(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】膜厚測定装置及び膜厚測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/02 20060101AFI20220427BHJP
【FI】
G01B11/02 G
(21)【出願番号】P 2019067894
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】591006298
【氏名又は名称】JFEテクノリサーチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 孝司
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-189406(JP,A)
【文献】特開2007-93419(JP,A)
【文献】特開2005-337927(JP,A)
【文献】特開2007-203658(JP,A)
【文献】特開2018-205132(JP,A)
【文献】特開2000-314612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部材が水平方向に散在している下地の表面に形成された膜の膜厚を測定する膜厚測定装置であって、
前記膜に光を照射し、前記膜からの反射光を分光して得られる干渉スペクトルを、内部に有する画素単位で取得する膜厚データ取得部と、
前記画素単位で取得した干渉スペクトルのうち、一つの部材の表面に形成された膜のみに対応する干渉スペクトルを演算対象として特定する演算対象特定部と、
当該演算対象特定部で特定した干渉スペクトルに基づき、前記膜のうちの前記特定した干渉スペクトルに対応する部位の膜厚を演算する膜厚演算部と、
を備えることを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項2】
前記膜厚データ取得部の空間分解能は、前記一つの部材の表面に形成された膜のみに対応する干渉スペクトルを取得し得る空間分解能であることを特徴とする請求項1に記載の膜厚測定装置。
【請求項3】
前記膜厚データ取得部の視野角は、前記一つの部材の表面に形成された膜のみに対応する干渉スペクトルを取得し得る視野角であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の膜厚測定装置。
【請求項4】
前記膜厚データ取得部は前記膜を所定のピッチで走査して前記干渉スペクトルを取得し、
前記膜厚データ取得部のピッチは、前記一つの部材の表面に形成された膜のみに対応する干渉スペクトルを取得し得るピッチであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の膜厚測定装置。
【請求項5】
前記膜を撮像する撮像部を備え、
前記演算対象特定部は、前記撮像部で撮影した画像から、前記膜のうち、一つの部材の表面に形成された部位を特定し、前記画素単位で取得した干渉スペクトルのうち、特定した前記部位に対応する干渉スペクトルを前記演算対象として特定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の膜厚測定装置。
【請求項6】
前記部材の位置情報を有し、
前記演算対象特定部は、前記位置情報に基づき前記演算対象を特定することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の膜厚測定装置。
【請求項7】
前記膜厚データ取得部は、前記膜からの反射光を分光して得た干渉スペクトルを前記画素単位で取得する撮像部として、空間分解能の異なる複数の撮像部を備え、
当該複数の撮像部は、切り替え可能に構成されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の膜厚測定装置。
【請求項8】
前記膜厚データ取得部は、前記膜からの反射光を分光して得た干渉スペクトルを前記画素単位で取得する撮像部として、撮像倍率可変の撮像部を備え、
当該撮像部は、撮像倍率を変更可能に構成されていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の膜厚測定装置。
【請求項9】
前記膜厚データ取得部は、前記膜のうちの、一つの部材の表面に形成された部位を少なくとも含む一部の領域のみから前記干渉スペクトルを取得することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の膜厚測定装置。
【請求項10】
前記部材の位置及び素材を表す素材情報を有し、
前記演算対象特定部は、前記素材情報に基づき、前記画素単位で取得した干渉スペクトルのうち、同一素材の部材の表面に形成された膜に対応する任意数の干渉スペクトルを、前記演算対象として特定し、
前記膜厚演算部は、前記演算対象特定部で特定した干渉スペクトルに対応する任意数の部位の膜厚を、前記同一素材の部材の表面に形成された膜の他の部位の膜厚とすることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の膜厚測定装置。
【請求項11】
前記演算対象特定部は、前記同一素材の部材の表面に形成された膜の膜厚を代表する部位に対応する干渉スペクトルを、前記演算対象として特定することを特徴とする請求項10に記載の膜厚測定装置。
【請求項12】
前記部材の位置及び光学定数を含む光学定数情報を有し、
前記膜厚演算部は、前記部材の素材毎に設定される光学定数を用いて前記膜厚を演算するようになっており、
当該膜厚演算部は、前記光学定数情報に基づき前記演算対象の干渉スペクトルに対応する前記光学定数を決定し、決定した光学定数を用いて膜厚を演算することを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の膜厚測定装置。
【請求項13】
前記膜を撮像する撮像部を備え、
前記演算対象特定部は、前記撮像部で撮像した画像から、前記膜厚データ取得部と前記膜との相対位置と、予め設定した相対位置基準とのずれ量を検出し、
当該ずれ量に基づき位置補正を行って、前記演算対象を特定することを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の膜厚測定装置。
【請求項14】
前記膜のうち、一つの部材の表面に形成された膜のみから得られる前記干渉スペクトルの特徴を特徴情報として有し、
前記演算対象特定部は、前記画素単位で取得した干渉スペクトルのうち、前記特徴情報で特定される特徴を有する干渉スペクトルを演算対象として抽出することを特徴とする請求項1に記載の膜厚測定装置。
【請求項15】
