(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】内燃機関用バルブ
(51)【国際特許分類】
F01L 3/02 20060101AFI20220427BHJP
F01L 3/20 20060101ALI20220427BHJP
F01L 3/04 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
F01L3/02 J
F01L3/20 B
F01L3/04
(21)【出願番号】P 2020503234
(86)(22)【出願日】2018-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2018008049
(87)【国際公開番号】W WO2019167260
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000227157
【氏名又は名称】株式会社NITTAN
(74)【代理人】
【識別番号】100087826
【氏名又は名称】八木 秀人
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100168088
【氏名又は名称】太田 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【氏名又は名称】川野 由希
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【氏名又は名称】簾内 里子
(72)【発明者】
【氏名】吉野 良一
(72)【発明者】
【氏名】国武 浩史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大樹
【審査官】菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-025679(JP,U)
【文献】特開2012-072748(JP,A)
【文献】実開昭59-009109(JP,U)
【文献】実開昭52-111813(JP,U)
【文献】国際公開第2015/111272(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0014057(US,A1)
【文献】国際公開第2013/081150(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に向けられるバルブ底面に断熱層が固着されている内燃機関用バルブにおいて、
バルブ本体に対して別部材である周壁が、前記断熱層の周囲を囲むようにした状態で前記バルブ底面に一体的に設けられ、
前記周壁の内周面が、前記断熱層の全周面を前記バルブ底面から前記断熱層の表面に至るまでの全厚み範囲に亘って当接されている、
ことを特徴とする内燃機関用バルブ。
【請求項2】
請求項1において、
前記断熱層が、前記バルブ底面上に該バルブ底面の外周縁よりも径方向内方に引っ込んだ縮径状態をもって配置されている、
ことを特徴とする内燃機関用バルブ。
【請求項3】
請求項2において、
前記断熱層の熱膨張率が、前記バルブ底面の熱膨張率よりも小さくされ、
前記周壁の内周面が前記断熱層の全周面に結合されていると共に、該周壁の一方の端面が前記バルブ底面に前記断熱層の外周側において結合されている、
ことを特徴とする内燃機関用バルブ。
【請求項4】
請求項3において、
前記断熱層の外縁が、前記バルブ底面の径方向中央部よりも該バルブ底面の外縁に近くなるように設定されている、
ことを特徴とする内燃機関用バルブ。
【請求項5】
請求項3において、
前記周壁が、前記断熱層の全周面だけでなく該断熱層の表面をも含む該断熱層全体を覆う被覆材により形成されている、
ことを特徴とする内燃機関用バルブ。
【請求項6】
請求項5において、
前記被覆材が、前記バルブ底面のうち、前記断熱層の外周側全てを覆うように設定され、
前記被覆材には、断熱成分が含有されている、
ことを特徴とする内燃機関用バルブ。
【請求項7】
請求項3において、
前記周壁の熱膨張率が、前記断熱層の熱膨張率よりも大きくなるように設定されている、
ことを特徴とする内燃機関用バルブ。
【請求項8】
請求項5において、
前記被覆材に、前記バルブ底面からバルブフェース面に至るマージン部にまで延長される延長部が設けられ、
前記マージン部に係合部が設けられ、
前記被覆材の延長部が、前記係合部に対して機械的に係合されている、
ことを特徴とする内燃機関用バルブ。
【請求項9】
燃焼室に向けられるバルブ底面に断熱層が固着されている内燃機関用バルブにおいて、
前記バルブ底面に対して周壁が、
中実形状の前記断熱層の周囲を囲むようにした状態で一体的に設けられ、
前記バルブ底面に、該バルブ底面の径方向中央部を中心として径方向外方に広がる凹所が形成され、
前記断熱層が前記凹所の底壁に固着されていると共に、該断熱層の全周面が前記周壁としての該凹所の内周壁により覆われており、
前記周壁の内周面が、前記断熱層の全周面を前記凹所の底壁から前記断熱層の表面に至るまでの全厚み範囲に亘って当接され、
前記凹所内の前記断熱層の表面及び前記バルブ底面に対し、セラミックスを主成分とする被覆材が、
中実形状の前記断熱層の表面及び該バルブ底面のうち、該凹所を除く部分を被覆するようにして結合されている、
ことを特徴とする内燃機関用バルブ。
【請求項10】
請求項9において、
前記断熱層の全周面も前記凹所の内周壁に固着されている、
ことを特徴とする内燃機関用バルブ。
【請求項11】
請求項1において、
前記断熱層が、複数の各構成層を積層状態をもって一体化することにより形成されている、
ことを特徴とする内燃機関用バルブ。
【請求項12】
請求項9において、
前記断熱層の熱膨張率が、前記バルブ底面の熱膨張率とは異なるものとされ、
前記断熱層における外周部の厚みが、該断熱層の外周部よりも径方向内方側部分の厚みに比して薄くされている、
ことを特徴とする内燃機関用バルブ。
【請求項13】
請求項
12において、
前記断熱層における外周部の厚みが、該断熱層の径方向外方に向かうに従って薄くなるように設定されている、
ことを特徴とする内燃機関用バルブ。
【請求項14】
請求項
13において、
前記凹所の内周壁が、該凹所の開口側に向かうに従って該凹所の径方向外方に向かうように傾斜され、
前記断熱層が前記凹所の底壁に固着され、
前記断熱層の全周面が、該断熱層の厚み方向表面側に向かうに従って該断熱層の径方向外方に拡径されるように傾斜された状態で前記凹所の内周壁に当接されていると共に、該断熱層の表面が、前記バルブ底面のうち、該凹所を除く部分に対して面一になるように設定されている、
ことを特徴とする内燃機関用バルブ。
【請求項15】
請求項
13において、
前記凹所の内周壁が、該凹所の開口側に向かうに従って該凹所の径方向外方に向かうように傾斜され、
前記断熱層が前記凹所の底壁に固着され、
前記断熱層の全周面が、該断熱層の厚み方向表面側に向かうに従って該断熱層の径方向外方に拡径されるように傾斜された状態で前記凹所の内周壁に当接され、
前記断熱層の表面は、前記凹所開口よりも外方側において盛り上がった状態として形成されている、
ことを特徴とする内燃機関用バルブ。
【請求項16】
請求項
15において、
前記周壁が、前記断熱層の全周面だけでなく該断熱層の表面をも含む該断熱層全体を覆う被覆材により形成されている、
ことを特徴とする内燃機関用バルブ。
【請求項17】
請求項
12において、
前記断熱層の熱膨張率が、前記バルブ底面の熱膨張率よりも小さくされている、
ことを特徴とする内燃機関用バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の内燃機関(エンジン)において吸気弁や排気弁として用いられる内燃機関用バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関(エンジン)においては、燃焼室に開口する吸気ポート、排気ポートには、吸気弁、排気弁として、内燃機関用バルブがそれぞれ設けられている。この内燃機関用バルブは、軸部と、その軸部の一端に拡径された状態で一体化されるヘッド部(Head)とを備えており、ヘッド部は、そのヘッド部の先端面が広がりをもったバルブ底面(Face)とされる一方、そのバルブ底面から軸部に向けて近づくに従って縮径されるものとなっており、そのヘッド部には、その外周部のうち、バルブ底面の背面側において、フェース面(Seat)が設けられている。この内燃機関用バルブは、燃焼室において、ヘッド部背面が吸、排気ポートの開口に臨むようにしてそれぞれ配置されており、この内燃機関用バルブが動弁機構により作動されて、その内燃機関用バルブにおけるヘッド部のフェース面(Seat)が、吸、排気ポートの開口周縁部に設けられるシートインサートに対してそれぞれ離着座することにより、その吸、排気ポートがそれぞれ開閉される。
