(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】収穫装置のエンドエフェクタ
(51)【国際特許分類】
B25J 15/00 20060101AFI20220427BHJP
A01D 46/30 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
B25J15/00 F
A01D46/30
(21)【出願番号】P 2021163172
(22)【出願日】2021-10-03
【審査請求日】2021-10-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】719002344
【氏名又は名称】萩原 康史
(72)【発明者】
【氏名】萩原 康史
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特許第6799363(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D 46/30
B25J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
葉菜または果菜、果樹を把持するエンドエフェクタで、
回転中央領域が中空で外周縁から中空部まで切欠が設けられた、モーターで回転駆動される回転体と、
回転体と隣接配置された、外周縁から回転体中空部の対象物を支持する位置まで切欠が設けられた固定体と、
回転体中空部に回転径方向に回動可能に回転体と連結され、対象物である
葉菜または果菜、果樹を損傷しない程度の弱い力で回転径方向内方に弾性的に付勢され、
対象物に押されて回転径方向外方に退避しつつ
対象物を傷付けることなく把持する押圧部と、
固定体と連結した、固定体の切欠の奥部領域の回転体中空部に対象物を支持する支持部と、
を備えるエンドエフェクタ。
【請求項2】
複数の押圧部が備えられていることを特徴とする請求項1に記載のエンドエフェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マニピュレータに装着するエンドエフェクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、果菜類の果実を収穫する果菜収穫装置として、例えば、特許文献1に記載された野菜収穫機の摘果装置が知られている。この摘果装置は、左右両側へ開閉自在で果菜類を把持する把持プレ-トと、カッタ刃を装着して前後及び上下方向へスライド移動自在で平面視U字形状の摘果プレ-トとで果菜類の果柄部の切断等を行うエンドエフェクタを備えている。
【0003】
特許文献2に記載された果菜収穫装置は、ハンド基部に支持され吸引チューブを介して吸引ポンプと接続されており、吸引ポンプが駆動すると果菜を吸着し保持する吸着パッドを備え、ハンド基部に支持され且つ果梗に当接可能な指部を有する収穫ハンドを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-188928号公報
【文献】特開2020-184936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の、左右に開閉する把持プレート2枚で左右から押圧して把持する収穫ハンドは、収穫対象の果菜の太さや形状が必ずしも均一ではないため、把持が不確実で安定した把持が出来ないという問題があった。また、収穫対象ごとに把持する力の調整が出来ないため、把持した果菜を損傷する場合があった。
【0006】
また従来の果菜を吸着パッドに吸着して保持する方法では、吸引チューブを介して吸引ポンプと接続する必要があり、装置が大型で複雑な機構になるという問題があった。また、果実表面が吸着に適さない種類の果菜や果樹では、吸引では保持できないという問題があった。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な機構で果菜や果樹を傷付けずに把持することができるエンドエフェクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
