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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】時計爪システム
(51)【国際特許分類】
   G04B 11/04 20060101AFI20220427BHJP
   G04B 5/12 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
G04B11/04
G04B5/12
【請求項の数】 17
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018021524
(22)【出願日】2018-02-09
(65)【公開番号】P2018155737
(43)【公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-13
(31)【優先権主張番号】17155912.3
(32)【優先日】2017-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グフォン, エリック
(72)【発明者】
【氏名】ミゼレ, ティエリー
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第00101398(US,A)
【文献】実開昭52-166557(JP,U)
【文献】特開平11-174163(JP,A)
【文献】特開2002-311161(JP,A)
【文献】スイス国特許出願公開第00707741(CH,A3)
【文献】特公昭48-040431(JP,B1)
【文献】米国特許第00946385(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 3/00-11/04
G04B 19/02
G04C 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計香箱(3)を巻き上げるための駆動輪列の歯車(2)用の爪システム(1;1’;1’’)であって、
前記歯車(2)の歯列(2a)と協働することが意図される少なくとも1つの歯(1a:1a’;1a’’)を有する爪(10;10’;10’’)と、
前記爪を作動及び作動解除するための要素(6;6’)と、
を含み、
前記作動及び作動解除要素は、前記作動及び作動解除要素が第1構成にあるときには、前記爪の前記少なくとも1つの歯(1a:1a’;1a’’)は、直接的または間接的に前記歯列(2a)と協働し、前記作動及び作動解除要素が第2構成にあるときは、前記爪の前記少なくとも1つの歯(1a:1a’;1a’’)は、前記歯列(2a)と協働せずまたは前記歯列(2a)に対して前記爪の前記少なくとも1つの歯(1a:1a’;1a’’)を戻す戻し力が減少されるように、配置され、
前記作動及び作動解除要素は、前記第1構成にあるときにはムーブメントのフレーム(99)から取り除かれ、前記第2構成にあるときにはムーブメントのフレーム(99)に固定される、組立手段である、
システム。
【請求項2】
前記歯車(2)はラチェット(2)である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記爪(10;10’)は、ムーブメント(100;100’;100’’)のフレーム(99)への組立用の組立要素(1c:1c’)を有し、前記爪は、前記組立要素からある程度離れたところに、前記少なくとも1つの歯(1a:1a’;1a’’)を有する、
請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記爪は、前記組立要素と前記少なくとも1つの歯との間に、可撓部分(1b)を有する、
請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記組立要素は、前記爪をムーブメント(100;100’;100’’)のフレーム(99)へ固定するための要素である、
請求項3または4に記載のシステム。
【請求項6】
前記爪は、堅固体(1d’;1d’’)を有し、前記組立要素(1c’;1c’’)は
、旋回要素であり、前記爪は、前記爪の前記少なくとも1つの歯(1a:1a’;1a’’)を前記歯列(2a)へ戻すための戻しばね(1b’;1b’’)を有する、
請求項3に記載のシステム。
【請求項7】
前記ばねは、前記堅固体と一体に形成される、または前記堅固体に対して直接的または間接的に当接する付着されたばねである、
