(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】什器の転倒防止システム
(51)【国際特許分類】
A47B 97/00 20060101AFI20220427BHJP
【FI】
A47B97/00 E
(21)【出願番号】P 2017243406
(22)【出願日】2017-12-20
【審査請求日】2020-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000139780
【氏名又は名称】株式会社イトーキ
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】川井 達樹
(72)【発明者】
【氏名】内田 隆博
【審査官】七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-023940(JP,A)
【文献】特開平10-280590(JP,A)
【文献】特開2015-055146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47B 97/00
E04F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視角形の床パネルの群が整列して敷設されたアクセスフロアーの上に、什器が、間仕切又は他の室内設
備に対して背中合わせ状に配置されており、
かつ、地震時に前記什器が間仕切又は他の室内設
備の手前側に倒れることを防止する転倒防止手段を設けている構成であって、
前記転倒防止手段は、前記間仕切又は他の室内設
備を床パネル押さえ要素として含んでおり、前記押さえ要素によって押さえられた床パネルに、前記什器の下端部がねじ又は他のファスナで固定されている、
什器の転倒防止システム。
【請求項2】
一列に並んだ床パネルが前記間仕切で押さえ保持されており、前記什器は、前記間仕切で押さえ保持された床パネルにねじで固定されている、
請求項1に記載した什器の転倒防止システム。
【請求項3】
前記什器は床上に配置されたプレートに載っており、前記プレートを、前記間仕切又は他の室内設
備に固定することにより、前記プレートによって床パネルが押さえ保持されており、かつ、前記什器の下端部と前記プレートとがその下方に位置した床パネルにねじで共締めされている、
請求項1に記載した什器の転倒防止システム。
【請求項4】
前記床パネルの少なくとも上面は金属板で構成されており、自己穿孔性のねじによって前記什器の下端部が前記床パネルに固定されている、
請求項1~3のうちのいずれかに記載した什器の転倒防止システム。
【請求項5】
前記什器は、本体とこれを下方から支持するベースとを有しており、前記ベースが前記ねじ又は他のファスナで前記床パネルに固定されている、
請求項1~4のうちのいずれかに記載した什器の転倒防止システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、キャビネット等の什器の転倒防止システムに関するものである。なお、「転倒防止システム」は「転倒防止装置」又は「転倒防止設備」と呼ぶことも可能である。また、本願発明は、「什器の転倒防止が施された室内施設」又は単に「室内施設」として捉えることもできる。更に、什器には、キャビネットのような箱型の家具が代表として挙げられるが、サーバや配電盤、複合機など、室内に設置される各種の装置を含んでいる。
【背景技術】
【0002】
収納家具の代表としてキャビネット類があるが、このキャビネット類は平面積に対して高さが大きいため、地震時に転倒しやすい。そこで、地震時にキャビネット類が転倒することを防止する方法が多々提案されている。転倒防止手段として、キャビネット類の前後幅を大きくしたのと同様の効果によって倒れにくくする方法があり、その例として、特許文献1には、キャビネット類が載る台に、キャビネットの手前に突出する前向きの転倒防止板(アウトリガー)を設けることが記載されている。
【0003】
しかし、特許文献1では、転倒防止板は床上に露出しているため、人が躓きやすくなる問題や、体裁が良くないといった問題がある(カーペット類で覆っても、アウトリガーの箇所は上に膨れて高さが高くなるため、問題の解消には至っていない。)。
【0004】
そこで、転倒防止部材を床の内部に配置することが、特許文献2,3に開示されている。すなわち、まず、特許文献2について述べると、この特許文献2は和室に適用したものであり、収納家具の手前に張り出した支持板を畳の下に配置して、支持板と一体化した部材で収納家具を支持している。他方、特許文献3では、アクセスフロアーの一部を除去して、キャビネット類の手前にはみ出た部分を有する防倒板を配置し、防倒板のはみ出し部は専用の床パネル(舗床板)で覆っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実公平4-24990号公報