葉菜または果菜、果樹を把持するエンドエフェクタで、回転中央領域が中空で外周縁から中空部まで切欠が設けられた、モーターで回転駆動される回転体と、回転体と隣接配置された、外周縁から回転体中空部の対象物を支持する位置まで切欠が設けられた固定体と、回転体中空部に回転径方向に回動可能に回転体と連結され、対象物である果実を損傷しない程度の弱い力で回転径方向内方に弾性的に付勢され、果実に押されて回転径方向外方に退避しつつ果実を傷付けることなく把持する押圧部と、固定体の切欠の奥部領域の回転体中空部に対象物を支持する、固定体と連結した支持部と、を備える。
【0009】
複数の押圧部が備えられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、従来の収穫装置の備えるエンドエフェクタでは、適切に把持することが困難であった果菜や果樹を簡易な機構で傷付けずに確実に把持することができるエンドエフェクタを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明に係るエンドエフェクタの斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明に係るエンドエフェクタの概略図である。
【
図3】
図3は、回転体が回転する動作を示す概略図である。
【
図4】
図4は、対象物を把持した状態を示す概略図である。
【
図5】
図5(a)は、把持前の状態を示す概略図である。
図5(b)は、対象物を把持する動作を示す概略図である。
図5(c)は、対象物を把持した状態を示す概略図である。
【
図6】
図6は、押圧部が回動しつつ対象物を把持した状態を示す概略図である。
【
図7】
図7は、把持を
放す動作を示す概略図である。
【
図8】
図8は、円柱状の対象物を
放した状態を示す概略図である。
【
図9】
図9は、球体状の対象物を把持するためのエンドエフェクタを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
果菜や果樹などの対象物1を把持する押圧部5を、回転させて移動するための旋回手段として、回転中央領域が中空となっている回転体2と、回転体2と隣接配置された固定体3を備え、回転体2はモーター8を用いて回転駆動される。
【0013】
押圧部5は、回転体2の中空部に回転体2と固定して備えられた回動軸4で回転径方向に回動可能に連結している。押圧部5の回動範囲は、回転径方向内方へは押圧部5の押圧面の位置が回転中心を超えない範囲で回動規制されている。
【0014】
押圧部5は回動軸側から先端までの中間部が凹となる凹型湾曲形状で、回転体2の筒部内面上に備えられた圧縮ばね6によって回転径方向内方に弾性的に付勢されている。この付勢力は、把持時に押圧部5と支持部7から対象物1に押圧力と摩擦力が加わったとき、対象物を把持しつつ損傷しない強さに設定されている。押圧部5は、回転体2に複数備えることが出来る。
図9に示すエンドエフェクタには、1つの回転体に5つの押圧部が備えられている。複数の押圧部を備えることで、円柱状の対象物に限らず、長球体状の対象物や複雑な形状の対象物も好適に把持することが出来る。
【0015】
回転体2には、外周縁から中央領域の中空部まで、対象物1を挿抜するための切欠が設けられている。また、回転体2と隣接配置された固定体3には、外周縁から回転体中空部で対象物1を把持する位置まで対象物1を挿抜するための切欠が設けられており、固定体3の切欠と、回転体2の切欠が揃った状態で、対象物1が回転体2の中空部で押圧部と支持部とで把持される領域内に挿抜される。押圧部5は、固定体3の切欠と回転体2の切欠とが揃った状態で対象物1を挿抜するとき、対象物1を挿抜するのに邪魔にならない位置で回転体2に備えられている。
【0016】
支持部7は、固定体3と連結して備えらえており、対象物1が押圧部5に押圧され把持するとき、対象物1を挟んで対向し支持するように設けられている。支持部7は、回転体中空部の回転中央に近い領域に備えられ、対象物1を支持するU字形の凹部を備える。支持部7は、押圧部5が対象物1を押圧する時、固定体の切欠の奥部領域で対象物1を支持するように設けられている。支持部7の形状はU字状の凹部に限らず、
図9に示すように、支持部の一部に球面状の凹部を備えることで、長球体状の対象物や複雑な形状の対象物をより好適に把持することが出来る。
【0017】
回転体2は、図示されない制御部からの信号を受けて、モーター8によって回転駆動される。把持する動作の前に、制御部から把持準備の命令信号を受けて、回転体2は、固定体3の切欠と回転体2の切欠が揃った位置まで回転して停止する。
【実施例】
