(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】手術用器具制御装置および手術用器具制御方法
(51)【国際特許分類】
A61B 34/35 20160101AFI20220427BHJP
B25J 3/00 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
A61B34/35
B25J3/00 Z
(21)【出願番号】P 2018008700
(22)【出願日】2018-01-23
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】513048575
【氏名又は名称】一般財団法人グローバルヘルスケア財団
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大香士
(72)【発明者】
【氏名】馬場 祐太朗
(72)【発明者】
【氏名】社本 英二
(72)【発明者】
【氏名】林 衆治
【審査官】安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-107074(JP,A)
【文献】特開2004-129782(JP,A)
【文献】特表2009-539573(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0319714(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0058406(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/00-34/37
B25J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポートから体腔内に挿入されている手術用器具の動きを制御する制御装置であって、当該手術用器具は、エンドエフェクタを保持する第1リンクと、第2リンクと、第1リンクと第2リンクを相対回転可能に連結する第1ジョイント部とを少なくとも有して構成されており、
ユーザから、第1リンクまたはエンドエフェクタの所定部分の体腔内における移動位置の指定操作を受け付ける受付部と、
所定部分が、位置指定操作に応じた指定位置に移動するように、手術用器具の動きを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、所定部分が指定位置に移動するまでの間に、
所定部分よりもポート側に位置するリンク部分が体腔内における所定部分の移動軌跡に沿って移動するように、第1リンクおよび第2リンクの姿勢
を算出する、
ことを特徴とする手術用器具制御装置。
【請求項2】
ポートから体腔内に挿入されている手術用器具の動きを制御する制御装置であって、当該手術用器具は、エンドエフェクタを保持する第1リンクと、第2リンクと、第1リンクと第2リンクを相対回転可能に連結する第1ジョイント部とを少なくとも有して構成されており、
ユーザから、第1リンクまたはエンドエフェクタの所定部分の体腔内における移動位置の指定操作を受け付ける受付部と、
位置指定操作から指定位置を算出して、所定部分が、
当該指定位置に移動するように、手術用器具の動きを制御する制御部と、
前記制御部が算出した指定位置を記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、所定部分が指定位置に移動するまでの間に、第1リンクおよび第2リンクの姿勢を、
前記記憶部に記憶された複数の過去の指定位置を繋いだ移動軌跡にもとづいて算出する、
ことを特徴とする手術用器具制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、所定部分の移動軌跡と、手術用器具の位置との誤差が最小となるように、第1リンクおよび第2リンクの姿勢を算出する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の手術用器具制御装置。
【請求項4】
制御装置が、ポートから体腔内に挿入されている手術用器具
の姿勢を算出する方法であって、当該手術用器具は、エンドエフェクタを保持する第1リンクと、第2リンクと、第1リンクと第2リンクを相対回転可能に連結する第1ジョイント部とを少なくとも有して構成されており、
前記制御装置が、
ユーザから、第1リンクまたはエンドエフェクタの所定部分の体腔内における移動位置の指定操作を受け付けるステップと、
