(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】伝導性ポリマー複合体
(51)【国際特許分類】
B33Y 10/00 20150101AFI20220427BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20220427BHJP
D01F 8/04 20060101ALI20220427BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220427BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220427BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20220427BHJP
B29C 67/00 20170101ALI20220427BHJP
【FI】
B33Y10/00
B33Y70/00
D01F8/04 A
C08L101/00
C08K3/04
C08K3/08
B29C67/00
(21)【出願番号】P 2017018021
(22)【出願日】2017-02-03
【審査請求日】2020-01-30
(32)【優先日】2016-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】レイチェル・プレスタイコ
(72)【発明者】
【氏名】サラ・ジェイ・ヴェラ
(72)【発明者】
【氏名】キャロライン・ムーアラグ
(72)【発明者】
【氏名】バルケフ・コーシュケリアン
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-038078(JP,A)
【文献】特開2005-150362(JP,A)
【文献】特開2004-207097(JP,A)
【文献】特表2016-501137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,B29C
B33Y,D01F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元印刷の方法であって、前記方法が:
複合体を三次元プリンタに提供する工程であって、前記複合体が、熱可塑性ポリマー、前記伝導性ポリマー複合体の総重量に対して5重量%~20重量%の範囲の量の複数の多層カーボンナノチューブ、および前記伝導性ポリマー複合体の総重量に対して30重量~80重量%の範囲の量の複数の金属性粒子を含む工程;
複合体を加熱する工程;および
加熱された複合体をビルドプラットフォーム上に押出し、三次元対象物を形成する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記加熱された複合体がフィラメントの形態である、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
伝導性ポリマー複合体フィラメントであって、
熱可塑性ポリマー;
前記伝導性ポリマー複合体の総重量に対して5重量%~20重量%の範囲の量の複数の多層カーボンナノチューブ;および
前記伝導性ポリマー複合体の総重量に対して30重量%~80重量%の範囲の量の複数の金属性粒子
を含む、フィラメント。
【請求項4】
前記少なくとも複数の金属性粒子が、フレーク、粒子およびワイヤからなる群から選択される1つ以上の形態を含む、請求項
3に記載の伝導性ポリマー複合体フィラメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、伝導性ポリマー複合体を対象とする。
【背景技術】
【0002】
産業において実施されるような付加製造(三次元印刷としても知られる)は、これまでのところ大部分は、印刷する構造上の特徴に関するものである。機能に関する特性(例えば電子的特徴)を付加製造に繋げる材料およびプロセスが必要とされている。最近、付加製造において潜在的に有用である伝導性材料が市販されているが、それらの伝導率は一般に低く、~10-3S/cmから~2.0S/cm程度までの範囲である。市販材料、特にアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)またはポリ乳酸(PLA)のような伝導性材料の機械的特性は、一般に限定され(例えば、可撓性ではなく、および/または相当脆性である)、このことが伝導性構成成分としての使用を制限する。