【0003】
ところで、上記内燃機関においては、特許文献1に示すように、熱効率を向上させることを目的として、燃焼室を区画する壁面に断熱層を設けたものが提案されている。この場合、内燃機関用バルブ(吸気弁、排気弁)のバルブ底面も、燃焼室を区画することから、そのバルブ底面も燃焼室を区画する壁面となり、そのバルブ底面に断熱層を設ければ、熱効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者は、上記内燃機関用バルブ(ヘッド部)の燃焼室での使用に当たり、バルブ底面の外周部から断熱層が剥離し、その剥離点を起点として、その外周部から径方向内方部(径方向中央部)へ剥離が進行していく傾向にあることを見出している。仮に、このような内燃機関用バルブが用いられた場合には、内燃機関の熱効率を十分に高めることができない。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたもので、その目的は、バルブ底面に断熱層が固着されている内燃機関用バルブにおいて、そのバルブ底面から断熱層の外周部が剥がれる可能性を極力抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、次の(1)~(19)の構成が採用されている。
(1)燃焼室に向けられるバルブ底面に断熱層が固着されている内燃機関用バルブにおいて、
前記バルブ底面に対して周壁が、前記断熱層の周囲を囲むようにした状態で一体的に設けられ、
前記周壁の内周面が、前記断熱層の全周面を前記バルブ底面から前記断熱層の表面に至るまでの全厚み範囲に亘って当接されている構成とされている。
【0008】
この構成によれば、周壁が、前記断熱層の全周面をバルブ底面から断熱層の表面に至るまでの全厚み範囲に亘って覆っていることから、バルブ底面(合せ面)と断熱層(合せ面)とによって形成される境界(線)が周壁により外部にさらされることがなくなり、燃焼ガス(圧力、温度等)がバルブ底面と断熱層との境界に作用して断熱層の外周部がバルブ底面に対して剥がれる(めくれる)ことを抑制することができる。仮に、断熱層の外周部にバルブ底面から剥がそうとする力が作用して、断熱層外周部の剥がれ、反り等の動きが生じようとしても、それに対して、断熱層の外周部と周壁内周面との間に摩擦力が発生することになり、その摩擦力によっても、断熱層の外周部が剥がれようとする動きを抑制することができる。このため、バルブ底面から断熱層の外周部が剥離する可能性を極力抑制することができる。
【0009】
(2)前記(1)の構成の下で、
前記断熱層が、前記バルブ底面上に該バルブ底面の外周縁よりも径方向内方に引っ込んだ縮径状態をもって配置されている構成とされている。
この構成によれば、前述の(1)と同様の作用効果(周壁をもってバルブ底面と断熱層との境界(線)に対して燃焼ガスが外部から作用することを抑制すること、その周壁内周面と断熱層の全周面との当接関係に基づき、その断熱層の外周部がバルブ底面から剥がれようとする動きを摩擦力によって抑制すること)を奏することは勿論、断熱層の熱膨張率とバルブ底面の熱膨張率とが異なっていても、断熱層の直径をバルブ底面の径よりも短くすることに基づき、熱収縮時における断熱層の径方向内方の収縮量とバルブ底面の径方向内方の収縮量との差分、又は熱膨張時における断熱層の径方向外方の膨張量とバルブ底面の径方向外方の膨張量との差分を、バルブ底面全面に断熱層を固着する場合に比して抑えることができ、断熱層の外周部に対して、バルブ底面から剥がれる方向の力が作用することを抑制することができる。
【0010】
(3)前記(2)の構成の下で、
前記断熱層の熱膨張率が、前記バルブ底面の熱膨張率よりも小さくされ、
前記周壁の内周面が前記断熱層の全周面に結合されていると共に、該周壁の一方の端面が前記バルブ底面に前記断熱層の外周側において結合されている構成とされている。
この構成によれば、周壁がバルブ底面及び断熱層の全周面に結合されていることに基づき、バルブ底面の熱膨張に伴い、周壁が断熱層の全周面をその径方向外方に引っ張ることになり、また、バルブ底面の熱収縮に伴い、周壁が断熱層の全周面をその径方向内方に押圧する(締付ける)ことになる。このため、熱膨張及び熱収縮時には、周壁は、断熱層に対して、断熱層とバルブ底面との膨張量差及び収縮量差を小さくする方向の力を作用させることになり、バルブ底面から断熱層が剥離する可能性を一層、抑制することができる。
【0011】
(4)前記(3)の構成の下で、
前記断熱層の外縁が、前記バルブ底面の径方向中央よりも該バルブ底面の外縁に近くなるように設定されている構成とされている。
この構成によれば、断熱層の外周部に作用する熱膨張、熱収縮に基づく剥がれを抑制する構成をとるとしても、基本的に断熱層をもって断熱機能を確保することができる。
【0012】
(5)前記(3)の構成の下で、
前記周壁が、前記断熱層の全周面だけでなく該断熱層の表面をも含む該断熱層全体を覆う被覆材により形成されている構成とされている。
この構成によれば、被覆材が、バルブ底面に結合されている状態の下で断熱層の表面をも覆いつつその断熱層の表面側をバルブ底面に向けて押え込むことから、断熱層の全周面を被覆材が覆うだけの場合よりも、バルブ底面から断熱層の外周部が剥がれようとする動きを効果的に抑制できる。
【0013】
(6)前記(5)の構成の下で、
前記被覆材が、前記バルブ底面のうち、前記断熱層の外周側全てを覆うように設定され、
前記被覆材には、断熱成分が含有されている構成とされている。
この構成によれば、熱膨張、熱収縮に基づく断熱層の剥がれを抑制するために断熱層の直径をバルブ底面の径よりも短くする場合であっても、被覆材がバルブ底面のうち断熱層の外周側全てを覆わない場合に比して、バルブ底面における断熱性を高めることができる。
【0014】
(7)前記(3)の構成の下で、
前記周壁の熱膨張率が、前記断熱層の熱膨張率よりも大きくなるように設定されている構成とされている。
この構成によれば、熱膨張、熱収縮において、バルブ底面に対する周壁の追従性を断熱層よりも高めることができ、バルブ底面の熱膨張、熱収縮に伴い、周壁(の内周面)を介して断熱層の全周面に径方向の力を作用させることができるばかりか、周壁自体の熱膨張、熱収縮によっても、断熱層に径方向の力を作用させ、断熱層とバルブ底面との膨張量差又は収縮量差を、より小さくすることができる。このため、バルブ底面から断熱層が剥離する可能性を、一層抑制することができる。
【0015】
(8)前記(5)の構成の下で、
前記被覆材に、前記バルブ底面からバルブフェース面に至るマージン部にまで延長される延長部が設けられ、
前記マージン部に係合部が設けられ、
前記被覆材の延長部が、前記係合部に対して機械的に係合されている構成とされている。
この構成によれば、被覆材の延長部とマージン部との機械的係合により、被覆材とバルブ底面との結合強度を高めることができ、断熱層外周部の剥がれ、反り等の動きに対して、被覆材が抗する能力を高めることができる。
【0016】
(9)前記(1)の構成の下で、
前記バルブ底面に、該バルブ底面の径方向中央部を中心として径方向外方に広がる凹所が形成され、
前記断熱層が前記凹所の底壁に固着されていると共に、該断熱層の全周面が前記周壁としての該凹所の内周壁により覆われている構成とされている。
この構成によれば、バルブ底面の凹所内周壁を利用して、その凹所内周壁により断熱層の全周面を覆うことになり、前記(1)と同様の作用効果を奏することができる。
【0017】
(10)前記(9)の構成の下で、
前記断熱層の全周面も前記凹所の内周壁に固着されている構成とされている。
この構成によれば、バルブ底面の膨張、収縮に伴い、凹所の内周壁も、バルブ底面の熱膨張率と同じ熱膨張率で膨張、収縮することになり、凹所内周壁の熱膨張、熱収縮(径方向への変位動)によっても、断熱層の全周面に径方向の力を作用させ、断熱層とバルブ底面との膨張量差又は収縮量差を、著しく小さくすることができる。このため、バルブ底面から断熱層が剥離する可能性を、極めて効果的に抑制することができる。
