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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】木造梁接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/30 20060101AFI20220427BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
E04B1/30 Z
E04B1/58 508N
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018220989
(22)【出願日】2018-11-27
(65)【公開番号】P2020084593
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】能森 雅己
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-92417(JP,A)
【文献】特開2014-214432(JP,A)
【文献】特開平8-21012(JP,A)
【文献】特開2013-53415(JP,A)
【文献】特開2014-234688(JP,A)
【文献】特開2016-132949(JP,A)
【文献】特開2001-200653(JP,A)
【文献】特開2001-207537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00-1/36
E04B 1/38-1/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体と木造梁とを接合する木造梁接合構造であって、
前記構造体及び前記木造梁の一方に剛接合される第1接合部材と、
前記構造体及び前記木造梁の他方に剛接合される第2接合部材と、
前記第1接合部材及び前記第2接合部材間に配置され、前記第1接合部材及び前記第2接合部材を接続する第3接合部材とを含む木材用接合金物を備え、
前記第3接合部材は、
前記第1接合部材に、木造梁の軸方向に延びる第1仮想軸線を中心として回動可能に連結され、かつ
前記第2接合部材に、前記木造梁の前記軸方向に対して水平方向に直交する方向に延びる第2仮想軸線を中心として回動可能に連結されるように構成されていることを特徴とする木造梁接合構造。
【請求項2】
前記第1接合部材及び前記第3接合部材の両部材の一方は、前記第1仮想軸線に沿って前記両部材の他方に向けて突出する突出ピン部を有し、
前記両部材の他方は、前記突出ピン部を軸支可能な軸支部を有し、
前記両部材の一方は、前記突出ピン部及び前記軸支部を介して、前記両部材の他方に回動自在に連結されることを特徴とする請求項1に記載の木造梁接合構造。
【請求項3】
前記第2接合部材は、該部材を前記第2仮想軸線に沿って貫通する第1連結ピン孔を有し、
前記第3接合部材は、該部材を前記第2仮想軸線に沿って貫通する第2連結ピン孔を有し、
前記第3接合部材は、前記第1連結ピン孔及び前記第2連結ピン孔に挿通させた連結ピンを介して、前記第2接合部材に回動自在に連結されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の木造梁接合構造。
【請求項4】
前記第2接合部材は、前記第3接合部材に向けて延び、かつ前記第1連結ピン孔が形成された連結端部を有し、
前記第3接合部材は、前記第2接合部材に向けて延出し、かつ前記第2連結ピン孔が形成された一対の平板部を有し、
前記一対の平板部は、該平板部間に前記第2接合部材の前記連結端部を挿入することができるように水平方向に互いに離間して対向配置されていることを特徴とする請求項3に記載の木造梁接合構造。
【請求項5】
少なくとも前記第3接合部材の周囲を覆う耐火カバー部材をさらに備えることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の木造梁接合構造。
【請求項6】
前記耐火カバー部材と前記構造体との隙間を封止する耐火シール材をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の木造梁接合構造。
【請求項7】
