(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】生体試料の加温方法、生体試料の加温容器、及び生体試料を加温するためのキット
(51)【国際特許分類】
C12M 1/02 20060101AFI20220427BHJP
C12M 1/24 20060101ALI20220427BHJP
C12Q 1/02 20060101ALN20220427BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20220427BHJP
【FI】
C12M1/02 B
C12M1/24
C12Q1/02
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2020527702
(86)(22)【出願日】2019-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2019025962
(87)【国際公開番号】W WO2020004655
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2020-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2018123502
(32)【優先日】2018-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503328193
【氏名又は名称】株式会社ツーセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】谷川 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】中佐 昌紀
(72)【発明者】
【氏名】邵 金昌
(72)【発明者】
【氏名】加藤 幸夫
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-512274(JP,A)
【文献】特開2013-116068(JP,A)
【文献】特表2015-536137(JP,A)
【文献】特表2017-538447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12Q 1/00- 3/00
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体が収容された熱媒体収容容器に、生体試料が収容された生体試料収容容器を収容する収容工程と、
前記熱媒体が前記熱媒体収容容器の外に漏れないように前記熱媒体収容容器の前記熱媒体の入れ口を閉鎖する閉鎖工程と、
前記熱媒体の入れ口が閉鎖した前記熱媒体収容容器内の前記熱媒体を運動させる運動工程と、
を含み、
前記閉鎖工程が、前記収容工程後に実施され、前記運動工程は、前記熱媒体収容容器を運動させることによって実施される、生体試料の加温方法。
【請求項2】
前記運動工程は、前記熱媒体収容容器を手で把持して振ることにより行う、請求項1に記載の生体試料の加温方法。
【請求項3】
熱媒体が収容された熱媒体収容容器に、生体試料が収容された生体試料収容容器を収容する収容工程と、
前記熱媒体が前記熱媒体収容容器の外に漏れないように前記熱媒体収容容器の前記熱媒体の入れ口を閉鎖する閉鎖工程と、
前記熱媒体の入れ口が閉鎖した前記熱媒体収容容器内の前記熱媒体を運動させる運動工程と、を含み、
前記運動工程は、前記熱媒体収容容器を手で把持して振ることにより行う、生体試料の加温方法。
【請求項4】
前記運動工程を、前記熱媒体が20℃以上、40℃以下の状態で行う、請求項1から3のいずれか1項に記載の生体試料の加温方法。
【請求項5】
前記運動工程を、前記熱媒体が20℃以上、27℃以下の状態で行う、請求項4に記載の生体試料の加温方法。
【請求項6】
前記生体試料が、細胞、細胞塊、組織及び組織片からなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項1から5のいずれか1項に記載の生体試料の加温方法。
【請求項7】
前記熱媒体が、水、等張液、及び抗菌剤を溶解した水から成る群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1から6のいずれか1項に記載の生体試料の加温方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の生体試料の加温方法において用いる生体試料の加温容器であって、
生体試料が収容される生体試料収容容器を収容し、かつ熱媒体が内部に収容される、熱媒体収容容器と、
当該熱媒体収容容器に設けられた、前記生体試料収容容器の位置を規定するための位置規定部とを備え
、
前記熱媒体収容容器は、前記熱媒体収容容器を運動させることによって、前記熱媒体を運動させるようになっている、生体試料の加温容器。
【請求項9】
前記位置規定部は、当該熱媒体収容容器内に設けられている、請求項8に記載の生体試料の加温容器。
【請求項10】
当該熱媒体収容容器は袋状であり、前記位置規定部は、当該熱媒体収容容器の外表面であり、袋状の前記熱媒体収容容器を折りたたんで前記生体試料収容容器を挟むことで、生体試料収容容器を収容し、かつ、位置を規定するものである、請求項8に記載の生体試料の加温容器。
【請求項11】
前記位置規定部が樹脂膜である、請求項8に記載の生体試料の加温容器。
【請求項12】
前記熱媒体収容容器は、一端が閉鎖され、他端が開口している筒状構造であり、開口している当該他端を閉鎖するための蓋をさらに備えた、請求項8又は11に記載の生体試料の加温容器。
【請求項13】
前記筒状構造の長さ方向に垂直な断面の直径が5mm以上、200mm以下である、請求項12に記載の生体試料の加温容器。
【請求項14】
内部に発熱体を有さない、請求項8から13のいずれか1項に記載の生体試料の加温容器。
【請求項15】
請求項1から7のいずれか1項に記載の生体試料の加温方法において用いる生体試料を加温するためのキットであって、
熱媒体及び生体試料収容容器を収容するための熱媒体収容容器を備え、
前記熱媒体収容容器は、前記生体試料収容容器の位置を規定するための位置規定部を有しており、前記生体試料収容容器は生体試料を収容するためのものであ
り、
前記熱媒体収容容器は、前記熱媒体収容容器を運動させることによって、前記熱媒体を運動させるようになっている、生体試料を加温するためのキット。
【請求項16】
前記生体試料収容容器には、低温保存された生体試料が予め収容されており、
前記生体試料の低温状態を維持するための保冷手段をさらに備えた、請求項15に記載の生体試料を加温するためのキット。
【請求項17】
生体試料を洗浄するための洗浄液をさらに備えた、請求項15又は16に記載の生体試料を加温するためのキット。
【請求項18】
前記生体試料収容容器には、生体試料が予め収容されており、
前記生体試料収容容器は、密封された容器内に滅菌されて収容されている、請求項15から17のいずれか1項に記載の生体試料を加温するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体試料の加温方法、生体試料の加温容器、及び生体試料を加温するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、凍結保存されている細胞や組織を、その融点よりも高い温度まで加熱するヒーターにより加熱して解凍する凍結細胞融解装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2017-526375号公報(2017年9月14日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
再生医療細胞製品の製造や細胞研究において、細胞凍結技術は不可欠である。細胞の性質を変えることなく安定的に細胞を凍結及び解凍することにより、再生医療用の細胞製品の生産性を向上させることが可能であり、また、細胞研究においてもバラつきの少ない信頼性の高いデータを取得することができる。
【0005】
細胞の凍結方法については様々な研究がなされており、細胞の種類に応じて最適な保存液を、ユーザが適宜選択して使用できるようになってきている。しかしながら、凍結された細胞の解凍方法については、ユーザ毎に独自のプロトコルが採用されてはいるが、簡便性及び安全性の観点から最良な方法は確立されていない。
【0006】
従来の解凍方法の代表的なものとして、ウォーターバスを使用して凍結細胞を解凍する方法が知られている。ウォーターバスにより凍結細胞の温度を加温するにあたり、体温程度に加熱された水と接触させることにより、細胞を高温にさらすことがなく、細胞の性質の変化を防ぐことができる。しかしながら、ウォーターバスは大量の水を必要とする上に、装置の専有体積および重量が大きいという問題があり、しかも体温付近の温度を用いているため、熱媒体となる水の中に雑菌が繁殖しやすい。特に、再生医療用の細胞製品のように、細胞を利用する手術室内やベッドサイドにおいて、凍結された細胞や細胞の加工物を解凍することが求められる場合には、ウォーターバスのような大きな装置を持ち込むことは困難であり、また、大量の水による汚染が問題となる。
【0007】
一方、ヒーターを熱源とし、固層の熱媒体を介して解凍する従来の凍結細胞融解装置、即ちヒートブロック恒温槽(ヒートブロック)は、大量の水を必要とせず、また装置も小型である。しかしながら、概して同じ37℃に設定した場合に、ヒートブロックはウォーターバスよりも伝熱効率が悪く解凍時間が長くなるため、解凍途中の濃度勾配や温度勾配の影響等で細胞がダメージを受けるリスクが高まる。
【0008】
また、特許文献1に記載された凍結細胞融解装置は、ヒーターが37℃よりも高温になるため細胞がダメージを受けやすいといったリスクが考えられ得る。
【0009】
本発明の一態様は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、生体試料に与えるダメージを抑えた、簡便で安全な加温方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る加温方法は、生体試料の加温方法であって、熱媒体が収容された熱媒体収容容器に、生体試料が収容された生体試料収容容器を収容する収容工程と、前記熱媒体が前記熱媒体収容容器の外に漏れないように前記熱媒体収容容器の前記熱媒体の入れ口を閉鎖する閉鎖工程と、前記熱媒体の入れ口が閉鎖した前記熱媒体収容容器内の前記熱媒体を運動させる運動工程と、を含む。
【0011】
本発明の一態様に係る加温容器は、生体試料の加温容器であって、生体試料が収容される生体試料収容容器を収容し、かつ熱媒体が内部に収容される、熱媒体収容容器と、当該熱媒体収容容器に設けられた、前記生体試料収容容器の位置を規定するための位置規定部とを備えている。
【0012】
本発明の一態様に係る生体試料を加温するためのキットは、熱媒体及び生体試料収容容器を収容するための熱媒体収容容器を備えており、前記熱媒体収容容器は、前記生体試料収容容器の位置を規定するための位置規定部を有しており、前記生体試料収容容器は生体試料を収容するためのものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、生体試料に与えるダメージを抑え、簡便かつ安全に生体試料を加温することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一態様に係る加温方法で用いる加温容器を示す模式図である。
【
図2】本発明の他の態様に係る加温方法で用いる加温容器を示す模式図である。
【
図3】さらに他の態様に係る加温容器を示す模式図である。
【
図4】さらに他の態様に係る加温容器を示す模式図である。
【
図5】さらに他の態様に係る加温容器を示す模式図である。
【
図6】さらに他の態様に係る加温容器を示す模式図である。
【
図7】さらに他の態様に係る加温容器を示す模式図である。
【
図8】本発明の一態様に係る加温用キットを示す模式図である。
【
図10】熱媒体収容容器及び生体試料収容容器の一例を示す図である。
【