前記膜は、デバイスウエハの表面に形成されたシリコン酸化膜であることを特徴とする請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の膜厚測定装置。
【請求項16】
複数の部材が水平方向に散在している下地の表面に形成された膜に光を照射し、当該膜からの反射光を分光して得られる干渉スペクトルを用いて膜厚を演算するようにした膜厚測定方法であって、
前記膜からの反射光を分光して得られる干渉スペクトルを画素単位で取得し、
前記画素単位で取得した干渉スペクトルのうち、一つの部材の表面に形成された膜に対応する干渉スペクトルを演算対象として特定し、
前記膜のうち、特定した干渉スペクトルに対応する部位の膜厚のみを演算することを特徴とする膜厚測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜厚測定装置及び膜厚測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、膜厚を測定する方法として、イメージング分光器を用いて分光測定を行い、光干渉法を利用して膜厚を算出する方法が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。これらの方法では、測定対象の膜に光を照射し、その反射光を分光して波長成分毎の反射スペクトルの実測波形を取得し、膜厚として取り得る範囲内の、膜厚の異なる複数の理論上の反射スペクトルの理論波形それぞれと実測波形とを比較し、実測波形と理論波形との乖離が最小となる理論波形に対応する膜厚を、測定対象の膜の膜厚とするようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-314612号公報
【文献】特開2012-189406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、測定対象の膜に光を照射した場合、測定対象の膜の下層に存在する膜の素材によって、反射スペクトルが異なる場合がある。つまり、二次元領域に、測定対象の膜を含む層構造として、素材の異なる層構造が混在する場合には、素材の異なる層構造それぞれによる反射光に応じた反射スペクトルが得られることになる。
ここで、反射スペクトルはイメージング分光器の内部に有する画素単位で取得され、その取得された画素単位の反射スペクトルから各画素に対応する測定対象の部位の膜厚が演算される。そのため、例えば、一つの画素に、素材の異なる複数の層構造からの反射スペクトルが含まれる場合には、複数の層構造それぞれに応じた反射スペクトルが混在した反射スペクトルが得られることになる。その結果、各層構造それぞれから得られる本来の反射スペクトルとは異なる反射スペクトルが得られるため、測定対象の膜の正しい膜厚を算出することができないという問題がある。
そこで、本発明は、上記未解決の問題に着目してなされたものであり、より高精度に膜厚測定を行うことが可能な膜厚測定装置及び膜厚測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、複数の部材が水平方向に散在している下地の表面に形成された膜の膜厚を測定する膜厚測定装置であって、膜に光を照射し、膜からの反射光を分光して得られる干渉スペクトルを、内部に有する画素単位で取得する膜厚データ取得部と、前記画素単位で取得した干渉スペクトルのうち、一つの部材の表面に形成された膜のみに対応する干渉スペクトルを演算対象として特定する演算対象特定部と、演算対象特定部で特定した干渉スペクトルに基づき、膜のうちの特定した干渉スペクトルに対応する部位の膜厚を演算する膜厚演算部と、を備える膜厚測定装置が提供される。
また、本発明の他の態様によれば、複数の部材が水平方向に散在している下地の表面に形成された膜に光を照射し、膜からの反射光を分光して得られる干渉スペクトルを用いて膜厚を演算するようにした膜厚測定方法であって、膜からの反射光を分光して得られる干渉スペクトルを画素単位で取得し、前記画素単位で取得した干渉スペクトルのうち、一つの部材の表面に形成された膜に対応する干渉スペクトルを演算対象として特定し、膜のうち、特定した干渉スペクトルに対応する部位の膜厚のみを演算する膜厚測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様によれば、より高精度に膜厚測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第一実施形態に係る膜厚測定装置の一例を示す概略構成図である。
【
図3】第一実施形態における、膜厚測定時の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図4】第二実施形態に係る膜厚測定装置の一例を示す概略構成図である。
【
図5】第二実施形態における、膜厚測定時の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】第三実施形態に係る膜厚測定装置の一例を示す概略構成図である。
【
図7】第三実施形態における、膜厚測定時の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図8】第四実施形態に係る膜厚測定装置の一例を示す概略構成図である。
【
図9】第四実施形態における、膜厚測定時の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図10】第五実施形態に係る膜厚測定装置の一例を示す概略構成図である。
【
図11】第五実施形態における、膜厚測定時の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図12】第六実施形態に係る膜厚測定装置の一例を示す概略構成図である。
【
図13】第六実施形態における、膜厚測定時の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図14】第七実施形態に係る膜厚測定装置の一例を示す概略構成図である。
【
図15】測定部位に対応するスペクトル情報の抽出方法を説明するための説明図である。
【
図16】第七実施形態における、膜厚測定時の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図17】第八実施形態における、膜厚測定時の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
なお、以下の詳細な説明では、本発明の実施形態の完全な理解を提供するように多くの特定の具体的な構成について記載されている。しかしながら、このような特定の具体的な構成に限定されることなく他の実施態様が実施できることは明らかである。また、以下の実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
