分の配合量を変更した以外は実施例1と同様にして、保護剤、加飾成型用積層フィルムおよび透明性評価用サンプルを作成し評価した。(メタ)アクリレート樹脂(a-3)は水酸基を有しないので、表4におけるNCO/OHの欄は「-」とした。
なお、後述する方法に従って、弾性率差による海島構造を確認しようとしたが、確認できなかった。
【0117】
[比較例10]
表5に記載したように、(メタ)アクリレート樹脂(a-1)溶液もイソシアネート系硬化剤b-1も用いなかった以外は実施例1と同様にして、保護剤、加飾成型用積層フィルムおよび透明性評価用サンプルを作成し評価した。
なお、後述する方法に従って、弾性率差による海島構造を確認しようとしたが、確認できなかった。
【0118】
[比較例11]
表5に記載したように、イソシアネート系硬化剤b-1および活性エネルギー線硬化性成分を配合しなかった以外は実施例1と同様にして、保護剤、加飾成型用積層フィルムおよび透明性評価用サンプルを作成し評価した。
なお、後述する方法に従って、弾性率差による海島構造を確認しようとしたが、確認できなかった。
【0119】
<マルテンス硬さの評価>
加飾成型用積層フィルムの表面保護層側をフィッシャー・インストルメンツ社製の超微小硬度計「フィッシャースコープ H-100C」を用い、Vickers圧子(四角錐)を3mNの力で押し込み、5秒間保持させた後に値を読み取った。端子の押し込み深さは0.8μmである。
【0120】
<海島構造の確認>
<クルムバイン径の測定>
加飾成型用積層フィルムを1.5cm角に切り取り、熱硬化性エポキシ樹脂(Gatan社製 G2)を垂らした2枚のスライドガラスで挟み込み、ホットプレートの上で120℃、5分間の条件で樹脂を硬化させた。
硬化させた試料をカミソリで5mm角に切り取り、クロスセクションポリッシャー装置(日本電子株式会社製 SM-09010)の試料台に設置し、アルゴンイオンビームの加速電圧を5kVに設定して観察用の断面を作製した。
前記断面に対して、SPM装置(オックスフォードインストゥルメンツ社MFP-3D、カンチレバー:AC-160TS、ダイナミック測定モード、Setpoint:1.4∨、TargetAmplitude:2∨)で表面保護層の断面部分に対し、任意の3箇所の2μm×2μmの範囲で測定し、弾性率像および凹凸像(高低差像)を得た。
得られた弾性率像(図1)に対し、画像解析ソフト[マウンテック社製Mac-View Ver.4]に取り込み、画像から視認できるドメイン(D)に対して手動モードで全て選択し、解析を実施、選択された全てのドメイン(D)のクルムバイン径を算出し、その平均値とした。(図2
【0121】
<ドメイン(D)の比率>
前記SPM装置を用いて得た凹凸像(高低差像)に5nmよりも大きな高低差のある島が認められた場合には、2μm×2μmの面積から、高低差によって検出された島の面積を差し引き、この値を基準の面積とする。
同じ観察領域について得た弾性率像から、クルムバイン径の測定と同様に、確認できるドメイン(D)を手動モードで全て選択、自動解析を実施してドメイン(D)の総面積を算出し、前記基準の面積を分母として任意の1箇所のドメイン(D)の比率を求める。観察領域を変え、任意の計3箇所の2μm×2μmの範囲でドメイン(D)の比率を求め、その平均値を算出した。
【0122】
<伸び率の測定>
加飾成型用積層フィルムを幅10mm×長さ20mmに切り出し、以下の条件で引張試験を行った。
引張試験機:「卓上形精密万能試験機AGS-X」(島津製作所製)
加熱炉:「恒温槽TCE-N300」(島津製作所製)
試料幅:10mm
温度:140℃
引張速度:30mm/min
チャック間距離:10mm
表面保護層にクラックが生じたり、表面保護層が基材層から剥がれたり、表面保護層が破断したり等の外観異常が生じた際のチャック間距離から伸び率を算出した。なお、外観異常時のチャック間距離が20mmの場合、10mmの加飾成型用積層フィルムがさらに10mm伸びたこととなるため、伸び率100%と計算する。
【0123】
<耐チッピング性の評価>
加飾成型用積層フィルムを縦3cm×横5cmに切り取り、基材層側を縦4cm×横10cmのステンレス板に向け、端部を5mm幅の両面テープで固定し、グラベロ試験機(スガ試験機株式会社製)を用いて、一般社団法人日本粉体協会の販売するJIS試験用ケイ砂1種を100g、30cmの距離から3.0kg/cmの空気圧で、23℃、90度の角度で表面保護層に対して衝突させた。衝突後、加飾成型用積層フィルムを水洗いし、乾燥させた後に、表面保護層の表面を太陽光の下で白化の有無を目視評価するとともに、顕微鏡を用い倍率50倍で基材層の露出の有無を観察した。Sが最良、Aが良好、Bが汎用的に使用可、Cが使用環境により実用可であり、Dが実用不可として評価した。
S:傷はあるものの、傷による白化が無い又は極めて少ない。
A:部分的に明らかな白化。
B:全体的に明らかな白化。
C:全体的に明らかな白化があり、基材層の一部露出が見られる。
D:全体的に基材層の露出が見られる。
【0124】
<耐擦性の評価>
加飾成型用積層フィルムを縦10cm×横5cmに切り取り、表面保護層表面に、スチールウール(#0000)を100g荷重で2往復擦りつけ、付いた傷の本数と、擦り付ける前後でのヘイズ値の変化(ΔHAZE)から評価した。Sが最良、Aが優良、Bが良好、Cが使用可であり、Dは実用不可である。評価基準は以下の通りである。
