(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】液肥生成システム
(51)【国際特許分類】
C05G 5/20 20200101AFI20220427BHJP
C05F 7/00 20060101ALI20220427BHJP
B09B 3/65 20220101ALN20220427BHJP
C02F 11/04 20060101ALN20220427BHJP
【FI】
C05G5/20 ZAB
C05F7/00
B09B3/00 C
C02F11/04 A
(21)【出願番号】P 2017157658
(22)【出願日】2017-08-17
【審査請求日】2020-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】519008979
【氏名又は名称】昆山納諾環保科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】佐野 教信
(72)【発明者】
【氏名】今枝 基明
(72)【発明者】
【氏名】志水 俊也
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0019645(US,A1)
【文献】特開平10-192878(JP,A)
【文献】特開2012-187443(JP,A)
【文献】特開2005-087977(JP,A)
【文献】特開2006-265052(JP,A)
【文献】特開2003-335590(JP,A)
【文献】特表2001-513067(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0822378(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B1/00-21/00
C05C1/00-13/00
C05D1/00-11/00
C05F1/00-17/993
C05G1/00-5/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物を発酵させメタンを生成した後に残留するメタン発酵残液から液肥を生成する液肥生成システムであって、
前記メタン発酵残液から、第一スクリーンにより第一固形分を分離する第一分離手段と、
前記第一分離手段によって前記第一固形分が分離された分離液のpHを
硫酸で5.0以下に調整する第一調整手段と、
前記第一調整手段によって酸性に調整された前記分離液を蒸発濃縮する濃縮手段と、
前記濃縮手段によって蒸発濃縮された濃縮液を前記液肥として貯留する貯留手段と
を備えたこと
を特徴とする液肥生成システム。
【請求項2】
前記貯留手段によって貯留された前記濃縮液から、第二スクリーンにより第二固形分を分離する第二分離手段を備えたこと
を特徴とする請求項1に記載の液肥生成システム。
【請求項3】
前記濃縮手段によって蒸発濃縮された前記濃縮液のpHを5~8に調整する第二調整手段を備えたこと
を特徴とする請求項1又は2に記載の液肥生成システム。
【請求項4】
前記第一スクリーンは、断面形状が櫛形の金属線材からなるウェッジワイヤーを所定寸法のスリットを形成するように配列したウェッジワイヤースクリーン装置であること
を特徴とする請求項1から3の何れかに記載の液肥生成システム。
【請求項5】
前記濃縮手段は、攪拌機構を内部に備えたこと
を特徴とする請求項1から4の何れかに記載の液肥生成システム。
【請求項6】
前記濃縮手段において生成された凝縮液を回収する回収手段と、
前記回収手段によって回収された前記凝縮液を活性汚泥で生物処理を行いつつ浸漬膜で濾過を行う生物処理手段と
を備えたこと
を特徴とする請求項1から5の何れかに記載の液肥生成システム。
【請求項7】
前記生物処理手段によって前記生物処理が行われる前記凝縮液に対し、前記分離液の一部を供給する供給手段を備えたこと
を特徴とする請求項6に記載の液肥生成システム。
【請求項8】
前記生物処理手段によって得られた第一処理水に、紫外線による酸化処理を行う紫外線酸化処理手段と、
前記紫外線酸化処理手段によって得られた第二処理水を活性炭で濾過する活性炭濾過手段とを備えたことを特徴とする
請求項6又は7に記載の液肥生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液肥生成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー資源としてのバイオマスのうち、食品加工残渣や農業集落排水汚泥、生ごみ、食品加工残渣、下水道汚泥、し尿等のウェット系バイオマスからメタン発酵によって低コストでエネルギーが回収できる技術が知られている。メタン発酵の過程では、発酵残液を生じるため、この発酵残液を効率良く処理する必要がある。例えば、有機性廃棄物をメタン発酵するとともに、生成したバイオガスを回収するメタン発酵工程と、前記メタン発酵工程の発酵残液を濃縮する濃縮工程と、を含む有機性廃棄物の処理方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。メタン発酵残液の濃縮により得られる濃縮物は、肥料または肥料原料として利用できるが、田や畑への施肥の作業性から考慮すると、スプレー散布が可能な液肥として生成するのが望ましい。メタン発酵残液を液肥に転換させるための重要な指標として、例えば、窒素、リン、カリウムが適正な濃度であること、液肥のスプレー散布時に支障がないこと等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メタン発酵残液には窒素成分が含まれているが、窒素成分のうちアンモニア性窒素はアルカリ性において揮発しやすい。例えば、牧草地以外の収穫密度の高い田や畑への施肥には、窒素、リン、カリウムが適正な濃度であることが必要とされるが、メタン発酵残液のpHはアルカリ性であることから、上記方法では、濃縮工程時にアンモニア性窒素が揮発してしまい、窒素成分の濃度が低くなってしまうという問題点があった。また、発酵残液には原料に由来する懸濁物質が含まれていることから、施肥時において一定の大きさ以上の粒子がスプレーノズルに詰まるという問題点もあった。