位置指定操作から、所定部分の移動先となる指定位置を算出するステップと、
所定部分よりもポート側に位置するリンク部分が体腔内における所定部分の移動軌跡に沿って移動するように、第1リンクおよび第2リンクの姿勢
を算出するステップと、
を実施することを特徴とする手術用器具制御方法。
【請求項5】
制御装置が、ポートから体腔内に挿入されている手術用器具
の姿勢を算出する方法であって、当該手術用器具は、エンドエフェクタを保持する第1リンクと、第2リンクと、第1リンクと第2リンクを相対回転可能に連結する第1ジョイント部とを少なくとも有して構成されており、
前記制御装置が、
ユーザから、第1リンクまたはエンドエフェクタの所定部分の体腔内における移動位置の指定操作を受け付けるステップと、
位置指定操作から、所定部分の移動先となる指定位置を算出するステップと、
算出した指定位置を記憶部に記憶するステップと、
第1リンクおよび第2リンクの姿勢を、
前記記憶部に記憶された複数の過去の指定位置を繋いだ移動軌跡にもとづいて算出するステップと、
を実施することを特徴とする手術用器具制御方法。
【請求項6】
ポートから体腔内に挿入されている手術用器具の動きを制御するコンピュータに、
ユーザから、手術用器具の所定部分の体腔内における移動位置の指定操作を受け付ける機能と、
所定部分が、位置指定操作に応じた指定位置に移動するように、手術用器具の動きを制御する機能と、を実現させるためのプログラムであって、
当該手術用器具は、エンドエフェクタを保持する第1リンクと、第2リンクと、第1リンクと第2リンクを相対回転可能に連結する第1ジョイント部とを少なくとも有して構成されており、
手術用器具の動きを制御する機能は、所定部分が指定位置に移動するまでの間に、
所定部分よりもポート側に位置するリンク部分が体腔内における所定部分の移動軌跡に沿って移動するように、第1リンクおよび第2リンクの姿勢
を算出する機能を含む、
ことを特徴とするプログラム。
【請求項7】
ポートから体腔内に挿入されている手術用器具の動きを制御するコンピュータに、
ユーザから、手術用器具の所定部分の体腔内における移動位置の指定操作を受け付ける機能と、
位置指定操作から指定位置を算出する機能と、
所定部分が、
算出した指定位置に移動するように、手術用器具の動きを制御する機能と、
算出した指定位置を記憶部に記憶する機能と、を実現させるためのプログラムであって、
当該手術用器具は、エンドエフェクタを保持する第1リンクと、第2リンクと、第1リンクと第2リンクを相対回転可能に連結する第1ジョイント部とを少なくとも有して構成されており、
手術用器具の動きを制御する機能は、所定部分が指定位置に移動するまでの間に、第1リンクおよび第2リンクの姿勢を、
前記記憶部に記憶された複数の過去の指定位置を繋いだ移動軌跡にもとづいて算出する機能を含む、
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マスタースレーブ型手術支援ロボットシステムにおける制御技術に関し、特に患者の体腔内に挿入される手術用器具の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
胸腔ないし腹腔の内視鏡下手術用ロボットとして、マスタースレーブ型のロボットシステムが開発されている。日本では平成21年に、da Vinch(登録商標)サージカルシステムが一般消化器外科、胸部外科(心臓外科を除く)、泌尿器科、婦人科を適応対象として薬事承認を受け、現在では多くの病院に導入されている。このシステムでは、胸部ないし腹部上に設けたポートから、エンドエフェクタを保持した手術用器具を体腔内に挿入し、術者が内視鏡画像を見ながらマスターとなる遠隔操作装置を両手で操作する。遠隔操作装置に入力された指先の動作は、スレーブである手術用器具およびエンドエフェクタに伝達され、指先の動作がエンドエフェクタにより再現されることで、低侵襲な手術が実現される。
【0003】
特許文献1は、外科手術用器具の遠位端にエンドエフェクタを保持し、遠隔操作でアクチュエータを制御することによりエンドエフェクタを動かす外科手術用システムを開示する。特許文献1には、近位器具本体部分と遠位器具本体部分とを関節で結合して、エンドエフェクタの位置決め自由度を高めた外科手術用器具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
