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特許7064489非対称なトランスオーラルオーディオ再生のための利得位相等化(GPEQ)フィルタおよびチューニング方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】非対称なトランスオーラルオーディオ再生のための利得位相等化(GPEQ)フィルタおよびチューニング方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/04 20060101AFI20220427BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
H04R3/04
H04R3/00 310
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2019519693
(86)(22)【出願日】2017-10-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 US2017055892
(87)【国際公開番号】W WO2018071390
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-10-09
(31)【優先権主張番号】15/290,392
(32)【優先日】2016-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503206684
【氏名又は名称】ディーティーエス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】DTS,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】シュタイン エドワード
(72)【発明者】
【氏名】コルセロ デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】シー グァンジー
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0008170(US,A1)
【文献】特開2008-160265(JP,A)
【文献】特開2001-057699(JP,A)
【文献】特開2004-172703(JP,A)
【文献】特開2008-282202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/04
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非対称な振幅応答を示す同様の数のオーディオスピーカーを有するオーディオデバイスによってリスナーの位置でのトランスオーラル再生のために各オーディオチャネルを搬送される少なくとも二つのトランスオーラルオーディオ信号を予め調整するための利得位相等化(GPEQ)フィルタであって、
少なくとも二つのオーディオスピーカーの前記振幅応答を前記リスナーの位置で再生される前記オーディオスピーカーの低周波クロスオーバーFcよりも高域のターゲット応答に正規化するように構成された非対称なFIRフィルタバンクと、
前記トランスオーラルオーディオ信号の相対位相関係を維持しながら前記低周波クロスオーバーFcよりも高域にハイパスフィルタをかけ、前記少なくとも二つのオーディオスピーカーの前記振幅応答を等化するように構成された対称なIIRフィルタバンクコンポーネントを含むIIRフィルタバンクと、
を備える、GPEQフィルタ。
【請求項2】
前記ターゲット応答が前記少なくとも二つのオーディオスピーカーの平均振幅応答を含む、請求項1に記載のGPEQフィルタ。
【請求項3】
前記同様の数のオーディオスピーカーが非対称な位相応答を示すために前記リスナーの位置に関して非対称に位置し、前記非対称なFIRフィルタバンクが前記リスナーの位置で前記少なくとも二つのオーディオスピーカーの群遅延および前記位相応答を正規化するために遅延を含むように構成される、請求項1に記載のGPEQフィルタ。
【請求項4】
前記トランスオーラルオーディオ信号がサンプリング周期にサンプリングされたオーディオサンプルのシーケンスとしてそれぞれ表され、前記遅延が非整数のサンプリング周期である、請求項3に記載のGPEQフィルタ。
【請求項5】
前記非対称なFIRフィルタが前記少なくとも二つのオーディオスピーカーの前記振幅応答および群遅延を正規化するようにのみ構成され、前記対称なIIRフィルタバンクコンポーネントがハイパスフィルタにのみ設定されて少なくとも二つのオーディオスピーカーの前記振幅応答を等化する、請求項3に記載のGPEQフィルタ。
【請求項6】
前記同様の数のオーディオスピーカーが前記リスナーの位置に関して非対称に位置し、前記リスナーの位置での前記少なくとも二つのオーディオスピーカーの群遅延および位相応答を正規化するために全域通過振幅応答を有する遅延のみの要素をさらに備える、請求項1に記載のGPEQフィルタ。
【請求項7】
前記IIRフィルタバンクが前記少なくとも二つのトランスオーラルオーディオ信号の前記相対位相関係を保存しながら前記低周波クロスオーバーFc付近の前記少なくとも二つのオーディオスピーカーの前記振幅応答に残留する非対称性を補正するように構成された非対称なIIRフィルタバンクコンポーネントをさらに含む、請求項1に記載のGPEQフィルタ。
【請求項8】
前記非対称なIIRフィルタバンクコンポーネントが前記低周波クロスオーバーFcにおいて前記少なくとも二つのオーディオスピーカーの前記振幅応答を等化するように構成される、請求項7に記載のGPEQフィルタ。
【請求項9】
前記非対称なIIRフィルタバンクコンポーネントが位相平衡IIRフィルタを備え、位相平衡IIRフィルタの各セクションが、
第一の位相応答を生成するために前記振幅応答の半分を有する第一のEQフィルタおよび前記トランスオーラルオーディオ信号のうち一つを等化しながらシステムのゼロに起因する前記第一の位相応答の一部を打ち消す第二の位相応答を生成するために単位円の周りを往復運動する前記ゼロを有する前記振幅応答の同じ半分を有する第二のEQフィルタと、
他の全てのトランスオーラルオーディオ信号の前記相対位相関係を保存するためのシステム極に起因する前記第一の位相応答の一部を打ち消すために前記第一および第二の位相応答の組合せに等しい第三の位相応答を伴う全域通過振幅応答を有する平衡フィルタと、
を備える、請求項7に記載のGPEQフィルタ。
【請求項10】
前記非対称なIIRフィルタバンクコンポーネントが各セクションに前記トランスオーラルオーディオ信号のうち一つを等化するために前記振幅応答および第一の調整された位相応答を有するEQフィルタのみを含む位相補償IIRフィルタならびに他の全てのトランスオーラルオーディオ信号を位相平衡させるために全域通過振幅応答および第二の調整された位相応答を有する平衡フィルタを備え、前記EQフィルタおよび前記平衡フィルタの前記第一および第二の調整された位相応答がそれぞれ設計通りのEQ、および設計通りであるが0dBの利得を使用した前記EQの過剰位相と等価である、請求項7に記載のGPEQフィルタ。
【請求項11】
前記EQフィルタおよび前記平衡フィルタが同じフィルタ次数を有する、請求項10に記載のGPEQフィルタ。
【請求項12】
前記GPEQフィルタに、
M<=Nであるタップが前記オーディオデバイスの係数を用いて非対称に構成されるNタップFIRフィルタバンクと、
Yセクションが前記オーディオデバイスの係数を用いて対称に構成され、Zセクションが前記オーディオデバイスの係数を用いて非対称に構成され、Y+Z<=XであるX個のIIRフィルタセクションを含むIIRフィルタバンクと、
を含む、請求項7に記載のGPEQフィルタ。
【請求項13】
前記非対称なFIRフィルタバンクが線形位相FIRフィルタバンクである、請求項1に記載のGPEQフィルタ。
【請求項14】
リスナーの位置に関して非対称な振幅応答および非対称な到着時間(TOA)を示す左右のオーディオスピーカーを有するオーディオデバイスによって前記リスナーの位置でのトランスオーラル再生のために各オーディオチャネルを搬送される左右のトランスオーラルオーディオ信号を予め調整するための利得位相等化(GPEQ)フィルタであって、
少なくとも二つのオーディオスピーカーの前記振幅応答を前記オーディオスピーカーの低周波クロスオーバーFcよりも高域の前記左右のオーディオスピーカーの平均振幅応答を含むターゲット応答に正規化し、前記リスナーの位置で前記左右のトランスオーラルオーディオ信号の前記TOAを正規化するようにのみ構成された非対称なFIRフィルタバンクと、
前記低周波クロスオーバーFcよりも高域にハイパスフィルタをかけ、前記左右のオーディオスピーカーの前記振幅応答を等化するように構成された対称なIIRフィルタバンクコンポーネントおよび前記左右のトランスオーラルオーディオ信号の相対位相を保存しながら前記低周波クロスオーバーFc付近の前記左右のオーディオスピーカーの前記振幅応答に残留する非対称性を補正するようにのみ構成された非対称なIIRフィルタバンクコンポーネントを含むIIRフィルタバンクと、
を備える、GPEQフィルタ。
【請求項15】
前記非対称なIIRフィルタバンクコンポーネントが各セクションに前記トランスオーラルオーディオ信号のうち一つを等化するために前記振幅応答および第一の調整された位相応答を有するEQフィルタならびに他の全てのトランスオーラルオーディオ信号を位相平衡させるために全域通過振幅応答および位相応答を有する平衡フィルタのみを含む位相補償IIRフィルタを備える、請求項14に記載のGPEQフィルタ。
【請求項16】
リスナーの位置でのトランスオーラルオーディオレンダリングのためのオーディオデバイスであって、
各オーディオチャネルに複数のバイノーラルオーディオ信号を生成するように構成されたプロセッサと、
前記各オーディオチャネルの前記バイノーラルオーディオ信号を処理し、複数のトランスオーラルオーディオ信号を出力するように構成されたクロストークキャンセルフィルタと、
前記リスナーの位置に前記複数のトランスオーラルオーディオ信号をレンダリングするように構成された複数のオーディオスピーカーであって、前記複数のオーディオスピーカーが低周波クロスオーバーFcおよび非対称な振幅応答を示す、複数のオーディオスピーカーと、
少なくとも二つのトランスオーラルオーディオ信号を予め調整するための利得位相等化(GPEQ)フィルタであって、
前記低周波クロスオーバーFcよりも高域の前記少なくとも二つのオーディオスピーカーの前記振幅応答を前記リスナーの位置で再生される前記少なくとも二つのオーディオスピーカーの平均振幅応答を含むターゲット応答に正規化するように構成された非対称なFIRフィルタバンクと、
