(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】固形吸着剤システム
(51)【国際特許分類】
B01J 20/28 20060101AFI20220427BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20220427BHJP
B01J 20/16 20060101ALI20220427BHJP
B01J 20/10 20060101ALI20220427BHJP
B01J 20/12 20060101ALI20220427BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20220427BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20220427BHJP
B01J 20/04 20060101ALI20220427BHJP
B01J 20/08 20060101ALI20220427BHJP
B01D 53/28 20060101ALI20220427BHJP
B01D 53/26 20060101ALI20220427BHJP
B60H 1/22 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
B01J20/28 Z
B01J20/18 A
B01J20/18 E
B01J20/16
B01J20/10 A
B01J20/10 B
B01J20/10 C
B01J20/10 D
B01J20/12 A
B01J20/12 C
B01J20/20 A
B01J20/20 D
B01J20/20 E
B01J20/22 A
B01J20/04 A
B01J20/08 A
B01J20/08 C
B01D53/28
B01D53/26 230
B60H1/22 651B
(21)【出願番号】P 2019554473
(86)(22)【出願日】2017-11-21
(86)【国際出願番号】 US2017062774
(87)【国際公開番号】W WO2018111514
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-11-19
(32)【優先日】2016-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519217308
【氏名又は名称】フロー ドライ テクノロジー インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】フラウハー デイビッド ビクター
(72)【発明者】
【氏名】ドブソン ロドニー リー
(72)【発明者】
【氏名】クレス デイビッド エス.
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-520805(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0238071(US,A1)
【文献】特表2012-508645(JP,A)
【文献】特開2014-024706(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01566600(EP,A1)
【文献】特開2009-106942(JP,A)
【文献】特開2008-174730(JP,A)
【文献】特表2015-535879(JP,A)
【文献】米国特許第03618771(US,A)
【文献】米国特許第06589320(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
B01D 53/26-53/28
B60H 1/00-3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形吸着剤システムであって、
冷却流体が流れるように構成された固形吸着剤およびコンデンサ内の空調流路を含み、前記固形吸着剤は前記流路内に配置され、
前記固形吸着剤は、
バインダーによる点結合によって、所定の位置で空間的に結合された複数の個別の吸着剤粒子
と、
前記固形吸着剤を通って延在し、その中を冷却流体が流れることができる中央開口部と、を含み、
大部分の前記
吸着剤粒子の外表面積の少なくとも25%は前記バインダーによってシールされず、吸着に使用することができ
、