【0018】
(11)前記(9)の構成の下で、
前記凹所内の前記断熱層の表面及び前記バルブ底面に対して被覆材が、該断熱層の表面及び該バルブ底面の全体を被覆するようにして結合されている構成とされている。
この構成によれば、断熱層は、凹所内周壁との関係だけでなく、断熱層の表面及びバルブ底面に対して結合される被覆材が、断熱層外周部の剥がれ、反り等の動きに対して抗することになり、バルブ底面から断熱層の外周部が剥がれる可能性を一層、抑制することができる。勿論この場合、バルブ底面の径方向において、バルブ底面と被覆材とが接触する実際の長さが、凹所の存在により限られたものとなることから、熱膨張、熱収縮の影響を少なくして、バルブ底面に対する被覆材の結合強度を十分に確保することができる。
【0019】
(12)前記(1)の構成の下で、
前記断熱層が、複数の各構成層を積層状態をもって一体化することにより形成されている構成とされている。
この構成によれば、断熱層が複数の構成層からなる積層構造のものとされ、隣合う構成層間に境界が存在するものであっても、前記(1)と同様の作用効果を得ることができる。
【0020】
(13)前記(1)の構成の下で、
前記断熱層の熱膨張率が、前記バルブ底面の熱膨張率とは異なるものとされ、
前記断熱層における外周部の厚みが、該断熱層の外周部よりも径方向内方側部分の厚みに比して薄くされている構成とされている。
この構成によれば、熱膨張時又は熱収縮時に、断熱層における外周部に曲げ応力が作用しその曲げ応力に基づいてクラックが発生することを抑制できる。
すなわち、断熱層とバルブ底面との熱膨張率差に基づき、熱膨張時及び熱収縮時に断熱層及びバルブ底面(バルブ底面部分)が一体的に撓み、それらに対して曲げ応力が作用することになる。そのうち、断熱層に対する最大曲げ応力は、断熱層における肉厚方向の外面に縁応力として生じ、その最大曲げ応力の値は、中立面から肉厚方向外面までの距離が長いほど大きくなる。このため、中立面から肉厚方向外面までの距離が長いほど、断熱層の外周部にクラックが発生する可能性が高まり、クラックが発生した場合には、そのクラックの深さは、断熱層の厚みが厚いほど深くなる。また、断熱層及びバルブ底面(バルブ底面部分)が一体的に撓む際、断熱層の曲率半径に関し、断熱層の外周部の方がその外周部よりも径方向内方側部分に比して小さくなる傾向(曲率大となる傾向)にあり、その場合には、その曲率半径が小さいことが上記曲げ応力を一層大きくすることになり、クラックの発生可能性をより高める。このため、この請求項13においては、断熱層における外周部の厚みを、その外周部よりも径方向内方側部分の厚みに比して薄くすることにより、断熱層における中立面から肉厚方向外面までの距離を小さくして、熱膨張時及び熱収縮時の最大曲げ応力が低下されている。この結果、上述の如く、断熱層における外周部に対して作用する曲げ応力に基づいてクラックが発生することを抑制でき、クラックに基づき断熱層の外周部がバルブ底面から剥がれることを抑制することができる。
【0021】
(14)前記(13)の構成の下で、
前記断熱層における外周部の厚みが、該断熱層の径方向外方に向かうに従って薄くなるように設定されている構成とされている。
この構成によれば、断熱層における外周部の肉厚のうち、クラックの発生可能性が高まる径方向外方側部分の肉厚ほど薄くして、クラックの発生を的確に抑制することができ、これに伴い、クラックに基づき断熱層の外周部がバルブ底面から剥がれることを的確に抑えることができる。その一方で、この場合、断熱層の外周部の厚みのみが断熱層の径方向内方側部分の厚みよりも薄くされ、しかも、その厚みが径方向外方に向かうに従って薄くなることから、断熱層における外周部の厚みができるだけ薄くされないことになり、バルブ底面における断熱層の断熱性低下を極力、抑えることができる。このため、バルブ底面における断熱層の断熱性低下を極力抑えつつ、クラックに基づく断熱層外周部の剥がれを的確に抑制できる。
【0022】
(15)前記(14)の構成の下で、
前記バルブ底面に、該バルブ底面の径方向中央部を中心として径方向外方に広がる凹所が形成され、
前記凹所の内周壁が、該凹所の開口側に向かうに従って該凹所の径方向外方に向かうように傾斜され、
前記断熱層が前記凹所の底壁に固着され、
前記断熱層の全周面が、該断熱層の厚み方向表面側に向かうに従って該断熱層の径方向外方に拡径されるように傾斜された状態で前記凹所の内周壁に当接されていると共に、該断熱層の表面が、前記バルブ底面のうち、該凹所を除く部分に対して面一になるように設定されている構成とされている。
この構成によれば、断熱層の全周面を凹所の内周壁に当接させつつ、その断熱層の外周部がその径方向外方側ほど薄くすることができる。このため、断熱層による断熱機能の低下を極力抑制しつつ、燃焼ガスの作用及びクラックの発生に基づくバルブ底面に対する断熱層の剥がれを抑制できる。
しかもこの場合、断熱層の表面が、バルブ底面のうち、該凹所を除く部分に対して面一になるように設定されていることから、バルブ底面全体を平坦化することができ、バルブ底面が平坦化された一般的なバルブが有する基本構造、基本性能を確保できる。
【0023】
(16)前記(15)の構成の下で、
前記凹所内の前記断熱層の表面及び前記バルブ底面に対して被覆材が、該断熱層の表面及び該バルブ底面の全体を被覆するようにして結合されている構成とされている。
この構成によれば、凹所内周壁と断熱層の全周面との当接に基づく効果を得るだけでなく、断熱層の表面及びバルブ底面に対して結合される被覆材が、断熱層外周部の剥がれ、反り等の動きに対して抗することになり、バルブ底面から断熱層の外周部が剥がれる可能性を一層、抑制することができる。勿論この場合、バルブ底面の径方向において、バルブ底面と被覆材とが接触する実際の長さが、凹所の存在により限られたものとなることから、熱膨張、熱収縮の影響を少なくして、バルブ底面に対する被覆材の結合強度を十分に確保することができる。
【0024】
(17)前記(14)の構成の下で、
前記バルブ底面に、該バルブ底面の径方向中央部を中心として径方向外方に広がる凹所が形成され、
前記凹所の内周壁が、該凹所の開口側に向かうに従って該凹所の径方向外方に向かうように傾斜され、
前記断熱層が前記凹所の底壁に固着され、
前記断熱層の全周面が、該断熱層の厚み方向表面側に向かうに従って該断熱層の径方向外方に拡径されるように傾斜された状態で前記凹所の内周壁に当接され、
前記断熱層の表面は、前記凹所開口よりも外方側において盛り上がった状態として形成されている構成とされている。
この構成によれば、断熱層の全周面を凹所の内周壁に当接させつつ、その断熱層の外周部がその径方向外方側ほど薄くすることができ、しかも、バルブ底面からの断熱層の盛り上がり量を抑えつつ、断熱層における外周部よりも径方向内方側部分の肉厚を厚くすることができる。このため、断熱層の剥がれ抑制効果の向上と、バルブ底面全体の平坦化とを極力図りつつ、バルブ底面における断熱性を向上させることができる。
【0025】
(18)前記(13)の構成の下で、
前記周壁が、前記断熱層の全周面だけでなく該断熱層の表面をも含む該断熱層全体を覆う被覆材により形成されている構成とされている。
この構成によれば、被覆材が、バルブ底面に結合されている状態の下で断熱層の表面をも覆いつつその断熱層の表面側をバルブ底面に向けて押え込むことから、断熱層の全周面を被覆材が覆うだけの場合よりも、バルブ底面から断熱層の外周部が剥がれようとする動き(断熱層外周部におけるクラック発生の場合を含む)を効果的に抑制できる。
【0026】
(19)前記(13)の構成の下で、
前記断熱層の熱膨張率が、前記バルブ底面の熱膨張率よりも小さくされている構成とされている。
この構成によれば、熱膨張率差が、断熱層の熱膨張率がバルブ底面の熱膨張率よりも小さくされていることに基づいている場合であっても、前記請求項13と同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上の説明から明らかなように本発明によれば、バルブ底面に断熱層が固着されている内燃機関用バルブにおいて、そのバルブ底面から断熱層の外周部が剥離する可能性を極力抑制できる。この結果、バルブ底面に対する断熱層外周部の剥離点を起点として、バルブ底面全体に断熱層の剥離が広がることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】内燃機関に用いられる第1実施形態に係る内燃機関用バルブとしての吸気弁又は排気弁を示す説明図。