【0005】
本発明の目的は、メタン発酵残液を処理することで、田や畑への施肥に適切な濃度で、且つ散布し易い液肥を生成できる液肥生成システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の液肥生成システムは、有機性廃棄物を発酵させメタンを生成した後に残留するメタン発酵残液から液肥を生成する液肥生成システムであって、前記メタン発酵残液から、第一スクリーンにより第一固形分を分離する第一分離手段と、前記第一分離手段によって前記第一固形分が分離された分離液のpHを酸性に調整する第一調整手段と、前記第一調整手段によって酸性に調整された前記分離液を蒸発濃縮する濃縮手段と、前記濃縮手段によって蒸発濃縮された濃縮液を前記液肥として貯留する貯留手段とを備えたことを特徴とする。液肥生成システムは、濃縮手段により、分離液を濃縮することにより、生成される濃縮液に含まれる窒素、リン、カリウムの濃度を高めることができるので、例えば収穫密度の高い田畑にも施肥できる性状の液肥を提供できる。液肥生成システムは、第一分離手段によって、メタン発酵残液から第一固形分をあらかじめ除去することができる。これにより、その後、濃縮手段で濃縮されて生成される液肥を例えばスプレー等で土に散布する際に、スプレーノズルに第一固形分による目詰まりが起きるのを防止できる。また、液肥生成システムは、第一調整手段により、分離液のpHを酸性に調整することで、分離液中のアンモニア成分を固定できる。これにより、その後、濃縮手段で濃縮されて生成される液肥に含まれる窒素成分を確保できる。
【0007】
請求項2の前記液肥生成システムは、前記貯留手段によって貯留された前記濃縮液から、第二スクリーンにより第二固形分を分離する第二分離手段を備えるとよい。これにより、液肥生成システムは、第二分離手段により、第二固形分を除去することができる。例えば、液肥をスプレー等で土に散布する際に、スプレーノズルに第二固形分による目詰まりが起きるのをさらに防止できる。また、第一スクリーン単独で微細な固形分まで除去するには濾過面積を大きくする必要があるのに対して、第二スクリーンにより微細な第二固形分を除去する場合は、第一スクリーンのスリットが第二スクリーンのスリットに比して粗めで良い。また、濾過面積が小さくても済むことや、第二スクリーン後での濃縮液は量が少なく濾過面積が小さくても済む。故に、第一固形分よりさらに微細な第二固形分を除去することができ、且つ設備の小型化を行うことができる。
【0008】
請求項3の前記液肥生成システムは、前記濃縮手段によって蒸発濃縮された前記濃縮液のpHを5~8に調整する第二調整手段を備えるとよい。これにより、液肥生成システムは、濃縮液を中和することができるため、濃縮液に含まれる鉱酸(無機酸)などの成分により設備が腐食することを防止できる。
【0009】
請求項4の前記液肥生成システムでは、前記第一スクリーンは、断面形状が櫛形の金属線材からなるウェッジワイヤーを所定寸法のスリットを形成するように配列したウェッジワイヤースクリーン装置であるとよい。これにより、液肥生成システムは、スプレーノズルの目詰まりの原因となる第一固形分の分離を効率的に行うことができる。また、液肥生成システムは、相当の水量を処理する必要があるため、設備の耐久性が必要となる。ここで、スクリーンとして、通常の網目を使用した場合にはすぐに破損してしまう可能性が有る。故に、液肥生成システムは、金属線材からなるウェッジワイヤーで固液分離するウェッジワイヤー装置を使うことで、長期間継続して、安定した処理を行うことができる。
【0010】
請求項5の前記液肥生成システムでは、前記濃縮手段は、撹拌機構を内部に備えても良い。これにより、蒸発濃縮装置の設定濃縮率をあげても内部の撹拌機構により成分が固着することなく流動性を保つことができる。また、濃縮中のメタン発酵残液を十分に撹拌することでメタン発酵残液の固体化を防ぐことができるため、高濃度に濃縮することができる。さらに、蒸発濃縮装置の濃縮率を上げて設定した場合、固形の肥料を生成することもできる。
【0011】
請求項6の前記液肥生成システムは、前記濃縮手段において生成された凝縮液を回収する回収手段と、前記回収手段によって回収された前記凝縮液を活性汚泥で生物処理を行いつつ浸漬膜で濾過を行う生物処理手段とを備えるとよい。回収手段は、濃縮手段において生成された凝縮液を回収する。生物処理手段は、回収手段によって回収された凝縮液を活性汚泥で生物処理を行いつつ浸漬膜で濾過を行う。これにより、液肥生成システムは、凝縮液に含まれる有機物を効率よく分解できる。また、浸漬膜により微粒子除去が行われて透明な処理水となるので、後段の紫外線分解が効率よく行われる。なお、浸漬膜とは、活性汚泥中に浸漬される濾過膜を意味し、例えば中空糸もしくは平膜の集合体を用いることができる。浸漬膜の孔径は、0.5μm以下にするとよい。このような浸漬膜を用いることで、凝縮液中の懸濁物を完全に除去するための沈殿槽が不要となるため、設備の小型化を行うことができる。
【0012】
請求項7の前記液肥生成システムは、前記生物処理手段によって前記生物処理が行われる前記凝縮液に対し、前記分離液の一部を供給する供給手段を備えてもよい。供給手段は分離液の一部を、生物処理が行われる凝縮液に対して供給できる。これにより、生物処理において、バクテリアなどの微生物が存在するための栄養素である成分(窒素、リン、カリウムなど)を含む分離液の一部を、供給手段により凝縮液へ供給することができるので、生物処理手段において凝縮液に生物処理を効率よく且つ継続的に行うことができる。
【0013】
請求項8の前記液肥生成システムは、前記生物処理手段によって得られた第一処理水に、紫外線による酸化処理を行う紫外線酸化処理手段と、前記紫外線酸化処理手段によって得られた第二処理水を活性炭で濾過する活性炭濾過手段とを備えてもよい。紫外線酸化処理手段は、前記生物処理手段によって得られた第一処理水に、紫外線による酸化処理を行うことができる。活性炭濾過手段は、紫外線酸化処理手段によって得られた第二処理水を活性炭で濾過できる。これにより、液肥生成システムは、生物処理で分解する事が困難な有機化学物質(難分解性物質)を分解できる。さらに、液肥生成システムは、第二処理水に残留する有機物を活性炭で吸着できるので、河川に排出できる。更に、高度に処理されているため、工業用水として再利用することもできる。
