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特許7064547タイヤトレッド用ゴム組成物及びそれを用いて製造したタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】タイヤトレッド用ゴム組成物及びそれを用いて製造したタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20220427BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220427BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20220427BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20220427BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220427BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20220427BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
C08L9/06
C08K3/013
C08K5/54
C08L15/00
C08K3/36
C08L91/00
B60C1/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020168093
(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公開番号】P2021085035
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2020-10-02
(31)【優先権主張番号】10-2019-0156603
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520258806
【氏名又は名称】ハンクック タイヤ アンド テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083138
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100189625
【弁理士】
【氏名又は名称】鄭 元基
(74)【代理人】
【識別番号】100196139
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 京子
(72)【発明者】
【氏名】リム キウォン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ビョンジュ
(72)【発明者】
【氏名】アン セウン
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/099324(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/044890(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/077018(WO,A1)
【文献】特開2000-313771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 9/06
C08K 3/013
C08K 5/54
C08L 15/00
C08K 3/36
C08L 91/00
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度(Tg)が-70~-45℃である第1の溶液重合スチレンブタジエンゴム30重量部~60重量部及びガラス転移温度(Tg)が-50~-20℃である第2の溶液重合スチレンブタジエンゴム20重量部~50重量部を含む原料ゴム100重量部と、
補強性充填剤80重量部~110重量部と、
シランカップリング剤6重量部~12重量部と、
官能化された液状高分子(Liquid Polymer)5重量部~20重量部と、
ガラス転移温度が20~90℃である第1のレジン及びガラス転移温度が-25℃~-10℃である第2のレジンからなる群から選択された、少なくとも一つのレジン、
を含み、
ここで、前記第1のレジン含有量は、0重量部~30重量部であり、
前記第2のレジン含有量は、ガラス転移温度が-25℃~-10℃である第2のレジン0重量部~20重量部であり、
前記第1の溶液重合スチレンブタジエンゴムは、スチレン含有量が5重量%~30重量%であり、ビニル含有量が10重量%~35重量%であり、分子量分布(Poly Dispersity Index、PDI)が2~5であり、両末端がアミン(Amine)系又はアミノシラン(Amino Silane)系に変性され、ゴム成分100重量部に対するオイルの含有量が0重量部~35重量部であり、
前記第2の溶液重合スチレンブタジエンゴムは、スチレン含有量が15重量%~40重量%であり、ビニル含有量が20重量%~50重量%であり、末端がアミノシラン(Amino Silane)系に変性され、ゴム成分100重量部に対するオイルの含有量が0重量部超過~37.5重量部以下であるものである、
タイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記原料ゴムは
オイルを含み、ガラス転移温度(Tg)が-60~-40℃であり、スチレン含有量が23重量%~27重量%であり、ビニル含有量が18重量%~22重量%であり、末端がアミノシラン(Amino Silane)系に変性された第3の溶液重合スチレンブタジエンゴム20重量部~50重量部、又は
ガラス転移温度(Tg)が-120℃~-105℃であるブタジエンゴム20重量部~50重量部をさらに含むものである、請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記補強性充填剤は、窒素吸着比表面積が150m/g~300m/gであり、CTAB吸着比表面積が140m/g~280m/gであり、水素イオン濃度指数(pH)が5~8であるシリカであるものである、請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
前記シランカップリング剤は、TESPT(Bis-(triethoxysilylpropyl)tetrasulfide)であるものである、請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
前記官能化された液状高分子は、数平均分子量(Number Average Molecular Weight、Mn)が2,000g/mol~15,000g/molであり、ガラス転移温度(Tg)が-50~-25℃であり、末端がシラン(Silane)系に変性されたポリブタジエン液状ポリマーであるものである、請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
前記タイヤトレッド用ゴム組成物は、軟化点が90℃~130℃であり、ガラス転移温度が20℃~90℃であり、アリファティック(Aliphatic)系又はナフテニック(Naphthenic)系と、アロマティック(Aromatic)系が共重合された前記第1のレジンと、
ガラス転移温度が-25~-10℃であり、アリファティック(Aliphatic)系又はアロマティック(Aromatic)系が重合された前記第2のレジンを1:0~3:1の重量比で含むものである、請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一つの項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物を用いて製造されたタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤトレッド用ゴム組成物及びそれを用いて製造したタイヤに関し、より詳しくは、シリカの分散及びゴムとの相互作用を最大化することで、耐摩耗性、低燃費性及びウェット路面での制動性能に同時に優れているタイヤトレッド用ゴム組成物及びそれを用いて製造したタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題が叫ばれ続けている中で、電気自動車へのシフトが急速に進んでいる。電気自動車へのシフトが進むにつれ、何よりも航続距離に大きく関わる低燃費性能だけでなく、従来の車両に比べて重い電気自動車の重量、回生制動及び高い初期トルクは、タイヤの摩耗を促進させて電気自動車タイヤにおける耐摩耗性の向上が大きく求められている。
【0003】
また、タイヤラベリング制度が強化されるにつれ、ウェット路面での制動性能と低燃費性能の重要性は日増しに高まっている。
【0004】
また、このようなタイヤの耐摩耗性、制動性及び低燃費性を同時に兼ね備えたタイヤ技術は、とりわけ材料分野において開発が盛んに行われている。
【0005】
前記のようにタイヤの耐摩耗性、制動性及び低燃費性のトレードオフ(trade-off)なしに、シリカを充填剤として使用しながら、トレッドゴム組成物を製造するためには、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)及びブタジエンゴム(BR)といった原料ゴムをどのような比率で組み合わせるかと、シリカを前記原料ゴムに最大限にうまく分散できるよう、添加物をどのような組成と比率で構成するべきかが最も重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、シリカの分散及びゴムとの相互作用を最大化することで、耐摩耗性、低燃費性及びウェット路面での制動性能にいずれも優れているタイヤトレッド用ゴム組成物を提供することにある。
【0007】
