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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】整形外科用固定材
(51)【国際特許分類】
   A61F 5/058 20060101AFI20220427BHJP
   A61F 13/04 20060101ALI20220427BHJP
   A61L 15/12 20060101ALI20220427BHJP
   A61L 15/08 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
A61F5/058
A61F13/04 E
A61L15/12
A61L15/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2016250704
(22)【出願日】2016-12-26
(65)【公開番号】P2018102492
(43)【公開日】2018-07-05
【審査請求日】2019-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(72)【発明者】
【氏名】松井 哲也
(72)【発明者】
【氏名】劉 洋
(72)【発明者】
【氏名】諸富 公昭
【審査官】井出 和水
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-016194(JP,A)
【文献】特開2015-171395(JP,A)
【文献】登録実用新案第3147863(JP,U)
【文献】特表2012-518516(JP,A)
【文献】特表2008-512170(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0177081(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0081188(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0289876(US,A1)
【文献】中国実用新案第2880020(CN,Y)
【文献】特開2010-240309(JP,A)
【文献】特開2002-165870(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0093744(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03058904(EP,A1)
【文献】実開昭60-141811(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2013/0053738(US,A1)
【文献】特開昭63-270759(JP,A)
【文献】特開2004-321361(JP,A)
【文献】特開2014-068759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/00 - A61F 5/34
A61F 13/00 - A61F 13/14
A61L 15/00 ー A61L 15/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
指を固定するための整形外科用固定具を作製するための整形外科用固定材であって、
熱可塑性を有する一枚の板状体からなり、
板状のまま掌にあてがうことが可能な掌固定部と、
熱を加えられた状態で指掌側から指左右側面を覆いかつ指背側を開放する船底形に変形させて指にあてがうことが可能な、前記掌固定部の前縁に連設される指固定部と、
熱を加えられた状態で前記掌固定部に向けてそれぞれ折り返して前記掌固定部に重ね合わせることが可能な、前記掌固定部の左右縁に連設される一対の補強部と、を備える整形外科用固定材であって、
前記一対の補強部は、
熱を加えられて前記補強部が前記掌固定部に向けて折り返された状態で前記指固定部の指の基節部に重ね合わせることが可能な、前記掌固定部の前縁よりも前方に突出する延長片をそれぞれ有し、
前記補強部の延長片と前記指固定部とは切れ込みにより区画されている、整形外科用固定材。
【請求項2】
前記指固定部は、種々の指の大きさに対応した複数の罫線が形成されており、この罫線に沿って指固定部の外周を切り取り可能となっている請求項1に記載の整形外科用固定材。
【請求項3】
前記指固定部には、板面を貫通する通気孔が形成されている請求項1または2に記載の整形外科用固定材。
【請求項4】
