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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】光制御フィルターの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20220427BHJP
   B29C 39/24 20060101ALI20220427BHJP
   B29C 39/12 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
G02B5/00 B
B29C39/24
B29C39/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020176838
(22)【出願日】2020-10-21
(62)【分割の表示】P 2019095134の分割
【原出願日】2019-05-21
(65)【公開番号】P2021039349
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2020-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】堀田 真司
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-309829(JP,A)
【文献】特開2013-020118(JP,A)
【文献】国際公開第2018/225643(WO,A1)
【文献】特開2007-272065(JP,A)
【文献】特表2017-522598(JP,A)
【文献】特開2013-190608(JP,A)
【文献】国際公開第2018/094800(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00
B29C 39/24
B29C 39/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過部と遮光部とからなる海島構造を備えたシートからなる光制御フィルターの製造方法であって、
前記海島構造のうち海部分に対応する凹部と、前記凹部内に設けられた、前記海島構造のうち島部分に対応する複数の凸部と、が形成された成形型の表面に、
遮光材を含む液状のエラストマー前駆体を塗布し、前記成形型の前記凹部内に充填した前記エラストマー前駆体を硬化させ、前記凹部内に前記海島構造を形成した後、前記凹部内から前記海島構造を取り出すことを含み、
前記エラストマー前駆体を硬化させる際、前記エラストマー前駆体を前記成形型以外に密着させない、光制御フィルターの製造方法。
【請求項2】
前記エラストマー前駆体を前記凹部内に充填し、さらに前記凹部から溢れる程度に塗布して、硬化させることにより、
前記凹部内に前記海島構造を形成するとともに、前記凹部から溢れた前記エラストマー前駆体の硬化物からなり、前記海島構造を覆う残膜を形成し、
前記海島構造から前記残膜を除去した後で、前記凹部内に形成した前記海島構造を備えたシートからなる光制御フィルターを取り出すことを含む、請求項1に記載の光制御フィルターの製造方法。
【請求項3】
前記海部分のMD-1ゴム硬度が25以上80以下である、請求項1又は2に記載の光制御フィルターの製造方法。
【請求項4】
前記海部分は、前記海部分の全質量に対して50質量%以上のエラストマーを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の光制御フィルターの製造方法。
【請求項5】
前記光制御フィルターの平面視における前記島部分の大きさ:前記シートの厚さ方向における前記島部分の高さのアスペクト比が、1:5~1:30であり、
前記島部分の大きさは、前記平面視における前記島部分の露出した端部を含む最小円の直径である、請求項1~4のいずれか一項に記載の光制御フィルターの製造方法。
【請求項6】
前記光制御フィルターの平面視における前記島部分の前記大きさが、5μm以上100μm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の光制御フィルターの製造方法。
【請求項7】
前記光制御フィルターの平面視で複数の前記島部分は20~200μmの一定のピッチで配置されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の光制御フィルターの製造方法。
【請求項8】
前記エラストマーがシリコーンゴムである、請求項4に記載の光制御フィルターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光制御フィルターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光の透過率や視野角を調節する光制御フィルムが知られている。例えば、特許文献1には、光吸収材料を含む光硬化性樹脂を基材フィルムとして備え、基材フィルムの一方の主面から反対側の他方の主面に向けて縮径するすり鉢形状の凹部が、複数形成された光制御フィルムが提案されている。この凹部はフィルムを貫通しておらず、凹部の底面は0.1μmを超える厚さの前記光硬化性樹脂からなるランド膜によって形成されている。
ランド膜は、特許文献1の光制御フィルムの製造プロセスにおいて不可避的に形成される。その製造プロセスは、型に重合性樹脂を流し込み、硬化させることにより微細構造化層を得て、次いで、この微細構造化層を支持する可撓性層を積層する、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-54129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の光制御フィルムの凹部に入射した光はランド膜を透過する必要がある。ランド膜には光吸収材料が含まれるため、入射光の一部が吸収され、透過する光量が低減する問題がある。また、製造プロセスにおいて凹部に液状の透明材料を注入する場合、ランド膜が存在すると凹部内に気泡が残留する問題がある。このため、凹部の底面にランド膜は無いことが望ましいが、特許文献1に開示された製造方法ではランド膜は不可避的に生じてしまい、ランド膜を除去する方法は開示されていない。
【0005】
特許文献1の光制御フィルムを構成する光硬化性樹脂は、合成樹脂の中では比較的脆性である。このため、光硬化性樹脂を型に流し込み、硬化させた微細構造化層を型から離型する際に割れや欠けが生じやすい。これらの欠陥の発生を防ぐために、微細構造化層を支持する可撓性層(支持層)を積層する必要がある。微細構造化層の凹部の底面にランド膜が存在すると、支持層の積層が容易になる利点がある。
しかし、光制御フィルムの光透過性を高めること、光制御フィルムを取り付けるデバイスの薄型化を図ることを考慮すると、支持層を積層せずに、微細構造化層を単一の層(フィルム)として取り扱うことが可能な光制御体が求められている。
