(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】免疫賦活剤、その製造方法、および免疫賦活剤を用いたキットおよびワクチン
(51)【国際特許分類】
A61K 39/39 20060101AFI20220427BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20220427BHJP
A61K 31/7028 20060101ALI20220427BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20220427BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220427BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20220427BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220427BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220427BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220427BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220427BHJP
A61K 47/30 20060101ALI20220427BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
A61K39/39
A61K9/10
A61K31/7028
A61K39/00
A61K47/12
A61K47/24
A61K47/36
A61P37/04
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K47/26
A61K47/30
A61K47/22
(21)【出願番号】P 2020539657
(86)(22)【出願日】2019-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2019034372
(87)【国際公開番号】W WO2020045679
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2018163914
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514219190
【氏名又は名称】ゼノジェンファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小玉 博明
(72)【発明者】
【氏名】小柳 正徳
(72)【発明者】
【氏名】小川 淳
(72)【発明者】
【氏名】石井 宏典
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/025926(WO,A1)
【文献】Mol. Pharmaceutics, 2017, Vol.14, No.11, pp.4098-4112
【文献】Veterinary Microbiology, 2017, Vol.209, pp.66-74
【文献】J. Nanobiotechnology, 2013, Vol.11, Article No.29, pp.1-10
【文献】J. Pharmaceutical Sciences, 2012, Vol.101, No.3, pp.1166-1177
【文献】Scientific Reports, 2013, Vol.3, Article No.2559, pp.1-6
【文献】Oncology Reports, 2015, Vol.33, pp.826-832
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/39-39/44
A61K 31/33-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性界面活性剤とキトサンとが複合化されている粒子状キトサンとTLR(toll様受容体)リガンドとを含み、
上記粒子状キトサンに対する上記TLRリガンドの質量の比率(リガンド/粒子状キトサン)は3以下であり、
上記TLRは、TLR3、4および7~9からなる群より選ばれる少なくとも1種であ
り、
上記粒子状キトサンを構成するキトサンは、重量平均分子量が5K以上1000K以下であり、
上記アニオン性界面活性剤が、リン脂質、炭素数10以上22以下の脂肪酸およびその塩から選択される少なくとも1種類である、ヒトを含む脊椎動物に投与される、免疫賦活剤。
【請求項2】
アニオン性界面活性剤とキトサンとが複合化されている粒子状キトサンとTLR(toll様受容体)リガンドとを含み、
上記粒子状キトサンに対する上記TLRリガンドの質量の比率(リガンド/粒子状キトサン)は3以下であり、
上記TLRは、TLR3および7~9からなる群より選ばれる少なくとも1種であ
り、
上記粒子状キトサンを構成するキトサンは、重量平均分子量が5K以上1000K以下であり、
上記アニオン性界面活性剤が、リン脂質、炭素数10以上22以下の脂肪酸およびその塩から選択される少なくとも1種類である、ヒトを含む脊椎動物に投与される、免疫賦活剤。
【請求項3】
上記リン脂質が、レシチンまたはリゾレシチンであり、
上記脂肪酸またはその塩が、オレイン酸ナトリウムまたはラウリン酸ナトリウムである、請求項
1又は2に記載の免疫賦活剤。
【請求項4】
上記粒子状キトサ
ンは、粒子径が500nm以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の免疫賦活剤。
【請求項5】
上記TLRが、ヒトのTLRである、
請求項1~4のいずれか1項に記載の免疫賦活剤。
【請求項6】
さらに、抗原を含む、
請求項1~5のいずれか1項に記載の免疫賦活剤。
【請求項7】
さらに、α-GalCerを含む、
請求項1~6のいずれか1項に記載の免疫賦活剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の免疫賦活剤を含む、ワクチン。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の免疫賦活剤を含む、がんの治療用または予防用である、ワクチン。
【請求項10】
アニオン性界面活性剤とキトサンとを複合化させて粒子状キトサンを得る工程、および、
上記粒子状キトサンにTLRリガンドを、上記粒子状キトサンに対して上記TLRリガンドの質量の比率(リガンド/粒子状キトサン)が3以下になるように保持させる工程を含み、
上記TLRは、TLR3、4および7~9からなる群より選ばれる少なくとも1種であ
り、
上記粒子状キトサンを構成するキトサンは、重量平均分子量が5K以上1000K以下であり、
上記アニオン性界面活性剤が、リン脂質、炭素数10以上22以下の脂肪酸およびその塩から選択される少なくとも1種類である、ヒトを含む脊椎動物に投与される、免疫賦活剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫賦活剤およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
自然免疫系は、細菌またはウイルス等で保存されている特徴的な分子パターン(pathogen-associated molecular pattern:PAMP)がパターン認識受容体(pattern recognition receptor:PRR)によって認識されることによって発動される。PRRの中で代表的なものがToll様受容体(Toll-like receptor:TLR)であり、微生物が感染した場合複数のTLRリガンドがPAMPs(病原体関連分子パターン)として働いて、自然免疫系の活性化に寄与する。自然免疫系の発動は獲得免疫系の活性化に繋がり、病原体が特異的に認識されて記憶されるようになり、同じ病原体に繰り返し出会った時に効果的に排除できるようになる。NKT細胞は、抗原提示細胞の表面のCD1dに結合して提示された糖脂質(α―ガラクトシルセラミド:α-GalCer)によって活性化され、自然免疫系と獲得免疫系の橋渡しをして、両者の機能を増幅する。
【0003】
ワクチンによる抗原提示細胞の活性化において効果的な場合として、アジュバントと抗原とが一緒に同じ抗原提示細胞に作用する場合が挙げられる。この場合、抗原およびアジュバントが分解されるのを防ぐよう微粒子等で保護する効果が得られる(非特許文献1)。この抗原とアジュバントとを保護する微粒子としては、生体適合性、かつ、生分解性であることから、poly(lactic-co-glycolic acid)(PLGA)ナノ粒子が広く用いられている(非特許文献2および3)。しかし、PLGAナノ粒子を製造するためには、有機溶媒の使用、また、エマルジョン化等煩雑な操作を必要とする。
【0004】
特許文献1には、アニオン性界面活性剤を用いて製造した粒子状キトサンを用いた免疫賦活剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hafner AM, Cortheesy B, Merkle HP. Particulate formulations for the delivery of poly(I:C) as vaccine adjuvant. Adv. Drug Deliv. Rev. 65 (2013) 1386-1399.
【文献】Silva AL, Soema PC, Slutter B, Ossendorp F, Jiskoot W. PLGA particulate delivery system for subunit vaccines: Linking particle properties to immunogenicity. Hum. Vaccin. Immunother. 12 (2016) 1056-1069.