S:傷が5本未満
A:傷が5本以上、10本未満
B:傷が10本以上かつΔHAZEが0.5%未満
C:傷が10本以上かつΔHAZEが0.5%以上3.0%未満
D:傷が10本以上かつΔHAZEが3.0%以上
【0125】
<耐薬品性の評価>
加飾成型用積層フィルムの表面保護層の表面に、日焼け止めクリーム(NeutrogenAUltrASheerDRY-TOUCHSUNSCREENSPF55(ジョンソン・エンド・ジョンソン社製))を0.5g塗布し、80℃で4時間放置した。放置後、日焼け止めクリームを水で洗い流し水気を取った後、日焼け止めクリームを滴下した部分を中心にした直径3cmの円の範囲の外観を目視にて観察した。
なお,耐薬品性を付与する保護剤としてS・Aは好適に用いられ、B・Cは成型品の使用環境によっては実用でき、Dは実用に適さない。評価基準は次の通りである。
S:外観不良が全く見られない。
A:塗布箇所の痕跡がわかるが、白化・表面荒れはみられない。
B:塗布箇所の一部に白化・表面荒れがみられる。
C:塗布箇所全体にわずかに白化・表面荒れが見られる。
D:塗布箇所全体に著しい白化・表面荒れが見られる。
【0126】
<成型性の評価>
[加飾成型体の作製]
TOM成型機(布施真空株式会社製、NGF0406-T)内に、加飾成型用積層フィルムの基材層と被加飾成型体が接する向きに載置し、下記の条件で成型を行い、加飾成型体を作製した。
被加飾成型体として、以下に示すように面積が同じで高さの異なる3種類のアルミニウム製の直方体を用い、直方体の縦5cm×横5cmの面に加飾成型用積層フィルムを密着させた状態で、主に高さ方向に前記加飾成型用積層フィルムを引き伸ばし、直方体の5つの面を前記加飾成型用積層フィルムで覆った。得られる加飾成型体は表面保護層が凸面側の最表面に位置することとなる。
直方体(1):縦5cm×横5cm×高さ1cm
直方体(2):縦5cm×横5cm×高さ0.75cm
直方体(3):縦5cm×横5cm×高さ0.5cm
【0127】
成型温度:120℃
圧空圧力:300kPA
圧空時間:10秒
【0128】
上記の加飾成型体の側面(高さ部分)の表面保護層のヒビの有無、基材層の損傷の有無に基づき、以下の基準で評価した。
S:直方体(1)~(3)のいずれの場合も表面保護層にヒビがなく、基材層も損傷なし。
A:直方体(1)の場合は表面保護層にヒビが発生するが、基材層に損傷なし。直方体(2)および(3)の場合は表面保護層にはヒビがなく、基材層も損傷なし。
B:直方体(1)および(2)場合は表面保護層にヒビが発生するが、基材層に損傷なし。直方体(3)の場合は表面保護層にはヒビがなく、基材層も損傷なし。
C:直方体(1)~(3)すべての場合に表面保護層の4つの側面の一部にヒビが発生するが、基材層には損傷なし。
D:直方体(1)~(3)すべての場合に表面保護層の4つの側面の全面にわたってヒビが発生するか、または基材層に破れあり。
なお、成型しやすいものからS、A、Bであり、Cは成型対象の形状によっては実用することも可能であり、Dは実用に適さない。
【0129】
<加飾成型体の耐薬品性の評価>
成形性評価で作成した直方体(1)を用い加飾成型体の縦5cm×横5cmの面に日焼け止めクリームを塗布し、加飾成型用積層フィルムの耐薬品性の評価の場合と同様に評価した。
【0130】
【表2】
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
【表5】
【0134】
表2、3、4の実施例に示すように、マルテンス硬さが特定の範囲にあり、表面保護層形成成分同士が一部非相溶化してドメイン(D)を形成することで、高い透明性を維持しながら耐擦傷性、耐薬品性、伸長性、耐チッピング性が優れ、全ての評価項目において実用範囲内の性能を示した。
マルテンス硬さとドメイン(D)のクルムバイン径とその比率が特定の範囲にあるものは、耐擦性、成型性、耐チッピング性、耐薬品性が実用範囲内であり、成型体の耐薬品性の保持または向上が見られた。
特に好ましい範囲にある実施例2~7、10、15~18、27~30、33~36に至っては耐薬品性と耐チッピング性に関して高い性能を発揮した。
【0135】
弾性率像による海島構造の認められなかった比較例1~4、7~11は、特に耐薬品性と耐チッピング性が実用範囲外であり、弾性率像による海島構造の認められてもドメイン(D)の比率が範囲外の比較例5、6においても各種性能が実用範囲外であった。
【要約】
【課題】 本発明は上記背景に鑑みて成されたものであり、成型性に優れる加飾成型用積層フィルムであって、耐チッピング性、耐擦性、および耐薬品性に優れる加飾成型体を形成できる加飾成型用積層フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】 表面保護層と基材層とを有する加飾成型用積層フィルムであって、
前記加飾成型用積層フィルムの表面保護層側から測定するマルテンス硬さが100~300N/mmであり、
前記表面保護層はドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を呈し、
ドメイン(D)のクルムバイン径が0.05~0.5μmであって、
ドメイン(D)とマトリックス(M)との比率D:Mが5~44:95~56であることを特徴とする、
加飾成型用積層フィルム。
【選択図】 図2
図1
図2