【0003】
ポストアセンブリが制限された完全に一体化された機能性対象物を容易に印刷するために使用できる改善された材料を開発することは付加製造の分野にとって大変興味深い。これは、伝導性材料によって可能となり得る場合は特に、日用品の製造および消費において完全に新規な設計を可能にし得る。対象物内に伝導性構成成分を印刷できることは、埋め込まれたセンサおよび電子機器のための可能性を提供できる。
【0004】
付加製造において共通する技術は、加熱されたノズルを通した溶融ポリマーの押出を利用する。この方法は、例えば熱溶解積層法(FDM)に使用され、ここでフィラメントは連続押出のためのホットゾーンに供給される。溶融ポリマーは、3D対象物を形成するために、ビルドプレートにレイヤー・バイ・レイヤーで堆積できる。現在のところ、市場において電気伝導率を示すフィラメント材料はほとんどなく、その中で利用可能なものは、相対的に低い伝導率を有し、これが潜在的な用途の範囲を制限する。材料は、通常、1つの伝導性材料が、絶縁ポリマーベースを通したパーコレーティングネットワークを形成するように構成され、こうして電子が流れる連続経路を有する。この伝導性ネットワークの形成は、伝導性粒子がポリマーベース内に配列されるように制限される。これらの材料は、学術および産業において広く調査されているが、その焦点は、通常、パーコレーティングネットワークを形成するために必要とされる伝導性添加剤の量を最小限にすることであり、ここで伝導率は相対的に低い。電気パーコレーションの研究を対象とする論文の1つの例は、Yao Sun et al.,Modeling of the Electrical Percolation of Mixed Carbon Fillers in Polymer-Based Composites,Macromolecules 2009,42,459-463であり、これには、ポリマー複合体についてパーコレーション閾値を低下させるために、多層カーボンナノチューブおよびいずれかのカーボンブラックまたはグラファイトの使用が記載されている。この論文には、パーコレーション閾値を実質的に超えて伝導率を増大させるための技術は記載されてない。付加製造のための伝導性ポリマーの使用についても議論されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
増大した伝導率を示す新規な可塑性複合体材料は、当該技術分野において歓迎すべき一歩となり得、付加製造の分野において重要な影響を与え得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態は、伝導性ポリマー複合体を対象とし、熱可塑性ポリマー;複数のカーボンナノチューブ;および伝導性ポリマー複合体の総重量に対して約0.5重量%~約80重量%の範囲の量で複数の金属性粒子を含む。
【0007】
本開示の別の実施形態は、三次元印刷の方法を対象とし、複合体を三次元プリンタに提供する工程;複合体を加熱する工程;および加熱された複合体をビルドプラットフォーム上に押出し、三次元対象物を形成する工程を含み、複合体は、熱可塑性ポリマー、伝導性ポリマー複合体の総重量に対して2重量%~約40重量%の範囲の量のカーボンナノチューブ、および伝導性ポリマー複合体の総重量に対して約0.5重量%~約80重量%の範囲の量の複数の金属性粒子を含む。
【0008】
本開示の別の実施形態は、伝導性ポリマー複合体フィラメントを対象とし、熱可塑性ポリマー;伝導性ポリマー複合体の総重量に対して2重量%~約40重量%の量のカーボンナノチューブ;および伝導性ポリマー複合体の総重量に対して約0.5重量%~約80重量%の範囲の量の複数の金属性粒子を含む。
【0009】
本願の組成物は、1つ以上の以下の利点を示す:3D印刷用途、例えば熱溶解積層法(FDM)のためのフィラメントの改善された伝導率;金属性フィラーが多層カーボンナノチューブ/ポリマー複合体に添加される場合に、電気伝導率の予測できない相乗的な増大;または付加製造に好適な材料特性を保持しながら、ポリマー複合体における電気伝導率を増大するための改善された方法。
【0010】
前述の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方は、例示および説明に過ぎず、特許請求されるような本発明の教示の制限ではないことが理解されるべきである。
