(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】防錆処理用器具及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C23F 11/02 20060101AFI20220427BHJP
F16L 58/02 20060101ALN20220427BHJP
【FI】
C23F11/02
F16L58/02
(21)【出願番号】P 2016113887
(22)【出願日】2016-06-07
【審査請求日】2019-06-04
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】593002540
【氏名又は名称】株式会社大和化成研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】599113590
【氏名又は名称】株式会社美貴本
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】浪川 一敏
(72)【発明者】
【氏名】吉本 雅一
(72)【発明者】
【氏名】山口 信之
(72)【発明者】
【氏名】相見 和徳
【合議体】
【審判長】平塚 政宏
【審判官】太田 一平
【審判官】井上 猛
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-064784(JP,A)
【文献】特開昭61-246383(JP,A)
【文献】特開2003-064490(JP,A)
【文献】特開2014-005688(JP,A)
【文献】実開平07-019530(JP,U)
【文献】特開2010-203088(JP,A)
【文献】特開2012-016665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属管内部の防錆処理を施すための方法であって、
水抜き孔を備える金属管が、金属塔の少なくとも一部に使用され、
前記金属管内部に器具を設ける工程を含み
、
前記器具は以下を備え
、
長尺状部材、
前記長尺状部材に固定された又は一体化された1つ又は複数の通気性の容器、及び
気化性防錆剤
ここで、前記気化性防錆剤は、前記容器内部に設置される、前記容器内部に含浸される、又は、前記容器表面に担持され
、
前記設ける工程が、前記容器が前記金属管内壁に接触しないように前記器具を設置することを含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前
記容器を複数備える、該方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法であって、前記長尺状部材の長さが少なくとも3mである、該方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法であって、前記長尺状部材が可撓性である、該方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法であって、前記容器が前記金属管の内壁に接触するのを防止するための脚部を更に備える、該方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法であって、
脚部を更に備え、
前記脚部は前記長尺状部材に固定され、
前記脚部の端部は、前記長尺状部材の長手方向に対する垂直方向から見て、前記容器の端部を超えるように設けられる、該方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法であって、
複数の脚部を更に備え、
前記複数の脚部は前記長尺状部材に固定され、
前記複数の脚部は、前記容器が前記金属管の内壁に接触しないような、長さ及び間隔で設けられる、該方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法であって、前記器具を少なくとも3ヶ月の間設置する、該方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法であって、前記金属管が準密閉状態である、該方法。
【請求項10】
複数の金属管を組み合わせた金属塔であって、
複数の金属管の少なくとも一部の水抜き孔を備える金属管において、器具を備える金属塔であり、
前記器具は、以下を備える、金属塔:
長尺状部材、
前記長尺状部材に固定された又は一体化された1つ又は複数の通気性の容器、及び
気化性防錆剤
