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特許7064589腫瘍細胞の抗腫瘍薬に対する薬剤耐性を逆転させる方法および薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】腫瘍細胞の抗腫瘍薬に対する薬剤耐性を逆転させる方法および薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/074 20060101AFI20220427BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20220427BHJP
   A61K 31/575 20060101ALI20220427BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20220427BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220427BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220427BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20220427BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20220427BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20220427BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220427BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220427BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20220427BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220427BHJP
   A61K 9/02 20060101ALI20220427BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20220427BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20220427BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
A61K36/074
A61K31/19
A61K31/575
A61K31/715
A61P35/00
A61P43/00 105
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/16
A61K9/14
A61K9/06
A61K9/10
A61K9/08
A61K9/02
A61K9/107
A61K9/12
A61K9/70 401
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020529179
(86)(22)【出願日】2019-04-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-12
(86)【国際出願番号】 CN2019083938
(87)【国際公開番号】W WO2020191845
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2020-05-15
(31)【優先権主張番号】201910229279.3
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520169753
【氏名又は名称】広州白雲山漢方現代薬業有限公司
【氏名又は名称原語表記】GUANGZHOU HANFANG PHARMACEUTICAL CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】No.8 Wenquan Avenue,Conghua Guangzhou City,Guangdong 510970 China
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】袁 誠
(72)【発明者】
【氏名】許 文東
(72)【発明者】
【氏名】李 菁
(72)【発明者】
【氏名】蔡 鴻飛
(72)【発明者】
【氏名】蒋 兆健
(72)【発明者】
【氏名】劉 菊妍
(72)【発明者】
【氏名】陳 亮
(72)【発明者】
【氏名】王 小妹
(72)【発明者】
【氏名】張 懿
(72)【発明者】
【氏名】劉 春芳
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104892714(CN,A)
