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特許7064530スパーク放電に対する保護のための制御回路
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】スパーク放電に対する保護のための制御回路
(51)【国際特許分類】
   B05B 5/025 20060101AFI20220427BHJP
   H02H 3/24 20060101ALI20220427BHJP
   H02H 3/08 20060101ALI20220427BHJP
   H02H 7/00 20060101ALI20220427BHJP
   H02H 3/44 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
B05B5/025 F
H02H3/24 A
H02H3/08 A
H02H7/00 A
H02H3/44 A
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020094260
(22)【出願日】2020-05-29
(62)【分割の表示】P 2018506586の分割
【原出願日】2016-06-15
(65)【公開番号】P2020163388
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2020-06-26
(31)【優先権主張番号】102015215402.5
(32)【優先日】2015-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513200450
【氏名又は名称】ゲマ スイッツランド ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】特許業務法人ナガトアンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】マウヒレ, フェリックス
(72)【発明者】
【氏名】ヴァゼッラ, マリオ
【審査官】塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-272553(JP,A)
【文献】国際公開第2005/009621(WO,A1)
【文献】特開2009-133332(JP,A)
【文献】特開平04-346860(JP,A)
【文献】特開2010-022933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B5/00-5/16
H02H3/08-3/253
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの高電圧電源を備える静電スプレーコーティング装置のスパーク放電に対する保護のための制御回路であって、
前記制御回路は、前記高電圧電源の自動的な遮断のための1つの遮断装置と、前記高電圧電源の異常動作を検知するための1つの装置と、を備え、
前記高電圧電源の異常動作を検知するための前記装置は、前記高電圧電源の動作を特徴付ける少なくとも1つのパラメータを監視し、そして前記高電圧電源の動作を特徴付ける少なくとも1つのパラメータが事前に設定されるかまたは設定可能な限界値を越えるかあるいは下回る場合、これに対応して遮断信号を前記遮断装置に出力するように構成されており、
前記高電圧電源を定電流動作で動作させるための1つのクローズループ制御システムがさらに設けられており、
前記高電圧電源の異常動作を検知するための前記装置は、前記高電圧電源の高電圧出力の瞬時値(数値)が、事前に設定されたあるいは設定可能な限界値を下回る場合、および/または、前記高電圧電源の高電圧出力の変化率が、事前に設定されたあるいは設定可能な限界値を下回る場合に、これに対応して遮断信号を前記遮断装置に出力するように構成されている、
ことを特徴とする制御回路。
【請求項2】
前記高電圧電源の高電圧出力の変化率は、1つの設定可能な時間範囲における前記高電圧電源の平均的変化であることを特徴とする、請求項1に記載の制御回路。
【請求項3】
請求項1または2に記載の制御回路において、
前記高電圧電源を電圧制御動作で動作させるための1つのオープン制御ループシステムがさらに設けられており、
前記高電圧電源の異常な動作を検知するための前記装置は、前記高電圧電源の動作電流またはスプレー電流を検知し、前記高電圧電源の動作電流または前記スプレー電流の瞬時値(数値)が、事前に設定されたあるいは設定可能な限界値を上回る場合、および/または、前記高電圧電源の動作電流または前記スプレー電流の変化率が、事前に設定されたあるいは設定可能な限界値を上回る場合に、これに対応して遮断信号を前記遮断装置に出力するように構成されている、ことを特徴とする制御回路。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の制御回路において、