【0011】
本明細書の一部に組み込まれ、これらを構成する添付の図面は、本教示の実施形態を示し、説明と共に、本教示の原理を説明することに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の組成物で製造されたフィラメントを使用する三次元プリンタを示す。
【
図2】
図2は、本開示の例に従って、熱可塑性ポリマーベース(ポリカプロラクトン)中に多層カーボンナノチューブおよび金属性添加剤を含む伝導性ポリマー複合体の伝導率における相乗効果を示す。
【
図3】
図3は、本開示の例に従って、熱可塑性ポリマーベース(ポリカプロラクトン)中に多層カーボンナノチューブおよび金属性添加剤を含む伝導性ポリマー複合体の伝導率における相乗効果を示す。
【
図4】
図4は、本開示の例に従って、熱可塑性ポリマーベース(ポリカプロラクトン)中に多層カーボンナノチューブおよび金属性添加剤を含む伝導性ポリマー複合体の伝導率における相乗効果を示す。カーボンナノチューブおよび金属性添加剤のパーセンテージは、伝導性ポリマー複合体の総重量に対して重量%で示される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図の一部の詳細は単純化されており、厳密な構造上の正確性、詳細およびスケールを維持するよりもむしろ実施形態の理解を促すために描かれていることに留意すべきである。
【0014】
ここで本教示の実施形態を詳細に参照し、これらの例が添付の図面に示される。図面において、同様の参照番号は、同一の要素を指定するために全体にわたって使用されている。以下の記載において、これらの一部を形成する添付の図面を参照し、そこには、例示として、本教示が実施され得る特定の例示的な実施形態が示される。故に、以下の説明は単なる例示である。
【0015】
本開示の実施形態は、伝導性ポリマー複合体を対象とする。複合体は、熱可塑性ポリマー、カーボンナノチューブ、および伝導性ポリマー複合体の総重量に対して、約0.5重量%~約30重量%の範囲の量の複数の金属性粒子を含む。
【0016】
熱可塑性ポリマー
三次元印刷に有用ないずれかの好適な熱可塑性ポリマーは、本開示の複合体に使用できる。複合体は、本明細書で開示される熱可塑性ポリマーのいずれかの混合物を含んで、単一ポリマーまたは熱可塑性ポリマーの混合物を含むことができる。実施形態において、熱可塑性ポリマーは、アクリレートユニット、カルボン酸エステルユニット、アミドユニット、乳酸ユニット、ベンズイミダゾールユニット、カーボネートエステルユニット、エーテルユニット、スルホンユニット、アリールケトンユニット、アリールエーテルユニット、エーテルイミドユニット、エチレンユニット、フェニレンオキシドユニット、プロピレンユニット、スチレンユニット、ハロゲン化ビニルユニットおよびカルバメートユニットからなる群から選択される少なくとも1つの繰り返しユニットを含む。実施形態において、熱可塑性ポリマーは、コポリマー、例えば上記で列挙された繰り返しユニットのいずれかの2つ以上のブロックコポリマーである。例として、熱可塑性ポリマーは、ポリアクリレート、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルケトン、例えばポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエチレン、例えばポリエチレンおよびポリ(エチレン-co-ビニルアセテート)、ポリフェニレンオキシド、ポリプロピレン、例えばポリプロピレンおよびポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)、ポリスチレン、例えばポリスチレン、ポリ(スチレンイソプレンスチレン)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)およびポリ(スチレンエチレンブチレンスチレン)(SEBS)、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸(PLA)およびポリカプロラクトン、ポリウレタン、ポリアミド、例えばナイロン、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)およびポリ塩化ビニルからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含むことができる。実施形態において、熱可塑性ポリマーは、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)またはPLAを含んでいない。