【0006】
本発明は、単一の層として取り扱うことが可能な光制御フィルターを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 光透過部と遮光部とからなる海島構造を備えたシートであり、第一の主面から第二の主面にわたって、光透過部と遮光部が各々延びており、前記光透過部及び前記遮光部のうち何れか一方が、前記第一の主面から前記第二の主面へ貫通する複数の島部分を形成し、他方が、前記複数の島部分を互いに独立させる海部分を形成し、前記海部分のMD-1ゴム硬度が25以上80以下である、光制御フィルター。
[2] 前記海部分は、前記海部分の全質量に対して50質量%以上のエラストマーを含む、[1]に記載の光制御フィルター。
[3] 前記島部分が光透過部であり、前記海部分が遮光部である、[1]又は[2]に記載の光制御フィルター。
[4] 前記島部分が中空である、[3]に記載の光制御フィルター。
[5] 前記シートの平面視における前記島部分の大きさ:前記シートの厚さ方向における前記島部分の高さのアスペクト比が、1:5~1:30である、[3]又は[4]に記載の光制御フィルター。
[6] 前記シートの平面視における前記島部分の大きさが、5μm以上100μm以下である、[3]~[5]のいずれか一項に記載の光制御フィルター。
[7] 前記島部分が遮光部であり、前記海部分が光透過部である、[1]又は[2]に記載の光制御フィルター。
[8] 前記シート内における前記島部分の立体形状が柱状である、[1]~[7]の何れか一項に記載の光制御フィルター。
[9] 前記シートの平面視で前記島部分が2次元アレイ状に配置されている、[1]~[8]の何れか一項に記載の光制御フィルター。
[10] 前記島部分は、前記島部分の全質量に対して50質量%以上のエラストマーを含む、[1]~[9]の何れか一項に記載の光制御フィルター。
[11] 前記海部分及び前記島部分には同じ種類のエラストマーが含まれる、[1]~[10]の何れか一項に記載の光制御フィルター。
[12] 前記エラストマーがシリコーンゴムである、[11]に記載の光制御フィルター。
【発明の効果】
【0008】
本発明の光制御フィルターは、少なくともその海部分のMD-1ゴム硬度が25以上80以下であるので、高い可撓性を有し、容易に弾性変形する。このため、従来は必要であった支持層及びランド膜が必須の部材ではなく、単体の光制御フィルターとして単層で取り扱うことが可能であり、光透過性に優れる。また、支持層を積層する必要がないので、光制御フィルターを薄くすることが可能であり、取り付けるデバイスの薄型化に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第一実施形態の光制御フィルター10を示す斜視図である。
図2図1の光制御フィルター10の中央付近をX軸に沿って切断した断面図である。
図3図1の光制御フィルター10の一部の上面図である。
図4】本発明の第二実施形態の光制御フィルター20をX軸に沿って切断した断面図である。
図5】本発明に係る光制御フィルター10,20を製造する様子を示した断面図である。(a)エラストマー前駆体Lを成形型Kの表面に塗布した様子。(b)成形型Kの凹部Mから溢れたエラストマー前駆体Lが残膜Nを形成する様子。(c)残膜Nを除去し、成形型Kから取り出された光制御フィルター10。(d)光制御フィルター10の島部分5に材料が充填された様子。(e)光制御フィルター10の両主面に透明封止層が積層された光制御フィルター20。
図6】本発明に係る光制御フィルター10の両主面を整形する方法の一例を示す断面図である。
図7】本発明に係る光制御フィルター30の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の光制御フィルターは、光透過部と遮光部とからなる海島構造を備えたシートであり、第一の主面から第二の主面にわたって、光透過部と遮光部が各々延びており、前記光透過部及び前記遮光部のうち何れか一方が、前記第一の主面から前記第二の主面へ貫通する複数の島部分を形成し、他方が、前記複数の島部分を互いに独立させる海部分を形成し、前記海部分のMD-1ゴム硬度が25以上80以下である、光制御フィルターである。
光制御フィルターの本体はシートであり、単一の海部分が前記シートを形成し、複数の島部分が前記シートを厚さ方向に貫通する複数の貫通領域を形成する。
【0011】
<第一実施形態>
本発明の第一実施形態として図1に示す光制御フィルター10は、第一の主面1及び反対側の第二の主面2と、第一の主面1と第二の主面2との間に延在する光透過部3と、第一の主面1と第二の主面2との間に延在する遮光部4と、を備えている。光透過部3及び遮光部4は海島構造を形成している。光透過部3が、第一の主面1から第二の主面2へ貫通する複数の島部分5を形成し、島部分5を形成しない遮光部4が、複数の島部分5を互いに独立させる海部分6を形成している。海部分6のMD-1ゴム硬度は、25以上80以下である。前記MD-1ゴム硬度は、40以上75以下が好ましく、50以上70以下がより好ましい。
前記MD-1ゴム硬度が、上記下限値以上であると、製造時に光制御フィルター10を成形型から取り出した後、余分な残膜を切削することが容易になり、平滑な主面を容易に得られる。前記MD-1ゴム硬度が、上記上限値以下であると、製造時に光制御フィルター10を成形型から取り出すことが容易になる。
前記MD-1ゴム硬度は、海部分6のみからなる光制御フィルター10について、マイクロゴム硬度計を使用して、温度21~25℃、好ましくは23℃にて、光制御フィルターの海部分をシートの厚さ方向に押圧して測定した値である。測定において、マイクロゴム硬度計に備えられた押針が試験片の表面に変形を与える際に生じる変位量を検出器で読み取ることにより、硬さを測定する。押針が押圧する箇所は、無作為に選択される海部分の10ヵ所以上とし、その平均値を測定値とする。通常、MD-1ゴム硬度は、JIS
K6253-3:2012に規定される、タイプAデュロメーターで測定した値(ショアA硬度)に近い値を示す。マイクロゴム硬度計を使用することにより、薄い試験片の硬度を容易に測定することができる。ただし、光制御フィルター(試験片)の海部分の厚さが1.0mm未満である場合、同じ光制御フィルターを複数枚重ねて積層体とし、1.0mm以上となる最小の枚数を重ねて得た積層体の厚さ方向の硬度を測定する。
使用するマイクロゴム硬度計は、高分子計器株式会社製の「マイクロゴム硬度計」商品名:MD-1capaが好ましい。このマイクロゴム硬度計の荷重方式は片持ち梁形板ばねである。押針形状はタイプA(高さ0.50mm、φ0.16mm、円柱形)、加圧脚寸法はタイプA(外径4.0mm、内径1.5mm)、スプリング荷重は22mN(2.24g)、測定モードはノーマルモード、にそれぞれ設定して測定する。