請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記作動及び作動解除要素組立手段(6;6は、ねじ(6;6’)である、
請求項1から7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記作動及び作動解除要素は、前記第2構成において、爪と当接することが意図される面を有する
請求項に記載のシステム。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の爪システムを有する、小型時計ムーブメント(100;100’;100’’)
【請求項11】
前記ムーブメントは、自動ムーブメント(M’)と、請求項1から9のいずれか一項に記載の爪システムを有する、前記作動及び作動解除要素はムーブメントブランクへの自動ムーブメントの組立手段である、
請求項10に記載の小型時計ムーブメント。
【請求項12】
前記時計香箱の主ぜんまい(3)は、前記作動及び作動解除要素の第2構成において、自動ムーブメントの影響下で、張力を受け続ける
請求項10または11に記載のムーブメント。
【請求項13】
前記自動ムーブメントは自動巻上げモジュールであり、前記自動巻上げモジュールは、切替車が備えられるモジュールである
請求項11に記載のムーブメント。
【請求項14】
前記爪(10;10’)は、ムーブメントのフレーム(99)への組立用の組立要素(1c:1c’)を有し、前記爪は、前記組立要素からある程度離れたところに、前記少なくとも1つの歯(1a:1a’;1a’’)を含む
請求項10から13のいずれか一項に記載のムーブメント。
【請求項15】
請求項1から9のいずれか一項に記載のシステムまたは請求項10から14のいずれか一項に記載のムーブメントを含む、時計(110;110’;110’’)
【請求項16】
前記作動及び作動解除要素は、時計の組立手段である、
請求項15に記載の時計。
【請求項17】
請求項10から14のいずれか一項に記載の時計ムーブメントまたは請求項15または16に記載の時計の構成方法であって、
前記爪の前記少なくとも1つの歯が、直接的または間接的に前記歯列と協働する第1構成に位置するように、前記作動及び作動解除要素に作用するステップ、及びまたは
前記爪の前記少なくとも1つの歯が前記歯列と前記協働しない、または前記爪の前記少なくとも1つの歯を前記歯列に対して戻す戻し力が減少する、第2構成に位置するように、前記作動及び作動解除要素に作用するステップ、
を含む、方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用香箱の巻上げ用駆動輪列の歯車用の爪システムに関する。本発明はまた、当該システムを含む時計ムーブメントに関する。本発明はまた、当該システムまたは当該ムーブメントを含む時計に関する。本発明は最後に、当該ムーブメントまたは当該時計を構成する方法に関する。本発明は更に当該ムーブメントまたは当該時計を組み立てる方法に関する。本発明は更に、当該ムーブメントまたは当該時計を解体する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
手動または自動巻上げ時計の主ぜんまいは、通常、香箱真に直角に取付けられるラチェットと協働するよう設計される爪により張力を受け続けている。更に詳しくは、爪は、主ぜんまいを巻き戻す方向にラチェットを不動化し、手動または自動巻上げ装置が作動されると解放する。
【0003】
自動巻上げ装置もまた、当該装置が設けられた時計からラチェット爪を取り外せるよう、ぜんまいを巻き戻す方向にラチェットを不動化するように構成される。しかしながら、自動ムーブメントの解体の際に香箱の主ぜんまいが制御されず時宜を逸してほどける問題が残る。このため、従来技術にかかる自動巻上げを有する既知の時計は、香箱真を不動化するよう設計された装置、とりわけラチェット爪をさらに含む。当該解決策は、とりわけ時計を自動巻上げモジュールから独立して操作可能にするが、自動巻上げの有効性に鑑み最適ではない。これは、このような場合に主ぜんまいの自動巻上げを可能にするために、回転錘が爪により、とりわけ爪ばねにより引き起こされる抵抗トルクを克服しなければならないからである。このため当該構造は、時計の寸法により、特に直径の小さい及びまたは厚みの少ない自動ムーブメントにおいて、回転錘の巻上げ力が制限されるときに問題となる。
【0004】