前記トランスオーラルオーディオ信号の相対位相関係を維持しながら前記低周波クロスオーバーFcよりも高域にハイパスフィルタをかけ、前記少なくとも二つのオーディオスピーカーの前記振幅応答を等化するように構成された対称なIIRフィルタバンクコンポーネントを含むIIRフィルタバンクと、
を備えるGPEQフィルタと、
を備える、オーディオデバイス。
【請求項17】
前記複数のオーディオスピーカーが前記リスナーの位置に関して非対称に位置し、前記非対称なFIRフィルタバンクが前記リスナーの位置において前記少なくとも二つのトランスオーラルオーディオ信号の到着時間(TOA)を正規化するために遅延を含むように構成される、請求項16に記載のオーディオデバイス。
【請求項18】
前記IIRフィルタバンクが前記少なくとも二つのトランスオーラルオーディオ信号の相対位相を保存しながら前記低周波クロスオーバーFc付近の前記少なくとも二つのオーディオスピーカーの前記振幅応答に残留する非対称性を補正するように構成された非対称なIIRフィルタバンクコンポーネントをさらに含む、請求項16に記載のGPEQフィルタ。
【請求項19】
非対称な振幅応答または非対称な到着時間(TOA)を示す同様の数のオーディオスピーカーを有するオーディオデバイスによってリスナーの位置でのトランスオーラル再生のために各オーディオャネルを搬送される少なくとも二つのトランスオーラルオーディオ信号を予め調整するために利得位相等化(GPEQ)フィルタをチューニングするための方法であって、
前記オーディオスピーカーの低周波クロスオーバーFcを決定することと、
少なくとも二つのオーディオスピーカーの前記振幅応答を前記低周波クロスオーバーFcよりも高域のターゲット応答に正規化するために非対称なFIRフィルタバンクをチューニングすることと、
前記リスナーの位置で前記少なくとも二つのトランスオーラルオーディオ信号の前記TOAを正規化するために遅延を構成することと、
対称なIIRフィルタバンクコンポーネントが前記低周波クロスオーバーFcよりも高域にハイパスフィルタをかけ、前記少なくとも二つのオーディオスピーカーの前記振幅応答を等化するように構成するためにパラメトリック等化プロセスを手動で実行することと、
前記非対称なFIRフィルタバンクおよび前記対称なIIRフィルタバンクコンポーネントの係数を記憶することと、
を含む、方法。
【請求項20】
前記非対称なFIRフィルタバンクをチューニングするステップが、
各スピーカーの応答を測定することと、
前記リスナーの位置での前記オーディオスピーカーの振幅応答および相対遅延を決定することと、
測定された振幅応答から平均振幅応答を算出することと、
各振幅応答を前記低周波クロスオーバーFcよりも高域の前記平均振幅応答に反転させるFIRフィルタを算出することおよび前記振幅応答を前記低周波クロスオーバーFcよりも低域では0dBに固定することと、
各FIRフィルタのフィルタ応答を基本遅延に最大TOA遅延を加え前記スピーカーによって再生された前記トランスオーラルオーディオ信号の前記TOA遅延を引いたものに等しい遅延を有する線形位相FIRフィルタに窓関数を掛け、変換することと、
を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記非対称なFIRフィルタバンクをチューニングするステップが、
各スピーカー振幅応答を等化するために非対称なIIRフィルタを手動でチューニングすることと、
各スピーカー振幅応答を等化するために全フィルタの集合的なインパルス応答を算出することと、
各スピーカーのFIRフィルタを生成するために集合的なインパルス応答に窓関数を掛けることと、
各スピーカーの前記FIRフィルタを基本遅延に最大TOA遅延を加え前記スピーカーによって再生された前記トランスオーラルオーディオ信号の前記TOA遅延を引いたものに等しい遅延を有する線形位相フィルタに変換することと、
を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも二つのトランスオーラルオーディオ信号の相対位相を保存しながら前記低周波クロスオーバーFc付近の前記少なくとも二つのトランスオーラルオーディオ信号の前記振幅応答に残留する非対称性を補正するための非対称なIIRフィルタバンクコンポーネントを構成するために前記振幅応答を手動で調整することをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記非対称なIIRフィルタバンクコンポーネントが各セクションに前記トランスオーラルオーディオ信号のうち一つを等化するために前記振幅応答および第一の調整された位相応答を有するEQフィルタならびに他の全てのトランスオーラルオーディオ信号を位相平衡させるために全域通過振幅応答および位相応答を有する平衡フィルタのみを含む位相補償IIRフィルタを備え、前記EQフィルタおよび前記平衡フィルタの次数が同じである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記EQフィルタの前記調整された位相応答が、システムのゼロを単位円の外側に往復運動させることによりEQフィルタと等価な最小でない位相を生成することによって達成される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記平衡フィルタが、極が第一のEQフィルタの極と整列するように0dBの利得であるが前記EQフィルタと同じ中心周波数を有するPEQフィルタを設計すること、ならびに前記EQフィルタおよび前記平衡フィルタが無視できる程度の差で相対位相応答を有するようにシステムのゼロを単位円の外側に往復運動させること、によって生成される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
M<=Nであるタップが前記オーディオデバイスの係数を用いて非対称に構成されるNタップFIRフィルタバンクを提供することと、
Yセクションが前記オーディオデバイスの係数を用いて対称に構成され、Zセクションが前記オーディオデバイスの係数を用いて非対称に構成され、Y+Z<=XであるX個のIIRフィルタセクションを含むIIRフィルタバンクを提供することと、
をさらに含む、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[本発明の分野]
本発明はトランスオーラルオーディオ再生に関し、特には、ラップトップ、タブレット、および他の小型または携帯用のオーディオデバイス、スピーカーシステムでの非対称なトランスオーラルオーディオ再生のための、またはヘッドフォンでの非対称なバイノーラル再生のための、利得位相等化(GPEQ)フィルタおよびチューニング方法に関する。
【0002】
[関連技術の説明]
録音およびオーディオ再生において、等化(「EQ」)は周波数コンポーネント間のバランスを調整するために線形フィルタを使用して個々のオーディオチャネルの周波数応答を変えるために一般的に使用されるプロセスである。線形フィルタは特定の周波数帯域のエネルギーをブーストまたは遮断する。EQは、スピーカーのクロスオーバー周波数Fcよりも低域の低周波コンテンツを取り除くことによってスピーカープロテクションを提供するため、および全体的なトーンコントロールを提供するために使用することができる。
【0003】
イコライザはEQを達成するために使用される機器の一部である。グラフィックイコライザにより、音響技術者またはフィールドアプリケーションエンジニアは各帯域に垂直なスライダを使用していくつかの中心周波数で振幅をブーストまたは遮断することが可能になる。パラメータイコライザ(「PEQ」)により、音響技術者またはフィールドアプリケーションエンジニアは各帯域の振幅、中心周波数および帯域幅を制御することが可能になる。パラメトリックイコライザはグラフィックイコライザよりもはるかに正確に音響の調整を行うことができるが、チューニングに関するより多くの専門知識が要求される。例示的な設計では、各PEQ帯域は異なる二次IIR(無限インパルス応答)フィルタセクションに対応する。このような場合、ユーザは各帯域のフィルタの種類、振幅、中心周波数および帯域幅を手動で調整するが、これは次に二次IIRフィルタセクションの係数に変換される。全体のEQ応答を形成するために様々な種類のフィルタの複数の帯域をカスケード接続することができる。このようなフィルタ設計方法の例は、www.musicdsp.org/files/Audio-EQ-Cookbook.txt.で公開されている、Robert Bristow-JohnsonによるAudio EQ Cookbookで論じられている。
【0004】
ステレオオーディオは、多方向に聞こえる遠近感の錯覚を生じさせる音響再生の方法である。これは二つの独立したオーディオチャネルを使用して、二つのオーディオスピーカーの構成を通してスピーカーの配置によって制限された様々な方向から聞こえる音の印象を作り出すような方法で達成される。マルチチャネルまたは「サラウンド(surround)」オーディオは(音が聞こえる可能性のある範囲を取り除いて)リスナーを完全に囲むようにさらなるチャネルやスピーカーを追加するが、そのようなシステムは実用的でないかまたは携帯可能でない。バイノーラルオーディオはリスナーの耳元で再生するために特別に設計された二つのチャネルを使用してリスナーに完全な3Dサラウンドサウンド感覚を生じさせる音響再生の方法である。バイノーラルオーディオとステレオオーディオはしばしば混同される。ステレオスピーカーの再生は、リスナーの自然な耳の間隔または他の形態を考慮しておらず、またステレオスピーカーのクロストークがバイノーラル再生を妨害するため、ヘッドフォンが必要とされるか、これらの要因を考慮したリスナーの位置でオーディオスピーカーを介して再生するトランスオーラルオーディオ信号を生成するためにオーディオチャネルを予め調整するためのクロストークキャンセル(CTC)フィルタが必要とされる。そのプロセスは複数の発明において説明され、改善されてきた。このような初期の例は、AtalおよびSchroederによる米国特許第3,236,949号「Apparent Sound Source Translator」である。この特許を通して論じられるように、EQ、特にPEQはステレオ、バイノーラルおよびトランスオーラルオーディオ信号に適用することができるが、それがリスナーの要因およびトランスオーラルまたはバイノーラルオーディオ信号によって説明される形態と相互に影響しないように注意する必要がある。
【0005】