【0014】
上述した請求項1から8の発明は、任意に組み合わせることができる。例えば請求項1の全部または一部を備えずに、他の請求項2から8の少なくともいずれか1つの構成を備えたものとしても良い。特に、請求項1の構成を備えて、請求項2から8の少なくともいずれか1つの構成と組み合わせると良い。また、請求項1から8の任意の構成要素を抽出し、組み合わせても良い。本願出願人はこれらのような構成についても特許権を取得する意思を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】ウェッジワイヤー分離装置301の外観図である。
【
図5】液肥生成システム1を使用した処理結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照し、本発明の液肥生成システム1を説明する。なお、参照する図面は、本発明が採用しうる技術的特徴を説明するために用いられるものである。図面に記載した各処理工程、および装置構成などは、それのみに限定する趣旨では無く単なる説明例である。
【0017】
図1に示す液肥生成システム1は、メタン発酵プラントにおいて生成されるメタン発酵残液を原液として処理を行い、液肥(液体肥料)を生成するものである。なお、メタン発酵プラントとは、例えば、食品加工残渣、農業集落排水汚泥、生ごみ、下水道汚泥、及びし尿等のウェット系バイオマスをメタン発酵させることによって、メタンを回収するプラントを意味する。
【0018】
図1,
図2を参照し、液肥生成システム1の構成を説明する。液肥生成システム1は、原液槽2、分離装置3、濾過液槽4、酸添加装置51、蒸発濃縮装置5、濃縮液中和槽6、アルカリ添加装置52、液肥貯留槽7、凝縮液処理部100等を備える。原液槽2は、メタン発酵残液を原液として貯留する。分離装置3は、原液槽2から供給されるメタン発酵残液を、後述するウェッジワイヤー分離装置301(
図3参照)を用いて濾過し、メタン発酵残液中の固形分を分離する。なお、固形分とは、例えばメタン発酵残液中の懸濁物資(SS)である。濾過液槽4は、分離装置3により固形分が分離された濾過液を貯留する。酸添加装置51は、pH計51Aが検出する濾過液のpHに基づき、濾過液に対して硫酸(H
2SO
4)を添加することにより、濾過液のpHをアルカリ性または中性から酸性へと調整する。蒸発濃縮装置5は、濾過液槽4に貯留された濾過液を蒸発濃縮する。濃縮液中和槽6は、蒸発濃縮された濃縮液を貯留する。アルカリ添加装置52は、pH計52Aが検出する濃縮液のpHに基づき、蒸発濃縮装置5により生成された濃縮液に対して水酸化ナトリウム(NaOH)を添加することにより濃縮液のpHを中和する。液肥貯留槽7は、中和された濃縮液を液肥として貯留する。凝縮液処理部100は、蒸発濃縮装置5から排出される凝縮液を例えば工業用水として再利用するため、または公共水域に排出する際の放流基準に適合させるため、生物処理等を行う。
【0019】
原液槽2と分離装置3との間には、配管21が接続されている。分離装置3と濾過液槽4との間には、配管22が接続されている。濾過液槽4と蒸発濃縮装置5との間には、配管23が接続されている。蒸発濃縮装置5と濃縮液中和槽6との間には、配管24が接続されている。濃縮液中和槽6と液肥貯留槽7との間には、配管25が接続されている。液肥貯留槽7と施肥の対象となる施設(田畑等)との間には、配管26が接続されている。蒸発濃縮装置5と凝縮液処理部100との間には、配管27が接続されている。濾過液槽4と凝縮液処理部100は、配管36が接続されている。配管21の途中には、ポンプ31が設けられている。ポンプ31は、原液槽2に貯留されたメタン発酵残液を、分離装置3に向けて供給する。配管23の途中には、ポンプ32が設けられている。ポンプ32は、濾過液槽4に貯留された濾過液の一部を、蒸発濃縮装置5に向けて供給する。配管36の途中には、ポンプ35が設けられている。ポンプ35は、濾過液槽4に貯留された濾過液の一部を、凝縮液処理部100に向けて供給する。
【0020】
図2に示すように、凝縮液処理部100は、凝縮液槽8、アルカリ添加装置53、生物処理槽9、紫外線酸化塔10および活性炭塔11等を備える。凝縮液槽8は、蒸発濃縮装置5により生成された凝縮液を貯留する。アルカリ添加装置53は、pH計53Aが検出する凝縮液のpHに基づき、凝縮液槽8に貯留された凝縮液に対して水酸化ナトリウム(NaOH)を添加することにより凝縮液のpHを中和する。生物処理槽9は、中和された凝縮液に対して生物処理を行うとともに膜濾過を行う。紫外線酸化塔10は、生物処理槽9からの膜濾過水(本発明の「第一処理水」に相当)に対して紫外線酸化処理を行う。活性炭塔11は、紫外線酸化処理を行った紫外線処理水(本発明の「第二処理水」に相当)に対して、活性炭処理を行う。活性炭処理をおこなった最終処理水は、例えば工業用水などに再利用される。
【0021】
凝縮液槽8と生物処理槽9との間には、配管28が接続されている。生物処理槽9と紫外線酸化塔10との間には、配管29が接続されている。紫外線酸化塔10と活性炭塔11との間には、配管30が接続されている。活性炭塔11には配管37が接続されている。配管28の途中には、ポンプ33が設けられている。ポンプ33は、凝縮液槽8に貯留された凝縮液を、生物処理槽9に向けて供給する。配管29の途中には、ポンプ34が設けられている。ポンプ34は、生物処理槽9で生物処理された凝縮液を、紫外線酸化塔10に向けて供給する。
【0022】
図1を参照し、上記構成を備える液肥生成システム1による液肥生成フローを説明する。先ず、ポンプ31が駆動することによって、原液槽2に貯留されたメタン発酵残液が汲み上げられ、配管21を介して分離装置3へ供給される。
【0023】
分離装置3の構造と処理について説明する。分離装置3は、
図3に示すウェッジワイヤー分離装置301(以下、分離装置301と呼ぶ)を備える。分離装置301は、複数本のウェッジワイヤー302(
図3では、5本のみ図示)、複数本の支持ロッド303(