前記構造体が、コンクリート造の柱、梁、またはスラブを含むコンクリート造ユニットのコンクリート造柱であることを特徴とする請求項1~請求項6のいずれかに記載の木造梁接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体と木造梁とを接合する木造梁接合構造に関し、特に、コンクリート造の柱、梁、またはスラブを含むコンクリート造ユニットのコンクリート造柱に木造梁を接合するのに適した木造梁接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、柱、壁、梁などの構造体に木造梁を接合して構築する建物では、構造体と木造梁との接合は通常、接合金物を使用するドリフトピン工法により行われる。ドリフトピン工法とは、接合金物の一端を構造体の側面に固定し、接合金物の他端を木造梁の仕口部の端面に形成された溝に指し込み、木造梁の仕口部の側面及び接合金物の他端の側面にそれぞれ貫通形成されたドリフトピン孔にドリフトピンを打ち込んで木造梁に接合金物の他端を固定することによって、構造体と木造梁とを剛接合させる工法である。
【0003】
図9(A)は、ドリフトピン工法により互いに固定された木造梁の仕口部と接合金物とを示す概略側面図である。図9(A)に示すように、木造梁の仕口部100の側面には、ドリフトピン300が打ち込まれるドリフトピン孔101が形成されている。このドリフトピン孔101にドリフトピン300を打ち込み、ドリフトピン300の先端を挿通させ、ドリフトピン300の先端を接合金物200の図示しないドリフトピン孔に貫入させることにより、木造梁の仕口部100に接合金物200が固定される。
【0004】
ドリフトピン工法により構造体に木造梁を接合した建物は、地震時には、地震の水平振動によって構造体が水平方向に振動する。このとき、構造体に固定された接合金物が木造梁の仕口部に対して相対的に回転するため、木造梁の仕口部に曲げモーメントMが発生する。これにより、図9(B)に示すように、木造梁の仕口部100のドリフトピン孔101に打ち込まれたドリフトピン300が、回転する接合金物200と共に回転移動してドリフトピン孔101の側壁にめり込んで、ドリフトピン孔101が変形または損傷する恐れがある。
【0005】
木造梁の仕口部のドリフトピン孔が変形または損傷すると、ドリフトピンによる構造体及び木造梁間の結合力やモーメント抵抗力が低下するという問題が生じる。この場合、建物が、その後の余震や本震によって倒壊する恐れがある。また、木造梁の心材の外周は通常、耐火材で被覆されているが、木造梁の仕口部のドリフトピン孔が変形または損傷すると、地震後に火災が発生した場合に、ドリフトピン孔の変形または損傷した部分の隙間から木造梁の心材に火災が及ぶ恐れもある。
【0006】
このような地震時の建物の変形に関する問題に対して、第1軸組材と第2軸組材とが1本の第1ピンと少なくとも1本の第2ピンによって接合されると共に、振動により前記第2ピンが第1ピンに先行して破断するようになされて、該破断により両軸組材が第1ピンを軸に相対回転変位をするように構成した軸組材同士の制振接合構造が提案されている(特許文献1)。この特許文献1の従来技術では、地震による振動で第2ピンが破断すると、両軸組材が1本の第1ピンを軸に相対回転変位することによって、建物の大きな変形による崩壊が抑制されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-92417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1の従来技術は、地震時に建物が水平2方向に振動したときに、一方の水平方向においては、木造梁の仕口部に曲げモーメントが発生するのを防ぐことができるものの、他方の水平方向においては、木造梁の仕口部に曲げモーメントが発生するのを防ぐことができないという問題があった。また、上記の特許文献1の従来技術は、振動により第2ピンが第1ピンに先行して破断するようになされているため、ドリフトピン孔の変形または損傷を防止することはできなかった。
【0009】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、地震時に、木造梁の仕口部に曲げモーメントが発生することのない木造梁接合構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は、構造体(3)と木造梁(4)とを接合する木造梁接合構造(6)であって、前記構造体及び前記木造梁の一方に剛接合される第1接合部材(11)と、前記構造体及び前記木造梁の他方に剛接合される第2接合部材(12)と、前記第1接合部材及び前記第2接合部材間に配置され、前記第1接合部材及び前記第2接合部材を接続する第3接合部材(13)とを含む木材用接合金物(10)を備え、前記第3接合部材は、前記第1接合部材に、木造梁の軸方向に延びる第1仮想軸線(L1)を中心として回動可能に連結され、かつ前記第2接合部材に、前記木造梁の前記軸方向に対して水平方向に直交する方向に延びる第2仮想軸線(L2)を中心として回動可能に連結されるように構成されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、地震時に建物の構造体が水平2方向に振動した場合に、建物の構造体に木造梁を接合する木材用接合金物は、第1仮想軸線及び第2仮想軸線を中心として水平2方向に回動することにより、構造体の水平2方向の振動に追従することができる。これにより、地震時に、木造梁の仕口部に曲げモーメントが発生するのを防ぐことができる。