多くのオーディオシステムでは、スピーカーの構成はリスナーの位置に関して対称であるか、または対称であると想定されている。スピーカーの振幅応答(例えば、全てのスピーカーが同じである)ならびに群遅延および位相応答(例えば、全てのスピーカーがリスナーの位置に対して等距離に位置する)のいずれにおいても対称である。これらのシステムでは、PEQは全てのチャネルに対称に適用される。
【0006】
ラップトップ、タブレット、所定のヘッドフォンおよび他の小型または携帯用のオーディオデバイスまたはスピーカーシステムのような、所定のオーディオシステムでは、スピーカー構成は振幅応答ならびに/または群遅延および位相応答のいずれかにおいて非対称である。例えば、ラップトップコンピュータでは他のパッケージ上の制約に対処するために物理的に異なるスピーカーを様々な位置に配置し得る。これらのシステムでは、EQを実行するだけでなく振幅の非対称性を補償するためにEQまたはPEQをチャネルに関して非対称に適用しなければならない。非対称な配置を補償するために群遅延補償を使用することができる。
【0007】
問題は、非対称なPEQにおいて従来から使用されている二次IIRフィルタセクションがオーディオ信号の相対位相を保存しないことである。従来のステレオオーディオの場合、これは「ステレオイメージング(stereo imaging)」に影響を与える可能性があるが、低コストのモバイルデバイスでは通常は許容される。しかしながら、バイノーラル信号および特にトランスオーラルオーディオ信号の場合、位相保存の喪失は壊滅的である。CTCフィルタによって減算される信号の振幅およびタイミングは喪失する。その結果、実際にはクロストークが増加する可能性がある。
【0008】
標準的なCTCフィルタはリスナーの位置での対称な再生を想定している。非対称な補正をCTCフィルタ自体に組み込むためのいくつかの手法が提案されてきた。例えば、米国特許第8,050,433を参照されたい。この手法の欠点は、それが非対称な振幅応答に対処しないことであり、空間オーディオ設計をデバイスの主観的な等化に結び付けるであろうということである。(二つの物事は通常、設計プロセスの異なる時点で、また通常は異なるチームそして会社によっても、独立して扱われる。)結合が許容できるものであっても、非対称な等化は典型的なクロストークキャンセル設計の単純な遅延では容易に補償することのできない周波数に依存する位相応答を生じさせる。
【0009】
トランスオーラルオーディオの現状の技術は、選択することである。従来のPEQが適用されてオーディオの3D空間的性質が失われるか、またはEQが適用されないかのどちらかである。トランスオーラルオーディオは非対称オーディオデバイス市場に浸透し続けているため、これは許容しがたい状況である。
【発明の概要】
【0010】
本概要は以下の詳細な説明でさらに説明される概念の選択を単純化された形態で紹介するために提供される。本概要は主張する主題の主要な特徴または本質的な特徴を特定することを意図するものではなく、主張する主題の範囲を限定するために使用されることを意図するものでもない。
【0011】
本明細書に記載のGPEQフィルタの実施形態はPEQ機能を保存しながらリスナーの位置でのトランスオーラル再生のためにオーディオスピーカーの非対称性(振幅および/または群遅延/位相応答)を取り除くため各オーディオチャネルを搬送されるトランスオーラルオーディオ信号を予め調整するための(CTCから独立した)モジュール式の解決策およびフィルタのチューニング方法を提供する。GPEQフィルタは正確に非対称な振幅を補正するために必要な高周波感度を提供する。GPEQフィルタは実装(例えば、フィルタタップが低次または#)および/またはチューニング(例えば、大部分が自動化されたプロセス)が比較的安価である。
【0012】
GPEQフィルタの実施形態は非対称なFIRフィルタバンクおよびIIRフィルタバンクを備える。非対称なFIRフィルタバンクは少なくとも二つのオーディオスピーカーの振幅応答をリスナーの位置で再生されるオーディオスピーカーの低周波クロスオーバーFcよりも高域のターゲット応答に正規化するように構成される。ターゲット応答は少なくとも二つのオーディオスピーカーの平均振幅応答を含み得る。非対称なFIRフィルタバンクはリスナーの位置での群遅延および少なくとも二つオーディオスピーカーの位相応答を正規化するために、場合によっては非整数の遅延を含むように構成され得る。IIRフィルタバンクは低周波クロスオーバーFcよりも高域にハイパスフィルタをかけ、少なくとも二つのオーディオスピーカーの振幅応答を等化するように構成された対称なIIRフィルタバンクコンポーネントを含む。IIRフィルタバンクは少なくとも二つのトランスオーラルオーディオ信号の相対位相を保存しながら低周波クロスオーバーFc付近の少なくとも二つのオーディオスピーカーの振幅応答に残留する非対称性を補正(例えば、Fcにおける振幅応答の等化)するように構成された非対称なIIRフィルタバンクコンポーネントをさらに含み得る。位相保存は位相平衡または位相補償IIRフィルタセクションを使用して達成され得る。FIRおよびIIRフィルタは線形時不変フィルタであり、実装の順序は問題ではない。
【0013】
GPEQフィルタの実施形態はM<=Nであるタップが特定のオーディオデバイスの係数を用いて非対称に形成されるNタップFIRフィルタバンク、およびYセクションがオーディオデバイスの係数を用いて対称に構成され、Zセクションがオーディオデバイスの係数を用いて非対称に構成されるY+Z<=XであるX個のIIRフィルタセクションを含むIIRフィルタバンクを含み得る。このように、GPEQフィルタを実装するためのアーキテクチャおよびハードウェアはオーディオデバイスの種類によらず普遍のものである。その全ての変更は特定のデバイスのGPEQフィルタに読み込まれる係数である。
【0014】
リスナーの位置でトランスオーラルオーディオをレンダリングするためのオーディオデバイスの実施形態は、各オーディオチャネルに複数のバイノーラルオーディオ信号を生成するように構成された空間オーディオプロセッサ、アコースティッククロストークを打ち消して各オーディオチャネルにトランスオーラルオーディオ信号を出力するためにバイノーラルオーディオ信号を予め調整するように構成されたクロストークキャンセル(CTC)フィルタ、スピーカープロテクションおよびPEQを実行し、オーディオスピーカーに起因するあらゆる非対称性を取り除くために少なくとも二つのトランスオーラルオーディオ信号を予め調整するように構成された利得位相等化(GPEQ)フィルタ、およびリスナーの位置に複数のトランスオーラルオーディオ信号をレンダリングするように構成された複数のオーディオスピーカーを備える。
【0015】
GPEQフィルタのチューニングの実施形態は、オーディオスピーカーの低周波クロスオーバーFcを決定すること、少なくとも二つのオーディオスピーカーの振幅応答を低周波クロスオーバーFcよりも高域のターゲット応答に正規化するために非対称なFIRフィルタバンクをチューニングすること、リスナーの位置で少なくとも二つのトランスオーラルオーディオ信号の到着時間(TOA)または「群遅延(group delay)」を正規化するために遅延を構成すること、対称なIIRフィルタバンクコンポーネントが低周波クロスオーバーFcよりも高域にハイパスフィルタをかけ、少なくとも二つのオーディオスピーカーの振幅応答を等化するように構成するためにパラメトリック等化(PEQ)プロセスを手動で実行すること、相対位相を保存しながらFc付近に残留する非対称性を補正するための非対称なIIRフィルタバンクコンポーネントを構成するために非対称なPEQプロセスを任意選択的に手動で実行すること、および非対称なFIRフィルタバンクおよびIIRフィルタバンクコンポーネントの係数を記憶することを含む。
【0016】
特定の実施形態に応じて、代替の実施形態が可能であり、本明細書で論じられるステップおよび要素は変更され、追加され、または除かれ得ることに留意されるべきである。これら代替の実施形態は本発明の範囲から逸脱することなく使用され得る代替のステップおよび代替の要素、ならびになされ得る構造的な変更を含む。
【0017】
ここで、同様の参照番号が全体を通して対応する部分を表す図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1a-c】図1a-図1cはそれぞれ対称なオーディオデバイス、非対称なオーディオデバイス、および利得位相等化を用いた非対称なオーディオデバイスのダイアグラムである。
図2図2はスピーカーの非対称性を取り除くために各オーディオチャネルのトランスオーラルオーディオ信号を予め調整するためのGPEQフィルタを含む非対称なオーディオデバイスの実施形態のブロックダイアグラムである。
図3a図3aはリスナーの位置でのアコースティッククロストークおよび対称な振幅応答およびオーディオスピーカーの配置を仮定したリスナーの位置でのトランスオーラル再生のためのトランスオーラルオーディオ信号を生成するためのクロストークキャンセル処理のダイアグラムである。
図3b図3bはリスナーの位置でのアコースティッククロストークおよび対称な振幅応答およびオーディオスピーカーの配置を仮定したリスナーの位置でのトランスオーラル再生のためのトランスオーラルオーディオ信号を生成するためのクロストークキャンセル処理のダイアグラムである。
図4図4は非対称なFIRフィルタバンクおよびオーディオスピーカーの低周波クロスオーバーFcよりも高域の非対称性を取り除くように構成された遅延、低周波クロスオーバーFc付近に残留する非対称性を取り除くように構成された任意選択的な非対称なIIRフィルタバンクおよび低周波クロスオーバーFcよりも高域にハイパスフィルタをかけるように構成された対称なIIRフィルタバンク、ならびにオーディオスピーカーの振幅応答EQ、を含む、GPEQの実施形態のブロックダイアグラムである。
図5a図5aは非対称なFIR、非対称なIIRおよび対称なIIRの生のスピーカー応答、フィルタ応答および調整されたスピーカー応答および全体的なGPEQフィルタ応答のプロットである。
図5b図5bは非対称なFIR、非対称なIIRおよび対称なIIRの生のスピーカー応答、フィルタ応答および調整されたスピーカー応答および全体的なGPEQフィルタ応答のプロットである。
図5c図5cは非対称なFIR、非対称なIIRおよび対称なIIRの生のスピーカー応答、フィルタ応答および調整されたスピーカー応答および全体的なGPEQフィルタ応答のプロットである。
図5d図5dは非対称なFIR、非対称なIIRおよび対称なIIRの生のスピーカー応答、フィルタ応答および調整されたスピーカー応答および全体的なGPEQフィルタ応答のプロットである。