【文献】Dolen T, Kreutz M, Gileadi U, Tel J, Vasaturo A, van Dinther EAW, van Hout-Kuijer MA, Cerundolo V, Figdor CG. Co-delivery of PLGA encapsulated invariant NKT cell agonist with antigenic protein induce strong T cell-mediated antitumor immune responses. Oncoimmunol. 5 (2016) e1068493.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の粒子状キトサンは、安価な原料を用いて容易に調製することができる上に、これ自体が強いアジュバント活性を持つ。さらに、この粒子状キトサンは、抗原を生体内で分解されにくくするように保護していると推定され、抗原提示細胞に抗原を取り込ませる手段としても優れている。
【0008】
しかし、例えば、免疫賦活作用をより増強する、または、免疫賦活作用の質を変更する等の目的で、他のアジュバント等と組み合わせて用いる場合には、粒子状キトサン自体が示すアジュバントとしての特性が、かえって不利益をもたらす虞がある。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、キトサンをベースとし、改善及び増強された免疫賦活作用を有する免疫賦活剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは上記問題点を解決するために鋭意検討を行った。その結果、粒子状キトサンが持つアジュバント活性自体のより詳細な分析、並びに、当該分析に基づく他のアジュバント等との組合せの検討を通じて、粒子状キトサンと特定の免疫活性化物質との組合せが改善及び増強されたアジュバント活性を奏することを見出し、本願発明に想到するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は上記問題を解決するために、例えば、以下のものを包含している。
1) 粒子状キトサンとTLR(toll様受容体)リガンドとを含んでいる、免疫賦活剤。
2) 免疫賦活剤製造用のキットであって、容器に格納されている、アニオン性界面活性剤を担持しているキトサンと、キットの使用説明と、を備えており、上記キトサンは、粒子状キトサンであり、上記使用説明には、上記粒子状キトサンに、TLRリガンドを担持させることで免疫賦活剤を製造することが記載されている、免疫賦活剤製造用のキット。
3) 1)に記載の免疫賦活剤を含む、ワクチン。
4) 粒子状キトサンにTLRリガンドを担持させる工程を含む、免疫賦活剤の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、改善された免疫賦活作用を有する免疫賦活剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図11】本発明の実施例10の結果を示す図である。
【
図12】本発明の実施例11の結果を示す図である。
【
図13】本発明の実施例12の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.免疫賦活剤
本実施形態に係る免疫賦活剤は、粒子状キトサンとTLR(toll様受容体)リガンドとを含んでいる。
【0015】
本実施形態に係る免疫賦活剤は、粒子状キトサンとTLRリガンドとをどのような形態で含んでいてもよいが、粒子状キトサンがTLRリガンドを保持していることが好ましい。本実施形態に係る免疫賦活剤が例えばワクチンの形態で使用されるとき、粒子状キトサンがTLRリガンドを保持していることにより、TLRリガンドが単独で存在する場合と比較して、TLRリガンドが生体内で分解されにくくすることができる。同様に、STINGアゴニスト(例えばインターフェロン遺伝子刺激因子)、ならびに後述する抗原およびα-GalCer等も、粒子状キトサンに保持させることによって、生体内で分解されにくくすることができる。加えて、同じ粒子状キトサンに保持されている各種物質(例えば、TLRリガンド、抗原、またはα-GalCer等)を抗原提示細胞に一緒にして送達することができる。
【0016】
粒子状キトサンが各種物質(例えば、TLRリガンド、抗原、α-GalCer、またはSTINGアゴニスト等)を保持しているとは、例えば、1)粒子を構成しているキトサンの分子鎖の隙間に各種物質が取り込まれている形態、および/または2)キトサンが有するアミノ基と各種物質(例えば、特に負に帯電するポリヌクレオチド等のTLRリガンド等)との間に結合が形成されている形態等が挙げられる。
【0017】
なお、本明細書において、「免疫賦活剤」とは、抗原特異的免疫応答を特異的または非特異的に変化、増大、誘導、再誘導、増強または開始する作用を有する、分子、物質または組成物を示す。本願発明に係る免疫賦活剤は、体液性免疫および細胞性免疫の何れか、または両方を強化することができるものを包含する。本明細書中における「免疫賦活剤」とは、少なくともアジュバントとしての機能を有する剤を意図している。
【0018】
〔粒子状キトサン〕
粒子状キトサンとは、粒子の形状となっているキトサンを指す。粒子状キトサンは、一例では、キトサンの分子が高度に凝集して形成され、水に懸濁された状態にある粒子である。粒子状キトサンは、これ自体が高い抗体産生誘導能を有する。また、キトサンが粒子状であることによって、1)生体内で異物として認識されやすい、および、2)キトサンが正電荷を帯びているために細胞表面との親和性に優れる、等の理由で、抗原提示細胞に取り込まれやすくなると推測される。なお、キトサンは、後述するように、例えば、アニオン性界面活性剤を用いることによって微粒状にすることができる。
【0019】
粒子状キトサンの重量平均分子量は、最終的に得られる免疫賦活剤の用途に応じて適宜設定される。本実施形態における粒子状キトサンは、その分子量が低いほど、高い免疫賦活効果が得られるという傾向を有する。ただし、ある分子量以下の低分子量のキトサン、例えば、分子量が5k未満のキトサンの製造は、工程が比較的煩雑である。
【0020】
一方で、ある分子量以上の高分子量のキトサン、例えば、分子量が1000kを超えるキトサンは、粒子化する際の溶液の粘性が高くなる傾向にある。
【0021】
したがって、高い免疫賦活化効果を有しつつも、取扱い易く、工業生産が容易であり、市場で入手しやすく、かつ、商業的に利用性が高いという観点からは、粒子状キトサンを構成するキトサンの重量平均分子量は、5k以上で1000k以下の範囲内であることが好ましく、5k以上で500k以下の範囲内であることがより好ましく、10k以上で100k以下の範囲内であることが最も好ましい。
【0022】
また、粒子状キトサンの好ましい粒子径は特に限られないが、細胞への取り込みの観点では、小さいものほど好ましい場合がある。例えば、粒子状キトサンの粒子径は500nm以下であり、あるいは、300nm以下であってもよい。また、粒子状キトサンの粒子径の下限は特に限定されないが、例えば、10nm以上であり、100nm以上であり、150nm以上であり、あるいは、200nm以上であってもよい。なお、製造の容易さの観点では、粒子状キトサンの粒子径は100nm以上であることが好ましい場合がある。粒子状キトサンの粒子径は、例えば、レーザ回析散乱法によって測定することができる。
【0023】
本実施形態に係る免疫賦活剤に含まれる粒子状キトサンの濃度は、キトサンの溶解性又は粘度、並びに投与対象の種類等に応じて適宜設定すればよい。免疫賦活剤が液体の形態である場合、粒子状キトサンの濃度は、例えば、0.1mg/ml以上で50mg/ml以下の範囲内であることが好ましい。また、免疫賦活剤のボリューム(液量)を小さくできる観点では、免疫賦活剤に含まれる粒子状キトサンの濃度が高いほど好ましい。キトサンの溶解性又は粘度等に応じて、粒子状キトサンの濃度の上限は、例えば、50mg/ml以下、45mg/ml以下、40mg/ml以下、35mg/ml以下、30mg/ml以下、25mg/ml以下、20mg/ml以下、15mg/ml以下、または10mg/ml以下とすることもできる。一例では、免疫賦活剤は、ここで示す上限の濃度の80%以上の濃度で粒子状キトサンを含んでいる。
【0024】
粒子状キトサンの製造方法については、「2.免疫賦活剤の製造方法」の項目で述べる。
【0025】
上記粒子状キトサンを形成しているキトサンは、誘導体化されているキトサン誘導体であり得る。つまり、上記粒子状キトサンは、キトサンおよび/またはキトサン誘導体によって形成されている。キトサン誘導体は、キトサン主鎖、および側鎖部分からなる。当該側鎖部分は、還元性末端を有する糖類、アミノ酸(誘導体)および/または他の化合物によって形成されている。
【0026】
上記糖類は、例えば、アルドース類およびケトース類に由来する糖類(構成糖単位が1以上)である。糖類のより具体的な例は、例えば、単糖の例である、ペンタオースおよびヘキサオースの例として、グルコース、フコース、マンノース、アラビノース、ガラクトース、キシロース、エリトロース、ヘプツロース、ヘキシロース、およびペンツロース等が挙げられる。また、アミノ糖類として、グルコサミン、N-アセチルグルコサミン(例えば、N-アセチルD-グルコサミン)、およびガラクトサミン等が挙げられる。さらに、糖誘導体として、ウロン酸類、およびデオキシ糖類等が挙げられる。また、これらの単糖類を構成成分として組み合わせた糖鎖からなる二糖または多糖の糖類としては、マルトース、イソマルトース、ラクトース、メリビオース、およびマルトトリオース等、ならびに各種オリゴ糖類等が挙げられる。さらに、プルラン、イヌリン、アミロース、アミロペクチン、デキストラン、デキストリン、澱粉等の天然多糖など、およびそれらの分解物、異性化物または誘導体が挙げられる。これらの糖類の1種類以上の組み合わせを製造に用いることができる。また、これらの原料としての糖類は水和物であってもよい。
