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特許7064355ポリオレフィン多層シートまたはフィルムの製造方法
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  • 特許-ポリオレフィン多層シートまたはフィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】ポリオレフィン多層シートまたはフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/78 20190101AFI20220427BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20220427BHJP
   B29C 48/07 20190101ALI20220427BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20220427BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20220427BHJP
   B29C 48/21 20190101ALI20220427BHJP
【FI】
B29C48/78
B32B27/32 E
B29C48/07
C08L23/12
C08L23/08
B29C48/21
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018045018
(22)【出願日】2018-03-13
(65)【公開番号】P2019155703
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】597021842
【氏名又は名称】サンアロマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100108899
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 謙
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】木村 秀治
(72)【発明者】
【氏名】栗山 稔
(72)【発明者】
【氏名】池田 正幸
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-191933(JP,A)
【文献】特開2017-105171(JP,A)
【文献】特開2000-037765(JP,A)
【文献】特開2015-150877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外層およびコア層を備え、以下のi)およびii)を満たすポリプロピレン多層シートまたはフィルム:
i)前記外層の厚さが全体の厚さの1/40~1/100であり、2~50μmである
ii)前記コア層は前記外層より厚い
の製造方法であって、
前記外層およびコア層を共押出して、前記i)およびii)を満たすポリプロピレン多層シートまたはフィルムを形成する工程を含み、
当該共押出する工程における前記外層を形成するための押出機が上流からフィードゾーンおよび圧縮ゾーンを備え、
当該フィードゾーンの温度T(℃)が式(1)の関係を満たす、
Tm-50℃ ≦T≦Tm-10℃・・・(1)
(Tmは原料ポリプロピレンの融点(℃)である)
製造方法。
【請求項2】
前記共押出工程で得たポリプロピレン多層シートまたはフィルムを、前記i)、ii)を満たすように二次加工する工程をさらに含む、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記外層が、エチレンおよびC4~C10-α-オレフィンからなる群より選択されるコモノマー0~5.0重量%を含むポリプロピレンを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記コア層が以下のポリプロピレン組成物:
成分(1)として、プロピレン単独重合体と、エチレンおよびC4~C10-α-オレフィンからなる群より選択されるコモノマーを含むプロピレン共重合体とのブレンドであって、両者の重量比が10~97:90~3でありかつ当該ブレンド中の当該コモノマー含有量が3重量%以下のブレンド、ならびに
成分(2)として、60~90重量%のエチレンと、1種類以上のC3~C10-α-オレフィンとの共重合体からなるエチレン共重合体、を含み、
以下の(i)~(iii)を備える
(i)前記成分(1):成分(2)の重量比が、60~90:40~10
(ii)MFR(230℃、荷重2.16kg)が1.0~10g/10分
(iii)XSIV(キシレン可溶分の極限粘度)が0.5~2.0dl/g、
を含む、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記多層シートまたはフィルムが3層以上の層を備え、前記外層が両最外面に位置する、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記多層シートまたはフィルムが3層構造である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ポリプロピレン組成物が、成分(1)中に成分(2)が分散している相構造を有する、請求項~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記成分(1)におけるコモノマーがエチレンであり、
前記成分(2)におけるα-オレフィンが、プロピレンまたはブテン-1である、請求項4~7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記ポリプロピレンにおけるコモノマーがエチレンである、請求項3~8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記Tが、Tm-40℃≦T≦Tm-20℃の関係を満たす、請求項1~9のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリオレフィン多層シートまたはフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