特許文献1は、堅固な第1部と弾性の第2部が設けられた一体型のラチェット爪を開示する。堅固部は、主ぜんまいが巻戻る方向へラチェットを不動化し、主ぜんまいを巻く方向においてラチェットの歯列から離れるよう、ラチェットの歯列と協働するよう設計されたクリック歯を含む。このため、爪の弾性部は、ラチェットの歯列を不動化する位置へクリック歯を戻すために、クリック歯がラチェットの歯列から離れると設定される弾性アームの形状を取る。当該装置が自動巻上げ機構を有する時計に組み込まれると、回転錘は、爪により、とりわけ爪の弾性部により引き起こされる抵抗トルクを克服しなければならない。
【0005】
ラチェット爪には、代替物が存在する。ラチェット爪は、例えば、手動または自動巻上げ輪列の一方または他方に配置された、1以上の爪で代替できる。非特許文献1は、例えば170から174ページにおいて、「Zenith No.133」の整理番号で知られる、ラチェット爪を有さない一方向自動巻上げムーブメントを開示する。当該構造において、自動巻上げモジュールに導入された爪が、間接的に主ぜんまいの巻戻し方向にラチェットを不動化する。当該時計は、その自動巻上げモジュールから独立して動作することができない。
【0006】
爪にも、代替物が存在する。特許文献2は、発明の第3実施形態において、対向して搭載された2つのラジアルボールクラッチにより旋回される回転錘が設けられた一方向自動巻上げ装置を開示する。第1クラッチは、回転錘の回転の第一方向において、回転錘とラチェットとの間に一方向接続を確立することを可能にする。回転錘の回転の第2方向において、ボールは自動ムーブメント輪列をその位置に留め、つまり爪と、とりわけラチェット爪と同一の機能を果たす。当該構成は、死角が最小化された、単純な自動ムーブメント輪列の使用を許可するという利点がある。しかしながら、上述のZenithキャリバーのように、当該時計は、その自動ムーブメントから独立して動作することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】スイス特許出願公開第542468号明細書
【文献】国際公開第2015/193400号
【非特許文献】
【0008】
【文献】La montre suisse a remontage automatique(自動巻上げを有するスイス時計)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述の欠点を克服可能な時計爪システムを提供し、従来技術から既知の時計爪システムを向上することである。特に、本発明は、時計爪システムを備えた時計が自動巻上げモジュールなくして動作可能である、及びまたは自動巻上げモジュールが爪により引き起こされる抵抗トルクを克服する必要がない、時計爪システムを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るシステムは、請求項1に定義される。
【0011】
システムの実施形態は、請求項2からに定義される。
【0012】
本発明に係るムーブメントは、請求項10に定義される。
【0013】
ムーブメントの実施形態は、請求項11から14に定義される。
【0014】
本発明に係る時計は、請求項15に定義される。
【0015】
時計の実施形態は、請求項16に定義される。
【0016】
本発明に係る構成方法は、請求項17に定義される。
【0017】
添付の図面は、本発明に係る時計の3つの実施形態を例示的に図示する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、時計爪システムの第1実施形態を含む、本発明に係る時計の第1実施形態の概略図である。
図2図2は、作動解除構成にある時計爪システムの第1実施形態の図である。
図3図3は、作動解除構成にある時計爪システムの第1実施形態の図である。
図4図4は、自動巻上げモジュールの図である。
図5図5は、時計の第1実施形態を得るための、図4の自動巻上げモジュールの組立を示す図である。
図6図6は、時計の第1実施形態を得るための、図4の自動巻上げモジュールの組立を示す図である。
図7図7は、時計爪システムの第1実施形態の代替形態の斜視図である。
図8図8は、時計爪システムの第2実施形態を含む、本発明に係る時計の第2実施形態の概略図である。
図9図9は、時計爪システムの第3実施形態を含む、本発明に係る時計の第3実施形態の概略図である。
図10図10は、好みにより本発明に係る時計ムーブメントに用いられる自動巻上げモジュールの一実施形態の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
時計110の第1実施形態を、図1から7を参照して以下に説明する。時計は、例えば小型時計であり、特に腕時計である。時計は、機械式小型時計ムーブメント100、とりわけ自動小型時計ムーブメントを含む。
【0020】