図5e図5eは非対称なFIR、非対称なIIRおよび対称なIIRの生のスピーカー応答、フィルタ応答および調整されたスピーカー応答および全体的なGPEQフィルタ応答のプロットである。
図5f図5fは非対称なFIR、非対称なIIRおよび対称なIIRの生のスピーカー応答、フィルタ応答および調整されたスピーカー応答および全体的なGPEQフィルタ応答のプロットである。
図5g図5gは非対称なFIR、非対称なIIRおよび対称なIIRの生のスピーカー応答、フィルタ応答および調整されたスピーカー応答および全体的なGPEQフィルタ応答のプロットである。
図5h図5hは非対称なFIR、非対称なIIRおよび対称なIIRの生のスピーカー応答、フィルタ応答および調整されたスピーカー応答および全体的なGPEQフィルタ応答のプロットである。
図6図6は非対称なトランスオーラルオーディオ再生のためにGPEQをチューニングするための方法の実施形態のブロックダイアグラムおよびフローダイアグラムである。
図7図7は非対称なトランスオーラルオーディオ再生のためにGPEQをチューニングするための方法の実施形態のブロックダイアグラムおよびフローダイアグラムである。
図8図8は非対称なFIRフィルタバンクを自動でチューニングするための実施形態のフローダイアグラムである。
図9図9は非対称なFIRフィルタバンクを手動でチューニングするための実施形態のフローダイアグラムである。
図10a図10aは非対称な位相平衡IIRフィルタの実施形態の描写である。
図10b図10bは非対称な位相平衡IIRフィルタの実施形態の描写である。
図10c図10cは非対称な位相平衡IIRフィルタの実施形態の描写である。
図11a図11aは非対称な位相補償IIRフィルタの実施形態の描写である。
図11b図11bは非対称な位相補償IIRフィルタの実施形態の描写である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
GPEQフィルタおよび非対称なトランスオーラルオーディオ再生のチューニング方法の実施形態についての以下の説明では、添付図面を参照する。これらの図面は、例示として、GPEQフィルタおよびチューニング方法の実施形態がどのように実行され得るかについての具体例を示している。主張する主題の範囲から逸脱することなく他の実施形態が活用されてもよく、また構造上の変更がなされてもよいことを理解されたい。
【0020】
本発明の目的はPEQ機能を保存しながら非対称性(振幅および/または群遅延/位相応答)を取り除くための(CTCフィルタから独立した)モジュール式の解決策およびフィルタのチューニング方法を提供することである。フィルタは正確に非対称な振幅を補正するために必要な高周波感度を提供する。フィルタは実装(例えば、フィルタタップが低次または#)および/またはチューニング(例えば、大部分が自動化されたプロセス)が比較的安価である。
【0021】
一つの手法は、二次IIRフィルタセクションを二次位相平衡IIRフィルタで置き換えることである(Peter Eastty、「Balanced Phase Equalization; IIR Filters with Independent Frequency Response and Identical Phase Response」AES Convention、2012年10月)。これらの位相平衡IIRフィルタはトランスオーラルオーディオ信号の相対位相を保存し、したがってリスナーの位置でトランスオーラルオーディオ信号を正確に再生することができる。位置の非対称性を取り除くために群遅延補償を実装することができる。しかしながら、振幅の非対称性を取り除くために非対称なPEQを使用することはいくつかの欠点を有するであろう。EQとは異なり、非対称性を正確に取り除くためのIIRフィルタセクションを手動でチューニングするには、何時間もの退屈な労働が必要になる。IIRフィルタは複雑な非対称性を取り除くための高い周波数分解能を容易には提供しない。このような性能に近付けるには、高次の(高価な)IIRフィルタが必要とされ得る。非対称な位相平衡IIRフィルタを実装してチューニングするためのコストにより、この手法はふさわしくないとみなされる。
【0022】
別の手法は、スピーカープロテクションおよびEQの両方を提供するため、ならびに振幅および群遅延/位相応答の非対称性の両方を取り除くために、PEQで使用されるIIRフィルタを非対称なFIR(有限インパルス応答)フィルタバンクで完全に置き換えることである。FIRフィルタバンクのチューニングは完全に自動化されてもよい。しかしながら、これらの機能の全てを実行するために必要とされる長さの(タップが#である)FIRフィルタは非常に高価である。しかしながら、これらの機能の全てを実行するために必要とされるFIRフィルタの長さ(タップ#)は法外なものである。このようなFIRフィルタの実装はラップトップ、タブレット、および電話またはヘッドフォンのような小型または携帯用のデバイスにはあまりに高価である。さらに、音の特徴を手動で制御するための機能も失われる。
【0023】
本発明によれば、実装およびチューニングが比較的安価であり、非対称性を正確に取り除くために必要な機能を提供し、標準的なPEQを保存するモジュール式の解決策は、利得位相等化(GPEQ)フィルタと呼ばれるハイブリッドフィルタアーキテクチャに基づく。GPEQフィルタはオーディオスピーカーに起因する非対称性を取り除くために各オーディオチャネルのトランスオーラルオーディオ信号を予め調整するため、CTCフィルタの後にくる。
【0024】
GPEQフィルタは非対称なFIRフィルタバンクおよびIIRフィルタバンクの両方を含む。FIRフィルタバンクは少なくとも二つ(例えば、LおよびRまたはマルチチャネル)のオーディオスピーカーの振幅応答をリスナーの位置で再生されるオーディオスピーカーの低周波クロスオーバーFcよりも高域のターゲット応答に正規化するように構成される。必要に応じて、オーディオスピーカーの群遅延は個別の遅延を介して正規化されるか、FIRフィルタバンクに取り込まれる。IIRフィルタバンクは低周波クロスオーバーFcよりも高域にハイパスフィルタをかけ、少なくとも二つのオーディオスピーカーの振幅応答を等化するように構成された対称なIIRフィルタバンクを含む。このコンポーネントはターゲット応答に対してPEQを実行する。IIRフィルタバンクは少なくとも二つのトランスオーラルオーディオ信号の相対位相を保存しながら低周波クロスオーバーFc付近の少なくとも二つのオーディオスピーカーの振幅応答に残留する非対称性を補正するように構成された非対称なIIRフィルタバンクコンポーネントも含み得る。位相保存は位相平衡または位相補償IIRフィルタセクションを使用して達成することができる。FIRおよびIIRフィルタは線形時不変フィルタであるため実装の順序は問題ではない。FIRフィルタバンクが自動でチューニングされ得るのに対し、対称および非対称なIIRフィルタバンクセクションは手動でチューニングされる。フィルタはPEQを実行するためにFIRフィルタ、非対称なIIRおよび最終的には対称なIIRの順にチューニングされる。
【0025】
GPEQフィルタによりCTCフィルタから独立したモジュール式の解決策を提供し、対称なCTCフィルタを使用することが容易になる。GPEQフィルタがハイブリッド性であるため、実装およびチューニングが安価になる。FIRフィルタバンクは低周波クロスオーバーFcよりも高域のオーディオコンテンツの処理に限定されており、ある実施形態では、振幅応答を平均振幅応答に正規化するため、タップが比較的少ない。FIRフィルタは高周波非対称性を良好に補正し、自動でチューニングすることができる。IIRフィルタバンクは、標準的なPEQを実行し、(もしあれば)Fc付近に残留する少数の非対称性を取り除くことのみに限定されているため、低次である。このタイプの手動チューニングは管理が容易である。
【0026】
図1aを参照すると、全ての空間オーディオ技術(例えば、ステレオ、バイノーラル、トランスオーラル(L/Rまたはマルチチャネル))は、オーディオデバイス100がリスナーの位置102に対する位置およびオーディオスピーカー104の振幅応答の両方について対称性を示すことを必要とする。これらの要件は、図1bに示されるようなリスナーの位置112に関して非対称に位置する(振幅応答が異なる)別のオーディオスピーカー108および110を有する民生用モバイル機器106(例えば、電話、タブレット、ラップトップ、モバイルゲーム機)によってはほとんど達成されない。前述のように、このような非対称性は従来のPEQが適用される場合にはリスナーの位置で再生されるトランスオーラルオーディオの3D空間性質に壊滅的な影響を及ぼす可能性がある。図1cに示されるように、非対称なスピーカー116および118を有する民生用モバイル機器114の各オーディオチャネルのトランスオーラルオーディオ信号を予め調整するためにCTCフィルタの下流でGPEQフィルタを使用することにより、リスナーの位置122でトランスオーラルオーディオを再生するために見かけ上対称な一対のスピーカー120および118を生成するため、振幅および群遅延/位相応答の非対称性を取り除く。
【0027】
図2を参照すると、オーディオデバイス200の一実施形態は非対称な振幅応答および予想されるリスナーの位置に関して非対称な位置を示す少なくとも二つのオーディオスピーカー202を備える。空間オーディオプロセッサ204は各オーディオチャネルにバイノーラルオーディオ208を生成するためにオーディオ206(ストレージ/ストリーミング/等)を受信し、処理するように構成される。クロストークキャンセル(CTC)フィルタ210はスピーカーの振幅応答および位置が対称であると想定して、各オーディオチャネルに少なくとも二つのトランスオーラルオーディオ信号212を生成するためにバイノーラルオーディオ信号を予め調整するように構成される。GPEQフィルタ214は非対称なスピーカーについて補正されたリスナーの位置でのトランスオーラル再生のための補正されたトランスオーラルオーディオ信号216を生成するためにトランスオーラルオーディオ信号212を予め調整するように構成される。各チャネルから他のチャネルへのクロストークを防ぐのがCTCであるため、GPEQフィルタはCTCの後でなければならない。GPEQがCTCの前であった場合、等化および遅延の非対称な部分が誤った信号に部分的に取り入れられ得る。信号216は、オーディオスピーカー202を動作させるためにデジタル信号をアナログ信号220に変換するデジタルオーディオコンバータ/増幅器218に供給される。
【0028】