前記高電圧電源を定電圧動作で動作させるための1つのクローズループ制御システムがさらに設けられており、
前記高電圧電源の異常動作を検知するための前記装置は、前記高電圧電源の動作電流またはスプレー電流を検知し、前記高電圧電源の動作電流または前記スプレー電流の瞬時値(数値)が、事前に設定されたあるいは設定可能な限界値を上回る場合、および/または、前記高電圧電源の動作電流または前記スプレー電流の変化率が、事前に設定されたあるいは設定可能な限界値を上回る場合に、これに対応して遮断信号を前記遮断装置に出力するように構成されている、ことを特徴とする制御回路。
【請求項5】
前記高電圧電源の動作電流または前記スプレー電流の前記変化率は、1つの設定可能な時間範囲における前記動作電流の平均的変化であることを特徴とする、請求項3または4に記載の制御回路。
【請求項6】
前記高電圧電源の始動の際または前記高電圧電源の動作点の変更の際の前記遮断装置による望ましくない自動的な遮断に対して、前記高電圧電源を保護するための1つの過渡保護装置がさらに設けられていることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の制御回路。
【請求項7】
前記過渡保護装置は、前記高電圧電源の前記始動の際または前記高電圧電源の前記動作点の変更の際に、前記遮断装置を事前に設定されたあるいは設定可能な時間の間不活性化するように構成されていることを特徴とする、請求項6に記載の制御回路。
【請求項8】
前記事前に設定されたあるいは設定可能な時間は、前記高電圧電源の前記設定された動作点に依存して選択され、好ましくは0.25~4秒であり、そしてさらに好ましくは1~2秒であることを特徴とする、請求項7に記載の制御回路。
【請求項9】
前記過渡保護装置は、前記高電圧電源の動作を特徴付ける前記少なくとも1つのパラメータが事前に設定された時間の間、前記事前に設定されたまたは設定可能な限界値を上回ったかあるいは下回った場合にのみ、前記遮断装置による前記高電圧電源の自動的な遮断が許可されるように構成されていることを特徴とする、請求項6乃至8のいずれか1項に記載の制御回路。
【請求項10】
コーティング材料、具体的には紛体塗料または液体塗料を用いた、対象物の静電スプレーコーティングのためのスプレーコーティング装置であって、
1つの高電圧電源と、
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の1つの制御回路と、
を備えることを特徴とするスプレーコーティング装置。
【請求項11】
前記高電圧電源は、選択的に、定電流動作、定電圧動作、または電圧制御動作で動作可能となっていることを特徴とする、請求項10に記載のスプレーコーティング装置。
【請求項12】
対象物を静電コーティングするための方法であって、
前記方法では、コーティング材料(液状または紛体状)が、1つの高電圧電源に接続された帯電電極を用いて静電気帯電されて、コーティングされる対象物の方向に噴霧され、
前記高電圧電源の動作を特徴付ける少なくとも1つのパラメータが監視され、
前記高電圧電源の動作を特徴付ける前記少なくとも1つのパラメータが1つの事前に設定されたまたは設定可能な限界値を上回るかまたは下回る場合に遮断装置に遮断信号が出力され、この結果当該遮断装置が、前記高電圧電源を自動的に遮断し、
前記高電圧電源は、定電流動作で動作され、そして当該高電圧電源の高電圧出力が検知され、前記高電圧電源の高電圧出力の瞬時値が、事前に設定されたあるいは設定可能な限界値を下回る場合、および/または、前記高電圧電源の高電圧出力の変化率が、事前に設定されたあるいは設定可能な限界値を下回る場合に、これに対応して遮断信号が前記遮断装置に出力されるように構成されている、
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電コーティングの分野に関する。詳細には、本発明は静電気を用いたコーティング処理を安全に使用するための保護対策に関する。
【背景技術】
【0002】
静電コーティング処理の特徴は、高電圧の使用にあり、この高電圧は一般的に数万ボルトとなっており、そして同時に爆発性の溶剤/蒸気-空気混合物または埃-空気混合物を生成することである。
【0003】