熱可塑性樹脂と、金属粉末とを含有し、前記金属粉末の含有量が、5~50重量%である請求項1から3のいずれかに記載の整形外科用固定材。
【請求項5】
熱可塑性を有する一枚の板状体からなり、
板状のまま掌にあてがうことが可能な掌固定部と、
熱を加えられた状態で指掌側から指左右側面を覆いかつ指背側を開放する船底形に変形させて指にあてがうことが可能な、前記掌固定部の前縁に連設される指固定部と、
熱を加えられた状態で前記掌固定部に向けてそれぞれ折り返して前記掌固定部に重ね合わせることが可能な、前記掌固定部の左右縁に連設される一対の補強部と、を備える整形外科用固定材から作製される整形外科用固定具であって、
掌にあてがわれる板状の掌固定部と、
前記掌固定部の前縁に連設され、指にあてがわれて、指掌側から指左右側面を覆いかつ指の背側を開放する船底形の指固定部と、
前記掌固定部の左右縁に連設され、前記掌固定部に重なり合う一対の板状の補強部と、を備える整形外科用固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整形外科用固定材、この整形外科用固定材から作製される整形外科用固定具、およびこの整形外科用固定材から整形外科用固定具を作製する方法に関する。
特に、指節骨骨折の術後に保護及び固定するための、整形外科用固定材、整形外科用固定具および整形外科用固定具の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
指を骨折した場合に、患部を固定するための副木として、非特許文献1のような、スプリント材が用いられている。図10のように、この種のスプリント材20は、アルミニウム板21にウレタンフォーム22を張り合わせてなる。
しかしながら、この種のスプリント材20は複雑な形状への成形が困難である。また、指Fを固定する場合に、上下から挟み込んで固定しているにすぎないため、左右方向へ指Fがずれやすかった。このような左右方向のずれを防止するためには、上下から指Fを強く圧迫した状態で固定する必要があるため、血流が阻害されるおそれがあった。また、上下から強く挟み込んだ状態でテープ23等を用いて指Fに固定するため、指Fに対するスプリント材20の脱着が容易でない問題があった。
【0003】
そのため、特許文献1および2のように、手の形状に合わせて成形することで、圧迫せずに固定が可能な、水硬化性や光硬化性のシート状固定材が開発されているが、この種のシート状固定材は、一度硬化すると再成形できないため、後から形状の微調整をおこなうことができない問題があった。
また、再成形が可能な熱硬化性のシート状固定材も開発されてはいるが、この種のシート状固定材は一般に強度が不十分であり、特に力が掛かる指の付け根が固定できないなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-273875号公報
【文献】特許第4696313号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】アルケア株式会社ホームページ中、アルフェンス(登録商標)の紹介ページ(URL:http://www.alcare.co.jp/medical/product/pdf/catalog/cat_alfence.pdf)(検索日 平成28年12月8日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、成形しやすく、再成形による調整が可能でかつ成形後に十分な強度を持つ、指の固定に適した整形外科用固定具およびその整形外科用固定具を作製するための整形外科用固定材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するため、発明にかかる整形外科用固定材を、熱可塑性を有する一枚の板状体からなり、掌固定部と、掌固定部の前縁に連設される指固定部と、掌固定部の左右縁に連設される一対の補強部と、を備えるものとしたのである。
そして、熱をくわえられた状態で、前記掌固定部は板状のまま掌にあてがわれ、前記指固定部は指掌側から指左右側面を覆いかつ指背側を開放する船底形に変形されて指にあてがわれ、前記一対の補強部は、前記掌固定部に向けてそれぞれ折り返されて前記掌固定部に重ね合わされることになるものとしたのである。
すなわち、発明にかかる整形外科用固定具を、全体が熱可塑性を有し、掌にあてがわれる板状の掌固定部と、前記掌固定部の前縁に連設され、指にあてがわれて、指掌側から指左右側面を覆いかつ指背側を開放する船底形の指固定部と、前記掌固定部の左右縁に連設され、前記掌固定部に重なり合う一対の板状の補強部と、を備えるものとしたのである。
【0008】