【0012】
また、本発明のある態様は、上記構成において、前記第1接合部材及び前記第3接合部材の両部材の一方は、前記第1仮想軸線に沿って前記両部材の他方に向けて突出する突出ピン部を(13c)有し、前記両部材の他方は、前記突出ピン部を軸支可能な軸支部(11b)を有し、前記両部材の一方は、前記突出ピン部及び前記軸支部を介して、前記両部材の他方に回動自在に連結されることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、第3接合部材の第1接合部材に対する第1仮想軸線を中心とした回動可能な連結を簡単な構成で実現することができる。
【0014】
また、本発明のある態様は、上記構成において、前記第2接合部材は、該部材を前記第2仮想軸線に沿って貫通する第1連結ピン孔(12d)を有し、前記第3接合部材は、該部材を前記第2仮想軸線に沿って貫通する第2連結ピン孔(13d)を有し、前記第3接合部材は、前記第1連結ピン孔及び前記第2連結ピン孔に挿通させた連結ピン(17)を介して、前記第2接合部材に回動自在に連結されることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、第3接合部材の第2接合部材に対する第2仮想軸線を中心とした回動可能な連結を簡単な構成で実現することができる。
【0016】
また、本発明のある態様は、上記構成において、前記第2接合部材は、前記第3接合部材に向けて延び、かつ前記第1連結ピン孔が形成された連結端部(12b)を有し、前記第3接合部材は、前記第2接合部材に向けて延出し、かつ前記第2連結ピン孔が形成された一対の平板部(13a、13a)を有し、前記一対の平板部は、該平板部間に前記第2接合部材の前記連結端部を挿入することができるように水平方向に互いに離間して対向配置されていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、第3接合部材は一対の平板部を介して第2接合部材に連結されるので、第3接合部材の第2接合部材間への連結力を高めることができる。
【0018】
また、本発明のある態様は、上記構成において、少なくとも前記第3接合部材の周囲を覆う耐火カバー部材(20)をさらに備えることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、木造梁の仕口部の周囲の耐火性能が向上するとともに、外観を良くすることができる。
【0020】
また、本発明のある態様は、上記構成において、前記耐火カバー部材と前記構造体との隙間を封止する耐火シール材(30)をさらに備えることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、耐火カバー部材と構造体との隙間を封止できるので、木造梁の仕口部の周囲の耐火性能がさらに向上する。
【0022】
また、本発明のある態様は、上記構成において、前記構造体が、コンクリート造の柱(3)、梁、またはスラブ(2)を含むコンクリート造ユニット(A)のコンクリート造柱であることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、本発明の木造梁接合構造を、コンクリート造ユニット(コンクリートフレーム)から構成される建物に適用することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
このように本発明によれば、地震時に建物が水平2方向に振動したときに、木造梁の仕口部に曲げモーメントが発生することのない木造梁接合構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の木造梁接合構造が適用される多層建築物の概略側面図
図2】本発明の木造梁接合構造の側面図
図3】本発明の木造梁接合構造の平面図
図4】本発明の木造梁接合構造を構成する木材用接合金物の分解斜視図
図5】(A)図1の多層構造体の通常の状態を示す概略側面図、(B)図1の多層構造体の地震時の状態を示す概略側面図
図6】本発明の木造梁接合構造の第1変形例の図3に対応する平面図