【0018】
図面を参照して、本発明に係る切断装置の動作について説明する。
図1に示す対象物1を把持する把持手段を備えたエンドエフェクタで、その内部の構造を
図2に示している。
図2に示すエンドエフェクタの回転体2には、回動する3つの押圧部と、3つの圧縮ばねとを備えており、それぞれ1つの圧縮ばねが1つの押圧部を回転径方向内方に付勢している。3つの押圧部5のそれぞれが対象物1の把持する位置の太さに合わせて回転径方向外方に回動しつつ、対象物1を弾性的に支持部7に向けて押圧することで、安定した把持をすることが出来る。固定体3の切欠と回転体2の切欠が揃った状態で、対象物1を外周縁の切欠から回転体中空部の領域内に向けて挿入するようにマニピュレータによってエンドエフェクタを移動し、対象物1を把持する位置が回転体2の中空部領域となる位置でエンドエフェクタを保持する。
【0019】
制御部から把持の命令信号を受けて、
図3に示すように、モーター8の駆動力によってベルト9で回転体2を駆動し回転体2を回転させる。回転体2を回転させることで、回転体2の筒部内側に備えられた回動軸4で連結した押圧部5が、固定体3の切欠の奥部に設けられた支持部7の方向に対象物1を移動させ、
図4、
図5(c)に示すように、回転径方向内方へ圧縮ばねで付勢された押圧部5が、回転体2の回転中央付近に固定体3と連結して備えられた支持部7に向けて、対象物1を弾性的に押圧して把持する。この時、
図6に示すように、把持する対象物1の太さに合わせて、押圧部5が圧縮ばね6の付勢力に抗して回転径方向外方の回動方向11に回動することで、把持する力が強すぎて対象物1が損傷することを防止している。
【0020】
制御部から把持を解除する命令信号を受けて、回転体2を押圧部5が対象物1を押圧しない位置まで回転させて停止する。この時の回転体の回転方向は、
図7に示すように、把持する時と同じ回転方向10でも良いし、回転方向10とは逆方向に回転させて、
図5(b)に示す位置まで回転体2を戻すように移動させて、押圧部5の把持を緩めつつ
放すことも出来る。
【0021】
上述のように、対象物1を固定体3の外周縁の切欠から回転体中空部の把持領域に向けて挿入して保持し、把持の命令信号を受けて回転体2を回転させることで、回転体2上に回動可能に備えられ回転径方向内方に圧縮ばね6で付勢された押圧部5が、押圧部5の回転径方向内面を対象物1に滑らせながら押圧し、押圧部5の回転径方向内面で、固定体3に固定された支持部7の凹部に向けて、対象物1を押圧し把持する。把持を放せとの命令信号を受けて、回転体2を押圧部5が対象物1を押圧しない位置まで回転させて停止する。
【0022】
図5を参照して、対象物1を把持する動作を説明する。
図5(a)に把持動作前の押圧部5の状態を示す。固定体3の切欠と回転体2の切欠が揃った状態で、対象物1は切欠奥部に支持部7を備えた固定体3の切欠内で、回転体中空領域に保持されている。
【0023】
図5(b)に、押圧部5で対象物1を把持する動作を示す。把持せよとの命令信号を受けて、回転体2が回転方向10の方向に回転し、回動軸4側から押圧部先端までの中間部が凹となる凹型湾曲形状の押圧部5が、回動軸4側から押圧部先側に押圧部5の凹部内面を対象物1に滑らせながら押圧する。この時、回転体筒部内面上に備えられた押圧部5を回転させ、固定体3の切欠内に保持されている対象物1に、弾性的に備えられた押圧部5を滑らせつつ押圧し、切欠奥部の支持部7が備えられた位置まで対象物1を移動することで、対象物1に強い押圧力が加わらず損傷を抑制することができる。回転体2は、回転径方向内方に弾性的に付勢された押圧部5が、固定体3の切欠奥部に備えられた支持部7に向けて対象物1を押圧し、押圧部5と支持部7とが対象物1を挟んで対向し対象物1を把持した状態で停止する。
【0024】
図5(c)に、押圧部5が支持部7に向けて対象物1を押圧して把持し、停止している状態を示す。圧縮ばね6で回転径方向内方に弾性的に付勢された押圧部5が、固定体3に備えられた支持部7の凹部に対象物1を押圧し、把持している。
図6に示すように、対象物1の太さによって、押圧部5が圧縮ばね6の付勢力に抗して回動方向11に退避する。圧縮ばねによる付勢力の強さを、対象物を落下させずに把持する力で、且つ、対象物を損傷しない力とすることで、太さや形状が必ずしも一定でない収穫対象物を損傷することなく好適に把持する。
【0025】