まず、第一実施形態を説明する。
図1は、本発明を適用した第一実施形態に係る膜厚測定装置1の一例を示す概略構成図である。
膜厚測定装置1は、例えば、
図1に示すように、測定対象物Wに形成された膜の測定を行って実測波形を取得する膜厚測定系1aと、膜厚演算系1bとを備える。測定対象物Wは、例えば、機械構造や回路が形成されたデバイスウエハであって、膜厚測定装置1は、デバイスウエハの表面に形成されたシリコン酸化膜(SiO
2膜)の膜厚を測定する。このシリコン膜は、温度補償等を目的として設けられ、膜厚がデバイスウエハに搭載された機械構造や回路等の性能に直結する温度補償膜である。
【0010】
膜厚測定系1aとしては、例えば、特許文献1に記載された公知の膜厚測定装置の膜厚測定系を適用することができる。膜厚測定系1aは、
図1に示すように、測定対象物移動装置2と、線状光源3と、干渉光集光光学系4と、イメージング分光器5と、画像メモリ装置6と、スペクトル解析装置7と、を備える。これら各部の動作は、特許文献1において同一符号が付与された各部の動作と同様である。
すなわち、線状光源3は、ハロゲンランプからの光をファイバにより線状にし、測定対象物Wの1ライン上を均一に照射する。干渉光集光光学系4及びイメージング分光器5は、線状光源3により照射された光が測定対象物Wの表面で反射したときの正反射方向に配置される。測定対象物移動装置2は、これらの光学系の測定条件を変化させないように保持したまま測定対象物Wを移動させる。測定対象物移動装置2は、固定テーブル2aと移動テーブル2bとを備え、移動テーブル2b上に測定対象物Wが載置され、固定テーブル2aに対して移動テーブル2bを移動させることにより測定対象物Wを移動させる。測定対象物Wの膜厚を二次元的に測定するときには、測定対象物Wを、線状光源3により照射されるラインと垂直な方向に移動させる。
【0011】
イメージング分光器5は撮像部を有し、測定対象物Wによる反射光を分光し、反射強度を表すスペクトル情報(干渉スペクトル)を画像データとして出力する。スペクトル情報(画像データ)は画像メモリ装置6に格納される。スペクトル解析装置7は、画像メモリ装置6に格納されたスペクトル情報を画素毎に読み出し、読み出したスペクトル情報に対してスペクトル解析を行う。具体的には、スペクトル解析装置7は、予め測定し画像メモリ装置6に記憶している、波長毎の反射率が既知な測定対象物Wに対応する標準サンプルのスペクトル情報を読み出し、得られた画素毎のスペクトル情報を標準サンプルのスペクトル情報で各々対応する波長λ毎に除算することにより反射率を取得する。そして、得られた画素毎の反射率を実測波形として膜厚演算部8に出力する。
【0012】
測定対象物Wは、例えば、ロボットアームなどの測定対象物移載装置21によって、移動テーブル2bと、測定前の測定対象物Wを載置しておく領域と、測定済みの測定対象物Wを載置する領域との間で移動される。
膜厚演算系1bは、膜厚演算部8と記憶装置9と位置情報記憶部9aとを備える。膜厚演算部8は、例えばパーソナルコンピュータを含んで構成され、表示装置8a及び入力装置8bを備える。膜厚演算部8は、画像メモリ装置6に格納された画像データをもとに膜厚演算を行う。記憶装置9には、測定対象物Wに光を照射し測定対象物Wの各照射点の反射光を分光して得られると想定されるスペクトル情報である理論波形が複数格納されると共に、各画素に対応する部位(以後、膜厚測定点ともいう。)の膜厚測定結果等が格納される。位置情報記憶部9aには、後述の測定対象物Wに関する位置情報が格納されている。
【0013】
理論波形は、測定対象物Wの表面に形成された膜の膜厚として取り得る値の最大値から最小値までの範囲内の膜厚に対応して設定されている。つまり、製造条件変動等のため、測定対象物Wの表面に形成された膜の膜厚は、想定した値よりも増減することが予測される。そのため、この増減により測定対象物Wの表面に形成された膜の膜厚が取り得る最大値及び最小値で定まる範囲を、理論波形を取得する際の膜厚範囲(以後、単に、理論波形の膜厚範囲ともいう。)とし、この理論波形の膜厚範囲の膜厚を有する複数の理論波形を演算する。
理論波形は、出荷時に出荷元側で予め演算すること、又は、膜厚測定装置1を導入したときに、導入した側で演算すること、等により、記憶装置9に予め格納される。
【0014】
膜厚演算部8では、画像メモリ装置6に格納された画像データを、スペクトル解析装置7を介して読み出す。画像メモリ装置6から読み出されたスペクトル情報は、スペクトル解析装置7でスペクトル解析された後、実測波形として膜厚演算部8に入力される。膜厚演算部8では、記憶装置9に記憶されている、膜厚の異なる複数の理論波形と、実測波形とを比較し、両者の乖離が最も小さい理論波形に対応する膜厚を、このスペクトル情報に対応する部位の膜厚として特定し、特定した膜厚を、スペクトル情報に対応する部位、すなわち膜厚測定点と対応付けて記憶装置9に格納する。このとき、膜厚演算部8では、全てのスペクトル情報すなわち、測定対象物W上の全ての膜厚測定点について、膜厚を演算するのではなく、後述の演算対象として特定したスペクトル情報についてのみ膜厚を演算する。
【0015】
膜厚演算部8において、膜厚の異なる複数の理論波形の中から実測波形との乖離が最も少ない理論波形を検出する方法としては、例えば、類似度を表す相関係数を求め、類似度が最大となる理論波形を、実測波形との乖離が最も小さい理論波形として選択する方法等が挙げられる。相関係数は、例えば、(a)測定された各波長における実測波形と理論波形の差分を全波長範囲で積算すること、(b)測定された各波長における実測波形と理論波形の差分の平方を全波長範囲で積算すること、(c)測定された各波長における実測波形と理論波形の積を全波長範囲で積算すること、等により求めることができる。
【0016】
実測波形の反射率は、予め測定され、画像メモリ装置6に格納されている標準サンプルを用いて取得したスペクトル情報により、測定対象物Wの表面に形成された膜のスペクトル情報を、各々対応する波長λ毎に除算することにより得ることができる。この反射率の演算は、前述のようにスペクトル解析装置7で実行される。
なお、標準サンプルのスペクトル情報の測定は、例えば測定対象物Wの表面に形成された膜の膜厚測定を開始する前に行えばよい。すなわち、膜厚測定装置1を起動させた後、まず標準サンプルを測定対象物移動装置2上に載置し、標準サンプルをY軸方向に移動させることにより、Y座標毎にX軸方向の領域におけるスペクトル情報を一つの画像データとして取得し、これを画像メモリ装置6に順次記憶する。そして、標準サンプルの測定完了後に測定対象物Wについて測定を開始する。なお、標準サンプルは、測定波長領域で測定対象物Wの表面の分光反射強度に近い値を有し、常時環境が安定する場所に保管する等して分光反射特性の変化が長期間少ない材料を選択すればよい。例えば、測定対象物Wの表面に形成された膜と同じ物質で物性変化が少なく、安定した材料を選定し使用すればよい。