図12】加温容器を人の手により把持した状態の一例を示す図である。
【
図15】生体試料収容容器を熱媒体収容容器に収容した状態の一例を示す図である。
【
図19】解凍した細胞の増殖能を示すグラフである。
【
図20】解凍した細胞の増殖能を示すグラフである。
【
図21】解凍した細胞の増殖能を示すグラフである。
【
図23】解凍した細胞の増殖能を示すグラフである。
【
図25】解凍した細胞の増殖能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔加温方法〕
本発明の一態様に係る加温方法は、生体試料の加温方法であって、熱媒体が収容された熱媒体収容容器に、生体試料が収容された生体試料収容容器を収容する収容工程と、前記熱媒体が前記熱媒体収容容器の外に漏れないように前記熱媒体収容容器の前記熱媒体の入れ口を閉鎖する閉鎖工程と、前記熱媒体の入れ口が閉鎖した前記熱媒体収容容器内の前記熱媒体を運動させる運動工程と、を含む。
【0016】
本発明の好ましい一態様に係る加温方法は、生体試料の加温方法であって、熱媒体が収容された熱媒体収容容器に、生体試料が収容された生体試料収容容器を収容する収容工程と、前記収容工程後、前記熱媒体が前記熱媒体収容容器の外に漏れないように前記熱媒体収容容器の前記熱媒体の入れ口を閉鎖する閉鎖工程と、前記熱媒体の入れ口が閉鎖した前記熱媒体収容容器ごと運動させる運動工程と、を含む。
【0017】
本明細書において「生体試料」とは、生体由来の試料を意味しており、好ましくは、細胞、細胞塊、組織及び組織片からなる群より選ばれる少なくとも一つである。
【0018】
生体試料としての細胞には各種有用細胞が含まれ、例えば、各種組織由来の間葉系幹細胞(MSC)、iPS細胞及びこれに由来する細胞株、ES細胞及びこれに由来する細胞株、造血幹細胞及び神経幹細胞等の他の幹細胞、癌細胞、血管前駆細胞、血管細胞、筋芽細胞、さい帯由来細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、椎間板細胞、遺伝子改変細胞等が挙げられる。
【0019】
生体試料としての組織には各種有用組織が含まれ、例えば、骨髄液、さい帯血、さい帯組織、各種骨髄由来細胞分画、脂肪組織片、精子、卵子、死体由来他家又は自家軟骨骨組織、骨組織等が挙げられる。また、生体試料としての組織には、ES細胞由来組織、iPS細胞由来組織、及び各種細胞を含む組織工学で作製した移植用組織も含まれる。
【0020】
本発明の一態様における、加温の対象の生体試料は、凍結している生体試料でもよく、凍結していない生体試料であってもよい。つまり、本発明の一態様に係る加温方法は、凍結試料の解凍をすることもでき、また、例えば、非凍結低温保存法で保存された細胞及び組織を、常温又は体温に回復させる際にも使用することもできる。
【0021】
本明細書において、「凍結している生体試料」を「凍結試料」とも称する。「凍結試料」は、凍結保存された試料を意味している。凍結試料は、好ましくは、-250℃以上、-60℃以下等の超低温環境で、数時間から数年以上のような一定時間保存された試料である。本発明の一態様における加温方法において加温の対象となる生体試料の凍結方法は、特に限定されず、従来公知の凍結方法を用いればよい。また、スキャフォールドを用いる等の方法で3次元構造を維持して凍結された生体試料であってもよく、凍結保存用溶液を用いて凍結保存された生体試料であってもよい。凍結保存用溶液は、脂肪酸、リン脂質、界面活性剤等を含んでもよく、これらは1種でも複数種でもよい。
【0022】
また、本発明の一態様において、「凍結していない生体試料」としては、超低温環境下で一定時間保存された生体試料が挙げられる。このような生体試料としては、例えば、上述した非凍結低温保存法で保存された細胞及び組織、非凍結低温保存法により保存された、死体由来他家又は自家軟骨骨組織、各種移植用細胞が挙げられる。
【0023】
非凍結低温保存法とは、冷蔵(5℃~10℃)やチルド(0℃~5℃)といった低温でありかつ凍結しない環境下での保存法であって、培地、乳酸リンゲル液、生理食塩水等を含む等張液中に、組織、細胞、細胞塊等を好ましくは浸漬させた状態で保存する方法のことを意味している。
【0024】
本明細書において、「加温」とは、生体試料に熱を与えて温度を上げることを意味している。例えば、生体試料が凍結試料である場合には、与えた熱により生体試料を解凍することを意味している。本明細書において「解凍」とは、凍結試料の固相の少なくとも一部が液相に変換されることを意味しているが、好ましくは、凍結試料において凍結前に液相であった部分が完全に融解して液相に戻ることをいう。
【0025】
また、本明細書においては、凍結保存と非凍結の低温保存とを合わせて単に「低温保存」ということもある。
【0026】
(収容工程)
収容工程において、熱媒体が収容された熱媒体収容容器に、生体試料が収容された生体試料収容容器を収容する。本明細書において「容器AにBを収容する」は、(場合1)容器Aの内部に空間を有している容器Aの、当該空間にBを入れること、又は(場合2)容器Aの外表面と接するBを、容器Aによって包むことを意味する。(場合2)は、容器Aが変形可能な材質によって作製されていることを、さらに意味している。以下では、収容工程を、(場合1)を例に詳述する。
熱媒体収容容器は、内部に熱媒体を収容するものであり、熱媒体の入れ口となる開口部を有している。熱媒体収容容器の一例について
図1を参照して説明する。
図1は、本発明の一態様に係る加温方法で用いる加温容器を示す模式図である。加温容器1は、熱媒体収容容器2を有している。熱媒体収容容器2には、熱媒体4を注入するための開口部3が設けられている。また、熱媒体収容容器2には生体試料が収容された生体試料収容容器5が収容されている。
図1は、後述する閉鎖工程において開口部3を蓋6により閉鎖した状態を例として示している。
【0027】
熱媒体収容容器は、熱媒体を収容し得るものであればよい。後述するように、本発明において使用する熱媒体は高温にはならないため、熱媒体収容容器は耐熱性でなくてもよい。熱媒体収容容器として、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン又はポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂製の容器がより好ましい。
【0028】
熱媒体収容容器は、使用後に容易に廃棄可能なものであることが好ましく、これによりクロスコンタミネーションを防ぐことができる。また、熱媒体収容容器は、人の手で把持しやすいように、一端が閉鎖され、他端が開口している筒状構造であることが好ましく、筒状構造の長さ方向に垂直な断面の直径が5mm以上、200mm以下であることがより好ましい。さらに、熱媒体収容容器は、人の手で持ち運び可能なものであることが好ましい。熱媒体収容容器として、例えば、市販の遠沈管を好適に使用可能である。
【0029】
また、熱媒体収容容器は、内部に、生体試料収容容器の位置を規定するための位置規定部をさらに備えていてもよい。位置規定部を備えた熱媒体収容容器の一例について
図2を参照して説明する。
図2は、本発明の他の態様に係る加温方法で用いる加温容器10を示す模式図である。
図2に示すように、加温容器10は、位置規定部として機能する樹脂膜11を備えている点において、
図1に示す加温容器1と異なっている。
【0030】
樹脂膜11は、内部に生体試料収容容器5を収容可能なように袋状になっている。樹脂膜11は、弾性体膜であることが好ましく、例えば、ニトリルゴム、ポリウレタン、天然ゴム等が挙げられる。樹脂膜11は、開口部3を覆い、袋の入り口の一部を開口部3に引っ掛けて熱媒体収容容器2に密着するように設けられている。生体試料収容容器5が収容される位置は樹脂膜11によって隔離され、熱媒体4と生体試料収容容器5とが物理的に接しないようになっている。なお、
図2は、閉鎖工程において開口部3を蓋6により閉鎖した状態を例として示している。
【0031】
このように、熱媒体収容容器が位置規定部を備えていることによって、生体試料収容容器の熱媒体収容容器内における移動が制限されるため、後述する運動工程において生体試料収容容器が大きく移動して蓋等に衝突し、容器が破損することを防ぐことができる。また、特に位置規定部が熱媒体4と生体試料収容容器5との物理的接触を隔離する機能を有しており、熱媒体収容容器内で熱媒体と生体試料収容容器とが直接接触しないため、熱媒体が生体試料収容容器内に流入して生体試料が汚染されるリスクを低減することができる。
【0032】
熱媒体は開口部から熱媒体収容容器に収容される。熱媒体は、生体試料収容容器内の生体試料と熱交換可能なものであればよく、所定の温度範囲を所定時間維持することが可能な熱容量の流体であればよい。したがって、比熱の高い流体のほうが熱媒体の量が少ない状態でも高い熱容量を示すため好ましい。これらの条件にさらに安全性の観点も加味すると、熱媒体は、水、等張液、及び抗菌剤を溶解した水から成る群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。生体試料が細胞や細胞塊である場合、熱媒体として等張液を用いれば、仮に熱媒体と生体試料とが接触したとしても、細胞にダメージを与えるリスクを低減することができる。
【0033】
熱媒体収容容器に収容する熱媒体の量は、生体試料の量、熱媒体の温度等の条件を考慮して、熱媒体が生体試料を加温するに十分な熱容量を有するように設定すればよい。
【0034】
(収容工程の変形例)
上述の通り、熱媒体収容容器の一態様は、その外表面に生体試料収容容器を収容する(場合2)。(場合2)では、より正確には、熱媒体収容容器は生体試料収容容器を包む。したがって、(場合2)の熱媒体収容容器は、柔軟な材質によって作製されている容器である。
【0035】
(オーダーエスティメーション)
ここで、生体試料と熱媒体との熱交換により、熱媒体にどの程度の温度変化が生じるのかに基づいて、下記のとおり、熱媒体の量、熱媒体収容容器の容量をオーダーエスティメーションすることができる。このようなオーダーエスティメーションの結果に基づき、熱媒体の種類、量、温度、熱媒体収容容器の容積等を設計してもよい。
【0036】
算出の容易性のため、生体試料収容容器内の生体試料及び熱媒体が、水又は氷と同じ比熱、比重、融点等を有するものと仮定する。さらに、一例として、生体試料の重量を1g、熱媒体の重量を40gとし、生体試料の初期温度が-80℃、熱媒体の初期温度が24℃である場合の熱媒体の温度変化を算出する例について説明するが、本発明はこれらの値に限定されるものではない。なお、熱媒体は生体試料以外との熱交換はないものとし、熱媒体の全ての熱は生体試料の状態変化及び温度変化に使われると仮定して、系の温度変化や熱移動を、以下の三段階の計算でオーダーエスティメーションする。以下、「×」は乗算を、「/」は除算を、「^」は累乗を意味する。また、以下の式中においてはある大きさの物理量Qを、ある単位uで表した数値をQ[u]のように表記する。
【0037】
<i:生体試料が-80℃の固体から0℃の固体に変化する過程>
生体試料は固体であるため、その比熱は、氷の比熱(2.1kJ K^-1kg^-1)に近似すると考えられる。従って、当該過程においては、
(熱エネルギー)=(質量)×(比熱)×(温度変化)・・・(式1)
に従って、生体試料は熱媒体から
Q1[kJ]=0.001×2.1×80=0.168・・・(式2)
の熱を受け取ることになる。この結果、熱媒体は、Q1[kJ]の熱を奪われることとなり、
(温度変化)=(熱エネルギー)/((質量)×(比熱))・・・(式3)
に従って、温度変化を起こすと考えられる。熱媒体は液体であるため、その比熱は、水の比熱(4.2kJ K^-1kg^-1)に近似すると考えられる。したがって、
ΔT1[K]=(-0.168)/(0.04×4.2)=-1.0・・・(式4)
の温度変化が熱媒体に生じる。
【0038】
すなわち、過程iを経た熱媒体の温度Tは概ね23℃となる。熱媒体の初期温度は24℃であり、この程度の温度変化では熱媒体が凝固点に達することはなく、温度変化も微小であるため、外部環境との熱交換も発生し得る実使用時には無視できる温度変化である。
【0039】
<ii:生体試料が固体から液体に変化する過程>