例えば、島部分5をレーザ照射や化学エッチング等により除去し、海部分6のみからなる光制御フィルター10を得て、これを試験片とする。MD-1ゴム硬度を測定する試験片および試験室の温度は、21~25℃、好ましくは23℃とする。
上記のMD-1ゴム硬度を有する海部分6は、エラストマーを含み、エラストマーによって形成されていることが好ましい。
【0012】
また、海部分6及び島部分5からなる光制御フィルター10全体のMD-1ゴム硬度は、25以上80以下が好ましく、40以上75以上がより好ましく、50以上70以上がさらに好ましい。
光制御フィルター10全体のMD-1ゴム硬度が上記範囲であると、高い可撓性を有し、容易に弾性変形しうるので好ましい。
光制御フィルター10全体のMD-1ゴム硬度は、上記の測定方法に基づいて、光制御フィルター10の厚さ方向のMD-1ゴム硬度を無作為に選択した10ヵ所以上について測定し、それらの測定値を平均することにより得られる。
【0013】
前記エラストマーとしては、例えば、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、シリコーンゴム等の熱硬化性エラストマー;ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系又はフッ素系等の熱可塑性エラストマー;或いはそれらの複合物等が挙げられる。これらの中でも、後述の成形型から取り出した後の寸法変化が小さく、成形型から取り出した後の反りが生じず、圧縮永久歪が小さく、耐熱性が高く、耐候性及び耐寒性にも優れる、シリコーンゴムが好ましい。
前記エラストマーは、JIS K6253-3:2012に従い、デュロメーターを用いて測定したショアA硬度が、A25以上A80以下のポリマーであることが好ましく、A40以上A75以下のポリマーであることがより好ましく、A50以上A70以下のポリマーであることがさらに好ましい。好ましい理由は上述の通りである。
【0014】
光制御フィルター10は、矩形のシート状であり、その長手方向をX方向(図2においては紙面の左右方向)、その短手方向をY方向(図2においては紙面の垂直方向)、その主面に対する垂線方向(すなわちシートの厚さ方向)をZ方向とする。
光制御フィルター10の平面視の形状は矩形に限定されず、円形、楕円形、多角形、その他の任意の形状が採用できる。
光制御フィルター10の縦×横のサイズは特に限定されず、例えば、5mm×5mm~100cm×100cmとすることができる。
【0015】
光制御フィルター10の厚さは、例えば、50μm以上1000μm以下が好ましく、80μm以上500μm以下がより好ましく、100μm以上300μm以下がさらに好ましい。
前記厚さが前記下限値以上であれば、光の視野角の制御がより容易になる。前記厚さが前記上限値以下であれば、可撓性がより高くなる。
光制御フィルター10の厚さは、その断面を無作為に選択した10カ所以上で測定した値の平均値として求められる。測定には測定顕微鏡等の公知の微細構造観察手段が適用される。
【0016】
光制御フィルター10は、光透過部3(第一部分と呼んでもよい。)を構成する複数の島部分5と、遮光部4(第二部分と呼んでもよい。)を構成する海部分6と、によって形成された海島構造を有する。
光制御フィルター10の本体はシートであり、そのシートの一方の表面を第一の主面といい、他方の表面を第二の主面という。
第一の主面1の全面積に対する海部分6の合計面積は、36~99.2%が好ましく、49~96%がより好ましく、65~91%がさらに好ましい。第二の主面2における海部分6の合計面積も、第一の主面1における海部分6の合計面積と同様であることが好ましい。
島部分5と海部分6の各主面におけるそれぞれの合計面積は、各主面を撮影した画像を公知の方法で画像処理することにより求められる。
【0017】
光透過部3の光線透過率は70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。光透過部3の光線透過率は100%であってもよい。前記光線透過率が上記下限値以上であると、光制御フィルター10を通る光量が充分となる。
遮光部4の光線透過率は70%未満が好ましく、50%未満がより好ましく、30%未満がさらに好ましく、10%未満が特に好ましい。遮光部4の光線透過率は0%であってもよい。前記光線透過率が上記上限値未満であると、光制御フィルター10による視野角の制御が充分に行われる。
例えば、光透過部3の光線透過率が70%以上100%以下、且つ遮光部4の光線透過率が0%以上70%未満であることが好ましく、光透過部3の光線透過率が80%以上100%以下、且つ遮光部4の光線透過率が0%以上50%未満であることがより好ましく、光透過部3の光線透過率が90%以上100%以下、且つ遮光部4の光線透過率が0%以上30%未満であることがさらに好ましい。
ここで、「光線透過率」の値は、光源としてJIS Z 8720:2012に規定されるD65を用い、光源から出射された検査光の強度を受光センサで測定する装置において、前記検査光の光路上に被測定物が無い状態での受光センサの出力値をA、検査光の光路上に被測定物をセットし、被測定物を透過した透過光が受光センサにおいて受光される状態での出力値をBとするとき、光線透過率=(B/A)×100(単位;%)で求められる値とする。
【0018】
(光透過部)
光制御フィルター10の光透過部3は、海島構造のうちの島部分5であり、海部分6によって互いに独立化された複数の円柱状の透明部分である。各島部分5は光制御フィルター10を貫通しているので、各島部分5の第一端部は、光制御フィルター10の第一の主面1に露出し、各島部分5の第二端部は、光制御フィルター10の第二の主面2に露出している。各島部分5は、X方向及びY方向に沿って一定のピッチで配置されている。
【0019】
光制御フィルター10をZ方向に貫通する島部分5の立体形状は、柱状であることが好ましい。ここで、島部分5が柱状であるとは、光制御フィルター10から島部分5を取り出したと仮定したとき、島部分5が立体的な柱状として認識されることをいう。柱状の高さ方向は光制御フィルター10の厚さ方向に沿う。柱状をなす柱の上面(頂面)と底面はそれぞれ第一の主面1及び第二の主面2に平行となる。
島部分5をXY平面で切断した断面形状は、例えば、円形、楕円形、四角形、その他の多角形等が挙げられる。島部分5の第一の主面1に露出する第一端部の前記断面形状(島部分5の第一の主面1にある平面形状)と、第二の主面2に露出する第二端部の前記断面形状(島部分5の第二の主面2にある平面形状)は、互いに同じでもよく、異なってもよいが、光制御の容易さの観点から同じであることが好ましい。各島部分5の前記断面形状は、互いに同じでもよく、異なってもよいが、光制御の容易さの観点から同じであることが好ましい。
【0020】