液状ペンキを用いた静電塗装の際には、この液状のコーティング材料は、ペンキ粒子の霧に変換され、そして電界の力を利用してコーティングされる対象物(ワークピース)に降りかけられる。ここでこの細滴は、大体数万ボルトの高電圧を用いて帯電され、これによりこれらの細滴が接地された対象物(ワークピース)に引き寄せられる。このコーティング材料は、圧搾空気、液体圧、またはこれらの方法および他の遠心力を組み合わせることによって噴霧される。
【0004】
静電紛体コーティングの処理の際には、コーティング材料(コーティング粉体)は、空気流を利用して紛体容器から静電スプレーコーティング装置に導かれる。このスプレーコーティング装置を通って流れる紛体粒子は、通常は高電圧電源によって供給される数十kVの高電圧を用いて、帯電される。この帯電された紛体粒子は、コーティングされる、接地された対象物(ワークピース)に引き寄せられ、これに降りかけられる。
【0005】
静電植毛の際には、短いけば状の繊維(フロック)が貯蔵容器から電界によって輸送される。このフロックは、電界において整列され、接着剤でコーティングされた、コーティングされる対象物の接地された表面に取り付けられる。このフロック粒子は、決まった導電性を有しており、そして静電植毛装置によって数十キロボルトの高電圧を用いて帯電され、ダイポールを形成し、そしてこれによりこの帯電の力に対応して雲のような形状で、上記の接地された対象物(ワークピース)によって、あるいは植毛される面によって引き寄せられ、そして接着剤が設けられた面に付着する。
【0006】
上述の静電コーティング処理では、霧状となったコーティング材料は、数万ボルトの高電圧によって帯電されるので、この静電コーティングでは爆発の危険を避けるために、特別な注意を払う必要がある。この静電コーティングでは、空気中に噴霧された点火可能なコーティング物質の濃度が爆発範囲内にあり、そしてこの爆発可能な雰囲気に対し十分なエネルギーの点火源が存在する場合、爆発が特に起こり易い。この点火源は、具体的には電気アーク放電またはスパークであり得る。
【0007】
以上に加えて、静電コーティングの際に使用される数万ボルトの高電圧による感電の危険性への特別の注意を払う必要がある。たとえばスプレーコーティング装置の帯電電極への直接的または間接的な接触による電気ショックは、特にこの帯電電極への接触によって引き起こされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上より、本発明の課題は、使用されるそれぞれの場合に出来る限り信頼性良く、スパーク放電に対する静電スプレーコーティングの保護用に最適に適合し得る制御回路を提示することである。ここで検討される静電スプレーコーティング装置は、具体的には、スプレーされるコーティング材料の静電気帯電用に1つの高電圧電源を備えるような装置か、あるいはスプレーされるコーティング材料の静電気帯電用に1つの適合した高電圧電源が割り当てられるような装置である。スプレーされるコーティング材料は、具体的には液状のコーティング材料(液体塗料)または紛体状のコーティング材料(紛体塗料)である。しかしながら、本発明が、コーティングされる対象物の、接着剤がコーティングされ、接地された表面上に短いけば状の繊維(フロック)をスプレーするためのスプレーコーティング装置に使用することも可能である。
【0009】
本発明のもう1つの課題は、動作中のスパーク放電が効果的に防止される、これに適した静電スプレーコーティング装置を提示することである。さらに加えて、対象物の静電スプレーコーティングに適した方法が提示されることになる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の制御回路に関しては、本発明の課題は、独立請求項1に記載の物によって解決され、ここでこの本発明による制御回路の有利な変形実施例が従属請求項2~11に提示されている。
【0011】
上記のスプレーコーティング装置に関しては、本発明の課題は、下位請求項12に記載の物によって解決され、そして対象物の静電コーティングのための方法に関しては、独立請求項14に記載の方法によって解決される。
【0012】
以上より、具体的には、1つの高電圧電源を備える静電スプレーコーティング装置のスパーク放電に対する保護のための1つの制御回路が提示され、ここでこの制御回路は、この高電圧電源を自動的に遮断するための1つの遮断装置と、この高電圧電源の異常動作を検出するための1つの装置と、を備える。この高電圧電源は、具体的には上記の静電スプレーコーティング装置に割り当てられた1つの装置であり、この装置は、一般的に、1つの低電圧部分、1つの高電圧発生器、およびスプレーされるコーティング材料(液状または紛体状)を静電気帯電するための1つの帯電電極から成っている。高電圧カスケードは、本発明においては、投入される交流電圧を数万ボルトの比較的高い直流電圧に変換する、1つの静電気回路を意味する。この高い電圧は、カスケード、すなわち前後に続いた多段のグライナッハ回路によって達成される。このカスケードは、ダイオードおよびコンデンサの数に応じて、理論的には任意の高い出力電圧を供給する。実際には、コンデンサが直列に回路接続されることで、これによってコンデンサの数の増大に伴って静電容量が段々と小さくなることにより限界がある。これにより最終的には、この出力電圧は、非常に小さな電流消費で既に大きく低下する。