生体試料が固体から液体に変化する過程では、融解熱に相当する熱エネルギーを熱媒体から得る必要があり、必要な熱エネルギーは、
(熱エネルギー)=(質量)×(融解熱)・・・(式5)
により算出される。融解熱は、氷の融解熱(335kJ kg^-1)に近似すると考えられるため、この過程において、生体試料は熱媒体から
Q2[kJ]=(0.001)×(335)=0.335・・・(式6)
の熱を受け取ることになる。したがって熱媒体は、Q2の熱を奪われることになる。この結果、熱媒体は、上記式4と同様に、
ΔT2[K]=(-0.335)/(0.04×4.2)=-1.99・・・(式7)の温度変化が熱媒体に生じる。
【0040】
すなわち、過程i及びiiを経た熱媒体の温度は、概ね21℃となる。この程度の温度変化であれば、熱の変化も微小であるため、外部環境との熱交換も発生し得る実使用時には無視できる温度変化である。
【0041】
<iii:生体試料が0℃の液体から平衡温度の液体に変化する過程>
熱量保存の法則に従えば、温度T、質量M、比熱Cの流体と、温度T’、質量M’、比熱C’の流体とを接触させた場合の平衡温度T∞は、相変化が起きないと仮定した場合、
T∞=(M×C×T+M’×C’×T’)/(M×C+M’×C’)・・・(式8)
により求められる。ここで、生体試料と熱媒体とが同一の比熱を有すると近似できるため、絶対零度をT0[℃]と表記すると0℃=-T0[K]となり、上記式8は以下のように簡略化することができる。
【0042】
T∞[K]=(M×T[K]+M’×T’[K])/(M+ M’)
=(M×(T[℃]+T0[K])+M’×(T’[℃]+T0[K]))/(M+M’)
=(M×T[℃]+M’×T’[℃])/(M+M’)+T0[K]・・・(式8’)
したがって、さらに生体試料の過程iiiにおける初期温度が0℃であれば、
T∞[℃]=(M×T[℃]+M’×T’[℃])/(M+M’)
=(M[g]×T[℃])/(M[g]+M’[g])・・・(式8’’)となり、この過程の平衡温度は、
T∞[℃]=(21×40+0×1)/(40+1)=20.5・・・(式8’’’)となる。したがって、この過程において、熱媒体の温度変化ΔT3は、
ΔT3[K]=20.5-21=-0.5・・・(式9)
となる。また、この過程において、生体試料は、式1と同様に、
Q3[kJ]=0.001×4.2×20.5=0.086・・・(式10)
の熱を熱媒体から受け取ることになり、すなわち熱媒体はQ3[kJ]の熱を奪われることになる。この程度の温度変化であれば、熱の変化も微小であるため、外部環境との熱交換も発生し得る実使用時には無視できる温度変化である。
【0043】
以上のオーダーエスティメーションによれば、過程i~iiiの融解によって、熱媒体の温度Tが24℃から20.5℃に変化するため、全体として3.5℃の温度低下となる。しかしながら、実際には、オーダーエスティメーションにおいて無視した熱媒体と外部環境との間の熱移動が存在するため、上述したような熱媒体の温度低下は、実使用時には無視できる程度である。
【0044】
このように、ウォーターバスと同様の加温時間を実現し得た条件に基づいて、上述した温度変化と同程度になるように、熱媒体の種類、量、温度等の種々の熱的条件を設計することができる。具体的には、熱媒体の量は、後述する運動工程において強制対流が生じ、熱媒体と生体試料とが十分に熱的に接触できる量であり、かつ、加温の過程での熱媒体の温度変化が無視し得るほど少ないことを特徴とした量であればよい。
【0045】
本実施形態において生体試料は、加温するユニット毎に生体試料収容容器に収容されていてもよく、また、複数のユニットがまとめて生体試料収容容器に収容されていてもよい。加温するユニット毎に生体試料収容容器に収容された生体試料を用いる場合、生体試料収容容器の保管場所から当該生体試料収容容器を取り出すだけでよいが、複数のユニットがまとめて生体試料収容容器に収容された生体試料を用いる場合には、当該生体試料収容容器を保管場所から取り出した後、ユニット毎に別の生体試料収容容器に移し換えて使用する。
【0046】
生体試料収容容器は、凍結に用いる試料又は凍結した試料や、非凍結低温保存法で保存された試料を収容する場合もあるため、凍結温度や低温に耐え得るものであればよい。生体試料収容容器は、例えば、-80℃に耐え得るものであることが好ましく、-250℃に耐え得るものであることがより好ましい。生体試料収容容器として、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、又はポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂製の容器がより好ましい。
【0047】
生体試料収容容器内の生体試料が汚染されること、及び、生体試料が生体試料収容容器外に流出して作業者又は作業場が汚染されることを防ぐために、生体試料収容容器は密閉されていることが好ましい。生体試料収容容器は熱媒体を収容した熱媒体収容容器内に収容されるため、特に、熱媒体が流入しないように密閉されていることが好ましい。
【0048】
生体試料収容容器は、収容している生体試料と熱媒体とが生体試料収容容器を介して熱交換可能なように、熱媒体収容容器内に収容される。生体試料と熱媒体との熱交換を可能にするために、生体試料収容容器の外壁と熱媒体とが少なくとも一部において物理的に接触するように、生体試料収容容器を熱媒体収容容器内に収容してもよい。すなわち、熱媒体中に生体試料収容容器の少なくとも一部が浸漬するように、熱媒体収容容器内に生体試料収容容器を格納することが好ましい。
【0049】
また、筒状体である熱媒体収容容器の長さ方向を鉛直とした場合に、生体試料収容容器内の生体試料全体が熱媒体の液面よりも鉛直方向下側に位置するように、熱媒体収容容器内に生体試料収容容器を収容してもよい。これにより、熱媒体と生体試料との熱接触面積が大きくなり、より効率よい生体試料と熱媒体との熱交換が可能になる。
【0050】
なお、生体試料収容容器を熱媒体収容容器内に収容した時点では、生体試料収容容器の外壁と熱媒体とが物理的に接触していなくても、後述する運動工程において熱媒体を対流させた際に生体試料収容容器の外壁と熱媒体とが物理的に接触すれば、より効率よい生体試料と熱媒体との熱交換が可能になる。
【0051】
熱媒体収容容器が位置規定部を備えている場合、位置規定部を介して熱媒体と生体試料とが熱交換可能なように生体試料収容容器を熱媒体収容容器内に収容すればよい。これにより、熱媒体と生体試料との熱交換は行われるが、熱媒体と生体試料収容容器とが直接接触しないため、熱媒体が生体試料収容容器内に流入して生体試料が汚染されるリスクを低減することができる。
【0052】
(閉鎖工程)
閉鎖工程において、収容工程後、熱媒体が熱媒体収容容器の外に漏れないように熱媒体収容容器の熱媒体の入れ口を閉鎖することが好ましい。例えば、熱媒体収容容器の熱媒体の入れ口を蓋で覆うことによって閉鎖することができる。熱媒体収容容器の熱媒体の入れ口を閉鎖することで、位置規定部等が、熱媒体の熱媒体収容容器からの流出を封止する機能を備えない(例えば後述の
図5参照)形態や、そもそも位置規定部を備えない(例えば
図1参照)形態においても、後述する運動工程において熱媒体収容容器ごと運動させた際にも熱媒体の入れ口から熱媒体及び生体試料収容容器が飛び出さず、作業者及び作業場の汚染を防ぐことができる。
【0053】
しかし、閉鎖工程は、目的(熱媒体が熱媒体収容容器の外に漏れない)を達する限り、実施されるその順序に制限されない。例えば、直前の段落では、収容工程後に閉鎖工程を実施すると説明しているが、閉鎖工程において上記(場合2)のように変形可能な熱媒体収容容器2の入れ口が封鎖された後に、上記収容工程が実施され得る。
【0054】
閉鎖工程は、上記目的を達する限り、上記入れ口を塞ぐ部材に制限されない。例えば、
図2の樹脂膜11は生体試料収容容器5の位置を固定する位置固定部として機能している一方で、熱媒体4が熱媒体収容容器2の外に漏れることを防ぐ機能も果たしている。したがって、上記入れ口から熱媒体収容容器の外に熱媒体が漏れることを防ぐ部材を、運動工程の前(熱媒体収容容器2の内部に熱媒体4を収容した後ならいつでも)に、上記入れ口設けることは、いずれも閉鎖工程に該当する。なお、
図2における蓋6は、開口部3を塞いでおり、生体試料収容容器5が、後述する運動工程において、熱媒体収容容器2の外に飛び出すことを防いでいる。熱媒体収容容器内の熱媒体が、ポケット状の位置規定部3から生体試料収容容器が配置されている空間に漏れ出すことがないため、もちろん、蓋6を通って、熱媒体収容容器2の内部から外部に熱媒体が漏れることもない。
【0055】
(運動工程)
運動工程において、熱媒体の入れ口が閉鎖した前記熱媒体収容容器ごと運動させることが好ましい。運動工程においては、熱媒体収容容器内で熱媒体が対流し、熱媒体収容容器内を熱媒体が循環するように、生体試料収容容器を装着した状態で熱媒体収容容器ごと運動させる。これにより、熱媒体と生体試料との(生体試料収容容器を介した)熱交換がより効率よく行なわれ、生体試料をより短時間で加温することができる。
【0056】
しかし、運動工程は、入れ口が閉鎖されている熱媒体収容容器2内にある熱媒体を運動させる目的を達する限り、実施の手段には制限されない。例えば、熱媒体収容容器2内に流体を供給するノズルが、上記入れ口を部分的に閉鎖し得る。また、例えば、入れ口が閉鎖されている熱媒体収容容器2内にファンが備えられ得る。上記ノズルおよびファン(熱媒体を循環させる手段)は、いずれも熱媒体収容容器2内の熱媒体の循環を生じさせる。上記ノズルまたはファンを備えていれば、運動工程では、熱媒体収容容器2を動かす必要はない。
【0057】
運動工程は、熱媒体収容容器に振動を与える装置を用いて行ってもよいが、熱媒体収容容器を手で把持して振ることにより熱媒体収容容器を運動させることが好ましい。熱媒体収容容器を手で把持して熱媒体収容容器を振るので、振動を与える装置を使用する必要がなく、より簡便である。特に、加温の対象となる細胞を、移植手術を行う手術室において加温するような場合には、上述したような装置を持ち込むことは困難であるため、人の手で振ることがより好ましい。なお、熱媒体収容容器ごと全体に振動を与える装置の例として、当該分野において公知の装置(チューブローテーターおよびシェイカー等)が挙げられる。また、熱媒体収容容器に直接的な振動を与えずに熱媒体を循環させる機構としては、例えば、加温容器内に流体を噴出するようなノズルや流体を加温容器内で循環させ、生体資料収容容器と熱媒体との熱交換を効率化させるようなファン等といった循環手段を備えるといった形態が考えられる。
【0058】
運動工程を、熱媒体が20℃以上、40℃以下の状態で行うことが好ましい。これにより、生体試料へのダメージを抑えつつ、より短時間で生体試料を加温することができる。また、熱媒体が20℃以上、40℃以下の状態であれば、従来のウォーターバスを利用した解凍方法において一般的な37℃での加温とほぼ同程度の加温温度である。なお、ここでの熱媒体の温度は、生体試料との熱交換前の温度を意味している。
【0059】
また、運動工程を、熱媒体が20℃以上、27℃以下の状態で行うことが好ましい。これにより、熱媒体の温度が概ね室温と一致しているため、熱媒体を温める必要がなく、熱媒体を温めるための発熱体である熱源が不要である。また、熱媒体が上記温度範囲より低い場合でも、人の手で熱媒体収容容器を握るだけで体温によって上記温度範囲に温めることができる。
【0060】
運動工程においては、10秒間以上、600秒間以下熱媒体収容容器を振ることが好ましい。熱媒体収容容器を振る時間が上記範囲内であることによって、熱媒体収容容器内で効率よく熱媒体が対流し、より効率よく熱媒体と生体試料との熱交換を行うことができる。運動工程においては、10秒間以上、300秒間以下熱媒体収容容器を振ることがより好ましく、40秒間以上、180秒間以下熱媒体収容容器を振ることがさらに好ましい。運動工程においては、生体試料の加温が完了するまで継続して熱媒体収容容器を運動させることが好ましいが、一定時間運動させた後静置し、その後再度運動させるというように断続的に行ってもよい。
【0061】