柱状の島部分5の中心軸の軸線は、第一の主面1及び第二の主面2に対して、垂直でもよいし、傾いていてもよく、製造の容易さ及び視野角制御の容易さの観点から、略垂直であることが好ましい。ここで、略垂直とは、90°±2°で交わることである。略垂直である場合、柱状の島部分5の高さHは、光制御フィルター10の厚さとほぼ同じである。
前記軸線と主面とがなす角、及び島部分5の高さHは、島部分5及び主面を含む断面を、測定顕微鏡等の公知の微細構造観察手段によって測定することにより求められる。島部分5の高さHは、第一の主面1と第二の主面2との距離である。
【0021】
個々の島部分5について、各主面に露出する端部の大きさRは、前記端部を含む最小円の直径である。前記直径は、光制御フィルター10を透過する光の視野角の制御の容易さの観点から、例えば、5μm~100μmが好ましく、10μm~50μmがより好ましい。前記直径が上記下限値以上であると、製造時に用いる成形型の島部分5に対応する部位(例えば柱状の凸部)の破損を防止できる。前記直径が上記上限値以下であると、光制御フィルター10が薄い場合にも、後述のアスペクト比を高めることが容易になる。
単一の島部分5の各主面に露出する2つの端部の大きさRは、互いに同じでもよいし、異なっていてもよい。
光制御フィルター10の任意の主面における複数の島部分5から無作為に選択した10個以上の島部分5の前記直径の平均は、5μm~100μmが好ましく、10μm~50μmがより好ましい。
前記直径は、測定顕微鏡等の公知の微細構造観察手段によって測定することができる。
【0022】
柱状の島部分5の(大きさR:高さH)で表されるアスペクト比は、1:5~1:30が好ましく、1:8.5~1:25.5がより好ましい。
前記アスペクト比が1:5~1:30であり、島部分5が中空である場合、視野角θは22.6°~3.6°となる。前記アスペクト比が1:8.5~1:25.5の場合、視野角θは13.4°~4.5°となる。また、島部分5に透明材料が充填されている場合、透明材料の屈折率は通常空気よりも大きいので、上記で示した中空の場合の範囲よりも視野角θは広がる。よって、視野角θを狭める観点から、島部分5は中空であることが好ましい。
上記視野角θの範囲の下限値以上であると光制御フィルター10の島部分5を透過する光の視野角の制御が容易になる。
上記視野角θの範囲の上限値以下であると光制御フィルター10の島部分5を透過する光量を大きくすることができる。また、比較的容易に製造することができる。
前記アスペクト比は、光制御フィルター10が有する複数の島部分5から無作為に選択した10個以上の島部分5について、両端部の大きさRを測定した平均値と、高さHを測定した平均値との比である。個々の大きさR及び高さHは、測定顕微鏡等の公知の微細構造観察手段を用いて、測定することができる。
【0023】
第一の主面1及び第二の主面2における島部分5の配置のピッチP、すなわち各主面に露出する島部分5の隣接する端部同士のピッチPは、個々の端部を含む各最小円同士の中心間距離である。このピッチPは、光制御フィルター10を透過する光の視野角の制御の容易さの観点から、例えば、10μm~500μmが好ましく、15μm~300μmがより好ましく、20μm~200μmがさらに好ましい。
前記ピッチPが上記下限値以上であると、製造時に用いる成形型の作製が容易になる。
前記ピッチPが上記上限値以下であると、光制御フィルター10を通して見える画像の視認性が高まり、充分な解像度が得られやすい。
ピッチPは、各主面において一定であることが好ましい。各主面同士のピッチPは、互いに同じでもよいし、異なっていてもよい。
ピッチPは、任意の主面を撮影した画像を公知の方法で画像処理することにより求められる。
任意の主面のピッチPが、主面の領域によって異なる場合、連続する3個以上の島部分5のピッチPが上記範囲であることが好ましく、連続する5個以上の島部分5のピッチPが上記範囲であることがより好ましく、連続する10個以上の島部分5のピッチPが上記範囲であることがさらに好ましい。
【0024】
第一の主面1及び第二の主面2における島部分5の配置は、X列×Y行の2次元アレイ状の配置である。島部分5の配置はこの例に限定されず、任意の配置パターンが採用される。X列×Y行において、例えば、X,Yはそれぞれ独立に10~1000の任意の整数とすることができる。複数の島部分5が2次元アレイ状に配置されたとき、任意の列において隣接する島部分5同士の中心を結ぶ各線分は1つの直線上にあり、任意の行において隣接する島部分5同士の中心を結ぶ各線分は1つの直線上にあり、各列を代表する上記直線と各行を代表する上記直線とは互いに約90°で交わる。
配置パターンは、2次元アレイ状でもよく、ジグザグ状でもよく、その他の任意のパターンでもよく、無作為なランダム配置でもよい。
図1,3に示す光制御フィルター10の島部分5のX列×Y行の2次元アレイにおいて、各列の島部分5の配列方向(各列を代表する直線の方向)は光制御フィルター10の外縁をなすX方向の辺と平行であり、各行の島部分5の配列方向(各行を代表する直線の方向)は光制御フィルター10の外縁をなすY方向の辺と平行である。この変形例として、複数の島部分5からなるX列×Y行の2次元アレイのY行が、前記外縁のY方向の辺に対して平行ではなく、交わる方向に配置されていてもよい。この場合、前記2次元アレイのX列が、前記外縁のX方向の辺に対して平行ではなく、交わる方向に配置される。例えば、図7を参照して、光制御フィルター30の外縁のY方向を直線Q1で表し、島部分5のY行の配列方向を直線Q2で表したとき、直線Q1と直線Q2は角度αで交わる。前記Y方向の辺と前記Y行との交わりの角度αは、任意に調整することができ、鋭角側を見て、例えば、10~30°とすることが好ましい。このように交わりの角度を付けると、光制御フィルターをディスプレイ画面の枠に合わせて貼付した場合、ディスプレイ画面における画素配列のパターンと、光制御フィルターが有する複数の島部分5の配列パターンとの干渉による干渉縞(モアレ)の発生を軽減することができる。
【0025】
光制御フィルター10の島部分5である光透過部3は、海部分6である遮光部4に設けられた貫通孔である。貫通孔は空気で満たされていてもよく、光透過性材料が充填されていてもよい。貫通孔が空気で満たされている場合には、透過する光の屈折率が小さいので、視野角θを小さくすることができる。貫通孔が光透過性材料で満たされている場合には、貫通孔の形状が光透過性材料によって保持され易くなり、光制御フィルター10を変形させた場合にも光透過部3の形状を保持し易くなる。
前記光透過性材料としては、例えば、透明樹脂、ガラスが挙げられる。光制御フィルター10の可撓性を高める観点から、透明エラストマーが好ましい。透明エラストマーの具体例としては、例えば、シリコーン、ポリウレタン等が挙げられる。前記貫通孔に充填される透明エラストマーは1種でもよいし、2種以上でもよい。透明性及び耐熱性等に優れる点から、前記透明エラストマーは、シリコーンゴムが好ましい。
【0026】
(遮光部)
光制御フィルター10の遮光部4は、海島構造のうちの海部分6であり、島部分5を除いた不透明部分である。