【文献】特表2016-501861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗腫瘍多剤耐性の薬であって、
霊芝子実体アルコール抽出物である霊芝抽出物を含み、
前記霊芝抽出物は、ガノデル酸A、ガノデル酸B、ガノデリン酸C、ガノデル酸C2、ガノデル酸G、ガノデル酸LM2、ガノデリン酸B、ガノデル酸H、ガノデル酸D、ガノデル酸F、ルシデン酸、ガノデリン酸D、エルゴステロール及び霊芝多糖を含み、
前記霊芝抽出物において、エルゴステロールの質量パーセント濃度が0.1~0.25%、霊芝多糖の質量パーセント濃度が0.5~20%、ガノデル酸A、ガノデル酸B、ガノデル酸C2、ガノデル酸G、ガノデル酸LM2、ガノデル酸H、ガノデル酸F及びルシデン酸の合計質量パーセント濃度が0.1~11%であり、
前記抗腫瘍多剤耐性とは、HepG2/ADM細胞のパクリタキセル、ビンクリスチン、ドキソルビシンに対する薬剤耐性を逆転させることであり、及び/又は、前記抗腫瘍多剤耐性とは、MCF-7/ADR細胞のパクリタキセル、ドキソルビシンに対する薬剤耐性を逆転させることであり、及び/又は、前記抗腫瘍多剤耐性とは、P-糖タンパク質の機能を抑制することである
ことを特徴とする薬。
【請求項2】
前記薬は、さらに薬学的に受容可能なキャリアを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の薬。
【請求項3】
前記薬の剤形は、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、顆粒製剤、丸剤、散剤、膏剤、丹剤、懸濁剤、溶液剤、注射剤、坐剤、クリーム剤、噴霧剤、滴剤又は貼付剤である、ことを特徴とする請求項1またはに記載の薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍細胞の抗腫瘍薬に対する薬剤耐性を逆転させる方法および薬に関し、医薬技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
癌は、世界の主要な死亡原因である。中国では、都市部であっても農村部であっても、腫瘍は住民の主な死亡原因の一つである。腫瘍多剤耐性(Multidrug Resistance,MDR)とは、多くの構造が互いに関連がない化学療法剤に対して癌細胞が示す交差耐性現象を指し、腫瘍が治療困難で、再発しやすい主な原因の一つであり、腫瘍化学療法の成功の大きな障害となっている。アメリカがん協会は、90%を超える腫瘍患者の死亡が異なる程度の薬剤耐性の影響を受けたと推定している。そのため、MDRを克服することは腫瘍化学療法を成功させるための急務となっており、薬剤耐性に対する活性を有する薬の開発が腫瘍MDR研究開発の注目ポイントとなっている。
【0003】
MDRの生成メカニズムは複雑であるが、mdr1遺伝子でコードされるP-糖タンパク質(P-glyco-protein,P-gp)の過剰発現は、MDRが発生する主な原因である。低毒性で有効なMDR逆転剤の開発は、化学療法の治療効果を向上させるための一つの重要な方法であり、化学療法分野での急いで取り組む必要がある課題である。
【0004】
P-糖タンパク質(P-gp)により仲介される多剤耐性(MDR)は、癌の治療が失敗した主な原因の一つである。ここ数年、多くの合成P-gp阻害剤が発見され、体内でも体外でも顕著なP-gp耐性を示している。しかし、これら薬は、その薬毒性および狭い治療濃度域のため、第III相試験で所望の効果をもたらさなかった。そのため、高効率で低毒性の新たなMDR調整剤を探すことが特に重要であり、漢方薬の中から毒性・副作用が少なく、薬理作用が独特である抗腫瘍薬剤耐性薬の開発は、腫瘍の薬剤耐性の問題を解決する方法の一つである。
【0005】
霊芝(Ganoderma lucidum)は、中国の医薬宝庫中の珍品であり、「仙草」と呼ばれている。古今の薬理及び臨床研究で証明されているように、霊芝は、病気の予防や治療に役立ち、体質の元を強固にし、元気づけ、寿命を延長する効果を有し、癌、肝炎、II型糖尿病、高血圧など多くの慢性疾患の治療に用いられる。霊芝には、トリテルペン、多糖、ステロイド、アルカロイド、ヌクレオシド、アミノ酸、タンパク質等の多様な成分が含まれ、そのうち、トリテルペンと多糖の生物学的活性が最も顕著である。
【0006】