【
図2】第1実施形態に係るバルブのヘッド部を説明する説明図。
【
図5】バルブ底面(ヘッド部)と断熱層との間で起こる熱膨張を説明する説明図。
【
図6】バルブ底面(ヘッド部)と断熱層との間で起こる熱収縮を説明する説明図。
【
図7】第1実施形態に係るバルブに対する燃焼ガスの作用を簡易的に示す説明図。
【
図8】一般的な断熱層を備えたバルブに対する燃焼ガスの作用を簡易的に示す説明図。
【
図9】実験例1~3の積層体の構造と、その各実験結果としての積層体外周部の剥離率とを示す図。
【
図10】耐久性試験機を用いて実験例の実験を行う状態を説明する説明図。
【
図11】実験例1における実験前後の積層体外周部の剥がれ状態を示す写真図(倍率:全姿5倍、各部拡大50倍)。
【
図12】実験例2における実験前後の積層体外周部の剥がれ状態を示す写真図(倍率:全姿5倍、各部拡大50倍)。
【
図13】実験例3における実験前後の積層体外周部の剥がれ状態を示す写真図(倍率:全姿5倍、各部拡大50倍)。
【
図14】第1実施形態に係るバルブの周壁部の作用として、熱膨張に際して、周壁部が断熱層全周面を径方向外方に引っ張る状態を概念的に説明する説明図。
【
図15】第1実施形態に係るバルブの周壁部の作用として、熱収縮に際して、周壁部が断熱層全周面を径方向内方に締め付けている状態を概念的に説明する説明図。
【
図16】実験例4の構造と、その実験結果としての断熱層の剥離率とを示す図。
【
図17】実験例4における実験前後の積層体外周部の剥がれ状態を示す写真図(倍率:全姿5倍、各部拡大50倍)。
【
図18】第2実施形態に係るバルブのヘッド部を説明する説明図。
【
図19】第3実施形態に係るバルブのヘッド部を示す縦断面図。
【
図22】第4実施形態に係るバルブのヘッド部を示す縦断面図。
【
図23】熱収縮によりバルブのヘッド部が撓んだ状態に変化することを説明する説明図。
【
図24】
図23のW部分を拡大して曲げ応力の発生を説明する拡大説明図。
【
図25】第5実施形態に係るバルブのヘッド部を示す縦断面図。
【
図26】第6実施形態に係るバルブのヘッド部を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
図1において、符号1は、シリンダヘッド2に組み付けられる内燃機関用バルブとしての吸気弁又は排気弁(以下、バルブという)を示す。
シリンダヘッド2は、その一部壁面が燃焼室Sを区画している。そのシリンダヘッド2には、燃焼室Sに開口するようにして吸、排気ポート(以下、ポートという)Pが形成され、そのポートPの開口周縁部にはシートインサート9が設けられている。
バルブ1は、バルブ本体1Aとして、軸部(Stem)3と、その軸部3の一端に拡径された状態で一体化されるヘッド部(Head)4とを備えている。ヘッド部4は、そのヘッド部4の先端面が広がりをもった正面視円形のバルブ底面(Face)5とされている一方、そのバルブ底面5から軸部3に向けて近づくに従って縮径され、そのヘッド部4には、その外周部のうち、バルブ底面5の背面側において、マージン部(Margin)6を経てフェース面(Seat)7が形成されている。このバルブ1は、燃焼室Sにおいて、ヘッド部4の背面がポートPの開口に臨むように配置され、このバルブ1を動弁機構10をもって作動させることにより、そのバルブ1におけるヘッド部4のフェース面(Seat)7が、ポートP開口周縁部のシートインサート9に対して離着座されることになる。これより、バルブ1(ヘッド部4)は、バルブ本体1Aのバルブ底面5を燃焼室S側に向けつつ、ポートPを開閉することになる。
【0030】
本実施形態においては、バルブ本体1Aの材質として、SUH11が用いられている。このため、バルブ本体(SUH11)は、その熱伝導率が、約20.5W/m・K(室温下)程度、熱膨張率が、約11.0×10-6/℃(室温下)程度となっている。
【0031】
前記バルブ1には、そのバルブ本体1Aにおけるバルブ底面5において、
図2、
図3に示すように、断熱層11が固着(結合)されている。断熱層11は、本実施形態においては、バルブ底面5から離間する方向(
図3中、上方向)に向けて順に、第1断熱層12と、該第1断熱層12と同一径とされた第2断熱層13とが積層されており、バルブ底面5と第1断熱層12、第1断熱層12と第2断熱層13とは、それぞれ焼成をもって結合(焼結)されている。このため、断熱層11は、バルブ底面5と第1断熱層12との間において境界B1が形成され、第1断熱層12と第2断熱層13との間には境界B2が形成されている。尚、
図2、
図3においては、断熱層11(第1、第2断熱層12,13)の厚みに関し、実際の図示が容易でないため誇張表示されている(
図4以下の図においても同じ)。
【0032】
前記第1断熱層12及び第2断熱層13は、微細多孔構造を形成することにより断熱機能を発揮する。このため、本実施形態においては、第1断熱層12及び第2断熱層13には、成分として、無機顔料たる中空のセラミックビーズ若しくは中空のガラスビーズと、耐熱性に優れたバインダとが含有されている。より具体的には、第1断熱層12においては、全体に対して、中空のセラミックビーズ若しくは中空のガラスビーズ:40~80wt%程度、バインダ(例えば、シリコン系バインダ又はジルコニア系バインダ):20~60wt%程度が含有され、第2断熱層13においては、全体に対して、中空のセラミックビーズ若しくは中空のガラスビーズ:50~90wt%程度、バインダ(例えば、シリコン系バインダ又はジルコニア系バインダ):10~50wt%程度が含有されている。
【0033】
この場合、中空のセラミックビーズ若しくは中空のガラスビーズの含有量に関しては、上記の如く、第2断熱層13の方が第1断熱層12よりも多くなっている。微細中空(セラミックビーズ若しくはガラスビーズの中空)の存在量調整に基づき、第1断熱層12の熱伝導率よりも第2断熱層13の熱伝導率を低めて、断熱性を効果的に高めると共に、中空のセラミックビーズ若しくは中空のガラスビーズの存在量調整に基づき、第1断熱層12の熱膨張率を、第2断熱層13の熱膨張率とバルブ底面5の熱膨張率との間の中間値として、第1、第2断熱層12,13に対する熱膨張差及び熱収縮差に基づく影響(剥離等)を低下させるためである。勿論この場合、第1、第2断熱層12,13の熱膨張率は、いずれも、バルブ底面5の熱膨張率よりも小さい。
【0034】
より具体的には、第1断熱層12は、バルブ底面5上において20~100μm程度の層厚の下で、その熱伝導率が、0.4~1.2W/m・K(室温下)とされており、第2断熱層13は、第1断熱層12の上において、20~250μm程度の層厚の下で、その熱伝導率が、0.2~1.0W/m・K(室温下)とされている。
また、断熱層11(第1、第2断熱層12,13)の熱膨張率に関しては、その断熱層11の熱膨張率がバルブ底面5の熱膨張率よりも小さくされ、しかも、第2断熱層13の熱膨張率が第1断熱層12の熱膨張率よりも小さくされている基本構造の下で、第1断熱層12と第2断熱層13との熱膨張率差が、バルブ本体1Aと第1断熱層12との熱膨張率差よりも小さくされている。第1断熱層12と第2断熱層13との間の熱的影響(剥離等)を、バルブ底面5と第1断熱層12との間の熱的影響よりも低めるためである。
【0035】
前記断熱層11(第1、第2断熱層12,13)は、
図3、
図4に示すように、バルブ底面5の外縁よりも縮径されている。具体的には、断熱層11の外縁が、バルブ底面5の径方向中央部Oよりもバルブ底面5の外縁に近くなるように設定されている。基本的に断熱層11をもってバルブ底面5に対する断熱機能を確保しつつ、バルブ本体1A(バルブ底面5)と断熱層11との熱膨張率差に基づく熱膨張差及び熱収縮差を、熱膨張及び熱収縮の対象となる長さを短縮することにより小さくし、これにより、バルブ底面5からの断熱層11の剥がれを抑制するためである。
【0036】
バルブ底面5からの断熱層11の剥がれ、及びその剥がれの抑制策としての断熱層11の縮径について、バルブ底面5全面に対して断熱層11が焼結(結合)されたものを例にとって、
図5、
図6に基づき具体的に説明する。