遮光部4のZ方向の長さは、光制御フィルター10の厚さと同じであり、50μm以上1000μm以下が好ましく、80μm以上500μm以下がより好ましく、100μm以上300μm以下がさらに好ましい。前記長さが前記下限値以上であれば、光の視野角(透過角)θを制御し易くなる。前記長さが前記上限値以下であれば、可撓性がより高くなる。
【0027】
遮光部4の全質量に対するエラストマーの含有量は、50~99質量%が好ましく、60~97質量%がより好ましく、70~95質量%がさらに好ましい。
前記含有量が上記下限値以上であることにより、光制御フィルター10の可撓性が充分に高まる。前記含有量が上記上限値以下であることにより、遮光部4に遮光材を充分に含ませる余地ができる。前記全質量のうちエラストマーの含有量を除いた残部を遮光材に割り当てることができる。
また、前記含有量が上記下限値に近いと、製造時の成形型内において光制御フィルター10を成形する際に、成形型や硬化前の光制御フィルター10から気泡を除くことが容易になる。前記含有量が上記上限値に近いと、製造時に光制御フィルター10を成形型から脱型することが容易になる。
光制御フィルター10がエラストマーによって形成されていることにより、成形型から脱型することが容易となり、厚みの調整に必要な加工も容易になる。また、光制御フィルター10がシリコンや金属によって形成されている場合と比べて、光制御フィルター10がエラストマーによって形成されていると、軽量になるので好ましい。
【0028】
遮光部4を構成するエラストマーは、公知のエラストマーが適用され、透明でもよく、不透明でもよい。遮光部4を構成するエラストマーは1種でもよく、2種以上でもよい。
光透過部3がエラストマーを含む場合、遮光部4と光透過部3の接着性を高め、一体化することにより光制御フィルター10の可撓性が充分に高まることから、光透過部3に含まれるエラストマーと遮光部4に含まれるエラストマーとは同じであることが好ましい。
遮光部4に含まれるエラストマーはシリコーンゴムが好ましい。
【0029】
遮光部4は、エラストマー以外に、遮光材を含むことが好ましい。遮光材としては、光吸収性材料及び光反射性材料の少なくとも一方が使用される。
光吸収性材料は光吸収剤を含有する。光吸収剤としては、カーボン、染料、顔料等が挙げられる。光吸収剤のなかでも、光吸収性に優れることから、カーボンが好ましい。カーボンとしては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維等が挙げられ、光吸収剤として汎用的であることから、カーボンブラックが好ましい。
光反射性材料としては、金属が挙げられる。金属としては、アルミニウム、銀、金、クロム、ニッケル等が挙げられる。
【0030】
<第二実施形態>
本発明の第二実施形態として図4に示す光制御フィルター20は、本体として第一実施形態の光制御フィルター10を備え、本体の両主面1,2にはそれぞれ第一の透明封止層7及び第二の透明封止層8が積層されている。
【0031】
光制御フィルター20の各透明封止層は、本体の各主面を覆い、本体を保護している。
各透明封止層が存在すると、光透過部3が空洞の貫通孔である場合には、貫通孔内に外部から異物が侵入することを防止することができる。
また、各透明封止層の露出する面が平滑であれば、当該面における光の乱反射を防止し、光透過部3を通して、光制御フィルター20の反対側を透かして見ることが容易になる。
各透明封止層の露出する面の算術平均粗さ(Ra)は、0μm以上1μm以下であることが好ましく、0μm以上0.2μm以下であることがより好ましい。上記範囲であると、透明封止層の表面において光が乱反射することを抑制し、光の透過を容易にすることができる。ここで、算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601:2013(ISO4287:1997)に従って求めた値である。
【0032】
各透明封止層の構成材料は透明であればよく、例えば、ガラス、透明な合成樹脂が挙げられる。具体的には、例えば、シリコーン、ポリウレタン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、シクロオレフィン、液晶ポリマー等が挙げられる。
本体との密着性を高める観点から、透明封止層を構成する材料は、本体を構成する海部分6に含まれるエラストマーと同類のエラストマーであることが好ましい。また、透明封止層がガラスであると光制御フィルター20に剛性を付与すること、及び耐熱性をより一層向上させることができる。
透明封止層がガラスである場合、ガラスと本体の各主面との接着性を高める観点から、ガラスの接触面及び各主面の少なくとも一方に表面処理が施されていることが好ましい。
前記表面処理としては、例えば、エキシマUV照射処理、プラズマ処理、シランカップリング剤等のプライマー塗布処理が挙げられる。
第一の透明封止層7及び第二の透明封止層8はそれぞれ同じ透明材料によって形成されていてもよく、異なる透明材料によって形成されてもよい。
第一の透明封止層7及び第二の透明封止層8はそれぞれ複数層であってもよい。前記複数層において、各層はそれぞれ同じ透明材料によって形成されていてもよいし、異なる材料によって形成されていてもよい。例えば、ガラス層と透明樹脂層の積層体が上記の透明封止層を形成していてもよい。前記積層体のうち、ガラス層が前記シートの主面に接していてもよいし、透明樹脂層が前記シートの主面に接していてもよい。
【0033】
各透明封止層の厚さは、1μm以上200μm以下であることが好ましく、3μm以上175μm以下であることがより好ましく、5μm以上150μm以下であることがさらに好ましい。透明封止層の厚さが前記下限値以上であれば、光制御フィルターの本体を充分に保護でき、また、本体の各主面の凹凸を充分に平滑化でき、製造時における各透明封止層の厚みの制御が容易になる。各透明封止層の厚さが前記上限値以下であれば、充分な光透過性を確保でき、良好な光学特性が得られる。
透明封止層の厚さは、その断面を無作為に選択した10カ所以上で測定した値の平均値として求められる。測定には測定顕微鏡等の公知の微細構造観察手段が適用される。
なお、光制御フィルター20の海部分6のMD-1ゴム硬度は、第一の透明封止層7及び第二の透明封止層8を除去し、前記海島構造を形成するシートのみの形態としたうえで、測定される値である。
【0034】
以上で説明した第一及び第二実施形態の光制御フィルターは、島部分5である光透過部3と、海部分6である遮光部4とを備える。第一の主面1に入射した光線のうち、柱状の島部分5に入射した光線はこれを透過して第二の主面2から出射し、海部分6に入射した光線はこれに吸収されるか反射される。
柱状の島部分5の光透過部3の配列、ピッチP、大きさR、アスペクト比を適宜調整することにより、光線の視野角(透過角)θ、透過する光量を制御することができる。