有利には、小型時計ムーブメントは、フレーム99、時計香箱3、歯車列及び自動ムーブメントまたは自動巻上げ装置を含む。自動巻上げ装置は、図4に示す自動巻上げモジュールM’であってもよい。本明細書で「自動ムーブメント」または「自動巻上げ装置」とは、ムーブメントの時計香箱3を自動的に巻き上げる駆動列またはムーブメントの時計香箱3を自動的に巻き上げる駆動列の一部を意味する。駆動列の一部は、少なくとも回転錘5を含み、回転錘の機械的エネルギーは、香箱を巻き上げるために用いられる。
【0021】
好みにより、自動ムーブメントは双方向性であり、とりわけ切替車4、4’を含んでもよい。2つの切替車4、4’は、図3に示すように、一方ではラチェットを回転錘5の運動の伝達により主ぜんまいを巻きつける方向へ駆動させ、他方ではラチェットを回転錘5の影響下で主ぜんまいを巻き戻す方向に不動化させる。確かに、ムーブメントの自動巻上げ用の駆動輪列は、不可逆である。このため、自動ムーブメントは、好ましくは、主ぜんまいを巻き戻す方向にラチェットまたは歯車を不動化するように設計される。好みにより、自動ムーブメントは、例えば自動ムーブメントと回転錘5の各種歯車列を旋回させる2つのムーブメントブランクM1’、M2’を含む、自動巻上げモジュールM’の形態を取る。
【0022】
ムーブメントは、時計香箱3の巻上げ用駆動輪列の歯車2用の爪システム、すなわち時計香箱3の巻上げ用駆動輪列の歯車2を不動化する爪システムを含む。
【0023】
爪システムは、
- 歯車2の歯列2aと協働することが意図される少なくとも1つの歯1aを有する、爪10と、
- 爪の作動及び作動解除要素6と、
を含む。
作動及び作動解除要素は、作動及び作動解除要素が第1構成(図1に図示)にあるとき、爪の少なくとも1つの歯1aが直接的または間接的に、とりわけ障害により、及びまたは爪の少なくとも1つの歯1aを歯列2aに対して戻す戻し力の影響下で、歯列2aと協働するように配置され、作動及び作動解除要素が第2構成(図2に図示)にあるとき、爪の少なくとも1つの歯1aが歯列2aと協働せずまたは爪の少なくとも1つの歯1aを歯列2aに対して戻す戻し力が減少し、とりわけ第1構成において爪の少なくとも1つの歯1aを歯列2aに対して戻す戻し力と比較して減少するよう配置される。
【0024】
換言すれば、作動及び作動解除要素は、
- 作動及び作動解除要素が爪を作動させる、すなわち爪の少なくとも1つの歯1aがとりわけ障害により、及びまたは爪の少なくとも1つの歯1aを歯列2aに対して戻す戻し力の影響下で、直接的または間接的に歯列2aと協働する、第1作動構成または第1作動位置、及び
- 作動及び作動解除要素が爪を作動解除させる、すなわち爪の少なくとも1つの歯1aが歯列2aと協働せずまたは爪の少なくとも1つの歯1aを歯列2aに対して戻す戻し力が減少し、とりわけ第1構成において爪の少なくとも1つの歯1aを歯列2aに対して戻す戻し力と比較して減少する、第2作動解除構成または第2作動解除位置、
とを含む。
【0025】
図示の各種実施形態において、好みにより、作動及び作動解除要素の第2構成において、爪の少なくとも1つの歯1aは歯列2aと協働しない。
【0026】
有利には、爪と香箱の角穴車は、作動及び作動解除要素の第1作動構成または第1作動位置において固定され、爪と香箱の角穴車は、作動及び作動解除要素の第2作動解除構成または第2作動解除位置において分離される。
【0027】
図1から6に図示される第1実施形態の代替形態において、爪10は、ムーブメント100のフレーム99への組立用の組立要素1cを含む。組立要素は、好ましくは爪の第1端部に位置する。組立要素は、例えば、ペグまたはピンを受け入れることを意図する第1穴及びねじの通過用の穴を備えたヒール1cといった形状を含む。ねじは穴を通過し、フレームのねじ穴へねじ込まれる。ペグまたはピンは、フレームとヒールに部分的に収容される。第1実施形態において、組立要素は、ムーブメントのフレームへ固定する要素である。
【0028】
爪は、固定要素からある程度離れた、少なくとも1つの歯1a、とりわけ第1実施形態の当該第1代替形態において2つの歯を含む。好みにより、少なくとも1つの歯1aは、爪の第2端部に位置する。歯または複数の歯は、例えば、歯列2aの歯と同様のプロファイルを有する。
【0029】
爪は更に、固定要素1c及び少なくとも1つの歯1aとの間に、可撓部分1bを含む。当該部分は、例えば、棒またはアームのような、伸長形状を有する。好みにより、図1図5で図示する爪作動第1構成において、少なくとも1つの歯は、歯列2aと接触するよう戻される。また好みにより、当該第1構成において、爪、特に爪の可撓部分1bは、わずかに予圧され、少なくとも1つの歯を歯列2aに対して押圧する。