【0017】
標準サンプルのスペクトル情報の測定は、例えば測定対象物Wに対する膜厚測定を開始する前に行い、同一種類の複数の測定対象物Wについて膜厚測定を行う場合には、これら同一種類の複数の測定対象物Wに対する一連の測定が終了するまで、測定を開始する前に取得した標準サンプルのスペクトル情報を用いるようにしてもよい。また、一連の測定が終了するまでの間に一回または複数回、標準サンプルのスペクトル情報の測定を行うようにしてもよい。また、長期的な光源強度変動等といった周囲環境変動の影響が少ない場合等には、前回測定対象物Wに対して一連の膜厚測定を行ったとき等、以前測定した標準サンプルのスペクトル情報を記憶しておき、これを用いるようにしてもよい。
また、理論波形は、膜厚毎に、波形データを所定の記憶領域に記憶するようにしてもよく、また、理論波形を表す関数を記憶しておき、膜厚を指定することによって、その都度演算を行って理論波形を表す波形データを演算するようにしてもよい。
【0018】
次に位置情報記憶部9aに格納される位置情報を説明する。
図2は、測定対象物Wの一例を示す概略図であり、
図2(a)は全体図、
図2(b)は部分拡大図、
図2(c)は
図2(b)のA-A′断面図である。
測定対象物Wは例えばLN(ニオブ酸リチウム)等の基板101上に、機械構造や回路等の実装部品102やアルミニウム等からなる配線103が形成されたデバイスウエハであり、実装部品102及び配線103を覆うように、基板101上にSiO
2膜等の温度補償膜104が形成されている。膜厚測定装置1では、水平方向に散在する、基板101、実装部品102、配線103といった複数の部材を下地としてこれらの表面に形成された温度補償膜104、つまり、基板101上に直接又は実装部品102や配線103の上に形成された温度補償膜104の膜厚を測定する。基板101上における実装部品102及び配線103の配置位置情報が、位置情報として位置情報記憶部9aに格納されている。この位置情報は、例えば、デバイスウエハである測定対象物Wを設計する際の設計情報等から取得することができる。
【0019】
次に、
図3に示すフローチャートを伴って、温度補償膜104の膜厚測定時の膜厚演算部8での処理手順の一例を説明する。
膜厚演算部8では、まず、測定対象物Wに関する位置情報を、位置情報記憶部9aから読み込む(ステップS1)。
次いで、ステップS2に移行し、膜厚測定系(膜厚データ取得部)1aを起動させ、測定対象物Wの表面全体のスペクトル情報を取得させて画像メモリ装置6に格納させる。膜厚測定系1aでは、線状光源3の延びる方向と垂直な方向に測定対象物Wを移動させつつ、1ライン毎にスペクトル情報を取得し、画像メモリ装置6に格納する。これによって、測定対象物Wの表面全体のスペクトル情報が画像メモリ装置6に格納される。
次いで、ステップS3に移行し、スペクトル情報のうち、膜厚演算を行う演算対象を特定する(演算対象特定部)。
【0020】
演算対象の特定は、位置情報記憶部9aに格納された位置情報に基づき設定する。ここで、位置情報から、実装部品102の位置、配線103の位置、実装部品102や配線103が実装されていない表面が露出した基板101上の部位を特定することができる。膜厚演算部8では、例えば、オペレータがマウス等の入力装置で膜厚を演算する対象の部材を指定し、この指定された部材に対応する位置情報から、画像メモリ装置6に格納されたスペクトル情報のうち、オペレータにより指定された部材に対応するスペクトル情報を特定すること等により行う。
【0021】
続いて、膜厚演算部8では、画像メモリ装置6に格納された測定対象物Wの表面全体を走査して得たスペクトル情報のうち、ステップS3の処理で演算対象として特定したスペクトル情報についてのみ、膜厚演算を行う(ステップS4)。そして、演算結果を、表示装置8aに表示する(ステップS5)。例えば、測定対象物Wを表す画像上の、演算対象に対応する膜厚測定点の位置と対応付けて演算結果を表示する。
オペレータは、表示装置8aを参照することにより、測定対象物Wの所望の位置の膜厚を容易に認識することができる。
【0022】
ここで、演算対象のスペクトル情報は、温度補償膜104のうち、いずれか一つの部材のみの表面に形成された部位に対応する。つまり、一つの部材の表面のみに形成された温度補償膜104から得られるスペクトル情報であり、素材の異なる二つの部材の表面に形成された膜から得られるスペクトル情報を一つのスペクトル情報に含んでいるスペクトル情報は、演算対象のスペクトル情報として設定されない。また、素材の異なる二つの部材の表面に形成された膜から得られる、二つの部材の影響が混在したスペクトル情報を含んでいる一つのスペクトル情報については膜厚演算を行わない。そのため、不要な膜厚演算を行うことを回避することができる。つまり、不要な膜厚演算を行うことを回避しつつ、一つの部材の表面に形成された温度補償膜104については膜厚演算を行うため、膜厚の演算精度を確保しつつ不要な膜厚演算を行うことを回避することができる。
【0023】
特に、デバイスウエハ等は、チップの上に実装部品102や配線103等が搭載されており温度補償膜104の幅は比較的狭い。このような幅の狭い部位の膜厚を測定する場合であっても、一つの部材の表面に形成された膜から得られるスペクトル情報のみを演算対象として、膜厚を測定しているため、比較的狭い領域であっても、膜厚演算の精度を維持しつつ、不要な膜厚を演算することを抑制することができる。
なお、上記第一実施形態において、膜厚測定系1aの空間分解能を、一つの部材の表面に形成された膜のみに対応するスペクトル情報を取得することの可能な空間分解能となるように調整してもよい。
【0024】
また、イメージング分光器5に含まれる撮像部の視野角を、一つの部材の表面に形成された膜のみに対応するスペクトル情報を取得し得る視野角となるように調整してもよい。
さらに、測定対象物Wを走査するときのピッチを、一つの部材の表面に形成された膜のみに対応するスペクトル情報を取得し得るピッチとなるように調整してもよい。
つまり、例えば一つの部材の幅がwである場合、空間分解能をw/2以下にすれば、必ずどこかの1画素は一つの部材の情報のみで占有されることになる。したがって、空間分解能や視野角や測定ピッチを調整することで、より確実に、一つの部材の表面に形成された膜のみに対応するスペクトル情報を取得することができる。
【0025】
また、上記第一実施形態において、膜厚の演算対象として複数の部材が設定されている場合には、部材毎に順に、上記と同様の手順で膜厚演算を行えばよい。
