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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】用量精度を改善した薬剤送達デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/24 20060101AFI20220427BHJP
   A61M 5/31 20060101ALI20220427BHJP
   A61M 5/315 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
A61M5/24 500
A61M5/31 520
A61M5/315 550J
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018510801
(86)(22)【出願日】2016-08-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-09-06
(86)【国際出願番号】 EP2016070402
(87)【国際公開番号】W WO2017037055
(87)【国際公開日】2017-03-09
【審査請求日】2019-07-08
【審判番号】
【審判請求日】2021-05-18
(31)【優先権主張番号】15183119.5
(32)【優先日】2015-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16150824.7
(32)【優先日】2016-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】596113096
【氏名又は名称】ノボ・ノルデイスク・エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ラースン, アンドレ
【合議体】
【審判長】内藤 真徳
【審判官】栗山 卓也
【審判官】井上 哲男
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-510505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M5/20-5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤送達デバイス(200)を組み立てる方法であって、
- 複数の構成要素(210、220、230)を提供するステップであって、前記複数の構成要素(210、220、230)が、組み立てられた状態では、プロセッサ制御される薬剤送達デバイスを形成し、前記薬剤送達デバイスが、組み立てられた状態では薬剤充填済みのカートリッジ(230)を含み、前記カートリッジが、吐出口、および軸方向に変位可能なピストンを備え、前記複数の構成要素が、
- 薬剤吐出中に移動するように適合された第1の構成要素群であって、前記カートリッジの前記ピストンに係合するように適合された軸方向に変位可能なピストン駆動部材(220)を含む、第1の構成要素群、
- 薬剤吐出中に不動であるが前記第1の構成要素群の少なくとも一部と相互作用するように適合された第2の構成要素群、および、
- 記憶装置を有するプロセッサ
を含む、提供するステップと、
- 組立に先立って、前記第1の構成要素群および前記第2の構成要素群のうちの、少なくとも1つの構成要素について、パラメータ値を決定するステップと、
- 前記複数の構成要素を組み立てて薬剤送達デバイスを形成するステップと、
- 前記記憶装置に補正データを保存するステップであって、前記補正データが、前記少なくとも1つの構成要素について決定されたパラメータ値と対応する基準値との間の差に基づくものである、ステップと
を含む、薬剤送達デバイス(200)を組み立てる方法。
【請求項2】
前記パラメータ値を決定するステップにおいて、少なくとも、前記第1の構成要素群のうちの1つの構成要素と、前記第2の構成要素群のうちの1つの構成要素とについて、それぞれパラメータ値が決定され、
前記補正データが、少なくとも、前記第1の構成要素群のうちの前記1つの構成要素と、前記第2の構成要素群のうちの前記1つの構成要素とについての、決定されたパラメータ値と対応する基準値との間の差に基づくものである、請求項1に記載の薬剤送達デバイスを組み立てる方法。
【請求項3】
前記パラメータ値を決定するステップにおいて、前記カートリッジの内径または内側断面積が、前記第2の構成要素群のうちの1つの構成要素についてのパラメータ値として決定される、請求項1または2に記載の薬剤送達デバイスを組み立てる方法。
【請求項4】
少なくとも2つのパラメータ値が、所与の寸法または状態の関数として所与の構成要素に対して決定され、前記補正データが、前記薬剤送達デバイスの状態の関数として変化するいくつかの補正値を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の薬剤送達デバイスを組み立てる方法。
【請求項5】
前記パラメータ値が、前記薬剤送達デバイスの組立てに先立って決定される構成要素単体の寸法である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
薬剤送達デバイス(200)であって、
- 薬剤充填済みのカートリッジ(230)または薬剤充填済みのカートリッジを受容するための手段であって、前記カートリッジが、吐出口、および軸方向に変位可能なピストンを備える、薬剤充填済みのカートリッジ(230)、または薬剤充填済みのカートリッジを受容するための手段と、
- 吐出アセンブリであって、
- 前記カートリッジの前記ピストンに係合するように適合された軸方向に変位可能なピストン駆動部材、
- 吐出される薬剤の基準投与量を使用者が設定することを可能にする、用量設定手段(280)、
- 投与量を表示するように適合されたディスプレイ(202)、
- 前記ピストン駆動部材を遠位方向に移動させ、それにより挿入されたカートリッジから薬剤を吐出するための駆動手段(210)、および、
- 記憶装置を含むプロセッサであって、前記ディスプレイを制御して投与量を表示させるように適合されたプロセッサ
を含む、吐出アセンブリと
を備え、
- 補正データが前記記憶装置に保存され、前記補正データが、前記吐出アセンブリおよび受容される前記カートリッジの複数の構成要素のうちの、少なくとも1つの構成要素について、前記薬剤送達デバイスの組立てに先立って決定されたパラメータ値と、対応する基準値との間の差に基づくものであり、
- 前記プロセッサが、前記補正データと設定された基準投与量とに基づいて補正された投与量を算出し、前記ディスプレイを制御して、前記補正された投与量を表示させるように適合される、
薬剤送達デバイス(200)。
【請求項7】
前記補正データは、前記複数の構成要素のうち、少なくとも、薬剤吐出中に移動するように適合された第1の構成要素群のうちの1つの構成要素と、薬剤吐出中に不動である第2の構成要素群のうちの1つの構成要素とについて、それぞれ決定されたパラメータ値と対応する基準値との間の差に基づくものである、請求項6に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項8】
少なくとも2つの補正値が、前記記憶装置に保存され、前記補正値が、前記ピストン駆動部材の位置と相関関係があり、
- 前記プロセッサが、前記ピストン駆動部材の現在位置に対する前記補正値と設定された基準投与量とに基づいて補正された投与量を算出し、前記ディスプレイを制御して、前記補正された投与量を表示させるように適合される、
請求項6または7に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項9】
前記ディスプレイ(202)が、所与の単位のインクリメントで投与量を表示するように適合される、請求項8に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項10】
前記用量設定手段が、吐出される薬剤の基準投与量を前記ディスプレイの前記インクリメントの何分の1かであるインクリメントで設定するように適合される、請求項9に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項11】