【0035】
[作用効果]
光制御フィルター10は、少なくとも海部分6のMD-1ゴム硬度が25以上80以下であるので、高い可撓性を有し、容易に弾性変形する。また、光制御フィルター10全体のMD-1ゴム硬度が25以上80以下であれば、さらに高い可撓性を有し、より容易に弾性変形する。このため、光制御フィルター10の機械的強度を維持するための支持層を積層する必要がなく、単体で単層の光制御フィルターとして取り扱うことが可能である。
一般に、支持層を積層すれば、支持層の厚みが加わるので、光が支持層で減衰し、光透過性が低下する。逆に、光の減衰の原因となる支持層を有しなければ、光透過性が高められる。
光制御フィルター10は、支持層を積層する必要がないので、光制御フィルター10を薄くすることが可能である。一般に、支持層を積層することは、支持層の厚みが加わるので、薄型化の目的に適さない。薄型化可能な光制御フィルター10は、取り付けるデバイスにおける占有空間を薄くすることができるので、デバイスの薄型化に寄与する。
透明封止層を備えた光制御フィルター20においても、その本体である光制御フィルター10の可撓性と薄型化の容易性は、有用である。
【0036】
<第三及び第四実施形態;光透過部と遮光部の反転>
本発明の第三及び第四実施形態の光制御フィルター(不図示)は、島部分である遮光部と、海部分である光透過部とを備える。遮光部と光透過部が反転していること以外は、第一及び第二実施形態の光制御フィルターと同じである。
海部分の全質量のうち少なくとも70質量%、好ましくは80~100質量%が透明なエラストマーによって形成されていることが好ましい。海部分には、エラストマー以外の材料が含まれてもよい。島部分には前述した遮光材が含まれ、その他に公知のバインダーが含まれてもよい。海部分と島部分の密着性を高める観点から、海部分を構成するエラストマーと同じ種類のエラストマーが、島部分にも含まれることが好ましい。
【0037】
以上で説明した第三及び第四実施形態の光制御フィルターは、島部分である遮光部と、海部分である光透過部とを備える。第一の主面に入射した光線のうち、柱状の島部分に入射した光線はこれに吸収されるか反射され、海部分に入射した光線はこれを透過して第二の主面から出射する。
柱状の島部分の遮光部の配列、ピッチ、大きさ、アスペクト比を適宜調整することにより、光線の視野角(透過角)、透過する光量を制御することができる。
【0038】
本発明に係る光制御フィルターは、例えば、視野角制御、輝度向上、防眩等を目的として、液晶表示装置等の画像表示装置に取り付けられる。また、具体的には、光制御フィルターは、例えば、発光ダイオード、有機エレクトロルミネッセンス素子等の発光体、光センサ等の受光体に取り付けることができる。
【0039】
<光制御フィルターの製造方法>
本発明の光制御フィルターの製造方法として、例えば、凹凸が形成された成形型を用いてシートを成形し、前記成形型が有する前記凹凸を前記シートに転写する方法が挙げられる。具体例としては、まず、図5(a)の断面図に示すように、第一実施形態の光制御フィルター10が有する海島構造のうち海部分6に対応する凹部Mが形成された成形型Kの表面に、遮光材を含む液状のエラストマー前駆体Lを塗布する。次に、図5(b)に示すように、成形型Kの凹部M内に充填したエラストマー前駆体Lを硬化させ、成形型K内に光制御フィルター10を形成する。ただし、ここで形成された光制御フィルター10の各島部分5に相当する領域には、成形型Kの表面が有する凸部(非凹部)が存在する。
成形型Kの凹部内に光制御フィルター10を形成する際、凹部M内に入らずに溢れたエラストマー前駆体Lが、光制御フィルター10の一方の主面を覆う残膜Nになる。余分な残膜Nを切削や研磨によって除去し、目的の光制御フィルター10を成形型K内から取り出す。
得られた光制御フィルター10の厚さ方向に貫通する島部分5の内空部は空洞であり(図5(c))、必要に応じて光透過性材料を充填することができる(図5(d))。また、光制御フィルター10の第一の主面1及び第二の主面2の各々に第一の透明封止層7及び第二の透明封止層8を常法により積層すると、第二実施形態の光制御フィルター20が得られる(図5(e))。
【0040】
成形型Kは、海部分6を形成するための凹部と、凹部内において島部分5を形成するための複数の柱状の凸部(非凹部)と、が表面に形成された平板である。凹部の深さと凸部の高さは同じである。凸部同士のピッチが島部分5同士のピッチPに対応し、凸部の高さは島部分5の高さに対応し、凸部の大きさが島部分5の大きさRに対応する。
成形型Kにおいては、凸部の中心軸の軸線方向及び凸部の側面が成形型Kの底面に対して垂直に配置されている。このような成形型Kを用いることにより、得られる光制御フィルター10における島部分5の側面を、光制御フィルター10の各主面に対して垂直に形成できる。
【0041】
成形型Kの作製方法としては、例えば、平板状の基材の一方の面をドライエッチングして凹部Mを形成する方法、平板状の基材の一方の面を切削して凹部Mを形成する方法が挙げられる。平板状の基材としては、例えば、シリコンウェハ、石英基板が挙げられる。
ドライエッチングとしては、例えば、プラズマエッチング、レーザエッチング、イオンエッチング等が挙げられる。プラズマエッチングの方法としては、基材の表面にマスクを配置し、マスクを通して基板表面にプラズマを照射し、マスクで覆われていない表面のみをエッチングすることにより、凹部Mを形成する方法が挙げられる。
【0042】
成形型を用いて海部分6を成形する具体的な方法としては、例えば、下記の(a-1)~(a-5)の方法が挙げられる。
(a-1):液状のエラストマー前駆体Lを、支持フィルムの平らな表面上に塗布してエラストマー前駆体Lの膜を形成した後、その膜に成形型Kの凹部Mを押し当て、エラストマー前駆体Lを硬化させる方法。
(a-2):液状のエラストマー前駆体Lを、成形型Kの凹部Mに流下し、へら等を用いて凹部M内に充填した後、エラストマー前駆体Lを硬化させる方法。
(a-3):液状のエラストマー前駆体Lを成形型Kの凹部Mに塗布し、塗布したエラストマー前駆体Lを押し型で押圧し、エラストマー前駆体Lを凹部M内に充填した後、エラストマー前駆体Lを硬化させる方法。
(a-4):予め作製したエラストマーのシートを加熱しながら成形型Kの凹部Mに押圧し、熱によって軟化したシートに凹凸を転写する方法。
(a-5):成形型Kを射出成形機に取り付け、エラストマーを射出成形する方法。
【0043】
(a-1)の方法において、液状のエラストマー前駆体Lとしては、例えば、硬化性シリコーン、イソシアネート及びポリオール等の硬化性化合物が挙げられる。エラストマー前駆体Lには、重合触媒を添加してもよい。エラストマー前駆体Lが熱硬化性である場合には、熱重合触媒を添加し、エラストマー前駆体Lが光重合性である場合には、光重合触媒を使用する。また、エラストマー前駆体Lには、前述の遮光材を添加してもよい。遮光材を添加すれば、海部分6に遮光部4が形成され、遮光材を添加せずに透明エラストマーを形成すれば、海部分6に光透過部3が形成される。エラストマー前駆体Lには、必要に応じてさらに溶媒等の他の成分を混合してもよい(以下の方法においても同様)。