腹側に設けたポートから手術用器具を挿入して背側の患部を手術する場合、ポートから患部までの間に組織構造が存在すると、手術用器具は組織構造を傷つけないように体腔深部に入り込んで、エンドエフェクタを患部に到達させる必要がある。従来型の直線状の硬い手術用器具は組織構造を避けられないことがあるため、手術用器具を多関節化することで、エンドエフェクタが組織構造を傷つけることなく、患部まで進入できるようになると考えられる。
【0006】
一方で多関節化された手術用器具は、マスターとなる遠隔操作装置の操作自由度を超えた冗長な自由度をもつようになる。そのため術者は、エンドエフェクタ周りに動作指令を与えることはできるものの、他の関節部分などに動作指令を与えることはできず、したがってシステム側で関節部分の制御を行って、手術用器具の位置や姿勢を管理する必要がある。このような背景から、本開示者は、低侵襲手術を実現可能とする関節付き手術用器具の動きの制御手法を想到するに至った。
【0007】
本開示はこうした状況に鑑みてなされており、その目的とするところの1つは、マスタースレーブ型の手術支援ロボットシステムにおいて、関節付き手術用器具の動きを制御する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の手術用器具制御装置は、ポートから体腔内に挿入されている手術用器具の動きを制御する。手術用器具は、エンドエフェクタを保持する第1リンクと、第2リンクと、第1リンクと第2リンクを相対回転可能に連結する第1ジョイント部とを少なくとも有して構成される。制御装置は、ユーザから、第1リンクまたはエンドエフェクタの所定部分の体腔内における移動位置の指定操作を受け付ける受付部と、所定部分が、位置指定操作に応じた指定位置に移動するように、手術用器具の動きを制御する制御部と、を備える。制御部は、所定部分が指定位置に移動するまでの間に、第1リンクおよび第2リンクの姿勢を、体腔内における所定部分の移動軌跡にもとづいて算出する。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、マスタースレーブ型の手術支援ロボットシステムにおいて、関節付き手術用器具の動きを制御する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る手術支援ロボットシステムの構成例を示す図である。
【
図4】制御装置の機能ブロック構成を示す図である。
【
図5】リンク姿勢算出処理のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、実施形態に係る手術支援ロボットシステム1の構成例を示す。手術支援ロボットシステム1は、遠隔操作装置2、手術ロボット装置3および制御装置30を備え、低侵襲手術を実施可能とする。遠隔操作装置2および手術ロボット装置3は離れて配置されてよいが、遠隔操作装置2と手術ロボット装置3との間の通信遅延は可能な限り小さく設定される必要がある。
【0013】
手術ロボット装置3は、例えば患者が横たわる手術台の横に設けられる。患者の腹部または胸部には一つ又は複数の穴が開けられて、その穴にポートと呼ばれる筒状の器具が取り付けられる。手術ロボット装置3は複数のロボットアーム4a、4b、4cを有し、この例ではロボットアーム4a、4bが、遠位端にエンドエフェクタを保持する手術用器具5a、5bを支持し、ロボットアーム4cが、カメラプローブ6を支持している。
【0014】
エンドエフェクタは処置具であって、たとえば鉗子、高周波ナイフ、クリップアプライヤ、ステープラなどであってよい。手術用器具5a、5b(以下、特に区別しない場合には「手術用器具5」と呼ぶ)は、ポートを介して患者の体腔内に挿入され、エンドエフェクタを患部近傍に配置する。
【0015】
カメラプローブ6は先端にカメラを搭載し、ポートを介して患者体腔内に挿入される。プローブ先端のカメラは患部近傍に配置されて、手術部位を撮影する。カメラは3次元画像を撮影できる機能を有してよい。撮影した画像はリアルタイムで遠隔操作装置2に出力される。
【0016】
遠隔操作装置2は術者によって利用され、カメラプローブ6によって撮影された画像を表示できるディスプレイを有して構成されている。遠隔操作装置2は、手術ロボット装置3を操作するための操作部材を有し、術者はディスプレイに表示される内視鏡画像を見ながら操作部材を操作することで、手術ロボット装置3におけるロボットアーム4、手術用器具5およびエンドエフェクタ、カメラプローブ6などの動作を制御する。