図7】本発明の木造梁接合構造の第2変形例の図3に対応する平面図
図8】本発明の木造梁接合構造の第3変形例の図3に対応する平面図
図9】(A)ドリフトピン工法により互いに固定された木造梁の仕口部と接合金物とを示す概略側面図、(B)地震時にドリフトピンが木造梁の仕口部のドリフトピン孔の側壁にめり込んだ様子を示す概略側面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の説明では、本発明の木造梁接合構造を使用して木造梁を接合する対象の構造体としては、コンクリート造の柱を想定している。なお、木造梁を接合する対象の構造体は、コンクリート造の柱に限定されるものではなく、コンクリート造の壁や梁、鉄骨の柱や梁、木造の柱や梁などであってもよい。
【0027】
図1は、本発明の木造梁接合構造が適用される多層建築物の概略側面図である。図1に示すように、多層建築物1は、コンクリート造ユニットAと、コンクリート造ユニットA内に配置された木造ユニットBとから構成されている。
【0028】
コンクリート造ユニットAは、コンクリート造スラブ2及びコンクリート造柱3からなり、格子状のコンクリートフレームを構成している。なお、コンクリート造ユニットAは、コンクリート造の梁をさらに含んでもよい。図1の例では、各コンクリート造ユニットAは、床側スラブ及び天井側スラブとなる2つのスラブ2、2と、相対向する2つの柱3、3とからなり、2つのスラブ2、2は2つの柱3、3によって略平行に支持されている。コンクリート造スラブ2及びコンクリート造柱3は、例えば、鉄筋コンクリート(RC)または鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)から構成される。
【0029】
このコンクリート造ユニットAを、水平方向及び垂直方向に並べることにより、多層建築物1が構成される。なお、図1の例では、コンクリート造ユニットAを垂直方向に2層に積み重ねることにより、2層の多層建築物1を構成しているが、多層建築物1は1層であってもよいし、または3層以上であってもよい。
【0030】
木造ユニットBは、木造梁4及び木造柱5からなる。図1の例では、各木造ユニットBは、2つの木造梁4と、1つの木造柱5とからなる。木造梁4は、その一端がコンクリート造ユニットAのコンクリート造柱3の側面に接合され、その他端が、コンクリート造ユニットAの床側スラブ2上に立設された木造柱5の側面に接合される。これにより、木造梁4は、コンクリート造ユニットAの床側スラブ2及び天井側スラブ2間に、該スラブ2、2と略平行に配置される。木造梁4及び木造柱5は、例えば、集成材または単板積層材から構成され、その外周は、燃え止まり層や燃え代層などによって耐火被覆されている。
【0031】
そして、図示しないが、木造梁4上に木造の床側スラブを配置して、コンクリート造ユニットA内に2層の木造構造体(木造空間)を構築する。なお、図1の例では、木造ユニットBでは2層の木造構造体を構築しているが、これに限定されるものではなく、3層以上の木造構造体を構築してもよい。また、図1の例では、木造柱5は、コンクリート造ユニットAの床側スラブ2から天井側スラブ2まで延びているが、木造梁4を支持することができれば、天井側スラブ2まで延びていなくてもよい。
【0032】
このような多層建築物1では、木造ユニットBはそれが配置されるコンクリート造ユニットAによって支持されるので、木造ユニットBの木造梁4はその木造ユニットBにより構築される木造構造体だけを支持すればよい。したがって、建物が多層に構成された場合でも、各木造ユニットBは、高い耐震性を有することとなる。また、コンクリート造ユニットAで防火区画を構成することにより、延焼防止効果が期待できる。また、図1に示す多層建築物1は、木造ユニットBを用いているので、森林・林業の再生や環境面への配慮などを目的とした、建築材料としての木材の利用の促進に貢献することができる。
【0033】
次に、上記の多層建築物1において、コンクリート造柱3に木造梁4を接合する本発明の木造梁接合構造6について説明する。図2は、木造梁接合構造6の側面図であり、図3は、木造梁接合構造6の平面図であり、図4は、木造梁接合構造6を構成する木材用接合金物10の分解斜視図である。なお、以下では、コンクリート造柱3に木造梁4を接合する場合について説明するが、本発明の木造梁接合構造6は、コンクリート造の柱以外にも、コンクリート造の壁や梁、鉄骨の柱や梁、木造の柱や梁に木造梁4を接合する場合にも適用可能である。
【0034】
本発明の木造梁接合構造6は、コンクリート造柱3(以降、単に「柱3」と称する)の側面3aに木造梁4の仕口部4aを接合するための木材用接合金物10を備えている。