優れた機能を付与するためにシートまたはフィルムを多層構造とすることが知られている。例えば、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィンは、優れた物理的特性を有しかつ衛生面にも優れているため食品容器として有用であるが、低温での耐衝撃性向上を改善するために容器を多層構造とすることが提案されている(例えば特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-157033号公報
【文献】特開2002-348421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは特定の層の厚さをより薄肉化できればシートまたはフィルムにさらなる高機能を付与できる可能性があるとの着想を得た。一般に、共押出する工程を経て多層シートまたはフィルムを製造する場合、特定の層を形成する成形機の吐出量を低くすれば当該層を薄くすることが可能である。しかし、極めて薄い層を形成する場合は極端に吐出量を下げなくてはならず、従来の成形条件では薄い層を形成できないか、形成できたとしても均一な厚さを達成することは困難であった。かかる事情を鑑み、本発明は、全体の厚さに対して1/40~1/100であり、かつ2~50μmの均一な厚さを有する外層とこれよりも厚いコア層を備えるポリオレフィン多層シートまたはフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、特殊な成形条件を採用することで2~50μmの均一な厚さの外層を有するポリオレフィン多層シートまたはフィルムを製造できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、前記課題は以下の本発明によって解決される。
[1]外層およびコア層を備え、以下のi)およびii)を満たすポリオレフィン多層シートまたはフィルム:
i)前記外層の厚さが全体の厚さの1/40~1/100であり、2~50μmである
ii)前記コア層は前記外層より厚い
の製造方法であって、
前記外層およびコア層を共押出して、前記i)およびii)を満たすポリオレフィン多層シートまたはフィルムを形成する工程を含み、
当該共押出する工程における前記外層を形成するための押出機が上流からフィードゾーンおよび圧縮ゾーンを備え、
当該フィードゾーンの温度T(℃)が式(1)の関係を満たす、
Tm-50℃ ≦T≦Tm-10℃・・・(1)
(Tmは原料ポリオレフィンの融点(℃)である)
製造方法。
[2]前記共押出工程で得たポリオレフィン多層シートまたはフィルムを、前記i)、ii)を満たすように二次加工する工程をさらに含む、[1]に記載の製造方法。
[3]前記外層が、エチレンおよびC4~C10-α-オレフィンからなる群より選択されるコモノマー0~5.0重量%を含むポリプロピレンを含む、[1]または2]に記載の製造方法。
[4]前記コア層が以下のポリプロピレン組成物:
成分(1)として、プロピレン単独重合体と、エチレンおよびC4~C10-α-オレフィンからなる群より選択されるコモノマーを含むプロピレン共重合体とのブレンドであって、両者の重量比が10~97:90~3でありかつ当該ブレンド中の当該コモノマー含有量が3重量%以下のブレンド、ならびに
成分(2)として、60~90重量%のエチレンと、1種類以上のC3~C10-α-オレフィンとの共重合体からなるエチレン共重合体、を含み、
以下の(i)~(iii)を備える
(i)前記成分(1):成分(2)の重量比が、60~90:40~10
(ii)MFR(230℃、荷重2.16kg)が1.0~10g/10分
(iii)XSIV(キシレン可溶分の極限粘度)が0.5~2.0dl/g、
を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記多層シートまたはフィルムが3層以上の層を備え、前記外層が両最外面に位置する、[4]に記載の製造方法。
[6]前記多層シートまたはフィルムが3層構造である、[5]に記載の製造方法。
[7]前記ポリプロピレン組成物が、成分(1)中に成分(2)が分散している相構造を有する、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]前記成分(1)におけるコモノマーがエチレンであり、
前記成分(2)におけるα-オレフィンが、プロピレンまたはブテン-1である、[4]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]前記ポリプロピレンにおけるコモノマーがエチレンである、[3]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]前記[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法によって得られた多層シートまたはフィルム。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、全体の厚さに対して1/40~1/100であり、かつ2~50μmの均一な厚さを有する外層とこれよりも厚いコア層を備えるポリオレフィン多層シートまたはフィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】スクリュー構成の一態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、シートとは全体の厚さが200μm以上の平たい部材(葉状部材)であり、フィルムとは全体の厚さが200μm未満の平たい部材(葉状部材)をいう。シートまたはフィルムをまとめて「シート等」ともいう。
【0009】
1.製造方法
本発明は特定の厚さを有する外層およびこれよりも厚いコア層を有するポリオレフィン多層シート等を共押出して形成する工程を含む。共押出工程とは、複数の押出機を用いて溶融樹脂を形成し、それぞれの溶融樹脂を多層フィードブロックあるいは多層マニホールド等に通過させて多層構造を形成し、これを冷却固化して成形物を製造する工程である。以下、当該共押出し工程について説明する。