バルブ1は、バルブ底面5(バルブ本体1A)と断熱層11とが、実際には焼結されて一体化されているが、バルブ底面5と断熱層11とが、単独で熱膨張、熱収縮したと仮定した場合には、バルブ底面5の熱膨張率が断熱層11の熱膨張率よりも大きいことから、熱膨張時においては、
図5(a)に示す基準状態は、
図5(b)に示すように、バルブ底面5の径が断熱層11の径よりも拡径された状態となり、熱膨張率差に基づく膨張量差ΔLeが発生する。この膨張量差ΔLeは、下記式をもって求められる。
ΔLe=ΔLe1-ΔLe2=(α1-α2)×D×ΔTe
この場合、ΔLe1:バルブ底面5の膨張量、ΔLe2:断熱層の膨張量、α1:バルブ底面5の熱膨張率、α2:断熱層の熱膨張率、D:熱膨張前の断熱層11及びバルブ底面5の直径(対象長さ)、ΔTe:熱膨張に際しての温度変化である。
他方、熱収縮時においては、
図6(a)に示す基準状態は、
図6(b)に示すように、バルブ底面5の径が断熱層11の径よりも縮径された状態となり、熱膨張率差に基づく収縮量差ΔLcが発生する。この収縮量差ΔLcは、下記式をもって求められる。
ΔLc=ΔLc1-ΔLc2=(α1-α2)×D×ΔTc
この場合、ΔLc1:バルブ底面5の収縮量、ΔLc2:断熱層の収縮量、α1:バルブ底面5の熱膨張率、α2:断熱層の熱膨張率、D:熱収縮前の断熱層11及びバルブ底面5の直径(対象長さ)、ΔTc:熱収縮に際しての温度変化である。
【0037】
実際には、上記の通り、上記バルブ1においては、バルブ底面5と断熱層11とが焼結されて一体化された状態の下で、上記熱膨張率差に基づく膨張量差ΔLe、収縮量差ΔLcが発生しようとする。このため、その際の現象は、熱膨張時には、
図5(a)に示す基準状態から
図5(c)に変化し、バルブ底面5が拡径される一方で、断熱層11の外周縁部のうち、そのときのバルブ底面5との合せ面に近い部分ほど径方向外方に引っ張られると推測される。このことから、そのときにおける上記膨張量差ΔLeが大きいほど、バルブ底面5に対して断熱層11が剥がれ易くなると考えられる。
他方、熱収縮時における現象は、
図6(a)に示す基準状態(
図5(a)に示す基準状態と同じ状態)から
図6(c)に変化し、バルブ底面5が縮径される一方で、断熱層11の外周縁部のうち、そのときのバルブ底面5との合せ面に近い部分ほど径方向内方に引っ張られると推測される。このことから、そのときにおける上記収縮量差ΔLeが大きいほど、バルブ底面5に対して断熱層11が剥がれ易くなると考えられる。
【0038】
このため、本発明者は、前述の膨張量差ΔLe、収縮量差ΔLcを求める式において、熱膨張及び熱収縮の影響を与える対象長さDを短縮すれば、膨張量差ΔLe及び収縮量差ΔLcが小さくなること、その熱膨張及び熱収縮の影響を与える対象長さDが、断熱層11がバルブ底面5に焼結(結合)されている部分の長さとして決まることに着目し、断熱層11を、その径がバルブ底面5の径よりも縮径された状態でバルブ底面5に結合することとしている。
【0039】
前記バルブ底面5及び該バルブ底面5上の前記断熱層11は、
図2~
図4に示すように、被覆材15により覆われている。被覆材15は、底部側をバルブ底面5から離れるように配置した状態で有底略円筒形状に形成されており、その被覆材15には、周壁としての周壁部16と、その周壁部16に一体的に設けられて底部を形成する底壁部17とが備えられている。この被覆材15(周壁部16及び底壁部17)には、主成分として、ジルコニア、アルミナ、シリカ、シリケート等のセラミックスが含有され、前述の断熱層11の成分である中空のセラミックビーズ及び中空のガラスビーズは、被覆材15には含有されていない。これにより、被覆材15においては、断熱層11ほどでないにしても、主成分により断熱層11の熱伝導率にできるだけ近づけた熱伝導率が確保され(バルブ底面5(バルブ本体1A)の熱伝導率>被覆材15の熱伝導率>断熱層11の熱伝導率)、その一方で、その被覆材15の熱膨張率は、バルブ底面5の熱膨張率にできるだけ近づけたものとなっている(バルブ底面5の熱膨張率>被覆材15の熱膨張率>断熱層11の熱膨張率)。本実施形態においては、被覆材15として、熱伝導率が0.2~4W/m・K(室温下)とされ、熱膨張率がバルブ本体1Aの熱膨張率と同等若しくはそれ以下とされたものが用いられている。尚、
図2~
図4においては、被覆材15(周壁部16及び底壁部17)の厚みに関し、実際の図示が容易でないため誇張表示されている(
図5以下の図においても同じ)。
【0040】
前記周壁部16は、
図3に示すように、その一端面(
図3中、下端面)がバルブ底面5に断熱層11の外周側において結合(焼結)されている。この周壁部16の内周面16iは、バルブ底面5から第2断熱層13の表面13sまでの全厚み範囲に亘って、断熱層11の全周面11pに当接した状態でその断熱層11の全周面11pを覆っており(囲んでおり)、バルブ底面5と第1断熱層12との間の境界B1、及び第1断熱層12と第2断熱層13との間の境界B2は、外部に露出しないことになっている。本実施形態においては、周壁部16の内周面16iは断熱層11の全周面に結合(焼結)されている。
また、本実施形態においては、周壁部16の外周面がバルブ底面5の径方向においてそのバルブ底面5の外周縁にまで拡張されている。これにより、バルブ底面5のうち、断熱層11の外周側におけるもの全体が周壁部16の一端面(肉厚面)により覆われることになり、周壁部16は、その材質(成分)により、断熱層11ほどではないものの、バルブ底面5のうち、断熱層11が存在しない部分での断熱性を確保する。この場合、断熱層11の径をどの程度のものにするかにより周壁部16の肉厚が決まるが、バルブ底面5に対する断熱性を重視しつつ断熱層11の外周部の剥がれを抑制する場合には、断熱層11の径を増大傾向にする一方で、周壁部16の肉厚を減少させることになり、断熱層11外周部の剥がれ抑制を重視しつつバルブ底面5の断熱性を確保する場合には、断熱層11の径を減少傾向とする一方で、周壁部16の肉厚を増大させることになる。本実施形態においては、周壁部16の肉厚は、1μm~30μmとされ、その周壁部16の内周面16iの径方向内方側には断熱層11が存在されている。
【0041】
前記底壁部17は、
図3、
図4に示すように、断熱層11(第2断熱層13)の表面11s(13s)に当接しつつその表面11s(13s)を覆っている。この底壁部17は、前記周壁部16の他端面にその他端開口を閉塞するように一体的に設けられており、その底壁部17は、周壁部16がバルブ底面5に結合されていることに基づき、第2断熱層13の外周部により底壁部17に周壁部16の他端から離間する方向(
図3中、上方向)の力が作用したときには、その力に対して抗することになっている。本実施形態においては、底壁部17も、第2断熱層13の表面13sに結合(焼結)され、その底壁部17の厚みは、1μm~30μmとされている。
【0042】
したがって、このようなバルブ1は、次のような作用を生じる。
(1)バルブ1においては、バルブ底面5における断熱性を極力確保しつつ、燃焼ガスの作用に基づいて断熱層11の外周部が剥がれることが抑制される。
バルブ1のヘッド部4が燃焼室Sに配置された状態で使用されるとしても、被覆材15における周壁部16の一端面がバルブ底面5に結合されていると共に、その被覆材15における周壁部16の内周面16iが断熱層11(第1、第2断熱層12,13)の全周面11pにその全厚み範囲に亘って結合されていることから、燃焼ガスは、
図7に示すように、バルブ底面5と第1断熱層12との間の境界B1、第1断熱層12と第2断熱層13との間の境界B2に作用しないことになる。このため、バルブ底面5に対して第1断熱層12の外周部が剥がれたり、第1断熱層12に対して第2断熱層13が剥がれたりすることが抑制される。
しかも本実施形態においては、被覆材15には、周壁部16の他端に底壁部17が設けられ、その底壁部17が、第2断熱層13の表面13sに結合された状態でその第2断熱層13の表面13sを覆っていることから、周壁部16と底壁部17とは断熱層11全体を包み込むことになり、断熱層11の周面11pと被覆材15の周壁部16の内周面16iとの間の境界についても燃焼ガスが作用する(入り込む)ことがなくなり(
図7参照)、燃焼ガスの作用に基づいて断熱層11の外周部が剥がれることが、高い確実性をもって抑制される。