ここで、前記気化性防錆剤は、前記容器内部に設置される、前記容器内部に含浸される、又は、前記容器表面に担持され、前記容器が前記金属管内壁に接触しないように前記器具が設置される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆処理用器具及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電波塔や送電線鉄塔などは、定期的なメンテナンスが必要とされる。例えば、これらの塔を形成する金属管の外側には、錆や腐食を防ぐための処理を定期的に行う必要がある。
【0003】
しかし、塔を形成する金属管の内側表面では、錆や腐食を防ぐための処理を行うことは困難である。そして、既に錆や腐食が生じた場合、一部の金属管を交換するなどの処置を行うことがある。
【0004】
金属管の内側で防錆処理を施す方法として、特開2015-178074号や特開2015-180152号では、水系塗料を供給するホースとシャワー部等を備える塗装装置を開示している。具体的には、主柱材となる金属管の上方から、当該装置を入れ、金属管内側表面に向けてシャワー部から塗料を噴射している。
【0005】
特開2011-246775号では、気化性の防錆剤を含有させたウレタン原料を、金属管内部で発泡させて、外部からの空気及び水を遮断する方法を開示している。また、特開2012-233236号では、気化性の防錆剤を内部に設置し、通気孔を有する蓋部材を両端の開口部に有する鋼管を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-178074号公報
【文献】特開2015-180152号公報
【文献】特開2011-246775号公報
【文献】特開2012-233236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、一旦錆が発生した金属管については、交換が行われることがある。しかしながら、電波塔や送電線鉄塔を含む各種塔は、その構造上、交換することが現実的に困難な部分が存在する。例えば、塔を支持するのに大きく寄与する支柱(例:主柱材)などは、塔の構造を維持したまま交換することは極めて困難である。
【0008】
しかしながら、支柱を構成する金属管も、上述したように、内部で錆が発生するリスクが存在する。こうしたリスクは、塔の建設時に予め内部に防錆処理を施していたとしても、経年劣化すれば依然として避けることができない。従って、交換が困難な部位を塔内において構成する金属管については、できるだけ防錆寿命を長くするようにすることが望ましい。
【0009】
本発明は、以上の事情に鑑み、錆に対する金属管の寿命を長くするための器具及びその使用方法を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本願発明は、以下のように特定される。
【0011】
(発明1)
金属管内部の防錆処理を施すための器具であって、
以下を備える、該器具:
長尺状部材、
前記長尺状部材に固定された又は一体化された1つ又は複数の通気性の容器、及び
前記容器内に設置された気化性防錆剤、又は、気化性防錆剤をその内部及び/又は表面に含有する部材。
(発明2)
発明1に記載の器具であって、前記通気性の容器を複数備える、該器具。
(発明3)
発明1又は2に記載の器具であって、前記長尺状部材の長さが少なくとも3mである、該器具。
(発明4)
発明1~3のいずれか1項に記載の器具であって、前記長尺状部材が可撓性である、該器具。
(発明5)
発明1~4のいずれか1項に記載の器具であって、前記容器が前記金属管の内壁に接触するのを防止するための脚部を更に備える、該器具。
(発明6)
発明1~4のいずれか1項に記載の器具であって、
脚部を更に備え、
前記脚部は前記長尺状部材に固定され、
前記脚部の端部は、前記長尺状部材の長手方向に対する垂直方向から見て、前記容器の端部を超えるように設けられる、該器具。
(発明7)
発明1~4のいずれか1項に記載の器具であって、
複数の脚部を更に備え、
前記複数の脚部は前記長尺状部材に固定され、
前記複数の脚部は、前記容器が前記金属管の内壁に接触しないような、長さ及び間隔で設けられる、該器具。
(発明8)
金属管内部の防錆処理方法であって、前記金属管内部に発明1~7に記載の器具を設ける工程を含む、該方法。
(発明9)
発明8に記載の方法であって、前記設ける工程が、前記容器が前記金属管内壁に接触しないように前記器具を設置することを含む、該方法。
(発明10)
発明8又は9に記載の方法であって、前記金属管が支柱として使用される、該方法。
(発明11)