【0017】
実施形態において、熱可塑性ポリマーは、ポリアクリレート、アクリレートのコポリマー、例えばアクリレートのブロックコポリマーからなる群から選択される。アクリレートコポリマーは、少なくとも1つのアクリレートモノマーおよび場合により1つ以上の追加のモノマー、例えば熱可塑性ポリマーにおける使用のために上記で列挙されたモノマーのいずれかを含むことができる。こうしたポリマーは、所望の程度の可撓性を有するように配合できる。実施形態において、ポリマーは、ポリエステル、例えばポリカプロラクトンであることができる。
【0018】
熱可塑性ポリマーは、複合体が三次元印刷プロセスにおいて機能できるいずれかの好適な量で複合体に含まれることができる。好適な量の例は、伝導性ポリマー複合体の総重量に対して、約10重量%~約90重量%、例えば約40重量%~約70重量%または約40重量%~約60重量%の範囲を含む。複合体は、カーボンナノチューブおよび所望の伝導率を提供するいずれかの好適な量で複数の金属性粒子を含むことができる。
【0019】
カーボンナノチューブ
いずれかの好適なカーボンナノチューブは、実施形態において使用できる。好適なカーボンナノチューブの例としては、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブおよびこれらの混合物を含む。実施形態において、カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブである。カーボンナノチューブの市販の供給源としては、例えばCHEAPTUBES(商標)またはNANOCYL(商標)から利用可能なカーボンナノチューブ、例えばNanocyl 7000が挙げられる。
【0020】
カーボンナノチューブの例示的な量としては、伝導性ポリマー複合体の総重量に対して2重量%~約40重量%、例えば約5重量%~約20重量%または約5重量%~約15重量%の範囲が挙げられる。多量のカーボンナノチューブは、特に熱可塑性のタイプおよび使用される印刷プロセスに依存して、3Dプリンタによって組成物の加工処理性を低減し得る。故に、実施形態において、20重量%以下のカーボンナノチューブ濃度、例えば10重量%以下が好ましい場合がある。
【0021】
金属性粒子
用語「金属性粒子」は、金属ワイヤ、繊維、フレークおよび粒子の形態での金属添加剤を含むように本明細書において定義される。
【0022】
いずれかの好適な金属性粒子は、本開示の複合体に使用できる。金属性粒子は、金属性フレーク、金属性粒子、金属性ワイヤならびに金属性フレーク、金属性粒子および金属性ワイヤの混合物などの1つ以上の形態から選択できる。複数の金属性粒子は、約50nm~約5μmの範囲であってもよい少なくとも1つの寸法、例えば直径によって規定される粒子を含んでいてもよい。一部の実施形態において、金属粒子は、約100nm以下の範囲の寸法の1つを有してもよい。故に、複数の金属性粒子は、ナノ粒子および/またはミクロンスケール粒子を含む複数の金属粒子を含んでいてもよい。例えば、複数の金属性粒子は、複数の金属ワイヤ(ナノワイヤおよび/またはミクロンスケールワイヤを含む)、複数のフレーク(ナノフレークおよび/またはミクロンスケールフレークを含む)および/または複数の粒子(ナノ粒子および/またはミクロンスケール粒子を含む)の形態の金属添加剤を含んでいてもよい。例において、金属ワイヤは金属フレークのアスペクト比よりも高いアスペクト比を有していてもよく、金属フレークは金属粒子のアスペクト比より大きいアスペクト比を有していてもよい。
【0023】
金属粒子に関して、三次元印刷に有用ないずれかの好適な金属添加剤は、本開示の複合体に使用できる。金属は、いずれかの金属から選択されてもよく、金属合金を含んでいてもよい。いずれかの好適な金属は、例えば粒子形態で使用できる。好適な金属の例としては、Bi、Sn、Sb、Pb、Ag、In、Cuまたはこれらの合金が挙げられる。例えば、合金としては、以下の少なくとも1つを挙げることができる:BiSnPb、BiSn、BiSnAg、SbPbBi、SnBi、InSn、SnInAg、SnAgCu、SnAg、SnCu、SnSb、SnAgSbまたはこれらの混合物。