【0030】
このため、爪1は単安定である。第1位置は、少なくとも1つの歯が歯列2aとの接触に戻される位置である。このため、安定位置は、少なくとも1つの歯が障害により歯列2aと協働する位置であり、このため爪が歯車2の回転を阻止する位置、特に歯車2の主ぜんまいがほどけるまたは巻き戻す方向への回転を阻止する位置である。
【0031】
図示の実施形態において、作動及び作動解除要素は、組立手段6である。当該組立手段は、ムーブメントに対するあらゆる装置の組立を可能とする。有利には、組立手段は自動ムーブメント、特に自動巻上げモジュールM’を、ムーブメントに対して組み立てることを可能にする。
【0032】
図示の実施形態において、組立手段は、ねじ6である。
【0033】
上述の通り、作動及び作動解除要素の第1構成は、爪の少なくとも1つの歯1aが障害によりまたは干渉により歯列2aと協働するものであり、作動及び作動解除要素の第2構成は、爪の少なくとも1つの歯1aが歯列2aと協働しないものであり、または爪の少なくとも1つの歯1aの歯列2aとの噛合が強固でなくなるものである。
【0034】
有利には、第1構成は作動及び作動解除要素の第1位置であり、第2構成は作動及び作動解除要素の第2位置である。
【0035】
有利には、図6に図示するように、組立手段は、第1直径の第1部分6aを有する。当該第1直径は、爪が第1位置に接触または当接する、組立手段の第2位置または構成において、少なくとも1つの歯が歯列2aからある程度離れ、または少なくとも歯列2aと部分的にのみ噛合するものである。図2及び図3で図示する当該位置において、爪はその可撓部分1bで屈曲するよう弾性変形する。
【0036】
有利には、組立手段は第2部分6b、とりわけ第2直径の第2部分を有する。当該第2部分は、例えばねじ切りされ、フレーム99に、例えば香箱受M1に設けられたねじ立てに、ねじ込まれることが意図される。好みにより、時計製作者が組立手段を取り除く際、当該手段を完全に取り除く前に、組立手段は第1位置または構成にある。当該第1位置において、爪は第2位置と接触または当接し、爪はその可撓部分により当該第2位置へ弾性的に戻される。その後、少なくとも1つの歯は、図1に図示するように、歯列2aと障害を形成するようなまたは干渉するような位置に戻される。図1において、ねじ6は完全に取り除かれている。
【0037】
第1及び第2位置は、有利には傾斜、とりわけ円錐台状形状または面取り面6c、により接続される。
【0038】
もちろん、ねじ6は、ブランクに取付けられたまたは一体に形成されたピンまたは偏心器または組立を提供可能なその他の手段で代替してもよい。ピンは、例えば、面取り円筒ピン、または代替的には円錐台状ピンであってもよい。より一般的には、自動巻上げモジュールのブランク形成部の機械加工など、自動巻上げモジュールから突出するあらゆる要素が、または代替的には自動巻上げモジュールに取付けられたあらゆる要素が、ねじ6の機能を果たすことができる。
【0039】
好みにより、作動及び作動解除要素と爪とは、作動及び作動解除要素が第1位置から第2位置へ移動する際にまたは作動及び作動解除要素が第2位置から第1位置へ移動する際に、爪の少なくとも1つの歯が、歯車2に対して、ムーブメントの平面内でまたは歯車2の平面内で、移動されるように配置される。
【0040】
しかしながら、図7に図示する爪の第1実施形態の第2代替形態において、ここではねじである組立手段6*は、その断面に平行または実質的に平行な面6e*を有し、とりわけ少なくとも1つの歯1aに近い端部において爪と当接することが意図される。平行面6e*は、第2構成において、爪を弾性変形するよう、とりわけ爪を屈曲して弾性変形するよう、爪に当接することが意図される。このため、この第2代替形態において、作動及び作動解除要素と爪とは、作動及び作動解除要素が第1位置から第2位置へ移動する際にまたは作動及び作動解除要素が第2位置から第1位置へ移動する際に、爪の少なくとも1つの歯が歯車2に対して、ムーブメントの平面に垂直にまたは歯車2の平面に垂直に移動されるよう、配置される。この代替形態において、ねじ6*は、好ましくは爪のアーム1bの上方に配置される。
【0041】
時計110’の第2実施形態を、図8を参照して以下に説明する。時計は、例えば小型時計、特に腕時計である。時計は、機械式小型時計ムーブメント100’、とりわけ自動小型時計ムーブメントを含む。
【0042】
ムーブメントは、時計香箱3の巻上げ用駆動輪列の歯車2用の爪システム、すなわち時計香箱3の巻上げ用駆動輪列の歯車2を不動化する爪システムを含む。
【0043】
第2実施形態は、爪システム1’の第2実施形態を含む点で第1実施形態と異なる。