発明にかかる整形外科用固定材を、以上のように熱可塑性を有するものとしたので、熱を加えて整形外科用固定具へと変形させた後に、熱を除くことでその成形状態を固定することができる。整形外科用固定具の形状を微調整したい場合には、再度熱を加えることで、変形を容易におこなうことができる。
また、整形外科用固定具の状態において、補強部が掌固定部に重なり合うことで二重構造となっているため、強度が向上している。
さらに、整形外科用固定具の状態において、指固定部が指の腹側(指掌側)から指の左右側面を覆う船底形をしているため、スプリント材のように指が左右方向にずれ動くことがない。スプリント材のように、ずれ動きを防ぐために上下から無理に挟み込むようなこともなく、指の背側は解放されているため、圧迫感を覚えることもない。指を上下から挟み込んだ状態でテープ等によりきつく固定されるスプリント材に比べて、脱着も容易である。
【0009】
本発明の整形外科用固定材において、前記一対の補強部は、前記掌固定部の前縁よりも前方に突出する延長片をそれぞれ有し、前記補強部の延長片と前記指固定部とは切れ込みにより区画されているのが好ましい。そして、熱を加えられて前記補強部が前記掌固定部に向けて折り返された状態で、前記補強部の延長片が前記指固定部の指の基節部に重ね合わされることになるのが好ましい。
このように構成すると、整形外科用固定具の状態において、折り曲げ応力の起点となり、特に力の掛かる指の付け根箇所(基節部)が補強部の延長片により補強されるため、指の付け根箇所(基節部)から亀裂が発生すること等を防止することができる。また、指の付け根箇所(基節部)を動かすことができないため、患部をしっかりと固定することができる。
【0010】
本発明の整形外科用固定材において、前記指固定部は、種々の指の大きさに対応した複数の罫線が形成されており、この罫線に沿って指固定部の外周を切り取り可能となっているのが好ましい。
このように構成すると、整形外科用固定具を作製する際に、患者の指の大きさに応じて指固定部を適当な大きさに調整することができる。罫線に沿って切断することで、切断面にバリが生じることが防止されるため、切断面と干渉して指皮膚が傷をうけることや装着時の違和感が減じられる。
【0011】
本発明の整形外科用固定材において、前記指固定部には、板面を貫通する通気孔が形成されているのが好ましい。
このように構成すると、整形外科用固定具を指に装着した際に、通気性を良好なものとすることができ、長期装着による患部の蒸れや皮膚の浸軟が防止される。
【0012】
本発明の整形外科用固定材において、熱可塑性樹脂と、金属粉末とを含有し、前記金属粉末の含有量は、5~50重量%の範囲内であるのが好ましい。
このように構成すると、金属粉末の有する高い熱伝導性により、患部が熱を持った場合に整形外科用固定具を通じてその熱を外部に逃がすことや、患部を保温したい場合に整形外科用固定具の外側から熱源を当てて加温することが可能となる。
金属粉末の含有量を上記の範囲とすることで、熱可塑性樹脂による整形外科用固定材の強度に悪影響を与えることなく、整形外科用固定材の伝熱性を有意に向上させることができる。
【0013】
本発明の整形外科用固定材から整形外科用固定具を作製する方法においては、前記整形外科用固定材を加熱する工程と、前記掌固定部を掌にあてがいつつ、指にあてがわれた前記指固定部を指掌側から指の左右側面に沿うように変形させ、指の爪先において左右から重ね合わされた前記指固定部の重合箇所につき、その余剰分を鋏で切り取ると同時にその切り取り時の鋏の両刃の挟み込みに伴う押圧により重合箇所を接合させる工程と、前記一対の補強部を前記掌固定部に向けてそれぞれ折り返す工程と、を含むのが好ましい。
このようにすると、指の爪先における指固定部の接合と指固定部の重合箇所の余剰分の切り離しとを同時におこなうことができるため、整形外科用固定具の作製および患部への装着の手間がかからない。
【0014】
本発明の整形外科用固定具の作製方法において、前記一対の補強部の折り返し工程は、前記補強部と前記掌固定部との境界を湾曲させることにより行われるのが好ましい。
補強部と掌固定部を周面とする扁平な筒体が形成され立体的な構造となるため、補強部と掌固定部との境界を屈曲させ両板を完全に重ね合わせた平面的な構造と比較して、整形外科用固定具の強度が向上する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、整形外科用固定材および整形外科用固定具につき、再成形により手の形状に合わせて微調整ができ、かつ十分な強度を有する、指の固定に適したものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態の整形外科用固定具を患部に装着した状態を示す(a)は斜視図、(b)は(a)のb-b線断面図、(c)は側面図