本発明の別の目的は、タイヤトレッド用ゴム組成物を用いて製造したタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施例によると、ガラス転移温度(Tg)が-70~-45℃である第1の溶液重合スチレンブタジエンゴム30重量部~60重量部及びガラス転移温度(Tg)が-50~-20℃である第2の溶液重合スチレンブタジエンゴム20重量部~50重量部を含む原料ゴム100重量部と、補強性充填剤80重量部~110重量部と、シランカップリング剤6重量部~12重量部と、官能化された液状高分子(Liquid Polymer)5重量部~20重量部と、またガラス転移温度が20~90℃である第1のレジン5重量部~30重量部、及びガラス転移温度が-25℃~-10℃である第2のレジン5重量部~20重量部とを含むタイヤトレッド用ゴム組成物を提供する。
【0009】
前記第1の溶液重合スチレンブタジエンゴムは、スチレン含有量が5重量%~30重量%であり、ビニル含有量が10重量%~35重量%であり、分子量分布(Poly Dispersity Index、PDI)が2~5であり、両末端がアミン(Amine)系又はアミノシラン(Amino Silane)系に変性され、ゴム成分100重量部に対するオイルの含有量が0重量部~35重量部であってもよい。
【0010】
前記第2の溶液重合スチレンブタジエンゴムは、スチレン含有量が15重量%~40重量%であり、ビニル含有量が20重量%~50重量%であり、末端がアミノシラン(Amino Silane)系に変性され、ゴム成分100重量部に対するオイルの含有量が0重量部超過~37.5重量部以下であってもよい。
【0011】
前記原料ゴムはオイルを含み、ガラス転移温度(Tg)が-60~-40℃であり、スチレン含有量が23重量%~27重量%であり、ビニル含有量が18重量%~22重量%であり、末端がアミノシラン(Amino Silane)系に変性された第3の溶液重合スチレンブタジエンゴム20重量部~50重量部、又はガラス転移温度(Tg)が-120℃~-105℃であるブタジエンゴム20重量部~50重量部をさらに含むことができる。
【0012】
前記補強性充填剤は、窒素吸着比表面積が150m/g~300m/gであり、CTAB吸着比表面積が140m/g~280m/gであり、水素イオン濃度指数(pH)が5~8であるシリカであってもよい。
【0013】
シランカップリング剤は、TESPT(Bis-(triethoxysilylpropyl)tetrasulfide)であってもよい。
【0014】
前記官能化された液状高分子は、数平均分子量(Number Average Molecular Weight、Mn)が2,000g/mol~15,000g/molであり、ガラス転移温度(Tg)が-50~-25℃であり、末端がシラン(Silane)系に変性されたポリブタジエン液状ポリマーであってもよい。
【0015】

前記タイヤトレッド用ゴム組成物は、軟化点が90℃~130℃であり、ガラス転移温度が20℃~90℃であり、アリファティック(Aliphatic)系又はナフテニック(Naphthenic)系と、アロマティック(Aromatic)系が共重合された第1のレジンと、ガラス転移温度が-25~-10℃であり、アリファティック(Aliphatic)系又はアロマティック(Aromatic)系が重合された第2のレジンを1:0~3:1の重量比で含むことができる。
【0016】
本発明の別の一実施例によると、タイヤトレッド用ゴム組成物を用いて製造されたタイヤを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、シリカの分散及びゴムとの相互作用を最大化することで、耐摩耗性、低燃費性及びウェット路面での制動性能にいずれも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0019】
本発明の明細書において、原料ゴムは、ゴム組成物が含む全ゴム成分の合計を意味する。また、原料ゴムは、各ゴムが含むこともできるオイルなどの追加成分を除いたものである。例えば、ゴム組成物が天然ゴムと、オイルを含むスチレンブタジエンゴムを含む場合、原料ゴムは、天然ゴムとオイルを除いたスチレンブタジエンゴムだけを意味する。
【0020】
本発明は、耐摩耗性、低燃費性及びウェット路面での制動性能を同時に兼ね備えたゴム組成物を提供するためのものである。しかし、耐摩耗性、低燃費性能及びウェット路面での制動性能は、いわゆるマジックトライアングル(Magic Triangle)と呼ばれ、互いにトレードオフ(Trade-off)となり、同時に兼ね備えるのは非常に難しい。
【0021】
これらの問題点を解決するために、本発明は、官能化率の高い様々なガラス転移温度(Tg)の溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)を組み合わせて、シリカとの相互作用(Interaction)を最大化し、シリカの重量部を適正な水準内で最大限に上げると同時に、シリカの分散及び原料ゴムとの相互作用を最大限に引き出すために、添加剤として官能化された液状高分子(Liquid Polymer)とレジン(Resin)及び天然オイルを適正な比率で混合して、耐摩耗性、ウェット路面での制動性能及び低燃費性能を同時に向上させたものである。
【0022】