- カートリッジを受容するように適合されたカートリッジホルダであって、前記カートリッジが、前記カートリッジについて決定されたパラメータ値に関するカートリッジ可読情報を備える、カートリッジホルダと、
- 前記カートリッジ可読情報を読み取るための手段と
を備え、
前記プロセッサが、前記カートリッジ可読情報から得られたパラメータ値と対応する保存された基準値との間の差に少なくとも部分的に基づいて、補正データを算出するように適合される、
請求項6から10のいずれか一項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項12】
薬剤送達デバイスであって、
- 薬剤充填済みのカートリッジまたは薬剤充填済みのカートリッジを受容するための手段であって、前記カートリッジが、吐出口、および軸方向に変位可能なピストンを備える、薬剤充填済みのカートリッジまたは薬剤充填済みのカートリッジを受容するための手段と、
- 吐出アセンブリであって、
- 前記カートリッジの前記ピストンに係合するように適合された軸方向に変位可能なピストン駆動部材、
- 吐出される薬剤の基準投与量を使用者が設定することを可能にする用量設定手段であって、前記基準投与量が、前記ピストン駆動部材に対する基準軸方向変位量に対応する、用量設定手段、
- 投与量を表示するように適合されたディスプレイ、
- 前記ピストン駆動部材を遠位方向に移動させ、それにより挿入されたカートリッジから薬剤を吐出するためのモータ、および、
- 記憶装置を含むプロセッサであって、前記モータを制御して前記ピストン駆動部材を軸方向に変位させるように適合されたプロセッサ
を含む、吐出アセンブリと
を備え、
- 補正データが前記記憶装置に保存され、前記補正データが、前記吐出アセンブリおよび受容される前記カートリッジの複数の構成要素のうちの、少なくとも1つの構成要素について、前記薬剤送達デバイスの組立てに先立って決定されたパラメータ値と、対応する基準値との間の差に基づくものであり、
- 前記プロセッサが、前記補正データと設定された基準投与量とに基づいて前記ピストン駆動部材に対する補正された軸方向変位量を算出し、前記モータを制御して、前記補正された軸方向変位量に相当するように前記ピストン駆動部材を移動させるように適合される、
薬剤送達デバイス。
【請求項13】
前記補正データは、前記複数の構成要素のうち、少なくとも、薬剤吐出中に移動するように適合された第1の構成要素群のうちの1つの構成要素と、薬剤吐出中に不動である第2の構成要素群のうちの1つの構成要素とについて、それぞれ決定されたパラメータ値と対応する基準値との間の差に基づくものである、請求項12に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項14】
少なくとも2つの補正値が、前記記憶装置に保存され、前記補正値が、前記ピストン駆動部材の位置と相関関係があり、
- 前記プロセッサが、前記ピストン駆動部材の現在位置に対する前記補正値と設定された基準投与量とに基づいて前記ピストン駆動部材の補正された軸方向変位量を算出し、前記モータを制御して、前記補正された軸方向変位量に相当するように前記ピストン駆動部材を移動させるように適合される、
請求項12または13に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項15】
前記パラメータ値が、前記薬剤送達デバイスの組立てに先立って決定された構成要素単体の寸法である、請求項6から14のいずれか一項に記載の薬剤送達デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、薬剤送達デバイスに関する。特定の態様では、本発明は、改善された用量精度を提供するデバイスおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の開示では、皮下薬剤送達による糖尿病治療を主に参照するが、これは本発明の例示的な使用法に過ぎない。
【0003】
医科学が進歩するにつれて、ますます多くの病気を治療することができ、人々がより長生きするのに役立っている。一部の病気は患者の寿命にわたって持続し、その間、患者は何らかの薬物に依存する。そのような薬物は、多くの場合、1日に1回、またはより頻繁に、皮下注射として与えられなければならない。
【0004】
そのような皮下注射を行うために、薬剤注射デバイスの形態をした薬剤送達デバイスは、薬剤および生物学的製剤を自己投与しなければならない患者の生活を大幅に改善させてきた。薬剤注射デバイスは、注射手段の付いたアンプルに過ぎない簡易な使い捨てのデバイスを含め、多くの形態を取ることができ、または、薬剤注射デバイスは、多くの機能を有する高機能の電子的に制御される器具であり得る。薬剤注射デバイスは、それらの形態に関係なく、注射薬および生物学的製剤を自己投与する患者を支援するのに大いに役立つものであることが証明されている。薬剤注射デバイスはまた、自己注射を行うことができない患者に介護者が注射剤を投与するのを、大いに支援する。
【0005】
特に、ペン型注射デバイスは、インスリンなどの薬剤および生物学的製剤を投与するための正確、簡便、かつ多くの場合には個別的な方法を提供することが証明されている。ペン型注射デバイスは、典型的には、取り付けられた針がデバイスの一方の端部の最遠位部分から突出する円筒形状のものであるが、一部のデバイスは、デバイスの端部の最遠位部から針がもはや突出していない、他の形状を有する。
【0006】
典型的には、注射デバイスは、対象となる薬物、例えば1.5または3.0mlのインスリン、GLP-1、または成長ホルモンを収容している、充填済みのカートリッジを使用する。カートリッジは、典型的には、針穿刺可能隔壁によって閉じられる遠位開口部と、エラストマピストンが受容される反対側の近位開口部とを有する遠位ボトルネック部分を有する、全体的に円筒形の透明ガラスシリンダの形態であり、ピストンは、注射デバイスの投与機構によって移動されるように配置される。注射デバイスは一般に、「耐久性のある」デバイスと「使い捨ての」デバイスの、2つのタイプがある。耐久性のあるデバイスは、使用者が1つのカートリッジを別のカートリッジと交換すること、典型的には空のカートリッジを新たなカートリッジに代えることを可能にするように設計される。対照的に、使い捨てのデバイスは、使用者が交換することができない一体化されたカートリッジを備え、カートリッジが空になったときには、デバイス全体が廃棄される。
【0007】
利便性、使い勝手の良さを高めるため、また、追加の特徴、例えば吐出データの検出および保存を提供するために、薬剤送達デバイスは、例えば米国特許第6,514,230号および米国特許出願第2011/306927号に示されるように、典型的には歯車機構を通じてピストンロッドを駆動する電子的に制御されるモータの形態である、電子的に駆動される手段を備えてきた。
【0008】
新規の薬剤によりますます多くの病気を治療することができるため、また、一部の病気はより頻発しかつより深刻になると思われるため、より多くの注射デバイスの必要性、また場合によってはより大容量のデバイスの必要性が高まる。糖尿病は、そのような病気の一例である。世界人口において、糖尿病を患いインスリンでの治療を必要とする人口は、急速に増大している。世界の一部の地域では、人口の大部分がインスリン治療を必要とするだけでなく、大部分がますます多くの用量を必要とし、極端な場合では、一部の患者は、使い捨てのデバイスの全内容物を毎日必要とする。
【0009】
そのような状況に対する明白な解決法は、より多くのデバイスを生産すること、または、デバイスの薬剤含量を増大させることであろう。しかし、デバイスの薬剤含量のサイズを増大させることは、デバイスのサイズを増大させることを意味し、このこともやはり、資源の使用、生産費用の増大をもたらし、また、使用者にとって扱いにくくより不便なものになる。生産されるデバイスの数を増加させることもまた、資源のさらなる使用を意味する。したがって、提案されたこれらの解決法のどちらも、総合的な治療費用の増大をもたらすことになり、これは、治療の必要性の増大からの当然の結果に思われるが、治療費用の増大はまた、治療を受ける余裕があるのは世界人口のうちの少数であることを意味する。