【0017】
制御装置30は、術者による入力操作を受け付けて、手術ロボット装置3におけるロボットアーム4、手術用器具5およびエンドエフェクタ、カメラプローブ6などの制御信号に変換し、手術ロボット装置3に供給する。また制御装置30は、カメラプローブ6から内視鏡画像信号を取得して、遠隔操作装置2に供給する。制御装置30は、遠隔操作装置2の筐体または手術ロボット装置3の筐体に組み込まれてもよい。手術支援ロボットシステム1では、術者による操作部材の操作がロボットアーム4や手術用器具5およびエンドエフェクタの動きに変換されて、術者の指先の動きをエンドエフェクタの動きとして再現する遠隔手術が実施される。
【0018】
実施形態において、手術用器具5は、1以上のジョイント部を有する関節付き器具として構成される。
図2は、手術用器具5の機構を示す。手術用器具5は、エンドエフェクタ13を保持する第1リンク10aと、第2リンク10bと、第1リンク10aと第2リンク10bを相対回転可能に連結する第1ジョイント部11aとを少なくとも有して構成される。第1リンク10aは、手術用器具5の遠位端12を備え、エンドエフェクタ13は遠位端12に保持される。手術用器具5は、図示されるように、さらに第3リンク10c、第4リンク10dと、第2リンク10bと第3リンク10cを相対回転可能に連結する第2ジョイント部11b、第3リンク10cと第4リンク10dを相対回転可能に連結する第3ジョイント部11cを有した多関節器具として構成されてよく、さらなるリンクおよびジョイント部を有してもよい。
【0019】
各リンク10は、短い直線状の硬い部材として形成されてよく、各リンク10ないし各ジョイント部11にはアクチュエータ又はアクチュエータの駆動力を伝達する要素が搭載され、アクチュエータが制御装置30により駆動制御されることで、リンク間の相対的な角度(姿勢)が定められる。ジョイント部11は、連結するリンクを任意の方向に相対回転可能とすることが好ましい。なおエンドエフェクタ13を保持する第1リンク10aは、エンドエフェクタ13の姿勢を精緻に制御するために短いことが好ましい。一方で遠位端12から離れた位置にあるリンク10ほど、高い剛性をもたせるために長く形成されることが好ましい。そのため手術用器具5は、エンドエフェクタ13側から、次第に長くなるようにリンク10が配列されることが好ましく、つまり第1リンク10a、第2リンク10b、第3リンク10c、第4リンク10dの順に、次第に長くなるように形成されることが好ましい。
【0020】
図3は、患者体内の模式図を示す。手術用器具5は、ポート7を介して体腔内に挿入される。手術用器具5の体腔内への挿入は、遠隔操作装置2の操作部材を術者が操作することで制御される。具体的に術者は遠隔操作装置2から、手術用器具5の先端側所定部分の体腔内における移動位置の指定操作を入力する。遠隔操作装置2は、当該指定操作を制御装置30に送信し、制御装置30は指定操作を受け付けると、手術用器具5の所定部分が位置指定操作に応じた指定位置に移動するように、手術用器具5を体腔内で動かす。ここで手術用器具5の先端側所定部分は、第1リンク10aまたはエンドエフェクタ13のいずれかの位置に設定される。以下では、所定部分が第1リンク10aにおける遠位端12であるものとして説明するが、第1リンク10aまたはエンドエフェクタ13の他の部分であってよい。
【0021】
軌跡20は、手術用器具5の挿入時に遠位端12の通った位置を示す。この例では、ポート7から患部の間に組織構造T1、T2が存在しており、術者は、手術用器具5の先端に設けたエンドエフェクタ13が組織構造T1、T2を傷つけないように、内視鏡画像を見ながら遠位端12の向きや進む方向、速度を指定操作して、エンドエフェクタ13を患部まで移動させる。実施形態の手術支援ロボットシステム1において、術者が指定した遠位端12の移動方向および移動速度は、遠位端12の移動する位置を定めるものであり、以下では、遠位端12の移動に関する指定操作を、遠位端12の体腔内における移動位置を指定する操作として説明する。
【0022】
たとえば手術用器具5が、1本の直線状の硬い器具として形成されていると、組織構造T1、T2が存在することによって、エンドエフェクタ13を患部まで到達させられないことがある。実施形態では手術用器具5を関節付き器具として形成することで、術者が内視鏡画像を見ながら、エンドエフェクタ13を組織構造T1、T2の間を通り抜けるように、手術用器具5を動かすことが可能となる。
【0023】