【0035】
木材用接合金物10は、柱3に剛接合される第1接合部材11と、木造梁4に剛接合される第2接合部材12と、第1接合部材11及び第2接合部材12間に配置される、第1接合部材11及び第2接合部材12を接続する第3接合部材13とを含む。各接合部材11-13は、例えば鉄やステンレスなどの金属から形成される。
【0036】
第1接合部材11は、平板状のベースプレート11aと、ベースプレート11aの第3接合部材13側の面の略中央に設けられた軸支部11bとを有している。軸支部11bは、後述する第3接合部材13の突出ピン部13cと対向するように設けられている。
【0037】
ベースプレート11aの各角部には、ベースプレート11aをその厚さ方向に貫通するボルト孔11cが形成されている。すなわち、本実施形態では、ベースプレート11aには4つのボルト孔11cが形成されている。なお、ボルト孔11cの数や配置位置は、上記に限定されるものではなく、ベースプレート11aの形状や大きさに応じて適宜設定することができる。
【0038】
軸支部11bは、中空円筒状の形状を有しており(図4参照)、後述する第3接合部材13の突出ピン部13cを軸支可能な形状に形成されている。詳細については後述するが、この軸支部11bは、その円筒状の中空部に、第3接合部材13の突出ピン部13cを、木造梁4の軸方向(以降、「第1水平方向」と称する)に延びる第1仮想軸線L1を中心として回動可能に軸支する。
【0039】
ベースプレート11aは、アンカーボルト14によって柱3の側面3aに固定される。アンカーボルト14の基部は柱3に埋め込まれており、アンカーボルト14の先端部は、柱3の側面3a突出している。アンカーボルト14の先端部をベースプレート11aのボルト孔11cに挿通し、図示しない座金を介してナット15を螺合して締め付けることにより、ベースプレート11aは、柱3の側面3aに固定され、これにより、第1接合部材11は柱3の側面3aに剛接合される。
【0040】
第2接合部材12は、1枚の平板状部材から構成されており、その主面が水平方向に向くように配置される。第2接合部材12は、木造梁4の仕口部4aに固定される固定端部12aと、第3接合部材13に連結される連結端部12bとを有している。
【0041】
第2接合部材12の固定端部12aには、ドリフトピン16が挿通される複数の第1ドリフトピン孔12cが貫通形成されている。本実施形態では、6個の第1ドリフトピン孔12cが3行2列の行列状に形成されている。なお、第1ドリフトピン孔12cの数や配置位置は、上記に限定されるものではなく、木造梁4の形状や大きさに応じて適宜設定することができる。
【0042】
第2接合部材12の連結端部12bには、連結ピン17が挿通される第1連結ピン孔12dが貫通形成されている。この第1連結ピン孔12dは、第1水平方向(木造梁4の軸方向)に対して水平方向に直交する方向(以降、「第2水平方向」と称する)に延びる第2仮想軸線L2に沿って延びるように形成されている。
【0043】
また、第2接合部材12の連結端部12bの端面の上端及び下端には、斜めに切欠された第1切欠部12e、12eが形成されている。この第1切欠部12e、12eは、第3接合部材13が第2接合部材12に対して回動するときに(詳細については後述する)、第2接合部材12の連結端部12bが、第3接合部材13の連結部13bに衝突するのを防止できるように形成されている。なお、本実施形態では、第1切欠部12e、12eは傾斜状に形成したが、第1切欠部12e、12eは円弧状または他の形状に形成してもよい。
【0044】
第2接合部材12の固定端部12aは、ドリフトピン16によって木造梁4の仕口部4aに固定される。このため、木造梁4の仕口部4aの端面には、第2接合部材12の固定端部12aを嵌入可能な嵌入溝4bが形成されている。この嵌入溝4bは、第2接合部材12の固定端部12aを木造梁4の上方から嵌入することができるように上方にも開口している。また、木造梁4の仕口部4aにおける嵌入溝4bの水平方向両側の各側部には、木造梁4の仕口部4aの側面と嵌入溝4bとの間を貫通する第2ドリフトピン孔4cが形成されている。
【0045】
第2接合部材12は、その固定端部12aを木造梁4の嵌入溝4bに嵌入させた状態で、ドリフトピン16を木造梁4の仕口部4aの一方の側面の第2ドリフトピン孔4cに打ち込み、第2接合部材12の第1ドリフトピン孔12cを挿通させて、他方の側面の第2ドリフトピン孔4cに貫入させることにより、木造梁4に剛接合される。なお、ドリフトピン16は、木造梁4の一方の側面から打ち込んだときに、木造梁4の他方の側面から突出しないような長さに設定される。