【0024】
金属性粒子の例示的な量としては、伝導性ポリマー複合体の総重量に対して、約0.5重量%~約80重量%、約0.5重量%~約75重量%、約0.5重量%~約65重量%、約0.5重量%~約60重量%、約5重量%~約45重量%、または約10重量%~約40重量%、または約15重量%~約35重量%、または約20重量%~約30重量%の範囲が挙げられる。1つの実施形態において、金属性粒子は、伝導性ポリマー複合体の総重量に対して、約0.5重量%~約30重量%の範囲を含む。特定の理論に限定されないが、複数の金属性粒子は、伝導性ポリマー複合体においてパーコレーティングネットワークを形成しないが、伝導性複合体のカーボンナノチューブによって形成される既存のパーコレーティングネットワークに寄与すると考えられる。
【0025】
本開示の伝導性ポリマー複合体は、いずれかの他の好適な任意成分、例えばキャリア液体、可塑剤、分散剤および界面活性剤を、いずれかの所望の量で含むことができる。あるいは、本開示に明確には記載されていない成分は、本明細書に開示される伝導性ポリマー複合体から制限および/または排除され得る。故に、熱可塑性ポリマー、カーボンナノチューブおよび金属性粒子の量は、本明細書に記載されるいずれかの任意の成分、例えばキャリア液体、可塑剤、分散剤および/または界面活性剤を含んでまたは含まずに、本開示の複合体に使用される総成分の90重量%~100重量%まで添加でき、例えば総成分の95重量%~100重量%、または98重量%~100重量%、または99重量%~100重量%または100重量%で添加できる。
【0026】
本開示の複合体は、いずれかの好適な形態であることができる。実施形態において、複合体は伝導性ペーストである。ペーストは、室温でペーストであることができ、またはペーストのように流動するために加熱される必要がある材料であることができる。実施形態において、ペーストは、少なくとも1つのキャリア液体を含む。実施形態において、キャリア液体は、ペースト成分の1つ以上を溶解できる溶媒であってもよい。別の実施形態において、キャリア液体は溶媒ではない。ペーストに好適なキャリア液体としては、例えばトルエン、ピロリドン、(例えばN-メチルピロリドン、1-シクロヘキシル-2-ピロリドン)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、およびヘキサメチルホスホルアミドが挙げられる。キャリア液体は、ペーストにおいて、いずれかの好適な量、例えば湿潤複合体ペーストの総重量に基づいて約0.5重量%~約60重量%で含まれることができる。ペーストに含まれることができる任意の添加剤は、キャリア液体および他の伝導性添加剤の他に、例えば分散剤、界面活性剤、他の溶媒である。
【0027】
代替実施形態において、複合体は、例えば液体キャリアを含まない乾燥複合体の総重量に対して、5重量%未満の液体キャリア、例えば3重量%、2重量%または1重量%未満の液体キャリアを有する乾燥複合体の形態であることができる。乾燥複合体は、次いでいずれかの好適な方法、例えば加熱、真空および/または他の液体除去技術によって除去される溶媒を用いて形成できる。あるいは、複合体は、非希釈加工処理技術を用いてキャリア液体を用いずに製造できる。
【0028】
複合体は、1S/cmを超える、例えば3S/cmを超える、例えば3.5S/cmを超えるまたは4S/cmを超えるバルク伝導率を有する。バルク伝導率は式
σ=L/(R*A)(1)
を用いて計算される。
式中、
σはバルク電気伝導率であり;
Lはフィラメントの長さであり;
Rは押出フィラメントの測定された抵抗であり;
Aはフィラメントの断面積(πr2)であり、式中rはフィラメントの半径である。
抵抗Rは、複合体から製造された押出フィラメントを形成することによって測定できる。フィラメントの先端は銀でペイントされて、試験設備(例えばデジタルマルチメータ)との良好な電気的接続を提供するが、フィラメントが付加製造に使用されるべきである場合は必ずしもペイントされる必要はない。次いで抵抗は、フィラメントの長さにわたって測定できる。フィラメントの寸法およびRに関して測定された値は、次いで複合体のバルク伝導率(σ)を計算するために使用できる。
【0029】
