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特許7064108モータ巻線製造方法及びモータ巻線製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】モータ巻線製造方法及びモータ巻線製造装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/04 20060101AFI20220427BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20220427BHJP
   B05C 11/02 20060101ALI20220427BHJP
   B05D 1/28 20060101ALI20220427BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220427BHJP
   B05D 7/20 20060101ALI20220427BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20220427BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20220427BHJP
   B05D 5/12 20060101ALI20220427BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
H02K15/04 C
B05C5/00 101
B05C11/02
B05D1/28
B05D7/24 301R
B05D7/24 301P
B05D7/20
B05D3/02 Z
B05D7/14 P
B05D5/12 D
B05D1/26 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021146415
(22)【出願日】2021-09-08
【審査請求日】2021-09-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390023032
【氏名又は名称】田中精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(72)【発明者】
【氏名】上田 修一
(72)【発明者】
【氏名】横山 曜
【審査官】小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-186664(JP,A)
【文献】実開平06-050325(JP,U)
【文献】特開2016-100354(JP,A)
【文献】特開2010-245169(JP,A)
【文献】特開平04-247610(JP,A)
【文献】特開平06-053067(JP,A)
【文献】特開平06-302454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/26
B05C 5/00
B05C 11/02
B05D 1/28
B05D 7/24
B05D 7/20
B05D 3/02
B05D 7/14
B05D 5/12
H02K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被巻体に巻きつけられる巻線を接着剤で固めることでモータ巻線を得るモータ巻線製造方法であって、
粘度が5~100Pa・sであるものを中粘度、この中粘度より流動性の低いものを高粘度と定義するときに、
巻線機と、中粘度又は高粘度であって常温では硬化しない熱硬化性の接着剤と、この接着剤を適量吐出するニードルと、前記巻線の幅より大きな外径を有し前記接着剤を塗り広げる刷毛と、加熱機構とを準備する工程と、
前記被巻体に巻きつけられる前に、前記巻線に前記ニードルで前記接着剤を吐出する工程と、
この吐出された接着剤は流動性は低いが、前記刷毛で機械的に押し均すと共に前記刷毛の毛と毛の間を前記接着剤が通過することで塗布厚がほぼ一定になるようにして、前記接着剤を前記巻線に塗り広げる工程と、
前記接着剤が塗布された前記巻線を前記被巻体に巻きつける工程と、
前記巻線が巻かれている前記被巻体又は前記被巻体から外した前記巻線を、前記加熱機構で接着剤が硬化する温度まで加熱する工程とからなることを特徴とするモータ巻線製造方法。
【請求項2】
モータ巻線製造装置であって、
このモータ巻線製造装置は、被巻体に巻線を巻きつける巻線機と、前記被巻体に巻きつけられる前に、前記巻線に接着剤を塗布する塗布機構とを備え、