前記固形吸着剤は、前記流体の除去のためのシールされたチューブとして動作することができるように液密である、
固形吸着剤システム。
【請求項2】
前記吸着剤粒子は、0.1ミクロン~500ミクロンの間の平均有効直径を有する、請求項1に記載の固形吸着剤システム。
【請求項3】
前記バインダーはポリマー、熱可塑性ホモポリマー、コポリマー樹脂、若しくはそれらの組み合わせ、又は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂である、請求項1
又は2に記載の固形吸着剤システム。
【請求項4】
前記固形吸着剤は5重量%~30重量%の前記バインダーを含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の固形吸着剤システム。
【請求項5】
前記固形吸着剤は、少なくとも1:1の、長さと有効直径の比を有する、請求項1~
4のいずれか一項に記載の固形吸着剤システム。
【請求項6】
前記吸着剤粒子は、吸水材料、分子ふるい材料、ゼオライト粉末若しくはそれらの組み合わせを含み、又は、前記吸着剤粒子は、ゼオライト、金属有機構造体材料、ゼオライトイミダゾレート構造体材料、無水ケイ酸とアルミナ四面体の三次元の相互接続網を有する結晶性アルミノケイ酸塩、多孔質ガラス、活性炭、粘土、二酸化ケイ素、シリカゲル、メソポーラスシリカ、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、活性アルミナ、若しくはそれらの組み合わせを含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の固形吸着剤システム。
【請求項7】
前記吸着剤粒子は前記バインダーに焼結される、請求項1~
6のいずれか一項に記載の固形吸着剤システム。
【請求項8】
前記固形吸着剤は、前記固形吸着剤の少なくとも10%の体積を占める空隙が内部に形成されている、請求項1~
7のいずれか一項に記載の固形吸着剤システム。
【請求項9】
前記固形吸着剤は、70重量%~95重量%の前記吸着剤粒子を含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載の固形吸着剤システム。
【請求項10】
前記吸着剤粒子と前記バインダーは、95:5~75:25の重量比を有する、請求項1~
9のいずれか一項に記載の固形吸着剤システム。
【請求項11】
空調システムにおける水の量を減少させるための方法であって、
冷却流体が流れるように構成されたコンデンサ内の空調流路内の前記空調システム内に、バインダーとの点結合によって所定の位置に空間的に結合された複数の個別の吸着剤粒子を含む固形吸着剤を配置し、大部分の前記
吸着剤粒子の外表面積の少なくとも25%は前記バインダーによってシールされず、吸着に使用することができ
、
前記固形吸着剤は、前記固形吸着剤を通って延在し、その中を冷却流体が流れることができる中央開口部を含み、前記流体の除去のためのシールされたチューブとして動作することができるように液密である、
空調システムにおける水の量を減少させるための方法。
【請求項12】
前記吸着剤粒子は、0.1ミクロン~500ミクロンの間の平均有効直径を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記バインダーはポリマー、熱可塑性ホモポリマー、コポリマー樹脂、若しくはそれらの組み合わせ、又は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記固形吸着剤は5重量%~30重量%の前記バインダーを含む、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記吸着剤粒子は前記バインダーに焼結される、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、2016年12月16日に出願された米国仮出願第62/435,164号に対する優先権を主張する。
【0002】
本出願は吸着剤に関し、より詳細には、固形またはモノリス状の吸着剤に関する。
【背景技術】
【0003】
吸着剤材料は、水や、他の或る流体、分子、イオン、又は、液体及び気体由来の他の混入物を除去するために幅広く使用される。吸着剤の1つの特定の用途は、例えば自動車の空調システム(air conditioning system)等の冷却流体(refrigerant fluids)から、水および不純物を除去することである。しかしながら、そのような自動車の空調システム等の吸着システムには、或る欠点(shortcomings)と弱点(drawbacks)が存在する。