図3では、2本のみ図示)等を備える。ウェッジワイヤー302は、断面形状が楔形のステンレス鋼線材であり、楔形尖端部302aと幅広面部302b等を備える。複数本の支持ロッド303は、等間隔で互いに平行に配置されている。複数本のウェッジワイヤー302は、複数本の支持ロッド303の上に直交する方向に等間隔に並べて配置され、夫々の楔形尖端部302aが、支持ロッド303の上部にスポット溶接されている。分離装置301の幅広面部302bは、楔形尖端部302aの反対側に位置する幅広の面であり、メタン発酵残液を受ける分離装置301の分離面として機能する。
【0024】
なお、ウェッジワイヤー分離装置301のウェッジワイヤー302に親水性塗料をコーティングしても良い。これにより、ウェッジワイヤー302の表面を流れるメタン発酵残液などの液膜層が、親水性塗料の親水作用によって剥離される。従って、液膜層の表面張力が弱められ、ウェッジワイヤー302間のスリットSが液膜層によって塞がれるのを効果的に防止でき、かつ、親水効果により固形分がスリットSの表面を滑りやすくなる。故に、スリットSを液体が容易に通過することにより固形分が分離される。なお、親水性の塗料としては、例えば、珪酸ナトリウム、酸化アルミ、酸化チタンと水を主成分とする無機質塗料が好ましい。
【0025】
各ウェッジワイヤー302の間には、所定寸法のスリットSが形成されている。スリットSは、例えば、液肥を田畑等に散布する際に用いるスプレーノズル(図示略)の孔径よりも小さくするとよい。スリットSは、例えば0.5mm以下に設定するのがよく、好ましくは、0.2mm以下に設定するとよい。分離装置3は、複数本のウェッジワイヤー302の間のスリットSにメタン発酵残液を通過させることによって、メタン発酵残液に含まれるスプレーノズルの孔径よりも大きい固形分を分離できる。
【0026】
分離装置3では、供給されたメタン発酵残液に含まれる固形分を分離する。ウェッジワイヤー302により分離された固形分は、配管20を介して、メタン発酵プラントへ回収される。メタン発酵プラントでは、回収された固形分が再度メタン発酵に利用される。これにより、エネルギー資源の有効活用ができる。
【0027】
分離装置3は、大量のメタン発酵残液を処理する必要があるので、設備の耐久性が必要となる。分離装置3は、ウェッジワイヤー分離装置301を用いることで、長期間継続して、安定した処理を行うことができる。分離装置3により、固形分が分離された濾過液は、配管22を介して、濾過液槽4へ供給される。
【0028】
次いで、濾過液槽4では、供給された濾過液に対して、酸添加装置51によりpH調整が行われる。pH計51Aによって濾過液のpHが計測される。メタン発酵残液のpHは中性または弱アルカリ性であるので、分離装置3から供給される濾過液のpHも中性または弱アルカリ性である。酸添加装置51は、図示しない酸貯留容器、配管等を備える。酸貯留容器は、硫酸(H2SO4)を貯留する。pH計51Aは、凝縮液のpHを計測して、酸添加装置51へフィードバックする。酸添加装置51は、フィードバックに基づき所望のpHとなるよう、配管を介して、酸貯留容器からH2SO4を凝縮液に対して添加する。
【0029】
ここで、酸添加装置51は、pH計51Aの計測値に基づき、例えばpH5.0以下になるまで、濾過液に硫酸を添加する。濾過液中には、肥料としての有効成分である窒素、リン、カリウムが含まれているが、窒素(特にアンモニア性窒素)はアルカリ性において揮発し易い。本実施形態は、濾過液中の窒素成分を固定するために、メタン発酵残液を酸性に調節する。これにより、濾過液中に、窒素成分を揮発させることなく固定できる。
【0030】
なお、濾過液に添加するpH調整剤は塩酸等の酸でもよいが、好ましくは硫酸がよい。なぜなら、硫酸は、安価に入手できることや、塩酸などを用いた場合に比べて、設備の腐食が起こる可能性が低いためである。酸添加装置51は、濾過液をpH4.0前後の酸性に調整するのが好ましい。これにより、後述の蒸発濃縮装置5により濃縮されて生成される液肥中の窒素の残留率を、99.9%以上に高めることができる。次いで、ポンプ32の駆動により、濾過液槽4にてpH調整された濾過液が、配管23を介して、蒸発濃縮装置5に供給される。
【0031】
図4を参照し、蒸発濃縮装置5の構造と処理について説明する。蒸発濃縮装置5は、計量器400、蒸留釜401、ミストキャッチャー402、コンデンサ403、サイトグラス404、真空ポンプ405、バッファタンク406、および送液ポンプ407を備える。計量器400は、蒸留釜401に供給される濾過液の供給量を計量する。ミストキャッチャー402は、蒸発に伴って発生する水蒸気を捕獲する。コンデンサ403は、水蒸気を冷却することで液化する。サイトグラス404は、コンデンサ403から流出する凝縮液の流出状態を観察するために使用される。真空ポンプ405は、蒸留釜401の内部の圧力を減圧する。バッファタンク406は、コンデンサ403から流出した凝縮液を貯蔵する。送液ポンプ407は、バッファタンク406に貯蔵された凝縮液を配管27へ送り出す。
【0032】
蒸留釜401では、供給口を介して蒸留釜401の内部に濾過液が供給される。次いで、蒸気供給口を介して蒸留釜401に蒸気が通流されると、蒸留釜401の温度が上昇する。これに伴い、蒸留釜401の内部に供給された濾過液が加熱される。加熱された濾過液は、攪拌機構であるスクレーパ415により攪拌される。蒸留釜401の内部は、後述する真空ポンプ405によって減圧される。これにより、蒸留釜401内部の濾過液は蒸留される。蒸留釜401の内部で蒸留されて残った濃縮液は、配管24を介して、蒸留釜401から濃縮液中和槽6に供給される。
【0033】
一方、蒸留釜401の内部の圧力は、例えばコンデンサ403の経路を介して、真空ポンプにより気体が排気されて減圧される。すると、蒸留釜401の内部に供給された濾過液から、水蒸気が発生する。蒸留釜101において発生した水蒸気は、真空ポンプにより吸引されて、ミストキャッチャー402を介して、コンデンサ403に供給される。このコンデンサ403に供給された水蒸気は、冷却水により冷却される。冷却された水は、凝縮液としてバッファタンク406に貯蔵される。