【0010】
(1)外層を形成する工程
本発明では、上流からフィードゾーンおよび圧縮ゾーンを備えるスクリュー構成を備える押出機を用いて外層を形成する。押出機の原料樹脂投入側を上流といい、ダイ側を下流という。図1にスクリュー構成の一態様を示す。図1中、1は原料樹脂投入口、2はフィードゾーン、3は圧縮ゾーン、4は計量ゾーンである。
【0011】
フィードゾーンとは原料樹脂投入口から供給された原料樹脂をほぼ固相の状態で下流へ移送するゾーンであり、固相ゾーンともいう。本発明では、当該ゾーンの温度T(℃)が式(1)の関係を満たす。
Tm-50℃ ≦T≦Tm-10℃・・・(1)
式(1)においてTmは原料樹脂(原料ポリオレフィン)の融点(℃)である。Tの下限値はTm-45℃であることが好ましく、Tm-40℃であることがより好ましい。Tの上限値はTm-20℃であることが好ましい。TがTm-50℃より低い場合は樹脂が溶融されずシート成形が困難となる。TがTm-10℃より高い場合は、シート等の幅方向で外層の厚さの変動が大きくなり、全体的に光沢ムラ等の外観不良が発生するとともに透明性が悪化する。Tmは原料樹脂を、DSCを用いてセカンドスキャンして観測される、最も高温側にあるピークトップ温度である。セカンドスキャンとは、原料樹脂を加熱融解後、冷却して結晶化し、室温で5分間保持した後に2回目の加熱をして熱分析することをいう。具体的には、1)原料樹脂を融解温度(230℃)まで加熱し、当該温度で5分保持し、10℃/分の降温速度で30℃まで冷却して5分間保持した後、2)10℃/分の昇温速度で230℃まで加熱して熱分析を行う。ポリプロピレン系のポリオレフィンを原料樹脂として用いる場合、Tは120~160℃程度とすることができる。フィードゾーンの長さは適宜調整されるが、スクリューの原料投入位置から下流端までの長さをLとすると、フィードゾーンは0.15L~0.3Lの長さであることが好ましい。
【0012】
圧縮ゾーンとは固相状態の樹脂を加熱かつ圧縮して溶融状態にするゾーンである。当該ゾーンの温度T’は適宜調整されるがTm以上であることが好ましい。具体的にポリプロピレン系のポリオレフィンを原料樹脂として用いる場合、T’は210~240℃程度とすることができる。圧縮ゾーンの長さは適宜調整されるが0.65L~0.8Lであることが好ましい。圧縮ゾーンは強度の混練を可能とするいわゆるニーディングゾーンを備えていてもよい。圧縮ゾーンとフィードゾーンは隣接していることが好ましい。
【0013】
計量ゾーンは溶融樹脂をダイに移送するゾーンである。当該ゾーンの温度T”は適宜調整されるがTm以上であることが好ましく、T’と同じであってもよい。計量ゾーンの長さは適宜調整されるが0.05L~0.2Lであることが好ましい。計量ゾーンと圧縮ゾーンの間に他のゾーンを設けてもよいが、計量ゾーンと圧縮ゾーンは隣接していることが好ましい。
【0014】
外層用の当該押出機の吐出量は、外層の厚さおよびシート等の大きさによって適宜調整できるが、例えば0.12~4.5kg/時程度とすることが好ましい。一般に押出機の口径が小さいほど低い吐出量においても安定して樹脂を押出すことができるが、原料樹脂として投入されるペレットを溶融し移送するための空間が必要であることから、口径を20mmφより小さくすることは現実的ではない。一方、コア層用の押出機においては、産業利用上、口径は30mmφ~90mmφである。外層用の押出機の口径とコア層用の押出機の口径とのバランスから、全体の厚さの1/40~1/100の厚さを有する外層を形成することは、原理上は可能である。しかしながら、従来の成形条件では、外層用の押出機の吐出量を少なく設定することから吐出量が安定せず、シート等の幅方向で厚さ変動が大きくなり、全体的に光沢ムラ等の外観不良が発生するとともに透明性が悪化する。しかし、本発明では外層用の押出機においてフィードゾーンの温度を前述の温度とすることで、シリンダー内において樹脂を効率よく移送できるので、全体の厚さの1/40~1/100であり、2~50μmの厚さを有する外層を安定的に形成でき、外観が良好で透明なシート等の連続生産が可能となった。当該厚さが50μmを超えると得られるポリオレフィン多層シート等の耐衝撃性が低下し、2μm未満の場合は薄い外層の安定的な形成が困難となり得られるポリオレフィン多層シート等の透明性が悪化する。この観点から、外層の厚さの上限は40μm以下であることが好ましく、35μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましい。下限は4μm以上であることが好ましいく、8μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。また、前記厚さ比は、1/40~1/95が好ましく、1/45~1/95がより好ましい。
【0015】
本発明は、共押出によって前記厚さ条件i)およびii)を達成する。したがって、本発明の製造方法は、当該共押出工程を備えていれば、この他に二次加工等の他の工程を備えていてもよい。二次加工については後述する。
【0016】
本発明のポリオレフィン多層シート等は、全体の厚さの1/40~1/100であり2~50μmの層(「薄肉層」ともいう)を外層として備え、これより厚い層(「厚肉層」ともいう)をコア層として備える。よって、外層はポリオレフィン多層シート等の中心に位置するコア層の外側(表面側)に位置する。したがって、本発明のポリオレフィン多層シート等が3層である場合、2つの外層(薄肉層)が最外層(最表層)となる。本発明のポリオレフィン多層シート等が4層以上である場合、少なくとも1つの薄肉層が最外層(最表層)となることが好ましい。ただし、本発明のポリオレフィン多層シート等が2層である場合は、便宜上、薄肉層を外層とし、厚肉層をコア層という。
【0017】
(2)コア層を形成する工程
コア層を形成する押出機の構成および成形条件は特に限定されず、温度は公知の温度としてよく、かつ吐出量は所望の厚さによって適宜調整してよい。一態様において、本発明のポリオレフィン多層シート等は外層/コア層/外層の3層構造であることが好ましい。このような3層構造の場合、従来の技術では厚さの比を1:「5~20」:1とすることが一般的であったが、本発明によれば厚さの比を1:「40~100」:1とできる。