発明8~10のいずれか1項に記載の方法であって、前記器具を少なくとも3ヶ月の間設置する、該方法。
(発明12)
発明8~11のいずれか1項に記載の方法であって、前記金属管が準密閉状態である、該方法。
(発明13)
発明1~7に記載の器具を支柱内部に備える金属塔。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、一側面において、気化性防錆剤を備えた器具を用いる。これにより、最初に施した防錆処理が経年劣化した後でも、持続的に防錆処理を施すことができる。従って、金属管内部への防錆効果を長時間維持することができる。
【0013】
本発明は、一側面において、長尺状の部材を備えた器具を用いる。これにより、金属管内部への取り付けや取り外しを容易に行うことができる。特に、器具に備えられた気化性防錆剤が全て気化して無くなったとしても、金属管からの器具の取り出しを容易に行うことができる。従って、塔完成後であっても、新たな気化性防錆剤を補充した器具を再度金属管内部に容易に取り付けることができる。即ち、金属管内部への防錆効果を長時間維持することができる。
【0014】
本発明は、一側面において、器具が脚部を備える。これにより、防錆剤及び/又は容器が、金属管内部の壁面に接触するのを防止することができる。そして、金属管内部において発生した結露と、容器内の防錆剤との接触を防ぐことができる。結露が容器内の防錆剤と接触すると、防錆剤が結露と共に下方に流されてしまい、防錆効果を弱めるだけでなく、防錆剤の種類によっては地表や土壌などに防錆剤が進入し環境へ悪影響を及ぼす可能性がある。従って、結露との接触を防ぐことで、こうした問題を低減又は回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態における本発明の器具の構成を示す。
【
図2】別の一実施形態における本発明の器具の構成を示す。
【
図3】一実施形態における本発明の器具(
図2)を上面から見た図を示す。
【
図4】さらなる別の一実施形態における本発明の器具を上面から見た図を示す。
【
図5】一実施形態における本発明の器具における脚部と容器の位置関係を示す。
【
図6】一実施形態における本発明の器具を、金属管内部へ取り付けた状態を示す。
【
図7】一実施形態における本発明の器具を、主柱材内部へ取り付けた状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための具体的な実施形態について説明する。以下の説明は、本発明の理解を促進するためのものである。即ち、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0017】
1.防錆処理を施すための器具
本発明は、一実施形態において、金属管内部の防錆処理を施すための器具を含む。あるいは、本発明は、一実施形態において、前記器具を支柱内部に備える金属塔を含む。
図1に示すように、器具は、少なくとも、長尺状部材と、気化性防錆剤と、気化性防錆剤用の通気性容器とを備えることができる。
【0018】
1-1.長尺状部材
長尺状部材は、カテーテルと血管のような態様と同様、金属管内部に長手方向に沿って配置するための形状を有する。長さの下限値については、特に限定されず、3m以上、4m以上、5m以上、6m以上、7m以上、8m以上、9m以上、10m以上、20m以上、30m以上、40m以上、又は、50m以上であってもよい。また、長さの上限値についても、特に限定されず、10m以下、20m以下、30m以下、40m以下、50m以下、60m以下、70m以下、80m以下、90m以下、100m以下、又は、200m以下であってもよい。あるいは、長尺状部材は、両端に連結部を有して、別の長尺状部材と連結可能な構造を有してもよい。つまり、1つの器具自体の長さが短くても、連結して使用することにより長さを調節できるようにしてもよい。
【0019】
長尺状部材の断面形状については、特に限定されず、円形、楕円形、多角形等、任意の形状でよい。あるいは、テープ状であってもよいし、ロープのように複数の紐を編んだ構造であってもよい。
【0020】
金属管は通常直線状であることが多いため、長尺状部材は、剛性でも可撓性でもよい。ただし、金属塔における支柱(主柱材)の一部は、折れ曲がった構造(例えば、曲げ点、又はベンドと呼ばれる)を有する部分も存在する可能性がある(
図7参照)。こうした構造に対応する目的で、長尺状部材は、可撓性であることが好ましい。
【0021】