【0044】
第2実施形態において、爪10’は、ムーブメント100’のフレーム99への組立用の組立要素1c’を含む。組立要素は、好ましくは爪の第1端部に位置する。組立要素は、例えば、心棒の通過用の穴を備えたヒール1c’といった形状を含む。第2実施形態において、組立要素は、フレーム上で爪を旋回するよう設計された旋回要素である。
【0045】
第1実施形態と同様、爪は、組立要素からある程度離れた、少なくとも1つの歯1a’を含む。好みにより、少なくとも1つの歯1a’は爪の第2端部に位置する。当該実施形態において、少なくとも1つの歯は、ジャンパくちばしの形状を有する。
【0046】
第1実施形態とは異なり、爪は、旋回要素1c’と少なくとも1つの歯1a’との間に堅固部分1d’を含む。当該部分は、例えばアームのような伸長形状を有する。堅固部分は、爪システムの通常作動中に、全くまたはほぼ全く変形しない。
【0047】
好みにより、爪の第1の作動構成において、少なくとも1つの歯は、歯列2aと接触するよう戻される。当該第1構成において、爪は負荷をかけられ、少なくとも1つの歯を歯列2aへ押圧する。当該負荷は、爪の弾性アーム1b’により得られる。第1構成において、弾性アームは、ここではねじ6’、とりわけ弾性アーム1b’と協働するよう設計された円錐台状部分が設けられたねじ6’である、作動及び作動解除要素6’に当接するよう変形または予圧される。当該実施形態において、ばねのように作動する弾性アーム1b’は、爪の堅固体1d’と一体に形成される。代替的に、ばねを取付けてもよい。ばねは堅固体に対して直接的にまたは間接的に当接するよう配置されてもよい。
【0048】
このため、爪1’は単安定である。第1位置は、少なくとも1つの歯が歯列2aとの接触に戻される位置である。このため、第1位置は、少なくとも1つの歯が障害により歯列2aと協働する位置であり、このため爪が歯車2の回転を阻止する位置、特に歯車2が主ぜんまいがほどけるまたは巻き戻す方向への回転を阻止する位置である。
【0049】
時計110’’の第3実施形態を、図9を参照して以下に説明する。時計は、例えば小型時計、特に腕時計である。時計は、機械式小型時計ムーブメント100’’、とりわけ自動小型時計ムーブメントを含む。
【0050】
ムーブメントは、時計香箱3の巻上げ用駆動輪列の歯車2用の爪システム、すなわち時計香箱3の巻上げ用駆動輪列の歯車2を不動化する爪システムを含む。
【0051】
第3実施形態は、爪システム1’’の第3実施形態を含む点で第1実施形態と異なる。
【0052】
第3実施形態において、爪10’’は、実際の爪本体10’’と別個のばね1b’’という2つの部品として製造される点で、第1及び第2実施形態の爪と異なる。ばね1b’’は、爪に負荷をかけ爪の第1位置に戻すよう設計される。
【0053】
第2実施形態と同様、爪は、旋回要素1c’’と少なくとも1つの歯1a’’との間に堅固部分1d’’を含む。当該堅固部分は、爪システムの通常作動中に、全くまたはほぼ全く変形しない。
【0054】
好みにより、図9に図示する爪の第1の作動構成において、少なくとも1つの歯は、歯列2aと接触するよう戻される。当該第1構成において、爪は負荷をかけられ、少なくとも1つの歯を歯列2aへ押圧する。当該負荷は、ばね1b’’の働きにより得られる。第1構成は、作動及び作動解除要素(図示せず)が爪の作動を引き起こす、すなわち爪の少なくとも1つの歯1a’’が、爪の少なくとも1つの歯1a’’を歯列2aに戻す戻し力の影響下で、歯列2aと障害により協働する、第1作動構成または第1作動位置において得られる。例えば、第1作動構成または第1作動位置において、作動及び作動解除要素はばね1b’’に作用しない。
【0055】
例えば、第2作動解除構成または第2作動解除位置において、作動及び作動解除要素は、爪の作動解除または爪の作動の減少を引き起こす。これは、爪の少なくとも1つの歯1a’’が歯列2aと協働しないまたは爪の少なくとも1つの歯1a’’を歯列2aに対して戻す戻し力が減少することを意味する。
【0056】
上述の全ての実施形態及び代替形態において、歯車2は角穴車である。しかしながら、歯車2は、香箱巻上げ輪列、とりわけ自動巻上げ輪列または手動巻上げ輪列の他のあらゆる歯車であってもよい。歯車は更に、香箱と噛合する他の輪列の一部を形成してもよい。
【0057】
上述の全ての実施形態及び代替形態において、作動及び作動解除要素が自動巻上げモジュールを組み立てるためのねじである場合、自動巻上げモジュールの解体中にねじを抜くとすぐに、爪は第2構成から、とりわけばねの影響下で、爪の少なくとも1つの歯1a、1a’、1a’’が歯列2aと噛み合う第1構成に切り替わる。