本開示の複合体は、いずれかの好適な方法によって製造できる。例えば、熱可塑性ポリマーは、溶融混合技術を用いてカーボンナノチューブおよび少なくとも1つの金属性添加剤と合わせることができる。こうした組成物を混合するための他の好適な技術は当該技術分野において周知である。
【0030】
本開示はまた、三次元印刷の方法を対象とする。いずれかのタイプの三次元印刷、例えばフィラメント印刷(例えばFDM)またはペースト押出が使用できる。この方法は、本開示の伝導性ポリマー複合体のいずれかを三次元プリンタに提供する工程を含む。複合体は、フィラメントまたはペーストのような三次元印刷に有用ないずれかの好適な形態であることができる。伝導性ポリマーは、押出に好適な溶融状態に加熱できる。次いで加熱された伝導性ポリマーは、基材上に押出されて三次元対象物を形成する。
【0031】
本開示の伝導性ポリマー複合体は、まず複合体を所望の形状および寸法を有するフィラメントに形成することによって(例えば押出によってまたはいずれかの他の好適なプロセスによって)FDMプロセスに使用できる。フィラメントは、フィラメントが3D FDMプリンタにロードされ、印刷できるいずれかの好適な形状を有することができる。初期供給されるようなフィラメントは、その厚さT(
図1に示される)より相当長い連続長さ、例えば100対1を超える、例えば500対1を超える、または1000対1を超える長さと厚さとの比を有することができ、ここでTは、フィラメントの最小厚さ寸法である(例えばフィラメントが円形断面を有する場合は直径)。いずれかの好適な厚さが使用でき、使用される3Dプリンタに依存し得る。例として、厚さは、約0.1mm~約10mm、例えば約0.5mm~約5mm、または約1mm~約3mmの範囲であることができる。
【0032】
本開示のフィラメントを使用する三次元プリンタ100の例を
図1に示す。三次元プリンタ100は、フィラメント104を液化器106に供給するためのフィーダ機構102を含む。液化器106は、フィラメント104を溶融し、得られた溶融プラスチックをノズル108を通して押出し、ビルドプラットフォーム110上に物品112として堆積させる。故に物品112は上述されたようなフィラメントと同じ組成を含み、熱可塑性ポリマー;複数のカーボンナノチューブ;および複数の金属性粒子を含み、この金属性粒子は、カーボンナノチューブによって形成される既存のパーコレーティングネットワークに寄与し、金属性粒子自体は別個のパーコレーティングネットワークを形成し得ない。フィーダ機構102は、ローラまたはフィラメント104を、例えばフィラメントのスプール(図示せず)から供給できるいずれかの他の好適な機構を含むことができる。液化器106は、フィラメントを加熱するためのいずれかの技術、例えば加熱要素、レーザなどを使用できる。
図1に示されるような三次元プリンタ100は、例示に過ぎず、いずれかのタイプの三次元プリンタが本開示のフィラメントを堆積させるために使用できる。
【0033】
実施例1
伝導性ポリマー複合体は、ポリマーベース(ポリカプロラクトン;「PCL」)を、10重量%の多層カーボンナノチューブ(MWNT)および30重量%の銀(Ag)フレークと、30rpmにて30分間Haake2軸押出機において溶融混合することによって調製した。得られた材料を低温粉砕し、粉砕された複合体をMelt Flow Indexer(MFI)および調整ダイを用いてフィラメントに押出した。MFI上の押出のための条件は、最終フィラメントを調製するために1.8mmオリフィスおよび16.96kgの錘を含んでいた。最終フィラメントは、約1.75mmの直径を有していた。
【0034】
実施例2
端部が銀ペイントでペイントされた実施例1の押出フィラメントの10cmセクションを使用して、バルク伝導率を計算するために抵抗を測定した。抵抗測定は、デジタルマルチメータを用いて完了させた。バルク伝導率を上記式1を用いて計算した。
【0035】
比較例A
銀フレークを用いなかった以外、実施例1と同様の複合体を製造した。
【0036】
比較例B
多層カーボンナノチューブを用いず、65重量%の銀フレークを用いた以外、実施例1と同様の複合体を製造した。
【0037】
実施例3
銀フレークの代わりに30重量%のBiSnAg合金粒子を用いた以外、実施例1と同様の複合体を製造した。
【0038】
比較例C
多層カーボンナノチューブを用いず、75重量%のBiSnAg粒子を用いた以外、実施例3と同様の複合体を製造した。
【0039】
実施例4