そこで、本発明の一実施例に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、ガラス転移温度(Tg)の低い第1の溶液重合スチレンブタジエンゴム及びガラス転移温度(Tg)の高い第2の溶液重合スチレンブタジエンゴムを含む原料ゴムと、補強性充填剤と、シランカップリング剤と、官能化された液状高分子(Liquid Polymer)と、また、高いガラス転移温度の第1のレジン及び低いガラス転移温度の第2のレジンとを含む。
【0023】
前記原料ゴムは、スチレン含有量が5重量%~30重量%であり、ビニル含有量が10重量%~35重量%であり、分子量分布が2~5であり、両末端がアミン(Amine)系又はアミノシラン(Amino Silane)系に変性され、ゴム成分100重量部に対するオイルの含有量が0重量部~35重量部であり、ガラス転移温度(Tg)が-70℃~-45℃で比較的低いガラス転移温度を有する第1の溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR(1))30重量部~60重量部、及びスチレン含有量が15重量%~40重量%であり、ビニル含有量が20重量%~50重量%であり、アミノシラン(Amino Silane)系に末端が変性され、ゴム成分100重量部に対するオイルの含有量が0重量部超過~37.5重量部以下であり、ガラス転移温度(Tg)が-50℃~-20℃で高いガラス転移温度を有する第2の溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR(2))20重量部~50重量部を含む。
【0024】
具体的には、前記原料ゴムは添加されたオイルがなく、ガラス転移温度(Tg)が-70℃~-50℃であり、スチレン含有量が5重量%~30重量%、好ましくは、13重量%~17重量%であり、ビニル含有量が10重量%~35重量%、好ましくは、23重量%~27重量%であり、分子量分布(Poly Dispersity Index、PDI)が2~5であり、両末端がアミン(Amine)系又はアミノシラン(Amino Silane)系に変性された第1の溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR(1))30重量部~60重量部、及びオイルを含み、ガラス転移温度(Tg)が-30℃~-10℃であり、スチレン含有量が15重量%~40重量%、好ましくは、34重量%~38重量%であり、ビニル含有量が20重量%~50重量%、好ましくは、36重量%~40重量%であり、末端がアミノシラン(Amino Silane)系に変性された第2の溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR(2))20重量部~50重量部を含むことができる。
【0025】
ガラス転移温度の高いスチレンブタジエンゴムのみを使用する場合、ゴム組成物のガラス転移温度が高くなりすぎて、気温による性能差が大きくなる虞があり、耐摩耗性が低下する虞がある。一方、ガラス転移温度の低いスチレンブタジエンゴムのみを使用する場合、ゴム組成物のガラス転移温度が低くなりすぎて、制動性能が低下する虞がある。
【0026】
一方、前記原料ゴムはオイルを含み、ガラス転移温度(Tg)が-60℃~-40℃であり、スチレン含有量が23重量%~27重量%であり、ビニル含有量が18重量%~22重量%であり、末端がアミノシラン(Amino Silane)系に変性された第3の溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR(3))20重量部~50重量部をさらに含むことができる。
【0027】
また、前記原料ゴムは、第3の溶液重合スチレンブタジエンゴムの代わりに、ガラス転移温度(Tg)が-120~-105℃であるブタジエンゴムを20重量部~50重量部でさらに含むことができる。
【0028】
前記第1の溶液重合スチレンブタジエンゴム~第3の溶液重合スチレンブタジエンゴムは、両末端又は一末端がアミン(Amine)系、アミノシラン(Amino Silane)系及びこの両方に変性されることができる。溶液重合スチレンブタジエンゴムを変性させるためのアミン系化合物としては、一次アミン、二次アミン、又は三次アミンを例に挙げることができ、アミノシラン系化合物としては、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルメチルジメトキシシラン、アミノプロピルジメチルメトキシシラン、N-メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N-メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N-メチルアミノプロピルトリエトキシシラン、N,N-ジメチルプロピルトリエトキシシラン、ピペリジノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾリノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ピロリジノプロピルトリメトキシシラン、ピペラジノプロピルトリメトキシシラン、モルフォリノプロピルトリメトキシシラン、ピラゾリノプロピルトリメトキシシラン、トリザオリノプロピルトリメトキシシラン又はベンジリデンプロピルアミノトリメトキシシランなどを例に挙げることができる。
