(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】ブレーカー及びそれを備えた安全回路
(51)【国際特許分類】
H01H 37/04 20060101AFI20220427BHJP
H01H 37/54 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
H01H37/04 A
H01H37/54 C
(21)【出願番号】P 2018033289
(22)【出願日】2018-02-27
【審査請求日】2021-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390025140
【氏名又は名称】ボーンズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】浪川 勝史
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/171515(WO,A1)
【文献】特開2014-035993(JP,A)
【文献】特開2014-120379(JP,A)
【文献】特開2014-203787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 37/04
H01H 37/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定接点と、
板状に形成され弾性変形する弾性部及び該弾性部の一端部に可動接点を有し、前記可動接点を前記固定接点に押圧して接触させる可動片と、
温度変化に伴って変形することにより、前記可動片を前記可動接点が前記固定接点に接触する導通状態から前記可動接点が前記固定接点から離隔する遮断状態に移行させる熱応動素子と、
前記固定接点、前記可動片及び前記熱応動素子を収容するケースとを備えたブレーカーであって、
前記ケースは、前記可動片の長手方向にのびる側壁を有し、
前記側壁は、前記熱応動素子の周辺に、前記ケースの外方に突出する凸部を有し
、
前記ケースは、前記側壁と交差する天壁を有し、
前記天壁には、板状に形成されたカバー片が埋設され、
前記カバー片は、前記凸部が突出する方向に延出された幅広部を有し、前記幅広部の前記長手方向の長さは、前記凸部の前記長手方向の長さよりも大きい、ことを特徴とするブレーカー。
【請求項2】
前記ケースは、前記熱応動素子を収容するための収容凹部を有する第1樹脂ケースと、
前記第1樹脂ケースに固着されて前記収容凹部を覆う第2樹脂ケースと、を有し、
前記凸部は、前記第1樹脂ケースに設けられ、
前記天壁は、前記第2樹脂ケースに設けられている、請求項1記載のブレーカー。
【請求項3】
前記第1樹脂ケースは、前記側壁と交差する底壁を有し、
前記底壁から露出して外部回路と接続される端子を有する端子片をさらに備え、
前記弾性部の厚さ方向から視て、前記幅広部は、前記端子片の少なくとも一部と重複する、請求項2記載のブレーカー。
【請求項4】
前記幅広部と前記端子片とが重複する領域には、樹脂が充填されている、請求項3記載のブレーカー。
【請求項5】
前記端子片は、前記幅広部の側に曲げられた曲がり部を有する、請求項4記載のブレーカー。
【請求項6】
前記弾性部の厚さ方向から視て、前記幅広部は、前記曲がり部と重複する、請求項5記載のブレーカー。
【請求項7】
前記端子片は、少なくとも一部が前記凸部に埋設されている、請求項3乃至6のいずれかに記載のブレーカー。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のブレーカーを備えたことを特徴とする電気機器用の安全回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器の安全回路に用いて好適な小型のブレーカー等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種電気機器の2次電池やモーター等の保護装置(安全回路)としてブレーカーが使用されている。ブレーカーは、充放電中の2次電池の温度が過度に上昇した場合、又は自動車、家電製品等の機器に装備されるモーター等に過電流が流れた場合等の異常が生じた際に、2次電池やモーター等を保護するために電流を遮断する。このような保護装置として用いられるブレーカーは、機器の安全を確保するために、温度変化に追従して正確に動作する(良好な温度特性を有する)ことと、通電時の抵抗値が安定していることが求められる。
【0003】