銀フレークの代わりに26重量%の銅ワイヤを用いた以外、実施例1と同様の複合体を製造した。
【0040】
比較例D
多層カーボンナノチューブを用いず、53重量%の銅ワイヤを用いた以外、実施例4と同様の複合体を製造した。
【0041】
実施例5
銀フレークの代わりに30重量%のタングステンワイヤを用いた以外、実施例1と同様の複合体を製造した。
【0042】
比較例E
多層カーボンナノチューブを用いず、37.5重量%のタングステンワイヤを用いた以外、実施例5と同様の複合体を製造した。
【0043】
実施例6
5重量%のMWNTおよび銀フレークの代わりに30重量%の銅繊維を用いた以外、実施例1と同様の複合体を製造した。
【0044】
実施例7
6重量%のMWNTおよび銀フレークの代わりに55重量%の銅繊維を用いた以外、実施例1と同様の複合体を製造した。
【0045】
比較例F
銀フレークを用いず、銅繊維も用いなかった以外、実施例1および6と同様の複合体を製造した。
【0046】
実施例8
5重量%のMWNTおよび銀フレークの代わりに60重量%の銅を用いた以外、実施例1と同様の複合体を製造した。
【0047】
実施例2に記載される同様の様式において、上記の実施例および比較例それぞれについて、バルク伝導率を測定した。結果を
図2から4に示す。
【0048】
比較例Aにおける10重量%のMWNTカーボンナノチューブ濃度は結果として0.51S/cmの伝導率をもたらし、比較例Fにおける5重量%のMWNTカーボンナノチューブ濃度は結果として0.56S/cmの伝導率をもたらしたが、これは、パーコレーション閾値を十分上回り、熱押出付加製造のために既知のいずれかの材料またはそれらの組み合わせよりも顕著に高い伝導率であることに留意する。故に、他の実施例の一部にあるように、金属性添加剤を、そのパーコレーション閾値に既に到達したMWNT-ポリマーシステムに添加した。
【0049】
図2および4の銀フレークについての結果から、MWNTおよび銀フレークの組み合わせは、この組み合わせがその構成成分自体それぞれよりも相当高い伝導率を有していたので、可塑性複合体において互いに組み合わせられる場合に相乗効果を有していたことは明白である。例えば実施例3のように、可塑性複合体中のMWNTを伴うBiSnAg合金粒子についての結果は、それぞれ実施例4および5におけるMWNT/可塑性複合体中の銅ワイヤおよびタングステンワイヤについての結果ならびに実施例6および7における銅繊維についての結果についてそうであるように、
図2の同様の相乗効果を示す。30重量%銀フレーク/10重量%MWNTローディングを用いると、伝導率は、MWNT単独の場合と比較して顕著により高かった。60重量%銀フレーク/5重量%MWNTローディングを用いると、伝導率はさらに高かった。こうした伝導率の大きな増大は予測できなかった。
【0050】
伝導率の相乗的な増大は、いくつかの理由から
図2から4の実施例の組成物について生じることは予測されなかった。可塑性複合体(すなわちMWNTなし)における金属性粒子自体は、例えば比較例におけるように顕著に低い、例えばほぼゼロの伝導率を有する。また、金属性添加剤のローディングにおける増大は、使用されたカーボンナノチューブ濃度において伝導率の極端な増大をもたらすことは明白ではなかった。
【0051】
故に、
図2から4のデータは、伝導率の予測できない非線形な増大は、少なくとも1つの金属性添加剤の添加時に観察されたことを示し、これはカーボンナノチューブと金属性添加剤との相対的に高いローディングでの組み合わせの相乗効果を明示する。電気伝導率の相乗的な増大は、少なくとも1つの金属性添加剤の選択されたものが35-50重量%程度に高いローディングではパーコレーティングネットワークを形成しないので、予測できない。しかしながら、これらの金属性添加剤は、カーボンナノチューブによって形成された既存のパーコレーティングネットワークに寄与する。この相乗的な増大は、単一粒子のローディングを増大させることが伝導率の増大に有効な方法とならなかったので、付加製造の場合に追加の利点を提供する。MWNTの場合、例えば約20重量%の最大ローディングは、複合体が付加製造に関してもはや加工処理できない程度に到達する。このローディングにおいて、メルトフロー温度が現在の技術の能力を超える。加えて、金属性添加剤単独の複合体(すなわちMWNTなし)は、MWNT単独(すなわち金属性添加剤なし)の複合体の伝導率に比べてほぼゼロの伝導率を示す。金属性添加剤とMWNTとの組み合わせだけが、付加製造技術に所望される加工処理性を保持しながら、複合材料の電気伝導率を非線形に増大させることを示す。