【0004】
<概要>
本発明は、固形吸着剤を提供するものである。固形吸着剤は、バインダーによる点結合(point bonding)によって、所定の位置で空間的に結合された複数の個別の吸着剤粒子(discrete adsorbent particles)を含む。大部分の粒子の外表面積の少なくとも約25%はバインダーによってシールされず、吸着に使用することができる。
【0005】
いくつかの実施形態では、実質的にすべての粒子の外表面積の少なくとも約25%はバインダーによってシールされず、吸着に使用することができる。
【0006】
いくつかの実施形態では、吸着剤粒子は、約0.1ミクロン~約500ミクロンの間の平均有効直径を有する。例えば、吸着剤粒子は、約10ミクロンの平均有効直径を有することができる。
【0007】
吸着剤のバインダーはポリマーとすることができる。いくつかの実施形態では、バインダーは熱可塑性ホモポリマー、コポリマー樹脂、又はそれらの組み合わせを含む。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂を含むことができる。
【0008】
いくつかの実施形態では、固形吸着剤は約5重量%~約30重量%のバインダーを含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、固形吸着剤は、少なくとも約1:1の、長さと有効直径の比を有する。
【0010】
固形吸着剤は、略円柱状(generally cylindrical)とすることができる。固形吸着剤はまた、それを通って延在する中央開口部を有する略円柱状とすることもできる。
【0011】
いくつかの実施形態では、吸着剤粒子は、吸水材料、分子ふるい(モレキュラーシーブ、molecular sieve)材料、ゼオライト粉末またはそれらの組み合わせを含む。
【0012】
吸着剤粒子はまた、ゼオライト、金属有機構造体材料、ゼオライトイミダゾレート構造体材料、無水ケイ酸とアルミナ四面体の三次元の相互接続網を有する結晶性アルミノケイ酸塩(crystalline metal aluminosilicate)、多孔質ガラス、活性炭、粘土、二酸化ケイ素、シリカゲル、メソポーラスシリカ、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、活性アルミナ、又はそれらの組み合わせを含むことができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、吸着剤粒子はバインダーに焼結される。
【0014】
いくつかの実施形態では、固形吸着剤は、その内部に形成された、固形吸着剤の少なくとも10%の体積を占める空隙(voids)を有する。
【0015】
吸着剤は、約70重量%~約95重量%の吸着剤粒子を含むことができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、バインダーは吸着剤粒子よりも低い融点を有する。
【0017】
いくつかの実施形態では、吸着剤粒子とバインダーは、約95:5~約75:25の重量比を有する。
【0018】
本発明はまた、吸着システムを提供するものである。吸着システムは、その中に冷却流体が流れるように構成された固形吸着剤および空調流路(air conditioning fluid path)を含み、当該吸着剤は当該流路内に配置される。吸着剤は、バインダーとの点結合によって所定の位置に空間的に結合された複数の個別の吸着剤粒子を含み、大部分の粒子の外表面積の少なくとも約25%はバインダーによってシールされず、吸着に使用することができる。
【0019】
いくつかの実施形態では、空調流路はコンデンサ内に存在する空調流路である。
【0020】
固形吸着剤は、略円柱状とすることができる。固形吸着剤はまた、それを通って延在する中央開口部を有する略円柱状とすることもできる。いくつかの実施形態では、中央開口部を経由してコンデンサから冷却流体の抽出又は導入ができるように、吸着剤はそれを通って延在する中央開口部を含む。
【0021】