図2】実施形態の整形外科用固定材の(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は背面図
図3】実施形態の整形外科用固定材から整形外科用固定具を作製する工程を示す斜視図
図4】実施形態の整形外科用固定材から整形外科用固定具を作製する工程を示す斜視図
図5】実施形態の整形外科用固定材から整形外科用固定具を作製する工程を示す斜視図
図6】実施形態の整形外科用固定材から整形外科用固定具を作製する工程を示す斜視図
図7】実施形態の整形外科用固定材から整形外科用固定具を作製する工程を示す要部の底面図
図8】実施形態の整形外科用固定材から整形外科用固定具を作製する工程を示す斜視図
図9】実施形態の整形外科用固定材の他の例を示す正面図
図10】従来のスプリント材を患部に装着した状態を示す(a)は斜視図、(b)は(a)のb-b線断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
図1に示す、実施形態の整形外科用固定具10は、骨折した指Fを覆って固定するために用いられ、図2に示す、実施形態の整形外科用固定材10´から作製される。
【0018】
図1のように、実施形態の整形外科用固定具10は、掌Pにあてがわれる掌固定部11と、指にあてがわれる指固定部12と、掌固定部11から指固定部12の一部にかけて重ね合わされる補強部13とを備える。
掌固定部11は、矩形の板状体であり、そのほぼ全面が掌Pに接触している。
【0019】
指固定部12は、掌固定部11の前縁に連設され、指Fの腹側(指掌側)から左右側面にかけてを覆う船底形をしており、指Fの背側は開放されている。
図1(b)のように、指固定部12は、指Fの腹側(指掌側)から左右側面にかけての形状に合致するように、断面が円弧形をなしている。また、図1(c)のように、指固定部12は、指Fの付け根から爪先にかけての弓状の形状に合致するように、長さ方向に沿って緩やかな弧状に湾曲している。
指固定部12の指Fの爪先側は閉塞されており、ここに指Fの爪先が当接している。
骨折した指Fは、指固定部12に覆われることで、動かないように固定される。
指固定部12のほぼ全域には、厚み方向に貫通する多数の通気孔12aが設けられているため、患部である指Fの通気性が確保され、蒸れないようになっている。
指固定部12の指Fの背側は開放されているため、指Fは固定された状態で腫れが生じるなどしても、指Fの全体が覆われている場合と異なり、圧迫感を覚えることはない。
【0020】
補強部13は、矩形の板状体であり、掌固定部11の左右縁に一対に連設され、掌固定部11に向けて折り返されている。
図1(a)のように、折り返し箇所は、鋭角に折り曲げられているのではなく、小さく湾曲した状態に折り曲げられているため、補強部13と掌固定部11とで扁平な筒体が形成されている。この補強部13は、掌固定部11のほぼ全体に重ね合わされている。
また、補強部13は、掌固定部11の前縁よりも前方に突出する延長片13aを有し、この延長片13aは、指固定部12の指Fの基節部に重ね合わされている。
掌固定部11のほぼ全面に補強部13が重ね合わされることで、掌固定部11が補強されている。特に、補強部13と掌固定部11とで扁平な筒状の立体的構造が形成されているため、折り曲げ応力に対する耐強度が高いものとなっている。
また、補強部13の延長片13aが、最も力の掛かる指Fの基節部(付け根箇所)において指固定部12に重ね合わされることで、最も折り曲げ応力が負荷されやすい指固定部12の指Fの基節部(付け根箇所)が、重点的に補強される。
【0021】
実施形態の整形外科用固定具10は、熱可塑性を有する材料から形成されている。
したがって、整形外科用固定具10が指Fにぴったりとフィットしない場合や、指Fの腫れが増したり引いたりして指Fの形状が変化した場合などに、加熱のうえ再成形できるようになっている。
【0022】
図2のように、実施形態の整形外科用固定具10を作製するための整形外科用固定材10´は、単一の矩形の板状体であり、掌固定部11と、掌固定部11の前縁に連設される指固定部12と、掌固定部11の左右縁に連設される一対の補強部13とを備える。
整形外科用固定材10´の寸法は特に限定されないが、一般的な手の寸法に対応するものとして、幅が50mm以上100mm以下、また、厚みについては、1.5mmを下回ると強度が不足する恐れがあり、2.5mmを上回ると変形させにくくなったり重量が大きくなったりする恐れがあるため、1.5mm以上2.5mm以下であることが例示できる。