また、上記第一実施形態において、指定された一つの部材について膜厚演算を行った場合には、温度補償膜104のうち、指定された部材と同じ素材の部材上に形成された膜の膜厚も、同等とみなして、例えば、表示装置8aに、測定対象物Wの画像を表示すると共に、指定された部材だけでなく、同一素材の他の部材についても、同一膜厚であることを表示するようにしてもよい。
【0026】
次に、本発明の第二実施形態を説明する。
この第二実施形態に係る膜厚測定装置1-1は、測定部位の設定を、測定部位情報に基づき行うのではなく、測定対象の測定対象物W表面の撮影画像から、基板101、実装部品102及び配線103といった、各部材の位置を認識して測定部位の設定を行う。
図4は、第二実施形態に係る膜厚測定装置1-1の一例を示す概略構成図である。なお、
図1に示す第一実施形態に係る膜厚測定装置1と同一部には同一符号を付与し、その詳細な説明を省略する。
図4に示すように、第二実施形態に係る膜厚測定装置1-1は、第一実施形態に係る膜厚測定装置1において、位置情報記憶部9aに測定対象物Wの位置情報を記憶しておく代わりに、測定対象物撮影カメラ(特許請求の範囲に記載の撮像部に対応)22により測定対象物Wの位置情報を取得するようにしたものである。
測定対象物撮影カメラ22は、例えば固定テーブル2aの近傍等、測定対象物Wの、実装部品102や配線103の配置位置を認識できる撮像画像を撮影可能な位置に配置され、測定対象物撮影カメラ22の撮像情報は、膜厚演算部8に入力される。
【0027】
図5は、膜厚測定時の膜厚演算部8での処理手順の一例を示すフローチャートである。
図3に示す第一実施形態に係る膜厚測定装置1における処理と同一部には同一符号を付与し、その詳細な説明は省略する。
膜厚演算部8では、まず、測定対象物撮影カメラ22を起動し、測定対象となる測定対象物Wの表面の画像を撮影させ、測定対象物撮像情報を読み込む(ステップS1a)。
次いで、ステップS2に移行し、膜厚測定系1a-1を起動させ、測定対象物Wの表面全体のスペクトル情報を取得させて画像メモリ装置6に格納させる。
次いで、ステップS3aに移行し、スペクトル情報のうち、膜厚演算を行う演算対象を特定する。
【0028】
演算対象の特定は、測定対象物撮影カメラ22で撮像した測定対象物撮像情報に基づき行う。膜厚演算部8では、例えば、オペレータがマウス等の入力装置で膜厚を演算する対象の部材を指定し、この指定した部材に対応する位置情報を、測定対象物撮像情報から取得する。そして、画像メモリ装置6に格納されたスペクトル情報のうち、オペレータにより指定された部材に対応するスペクトル情報を特定すること等により行う。
続いて、膜厚演算部8では、画像メモリ装置6に格納された測定対象物Wの表面全体を走査して得たスペクトル情報のうち、ステップS3aの処理で演算対象として特定したスペクトル情報についてのみ、膜厚演算を行う(ステップS4)。そして、演算結果を、表示装置8aに表示する(ステップS5)。例えば、測定対象物Wを表す画像上の、演算対象に対応する膜厚測定点の位置と対応付けて演算結果を表示する。
【0029】
オペレータは、表示装置8aを参照することにより、測定対象物Wの所望の位置の膜厚を容易に認識することができる。また、上記第一実施形態と同等の作用効果を得ることができる。
また、第二実施形態においては、これから膜厚測定を行う測定対象物Wの撮像情報をもとに演算対象のスペクトル情報を特定している。そのため、例えば、第一実施形態のように各部材の位置情報を用いることなく、演算対象のスペクトル情報を特定することができ、言い換えれば、部材の位置情報、つまり例えば設計情報等が得られないような場合であっても、測定部位の設定を容易に行うことができる。
【0030】
次に、本発明の第三実施形態を説明する。
この第三実施形態に係る膜厚測定装置1-2は、空間分解能の異なる二つのイメージング分光器5a及び5bを設け、測定対象物Wの温度補償膜104の下地となる部材の素材や演算対象の膜厚測定点の位置等に応じて、空間分解能を切り替えてスペクトル情報を取得するようにしたものである。
図6は、第三実施形態に係る膜厚測定装置1-2の一例を示す概略構成図である。なお、
図1に示す第一実施形態に係る膜厚測定装置1と同一部には同一符号を付与し、その詳細な説明は省略する。
膜厚測定装置1-2は、
図6に示すように、線状光源3a、干渉光集光光学系4a及びイメージング分光器5aを含む光学系OP1と、線状光源3b、干渉光集光光学系4b及びイメージング分光器5bを含む光学系OP2と、を備える。干渉光集光光学系4a及びイメージング分光器5aは、線状光源3aにより照射された光が測定対象物Wの表面で反射したときの正反射方向に配置され、同様に、干渉光集光光学系4b及びイメージング分光器5bは、線状光源3bにより照射された光が測定対象物Wの表面で反射したときの正反射方向に配置される。
【0031】
イメージング分光器5a及び5bのそれぞれに含まれる撮像部の空間分解能は、互いに異なる。これら光学系OP1とOP2とは切り替え可能に構成され、いずれか一方の光学系OP1又はOP2のスペクトル情報は、画像メモリ装置6に格納される。なお、光学系OP1と、光学系OP2と、第一実施形態に係る膜厚測定装置1の、干渉光集光光学系4及びイメージング分光器5とは、それぞれが有する撮像部の空間分解能が互いに異なること以外は同等の機能構成を有する。
【0032】
図7は、膜厚測定時の膜厚演算部8での処理手順の一例を示すフローチャートである。
図3に示す第一実施形態に係る膜厚測定装置1における処理と同一部には同一符号を付与し、その詳細な説明は省略する。
膜厚演算部8では、測定対象物Wに関する位置情報を、位置情報記憶部9aから読み込む(ステップS1)。
次いで、ステップS1-1に移行し、光学系OP1及び光学系OP2のいずれを動作させるかを選択する。例えば、測定対象物Wの温度補償膜104の下地となる部材の素材や膜厚測定点の位置などに応じて光学系OP1及びOP2のいずれを起動させるかをオペレータが判断する。
次いで、ステップS2aに移行し、膜厚測定系1a-2を起動させ、測定対象物Wの表面全体のスペクトル情報を取得させて画像メモリ装置6に格納させる。このとき、ステップS1-1で設定された光学系OP1又はOP2を動作させて、スペクトル情報を取得する。
次いで、ステップS3に移行し、スペクトル情報のうち、膜厚演算を行う演算対象を特定する。
【0033】
続いて、膜厚演算部8では、画像メモリ装置6に格納された測定対象物Wの表面全体を走査して得たスペクトル情報のうち、ステップS3の処理で演算対象として特定したスペクトル情報についてのみ、膜厚演算を行う(ステップS4)。そして、演算結果を、表示装置8aに表示する(ステップS5)。
オペレータは、表示装置8aを参照することによって、測定対象物Wの所望の位置の膜厚を容易に認識することができ、上記第一実施形態における膜厚測定装置1と同等の作用効果を得ることができる。
【0034】