さらに、本発明は自動車の空調システムにおける水の量を減少させるための方法を提供する。当該方法は、自動車の空調システムに固形吸着剤を付加することを含む。吸着剤は、バインダーとの点結合によって所定の位置に空間的に結合された複数の個別の吸着剤粒子を含み、大部分の粒子の外表面積の少なくとも約25%は前記バインダーによってシールされず、吸着に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、自動車の空調システムのコンデンサの正面部分断面図であって、一実施形態の固形吸着剤がその中に配置されている。
【
図2】
図2は、
図1の固形吸着剤、チューブおよびキャップの分解組立斜視図である。
【
図3】
図3は、複数の吸着剤とバインダー粒子とが互いに結合されたことを示す一実施形態の固形吸着剤を詳細に表す模式図である。
【0023】
<詳細な説明>
本発明の一実施形態は、バインダーに埋め込まれるか、又はバインダーと結合する複数の微細な吸着剤粒子を備える固形吸着剤の形態を取る。一実施形態は、吸着剤粒子がバインダーに結合している間、水分等を吸着するために当該粒子が利用可能なままであることを保証するため、吸着剤粒子はバインダーによって完全にはシールまたは被覆されない。そのような吸着剤は、以下により詳細に記載されるように、自動車の空調システムでの使用に特に有用であり得る。
【0024】
本明細書に記載され示された吸着剤は、固体の形状や、バインダー粒子との点結合によって固定化した吸着剤粒子(例えば乾燥剤粉末等)を利用するか、または当該吸着剤粒子を含む、モノリス構造を取ることができる。点結合とは、材料が接する点のみで互いに結合することである。このような結合は、しばしば、充填(packing)の効率の悪さのため材料の体積が除外される、測定可能な空所(void space)を有する材料をもたらす。
【0025】
吸着剤粒子は、吸着性を有すること及び/又は水などを吸着することが知られている多種多様な材料のうちのいずれかから作製することができる。いくつかの実施形態では、吸着剤粒子は、分子ふるい、乾燥剤材料またはそれらの組み合わせを含む。例えば、吸着剤粒子は、ゼオライト、金属有機構造体材料(metal-organic framework material, MOF)、ゼオライトイミダゾレート構造体材料(zeolitic imidazolate framework material, ZIF)、無水ケイ酸とアルミナ四面体の三次元の相互接続網を有する結晶性アルミノケイ酸塩、多孔質ガラス、活性炭、粘土(例えば、モンモリロナイトやベントナイト)、二酸化ケイ素、シリカゲル、メソポーラスシリカ、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、活性アルミナ、又はそれらの組み合わせを含むことができる。分子ふるい材料は、約1オングストローム~約15オングストローム、約1オングストローム~約10オングストローム、又は約1オングストローム~約5オングストロームの孔径を有することができる。例えば、分子ふるい材料は、約3オングストロームの孔径を有することができる。したがって、ある例では、分子ふるい材料は水を吸着するように設計されるが、冷却流体またはシステム潤滑油は吸着しない。分子ふるい材料は、ある例では少なくとも約10%、他の例では少なくとも約20%の保水能力(water capacity)(重量%)を有していてもよい。例えば、分子ふるいは、約10%~約50%、約20%~約40%、約25%~約35%又は約28%~約29%の保水能力を有することができる。吸着剤材料の粒子は、約0.5ミクロン~約500ミクロンの間、約1ミクロン~約300ミクロン、約5ミクロン~約100ミクロン、又は約8ミクロン~約12ミクロンの平均サイズ又は平均直径を有する、比較的微細な粉末/粒子とすることができる。いくつかの実施形態では、吸着剤粒子は約5ミクロン、約10ミクロン、約100ミクロン若しくは約500ミクロンの平均サイズ又は平均直径を有することができる。
【0026】
本明細書で使用される用語「約」は、値または範囲の変動、例えば、記載された値または記載された範囲の限度の10%以内、5%以内又は1%以内程度の変動を許容することができる。
【0027】
いくつかの実施形態では、吸着剤は、約70重量%~約95重量%または約80重量%~約90重量%の吸着剤粒子を含む。例えば、吸着剤は、約80重量%、約85重量%又は約90重量%の吸着剤粒子を含むことができる。
【0028】