その一方で、バルブ底面5に対する基本的な断熱性を断熱層11により確保するばかりか、バルブ底面5のうち、断熱層11が配置されない部分については、断熱層11に極力近づけられた熱伝導率を有する被覆材15の周壁部16が覆うことから、その部分に対する断熱性をも確保できることになる。
したがって、バルブ底面5に対する断熱性を断熱層11及び被覆材15の周壁部16により極力確保しつつ、燃焼ガスの作用に基づいて第1、第2断熱層12,13の外周部が剥がれることを高い確実性をもって抑制できる。
この場合、熱膨張及び熱収縮に関しては、被覆材15における周壁部16の肉厚がバルブ底面5の半径に比べて格段に小さく(熱膨張及び熱収縮に影響を及ぼす対象長さが小)、しかも、その周壁部16(被覆材15)の熱膨張率がバルブ底面5(バルブ本体1A)の熱膨張率に近づけられて追従性が高められていることから、熱膨張又は熱収縮に伴い、周壁部16がバルブ底面5に対して剥がれることが抑制される。
【0043】
これに対して、
図8に示すように、被覆材15の周壁部16が断熱層11(第断熱層12及び第2断熱層13)の全周面11pを覆っていない場合には、燃焼ガスが境界B1,境界B2に直接作用することになり、断熱層11の外周部11aは、バルブ底面5に対して剥がれ易い傾向となる。
【0044】
(2)バルブ1においては、熱膨張差又は熱収縮差に基づいて断熱層11の外周部11aが剥がれることが抑制される。
本発明者は、断熱層外周部11aがバルブ底面5から剥がれ易い傾向にある知見を得ているが、熱膨張差又は熱収縮差に基づく断熱層外周部11aの剥がれは、本実施形態においては、異なる2つの観点から抑制される。
【0045】
(2-1)第1は、前述した如く、断熱層11がバルブ底面5に該バルブ底面5の径よりも縮径された状態で結合されていることにある。これは、前述の熱膨張率差に基づく膨張量差ΔLe及び収縮量差ΔLcを求める式において、熱膨張及び熱収縮の影響を与える対象長さDを短縮すれば、膨張量差ΔLe及び収縮量差ΔLcが小さくなること、膨張量差ΔLe及び収縮量差ΔLcに影響を与える対象長さDが、断熱層11とバルブ底面5との結合部分の長さとして決まることを具体的に具現化したものである。
これにより、既に説明したように、バルブ底面5の径に対して断熱層11の径が縮径されればされるほど、バルブ底面5に対する断熱層外周部11aの剥がれが抑制される。
【0046】
図9は、上記内容を裏付ける実験例1~3の実験態様及びその各実験結果の評価を示す。実験例1~3は、共通実験条件の下で、実験態様としての各実験例特有の構造のバルブに対して耐久試験を行うものであり、その各実験結果については、共通の評価方法により評価を行った。
【0047】
(a)共通実験条件
実験対象
バルブ底面5に断熱層11(第1断熱層12、第2断熱層13)及び被覆層17(被覆材15の底壁部17に相当するため、以下、底壁部17と同一符号17を用いる)が積層されたポペットバルブ
断熱層11:第1実施形態に示された第1、第2断熱層12,13が積層されたもの
被覆層17:第1実施形態に示された被覆材15のうち、底壁部17だけからなるもの
断熱層及び被覆層(以下、積層体26という)の全体層厚:120μm
バルブ底面5と第1断熱層12との結合、第1断熱層12と第2断熱層13との結合、第2断熱層13と被覆層17との結合:焼結
バルブ:バルブ底面5の径:32mm 材質:SUH11
実験内容
耐久試験機20(弁-弁座摩耗試験機)を用いて各実験例1~3に係るバルブ1Eに対して耐久性試験を行う。耐久性試験は、
図10に示すように、耐久試験機20に各実験例のバルブ1Eをセットした上で、そのバルブ1Eを、その軸線を中心としてロータ25により自転させつつ、ロッカーアーム22により上下動させる状態にし、その状態の下で、ガスバーナ21からの火炎をバルブ底面5に当てるものである。実験内容を示す
図10において、23はバルブ底面5の温度を測定する温度計、24は耐久試験機を冷却するウォータジャケットである。
耐久試験条件
バルブ1Eの上下速度:3000rpm(エンジン回転数において6000rpmに相当)
バルブ1Eの回転数(自転回転数):20rpm
バルブ1Eの温度(バルブ底面温度):400℃
ガスバーナの使用ガス:LPG
耐久試験時間:50hr
実験結果の中間チェック時間:10,20,30,40,50hr
【0048】
(b)各実験例特有の実験態様(特有の積層体26(断熱層11及び被覆層17)の構造)
実験例1:バルブ底面5(直径32mm)の全てを積層体26(直径32mm)によって覆う態様(
図9における実験例1の構造図参照)
実験例2:バルブ底面5(直径32mm)を、該バルブ底面5よりも縮径され積層体26(直径29mm)によって覆う態様(
図9における実験例2の構造図参照)
実験例3:積層体26の径を実験例2の場合よりも一層縮径(直径26mm)した態様(
図9における実験例3の構造図参照)
【0049】
(c)共通の評価方法
各実験例の実験後に、バルブ底面5上の積層体26の状態(バルブ1Eにおける軸部3の軸線方向から見た状態)の画像情報を得、その画像情報から積層体26の剥離面積を導き出し、その剥離面積を、バルブ底面5を覆っている積層体26の面積(以下、全面積という)で除算することにより、剥離率を求めることとした。そして、その剥離率が大きい値のものほど、バルブ底面5に対する積層体(断熱層11及び被覆層17)26の剥がれの程度が大きいと評価することとした。
【0050】
(d)各実験結果及び評価
実験例1については、実験開始から10時間後に、バルブ底面5の外周部において積層体26の剥離が発生し始め、実験開始から20時間後には
図11に示す状態となり、実験開始から50時間時点における剥離率が11.8%となった。
実験例2については、実験開始から50時間後に
図12に示す状態となり、その時点における剥離率が4.5%となった。
実験例3については、実験開始から50時間後に
図13に示す状態となり、その時点における剥離率が2.8%となった。
以上の内容から、積層体26の径を縮径すればするほど、バルブ底面5における積層体26の剥がれを抑制できることが理解できる。
【0051】
(2-2)第2は、被覆材15における周壁部16の内周面16iが、縮径された状態の断熱層11の全周面に対してバルブ底面5から断熱層11の表面11sに至る全厚み範囲に亘って結合されていると共に、その周壁部16の一端面が、バルブ底面5のうち、断熱層11が存在しない部分において結合され、しかも、被覆材15の熱膨張率が、バルブ底面5(ヘッド部4)の熱膨張率に極力近づけられて、断熱材11の熱膨張率よりも大きくされていることにある。
これにより、熱膨張の際には、
図14に示すように、周壁部16自体の熱膨張(拡径)、さらには、周壁部16とバルブ底面5の熱膨張(拡径)とが協働して、断熱層11の全周面11pをその径方向外方に引っ張ることになり(
図14中の矢印参照)、断熱層11のうち、バルブ底面5から離れている部分ほど大きな引張力を受けることになる。このため、バルブ底面5と断熱層11との熱膨張率差に基づく前述の熱膨張量差ΔLeが低減されることになり、熱膨張に伴う断熱層11の剥がれが抑制されることになる。
しかもこの場合、本実施形態においては、被覆材15の底壁部17も径方向外方に熱膨張(拡径)しようとすることから、その熱膨張力は、バルブ底面5の場合同様、周壁部16を拡径させようとする力として働き、それが断熱層11の全周面11pを径方向外方に引っ張る引張力を高める。また、周壁部16の肉厚が比較的大きくされてその強度が高められていることも、上記引張力を断熱層11の全周面11pに的確に付与することに貢献する。さらには、このとき、断熱層11の外周部が反ろうとしても、そのときには、断熱層11の外周部と周壁部16の内周面16iとの間で摩擦力が発生するばかりか、その断熱層11の外周部の反り等に基づき力(底壁部17に向かう力)が発生するとしても、その力に対して底壁部17が抗することになる。このため、本実施形態においては、これらのことからも、断熱層11の剥がれ抑制効果が高められる。
【0052】
他方、熱収縮の際には、
図15に示すように、周壁部16自体の熱収縮(縮径)、さらには、それとバルブ底面5の熱収縮(縮径)とが協働して、断熱層11の全周面をその径方向内方に押圧する(締付ける)ことになり(
図15中の矢印参照)、断熱層11のうち、バルブ底面5から離れている部分ほど大きな押圧力を受けることになる。このため、バルブ底面5と断熱層11との熱膨張率差に基づく前述の収縮量差ΔLcが低減されることになり、熱収縮に伴う断熱層11の剥がれが抑制されることになる。