ブレーカーには、温度変化に応じて作動し、電流を導通又は遮断する熱応動素子が備えられている。特許文献1には、熱応動素子としてバイメタルを適用したブレーカーが示されている。バイメタルとは、熱膨張率の異なる2種類の板状の金属材料が積層されてなり、温度変化に応じて形状を変えることにより、接点の導通状態を制御する素子である。同文献に示されたブレーカーは、固定片、端子片、可動片、熱応動素子、PTCサーミスター等の部品が、ケースに収納されてなり、固定片及び端子片の端子がケースから突出し、電気機器の電気回路に接続されて使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、ブレーカーが、ノート型パーソナルコンピュータ、タブレット型携帯情報端末機器又はスマートフォンと称される薄型の多機能携帯電話機等の電気機器に装備される2次電池等の保護装置として用いられる場合、上述した安全性の確保に加えて、小型化が要求される。特に、近年の携帯情報端末機器にあっては、ユーザーの小型化(薄型化)の志向が強く、各社から新規に発売される機器は、デザイン上の優位性を確保するために、小型に設計される傾向が顕著である。こうした背景の下、携帯情報端末機器を構成する一部品として、2次電池と共に実装されるブレーカーもまた、さらなる小型化が強く要求されている。
【0006】
ケースの小型化が要求されるブレーカーでは、ケースの剛性・強度(耐圧性)が低下する傾向にある。そこで上記特許文献1に開示されているブレーカーにあっては、ケースの耐圧性の低下を補うために、天壁にカバー片が埋設されている。
【0007】
しかしながら、近年では、ブレーカーの用途は拡大されつつあり、ケースに高い負荷かがかけられる用途では、耐圧性をより一層向上させる技術が望まれている。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、温度特性を高めつつ、ケースの耐圧性を向上させることが可能なブレーカーを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、固定接点と、板状に形成され弾性変形する弾性部及び該弾性部の一端部に可動接点を有し、前記可動接点を前記固定接点に押圧して接触させる可動片と、温度変化に伴って変形することにより、前記可動片を前記可動接点が前記固定接点に接触する導通状態から前記可動接点が前記固定接点から離隔する遮断状態に移行させる熱応動素子と、前記固定接点、前記可動片及び前記熱応動素子を収容するケースとを備えたブレーカーであって、前記ケースは、前記可動片の長手方向にのびる側壁を有し、前記側壁は、前記熱応動素子の周辺に、前記ケースの外方に突出する凸部を有する、ことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る前記ブレーカーにおいて、前記ケースは、前記側壁と交差する天壁を有し、前記天壁には、板状に形成されたカバー片が埋設され、前記カバー片は、前記凸部が突出する方向に延出された幅広部を有し、前記幅広部の前記長手方向の長さは、前記凸部の前記長手方向の長さよりも大きい、ことが望ましい。
【0011】
本発明に係る前記ブレーカーにおいて、前記ケースは、前記熱応動素子を収容するための収容凹部を有する第1樹脂ケースと、前記第1樹脂ケースに固着されて前記収容凹部を覆う第2樹脂ケースと、を有し、前記凸部は、前記第1樹脂ケースに設けられ、前記天壁は、前記第2樹脂ケースに設けられている、ことが望ましい。
【0012】
本発明に係る前記ブレーカーにおいて、前記第1樹脂ケースは、前記側壁と交差する底壁を有し、前記底壁から露出して外部回路と接続される端子を有する端子片をさらに備え、前記弾性部の厚さ方向から視て、前記幅広部は、前記端子片の少なくとも一部と重複する、ことが望ましい。
【0013】
本発明に係る前記ブレーカーにおいて、前記幅広部と前記端子片とが重複する領域には、樹脂が充填されている、ことが望ましい。
【0014】
本発明に係る前記ブレーカーにおいて、前記端子片は、前記幅広部の側に曲げられた曲がり部を有する、ことが望ましい。
【0015】
本発明に係る前記ブレーカーにおいて、前記弾性部の厚さ方向から視て、前記幅広部は、前記曲がり部と重複する、ことが望ましい。
【0016】
本発明に係る前記ブレーカーにおいて、前記端子片は、少なくとも一部が前記凸部に埋設されている、ことが望ましい。
【0017】