【0058】
上述の全ての実施形態及び代替形態において、作動及び作動解除要素は、組立手段である。代替的に、作動及び作動解除要素は他の機能を有してもよい。作動及び作動解除要素は、単一の作動及び作動解除機能のみに特化してもよい。作動及び作動解除要素は、例えば、偏心器を含んでもよい。
【0059】
上述の全ての実施形態及び代替形態において、爪ばねの剛性は、自動巻上げ装置の作動中の爪の抵抗トルクを著しく最小化するために、抑制されてもよい。当該構成において、好ましくは、爪は第2実施形態同様、ジャンパ1’である。
【0060】
上述の全ての実施形態及び代替形態において、爪は単安定である。このため、後退時に設定されたばねの作用に対抗して、爪は歯列2aから後退する。ばねの弾性剛性を抑制してもよい。ばねの復帰または再設定をすることで、爪を第1構成の位置へ戻す。
【0061】
代替的に、爪は双安定ロッカレバーの、すなわち2つの安定位置が設けられるロッカレバーの形状をとってもよい。2つの安定位置は、例えば可撓構造、とりわけ1以上の可撓リーフの座屈により定義される。当該構成において、第1位置または第2位置にあるロッカレバーの状態は、作動及び作動解除要素の状態により決定される。
【0062】
前述の通り、爪は、図1、2、7及び8に示すように一体の部品であってもよく、または代替的に図9に示すような組立体であってもよい。爪はまた、図8及び9に示すように、ばねにより弾性的に戻される堅固な部品であってもよい。
【0063】
上述の通り、爪はラチェット2と直接的に協働するよう設計される。ここで「直接的」とは、爪が好ましくはラチェットの歯列と噛み合うように設計されることを意味する。代替的に、爪は、ラチェットと噛み合うムーブメントの手動巻上げ輪列の他の歯車列と協働してもよい。爪は、例えば、ラチェットと噛み合う丸穴車と協働してもよい。その場合、作動の本質は完全に不変である。更に代替的に、当該爪で割出される手動巻上げ輪列の丸穴車または他のあらゆる歯車列は、自動巻上げモジュールの、更に詳しくは自動巻上げモジュールの組立手段の影響下でラチェットの歯列から後退可能なように自由度を有してもよい。このため、当該歯車列は、例えば、オリーブ形ほぞまたはロッカレバーにより旋回されてもよい。
【0064】
どの実施形態であれ、爪は、回転錘が除去されると直ぐに、好ましくは回転錘が除去される直前に、第1構成に位置される。これにより、主ぜんまいが時宜を得ずほどけるリスクを防止することができる。好みにより、自動巻上げモジュールM’は、モジュールが除去されるまで、とりわけその状況が爪の状況を決定するねじが外されるまで、回転錘をムーブメントから除去できないように設計される。好みにより、ある特定の構造において、回転錘5を組立てまた解体するねじ7は、自動巻上げモジュールM’がムーブメントに組立られている間はアクセスすることができない。ねじ7は、例えば図10に示すように、自動巻上げモジュールM’の下側から取付けられる。
【0065】
有利には、自動巻上げを有する時計ムーブメントは、離脱可能な爪、または時計ムーブメントの組立状態に応じて作動及び作動解除可能な爪が設けられるという特定の特徴を提供する。このため、自動巻上げ装置の作動中に爪の機能を制限し、自動巻上げ装置をムーブメントから除去すると爪の機能を作動させることができる。この結果、自動巻上げ装置の動作中、回転錘は、主ぜんまいの自動巻上げを許可するために、爪が、とりわけ爪ばねが引き起こす抵抗トルクを克服する必要がない。当該解決策は、その単純さと予期される利点に関して、特に有利である。
【0066】
好ましい実施形態において、自動巻上げムーブメントは、自動巻上げモジュールM’の組立状態に応じて作動及び作動解除可能な爪が設けられるという、特定の特徴を提供する。
【0067】
自動巻上げモジュール無しの時計ムーブメントに対応するムーブメントの第1構成または組立状態において、爪は、主ぜんまいの巻戻し方向にラチェットを不動化するように作動される。自動巻上げモジュール無しのムーブメントの動作中、爪は巻上げ中に後退するが、香箱の巻戻し方向の歯列の全ての運動を防止するよう、歯列と干渉する構成に直ちに戻る。
【0068】
自動巻上げモジュール有りの時計ムーブメントに対応するムーブメントの第2構成または組立状態において、爪は歯列との干渉を避けるよう、作動解除される。例えば、爪の少なくとも1つの歯は、自動巻上げモジュールの動作中、回転錘の運動を妨害しないよう、歯列の圏外にある。
【0069】