【文献】実公平2-47863号公報
【文献】特許第3541362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2,3は、転倒防止機能を発揮することはできるが、専用の部材を要するため、施工が面倒である。また、個別に検討すると、まず、特許文献2は、畳が敷設された和室を前提にしているため、オフィスなどには適用できずに汎用性に劣るという問題もある。
【0007】
他方、特許文献3は、アクセスフロアーを対象にしているため、オフィス等への適応性は高いが、アクセスフロアーの一部を変更せねばならないため、工事が面倒であって実用性は高いとはいえない。
【0008】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、施工が容易で実用性・汎用性に優れた什器転倒テステムを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は什器の転倒防止システムに係るもので、このシステムは、
「平面視角形の床パネルの群が整列して敷設されたアクセスフロアーの上に、什器が、間仕切又は他の室内設備に対して背中合わせ状に配置されており、
かつ、地震時に前記什器が間仕切又は他の室内設備の手前側に倒れることを防止する転倒防止手段を設けている」
という基本構成である。
【0010】
そして、請求項1では、上記基本構成において、
「前記転倒防止手段は、前記間仕切又は他の室内設備を床パネル押さえ要素として含んでおり、前記押さえ要素によって押さえられた床パネルに、前記什器の下端部がねじ又は他のファスナで固定されている」
という構成になっている。
【0011】
本願発明は、様々に具体化できる。その例として請求項2では、
「一列に並んだ床パネルが前記間仕切で押さえ保持されており、前記什器は、前記間仕切で押さえ保持された床パネルにねじで固定されている」
という構成になっている。
【0012】
また、請求項3では、請求項1において、
「前記什器は床上に配置されたプレートに載っており、前記プレートを、前記間仕切又は他の室内設備に固定することにより、前記プレートによって床パネルが押さえ保持されており、かつ、前記什器の下端部と前記プレートとがその下方に位置した床パネルにねじで共締めされている」
という構成になっている。
【0013】
請求項4では、請求項1~3のうちのいずれかにおいて、
「前記床パネルの少なくとも上面は金属板で構成されており、自己穿孔性のねじによって前記什器の下端部が前記床パネルに固定されている」
という構成になっている。
【0014】
更に、請求項5では、請求項1~4のうちのいずれかにおいて、
「前記什器は、本体とこれを下方から支持するベースとを有しており、前記ベースが前記ねじ又は他のファスナで前記床パネルに固定されている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0015】
本願各発明は、アクセスフロアーの構成要素である床パネルと間仕切又は室内設備とを転倒防止部材として利用するものであり、特許文献3のようにアクセスフロアーの一部を切除するような工事は不要であるため、現実性に優れていると共に、特許文献3に比べてコストを大幅に抑制できる。
【0016】
更に、什器はアクセスフロアーの上に配置するものであるため、什器の配置位置を任意に設定することが可能であり、このため、什器のレイアウトの自由性を損なうことがないし、什器を取り除いたりレイアウトを変更したりしても、復旧工事などは不要である。これらの点、本願発明の大きな利点であって、ユーザーが受けえる利益は極めて大きい。
【0017】
本願発明で利用する間仕切は、天井面に固定的に保持されているものが好ましい。すなわち、間仕切は、ボルト等によって天井面に突っ張らせている構造であるか、又は、天井面に断面下向き開口コ字形の天レールを固定して、間仕切パネルの上端部が天レールの内部に入り込んでいる構造であるのが好ましい。間仕切が天井に固定されていなくても、平面視十字状形やT字形などになっていて倒れないように保持されている場合は、十分に転倒防止機能を発揮する。
【0018】
室内設備としては、キャビネット等の他の什器が考えられる。すなわち、例えば、キャビネット同士を背中合わせに配置した場合、2つのキャビネットが床パネルを介して固定されることにより、互いが協働して倒れ防止機能を発揮できる。