【0010】
当然ながら、製造者間の競争により、薬剤およびデバイスの両方の生産費用は、絶えず引き下げられており、治療に対する増大する需要の結果にある程度対抗している。
【0011】
しかし、デバイスの生産費用は、薬剤自体の生産費用を大きく上回ることがしばしばであり、したがって、薬剤の濃度を高め、それによりデバイスのサイズを大きくすることなしにデバイス1つ当たりの容量を増大させることにより、治療費用も引き下げられ得る。濃度を高めることにより、生産する必要のあるデバイスは少なくて済み、それにより薬剤とデバイスとの費用比が低下し、結果として世界人口の多数を治療する能力がもたらされ、より多くの患者を治療することができる。
【0012】
あらゆるタイプの薬物治療は、過少量投与または過剰投与の主たる危険性を伴うので、そのようなデバイスは、意図された用量を正確に注射することができなければならない。注射中、意図された用量は、リザーバから患者の皮膚内に物理的に吐出されなければならない。どのくらい正確にこの操作を実行することができるかは、デバイスの機械的部品の精度に依存する。意図された用量と実際に投与される用量との間の逸脱は健康上のリスクとなるので、そのようなデバイスは非常に厳密な公差の範囲内で生産されなければならない。
【0013】
デバイスの生産費用は、デバイス内の部品の生産費用に依存し、部品の生産費用は、許容可能な公差が小さくされると、急速に増大する。したがって、デバイス内の薬剤の濃度を高めることは、デバイス内のいくつかの部品に必要とされる生産公差が厳しくなることにより、デバイスの生産費用の大幅な増大を引き起こすことになり、したがって、意図されたように治療費用を下げることができない。
【0014】
精度の問題に対処するために、個々のデバイスが組立後に校正されてデバイスの種々の構成要素の製造および組立におけるばらつきを補償する、電子的に制御されるモータ駆動の薬剤送達デバイスが提案されてきた。校正の後、対応する補正値が、デバイスに保存されて、基準仕様からの測定された逸脱を補償するために使用されるが、これは例えばWO2010/027636およびWO2002/028456を参照されたい。
【発明の概要】
【0015】
上記のことを考慮すると、本発明の目的は、対費用効果の高い方法で用量精度の改善を実現する薬剤送達デバイスおよび方法を提供することである。
【0016】
本発明の開示では、上記の目的のうちの1つまたは複数に対処する、または、以下の開示および例示的な実施形態に関する説明から明らかになる目的に対処する、実施形態および態様が説明される。
【0017】
上記の問題は、製作公差に起因するデバイス内の構成要素に対する実際の寸法の差を補償するために、設定用量と吐出される用量との間の関係性がデバイス間で異なるものになるように、用量設定と実際の用量吐出との間のつながりを絶つことにより、許容可能な公差の範囲内で機械的ばらつきを補償することによって、対処される。
【0018】
手動のものでもモータ駆動のものでも、現在入手可能な薬剤送達デバイスにおいては、設定用量と吐出される用量との間の関係性は、主要構成要素の基準値に基づく。したがって、デバイスは、構成要素の寸法の公差/ばらつきを制御することにより実際に吐出される体積のばらつきを制限しながら、機械的に等しく機能するように設計される。基本的に、公差は、薬剤吐出機構の所与の動作に対して吐出される体積のばらつきを制限するために使用される。
【0019】
したがって、本発明の全般的な共通の態様では、薬剤送達デバイスが、正反対の方法で機能して、実際の構成要素の寸法のばらつきをデバイスの動作の仕方を調整するために使用するように、設計され得る。このようにして、「仮想校正(virtual calibration)」が行われる。
【0020】
それに応じて、用量設定中に表示される投与量は、所与の特定のデバイスから吐出される実際の投与量と一致するように制御され得るか、または、吐出機構は、設定された基準投与量を実際に吐出するように制御され得る。
【0021】
第1の概念は、用量設定中に電子的に制御される用量サイズの読取り情報を薬剤送達デバイスに提供することによって、実施され得る。例えば、補正表が電子回路に組み込まれて、問題となっている用量設定に対応する基準用量サイズを表示する代わりに、特定の用量設定において注射される実際の用量を表示するために使用され得る。したがって、使用者は、用量サイズダイヤルと予期された基準用量サイズの(機械的な)読取り情報との間の固定比による基準意図された用量サイズの解放に基づいて用量サイズを設定する代わりに、ディスプレイからの実際の予期された用量サイズの読取り情報に基づいて用量サイズを設定することにより、デバイスにおける公差によってもたらされる不正確さを、自動的に、また、自覚することなく、補償することができる。
【0022】
第2の概念は、電子的に制御される吐出機構を薬剤送達デバイスに設けることにより、また、各デバイスの制御回路に個別に補正表を実装することにより、実現される。したがって、吐出機構は、所与の特定のデバイスの構成要素の寸法のばらつきを補償し、それにより実際に吐出される用量を意図された基準用量設定に一致させるように、調整され得る。
【0023】
どちらの概念も、個々のデバイスに対して補正表が確立されることを必要とする。そのような補正表を個々のデバイスに提供するために、所与のデバイスのための1つまたは複数の主要構成要素に対する1つまたは複数の寸法またはパラメータが個別に決定され、また、デバイスの組立中に、組立ラインにおける構成要素の位置のほかに、主要パラメータが取得される。所与の部材に対する値は、例えば、測定により、または、それに対する値が知られている識別子、例えば鋳型番号を識別することにより、決定され得る。
【0024】
デバイスが組み立てられると、次いで、どの特定の構成要素からデバイスが作られたかが分かり、また、それらの主要パラメータが分かる。したがって、デバイスが第1の概念に基づいて設計されていようと第2の概念に基づいて設計されていようと、基準設定用量と実際に注射される用量との間の逸脱を算出することができ、補正表がデバイスの電子装置にロードされて、それに応じて取り扱われ得る。実際には、理論上は、2つの概念は結合され得る。
【0025】
明らかなように、上記の概念は、校正手順として説明され得るが、例えば上記で挙げられたWO2002/028456で開示されているような、完全に組み立てられたユニットが校正される従来の校正とは対照的に、本発明の概念は、補償が、最終的な作業ユニットを形成するために個々の構成要素が組み立てられるのに先だって決定された値に基づくものである、「仮想校正」を表すと見なされ得る。測定される構成要素は、薬剤吐出機構内のピストンロッドなどの「従来の」機械的構成要素であってもよく、あるいは、薬剤充填済みのカートリッジなどの交換可能な構成要素であってもよい。
【0026】
したがって、本発明は、費用を著しく増大させるであろう新たなまたはより正確に生産される構成要素を少しも必要とすることなく、より正確で一様な性能を持つデバイスの生産を可能にする。さらに、機械的な不正確さの電子的補償は、機械的に補償するのは不可能であろうカートリッジ長さに沿ったカートリッジ直径の不正確さまたはばらつきの非線形挙動を補償することも、可能にする。
【0027】
上記第2の概念に対応するように実施された場合、電子的な読取り情報、したがって電子ディスプレイは省略され得るが、電子的に制御される吐出機構の実装は、不可欠であろう。しかし、そのような駆動ユニットを実装する費用は、意図された用量と実際に吐出される用量との間のばらつきを著しく減少させるのに必要ではあるが十分ではないであろう単一の構成要素の許容可能な公差を小さくする費用に、かなり匹敵し得る。
【0028】
上記の概念のどちらも、デバイス内の薬剤の濃度が高められることを可能にし、したがって、需要の増加に応えるのにより少ないデバイス(予め充填される場合)またはカートリッジで済み、それにより、所与の人口に対して治療を行うのに不可欠であるデバイスまたはカートリッジの必要数が減少される。デバイスの生産費用は、薬剤自体の生産費用に比べてかなりのものであるので、濃度の上昇はまた、デバイス内の薬剤の単位当たりの生産費用の削減につながる。
【0029】