運動工程においては、30rpm以上、120rpm以下で熱媒体収容容器を振ることが好ましい。熱媒体収容容器を振る周期が上記範囲内であることによって、熱媒体収容容器内で効率よく熱媒体が対流し、より効率よく熱媒体と生体試料との熱交換を行うことができる。
【0062】
熱媒体収容容器が、一端が閉鎖され、他端が開口している筒状構造である場合、運動工程において、筒状構造の長さ方向の一端側を固定して他端側の振り角が90度以上になるように、熱媒体収容容器を振ることが好ましい。このように熱媒体収容容器を振ることを、本明細書では転倒混和と称する。熱媒体収容容器を転倒混和することによって、熱媒体を強制対流させることが可能であり、熱媒体の温度が比較的低温であっても、生体試料を短時間で加温することができる。
【0063】
転倒混和の振り角は、120度以上であることがより好ましく、150度以上若しくはそれ以上であることがさらに好ましい。また、筒状体の長さ方向の両端の鉛直方向における上下位置が少なくとも1回入れ替わるように熱媒体収容容器を転倒混和することが好ましい。すなわち、熱媒体収容容器の長さ方向が鉛直になるようにその一端側を人の手で把持し、他端側を水平方向に揺らして熱媒体収容容器を転倒混和する際に、他端側の振り幅を大きくして他端側が一端側よりも上に位置するようにすれば、熱媒体がより大きく対流するため好ましい。
【0064】
熱媒体収容容器の転倒混和によれば、熱媒体の強制対流が充分効率よく起こる程度に循環するため、驚くべきことに、例えば熱媒体の温度が22℃といった、低い温度でも短時間での加温が可能である。この温度は、ウォーターバス等を用いた従来の一般的な解凍方法において標準的な温度とされる37℃よりも低いため、従来法よりも生体試料に与える熱ダメージが大幅に少ない。また、22℃は一般的な室温であるため、熱媒体収容容器の転倒混和では、熱媒体を温めるための熱源を必要としない。
【0065】
従来のウォーターバスを用いる方法では熱媒体として10Lオーダーの大量の水を必要としており、持ち運びが容易ではなく、日常の清掃が面倒である上に、日常の清掃を怠ると雑菌が繁殖して不衛生であるという種々の問題があった。一方、本発明の一態様にかかる加温方法によれば、例えば50mL以下のように極めて少ない量の熱媒体しか必要としないため、持ち運びが容易であると共に、使用後に廃棄しやすく日常の清掃は不要である。
【0066】
また、従来のヒーターにより加熱して生体試料を解凍する方法では、大量の水を必要とせず、また装置も小型であるが、ヒーターが一時的に高温になるため生体試料がダメージを受けやすいという問題があった。また、使用するヒーターの装置間で性能にバラつきがあり、加温の再現性が確保できないこともあった。一方、本発明の一態様に係る加温方法によれば、熱媒体が室温に近いような低い温度であっても短時間での加温が可能であるため、生体試料に与える熱ダメージが少なく、また、熱媒体を温めるための熱源が不要である。さらに、熱媒体の入った熱媒体収容容器を人の手で把持して振るという非常に簡易な操作で加温するため、加温ごとのバラつきが生じにくい。
【0067】
〔加温容器〕
本発明の他の一態様に係る加温容器は、生体試料の加温容器であって、生体試料が収容される生体試料収容容器を収容し、かつ熱媒体が内部に収容される、熱媒体収容容器と、当該熱媒体収容容器に設けられた、前記生体試料収容容器の位置を規定するための位置規定部とを備えている。
【0068】
本発明の好ましい他の一態様に係る加温容器は、生体試料の加温容器であって、生体試料が収容される生体試料収容容器と、熱媒体が内部に収容される熱媒体収容容器と、当該熱媒体収容容器に設けられた前記生体試料収容容器の位置を規定するための位置規定部とを備えている。なお、当該加温容器を、例えば、生体試料であり、好ましくは生体試料収容容器に収容された状態で凍結あるいは冷蔵された生体試料を加温するための加温容器であって、当該生体試料収容容器及び熱媒体が内部に収容される熱媒体収容容器と、当該熱媒体収容容器内に設けられた前記生体試料収容容器の位置を規定するための位置規定部とを備えている加温容器と捉えることもできる。本発明の当該好ましい一態様に係る加温容器について、
図1及び2を参照して以下に説明する。
【0069】
図1に示すように、加温容器1は、熱媒体収容容器2を備えている。加温容器1は、熱媒体収容容器2内に生体試料収容容器5を収容し、生体試料収容容器5内に収容された生体試料を加温するためのものである。熱媒体収容容器2には熱媒体が収容され、さらに生体試料収容容器5が収容されて蓋6により閉鎖される。
【0070】
熱媒体4は熱媒体収容容器2内に収容されている。生体試料収容容器5は、開口部3から熱媒体収容容器2に収容され、生体試料収容容器5内の生体試料と熱媒体4とが生体試料収容容器5を介して熱交換可能になっている。開口部3は、熱媒体4及び生体試料収容容器5が加温容器1の熱媒体収容容器2から出ないように、蓋6により閉鎖されている。
【0071】
加温容器はさらに、
図2に示す加温容器10のように、位置規定部として機能する樹脂膜11を備えている。樹脂膜11は、内部に生体試料収容容器5を収容可能なように袋状(ポケット状)になっている。樹脂膜11は、開口部3を覆い、袋の入り口の一部を開口部3に引っ掛けて熱媒体収容容器2に密着するように設けられている。従って、
図2の樹脂膜11は生体試料収容容器5の位置を固定する位置固定部として機能している一方で、熱媒体4が熱媒体収容容器2の外に漏れることを防ぐ機能も果たしている。樹脂膜11を熱媒体収容容器2に固定するために、樹脂膜11の開口部3に引っ掛けた部分にパラフィルム等を巻きつけてもよい。簡便のために、パラフィルムは巻きつき過ぎなくてもよいが、より強固に固定したい場合には、当業者に公知の適切な各種接着、巻きつけ固定等により固定してもよい。
【0072】
熱媒体収容容器2は、開口部3から入れられた熱媒体を収容し得るものであればよい。本発明において使用する熱媒体は高温にはならないため、熱媒体収容容器2は耐熱性でなくてもよい。熱媒体収容容器2として、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、又はポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂製の容器がより好ましい。
【0073】
熱媒体収容容器2は、使用後に容易に廃棄可能なものであることが好ましく、これによりクロスコンタミネーションを防ぐことができる。また、熱媒体収容容器2は、人の手で把持しやすいように、一端が閉鎖され、他端が開口している筒状構造であることが好ましく、筒状構造の長さ方向に垂直な断面の直径が5mm以上、200mm以下であることがより好ましい。さらに、加温容器は、人の手で持ち運び可能なものであることが好ましい。加温容器として、例えば、市販の遠沈管を好適に使用可能である。
【0074】
なお、熱媒体収容容器2は、
図1及び2に示すような遠沈管状の軸対象な形状でなくてもよく、薬液ボトル、ペットボトル等の様々な形状のものを好適に使用可能である。但し、加温容器が例えば袋状の構造のように剛性を備えない場合には、運動工程等において、熱媒体を循環させる際に、加温容器自体の変形を最小限度に留め、内部の熱媒体循環を効率よく、再現性よくすために、例えば加温容器を筒状の構造物に挿入した状態とすることが好ましい。
【0075】
蓋6は、開口部3を覆って熱媒体収容容器2を封止するものであればよい。蓋6として、開口部3に嵌め込むもの、回して開け閉めするねじ巻式のもの等を好適に使用可能である。
【0076】
熱媒体4は、生体試料収容容器5内の生体試料と熱交換可能なものであればよく、所定の温度を所定時間維持することが可能な熱容量の流体であればよい。熱媒体4として、水、等張液及び抗菌剤を溶解した水からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。生体試料が細胞や細胞塊である場合、熱媒体4として等張液を用いれば、仮に熱媒体4と生体試料とが接触したとしても、細胞にダメージを与えるリスクを低減することができる。
【0077】
本発明の一態様に係る加温容器は、本発明の一態様に係る加温方法に好適に用いることができる。すなわち、本発明の一態様に係る加温容器は、本発明の一態様に係る加温方法に用いることができ、生体試料に与えるダメージを抑え、簡便かつ安全に生体試料を加温することができる。
【0078】
また、本発明の一態様に係る加温容器が位置規定部を備えていることによって、生体試料収容容器の熱媒体収容容器内における移動が制限されるため、後述する運動工程において生体試料収容容器が大きく移動して蓋等に衝突し、容器が破損することを防ぐことができる。また、例えば
図2や
図7のように、位置規定部がポケット状や容器状であり、熱媒体収容容器内で熱媒体と生体試料収容容器とを直接接触させない形態においては、市販のクライオチューブにおいてしばし起こり得る凍結に伴う表面のクラッキングやキャップの緩み等といった事態が起こったとしても、熱媒体が生体試料収容容器内に流入して生体試料が汚染されるリスクを低減することができる。
【0079】
上述した(場合2)の具体例1~3を、以下に詳述する。上記(場合2)における熱媒体収容容器は、剛性ではない(柔軟な)材質によって作製されている容器であり得る。当該容器は、位置規定部の形成が容易である点において、熱媒体収容容器として優れている。
【0080】
(具体例1)
具体例1の熱媒体収容容器は、例えば、柔軟な材料によって作製されている袋である。熱媒体は、当該袋の内部に封入されている。生体試料収容容器は、任意の位置で折りたたまれた袋に挟まれる(袋の外表面に接した状態で、当該袋に収容される)。袋には予め熱媒体が充填されており、かつ袋の入れ口は生体試料収容容器と接する前に予め閉鎖されている。つまり、袋は、その内部に生体試料収容容器を収容せずに、入れ口を閉鎖することによって作製される。ビニールやポリ袋をフイルム等の原材料からから袋状の構造加工する工程や、ものを詰めた袋を閉じる工程等で汎用的に使われる手法で作製可能であるため作製や熱媒体の充填が容易である。
【0081】
具体例1の袋は、当該袋の外表面に、上記生体試料収容容器を装着、固定するための構造物を備えていてもよい。当該構造物は、上記外表面との間にループを形成するひも状の構造物、または上記外表面との間にポケットを形成するシート状の構造物であり得る。上記構造物を備えている具体例1の袋は、上記生体試料収容容器を、当該袋の外表面に対してより強く押し付けることができる。これらは、位置規定部としての作用を持つ。
【0082】
袋は、中空の円筒容器といったガイド部材にさらに収容され得る。円筒容器は、一定の形状を維持しているので、変形しやすい袋を、一定の折りたたみ状態に維持しやすい(袋の外表面と生体試料収容容器とのほぼ同じ接触状態を再現しやすい)。円筒容器は、袋の変形を抑制するので、袋の形状変化等で熱媒体の循環や生体試料収容容器との熱的接触が妨げられることが少なく、従って、熱媒体の有している熱を、生体試料収容容器に対して効率的に伝えることができる。不定形の袋ではなく、一定の形状を有している円筒容器には、振動を与えやすい。袋の内部には、さらに空気が入っていることが好ましい。袋の内部にある空気が、袋を運動させたときに、熱媒体を撹拌させる働きを示すからである。円筒容器は、一定の形状を維持するために、剛性を有している種々の材料(紙、木、樹脂または金属等)によって作製され得る。尚、中空のガイド部材は円筒形状のものを一例としたが、断面が円以外の曲線形状や、多角形状のものであってもよい。
【0083】
(具体例2)
袋の他の例として、当該袋の外表面に窪みが形成されている袋が挙げられる。当該窪みは、当該袋の外表面に設けられている開口部、当該袋の内部に向かって伸びている中空部、および当該開口部の反対側で当該中空部を閉じている底部を有している。つまり、当該窪みは、生体試料収容容器を収容し得る形状である。柔軟な材料によって作製されている袋に窪みを設けることは、極めて容易である。したがって、具体例1の袋及び具体例2の袋は、窪みの有無を除いて、同じ利点を有している。
【0084】