【0018】
外層/コア層の間にさらに1以上の中間層を設けることもでき、この中間層を形成する押出機の構成および成形条件も適宜調整される。中間層は外層よりも厚く、コア層よりも薄いことが好ましく、その具体的な厚さは限定されないが例えば0.05~2mmとすることができる。
【0019】
(3)他の工程
前述の成形機によって得られた溶融樹脂を積層してこれを冷却固化することでポリオレフィン多層シート等を製造できる。積層する工程は公知のとおりとしてよく、例えば公知の多層フィードブロックあるいは多層マニホールドを用いることができる。成形品を冷却固化する工程も公知のとおりとしてよく、成形品を空冷することや成形品をチルプレート等に載置することが挙げられる。チルプレート等に載置する場合、引取速度を調整することで成形品の厚さを適宜調整することができる。このようにして得られた成形品、すなわちポリオレフィン多層シート等は用途に応じた形状に形成され、種々の用途に用いることができる。
【0020】
このようにして得られたポリオレフィン多層シート等を原反とし、さらに真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の二次加工を行うことにより延伸された成形品として所望の厚さに調整することもできる。原反の厚さ条件i)およびii)を満たすように二次加工を実施してもよいし、満たさないように二次加工を実施してもよい。しかしながら、得られるポリオレフィン多層シート等の特性を考慮すると、二次加工は、加工後のポリオレフィン多層シート等が厚さ条件i)およびii)を満たすように実施されることが好ましい。すなわち、本発明の製造方法は、厚さ条件i)およびii)を満たすように原反を二次加工する工程を含んでもよい。この場合、外層およびコア層の実際の厚さは変動しないか、変動したとしても厚さ条件i)およびii)は満たされる。このようにして得られた二次加工品は必ずしも葉状ではないが、本発明のポリオレフィン多層シート等は当該二次加工品も含む。
【0021】
2.ポリオレフィン多層シート等
本発明のポリオレフィン多層シート等はポリオレフィンで構成される。本発明で使用されるポリオレフィンとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・共役ジエン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・1-ヘキセン共重合体、プロピレン・1-オクテン共重合体等が挙げられる。ポリプロピレンは、ホモポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、ランダムポリプロピレン(プロピレンランダム共重合体)、ブロックポリプロピレンのいずれであってもよい。ここでブロックポリプロピレンとは、ヘテロファジック共重合体、ヘテロファジックポリプロピレン、耐衝撃性プロピレンポリマー、または耐衝撃性ポリプロピレンポリマーと称されることもあり、共重合または混合によって得られるゴム成分を含むポリプロピレンをいう。ポリエチレンは、超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンのいずれであってもよい。ポリオレフィンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記ポリオレフィンの中でも、本発明の効果がとりわけ発揮される点では、ポリプロピレンが好ましい。これらポリオレフィン多層シート等は、いずれも透明性および耐寒衝撃性に優れるので、包装材料、容器用材料、特に食品容器として有用である。各層の厚さや位置はすでに述べたとおりであるので、以下に各層を構成する好ましい材料について説明する。
【0022】
(1)外層
外層は、エチレンおよびC4~C10-α-オレフィンからなる群より選択されるコモノマー0~5.0重量%を含むポリプロピレン、を含むことが好ましい。特に、プロピレン単独重合体またはプロピレンランダム共重合体を含むことが好ましい。プロピレンランダム共重合体においてコモノマーの含有量は5.0重量%以下であればよいが、4.0重量%以下であることが好ましい。コモノマーの量が上限値を超えると得られるシート等の製造安定性が低下する。プロピレンランダム共重合体においてコモノマーの含有量の下限値は0重量%超であればよいが、0.1重量%以上であることが好ましい。プロピレン単独重合体およびプロピレンランダム共重合体は公知の方法で製造できる。プロピレンランダム共重合体におけるコモノマーは産業上、安価かつ安定的に流通され、かつ入手が比較的容易であることの観点からエチレンが好ましい。上記ポリプロピレンは、1.0~10g/10分のMFR(230℃、荷重2.16kgで測定)を有することが好ましい。MFRが上限値を超えると成形時にドローダウンしやすくなるためにシート等の製造が困難となり、下限値未満であると成形時の負荷が大きくなりシート等の製造が困難となる。
【0023】
プロピレン単独重合体またはプロピレンランダム共重合体に結晶核剤を添加した組成物を外層に用いてもよい。ここでいう結晶核剤とは樹脂中の結晶成分のサイズを小さく制御して透明性を高めるために用いられる添加剤(透明核剤)である。結晶核剤の量は、重合体100重量部に対して1.0重量部以下であることが好ましく、0重量部を超え1.0重量部以下であることがより好ましく、0.05~0.5重量部であることがさらに好ましい。結晶核剤の量が上限を超えると、結晶核形成の促進効果は頭打ちとなり、単純に製造コスト増となるため、産業上大量安価に製造する場合においては現実的でない。
【0024】