吸着剤のバインダーは、ポリマーを含む多様な材料のうちの任意のものとすることができる。例えば、バインダーは熱可塑性ホモポリマー、コポリマー樹脂、又はそれらの組み合わせを含むことができる。いくつかの実施形態では、バインダーはポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂(ある例では、米国ペンシルベニア州、キングオブプラシャ所在のアルケマ社によって、KYNAR(商標)として販売されている材料)、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリアミド(例えばナイロン6、ナイロン6,6等)、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタラート等)、共重合体(例えばエチレン-酢酸ビニル等)、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、バインダーはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。バインダーは、吸着剤粒子に確実に結合することが可能であるべきであり、吸着剤が使用される周囲の流体(例えば、ある例では、冷却流体、油、水および自動車システムに見られる他の流体)に対して不活性であるべきである。バインダーはまた、それが使用されるシステムの局所的環境条件(例えば、ある例では、自動車の空調システムに見られる高温および高圧)で長期間の機械的および化学的安定性を示すべきである。
【0029】
いくつかの実施形態では、吸着剤は、約5重量%~約30重量%又は約10重量%~約20重量%のバインダーを含む。例えば、吸着剤は、約10重量%、15重量%又は約20重量%のバインダーを含むことができる。
【0030】
バインダー及び吸着剤粒子は、様々な方法およびシステムのいずれによっても、組み合わせて単一の固体モノリス体に形成することができる。ある例では、吸着剤およびバインダーは、両方とも粉末形状で提供され、共に混合され、均質混合物(homogenous mixture)を形成する。バインダーは、上記の範囲内で、用いられる吸着剤粒子の平均直径と略同等の平均直径を有することができる。ある例では、吸着剤粒子とバインダーとは、約95:5~約75:25又は約90:10~約80:20の重量比を有することができる。例えば、吸着剤粒子とバインダーとは、約90:10、約85:15又は約80:20の重量比を有することができる。
【0031】
均質混合物の形成後、当該均質混合物を圧縮成形して固形吸着剤を製造することができる。圧縮成形工程中に加えられる加熱及び/又は加圧は、吸着剤粒子がバインダー中に完全に封入されるのではなく、その代わりに、十分に「露出(exposed)された」吸着剤粒子表面を保持するか、又は、十分な非被覆表面積を有することを保証するように制御することができる。また、圧縮成形工程中に加えられる加熱および/又は加圧は、バインダーが隣接する吸着剤粒子と十分に結合するように、そして、バインダーが流動し吸着剤粒子を被覆する原因となる最大溶融温度にバインダーが到達しないように、制御することができる。吸着剤粒子とバインダーとの結合は、例えばファンデルワールス力、水素結合、またはその両方から生じ得る。いくつかの実施形態では、吸着剤粒子とバインダーとの間の結合は、共有結合を含まないか、実質的に共有結合を含まない。吸着剤材料が溶融しないように、吸着剤粒子はバインダーよりも高い溶融温度を有することができる。
【0032】
したがって、圧縮成形工程は、固形物の吸着剤を形成するための焼結工程であると考えることができる。吸着剤粒子は、その吸着能力を保持しつつ、固定化(immobilized)されかつ空間的に固定(fixed)されるようになる。固形吸着剤は、吸着剤-吸着剤の結合なしで、通常、吸着能力の損失、機械的完全性の損失、またはその両方の損失をもたらす条件でのみ発生する吸着剤粒子の点結合を有することができる。
【0033】
例えばある例ではビカットA軟化温度等が十分な軟化/結合/粘着状態に達することを保証するように、圧縮成形工程のパラメータに応じて、いくつかの例では圧縮成形工程中に熱を加えることができる。しかしながら、他の例では、外部熱が必要とならないように、圧縮成形工程中に混合物に加えられる圧力が混合物中に十分な内部熱を発生させる。さらに他の例では、圧縮成形工程で発生した圧力が、混合物中において、バインダー材料が液化しないことを保証するために除去されることが望まれる過剰な熱の原因となり得るので、この場合、圧縮成形中に混合物に冷却を加えることができる。圧縮成形工程は、多種多様な構造、手段または方法のいずれによっても実施することができるが、ある例では、加熱ブロック型のキャビティ内で混合物を圧縮するために、ピストンまたは他のラム様器具(ram-like implement)が使用される。圧縮成形工程の完了後、金型ブロックから射出される前に、固形吸着剤はバインダーの軟化点未満にわずかに冷却され、その後さらに冷却される。