本発明の電気機器用の安全回路は、前記ブレーカーを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のブレーカーによれば、ケースの側壁には、熱応動素子の周辺に、ケースの外方に突出する凸部が形成されているので、熱応動素子の周辺での側壁の肉厚が容易に確保され、ケースの剛性・強度を高めることが可能となる。また、上記凸部によってケースの内容積を容易に増加させることができ、寸法が大きい熱応動素子を採用することが可能となる。その結果、熱応動素子の作動温度及び復帰温度が安定し、ブレーカーの温度特性が容易に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態によるブレーカーの概略構成を示す組み立て前の斜視図。
【
図2】通常の充電又は放電状態における上記ブレーカーを示す断面図。
【
図3】過充電状態又は異常時などにおける上記ブレーカーを示す断面図。
【
図4】上記ブレーカーを第1面(天面)側から視た斜視図。
【
図5】上記ブレーカーを第2面(底面)側から視た斜視図。
【
図9】本発明の上記ブレーカーを備えた安全回路の回路図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第1発明の一実施形態によるブレーカーについて図面を参照して説明する。
図1乃至
図4は、ブレーカーの構成を示している。
図1及び
図4に示されるように、ブレーカー1は、一部がケース10から外部に露出する一対の端子22,32を備える。端子22,32が外部回路(図示せず)と電気的に接続されることにより、ブレーカー1は、電気機器の安全回路の主要部を構成する。
【0021】
図1に示されるように、ブレーカー1は、固定接点21及び端子22を有する第1端子片(固定片)2と、端子32を有する第2端子片3と、先端部に可動接点41を有する可動片4と、温度変化に伴って変形する熱応動素子5と、PTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスター6と、第1端子片2、第2端子片3、可動片4、熱応動素子5及びPTCサーミスター6を収容するケース10等によって構成されている。ケース10は、ケース本体(第1樹脂ケース)7とケース本体7の上面に装着される蓋部材(第2樹脂ケース)8等によって構成されている。
【0022】
第1端子片2は、例えば、銅等を主成分とする金属板(この他、銅-チタニウム合金、洋白、黄銅などの金属板)をプレス加工することにより形成され、ケース本体7にインサート成形により埋め込まれている。
【0023】
固定接点21は、銀、ニッケル、ニッケル-銀合金の他、銅-銀合金、金-銀合金などの導電性の良い材料のクラッド、メッキ又は塗布等により、形成されている。固定接点21は、第1端子片2の可動接点41に対向する位置に形成され、ケース本体7の内部に形成されている開口73aの一部からケース本体7の収容凹部73に露出されている。固定接点21と、端子22とは、ケース本体7に埋設された段曲げ部(図示せず)によって高さ違いに配置されている。
【0024】
本出願においては、特に断りのない限り、第1端子片2において、固定接点21が形成されている側の面(すなわち
図1において上側の面)を第1面、その反対側の底面を第2面として説明している。他の部品、例えば、第2端子片3、可動片4及び熱応動素子5、ケース10、カバー片9等についても同様である。
【0025】
後述する
図5等に示されるように、端子22は、ケース本体7の底壁16から矩形状に露出し、回路基板のランド部とはんだ付け等の手法により接続される。本実施形態では、ブレーカー1の短手方向に一対の端子22が並設されている。
【0026】
図2に示されるように、第1端子片2は、階段状(側面視でクランク状)に曲げられた段曲げ部25と、PTCサーミスター6を支持する支持部26とを有する。段曲げ部25は、固定接点21と支持部26とを繋ぎ、固定接点21と支持部26とを高さ違いに配置する。PTCサーミスター6は、支持部26に3箇所形成された凸状の突起(ダボ)26aの上に載置されて、突起26aに支持される。
【0027】
第2端子片3は、第1端子片2と同様に、銅等を主成分とする金属板をプレス加工することにより形成され、ケース本体7にインサート成形により埋め込まれている。第2端子片3は、可動片4と接続される接続部31と、端子32とを有している。接続部31と、端子32とは、ケース本体7に埋設された段曲げ部(図示せず)によって高さ違いに配置されている。
【0028】
接続部31は、ケース本体7の内部に形成されている開口73bの一部からケース本体7の収容凹部73に露出し、可動片4と電気的に接続される。一方、