【0027】
上記アミノ酸(誘導体)は、例えば、リシン(例えばL-リシン)、カルニチン、アルギニン、プロリン、およびヒスチジンなどである。これらのうち、上記アミノ酸(誘導体)として、リシンおよびカルニチンが好ましい。
【0028】
上記他の化合物は、例えば、ポリエチレングリコールである。ポリエチレングリコールの一例は、メトキシPEG-アルデヒドである。
【0029】
一例において、キトサン誘導体は、キトサンの糖単位を構成するグルコサミン単位の2位の炭素に結合しているアミノ基に、遊離したカルボキシル基末端を有する糖類が、還元的アルキル化によってシッフ塩基を経由して結合した構造を有するか、キトサンの糖単位を構成するグルコサミン単位の2位の炭素に結合しているアミノ基に、遊離したカルボキシル基末端を有するアミノ酸類が、縮合反応によってアミド結合した構造を有することが好ましい場合がある。
【0030】
キトサン主鎖は、例えば、構成糖単位の数が30~12000であり、60~6000としてもよく、120~3000としてもよい。キトサン主鎖の糖単位における2位アミノ基の側鎖による置換度は、キトサン誘導体の種類および最終的なキトサン誘導体の用途などに応じて適宜設定することができる。例えば、該置換度は、0.005~0.5とすることができ、0.005~0.3としてもよい。なお、置換度は、公知の技術(例えば糖組成分析)に基づいて決定してもよく、例えば、NMRのスペクトルの解析によって算出されてもよい。キトサン誘導体の詳細(種類およびその製造方法)は、例えば、WO2018/025926(参照によって本明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0031】
実施例にも示すように、キトサン誘導体によって形成される粒子状キトサンを含む免疫賦活剤は、キトサンによって形成される粒子状キトサンを含む免疫賦活剤と同様に、腫瘍を縮小させる効果および血中抗体価を上昇させる効果を有する。
【0032】
〔TLRリガンド〕
TLR(Toll様受容体)は、微生物の産物を感知し、獲得免疫応答を開始する、タンパク質のファミリーである。TLRリガンドは、TLRに結合してTLRを活性化する物質である。典型的な例において、TLRの活性化は、TLR同士の二量体形成を伴う。
【0033】
TLRは、ヒトでは10種類、マウスでは13種類が同定されている。ヒトで同定されているTLRのうち、TLR-1、-2、-4、-5、および-6が細胞の表面に発現される。一方、TLR-3、-7/8、および-9は小胞体で発現される。
【0034】
本実施形態に係る免疫賦活剤では、ヒトのTLRリガンドを含むことが好ましい。本実施形態に係る免疫賦活剤において有用な、当技術分野で公知のヒトTLRリガンドとしては、限定するものではないが、例えば、糖タンパク質、リポタンパク質、糖ペプチド、およびリポポリペプチド等のタンパク質性リガンド;リポ多糖等の多糖類性リガンド;DNA、およびRNA等の核酸性リガンド;およびイミダゾキノリン化合物等の低分子リガンド:等が挙げられる。
【0035】
より具体的には、リポタンパク質およびリポ多糖(TLR2リガンドまたはTLR4リガンド);二本鎖DNA(TLR3リガンド);タンパク質性リガンドであるフラジェリン(TLR5リガンド);イミダゾキノリン化合物であるイミキモド、レシキモド(R848);および一本鎖RNA(TLR7リガンドまたはTLR8リガンド);および、核酸性リガンドであるCpG配列(TLR9リガンド)等が挙げられる。
【0036】
さらに具体的には、以下が挙げられる;
Pam3Cys(TLR-1/2リガンド。タンパク質性リガンド);
CFA(TLR-2リガンド。核酸性リガンド);
MALP2(TLR-2リガンド。タンパク質性リガンド);
Pam2Cys(TLR-2リガンド。タンパク質性リガンド);
FSL-1(TLR-2リガンド。タンパク質性リガンド);
Hib-OMPC(TLR-2リガンド。タンパク質性リガンド);
ポリリボイノシンおよびポリリボシチジン酸(Poly(I:C))(TLR-3リガンド。核酸性リガンド);
ポリアデノシン-ポリウリジル酸(PolyAU)(TLR-3リガンド。核酸性リガンド);
ポリL-リシンおよびカルボキシメチルセルロースで安定化したポリイノシン-ポリシチジン酸(Hiltonol(登録商標))(TLR-3リガンド。核酸性リガンド);
モノホスホリルリピドA(MPL)(TLR-4リガンド);
細菌フラジェリン(TLR-5リガンド。タンパク質性リガンド);
R848(TLR-7/8リガンド);
ロキソリビン(TLR-7/8リガンド);および
非メチル化CpGジヌクレオチド(以下では「CpG」と表記する。一般には「CpG-ODN」とも表記され得る。)(TLR-9リガンド。核酸性リガンド)。
【0037】
中でも、TLR-3リガンド、TLR-4リガンド、TLR-7/8リガンドおよびTLR-9リガンドが好ましい。これらの中では、Poly(I:C)、MPL、R848およびCpGが好ましく、さらにこれらを2つまたはそれ以上組み合わせることがより好ましい場合がある。好ましい組み合わせとしては、例えば、MPLとCpGとの組み合わせ、Poly(I:C)とCpGとの組み合わせ、およびMPLとPoly(I:C)との組み合わせであり、MPL、Poly(I:C)およびCpGとの組み合わせがより好ましい場合がある。実施例にも示すように、特定の実施形態(がんの治療または予防に用いる免疫賦活剤)において、腫瘍縮小効果に優れているTLRリガンドとしては、CpG、R848、MPLおよびpoly(I:C)(特にCpGおよびR848)が挙げられる(実施例11を参照)。
【0038】
なお、TLRリガンドは、天然由来でも合成によって得られるものでもよい。
【0039】
本実施形態に係る免疫賦活剤に含まれるTLRリガンドの濃度は、投与対象の種類等に応じて適宜設定すればよい。免疫賦活剤が液体の形態である場合、TLRリガンドの濃度は、例えば、3μg/ml以上で50mg/ml以下の範囲内であることが好ましい。また、免疫賦活剤のボリューム(液量)を小さくできる観点では、免疫賦活剤に含まれるTLRリガンドの濃度は高いほど好ましい。TLRリガンドの濃度の上限は、例えば、50mg/ml以下、45mg/ml以下、40mg/ml以下、35mg/ml以下、30mg/ml以下、25mg/ml以下、20mg/ml以下、15mg/ml以下、または10mg/ml以下とすることもできる。TLRリガンドの濃度の下限は、例えば、3μg/ml以上とすることができ、10μg/ml以上、25μg/ml以上、50μg/ml以上、75μg/ml以上、100μg/ml以上とすることもできる。一例では、免疫賦活剤は、ここで示す上限の濃度の80%以上の濃度でTLRリガンドを含んでいる。
【0040】
〔アニオン性界面活性剤〕
本実施形態に係る免疫賦活剤は、アニオン性界面活性剤を含んでいることが好ましい。アニオン性界面活性剤は、アニオン性基と疎水性基とを備えている。疎水性基はたとえば、置換または無置換であり、飽和または不飽和の炭素数2以上22以下の炭化水素基であり得る。
【0041】
アニオン性界面活性剤は、キトサンと複合化されていることが好ましい。アニオン性界面活性剤がキトサンと複合化されているとは、例えば、アニオン性界面活性剤がそのアニオン性基において、キトサンのアミノ基と結合を形成していることを指す。アニオン性界面活性剤とキトサンとが複合化されている場合、TLRリガンド、抗原またはα-GalCer等は、1)キトサンの分子鎖の隙間または、キトサン‐アニオン性界面活性剤の分子鎖の隙間にとりこまれる、或いは、2)カチオン性(例えば、キトサンのアミノ基に由来)、アニオン性、および疎水性を帯びたアニオン性界面活性剤-キトサン複合体と結合を形成して保持されるものと推定される。すなわち、各種物質の粒子状キトサンへの保持を、イオン結合に加えて疎水性結合をも介して行うことで、より強固なものとすることができると推定される。本実施形態に係る免疫賦活剤が含むことができるTLRリガンド、抗原またはα-GalCer等は、多岐にわたる。
【0042】
本実施形態におけるアニオン性界面活性剤は、リン脂質および炭素数10以上22以下の脂肪酸およびその塩から選択される少なくとも1種であることが好ましい。アニオン性界面活性剤は単一種類のアニオン性界面活性剤であってもよく、複数種類の異なるアニオン性界面活性剤の組み合わせ(リン脂質と、炭素数10以上22以下の脂肪酸およびその塩との両方でもよい)であってもよい。
【0043】
本実施形態に係る免疫賦活剤中のアニオン性界面活性剤の形態は特に限られず、例えば液中でミセル状になっていてもよいし、固体であってもよい。
【0044】
(リン脂質)
リン脂質としては、ホスホグリセリド、スフィンゴ脂質、セファリン、およびそれらの混合物、全合成リン脂質ならびにレシチンおよびリゾレシチンが挙げられる。レシチンは、化学分野においては、ホスファチジルコリンと同義であり、本明細書ではホスファチジルコリンを指す。リン脂質は、好ましくはレシチンまたはリゾレシチンであり得る。
【0045】
より詳細には、レシチンとしては大豆レシチン、卵黄レシチン、水素化大豆レシチン(HSPC)および水素化卵黄レシチン(HEPC)が挙げられる。ホスホグリセリドとしては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセリン、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルコリン、およびホスファチジン酸等が挙げられる。スフィンゴ脂質としては、スフィンゴミエリン等が挙げられる。なお、水溶性が十分でないリン脂質については、エタノール等有機溶媒に溶解させた後、免疫賦活剤の製造に供することが可能である。