本技術の譲受人であるDTS,Inc.,はラップトップ、タブレットおよび他の小型または携帯用のデバイスに用いられるヘッドフォン:X(登録商標)等のバイノーラル/トランスオーラル技術を展開してきた。GPEQフィルタはこれらおよび他のバイノーラル/トランスオーラル技術と統合される。
【0029】
図3aおよび図3bを参照すると、クロストークキャンセル処理300はアコースティッククロストーク302の影響を打ち消すために用いられ、それにより(電気的な)バイノーラル左耳信号304およびバイノーラル右耳信号306が各耳において(音響的に)回復される。アコースティッククロストークは、バイノーラル左耳信号S1がリスナーの左耳308への所望の経路およびリスナーの右耳310へのクロストーク経路の両方をたどり、バイノーラル右耳信号S2がリスナーの右耳310への所望の経路およびリスナーの左耳308へのクロストーク経路の両方をたどるときに生じる。CTCフィルタ312はクロストークを防ぐ利得/遅延で重み付けされたミキシングマトリクス314を実装する。ミキシングマトリクス314はトランスオーラルオーディオ信号S1からSNを形成するために様々に遅延またはフィルタリングされた左右の耳信号の重み付けされた組合せを形成することによって左右の耳信号304および306を予め調整する。マトリクスは、アコースティッククロストーク条件302を介して信号S1-SNを提示すると、左耳信号および右耳信号が各耳で回復されるように構成される。例えば、S1は左耳信号304のある量から右耳信号306の遅延量を引いたもので構築され、S2は右耳信号306のある量から左耳信号304の遅延量を引いたもので構築される。これによりキャンセルが発生する。
【0030】
重み付けされたミキシングマトリクス314は伝統的に、リスナーの位置で左右の耳信号を再生する対称な一対のオーディオスピーカー316および318を想定して構築される。スピーカー316および318は同じ振幅応答を示し、またリスナーの左右の耳への距離が等しい。2チャネルオーディオの場合、一対の対称なスピーカー316および318が存在する。マルチチャネルオーディオの場合、対称なスピーカー316/318、320/322等の複数の対が存在する。異なる対は異なるスピーカーおよびリスナーの位置への異なる距離を有し得るが、対の中では対称である。
【0031】
対称性の制約によりGPEQ解決策のモジュール式の解決策が決定する。これはいくつもの理由により好適である。第一に、対称性の条件によりミキシングマトリクスおよびCTCフィルタを単純化される。第二に、トランスオーラルオーディオ信号が複数の入力チャネルをミキシングすることによって形成されるため、(各出力チャネルのトランスオーラルシステム応答によってのみ決定される)GPEQの非対称性をクロストーク設計に統合することが不必要に複雑になり、コストを上昇させる原因となる複数の独立した回路の処理が必要になる可能性がある。したがって効率的な/単純化されたCTC設計を実装し、効率的なCTCが想定される対称性の条件を確実に経験するためにGPEQを使用することがより好ましい。
【0032】
図4を参照すると、左右のスピーカーでの再生のために2チャネルトランスオーラルオーディオ402を予め調整するためのGPEQフィルタ400の一実施形態は(全てのフィルタが線形時不変フィルタであるため任意の順序で)非対称なFIRフィルタバンク404およびIIRフィルタバンク406を備える。
【0033】
非対称なFIRフィルタバンク404は、左右のオーディオスピーカーの振幅応答をリスナーの位置で再生されるオーディオスピーカーの低周波クロスオーバーFcよりも高域のターゲット応答に正規化するようにそれぞれ非対称に構成された左右のFIRフィルタ408および410を備える。スピーカーのクロスオーバー周波数は、スピーカー周波数応答仕様における通過帯域の始点と定義されるか、または単純にスピーカー応答が通過帯域仕様を下回る点(基準出力レベルから±3dB等)と定義される。GPEQ設計によって選択されるFcは、例えば、スピーカーの最小または平均クロスオーバー周波数であり得る。ターゲット応答は少なくとも二つのオーディオスピーカーの平均振幅応答を含み得る。ターゲット応答は(高周波の水平化または平坦化等の)一般的な等化形成をさらに含み得るが、これも同様に、選択されるFcよりも高域に制限されることが推奨される。
【0034】
FIRフィルタのタップ(長さ)#は、少なくとも最初に、ターゲット応答に対する補正された振幅応答の類似性に関する仕様によって決定される。タップ#はオーディオデバイスのハードウェア性能に基づいて減らすことができる。GPEQフィルタの重要な側面は非対称なFIRフィルタバンクの長さである。民生用モバイル機器でのリアルタイム処理およびオーディオ再生をサポートするには、フィルタの長さは可能な限り短くするべきである。フィルタ長は多くの方法で減らされる。第一に、FIRフィルタの機能は非対称性を取り除くことのみに好適に制限され、スピーカープロテクションおよびEQを実行しない。第二に、FIRフィルタは低周波クロスオーバーFcよりも高域の非対称性を取り除くのみである。低周波処理はFIRフィルタ長に不相応な影響を与える。FIRの振幅応答をFcよりも低域では0dBに固定することによりフィルタの長が短くなる。第三に、左右のスピーカーの平均振幅応答を含む(およびそれによって支配される)ターゲット応答に振幅応答を駆動することは従来の「平坦な(flat)」ターゲット応答に振幅応答を駆動することよりも容易である。結果として、より短いFIRフィルタで同様の仕様を満たすことができる。
【0035】
非対称なFIRフィルタバンクはリスナーの位置での左右のオーディオスピーカーの群遅延および位相応答を正規化するために遅延412および414を含むように構成され得る。遅延は、基本遅延に最大到着時間(TOA)遅延(すなわち最も遠いスピーカーのTOA遅延)を加え、対応するスピーカーのTOA遅延を引いたものに等しい。最も遠いスピーカーの遅延はまさに基本遅延である。最も近いスピーカーに対する遅延は基本遅延に最も遠いスピーカーと最も近いスピーカーのTOAの差を加えたものである。遅延はFIRフィルタとは別の個別の遅延として実装されてもよく、またはFIRフィルタに組み込まれてもよい。トランスオーラルオーディオ信号はそれぞれサンプリング周期でサンプリングされたオーディオサンプルのシーケンスとして表される。遅延は非整数のサンプリング周期として実装され得る。
【0036】
IIRフィルタバンク406は低周波クロスオーバーFcよりも高域にハイパスフィルタをかけ、少なくとも二つのオーディオスピーカーの振幅応答を等化するように構成された対称なIIRフィルタバンクコンポーネントを含む。本質的に、標準的な手動PEQプロセスは左右両方のチャネルが正規化されているターゲット応答に対して実行される。対称なIIRフィルタバンクコンポーネントは、例えば、異なる周波数帯域をブーストまたは遮断するためにそれぞれがチューニングされたいくつかの二次IIRパラメトリックフィルタセクションを含む。GPEQフィルタの重要な側面はIIRフィルタバンクの総次数である。このコンポーネントがスピーカープロテクションおよびEQの従来の機能のみを実行し、非対称な補正は実行しないため、フィルタセクションの総数および全体のフィルタ次数が制限され、民生用モバイル機器でのリアルタイム処理および再生が可能である。
【0037】
IIRフィルタバンク406は少なくとも二つのトランスオーラルオーディオ信号の相対位相を保存しながら低周波クロスオーバーFc付近の左右のオーディオスピーカーの振幅応答に残留する非対称性を補正するように構成された非対称なIIRフィルタバンクコンポーネント418をさらに含み得る。例えば、非対称なIIRフィルタバンクは左右の振幅応答がFcにおいて等しくなるように強制することがあり、Fc付近の振幅応答に影響を及ぼすことがある。多くのオーディオデバイスでは、このコンポーネントは必要とされない可能性がある。それが必要とされるそれらのデバイスでは、その用途はIIRフィルタセクションがよく適しているFc付近の振幅応答における非常に少数の「バンプ(bumps)」または「ディップ(dips)」を補正することに限定される。いくつかの「バンプ」または「ディップ」を手動で調整することは、Fcよりも高域の全ての非対称性を取り除くことと比較して管理が容易である。
【0038】
非対称なIIRフィルタの位相保存はリスナーの位置でトランスオーラルオーディオを再生するために重要である。位相保存は非対称なIIRフィルタの使用を多くとも数セクションに制限し、位相平衡または位相補償IIRフィルタセクションを使用することによって部分的に保証される(図4に示す後者)。
【0039】
位相平衡IIRフィルタはPeter Eastty、「Balanced Phase Equalization; IIR Filters with Independent Frequency Response and Identical Phase Response」AES Convention、2012年10月によって説明され、参照により本明細書に組み入れられる。各セクションは第一および第二のEQフィルタならびに平衡フィルタを備える。第一のEQフィルタは第一の位相応答を生成するために振幅応答の半分を有する。第二のEQフィルタはトランスオーラルオーディオ信号のうち一つを等化しながらシステムのゼロに起因する第一の位相応答の一部を打ち消す第二の位相応答を生成するために単位円の周りを往復運動するゼロと同じ振幅応答の半分を有する。平衡フィルタは他の全てのトランスオーラルオーディオ信号について相対位相を保存するために、システム極に起因する第一の位相応答の一部を打ち消すために第一および第二の位相応答の組合せに等しい第三の位相応答を伴う全域通過振幅応答を有する。Easttyの位相平衡IIRフィルタは完全な位相保存を提供するが、セクションごとに三つの別々のフィルタのコストがかかる。
【0040】
位相補償IIRフィルタはセクションあたり2つのフィルタにして低コストで十分な位相保存を提供するために開発された。各セクションはトランスオーラルオーディオ信号のうち一つを等化するための振幅応答および第一の補正された位相応答を有するEQフィルタ420ならびに他の全てのトランスオーラルオーディオ信号を位相平衡するための全域通過振幅応答および位相応答を有する平衡フィルタ422のみを含む。EQフィルタおよび平衡フィルタは次数が同じである。第一の調整された位相応答はシステムのゼロを単位円の外側に往復運動させることにより設計されたEQと等価な最小でない位相を生成することによって達成される。理論的には、平衡フィルタの位相応答は調整された位相応答に等しい。実際には、位相応答はトランスオーラル位相関係に支障をきたすと決定された閾値よりも位相保存におけるあらゆる誤差が少なくなるように十分近くなければならない。
【0041】