結晶核剤は特に限定されず、当該分野で通常使用されるものを使用してよいが、ノニトール系結晶核剤、ソルビトール系結晶核剤、リン酸エステル系結晶核剤、トリアミノベンゼン誘導体系結晶核剤、カルボン酸金属塩系結晶核剤、およびキシリトール系結晶核剤、ロジン系結晶核剤等の有機系核剤から選択されることが好ましい。ノニトール系結晶核剤として、例えば、1,2,3―トリデオキシ-4,6:5,7-ビス-[(4-プロピルフェニル)メチレン]-ノニトールが挙げられる。ソルビトール系結晶核剤として、例えば、1,3:2,4-ビス-o-(3,4-ジメチルベンジリデン)-D-ソルビトールが挙げられる。リン酸エステル系結晶核剤として、例えば、リン酸-2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)リチウム塩系造結晶核剤が挙げられる。トリアミノベンゼン誘導体系結晶核剤として、例えば、1,3,5-トリス(2,2-ジメチルプロパンアミド)ベンゼン等が挙げられる。カルボン酸金属塩系結晶核剤としては、例えば、アジピン酸ナトリウム、アジピン酸カリウム、アジピン酸アルミニウム、セバシン酸ナトリウム、セバシン酸カリウム、セバシン酸アルミニウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸アルミニウム、ジ-パラ-t-ブチル安息香酸アルミニウム、ジ-パラ-t-ブチル安息香酸チタン、ジ-パラ-t-ブチル安息香酸クロム、ヒドロキシ-ジ-t-ブチル安息香酸アルミニウムなどが挙げられる。キシリトール系結晶核剤として、例えば、ビス-1,3:2,4-(5’,6’,7’,8’-テトラヒドロ-2-ナフトアルデヒドベンジリデン)1-アリルキシリトール、ビス-1,3:2,4-(3’,4’-ジメチルベンジリデン)1-プロピルキシリトールが挙げられる。ロジン系結晶核剤は、ピマル酸、サンダラコピマル酸、パラストリン酸、イソピマル酸、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ネオアビエチン酸、ジヒドロピマル酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸等のロジン酸と、カルシウム、マグネシウム等の金属との反応で得られるロジン酸金属塩化合物又はロジン酸部分金属塩化合物であり、例えばロジン酸部分カルシウム塩が挙げられる。上記結晶核剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
また外層を構成する重合体には、この他に、酸化防止剤、塩素吸収剤、耐熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、内部滑剤、外部滑剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、難燃剤、分散剤、銅害防止剤、中和剤、可塑剤、発泡剤、気泡防止剤、架橋剤、過酸化物、油展および他の有機および無機顔料などのオレフィン重合体に通常用いられる慣用の添加剤を添加してもよい。各添加剤の添加量は公知の量としてよい。
【0026】
外層を構成する重合体に結晶核剤およびその他の添加剤を添加する場合は、重合により得られた重合体、結晶核剤、およびその他の添加剤を、ヘンシェルミキサー、ブラベンダー等で撹拌した後、押出機を用いて180℃から280℃で溶融ブレンドすることにより組成物とし、これを外層用の材料として用いることができる。結晶核剤やその他の添加剤の添加は、重合、残留モノマー除去、乾燥工程を経た後、連結された押出機を用いて行ってもよい。また高濃度の結晶核剤をポリオレフィンと溶融混練した、いわゆるマスターバッチをポリオレフィン多層シート等の成形工程で混合してもよい。
【0027】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、外層を構成する重合体はポリオレフィン樹脂以外の樹脂またはゴムを1種または複数種含んでいてもよい。含有量は公知の量としてよい。
【0028】
(2)コア層
コア層は任意のポリオレフィンで構成されてよいが、成分(1)および成分(2)を含むポリプロピレン組成物を含むことが好ましい。成分(1)は、プロピレン単独重合体、プロピレン共重合体、またはプロピレン単独重合体とプロピレン共重合体とのブレンドである。成分(2)はエチレン共重合体である。成分(1)と成分(2)の重量比は60~90:40~10であり、好ましくは65~85:35~15である。成分(2)の量が上限を超えるとシート等の剛性が低下し、下限未満であるとシート等の耐寒衝撃性が低下する。
【0029】
(2-1)成分(1)
成分(1)はプロピレン単独重合体、プロピレン共重合体、またはプロピレン単独重合体とプロピレン共重合体とのブレンドである。これらは任意の重量比とすることができるが、好ましくは、成分(1)として、プロピレン単独重合体と、エチレンおよびC4~C10-α-オレフィンからなる群より選択されるコモノマーを含むプロピレン共重合体とのブレンドであって、両者の重量比が10~97:90~3でありかつ当該ブレンド中の当該コモノマー含有量が3重量%以下のブレンドである。すなわち、成分(1)中、プロピレン単独重合体の含有量は10~97重量%である。当該含有量が下限値未満であると剛性が低下し、上限値を超えると透明性、耐寒衝撃性、および剛性のバランスを良好にするための成形条件が限定される。この観点から、プロピレン単独重合体の含有量は40~90重量%が好ましい。またプロピレン共重合体はプロピレンランダム共重合体であることが好ましい。
【0030】
ブレンド中のコモノマー含有量は3重量%以下である。当該含有量が上限値を超えると剛性が低下する。この観点から、コモノマーの含有量は1.8重量%以下が好ましい。一態様として、プロピレン単独重合体と、コモノマー含有量が0.2~10重量%であるプロピレン共重合体を、40~95:60~5(重量比)の範囲で適宜ブレンドすることで、前記プロピレン単独重合体の含有量とコモノマー含有量を達成できる。産業上、安価かつ安定的に流通されかつ入手が容易であることの観点から、コモノマーとしてはエチレンが好ましい。
【0031】
(2-2)成分(2)
成分(2)はエチレンと1種類以上のC3~C10-α-オレフィンとの共重合体からなるエチレン共重合体である。エチレンの含有量は60~90重量%であるが、好ましくは65~85重量%である。エチレン含有量が上限値を超えると得られるシート等の耐寒衝撃性が低下し、下限値未満であるとシート等の透明性が低下する。α-オレフィンはC3~C10のα-オレフィンであるが、産業上、安価かつ安定的に流通され、かつ入手が比較的容易であることの観点からプロピレンまたはブテン-1が好ましい。