また、このとき、互いに空間分解能の異なる撮像部を有する二つの光学系OP1及びOP2を設けている。このため、複数の空間分解能でスペクトル情報を取得することができ、測定対象物Wにおける各部材の配置状況等に応じて、適切なスペクトル情報を取得することのできる空間分解能に切り替えることによって、膜厚の演算精度を向上させることができる。
なお、上記第3実施形態においては、二つの光学系OP1及びOP2を切り替えることで、膜厚測定装置1-2の空間分解能を切り替える場合について説明したが、2以上の光学系を設けて切り替えるようにしてもよい。
【0035】
次に、本発明の第四実施形態を説明する。
この第四実施形態に係る膜厚測定装置1-3は、第一実施形態に係る膜厚測定装置1において、イメージング分光器として、撮像倍率可変の撮像部を有するイメージング分光器5cを設けたものである。
図8は、第四実施形態に係る膜厚測定装置1-3の一例を示す概略構成図である。なお、
図1に示す第一実施形態に係る膜厚測定装置1と同一部には同一符号を付与し、その詳細な説明は省略する。
膜厚測定装置1-3は、
図8に示すように、イメージング分光器5cを備え、このイメージング分光器5cは、撮像倍率可変の撮像部を有する。この撮像部の撮像倍率は、測定対象物Wの温度補償膜104の下地となる部材の素材や撮像部位の範囲等に応じて調整される。
【0036】
図9は、膜厚測定時の膜厚演算部8での処理手順の一例を示すフローチャートである。
図3に示す第一実施形態に係る膜厚測定装置1における処理と同一部には同一符号を付与し、その詳細な説明は省略する。
膜厚演算部8では、まず、測定対象物Wに関する位置情報を、位置情報記憶部9aから読み込む(ステップS1)。
次いで、ステップS1-2に移行し、イメージング分光器5cの撮像部の撮像倍率を取得する。例えば、オペレータが撮像倍率を手動で調整すること等により撮像倍率を設定し、設定された撮像倍率を取得する。
次いで、ステップS2に移行し、膜厚測定系1a-3を起動させ、測定対象物Wの表面全体のスペクトル情報を取得させて画像メモリ装置6に格納させる。
【0037】
次いで、ステップS3に移行し、スペクトル情報のうち、膜厚演算を行う演算対象を特定し、続いて、膜厚演算部8では、画像メモリ装置6に格納された測定対象物Wの表面全体を走査して得たスペクトル情報のうち、ステップS3の処理で演算対象として特定したスペクトル情報についてのみ、膜厚演算を行う(ステップS4)。そして、演算結果を、表示装置8aに表示する(ステップS5)。
オペレータは、表示装置8aを参照することによって、測定対象物Wの所望の位置の膜厚を容易に認識することができ、上記第一実施形態における膜厚測定装置1と同等の作用効果を得ることができる。
また、膜厚測定装置1-3では、撮像倍率可変の撮像部を有するイメージング分光器5cを備えているため、一つのイメージング分光器5cで複数の空間分解能でスペクトル情報を取得することができる。
【0038】
次に、本発明の第五実施形態を説明する。
この第五実施形態に係る膜厚測定装置1-4は、第一実施形態に係る膜厚測定装置1において、複数の光学定数を記憶しており、測定部位に対応する一の部材に対応付けられた光学定数を用いて、膜厚演算を行うようにしたものである。
図10は、第五実施形態に係る膜厚測定装置1-4の一例を示す概略構成図である。なお、
図1に示す第一実施形態に係る膜厚測定装置1と同一部には同一符号を付与し、その詳細な説明は省略する。
図10に示すように、第五実施形態に係る膜厚測定装置1-4は、第一実施形態に係る膜厚測定装置1において、さらに位置情報記憶部9aに代えて光学定数情報記憶部9bを備える。光学定数情報記憶部9bには、位置情報と、各位置情報で特定される部材に対応する光学定数とが光学定数情報として格納される。なお、ここでいう光学定数とは、屈折率及び消衰係数を含み、基板101、実装部品102、配線103それぞれの上に形成された温度補償膜104の部位毎に、その膜厚を演算するために必要な理論波形を得ることのできる情報である。光学定数として、膜厚毎に、理論波形の波形データを記憶するようにしてもよく、理論波形を表す関数を記憶しておき、膜厚を指定することによって、その都度演算を行って理論波形を表す波形データを演算するようにしてもよい。
【0039】
図11は、膜厚測定時の膜厚演算部8での処理手順の一例を示すフローチャートである。
図3に示す第一実施形態に係る膜厚測定装置1における処理と同一部には同一符号を付与し、その詳細な説明は省略する。
膜厚演算部8では、まず、測定対象物Wに関する位置情報を、位置情報記憶部9aから読み込む(ステップS1)。
次いで、ステップS2に移行し、膜厚測定系1aを起動させ、測定対象物Wの表面全体のスペクトル情報を取得させて画像メモリ装置6に格納させる。
次いで、ステップS2-1に移行し、光学定数情報記憶部9bから、光学定数情報を読み出し、膜厚の測定対象の部材に対応する光学定数を特定する。
次いで、ステップS3に移行し、スペクトル情報のうち、膜厚演算を行う演算対象を特定する。
【0040】
次いで、ステップS4aに移行し、膜厚演算部8では、画像メモリ装置6に格納された測定対象物Wの表面全体を走査して得たスペクトル情報のうち、ステップS3の処理で演算対象として特定したスペクトル情報についてのみ、ステップS2-1で特定した光学定数を用いて膜厚演算を行う。そして、演算結果を、表示装置8aに表示する(ステップS5)。
オペレータは、表示装置8aを参照することによって、測定対象物Wの所望の位置の膜厚を容易に認識することができ、上記第一実施形態における膜厚測定装置1と同等の作用効果を得ることができる。
また、この場合、基板101、実装部品102、配線103のそれぞれの部材上に形成された温度補償膜104の部位毎に光学定数が記憶されている。そのため、光学定数の異なる、素材の異なる部材上に形成された温度補償膜104の膜厚を測定する場合であっても、各部材の素材に応じた光学定数に基づき膜厚を演算することができる。
【0041】
次に、本発明の第六実施形態を説明する。
この第六実施形態に係る膜厚測定装置1-5は、第一実施形態に係る膜厚測定装置1において、移動テーブル2b上に載置された測定対象物Wの、規定の載置位置(以下、規定位置(特許請求の範囲の相対位置基準に対応)ともいう。)とのずれ量を検出し、ずれ量だけずれた位置に対応するスペクトル情報をもとに、測定部位の膜厚演算を行うようにしたものである。つまり、測定対象物移載装置21は、測定対象物Wを、移動テーブル2bの規定位置に載置するようになっており、膜厚演算部8では、測定対象物Wが規定位置に載置されていることを前提として、測定部位の位置を特定し膜厚演算を行っている。そのため、移動テーブル2b上の測定対象物Wの実際の載置位置と、規定位置とにずれが生じると、膜厚演算に用いるスペクトル情報として誤ったスペクトル情報を用いることになり、膜厚の演算精度が低下する。第六実施形態に係る膜厚測定装置1-5は、測定対象物Wの規定位置からのずれに起因する膜厚演算の精度低下を防止するものである。