具体例2の袋は、窪みに生体試料収容容器を収容するので、折りたたむ必要がない。単に、凹部の入れ口を塞ぐこと、または凹部の外側から生体試料収容容器を固定することによって、具体例2の袋における凹部から、生体試料収容容器が脱落することを防止し得る。つまり、具体例2の袋は、ガイド部材に収容されていなくても、具体例1の袋と同じ利点を実現できるので、取り扱い易さにおいて具体例1の袋より優れている。ガイド部材に具体例2の袋を収容することは、具体例2の袋の利点をさらに増す。
【0085】
本発明の一態様に係る加温容器のさらに他の例について、
図3~7を参照して説明する。
図3~7は、本発明のさらに他の態様に係る加温容器を示す模式図である。
【0086】
<変形例1>
図3の1030は、加温容器20に生体試料収容容器21を収容する前の状態を示しており、
図3の1031は、加温容器20に生体試料収容容器21を収容した後の状態を示している。
図3の1030に示すように、熱媒体収容容器23には熱媒体25が収容されており、生体試料収容容器21には生体試料24が収容されている。生体試料収容容器21の開口部上には、生体試料収容容器21の熱媒体収容容器23内での位置を固定する固定部22が設けられている。
【0087】
固定部22は、生体試料収容容器21の外縁よりも外側に突出した部分を有している。したがって、生体試料収容容器21を熱媒体収容容器23に収容した場合に、この突出した部分が加温容器20の開口部26に当接し、生体試料収容容器21がその位置よりも内側に侵入することを防ぐことで、生体試料収容容器21の熱媒体収容容器23内での位置を固定する。固定部22の生体試料収容容器21の外縁よりも外側に突出した部分は、羽根状の構造物であってもよい。また、固定部22は、生体試料収容容器21を封止する蓋の上に設けられていてもよいし、固定部22自身が生体試料収容容器21の蓋としても機能するものであってもよい。
【0088】
固定部22により生体試料収容容器21の熱媒体収容容器23内での位置を固定することによって、加温容器20を振とう等の運動工程に処した場合に熱媒体収容容器23内で生体試料収容容器21が移動することを抑制することができる。これにより、生体試料収容容器21と熱媒体収容容器23との機械的衝突を避けることができる。また、生体試料収容容器21が自身の浮力で浮き上がることにより熱媒体25との熱接触が妨げられるというような問題は生じない。
【0089】
本例においては、
図3の1031に示すように、固定部22が加温容器20の開口部26を塞ぐ蓋としても機能している。固定部22が加温容器20の蓋として機能するために、固定部22の外径は、開口部26の外径よりも大きくなっている。なお、別途加温容器20の蓋を備えていてもよい。また、生体試料収容容器21の外径が小さく、生体試料収容容器21の表面から内部への熱伝導特性が良好である場合等、加温時の振とう等の運動工程が不要又は熱媒体25の液面を大きく変動させない程度の振とう等の運動工程でよければ、別途加温容器20の蓋を備えていなくてもよい。
【0090】
<変形例2>
図4の1040は、加温容器30に生体試料収容容器31を格納する前の状態を示しており、
図4の1041は、加温容器30に生体試料収容容器31を格納した後の状態を示している。
図4の1040に示すように、熱媒体収容容器33には熱媒体35が収容されており、生体試料収容容器31には生体試料34が収容されている。加温容器30は、ドーナツ状の固定部36を備えた点において加温容器20と異なっている。
【0091】
生体試料収容容器31は蓋32により封止されており、蓋32は生体試料収容容器31の外縁よりも少なくとも一部が外側に突出している。そして、固定部36の中央の穴に生体試料収容容器31を挿入すると蓋32の突出した部分が固定部36に当接し、生体試料収容容器31がその位置よりも内側に入らないようになっている。固定部36に挿入された状態の生体試料収容容器31を熱媒体収容容器33に格納すると、固定部36が加温容器30の開口部38に当接することで、生体試料収容容器31の熱媒体収容容器33内での位置を固定される。固定部36の外径は、開口部38の外径よりも大きくなっており、固定部36が加温容器30の蓋部として機能しているが、別途蓋を備えていてもよい。
【0092】
固定部36により生体試料収容容器31の熱媒体収容容器33内での位置を固定することによって、加温容器30を振とう等の運動工程に処した場合に熱媒体収容容器33内での生体試料収容容器31の移動が抑制され、生体試料収容容器31と熱媒体収容容器33との機械的衝突を避けることができる。また、生体試料収容容器31が自身の浮力で浮き上がることにより熱媒体35との熱接触が妨げられるというような問題は生じない。
【0093】
本変形例は、例えば、テンプレート、プライマー、タンパク質抽出物等のような微量な生体試料を収容するマイクロチューブ等の外径の小さい容器を生体試料収納容器として用いる場合に有利である。なお、
図4の1041に示すように、固定部36の下端には、円管状の突起部37が設けられていてもよく、これにより固定部36が加温容器30から滑り落ちるのを防ぐことができる。
【0094】
<変形例3>
図5の1050は、加温容器40に生体試料収容容器41を格納する前の状態を示しており、
図5の1051は、加温容器40に生体試料収容容器41を格納した後の状態を示している。
図5の1050に示すように、熱媒体収容容器43には熱媒体45が収容されており、生体試料収容容器41には生体試料44が収容されて蓋42におり封止されている。加温容器40は、熱媒体収容容器43内に当接部材48を備えた点において加温容器20と異なっている。
【0095】
当接部材48は、熱媒体収容容器43において開口部49側に設けられており、生体試料収容容器41の外側面が当接部材48に当接することで、生体試料収容容器41がその位置よりも内側に入らないようになっている。当接部材48と生体試料収容容器41の外側面との接触は、点接触であっても、線接触であっても、面接触であってもよいが、生体試料収容容器41と熱媒体45との接触表面積がより大きくなるようにすることが好ましい。
【0096】
図5の1051に示すように、生体試料収容容器41が当接部材48に当接するように熱媒体収容容器43に格納され、蓋46により加温容器40を閉鎖している。蓋46は、加温容器40を閉鎖したときに生体試料収容容器41に当接する当接部材47を有している。蓋46により加温容器40を閉鎖した場合に、当接部材47が生体試料収容容器41に当接することによって、生体試料収容容器41を蓋46が上から押さえつけるようになるので、より安定的に生体試料収容容器41を熱媒体収容容器43内に固定することができる。これにより、生体試料収容容器41と熱媒体収容容器43との機械的衝突を避けることができる。また、生体試料収容容器41が自身の浮力で浮き上がることにより熱媒体45との熱接触が妨げられるというような問題は生じない。
【0097】
<変形例4>
図6の1060は、加温容器50に生体試料収容容器51を格納する前の状態を示しており、
図6の1061は、加温容器50に生体試料収容容器51を格納した後の状態を示している。
図6の1060に示すように、熱媒体収容容器53には熱媒体55が収容されており、生体試料収容容器51には生体試料54が収容されている。加温容器50は、カバー52を備えた点において加温容器20と異なっている。
【0098】
生体試料収容容器51は蓋56により封止されており、蓋56の径は生体試料収容容器51の開口部の径よりも大きく、蓋56の外縁が生体試料収容容器51の外縁よりも外側に突出している。そして、蓋56の生体試料収容容器51に接する側の外縁近傍には、生体試料収容容器51を封止した状態で生体試料収容容器51の周囲を覆うスカート状のカバー52が設けられている。カバー52は、その開口している端部側の内表面に嵌合部57を有している。また、熱媒体収容容器53の開口部59近傍の外表面には、嵌合部58が設けられている。嵌合部57及び嵌合部58は、例えば互いに嵌合可能なネジ面により構成してもよい。
【0099】
カバー52の内径は、嵌合部57及び嵌合部58の分だけ、開口部59の外径よりも大きくなっている。したがって、
図6の1061に示すように、熱媒体収容容器53の開口部59から生体試料収容容器51を格納した場合、カバー52の一部が熱媒体収容容器53に被さり、嵌合部57が嵌合部58に嵌め込まれ、生体試料収容容器51の熱媒体収容容器53内での位置が固定される。これにより、生体試料収容容器51と熱媒体収容容器53との機械的衝突を避けることができる。また、生体試料収容容器51が自身の浮力で浮き上がることにより熱媒体55との熱接触が妨げられるというような問題は生じない。
【0100】
<変形例5>
図7の1070は、加温容器60に生体試料収容容器61を格納する前の状態を示しており、
図7の1071は、加温容器60に生体試料収容容器61を格納した後の状態を示している。
図7の1070に示すように、熱媒体収容容器63には熱媒体65が収容されており、生体試料収容容器61には生体試料64が収容されている。加温容器60は、位置規定部68を備えた点において加温容器20と異なっている。
【0101】
加温容器60は、開口部69を覆うように設けられた位置規定部68を備えている。位置規定部68は、内側に生体試料収容容器61を収容するようになっており、その入り口部分が熱媒体収容容器63の開口部69に引っかかるように設けられている。位置規定部68は、生体試料収容容器61を収容した場合に、位置規定部68を介して生体試料64と熱媒体65とが熱交換可能なように設けられている。位置規定部68内は、熱媒体65が浸入しないため、生体試料収容容器61と熱媒体65とが直接接触しないようになっている。
【0102】
位置規定部68の内表面は生体試料収容容器61の外表面に沿った形状であり、生体試料収容容器61を収容した場合に位置規定部68の内表面と生体試料収容容器61の外表面とが物理的に接触するようになっている。また、位置規定部68は、剛性を有する構造体であり、例えば、金属製の容器、プラスチック製の容器等であり得る。
【0103】
なお、位置規定部68が剛性を有する構造体であることにより、破損のリスクが低く、また洗浄が容易であるが、
図2に示す樹脂膜11で形成された位置規定部と比較して生体試料収容容器61との密着性が低く、熱伝導特性が低下する可能性がある。このような熱伝導特性の低下を防ぐために、位置規定部68をアルミニウムのような熱伝導性の高い材料により形成することや、位置規定部68の内表面全面に熱伝導性及び可塑性の高い材料により構成された部材を新たに設けることが考えられる。熱伝導性及び可塑性の高い材料として、セラックα(登録商標)といった液体セラミック塗料が例示できる。また、市販されている「まず貼る一番(登録商標)」を用いればより簡便である。
【0104】
加温容器60は、さらに蓋66を備えており、生体試料収容容器61が格納された位置規定部68の開口部分を塞ぐことにより、加温容器60を封止するようになっている。蓋66は、加温容器60を封止したときに位置規定部68の開口部分に嵌め込まれ、生体試料収容容器61に当接する当接部材67を有している。蓋66により加温容器60を封止した場合に、当接部材67が生体試料収容容器61に当接することによって、生体試料収容容器61を蓋66が上から押さえつけるようになるので、加温容器60の振とう等の運動工程に処した時に生体試料収容容器61が飛び出すことを防止すると共に、生体試料収容容器61と位置規定部68とをより強固に当接させることができる。
【0105】
これにより、生体試料収容容器61と熱媒体収容容器63との機械的衝突を避けることができると共に、生体試料収容容器61が自身の浮力で浮き上がることにより熱媒体65との熱接触が妨げられるというような問題は生じない。また、熱媒体65と生体試料収容容器61とが直接接触しないため、熱媒体65が生体試料収容容器61内に流入して生体試料64が汚染されるリスクを低減することができる。
【0106】
〔加温用キット〕
本発明の一態様に係る生体試料を加温するためのキットは、熱媒体及び生体試料収容容器を収容するための熱媒体収容容器を備えている。前記熱媒体収容容器は、前記生体試料収容容器の位置を規定するための位置規定部を有しており、前記生体試料収容容器は生体試料を収容するためのものである。