粘度が5~100Pa・sであるものを中粘度、この中粘度より流動性の低いものを高粘度と定義するときに、
この塗布機構は、中粘度又は高粘度であって常温では硬化しない熱硬化性の接着剤を前記巻線へ適量吐出するニードルと、
前記接着剤は流動性は低いが、前記刷毛で機械的に押し均すと共に前記刷毛の毛と毛の間を前記接着剤が通過することで塗布厚がほぼ一定になるようにして、前記接着剤を前記巻線に塗り広げる刷毛とを備えており、
前記刷毛の外径は、前記巻線の断面の幅より大きいことを特徴とするモータ巻線製造装置。
【請求項3】
請求項2記載のモータ巻線製造装置であって、
前記ニードルと前記刷毛は、走行する前記巻線に沿ってこの順で配置されていることを特徴とするモータ巻線製造装置。
【請求項4】
請求項2記載のモータ巻線製造装置であって、
前記ニードルは、前記刷毛に付属していることを特徴とするモータ巻線製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ巻線の製造技術の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ巻線はモータを構成する要素の一つである。モータ巻線では、被巻体に巻線が密に巻かれている。巻線の巻姿が崩れるとモータの性能に悪影響がでる。そこで、巻線を接着剤で固定することが従来から行われてきた。
【0003】
例えば、槽にワニスを溜め、このワニスに巻線が巻かれた被巻体を浸す。細部までワニスが含浸したら引き上げ、乾燥する。
引き上げた際に余剰のワニスが垂れる。また、乾燥には24時間程度を要する。よって、ワニス浸漬法は、ワニスの無駄使いが発生すると共に生産性が低く、改良の余地がある。
【0004】
そこで、改良案として、接着剤を刷毛で塗ることが提案されてきた(例えば、特許文献1(図1)参照)。
特許文献1では、巻枠の胴部分に、予め刷毛で接着剤を塗布する。次に、巻枠の胴部分に巻線(コイル)を巻く。巻線と隣の巻線との間に接着剤が介在するため、巻線が良好に固定される。接着剤の供給量は、巻線と隣の巻線との間からはみ出す接着剤の量を見ながら調整する。
【0005】
しかし、特許文献1の技術には、次に述べる問題点がある。
第1に、接着剤の供給量は、巻線と隣の巻線との間からはみ出す接着剤の量を見ながら調整すると説明されているが、巻線は常に動いているため、はみ出す接着剤の量の検出が難しく、接着剤の供給量の調節は容易ではない。
第2に、接着剤を、巻線ではなく、巻枠の胴部分に塗布するため、どうしても塗布量は多くなる。接着剤の無駄使いが発生する。
【0006】
そこで、さらなる改良案として、接着剤を巻線に直接塗ることが提案されてきた(例えば、特許文献2(図1)参照)。
特許文献2では、主剤と硬化剤とを混合し、混合した接着剤を塗布装置により、巻線へ塗布する。
【0007】
しかし、特許文献2の技術には、次に述べる問題点がある。
第1に、巻線には、張力のみが加わっている。巻線は巻枠に巻かれた後は振れないが、巻枠に巻く前は、僅かではあるが上下左右に振れる。そのため、塗布装置との距離が変わり、塗布厚さが不可避的に変化する。塗布厚さが薄い箇所では、巻線の固定が不十分になる。接着剤の塗布厚さを、ほぼ一定にすることが求められる。
第2に、接着剤は常温硬化性である。すなわち、主剤に硬化剤を混ぜた瞬間から硬化が進行する。巻線機に不具合が発生するなど、巻線作業中にトラブルが発生すると、塗布装置の扱いが極めて面倒になる。巻線機の不具合などに柔軟に対応できることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-6922号公報
【文献】特開平4-247610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、巻線に直接接着剤を塗布する技術において、接着剤の塗布厚さを、ほぼ一定にすることができると共に巻線機の不具合などに柔軟に対応できるモータ巻線製造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、被巻体に巻きつけられる巻線を接着剤で固めることでモータ巻線を得るモータ巻線製造方法であって、
粘度が5~100Pa・sであるものを中粘度、この中粘度より流動性の低いものを高粘度と定義するときに、
巻線機と、中粘度又は高粘度であって常温では硬化しない熱硬化性の接着剤と、この接着剤を適量吐出するニードルと、前記巻線の幅より大きな外径を有し前記接着剤を塗り広げる刷毛と、加熱機構とを準備する工程と、