したがって、本発明の第1の態様によれば、薬剤送達デバイスを組み立てる方法が提供され、この方法は、(i)複数の構成要素を提供するステップであって、複数の構成要素が、組み立てられた状態では、用量設定手段と、使用者が設定した薬剤の投与量を吐出するように適合された薬剤吐出手段と、記憶装置を含むプロセッサとを備える、プロセッサ制御される薬剤送達デバイスを形成し、薬剤送達デバイスが、薬剤充填済みのカートリッジ、または薬剤充填済みのカートリッジを受容するための手段を備え、カートリッジが、吐出口、および軸方向に変位可能なピストンを備え、構成要素が、薬剤吐出中に移動するように適合された第1の構成要素群であって、カートリッジのピストンに係合するように適合された軸方向に変位可能なピストン駆動部材を含む第1の構成要素群、および、薬剤吐出中に不動であるが第1の群の部材と相互作用するように適合された第2の構成要素群を含む、ステップと、(ii)組立に先立って、第1の群の部材および第2の群の部材のうちの少なくとも1つに対するパラメータ値を決定するステップと、(iii)構成要素を組み立てて薬剤送達デバイスを形成するステップと、(iv)プロセッサ記憶装置に補正データを保存するステップであって、補正データが、決定されたパラメータ値と対応する基準値との間の1つまたは複数の差に基づくものである、ステップと、を含む。構成要素は、いくつかの個別の構成要素を含むサブアセンブリの形態であってもよい。
【0030】
「パラメータ値」という用語は、物体の物理的性質を特徴付けるために利用され得る任意の値、および、薬剤送達デバイスの性能および精度に関連する任意の値を包含する。上記のように、所与の構成要素に対する値は、例えば、測定により、または、それに対する値が知られている識別子、例えば鋳型番号を識別することにより、決定され得る。測定値は、例えば、寸法などの単純な測定可能な値、例えば、測定された長さ、幅、直径、またはピッチであってもよく、または、「機能的な」値、例えば、所与の回転入力に対して測定された軸方向出力であってもよい。
【0031】
このようにして、プロセッサが補正値と設定された基準投与量とに基づいて(i)ピストン駆動部材に対する補正された軸方向変位量を算出し、吐出手段を制御して、補正された軸方向変位量に対応するようにピストン駆動部材を移動させるか、または(ii)補正された投与量を算出し、ディスプレイを制御して、補正された投与量を表示させることを可能にする手段が、費用効率高く薬剤送達デバイスに設けられ、それにより、吐出される投与量と表示される投与量とが一致する。
【0032】
所与のパラメータが所与の部材に対して変化することがある問題に対処するために、少なくとも2つのパラメータ値が、所与の寸法、例えばピストンロッドまたはカートリッジなどの部材の長さに沿った寸法の関数として、または、位置、例えば吐出アセンブリに対する回転位置の関数として、所与の部材に対するデータセットを形成するために決定され得る。それに応じて、補正データは、薬剤送達デバイスの状態の関数として変化する、いくつかの補正値を含むことができる。状態は、例えば、ピストンロッドの実際の位置、または、実際に設定された用量サイズとされ得る。
【0033】
複数の構成要素は、組み立てられた状態において、以下で定められるような薬剤送達デバイスを形成し得る。
【0034】
本発明のさらなる態様によれば、薬剤送達アセンブリを提供する方法が提供され、この方法は、(i)薬剤充填済みのカートリッジを提供するステップであって、カートリッジが、吐出口、および軸方向に変位可能なピストンを備える、ステップと、(ii)カートリッジに対して少なくとも1つのパラメータ値を決定するステップと、(iii)決定されたパラメータ値に関する可読情報をカートリッジに提供するステップと、(iv)プロセッサ制御される薬剤送達デバイスを提供するステップであって、薬剤送達デバイスが、カートリッジを受容するように適合されたカートリッジホルダ、カートリッジ可読情報を読み取るための手段、吐出アセンブリ、および記憶装置を有するプロセッサを備える、ステップと、を含む。カートリッジ上に提供される可読情報は、決定されたパラメータ値と対応する基準値との間の差に基づく補正データの形態をとるか、または、カートリッジ上に提供される可読情報は、カートリッジに対する少なくとも1つの決定されたパラメータ値の形態をとり、プロセッサ記憶装置は、対応する基準値データを保存している。
【0035】
方法は、カートリッジをカートリッジホルダに挿入するステップと、カートリッジ可読情報を読み取るステップと、プロセッサ記憶装置に補正データを保存するステップであって、補正データが、決定されたパラメータ値と対応する基準値との間の差に基づくステップと、をさらに含み得る。カートリッジをカートリッジホルダに挿入する「提供する」ステップは、デバイスの通常の使用中、例えば、カートリッジを交換するときに、使用者によって行われ得る。薬剤送達デバイスは、薬剤送達デバイスの以下で説明される例示的な実施形態からの1つまたは複数の特徴を備え得る。
【0036】
本発明のなおもさらなる態様によれば、薬剤カートリッジを製造する方法が提供され、この方法は、(i)薬剤充填済みのカートリッジを提供するステップであって、カートリッジが、吐出口、および軸方向に変位可能なピストンを備える、ステップと、(ii)カートリッジに対して少なくとも1つのパラメータ値を決定するステップと、(iii)決定されたパラメータ値に関する可読情報をカートリッジに提供するステップと、を含む。提供されるカートリッジは、上記の方法のうちの1つで、または、薬剤送達デバイスの下記の例示的な実施形態のうちの1つで、使用され得る。
【0037】
全般に、所与の部材または構成要素に対してパラメータ値を決定する上記のステップは、対応する基準値が特定されている所与の寸法に関するものであってよい。
【0038】
本発明の一般的態様によれば、薬剤充填済みのカートリッジ、または薬剤充填済みのカートリッジを受容するための手段を備える、薬剤送達デバイスが提供され、カートリッジは、吐出口、および軸方向に変位可能なピストンを備える。薬剤送達デバイスは、カートリッジのピストンに係合するように適合された軸方向に変位可能なピストン駆動部材と、吐出される薬剤の基準投与量を使用者が設定することを可能にする、用量設定手段と、設定された基準投与量に対応する基準距離だけピストン駆動部材を移動させるように適合された駆動機構と、投与量値を表示するように適合されたディスプレイとを含む、吐出アセンブリを備える。薬剤送達デバイスは、補正値が保存される記憶装置を含むプロセッサをさらに備え、プロセッサは、補正値と設定された基準投与量とに基づいて、(i)ピストン駆動部材に対する補正された軸方向変位量を算出し、駆動手段を制御して、補正された軸方向変位量に対応するようにピストン駆動部材を移動させるように適合されるか、または(ii)補正された投与量を算出し、ディスプレイを制御して、補正された投与量を表示させるように適合され、それにより、吐出される投与量と表示投与量とが一致する。
【0039】
明らかなように、また、本発明の全般的な概念に対応して、薬剤送達デバイスの校正機能は、組み込まれる個々の構成要素に対する1つまたは複数の補正値に基づくものであり、これは、デバイスが全体として校正される、従来通りに校正されるデバイスとは対照的である。
【0040】
少なくとも2つの補正値が記憶装置に保存されてもよく、それらの補正値は、ピストンロッドの位置と相関関係があり、プロセッサは、ピストンロッドの現在位置に対する補正値と設定された基準投与量とに基づいて補正された投与量を算出し、ディスプレイを制御して、補正された投与量を表示させるように適合される。
【0041】
本発明の特定の態様によれば、薬剤充填済みのカートリッジ、または薬剤充填済みのカートリッジを受容するための手段と、吐出アセンブリとを備える、薬剤送達デバイスが提供され、カートリッジは、吐出口、および軸方向に変位可能なピストンを備える。吐出アセンブリは、薬剤吐出中に移動するように適合された第1の構成要素群であって、カートリッジのピストンに係合するように適合された軸方向に変位可能なピストン駆動部材を含む第1の構成要素群と、薬剤吐出中に不動であるが第1の群の部材と相互作用するように適合された第2の構成要素群とを備える。吐出アセンブリは、吐出される薬剤の基準投与量を使用者が設定することを可能にする、用量設定手段と、投与量を表示するように適合されたディスプレイと、ピストン駆動部材を遠位方向に移動させ、それにより挿入されたカートリッジから薬剤を吐出するための駆動手段と、記憶装置を含むプロセッサであって、ディスプレイを制御して投与量を表示させるように適合されたプロセッサと、をさらに備える。補正値が記憶装置に保存され、この補正値は、第1の群の部材、第2の群の部材、および受容されるカートリッジのうちの少なくとも1つに対する決定されたパラメータ値と対応する基準値との間の1つまたは複数の差に基づくものである。プロセッサは、補正値と設定された基準投与量とに基づいて、補正された投与量を算出し、ディスプレイを制御して、補正された投与量を表示させるように適合される。