【0032】
(2-3)添加剤
ポリプロピレン組成物は、当該組成物100重量部に対して1.0重量部以下、好ましくは0.3重量部以下の結晶核剤を含んでいてもよいが、含まないことがより好ましい。結晶核剤の量が上限値を超えると、結晶核形成の促進効果は頭打ちとなり、単純に製造コスト増となるため、産業上大量安価に製造する場合においては現実的でない。
【0033】
またこの他に、コア層を構成するポリオレフィンには、酸化防止剤、塩素吸収剤、耐熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、内部滑剤、外部滑剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、難燃剤、分散剤、銅害防止剤、中和剤、可塑剤、発泡剤、気泡防止剤、架橋剤、過酸化物、油展および他の有機および無機顔料などのオレフィン重合体に通常用いられる慣用の添加剤を添加してもよい。各添加剤の添加量は公知の量としてよい。
【0034】
コア層を構成するポリオレフィンに結晶核剤およびその他の添加剤を添加する場合は、重合により得られた重合体、結晶核剤、およびその他の添加剤を、ヘンシェルミキサー、ブラベンダー等で撹拌した後、押出機を用いて180℃から280℃で溶融ブレンドすることにより組成物とし、これをコア層用材料として用いることができる。結晶核剤やその他の添加剤の添加は、重合、残留モノマー除去、乾燥工程を経た後、連結された押出機を用いて行ってもよい。また高濃度の結晶核剤をポリオレフィンと溶融混練した、いわゆるマスターバッチをポリオレフィン多層シート等の成形工程で混合してもよい。
【0035】
(2-4)特性
[MFR]
ポリプロピレン組成物は1.0~10g/10分のMFRを有することが好ましい。MFRは230℃、荷重2.16kgで測定される。MFRが上限値を超えると成形時にドローダウンしやすくなるためにシート等の製造が困難となり、下限値未満であると成形時の負荷が大きくなりシート等の製造が困難になる。
【0036】
[XSIV]
ポリプロピレン組成物は0.5~2.0dl/gのXSIVを有することが好ましい。XSIVとは、ポリプロピレン組成物の25℃でのキシレン可溶分の極限粘度である。キシレン可溶分は結晶性を持たない成分であり、XSIVはその成分の分子量の指標である。キシレン可溶分の主体は成分(2)に由来する。当該組成物におけるXSIVは25℃のキシレンに可溶な成分を得て、当該成分の極限粘度を定法にて測定することで求められる。XSIVが上限値を超えると得られるシート等の透明性が低下し、下限値未満であるとポリプロピレン組成物の製造安定性が低下する。
【0037】
[相構造]
ポリプロピレン組成物は、成分(1)中に成分(2)が分散している相構造を有することが好ましい。マトリックスである成分(1)がプロピレン単独重合体とプロピレン共重合体のブレンドであるかどうかは、DSCによって確認できる。例えば特開2011-184686の段落0037に記載の方法に従ってDSC分析を行うことで確認できる。具体的には、本発明で用いるポリプロピレン組成物を、極大加熱温度が順次低くなるように加熱と冷却を複数回繰り返した後に再加熱した際の熱分析による融解曲線が以下のx~zを満たす場合、成分(1)がプロピレン単独重合体とプロピレン共重合体のブレンドである。
x)融解ピーク温度が165℃以上である。
y)170℃以上で融解する成分の割合が5%以上である。
z)160℃以下で融解する成分の割合が15%以上である。
【0038】
ポリプロピレン組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリオレフィン樹脂以外の樹脂またはゴムを1種または複数種含有してもよい。含有量は公知の量としてよい。
【0039】
(2-5)ポリプロピレン組成物の製造方法
前述のとおり、成分(1)はプロピレン単独重合体またはプロピレン共重合体を単体として用いることができるが、プロピレン単独重合体とプロピレン共重合体とをブレンドして用いることもできる。便宜上、成分(1)のプロピレン単独重合体を「成分(1h)」、プロピレン共重合体を「成分(1c)」とする。成分(1h)、成分(1c)、および成分(2)からなるポリプロピレン組成物は任意の方法で製造できる。例えば以下の方法で製造できる。
【0040】
方法1:各成分の重合体を調製して混合する方法。例えば、成分(1h)、成分(1c)、成分(2)の原料モノマーを重合してそれぞれの重合体を製造する工程、および当該三者を混合する工程、を含む方法。
【0041】
方法2:成分(1)のブレンドと、成分(2)の重合体をそれぞれ調製して混合する方法。例えば、成分(1h)または成分(1c)のいずれか一方の重合体の存在下で他方の成分の原料モノマーを重合して他方の重合体を得るか、成分(1h)および(1c)の原料モノマーを重合して、成分各重合体を生成しながら両者を混合して成分(1)のブレンドを得る工程、ならびに当該ブレンドと成分(2)の重合体と混合する工程、を含む方法。
【0042】
方法3:成分(1h)の重合体の存在下で成分(2)の原料モノマーを重合してブレンドを調製する工程、成分(1c)の原料モノマーを重合して重合体を得る工程、および前記ブレンドと重合体を混合する工程、を含む方法。
【0043】
方法4:成分(1c)の重合体の存在下で成分(2)の原料モノマーを重合することを含む方法。例えば、以下の方法が挙げられる。
方法4-1:成分(1c)の重合体の存在下で成分(2)の原料モノマーを重合してブレンドを調製する工程、成分(1h)の原料モノマーを重合して重合体を得る工程、および前記ブレンドと重合体を混合する工程、を含む方法。
方法4-2:成分(1c)の重合体の存在下で成分(2)の原料モノマーを重合してブレンド1を得る工程、成分(1h)の重合体の存在下で成分(2)の原料モノマーを重合してブレンド2を得る工程、および両者を混合する工程、を含む方法。
【0044】
方法5:成分(1)のブレンドの存在下で、成分(2)の原料モノマーを重合する方法。例えば、成分(1)のブレンドを準備する工程、当該ブレンドの存在下で成分(2)の原料モノマーを重合しながら、三者をブレンドする工程、を含む方法。