【0042】
図12は、第六実施形態に係る膜厚測定装置1-5の一例を示す概略構成図である。なお、
図1に示す第一実施形態に係る膜厚測定装置1と同一部には同一符号を付与し、その詳細な説明は省略する。
図12に示すように、第六実施形態に係る膜厚測定装置1-5は、第一実施形態に係る膜厚測定装置1において、さらに、位置ずれ検出用カメラ(特許請求の範囲に記載の撮像部に対応)23と、規定位置記憶部9cとを備える。
【0043】
位置ずれ検出用カメラ23は、例えば測定対象物移載装置21の近傍等、移動テーブル2b上に設定された規定位置と移動テーブル2b上に載置された測定対象物Wの実際の載置位置とのずれを、撮像画像から検出することの可能な位置に配置される。位置ずれ検出用カメラ23の撮像情報(以下、位置ずれ検出用撮像情報ともいう。)は、膜厚演算部8に入力される。
規定位置記憶部9cには、移動テーブル2b上に設定された、測定対象物Wの規定の載置位置を表す規定位置情報が予め格納される。
【0044】
図13は、膜厚測定時の膜厚演算部8での処理手順の一例を示すフローチャートである。
図3に示す第一実施形態に係る膜厚測定装置1における処理と同一部には同一符号を付与し、その詳細な説明は省略する。
膜厚演算部8では、まず、測定対象物Wに関する位置情報を、位置情報記憶部9aから読み込む(ステップS1)。
次いで、膜厚演算部8では、規定位置記憶部9cから規定位置を読み込み(ステップS1-3)、読み出した規定位置と位置ずれ検出用カメラ23からの位置ずれ検出用撮像情報とから、測定対象物Wの載置位置と規定位置とのずれ量を演算する(ステップS1-4)。
【0045】
次いで、ステップS2に移行し、膜厚測定系1a-4を起動させ、測定対象物Wの各部位のスペクトル情報を取得させて画像メモリ装置6に格納させる。
次いで、ステップS3aに移行し、スペクトル情報のうち、膜厚演算を行う演算対象を特定する。このとき、ステップS1-4で演算したずれ量を考慮して、演算対象のスペクトル情報を特定する。
そして、演算対象として特定したスペクトル情報をもとに膜厚演算を行い(ステップS4)、演算結果を、表示装置8aに表示する(ステップS5)。
【0046】
このようにして得られた「膜厚」は、移動テーブル2b上における、測定対象物Wと規定位置とのずれ量を考慮して算出した膜厚であるため、測定対象物Wに対して設定した演算対象に対応する膜厚である。したがって、移動テーブル2b上の測定対象物Wの実際の載置位置と規定位置とのずれ量に起因して膜厚の演算精度が低下することを回避することができる。
したがって、上記第一実施形態と同等の作用効果を得ることができると共に、さらに、移動テーブル2b上の測定対象物Wの載置位置に起因する膜厚の演算精度の低下を回避することができる。
また、このように、測定対象物Wを、移動テーブル2b上の規定位置に載置しなくとも、精度よく膜厚演算を行うことができるため、高精度な位置決めを行う装置を用いて測定対象物Wを、規定位置に載置する必要はない。そのため、高精度な位置決め精度を必要とすることなく、高精度な膜厚演算を行うことができる。
【0047】
次に、本発明の第七実施形態を説明する。
この第七実施形態に係る膜厚測定装置1-6は、第一実施形態に係る膜厚測定装置1において、演算対象のスペクトル情報の特定方法が異なる。なお、第一実施形態と同一部には同一符号を付与し、その詳細な説明は省略する。
第七実施形態に係る膜厚測定装置1-6は、
図14に示すように、第一実施形態に係る膜厚測定装置1において、位置情報記憶部9aに代えて特徴情報記憶部9dを備える。特徴情報記憶部9dには、基板101、実装部品102、配線103の三つの部材それぞれの上に、温度補償膜104を形成した場合に、各部材それぞれの上に形成された温度補償膜104から得られるスペクトル情報の特徴を表す情報が、特徴情報として格納される。特徴情報としては、例えば、スペクトルの最大値、スペクトルの最小値、スペクトルの平均値、スペクトルの偏差等、三つの部材の上に形成された温度補償膜104全体から得られるスペクトル情報から、いずれの部材の上に形成された部位からのスペクトル情報であるかを特定することの可能な値に設定される。例えば、LN(ニオブ酸リチウム)等の反射率が比較的低い低反射率基材からなる基板101上に、アルミニウム等の反射率が比較的高い光反射率基材からなる配線103のみが形成された測定対象物Wである場合には、測定対象物Wの表面全体の各膜厚測定点におけるスペクトル波形は、反射率の取り得る範囲が分かれ、例えば
図15に示すように、反射率が比較的高い波形(a)と、反射率が比較的低い波形(b)とに分かれることになる。基板101上には配線103のみしか形成されていないため、各測定点から得られたスペクトル波形のうち、反射率が比較的高いスペクトル波形に対応する測定点は、温度補償膜104のうち基板101の上に形成された部位に属する測定点、反射率が比較的低いスペクトル波形に対応する測定点は、温度補償膜104のうち配線103の上に形成された部位に属する測定点であるとみなすことができる。
【0048】
したがって、例えば、測定対象物Wの温度補償膜104の下地となる部材の素材に応じて反射波の閾値を設定しておき、得られたスペクトル情報に対して反射波が閾値よりも小さいものは、基板101上の温度補償膜104に対応する測定点からの反射波、逆に反射波が閾値よりも大きいものは、配線103上の温度補償膜104に対応する測定点からの反射波であるとみなすことで、温度補償膜104のうち、基板101上に対応する部位のみからのスペクトル情報、或いは配線103上に対応する部位のみからのスペクトル情報を抽出することができる。
【0049】
閾値として、基板101のみの上に形成された温度補償膜104から得られるスペクトル情報のみを抽出できる値を設定し、配線103のみの上に形成された温度補償膜104から得られるスペクトル情報のみを抽出できる値に設定することによって、スペクトル情報から、温度補償膜104のうちの、一つの部材上に形成された部位のみのスペクトル情報を抽出することができる。そのため、抽出したスペクトル情報のみに基づき膜厚を演算することによって、高精度な膜厚演算を行うことができる。
【0050】
図16は、膜厚測定時の膜厚演算部8での処理手順の一例を示すフローチャートである。
膜厚演算部8では、まず、膜厚測定系1a-5を起動させ、測定対象物Wの表面全体のスペクトル情報を取得させて画像メモリ装置6に格納させる(ステップS11)。