【0034】
蒸発濃縮装置5により濾過液を高濃度に濃縮することができるため、液肥中の窒素、リン、カリウムの濃度を田畑に散布できる程度に上げることができる。また、濾過液を蒸発濃縮することで、濃縮液の保管スペースを小型化できる。なお、蒸発濃縮装置5の蒸留釜401は、内部の濾過液をスクレーパ415で撹拌しながら蒸留するので、濾過液中の成分が固着することなく、流動性を保つことができる。また、濃縮中の濾過液を十分に撹拌することで濾過液の固体化を防ぐことができるので、高濃度に濃縮することができる。蒸発濃縮装置5の運転条件を変えることで、濃縮率を変更してもよい。例えば、蒸発濃縮装置5の濃縮率を高く設定することで、固形の肥料を生成してもよい。なお、蒸発濃縮装置5は、濃縮率を初期設定により自動的に決定することができる。これにより、最適な濃縮率を設定することにより、設定後の作業を効率的にすることができる。
【0035】
次いで、送液ポンプ407の駆動により、蒸発濃縮装置5で濃縮された濃縮液は、配管24を介して、濃縮液中和槽6に供給される。
【0036】
濃縮液中和槽6について説明する。濾過液槽4で酸性に調整された濾過液を、蒸発濃縮装置5で濃縮しているので、配管24から供給される濃縮液のpHは酸性である。濃縮液中和槽6では、アルカリ添加装置52により、供給された濃縮液を中和する。アルカリ添加装置52は、図示しないアルカリ貯留容器、配管等を備える。アルカリ貯留容器は、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)を貯留する。pH計52Aは、凝縮液のpHを計測して、アルカリ添加装置52へフィードバックする。アルカリ添加装置52は、フィードバックに基づき所望のpHとなるよう、配管を介して、アルカリ貯留容器からNaOHを凝縮液に対して添加する。
【0037】
ここで、アルカリ添加装置52は、pH計52Aの計測値に基づき、濃縮液のpHを、pH5~8に調整するのがよい。好ましくは、pHを5.5前後に調整するとよい。これにより、液肥生成システム1は、濃縮液を中和することができるため、濃縮液に含まれる鉱酸(無機酸)などの成分により設備が腐食することを防止できる。
【0038】
次いで、濃縮液中和槽6で中和された濃縮液は液肥として、液肥貯留槽7に貯留される。
【0039】
図2を参照し、凝縮液処理部100における凝縮液処理フローを説明する。先ず、送液ポンプ407が駆動することによって、蒸発濃縮装置5で生成された凝縮液が汲み上げられ、配管27を介して凝縮液槽8へ供給される。
【0040】
凝縮液槽8について説明する。凝縮液槽8では、供給された凝縮液を貯留する。アルカリ添加装置53は、アルカリ貯留容器、配管等を備える。アルカリ貯留容器は、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)を貯留する。pH計53Aは、凝縮液のpHを計測して、アルカリ添加装置53へフィードバックする。アルカリ添加装置53は、フィードバックに基づき所望のpHとなるよう、配管を介して、アルカリ貯留容器からNaOHを凝縮液に対して添加する。
【0041】
ここで、凝縮液のpHは、pH5~8の値に調整されると良い。これにより、後述の生物処理槽9(浸漬膜型活性汚泥槽)において、凝縮液が供給された際に、バクテリアなどの生物が生存しやすい環境にすることができる。また、生物処理において、pH調整をしない場合に比して、効率の良い処理を行うことができる。
【0042】
次いで、ポンプ33が駆動することによって、pH調整された凝縮液は汲み上げられ、配管28を介して生物処理槽9へ供給される。
【0043】
有機物を効率よくかつ低コストで分解するには、まず生分解可能な有機物を生分解反応において分解することが重要である。生物処理槽9は、pH調整された凝縮液に対して、有機物を分解するための生物処理を行う。
【0044】
生物処理槽9の構造と処理を説明する。生物処理槽9は、浸漬膜ユニット9C等を備える。生物処理槽9は、配管28を介して、凝縮液槽8の下流側に接続されている。生物処理槽9は、散気管9A、および空気ポンプ9B等を備える。散気管は、生物処理槽9の底に設けられる。散気管は、空気ポンプから供給される空気を排出して生物処理槽9内を攪拌する。また、浸漬膜ユニット9Cは、生物処理槽9内に設けられる。浸漬膜ユニット9Cで濾過された膜濾過水は、配管29を介して、ポンプ34により紫外線酸化塔10へ送られる。
【0045】
なお、生物処理槽9は、浸漬膜活性汚泥法により生物処理を行う。生物処理槽9には高濃度の活性汚泥が保有され、それに比例して高濃度の微生物が保持される。これにより、生分解反応が促進され高度に有機物が分解される。次いで、生分解反応により十分に分解した排水を、浸漬膜ユニット9Cで濾過する。
【0046】
浸漬膜ユニット9Cの浸漬膜は、生物処理槽9で生成した活性汚泥や固形分(懸濁物質)を凝縮液から分離する。浸漬膜は、超微細の孔径を有する中空糸もしくは平膜の集合体を用いる。浸漬膜の孔径は、0.5μm以下にすると良く、好ましくは、孔径は、0.1μm~0.4μmであると良い。このような浸漬膜を用いることで、凝縮液中の固形分を除去するための沈殿槽が不要となるため、設備の小型化を行うことができる。
【0047】
ここで、凝縮液処理部100は、ポンプ35の駆動により、配管36を介し、pH調整された凝縮液に対して、濾過液槽4の濾過液の一部を栄養剤として供給することができる。濾過液に含まれる窒素、リン、カリウムなどは、蒸発濃縮装置5により、その大部分が濃縮液に含まれることとなる。従って、蒸発濃縮装置5により生成される凝縮液において、窒素、リン、カリウムは、微量である。ここで、窒素、リン、カリウムは、後述の生物処理槽9のバクテリアなどの生物の栄養源であるため、これらの成分が減少することは、生物処理の効率を悪化させる原因となる。従って、生物処理槽9は、窒素、リン、カリウムなどを、生物が生存できる程度に含むことが望ましい。凝縮液処理部100は、バクテリアなどの微生物が存在するための栄養素である成分(窒素、リン、カリウム)を含む濾過液の一部を、配管36を介して、凝縮液へ供給することができるので、生物処理槽9において凝縮液に生物処理を効率よく且つ継続的に行うことができる。