このとき、被覆材15の底壁部17も径方向外方に熱収縮(縮径)しようとすることから、その熱収縮力は、バルブ底面5の場合同様、周壁部16を縮径させようとする力として働き、それが断熱層11の全周面を径方向内方へ押圧する押圧力を高める。このため、熱収縮においても、熱膨張の場合同様、断熱層11の剥がれ抑制効果が高められる。
【0053】
図16は、上記内容を裏付ける実験例4の特有の実験態様及びその各実験結果の評価を示す。実験例4は、前述の共通実験条件の下で、その特有構造のバルブ1Eに対して耐久試験を行うものであり、その実験結果については、前記と同様の共通の評価方法により評価を行った。
【0054】
実験例4の特有の実験態様
実験例4においては、バルブ底面5(直径32mm)を、該バルブ底面よりも縮径された断熱層11(直径29mm)をもって覆うと共に、その断熱層11と、バルブ底面5のうち、断熱層11が存在しない部分とを被覆材15により覆う態様(
図16における実験例4の構造図参照)
【0055】
実験例4の実験結果
実験例4については、実験開始から50時間後に
図17に示す状態となり、その時点における剥離率が0%となった。このことと、前述の実験例2の実験結果とから、被覆材15、特に周壁部16が断熱層11の熱膨張率差に基づく剥がれの抑制に貢献していることが理解できる。
【0056】
図18は第2実施形態、
図19~
図21は第3実施形態、
図22~
図24は第4実施形態、
図25は第5実施形態、
図26は第6実施形態を示す。この各実施形態において、前記第1実施形態と同一構成要素については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0057】
図18に示す第2実施形態は、第1実施形態の変形例を示す。
この第2実施形態においては、ヘッド部4外周部のマージン部6に、ヘッド部4の全周に亘って係合部として突部28が形成されている。
他方、被覆材15における周壁部16には、延長部29が一体的に設けられ、その延長部29はマージン部6にまで延長され、その延長部29は、マージン部6に結合(焼結)されることにより突部28に機械的に係合することになっている。
これにより、被覆材15とバルブ底面5との結合強度を高めることができ、断熱層外周部11aの剥がれ、反り等の動きに対して、被覆材15の底壁部17が抗する能力を高めることができる。
【0058】
図19~
図21に示す第3実施形態は、第1実施形態の変形例を示す。
第3実施形態においては、バルブ底面5に、そのバルブ底面5の径方向中央を中心として径方向外方に広がる凹所31が形成されている。この凹所31内に断熱層11(第1断熱層12及び第1断熱層12に積層一体化された第2断熱層13)が収納されており、その凹所31の底壁31bに断熱層11(第1断熱層12の底面)が結合(例えば焼結)され、その断熱層11の全周面11pが周壁としての凹所31の内周壁31wiに当接状態をもって結合(例えば焼結)されている。
また、凹所31内の断熱層11(第2断熱層13)の表面11s(13s)及びバルブ底面5(凹所31部分を除く)は、それら全体が被覆材15によりに被覆され、その被覆材15は、それら凹所31内の断熱層11の表面11s及びバルブ底面5に結合(例えば焼結)されている。
【0059】
これにより、バルブ底面5の凹所内周壁31wiを利用して、その凹所内周壁31wiにより断熱層11の全周面11pを覆うことになり、燃焼ガスは、バルブ底面5と第1断熱層12との間の境界B1、第1断熱層12と第2断熱層13との間の境界B2に直接作用しないことになる。その一方で、この第3実施形態においても、バルブ底面5に対する基本的な断熱性を断熱層11により確保できるばかりか、バルブ底面5のうち、断熱層11が配置されない部分については、断熱層11に極力近づけられた熱伝導率を有する被覆材15が覆うことから、その部分に対する断熱性についても確保できることになる。
【0060】
また、熱膨張の際には、凹所内周壁31wiが拡径されて断熱層11の全周面11pをその径方向外方に引っ張ることになり、断熱層11のうち、凹所31の底壁31bから離れている部分ほど大きな引張力を受けることになる。他方、熱収縮の際には、凹所内周壁31wiが縮径されて断熱層11の全周面11pをその径方向内方に押圧する(締付ける)ことになり、断熱層11のうち、凹所31の底壁31bから離れている部分ほど大きな押圧力を受けることになる。このため、熱膨張の際には、凹所底壁31bと第1断熱層12との熱膨張率差、第1断熱層12と第2断熱層13との熱膨張率差に基づく各熱膨張量差が低減され、熱収縮の際には、凹所底壁31bと第1断熱層12との熱膨張率差、第1断熱層12と第2断熱層13との熱膨張率差に基づく各収縮量差が低減されることになり、熱膨張又は熱収縮に伴う熱膨張率差に基づく断熱層11外周部の剥がれが抑制される。
【0061】
この場合、周壁として、凹所内周壁31wiが利用され、強度的に十分なものが用いられることから、熱膨張の際の引張力又は熱収縮の際の押圧力を的確に断熱層11の周面に作用させることができ、熱膨張又は熱収縮に伴う熱膨張率差に基づく断熱層11の剥がれ抑制を信頼性の高いものにできる。
しかも、断熱層11の外周部が反ろうとしても、そのときには、断熱層11の外周部と凹所内周壁31wiとの間で摩擦力が発生するばかりか、その断熱層11の外周部11aの反り等に基づき力(被覆材15に向かう力)が発生するとしても、その力に対して被覆材15が抗することになる。勿論このとき、バルブ底面5の径方向において、バルブ底面5と被覆材15とが接触する実際の長さが、凹所31の存在により限られたものとなることから、熱膨張及び熱収縮の影響を少なくして、バルブ底面5に対する被覆材15の結合強度は十分に確保されている。
【0062】
図22~
図24に示す第4実施形態は、第1実施形態の変形例を示す。
この第4実施形態は、熱膨張又は熱収縮に伴う熱膨張率差に基づく曲げ応力によって断熱層11にクラックが発生することを抑制し、これにより、そのクラックに基づくバルブ底面5からの断熱層11の剥がれを抑制しようとするものを示している。このため、この第4実施形態においては、全体が平坦面とされたバルブ底面5上に固着された断熱層11における外周部11aの厚み(
図22中、上下方向長さ)が、その断熱層11の外周部11aよりも径方向内方側部分11bの厚みに比して薄くされている。
【0063】
具体的にバルブ1の熱収縮の場合を例にとって説明する。断熱層11の熱膨張率が、バルブ底面5の熱膨張率よりも小さくされている状況の下で、
図23に示すように、バルブ1が基準状態(
図23の上段の図)から熱収縮すると(
図23の下段の図)、断熱層11及びバルブ底面5(バルブ底面部分)が一体的に撓み、それらに対して曲げ応力が作用することになる。その
図23に示すW部分(外周部分)を拡大して示したものが
図24である。この
図24から明らかなように、熱収縮によりバルブ底面5上の断熱層11が湾曲された場合には、曲げ応力σは、
σ=(y/ρ)E
で示される。ここで、ρ:外周部11aにおける中立面Nの曲率半径、y:中立面Nからの距離、y/ρ:ひずみ、E:縦弾性係数を示す。
このため、断熱層11に対する曲げ応力σは、中立面Nからの距離yが最も大きな値になるとき、すなわち、中立面Nから断熱層11における肉厚方向外面に至るまでの距離ymaxのとき(縁応力のとき)に最大値となり、その最大値(最大曲げ応力)σmaxは、中立面Nから肉厚方向外面までの距離ymaxが長くなるほど大きくなる。この結果、断熱層11の厚みが厚いほど最大曲げ応力σmaxが大きくなり、そのような場合には、断熱層11にクラックが発生する可能性が高まり、クラックが発生した場合には、そのクラックの深さは、断熱層11の厚みが厚いほど深くなる。特に、断熱層11の外周部11aは、前述の燃焼ガスによる作用、断熱層11とバルブ底面5との熱膨張率差の基づく作用に加えて、熱膨張又は熱収縮に伴う断熱層外周部11aの曲率半径ρは、その外周部11aよりも径方向内方側部分11bの曲率半径ρ’よりも小さくなる傾向(曲率が大となる傾向)にあり、外周部11aにおいてクラックが発生する可能性は、上記曲げ応力を求める式からも明らかなように、その外周部11aよりも径方向内方側部分11bに比して大きくなる。
【0064】
このことから、