【0029】
前記第2の溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR(2))又は前記第3の溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR(3))は、オイルを含むことができ、ゴム内のオイルの含有量は、ゴム成分100重量部に対して25重量部~50重量部であってもよい。前記第2の溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR(2))又は前記第3の溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR(3))が、前記オイルを過度に混合する場合、前記ゴム組成物の剛度(Stiffness)がむしろ低下する虞がある。
【0030】
ゴム内に添加されるオイルは、石油系オイル、植物油脂、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つを使用することができる。
【0031】
前記石油系オイルとしては、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、芳香族系オイル、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つを使用することができる。
【0032】
しかし、近年、環境意識の高まりとともに、芳香族系オイルに含まれた多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons、以下「PAHs」という)の含有量が3重量%以上である場合、がんを引き起こす可能性が高いとされ、TDAE(treated distillate aromatic extract)オイル、MES(mild extraction solvate)オイル、RAE(residual aromatic extract)オイル、又は重質ナフテン性オイルを好ましく使用することができる。
【0033】
前記植物油脂としては、ひまし油(castor oil)、綿実油(cottonseed oil)、亜麻仁油(flaxseed oil)、キャノーラ油(canola oil)、大豆油(soybean oil)、パーム油(palm oil)、ヤシ油(coconut oil)、落花生油(peanut oil)、パイン油(pine oil)、松脂(rosin)、トール油(tall oil)、コーン油(corn oil)、米ぬか油(rice oil)、紅花油(safflower oil)、ごま油(sesame oil)、オリーブ油(olive oil)、ひまわり油(sunflower oil)、パーム核油(palm kernels oil)、椿油(camellia oil)、ホホバ油(jojoba oil)、マカダミアナッツ油(macadamia nut oil)、桐油(tung oil)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つを使用することができる。
【0034】
前記補強性充填剤としては、窒素吸着比表面積が150m/g~300m/gであり、CTAB吸着比表面積が140m/g~280m/gであり、水素イオン濃度指数(pH)が5~8である高分散性シリカを80重量部~110重量部で使用することができる。
【0035】
前記シリカの窒素吸着比表面積が150m/g未満であるか、或いはCTAB吸着比表面積が140m/g未満であると、配合ゴムの剛性が低下してハンドリングとウェット路面での制動性能が低下する虞があり、窒素吸着比表面積が300m/gを超過するか、或いはCTAB吸着比表面積が280m/gを超過すると、分散が相当難しく、過度な剛性向上により諸性能が低下する虞がある。
【0036】
また、シリカの分散及び原料ゴムとのカップリング(Coupling)反応を誘導するシランカップリング剤を原料ゴム100重量部に対して6重量部~12重量部、具体的には、6.5重量部~10重量部で含むことができ、これと同時に官能化された液状高分子(Liquid Polymer)を原料ゴム100重量部に対して、5重量部~20重量部で含むことができる。
【0037】
具体的には、シリカの分散及び補強性発現のために使用されるシランカップリング剤として、最も一般的なTESPT(Bis-(triethoxysilylpropyl)tetrasulfide)とともに、添加剤として官能化された液状高分子を適用することができるが、液状高分子は、数平均分子量(Number Average Molecular Weight、Mn)2,000g/mol~15,000g/molであり、ガラス転移温度(Tg)が-50℃~-25℃であってもよい。具体的には、前記液状高分子は、ビニル含有量が55重量%~65重量%であり、ガラス転移温度が-40℃~-30℃である末端がシラン(Silane)系に変性されたポリブタジエン液状ポリマーであってもよい。
【0038】