【0034】
いくつかの実施形態では、吸着剤の表面積(surface area)は、約5%~約95%(表面積(surface area)で)の吸着剤粒子を含む。例えば、吸着剤の表面積は、表面積で約10%~約40%又は約20%~約30%の吸着剤粒子を含むことができる。吸着剤の表面積はまた、表面積で約60%~約90%又は約70%~約80%の吸着剤粒子を含むことができる。
【0035】
吸着剤は、他の材料で部分的に被覆することができ、又は、いかなるコーティングも含まないことができる。
【0036】
固形吸着剤の一部に沿う断面の概略図が
図3に示されており、固形吸着剤10内に位置する空隙16(voids)とともに、バインダー粒子14に結合する吸着剤粒子12を有する固形吸着剤10を示している。ある例では、吸着剤粒子12の一部、全部、実質的に全部または大部分の表面積の少なくとも約25%はバインダー/バインダー粒子14によってシールされず、及び/又は、空隙16に露出しており、また、この場合、吸着剤粒子12の表面積の約75%が吸着に使用できるため、孔、チャネル及び吸着部位が利用可能な状態であり且つ吸着に使用可能である。バインダー14によってシールされていない各吸着剤粒子12の表面は、通常一つの若しくは複数の吸着剤粒子12に接触しているか、又は、オープン空隙(open void space)16に露出されている。この場合、ランダムに充填された吸着剤粒子12及びバインダー粒子14から形成された空隙16は、固形吸着剤10の厚さを通る、蛇行する経路のネットワークを提供し、吸着剤粒子12のすべて、若しくは略すべて、若しくは大部分、及び/又は、その表面積が、水分若しくは他の望ましくない物質を吸着するために利用可能であるようにする。十分な剛性のモノリスを確保するために、大部分の吸着剤粒子12及び/又はその表面積は、バインダー粒子14に十分に結合されている間、露出されたままであることが通常望ましい。したがって、圧縮成形中に加えられる圧縮力は、空隙16が過度に排除されることを防ぐために制御されるべきである。
【0037】
3-D孔ネットワークを有する固形吸着剤10の場合、吸着剤粒子12のいずれかの領域が露出している限り、吸着剤粒子12の全体を吸着に利用することができる。しかしながら、吸着剤粒子12のあまりに多くの表面積がバインダー14によって被覆されている場合、吸着剤材料の動的取り込みは制限され得る。したがって、固形吸着剤10は構造全体に空隙16を提供する。一次流体からの、吸着質の迅速な動的取り込みを可能にするのは、この空隙16のネットワークである。それから、ある例では、固形吸着剤10は約10体積%~約60体積%の範囲の空隙16を有し、ある例では約10%超、又は他の例では約25%超、又は他の例では約60%未満又は約50%未満である。
【0038】
特定の実施例として、15重量%のKyblock(商標)FG-81(米国ペンシルベニア州キングオブプラシャのアルケマ社)のバインダーと、85重量%のSiliporite(商標)NK 30AP(フランス共和国コロンブのCECA SA社)の吸着剤とを、ステンレス鋼のミキシングボールの中で5分間、手動で混合した。次に、均質粉末混合物を厚壁ステンレス鋼管内に配置し、当該厚壁ステンレス鋼管の内表面を型の外表面とした。固まっていない粉末(loose powder)混合物を型内に保持しつつ圧縮力を加えるため、小さいピストンを管の底部に嵌め込んだ。ピストンは、環状断面を有する固形吸着剤のための型の内表面に形成されたマンドレルを支えるために、その中央に形成された穴を含むものであった。粉末混合物を中央マンドレル周辺の管内に一度に数グラムずつ入れた後、閉じ込められた空気を除去するために、中央のマンドレルに合う形状のロッドを使用してしっかりと突き固めた(tamped)。十分な量の粉末混合物が型内に添加され突き固められたとき、粉末が約0.85g/ccの見掛け密度となるように、アーバープレスを使用してさらに圧縮した。次に、圧縮した粉末をオーブン中において450°Fで1時間加熱した。加熱した圧縮型アセンブリをオーブンから取り出し、約1.18g/ccの最終見掛け密度を達成するために、1,000~10,000psiでプレスした。型を冷却後、固形吸着剤を型から取り出した。