整形外科用固定材10´の形状は、板状体である限りにおいて、平面視矩形に限定されず、平面視円形、多角形、台形、楕円形等でもよい。
【0023】
掌固定部11は、指固定部12との連設方向に沿った辺を長辺とし、補強部13との連設方向に沿った辺を短辺とする矩形をなしており、補強部13との境界に相当する左右縁には、直線状の罫線11aが形成されている。
【0024】
指固定部12は、略矩形をなしており、内部には弧状に湾曲する罫線12bが形成されている。罫線12bは、指Fの腹側(指掌側)から左右側面にかけての形状を展開して平面化した形状となっており、内側と外側に二重に形成されている。なお、罫線12bの数はこれに限定されず、たとえば三重以上に形成してもよい。
指固定部12の外側の罫線12bよりも内側の領域には、板面を貫通する通気孔12aがほぼ全域に万遍なく形成されている。
通気孔12aの寸法は特に限定されないが、良好な通気性を確保しつつ整形外科用固定材10´の強度や伝熱性に影響を与えないものとして、直径が0.5mm以上2.5mm以下であることが例示できる。
【0025】
左右一対の補強部13は、掌固定部11との連設方向に沿った辺を短辺とし、これと直交する方向を長辺とする略矩形をなしている。
補強部13は、掌固定部11の前縁よりも前方に突出する延長片13aを有しており、補強部13の長辺は、この延長片13aの分だけ掌固定部11の長辺よりも長くなっている。
各延長片13aと指固定部12との境界には、階段形の切れ込み13bがそれぞれ形成されており、延長片13aは指固定部に対して遊離した状態にある。一対の切れ込み13bの掌固定部11に近い側の端部を結ぶ仮想線は、掌固定部11と指固定部12との境界となる。
延長片13aの寸法は、指固定部12の指Fの付け根箇所に重ね合わせることが可能な限りにおいて特に制限されないが、補強の効果を十分に発揮しつつ邪魔にならない寸法として、長さが20mm以上30mm以下、幅が12mm以上20mm以下であることが例示できる。
なお、切れ込み13bの形状は、延長片13aを指固定部12から遊離させる限りにおいて限定されず、傾斜する直線形、円弧形などでもよい。
【0026】
実施形態の整形外科用固定材10´は、熱可塑性樹脂と金属粉末の混合物を板状に成形することにより形成されている。その製造方法は、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂と金属粉末単体あるいは金属粉末を含むマスターバッチとを所定量配合して加熱混合することによる。
【0027】
これにより、実施形態の整形外科用固定材10´は、熱可塑性を有し、かつ良好な熱伝導性を有する。
その熱伝導率は特に限定されないが、20℃における熱伝導率が0.170W/m・K以上であり、さらには0.250W/m・K以上であることがより好ましい。
熱伝導率がこのような範囲であると、患部である指Fが熱を持った際に、その熱を効率的に放熱することができる。また整形外科用固定材10´を加熱変形させる際に、患部の形状に合わせた変形がより短時間に可能であり、簡便性に優れる。
このような熱伝導率は、金属粉末および熱可塑性樹脂の種類の選択、配合の割合を適宜調整することで実現可能である。
また、整形外科用固定材10´は、90℃の温水中に3秒間保持した後、180度折り曲げたときに折り曲げ部に割れが発生しないことが好ましい。
この場合、患部の形状に合わせて自由な形状に容易に変形させることができ、患部への適合性および患部の治癒に伴なう形状変化に対する再適合性が一層高いものとなる。
【0028】
熱可塑性樹脂と金属粉末の含有割合は特に限定されないが、金属粉末の含有量が、5~50重量%であるのが好ましく、10~30重量%の範囲内であることがより好ましい。
金属粉末の含有量が、5重量%を下回ると、金属粉末が少なすぎて、有意な熱伝導性を得られない可能性があるからである。また、金属粉末の含有量が、50重量%を上回ると、金属粉末が多すぎて、整形外科用固定材10´が脆くなり、指Fに沿わせようと変形した際に割れや折れが生じやすくなるからである。
【0029】
実施形態の整形外科用固定材10´に含有される熱可塑性樹脂の種類は特に限定されないが、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン系樹脂が例示できる。また、これらの樹脂が混合したものであってもよい。
【0030】
熱可塑性樹脂の融解温度範囲は特に限定されないが、40℃以上90℃以下であることが好ましい。この範囲内であれば、汎用されている温度の温水により軟化するため、取扱いが容易となる。