図4に示されるように、端子32は、ケース本体7の底壁16から矩形状に露出し、回路基板のランド部とはんだ付け等の手法により接続される。本実施形態では、ブレーカー1の短手方向に一対の端子32が並設されている。
【0029】
可動片4は、銅等を主成分とする金属材料をプレス加工することにより板状に形成されている。可動片4は、長手方向の中心線に対して対称なアーム状に形成されている。
【0030】
可動片4の一端部には、可動接点41が形成されている。可動接点41は、固定接点21と同等の材料によって可動片4の第2面に形成され、溶接の他、クラッド、かしめ(crimping)等の手法によって可動片4の先端部に接合されている。
【0031】
可動片4の他端部には、第2端子片3の接続部31と電気的に接続される接続部42が形成されている。第2端子片3の接続部31の第1面と可動片4の接続部42の第2面とは、例えば、レーザー溶接によって固着されている。レーザー溶接とは、レーザー光をワーク(本実施形態では、第2端子片3及び可動片4が相当)に照射し、ワークを局部的に溶融及び凝固させることによってワーク同士を接合する溶接手法である。レーザー光が照射されたワークの表面には、他の溶接手法(例えば、ジュール熱を利用する抵抗溶接)による溶接痕とは異なる形態のレーザー溶接痕が形成される。
【0032】
可動片4は、可動接点41と接続部42との間に、弾性部43を有している。弾性部43は、接続部42から可動接点41の側に延出されている。これにより、接続部42は、弾性部43を挟んで可動接点41とは反対側に設けられる。
【0033】
接続部42において第2端子片3の接続部31と固着されることにより可動片4が固定され、弾性部43が弾性変形することにより、その先端に形成されている可動接点41が固定接点21の側に押圧されて接触し、第1端子片2と可動片4とが通電可能となる。可動片4と第2端子片3とは、接続部31及び接続部42において電気的に接続されているので、第1端子片2と第2端子片3とが通電可能となる。
【0034】
可動片4は、弾性部43において、プレス加工により湾曲又は屈曲されている。湾曲又は屈曲の度合いは、熱応動素子5を収納できる限り特に限定はなく、作動温度及び復帰温度における弾性力、接点の押圧力などを考慮して適宜設定すればよい。また、弾性部43の第2面には、熱応動素子5に対向して一対の突起(接触部)44a,44bが形成されている。突起44a,44bと熱応動素子5とは接触して、突起44a,44bを介して熱応動素子5の変形が弾性部43に伝達される(
図1及び
図3参照)。
【0035】
熱応動素子5は、可動接点41が固定接点21に接触する導通状態から可動接点41が固定接点21から離隔する遮断状態に移行させる。熱応動素子5は、円弧状に湾曲した初期形状をなし、熱膨張率の異なる薄板材を積層することにより形成される。過熱により作動温度に達すると、熱応動素子5の湾曲形状は、スナップモーションを伴って逆反りし、冷却により復帰温度を下回ると復元する。熱応動素子5の初期形状は、プレス加工により形成することができる。所期の温度で熱応動素子5の逆反り動作により可動片4の弾性部43が押し上げられ、かつ弾性部43の弾性力により元に戻る限り、熱応動素子5の材質及び形状は特に限定されるものでないが、生産性及び逆反り動作の効率性の観点から矩形状が望ましく、小型でありながら弾性部43を効率的に押し上げるために正方形に近い長方形であるのが望ましい。なお、熱応動素子5の材料としては、例えば、高膨脹側に銅-ニッケル-マンガン合金又はニッケル-クロム-鉄合金、低膨脹側に鉄-ニッケル合金をはじめとする、洋白、黄銅、ステンレス鋼など各種の合金からなる熱膨張率の異なる2種類の材料を積層したものが、所要条件に応じて組み合わせて使用される。
【0036】
PTCサーミスター6は、可動片4が遮断状態にあるとき、第1端子片2と可動片4とを導通させる。PTCサーミスター6は、第1端子片2の支持部26と熱応動素子5との間に配設されている。すなわち、PTCサーミスター6を挟んで、支持部26は熱応動素子5の直下に位置している。熱応動素子5の逆反り動作により第1端子片2と可動片4との通電が遮断されたとき、PTCサーミスター6に流れる電流が増大する。PTCサーミスター6は、温度上昇と共に抵抗値が増大して電流を制限する正特性サーミスターであれば、作動電流、作動電圧、作動温度、復帰温度などの必要に応じて種類を選択でき、その材料及び形状はこれらの諸特性を損なわない限り特に限定されるものではない。本実施形態では、チタニウム酸バリウム、チタニウム酸ストロンチウム又はチタニウム酸カルシウムを含むセラミック焼結体が用いられる。セラミック焼結体の他、ポリマーにカーボン等の導電性粒子を含有させたいわゆるポリマーPTCを用いてもよい。