【0013】
本発明による制御回路で使用される、上記の高電圧電源の異常動作を検知するための装置は、この高電圧電源の動作を特徴付ける少なくとも1つのパラメータ、好ましくは連続的または所定の時刻あるいはイベントを監視するように構成されており、そしてこの高電圧電源の動作を特徴付ける少なくとも1つのパラメータが事前に設定されるかまたは設定可能な限界値を越えるかあるいは下回る場合、そしてこれによりこの高電圧電源の異常動作が検知される場合、これに対応して遮断信号を上記の遮断装置に出力するように構成されている。
【0014】
このようにしてこの高電圧電源の異常動作において、この高電圧電源を直ちに遮断することができ、こうして上記の静電スプレーコーティング装置のスパーク放電に対し効果的に保護される。以上によりこの静電スプレーコーティング装置の動作において、爆発および/または感電の虞による脅威を効果的に排除することができる。
【0015】
上記の高電圧電源の動作において特徴付けられるパラメータ(複数)とは、具体的にはこの高電圧電源の出力に供給される高電圧出力の大きさ(数値)であり、この高電圧電源に投入される動作電流の大きさ(数値)および/または上記のスプレーコーティング装の帯電電極からのコーティングされる対象物へのスプレー電流の大きさ(数値)である。
【0016】
ここで上記の高電圧電源に投入される動作電流および/またはコーティングされる対象物への上記の帯電電極のスプレー電流を、間接的かまたは直接的に検知あるいは測定することが可能である。
【0017】
このスプレー電流の間接的な測定は、たとえば上記の高電圧電源の動作電流、すなわちその二次巻線が1つの高電圧カスケード回路を整流器(複数)およびコンデンサ(複数)と接続しているトランスの、一次巻線を通って流れる電流が測定されることによって行うことができる。この代替として、上記のスプレー電流を間接的に決定すること、実際にはこの際上記のトランスと1つの高電圧カスケード回路との間で、上記の二次巻線に流れる電流が測定されることも可能である。このスプレー電流は、たとえば上記の帯電電極の前段に回路接続された電気抵抗での降下電圧によって間接的に測定することができる。
【0018】
他方、特に歪変されていない測定結果、および変化に対するこの制御回路の素早い反応を可能とするために、上記のスプレー電流の直接測定も可能である。このためたとえば1つのスプレー電流測定回路を、上記のコーティングされる対象物から上記の高電圧電源あるいは上記の制御回路に戻る、戻り電流路に配設し、そこで上記のスプレー電流を測定することが可能である。
【0019】
本発明の1つの態様によれば、さらに、上記の静電スプレーコーティング装置を定電流動作で動作させるために、1つのクローズループ制御システムが設けられる。ここで用いられている「定電流動作」なる概念は、上記の高電圧電源の1つの動作であり、この動作ではこのクローズループ制御システムを用いて、高電圧電流の実際の値が1つの制御装置に直接フィードバックされることである。上記の高電圧電源の動作電流あるいはスプレー電流は、この高電圧電源の高電圧出力が、極小値と極大値との間で、負荷に依存してプロセス技術的に決められた値に変化されることによって一定に維持される。
【0020】
さらに1つのクローズループ制御システムが設けられている上記の高電圧電源を定電流動作で動作させるために、本発明による制御回路のこの変形例では、この高電圧電源の異常動作を検知するための上記の装置は、この高電圧電源の高電圧出力を検知し、そしてこれに対応して遮断信号を、以下の場合に上記の遮断装置に出力するように構成されている。
-上記の高電圧電源の高電圧出力の瞬時値(数値)が、事前に設定されたあるいは設定可能な限界値を下回る場合;および/または、
-上記の高電圧電源の高電圧出力の瞬時変化率が、事前に設定されたあるいは設定可能な限界値を下回る場合;および/または、
-上記の高電圧電源の高電圧出力の平均変化率が、事前に設定されたあるいは設定可能な限界値を下回る場合。
【0021】