【0048】
次いで、ポンプ34が駆動することによって、生物処理槽9により生物処理された膜濾過水は汲み上げられ、配管29を介して紫外線酸化塔10へ供給される。
【0049】
紫外線酸化塔10における酸化処理について説明する。紫外線酸化塔10は、UVランプなどを備える。紫外線酸化塔10は、膜濾過水に含まれる生物処理で分解する事が困難な有機化学物質(難分解性物質)を分解する。このための前処理として、生物処理槽9で生物処理された膜濾過水に対して化学的な酸化を行うことで、有機物が分解される。具体的に言うと、生物処理槽9において、浸漬膜ユニット9Cでの処理後の膜濾過水がポンプ34で吸引される間に、酸化剤供給管を介して酸化剤が加えられて、紫外線酸化塔10へ供給される。酸化剤の一例としては、オゾン、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウムなどがある。酸化剤の添加方法については、酸化剤の種類により異なる。次いで、UVランプは、酸化剤が添加された膜濾過水に対して、紫外線(UV)を照射する。これにより、生物処理で分解する事が困難な有機化学物質(難分解性物質)を分解できる。次いで、紫外線酸化塔10により酸化処理および紫外線処理された紫外線処理水は汲み上げられ、配管30を介して活性炭塔11へ供給される。
【0050】
活性炭塔11について説明する。活性炭塔11は、内部に活性炭を備える。活性炭は、紫外線処理水を濾過して最終処理水(工業用水等)にする。なお、最終処理水は、清澄な処理水である。配管30および配管37は、活性炭塔11に接続されている。配管30は、紫外線処理水を活性炭塔11へ流入する。活性炭塔11は、紫外線処理水に残留する有機物を活性炭で吸着できる。配管37は、最終処理水をプラント等へ流出する。これにより得られた最終処理水は、河川等への放流基準を満たすことから、河川等に排出できる。更に、高度に処理されているため、プラントの工業用水として再利用することもできる。
【0051】
次に、液肥生成システム1の効果を確認するため、液肥生成システム1での試験について説明する。処理条件は以下の通りである。本実験では、以下の処理条件で液肥生成システム1を運転したときの、各処理段階における水質を調べた。各処理段階における水質とは、原液(メタン発酵残液)、濾過液、濃縮液、凝縮液、膜濾過水、最終処理水の水質である。水質の分析項目は、pH、BOD、COD、SS、アンモニア性窒素(NH4-N)、全窒素成分(全N)、リン、カリウムである。これらの項目を評価することにより液肥生成システム1の評価をおこなった。
【0052】
―処理条件―
・原液の量 :500L/h×20h/d=10,000L/d
・分離装置3 :スリットS=0.2mm、ウェッジワイヤー302に親水処理を施したもの
・蒸発濃縮装置5 :蒸発能力 500kg H2O/h
濃縮率 約5倍
・生物処理槽9 :生物処理槽容量(曝気槽容量) 6m3
浸漬膜型活性汚泥法
膜濾過面積 60m2
・紫外線酸化塔10 :UVランプ 300W×1本
寸法 φ400×1800H
容量 200L
・活性炭塔11 :上向流通液方式
寸法 φ300×2400H
【0053】
図5を参照し、上記の処理条件に基づき行った処理結果を説明する。原液のpHは8.4、BODは5500(mg/L)、CODは7800(mg/L)、SSは12000(mg/L)であった。濾過液のpHは8.4、BODは3000(mg/L)、CODは6000(mg/L)、SSは5500(mg/L)、NH
4-Nは1500(mg/L)、全Nは、2100(mg/L)、リンは100(mg/L)、カリウムは1800(mg/L)であった。濃縮液(中和後)のpHは6.8、BODは12000(mg/L)、CODは28000(mg/L)、SSは27000(mg/L)、NH
4-Nは7500(mg/L)、全Nは、11000(mg/L)、リンは500(mg/L)、カリウムは9000(mg/L)であった。凝縮液(中和後)のpHは7.0、BODは800(mg/L)、CODは500(mg/L)、SSは<1(mg/L)、NH
4-Nは1.5(mg/L)、全Nは、3(mg/L)、リンは<1(mg/L)、カリウムは<1(mg/L)であった。膜濾過水のpHは6.6、BODは20(mg/L)、CODは35(mg/L)、SSは<1(mg/L)、NH
4-Nは0.5(mg/L)、全Nは、5(mg/L)、リンは1.5(mg/L)であった。最終処理水のpHは7.1、BODは1.5(mg/L)、CODは2.0(mg/L)、SSは<1(mg/L)、NH
4-Nは0.3(mg/L)、全Nは、2.4(mg/L)、リンは1.2(mg/L)であった。
【0054】
濾過液の水質について検討する。原液のSSは12000(mg/L)であったが、濾過液のSSは5500(mg/L)であり、約1/2まで低下した。これにより、分離装置3により、メタン発酵残液中に含まれる所定の大きさ以上の固形分が良好に除去されたことがわかった。
【0055】
濃縮液(中和後)の水質について検討する。濾過液のNH4-Nは、1500(mg/L)であったが、濃縮液中のNH4-Nは、7500(mg/L)であり、約5倍にまで濃縮できた。濾過液の全Nは、2100(mg/L)であったが、濃縮液中の全Nは11000(mg/L)であり、約5倍にまで濃縮できた。濾過液のリンは100(mg/L)であったが、濃縮液のリンは、500(mg/L)であり、約5倍にまで濃縮できた。濾過液のカリウムは、1800(mg/L)であったが、濃縮液のカリウムは、9000(mg/L)であり、約5倍にまで濃縮できた。このように、蒸発濃縮装置5により、濃縮液の窒素、リン、カリウムの濃度は、濾過液に比して約5倍(本実験の設定濃縮率)となっていることがわかった。また、上記の通り、濾過液を濃縮する前に、酸添加装置51により濾過液のpHを酸性に調整していることにより、アンモニア性窒素、および全窒素成分の揮発が抑制され、良好に濃縮されていることが分かった。従って、液肥生成システム1で生成される濃縮液は、収穫密度の高い田畑等の土地に散布できる液肥として使用できることが実証された。
【0056】