【0037】
ケース10を構成するケース本体7及び蓋部材8は、難燃性のポリアミド、耐熱性に優れたポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの熱可塑性樹脂により成形されている。上述した樹脂と同等以上の特性が得られるのであれば、樹脂以外の材料を適用してもよい。
【0038】
ケース本体7には、可動片4、熱応動素子5及びPTCサーミスター6などを収容するための内部空間である収容凹部73が形成されている。収容凹部73は、可動片4を収容するための開口73a,73b、可動片4及び熱応動素子5を収容するための開口73c、並びに、PTCサーミスター6を収容するための開口73d等を有している。なお、ケース本体7に組み込まれた可動片4、熱応動素子5の端縁は、収容凹部73の内部に形成されている枠によってそれぞれ当接され、熱応動素子5の逆反り時に案内される。
【0039】
蓋部材8には、カバー片9がインサート成形によって埋め込まれている。カバー片9は、上述した銅等を主成分とする金属又はステンレス鋼等の金属をプレス加工することにより板状に形成される。カバー片9は、
図2及び
図3に示すように、可動片4の第1面と適宜当接し、可動片4の動きを規制すると共に、蓋部材8のひいては筐体としてのケース10の剛性・強度を高めつつブレーカー1の小型化に貢献する。
【0040】
図1に示すように、第1端子片2、第2端子片3、可動片4、熱応動素子5及びPTCサーミスター6等を収容したケース本体7の開口73a、73b、73c等を塞ぐように、蓋部材8が、ケース本体7に装着される。ケース本体7と蓋部材8とは、例えば超音波溶着によって接合される。このとき、ケース本体7と蓋部材8とは、それぞれの外縁部の全周にわたって連続的に接合され、ケース10の気密性が向上する。これにより、収容凹部73がもたらすケース10の内部空間は密閉され、可動片4、熱応動素子5及びPTCサーミスター6等の部品がケース10の外部の雰囲気から遮断され、保護されうる。本実施形態では、カバー片9の第1面側には、樹脂が全体的に配されているので、収容凹部73の気密性がより一層高められる。
【0041】
図2は、通常の充電又は放電状態におけるブレーカー1の動作を示している。通常の充電又は放電状態においては、熱応動素子5は初期形状を維持(逆反り前)している。カバー片9には、可動片4の頂部43aと当接し、頂部43aを熱応動素子5の側に押圧する突出部91が設けられている。突出部91が頂部43aを押圧することにより、弾性部43は、弾性変形し、その先端に形成されている可動接点41が固定接点21の側に押圧されて接触する。これにより、可動片4の弾性部43などを通じてブレーカー1の第1端子片2と第2端子片3との間は導通している。可動片4の弾性部43と熱応動素子5とが接触し、可動片4、熱応動素子5、PTCサーミスター6及び第1端子片2は、回路として導通していてもよい。しかしながら、PTCサーミスター6の抵抗は、可動片4の抵抗に比べて圧倒的に大きいため、PTCサーミスター6を流れる電流は、固定接点21及び可動接点41を流れる量に比して実質的に無視できる程度である。
【0042】
図3は、過充電状態又は異常時などにおけるブレーカー1の動作を示している。過充電又は異常により高温状態となると、作動温度に達した熱応動素子5は逆反りし、可動片4の弾性部43が押し上げられて固定接点21と可動接点41とが離隔する。ブレーカー1の内部で熱応動素子5が変形し、可動片4を押し上げるときの熱応動素子5の作動温度は、例えば、70℃~90℃である。このとき、固定接点21と可動接点41の間を流れていた電流は遮断され、僅かな漏れ電流が熱応動素子5及びPTCサーミスター6を通して流れることとなる。PTCサーミスター6は、このような漏れ電流の流れる限り発熱を続け、熱応動素子5を逆反り状態に維持させつつ抵抗値を激増させるので、電流は固定接点21と可動接点41の間の経路を流れず、上述の僅かな漏れ電流のみが存在する(自己保持回路を構成する)。この漏れ電流は安全装置の他の機能に充てることができる。
【0043】
図4は、ブレーカー1を第1面側から示す斜視図であり、
図5は、ブレーカー1を第2面側から示す斜視図である。
図4、5に示されるように、ケース10は、可動片4の長手方向D1にのびる側壁11を有している。
【0044】