【0039】
上記の例は、固形吸着剤を形成するための圧縮成形工程に関する詳細を提供しているが、固形吸着剤は、圧縮成形以外の様々な他の方法のいずれによっても形成可能であることが理解されるべきである。例えば、上記均質混合物を形成し、次に、ある例ではスクリュー押出機のような押出機に入れ、押出して上記のように部分的に露出した吸着剤粒子を有する固形吸着剤を提供することができる。成形/形成(molding/formation)中の圧縮力は、例えば油圧式または機械式のパンチ及びダイの設備(arrangement)等の、多種多様な機構、装置または構造のいずれかによって提供することができる。また一方、押出成形法による1つの利点は、混合物の内部温度をより正確に制御し得るということである。
【0040】
固形吸着剤は、所望の最終用途によって、多種多様な所望の形状および構成のいずれかに形成することができる。ある例では、固形吸着剤は通常管状または円柱状(cylindrical)である。しかしながら、固形吸着剤は、例えば三角形、四角形、矩形、六角形若しくは他の(規則的または不規則的な)幾何学的形状または他の形状等、円形以外の他の形状若しくは断面を有することができることを理解されたい。固形吸着剤が円柱状である場合、ある例では少なくとも約1:1、他の例では少なくとも約4:1、さらに別の例では結果として比較的長く/細いシリンダーとなる、少なくとも約8:1の長さ/直径の比を有することができる。固形吸着剤が円柱状以外の形状を有する場合、同様の長さ/有効直径の比を有することができ、相当する断面積を得るために必要な円の直径を求めることにより、有効直径を計算することができる。
【0041】
図1に示すように、ある特定の使用の態様では、固形吸着剤10は自動車の空調システムのコンデンサ18と共に使用することができる。この場合、コンデンサ18は、コンデンサ18の片側に位置するレシーバードライヤーチューブ20を含むことができる。図示した固形吸着剤10は、固形吸着剤10をレシーバードライヤーチューブ20に密着して嵌めることができるように、比較的長く細い円柱状の形状である。
【0042】
図示する実施形態では、固形吸着剤10は、中央に全長にわたり軸方向に延在する開口部22を含む。開口部22は、その中にピックアップチューブ24が収容されるように構成可能である。チューブ24は、次に、フィルターキャップ26が、例えば圧入または締り嵌め(interference fit)等の方法でその上に嵌まるような大きさに構成してもよい。フィルターキャップ26は、コンデンサ18をシールするため、コンデンサ18のレシーバードライヤーチューブ20の上端をシールしつつ嵌まるように構成され、また、その中にフィルター材を含むことができる。フィルターキャップ26はまた、チューブ24と連結し、且つ流体連通する中央開口部28を含む。このようにして、冷却流体がチューブ24を通して吸い上げられ且つ除去される要因となる吸引力をフィルターキャップ26に加えることによって、コンデンサ18内のあらゆる流体(すなわち、冷却流体)をコンデンサ18から除去することができる。逆に、キャップ26及びチューブ24を経由してコンプレッサー18の中に代替の冷却流体を導入することができる。コンデンサ18は、その中に冷却流体が流れる複数の内部経路30を含み、また、内部経路30はレシーバードライヤーチューブ20と流体連通する。これにより、固形吸着剤10は、水および冷却流体中の他の好ましくない流体を吸着することができる。
【0043】
吸着剤はまた、自動車の空調システムの他の場所、例えば、膨張弁への流路、又は、コンプレッサーへの若しくはコンプレッサーからの流路等に配置することもできる。
【0044】
自動車の空調システムに利用されている吸着システムの多くの現在の設計は、多孔性の不織布のポリエステルフェルトバッグに直径約2ミリメートルの吸着剤ビーズが充填され、吸着剤パッケージを形成している。吸着剤パッケージは、しばしば、この目的のために特別に設計された、垂直、成形、充填、シール(vertical, form, fill, seal(「VFFS」))機によって作製される。しかしながら、既存のVFFS機の多くは、長さと幅の比が略1:1の吸着剤パッケージ用に設計されている。一方で、現在の多くの自動車の空調システムは、比較的高い、長さ対幅(又は長さ対直径)の比を必要とする。したがって、現在のVFFS機を使用して、そのような細いバッグにビーズを充填するとき、バッグの小さい幅または口は、バッグに充填するために必要な時間を著しく増大させる。