前記被巻体に巻きつけられる前に、前記巻線に前記ニードルで前記接着剤を吐出する工程と、
この吐出された接着剤は流動性は低いが、前記刷毛で機械的に押し均すと共に前記刷毛の毛と毛の間を前記接着剤が通過することで塗布厚がほぼ一定になるようにして、前記接着剤を前記巻線に塗り広げる工程と、
前記接着剤が塗布された前記巻線を前記被巻体に巻きつける工程と、
前記巻線が巻かれている前記被巻体又は前記被巻体から外した前記巻線を、前記加熱機構で接着剤が硬化する温度まで加熱する工程とからなることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、モータ巻線製造装置であって、
このモータ巻線製造装置は、被巻体に巻線を巻きつける巻線機と、前記被巻体に巻きつけられる前に、前記巻線に接着剤を塗布する塗布機構とを備え、
粘度が5~100Pa・sであるものを中粘度、この中粘度より流動性の低いものを高粘度と定義するときに、
この塗布機構は、中粘度又は高粘度であって常温では硬化しない熱硬化性の接着剤を前記巻線へ適量吐出するニードルと、
前記接着剤は流動性は低いが、前記刷毛で機械的に押し均すと共に前記刷毛の毛と毛の間を前記接着剤が通過することで塗布厚がほぼ一定になるようにして、前記接着剤を前記巻線に塗り広げる刷毛とを備えており、
前記刷毛の外径は、前記巻線の断面の幅より大きいことを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項2記載のモータ巻線製造装置であって、
前記ニードルと前記刷毛は、走行する前記巻線に沿ってこの順で配置されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項2記載のモータ巻線製造装置であって、
前記ニードルは、前記刷毛に付属していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、接着剤は中粘度又は高粘度であって流動性は低いが、刷毛で機械的に押し均すと共に刷毛の毛と毛の間を接着剤が通過することで、接着剤の塗布厚さがほぼ一定になる。
また、常温では硬化しない接着剤を使用するため、作業が中断しても接着剤が硬化することはない。そのため、巻線機の不具合などに時間を掛けて対応することができる。
また、刷毛の外径に比較して巻線の幅が小さいため、接着剤を正確に巻線に当てることができる。
よって、本発明によれば、巻線に直接接着剤を塗布する技術において、接着剤の塗布厚さを、ほぼ一定にすることができると共に巻線機の不具合などに柔軟に対応できるモータ巻線製造方法が提供される。
【0015】
請求項2に係る発明では、塗布機構にニードルと刷毛とを備える。ニードルで吐出した接着剤は流動性は低いが、刷毛で機械的に押し均すと共に刷毛の毛と毛の間を接着剤が通過することで、接着剤の塗布厚さがほぼ一定になる。
また、請求項1と同様に、常温では硬化しない接着剤を使用するため、作業が中断しても接着剤が硬化することはない。そのため、巻線機の不具合などに時間を掛けて対応することができる。
また、刷毛の外径に比較して巻線の幅が小さいため、接着剤を正確に巻線に当てることができる。
よって、本発明によれば、巻線に直接接着剤を塗布する技術において、接着剤の塗布厚さを、ほぼ一定にすることができると共に巻線機の不具合などに柔軟に対応できるモータ巻線製造装置が提供される。
【0016】
請求項3に係る発明では、ニードルの次に刷毛が配置される。ニードルで吐出した接着剤の全量を刷毛で広げることができる。
【0017】
請求項4に係る発明では、ニードルが刷毛に付属されている。
請求項3では、ニードルを支えるニードル支持体と、刷毛を支える刷毛支持体を各々設ける必要があるが、請求項4では刷毛支持体だけで済む。すなわち、ニードル支持体が不要であるため、塗布装置の簡素化及び軽量化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係るモータ巻線製造装置の原理図である。
図2図1の2部拡大図である(ただし、反時計回りに約70°回転させた)。
図3】刷毛の利点を説明する図である。
図4】刷毛のさらなる利点を説明する図である。
図5】加熱機構を説明する図である。
図6】本発明に係るモータ巻線製造方法を説明するフロー図である。
図7】剥離試験を説明する図である。
図8】モータ巻線製造装置の変更例を説明する図である。