側壁11は、第1端子片2の周辺領域12と第2端子片3の周辺領域13と、ケース10の外方に突出する凸部14を有している。凸部14は、周辺領域12と周辺領域13との間に設けられ、周辺領域12及び周辺領域13に対して、長手方向D1に直交する短手方向D2に突出している。凸部14は、熱応動素子5の周辺、すなわち、熱応動素子5を収容するための開口73c(
図1参照)の外縁から短手方向D2の外側に設けられている。
【0045】
ケース10の側壁11に凸部14が形成されていることにより、熱応動素子5の周辺での側壁11の肉厚が容易に確保され、ケース10の剛性・強度を高めることが可能となる。上記特許文献1に開示されたブレーカーにあっては、ケースの内部に可動片及び熱応動素子を変形可能に収容するための収容凹部を設ける必要上、ケースの耐圧性が不足しがちとなる。しかしながら、本ブレーカー1では、側壁11に凸部14が形成されていることにより、収容凹部73の周辺での側壁11の肉厚が容易に確保され、ケース10の剛性・強度を高めることが可能となる。
【0046】
また、上記凸部14によって側壁11の肉厚を一定値以上に維持しつつ、ケースの内容積を容易に増加させることができ、寸法が大きい熱応動素子5を採用することが可能となる。その結果、熱応動素子5の作動温度及び復帰温度が安定し、ブレーカー1の温度特性が容易に向上する。さらに、このような大型の熱応動素子5は、加工が容易であり、その結果、熱応動素子5を構成する材料選択の自由度が高められる。例えば、より化学的安定性に優れた材料、又は、より安価な材料にて熱応動素子5を構成することが可能となる。
【0047】
ケース10は、側壁11とその上端で交差する天壁15を有している。天壁15は、蓋部材8によって構成される。天壁15には、カバー片9が埋設されている。ケース10は、側壁11とその下端で交差する底壁16を有している。底壁16は、ケース本体7によって構成される。底壁16からは、端子22及び32が露出している。
【0048】
図6は、カバー片9を示している。カバー片9は、
図6においてハッチングにて示される幅広部92を有している。幅広部92は、可動片4を挟んで固定接点21と対向する領域93及び可動片4を挟んで接続部31と対向する領域94よりも短手方向D2に延出されることにより、短手方向D2に幅広に形成されている。すなわち、凸部14が突出する方向と幅広部92が延出される方向は、共に短手方向D2である。カバー片9に幅広部92が形成されることにより、ケース10の天壁15がより広い面積で強化され、ケース10の耐圧性が高められる。
【0049】
本実施形態では、幅広部92の長手方向の長さL1は、幅広部92の長手方向の長さL2(
図4、7参照)よりも大きい。このような幅広部92によって、ケース10の天壁15がより広い面積で強化され、特に凸部14及びその周辺において側壁11がより一層強化される。
【0050】
可動片4の先端4a側における幅広部92の端縁92aは、先端4a側における凸部14の端縁14aよりも先端4a側に位置されているのが望ましい。このような幅広部92によって、凸部14から第1端子片2の周辺領域12に亘って、側壁11がより一層強化される。
【0051】
幅広部92の可動片4の接続部42側における端縁92bは、凸部14の接続部42側における端縁14bよりも接続部42側に位置されているのが望ましい。このような幅広部92によって、凸部14から第2端子片3の周辺領域13に亘って、側壁11がより一層強化される。
【0052】
凸部14は、ケース本体7に設けられている。また、天壁15は、蓋部材8に設けられている。すなわち、幅広部92を有するカバー片9は、蓋部材8に埋設されている。このような構成によって、ケース本体7及び蓋部材8がバランスよく強化され、ケース10の耐圧性が効率よく高められる。
【0053】
図7は、ケース10等を透視した、ブレーカー1の平面図である。同図では、ケース10を構成するケース本体7及び蓋部材8の外形線が2点鎖線で示され、第1端子片2、第2端子片3及びカバー片9が実線で描かれている。また、同図において凸部14の領域は、複数のドットによるハッチングで示されている。弾性部43は、ブレーカー1の天壁15と略平行に延びているため、
図7の第1端子片2、第2端子片3及びカバー片9は、弾性部43の厚さ方向から視た第1端子片2、第2端子片3及びカバー片9の形状と略一致する。
【0054】
第1端子片2は、端子22から第2端子片3の側(長手方向D1の内側)に向って突出する突出部27を有している。突出部27は、支持部26と対向して配されている。カバー片9の幅広部92は、第1端子片2の突出部27と重複している。これにより、ケース10の耐圧性がより一層高められる。