【0046】
第3接合部材13は、第2接合部材12に向けて延出する一対の平板部13a、13aと、1対の平板部13a、13aの第1接合部材11側の各端部を互いに連結する連結部13bとを有している。すなわち、第3接合部材13は、第2接合部材12に向けて開口した平面視コ字状の形状を有している。
【0047】
一対の平板部13a、13aは、その間に第2接合部材12の連結端部12bを挿入することができるように、第2水平方向に所定間隔離間して対向配置されている。一対の平板部13a、13aの第2接合部材12側の各端部には、連結ピン17が挿通される第2連結ピン孔13dが貫通形成されている。この第2連結ピン孔13dは、第2水平方向に延びる第2仮想軸線L2に沿って延びるように形成されている。
【0048】
また、一対の平板部13a、13aの第2接合部材12側の端面の上端及び下端には、斜めに切欠された第2切欠部13e、13eが形成されている。この第2切欠部13e、13eは、第3接合部材13が第2接合部材12に対して回動するときに(詳細については後述する)、第3接合部材13の一対の平板部13a、13aが、木造梁4の仕口部4aの端面に衝突するのを防止できるように形成されている。なお、本実施形態では、第2切欠部13e、13eは傾斜状に形成したが、第2切欠部13e、13eは円弧状または他の形状に形成してもよい。
【0049】
また、第3接合部材13の連結部13bの第1接合部材11側の端面には、第1接合部材11に向けて突出する突出ピン部13cが形成されている。突出ピン部13cは、第1水平方向に延びる第1仮想軸線L1に沿って、第1接合部材11に向けて突出するように形成されている。突出ピン部13cは、第1接合部材11の軸支部11bに軸支されるように、軸支部11bの円筒状の中空部と相補的な円柱状に形成されている。
【0050】
この第3接合部材13は、突出ピン部13cが第1接合部材11の軸支部11bに軸支されることにより、第1接合部材11に対して、第1仮想軸線L1を中心として回動可能に連結される。
【0051】
また、この第3接合部材13は、一対の平板部13a、13a間に第2接合部材12の連結端部12bを挿入した状態で、両端部にねじ部が形成された連結ピン17を、第3接合部材13の第2連結ピン孔13d、13dと、第2接合部材12の第1連結ピン孔12dとに挿通し、連結ピン17の両端部にナット18を締結することにより、第2接合部材12に対して、第2仮想軸線L2を中心として回動可能に連結される。なお、連結ピン17の第1連結ピン孔12dに挿通される部分にはねじ部は形成されておらず、連結ピン17は第1連結ピン孔12dには回動自在に挿通される。
【0052】
また、第3接合部材13の一対の平板部13a、13aの第2接合部材12側の端面には第2切欠部13eが形成されているので、第3接合部材13が第2接合部材12に対して回動するときに、第3接合部材13の一対の平板部13a、13aが、木造梁4の仕口部4aの端面に衝突することはない。同様に、第2接合部材12の連結端部12bの第3接合部材13側の端面には第1切欠部12eが形成されているので、第3接合部材13が第2接合部材12に対して回動するときに、第2接合部材12の連結端部12bが、第3接合部材13の連結部13bに衝突することはない。
【0053】
このように、本発明の木材用接合金物10は、第1接合部材11と第3接合部材13とが第1水平方向に延びる第1仮想軸線L1を中心として回動可能に連結され、第2接合部材12と第3接合部材13とが第2水平方向に延びる第2仮想軸線L2を中心として回動可能に連結されている。すなわち、本発明の木材用接合金物10は、第1仮想軸線及び第2仮想軸線を中心として水平2方向に回動可能に構成されている。
【0054】
なお、第1接合部材11の軸支部11bと、第3接合部材13の突出ピン部13cとの間には、回転抵抗や摩擦抵抗を軽減するために、グリースや潤滑油などを塗布するとよい。同様に、第2接合部材12の第1連結ピン孔12dと、第3接合部材13の第2連結ピン孔13dにも、回転抵抗や摩擦抵抗を軽減するために、グリースや潤滑油などを塗布するとよい。
【0055】
また、第3接合部材13の第2接合部材12に対する回動可能角度は、コンクリート造ユニットAの地震時の予測される水平方向の振動の大きさに応じて設定するとよい。
【0056】
木材用接合金物10の周囲には、耐火カバー部材20が、少なくとも第3接合部材13の周囲を覆うように配置されている。耐火カバー部材20は、例えば、不燃木材、準不燃木材、難燃木材などから形成するとよい。なお、耐火カバー部材20は、難燃性樹脂などの耐火材から形成してもよい。このように、耐火カバー部材20で木材用接合金物10の周囲を覆うことにより、木造梁4の仕口部4aの周囲の耐火性能を向上させることができる。