【0045】
これらの中でも、後述するように、コモノマーを特定量含む成分(1c)と成分(2)の分散性の観点からは方法4または5が好ましい。特に、方法4のように成分(1c)の重合体の存在下で成分(2)の原料モノマーを重合すると低温成形での透明性に優れるシート等が得られるので好ましい。また、一般に成分(2)の量が比較的多いポリプロピレン組成物は製造が困難となる場合が多いが、方法3または方法4-2のように成分(1h)の存在下で成分(2)の原料モノマーを重合すると、製造を困難とすることなく成分(2)の量を調整でき、シート等とした際に剛性と耐衝撃性のバランスを取りやすいという利点がある。前記重合体や前記ブレンドの混合方法は限定されないが、各成分のパウダーまたはペレットを準備して、これを公知のミキサーまたは押出機等を用いて混合することが好ましい。方法2~5等におけるブレンドの製造方法は、例えば、2つ以上の反応器または2つ以上の重合領域を備える反応器等を用いて実施できる。重合に使用する触媒は限定されず公知の物を使用してよい。このような方法で製造されたブレンドはいわゆる重合ブレンドと呼ばれる。重合方法の詳細については後述する。
【0046】
(3)中間層
中間層は本発明の効果を損なわない限り任意のポリマーを含んでよい。例えば、本発明の3層からなるシート等をリサイクルして得たリターン材等を中間層に使用できる。
【0047】
(4)ポリオレフィン多層シート等の特性
本発明のポリオレフィン多層シート等は、外層を極薄にできるのでこのことに起因する種々の優れた効果を奏する。例えば、前述のエチレンおよびC4~C10-α-オレフィンからなる群より選択されるコモノマー0~5.0重量%を含むポリプロピレンが外層、前述のポリプロピレン組成物がコア層である3層シートを例にして説明する。当該シートは成分(1)中に成分(2)が分散している相構造を有するコア層を有するのでシートの耐寒衝撃性が向上するが、外部ヘーズは大きくなる。一方、外層は融点が大きく異なる成分が存在しないため表面に凹凸を持たないことによって小さな外部ヘーズを有する。すなわち、コア層はシート等の耐寒衝撃性、外層は透明性向上に寄与する。外層が厚いと耐寒衝撃性を低下させるが、本発明において外層は極めて薄いため耐寒衝撃性を低下させない。以上から、前記ポリオレフィン多層シートは優れた透明性と耐寒衝撃性を発現する。
【実施例
【0048】
1.重合体の調製
(1)外層のための重合体
[重合体A1]
重合に用いる固体触媒を、欧州特許第674991号公報の実施例1に記載された方法により調製した。当該固体触媒は、MgCl上にTiと内部ドナーとしてのジイソブチルフタレートを上記の特許公報に記載された方法で担持させたものである。当該固体触媒と、トリエチルアルミニウム(TEAL)およびシクロヘキシルメチルジメトキシシラン(CHMMS)を、固体触媒に対するTEALの重量比が8、TEAL/CHMMSの重量比が6.5となるような量で、-5℃で5分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予重合を行った。
得られた予重合物を重合反応器に導入した後、水素とプロピレンをフィードし、重合温度、水素濃度を、それぞれ75℃、0.113モル%とし、圧力を調整することよって、プロピレン単独重合体を製造した。当該重合体のパウダー100重量部に、結晶核剤としてMillad NX8000J(ノニトール系、ミリケン社製)0.5重量部添加し、酸化防止剤としてBASF社製B225を0.2重量部、中和剤として淡南化学社製カルシウムステアレートを0.05重量部添加し、ヘンシェルミキサーで1分間撹拌して混合した。この混合物を、ナカタニ機械株式会社製NVCφ50mm単軸押出機を用いて、シリンダー温度230℃で押出し、ストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットしペレット状のプロピレン樹脂組成物を得て、重合体A1とした。重合体A1は結晶核剤を含むポリプロピレン組成物である。当該重合体のTmは166℃であった。
【0049】
[重合体A2]
シクロヘキシルメチルジメトキシシラン(CHMMS)の代わりにジイソプロピルジメトキシシラン(DIPMS)を用い、TEAL/DIPMSの重量比を3.2とし、水素とプロピレン以外にエチレンをフィードして、重合温度を75℃、水素濃度を0.12モル%、エチレン濃度を0.45モル%とした以外は、重合体A1の場合と同様にしてプロピレン-エチレン共重合体を製造した。得られた重合体のパウダー100重量部に、結晶核剤としてMillad NX8000Jの代わりにMillad 3988(ソルビトール系、ミリケン社製)を0.25重量部添加した以外は、重合体A1と同様にして重合体A2を得た。重合体A2は結晶核剤を含むポリプロピレン組成物である。当該重合体のTmは153℃であった。
【0050】
(2)コア層のための樹脂組成物
[重合体B1]
MgCl上にTiと内部ドナーとしてのジイソブチルフタレートを担持させた固体触媒を、欧州特許第728769号公報の実施例5に記載された方法により調製した。次いで、上記固体触媒と、有機アルミニウム化合物としてTEALと、外部電子供与体化合物としてジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPMS)を用い、固体触媒に対するTEALの重量比が20、TEAL/DCPMSの重量比が10となるような量で、12℃において24分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃にて5分間保持することによって予重合を行った。得られた予重合物を、二段の重合反応器を直列に備える重合装置の一段目の重合反応器に導入し、プロピレンをフィードし、プロピレンの液相状態にてプロピレン単独重合体を製造し、二段目の気相重合反応器でエチレン・ブテン-1共重合体を製造した。重合中は、温度と圧力を調整し、水素を分子量調整剤として用いた。