この特定の構造において、自動巻上げモジュールM’、特にムーブメントへの自動巻上げモジュールの組立手段は、ラチェット用爪を作動または作動解除状態に構成するという、ラチェット用爪の状態を管理する。例えば、上述のように、自動巻上げモジュールをムーブメントへ組み立てるための組立ねじは、爪を自動巻上げモジュールM’の組立及び解体の際に、とりわけムーブメントのフレームの平面内で移動可能にする、または移動されるようにする、特定の形状を示してもよい。これを達成するために、ねじ6は、上述の通り、ねじ6がムーブメントMの残りに、特に香箱受M1へねじ込まれる際に爪と接触するよう形成された本体部分6aを有してもよい。好みにより、ねじ6は、面取り6cにより分離される少なくとも2つの別途の部分6a、6bを有する。面取り6cは、ねじ6がねじ込まれる際に、爪を移動可能にするように、このため歯列2aから少なくとも1つの歯1a、1a’、1a’’が離れることを可能とするように、傾斜を構成する。このため、ねじ6のねじ込み開始時には、爪は第1構成にあり、ねじ6のねじ込み終了時には、爪は第2構成にある。有利には、作動及び作動解除要素6の第2構成において、主ぜんまいは、自動ムーブメントの効果の下で張力がかかる状態に維持される。
【0070】
各種実施形態は、自動巻上げモジュールM’の組立状態に応じて解放または作動解除可能な爪が設けられるという特徴を有する、自動巻上げを有するムーブメントに関する。更に一般的には、自動巻上げを有する時計ムーブメントは、時計ムーブメントの組立状態に応じて、特に時計ムーブメントのフレームワークへの組立状態に応じて解放または作動解除可能な爪が設けられるという特徴を示す。例えば、爪は、小型時計ケース内へのムーブメントの最終組み立てにより作動解除されてもよい。爪は、例えば、裏蓋など、ケースの要素により作動解除されてもよい。例えば、裏蓋には、ケースの裏蓋が組み立てられるとラチェットの歯列から爪が後退されるように、爪と協働するよう設計されたピンが設けられてもよい。当該設計は、自動巻上げ装置の作動により爪を抑制または作動解除することを可能にし、またケースからムーブメントが取り外され、ムーブメントから自動ムーブメントが取り外されるときに爪の作動を保証することを可能にする。当該設計は、ムーブメント全体をカバーしない回転錘、例えばマイクロロータ型のムーブメント用の回転錘が設けられたムーブメントに適している。
【0071】
任意で、当該装置は追加的な制御により、例えば時計ムーブメントの巻真により、駆動されてもよい。このため、作動及び作動解除要素は、好ましくは時計ムーブメントの巻真の機構により作動される補助装置の影響下で、その状態を変更されることもできる。例えば、作動及び作動解除要素は、後退することができるように弾性構造を有してもよく、追加的な自由度を有してもよい。
【0072】
有利には、上述の時計ムーブメントまたは上述の時計は、以下のステップの少なくとも1つを採用することで構成される。
- 爪の少なくとも1つの歯が、とりわけ障害により、歯列と協働する、及びまたは爪の少なくとも1つの歯を歯列に対して戻す戻し力の影響により協働する、第1構成に位置するように、爪作動及び作動解除要素に作用する。
- 爪の少なくとも1つの歯が歯列と協働しない、または爪の少なくとも1つの歯を歯列に対して戻す戻し力が減少する、とりわけ第1構成において爪の少なくとも1つの歯1aを歯列2aに対して戻す戻し力に対して減少する、第2構成に位置するように、爪作動及び作動解除要素に作用する。
【0073】
好みにより、上述の第1ステップは、時計ムーブメントまたは時計を解体する方法中に実施される。
【0074】
好みにより、上述の第2ステップは、時計ムーブメントまたは時計を組み立てる方法中に実施される。
【0075】
本明細書全体において、「爪」または「こはぜ」の文言は、好ましくは部品(通常は歯車またはラチェット)を第1方向のみに作動解除させ、(第1方向とは反対の)第2方向へ回転可能にする機構を意味する。小型時計において、爪は、巻上げ動作が作動解除すると、ラチェットが逆回転することを阻止する。爪は、ばねの作用の下で、歯車の歯と噛み合うくちばしが設けられたレバーでもよい。
【0076】
本明細書全体において、「作動された爪」の文言は、好ましくは、爪が部品を第1方向のみに作動解除させ、第2方向に回転可能にすることを意味する。
【0077】
本明細書全体において、「作動解除された爪」または「クリックされていない爪」の文言は、好ましくは、爪が部品を第1方向と第2方向の両方に回転可能とすることを意味する。
【符号の説明】
【0078】
1 爪システム
1a 歯
2 歯車
2a 歯列
3 香箱
6 作動及び作動解除要素
10 爪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10