【0046】
(脂肪酸およびその塩)
脂肪酸およびその塩には、炭素数が10以上22以下である脂肪酸ならびにそれらの塩およびグリセリドが含まれる。脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよい。脂肪酸およびその塩は、炭素数が10以上22以下であることが好ましく、炭素数が12以上18以下であることがより好ましい。
【0047】
脂肪酸の例としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、イコセン酸、ドコセン酸、テトラコセン酸、リノール酸、α-リノレン酸、イコサジエン酸、イコサテトラエン酸、イコサトリエン酸、イコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、カプリン酸、ラウリン酸、γ-リノレン酸およびアラキドン酸等が挙げられる。
【0048】
上記した脂肪酸の塩の種類としては、ナトリウム塩およびカリウム塩が挙げられる。なお、水溶性が十分でない脂肪酸については、エタノール等有機溶媒に溶解させた後、免疫賦活剤の製造に供することが可能である。
【0049】
一例では、本実施形態に係る免疫賦活剤は、アニオン性界面活性剤としてオレイン酸ナトリウムまたはラウリン酸ナトリウムを含む。
【0050】
本実施形態に係る免疫賦活剤に含有されるアニオン性界面活性剤の好ましい量は後述するが、免疫賦活剤に含有されるアニオン性界面活性剤の量は、一例では、免疫賦活剤の製造工程で調製されるキトサン溶液における、アニオン性界面活性剤の最終濃度を決定することで決定される。
【0051】
〔抗原〕
本実施形態に係る免疫賦活剤は抗原を含み得る。
【0052】
抗原としては、特に限定されるものではないが、例えば、細胞、細菌、ウイルス、核酸、タンパク質、糖質、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、オリゴペプチド、ポリペプチド、ホルモン、および金属イオン等を挙げることができる。なお、TLRリガンドとしても機能する抗原は、本明細書ではTLRリガンドとみなす。より具体的には、かかる抗原としては、例えば、がん細胞、特定遺伝子を強制発現させた細胞;O157、サルモネラ菌、結核菌等の細菌、インフルエンザ、はしか、ポリオ等のウイルス、抗原タンパク質をコードする核酸;アルブミン、α‐フェトプロテイン(AFP)、ガン胎児性抗原(CEA)、CA19-9、塩基性胎児タンパク質(BFP)、膵胎児抗原(POA)、アルドラーゼ、アルカリ・フォスファターゼ、γグルタミルトランスペプチダーゼ、ニューロン特異的エノラーゼ、5´ヌクレオチド・フォスフォジエステラーゼ・アイソザイムV(5´-NPD-V)、異常プロトロンビン(PIVKA-II)等の腫瘍マーカー;IgM、IgG、IgA、IgE、IgD等の免疫グロブリン;B型肝炎ウイルス関連抗原、C型肝炎ウイルス関連抗原、インフルエンザウイルス等のウイルス抗原;甲状腺ホルモン、ステロイドホルモン等のホルモン等を挙げることができる。中でも好ましいものは、ウイルス抗原、細菌抗原、がん抗原、またはがん細胞溶解液であり、より好ましいものはがん細胞抗原またはがん細胞溶解液である。本明細書における「がん抗原」は、腫瘍に特異的に高発現している遺伝子産物(例えば、タンパク質、核酸、およびこれらの修飾付加物など)またはその断片を指す。
【0053】
本実施形態に係る免疫賦活剤に含まれ得る抗原の量は、当該抗原の種類および投与する対象によって適宜決定することができる。例えば、既知の抗原タンパク質を用いる場合は、投与する対象に対する当該抗原の投与量に係る既報を参照して決定すればよい。例えば、ウシ、ブタ、およびヒト等を含む哺乳動物の場合は、例えば、0.3μg以上300mg以下、あるいは10μg以上300μg以下の範囲内であってよい。
【0054】
本実施形態に係る免疫賦活剤が抗原を含む形態で使用されるとき、TLRリガンドと抗原とは一緒に同じ抗原提示細胞に作用することが効果的である。本実施形態におけるTLRリガンドと抗原とが何れも、粒子状キトサンに保持されている場合には、TLRリガンドと抗原とが保護され、両者は分離しにくくなる。
【0055】
〔α-GalCer〕
本実施形態に係る免疫賦活剤はα-GalCer(ガラクトセラミド)を含み得る。α-GalCerを含有する免疫賦活剤は、IFN-γ産生を促進するため、免疫賦活剤としてより効果的に作用する。
【0056】
〔粒子状キトサンに対する各成分の含有比率〕
本実施形態に係る免疫賦活剤に含まれる粒子状キトサンの濃度は、免疫賦活剤が液体の形態である場合、例えば、0.1mg/ml以上で50mg/ml以下の範囲内であることが好ましい。また、免疫賦活剤のボリューム(液量)を小さくできる観点では、免疫賦活剤に含まれる粒子状キトサンの濃度が高いほど好ましい。キトサンの溶解性又は粘度等に応じて、粒子状キトサンの濃度の上限は、例えば、50mg/ml以下、45mg/ml以下、40mg/ml以下、35mg/ml以下、30mg/ml以下、25mg/ml以下、20mg/ml以下、15mg/ml以下、または10mg/ml以下とすることもできる。一例では、免疫賦活剤は、ここで示す上限の濃度の80%以上の濃度で粒子状キトサンを含んでいる。
【0057】
本実施形態に係る免疫賦活剤に含まれる粒子状キトサンに対するTLRリガンドの質量の比率(リガンド/キトサン)は投与形態に応じて異なるが、例えばCpGの場合は、0.03以上30以下であることが好ましく、0.1以上10以下であることがより好ましく、0.3以上3以下であることがさらに好ましい。
【0058】
本実施形態に係る免疫賦活剤がアニオン性界面活性剤を含む場合、粒子状キトサンに対するアニオン性界面活性剤の質量の比率(界面活性剤/キトサン)は0.05以上1以下であることが好ましく、0.1以上0.5以下であることがより好ましく、0.15以上0.3以下であることがさらに好ましい。
【0059】
本実施形態に係る免疫賦活剤が抗原を含む場合、免疫賦活剤に含まれる粒子状キトサンに対する抗原の質量の比率(抗原/キトサン)は0.01以上10以下であることが好ましく、0.03以上5以下であることがより好ましく、0.1以上1以下であることがさらに好ましい。
【0060】
本実施形態に係る免疫賦活剤がα-GalCerを含む場合、免疫賦活剤に含まれる粒子状キトサンに対するα-GalCerの質量の比率(α-GalCer/キトサン)は0.001以上0.5以下であることが好ましく、0.003以上0.3以下であることがより好ましく、0.01以上0.1以下であることがさらに好ましい。
【0061】
〔その他の添加剤〕
本実施形態に係る免疫賦活剤は、免疫賦活剤の効果を損なわない範囲で、賦形剤、各種補助剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。例えば、トレハロース、グルコース、ショ糖、乳糖、グルコース、マンニトール、デキストラン、キシリトール、マルトース、フルクトース、グリシン、クエン酸および塩化ナトリウムまたはノニオン性界面活性剤等を含み得る。このような添加剤を含むことにより、凍結乾燥または長期の低温保存による凝集または免疫賦活活性の低下等の性質の不安定化を防止することができる。
【0062】
また、その他の添加剤としては、ビタミンCおよびビタミンE等が挙げられる。これらを含むことにより脂肪酸の酸化分解を抑制することができる。
【0063】
また、各種補助剤としては、湿潤剤、乳化剤、pH調整剤および他のアジュバント等が挙げられる。
【0064】
pH調整剤としては、必要に応じてアルカリ物質または酸性物質のいずれも使用可能である。pHの調整に使用されるアルカリ物質としては、水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、pHの調整に使用される酸性物質としては酢酸および塩酸等が挙げられる。
【0065】
他のアジュバントとしては、例えば、アラム、フロイントの完全アジュバント、フロイントの不完全アジュバント、オイルアジュバント、サポニン、細胞壁骨格構成物、リポポリサッカライド、エンドトキシン、アブリシン、リポソーム、細菌DNA、合成オリゴヌクレオチド、ビタミンE、糖脂質およびスクワレン等のうち、本実施形態に係る免疫賦活剤が含んでいないものが挙げられる。アジュバントを複数種類組み合わせることによって、免疫応答の促進等において各アジュバントを個別に投与する場合よりも相乗効果を有する場合がある。
【0066】
〔その他の成分〕
本実施形態に係る免疫賦活剤では、粒子状キトサン表面へ、薬物を保持させていてもよい。また、ポリカルボン酸等のアニオン性高分子で粒子状キトサン表面を被覆してもよい。ポリカルボン酸としては、ペクチン、アルギン酸、ポリアクリル酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸およびポリ-γ-グルタミン酸等が挙げられる。かかる物質で粒子状キトサンを被覆することによって、消化酵素に対する高い安定性を賦与することが可能である。
【0067】
〔免疫賦活剤の剤型及び投与形態等〕