凝縮液(中和後)の水質について検討する。上記の通り、凝縮液は、凝縮液槽8で中和されていることから、pHは7.0であった。濾過液のBODは3000(mg/L)であったが、凝縮液のBODは800(mg/L)であり、約1/4まで低下した。また、濾過液のCODは6000(mg/L)であったが、凝縮液のCODは500(mg/L)であり、約1/12まで低下した。これら凝縮液のBOD、CODの数値が放水基準を満たすようにするために、生物処理槽9、紫外線酸化塔10、活性炭塔11においてさらに処理する。
【0057】
なお、凝縮液のNH4―N、全N、リン、カリウムの濃度は夫々、1.5(mg/L)、3(mg/L)、<1(mg/L)、<1(mg/L)であった。これは、蒸発濃縮装置5による蒸発濃縮前の濾過液に含まれていた窒素、リン、カリウムのほとんどが濃縮液中に残存して濃縮されたことになる。
【0058】
膜濾過水の水質について検討する。膜濾過水のpHは6.6である。凝縮液のBODは800(mg/L)であったが、膜濾過水のBODは20(mg/L)であり、約1/40まで低下した。また、凝縮液のCODは500(mg/L)であったが、膜濾過水のCODは35(mg/L)であり、約1/14まで低下した。このことから、生物処理槽9における生物処理と膜濾過によって、BOD、CODが大きく低下していることが分かった。なお、工業用水として再利用するには、BODとCODをさらに低下させるのが望ましい。よって、液肥生成システム1では、膜濾過水について、紫外線酸化塔10による紫外線酸化処理をさらに行い、活性炭塔11において紫外線処理水中の有機物を吸着する。
【0059】
最終処理水の水質について検討する。最終処理水のpHは、7.1であった。膜濾過水のBODは20(mg/L)であったが、最終処理水のBODは1.5であり、約1/14まで低下した。また、膜濾過水のCODは35(mg/L)であったが、最終処理水のCODは2.0(mg/L)であり、約1/17まで低下した。これにより、紫外線酸化塔10における紫外線酸化処理と、活性炭塔11における吸着によって、BODとCODをさらに低下させることができた。従って、液肥生成システム1では、蒸発濃縮装置5で生成する凝縮液を、凝縮液処理部100によって処理することによって、工業用水として再利用可能な最終処理水を得られることが実証された。
【0060】
以上説明したように、本実施形態の液肥生成システム1は、有機性廃棄物を発酵させメタンを生成した後に残留するメタン発酵残液から液肥を生成する。液肥生成システム1は、メタン発酵残液から、ウェッジワイヤー分離装置301により固形分を分離する分離装置3と、分離装置3によって固形分が分離された分離液のpHを酸性に調整する酸添加装置51と、酸添加装置51によって酸性に調整された分離液を蒸発濃縮する蒸発濃縮装置5と、蒸発濃縮装置5によって蒸発濃縮された濃縮液を液肥として貯留する液肥貯留槽7とを備える。これにより、液肥生成システム1は、蒸発濃縮装置5により、分離液を濃縮することにより、生成される濃縮液に含まれる窒素、リン、カリウムの濃度を高めることができるので、例えば収穫密度の高い田畑にも施肥できる性状の液肥を提供できる。液肥生成システム1は、分離装置3によって、メタン発酵残液から固形分をあらかじめ除去することができる。これにより、その後、蒸発濃縮装置5で濃縮されて生成される液肥を例えばスプレー等で土に散布する際に、スプレーノズルに固形分による目詰まりが起きるのを防止できる。また、液肥生成システム1は、酸添加装置51により、分離液のpHを酸性に調整することで、分離液中のアンモニア成分を固定できる。これにより、その後、蒸発濃縮装置5で濃縮されて生成される液肥に含まれる窒素成分を確保できる。
【0061】
液肥生成システム1は、蒸発濃縮装置5によって蒸発濃縮された濃縮液のpHを5~8に調整するアルカリ添加装置52を備える。これにより、液肥生成システム1は、濃縮液を中和することができるため、濃縮液に含まれる鉱酸(無機酸)などの成分により設備が腐食することを防止できる
【0062】
分離装置3は、断面形状が櫛形の金属線材からなるウェッジワイヤーを所定寸法のスリットを形成するように配列したウェッジワイヤー分離装置301である。これにより、液肥生成システム1は、スプレーノズルの目詰まりの原因となる固形分の分離を効率的に行うことができる。また、液肥生成システム1は、相当の水量を処理する必要があるため、設備の耐久性が必要となる。ここで、分離装置3として、通常の網目を使用した場合にはすぐに破損してしまう可能性が有る。故に、液肥生成システム1は、金属線材からなるウェッジワイヤーで固液分離するウェッジワイヤー分離装置301を使うことで、長期間継続して、安定した処理を行うことができる。
【0063】
蒸発濃縮装置5は、スクレーパ415を備える。これにより、蒸発濃縮装置5の設定濃縮率をあげても内部の撹拌機構により成分が固着することなく流動性を保つことができる。また、濃縮中のメタン発酵残液を十分に撹拌することでメタン発酵残液の固体化を防ぐことができるため、高濃度に濃縮することができる。さらに、蒸発濃縮装置5の濃縮率を上げて設定した場合、固形の肥料を生成することもできる。
【0064】
液肥生成システム1は、蒸発濃縮装置5において生成された凝縮液を回収する凝縮液槽8と、凝縮液槽8によって回収された前記凝縮液を活性汚泥で生物処理を行いつつ浸漬膜で濾過を行う生物処理槽9とを備える。凝縮液槽8は、蒸発濃縮装置5において生成された凝縮液を回収する。生物処理槽9は、凝縮液槽8によって回収された凝縮液を活性汚泥で生物処理を行いつつ浸漬膜で濾過を行う。これにより、液肥生成システム1は、凝縮液に含まれる有機物を効率よく分解できる。また、浸漬膜により微粒子除去が行われて透明な処理水となるので、後段の紫外線分解が効率よく行われる。なお、浸漬膜とは、活性汚泥中に浸漬される濾過膜を意味し、例えば中空糸もしくは平膜の集合体を用いることができる。浸漬膜の孔径は、0.5μm以下にするとよい。このような浸漬膜を用いることで、凝縮液中の懸濁物を完全に除去するための沈殿槽が不要となるため、設備の小型化を行うことができる。
【0065】