本発明の好ましい一態様に係る生体試料を加温するためのキットは、熱媒体を収容するための加温容器と、生体試料を収容するためのものであり、前記加温容器に収容可能な生体試料収容容器と、を備えている。生体試料を加温するためのキットは、さらに、生体試料を洗浄するための洗浄液を備えていてもよく、また、生体試料を加温するためのキットは、洗浄した生体試料を保管する保管液を備えていてもよい。
【0107】
本発明の一態様に係るキットについて、
図8を参照して説明する。
図8は、本発明の一態様に係る生体試料を加温するためのキット(加温用キット)を示す模式図である。加温用キット70は、再生医療製品を病室や手術室のようなクリーンな環境に持ち込むためパッケージキットの一例である。加温用キット70は、
図8に示すように、生体試料収容容器72が封入された生体試料収容容器パッケージ71と、加温容器74が封入された加温容器パッケージ73と、洗浄容器76が封入された洗浄容器パッケージ75と、保存容器78が封入された保存容器パッケージ77とを1セットとして備えている。
【0108】
生体試料収容容器72には、生体試料が予め収容されており、生体試料収容容器72は、密封された容器内に滅菌されて収容されていてもよい。生体試料収容容器72として、上述した本発明の一態様に係る加温方法において使用する生体試料収容容器を用いることができる。加温容器74内には、熱媒体が収容されている。加温容器として、上述した本発明の一態様に係る加温容器を用いることができる。洗浄容器76内には、加温した生体試料を洗浄する洗浄液が収容されている。洗浄液の例として、乳酸リンゲル液やPBS等の等張液が挙げられる。保存容器78内には、洗浄した生体試料を保存する保存液が収容されている。保存液の例としては、乳酸リンゲル液やPBS等挙げられる。洗浄容器及び保存容器として、例えば、市販の遠沈管に蓋を取り付けたものを用いてもよい。
【0109】
各パッケージのうち、生体試料が予め収容されている生体試料収容容器72はγ線滅菌できないが、加温容器74が封入された加温容器パッケージ73と、洗浄容器76が封入された洗浄容器パッケージ75と、保存容器78が封入された保存容器パッケージ77とは予め包装されてγ線滅菌等により滅菌されていることが好ましい。生体試料が組織や細胞塊等である場合、加温用キット70は、生体試料を生体試料収容容器72から取り出すピンセットのような把持手段を備えていてもよく、これらも包装されてγ線滅菌されていることが好ましい。さらに、キット70において、生体試料収容容器72には低温保存された生体試料が予め収容されており、生体試料の低温状態を維持するための保冷手段をさらに備えていてもよい。保冷手段としては、保冷機構又は保冷剤を用いてもよく、生体試料を収容した生体試料収容容器72を保冷剤中に保存していてもよい。
【0110】
生体試料が間葉系幹細胞(MSC)である場合を例として、加温用キット70の使用方法について説明する。加温用キット70を手術室のような使用環境に持ち込んだ後、生体試料収容容器パッケージ71を開封して取り出した生体試料収容容器72を、加温容器パッケージ73を開封して取り出した加温容器74内に収容する。次に、生体試料収容容器72を収容した加温容器74を運動させることで速やかに加温し、MSCを十分に融解させる。洗浄容器パッケージ75を開封して取り出した洗浄容器76に、加温後のMSCを移して洗浄する。そして、保存容器パッケージ77を開封して取り出した保存容器78に、洗浄したMSCを移して移植直前まで保管する。
【0111】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【実施例】
【0112】
本発明の実施例について以下に説明する。
【0113】
〔1-1:加温条件評価〕
本発明の一態様に係る加温方法における加温条件を模擬的な環境において評価した。説明の便宜上、本発明の加温方法を「Tube in Tube法」と称する。模擬的な環境として、細胞ではなく、1mLの凍結保存用溶液を凍結した凍結試料を生体試料として用いて、加温条件を評価した。凍結保存用溶液の組成は、90%(v/v)STK(登録商標)2(サイトカインフリー)+10%(v/v)DMSO(Wako 031-24051)である。加温容器として、位置規定部を有さない遠沈管を用いた。1mLの凍結保存用溶液を生体試料収容容器としての凍結ベッセル(クライオジェニックバイアル:WHEATON,Cat.W985865)中に収容し、-80℃のディープフリーザー下で凍結した。凍結ベッセルを、表1に示す温度及び量の熱媒体が収容された遠沈管(50mL 遠沈管:住友ベークライト株式会社Cat.MS-56501)に格納し、それぞれ表1に示す方法で熱媒体を循環させ、凍結ベッセル内の生体試料を加温して解凍した。
【0114】
また、比較のため、37℃のウォーターバスを用いたウォーターバス法による解凍を行った。なお、37℃のウォーターバスを用いた解凍は、本発明者らの検討において従来の解凍方法のうちで最も好適な結果を示したものである。
【0115】
凍結試料の解凍条件、及び各解凍条件で解凍した結果(解凍時間)を表1に示す。
【0116】
【表1】
まず、条件0と条件1及び条件2とを比較すると、37℃のウォーターバス法と比較して、37℃のTube in Tube法では、熱媒体を振とうさせずに静置した場合には、1.6倍の解凍時間を要した。一方で、条件2において、熱媒体を循環させるために振とうした場合には、ウォーターバス法と同等の解凍時間で解凍することができた。これらの結果から、加温容器を振とうして熱媒体を循環させることで、本発明の一態様に係る加温容器のように簡易な構成であっても、従来のウォーターバスを用いた場合と同等に解凍できることが示された。
【0117】
次に、熱媒体の温度を室温程度(24℃)とし、熱媒体を振とうさせる条件3については、条件0及び条件2の1.5倍の解凍時間を要している。この理由として、上記実施形態の欄のオーダーエスティメーションと同様に外部との熱交換が無いとした場合の熱媒体の温度変化について理論計算をしたところ、融解の過程で熱媒体の温度が理論上は13℃も低下することがわかった。すなわち、熱媒体の温度が24℃の場合には、熱媒体の熱容量を充分に取る必要があると考えられる。
【0118】
このことから、熱媒体の温度変化を抑えるため、熱媒体の液量の増加について検討した。液量の増加により単に熱容量が大きくなるだけではなく、循環する熱媒体により凍結試料との十分な熱的接触が可能となる。さらに、熱媒体と凍結試料との間の強制熱対流をより強くするために、熱媒体に運動を与えるための循環方法を単なる「振とう」から、より強い「転倒混和」に切り替えた条件4を行った。
【0119】
ここで、加温容器の転倒混和について、
図9を参照して説明する。
図9は、転倒混和の方法の一例を示すためのものであり、凍結ベッセルが挿入されていない遠沈管を転倒混和する様子を示している。また、
図9は例示の動作であるため、操作者は手袋等の必要な措置を取っていないが、臨床現場等においては必要な防護・汚染防止措置を取ることが好ましい。
【0120】
図9の1090および1091に示すように、遠沈管82を人の手81により把持して手首をひねる動作により、転倒混和する。
図9の1090に、遠沈管82の下端が反時計廻りの方向に振り切った状態を示し、
図9の1091に、遠沈管82の下端が時計廻りの方向に振り切った状態を示す。本例の場合、
図9の1090の状態から
図9の1091の状態に反時計回りに遷移し、
図9の1091の状態から
図9の1090の状態に時計回りに再び遷移するサイクルを、連続的かつ周期的に1分間に60回程度の速度で(60rpm)行った。
【0121】
なお、
図9の1090及び1091において、遠沈管82の中心軸を示す一点鎖線83と鉛直方向を示す破線84とは、説明の便宜上記載したアノテーションであり、実際の構成要素ではない。破線84と一点鎖線83とのなす角度(反時計回りの方向を角度寸法の正方向とする)は、
図9の1090において概ね-30°であり、
図9の1091において概ね120°である。
【0122】
すなわち、遠沈管は中心軸に着目すれば、概ね-30°から概ね120°の間で遠沈管を揺らし、振り角としては概ね150°である。このように、振り角が大きくなる転倒混和を行った条件4では、条件1の37℃ウォーターバス法とほぼ同等(1.1倍)の速度で解凍することができた。
【0123】
これらの結果から、Tube in Tube法によれば、熱媒体の液量が十分であり、かつ、十分に強制熱対流を生じさせ得る転倒混和を行うことによって、熱媒体の温度がたとえ室温であっても、37℃のウォーターバスを用いた従来法とほぼ同等の解凍速度を実現し得ることが分かった。
【0124】
〔1-2:位置規定部を有する加温容器を用いた加温〕
位置規定部を有する加温容器を用いて、本発明の一態様に係る加温方法を模擬的な環境において評価した。まず、位置規定部を有する加温容器を以下に示すように準備した。
図10に熱媒体収容容器及び生体試料収容容器の一例を示す。
図10に示すように、熱媒体収容容器となるチューブ91と、位置規定部を構成するための樹脂膜93と、蓋94と、生体試料収容容器として凍結ベッセル92を用いた。なお、チューブ91として、50mLの遠沈管を用いた。
【0125】
樹脂膜93は袋状であり、その袋の中に凍結ベッセル92を格納して、凍結ベッセル92にフィットするような寸法とした。具体的な樹脂膜93の寸法を
図11に基づいて説明する。スケール102(1マス0.5cm)との比較から分かるように、樹脂膜93は、長さ約4.5cm、幅約1.5cmとした。ここで、樹脂膜93は、ラベンドニトリル(登録商標)という実験用のゴム手袋の指部の一部を切断することで作製した。
【0126】
次に、
図12~14に示すように加温容器111を準備した。
図12は、加温容器111を人の手112により把持した状態を示している。チューブ91は、その中心軸を示す一点鎖線115において対称な形状であるが、軸対称でない形状のチューブを使用してもよい。なお、一点鎖線115は説明の便宜上記載したアノテーションである。チューブ91は、開口部116及び底部113を有している。なお目盛りが記載されたチューブを用いたが、目盛りが記載されていないチューブであってもよい。
【0127】
図12の枠114部分の拡大図を
図13に示す。チューブ91には、約40mLの熱媒体が収容されており、その液面を破線123で示した。樹脂膜93は、袋状の入り口を広げてチューブ91の開口部116に引っ掛けるように取り付け、枠122部分にパラフィルムを巻き付けて樹脂膜93を固定した。開口部116に取り付けた樹脂膜93の位置を一点鎖線121で示している。一点鎖線121及び破線123は説明の便宜上記載したアノテーションである。樹脂膜93が取り付けられた開口部116を上から見ると、
図14に示すように、ポケット131が形成されており、このポケット131に凍結ベッセル92を挿入するようになっている。樹脂膜93は、ポケット部を形成するように固定されている。
【0128】
このようにして作製した加温容器111を用いて、生体試料の加温条件を検討した。ここで、加温容器111を用いた本発明の加温方法を、非接触Tube in Tube法と称する。まず、表1の条件4と同様の条件で、加温容器111を用いて非接触Tube
in Tube法により生体試料を加温して解凍したところ、解凍時間にバラつきが生じた(170秒~220秒)。この解凍時間は、表1の条件4の解凍時間の1.1倍~1.4倍に相当し、解凍時間が長くなった。また、全体で1分間程度のバラつきがあること自体も問題であった。このように、解凍特性の再現性に課題があることが分かった。そこで、さらに検討を重ねた結果、樹脂膜93と凍結ベッセル92との間に空気層がある場合や、樹脂膜93にたるみがある場合に解凍時間が長くなることが分かった。
【0129】
この結果を踏まえて鋭意検討した結果、
図15に示すように、樹脂膜93の張り方を、凍結ベッセル92を樹脂膜93のポケットの中に約1cm押し込むように調整することで凍結ベッセル92と樹脂膜93との密着性が増し、熱媒体と凍結試料との熱交換特性が向上するため、解凍時間を短くできることが分かった。
図15の1150は、凍結ベッセル92を樹脂膜93中に押し込む前の状態を示しており、