【0042】
ディスプレイは、例えば1インスリン単位(IU)などの所望の精度に丸められた、所与の単位のインクリメントで、投与量を表示するように適合され得る。用量設定手段は、吐出される薬剤の基準投与量をディスプレイインクリメントの何分の1かであるインクリメントで設定するように適合されてもよく、これは、設定用量と表示される用量との間の矛盾を「隠す」ことを可能にする。例えば、ディスプレイが投与量を全IUで表示した場合、用量設定手段は、設定された基準投与量と実際に表示されその後吐出される投与量との間の関係が必ずしも1:1ではないことが不明確であるように、0.25IUのインクリメントを有し得る。
【0043】
薬剤送達デバイスは、カートリッジを受容するように適合されたカートリッジホルダであって、カートリッジが、カートリッジに対する決定されたパラメータ値に関連する可読情報を備える、カートリッジホルダと、カートリッジ可読情報を読み取るための手段とを備えることができ、プロセッサは、カートリッジパラメータ値情報と対応する保存された基準値との間の差に少なくとも部分的に基づいて補正値を算出するように適合される。
【0044】
本発明のさらなる特定の態様によれば、薬剤充填済みのカートリッジ、または薬剤充填済みのカートリッジを受容するための手段であって、カートリッジが、吐出口、および軸方向に変位可能なピストンを備える、薬剤充填済みのカートリッジ、または薬剤充填済みのカートリッジを受容する手段と、吐出アセンブリとを備える、薬剤送達デバイスが提供される。吐出アセンブリは、吐出中に移動するように適合された第1の構成要素群であって、カートリッジのピストンに係合するように適合された軸方向に変位可能なピストン駆動部材を含む第1の群と、薬剤吐出中に不動であるが第1の群の部材と相互作用するように適合された第2の構成要素群と、を備える。吐出アセンブリは、吐出される薬剤の基準投与量を使用者が設定することを可能にする用量設定手段であって、基準投与量が、ピストン駆動部材に対する基準軸方向変位量に対応する、用量設定手段と、投与量を表示するように適合されたディスプレイと、ピストン駆動部材を遠位方向に移動させ、それにより挿入されたカートリッジから薬剤を吐出するためのモータと、記憶装置を含むプロセッサであって、モータを制御してピストン駆動部材を軸方向に変位させるように適合されたプロセッサと、をさらに備える。補正値が記憶装置に保存され、この補正値は、第1の群の部材、第2の群の部材、および受容されるカートリッジのうちの少なくとも1つに対する決定されたパラメータ値と対応する基準値との間の1つまたは複数の差に基づくものである。プロセッサは、補正値と設定された基準投与量とに基づいてピストン駆動部材に対する補正された軸方向変位量を算出し、モータを制御して、補正された軸方向変位量に対応するように駆動部材を移動させるように適合される。このようにして、実際に吐出される薬剤の投与量は、設定された基準投与量により正確に対応する。
【0045】
少なくとも2つの補正値が、記憶装置に保存されてもよく、それらの補正値は、ピストンロッドの位置と相関関係があり、プロセッサは、ピストンロッドの現在位置に対する補正値と設定された基準投与量とに基づいてピストン駆動部材に対する補正された軸方向変位量を算出し、モータを制御して、補正された軸方向変位量に対応するように駆動部材を移動させるように適合される。
【0046】
本明細書において、「薬剤」という用語は、液体、溶液、ゲル、または微細懸濁液などの、制御された方法で、カニューレまたは中空針などの送達手段を通過することができ、また1種または複数種の薬物製剤を含む、任意の流動性の医薬組成物を包含するように意図されている。代表的な薬剤は、ペプチド(例えば、インスリン、インスリン含有薬剤、GLP-1含有薬剤、およびそれらの派生物)、タンパク質、およびホルモンなどの医薬品、生物学的に誘導された、もしくは生物学的に活性のある物質、ホルモンおよび遺伝子ベースの作用物質、栄養的な製剤、ならびに固体(調合された)もしくは液体の形態の他の物質を含む。例示的な実施形態の説明では、その派生物ならびに1種または複数種の他の薬剤との組合せを含むインスリン含有薬剤の使用に対して参照が行われる。
【0047】
図面を参照しながら、本発明の例示的な実施形態について以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1A】ペン形状薬剤送達デバイスの図である。
図1B】ペンキャップが取り外された図1Aのペンデバイスの図である。
図2図1Aにおけるのと同じ一般型のものであるが電子回路およびディスプレイを備えた薬剤送達デバイスの図である。
図3】吐出アセンブリの図である。
図4】ピストンロッドの図である。
図5】薬剤カートリッジの図である。
図6A】薬剤送達デバイスの様々な構成に対する、ダイヤル設定された(dialled)用量と与えられる用量との間の最大逸脱の図である。
図6B】薬剤送達デバイスの様々な構成に対する、ダイヤル設定された(dialled)用量と与えられる用量との間の最大逸脱の図である。
図6C】薬剤送達デバイスの様々な構成に対する、ダイヤル設定された(dialled)用量と与えられる用量との間の最大逸脱の図である。
図6D】薬剤送達デバイスの様々な構成に対する、ダイヤル設定された(dialled)用量と与えられる用量との間の最大逸脱の図である。
図6E】薬剤送達デバイスの様々な構成に対する、ダイヤル設定された(dialled)用量と与えられる用量との間の最大逸脱の図である。
図6F】薬剤送達デバイスの様々な構成に対する、ダイヤル設定された(dialled)用量と与えられる用量との間の最大逸脱の図である。
図7A】電子ディスプレイ補償を備えた薬剤送達デバイスの異なる構成に対する、ダイヤル設定された用量と与えられる用量との間の最大逸脱の図である。
図7B】電子ディスプレイ補償を備えた薬剤送達デバイスの異なる構成に対する、ダイヤル設定された用量と与えられる用量との間の最大逸脱の図である。
図7C】電子モータ駆動補償を備えた薬剤送達デバイスの異なる構成に対する、ダイヤル設定された用量と与えられる用量との間の最大逸脱の図である。
図7D】電子モータ駆動補償を備えた薬剤送達デバイスの異なる構成に対する、ダイヤル設定された用量と与えられる用量との間の最大逸脱の図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図面において、同様の構造物は、同様の参照番号によって主に識別される。
【0050】
以下において、「上側」および「下側」、「右」および「左」、「水平」および「垂直」などの用語、または同様の相対表現が使用される場合、それらは、添付の図面に対してのみ言及するものであり、必ずしも実際の使用状況に対して言及するものではない。示された図面は、概略的な表現であり、そのため、様々な構造の構成、ならびにそれらの相対的な寸法は、例示目的の役割だけを果たすように意図されている。所与の構成要素に対して部材または要素という用語が使用される場合、一般的には、説明される実施形態においてその構成要素が一体の構成要素であることを示すが、代替的に、同じ部材または要素が幾つかの下位構成要素を含む場合もあり、説明される構成要素のうちのちょうど2つまたはそれ以上が、例えば単一の射出成形部品として製造された一体の構成要素として提供される場合もある。「アセンブリ」という用語は、説明される構成要素が所与の組立手順中に必ずしも一体のまたは機能的なアセンブリを提供するために組み立てられ得ることを意味するものではなく、単に、機能的により密接に関連があるとしてグループ分けされた構成要素を説明するために使用される。
【0051】