しかしながら術者が手動で移動位置を指定できるのは、手術用器具5の所定部分(この例では遠位端12)であり、所定部分よりもポート7側に位置するリンク部分の姿勢や位置を操作することはできない。そこで実施形態の制御装置30は、当該リンク部分が組織構造T1、T2などを傷つけることのないように当該リンク部分の姿勢や位置を適切に制御する機能をもつ。
【0024】
図4は、制御装置30の機能ブロック構成を示す。制御装置30は、制御部40、記憶部42、受付部44および画像送信部46を備える。これらの機能ブロックは、ハードウェア的には、回路ブロック、メモリ、その他のLSIで構成することができ、ソフトウェア的には、メモリにロードされたプログラムなどによって実現される。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは当業者には理解されるところであり、いずれかに限定されるものではない。
【0025】
術者ないしは手術補助者(以下、単に「ユーザ」とも呼ぶ)は遠隔操作装置2を操作して、ロボットアーム4cに支持されたカメラプローブ6を最初に体腔内に導入し、体腔内の様子をディスプレイに映し出す。ユーザはディスプレイに映し出された内視鏡画像を見ながら、ロボットアーム4a、4bに支持された手術用器具5を体腔内に導入し、エンドエフェクタ13を手術部位の近傍に位置させる。その際、必要であればエンドエフェクタ13を用いて手術部位までの経路を確保するための処置も同時に行う。そしてユーザはエンドエフェクタ13を適切に操作して手術部位に対する手術動作を行う。このように、エンドエフェクタ13を体腔内において動かすモードを「移動モード」と呼び、以下、移動モードにおける手術用器具5の動作制御について説明する。
【0026】
制御部40がカメラプローブ6から撮影画像を取得すると、画像送信部46は、撮影画像を遠隔操作装置2に送信する。遠隔操作装置2はディスプレイに撮影画像を表示し、ユーザは、撮影画像を見ながら遠隔操作装置2の操作部材を操作して、エンドエフェクタ13を手術部位に近づけるように、ロボットアーム4および手術用器具5を動かす。たとえば
図3に示すように、エンドエフェクタ13を組織構造T1、T2の間を通過させようとする場合には、組織構造T1、T2の位置関係がディスプレイに映し出されるように、カメラプローブ6を適切な位置に動かすことが好ましい。
【0027】
移動モードにおいて、受付部44は、ユーザから、手術用器具5における所定部分の体腔内における移動位置の指定操作を受け付け、制御部40に供給する。移動モードでは、ユーザによる操作部材の操作は、手術用器具5の所定部分が移動する位置を指定する操作として取り扱われる。なお上記したように所定部分は、第1リンク10aまたはエンドエフェクタ13の任意の部分であってよいが、実施形態では、エンドエフェクタ13を保持する基準位置となる遠位端12としている。したがって受付部44は、ユーザの操作部材の操作を、遠位端12の移動先となる位置を指定するための操作として受け付ける。
【0028】
所定部分(ここでは遠位端12)が位置指定操作に応じた指定位置に移動するように、制御部40は、ロボットアーム4および手術用器具5の動きを制御する。エンドエフェクタ13を手術部位まで動かす場合、制御部40は、ロボットアーム4を患者側に向けて動かすことで手術用器具5を体腔内で前進させつつ、手術用器具5の姿勢を調整することで組織構造T1、T2に衝突しないように回避させる。
【0029】
ユーザは内視鏡画像を見ながら、エンドエフェクタ13が組織構造T1、T2を傷つけないように遠位端12の移動先となる位置を指定するため、遠位端12は組織構造T1、T2を傷つけない経路を通って移動することになる。そこで制御部40は、遠位端12の下流側におけるリンク部分も当該経路をできるだけ通るように制御して、手術用器具5が組織構造T1、T2の間を低侵襲で移動するようにする。そのために制御部40は、遠位端12が指定位置に移動するまでの間に、少なくとも第1リンク10aおよび第2リンク10bの位置および姿勢を、体腔内における遠位端12の移動軌跡にもとづいて算出する。
【0030】
受付部44がユーザによる位置指定操作を受け付けると、制御部40は、その位置指定操作から遠位端12が移動する方向および距離を算出し、遠隔操作装置2が当該移動方向および移動距離で示される位置(指定位置)に移動するように、ロボットアーム4および手術用器具5のアクチュエータを駆動する。このとき制御部40は、算出した指定位置を記憶部42に記憶させる。制御部40は、指定位置を算出するたびに記憶部42に記憶させる処理を行い、したがって記憶部42には、遠位端12の複数の指定位置、つまりは移動軌跡が記憶される。