GPEQフィルタ400の実施形態はM<=Nであるタップが特定のオーディオデバイスの係数を用いて非対称に構成されるNタップFIRフィルタバンク404、およびYセクションがオーディオデバイスの係数を用いて対称に構成され、Zセクションがオーディオデバイスの係数を用いて非対称に構成されるY+Z<=XであるX個のIIRフィルタセクションを含むIIRフィルタバンク406を含み得る。このように、GPEQフィルタを実装するためのアーキテクチャおよびハードウェアはオーディオデバイスの種類によらず普遍のものである。ラップトップ、タブレット、電話またはヘッドフォンの各々は同じGPEQフィルタハードウェアを用いて実装される。その全ての変更は特定のデバイスのGPEQフィルタに読み込まれる係数である。
【0042】
図5aから図5hを参照すると、LおよびRオーディオチャネルの生のスピーカー振幅応答、対称なFIR、非対称なIIRおよび対称なIIRのフィルタ応答および補正されたスピーカー応答、ならびに全体のGPEQフィルタ応答の例示的なプロットが示されている。明確にするために、フィルタ応答は左チャネルS1に関するもののみ示している。図5aは左(S1)および右(S2)のオーディオチャネルの非対称な振幅応答500および502、ならびに平均振幅応答504を描写している。この例では、低周波クロスオーバーFcは-3dBの点で定義される。
【0043】
図5bはS1の振幅応答500をFcよりも高域の平均振幅応答504に正規化するように構成されたFIRフィルタ応答506を描写している。Fcよりも低域では、フィルタ応答506は0dBに固定される。S2のFIRフィルタ応答はその振幅応答をFcよりも高域の平均に寄せ、Fcよりも低域では0dBに固定するように異なり、「非対称(asymmetric)」であり得る。実際には、FIRフィルタはFcよりも低域のオーディオコンテンツを処理しない。図5cは正規化されたS1およびS2、振幅応答508および510をそれぞれ描写しており、これらはFcよりも高域の平均振幅応答504に寄せられ、Fcよりも低域の影響を受けない。
【0044】
図5dは低周波クロスオーバーFc付近のS1に残留する非対称性を取り除くように構成された非対称なIIR EQ512を描写している。この例では、非対称なコンポーネントは残留する非対称性を取り除くためにFcにおいてエネルギーを「遮断(cut)」するためのIIRセクション514およびFcよりも高域でエネルギーを「ブースト(boost)」するためのIIRセクション516を含む。S2のIIRフィルタセクションは残留する非対称性を補正し、S2を平均に寄せるように異なり、「非対称性」であり得る。図5eは正規化されたS1およびS2、振幅応答518および520をそれぞれ描写し、これらは、残留する非対称性が取り除かれた状態で、Fcよりも高域で、Fcよりも低域の影響を受けない平均振幅応答504に寄せられる。
【0045】
図5fはFcよりも高域のハイパスフィルタリングおよびFcよりも高域の平均振幅応答(ターゲット応答)に対するEQによってスピーカープロテクションを実行するためのS1(およびS2)の対称なIIR EQ522を描写している。図5gはFcよりも高域の等化された振幅応答524および526ならびにFcよりも低域のハイパスフィルタリングされた応答を描写している。
【0046】
図5hはGPEQフィルタの応答528を描写している。この応答は、対称なIIR EQからのHPEセクション530、S1を平均振幅応答に正規化するためのFcよりも高域の非対称なセクション532ならびにFc付近に残留する非対称性を取り除くための「バンプ」534および「ディップ」536を含む。
【0047】
図6および図7を参照すると、チューニングシステム600およびチューニングのための方法700の実施形態はスピーカーの非対称性を取り除き、オーディオデバイス602にスピーカープロテクションおよびEQを提供するためにトランスオーラルオーディオ信号を予め調整するためのGPEQフィルタの係数を生成する。GPEQフィルタ604はオーディオチャネルごとにNタップFIRフィルタおよびX個の二次IIRフィルタセクションを有する普遍的なアーキテクチャを好適に反映する。(コンピュータに実装される)自動フィルタ設計モジュール606は、非対称なFIRフィルタバンクをチューニングするためにマイクロフォン608を使用して自動チューニングモードで動作し、非対称なFIRフィルタバンク、非対称なIIRフィルタバンクまたは対称なフィルタバンクをチューニングするために人612を使用して手動チューニングモードでフィルタ係数610を生成し、特定のオーディオデバイスのGPEフィルタ604のインスタンシエーションをレンダリングするためにフィルタ係数610を生成する。
【0048】
オーディオデバイス602のチューニング方法700の実施形態はオーディオデバイスがリスナーの位置(702)に関して非対称なスピーカーの振幅応答またはスピーカーの位置を示すかどうかを決定するステップを含む。常は機械的な設計、初歩的な周波数応答測定または各スピーカーおよび両方のスピーカーを含むリスニングテストから明らかである。普遍的なGPEQフィルタおよびチューニング方法は対称か非対称かによらずあらゆるオーディオデバイスに使用することができる。オーディオデバイスが対称である場合、手動パラメトリックEQ(PEQ)チューニングプロセスが実行され(ステップ704)、自動フィルタ設計モジュールはGPEQフィルタをレンダリングするために一つまたは複数の対称なIIRフィルタセクションの係数を生成する(ステップ706)。手動パラメトリックEQプロセスではサウンドデザイナー/エンジニアがデバイス上で一般的なオーディオコンテンツまたはテスト信号を再生し、全体の周波数応答を客観的な標準またはデバイスに好適な主観的な好みに調整する。あるいは、ターゲット曲線の周波数応答を「平坦化(flatten)」するために自動化または半自動化されてもよい。重要な点は、全ての側面が対称であり、同じ等化フィルタが全てのチャネルに適用されることのみである。
【0049】
オーディオデバイスが非対称である場合、デバイスのオーディオスピーカーの低周波クロスオーバーFcが決定される(ステップ708)。この決定は、オーディオスピーカーの仕様、制御されたテストまたはリスナーの知覚に基づいて行うことができる。全体のFcはGPEQ設計において使用される全チャネルのFcを表すために選択される。Fcは二つまたはそれよりも多くのスピーカーの最小値または平均値であり得る。Fcは通常、それよりも低域では応答が弱い、または歪みが生じやすいとみなされるスピーカーの帯域幅の実効的な下限として定義される。Fcは、明白な通過帯域または平滑化された応答の平均レベルからのdB単位での相対的なロールオフの検証によって、またはアルゴリズムによって、決定することができる。
【0050】
次のステップは、少なくとも二つのオーディオスピーカーの振幅応答を低周波クロスオーバーFcよりも高域のターゲット応答に正規化するために非対称なFIRフィルタバンクを自動的に(ステップ710)および/または手動(ステップ712)でチューニングすることである。自動での解決策は測定された応答をターゲット応答に直接反転させることを含む。手動での操作は熟練のオペレータまたはサウンドデザイナーがシステムを非対称に等化することを含む。いくつかの場合では、自動での結果に加えて手動での調整がなされることが望ましい。本明細書で論じる全ての場合において、結果として生じる非対称な等化応答は対称な位相を有する非対称なFIRフィルタバンクに変換される。これは通常、応答を同じ次数または群遅延の線形位相等化フィルタに変換することによって達成される。ターゲット応答はオーディオスピーカーの平均振幅応答を含み得る(そしてそれによって支配され得る)。両方のオーディオチャネルをターゲット応答に追従させるための非対称なFIRフィルタバンクの調整は、どちらかのスピーカーの全体の応答の一般的なEQの前に行うことが重要である。自動フィルタ設計モジュールは各チャネルのFIRフィルタのタップ#および係数を生成する。
【0051】
次のステップはデバイスのオーディオスピーカーがリスナーの位置に関して非対称に位置するかどうかを決定することである(ステップ714)。YESの場合、プロセスはリスナーの位置において少なくとも二つのトランスオーラルオーディオ信号の到着時間(TOA)または「群遅延」を正規化するために補償遅延を取り入れる(ステップ716)。線形位相FIRフィルタの他の点は対称な群遅延に相対遅延シフトを加えることによって、遅延を個別のコンポーネントとして実装するか、またはFIRフィルタの一部として統合することができる。例えば、基本線形位相フィルタがN個のサンプルの遅延または一つのチャネルを有し、一つのチャネルがM個のサンプルの遅延を必要とする場合である。その場合、一方の側の線形位相フィルタはM+N個のサンプルを有するように設計することができるが、別の側はN個のサンプルのみを有する。フィルタは各フィルタに同数のタップを保持するために好適に窓関数を掛けられ得る。
【0052】
次のステップは、さらなる補正(718)を必要とし、手動FIRチューニング(712)によっては補正されなかったクロスオーバーFc付近のスピーカーの補正された振幅応答に残留する非対称性が残っているかどうかを決定することである。この決定は、手動で、またはコンピュータを介して、あらゆる「バンプ」または「ディップ」およびそれらの対応する周波数帯域を特定するために補正された振幅応答と平均振幅応答とを比較することによって行うことができる。YESの場合、手動位相保存パラメトリックEQ(PEQ)チューニングプロセスが実行され(ステップ720)、残留する非対称性を取り除くために自動フィルタ設計モジュールが各チャネルに一つまたは複数の非対称なIIRフィルタセクションの係数を生成する。ステップ706において、特定のオーディオデバイスにGPEQをレンダリングするために全てのFIR係数およびIIR係数が出力される。
【0053】
図8を参照すると、非対称なFIRフィルタバンクの自動チューニング800の一実施形態は、各スピーカーの応答を測定するステップ(ステップ802)、リスナーの位置に対するオーディオスピーカーの振幅応答および相対遅延を決定するステップ(ステップ804)、測定された振幅応答から平均振幅応答を算出するステップ(ステップ806)を含む。自動フィルタ設計モジュールは各振幅応答を低周波クロスオーバーFcよりも高域の平均振幅応答(ターゲット応答)に反転させる最小位相FIRフィルタを算出し、振幅応答を低周波クロスオーバーFcよりも低域では0dBに固定する(ステップ808)。モジュールは、インパルス応答に窓関数を掛け、各最小位相フィルタ応答を同等の振幅および基本遅延に最大到着時間(TOA)遅延を加えスピーカーによって再生されるトランスオーラルオーディオ信号の実際のTOA遅延を引いたものに等しい遅延を有する線形位相FIRフィルタに変換する(ステップ810)。基本遅延は線形位相に変換する前に全ての最小位相フィルタを同じ長さ「L」にゼロパディングすることによって決定される。これは任意のチャネルの反転基準に基づいて、または必要な長さをある程度妥協することによって必要な最大長として選択することができる。線形位相フィルタが最小位相フィルタに基づく対称なインパルス応答であるため、最終長「N」もまた同じであり、同じ基本遅延(N-1)/2≒Lを有する。