なかでも、ポリカプロラクトンが、融解温度範囲が58~60℃であり、50~80℃程度の温水で簡単に熱変形しかつ固化後の形状が変形しにくいため、特に好ましい。
ポリカプロラクトンを用いる場合、Perstorp社製の熱可塑性ポリカプロラクトンである、グレード名CapaTM6100、同6200、同6250、同6400、同6430、同6500、同6500C、同6506、同6800が好適に使用できる。これらのポリカプロラクトンは、約60℃以上のお湯に漬けるだけで(最適温度と時間は90℃約3秒)容易に変形させることができるため、3次元に形作ることが容易であり、指Fの微妙な曲線部に沿わせることができる。
【0031】
金属粉末は、整形外科用固定材10´に含有する熱可塑性樹脂よりも高い熱伝導率を有する熱伝導粉末であればよく、その種類は特に限定されないが、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル、鉄、ステンレスが例示できる。
この種の金属粉末の中でも、安価で入手が容易でかつ軽量で高い放熱性を有するアルミニウム粉末(アルミニウムの合金を含む)が好ましい。この場合、整形外科用固定材10´の重量やコストの増加を抑えることができる。金属粉末は、樹脂などを用いて適宜表面処理されていてもよい。
金属粉末の形状は、特に限定されず、球状、粒状、板状、フレーク状のものが例示できる。
熱伝導粉末の平均粒径は特に限定されないが、メジアン径(D50)で5~100μmの範囲内が好ましい。この範囲を下回ると、熱伝導粉末が細かすぎてその取扱いが容易ではなく、この範囲を上回ると、整形外科用固定材中に均等に分散されにくくなり、均一な熱伝導性を与えにくくなるからである。なお、熱伝導粉末の平均粒径は、レーザー回折法などの公知の粒度分布測定法により測定できる。
【0032】
以上のような実施形態の整形外科用固定材10´から、図3図8に示す実施形態の作製方法により、実施形態の整形外科用固定具10が作製される。
まず、実施形態の整形外科用固定材10´を準備し、あらかじめ温水等により適宜加熱して、変形可能な状態にしておく。
【0033】
次に、図3のように、左右一対の補強部13を罫線11aに沿って折り返し、掌固定部11の上に重ね合わせる。ここで、罫線11aは鋭角に折り曲げられるのではなく、緩やかなカーブを描くように、湾曲した状態に折り返すものとする。補強部13の縁部同士は、掌固定部11の中心線上において突きあわされる。
このとき、補強部13の延長片13aは、指固定部12の指の付け根箇所(基節部)に重ね合わされる。
【0034】
さらに、図3から図4のように、指固定部12の罫線12bよりも外側の箇所を鋏等で切り取り、指固定部12を患部である指Fの形状および寸法に凡そ合致したものとする。
このとき、たとえば、指Fが大人の指であって大きい場合には、外側の罫線12bで切り取り、指Fが子供の指であって小さい場合には、内側の罫線12bで切り取り、大きさを調整することになる。
罫線12bを複数設けることにより、指固定部12の大きさの調整が容易となる。また、罫線12bに沿って切断することで、切断面にバリ等が発生しにくく、指Fに当てた際の違和感を低減できる。
【0035】
さらに、図4から図6のように、指固定部12の全体を、補強部13の延長片13aが重なり合う面と逆側の面に向けて丸めて、患部である指Fの腹側(指掌側)から左右側面を覆うことが可能な船底形へと変形させる。
この状態において、図6および図7(a)のように、指固定部12の指Fの爪先に対応する箇所は、左右から丸められた部分が突きあっている。
図7(a)から(b)のように、この突きあった箇所の余剰分を、邪魔にならなにように鋏を用いて切り取る。
余剰分を切り取る際に、突きあった箇所は、鋏の両刃に挟み込まれて押圧されるため、図7(b)のように、加熱されて柔らかくなっている切断面同士が接着する。指固定部12の指Fの爪先に対応する箇所の閉塞と余剰分の切り取りを同時におこなうことができるため、作業の効率化が図られる。
【0036】
最後に、図8のように、指固定部12を、指Fの弓なりの形状に合わせて、長手方向に緩やかな弧状に湾曲させることで整形外科用固定具10が完成する。
この整形外科用固定具10を手に装着した状態でうまく密着・適合しなかったり、治癒の過程で指Fの形状が変化した場合には、整形外科用固定具10を再加熱して、都度変形させ微調整をおこなう。
【実施例
【0037】
以下、本発明の実施例および比較例を示し、本発明の内容を一層明確にする。
【0038】
実施例1から3として、以下の成形品を作製した。
(実施例1)