ここで上記の高電圧電源の高電圧出力は、直接または間接に検知することができる。ここでこの高電圧電源の高電圧出力の好ましい間接的な検知は、たとえば1つのトランスの一次または二次巻線に印加される電圧が測定されることによって行われる。このトランスの二次巻線には、整流器(複数)とコンデンサ(複数)を有する高電圧カスケード回路が接続されている。
【0022】
上記の高電圧電源の高電圧出力の直接的な検知は、この高電圧電源の出力で、1つの抵抗で降下する電圧を測定することによって行うことができる。
【0023】
ここで用いている概念「高電圧電源の高電圧出力の平均変化率」とは、原則として、好ましくは上記の静電スプレーコーティング装置の操作者によって手動で設定可能な1つの時間範囲における高電圧出力の平均的変化のことである。
【0024】
この高電圧電源の高電圧出力の平均変化率を決定するための設定可能な時間範囲は、好ましくはアプリケーションで個別に選択されるものであり、このようにして上記の静電スプレーコーティングあるいはこの静電スプレーコーティングに付随する制御回路が個々の場合に出来る限り最適にマッチングするようにする。
【0025】
このため代替としてまたは追加的に、本発明のもう1つの態様によれば、上記の高電圧電源を電圧制御動作で動作させるために、さらに1つのオープン制御ループシステムが設けられる。
【0026】
ここで用いている「電圧制御動作」とは、上記の高電圧電源の1つの動作のことであり、この動作では、上記の高電圧電源の高電圧出力は、フィードバックされない。この電圧制御動作では、この高電圧電源の高電圧出力は、通常1つの決まった動作電流に設定される。この高電圧電源の高電圧出力は、しかしながら制御装置によって一定には維持されず、この高電圧電源の動作電流および負荷特性に依存して変化する。
【0027】
1つのオープン制御ループシステムが設けられている上記の最後に挙げた本発明の態様では、上記の高電圧電源を電圧制御動作で動作させるために、この高電圧電源の異常な動作を検知するための上記の装置は、以下の場合にこの高電圧電源の動作電流または上記のスプレー電流を検知し、そしてこれに対応して遮断信号を上記の遮断装置に出力するように構成されている。
-上記の高電圧電源の動作電流または上記のスプレー電流の瞬時値(数値)が、事前に設定されたあるいは設定可能な限界値を上回る場合;および/または、
-上記の高電圧電源の動作電流または上記のスプレー電流の瞬時変化率が、事前に設定されたあるいは設定可能な限界値を上回る場合;および/または、
-上記の高電圧電源の動作電流または上記のスプレー電流の平均変化率が、事前に設定されたあるいは設定可能な限界値を上回る場合。
【0028】
以上に挙げた態様(複数)の代替としてまたは追加的に、本発明のもう1つの態様によれば、上記の高電圧電源を定電圧動作で動作させるために、1つのクローズループ制御システムが設けられる。
【0029】
ここで用いられている「定電圧動作」とは、具体的には上記の高電圧出力の実際の値が直接フィードバックされる上記の高電圧電源の動作のことである。この定電圧動作では、上記の高電圧電源の設定された高電圧出力が、1つの制御装置によって、この高電圧電源の変化する動作電流に依存せず、この高電圧電源の出力限界まで一定に保持される。
【0030】
上記の高電圧電源を定電圧動作で動作させるための1つのクローズループ制御システムが設けられている、この実施形態では、この高電圧電源の異常動作を検知するための上記の装置は、この高電圧電源の動作電流における異常動作を(間接的または直接的に)検知し、そして以下の場合に、これに対応して遮断信号を上記の遮断装置に出力するように構成されている。
-上記の高電圧電源の動作電流または上記のスプレー電流の瞬時値(数値)が、事前に設定されたあるいは設定可能な限界値を上回る場合;および/または、
-上記の高電圧電源の動作電流または上記のスプレー電流の瞬時変化率が、事前に設定されたあるいは設定可能な限界値を上回る場合;および/または、
-上記の高電圧電源の動作電流または上記のスプレー電流の平均変化率が、事前に設定されたあるいは設定可能な限界値を上回る場合。
【0031】
上記の高電圧電源の動作電流あるいは上記のスプレー電流は、たとえばこの高電圧電源の入力に供給される電流であり、すなわちたとえば1つのトランスの一次巻線を通って流れる電流であり、このトランスの二次巻線にはこの高電圧電源の高電圧カスケード回路が接続されている。
【0032】
この代替として、上記の高電圧電源の動作電流あるいは上記のスプレー電流が間接的に測定されてもよく、実際にはたとえば上記のトランスと上記の高電圧電源の高電圧カスケード回路との間の上記の二次巻線に流れる電流が測定されてもよい。
【0033】
この代替として、しかしながら上記のスプレー電流の直接測定も可能であり、ここではこれが好ましい。
【0034】