図15の1151は、凍結ベッセル92を樹脂膜93中に押し込んだ状態を示している。なお、凍結ベッセル92は、人の手112により樹脂膜93に押し込んだ。
【0130】
凍結ベッセル92を押し込む前の樹脂膜93の下端は、破線602に示す位置にあったが、凍結ベッセル92を人の手112により押し込んだとき、樹脂膜93の下端は、破線603の位置になり、約1cm凍結ベッセル92が押し込まれた状態にした。このように凍結ベッセル92を押し込むことで、樹脂膜93の弾性抵抗に逆らい、凍結ベッセル92と樹脂膜93との密着性が向上した。この状態で転倒混和により生体試料を解凍したところ、熱媒体の温度が22℃であっても、37℃ウォーターバスと同等の解凍時間で解凍できた。
【0131】
なお、
図15の1151では、凍結ベッセル92の押し込み量を分かりやすく示すために、凍結ベッセル92を人の手112により押し込んだ形態を例として示しているが、実際には蓋94により凍結ベッセル92を抑え込むことで、凍結ベッセル92を樹脂膜93に押し込んだ。
図15は、例示のための動作を示すものであるため、操作者が手袋等の必要な防護措置を取っていないが、臨床現場等においては必要な防護及び汚染防止措置を取ることが好ましい。
【0132】
〔2-1:滑膜組織からの間葉系幹細胞(MSC)の樹立〕
前十字靭帯再建術などで余剰となった滑膜組織が、適切な倫理審査を経て患者同意の下に、医療機関から提供された。提供された滑膜組織の湿重量を測定し、ゲンタマイシン(日医工)含有DMEM(SIGMA) 10mLが入った遠沈管に移し、洗浄した。さらに、新たなゲンタマイシン含有DMEM 10mLが入った遠沈管に移しもう一度、洗浄した後、容器上に取り出した。洗浄後の滑膜組織は滅菌済ハサミを使用して5mm以下の組織片となるよう、容器上で細切し、さらゲンタマイシン含有DMEMで懸濁し、続いて滑膜組織片を50mL遠沈管中に回収した。その後、室温、1500rpm、5分間、遠心分離を行い、上清を除去した。
【0133】
STK(登録商標)1(初代MSC樹立用無血清培地、株式会社DSファーマバイオメディカル)を添加し2.5mg(滑膜組織片)/cm2(培養皿表面積)の播種密度になるように150cm2 dish(住友ベークライト株式会社)上に播種し、CO2濃度 5%、37℃で14日間培養を行った(5日目、8日目、11日目に培地交換を実施した)。
【0134】
〔2-2:滑膜MSCの継代培養〕
増殖したMSCをPBS(Phosphate buffered saline、カルシウム及びマグネシウムフリー、PBS(-)、株式会社細胞科学研究所)で1回洗浄した後、細胞剥離剤TrypLE Select CTS(Thermo Fisher
Scientific Inc.)で剥離、回収して洗浄培地(DMEM, Sigma)にて懸濁した後、遠心分離用のチューブに移し、室温で5分間、1500rpmにて遠心し、ペレットダウンした後に上清を除去した。
【0135】
シングルセルサスペンジョン(細胞懸濁液)からペレットダウンされた細胞を再び洗浄培地にて懸濁し、トリパンブルー染色により細胞数をカウントした。次に、STK(登録商標)2にて5000cell/cm2となるように150cm2 dish(住友ベークライト株式会社)に播種し、CO2濃度 5%、37℃で5日間培養し(3日目に培地交換を実施する)、同様の操作を3継代目まで繰り返した。
【0136】
〔2-3:中間生成物の保存〕
増殖したMSC(3継代目:P3)をPBS(-)で1回洗浄した後、細胞剥離剤TrypLE Select CTSで細胞をディッシュから剥離、回収してDMEMにて懸濁した後、遠心分離用のチューブに移し、室温で5分間1500rpmにて遠心分離し、ペレットダウンした。ペレットダウンされたシングルセル状態の細胞を再び洗浄培地にて懸濁し、トリパンブルー染色により細胞数をカウントした。
【0137】
前記の細胞懸濁液を再び室温で5分間1500rpmにて遠心分離してペレットダウンし、上清を除去した後、CELLBANKER2(日本全薬工業株式会社)中に懸濁し、ディープフリーザー(-150℃環境下)で凍結保存した。再度MSCを使用する際には37℃のウォーターバスを用いて2.5分間解凍し、DMEMにより洗浄し(10mLのDMEM入りの15mLチューブに解凍したMSCを移し、遠心分離によってMSCをペレットダウンし、上清を除去し)、STK(登録商標)2にて5000cell/cm2となるように150cm2 dishに播種し、CO2濃度5%、37℃で5日間培養をした。
【0138】
〔2-4:gMSC(登録商標)1の作製〕
MSC(5継代目:P5)をPBS(-)で1回洗浄した後、細胞剥離剤TrypLE Select CTSで剥離、回収してDMEMにて懸濁した後、遠心分離用のチューブに移す。室温で5分間、1500rpmで遠心分離し、ペレットダウンし上清を除去した細胞をDMEMにて懸濁する。再び室温で5分間、1500rpmで遠心分離し、ペレットダウンし、上清を除去した細胞をDMEMにて懸濁した後、セルストレイナーを通し細胞を均一化する。さらに室温で5分間、1500rpmで遠心分離し、ペレットダウンし、上清を除去した細胞をSTK(登録商標)2により懸濁し、トリパンブルー染色により細胞数をカウントした。
【0139】
STK(登録商標)2にて6well plate(住友ベークライト株式会社)に40×104cells/cm2の播種密度で細胞を高密度播種した。従って、高密度播種時の細胞数は、MSC1個あたり368万cellである。37℃、5%CO2インキュベーターで7日間培養した。培地交換は、3日目、5日目に行った。
【0140】
7日目に培養皿から組織を機械的に剥離し、ピペットマン(登録商標)の先端でつりさげ、たぐまらせることにより、スキャフォールドフリーの3次元構造である、gMSC(
登録商標)1の細胞塊を得た。
【0141】
〔2-5:gMSC(登録商標)1の細胞数測定〕
6well plate gMSC(登録商標)1をPBS(-)で2回洗浄した後、280U/ml コラゲナーゼ/50% TrypLE select溶液 1mL入った15mL遠沈管に移し、37℃で消化を行った。10分毎に10回転倒混和を行い、完全に塊が消えるまで消化し、トリパンブルー染色により総細胞数と生細胞数を測定した。280U/ml コラゲナーゼ/50% TrypLE select溶液の組成は以下の通り:コラゲナーゼ:Worthington biochemical corporation, Cat. LS004154 Lot :44D14883,TrypLE select: Thermo Fisher Scientific Inc., Cat.A12859-01 Lot:1905779,DMEM:Sigma, Cat. D6046, Lot: RNBG0276。
【0142】
〔2-6:gMSC(登録商標)1の凍結〕
6well plate gMSC(登録商標)1をPBS(-)で2回洗浄した後、凍結保存用溶液1mLの入った2mL クライオバイアルに移し、-80℃で自然凍結を行った。凍結保存用溶液の組成は、90%(v/v)STK(登録商標)2(サイトカインフリー)+10%(v/v)DMSO(Wako 031-24051)である。
【0143】
〔2-7:gMSC(登録商標)1の解凍・細胞数測定〕
-80℃で1週間保存した後、フリーザーから凍結バイアルを取り出し、後述する加温実験に供した。加温による解凍後のgMSC(登録商標)1をDMEMにより洗浄し、280U/ml コラゲナーゼ/50% TrypLE select溶液により消化を行い、トリパンブルー染色により総細胞数と生細胞数を測定した。
【0144】
〔2-8:gMSC(登録商標)1の再播種による細胞増殖能の評価〕
上記2-5でシングルセル化されたgMSC(登録商標)1をDMEMで2回洗浄後、6well plateに5,000cells/cm2で再播種を行い、5日目の総細胞数及び生細胞数を測定した。
【0145】
〔3-1:Tube in Tube法と従来法との比較〕
Tube in Tube法(非接触ではない)の効果を評価するために、同一方法で作製・凍結保存したgMSC(登録商標)1において、加温方法による細胞性能を比較した。本実施例においては加温方法として、「Tube in Tube法(以下の「解凍法B」参照)、37℃ウォーターバス法(以下の「解凍法A」参照)、及び37℃ヒートブロック法(以下の「解凍法C」参照)による解凍を行った。なお、37℃ヒートブロック法とは、ストレックス社製のヒートブロック装置(型番SY-1)を用い、37℃に設定して解凍する方法である。なお、gMSC(登録商標)1は3次元細胞塊であるため、細胞数を測定するためには上記2-5に記載のように細胞塊をシングルセルサスペンジョンにまで消化・分解する必要がある。このため、「凍結前の状態の細胞」を意味する対照群として、凍結操作を行わずに直ちに上記2-5に従って細胞数をカウントした群(以下の「非凍結群」参照)を別途用意した。実験の詳細を以下に示す。
【0146】
(gMSC(登録商標)1の作製及び群分け)
上記2-1に基づいて樹立した3株(株が異なればドナーが異なる)のMSC(株1、株2、株3)を、上記2-2~2-4の方法に従ってgMSC(登録商標)1に加工した。各株由来のgMSC(登録商標)1を、それぞれ、非凍結群、解凍法A群、解凍法B群、解凍法C群の4群(したがって3株×4群の合計12群が存在する)に群わけした。それぞれの株において、サンプルサイズは、非凍結群(N=3)、解凍法A群(N=3)、解凍法B群(N=3)、解凍法C群(N=3)であった。
【0147】
非凍結群のgMSC(登録商標)1は、それぞれ、上記2-5に従ってシングルセルサスペンジョンになるまで消化・分解し、上記2-5の条件で細胞数を測定した。
【0148】
(gMSC(登録商標)1の凍結・解凍)
解凍法A~C群のgMSC(登録商標)1は、いずれも上記2-6に従って凍結保存した後、各群について以下の加温方法によって解凍した:
・解凍法A群:37℃のウォーターバスを用いて2.5分間解凍
・解凍法B群:Tube in Tube法により、22℃(室温)、約60rpmで3分間転倒混和を行い解凍
・解凍法C群:37℃に設定したヒートブロックで4.5分間解凍。
【0149】
その後、これらのgMSC(登録商標)1を、いずれも上記2-5に従ってシングルセルサスペンジョンにまで消化・分解し、上記2-5の方法で細胞数を測定した。
【0150】
(解凍後の細胞数の比較)
株1における解凍結果を
図16に示し、株2における解凍結果を
図17に示し、株3における解凍結果を
図18に示した。
図16~18に示す棒グラフの項目軸は、左から「非凍結群」、「解凍法A群」、「解凍法B群」、「解凍法C群」に対応している。また、それぞれの項目において、左側の白いバーは「gMSC(登録商標)1の一個(1drop)当たりの総細胞数」を示し、右側の黒いバーは「gMSC(登録商標)1の一個当たりの生細胞数」を示している。また、それぞれのバーにおけるエラーバーは、標準偏差を表している。
【0151】
ここで、総細胞数とは、上記2-5の方法により回収できた細胞(生死は問わない)の総数を意味している。生細胞数とは、上記2-5の方法により回収できた細胞のうち、生存していた細胞数を意味している。これらの定義においては、「回収できた細胞」とは、通常のセルカウンターといった細胞計測法において細胞と認識されうる細胞のことで、凍結、解凍、回収等といった過程において破損した残渣等は含まれない。
【0152】
図16~18のグラフのプロットエリア中に二本の横線が記載されている。これらの横線のうち、実線はそれぞれのグラフにおける解凍法B群の総細胞数(平均値)を示しており、一点鎖線はそれぞれのグラフにおける解凍法B群の生細胞数(平均値)を示している。これらの横線と、他の群に対応したバーの上端の位置関係とを比較することで、それぞれの群の総細胞数/生細胞数と、解凍法B群の総細胞数/生細胞数とを、より視覚的に比較することができる。
【0153】
また、