液状高分子の数平均分子量が15,000g/molを超過する場合、加工性が低下する虞があり、ガラス転移温度が-50℃未満である場合、夏(summer)用ゴム組成物の適切なガラス転移温度を確保するためにレジンを過量使用しなければならない虞があり、官能化によるシリカ分散効果が低下する虞がある。一方、液状高分子のガラス転移温度が-25℃よりも高い場合、液状高分子の使用量が制限されるため、その効果を得ることが困難になる虞がある。
【0039】
また、レジンは、軟化点が90℃~130℃であり、ガラス転移温度が20℃~90℃であり、アリファティック(Aliphatic)系又はナフテニック(Naphthenic)系と、アロマティック(Aromatic)系が共重合された、高いガラス転移温度の第1のレジン5重量部~30重量部と、ガラス転移温度が-25~-10℃であり、アリファティック(Aliphatic)系又はアロマティック(Aromatic)系が重合された、低いガラス転移温度の第2のレジン5重量部~20重量部を、1~3:0~1の重量比で使用することができる。
【0040】
ガラス転移温度が常温(20℃)以上である前記第1のレジンは、ゴム組成物内に混合(Mixing)される時、軟化点以上で混合されるので、加工性の向上に役立ち、常温(20℃)及び一般のタイヤ走行時の温度では、硬い(hard)部分として作用してゴムの剛性向上に役立つようになる。
【0041】
前記第1のレジンは、ガラス転移温度が20℃~90℃であり、軟化点は90℃~130℃であってもよく、軟化点が90℃未満であると、タイヤの走行、制動ハンドリング時のゴム組成物内のレジンが軟化され、ゴム組成物の剛性が低下する虞がある。前記第1のレジンとしては、C5系、C9系、水素化DCPD(Dicyclopentadiene)系、フェノール系、テルペン(Terpene)系、及びこれらの混合物からなる群から選択されるいずれか一つを例に挙げることができる。
【0042】
前記第2のレジンは、ガラス転移温度が常温以上である前記第1のレジン対比のゴムの剛性向上に対する効果が少ないが、ゴム組成物のガラス転移温度を調節することができるため、レジンの全含有量を増加させることができ、加工性の向上に役立つ。前記第2のレジンとしては、C9系液状石油樹脂、アクリル(Acrylic)系、スチレンアクリル(Styrene Acrylic)系、及びこれらの混合物からなる群から選択されるいずれか一つを例に挙げることができる。
【0043】
また、タイヤトレッド用ゴム組成物は、通常の加硫剤である硫黄、加硫活性剤である酸化亜鉛、ステアリン酸、軟化剤としてプロセスオイル、加硫促進剤、及び老化防止剤などをさらに含むことができる。
【0044】
タイヤトレッド用ゴム組成物は、トレッド(トレッドキャップ及びトレッドベース)に限定されず、タイヤを構成する様々なゴム構成要素に含まれてもよい。ゴム構成要素としては、サイドウォール、サイドウォール挿入物、エーペックス(apex)、チェーファー(chafer)、ワイヤーコート又はインナーライナーなどを挙げることができる。
【0045】
本発明の別の一実施例に係るタイヤは、タイヤトレッド用ゴム組成物を用いて製造される。タイヤトレッド用ゴム組成物を用いてタイヤを製造する方法は、従来のタイヤの製造に用いられる方法であればいかなるものでも適用することが可能であるので、詳しい説明は本明細書では省略する。
【0046】
タイヤは、乗用車用タイヤ、競走用タイヤ、飛行機タイヤ、農機械用タイヤ、オフロード(off-the-road)タイヤ、トラックタイヤ又はバスタイヤなどであってもよい。また、タイヤは、ラジアル(radial)タイヤ又はバイアス(bias)タイヤを使用することができる。
【0047】
以下、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本発明の実施例について詳しく説明する。しかし、本発明は、種々の異なる形態で具現可能であり、ここで説明する実施例によって限定されるものではない。
【0048】
[製造例1:トレッド用ゴム組成物の製造]
【0049】
下記表1に示すような組成を用いて、実施例及び比較例に従うタイヤゴム組成物を製造した。タイヤゴム組成物の製造は、通常のタイヤ製造方法に従っており、特に限定されるものではない。
【0050】

下記表1に示すような組成で、配合剤をバンバリーミキサーで配合して150℃で放出した。物性試験は、得られたゴム試験片を168℃で加硫して試験を実施した。
【0051】
【表1】
【0052】
(重量部)
【0053】
-S-SBR(1):添加されたオイルがなく、ガラス転移温度が約-25℃であり、スチレン含有量が26重量%~30重量%であり、ビニル含有量が41重量%~45重量%である、アミノシラン系に末端変性されたS-SBR。
【0054】
-S-SBR(2):オイルを含み、ガラス転移温度が約-36℃であり、スチレン含有量が34重量%~38重量%であり、ビニル含有量が24重量%~28重量%である、アミノシラン(Amino Silane)系に末端変性されたS-SBR。添加されたオイルの含有量は、ゴム成分100重量部に対して37.5重量部である(括弧内の数値はオイルの含有量を除いた純粋なゴム成分の含有量である)。
【0055】