上記の最後に挙げた本発明の態様では、上記の高電圧電源の動作電流の平均変化率は、好ましくは上記の静電スプレーコーティング装置の操作者によって手動で設定可能な1つの時間範囲における、この動作電流の平均的な変化に対応している。このようにして上記の制御回路の感度および応答特性をアプリケーションで個別に設定することができる。
【0035】
上述の全ての実施形態は共に、上記の静電コーティング装置の動作の際に、高電圧が通っている部分と接地された部分との間の危険な放電、具体的には上記のスプレーコーティング装置の帯電電極と接地された(コーティングされる)対象物との間での危険な放電を効果的に防止する。これは上記の高電圧電源が自動的に遮断されることによって達成され、この結果上記の静電スプレーコーティング装置の帯電電極は、放電される。
【0036】
特に、このようにして正常動作においては、上記のスプレーコーティング装置は、電気スパークを効果的に防止することができる。これは、上記のスプレーコーティング装置の帯電電極とコーティングされる対象物との間の距離が小さくなると、上記の制御回路の遮断装置が上記の高電圧電源を自動的に遮断するからである。
【0037】
本発明のもう1つの実施形態によれば、上記の高電圧電源を、この制御回路の遮断装置による望ましくない自動的な遮断に対して保護するために、上記の制御回路には1つの過渡保護装置が設けられている。これは具体的には上記の高電圧電源の始動の際に、またはこの高電圧電源の動作点の変更の際に、有利である。これはこのような場合に、この高電圧電源の動作を特徴づけるパラメータが大きく外れる、すなわち臨界的な限界値を容易に上回るかあるいは下回るからである。これに対応した過渡保護装置を設けることにより、このような望ましくない、上記の遮断装置による上記の高電圧電源の自動的な遮断が効果的に抑圧される。
【0038】
この観点から、上記の過渡保護装置は、上記の高電圧電源の始動の際に、またはこの高電圧電源の動作点の変更の際に、上記の制御回路の上記の遮断装置を事前に設定されたあるいは設定可能な時間の間不活性化するように構成されていることが可能である。この高電圧電源の設定された動作点に応じて、および/または上記の静電スプレーコーティング装置のアプリケーションに応じて、これらの事前に設定されたあるいは設定可能な時間は好ましくは0.25~4秒であり、そしてさらに好ましくは1~2秒である。
【0039】
当然ながらここでは他の時間も可能であり、具体的には上記の静電スプレーコーティング装置の操作者によって手動で設定可能である。
【0040】
このため代替としてまたは追加的に、上記の過渡保護装置が、上記の高電圧電源の始動の後、またはこの高電圧電源の動作点の変更の際に遮断信号を上記の遮断装置に出力するための上記の限界値を変化させることが可能であり、そして実際は最初の比較的問題とならない値から上記の事前に設定されたまたは設定可能な上記の限界値の値まで変化される。またこれは同様に、上記の高電圧電源の始動ステップまたは動作点の変更の際に、この高電圧電源が上記の遮断装置によって遮断されることを効果的に防止することができる。
【0041】
さらにこのため代替としてまたは追加的に、上記の過渡保護装置によって上記の高電圧電源の自動的な遮断が、上記の高電圧電源の動作を特徴付ける上記の少なくとも1つの特徴的なパラメータが事前に設定された時間の間上記の適宜事前に設定されたまたは設定可能な限界値を上回ったかあるいは下回った際に許可されるように、この過渡保護装置を構成することが可能である。このような方法を用いて、同様に上記の高電圧電源の動作を特徴付けるパラメータ(複数)が、特にこの高電圧電源の始動ステップまたはこの高電圧電源の動作点の変更の際に大きく外れることが抑圧される。
【0042】
本発明は上述したような制御回路にのみ限定されるものではなく、もう1つの態様によれば、コーティング材料、具体的には紛体塗料または液体塗料を用いた、対象物の静電スプレーコーティングのためのスプレーコーティング装置にも関するものであり、ここでこのスプレーコーティング装置は1つの高電圧電源ならびに本発明のような1つの制御回路を備える。この際有利には、上記の高電圧電源は、選択的に、定電流動作、定電圧動作、または電圧制御動作で動作可能となっている。
【0043】
本発明のもう1つの態様によれば、さらに本発明は対象物を静電コーティングするための方法に関し、この態様ではコーティング材料(液状または紛体状)は、1つの高電圧電源に接続された帯電電極を用いて静電気帯電され、そしてコーティングされる対象物の方向に噴霧される。ここでこの方法では、好ましくは連続的にまたは所定の時間あるいは所定のイベントの際に、この高電圧電源の動作が検査され、そしてここでこの高電圧電源の異常動作の際には、この高電圧電源が自動的に遮断される。この方法では、この高電圧電源の異常動作を検知するために、この高電圧電源の動作における少なくとも1つの特徴的なパラメータを監視し、そしてこの高電圧電源の動作におけるこの少なくとも1つの特徴的なパラメータが、事前に設定されたまたは設定可能な限界値を上回るかまたは下回る場合に、これに応じて遮断信号を1つの遮断装置に出力する。