【0019】
請求項2の構成を採用すると、室内施設の一部である間仕切や室内設備を利用して什器の転倒を防止できるため、追加部材は不要であり、それだけコストを抑制できると共に工事の手間も軽減できる。
【0020】
例えば、間仕切が平面視で床パネルの境界近くに配置されていて、間仕切が載っている床パネルと什器が載っている床パネルとが異なる、間仕切によって床パネルを押さえ固定する機能が発揮されず、すると、什器を床パネルに固定しても、地震に際しては床パネルが什器と一緒に起き上がってしまって、什器の転倒防止機能が発揮されないことが考えられる。
【0021】
これに対して、請求項3のようにプレートを使用すると、什器と間仕切又は室内設備若しくは建物の壁とがと床パネルとがプレートを介して固定されるため、間仕切等による床パネルの押さえ機能が的確に発揮されて、什器の転倒防止を確実化できる。従って、請求項3の構成は、什器のレイアウトの自由性を一層助長できる。
【0022】
なお、請求項2の発明はプレートを使用することを排除するものではない。請求項2の構成でプレートを使用すると、転倒防止機能を更に向上できる。
【0023】
什器の固定手段としては、締結力の点からはねじ(ビス)が好適であるが、請求項4のように自己穿孔性のねじを使用すると、下穴の加工が不要であるため、工事の手間を著しく軽減できる。自己穿孔性のねじとしては、具体的には、ドリルねじ又はタッピンねじを使用できる。
【0024】
オフィスで最も転倒しやすいのはキャビネット類であって設置されている数も多いが、このキャビネット類は、ベースに本体を載せた構造になっていることが多い。請求項5では、この点を利用して、ベースを床パネルに固定している。従って、ベースを床に固定してから、ベースに本体を載せるという施工手順により、転倒防止システムを簡単に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】キャビネットを一点鎖線で表示した平面図である。
【
図3】(A)は床パネルの平面図、(B)は4枚の床パネルの突き合わせ箇所の平面図、(C)は(A)のC-C視断面図である。
【
図4】(A)は床パネルの正面図、(B)は
図3(B)のB-B視断面図、(C)は
図3(B)のC-C視断面図である。
【
図5】(A)はベースの部分的な平面図、(B)は(A)のB-B視断面図である。
【
図6】(A)はベースを裏返した状態での部分斜視図、(B)はベースを床に固定した状態の縦断正面図である。
【
図7】施工手順を示す図で、(A)はベースの固定工程を示す縦断側面図、(B)は施工後の縦断側面図である。
【
図10】(A)は第4実施形態を示す縦断側面図、(B)は第5実施形態を示す縦断側面図である。
【
図11】木製キャビネットに適用した第6実施形態の外観斜視図である。
【
図13】第6実施形態を示す図で、(A)は
図11の XIIIA-XIIIA視断面図、(B)はプレートとの分離斜視図、(C)は(A)のC-C視断面図である。
【
図14】第7実施形態を示す図、(A)は分離斜視図、(B)は一側部の縦断側面図である。
【
図15】プレートの別例である第8~11実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(1).第1実施形態の概要
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の各実施形態は平面視横長の長方形に形成されたキャビネットの転倒防止に適用している。以下では、方向を特定するために前後・左右の文言を使用するが、キャビネット1の奥行き方向(平面視での短手方向)を前後方向として、間口方向(平面視での長手方向)を左右方向としている。まず、
図1~
図7を参照して、スチール製キャビネット1の転倒防止システムに適用した第1実施形態を説明する。
【0027】
室の床は、平面視四角形(正方形)の多数枚の床パネル2を縦横に整列した敷設されたアクセスフロアー3に構成されており、アクセスフロアー3に間仕切4が配置されて、間仕切4と背中合わせの状態でキャビネット1が配置されている。
図1ではキャビネット1は1個のみ表示しているが、
図2に示すように、多数のキャビネット1が間仕切4の前面に沿って並設されることも多い。
【0028】
キャビネット1は、前向きに開口したキャビネット本体5と、その開口部を開閉する水平回動自在な観音開き式の扉6と、キャビネット本体5が載るスチール板製のベース7とを備えている。キャビネット1の後面(背面)は、室内設備の一例としての固定式間仕切4の外面に重ねて(或いは密接させて)配置されている。