【0057】
また、耐火カバー部材20の表面は木目調に形成するとよい。これにより、耐火カバー部材20と木造梁4との外観の差異を小さくすることができるので、外観を良くすることができる。また、耐火カバー部材20は、木造梁4の外周を耐火被覆する燃え止まり層や燃え代層の外面と同一平面をなすように配置するとよい。これにより、外観をさらに良くすることができる。
【0058】
耐火カバー部材20の柱3側の端部は、接着性を有する耐火シール材30によって、柱3に接着結合される。このように、耐火カバー部材20と柱3とを耐火シール材30で接着結合すると、耐火カバー部材20と柱3との間の隙間を耐火シール材30で封止できるので、木造梁4の仕口部4aの周囲の耐火性能をさらに向上させることができる。
【0059】
また、耐火カバー部材20の木造梁4側の端部は、接着性を有する耐火シール材30または図示しない接着剤などによって木造梁4に結合される。本実施形態では、耐火カバー部材20の木造梁4側の端部も、耐火シール材30によって木造梁4に接着結合されている。これにより、耐火カバー部材20と木造梁4との間の隙間も耐火シール材30で封止できるので、木造梁4の仕口部4aの周囲の耐火性能がさらに向上する。
【0060】
次に、柱3と木造梁4との接合手順について説明する。
【0061】
まず、柱3の側面3aに第1接合部材11のベースプレート11aを固定する。この固定は、上述したように、アンカーボルト14によりなされる。また、木造梁4の仕口部4aに形成した嵌入溝4bに第2接合部材12の固定端部12aを嵌入し、この状態で、木造梁4の仕口部4aに第2接合部材12を固定する。この固定は、上述したように、ドリフトピン16によりなされる。
【0062】
次いで、第1接合部材11の軸支部11bに第3接合部材13の突出ピン部13cを挿入して、第1接合部材11に第3接合部材13を連結させる。この状態で、上方から木造梁4を第3接合部材13に向けて降下させ、第3接合部材13の平板部13a、13a間に、木造梁4の仕口部4aに固定された第2接合部材12の連結端部12bを挿入する。そして、この状態で、連結ピン17によって、第3接合部材13を第2接合部材12に連結させる。
【0063】
その後、木材用接合金物10の周囲に耐火カバー部材20を配置し、耐火カバー部材20の柱3側の端部及び木造梁4側の端部を耐火シール材30によって柱3及び木造梁4に固定する。これにより、柱3と木造梁4との接合は完了し、図2及び図3に図示した状態となる。
【0064】
次に、本発明の木造梁接合構造6を構成する木材用接合金物10の地震時の作用効果について説明する。図5は、本発明の木造梁接合構造6が適用される多層建築物1を示す図であり、(A)は通常の状態、(B)は地震時の状態を示す。なお、図5の例では、図1に示した多層建築物1のうちの1つのコンクリート造ユニットAのみを示している。また、図5の例では、コンクリート造ユニットAの床側スラブ2に立設された木造柱5は、コンクリート造ユニットAの天井側スラブ2まで延びていない。
【0065】
コンクリート造ユニットAの柱3は、地震時には、地震の水平振動によって水平2方向に振動する。この柱3の振動によって、木造梁4と柱3(または木造柱5)との接合部分(破線の円で囲んだ部分)では、柱3(または木造柱5)に固定された本発明の木材用接合金物10が、木造梁4の仕口部4aに対して相対的に回転することとなる。
【0066】
このとき、本発明の木材用接合金物10は、柱3の水平2方向の振動に応じて、第3接合部材13が、第1接合部材11に対する第1仮想軸線L1を中心として回動と、第2接合部材12に対する第2仮想軸線L2を中心として回動とを行うことができる。すなわち、本発明の木材用接合金物10は、第1仮想軸線L1及び第2仮想軸線L2を中心として水平2方向に回動することにより、柱3の水平2方向の振動に追従することができる。これにより、地震時に、木造梁4の仕口部4aに曲げモーメントが発生するのを防ぐことができる。したがって、地震時に、木造梁4の第2ドリフトピン孔4cに変形または損傷が生じることはない。
【0067】
なお、コンクリート造ユニットAの代わりに鉄骨造ユニットを用いてもよく、どちらのユニットの場合でも、適切に設計することにより、地震時の水平方向の傾きを地震後に元の状態に復帰させることができる。そして、コンクリート造ユニットAまたは鉄骨造ユニットが元の状態に復帰すると、そのユニットの内部に配置され、そのユニットの柱などに接合された木造ユニットBも元の状態に復帰する。さらに、コンクリート造ユニットAは、緊張材などで予め応力を加えたプレストレストコンクリートから構成することにより、地震時に水平2方向に傾いた後に、図5(A)に示す元の状態へ積極的に復帰するように設計することができる。