【0054】
ステップ802の周波数応答測定値はインパルス応答の対数掃引サイン測定(LSS)を介して収集することができ、これにより高調波歪みから直接応答が分離する。スピーカートランスデューサおよびエンクロージャのみの疑似無響応答を取得するために、反射に窓関数が掛けられる。任意選択的に、測定値は特定のサンプルユニットまたは聴取位置とあまり結合されていない集合的な応答を検証または平均するために、同じモデルの複数の物理的な位置および/または複数のユニットから収集され得る。
【0055】
ステップ806の平均振幅応答は各測定値からの周波数応答の振幅から構築され得る。周波数領域/臨界帯域平滑化を使用することができる高い「Q」ファクタを有する特徴またはリスナーの経験を表さない特徴に対する反応性を低減するために、周波数領域/臨界帯域平滑化を使用することができる。任意選択的に、平均振幅応答は異なる位置の測定値またはハードウェアサンプルの合成から生成され得る。
【0056】
図9を参照すると、非対称なFIRフィルタバンクの手動チューニング900の一実施形態は各スピーカー振幅応答を等化するために非対称なIIRフィルタを手動で調整するステップ(ステップ902)を含み、サウンドデザイナー/チューニングエンジニアが主に彼らの評価によって決定された遮断周波数Fcよりも高域でスピーカーの類似性を高めることを試みる場合は、基本的に非対称なPEQを実行する。自動フィルタ設計モジュールは、使用されている全帯域の結合インパルス応答を見つけることによって各オーディオチャネルの集合的なインパルス応答を算出し(ステップ904)、各オーディオチャネルに単一の最小位相FIRフィルタを生成するためにこの集合的なインパルス応答に窓関数を掛け(ステップ906)、各FIRフィルタを、基本遅延に最大TOA遅延を加えスピーカーによって再生されるトランスオーラルオーディオ信号のTOA遅延を引いたものに等しい遅延を有する線形位相FIRフィルタに変換する(ステップ908)。手動チューニングの場合はこれらの遅延は直接測定されてもよく、またはスピーカーの所望のアライメントを達成するためにサウンドデザイナー/チューニングエンジニアによって直接推定および調整されたものでもよい。
【0057】
図10aから図10cを参照すると、非対称な位相保存IIRフィルタセクション1000の手動チューニングのための一実施形態は、チューニング(ブーストまたは遮断)される周波数帯域(IIRフィルタセクション)および各セクションの振幅および位相応答を特定するために非対称なPEQを実行し、明示されたブーストまたは遮断を実装するために各周波数帯域の位相平衡IIRセクションを設計するステップを含む。位相平衡IIRフィルタの各セクションは第一の位相応答Peq1 1006を生成するための振幅応答Meq11004(Meq=2*Meq1)の半分を有する第一のEQフィルタ1002、トランスオーラルオーディオ信号のうち一つを等化しながらシステムのゼロに起因する第一の位相応答の一部を打ち消す第二の位相応答Peq 1012を生成するために単位円の周りを往復運動するゼロを有する振幅応答Meq11010の同じ半分を有する第二のEQフィルタ1008、および他の全てのトランスオーラルオーディオ信号の相対位相を保存するためのシステム極に起因する第一の位相応答の一部を打ち消すために第一および第二の位相応答の組合せに等しい第三の位相応答Pap=Peq1+Peq21018を有する全域通過振幅応答Map1016を伴う平衡フィルタ1014を備える。位相平衡IIRフィルタの利点は完全な位相保存を提供することであるが、オーディオチャネルごとに三つのフィルタが必要である。
【0058】
図11aおよび図11bを参照すると、非対称な位相保存IIRフィルタセクション1100の手動チューニングの一実施形態はチューニング(ブーストまたは遮断)される周波数帯域(IIRフィルタセクション)ならびに各セクションの振幅および位相応答を特定するために非対称なPEQを実行し、明示されたブーストまたは遮断を実装するために各周波数帯域の補償位相IIRセクションを設計するステップを含む。
【0059】
各セクションはトランスオーラルオーディオ信号のうち一つを等化するための振幅応答Meq1104および第一の調整された位相応答Peq1106を有するEQフィルタ1102ならびに他のトランスオーラルオーディオ信号の全てを位相平衡させるための全域通過振幅応答Map1110および位相応答Pap≡Peq1102を有する平衡フィルタ1108のみを含む。EQフィルタおよび平衡フィルタは次数が同じである。第一の調整された位相応答Peq1106はシステムのゼロを単位円の外側に往復運動させることにより設計されたEQと等価な最小でない位相を生成することによって達成される。理想的には、位相応答1102は第一の調整された位相応答1106に等しいが、実際には、サウンドデザイナーまたはチューニングエンジニアによってトランスオーラル位相関係に支障をきたすと決定された閾値よりも誤差が小さくなるように十分に近いことのみが必要である。補償位相IIRはゼロによって誘起される位相を考慮していないため、完全には平衡がとれていない。しかしながら、これらの等化タスクの種類に共通のレベルおよび設定を有するPEQ、ハイおよびローシェルフを含む等化フィルタの種類について、前述の方法は同様に次数を付された全域通過フィルタによって容易に平衡化されることのできない、処理されていない(平衡化無し)かまたは調整されていないPEQセクションよりも著しく良好な位相整合を達成する。この手法の利点は、チャネルごとに二つのフィルタしかないということである。
【0060】
以下はPEQフィルタの補償位相IIRセクションを設計する方法である。当業者においては、この方法がシェルビングフィルタ等の他のEQ形状に対してどのように繰り返されることができるか理解されるであろう。第一に、(一般的に中心周波数Fc、サンプルレートFs、利得Gおよび品質または帯域幅Qによって説明される)PEQフィルタは標準的な方法を使用して設計される。このフィルタは一般に、最小位相応答を示す二次セクションまたは「バイカッド(biquad)」であり得る。この位相応答は中心周波数周辺の複雑な形状であり、同じ次数の全域通過フィルタと平衡をとるのは困難である。過剰位相の等価物は、正規化された分子係数の根を解くこと、単位円の周りを往復運動させること、および同じ利得であるが過剰位相を示す新たな分子係数の組にそれらを再び畳み込むことによって生成される。この調整されたフィルタはEQ1(1102)である。次に、補償全域通過のためにプロトタイプフィルタが生成される。EQ1と同様の位相を有する全域通過フィルタを見つけるためには複数の方法があるが、一つの例示的な方法は単に、EQ1と同じPEQ設計方法を0dBの利得に対して使用することである。他の全てのパラメータおよび臨界周波数がPEQと同じであるため、EQ1と同じ極位置を有する最小位相全域通過フィルタが得られる。単位円の外側でゼロを往復運動させるために同じプロセスが使用されるため、最終的な補償全域通過フィルタ(1108)が得られる。二つのフィルタの位相応答はトランスオーラルオーディオ信号を妨害しないように十分に類似する。しかしながら、所望の心理音響効果が観察されるまで単位円に対して極およびゼロの半径を操作することによって最終位相応答をさらに手動でダイヤリングすることができる。
【0061】
このようなフィルタを適用する場合、調整されたPEQフィルタは等化される元のチャネルに適用され、全域通過フィルタは等化されたチャネルとの位相合わせを必要とする他の全てのチャネルに適用される。
【0062】
本明細書で説明された以外の多くの他のバリエーションがこの文書から明らかになるであろう。例えば、実施形態に応じて、本明細書に記載のいずれかの方法およびアルゴリズムのうち所定の行為、事象、または機能は、(全ての説明された行為または事象が方法およびアルゴリズムの実施に必要であるわけではないように)異なる順序で実行することができ、追加、併合、または完全に除外することができる。さらに、ある実施形態では、行為または事象は順次実行するのではなく、マルチスレッド処理、割込み処理、または複数のプロセッサまたはプロセッサコアを介して、または他の並列アーキテクチャ上で同時に実行することができる。加えて、一緒に機能することのできる異なる機械およびコンピューティングシステムによって異なるタスクまたはプロセスを実行することができる。
【0063】
本明細書に記載の実施形態に関連して説明された様々な例示的な論理ブロック、モジュール、方法、およびアルゴリズムプロセスおよび順序は電気的なハードウェア、コンピュータソフトウェア、またはその両方の組合せとして実装することができる。ハードウェアとソフトウェアとのこの互換性を明瞭に説明するために、様々な例示的なコンポーネント、ブロック、モジュール、およびプロセスアクションは概してそれらの機能性に関して上述されている。このような機能性がハードウェアとして実装されるかソフトウェアとして実装されるかは特定のアプリケーションおよびシステム全体に課される設計上の制約による。説明された機能性はそれぞれの特定のアプリケーションのために様々な方法で実装することができるが、このような実装の決定はこの文書の範囲からの逸脱を生じさせるものと解釈されるべきではない。
【0064】
本明細書に開示された実施形態に関連して説明された様々な例示的な論理ブロックおよびモジュールは、汎用プロセッサ、プロセッシングデバイス、一つまたは複数のプロセッシングデバイスを有するコンピューティングデバイス、デジタル信号プロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)または他のプログラム可能な論理デバイス、ディスクリートゲートまたはトランジスタロジック、ディスクリートハードウェアコンポーネント、または本明細書に記載の機能を実行するように設計されたそれらの任意の組合せのような機械によって実装または実行されることができる。汎用プロセッサおよびプロセッシングデバイスはマイクロプロセッサとすることができるが、代わりに、プロセッサはコントローラ、マイクロコントローラ、またはステートマシン、それらと同じか類似のものの組合せとすることができる。プロセッサは、DSPとマイクロプロセッサとの組合せ、複数のマイクロプロセッサ、DSPコアと連携した一つまたは複数のマイクロプロセッサ、または他の任意のこのような構成等の、コンピューティングデバイスの組合せとして実装することもできる。