【0029】
間仕切4は、上向き開口コ字形の地レール(下枠)8と壁パネル9とを備えており、壁パネル9は支柱10に取付けられている。また、間仕切4は天井面に固定された下向き開口コ字形のレール(図示せず)を有しており、支柱10の上端は天レールに突っ張っている。従って、間仕切4は倒れ不能に保持されている。
【0030】
間仕切4は、例えば奥行きが450mm、間口方向の幅が900mmに設定している。他方、床パネル2は、1辺の長さが500mm程度の正方形に設定されており、隣り合った床パネル2は側縁を当接させている。なお、寸法は任意に設定できる。
【0031】
(2).アクセスフロアーの構造
本実施形態の床パネル2はスチール製であり、
図3,4に示すように、平面視正方形状の上板11と、左右一対の(或いは前後一対)の下フレーム12と、一対の下フレーム12に掛け渡して配置された多数本の補強フレーム13とを有しており、これらは溶接によって一体化されている。
【0032】
上板11の四辺には、コーナー部を除いて下向き片11aが形成されており、隣り合った床パネル2の下向き片11aが互いに重なるように設定されている。また、4つのコーナー部は平面視で円弧状に切欠かれており、円弧状の切欠き部に、上向きに開口した溝状部14を形成し、前後左右に隣り合った4つの床パネル2の溝状部14に、樹脂製の連結リング15を嵌め込んでいる。このため、床パネル2は前後左右に位置決めされて、正確に敷設されている。
【0033】
連結リング15は、4つの溝状部14に対応した4つの爪片15aを有しており、爪片15aを皿ビス状のプッシャー16によって広げることにより、連結リング15を上抜き抜け不能に保持している。プッシャー16の外周面は断面鋸歯形になっており、爪片15aと係合している。
【0034】
床パネル2の四隅部に、アジャスタ17を配置している。アジャスタ17は、下フレーム12に下方から貫通した受け部材18と、受け部材18に下方から螺合したボルト19とから成っており、受け部材18には、下フレーム12を支持するフランジ20が形成されている。受け部材18の上端は、上板11に形成したバーリング穴21に嵌まっている。床パネル2の上には、カッペット等の化粧板(床板)22を配置している。化粧板22は、接着剤で上板11に固定されている。敢えて述べるまでもないが、アジャスタ17は建物の基礎床(床スラブ)23に載っている。
【0035】
(3).ベースの構造
本実施形態のベース7は高さ調節可能なタイプであり、
図5,6に示すように、キャビネット本体5が載る枠状の昇降体25と、これを支える左右の接地体26とを備えており、昇降体25は、アジャスタボルト27を介して接地体26で支持されている。昇降体25は、左右のサイドフレーム28とこれらを繋ぐフロントフレーム29及びリアフレーム30とを有していて、各フレーム28,29,30は上下の水平片31,32を有している。下水平片31は上水平片32よりも幅狭になっている。
【0036】
フロントフレーム29とリアフレーム30との左右両端寄り部位に、前後長手の補助フレーム33が装架・固定されている。補助フレーム33は上向きに開口したコ字形の形態であり、前後両端はフロントフレーム29及びリアフレーム30に溶接等で固定されている。
【0037】
そして、補助フレーム33の下方に接地体26を配置し、接地体26に固定されたアジャスタボルト27を補助フレーム33に下方から挿通し、アジャスタボルト27に螺合したナット34により、補助フレーム33を(昇降体25)を高さ調節自在に支持している。
【0038】
接地体26は、左右の接地部26aを有する逆M字状になっており、左右中間部にアジャスタボルト27が固定されている。但し、接地体26は任意の形状を選択できる。例えば、上向きに開口したコ字状に形成して、その上面にアジャスタボルト27を固定してもよい。また、ナット34を補助フレーム33に固定して、アジャスタボルト27を回転操作して昇降体25を高さ調節することも可能である。
【0039】
更に、ベース7は高さ調節できるタイプである必要はないのであり、前後のフレーム29,30に補強兼用の接地体を固定したタイプであってもよい。また、ベース7の下面の全体に広がる下板を有する構造も採用可能である。
【0040】
(4).転倒防止構造
転倒防止構造は、
図7及び
図6(B)に示している。すなわち、まず、ベース7を所定位置に配置して高さを調節してから、ドリルねじ36のような自己穿孔ねじを使用して、ベース7の接地体26を床パネル2に固定している。ドリルねじ36は、化粧板22を貫通して床パネル2の上板11にねじ込まれる。
【0041】