【0055】
図8は、
図7のA-A線断面図、すなわち、第1端子片2及びその周辺の長手方向D1に平行な断面を示している。ケース10の内部において、幅広部92と突出部27との間、すなわち、幅広部92と第1端子片2とが平面視で重複する領域には、樹脂17が充填されている。本実施形態では、突出部27の第1面から幅広部92の第2面に亘って連続して樹脂17が充填されている。このような構成においては、樹脂17が、幅広部92と突出部27とを一体化させるバインダーとして機能し、ケース10の耐圧性がより一層高められる。
【0056】
本実施形態では、凸部14の端縁14aは、幅広部92と第1端子片2とが平面視で重複する領域の近傍に配されるのが望ましい。例えば、短手方向から視た側面視で、両者が重複しているのが望ましい。これにより、ケース10の耐圧性がより一層高められる。
【0057】
また、第1端子片2は、幅広部92の側に曲げられた曲がり部28を有している。曲がり部28は、端子22から突出する突出部27の基端部に配されている。これにより、突出部27は、幅広部92の側に向って傾斜する。曲がり部28によって第1端子片2がさらに強化され、ケース10の耐圧性がより一層高められる。なお、本実施形態では、突出部27の第2面側にも樹脂17が充填され、ケース10の耐圧性がより一層高められている。
【0058】
さらに、
図7に示されるように、幅広部92は、曲がり部28と重複している。これにより、端子22の周辺部が強化され、ケース10の耐圧性がより一層高められる。
【0059】
図7に示されるように、第1端子片2は、端子22から突出部27とは逆方向(長手方向D1の外側)に突出する突出部29を有していてもよい。また、端子22から突出する突出部29の基端部に、曲がり部が配されていてもよい。
【0060】
第1端子片2と同様に、第2端子片3は、端子32から第1端子片2の側に向って突出する突出部37を有している。突出部37は、第1端子片2の支持部26と対向して配されている。カバー片9の幅広部92は、第2端子片3の突出部37と重複しているのが望ましい。これにより、ケース10の耐圧性がより一層高められる。
【0061】
本実施形態では、ケース10の内部において、幅広部92と突出部37との間、すなわち、幅広部92と第2端子片3とが重複する領域にも、樹脂17が充填されているのが望ましい。このような構成においては、樹脂17が幅広部92と突出部37とを一体化させるバインダーとして機能し、ケース10の耐圧性がより一層高められる。
【0062】
本実施形態では、凸部14の端縁14bは、幅広部92と第2端子片3とが平面視で重複する領域の近傍に配されるのが望ましい。例えば、短手方向から視た側面視で、両者が重複しているのが望ましい。これにより、ケース10の耐圧性がより一層高められる。
【0063】
また、第2端子片3は、幅広部92の側に曲げられた曲がり部38を有している。曲がり部38は、端子32から突出する突出部37の基端部に配されている。これにより、突出部37は、幅広部92の側に向って傾斜する。曲がり部38によって第2端子片3がさらに強化され、ケース10の耐圧性がより一層高められる。
【0064】
なお、本実施形態では、突出部37の第2面側にも樹脂17が充填され、ケース10の耐圧性がより一層高められている。
【0065】
さらに、幅広部92は、曲がり部38と重複しているのが望ましい。これにより、端子32の周辺部が強化され、ケース10の耐圧性がより一層高められる。
【0066】
第2端子片3は、端子32から突出部37とは逆方向(長手方向D1の外側)に突出する突出部39を有していてもよい。また、端子32から突出する突出部39の基端部に、曲がり部が配されていてもよい。
【0067】
第1端子片2の支持部26は、短手方向D2の端縁部26bを有している。端縁部26bは、蓋部材8の側に曲げられて傾斜している。端縁部26bは、凸部14まで延びて凸部14に埋設されるのが望ましい。このような端縁部26bによって凸部14が強化され、ケース10の耐圧性がより一層高められる。
【0068】
さらに、本実施形態では、端縁部26bの第1面から幅広部92の第2面に亘って連続して側壁11を構成する樹脂17が充填されている。このような構成においては、樹脂17が、幅広部92と突出部27とを一体化させるバインダーとして機能し、ケース10の耐圧性がより一層高められる。
【0069】