図6は、押圧部5が圧縮ばね6の付勢力に抗して回動方向11に回動して退避しつつ、押圧部5が対象物1を支持部7に押圧し把持した状態の概略図である。果菜などの収穫対象物は太さや形が一定ではないが、果実を損傷しない程度の力で回転径方向内方に付勢された押圧部5が、対象物1に押されて回転径方向外方に退避しつつ対象物1を把持することで、太さや形の異なる対象物を損傷させずに好適に把持することが出来る。
【0026】
図7、
図8は、対象物の把持を
放し、収穫する動作を示す概略図である。制御部から把持を解除する命令信号を受けて、回転体2を押圧部5が対象物1を押圧しない位置まで回転させて停止する。この時、回転体2の切欠と固定体3の切欠とが揃っていない位置で、且つ、押圧部5が対象物1を押圧していない位置で回転体2の回転を停止させることで、対象物1を切欠内に位置規制しつつ、対象物1を対象物の自重で移動方向12に移動させ、収穫装置の限られた位置に対象物1を収穫することが出来る。
【0027】
図9は、1つの回転体2に複数の押圧部5と、複数の圧縮ばね6を備えたエンドエフェクタを示す概略図である。複数の押圧部5が、それぞれが把持する位置の対象物の太さに合わせて対象物1に押されて回転径方向外方に退避しつつ、回転径方向内方の支持部7に向けて弾性的に対象物1を押圧することで、長球体状の対象物や、複雑な形状の対象物でも、手指で対象物を握って持つように、好適に把持することができる。また、
図9に示すように支持部7の一部を球面状の凹形状とすることで、押圧部5に押された対象物1が支持部7の球面状の凹部に向けて押圧されることで更に安定した把持が行われる。これにより、球体状の対象物や複雑な形状の対象物も好適に把持することが出来る。
【0028】
対象物1を把持するために固定体3の切欠に対象物を挿し込む時には、
図1、
図5(a)に示すように、回転体2の切欠と固定体3の切欠とが揃った位置となっているが、マニピュレータによって把持対象物の近くまでエンドエフェクタを移動する時には、
図8に示すように、回転体2の切欠の位置を、固定体3の切欠の位置と揃えないことで、固定体3の切欠に把持対象物以外のものが入り込むのを防ぐことができる。それにより、把持対象物の周辺の茎や果実への損傷を防ぎながら、対象物を確実に把持することが出来る。
【0029】
上記の機構により、モーターで駆動する簡易な機構で、収穫対象物の付近の茎や果実の損傷を防ぎつつ、収穫する果実も損傷なく好適に把持することで、果実の商品価値を高く保つことができる。
【0030】
なお本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用できる。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、配置箇所などは本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0031】
また、駆動力の伝達方法はベルトに限らず、回転体を回転駆動し、停止させることのできる方法であれば任意である。例えば、チェーンや歯車を用いた方法である。
【0032】
また、支持部の形状は、U字形に限定されるものではなく、本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。例えば、球面状の凹形状や長球状の凹形状である。
【符号の説明】
【0033】
1 対象物
2 回転体
3 固定体
4 回動軸
5 押圧部
6 圧縮ばね
7 支持部
8 モーター
9 ベルト
10 回転方向
11 回動方向
12 移動方向
【要約】
【課題】
従来の収穫装置が備える果実を保持する装置は、構造は複雑であるが保持が不安定で確実でなかった。また、果実を保持する力が強いため果菜を損傷する場合があった。
【解決手段】
葉菜または果菜、果樹を把持する簡易な機構のエンドエフェクタで、回転中央領域が中空で外周縁から中空部まで切欠が設けられた、モーターで回転駆動される回転体と、回転体と隣接配置された、外周縁から回転体中空部の対象物を支持する位置まで切欠が設けられた固定体と、回転体中空部に回転径方向に回動可能に回転体と連結され、対象物である果実を損傷しない程度の弱い力で回転径方向内方に弾性的に付勢され対象物を押圧する押圧部と、固定体切欠の奥部領域の回転体中空部に対象物を支持する固定体と連結した支持部とを備え、果実に押されて押圧部が回転径方向外方に退避しつつ果実を傷付けることなく把持する。
【選択図】
図5