本発明自体の実施形態の前に、充填済みの薬剤送達の例が説明されるが、そのようなデバイスは、本発明の例示的な実施形態のための基礎を提供する。図1Aおよび1Bに示されたペン形状薬剤送達デバイス100は、「一般的な」薬剤送達デバイスを象徴し得るが、実際に示されたデバイスは、Novo Nordisk A/S、Bagsvaerd、Denmarkによって製造および販売されるFlexTouch(登録商標)充填済み薬剤送達ペンである。
【0052】
ペンデバイス100は、キャップ部品107と、その中に薬剤吐出機構が配置されるかまたは組み込まれるハウジング101を含む、近位本体または駆動アセンブリ部分を有する主要部品と、遠位カートリッジホルダ部分111と、を備え、遠位カートリッジホルダ部分111内には、遠位針貫通可能隔壁を含む薬剤充填済みの透明なカートリッジ130が配置されて、近位部分に取り付けられた取り外し不可能なカートリッジホルダによって所定の位置に保持され、カートリッジホルダは、カートリッジの一部分を検査することを可能にする開口部と、針アセンブリを解放可能に取り付けることを可能にする遠位結合手段115と、を有する。カートリッジは、吐出機構の一部を形成するピストンロッドによって駆動されるピストンを備え、かつ、例えばインスリン、GLP-1、または成長ホルモン製剤を収容し得る。機構は、複数の用量サイズ指標を備えたスケールドラム部材を含み、このスケールドラム部材は、全体的な軸に対応するように回転可能に配置されている。ハウジングは、設定用量に対応するスケールドラム部材用量サイズ指標を示すように配置された表示開口部(または窓)102を備える。最近位の回転可能な用量設定部材180が、表示窓102に示される所望の薬剤の用量を手動で設定する機能を果たし、その用量は、ボタン190が作動されたときに吐出され得る。薬剤送達デバイスにおいて具現化される吐出機構のタイプに応じて、吐出機構は、示された実施形態におけるようなばねを含む場合があり、このばねは、用量設定中に引っ張られて、解放ボタンが作動されたときにピストンロッドを駆動するために解放される。あるいは、吐出機構は、例えばNovo Nordisk A/Sによって製造および販売されるFlexPen(登録商標)におけるように、投与部材および作動ボタンが、設定用量サイズに対応する用量設定中に近位に移動し、次いで設定用量を吐出するために使用者によって遠位に移動される場合に、完全に手動とされ得る。
【0053】
図1Aおよび1Bは、充填済みタイプの薬剤送達デバイス、すなわち、カートリッジが予め取り付けられて供給されてそのカートリッジが空になったときに廃棄される薬剤送達デバイスを示すが、代替的な実施形態では、薬剤送達デバイスは、例えば、カートリッジホルダがデバイス主要部分から取り外されるように適合される「背面装填式の」薬剤送達デバイスの形態で、あるいは、デバイスの主要部品に取り外し不可能に取り付けられるカートリッジホルダにある遠位開口部を通してカートリッジが挿入される「前面装填式の」デバイスの形態で、装填されたカートリッジを交換することができるように設計され得る。
【0054】
図2は、同じ全体的外観を有しかつ同じタイプの用量設定および吐出機構を基本的に備える薬剤送達デバイス200を示すが、このデバイスは、記憶装置を有するプロセッサと、プロセッサによって制御されるディスプレイと、設定された基準用量すなわち使用者によって設定された用量のサイズを検出するように適合されたセンサとを含む、電子回路を備える。図では、ピストンロッド220によって駆動されるピストン214を備えたカートリッジ230が見て取れる。
【0055】
薬剤送達デバイス200が使い捨ての充填済みデバイスである場合、必ずしも長期の使用のために設計されるのではない電子回路が対費用効果の高い技法を使用して提供されることが重要である。例えば、ディスプレイは、「プリンテッドエレクトロニクス」として提供されるさらなる構成要素、例えばプロセッサ、記憶装置、センサ、エネルギー源といった構成要素のための基板をも形成し得る、柔軟な担体上に形成されるプリンテッドディスプレイであってもよい。あるいは、それらの構成要素うちの1つまたは複数が、柔軟な担体上に実装される別々の構成要素の形態であってもよい。低費用の「電子ラベル」を備える充填済みの薬剤送達デバイスの一例が、WO2015/071354で説明されている。示された実施形態では、スケールドラムは、設定用量サイズを示すためには使用されないが、用量設定中にスケールドラムが螺旋状に回転するときに用量サイズセンサによって検出され得る複数のマーキングまたはコードを備える。マーキングは、印刷法によりフレキシブル基板上に形成され得る容量センサによって検出されるように適合されてもよい。薬剤送達デバイス200が、カートリッジ交換を可能にするように適合された耐久性のあるデバイスである場合、電子回路は、LCDなどの多くの従来の構成要素を備え得る。
【0056】
図3~5を参照しながら、本発明を実現するために使用され得るいくつかの構成要素が説明されるが、これらの図は、薬剤送達デバイス200の3つの構成要素を示しており、それらの構成要素に対して、組立工程中に1つまたは複数のパラメータ値が決定され得る。より具体的には、図3は、用量設定および吐出ユニット210(「モータユニット」)を示し、図4は、モータユニットによって回転的に駆動されるように適合されたピストンロッド220を示し、図5は、ピストンロッドによって軸方向に駆動されるように適合された軸方向に変位可能なピストン234を含む薬剤充填済みカートリッジ230を示す。
【0057】
モータユニット210は、回転可能な用量設定部材280を回転させることによって設定され、その結果、駆動「出力」部材がそれに応じて回転されるが、公差に起因して、必然的にばらつきが生じる。示されたモータユニットは、合計80のインクリメントに対して、15度のインクリメントで設定され得る。したがって、製造中、所与のモータユニットは、いくつかの回転位置(すなわち、最大で80まで)に設定されることができ、出力部材の対応する回転は、判定された後に保存され得る。明らかなように、そのようなデータを提供することは、比較的費用がかかることがある。データ量を減らすために、いくつかの用量サイズ範囲に対して1つまたは複数の平均値が計算され得る。
【0058】
ピストンロッド220に対して、その長さに沿って各ねじ山221のピッチが測定され得る。あるいは、多数個取り成形ツール(multi-cavity mould tool)内で特定の位置を有する所与のピストンロッドに対するピッチのばらつきは、成形型の測定から知ることができ、各キャビティには、識別され得るコード、例えばピストンロッド頭部222上のコードが設けられている。実際には、この方法によれば、成形過程そのものによって導入されるばらつきは、検出されない。データ量を減らすために、ピストンロッドのいくつかのセクションに対して1つまたは複数の平均値が計算され得る。示されたハウジングナット部分225は、ピストンロッドの一部ではない。
【0059】
カートリッジ230に対して、その長さに沿って直径が測定され得る。測定を容易にするために、外径が決定され得る。実際には、この方法によれば、ガラス壁の厚さによって導入されるばらつきは、検出されない。データ量を減らすために、カートリッジのいくつかのセクションに対して1つまたは複数の平均値が計算され得る。上記で開示されたように、所与のカートリッジが、対応する読取り機を備えた耐久性のあるデバイスで使用される場合、カートリッジは、決定されたパラメータ値に関する可読情報、すなわち、印刷されたラベルの形態の情報を備えてもよい。
【0060】
所与のデバイスの組立後または組立中、補正データがデバイスプロセッサ記憶装置に保存されてもよく、この補正データは、決定されたパラメータ値と対応する基準基準値との間の1つまたは複数の差に基づく。例えば、ピストンロッドおよびカートリッジが測定されている場合、補正表を算出することができ、この表は、ピストンロッドの位置の関数としての補正値を有する。ピストンロッドの実際の位置は、例えば上記のようにスケールドラムの回転を検出することにより、判定され得る。所与のデバイスに対して、デバイスの長さに沿った2つの構成要素のばらつきは、ある位置に対しては互いに相殺され得るが、他の位置に対しては加算され得る。それに加えて、用量サイズもまた、所与の吐出される用量に対して算出される補正に影響を与える。
【0061】