図22に示す如く、断熱層11における外周部11aの厚みを、その外周部11aよりも径方向内方側部分11bの厚みに比して薄くすることにより、断熱層11における中立面Nから肉厚方向外面までの距離yが小さくされて、熱膨張時及び熱収縮時の最大曲げ応力σmaxが低下されている。
具体的には、断熱層11の外周部11aよりも径方向内方側部分11bの厚みが一定厚みに維持されている一方、その外周部11aの厚みが、断熱層11の径方向外方に向かうに従って薄くなるように設定され、その断熱層11の外周縁11aaは、その外周縁11aaにおいてわずかな厚みの断熱層11の周面を形成した状態でバルブ底面5の外周縁近傍に至っている。
これにより、断熱層外周部11aにおいて、クラックの発生を的確に抑制することができ、これに伴い、クラックに基づき断熱層外周部11aがバルブ底面5から剥がれることを抑えることができる。その一方で、この場合、断熱層11の外周部11aの厚みのみが断熱層11の径方向内方側部分11bの厚みよりも薄くされ、しかも、その厚みが径方向外方に向かうに従って薄くなることから、断熱層11における外周部11aの厚みができるだけ薄くされないことになり、バルブ底面5における断熱層11の断熱性低下を極力、抑えることができる。
【0065】
また、本実施形態においては、被覆材15が、断熱層外周縁11aaにおけるわずかな厚みの周面だけでなく、断熱層11の表面11sをも覆うようにしつつ、その断熱層11及びバルブ底面5に結合されている。このため、被覆材15に関し、前記第1実施形態等と同様の作用が確保されている。
尚、本実施形態においては、断熱層11の周面11pを、断熱層11における外周縁11aaのわずかな厚み部分として捉え、その他の露出部分を表面11sとして捉えたが、断熱層11の外周部11aを含むものを断熱層11の周面11pとして捉えてもよい。
【0066】
図25に示す第5実施形態は、前記第3、第4実施形態の変形例を示す。この第5実施形態においては、第1実施形態の他に、第3、第4実施形態と同一構成要素についても、同一符号を付してその説明を省略する。
この第5実施形態は、凹所31の内周壁31wiを周壁として利用した状況の下で、断熱層11の外周部11aの厚みを薄くした内容を示している。
【0067】
この第5実施形態においては、第4実施形態同様、バルブ底面5に、バルブ底面5の径方向中央部を中心として径方向外方に広がる凹所31が形成され、その凹所内周壁31wiが、凹所31の開口31o側に向かうに従ってその凹所31の径方向外方に向かうように傾斜されている。その凹所31の底壁31bには断熱層11が固着(焼結)されており、その断熱層11は、その表面11sが平坦面として形成され、その周面11pは断熱層11の厚み方向表面側に向かうに従ってその径方向外方に拡径されている。この断熱層11の全周面11pが、凹所内周壁31wiに当接された状態で結合(焼結)され、その断熱層11の表面が、バルブ底面5のうち、凹所31を除く部分に対して面一になるように設定されている。
しかも、上記凹所31内の断熱層11の表面11s及びバルブ底面5に対して被覆材15が、その断熱層11の表面11s及びバルブ底面5の全体を被覆するようにして結合され、被覆材15がバルブ底面5上において形成する面は平坦面として形成されている。
【0068】
このため、この第5実施形態においては、断熱層11の全周面11pを凹所内周壁31wiに当接させつつ、その断熱層11の外周部11aがその径方向外方側ほど薄くすることができ、断熱層11による断熱機能の低下を極力抑制しつつ、燃焼ガスの作用及びクラックの発生に基づくバルブ底面5からの断熱層11の剥がれを抑制できる。勿論、本実施形態においては、断熱層11がバルブ底面5よりも縮径された状態でそのバルブ底面5に結合されていることから、その断熱層11の縮径に基づく剥がれ抑制効果についても得ることができる。
また、断熱層11の表面11sが、バルブ底面5のうち、凹所31を除く部分に対して面一になるように設定され、しかも、それに伴い、被覆材15がバルブ底面5上において形成する面が平坦面となることから、バルブ底面5に断熱層11を設ける場合においても、バルブ底面側全体を平坦化(フラット化)することができ、バルブ底面が平坦化された一般的なバルブが有する基本構造、基本性能を確保できる。
しかも、断熱層11の表面及びバルブ底面5に対して結合される被覆材15が、断熱層11外周部の剥がれ、反り等の動きに対して抗することになり、バルブ底面5から断熱層外周部11aが剥がれる可能性を一層、抑制することができる。勿論この場合、バルブ底面5の径方向において、バルブ底面5と被覆材15とが接触する実際の長さが、凹所31の存在により限られたものとなることから、熱膨張、熱収縮の影響を少なくして、バルブ底面5に対する被覆材15の結合強度を十分に確保することができる。
【0069】
図26に示す第6実施形態は、前記第4、第5実施形態の変形例を示す。この第6実施形態においては、第1実施形態の他に、第4、第5実施形態と同一構成要素についても、同一符号を付してその説明を省略する。
【0070】
この第6実施形態は、断熱層外周部11aの剥がれ抑制と、バルブ底面5側全体の平坦化とを極力図りつつ、断熱層11の断熱性を、第5実施形態に比して高めたものを示している。
この第6実施形態においては、断熱層11が凹所31内に充填された状態でその凹所31の内周壁31wi及び底壁31bに結合される構成(第5実施形態における構成)にされているにとどまらず、断熱層11の表面11sが、凹所31開口31oよりも外方側において若干、盛り上がった状態として形成されている。具体的には、断熱層11における径方向内方側部分11bの表面11sが、凹所31開口31oよりも多少、外方側においてバルブ底面5(凹所底壁31b)に平行とされる一方、断熱層11における外周部11aの表面11sは、その断熱層11の厚み方向内方(
図26中、下方)に向かうに従って径方向外方に広がるように形成され、その表面11sの外縁は、凹所開口縁31oo位置において断熱層11の周面11pに結びつくことになっている。このため、この断熱層11の全体の厚みは、断熱層表面11sをできるだけ平坦にしつつ、第5実施形態の場合よりも厚くなっている。
しかも、本実施形態においては、この断熱層11の表面11s及びバルブ底面5に対して被覆材15が、その断熱層11の表面11s及びバルブ底面5の全体を被覆するようにして結合されている。
【0071】
したがって、第6実施形態においては、断熱層外周部11aの剥がれ抑制効果とバルブ底面5側全体の平坦化とを極力図りつつ、断熱層11の断熱性を、第5実施形態に比して高めることができる。
尚、本実施形態においては、凹所内周壁31wiを周壁とし、断熱層11のうち、凹所内周壁31wiに当接する面を周面11pとして捉えたが、断熱層11のうち、凹所内周壁31wiに当接する面だけでなく、被覆材15の外周部に当接する面を含めて周面11pとして捉えてもよく、その場合には、凹所内周壁31wiと被覆材15の外周部とが周壁を構成することになる。
【0072】
以上実施形態について説明したが本発明にあっては、次の態様を包含する。
(1)各実施形態において、周壁として、底壁部17を省き、周壁部16だけからなるものを用いること。
(2)周壁部16の肉厚を、バルブ底面5のうち、断熱層11が存在しない部分全体を覆わないものとすること。
(3)マージン部6の係合部として、凹部等、種々のものを用いること。
(4)バルブ本体1Aの材質として、SUH35(熱伝導率:約12.6W/m・K(室温下)程度、熱膨張率:約1.5×10
-6/℃(室温下)程度)等を用いること。
(5)断熱層11として、単層からなるもの、3層以上からなるものを用いること。
(6)第3実施形態(
図21参照)において、凹所内周壁31wiを、凹所31の開口に向かうに従ってその凹所31の径方向内方又は径方向外方に傾斜させること。
【符号の説明】
【0073】
1 バルブ
5 バルブ底面
6 マージン部
11 断熱層
11a 断熱層の外周部
11b 断熱層の径方向内方側部分
11p 断熱層の周面
11s 断熱層の表面
12 第1断熱層
13 第2断熱層
13s 第2断熱層13の表面
15 被覆材
16 周壁部(周壁)
16i 周壁部16の内周面(周壁の内周面)
17 底壁部
29 延長部
31 凹所
31b 凹所底壁
31wi 凹所内周壁(周壁、周壁の内周面)
31o 凹所開口
O バルブ底面5の径方向中央部
S 燃焼室