次いで、ステップS12に移行し、特徴情報記憶部9dに格納されている特徴情報を読み出す。特徴情報としては、例えば、基板101上に、実装部品102と、配線103とが形成された測定対象物Wにおいて、配線103の上に形成された温度補償膜104の膜厚を測定する場合には、測定対象物Wの表面全体から得られたスペクトル情報の中から、温度補償膜104のうち配線103のみの上に形成された部位からのスペクトル情報のみを抽出し得る反射波の閾値を特徴情報として設定しておく。
【0051】
そして、ステップS11で取得したスペクトル情報のうち、反射率が、ステップS12で読み出した特徴情報すなわち閾値を上回るスペクトル情報を、演算対象のスペクトル情報として特定する(ステップS13)。
次いで、演算対象として特定したスペクトル情報に基づき膜厚を演算し(ステップS14)、演算結果を表示装置8aに表示する(ステップS15)。
これにより、温度補償膜104のうち、配線103のみの上に形成された部位の膜厚が表示装置8aに表示される。
このようにスペクトル情報の特徴情報を用いることで、測定対象物Wの設計情報がなく位置情報が得られない場合であっても、温度補償膜104のうち、一の部材の上に形成された部位のみからのスペクトル情報を抽出することができ、高精度に膜厚演算を行うことができる。
【0052】
また、スペクトル情報の特徴情報を用いることで、一の部材の上に形成された部位の膜厚測定を行うことができる。そのため、設計情報が得られない場合、また、測定対象物Wが移動テーブル2b上の規定位置からずれた位置に配置された場合であっても、温度補償膜104の一つの部材のみの上に形成された部位のスペクトル情報に基づいて膜厚を演算することができる。つまり、測定対象物Wを移動テーブル2bの規定位置に載置する際に、高精度な位置決め精度を必要とすることなく、膜厚の検出精度を向上させることができる。
なお、ここでは、反射率が特徴情報としての閾値以上となる波形を抽出する場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、部材の素材によって、スペクトル波形を複数の帯域に分けることができる場合には、複数の閾値を設定し、複数の帯域に分けるようにすればよい。
【0053】
次に、本発明の第八実施形態を説明する。
この第八実施形態に係る膜厚測定装置は、第一実施形態に係る膜厚測定装置1において、演算対象のスペクトル情報の設定方法が異なる。第八実施形態に係る膜厚測定装置の機器構成は、
図1に示す第一実施形態に係る膜厚測定装置1と同一であるのでその詳細な説明は省略する。
第八実施形態に係る膜厚測定装置1では、膜厚の測定対象として指定された部材を含むライン状の領域の単位で、スペクトル情報を取得する。ライン状の領域は、イメージング分光器5による一度の撮影により撮像可能な領域である。
図2に示すように、縦のラインL1又は横のラインL2の領域を単位としてスペクトル情報を取得する。そして、取得したライン状の領域のスペクトル情報のうち、指定された部材に対応するスペクトル情報のみについて膜厚演算を行う。
【0054】
第八実施形態に係る膜厚測定装置1では、測定対象物Wの表面全体のスペクトル情報を取得するのではなく、温度補償膜104のうち、指定された部材を含む領域についてのみライン状の領域毎にスペクトル情報を抽出する。つまりスペクトル情報を取得する必要がない領域についてはスペクトル情報を取得しないため、その分、スペクトル情報の取得に要する所要時間を短縮することができる。
また、取得したスペクトル情報のうち、指定された部材に対応するスペクトル情報についてのみ膜厚演算を行うため、指定された部材に対応する部分の膜厚以外は演算を行わない分、指定された部材に対応する部位の膜厚を取得するまでの演算時間を短縮することができる。
【0055】
図17は、膜厚測定時の膜厚演算部8での処理手順の一例を示すフローチャートである。
膜厚演算部8では、まず、測定対象物Wに関する位置情報を、位置情報記憶部9aから読み込む(ステップS21)。
次いで、ステップS22に移行し、例えば、指定された部材の位置情報に基づき、指定された部材を含む長方形の領域を、走査領域として設定する。
次いで、ステップS23に移行し、膜厚測定系1aを起動させ、ステップS22で特定した走査領域のみを走査させ、走査領域のみから取得したスペクトル情報を画像メモリ装置6に格納させる。これによって、走査領域についてのみライン毎に各測定点のスペクトル情報が取得され、画像メモリ装置6に格納される。
【0056】
続いて、ステップS24に移行し、例えば指定された部材の位置情報に基づき、ステップS23で取得したスペクトル情報のうち、膜厚演算を行う演算対象のスペクトル情報を特定する。
次いで、ステップS25に移行し、演算対象として特定したスペクトル情報について、膜厚演算を行い、演算結果を、表示装置8aに表示する(ステップS26)。
これにより、オペレータは、測定対象物Wの所望の位置の膜厚を容易に認識することができる。
なお、上記各実施形態において、一つの膜厚測定装置に各実施形態で示した複数の機能を設けてもよい。
【0057】
また、上記各実施形態では、測定対象物Wとしてデバイスウエハを適用した場合について説明したが、デバイスウエハに限るものではなく、複数の部材上に形成された膜の膜厚を測定する場合に適用することができる。
また、上記各実施形態においては、測定対象物Wに対してY軸方向に走査することでスペクトル情報を取得する場合について説明したが、X軸方向に走査するようにしてもよい。
また、上記第一から第七実施形態においては、線状光源3とX軸方向のスペクトル情報を一度に測定が可能となるイメージング分光器5を設けることにより、X軸方向に延びるライン上の複数の部位のスペクトル情報を一度に測定する場合について説明したがこれに限るものではなく、線状光源3に代えて点光源を設け、点光源で照射された場所のスペクトル情報をポイント測定用分光器で測定し、Y軸方向だけでなく、X軸方向への走査も行うことにより、X-Y平面上の各測定点の画像データを取得するように構成してもよい。
【0058】
なお、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【符号の説明】
【0059】
1 膜厚測定装置
1-1、1-2、1-3、1-4、1-5、1-6 膜厚測定装置
1a 膜厚測定系
1a-1、1a-2、1a-3、1a-4、1a-5 膜厚測定系
1b 膜厚演算系
1b-1、1b-2、1b-3、1b-4 膜厚演算系
2 測定対象物移動装置
3 線状光源
4 干渉光集光光学系
5 イメージング分光器
6 画像メモリ装置
7 スペクトル解析装置
8 膜厚演算部
8a 表示装置
9 記憶装置
9a 位置情報記憶部
9b 光学定数情報記憶部
9c 規定位置記憶部
9d 特徴情報記憶部
21 測定対象物移載装置
22 測定対象物撮影カメラ
23 位置ずれ検出用カメラ
101 基板
102 実装部品
103 配線
104 温度補償膜
W 測定対象物