【0052】
広範囲の開示を示す数値範囲およびパラメータが近似値であるにもかかわらず、具体的な例に示される数値は可能な限り正確に報告される。しかしながら、いずれの数値も固有に、それらそれぞれの試験測定において見出される標準偏差から必ず生じる特定誤差を含んでいる。さらに、本明細書に開示されるすべての範囲は、その範囲に含まれるいずれかおよびすべてのサブ範囲を包含するように理解されるべきである。
【0053】
本教示は1つ以上の実施に関して示されたが、代替および/または変更は添付の特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく例示された例に対して行われることができる。加えて、本教示の特定の特徴がいくつかの実施の1つだけに関して開示され得るが、こうした特徴は、いずれかの所定または特定の機能のために所望され、有利であり得るように、他の実施の1つ以上の他の特徴と組み合わせてもよい。さらに、用語「含む(including)」、「含む(includes)」、「有する(having)」、「有する(has)」、「を用いて(with)」またはこれらの変形は、詳細な説明および特許請求の範囲のいずれかにおいて使用される限りにおいて、こうした用語は、用語「含む(comprising)」と同様の様式で包括的(inclusive)であることが意図される。さらに、本明細書の開示および特許請求の範囲において、用語「約」は、変更が例示された実施形態に対してプロセスまたは構造の不適合をもたらさない限り、列挙された値が幾分変更されてもよいことを示す。最後に、「例示的な」は、記載が、理想であることを暗示するのではなく、例として使用されることを示す。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕熱可塑性ポリマー;
複数のカーボンナノチューブ;および
伝導性ポリマー複合体の総重量に対して、約0.5重量%~約80重量%の範囲の量の複数の金属性粒子
を含む、伝導性ポリマー複合体。
〔2〕前記熱可塑性ポリマーが、アクリレートユニット、カルボン酸エステルユニット、アミドユニット、乳酸ユニット、ベンズイミダゾールユニット、カーボネートエステルユニット、エーテルユニット、スルホンユニット、アリールケトンユニット、アリールエーテルユニット、アリールアルキルユニット、エーテルイミドユニット、エチレンユニット、フェニレンオキシドユニット、プロピレンユニット、スチレンユニット、ハロゲン化ビニルユニットおよびカルバメートユニットからなる群から選択される少なくとも1つの繰り返しユニットを含む、前記〔1〕に記載の複合体。
〔3〕前記熱可塑性ポリマーが前記繰り返しユニットの2つ以上のコポリマーである、前記〔2〕に記載の複合体。
〔4〕前記コポリマーが1つ以上のアクリレートユニットを含む、前記〔3〕に記載の複合体。
〔5〕前記複数の金属性粒子が、フレーク、粒子およびワイヤからなる群から選択される1つ以上の形態を含む、前記〔1〕に記載の複合体。
〔6〕前記粒子がナノ粒子を含む、前記〔5〕に記載の複合体。
〔7〕三次元印刷の方法であって、前記方法が:
複合体を三次元プリンタに提供する工程であって、前記複合体が、熱可塑性ポリマー、前記伝導性ポリマー複合体の総重量に対して2重量%~約40重量%の範囲の量のカーボンナノチューブ、および前記伝導性ポリマー複合体の総重量に対して約0.5重量%~約80重量%の範囲の量の複数の金属性粒子を含む工程;
複合体を加熱する工程;および
加熱された複合体をビルドプラットフォーム上に押出し、三次元対象物を形成する工程
を含む、方法。
〔8〕前記加熱された複合体がフィラメントの形態である、前記〔7〕に記載の方法。
〔9〕伝導性ポリマー複合体フィラメントであって、
熱可塑性ポリマー;
前記伝導性ポリマー複合体の総重量に対して2重量%~約40重量%の範囲の量のカーボンナノチューブ;および
前記伝導性ポリマー複合体の総重量に対して約0.5重量%~約80重量%の範囲の量の複数の金属性粒子
を含む、フィラメント。
〔10〕前記少なくとも複数の金属性粒子が、フレーク、粒子およびワイヤからなる群から選択される1つ以上の形態を含む、前記〔9〕に記載の伝導性ポリマー複合体フィラメント。