本実施形態では、短手方向D2に突出する凸部14、凸部14よりも長手方向D1の長さが大きい幅広部92及び凸部14に埋設される端縁部26bの相乗効果によって、ケース10の側壁11が、特に熱応動素子5を収容する収容凹部73の周辺部で強化される。ケース10の耐圧性がより一層高められている。
【0070】
端子22は、第2面がケース本体7の第2面と面一(同一平面)に配され、かつ短手方向D2の先端が、周辺領域12から短手方向D2に突出している。これにより、回路基板のランド部とのはんだ付けが良好になされる。また、一対の端子22の各先端間の距離、すなわち、第1端子片2の短手方向D2の長さは、一対の凸部14間の距離、すなわち、ケース本体7の短手方向D2の長さ以下が望ましい。これにより、ケース10の耐圧性が高められると共に、小型化が実現される。
【0071】
同様に、端子32は、第2面がケース本体7の第2面と面一(同一平面)に配され、かつ短手方向D2の先端が、周辺領域13から短手方向D2に突出している。これにより、回路基板のランド部とのはんだ付けが良好になされる。また、一対の端子32の各先端間の距離、すなわち、第2端子片3の短手方向D2の長さは、一対の凸部14間の距離、すなわち、ケース本体7の短手方向D2の長さ以下が望ましい。これにより、ケース10の耐圧性が高められると共に、小型化が実現される。
【0072】
本発明のブレーカー1は、上記実施形態の構成に限られることなく、種々の態様に変更して実施されうる。すなわち、ブレーカー1は、少なくとも、固定接点21と、板状に形成され弾性変形する弾性部43及び該弾性部43の一端部に可動接点41を有し、可動接点41を固定接点21に押圧して接触させる可動片4と、温度変化に伴って変形することにより、可動片4を可動接点41が固定接点21に接触する導通状態から可動接点41が固定接点21から離隔する遮断状態に移行させる熱応動素子5と、固定接点21、可動片4及び熱応動素子5を収容するケース10とを備え、ケース10は、可動片4の長手方向D1にのびる側壁11を有し、側壁11は、熱応動素子5の周辺に、ケース10の外方に突出する凸部14を有していればよい。
【0073】
例えば、ケース本体7と蓋部材8との接合手法は、超音波溶着に限られることなく、両者が強固に接合される手法であれば、適宜適用することができる。例えば、液状又はゲル状の接着剤を塗布・充填し、硬化させることにより、両者が接着されてもよい。また、ケース10は、ケース本体7と蓋部材8等によって構成される形態に限られることなく、2個以上の部品によって構成されていればよい。
【0074】
また、ケース10は、二次的なインサート成形等により、樹脂等で密封されていてもよい。これにより、ケース10の気密性がより一層高められる。本実施形態では、二次的なインサート成形の際の樹脂材料の充填圧力が蓋部材8に負荷された場合であっても、上述した凸部14、幅広部92等の構成によってケース10が強化されているので、ケース10の変形が抑制される。
【0075】
また、可動片4をバイメタル又はトリメタル等の積層金属によって形成することにより、可動片4と熱応動素子5を一体的に形成する構成であってもよい。この場合、ブレーカーの構成が簡素化されて、小型化を図ることができる。
【0076】
また、WO2011/105175号公報に示されるような、第2端子片3と可動片4とが一体に形成されている形態に、本発明を適用してもよい。
【0077】
本実施形態では、PTCサーミスター6による自己保持回路を有しているが、このような構成を省いた形態であっても適用可能である。
【0078】
また、本発明のブレーカー1は、2次電池パック、電気機器用の安全回路等にも広く適用できる。
図9は電気機器用の安全回路502を示す。安全回路502は2次電池501の出力回路中に直列にブレーカー1を備えている。ブレーカーを備えたコネクタを含むケーブルによって安全回路502の一部が構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 :ブレーカー
2 :第1端子片
3 :第2端子片
4 :可動片
5 :熱応動素子
7 :ケース本体
8 :蓋部材
9 :カバー片
10 :ケース
11 :側壁
14 :凸部
15 :天壁
16 :底壁
17 :樹脂
21 :固定接点
22 :端子
26b :端縁部(一部)
27 :突出部(一部)
28 :曲がり部
32 :端子
37 :突出部(一部)
38 :曲がり部
41 :可動接点
43 :弾性部
92 :幅広部
501 :2次電池
502 :安全回路
D1 :長手方向
D2 :短手方向