なお、ドリルねじ36は、上板11と補強フレーム13との重合部にねじ込んでもよい。或いは、上板11と下フレーム12との重合部、或いは、上板11と補強フレーム13と下フレーム12との三者の重合部にねじ込んでもよい。
【0042】
図1に示すように、間仕切4は、床パネル2の列の境界部37の箇所には位置しておらず、間仕切4の長手方向に一列に並んでいる床パネル2の前後中途部に配置されている。このため、床パネル2の群が間仕切4で上から押さえ保持されており、キャビネット1は、間仕切4で押さえ保持された床パネル2と、間仕切4から離れた床パネル2との両方に跨がった状態で載っており、それら両方の床パネル2にドリルねじ36で固定されている。ドリルねじ36の打ち込み本数は、キャビネット1に収納する物品の重量などを勘案して、適宜設定したらよい。
【0043】
地震に際しては、キャビネット1は前後方向に揺れて、
図7に白抜き矢印で示すように、前向きに倒れようとする。そして、床パネル2はベース7に固定されているため、キャビネット1が前倒れようとすると、床パネル2は起き上がろうとする。しかし、ベース7の奥部が固定されている床パネル2は間仕切4で起き上がり不能に押さえ保持されているため、キャビネット1の前倒れが防止される。従って、キャビネット1の転倒(前倒れ)を防止することができる。
【0044】
すなわち、床パネル2と間仕切4とを利用して、キャビネット1の転倒を防止している。ドリルねじ36を上板11と補強フレーム13と下フレーム12とのうち複数枚に打ち込むと、締結強度が格段に高くなるため、転倒防止機能も大幅にアップさせることができる。キャビネット本体5は、ベース7の昇降体25に上から嵌め込んだだけでもよいが、ビス等で昇降体25に固定しておくと、倒れ防止機能をより確実化できる。
【0045】
(5).第2~5実施形態
次に、
図8~10に示す第2~第5実施形態を説明する。
図8に示す第2実施形態では、間仕切4は床パネル2の縁部に位置しており、キャビネット1は、間仕切4で押さえ保持された床パネル2のみに載っている。しかし、キャビネット1が載っている床パネル2は間仕切4で下向きに押さえ保持されているため、キャビネット1の転倒が防止される。
【0046】
図9に示す第3実施形態では、間仕切4は、床パネル2の列の境界部37を挟んで一方の側に位置して、キャビネット1は、境界部37を挟んで他方の側に位置している。このため、キャビネット1が載っている床パネル2は、間仕切4で押さえ保持されていない。
【0047】
そこで、ベース7の下方にプレート38を配置して、プレート38に設けた起立片38aを、ドリルねじやタッピンねじのようなビス39で間仕切4の地レール8に固定して、プレート38と床パネル2の上板11とをドリルねじ36で固定(共締め)している。従って、キャビネット1が載っている床パネル2はプレート38を介して間仕切4で下向きに押さえ保持されており、これにより、キャビネット1の転倒が防止されている。
【0048】
キャビネット1を建物の壁に寄せて配置した場合は、プレート38の起立片38aを建物の壁にアンカーで固定したらよい。なお、プレート38は、第1実施形態や第2実施形態にも適用できる。
【0049】
図10(A)に示す第4実施形態では、間仕切4は床パネル2の列の境界部37の真上に位置している。従って、境界部37を挟んだ両側の床パネル2の群が間仕切4で下向きに押さえ保持されている。
【0050】
従って、間仕切4と背中合わせに配置されたキャビネット1は、そのベース7を床パネル2に固定することで転倒が防止されるが、第4実施形態では、更に、平板のプレート38をベース7及び間仕切4と床パネル2との間に配置している。このため、間仕切4による床パネル2の押さえ保持機能が確実化されている。間仕切4の両側にキャビネット1を配置する場合は、プレート38を間仕切4の両側に広がるように配置すると、境界部37を挟んで両側に位置した床パネル2がプレート38を介して一体化されるため、キャビネット1の倒れ防止機能を一層向上できるといえる。
【0051】
図10(B)に示す第5実施形態では、間仕切4は使用せずに、キャビネット1同士を背中合わせに配置して、前後のキャビネット1を1枚のプレート38に載せている。そして、両キャビネット1のベース7を、ドリルねじ36でそれぞれプレート38と床パネル2とに共締めしている。
【0052】
この実施形態では、前後のキャビネット1がプレートを介して一体化しており、底面積が床パネル2の前後幅の2倍の寸法になったのと同じ状態になっている。従って、この場合も高い転倒防止機能を発揮する。異なる種類の家具を背中合わせに配置してもよい。
【0053】
(6).第6実施形態