【0031】
遠位端12の移動軌跡は、ユーザによって組織構造T1、T2を傷つけないように動かされた軌跡であり、低侵襲な経路である。そのため制御部40は、遠位端12の下流側のリンク部分も、この低侵襲経路に沿って移動させることで、低侵襲な移動モードを実現する。制御部40は、遠位端12よりもポート7側に位置するリンク部分が遠位端12の移動軌跡に沿って移動するように、少なくとも第1リンク10aおよび第2リンク10bの姿勢を算出する。なお、制御部40が算出するべきリンク10の姿勢は、体腔内に挿入されているリンク10の姿勢であり、第3リンク10cも体腔内に挿入されていれば、制御部40は、第1リンク10a、第2リンク10bおよび第3リンク10cの姿勢を算出する。
【0032】
図5は、リンク姿勢算出処理のシミュレーション結果の一例を示す。ここでX軸は体の横方向を示し、ポート7の位置を基準値0としたとき、負のX値はポート7よりも左位置を、正のX値はポート7よりも右位置を表現する。Y軸は体内深部方向を示し、ポート7の位置を基準値0としたとき、負のY値は体外位置を、正のY値は体内の深さ位置を表現する。なお実際の体内空間は3次元であるが、ここでは2次元空間でのシミュレーションを行っている。
【0033】
図5において、白丸は、記憶部42に記憶された遠位端12の指定位置を示す。
図5には、手術用器具5の第1リンク10a、第2リンク10b、第3リンク10cがポート7から体腔内に挿入されている様子が模式的に示されている。
【0034】
制御部40は、移動軌跡と手術用器具5の位置との誤差が最小となるように、各リンク10の姿勢を算出する。従来から誤差を最小化するためのアルゴリズムは様々提案されているが、制御部40は任意の誤差最小化アルゴリズムを採用してよく、採用したアルゴリズムにより移動軌跡と手術用器具5の位置との誤差が最小となる各リンク10の姿勢を算出してよい。
【0035】
具体的に制御部40は、第1リンク10aの先端位置(遠位端12の指定位置)とポート7の位置とを拘束条件として取り扱い、したがって遠位端12の指定位置とポート7の位置とは、誤差が0となるようにする。この拘束条件のもとで、制御部40は、過去の指定位置を滑らかに繋いだ移動軌跡と、各リンクの位置との誤差が最小となるように、最適化問題を計算する。
【0036】
たとえば制御部40は、過去の指定位置から各リンク10に対して垂線を下ろし、それぞれの垂線の二乗を求めて、その二乗の総和が最小となるように、各リンク10の姿勢を定めてよい。このとき制御部40は、最急降下法を用いて、誤差最小値を探索してよい。なお、過去の指定位置が所定時間ごとに算出されていると、指定位置の間隔は、時間帯によって異なることになる。そこで制御部40は、各リンク10における重みを調整するために、垂線長の二乗に対して、各リンク10ごとの重み係数を乗算することが好ましい。
【0037】
なお制御部40は、各リンク10を所定長に分割し、各リンク10の各分割点を通ってリンク10に垂直な平面と移動軌跡との交点を求め、交点と分割点の長さ(垂線長)を二乗して、最小二乗法により、各リンク10の姿勢を算出してよい。垂線を所定長ごとに引くことで、各リンク10の重みを均等にできる。各リンク10の姿勢は、連結するジョイント部11の制御パラメータとして利用され、制御部40は、各リンク10間が算出した姿勢となるように、各ジョイント部11を駆動する。なお制御部40は、遠位端12が指定位置に移動するまでの間を所定時間ごとに分割し、その分割した時間ごとに、各リンク10の姿勢を算出して、各ジョイント部11を駆動してよい。このようにして制御部40は、手術用器具5を、低侵襲経路に沿って体腔内で移動させることが可能となる。
【0038】
制御部40は、体腔内に位置する全てのリンク10の位置と移動軌跡との誤差が最小となるように各リンク10の姿勢を算出することが好ましいが、体腔内に位置する一部のリンク10の位置と移動軌跡との誤差が最小となるように各リンク10の姿勢を算出してもよい。前者の場合、制御部40は、体腔内に位置する全てのリンク10の姿勢を同時に算出することで、目的とする誤差最小化を実現する。
【0039】