図9】変更例で使用した刷毛の断面図である。
図10図8の10部拡大図である。
図11】刷毛のさらなる変更例を説明する図である。
図12】刷毛のさらなる変更例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例
【0020】
図1に示すように、モータ巻線製造装置10は、被巻体21に巻線22を巻きつける巻線機20と、被巻体21に巻きつけられる前に、巻線22に接着剤を塗布する塗布機構40とを備えている。
巻線22は、銅線、アルミニウム線、その他の合金線などモータ巻線として使用される線であれば、種類は問わない。
【0021】
巻線機20は、周知であるため構造は任意であるが、例えば、ベース23に載っている主軸24と、ベース23に設けられ図面表裏方向へ延びるレール25と、このレール25に移動自在に載っているスライダ26と、このスライダ26に載っている可動盤27と、可動盤27を図面表裏方向へ往復移動させる送りねじ28及び送りモータ29と、ベース23に載っている固定盤31と、この固定盤31に回転可能に設けられているドラム32及び第1中継ローラ33と、可動盤27に回転可能に設けられている第2中継ローラ34及び第3中継ローラ35と、主軸24に取付けられる被巻体21と、この被巻体21を所定方向へ回す主軸モータ36とからなる。
【0022】
ドラム32には、巻線22がコイル状(渦巻状)に巻かれている。
第1中継ローラ33、第2中継ローラ34及び第3中継ローラ35は、フリー回転する溝付きローラが好適である。
被巻体21は、例えば、角断面の巻枠37である。被巻体21は、丸断面の巻枠やモータの鉄心でもよく、巻枠を持たない空芯コイルにおいては、巻線時に仮の巻枠として使用する治具でもよい。要は、巻線22が巻かれる相手部材であればよく、種類や形状は問わない。
【0023】
主軸24に被巻体21を取付ける。ドラム32から繰り出された巻線22は、第1中継ローラ33、第2中継ローラ34及び第3中継ローラ35に掛けられ、先端が被巻体21に掛けられる。
次に、主軸モータ36で被巻体21が回される。この回転と連動して、送りモータ29で可動盤27は所定速度で且つ所定距離だけ図面表裏方向へ往復移動する。
以上により、巻線22が被巻体21に巻きつけられる。
【0024】
塗布機構40は、第2中継ローラ34と第3中継ローラ35との間に配置されるニードル41と、このニードル41を可動盤27に固定するニードル支持体42と、第2中継ローラ34と第3中継ローラ35との間で且つニードル41よりも第3中継ローラ35寄りに配置される刷毛44と、この刷毛44を可動盤27に固定する刷毛支持体45と、ニードル41へ制御されたエアを供給するディスペンサ46と、このディスペンサ46へ圧縮空気を供給する空気源47とを備えている。
【0025】
ニードル41は、中空針であり、シリンダ48の先に着脱自在に取付けられる。シリンダ48内に接着剤が供給され、この接着剤がエア圧で押し出される。
注射器に例えると、薬液が接着剤に相当し、ピストンを押す指がエア圧に相当する。指の力が小さいと薬液の吐出量は少なくなり、指の力が大きいと薬液の吐出量が多くなる。
同様に、エア圧を制御することで、ニードル41から吐出する接着剤の単位時間当たりの吐出量(吐出速度)を変更することができる。
【0026】
なお、ニードル支持体42は、直接的にはシリンダ48を支えているが、このシリンダ48を介してニードル41を支えているため、便宜的に「ニードル支持体」と呼ぶことにする。
【0027】
図2は、図1の2部拡大図であるが、見やすくするために回転させた。
図2に示すように、巻線22はニードル41から刷毛44へ連続的に移動している。
ニードル41から所定の吐出速度で接着剤50が、巻線22上に吐出される。
【0028】
接着剤50は、常温では硬化しない熱硬化性の接着剤とする。加えて、接着剤50の粘度は、中粘度(5~100Pa・s)又は高粘度(100Pa・s以上)とする。
【0029】
ニードル41と刷毛44との中間位置51では、接着剤50は、中粘度又は高粘度であって流動性が低いため、略半円断面となる。
刷毛44の直前位置52で、接着剤50は、刷毛44の抵抗により、少し盛り上がる。
【0030】
刷毛44の内部位置53では、接着剤50は、刷毛44の抵抗により、図面表裏方向へ広がる。広がった結果、接着剤50の厚さが、徐々に小さくなる。
刷毛44の出口位置54では、刷毛44で均され、接着剤50の塗布厚tが、ほぼ一定になる。