モータ駆動型薬剤送達デバイスの場合、基本概念は上記のばね駆動型デバイスに対するものと同じであるが、「関連する」ばらつきを有する構成要素は、同じものではない場合がある。例えば、ピストンロッドは、機械加工によって製造されることがあり、したがって、より厳密な公差を有することがある。モータ駆動型デバイスがカートリッジの交換を可能にするように設計される場合、測定されたカートリッジが可読コードを備えなければならず、デバイスは対応するコード読取り機を備えなければならない。上記のばね駆動型デバイスとは対照的に、設定された基準投与量が実際に吐出される用量に極めて近くなるように、補正データを使用してモータを制御することができるはずである。本発明のこの態様のための基盤として使用され得るモータ駆動型薬剤送達デバイスの例は、例えばEP2015/065544で説明されている。
【0062】
以下において、いくつかの例により、本発明の態様が例示される。
【0063】
1A.参考薬剤送達デバイス例
例示的な薬剤送達デバイスでは、カートリッジは、67.2006+/-1.4608mmの内側断面積に相当する、+/-0.1mmの公差を含む9.25mmの基準内径を有する。ピストンロッドは、0.01+/-0.00011111mm/degの1回転度当たり直線運動に相当する3.6+/-0.04mm/revの基準ねじ傾斜(nominal thread inclination)を有する。基準オフセットは、0+/-0.02mmである。薬剤濃度は、0.1IU/mmである。
【0064】
基準および規制要件(Standard and Regulations requirements)は、0~20単位(IU)の範囲内の用量サイズに対しては、+/-1IUに設定され、20IUよりも大きい用量サイズに対しては、+/-5%に設定される。
【0065】
上記の寸法および公差に基づいて、ダイヤル設定された用量と吐出される用量との間の逸脱を算出することができ、それらの逸脱は図6Aに示されるが、この図6Aでは、実線は、基準および規制要件を表し、点線は、機械公差に起因する最大デバイスばらつきを表す。図で明らかなように、20IUの外部投与(out-dosing)が、許容限界に最も接近し得る。したがって、20IUの外部投与が、以下の例および例示において使用される。
【0066】
ピストンロッドが1IUのインクリメントにつき15度回転する薬剤送達では、20IUをダイヤル設定することにより、ピストンロッドが300度回転することになる。
【0067】
明らかなように、20IUをダイヤル設定することは、許容される公差の限界の範囲内で0.8IUの過剰投与をもたらすことになり、これは、したがって、20IUまでの用量に対する+/-1IUの公差限界の範囲内で許容され得る。
【0068】
1B:2倍のカートリッジ内径公差を有する薬剤送達デバイスのための例
例示的な薬剤送達デバイスが、67.2006+/-2.9374mmの内側断面積に相当する、+/-0.2mmの公差を含む9.25mmの基準内径を持つカートリッジを有する。その他の点では、値は、例1Aにおけるのと同じである。
【0069】
上記の寸法および公差に基づいて、ダイヤル設定された用量と吐出される用量との間の逸脱を算出することができ、それらの逸脱は図6Bに示されるが、図6Bでは、実線は、基準および規制要件を表し、点線は、機械公差に起因する最大デバイスばらつきを表す。図で明らかなように、カートリッジ直径公差を2倍にすることは、性能のばらつきを、許容される限界からかなり外すことになる。
【0070】
例A1における計算に対応させると、基準20IUの用量に対する最大用量サイズ逸脱は、(21.42-20.16)IU=1.26IUになる。
【0071】
1C:2倍のピストンロッド傾斜公差を有する薬剤送達デバイスのための例
例示的な薬剤送達デバイスが、0.01+/-0.00022222mm/degの1回転度当たり直線運動に相当する3.6+/-0.08mm/revの基準ねじ傾斜と0+/-0.04mmの基準オフセットとを持つピストンロッドを有する。その他の点では、値は、例A1におけるのと同じである。
【0072】
上記の寸法および公差に基づいて、ダイヤル設定された用量と吐出される用量との間の逸脱を算出することができ、それらの逸脱は図6Cに示されるが、図6Cでは、実線は、基準および規制要件を表し、点線は、機械公差に起因する最大デバイスばらつきを表す。図で明らかなように、ピストンロッド傾斜公差を2倍にすることは、性能のばらつきを、許容される限界からかなり外すことになる。しかし、カートリッジ内径が2倍にされた場合ほどではない。
【0073】
例A1における計算に対応させると、基準20IUの用量に対する最大用量サイズ逸脱は、(21.33-20.16)IU=1.17IUになる。
【0074】
1D:2倍の機械公差を持つ薬剤送達デバイスのための例
例示的な薬剤送達デバイスが、67.2006+/-2.9374mmの内側断面積に相当する+/-0.2mmの公差を含む9.25mmの基準内径を持つカートリッジと、0.01+/-0.00022222mm/degの1回転度当たり直線運動に相当する3.6+/-0.08mm/revの基準ねじ傾斜および0+/-0.04mmの基準オフセットを持つピストンロッドと、を有する。その他の点では、値は、例A1におけるのと同じである。
【0075】
上記の寸法および公差に基づいて、ダイヤル設定された用量と吐出される用量との間の逸脱を算出することができ、それらの逸脱は図6Dに示されるが、図6Dでは、実線は、基準および規制要件を表し、点線は、機械公差に起因する最大デバイスばらつきを表す。図で明らかなように、カートリッジおよびピストンロッドの両方に対して機械公差を2倍にすることは、性能のばらつきを、許容される限界からかなり外すことになる。
【0076】
例A1における計算に対応させると、基準20IUの用量に対する最大用量サイズ逸脱は、(21.79-20.16)IU=1.63IUになる。
【0077】
1E:3倍の薬剤濃度を有する薬剤送達デバイスのための例
例示的な薬剤送達デバイスにおいて、カートリッジ薬剤濃度は、0.3IU/mmである。それに応じて、デバイスは、0.00333333+/-0.00011111mm/degの1回転度当たり直線運動に相当する1.2+/-0.04mm/revの基準ねじ傾斜および+/-0.02mmの基準オフセットを持つピストンロッドを有する。その他の点では、値は、例A1におけるのと同じである。
【0078】
上記の薬剤濃度、寸法、および公差に基づいて、ダイヤル設定された用量と吐出される用量との間の逸脱を算出することができ、それらの逸脱は図6Eに示されるが、図6Eでは、実線は、基準および規制要件を表し、点線は、機械公差に起因する最大デバイスばらつきを表す。図で明らかなように、機械公差を維持しかつ薬剤濃度を3倍にすることは、性能のばらつきを、許容される限界からはるかに外すことになる。
【0079】
例A1における計算に対応させると、基準20IUの用量に対する最大用量サイズ逸脱は、(21.70-20.16)IU=1.54IUになる。
【0080】
1F:3倍の薬剤濃度、および縮小した公差による補償を有する薬剤送達デバイスのための例
例示的な薬剤送達デバイスにおいて、カートリッジ薬剤濃度は、0.3IU/mmである。より高い薬剤濃度を補償するために、カートリッジは、67.2006+/-0.7285mmの内側断面積に相当する、+/-0.05mmの公差を含む9.25mmの基準内径を有する。ピストンロッドは、0.00333333+/-0.00005556mm/degの1回転度当たり直線運動に相当する、1.2+/-0.02mm/revの基準ねじ傾斜を有する。基準オフセットは、0+/-0.02mmである。
【0081】
上記の薬剤濃度、寸法、および公差に基づいて、ダイヤル設定された用量と吐出される用量との間の逸脱を算出することができ、それらの逸脱は図6Fに示されるが、図6Fでは、実線は、基準および規制要件を表し、点線は、機械公差に起因する最大デバイスばらつきを表す。図で明らかなように、薬剤濃度を3倍にすることは、性能のばらつきを許容される限界内ちょうどに維持するために、半分未満に縮小された機械公差を必要とする。
【0082】
例A1における計算に対応させると、基準20IUの用量に対する最大用量サイズ逸脱は、(21.13-20.16)IU=0.97IUになる。
【0083】