【0044】
以下に図を参照し、例として好ましい実施形態に基づいて本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明による1つの静電スプレーコーティング装置の1つの例示的な実施形態を概略的に示す。
図2図1に示すスプレーコーティング装置の1つの高電圧スプレー電流ダイアグラムを示す。
【0046】
図1に示すスプレーコーティング装置は、コーティング材料を液体または好ましくは紛
体の形態で、1つのコーティングされる対象物(図1には不図示)にスプレーするための手動または自動のスプレーガンを備える。この際上記のコーティングされる対象物は、1つの導電性の材料から成っており、そして大地電位に接続されていると仮定されている。このコーティングされる対象物は、自動スプレーコーティング装置では、1つの不図示のコンベヤ装置によって上記のスプレーガンのそばを移動され、これによりこの対象物はこのスプレーガンのスプレービームに当たる。
【0047】
このスプレーガンには、スプレーされるコーティング材料の静電気帯電のための少なくとも1つの帯電電極(高電圧電極)が設けられている。これらの帯電電極には、1つの高電圧発生器によって、1kV~150kVの範囲での、好ましくは1kV~150kVの間にある値の直流高電圧が供給される。
【0048】
この高電圧発生器は、公知の方法では、小さな交流電圧を大きな交流電圧にステップアップするための1つのトランスおよび1つのカスケード回路を含んでよく、このカスケード回路は、公知の方法では、多数の整流器およびコンデンサを含み、そして上記の交流電圧を上記の直流高電圧に変換する。
【0049】
上記の小さな交流電圧は、1つの発振器によって、制御電圧に依存して生成され、この制御電圧は上記の帯電電極の高電圧用の制御変数である。この発振器は、上記の高電圧発生器の一部であってよく、そしてこのような高電圧発生器として上記のスプレーガンに一体化されているか、または1つの制御装置に一体化されていてよく、このレギュレータは全体として1つのレギュレータ装置を形成する。
【0050】
この制御装置は、1つの動作パラメータメモリを含み、このメモリには1つのデータ入力装置の1つのデータ転送路を介して、たとえば1つの上位計算機に、または手動、たとえばキーボードを介して、可変に調整可能な、少なくとも1つの高電圧限界値および少なくとも1つのスプレー電流限界値をそれぞれ上記の高電圧電極で達成可能なこれらの最大の値として入力することができ、そしてそこに保存可能である。好ましくは、様々な動作状態、具体的には様々なコーティングされる対象物および様々なスプレーコーティング材料、に対する複数のこのような値が保存可能である。これらの保存された値は、別の実施形態では、調整可能でない固定値であってよい。
【0051】
上記の高電圧限界値は、上記の動作パラメータメモリから、1つの高電圧制限回路に入力される。上記のスプレー電流限界値は、上記の動作パラメータメモリから1つのスプレー電流レギュレータに入力される。
【0052】
コーティングされる対象物からグラウンドに繋がる上記の帯電電極のスプレー電流は、このコーティングされる対象物のグラウンドに接続された側で測られ、そしてスプレー電流の実際の値として、同様に上記のスプレー電流レギュレータに入力される。このスプレー電流レギュレータは、このスプレー電流の実際の値を上記のスプレー電流限界値と比較し、そしてこれに依存して1つの高電圧レギュレータ変数を発生し、この高電圧レギュレータ変数はこのスプレー電流レギュレータから上記の高電圧制限回路に入力される。このスプレー電流レギュレータは、好ましくは1つのPIレギュレータ(Proportional-Integral-Regler)である。
【0053】
上記の高電圧制限回路は、上記の高電圧限界値および上記の高電圧レギュレータ変数に依存して上記の制御電圧を発生し、この制御電圧は、上記の発振器への直流入力電圧の形態で供給され、そして上記の帯電電極の高電圧用の制御変数である。この高電圧制限回路は、上記の高電圧レギュレータ変数が上記の高電圧限界値以上である場合に作用し、この制御電圧の直流電圧値は、上記の高電圧限界値に等しい。さらにこの高電圧制限回路は、上記の高電圧レギュレータ変数が上記の高電圧限界値より小さい全ての場合に、上記の制御電圧が上記の高電圧レギュレータ変数と等しくなるように作用する。