図16~18の棒グラフのバーの上には、“♭♭”や“♭”のような記号が記載されている。これらはそれぞれ、“♭♭”はP<0.01(対解凍法B群)、“♭”はP<0.05(対解凍法B群)を意味している。ここで、検定方法としては独立2群のt検定を意味していて、「P」はP値を意味している。例えば、解凍法Cの総細胞数に対応するバーの上に“♭”が記載されている場合には、「解凍法Cの総細胞数は解凍法Bの総細胞数よりも多い(P<0.05)」ことを意味している。また、解凍法Cの生細胞数に対応するバーの上に“♭”が記載されている場合には、「解凍法Cの生細胞数は解凍法B群の生細胞数よりも多い(P<0.05)」ことを意味している。すなわち、総細胞の比較対象は総細胞であり、生細胞の比較対象は生細胞である。
【0154】
図16~18に示す結果から、37℃ウォーターバス法(解凍法A群)と、Tube in Tube法(解凍法B群)を比較した場合、解凍後の総細胞数及び生細胞数のいずれも同等であることが分かった。また、37℃ウォーターバス法(解凍法A群)と、Tube in Tube法(解凍法B群)との解凍後の総細胞数及び生細胞数はいずれも、非凍結群の総細胞数及び生細胞数と同等であることが分かった。
【0155】
さらに、Tube in Tube法(解凍法B群)及び37℃ウォーターバス法(解凍法A群)は、37℃ヒートブロック法(解凍法C群)と比較して、解凍後の総細胞数及び生細胞数が多い傾向にあることが分かった。以上の結果から、37℃ヒートブロック法(解凍法C群)は、37℃ウォーターバス法(解凍法A群)及びTube in Tube法(解凍法B群)と比較して、細胞に対するダメージが大きい傾向があることが分かった。
【0156】
(解凍後の細胞の増殖能(立ち上がり)の比較)
一般に、凍結・解凍直後の細胞は一時的に増殖能が低下することが知られている。そこで、上記の凍結・解凍を経たgMSC(登録商標)1から回収した細胞において、解凍直後の1継代の増殖能(立ち上がり)を比較した。具体的には、上記の凍結・解凍及び2-5に従ってシングルセルサスペンジョンにまで消化・分解した上記解凍法A~C群のそれぞれの細胞を、6wellプレート上に再播種し、一定期間単層培養した後の総細胞数及び生細胞数を比較した。
【0157】
各ウェルに再播種した細胞数は、それぞれ5万個である。各ウェルに再播種した細胞は、いずれも一つのgMSC(登録商標)1から回収した細胞であり、したがって同一株に由来し同一の加温方法で解凍した細胞である。単層培養の条件は上記2-2と概ね同様であり、培養期間は何れも5日間に固定した。サンプルサイズは、解凍法A群(N=3)、解凍法B群(N=3)、解凍法C群(N=3)であった。
【0158】
株1の細胞の増殖能を
図19に示し、株2の細胞の増殖能を
図20に示し、株3の細胞の増殖能を
図21に示した。
図19~21に示す棒グラフの凡例は、
図16~18と同様である。これらの結果から、Tube in Tube法(解凍法B群)で回収した細胞を再播種して1継代培養し、細胞を回収した場合、総細胞数及び生細胞数のいずれも、解凍法A群及び解凍法C群で回収した細胞を用いた場合よりも多いことが分かった。したがって、Tube in Tube法(解凍法B群)を用いて解凍した細胞は、他の2つの方法を用いて解凍した細胞と比較して、解凍後再播種した直後の増殖能、すなわち解凍直後の立ち上がりが少なくとも同等、あるいはそれ以上であることがわかった。
【0159】
〔3-2:非接触Tube in Tube法と従来法との比較〕
非接触Tube in Tube法の効果を評価するために、同一方法で作製・凍結保存したgMSC(登録商標)1に対する加温方法による細胞性能を比較した。本実施例においては、加温方法として、「非接触Tube in Tube法(以下の「解凍法D」参照)、37℃ウォーターバス法(以下の「解凍法A」参照)よる解凍をおこなった。
【0160】
なお、gMSC(登録商標)1は3次元細胞塊であるため、細胞数を測定するためには上記2-5に記載のように細胞塊をシングルセルサスペンジョンにまで消化・分解する必要がある。このため、「凍結前の状態の細胞数」を意味する対照群として、凍結操作を行わずに直ちに上記2-5に従って細胞数をカウントした群(以下の「非凍結群」参照)を別途用意した。実験の詳細を以下に示す。
【0161】
(gMSC(登録商標)1の作製及び群分け)
上記2-1に基づいて樹立した1株のMSCを、上記3-1と同様に、上記2-2~2-4の方法に従ってgMSC(登録商標)1に加工した。これらのgMSC(登録商標)1を、それぞれ、非凍結群、解凍法A群、解凍法D群の3群に群わけした。サンプルサイズは、非凍結群(N=3)、解凍法A群(N=3)、解凍法D群(N=3)であった。
【0162】
非凍結群のgMSC(登録商標)1は、それぞれ、上記2-5に従ってシングルセルサスペンジョンにまで消化・分解し、上記2-5の条件で細胞数を測定した。
【0163】
(gMSC(登録商標)1の凍結・解凍)
解凍法A又はD群に割り当てたgMSC(登録商標)1は、いずれも上記2-6に従って凍結した後、各群について以下の加温方法によって解凍した:
・解凍法A群:37℃のウォーターバスを用いて2.5分間解凍
・解凍法D群:非接触Tube in Tube法により、22℃(室温)、約60rpmで3分間転倒混和を行い解凍。
【0164】
その後、これらのgMSC(登録商標)1を、いずれも上記2-5に従ってシングルセルサスペンジョンにまで消化・分解し、上記2-5の方法で細胞数を測定した。
【0165】
(解凍後の細胞数の比較)
図22は解凍後の総細胞数及び生細胞数を示している。
図22の凡例は、
図16~21と概ね同様であるが、プロットエリア中の二本の横線のうち、実線は解凍法D群の総細胞数(平均値)を示し、点線は解凍法D群の生細胞数(平均値)を示している。
図22に示した結果から、非接触Tube in Tube法(解凍法D群)で解凍した場合、37℃ウォーターバス法(解凍法A群)と比較して、総細胞数及び生細胞数のいずれも同等、あるいはそれ以上であることが分かった。
【0166】
(解凍後の細胞の増殖能(立ち上がり)の比較)
一般に、凍結・解凍直後の細胞は一時的に増殖能が低下することが知られている。そこで、上記の凍結・解凍を経たgMSC(登録商標)1から回収した細胞を1継代培養した際の増殖能(立ち上がり)を比較した。具体的には、上記の凍結・解凍及び2-5に従ってシングルセルサスペンジョンにまで消化・分解した上記解凍法A群及びD群の細胞それぞれを、6wellプレート上に再播種し、一定期間単層培養した後の総細胞数及び生細胞数を比較した。
【0167】
各ウェルに再播種した細胞数は、それぞれ5万個である。各ウェルに再播種した細胞は、いずれも一つのgMSC(登録商標)1から回収した細胞であり、したがって同一株に由来し同一の加温方法で解凍された細胞である。単層培養の条件は上記2-2と概ね同様であり、培養期間は何れも5日間に固定した。サンプルサイズは、解凍法A群(N=3)、解凍法D群(N=3)であった。
【0168】
図23は解凍後の細胞の増殖能を示している。
図23に示す棒グラフの凡例は、
図22と同様である。これらのデータから、非接触Tube in Tube法(解凍法D群)を用いて解凍した細胞は、37℃ウォーターバス法(解凍法A群)を用いて解凍した細胞と比較して、同等の立ち上がりが得られることが分かった。
【0169】
〔3-3:非接触Tube in Tube法と従来法との比較(2)〕
この項目では、gMSC(登録商標)1の代わりに、均質な細胞集団(ヒト皮膚線維芽細胞及びヒト脂肪由来MSC)を用いて、解凍法Dの有効性をさらに評価した結果を説明する。
【0170】
(ヒト脂肪由来MSCの樹立及び培養)
適切な倫理審査を経て患者同意の下に、関係医療機関から提供された脂肪組織の湿重量を測定し、10μg/mLゲンタマイシン(日医工株式会社)を含有するDMEM(SIGMA、D6046)10mLが入った遠沈管に移し、洗浄した。さらに、新たなゲンタマイシン含有DMEM 10mLが入った遠沈管に移し、もう一度洗浄した後、容器上に取り出した。洗浄後の脂肪組織は滅菌済ハサミを使用して5mm以下の組織片となるよう、細切し、0.4%コラゲナーゼ溶液(Worthington Biochemical Corporation)により37℃で1.5時間、消化を行った後、100μmメッシュ(Greiner Bio-One International GmbH)でろ過し、新たな50mL遠沈管に回収した。遠心分離し、上清を除去し、細胞をSTK(登録商標)1(初代MSC樹立用無血清培地、株式会社DSファーマバイオメディカル)に懸濁した。細胞懸濁液の一部を0.4%トリパンブルー(Thermo Fisher Scientific Inc.)で染色し、生細胞数及び死細胞数をカウントした。5000cells/cm2(培養皿表面積)の播種密度に細胞懸濁液をSTK(登録商標)1で希釈し、150cm2dish(住友ベークライト株式会社)上に播種し、CO2濃度5%、37℃で14日間培養を行った(5日目、8日目、11日目に培地交換を実施した)。項目2-2および2-3の記載と同様の操作にてヒト脂肪由来MSC(A31、P4、以下「ADMSC」と記載する)を培養した。
【0171】
(均質な細胞集団の準備、凍結及び解凍)
前述のADMSCはSTK(登録商標)2培地で、株式会社ロンザジャパンから入手した、ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF、P14、以下「NHDF」と記載する)は10%FBSを含むDMEM培地で、それぞれCO2濃度5%、37℃で培養した。回収(剥離及び洗浄)後の細胞懸濁液を、1mLの細胞保存用溶液を入れた2mLクライオバイアルに移した。ADMSC用の細胞保存用溶液は、CELLBANKER2(日本全薬工業株式会社)であり、NHDF用の細胞保存用溶液は、CellBanker1(日本全薬工業株式会社)である。各細胞懸濁液を-80℃で凍結させ、凍結から1週間後に、解凍法Aによって解凍した細胞集団である解凍法A群(N=3)及び解凍法Dによって解凍した細胞集団である解凍法D群(N=3)を得た。「解凍法A」及び「解凍法D」の詳細は、項目3-1に記載の通りである。
【0172】
解凍法A群及び解凍法D群の各サンプルから等容量の細胞懸濁液を分取し、分取した各細胞懸濁液をトリパンブルーで染色し、染色した各細胞懸濁液に含まれている総細胞数及び生細胞数をカウントした。
【0173】
(解凍後の細胞数の比較)
図24は、解凍後の総細胞数及び生細胞数を、NHDF(上パネル)及びADMSC(下パネル)のそれぞれについて示している。
図24に示す通り、解凍法D群は、解凍法A群と比べて、総細胞数及び生細胞数の低下をほとんど示さなかった。
【0174】
(解凍後の細胞の増殖能(立ち上がり)の比較)
分取した残りの各細胞懸濁液に含まれている細胞の増殖能を評価した。各細胞懸濁液にDMEMを加え、細胞を洗浄した後に、細胞を遠心分離した。遠心分離されたNHDF(解凍法A群及び解凍法D群の両方)は、10%FBSを含むDMEM培地で再懸濁した。遠心分離されたADMSC(解凍法A群及び解凍法D群の両方)は、STK(登録商標)2培地で再懸濁した。解凍法A群及び解凍法D群の再懸濁したNHDF及びADMSCを、5×104細胞/ウェルで6ウェルプレートに播種した。NHDFを播種した6ウェルプレートを、5%CO2、37℃の培養条件に5日間おいた。ADMSCを播種した6ウェルプレートを、5%CO2、37℃の培養条件に7日間おいた。
【0175】
図25は、解凍及び培養後の総細胞数及び生細胞数を、NHDF(上パネル)及びADMSC(下パネル)のそれぞれについて示している。
図25に示す通り、解凍法D群は、細胞の増殖能を損なっておらず、かつ解凍法A群と比べて、やや高い総細胞数及び生細胞数(平均値)を示した。
【0176】
以上の通り、本発明の一実施例に係る解凍法Dは、凍結保存されている均質な細胞集団(例えば樹立細胞株)を、従来法である解凍法Aと同等以上の有効性(生細胞数及び増殖能)をともなって、解凍し得ることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本発明は、安全かつ利用価値の移植治療材料を提供することができるので、移植治療等の再生医療に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0178】
1、10 加温容器
2 熱媒体収容容器
3 開口部(入れ口)
4 熱媒体
5 生体試料収容容器
11 樹脂膜(位置規定部)