本実施形態に係る免疫賦活剤を使用する場合、その剤型は特に限定されず、液体、固体または半固体もしくは半液体とすることができ、好ましくは液体の形態である。これらの剤型は、当業者に公知の方法に基づき、必要に応じて適切な薬学的担体を採用して容易に製造することができる。剤型が固体の場合は、粉末、顆粒、錠剤、およびカプセル剤等が挙げられる。例えば、少なくともTLRリガンドを保持している粒子状キトサンを、粒子として用いる形態も、剤型が固体である場合に含まれる。また、剤型が半固体または半液体の場合は、軟膏、ローション、クリームおよびゲル等が挙げられる。剤型が液体の形態の場合、用いる溶媒の例としては、水および緩衝液等が挙げられ、緩衝液としては、生理食塩水、リン酸緩衝液およびリンゲル液等が挙げられる。また、溶媒はここから選ばれる2種類以上の混合物であってもよい。
【0068】
また、本実施形態に係る免疫賦活剤の投与経路としては、経口、局所、皮下、筋肉内、静脈内、皮内、腹腔内、経粘膜および経皮等が挙げられるが、これらに限定されない。免疫賦活剤の投与の方法は、例えば、皮下、皮内、静脈内、筋肉内または腹腔内等への直接注射;鼻腔内、口腔内、肺内、膣内または直腸内等の粘膜への噴霧;ならびに経口投与等の、公知の方法に基づいて行われる。
【0069】
〔免疫賦活剤の投与対象〕
免疫賦活剤の投与対象としては、あらゆる動物が挙げられ、哺乳類および鳥類等の脊椎動物が好ましく、哺乳類であることがより好ましい。さらに、哺乳類の前記被験体はヒトであることが好ましいが、家畜、実験動物またはペット動物が被験体となる場合もあり得る。具体的にはニワトリ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジおよびウシ等の家畜類、ネコ、イヌ、ハムスター、ウサギおよびモルモット等のペット動物、マウス、ラット、サル、魚類および鳥類等が挙げられる。
【0070】
本実施形態に係る免疫賦活剤は、一般に免疫系強化をもたらすのに十分な量および回数で、ヒトを含む動物等の被験体に投与される。動物への1回あたりの投与量の上限としては、例えば、免疫賦活剤に含まれる粒子状キトサンの量で、50mg以下、45mg以下、40mg以下、35mg以下、30mg以下、25mg以下、20mg以下、15mg以下、10mg以下、1mg以下、または0.5mg以下の範囲内等が挙げられる(なお、粒子状キトサンに対するTLRリガンドの質量の比率(リガンド/キトサン)は、投与形態に応じて異なるが、例えばCpGの場合は、0.03以上30以下であり、より具体的には例えば、0.1以上10以下および、0.3以上3以下等が挙げられる)。動物への1回あたりの投与量の下限としては、例えば、免疫賦活剤に含まれる粒子状キトサンの量で、例えば、3μg以上、30μg以上、300μg以上、3mg以上、または30mg以上とすることもできる。このような投与量で投与することによれば、対象ヘの過剰な免疫賦活による悪影響を及ぼすことなく、生体への安全性を保ちつつ十分な免疫賦活活性を得ることができるため、効果的である。
【0071】
免疫賦活剤が液体の形態である場合、粒子状キトサンの濃度は、例えば、0.1mg/ml以上で50mg/ml以下の範囲内であることが好ましい。また、免疫賦活剤のボリューム(液量)を小さくできる観点では、免疫賦活剤に含まれる粒子状キトサンの濃度が高いほど好ましい。キトサンの溶解性又は粘度等に応じて、粒子状キトサンの濃度の上限は、例えば、50mg/ml以下、45mg/ml以下、40mg/ml以下、35mg/ml以下、30mg/ml以下、25mg/ml以下、20mg/ml以下、15mg/ml以下、または10mg/ml以下とすることもできる。一例では、免疫賦活剤は、ここで示す上限の濃度の80%以上の濃度で粒子状キトサンを含んでいる。
【0072】
本実施形態に係る免疫賦活剤の具体的な使用用途としては、細菌またはウイルス等による感染、がんまたは自己免疫疾患またはアレルギーのような疾患の治療または予防が挙げられる。例えば、ワクチン療法、がん等に対する免疫療法、アレルギーの原因物質に対する減感作療法等が挙げられる。
【0073】
〔免疫賦活剤の特性〕
本実施形態に係る免疫賦活剤は、顕著な免疫賦活化作用を有するので、例えば、本発明の免疫賦活剤を用いて、生体において正常な代謝免疫応答が低下または抑制される疾病、疾患または障害を有する患者の治療に有用である。また、本発明の免疫賦活剤は、免疫系に悪影響を及ぼす状態に起因する疾病、疾患または障害に罹患する危険性が高くなっている動物またはヒト等の被験体を治療的または予防的に処置するために用いることができる。
【0074】
本実施形態に係る免疫賦活剤は、液性免疫と細胞性免疫とを相乗的に賦活化する効果を有する。加えて、粒子状キトサンとTLRリガンドとは互いに別異のアジュバント効果を示し、かつ、これら効果は互いに打ち消し合うこともないことから、抗原選択の自由度の飛躍的な拡大にもつながりうる。
【0075】
さらに、少ない量の免疫賦活剤および抗原を用いても非常に高い免疫賦活活性を示すため、副作用が少ない。特に、実施例から明らかなように、この免疫賦活剤を投与しても、アレルギー反応を引き起こす原因となる可能性のあるIgEの産生はわずかである。
【0076】
上述したような特性は、粒子状キトサンに各種物質(TLRリガンド、抗原またはα-GalCer等)が保持されている場合に特に顕著になると推定される。
【0077】
2.免疫賦活剤の製造方法
本実施形態に係る免疫賦活剤は、粒子状キトサンにTLRリガンドを保持させる工程を含む方法によって製造することができる。
【0078】
〔粒子状キトサンを調製する工程〕
(粒子状キトサンを製造するための原料としてのキトサン)
キトサンは、通常、カニおよびエビ等の甲殻由来のキチン(ポリ-β1,4-N-アセチルグルコサミン)をアルカリ処理または酵素処理等によって脱アセチル化することによって調製することができる。本明細書では、キチンの少なくとも一部が脱アセチル化されたものをキトサンと称する。なお、本発明に係るキトサンは天然由来のものに限らず、化学的に合成されたものであってもよい。
【0079】
本実施形態における粒子状キトサンの原料となるキトサンは、キチン分子を構成するグルコサミン単位のうちのN-脱アセチル化されている分子の割合、すなわち、脱アセチル化度が、好ましくは60%以上100%以下、より好ましくは70%以上100%以下の範囲にあるものである。なお、脱アセチル化度は、公知の技術(例えばコロイド滴定法)に基づいて定量してもよい。公知の技術の一例としてはNMRが挙げられる。
【0080】
粒子状キトサンの原料として好ましいキトサンの重量平均分子量としては、キトサンのグルコサミン残基の分子量を161、N-アセチルグルコサミン残基の分子量を203とし、脱アセチル化度が、60%以上100%以下の範囲とした場合において、原料のキトサン分子重量平均分子量は約5k(5000)以上約1000k(1000000)以下であり得る。
【0081】
本実施形態におけるキトサンの性状は特に限定されず、例としては、粒子状、粉末状、繊維状、フィルム状、シート状、ハイドロゲル状および溶液状のキトサン分子が挙げられる。
【0082】
(キトサン溶液の調製)
溶液状でないキトサンを原料とする場合は、キトサンを溶媒に溶かしてキトサン溶液を調製する。溶媒は、キトサンを溶解させることができればどのようなものでもよい。例えば、酢酸緩衝液、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、リンゴ酸、コハク酸および乳酸の等の有機酸の水溶液が挙げられる。緩衝液としては例えば、最終濃度が5~50mMの濃度の酢酸緩衝液(pH5.0、生理食塩水)である。キトサン溶液におけるキトサンの濃度は特に限定されないが、例えば、0.1mg/ml以上50mg/ml以下の範囲内であることが好ましく、0.1mg/ml以上30mg/ml以下であることが好ましく、0.2mg/ml以上20mg/ml以下であることがより好ましい。なお、免疫賦活剤のボリューム(液量)を小さくできる観点では、キトサンの濃度は高いことが好ましい。
【0083】
(キトサン溶液からの粒子状キトサンの調製)
粒子状キトサンの調製方法は、例えば、キトサン溶液の水滴からなるW/Oエマルションを調製し、この水滴を濃縮することで粒子状のキトサンを析出させる等の方法が挙げられるが、アニオン性界面活性剤を用いて、キトサンを粒子化する方法が特に好ましい。アニオン性界面活性剤を用いた方法は、簡便であり、かつ、アニオン性界面活性剤がキトサンと複合化されている粒子状キトサン(免疫賦活剤に特に適した粒子状キトサン。実施例における「微粒子化キトサン」)を得ることができる。以下、アニオン性界面活性剤を用いた方法についてより具体的に説明する。
【0084】
アニオン性界面活性剤を用いた方法では、粒子の形成は、(1)プロトン化したキトサンのアミノ基(-NH3
+)と脱プロトン化したアニオン性界面活性剤のカルボキシル基のカルボキシラートイオン(-COO-)の静電的相互作用を介した、キトサンとアニオン性界面活性剤との複合化、および(2)疎水性相互作用によるアニオン性界面活性剤の会合によって生じると考えられる(参考文献;黒岩崇著、浦上財団研究報告書 Vol.22、16~20頁(2015))。
【0085】
キトサン溶液は、キトサンがカチオン性を示す中性~弱酸性のpHであることが好ましい。
【0086】
混合するアニオン性界面活性剤の好ましい例は、上述の「1.免疫賦活剤」の〔アニオン性界面活性剤〕の欄で説明した通りである。
【0087】
上記の溶媒中へのキトサンおよびアニオン性界面活性剤の各成分の混合順はどのような順序であってもよい。例えば、1)溶媒へキトサンを溶解してキトサン溶液を調製した後に、アニオン性界面活性剤を加えてもよく、2)溶媒へ、キトサンとアニオン性界面活性剤とを実質的に同時に加えて、キトサン溶液の調製と粒子状キトサンの調製とを同時進行で行ってもよく、或いは、3)溶媒へアニオン性界面活性剤を加えた後にキトサンを加えて、キトサン溶液の調製と粒子状キトサンの調製とを同時進行で行ってもよい。中でも、1)の方法が特に好ましい。
【0088】