本願発明は、木製の家具の転倒防止システムにも適用できる。その例を、
図11以下の図面を参照して説明する。
図11では、ガラス戸棚40を備えた木製キャビネット1′が間仕切4と背中合わせに配置された状態を示しており、キャビネット1′は、従前の実施形態と同様に、間仕切4と床パネル2とを利用して転倒が防止されている。
【0054】
なお、
図11において、左側のキャビネット1′は、ガラス戸棚40の下方に木製の回動式扉41を備えた収納部が形成されており、右側のキャビネット1′では、ガラス戸棚40の下方に複数段の引出し42を装架している。キャビネット1′の具体的な構造は任意に設定できる。
【0055】
図12に明示するように、キャビネット1′は、左右の側板43と背板44及び底板45を有している。底板45は、側板43及び背板44の下端よりもある程度上に位置しており、底板45の前端下方には下框板46が配置されている。このため、キャビネット1′の下端部には、側板43と背板44と底板45と下框板46とで囲われた下向き開口の下部空間47が形成されている。
【0056】
本実施形態では、転倒防止手段としてプレート38が使用されており、プレート38の後端には、間仕切4の地レール8にビス39で固定される起立片38aを形成している。プレート38は、キャビネット1′の全体が載る大きさに設定されている。
【0057】
そして、プレート38とキャビネット1′とを連結する手段として、プレート38に、上面板49aと外向きの下水平片49bとを有するハット形の補助部材49が固定されており、補助部材49の上面板49aに、キャビネット1′の底板45に貫通したビス50をねじ込むようにしている。
【0058】
補助部材49の前後下水平片49bは溶接等でプレート38に固定されており、キャビネット1′の下框板46と背板44とは下水平片49bに載っている。また、キャビネット1′の側板43も、前後両端部は補助部材49の前後下水平片49bに載っている。従って、補助部材49の前後下水平片49bの間においては、左右側板43とプレート38との間に隙間が空いている。
【0059】
なお、
図13(B)に一点鎖線で示すように、プレート38のうち補助部材49の前後下水平片49bの間の部位に、補助部材49と同じ板厚のスペーサ49cを固定して、側板43をスペーサ49cに載せてもよい。このようにスペーサ49cを設けると、キャビネット1′とプレート38との一体性を向上できる。プレート38は、補助部材49の下水平片49bと重なった部位が床パネル2にドリルねじ36で固定される。
【0060】
本実施形態の施工手順は従前と同様であり、補助部材49が固定されたプレート38を所定の位置にセットして、起立片38aを間仕切4の地レール8にビスで固定する、プレート38をドリルねじ36で床パネル2に固定する、キャビネット1′をプレート38に上から被せて所定の姿勢にセットする、底板45に挿通したビス50を補助部材49の上面板49aにねじ込む、という工程を経ることになる。
【0061】
補助部材49の上面板49aにはビス50が螺合する雌ねじ穴(或いはナット)を予め設けていてもよいし、ビス50としてドルリねじ又はタッピンねじを使用して、上面板49aへの穿孔及びタッピングを現場で行ってもよい。底板45の下穴は、予め空けておくのが好ましい。
【0062】
本実施形態では、プレート38は間仕切4の地レール8に固定されているため、キャビネット1′が間仕切4で押さえられていない床パネル2に載っていても、間仕切4を利用してキャビネット1′の転倒を防止することができる。間仕切4が載っている床パネル2が間仕切4で押さえられている場合は、キャビネット1′の転倒防止機能は更に高くなる。
【0063】
実施形態のように、プレート38の左右幅をキャビネット1′の左右幅と同一寸法に設定しておくと、キャビネット1′を左右に並設する場合、プレート38を隙間なく左右に並べておくことにより、キャビネット1′を隙間なくきっちりと左右に並設することができる。
【0064】
(7).第7実施形態
図14では、第7実施形態を示している。この実施形態は第6実施形態の変形例であり、第6実施形態を基本構造として、キャビネット1′に、側板43と底板45とにビス等で締結したアングル形の補強部材51を固定して、補強部材51の上水平片と底板45とが、補助部材49の上面板49aにビス50で共締めされている。
【0065】
木製のキャビネット1′はスチール製のキャビネット1′に比べて強度が低いため、地震に際しては、底板45と側板43及び背板44との接合が外れてしまって、キャビネット1′が破損したり変形したりすることが想定されるが、本実施形態のように補強部材51を設けると、キャビネット1′が補強されるため、地震に際してキャビネット1′が破損したり変形したりすることを防止できる。