液肥生成システム1は、生物処理槽9によって生物処理が行われる凝縮液に対し、分離液の一部を供給するポンプ35および配管36を備える。ポンプ35および配管36は分離液の一部を、生物処理槽9によって生物処理が行われる凝縮液に対して供給できる。これにより、生物処理において、バクテリアなどの微生物が存在するための栄養素である成分(窒素、リン、カリウムなど)を含む分離液の一部を、ポンプ35および配管36により凝縮液へ供給することができるので、生物処理槽9において凝縮液に生物処理を効率よく且つ継続的に行うことができる。
【0066】
液肥生成システム1は、生物処理槽9によって得られた膜濾過水に、紫外線による酸化処理を行う紫外線酸化塔10と、紫外線酸化塔10によって得られた紫外線処理水を活性炭で濾過する活性炭塔11とを備える。紫外線酸化塔10は、生物処理槽9によって得られた膜濾過水に、紫外線による酸化処理を行うことができる。活性炭塔11は、紫外線酸化塔10によって得られた紫外線処理水を活性炭で濾過できる。これにより、液肥生成システム1は、生物処理で分解する事が困難な有機化学物質(難分解性物質)を分解できる。さらに、液肥生成システム1は、紫外線処理水に残留する有機物を活性炭で吸着できるので、河川に排出できる。更に、高度に処理されているため、工業用水として再利用することもできる。
【0067】
以上説明において、分離装置3は、本発明の「第一分離手段」の一例である。酸添加装置51は、本発明の「第一調整手段」の一例である。蒸発濃縮装置5は、本発明の「濃縮手段」の一例である。液肥貯留槽7は、本発明の「貯留手段」の一例である。アルカリ添加装置52は、本発明の「第二調整手段」の一例である。スクレーパ415は、本発明の「撹拌機構」の一例である。凝縮液槽8は、本発明の「回収手段」の一例である。生物処理槽9は、本発明の「生物処理手段」の一例である。ポンプ35および配管36は、本発明の「供給手段」の一例である。紫外線酸化塔10は、本発明の「紫外線酸化手段」の一例である。活性炭塔11は、本発明の「活性炭濾過手段」の一例である。
【0068】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されず、様々な変形が可能である。上記実施形態の液肥生成システム1では、蒸発濃縮装置5による蒸発濃縮前に、分離装置3による固形分の分離を行っているが、例えば、蒸発濃縮装置5による蒸発濃縮後に行ってもよい。その場合、蒸発濃縮前の分離装置3は省略してもよい。蒸発濃縮装置5による蒸発濃縮後に、分離装置3による固形分の分離を行うことで、メタン発酵残液に元々含まれていた固形分のみならず、蒸発濃縮時に生成される濃縮液の固形分も分離できる。また、蒸発濃縮処理においては、液性が変化し、凝集物が生成される可能性もある。従って、液肥として使用可能な濃縮液を分離装置3で処理することによって、スプレーノズルの目詰まりの原因となる固形分を確実に除去できる。
【0069】
また、液肥生成システム1は、蒸発濃縮装置5による蒸発濃縮前に、メタン発酵残液中の固形分を分離する分離装置3を「前段分離装置」とし、蒸発濃縮後に、濃縮液中の固形分を分離する分離装置3を「後段分離装置」として備えてもよい。この場合、例えば、前段分離装置のスリットSを粗め(例えば、0.5mm以下)に設定し、後段分離装置のスリットSを、前段分離装置のスリットSよりも微細(例えば0.2mm以下)にするとよい。
【0070】
ここで、微細な固形分を除去するためにスリットSを微細に設定すると濾過抵抗は大きくなる。濾過面積が同じ場合、スリットSが粗い場合に比べて、濾過速度は遅くなる。前段分離装置単独の場合は、微細な固形分まで除去するには濾過面積を大きくする必要がある。これに対して、後段分離装置により固形分を除去する場合は、前段分離装置のスリットSは、後段分離装置のスリットSに比して粗めでも良い。これにより前段分離装置の濾過面積を小さく設定できるため、設備の小型化を行うことができる。さらに、濃縮液生成後の後段分離装置は、対象となる濃縮液の量が少ないので、濾過面積が小さくて済む。これにより後段分離装置の小型化を行うことができる。故に、液肥生成システムでは、微細な固形分を後段分離装置により除去することができ、且つ設備の小型化を行うことができる。後段分離装置は、本発明の「第二分離手段」の一例である。
【0071】
上記実施形態の分離装置3は、ウェッジワイヤー分離装置301を用いているが、固形分を分離する方法は、これ以外の分離方法でもよく、一般的なスクリーン装置を用いてもよい。また、金網等で固形分を分離する方法でもよい。さらに、上記実施形態のウェッジワイヤー302には、親水性の塗料を施さなくてもよい。
【0072】
酸添加装置51は、添加剤として硫酸を添加したが、硫酸以外の酸を添加してもよい。アルカリ添加装置52、53は、添加剤としてNaOHを用いたが、NaOH以外のアルカリを添加してもよい。なお、アルカリ添加装置52は、土壌の性状によっては省略してもよい。
【0073】
上記実施形態の凝縮液処理部100は、生物処理槽9の後に、紫外線酸化塔10と活性炭塔11を備えているが、これらを省略してもよい。生物処理槽9の生物処理により、処理水のBOD、CODは一定レベルになるので、放流先の基準が緩やかであれば、生物処理槽9で濾過された膜濾過水のままで放流することができる。
【0074】
上記実施形態の蒸発濃縮装置5は、蒸留釜401に蒸気を導入しつつスクレーパ415で分離液を撹拌しながら減圧することで、蒸留釜401内の分離液を濃縮するが、これ以外の蒸留方式で濃縮する一般的な濃縮装置を用いてもよい。
【0075】
上記実施形態の液肥貯留槽7は省略してもよい。この場合、濃縮液中和槽6が本発明の「貯留手段」として機能する。
【0076】
上記実施形態の凝縮液処理部100は、凝縮水がそのまま放流できる条件であれば省略してもよい。また、上記実施形態のポンプ35および配管36は、省略してもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 液肥生成システム
2 原液槽
3 分離装置
4 濾過液槽
5 蒸発濃縮装置
6 濃縮液中和槽
7 液肥貯留槽
8 凝縮液槽
9 生物処理槽
10 紫外線酸化塔
11 活性炭塔
415 スクレーパ