【0044】
前記支持フィルムとしては、得られた光制御フィルター10から容易に剥離できるフィルムが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム等が挙げられる。エラストマー前駆体Lを支持フィルムに塗布する方法としては、公知のコーターを用いる方法が挙げられる。支持フィルム上に塗布するエラストマー前駆体Lの量は、目的とする光制御フィルター10の作製に充分な量に調整する。
支持フィルム上に形成したエラストマー前駆体Lの膜に成形型Kの凹部Mを押し当てることにより、凹部Mにエラストマー前駆体Lを充填させて、凹凸形状が反転した凸凹を前記膜に形成する。エラストマー前駆体Lを熱硬化させる方法として、例えば、前記膜に押し当てた成形型Kを加熱する方法、成形型Kとは別に設けた外部ヒータを用いて加熱する方法が挙げられる。エラストマー前駆体Lを光硬化させる場合、例えば、紫外線又は電子線の照射により光硬化させることができる。
エラストマー前駆体Lを硬化させることにより、光制御フィルター10を形成できる。
【0045】
(a-2)の方法において、成形型Kの凹部M上に流下するエラストマー前駆体Lの量は、目的とする光制御フィルター10が得られる量に調整する。
成形型Kの凹部M上に液状のエラストマー前駆体Lを流下した後、エラストマー前駆体Lの表面をへら等で均すことにより、エラストマー前駆体Lを凹部M内に充填させる。その後、エラストマー前駆体Lを硬化させることにより、光制御フィルター10を形成する。硬化方法は、前述の(a-1)と同様の方法が採用できる。
【0046】
(a-3)の方法におけるエラストマー前駆体Lの塗布方法としては、例えば、成形型Kの凹部Mの任意の位置に付着させた液状のエラストマー前駆体Lに、押し型を押圧してエラストマー前駆体Lを押し延ばし、エラストマー前駆体Lを凹部M内に充填する方法が挙げられる。また、前記塗布方法として、公知のコーターを採用してもよい。硬化方法は、前述の(a-1)と同様の方法が採用できる。
【0047】
(a-4)の方法は、公知のプレス成形機を用いたプレス成形法である。プレス成形機に成形型Kを取り付けて、エラストマーをプレス成形することにより、光制御フィルター10を形成できる。前記エラストマーには、前記遮光材、その他の成分が含まれてもよい。
(a-5)の方法は、公知の射出成形機を用いた射出成形法である。射出成形機に成形型Kを取り付けて、エラストマーを成形することにより、光制御フィルター10を形成できる。前記エラストマーには、前記遮光材、その他の成分が含まれてもよい。
【0048】
工程(a-1)~(a-5)の方法において、成形型Kの凹部M内に光制御フィルター10を形成する際、凹部M内に入らずに溢れたエラストマー前駆体Lが残膜Nになる。
残膜Nを形成するメリットとして、エラストマー前駆体Lが硬化する際に、凹部Mの開口部のエッジの形状(凸部の先端の形状)が、形成する光制御フィルター10の島部分5の端部の形状に反映され易いこと、すなわち、凹部Mの形状を反映した島部分5を精度良く形成できることが挙げられる。
【0049】
硬化後に余分な残膜Nを除去する方法として、例えば、一般的な基板の表面を切削又は研磨する接触式の公知方法、レーザ加工、プラズマ処理等の非接触式の公知方法が挙げられる。
【0050】
光制御フィルター10を所望の形態となるように整形する際、光制御フィルター10を、例えば-10℃~-50℃、好ましくは-20℃~-40℃に冷却し、光制御フィルター10の硬度を高めたうえで切断すると、切断等の整形加工が容易になるので好ましい。
なお、光制御フィルター10の海部分6のショアA硬度がA50以上であれば、常温(例えば20~25℃)で容易に切断加工することができる。
【0051】
光制御フィルター10は可撓性を有し、弾性変形するので、成形型Kから光制御フィルター10を取り外すことは比較的容易であり、取り外しの際に成形型Kの凹凸が破損することを防止できる。
【0052】
成形型Kから取り外した光制御フィルター10の島部分5である貫通孔に、光透過性材料又は遮光材を充填する方法としては、常法が適用され、例えば、下記の(b-1)~(b-4)の方法が挙げられる。
(b-1):光制御フィルター10の貫通孔が開口する第一の主面1に、材料を含む塗料を流下し、へら等を用いて貫通孔に掻き入れて充填する方法。
(b-2):光制御フィルター10の貫通孔が開口する第一の主面1に材料を含む塗料を付着させ、前記塗料に押し型を押圧して前記塗料を貫通孔に押し込み、充填する方法。
(b-3):材料を含む塗料の中に、光制御フィルター10を浸漬して、貫通孔に前記塗料を流入させる方法。
前記貫通孔に充填された前記塗料は常法により硬化する。
【0053】
前記塗料には、硬化性の樹脂前駆体又はバインダーが含まれていることが好ましい。透明な樹脂を形成する公知の樹脂前駆体を適用すれば、島部分5に光透過部3を形成できる。不透明な樹脂を形成する公知の樹脂前駆体、又は透明な樹脂を形成する公知の樹脂前駆体に前記遮光材を添加した組成物を用いれば、島部分5に遮光部4を形成できる。
前記樹脂前駆体としては、例えば、熱硬化性シリコーン、ポリウレタンを形成するイソシアネート及びポリオール、アクリル化合物、エポキシ化合物、不飽和ポリエステル等が挙げられる。
また、島部分5に嵌合する樹脂製又はガラス製の光ファイバーを島部分5に挿通することにより、島部分5に光透過部材を設置してもよい。
光制御フィルター10の島部分5には、前記ランド膜が存在しないので、前記塗料を島部分5に流入させること及び前記光透過部材を島部分5内に挿通することが容易である。
【0054】
光制御フィルター10の第一の主面1及び第二の主面2の各々に対して、第一の透明封止層7及び第二の透明封止層8のうち少なくとも一方を形成する方法は、一般的な基板の表面に透明層を形成する際の常法が適用される。具体的には、例えば、下記の(c-1)~(c-2)の方法が挙げられる。
(c-1):前記主面に、熱硬化性化合物又は光硬化性化合物を含む塗料を塗布し、加熱又は光照射して、硬化させる方法。
(c-2):前記主面に、予め作製された透明樹脂フィルム又は透明ガラスを積層する方法。
【0055】
前記熱硬化性化合物及び前記光硬化性化合物としては、例えば、アクリル化合物、エポキシ化合物、熱硬化性シリコーン、ポリウレタンを形成するイソシアネート及びポリオール等が挙げられる。これらの硬化性化合物を含む塗料には、重合開始剤が含まれてもよい。重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾ化合物等が挙げられる。前記塗料には、公知の有機溶剤が含まれてもよい。
【0056】