【0066】
左右側板43と底板45とを補強部材51で連結することに加えて又はこれに代えて、(A)に一点鎖線で示すように、底板45と背板44(及び又は、底板45と下框板46)とを補強部材51で連結してもよい。また、下部空間47の内周にぴったり重なる下向き開口箱状の補強枠材を底板45と側板43と背板44と下框板46とに固定して、この箱状の補強枠材を介して底板45を補助部材49に固定することも可能である。この場合は、キャビネット1′の転倒防止対策は万全なものになる。
【0067】
また、第6実施形態及び第7実施形態のいずれにおいても、補助部材49における上面板49aの左右両両端に下向き片を曲げ形成することにより補助部材49を全体として下向きに開口した箱状に形成することが可能であり、このような形態にすると、補助部材49の強度を格段に向上できるため、転倒防止機能を一層向上できる。
【0068】
(8).第8~11実施形態・その他
図15では、木製キャビネット1′に適用するプレート38の変形例を示している。このうち(A)に示す第8実施形態では、補助部材49の下水平片49bを前後内向きに形成している。この場合は、プレート38のみが床パネル2に固定されるため、プレート38を固定する作業の手間を軽減できる。
【0069】
(B)に示す第9実施形態では、補助部材49が、プレート38に切り起こしによって形成されている。この例において、上面板49aの上面に平板を溶接等で固定すると、剛性を格段に向上できる。(A)(B)では、上面板49aと側板43との間にはある程度の間隔が空いているため、プレート38の左右側部は前後どの部位でも床パネル2に固定することができる。
【0070】
(C)に示す第10実施形態では、プレート38に、キャビネット1′における下部空間47の内周面に重なるストッパー片52を切り起こし形成している。この実施形態では、キャビネット1′の下端部がプレート38におけるストッパー片52の群に横ずれ不能にきっちり嵌まることにより、転倒が防止される。各ストッパー片52を水平状の上板で連結すると、ストッパー片52の曲がり変形を防止できるため、転倒防止機能を向上できるし、また、上板と底板45とをビスで固定することができる。
【0071】
(D)に示す第11実施形態でも、プレート38にストッパー片52を設けているが、前端と左右のストッパー片52は折り曲げによって形成しており、隣り合ったストッパー片52は溶接で一体化している。このため、ストッパー片52は曲げに対して高い抵抗を発揮する。従って、キャビネット1′の転倒防止機能は格段に向上する。また、この実施形態では、プレート38は広い面積で床に接地するため、床パネル2への締結位置や締結個数を任意に設定することができて、融通性に優れている。
【0072】
図15(C)(D)の場合、キャビネット1′の四隅にアジャスボルトを設けて、これをプレート38のコーナー部に載せることが可能である。アジャスボルトを設けた場合は、底板45を補助部材49に固定することができないが、(C)(D)では、キャビネット1′の下端部がストッパー片52の群に横ずれ不能に嵌合しているため、転倒を防止した状態で高さ調節することが可能になる。
【0073】
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば、床パネル2は必ずしも金属板製(スチール製)である必要はないのであり、ケイカル製やコンクリート製の床パネルにも適用することができる。具体的な構造は任意に設定できる(例えば、金属板製の場合、単純な箱状に形成して、調節用のボルトを備えていない態様も採用可能である。)。ベースやプレートを使用しない場合は、什器の下端部を、直接に又はブラケットを介して、ねじ等で床パネルに固定したらよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本願発明は、実際に室内施設に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0075】
1,1′ 什器の一例としてのキャビネット
2 転倒防止手段を構成する床パネル
3 アクセスフロアー
4 転倒防止手段を構成する間仕切
5 キャビネットの本体
7 キャビネットのベース
8 地レール
11 上板
12 下フレーム
13 補強フレーム
17 アジャスタ
25 昇降体
26 接地体
33 補助フレーム
36 転倒防止手段を構成するファスナの一例としてのドリルねじ
37 境界部
38 プレート
38a 起立片
49 補助部材
51 補強部材