上記の例によって示されるように、公差を縮小することおよび/または薬剤濃度を高めることは、起こり得る性能のばらつきを、許容される限界から外すことになる。それに応じて、所与の公差を有する所与の薬剤送達デバイスに対する性能のばらつきを低減させるために本発明の態様がいかにして使用され得るかを示す例が、以下に与えられる。
【0084】
2A:2倍の機械公差、および電子ディスプレイ補償を有する薬剤送達デバイスのための例
例示的な薬剤送達デバイスが、上記の例1Dで提示された寸法および公差でカートリッジ、ピストンロッド、および薬剤濃度を有し、1IUの各インクリメントは、15度のピストンロッド回転に対応する。
【0085】
上記の薬剤濃度、寸法、および公差に基づき、ダイヤル設定された用量と吐出される用量との間の逸脱を算出することができ、それらの逸脱は図7Aに示されるが、図7Aでは、実線は、基準および規制要件を表し、点線は、機械公差に起因する最大デバイスばらつきを表す。
【0086】
しかし、本発明の態様によれば、薬剤送達デバイスは、吐出される薬剤量に対する設定された基準値と計算値との間の差を補償する、電子的に制御されるディスプレイを備える。より具体的には、所与の設定用量サイズに対する計算値は、最も近い整数値に丸められて、次いでその整数値が表示されることになり、例えば、47IUの用量がダイヤル設定され、50.5IUの用量が計算され、用量50IUが表示されるが、これは、0.5IUの過剰投与逸脱をもたらす。図7Aでは、太い点線は、表示された値に比較した外部投与におけるばらつきを示す。やはり図7で明らかなように、電子ディスプレイ補償は、たとえ機械公差が2倍にされていても、実際の外部投与におけるばらつきを参考例未満に減少させる。
【0087】
図7Aは、最大ばらつきを示すが、カートリッジまたはピストンロッドなどの所与の構成要素は、用量範囲全体にわたって最大公差を有さないであろう。
【0088】
カートリッジ内径およびピストンロッド傾斜の両方に対する寸法は部材の長さに沿って変化し得るので、部材の長さに沿った実際の寸法を高分解能で判定することが、最適な補償に必要であろう。しかし、実際的には、寸法は、例えば300IUのインスリンの全薬剤体積に対して、いくつかの範囲、例えば10個の範囲の平均として、決定され得る。
【0089】
以下の例では、所与の状態において所与のデバイスから吐出される20IUの用量を代表するものである例示的なデバイスに対する寸法が決定されており、すなわち、20IUは、カートリッジから20IUが吐出され得る初期位置または任意の他の位置におけるピストンロッドに対応し得る。寸法は仮想のものであり、したがって実際の測定に基づくものではない。
【0090】
測定値
内径:9.44mm
ねじ切りの傾斜:3.67mm/rev.
【0091】
計算結果
断面積:69.98965777mm
実際のピストン運動/クリック:0.152916667mm
実際の外部投与/クリック:1.070258517IU
ディスプレイ補正係数:1.070258517
【0092】
それに応じて、使用者が19IUの用量を設定する場合、これは、丸められて20IUとして表示される、19IU×1.070258517=20.33IUが吐出されることと、0.33IUの逸脱とに相当する。
【0093】
2B:3倍の薬剤濃度、および電子ディスプレイ補償を有する薬剤送達デバイスのための例
例示的な薬剤送達デバイスが、上記の例1Eで提示された寸法および公差でカートリッジ、ピストンロッド、および薬剤濃度を有し、1IUの各インクリメントは、15度のピストンロッド回転に対応する。例2Aに対応して、薬剤送達デバイスは、電子的に制御されるディスプレイを備え、このディスプレイは、所与の設定用量サイズに対する計算値を最も近い整数値に丸めることにより、吐出される薬剤量に対する設定された基準値と計算値との間の差を補償し、次いでその整数値が表示される。
【0094】
上記の薬剤濃度、寸法、および公差に基づき、ダイヤル設定された用量と吐出される用量との間の逸脱を算出することができ、それらの逸脱は図7Bに示されるが、図7Bでは、実線は、基準および規制要件を表し、点線は、機械公差に起因する最大デバイスばらつきを表し、太い点線は、表示された値に比較した外部投与のばらつきを示す。やはり明らかなように、濃度の増大は、丸め誤差を減らすために、半単位のためのクリックを必要とし得る。
【0095】
2C:2倍の機械公差、および電子ピストンロッドドライブを有する薬剤送達デバイスのための例
例示的な薬剤送達デバイスが、上記の例1Dで提示された寸法および公差でカートリッジ、ピストンロッド、および薬剤濃度を有し、1IUの各インクリメントは、15度のピストンロッド回転に対応する。
【0096】
上記の薬剤濃度、寸法、および公差に基づき、ダイヤル設定された用量と吐出される用量との間の逸脱を算出することができ、それらの逸脱は図7Cに示されるが、図7Cでは、実線は、基準および規制要件を表し、点線は、機械公差に起因する最大デバイスばらつきを表す。
【0097】
しかし、本発明のさらなる態様によれば、薬剤送達デバイスは、電子的に制御されるモータドライブを備え、このモータドライブは、吐出される薬剤の量が設定された薬剤の量に相当するように、所与の設定された基準用量サイズに対してピストンロッド回転の量を調整する。上記の例2Aでは、1.070258517のディスプレイ補正係数が算出された。同じ測定値に対する対応するピストンロッド旋回補正係数は、その逆数値、すなわち0.934354である。
【0098】
20IUの設定用量に対する計算例
ピストンロッドに対する基準旋回角度:20×15deg=300deg
実際のピストンロッド回転:(300deg×0.934354)+1=281.306mm/deg
(+/-1.0degの、モータドライブの最悪の不正確さが仮定される)
実際のピストン運動:(281.3061deg×0.01019mm/deg)+0.04mm=2.908mm
(0.04mmの、弾性および摩擦に起因する最悪のオフセットが仮定される)
変位された実際の体積:2.908mm×(π×(9.45mm/2)=203.9444922mm
吐出された実際の用量:203.944mm×0.1IU/mm=20.39444922
【0099】
図7Cでは、太い点線は、設定値に比較した外部投与のばらつきを示す。明らかなように、電子モータドライブ補償は、たとえ機械公差が2倍にされていても、実際の外部投与のばらつきを減少させて、参考例のものよりもずっと少なくする。上記の計算例で例示されているように、駆動システム自体の性質により、ばらつきは完全には補正され得ない。
【0100】
2D:3倍の薬剤濃度、および電子ピストンロッドドライブを有する薬剤送達デバイスのための例
例示的な薬剤送達デバイスが、上記の例1Eで提示された寸法および公差でカートリッジ、ピストンロッド、および薬剤濃度を有し、1IUの各インクリメントは、15度のピストンロッド回転に対応する。例2Cに対応して、薬剤送達デバイスは、電子的に制御されるモータドライブを備え、このモータドライブは、吐出される薬剤の量が設定された薬剤の量に相当するように、所与の設定された基準用量サイズに対してピストンロッド回転の量を調整する。
【0101】
上記の薬剤濃度、寸法、および公差に基づき、ダイヤル設定された用量と吐出される用量との間の逸脱を算出することができ、それらの逸脱は図7Dに示されるが、図7Dでは、実線は、基準および規制要件を表し、点線は、機械公差に起因する最大デバイスばらつきを表し、太い点線は、表示された値に比較した外部投与のばらつきを示す。やはり明らかなように、電子モータドライブ補償は、たとえ機械公差が維持され、濃度が3倍にされていても、実際の外部投与のばらつきを減少させて、参考例のものよりもずっと少なくする。
【0102】
例示的な実施形態に関する上記の説明では、述べられた機能性を様々な構成要素に提供する様々な構造および手段について、熟練した読者(skilled reader)には本発明の概念が理解されるであろう程度にまで説明された。様々な構成要素に関する詳細な構成および仕様は、本明細書に提示された方針に沿って当業者によって実行される標準的な設計手順の対象であると見なされる。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7A
図7B
図7C
図7D