前記透明樹脂フィルム又は透明ガラスの積層方法としては、例えば、接着剤を用いて貼り合せる方法、熱圧着する方法等が挙げられる。
【0057】
[光制御フィルター10の主面の整形]
各実施形態の光制御フィルター10の島部分5内に光透過部材を設置する前又は後で、光制御フィルター10の第二の主面2に残膜Rが残る場合、これを除去するとともに、第一の主面1を第二の主面2と平行な面に成形する好適な方法として、以下に例示する方法が挙げられる。以下の図では島部分5内に光透過部材を設置した後の光制御フィルター10が有する残膜Rを除去する場合を示す。この場合を参照して、脱型した直後の島部分5が中空(空洞)である光制御フィルター10についても同様の方法で残膜Rを除去することができる。残膜Rは図5の残膜Nに相当する。
【0058】
まず、図6(a)の断面図に示すように、光制御フィルター10の第二の主面2に残る残膜Rを、支持台が有する平らな支持面Sに密着させて固定する。残膜Rの厚さは不均一である場合があり、図では紙面右側に向かって残膜Rが厚くなることを強調して描いている。
次に、支持面Sと平行に切断用の刃又はレーザを動かして、残膜Rを含まないように、且つ、残膜Rと第二の主面2の境界になるべく近い位置(例えば図の破線C1で示す位置)で光制御フィルター10を薄切りするように切断し、平面化された新たな第二の主面2を形成する。
【0059】
ここで図6(b)に示すように、切り出した光制御フィルター10の第一の主面1と第二の主面2は、非平行であっても構わない。
次に、図6(c)に示すように、光制御フィルター10の新たな第二の主面2を、支持台が有する平らな支持面Sに密着させて固定する。再び、支持面Sと平行に切断用の刃又はレーザを動かして、元の第一の主面1を残さないように、且つ、元の第一の主面1になるべく近い位置(例えば図の破線C2で示す位置)で光制御フィルター10を切断し、平面化された新たな第一の主面1を形成する。
【0060】
図6(d)に示すように、切り出した光制御フィルター10の第一の主面1と第二の主面2は、この段階で平行になっている。また、第一の主面1及び第二の主面2に対する、各島部分5の第一端部と第二端部を結ぶ直線のなす角度は、残膜Rの厚さの不均一さに起因して、残膜Rを切除する前と後で変化している。図示した例では、島部分5は、元の第一の主面1に対しては垂直であるが、新たな第一の主面1に対しては傾いている。
【0061】
以上で説明した光制御フィルター10の各面の整形方法によれば、残膜Rを容易に切除でき、平滑で互いに平行な第一の主面1及び第二の主面2を形成し、島部分5の第一端部及び第二端部がそれぞれ第一の主面1及び第二の主面2に露出した、厚さが薄い光制御フィルター10を容易に得ることができる。
【実施例
【0062】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
[実施例1]
光制御フィルターを作製するための成形型として、縦×横×深さが20mm×20mm×180μmの凹部が表面に形成され、凹部内にX-Y方向に沿って400×400個の円柱状(直径30μm、高さ180μm)の凸部が50μmピッチでグリッド状に配列した、シリコン製(Si製)の成形型を用意した。
また、液状の熱硬化性シリコーン(信越化学工業株式会社製、KE-1935)と、カーボンブラックとを混合して遮光部形成用塗料を得た。この塗料の総質量に対する熱硬化性シリコーンの含有量は、塗料の硬化後に得られる硬化物の総質量に対して約95質量%となるように調整した。
【0063】
ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に、前記遮光部形成用塗料を塗布して、熱硬化性シリコーンの膜を形成した。
次いで、その熱硬化性シリコーンの膜に前記成形型の凹部Mが形成された面を押し当て、130℃で5分間加熱し、熱硬化性シリコーンを硬化させた。次いで、凹部M内に入らなかった余剰の熱硬化性シリコーンからなる残膜を研磨によって除去した後、成形型の凹部内から光制御フィルター(縦×横×厚さ=20mm×20mm×180μm)を取り出した。この取り出しにおいて、光制御フィルターは可撓性を有し、弾性変形するとともに充分な機械的強度を有していたので、成形型を破損せずに容易に取り出すことができた。
取り出した光制御フィルターの海部分は遮光性のシリコーンによって形成され、島部分は空気で満たされた貫通孔である。
成形型から取り出した海部分のみからなる光制御フィルターを6枚重ねた積層体(厚さ:1080μm)を試験片として、高分子計器株式会社製の「マイクロゴム硬度計」商品名:MD-1capaを使用して、そのMD-1ゴム硬度を上述の測定方法(押針形状:タイプA、加圧脚寸法:タイプA、スプリング荷重:22mN、測定モード:ノーマルモード)に従って23℃の環境で測定した。その結果、MD-1ゴム硬度は55であった。
次いで、光制御フィルターの一方の主面に、液状の熱硬化性シリコーン(信越化学工業株式会社製、KE-1935-A/B)を盛り付け、押し型を用いて貫通孔内に押し込んだ後、130℃に加熱して硬化させ、貫通孔内に透明なシリコーンを形成した。
ここで得た、海部分及び島部分がシリコーンゴムによって形成された光制御フィルターを6枚重ねた積層体(厚さ:1080μm)を試験片として、MD-1capaを使用して、そのMD-1ゴム硬度を上述の測定方法に従って23℃の環境で測定した。その結果、MD-1ゴム硬度は55であった。
【0064】
得られた光制御フィルターの海部分は遮光性のシリコーンによって形成され、島部分は透明なシリコーンによって形成されている。得られた光制御フィルターは、可撓性を有し、容易に弾性変形することが可能であり、充分な機械的強度を有し、海部分と島部分の密着性が高く、島部分に形成された光透過部の光線透過率は優れていた。
また、光制御フィルターの主面の正面から見ると、光制御フィルターの反対側を透かして見ることが可能であり、光制御フィルターの主面に対して斜めの角度から見ると、光制御フィルターの反対側を透かして見ることができなかった。つまり、光制御フィルターは視野角を充分に制御することができた。
【0065】
次に、光制御フィルターの両主面にYAGレーザを照射して、両主面を清浄化した。
続いて、光制御フィルターの両主面を常法によりエキシマUV処理した後、薄い透明ガラス板を積層した。この工程において、光制御フィルターは可撓性を有し、弾性変形するとともに充分な機械的強度を有していたので、単体で取り扱うことが容易であった。
両主面に積層した透明ガラス板の密着性は高く、少し湾曲させることも可能であった。
【符号の説明】
【0066】
1 第一の主面
2 第二の主面
3 光透過部
4 遮光部
5 島部分
6 海部分
7 第一の透明封止層
8 第二の透明封止層
10 光制御フィルター
20 光制御フィルター
K 成形型
L エラストマー前駆体
M 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7