【0054】
図2は、横軸にスプレー電流(マイクロアンペア単位で測定)を、そして縦軸にこれに対応する高電圧(kV単位で測定)を示す。一番上の特性曲線は、標準的な特性曲線である。この特性曲線は、従来の装置で、上記の帯電電極とコーティングされる1つの対象物との間の距離が小さくなるにつれて、この帯電電極のスプレー電流が増大し、そして同時に高電圧が低下することを示している。この高電圧は、コーティングされる対象物または他の導電性の対象物の上記の帯電電極からの可能な最も大きな距離あるいは無限大の距離でその最大値を有する。
【0055】
図2の中央の曲線は、1つの実施形態に関するものであり、この実施形態では、上記の高電圧電極の最大直流高電圧が1つの最大値に制限されており、ただし電流制限に関しては全く想定されていない。
【0056】
図2の一番下の曲線は、上述の本発明による回路を用いたものであり、この回路では、上記のスプレー電流も、また上記の高電圧もそれぞれ1つの最大値に制限されている。
【0057】
本発明によるスプレーコーティング装置には、たとえば図1に概略的に示されてように、特に1つの制御回路が設けられている(ここではたとえば制御装置のソフトウェアの形態で記憶されていてよい)。この制御回路は、この制御回路を用いて以上動作を検知する場合に、上記のスプレーガンに付随する高電圧電源を自動的に遮断する。
【0058】
異常動作の検知のために、上記の制御回路を用いて、上記の帯電電極での上記の高電圧と上記のスプレー電流との比が監視されてよい。この比は上記の帯電電極と、1つの接地された対象物との間の距離を直接反映している。この制御回路は、上記の高電圧とスプレー電流との比が事前に設定されたあるいは設定可能な限界値を下回ったら直ちに、1つの遮断装置を用いて上記の高電圧電源を自動的に遮断する。
【0059】
この代替として、上記の電圧と上記のスプレー電流との間の比の時間変化率が監視される。1つの接地された対象物が上記のスプレーコーティング装置の帯電電極に大きな速度で近づく時に、上記の制御装置は上記の高電圧電源を自動的に遮断する。全システムの望ましくない自動的な遮断の虞が極小となるので、このような動的な動作は好ましいものである。
【0060】
好ましくは、1つの遮断信号が引き起こされる、これに対応した限界値は、上記のスプレーコーティング装置の操作者によって、そしてそれぞれの事象およびアプリケーションに合わせることができる。これに関しては、この限界値が1つのバスシステム、具体的にはフィールドバスシステムを介して、上記の制御装置に伝達されることも可能であろう。
【0061】
本発明によるスプレーコーティング装置には、図1に例示的に示されているように、さらに、特に上記の高電圧電源の始動の際に、またはこの高電圧電源の動作点の変更の際に、この高電圧電源の望ましくない自動的な遮断を防止するために、好ましくはソフトウェアの形態で実装された1つの過渡保護装置が設けられている。まさにこの始動ステップでは、上記の高電圧電源の動作に特徴的なパラメータが大きく外れがちになることを全く除外できないので、この高電圧電源の自動的遮断を引き起こす限界値を越えるかあるいは下回る虞がある。この観点から、上記の過渡保護装置が、この高電圧電源の始動ステップの際に、またはこの高電圧電源の動作点の変更の際に、この高電圧電源の自動的な遮断を事前に設定されたまたは設定可能な時間、具体的には1~2秒不活性化するように構成されていることが可能である。
【0062】
この代替としてまたは追加的に、上記の高電圧電源の自動的な遮断を引き起こす限界値が、上記の高電圧電源の始動ステップまたはこの高電圧電源の動作点の変更の際に、実際に1つの当初は比較的問題とならない値から開始されて、上記の事前に設定されたまたは設定可能な値に漸次的に漸く近づく場合が可能である。
【0063】
本発明は、図を参照して記載した例示的な実施形態例に限定されるものでなく、むしろここで開示された特徴全ての全体からもたらされるものである。
【符号の説明】
【0064】
A : スプレーガン
B : 制御回路を有する制御装置
C : ガンの電源
D : 液体源
F : 液体ホースホールダ
G : 接地ライン
H : 液体ホース
J : ガンへの液体導入路
K : 接地ライン
L : 液体レギュレータ
X : 電源制御装置
S1 : 高電圧電源の最大高電圧出力でのオープン制御ループシステム
S2 : 高電圧電源の最大高電圧出力の80%でのオープン制御ループシステム
S3 : 定電圧動作におけるクローズループ制御システムおよび高電圧電源
S4 : 定電流動作におけるクローズループ制御システムおよび高電圧電源
S5 : 動作点
図1
図2