-S-SBR(3):添加されたオイルがなく、ガラス転移温度が約-60℃であり、スチレン含有量が13重量%~17重量%であり、ビニル含有量が23重量%~27重量%であり、両末端がアミン(Amine)系又はアミノシラン(Amino Silane)系に変性されたS-SBR。
【0056】
-S-SBR(4):オイルを含み、ガラス転移温度が約-21℃であり、スチレン含有量が34重量%~38重量%であり、ビニル含有量が36重量%~40重量%である、アミノシラン(Amino Silane)系に末端が変性されたS-SBR。添加されたオイルの含有量は、ゴム成分100重量部に対して25重量部である(括弧内の数値はオイルの含有量を除いた純粋なゴム成分の含有量である)。
【0057】
-S-SBR(5):オイルを含み、ガラス転移温度が約-53℃であり、スチレン含有量が23重量%~27重量%であり、ビニル含有量が18重量%~22重量%である、アミノシラン(Amino Silane)系に末端が変性されたS-SBR。添加されたオイルの含有量は、ゴム成分100重量部に対して25重量部である(括弧内の数値はオイルの含有量を除いた純粋なゴム成分の含有量である)。
【0058】
-BR:ガラス転移温度が約-106℃であるブタジエンゴム。
【0059】
-シリカ:窒素吸着比表面積が約170m/gであり、CTAB吸着比表面積が160m/gである高分散性シリカ(High Dispersible Silica)。
【0060】
-カーボンブラック:N234
【0061】
-TESPT:Si69(Degussa)
【0062】
-液状ポリマ(Liquid Polymer):ビニル含有量が55重量%~65重量%であり、ガラス転移温度が-40℃~-30℃であるシラン(Silane)系に末端変性されたポリブタジエン液状ポリマー。
【0063】
-High Tg Resin:軟化点が95℃~115℃であり、ガラス転移温度が25℃~40℃であるナフテニック(Naphthenic)系と、アロマティック(Aromatic)系の共重合体。
【0064】
-Low Tg Resin:ガラス転移温度が-25℃~-10℃であるC9系液状石油樹脂。
【0065】
-老化防止剤(6C):N-1,3-ジメチルブチル-N-フェニル-p-フェニレンジアミン。
【0066】
-DPG:ジフェニレングアニジン。
【0067】
-CBS:N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド。
【0068】
実験例1:製造されたゴム組成物の性能測定
【0069】
得られた試験片に対して、ムーニー粘度、硬度、300%モジュラス、粘弾性をASTM関連規定に基づいて測定し、その結果を表2に示した。
【0070】
【表2】
【0071】
-ムーニー粘度(ML1+4(125℃))は、ASTM規格D1646によって測定した。
【0072】
-硬度は、DIN53505によって測定した。
【0073】
-300%モジュラスと破断エネルギーは、ISO37規格によって測定した。
【0074】
-粘弾性は、ARES測定器を用いて0.5%変形(strain)に10Hz Frequencyの下で-60℃から60℃までG’、G”、tanδを測定した。
【0075】
表2において、ML1+4は未加硫ゴムの粘度を示す値で、数値が低いほど、未加硫ゴムの加工性に優れる。硬度は、操縦安定性に関わるもので、その値が高いほど、操縦安定性に優れる。破断エネルギーは、ゴムが破断する時に必要なエネルギーを示すもので、その値が高いほど、必要なエネルギーが高くて耐摩耗性能に優れる。ウェットグリップインデックス(Wet Grip Index)は、ウェット路面での制動特性を示すもので、数値が高いほど、制動性能に優れることを示す。30℃G*は、ゴム組成物の剛性で、ドライ路面及びウェット路面での制動性能及びハンドリング性能に関わるもので、数値が高いほど、性能に優れる。また、60℃tanδは、転がり抵抗特性を示すもので、数値が低いほど、性能に優れることを示し、ランボーン摩耗インデックス(Index)は、高いほど、耐摩耗性能に有利であることを示す。
【0076】
表2を参考にすると、実施例の場合、300%モジュラスが維持されながら、破断エネルギーが向上することがわかる。また、60℃tanδを維持するか或いは向上しながら、ウェットグリップインデックス、30℃G*が向上し、特に、ランボーン摩耗インデックスが大きく向上するので、耐摩耗性及び制動性能を向上させながら低燃費性能が維持されることがわかる。
【0077】
すなわち、本発明に従って官能化率の高い様々なガラス転移温度のS-SBRを組み合わせてシリカとの相互作用を最大化し、シリカの重量部を適正な水準内で最大限に高め、シリカの分散及び原料ゴムとの相互作用を最大限に引き出すための添加剤として、官能化された液状高分子(Liquid Polymer)とレジン(Resin)及びオイルを適正な比率で混合することにより、耐摩耗性、ウェット路面での制動性能及び低燃費性能を同時に向上させることができる。
【0078】
以上、本発明の好ましい実施例について詳しく説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、後述する請求範囲において定義している本発明の基本概念を用いた当業者の様々な変形及び改良形態も本発明の権利範囲に属するものである。