粒子状キトサンあたりのキトサンとアニオン性界面活性剤との質量比は、キトサンの分子量または使用される界面活性剤の種類等の条件に応じて変化する。一実施形態では粒子状キトサンあたりのキトサンと、アニオン性界面活性剤アニオン性基とのモル比は、好ましくは1:0.05以上1:1以下の範囲であり、より好ましくは1:0.1以上1:0.5以下であり、さらに好ましくは1:0.15以上1:0.3以下である。
【0089】
〔粒子状キトサンにTLRリガンド等を保持させる工程〕
上記のように調製した粒子状キトサンにTLRリガンドを保持させる方法は特に限定されないが、例えば、1)TLRリガンドと、調製済の粒子状キトサンとを接触させてもよく、或いは、2)TLRリガンドと、調製中の粒子状キトサンとを接触させてもよい。1)の場合は、例えば、調製済の粒子状キトサンを含んだ溶媒にTLRリガンドを加えればよく、2)の場合は、例えば、TLRリガンドを含んだキトサン溶液から粒子状キトサンを調製することによって、粒子状キトサンの調製と粒子状キトサンへのTLRリガンドの保持とを同時進行で行ってもよい。なお、1)・2)の何れの場合でも、アニオン性界面活性剤を用いた方法で調製した粒子状キトサンを用いることが好ましい。また、1)の場合では、調製した粒子状キトサンは、冷凍または冷蔵保存しておくことができる。
【0090】
なお、粒子状キトサンにTLRリガンドを保持させる方法と同様の方法を用いれば、上記した抗原またはα-GalCerその他の成分も、粒子状キトサンに保持させることができる。
【0091】
〔その他の工程〕
TLRリガンド等を保持させた粒子状キトサンは、その溶媒と共に、免疫賦活剤として利用をしてもよい。あるいは、TLRリガンド等を保持させた粒子状キトサンを回収し、洗浄等の工程を経た後に、必要に応じて担体等と組合せて免疫賦活剤として利用をしてもよい。
【0092】
3.キット
本発明は、また、免疫賦活剤製造用のキットを提供する。該キットは、1)容器に格納されている、アニオン性界面活性剤を保持している粒子状キトサンと、2)キットの使用説明と、を備えている。容器は、例えば、密閉性のある袋または、蓋付きの密閉容器、等が挙げられる。容器内の粒子状キトサンは液体中に分散されたものであってもよい。使用説明は、例えば、紙等の記録媒体または上記容器に印刷されたものであってもよく、情報記録媒体若しくはインターネット上に電子的に保存されたものであってもよい。
【0093】
使用説明には、粒子状キトサンに、TLRリガンドを保持させることで免疫賦活剤を製造することが記載されている。より具体的には、例えば、使用説明には、上記「2.免疫賦活剤の製造方法」の〔粒子状キトサンにTLRリガンド等を保持させる工程〕欄に記載のような、粒子状キトサンにTLRリガンドを保持させる方法が記載されている。
【0094】
なお、「アニオン性界面活性剤」、「粒子状キトサン」、および「TLRリガンド」は、上記「1.免疫賦活剤」に記載のものと同じである。なお、アニオン性界面活性剤を保持している粒子状キトサンは、アニオン性界面活性剤とキトサンとが複合化されているものであることが好ましい。
【0095】
キットは、さらに、必要に応じて、各種TLRリガンド、抗原、腔内投与または採血を行う器具(注射器等)、および抗体価測定に用いる試薬および器具(ピペット、96穴マイクロプレート等)等を備えていてもよい。このキットは、免疫賦活剤の製造、ひいては免疫を賦活するためのワクチン等の製造に用いることができる。
【0096】
4.免疫賦活剤の利用
〔ワクチン〕
本実施形態に係る免疫賦活剤は、ワクチンとして利用することもできる。本明細書においてワクチンとは、病原体そのものあるいは病原体に由来する特定の抗原を含むことによって、特定の疾病、疾患または障害の予防または治療を目的とする、医薬組成物をさす。医薬組成物とは、ヒト用の医薬組成物のみならず動物用の医薬組成物も含む概念である。ワクチンに含まれる抗原の種類は、予防又は治療の対象となる特定の疾患等に応じて選択される。抗原の一例は、「1.免疫賦活剤の〔抗原〕」の欄に記載したもの(例えばがん抗原およびがん細胞溶解液)が挙げられる。なお、ワクチンは、複数の特定の疾患等を対象とする、多種混合のワクチン組成物であってもよい。
【0097】
以上の段落の記載にしたがって、上記抗原の一例として、がん抗原およびがん細胞溶解液を選択したとき、上記特定の疾病、疾患または障害は、がんであり、上記ワクチンは、がんの予防または治療に利用され得る(つまり上記ワクチンはがんワクチンである(実施例を参照))。
【0098】
本実施形態に係るワクチンでは、従来のアジュバントと比較して、少ない量の免疫賦活剤および抗原を用いても非常に高い免疫賦活活性および高い中和抗体価を得ることができる。アジュバント量と抗原量とを減らすことができるので、生体への過剰な刺激が生じず、安全性が高く、コストの面でも安価なワクチンとすることができる。
【0099】
なお、免疫賦活剤に含まれる粒子状キトサンは、生分解性であって、かつ生体に対して低毒性であるため、適度な期間を経て完全に分解し、消滅する。そのため生体内で残留して生体の健康に副作用を及ぼす虞が低く、安全に使用することができる。
【0100】
研究目的で広く用いられているフロイントアジュバントは、ホストの動物の投与部位に炎症および組織の壊死を引き起こすことがあったが、本実施形態に係る免疫賦活剤は、動物に過度の苦痛を与えることなく投与可能であり、安全、安価かつ容易に製造することができるので商業的価値が非常に高い。
【0101】
〔食品添加物〕
本実施形態に係る免疫賦活剤は、飲食品用の添加物として利用することもできる。本実施形態に係る免疫賦活剤を、飲食品用の添加物として利用することによって、免疫賦活活性を持つ飲食品組成物を提供することが出来る。免疫賦活活性を持つ飲食品組成物としては、例えば、免疫賦活、免疫活性化、又は免疫力アップ等の表示がなされた特定保健用飲食品、機能性表示飲食品、又は栄養機能飲食品が挙げられる。
【0102】
5.まとめ
以上から明らかなように、本発明は以下を包含する。
<1> 粒子状キトサンとTLR(toll様受容体)リガンドとを含んでいる、免疫賦活剤。
<2> さらにアニオン性界面活性剤を含む、<1>に記載の免疫賦活剤。
<3> 上記アニオン性界面活性剤が、リン脂質、炭素数10以上22以下の脂肪酸およびその塩から選択される少なくとも1種類である、<2>に記載の免疫賦活剤。
<4> 上記リン脂質が、レシチンまたはリゾレシチンであり、上記脂肪酸またはその塩が、オレイン酸ナトリウムまたはラウリン酸ナトリウムである、<3>に記載の免疫賦活剤。
<5> 上記粒子状キトサンが、重量平均分子量が5K以上1000K以下、かつ、粒子径が500nm以下である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の免疫賦活剤。
<6> 上記TLRが、ヒトのTLR3、4および7~9からなる群より選ばれる少なくとも1種である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の免疫賦活剤。
<7> さらに、抗原を含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の免疫賦活剤。
<8> さらに、α-GalCerを含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の免疫賦活剤。
<9> 免疫賦活剤製造用のキットであって、容器に格納されている、アニオン性界面活性剤を保持しているキトサンと、キットの使用説明と、を備えており、上記キトサンは、粒子状キトサンであり、上記使用説明には、上記粒子状キトサンに、TLRリガンドを保持させることで免疫賦活剤を製造することが記載されている、免疫賦活剤製造用のキット。
<10> <1>~<8>のいずれか1つに記載の免疫賦活剤を含む、ワクチン。
<11> 上記ワクチンは、がんワクチンである、<10>に記載のワクチン。
<12> 粒子状キトサンにTLRリガンドを保持させる工程を含む、免疫賦活剤の製造方法。
【0103】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0104】
〔実施例1〕
(微粒子化キトサン分散液の調製)
キトサン(FL-80、甲陽ケミカル社製、脱アセチル化度90%、重量平均分子量30000、Lot0507-27)500mgを蒸留水25mlに分散し、酢酸200μlを加えて溶解した。キトサン溶液に、キトサンのアミノ基の0.28当量になるようにオレイン酸ナトリウム(アニオン性界面活性剤)を添加し、5mM酢酸緩衝生理食塩水(pH5.0)に微粒子化キトサンが0.1wt%で懸濁されている溶液(以下、溶液A)を得た。さらに、この溶液Aに、抗原として卵白アルブミン(OVA、和光純薬工業社製)1μlを添加して微粒子化キトサン懸濁液(以下、CN溶液)を得た。
【0105】
(試験溶液の調製)
CN溶液にTLR4アゴニストとしてMPL(Monophosphoryl lipid A (Synthetic)(PHAD)、Avanti Polar Lipids社製、#699800P、PHADはAvanti Polar Lipids社の登録商標)10μlを添加し、100μl中に微粒子化キトサン10μg、OVA1μgおよびMPL10μgを含む試験液M10を得た。
【0106】
また、CN溶液にMPL1μlを添加して、100μl中に微粒子化キトサン10μg、OVA1μgおよびMPL1μgを含む試験液M1を得た。
【0107】
(免疫)
5週齢のメスのBalb/cAJclマウス(日本クレア社)を1週間馴化し、各群5匹となるようにランダムに群分けした。
【0108】
1群にCN溶液100μlを、2群に試験液M10 100μlを、3群に試験液M1 100μlを、2週間間隔で2回腹腔内投与し、各免疫から1週間後に尾静脈から採血して血清サンプルを得た。
【0109】