【0045】
さらに、既存の吸着剤のパッケージの使用には、固有の欠点がある。特に、吸着剤ビーズは通常、小さい吸着剤粒子または粉末がより大きな固体ビーズへと形成された凝集体である。既存の吸着剤パッケージでは、バッグ内に収容されている個々のばらばらの吸着剤ビーズは、空調システム/車両の動きおよび振動によって、バッグ内での動きを受けやすい。比較的粗い表面のビーズが互いに対して動くとき、摩擦作用がビーズから小さい粒子の剥離を引き起こす。小さな、剥離した粒子は多孔質バッグから漏れ出し、空調システム全体を循環することがある。漏れ出た吸着剤粒子は、例えばコンプレッサーや温度膨張弁などの空調システムの可動部品の早期の摩耗の原因となり得、システム内の小さな穴を塞ぐことがある。さらに、通常不織布材料からなるバッグは、液体冷媒および潤滑油を吸着することができる。これは、追加の油と冷却流体を空調システムに追加する必要がある。最後に、吸着剤ビーズを有するバッグを利用する既存の吸着剤パッケージは、吸着システムの形状に対して特定の制限が存在する。
【0046】
これに対し、本明細書に開示されている固形吸着剤は、上記の既存の吸着剤パッケージの多くの欠点を克服する。特に、固体モノリス吸着剤の構造は、小さい吸着剤粒子または粉末が、1つの大きな構成物となった集塊である。したがって、互いに動く可能性がある複数のビーズの使用とは異なり、モノリス構造は所定の位置に保持され、低発塵若しくは無発塵である。発塵が少ないと、空調システム内の可動部品の摩耗が少なくなり、システムが詰まる危険性が低くなる。固形吸着システムはまた、比較的形成が容易であり、そして比較的細いバッグの吸着剤ビーズの「ボトルネック」充填を回避する。
【0047】
固形吸着剤モノリス構造はまた、ビーズ間の大きな間隙を排除または減少させることによってより高密度の吸着剤構造を提供し、また、吸着剤バッグの構造の空きヘッドスペース(empty head space)も排除する。これにより、固形吸着剤モノリス構造は、吸着剤ビーズがゆるく充填された既存のバッグよりも、単位体積あたりの吸着剤がより吸着する能力を高める。さらに、固形吸着剤を使用することによってバッグを取り除くことが可能になるので、それに応じて、バッグによる液体冷媒および潤滑油の吸収が排除される。固形吸着剤モノリスは、コンデンサ内へより容易且つ迅速に配置することができ、また、自動化装置を用いて行うことができる。
【0048】
いくつかの実施形態では、吸着剤モノリスは、約15ミリメーター(mm)~約35mm又は約20mm~約30mmの直径を有することができる。吸着剤モノリスは、約100mm~約400mm又は約150mm~約300mmの長さを有することができる。
【0049】
最後に、本明細書に開示された吸着剤は固形状に形成することができるため、吸着剤は自動車の空調システム又は固形吸着剤が利用できる他のシステムにおいて構造部品として作動することができる。例えば、
図1に示す実施形態では、チューブ24が取り除かれた場合、代わりにキャップ26を固形吸着剤10に直接連結させることができる。この場合、固形吸着剤10の中心軸の開口部22は通常液密(fluid-tight)とすることができ、流体の除去のためのシールされたチューブとして動作することができる(吸着剤10は吸着性であるが、固形吸着剤10は十分に液密とすることができ、吸着は生じ得るが十分に低い割合であるので、流体は吸引によって開口部22を通して除去することができる)。さらに、固形吸着剤モノリスは、本明細書に示されたもの以外にも多種多様な形状(shapes)若しくは形態(forms)のいずれかを有することができ、また、成形若しくは構成することができ、例えば、制御された吸着率を可能にするために、表面積を強化(enhance)及び増大(increase)することができる。
【0050】
さらに、固形吸着剤は濾過特性を含むことができ、そのため、別体の濾過装置が不要となる。例えば、固形吸着剤は、既存の射出若しくは押出プラスチック部品と置き換えるため、及び/又は、濾過グレード(filtration grade)の固定化された吸着剤を有するフィルターシステムと置き換えるために、特定の形状に形成することができる。
【0051】
様々な実施形態を参照して本発明を詳細に説明してきたが、本出願の特許請求の範囲から逸脱することなく、その改良形態および変形形態が可能であることを理解されたい。