接着剤50は、中粘度又は高粘度であって流動性は低いが、刷毛44で機械的に押し均すため、ほぼ一定の塗布厚tになる。
【0031】
刷毛44の作用を確認するために、本発明者らは、図3に示す実験を行った。
図3(d)は、巻線22の断面を示す。巻線22の上面を通る上面線53を定義する。
図3(a)では、刷毛44の先端(下端)を、上面線53と同じにした。
図3(b)では、刷毛44の先端(下端)が、上面線53よりL1(1mm)だけ下になるようにした。
図3(c)では、刷毛44の先端(下端)が、上面線53よりL2(2mm)だけ下になるようにした。
【0032】
以上の形態で、接着剤の塗布を実施したところ、図3(d)に示す接着剤50の塗布厚tは、ほとんど同一であった。刷毛44で接着剤50を押し広げる。広げる際に、刷毛44の毛と毛の間を接着剤50がスルー(通過)する。この現象を「トンネル現象」と呼ぶと、トンネル現象により、図3(a)~図3(c)相互間の差異が、緩和され、結果として、塗布厚tが、ほとんど同一になったと考えられる。
【0033】
このトンネル現象は、巻線22の上下の振れに有効に寄与する。
すなわち、図4に示すように、巻線22が上下に振れて、ニードル41と巻線22との距離L3が増減すると、ニードル41と刷毛44との中間位置では、接着剤50の高さが波状に変化する。
巻線22が上下に振れて、刷毛44の基部と巻線22との距離L4が増減するが、上述したトンネル現象により、出口位置54では、塗布厚tが、ほぼ一定になる。
【0034】
よって、本発明によれば、巻線22に直接接着剤50を塗布する技術において、接着剤50の塗布厚tを、ほぼ一定にすることができるモータ巻線製造技術が提供される。
【0035】
図1において、接着剤を塗布した巻線22が所定巻数でだけ被巻体21に巻かれたら、主軸モータ36を止める。そして、主軸24から被巻体21を外す。
図5(a)に示すように、巻線22が巻かれた被巻体21を、加熱機構55に入れて、接着剤が硬化する温度まで加熱する。
また、図5(b)に示すように、被巻体21から外した状態の巻線22を、加熱機構55に入れて、接着剤が硬化する温度まで加熱する。
【0036】
以上に述べた本発明の作用は、モータ巻線製造方法として、次のフロー図で説明することができる。
図6のST01(ステップ番号01。以下同じ)で、巻線機、接着剤、ニードル、刷毛、加熱機構を準備する(準備工程)。
ST02で、ニードルで、巻線へ接着剤を吐出する(吐出工程)。
ST03で、刷毛で、接着剤を塗り広げる(塗り広げ工程)
ST04で、接着剤が塗布された巻線を、被巻体に巻きつける(巻きつけ工程)。
ST05で、加熱機構にて接着剤を加熱して硬化する。
以上により、所望のモータ巻線が得られる。
【0037】
本発明者らは、得られたモータ巻線を評価するために、剥離試験を実施した。
図7(a)に示すように、最も外側の巻線22を引き剥がした。残った巻線22に接着層57が残留した。
図7(a)のb-b線断面図である図7(b)に示すように、巻線22の絶縁被膜58は、上面と左側面と右側面には残っていたが、下面は剥離し消失していた。剥離した絶縁被膜は、図7(a)に示す接着層57に残っていた。
結果、本発明での接着剤の接着強度は、十分に大きいことが確かめられた。
【0038】
次に、本発明の変更例を説明する。
図8に示すモータ巻線製造装置10は、塗布機構40だけが、図1に示すモータ巻線製造装置10と異なる。その他は、変更がないため、変更のない構成要素については、図1の符号を流用し、詳細な説明は省略する。
【0039】
この変更例では、塗布機構40は、ニードル付属刷毛44Bを主要素とする。この刷毛44Bを採用したことにより、ニードル支持体(図1、符号42)は不要になる。結果、塗布機構40が簡単になり、軽量化が図れるという利点がある。
【0040】
図9(a)に示すように、ニードル付属刷毛44Bは、先端(下端)に刷毛44を有する刷毛筒49に、ニードル41を内蔵してなる。
【0041】
図10に示すように、ニードル41から吐出された接着剤50は図面左右及び表裏方向へ若干広がって刷毛44へ進入する。進入した接着剤50は、刷毛44で塗り広げられ、塗布厚tは、ほぼ一定になる。
【0042】
図2に示す例と、図10に示す例の評価を、実験により確かめた。その内容を以下に説明する。
【0043】
【表1】
【0044】
第1実施例:
第1実施例は、図2の形態で実験を行った。
目標塗布量Aは、0.150g(グラム)に設定した。
実験では、目標塗布量Aが得られるように、吐出速度と吐出時間を調整した。