一方で後者の場合、たとえば制御部40は、誤差最小化アルゴリズムをリンク10ごとに遠位端12側のリンク10から順番に適用して、各リンク10の姿勢を算出してよい。このとき制御部40は、各リンク10ごとに誤差最小となる姿勢を順番に算出することで、前者の場合と比べると計算量を大幅に低減できるが、ポート7を通る最後のリンク10の姿勢は、その一つ手前のリンク10の姿勢に依存して自動的に定まる。つまりポート7を通る最後のリンク10の姿勢の算出には、誤差最小化アルゴリズムが適用されない。しかしながら、この場合であっても遠位端12側のリンク10から最後のリンク10の一つ手前のリンク10までの姿勢は、誤差最小化アルゴリズムによって算出され、制御部40は、体腔内に挿入されている少なくとも一部のリンク10の姿勢を誤差最小化アルゴリズムにより算出することで、低侵襲な移動モードを実現できる。
【0040】
なお制御部40は、手術用器具5を体腔内で後退させるとき、すなわち手術用器具5を体腔内から引き抜く方向に動かすときも、同様に、低侵襲経路に沿って後退させてよい。制御部40は、記憶部42に記憶された過去の指定位置を用いて各ジョイント部11の姿勢を算出するが、後退時には、遠位端12よりも深部側に存在する過去の指定位置については演算負荷を低減するために、計算対象から除外してよい。
【0041】
以上、本開示を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0042】
実施形態では、ユーザが遠隔操作装置2において操作部材を操作することで、位置指定操作を入力することを説明した。変形例では、遠隔操作装置2に設けた撮像装置がユーザの動きを撮影し、ユーザの動きが画像解析されることで、位置指定操作を入力できるようにしてもよい。また実施形態では、体腔内をカメラプローブ6により撮影することを説明したが、体腔内を撮影するカメラは手術用器具5に組み込まれていてもよい。
【0043】
本開示の態様の概要は、次の通りである。本開示のある態様は、ポートから体腔内に挿入されている手術用器具の動きを制御する制御装置である。手術用器具は、エンドエフェクタを保持する第1リンクと、第2リンクと、第1リンクと第2リンクを相対回転可能に連結する第1ジョイント部とを少なくとも有して構成される。制御装置は、ユーザから、第1リンクまたはエンドエフェクタの所定部分の体腔内における移動位置の指定操作を受け付ける受付部と、所定部分が、位置指定操作に応じた指定位置に移動するように、手術用器具の動きを制御する制御部と、を備える。制御部は、所定部分が指定位置に移動するまでの間に、第1リンクおよび第2リンクの姿勢を、体腔内における所定部分の移動軌跡にもとづいて算出する。
【0044】
この態様によると、手術用器具における第1リンクおよび第2リンクの姿勢を、既に体腔内を移動した所定部分の移動軌跡にもとづいて算出するため、手術用器具を低侵襲で移動させることが可能となる。
【0045】
制御部は、所定部分よりもポート側に位置するリンク部分が所定部分の移動軌跡に沿って移動するように、第1リンクおよび第2リンクの姿勢を算出してよい。制御部は、所定部分の移動軌跡と、手術用器具の位置との誤差が最小となるように、第1リンクおよび第2リンクの姿勢を算出してよい。
【0046】
本開示の別の態様は、ポートから体腔内に挿入されている手術用器具の動きを制御する方法である。手術用器具は、エンドエフェクタを保持する第1リンクと、第2リンクと、第1リンクと第2リンクを相対回転可能に連結する第1ジョイント部とを少なくとも有して構成される。この手術用器具制御方法は、ユーザから、第1リンクまたはエンドエフェクタの所定部分の体腔内における移動位置の指定操作を受け付けるステップと、所定部分が、位置指定操作に応じた指定位置に移動するように、手術用器具の動きを制御するステップと、を備える。手術用器具の動きを制御するステップは、所定部分が指定位置に移動するまでの間に、第1リンクおよび第2リンクの姿勢を、体腔内における所定部分の移動軌跡にもとづいて算出する。
【符号の説明】
【0047】
1・・・手術支援ロボットシステム、2・・・遠隔操作装置、3・・・手術ロボット装置、4・・・ロボットアーム、5,5a,5b・・・手術用器具、6・・・カメラプローブ、7・・・ポート、10a・・・第1リンク、10b・・・第2リンク、10c・・・第3リンク、10d・・・第4リンク、11a・・・第1ジョイント部、11b・・・第2ジョイント部、11c・・・第3ジョイント部、12・・・遠位端、13・・・エンドエフェクタ、30・・・制御装置、40・・・制御部、42・・・記憶部、44・・・受付部、46・・・画像送信部。