(抗体価の測定)
OVAを、50mM炭酸緩衝液(pH9.6)を用いて2μg/mlとなるように調製した。このOVA溶液を96穴プレートに1ウェルあたり100μlずつ分注して、抗原の固相化プレートを作製し、Block Ace(雪印乳業社製、カタログナンバーUK-B80)を用いてブロッキングを行った。
【0110】
6000倍希釈した各血清サンプルを100μlずつ各ウェルに添加し、常温で2時間反応させた。二次抗体として、HRP標識抗マウスIgG1抗体(Bethyl社製、カタログナンバーA90-105P)、HRP標識抗マウスIgG2a抗体(Bethyl社製、カタログナンバーA90-107P)、またはHRP標識抗マウスIgG2b抗体(Bethyl社製、カタログナンバーA90-109P)を用いて、それぞれ室温で2時間反応させた。
【0111】
TMBZ(Sigma社、カタログナンバーT3405)を基質として、室温で2時間反応させて2N硫酸で反応を停止させた。プレートリーダー(BIO-RAD社製:model 680 Cat. No. 168-1000)で吸光度(OD値)を測定した(dual:測定450nm、対照570nm)。結果を
図1に示す。
【0112】
〔実施例2〕
実施例1のCN溶液中のOVA添加量を10μlとし、実施例1と同様にして試験液を得た。なお、試験液は、100μl中に微粒子化キトサン10μg、OVA10μgおよびMPL10μgを含む試験液をM10-10とし、100μl中に微粒子化キトサン10μg、OVA10μgおよびMPL1μgを含む試験液をM1-10とした。
【0113】
マウスに対する免疫は、2群に試験液M10-10 100μlを、3群に試験液M1-10 100μlを投与した。また、二次抗体として、さらに、HRP標識抗マウスIgE抗体(Bethyl社製カタログナンバーA90-115P)を用いたこと以外は実施例1と同様に操作を行った。結果を
図2に示す。
【0114】
〔実施例3〕
実施例1と同様にして得たCN溶液に対し、MPLに替えて、TLR3アゴニストとしてPoly(I:C)(Invivogen社製、カタログナンバーtlrl-pic、以下Poly(I:C))30μgを添加し、100μl中に微粒子化キトサン10μg、OVA1μgおよびPoly(I:C)30μgを含む試験液P30を得た。また、Poly(I:C)の添加量を10μgとした試験液P10を得た。さらに、Poly(I:C)の添加量を3μgとした試験液P3を得た。
【0115】
マウスに対する免疫は、2群に試験液P30 100μlを、3群に試験液P10 100μlを、4群にP3 100μlを投与した。これ以外は実施例1と同様に操作を行った。結果を
図3に示す。
【0116】
〔実施例4〕
実施例1と同様にして得たCN溶液に対し、MPLに替えてTLR9アゴニストとしてマウス特異的クラスBのCpG(Invivogen社製、ODN 1826 VacciGrade、カタログコードvac-1826-1)15μgを添加し、100μl中に微粒子化キトサン10μg、OVA1μgおよびCpG15μgを含む試験液C15を得た。また、CpGの添加量を5μgとした試験液C5を得た。さらに、CpGの添加量を1.5μgとした試験液C1.5を得た。
【0117】
マウスに対する免疫は、2群に試験液C15 100μlを、3群に試験液C5 100μlを、4群にC1.5 100μlを投与した。これ以外は実施例1と同様に操作を行った。結果を
図4に示す。
【0118】
〔実施例5〕
実施例1と同様にして得たCN溶液に対し、MPLに替えてTLR7/8アゴニストとしてR848(東京化成工業社製、resiquimod:製品コードR0197)10μgを添加し、100μl中に微粒子化キトサン10μg、OVA1μgおよびR848 10μgを含む試験液R10を得た。また、R848の添加量を3μgとした試験液R3を得た。さらに、R848の添加量を1μgとした試験液R1を得た。
【0119】
マウスに対する免疫は、2群に試験液R10 100μlを、3群に試験液R3 100μlを、4群にR1 100μlを投与した。これ以外は実施例1と同様に操作を行った。結果を
図5に示す。
【0120】
〔実施例6〕
実施例1と同様にして得たCN溶液に対し、MPL3μgとPoly(I:C)3μgとを添加し、100μl中に微粒子化キトサン10μg、OVA1μg、MPL3μg、およびPoly(I:C)3μgを含む試験液MP3を得た。また、MPL3μgとPoly(I:C)3μgに替えて、MPL3μgとCpG3μgとを添加した試験液MC3を得た。また、MPL3μgとPoly(I:C)3μgに替えて、MPL3μgとR848 3μgとを添加した試験液MR3を得た。また、MPL3μgとPoly(I:C)3μgに替えて、Poly(I:C)3μgとCpG3μgとを添加した試験液PC3を得た。また、MPL3μgとPoly(I:C)3μgに替えて、Poly(I:C)3μgとR848 3μgとを添加した試験液PR3を得た。また、MPL3μgとPoly(I:C)3μgに替えて、CpG3μgとR848 3μgとを添加した試験液CR3を得た。
【0121】
マウスに対する免疫は、1群にMP3 100μlを、2群に試験液MC3 100μlを、3群に試験液MR3 100μlを、4群にPC3 100μlを、5群にPR3 100μlを、6群にCR3 100μlを投与した。これ以外は実施例1と同様に操作を行った。結果を
図6に示す。
【0122】
〔参考例〕
実施例1と同様にして得たCN溶液に対し、MPLに替えてNKT細胞を活性化する糖脂質としてα-GalCer(フナコシ社製、商品コードKRN7000)1μgを添加し、100μl中に微粒子化キトサン10μg、OVA1μgおよびα-GalCer1μgを含む試験液α1を得た。また、α-GalCerの添加量を0.1μgとした試験液α0.1を得た。さらに、α-GalCerの添加量を0.01μgとした試験液α0.01を得た。
【0123】
マウスに対する免疫は、2群に試験液α1 100μlを、3群に試験液α0.1 100μlを、4群にα10.01 100μlを投与した。これ以外は実施例1と同様に操作を行った。結果を
図7に示す。
【0124】
〔実施例7〕
実施例1と同様にして得たCN溶液に対し、MPL3μgとPoly(I:C)3μgとα-GalCer3μgとを添加し、100μl中に微粒子化キトサン10μg、OVA1μg、MPL3μg、Poly(I:C)3μgおよびα-GalCer3μgを含む試験液MPα3を得た。また、MPL3μgとPoly(I:C)3μgとα-GalCer3μgに替えて、MPL3μgとCpG3μgとα-GalCer3μgとを添加した試験液MCα3を得た。また、MPL3μgとPoly(I:C)3μgとα-GalCer3μgに替えて、Poly(I:C)3μgとCpG3μgとα-GalCer3μgとを添加した試験液PCα3を得た。
【0125】
マウスに対する免疫は、1群に、実施例6に記載のMP3 100μlを、2群に、実施例6に記載の試験液MC3 100μlを、3群に、実施例6に記載の試験液PC3 100μlを、4群にMPα3 100μlを、5群にMCα3 100μlを、6群にPCα3 100μlを2週間間隔で2回腹腔内投与した。各免疫から1週間後に尾静脈から採血して血清サンプルを得た。
【0126】
これ以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を
図8に示す。
【0127】
〔実施例8〕
血清サンプルを、2回目の免疫から6、12および24時間後に尾静脈から採血し、抗体価に替えてサイトカイン価を測定した以外は、実施例7と同様の操作を行った。
【0128】
サイトカイン価の測定は、以下のように行った。まず、ELISA Kit,Quantikine Mキット(R&D Systems社、IL-4,Mouse,ELISA Kit:M4000B、IL-2,Mouse,ELISA Kit:M2000、IFN-γ,Mouse,ELISA Kit:MIF00)を使用し、5倍希釈した血清サンプルを100μl/wellずつ各ウェルに添加し、室温で2時間反応させた。
【0129】
二次抗体として、HRP標識抗マウスIL-4抗体(R&D Systems製、カタログナンバー892701)、HRP標識抗マウスIL-2抗体(R&D Systems社製、カタログナンバー890328)、HRP標識抗マウスIFN-γ抗体(R&D Systems社製、カタログナンバーNo.892666)用いて、室温で2時間反応させた。TMBZ(Sigma社製、カタログナンバーT3405)を基質として室温で20分間反応させて2N硫酸で反応を停止させた。プレートリーダー(BIO-RAD社製:model 680 Cat. No. 168-1000)で吸光度(OD値)を測定した(dual:測定450nm、対照570nm)。結果を
図9に示す。
【0130】
〔実施例9〕
実施例1で得た溶液Aを-20℃で1週間保存した。用時において、溶液Aに抗原としてOVA1μlと各TLRアゴニストを添加し、100μl中に微粒子化キトサン10μg、OVA1μgおよびTLRアゴニスト3μgを含む試験液をそれぞれ得た。
TLRアゴニストとしては、MPL3μl、Poly(I:C)3μg、CpG3μgをそれぞれ用いた。また、コントロールとして、全ての溶液を用時に混合した溶液をそれぞれ得た。
【0131】
マウスに対する免疫は、実施例と同様の方法を用いて、抗体価を測定した。結果を
図10に示す。
【0132】
〔実施例10〕
C57BL/6NJclマウス、雌7週齢(日本クレア社)を1週間馴化し、各群7匹となるようにランダムに群分けした。)