実験は、5回行い、吐出速度の平均値と、吐出時間の平均値を求めた。
実験での吐出速度は0.013g/s(秒)、吐出時間は13sであった。
【0045】
実験での塗布量Bは、(0.013g/s×13s=0.169gの計算により、)0.169gであった。
接着剤の歩留まりは、[(0.150g÷0.169g)×100=88の計算により、]88%であった。
【0046】
変更例:
変更例は、図10の形態で実験を行った。
目標塗布量Aは、0.150g(グラム)に設定した。
実験では、目標塗布量Aが得られるように、吐出速度と吐出時間を調整した。
実験は、5回行い、吐出速度の平均値と、吐出時間の平均値を求めた。
実験での吐出速度は0.017g/s(秒)、吐出時間は13sであった。
【0047】
実験での塗布量Bは、(0.017g/s×13s=0.221gの計算により、)0.221gであった。
接着剤の歩留まりは、[(0.150g÷0.221g)×100=68の計算により、]68%であった。
【0048】
図2では、刷毛44の全てが接着剤50の塗り広げ作用を発揮する。
対して、図10では、刷毛44の半分強(下流側約2/3)が接着剤50の塗り広げ作用を発揮するものの、残りの半分弱(上流側約1/3)は塗り広げに関与してはいない。
このため、塗り広げられなかった接着剤50が、刷毛の44の上流側に残留する。
この差が、接着剤の歩留まりの差となって現れた。
結果、表1の最下行に示すように、第1実施例は◎(より良い)、変更例は○(良)の評価となった。
【0049】
本発明者らは、以上の知見から、ニードル付属刷毛44Bでは、ニードル41の位置を上流側へ寄せることが、有効であると知見するに至った。
図11(a)及び図11(a)のb矢視図である図11(b)に示すように、ニードル41の先端(下端)が刷毛44内の範囲にて、中心から巻線22の上流側へαだけ、偏心させてもよい。
【0050】
または、図11(c)及び図11(c)のd矢視図である図11(d)に示すように、ニードル41の先端(下端)の一部が刷毛44から露出するようにして、ニードル41の先端を中心から巻線22の上流側へβだけ、偏心させてもよい。
【0051】
または、図11(e)及び図11(e)のf矢視図である図11(f)に示すように、ニードル41の先端(下端)の全部が刷毛44から露出するようにして、ニードル41の先端を中心から巻線22の上流側へγだけ、偏心させてもよい。
【0052】
また、ニードル付属刷毛44Bは、図12(a)に示すように、ニードル41が刷毛44の中心に進入するようにして、ニードル41を刷毛44に内蔵してもよい。
【0053】
図12(b)に示すように、ニードル41から吐出された接着剤50は、直ぐに巻線22に当たる。刷毛44の外径に比較して巻線22の幅(図12(b)で表裏方向の寸法)が小さいときに、接着剤50を正確に巻線22に当てることができて、好ましい。
【0054】
よって、「ニードルが刷毛に付属している」とは、図9図11(a)、図11(c)、図11(e)、図12(a)の何れの形態であってもよい。
ただし、価格の点では、図9が最も安く、図11(e)が最も高くなる。また、塗布性能の点では、図11(e)が最も優れており、図9が最も落ちる。
よって、価格と性能との兼ね合いを図りつつ、何れかを選択すればよい。
【0055】
尚、巻線22は、実施例では横長の長方形断面としたが、正方形断面、丸断面の線であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、モータ巻線の製造に好適である。
【符号の説明】
【0057】
10…モータ巻線製造装置、20…巻線機、21…被巻体、22…巻線、40…塗布機構、41…ニードル、44…刷毛、44B…ニードル付属刷毛、50…接着剤、55…加熱機構、t…塗布厚。
【要約】
【課題】巻線に直接接着剤を塗布する技術において、接着剤の塗布厚さを、ほぼ一定にすることができると共に巻線機の不具合などに柔軟に対応できるモータ巻線製造技術を提供する。
【解決手段】モータ巻線製造装置(10)は、被巻体(21)に巻線(22)を巻きつける巻線機(20)と、被巻体(21)に巻きつけられる前に、巻線(22)に接着剤を塗布する塗布機構(40)とを備え、この塗布機構(40)は、常温では硬化しない熱硬化性の接着剤を巻線(22)へ適量吐出するニードル(41)と、接着剤を塗り広げる刷毛(44)とを備えている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12