熱可塑性樹脂としてポリカプロラクトン樹脂(品名CapaTM6800、Perstorp社製)40質量%とアルミニウムフレークを含むマスターバッチ(品名「METAX NEO(メタックスネオ)」品番「NME010T6」、アルミ分70重量%、アルミニウム粉末の平均粒径10μm、キャリア樹脂は低密度ポリエチレンとポリエチレンワックスの混合物、東洋アルミニウム株式会社製)60質量%を練り合わせ、汎用の射出成形機を用いて、射出温度180℃で図2に示す長さ200mm×幅70mm×厚み2mmの板状の整形外科用固定材を成形した。
この板状の整形外科用固定材を85℃の湯に浸して加熱し、可塑化して図1に示す形状の整形外科用固定具に成形した。
(実施例2)
延長部13aを切り落とした以外は実施例1と同様に整形外科用固定具を成形した。
(実施例3)
ポリカプロラクトン樹脂のみから、実施例2と同様に整形外科用固定具を成形した。
(比較例1)
比較例1として、図10に示すような、市販のアルミニウム製スプリント材(商品名アルフェンス、10号、1.5mm×13mm×200mm、アルケア株式会社製)を準備した。比較例1は、指の形状に合わせて曲げることなくそのままの形状で用いた。
【0039】
(強度試験)
実施例1から3の整形外科用固定具を、手に接触する側を下向きにして7cm開いた受け台に設置し、5565形万能試験機(インストロン社製)を用いて、5mm/分でヘッドを降下させて、破壊が起きた時の荷重を計測した。なお、実施例1においては、延長片が受け台の中央に来る様に設置した。
また、比較例1については、測定箇所を曲げずにウレタンフォームを下にして設置し同様の条件で計測を行った。
各測定を10回繰り返し行った。その結果を表1示す。表中各数値は、荷重(N)を示す。
実施例1から3は、成形性等における比較例1に対する優位性を有しつつ、同表からは、実施例2および3については、比較例1と同等の強度を有し、実施例1については、比較例1よりも大幅に強度が高いことが理解できる。
また、実施例2と実施例3の強度の差から、金属粉末を混合することで熱可塑性樹脂のみからなるものよりも強度が高くなることが理解できる。
さらに、実施例1と実施例2の強度の差から、延長片を設けることで、強度が飛躍的に向上することが理解できる。
【0040】
【表1】
【0041】
(熱伝導性試験)
実施例1と実施例3について、サーモラボIIB形精密迅速熱物性測定装置(装置形番KES-F7、カトーテック株式会社製、以下、「熱伝導測定装置」と称す。)を用いて、測定環境として温度20℃、相対湿度65±10%にて、熱伝導性試験(定常熱伝導測定)を行った。
まず、熱伝導測定装置の冷却ベースの温度を20℃、B.T.Box(熱源台)の温度を30℃に設定した。
次いで、熱伝導性試験の対象である、実施例1と3の整形外科用固定具から5cm×5cmの試験片を切出し、切出した試験片を冷却ベースに載せ、試験片の上から熱源台を重ねた。
次いで、熱源台の消費熱量が一定になった後、熱源台の熱流量を測定し、この時の冷却ベースおよび熱源台の温度ならびに熱源台の平均熱流量から下記に示す式により熱伝導率を算出した。
熱伝導率(W/mk)=(〔熱源台の熱流量(W)〕×〔試験片の厚み(cm)〕)÷(〔熱源台の面積(cm)〕×〔熱源台の温度(℃)-冷却ベースの温度(℃)〕)
このようにして同一試験片にて3回熱伝導率を測定した後、平均値を算出した。結果を表2に示す。表中各数値は、熱伝導率(W/mk)を表す。
同表から、アルミニウム粉末を含有する実施例1が含有しない実施例3に比べて約200%熱を伝えやすいことが理解できる。
【0042】
【表2】
【0043】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。
【0044】
実施形態では、整形外科用固定材10´の切れ込み13bを階段状に形成しているが、切れ込み13bは、延長片13aが指固定部12から遊離する目的で設けられたものであり、その目的が達せられる限りにおいて形状は限定されない。
たとえば、図9(a)のように、切れ込み13bをL字型としたり、図9(b)のように、切れ込み13bをくの字型としたり、図9(c)のように、切れ込み13bを弧状にすることもできる。
【符号の説明】
【0045】
10 整形外科用固定具
10´ 整形外科用固定材
11 掌固定部
11a 罫線
12 指固定部
12a 通気孔
12b 罫線
13 補強部
13a 延長片
13b 切れ込み
20 スプリント材
21 アルミニウム板
22 ウレタンフォーム
23 テープ
F 指
P 掌
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10