長尺状部材の材質については、特に限定されず、金属、プラスチック、炭素繊維、ガラス繊維、又はこれらの組み合わせであってもよい。また、金属管内部に吊り下げて使用する場合、器具自身の重さに耐えることを考慮して、高強度の樹脂繊維を使用してもよい。また、結露などが生じることを防止するため、長尺状部材の材質は、非金属性であることが好ましい。また、送電用の塔で利用する場合には、非導電性であることが好ましい。理由は、器具に誘導電流が生じて、器具を取り付ける作業者への事故が生じることを防止するためである。
【0022】
また、長尺状部材は、後述する容器(防錆剤を担持するための容器)と一体形成されてもよい。例えば、前記容器が気化性の不織布包材である場合には、長尺状部材の材料も不織布であってもよく、そして、長尺状部材と容器が一体形成されてもよい。
【0023】
1-2.容器
容器は、防錆剤を担持するために用いることができる。容器は、長尺状部材に固定することができる。あるいは、上述したように、長尺状部材と容器が一体形成されてもよい。
【0024】
容器が担持する防錆剤は、気化性であるため、前記容器は通気性であることが好ましい。また、長尺状部材に取り付けられる容器の数は、1つであっても複数であってもよいが、好ましくは複数である。そして、複数の容器は、長尺状部材の長手方向に沿って所定の間隔を置いて設けることができる。これにより、防錆剤の量を多くすることができ、防錆効果を長期間維持することができる。また、金属管のあらゆる部位に防錆処理をより均一に施すことができる。
【0025】
容器の材料は、防錆剤を担持することができれば、特に限定されず、不織布、多孔体(スポンジ状)、紙、フィルムなどが挙げられる。また、容器は、ハウジングのような構造(防錆剤の周囲を取り囲んで収納する構造)のみならず、防錆剤を内部に含浸させる機能及び/又は表面に含有させる機能を有するものを含むことができる。
【0026】
1-3.防錆剤
防錆剤は、上述した容器内に設置されてもよく、或いは前記容器(例えばスポンジ状の物)に含浸されてもよく、或いは、容器表面に担持されてもよい。
【0027】
気化性防錆剤は気化した後、金属表面に吸着して効果を示すので、設置した当初の時期に気化すれば最低限の防錆性を発揮するが、望ましくは設置した全期間で連続的に気化するのが好適である。したがって、極端な寒冷地の冬季の場合を除いて、連続して気化する様な防錆剤が必要である。
また、防錆剤は、固体であっても、液体であっても、半固体(ゲル状)であってもよい。取扱いの容易さの観点から、固体であることが好ましい。また、固体である場合の形状については、特に限定されず、粉末状であってもよく、タブレット状であってもよく、扁平状であってもよい。
【0028】
防錆剤は、1種類であっても複数種類を組み合わせてもよい。また、金属管の内部のめっき状態に応じて適宜選択することができる。例えば、複数種類の金属に対する防錆剤(例:亜鉛用の防錆剤と、鉄用の防錆剤)を組み合わせて併用してもよい。また、複数種類の防錆剤は、おのおの別の容器内に設置されていてもよく、また不都合な反応が発生しない場合には同じ容器内に設置されていてもよい。
【0029】
防錆剤は、例えば、以下の成分を含むことができる:例えば、ジシクロヘキシルアンモニウムニトレート(DICHAN)、シクロヘキシルアンモニウムカーボネート、ジイソプロピルアンモニウムニトレート(DIPAN)、グアニジンカーボネート、メルカプトベンゾチアゾール、シクロヘキシルアンモニウムカプリレート、ジイソプロピルアミンナイトライト、ジシクロヘキシルアンモニウムラウレート、シクロヘキシルアンモニウムカルバメート、ジアンモニウムセバシエート、アンモニウムオレエート、安息香酸アンモニウム、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト(DICHAN)、ジシクロヘキシルアンモニウムサリシレート(DICHA・SA)、ジシクロヘキシルアンモニウムベンゾエート(DICHA・BA)、ジイソプロピルアンモニウムベンゾエート(DIPA・BA)、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト(DIPAN)、ニトロナフタレンアンモニウムナイトライト(NITAN)、ジシクロヘキシルアンモニウムカプリレート、ジシクロヘキシルアンモニウムシクロヘキサンカルボキシレート(DICHA・CHC)、ジシクロヘキシルアンモニウムアクリレート(DICHA・AA)、シクロヘキシルアンモニウムカーボネート、ジシクロヘキシルアンモニウムカプリレート、シクロヘキシルアンモニウムラウレート、3-メチル-5-ヒドロキシピラゾール、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール。ジアンモニウムセバシエート、及びアンモニウムオレエートは、土壌への安全性が優れているためより好ましい。