【0065】
本明細書に記載のGPEQフィルタおよびチューニング方法の実施形態は多くの種類の汎用または特定用途コンピューティングシステム環境または構成の範囲内で動作可能である。一般に、コンピューティング環境は、いくつか例を挙げると、一つまたは複数のマイクロプロセッサに基づくコンピュータシステム、メインフレームコンピュータ、デジタル信号プロセッサ、携帯用コンピューティングデバイス、パーソナルオーガナイザ、デバイスコントローラ、電化製品の範囲内の計算エンジン、携帯電話、デスクトップコンピュータ、モバイルコンピュータ、トコンピュータ、スマートフォン、およびコンピュータが埋め込まれた電化製品、を含むがこれらに限定されない任意の種類のコンピュータシステムを含むことができる。
【0066】
このようなコンピューティングデバイスは一般に、パーソナルコンピュータ、サーバコンピュータ、手持ちコンピューティングデバイス、ラップトップまたはモバイルコンピュータ、携帯電話およびPDAのような通信デバイス、マルチプロセッサシステム、マイクロプロセッサベースシステム、セットトップボックス、プログラム可能な民生用電子機器、ネットワークPC、ミニコンピュータ、メインフレームコンピュータ、オーディオまたはビデオメディアプレイヤー、等を含むがこれらに限定されない少なくともいくつかの最小限の計算能力を有するデバイスにみられる。いくつかの実施形態ではコンピューティングデバイスは一つまたは複数のプロセッサを含み得る。各プロセッサはデジタル信号プロセッサ(DSP)、超長命令語(VLIW)、または他のマイクロコントローラのような特殊なマイクロプロセッサであってもよく、または一つまたは複数のプロセッシングコアを有し、マルチコアCPU内に特殊なグラフィックプロセッシングユニット(GPU)ベースのコアを含む従来の中央プロセッシングユニット(CPUs)とすることができる。
【0067】
本明細書に開示された実施形態に関連して説明された方法、プロセス、またはアルゴリズムのプロセスアクションはハードウェアにおいて直接、プロセッサによって実行されるソフトウェアモジュールにおいて、またはその二つの任意の組合せにおいて、実施することができる。ソフトウェアモジュールは、コンピューティングデバイスがアクセスすることのできるコンピュータ読み取り可能な媒体に含むことができる。コンピュータ読み取り可能な媒体は、取り出し可能、取り出し不可能、またはそれらの何らかの組合せのいずれかである揮発性媒体および不揮発性媒体の両方を含む。コンピュータ読み取り可能な媒体は、コンピュータ読み取り可能またはコンピュータ実行可能な命令、データ構造、プログラムモジュール、または他のデータのような情報を記憶するために使用される。限定ではなく例として、コンピュータ読み取り可能な媒体はコンピュータ記憶媒体および通信媒体を備え得る。
【0068】
コンピュータ記憶媒体は、ブルーレイディスク(BD)、デジタルヴァーサタイルディスク(DVDs)、コンパクトディスク(CDs)、フロッピーディスク(登録商標)、テープドライブ、ハードドライブ、光学ドライブ、個体メモリデバイス、RAMメモリ、ROMメモリ、EPROMメモリ、EEPROMメモリ、フラッシュメモリまたは他のメモリ技術、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ、または他の磁気ストレージデバイス、または所望の情報を記憶するために使用されることができ、一つまたは複数のコンピューティングデバイスがアクセスすることのできる任意の他のデバイス等を含むがこれらに限定されないコンピュータまたは機械読み取り可能な媒体またはストレージデバイスを含む。
【0069】
ソフトウェアモジュールは、RAMメモリ、フラッシュメモリ、ROMメモリ、EPROMメモリ、EEPROMメモリ、レジスタ、ハードディスク、リムーバブルディスク、CD-ROM、または当該技術分野において周知の非一過性のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体、媒体、もしくは物理的なコンピュータストレージの任意の他の形態に属することができる。例示的な記憶媒体は、プロセッサがその記憶媒体から情報を読み取り、またそこに情報を書き込むようにプロセッサに結合されることができる。代わりに、記憶媒体はプロセッサに不可欠であり得る。プロセッサおよび記憶媒体は、特定用途向け集積回路(ASIC)内に存在することができる。ASICはユーザ端末に存在することができる。あるいは、プロセッサおよび記憶媒体は、ユーザ端末に個別のコンポーネントとして存在することができる。
【0070】
この文書で使用される句「非一過性の(non-transitory)」は「永続的(enduring)または長命(longlived)」を意味する。句「非一過性のコンピュータ読み取り可能な媒体(non-transitory computer-readable media)」は一時的な伝搬信号を唯一の例外として任意のおよび全てのコンピュータ読み取り可能な媒体を含む。これには、限定ではなく例として、レジスタメモリ、プロセッサキャッシュおよびランダムアクセスメモリ(RAM)のような非一過性のコンピュータ読み取り可能な媒体を含まれる。
【0071】
句「オーディオ信号(audio signal)」は物理的な音を表す信号である。
【0072】
コンピュータ読み取り可能またはコンピュータ実行可能な命令、データ構造、プログラムモジュール、等の情報の保持は、一つまたは複数の変調データ信号、(搬送波の等の)電磁波、または他の輸送メカニズムまたは通信プロトコルをエンコードするための様々な通信媒体を使用することによって達成されることができ、任意の有線または無線の情報伝達機構を含む。一般に、これらの通信媒体は信号内の情報または命令をエンコードするような方法で設定または変更されたその特性のうち一つまたは複数を有する信号を指す。例えば、通信媒体は一つまたは複数の変調データ信号を搬送する有線ネットワークまたは直接配線接続のような有線媒体、ならびに音響、無線周波数(RF)、赤外線、レーザ、および一つまたは複数の変調データ信号または電磁波を送信、受信、またはその両方を行うための他の無線媒体のような無線媒体を含む。上述のいずれかの組合せもまた通信媒体の範囲内にも含まれるべきである。
【0073】
さらに、本明細書に記載の非対称なトランスオーラルオーディオ再生のためのGPEQフィルタおよびチューニング方法の様々な実施形態のいくつかまたは全てを実施するソフトウェア、プログラム、コンピュータプログラム製品のうち一つまたは任意の組合せ、またはそれらの一部は、コンピュータ実行可能な命令または他のデータ構造の形態でコンピュータまたは機械読み取り可能な媒体またはストレージデバイスおよび通信媒体の任意の所望の組合せから記憶、受信、送信、または読み取ることができる。
【0074】
本明細書に記載の非対称トランスオーラルオーディオ再生のためのGPEQフィルタおよびチューニング方法の実施形態はコンピューティングデバイスによって実行される、プログラムモジュールのようなコンピュータ実行可能な命令の一般的な文脈でさらに説明され得る。一般に、プログラムモジュールはルーチン、プログラム、オブジェクト、コンポーネント、データ構造、等を含み、これらは特定のタスクを実行するかまたは特定の抽象データ型を実装する。本明細書に記載の実施形態は一つまたは複数の通信ネットワークを介して結合された、一つまたは複数のリモートプロセッシングデバイスによって、または一つまたは複数のデバイスのクラウド内でタスクが実行される分散コンピューティング環境でも実施することができる。分散コンピューティング環境では、プログラムモジュールはメディアストレージデバイスを含むローカルおよびリモートの両方のコンピュータストレージメディアに配置され得る。さらに、前述の命令はプロセッサを含んでも含まなくてもよいハードウェア論理回路として部分的または全体的に実装されてもよい。
【0075】
本明細書で使用される条件付き言語、中でも「することができる(can)」、「し得る(might)」、「し得る(may)」、「例えば、(e.g.,)」等は、特に明記しない限り、または使用される文脈において異なる意味に理解される場合を除き、一般に、所定の特徴、要素、および/または状態を所定の実施形態は含む一方、他の実施形態は含まないことを伝えることを意図している。したがって、このような条件付き用語は一般に、特徴、要素、および/または状態が一つまたは複数の実施形態に何らかの形で必要とされること、または一つまたは複数の実施形態が、オーサ入力またはプロンプティングの有無によらず、これらの特徴、要素、および/または状態が含まれるかどうか、または任意の特定の実施形態において実行されるべきかどうかを決定するためのロジックを必ず含むことを示唆することを意図するものではない。用語「備えている(comprising)」、「含んでいる(including)」、「有している(having)」等は同義語であり、オープンエンド形式で包括的に使用されており、さらなる要素、特徴、行為、実行、等を排除するものではない。また、用語「または(or)」はその包括的な意味で(かつその排他的な意味ではなく)使用されており、例えば、要素のリストを接続するために使用される場合、用語「または」はリスト中の要素の一つ、いくつか、または全てを意味する。
【0076】
上述の詳細な説明は様々な実施形態に適用されるような新たな特徴を示し、説明し、指摘してきたが、本開示の精神から逸脱することなく例示されたデバイスまたはアルゴリズムの形態および詳細における様々な省略、代用、および変更が可能であることを理解されるであろう。認識されるように、いくつかの特徴は他の特徴とは別に使用または実行され得るため、本明細書に記載の本発明の・実施形態は本明細書に挙げられる特徴および利点の全てを提供しない形態の範囲内で実施することができる。
【0077】
さらに、構造的な特徴および方法論的行為に固有の言語で主題が説明されてきたが、添付の特許請求の範囲に定義された主題は前述の固有の特徴または行為に必ずしも限定されないことを理解されたい。むしろ、前述の固有の特徴および行為は特許請求の範囲を実施する例示的な形態として開示されている。
図1a
図1b
図1c
図2
図3a
図3b
図4
図5a
図5b
図5c
図5d
図5e
図5f
図5g
図5h
図6
図7
図8
図9
図10a
図10b
図10c
図11a
図11b