重合温度と反応物の比率は、一段目の反応器では、重合温度と水素濃度が、それぞれ70℃、0.05モル%、二段目の反応器では、重合温度、H2/C2、C4/(C2+C4)が、それぞれ80℃、0.22モル比、0.52モル比であった。また、共重合体成分の量が30重量%となるように一段目と二段目の滞留時間分布を調整した。得られた重合体のパウダー100重量部に、結晶核剤としてMillad NX8000Jの代わりにアデカスタブNA-71(リン酸エステル系、株式会社ADEKA製)を0.25重量部添加した以外は、重合体A1と同様にして重合体B1を得た。重合体B1は、プロピレン単独重合体マトリックス中に、エチレン-ブテン-1共重合体が分散し、かつ結晶核剤を含むポリプロピレン組成物である。
表1に重合体の特性をまとめる。
【0051】
【表1】
【0052】
2.ポリオレフィン多層シートの製造
2種3層フィードブロックを備えるTダイ押出機(株式会社創研)を用いて、前記重合体から3層シート(特に「二次加工前多層シート」という)を製造し、後述の方法で評価した。
Tダイは300mmのコートハンガーダイであり、リップ幅は1.5mmであった。スクリュー構成は以下のとおりであった。
コア層用:フルフライトスクリュー(φ30mm、L/D=38、CR 2.75)
外層用 :フルフライトスクリュー(φ25mm、L/D=25、CR 3.2)
上記で得た二次加工前多層シートを150℃または160℃で120秒加熱し、Bruckner社製フィルム延伸装置(KARO)を用いて2軸延伸を行ない、全体の厚さ0.2~0.4mmの3層シート(特に「シート状積層体」または「二次加工後シート状積層体」ともいう)を得た。当該2軸延伸は、二次加工である真空成形、圧空成形、真空圧空成形等を想定して実施した。条件および評価結果を表2にまとめた。
【0053】
【表2】
【0054】
3.分析および評価
(1)重合体または重合体における各成分のエチレン含有量
1,2,4-トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼンの混合溶媒に溶解した試料について、日本電子株式会社製JNM LA-400(13C共鳴周波数100MHz)を用い、13C-NMR法で測定した値から算出した。
(2)MFR
JIS K 7210-1に準じ、温度230℃、荷重2.16kgの条件下で測定した。
(3)XSIV
サンプル2.5gを、o-キシレン(溶媒)を250ml入れたフラスコに入れ、ホットプレートおよび還流装置を用いて、135℃で、窒素パージを行いながら、30分間、撹拌し、サンプルを完全溶解した。その後、溶液を25℃で1時間冷却した。濾紙を用いて得られた溶液を濾過し、濾液を100ml採取し、アルミカップ等に移し、窒素パージを行いながら、150℃で蒸発乾固を行い、室温で30分間静置してキシレン可溶分を得た。ウベローデ型粘度計を用いて、当該キシレン可溶分の135℃テトラヒドロナフタレン中で極限粘度を測定し、XSIV(dl/g)を得た。
【0055】
(4)重合体のTm
重合体のTmは、パーキンエルマー社製ダイヤモンドDSCを用いて、前記のとおり定義したセカンドスキャンを行い測定した。
【0056】
(5)耐寒衝撃性
二次加工前多層シートを測定用試験片とした。株式会社島津製作所製ハイドロショットHITS-P10を用い、-30℃に調整した槽内で、内径40mmφの穴の開いた支持台に測定用試験片を置き、内径76mmφの試料押えを用いて固定した後、半球状の打撃面を持つ直径12.7mmφのストライカーで、1m/秒の衝撃速度で試験片を打撃し、JIS K7211-2に従いパンクチャーエネルギー(J)を求めた。4個の測定用試験片各々のパンクチャーエネルギーの平均値を面衝撃強度とした。
【0057】
(6)透明性
ISO 14782に準拠して、株式会社村上色彩技術研究所製、HM-150を使用し、前述のとおりにして得た二次加工前多層シートおよび二次加工後シート状積層体を試験片としヘーズ測定を行い、透明性を評価した。表面の凹凸の影響を除外するため、試験片の両面に流動パラフィン(関東化学株式会社製、Liquid Paraffin Cat. No.32033-00)を刷毛にて塗布し、同様にヘーズ測定を行った。前者を「全ヘーズ」、後者を「内部ヘーズ」と定義した。また表面の寄与を見るため、「外部ヘーズ」(「全ヘーズ」-「内部ヘーズ」)を定義した。
【0058】
(7)厚さ
二次加工前多層シートに関し、幅方向に等間隔に5等分し、それぞれの中心部分を3cm×3cmに切り出して試験片とし、シックネスゲージで測定して得た平均値を全体の厚さとした。さらに、試験片の断面をミクロトームで切削した後、倍率100倍の偏光顕微鏡で表裏両面の外層を観察し、その顕微鏡写真の表裏両面の外層の厚さをノギスで測定し、標準スケールを用いて実際の厚さに換算した。5つの試験片の表裏両面の厚さ計10点の測定値の平均値を外層の厚さとした。また、10点の計測から外層の厚さの標準偏差を求めた。上記透明性評価に用いた二次加工後シート状積層体に関しては、透明性計測位置をシックネスゲージで測定して得た平均値を全体の厚さとし、二次加工後シート状積層体の外層の厚さは以下から求めた。
(二次加工後シート状積層体の全体の厚さ)×(二次加工前多層シートの外層の厚さ)/(二次加工前多層シート全体の厚さ)
【0059】
表2に示された実施例1~6においては、外層の厚さが薄い場合においても均一となり、耐寒衝撃性と透明性のバランスを備えるポリオレフィン多層シートを形成することができた。これに対し、比較例1ではシートの幅方向で外層の厚さの変動が大きくなり、得られたシートは全体に光沢ムラとして外観不良が見られるとともに外部ヘーズが大きく透明性が悪化した。さらに、外層用シリンダーの回転数として8rpmを超え30rpm未満での設定を試みたが、二次加工前多層シートの光沢ムラと外部ヘーズの悪化は解消されなかった。比較例2では二次加工前多層シートの光沢ムラと外部ヘーズは解消されたものの、外層が厚く耐寒衝撃性が悪化した。比較例3では押出機のトルクアップによりシート成形ができなかった。
本発明の製造方法により得られたポリオレフィン多層シートは優れた耐寒衝撃性と透明性のバランスを備えることが明らかである。
【符号の説明】
【0060】
1 原料樹脂投入口
2 フィードゾーン
3 圧縮ゾーン
4 計量ゾーン
図1