【0030】
亜硝酸塩(ニトレート)は気化性防錆性が優れているので、一般に広く用いられている。しかし、2級アミンと反応して発がん性のニトロソアミンを生成する可能性があるので、防錆剤が土壌に混入する可能性がある場合は、環境への悪影響に配慮して避けた方が良い。また、設置後徐々に防錆剤が気化していくことが望ましいので、極端に蒸気圧の高いシクロヘキシルアンモニウムカーボネートなどは長期間の防錆には不適当である。これらを考慮すると、天然の脂肪酸が原料のジアンモニウムセバシエートやアンモニウムオレエートあるいは非鉄金属用防錆剤として長期間の実績があるベンゾトリアゾールなどが、防錆性や除放性を含めて好適である。除放性を改善する方策として、気化性防錆剤を多孔体や微粉末と混合し、その孔の中や表面に吸着させて、長期間の防錆性を維持しても良い。多孔体や微粉末の例としては、活性炭やビーズ等が挙げられる。
【0031】
1-4.脚部
図2に示すように、一実施形態において、本発明の器具は、脚部を備えることができる。脚部は、長尺状部材に固定(長尺状部材と一体化された場合も含む)されてもよい。また、脚部は、複数設けることができる。例えば、長尺状部材の軸方向に沿って、一定の間隔をあけて設けることができる。より具体的には、長尺状部材の長手方向から見て一定間隔をあけて設けてもよい。あるいは、
図3に示すように、上面から見て、一定の角度の間隔をあけて設けてもよい。
【0032】
金属管内壁では、温度差等の原因により、結露が生じる可能性がある。この結露は金属管内壁に沿って、重力方向に移動していく。従って、もし、容器(通気性容器)が金属内壁に接触していると、結露が、容器内部の防錆剤と接触する可能性がある。さらに言えば、結露が防錆剤を含んだまま、更に金属管内部の下方へと流れ、最終的には土壌へと排出される可能性がある。そこで、脚部を設けることにより、本発明の器具を金属管内部に設置するときに、容器が金属管内壁に接触することを防止することができる。そして、容器内の防錆剤が結露によって流されてロスすることを防止できる。
【0033】
一実施形態において、脚部の形状は特に限定されず、棒状でも「く」の字の形状であってもよい。そして、脚部、
図3中の上面図に示すように、放射状に少なくとも3つ設けるようにすることが望ましい。これにより、あらゆる方向に対して、容器が金属管内部に接触することを防止することができる。各脚部の長さや、角度幅は、容器の大きさ等を考慮して、金属管内部に接触させないように適宜設定すればよい。また、脚部は、
図4に示すように板状であってもよい。例えば、上面から見て円形状の板、楕円形状態の板、多角形状の板などであってもよい。
【0034】
脚部は、剛性であってもよく、弾性であってよい。また、脚部は、形状、長さ、取り付け幅、方向などは、特定の条件に限定されない。しかし、容器が金属管内壁に接触することを防止できるような条件で、脚部を設けることが好ましい。
【0035】
例えば、
図5に示すように、長尺状部材の長手方向に対する垂直方向から見て、容器の端部を超えるように、脚部の端部が設けられることが好ましい。少なくとも容器の端部を超えるように脚部の端部を設けなければ、金属管の内壁に容器が接触することを防止できないためである。
【0036】
あるいは、
図6に示すように、容器が複数の脚部の間に位置しており、且つ、金属管が斜め状態で配置される(そして、本発明の器具がこれに沿って配置される)場合、撓みが生じることになる。そこで、上記のような撓みが生じたとしても、容器が金属管内部に接触しないように、脚部を設けることが好ましい。この場合、脚部の長さや、脚部間の幅、容器のサイズ及び重さ、金属管の傾斜角度などを考慮して、容器が金属管内部に接触しない条件を決定することができる。
【0037】
2.防錆処理を施すための器具の使用方法
2-1.防錆処理対象(金属塔)
本発明は、一実施形態において、上記器具を使用する方法を包含する。例えば、金属管内部に器具を設けることを包含する。前記金属管は、例えば、金属塔で使用される物であってもよい。
【0038】
一実施形態において、前記金属管内への器具の配置は、金属塔の建設前ではなく、金属塔が完成した後で行うことができる。例えば、塔が完成した後、金属管の上側の開口部から、器具を吊るしてもよい。
【0039】
限定されるものではないが、金属塔は、用途の観点から述べると、電波用、送電用、気象観測用、望楼などが挙げられる。また、限定されるものではないが、金属塔は、形状の観点から述べると、美化金属柱、烏帽子型金属塔、四角金属塔、門型金属塔、特殊型金属塔(例:ドラキュラ型金属塔)、ドナウ型金属塔などが挙げられる。