【0068】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。
【0069】
例えば、上記実施形態では、柱3に第1接合部材11を固定し、木造梁4に第2接合部材12を固定したが、その逆に、図6に示すように、柱3に第2接合部材12を固定し、木造梁4に第1接合部材11を固定するようにしてもよい。この場合、第2接合部材12は、第3接合部材13に向けて延びる平板状部材120aと、平板状部材120aを柱3に固定するためのベースプレート120bとから構成する。
【0070】
平板状部材120aは、上記実施形態の第2接合部材12の連結端部12bと同様に構成し、連結ピン17によって第3接合部材13に連結する。ベースプレート120bは、上記実施形態の第1接合部材11のベースプレート11aと同様に構成し、アンカーボルト14によって柱3に固定する。また、第1接合部材11は、ベースプレート11aの木造梁4側の面から垂直に延出する2つの連結プレート110、110をさらに有する。連結プレート110、110は、上記実施形態の第2接合部材12の固定端部12aと同様に構成し、ドリフトピン16によって木造梁4の仕口部4aに固定する。
【0071】
また、上記実施形態では、第3接合部材13に突出ピン部13cを設け、第1接合部材11に軸支部11bを設けたが、その逆に、図7に示すように、第1接合部材11に突出ピン部13cを設け、第3接合部材13に軸支部11bを設けるようにしてもよい。この場合、突出ピン部13cは、第1接合部材11のベースプレート11aの第3接合部材13側の面の略中央に、第3接合部材13に向かって突出するように設ける。また、軸支部11bは、第3接合部材13の第1接合部材11側の端面に、突出ピン部13cと対向するように設ける。
【0072】
また、上記実施形態では、第2接合部材12は1枚の平板状部材から構成したが、図8に示すように、2枚の平板状部材から構成してもよい。この場合、第2接合部材12は、一対のプレート部121、121と、その延在方向の中間部においてプレート部121、121を水平方向に互いに接続する接続部122とから構成する。そして、木造梁4の仕口部4aの端面には、第2接合部材12の一対のプレート部121、121をそれぞれ嵌入可能な2つの嵌入溝4b、4bと、第2接合部材12の接続部122を受容可能な切欠部4dを形成する。
【0073】
一対のプレート部121、121は、上記実施形態の第2接合部材12と同様に構成し、ドリフトピン16によって木造梁4に固定する。また、第3接合部材13は、3つの平板部13a、13a、13aを有しており、隣接する平板部13a、13a間に各プレート部121が挿入される。そして、この状態では、第3接合部材13は、連結ピン17によって、第2接合部材12に連結される。
【0074】
図8の変形例では、第2接合部材12は一対のプレート部121、121を介して木造梁4の仕口部4aに固定されるので、第2接合部材12を1枚の平板状部材から構成した場合と比べて、第2接合部材12と木造梁4との結合力を高めることができる。また、第2接合部材12は一対のプレート部121、121を介して第3接合部材13に連結されるので、第2接合部材12を1枚の平板状部材から構成した場合と比べて、第2接合部材12と第3接合部材13との連結力を高めることができる。
【0075】
この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、角度など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。また、上記実施形態の構成の一部を適宜組み合わせたり、適宜取捨したりしてもよい。さらに、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 多層建築物
2 コンクリート造スラブ
3 コンクリート造柱(構造体)
4 木造梁
5 木造柱
6 木造梁接合構造
10 木材用接合金物
11 第1接合部材
12 第2接合部材
13 第3接合部材
11b 軸支部
12d 第1連結ピン孔
13a 平板部
13c 突出ピン部
13d 第2連結ピン孔
17 連結ピン
20 耐火カバー部材
30 耐火シール材
A コンクリート造ユニット
B 木造ユニット
L1 第1仮想軸線
L2 第2仮想軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9