がん細胞として、EL4リンフォーマ細胞にOVA遺伝子を導入したEG7-OVA細胞(ATCC CRL-2113 (登録商標))の細胞懸濁液を、等量のマトリゲル基底膜マトリックス(コーニング社 カタログ番号354277)と氷冷下で混合し、5×105個の細胞(液量0.1ml)をマウスの皮下に移植した。
【0133】
以下の処方でがんワクチンの接種をした。がんワクチンは、がん細胞移植の7日前、移植後2、4および6日目にそれぞれ皮下投与した。
【0134】
1群:非接種
2群:微粒子化キトサン30μg+CpG10μg+poly(I:C)10μg+α-GalCer10μg+OVA30μg
3群:微粒子化キトサン30μg+CpG10μg+poly(I:C)10μg+MPL10μg+α-GalCer10μg+OVA30μg。
【0135】
がん細胞の移植から9、16および23日後に、がん組織の大きさを測定した。がん組織の大きさは、長径と短径をノギスで計測して、長径×短径
2/2という値で表示した。結果を
図11に示す。
【0136】
図1のグラフは、左上、右上、左下の順に、それぞれ、IgG1、IgG2a、IgG2bの産出を示す。
図1より、MPLを添加した場合に、10μgまたは1μgという少量の添加で、IgG2aおよびIgG2bの産生が顕著になり、IgG1の産生も増強された。なお、
図1以降の図面におけるCSはキトサンを、NaOIはオレイン酸ナトリウムを、OVAは卵白アルブミンを表している。また、
図2以降の図面におけるCSNP及びCS nanoparticlesはいずれも微粒子化キトサンを表している。
【0137】
図2のグラフは、左上、右上、左下、右下の順に、それぞれ、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgEの産出を示す。
図2より、OVAの投与量を1μgから10μgに増量することによって、微粒子化キトサンを単独で使用した場合でも、IgG2aおよびIgG2bの産生が明確に検出されるようになり、MPLの添加によってさらに増強された。いずれの条件においても、IgE産生はわずかであった。
【0138】
図3~
図8および
図10のグラフは、左上、右上、左下の順に、それぞれ、IgG1、IgG2a、IgG2bの産出を示す。
【0139】
図11のグラフは、がん組織の大きさを示す。左の列が1群、中央列が2群、右の列が3群である。
【0140】
図3より、3~30μgという少量のPoly(I:C)の添加で、IgG1、IgG2aおよびIgG2bのいずれの産生においても大幅に増強された。これは、Poly(I:C)の受容体TLR3が、主に抗原提示細胞の細胞内のエンドソームに存在しているため、抗原とアジュバントが一体化された状態で、効率良く抗原提示細胞に取り込まれたと考えられる。
【0141】
図4より、1.5~15μgという少量のCpGの添加で、IgG2aおよびIgG2bの産生の大幅な増強が見られた。これは、CpGが抗原提示細胞の細胞内のエンドソームに存在しているCpGの受容体TLR9に効率よく送達されたためと考えられる。
【0142】
図5より、R848の添加によりIgG1、IgG2aおよびIgG2bの産生の増強が見られた。
【0143】
図6より、MPL、Poly(I:C)、およびCpGを2種類ずつ組み合わせた場合は、それぞれを単独で添加した場合に比べて、IgG1、IgG2aおよびIgG2bの産生がさらに増強された。
【0144】
また、
図7より、α-GalCerを添加した場合、IgG1、IgG2aおよびIgG2bの産生が増強された。
【0145】
図9より、CSNPs+CpG+Poly(I:C)+α-GalCerの組み合わせとCSNPs+MPL+CpG+α-GalCerの組み合わせとの場合において、IFN-γ、IL-2およびIL-4の産生が特に強く誘導された。これらのサイトカインの産生のピークは2回目の免疫後6時間であった。
【0146】
図1~9より、微粒子化キトサン、TLRリガンドおよびα-GalCerを含有する免疫賦活剤が、液性免疫(IgG1)と細胞性免疫(IgG2aおよびIgG2b)とのいずれも賦活化していることが見て取れる。
【0147】
図10より、いずれのTLRリガンドを用いても、調製済の微粒子化キトサンが懸濁されている溶液を冷凍保存した上で用時にTLRリガンドを添加した場合の結果は、全ての成分を用時に添加する場合の結果と同様であった。
【0148】
図11より、ワクチンを投与すると、がん組織の肥大を抑制することが見て取れる。
【0149】
〔実施例11〕
実施例10に続いて、微粒子化キトサン(オレイン酸ナトリウム(nacalai tesque、25702-82)を含んでいる)およびTLRリガンドの組み合わせが腫瘍に対して示す影響を、さらに調べた。実施例10と異なる点を以下にまとめる。
【0150】
(a)投与物
試験物1(群2):微粒子化キトサン+OVA+CpG
試験物2(群3):微粒子化キトサン+OVA+poly(I:C)
試験物3(群4):微粒子化キトサン+OVA+MPLA
試験物4(群5):微粒子化キトサン+OVA+R848
試験物5(群6):微粒子化キトサン+OVA+CpG+poly(I:C)+α-GalCer
対照物1(群1):無投与
対照物2(群9):微粒子化キトサン+OVA
対照物3(群10):アジュバント1+OVA
対照物4(群11):アジュバント2+OVA。
【0151】
(b)投与物の組成
(a)において、「OVA」は、Ovalbumin EndoFit(InvivoGen)を、「CpG」は、ODN1688 ClassB、カタログナンバーtlrl-1668-1(InvivoGen)を、「R848」は、CL097、カタログナンバーtlrl-C97(InvivoGen)を表す。
【0152】
試験物5は、OVAの量を30μgから10μgに、CpGおよびpoly(I:C)の量を10μgから3μgに、α-GalCerの量を10μgから1μgに減らしたことを除いて、実施例10に記載の「2群」と同じである。試験物1~4は、1種のPAMP(CpG、poly(I:C)、MPLAまたはR848)のみを使用(3μgの量は同じ)し、α-GalCerを使用しないことを除いて、試験物5と同じである。
【0153】
対照物1は、微粒子化キトサン、OVAおよびPAMPを含んでいない試験物1~4である。アジュバント1は、30μgの微粒子化キトサンの代わりに、2mg(調製可能な濃度の上限)の従来のアジュバント(水酸化アルミニウムゲル;Imject(登録商標) Alum Adjuvant(サーモフィッシャー))である。アジュバント2は、30μgの微粒子化キトサンを、30μg(FL-80と同量)の従来のアジュバント(水酸化アルミニウムゲル;LG-6000(LSL社))である。
【0154】
(c)試験日程
以下の表に、動物が受ける各工程の種類および腫瘍細胞の投与日(0d)を基準にした日程をまとめる。上記表に記載の「ワ投」(VA)は、vaccine administrationの略であり、上記(投与物)を動物に投与したことを表す。
【0155】
【表1】
(d)動物に対する投与部位
実施例10の記載にしたがって、がん細胞を動物の皮下(背側左側)に移植し、上記投与物を動物の皮内(背側右側)に投与した。群1~11のそれぞれは、上記表の0dに、7匹の動物を含んでいた。
【0156】
(e)結果
(a)~(d)にしたがって、試験を実施した結果を、
図12に示す。
図12に示されている通り、試験物5(群6)は、対照物1と比較すると、実施例10より少ない量の、PAMP(TLRリガンド)が腫瘍縮小効果の実現に十分であることを示している。試験物1~4(群2~5)は、試験物5と比較すると、腫瘍縮小効果の実現に、1種類のTLRリガンドを要とすることを示している。試験物1~4は、腫瘍縮小効果の実現に、α-GalCerを必ずしも要しないことを示している。
【0157】
単独のTLRとしてCpGおよびR848が腫瘍縮小効果に最も優れ、次いで、MPLAおよびpoly(I:C)の順に、腫瘍縮小効果に優れていることを、試験物1~4は示している。試験物1~5および対照物2の比較は、微粒子化キトサンに加えられるTLRリガンドの種類の適切な選択が、腫瘍縮小効果の向上に寄与することを示している。なお、対照物1~4は、腫瘍縮小には、微粒子化キトサンが、アジュバント1および2より有効であることを示している。
【0158】
〔実施例12〕
キトサン誘導体(マンノース修飾されているFL-80)を含んでいる微粒子化キトサンおよびTLRリガンドの組み合わせの有効性(腫瘍縮小および血中抗体価上昇)を、さらに調べた。実施例11と異なる点を以下に説明する。血中IgGの測定方法は、血清サンプルを8000倍希釈すること、HRP標識抗マウスIgG抗体(株式会社ニチレイ、Code424131)を二次抗体として使用したことを除いて、実施例1の記載にしたがった。
【0159】
(a)投与物
試験物1(群2):微粒子化キトサン+MPLA
試験物2(群3):微粒子化キトサン+CpG
試験物3(群4):微粒子化キトサン+poly(I:C)
対照物1(群1):無投与
対照物2(群5):微粒子化キトサン+α-GalCer
対照物3(群6):微粒子化キトサン。
【0160】
(b)試験日程
以下の表に、動物が受ける各工程の種類および腫瘍細胞の投与日(0d)を基準にした日程をまとめる。観察測定終了(47d)の後に採血し血中抗体価を測定した。
【0161】
【表2】
(c)結果
キトサン誘導体の有効性を調べた結果を
図13に示す。
図13の左上および左下に示す通り、キトサン誘導体は、キトサンFL-80と同様に、TLRリガンドの種類によって程度の異なる腫瘍縮小効果を示した(特に試験物2および3)。
図13の右側に示す通り、キトサン誘導体は、キトサンFL-80と同様に、血中抗体価の上昇を示した。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明は、免疫賦活剤として利用することができる。