【0040】
2-2.防錆処理対象(部位)
上記金属塔は、複数の金属管を組み合わせて建設することができる。本発明の器具は、金属塔内の任意の箇所の金属管内部に設けることができる。一実施形態において、本発明の器具は、実質交換不可能な部位に存在する金属管内部に設けることができる。金属塔の一例において、水平材や斜材などは仮に錆が発生したとしても交換可能である。その一方で、支柱(又は主柱材)の部位は、塔を支える部位であるため、交換することが実質上不可能であるか、又は著しく困難である。そこで、このような部位の金属管内部に、本発明の器具を設けて、金属管内部の防錆効果をより長期間維持し、錆を原因とする交換を回避することができる。
【0041】
金属管は、典型的には中空であり、材質としては、鉄等が挙げられるがこれらに限定されない。また、鉄の具体例としては、鋼(例:炭素鋼)等が挙げられるがこれらに限定されない。金属管の内部は、防錆用にメッキを施してもよく、例えば亜鉛溶融メッキ、電気亜鉛メッキ、亜鉛-ニッケルや亜鉛-アルミニウムの様な合金メッキなどを施してもよい。また、亜鉛メッキの防錆性を高めるために化成処理などを施したものでもよい。
【0042】
2-3.使用方法
本発明の器具を、上述した金属管に取り付ける方法の一例を以下に説明する。
図7に示すように、金属管の上部は、キャップ等を設けることができ、これにより、開閉可能な状態にすることができる。塔が完成した後、支柱に該当する金属管の上部を開口し、本発明の器具を上から挿入し、上部からつるした後で、金属管の上部を閉じる。これにより、金属管内は、空気の出入りが制限された状態となる。そして、気化性防錆剤が気化することにより、金属管内部には、防錆剤の成分が充満することができる。ただし、水抜き孔等の存在により、完全密閉ではないため、少量の空気の出入りが生じており、気化した防錆剤が少しずつ外部に漏出する。
【0043】
また、一定期間経過して、器具に備えられた防錆剤が枯渇したら、金属管上部を再度開口し、器具を引っ張り上げることができる。そして、防錆剤を補充した器具を、再度同じ要領で挿入することができる。
【0044】
このように、本発明の器具は、特別大がかりな装置を用いることなく、金属管内部に防錆処理を施すことができ、さらには、器具の取り付けや取り外しも簡単に行うことができる。
【0045】
また、本発明の器具は多量の防錆剤を備えることができるため、そして、容易に交換可能であるため、防錆効果を長時間持続させることができる。例えば、1カ月以上、2カ月以上、3カ月以上、4カ月以上、5カ月以上、6カ月以上、7カ月以上、8カ月以上、9カ月以上、10カ月以上、11カ月以上、1年以上、2年以上、3年以上、4年以上、5年以上、6年以上、7年以上、8年以上、9年以上、10年以上、又は15年以上器具を設置してもよい。また、設置期間の上限値についても特に限定されないが、19年以下、18年以下、17年以下、16年以下、15年以下、又は10年以下であってもよい。
【0046】
一実施形態において、上記金属管は両端が開口状態であるが、金属塔に組み込まれた際には、開口部にキャップをしてもよく、更には、下方に穴を設けてもよい。この穴は、結露や管内に進入した雨水を抜くための穴(水抜き孔)として寄与する。このように金属管にキャップを施し、水抜き孔以外の穴を設けないようにした場合、金属管内は空気の出入りが制限された準密閉状態となる。このような環境下で、気化性防錆剤を設置すると、金属管内は、気化した防錆剤で飽和状態となる。従って、防錆効果をより大きくすることができる。気温差などの影響により、水抜き孔から空気の出入りが少量ながらも生じるが、その場合には、気化した防錆剤が外部に出る可能性がある。しかし、防錆剤が新たに気化することによって、飽和状態を維持することができる。
【0047】
本明細書において、「又は」や「若しくは」という記載は、選択肢のいずれか1つのみを満たす場合や、全ての選択肢を満たす場合を含む。例えば、「A又はB」「A若しくはB」という記載の場合、Aを満たしBを満たさない場合と、Bを満たしAを満たさない場合と、Aを満たし且つBを満たす場合のいずれも包含することを意図する。
【0048】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、本発明の具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に提供することができる。また、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。