現在、霊芝の抗腫瘍薬剤耐性について、以下のレポートが掲載されている。(1)「扶正消瘤顆粒のMCF_7薬剤耐性細胞のインビトロ増殖に対する阻害及びその機序に関する研究」(張瑞清、南方医科大学修士論文、2011年5月20日):扶正消瘤顆粒は、霊芝を含む漢方薬であり、MCF-7耐性細胞のMDR1の転写及びP-gpタンパク質の発現を低下させることにより、乳がんの薬剤耐性細胞MCF/ADMに対して薬剤耐性を抑制する作用を発揮する。(2)「霊芝多糖のシスプラチン耐性卵巣がん細胞への逆転作用およびその機序に関する研究」(曲紅光,吉林大学博士論文、2012年6月):霊芝多糖は、DDP耐性卵巣がん細胞SKOV-3/DDPに対して逆転作用を有し、その作用機序は、薬物耐性遺伝子及び抗酸化遺伝子の発現を低下させることにより、酸素フリーラジカルの除去を低下させ、脂質の過酸化を誘発し、細胞アポトーシスを促進することによって達成すると考えられる。(3)「霊芝トリテルペン類成分の抽出と分離およびその抗腫瘍活性に関する研究」(沈翠娥、2015年メディカルフロンティアフォーラムおよび第14回全国腫瘍薬理および化学療法に関する学術会議):霊芝トリテルペン化学組成成分が多剤耐性腫瘍細胞K562/A02(白血病多剤耐性薬物細胞)及びKBv200(口腔上皮がん多剤耐性細胞)のドキソルビシンに対する感受性を向上させる潜在的活性を有することが示唆されている。(4)「ガノデリン酸B(Ganoderenic acid B)のABCB1により仲介された腫瘍多剤耐性を逆転する活性の評価およびメカニズムの研究」(劉道路、曁南大学修士論文、2015年5月31日):霊芝から分離されたラノスタン型トリテルペン化合物であるガノデリン酸BのABCB1(P-gp、すなわちP-糖タンパク質)により仲介された腫瘍多剤耐性を逆転する活性の評価およびメカニズムに関する研究がなされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、霊芝の抗腫瘍多剤耐性の研究は、いずれも霊芝抽出モノマーに対する研究であり、霊芝抽出物の薬剤耐性腫瘍に対する逆転作用については報道されていない。
【0008】
本発明は、上記従来技術の欠点を克服するために腫瘍細胞の抗腫瘍薬に対する薬剤耐性を逆転させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に採用されている技術的解決手段は、患者に霊芝抽出物を投与することを含む、腫瘍細胞の抗腫瘍薬に対する薬剤耐性を逆転させる方法である。
【0010】
本発明の霊芝抽出物は、毒性・副作用がなく、多剤耐性腫瘍細胞のP-gp機能に対して顕著な抑制作用を有し、腫瘍細胞の多剤耐性を顕著に逆転させることができ、抗腫瘍化学療法剤の薬効を回復させることができる。
【0011】
本発明に係る応用の好ましい実施形態として、前記霊芝抽出物は、アルコールにより抽出されて得られるものである。
【0012】
本発明に係る応用の好ましい実施形態として、前記霊芝抽出物の調製方法において、霊芝子実体を乾燥させ粗末に粉砕し、エタノールで加熱還流して抽出し、濾過し、抽出液を合わせて、エタノール抽出液を得て、濃縮し、乾燥させ、霊芝抽出物である霊芝子実体アルコール抽出物を得る。
【0013】
本発明に係る応用の好ましい実施形態として、前記工程において、エタノールの体積分率は5~99%、抽出回数は1~3回、毎回の抽出時間は3時間である。
【0014】
本発明に係る応用の好ましい実施形態として、前記霊芝抽出物は、ガノデル酸A、ガノデル酸B、ガノデリン酸C、ガノデル酸C2、ガノデル酸G、ガノデル酸LM2、ガノデリン酸B、ガノデル酸H、ガノデル酸D、ガノデル酸F、ルシデン酸、ガノデリン酸D、エルゴステロール及び霊芝多糖を含む。
【0015】
本発明に係る応用の好ましい実施形態として、前記霊芝抽出物において、エルゴステロールの質量パーセント濃度が0.1~0.25%、霊芝多糖の質量パーセント濃度が0.5~20%、ガノデル酸A、ガノデル酸B、ガノデル酸C2、ガノデル酸G、ガノデル酸LM2、ガノデル酸H、ガノデル酸F及びルシデン酸の合計質量パーセント濃度が0.1~11%である。
【0016】
本発明に係る応用の好ましい実施形態として、前記腫瘍細胞の抗腫瘍薬に対する薬剤耐性を逆転させることは、HepG2/ADM細胞のパクリタキセル、ビンクリスチン、ドキソルビシンに対する薬剤耐性を逆転させることであり、前記腫瘍細胞の抗腫瘍薬に対する薬剤耐性を逆転させることは、MCF-7/ADR細胞のパクリタキセル、ドキソルビシンに対する薬剤耐性を逆転させることであり、前記腫瘍細胞の抗腫瘍薬に対する耐性を逆転させることは、P-糖タンパク質の機能を抑制することである。
【0017】
本発明は、さらに抗腫瘍多剤耐性薬を提供し、前記薬は霊芝抽出物を含む。
【0018】
本発明に係る応用の好ましい実施形態として、前記薬はさらに薬学的に受容可能なキャリアを含む。
【0019】
本発明に係る応用の好ましい実施形態として、前記薬の剤形は、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、顆粒製剤、丸剤、散剤、膏剤、丹剤、懸濁剤、溶液剤、注射剤、坐剤、クリーム剤、噴霧剤、滴剤又は貼付剤である。
【発明の効果】
【0020】
従来技術に比べて、本発明の有益な効果は以下のとおりである。
(1)本発明の霊芝抽出物は、抗腫瘍多剤耐性の作用を有する。同等投与量で、本発明の霊芝抽出物の効力は、他の霊芝トリテルペン単量体および霊芝多糖などの霊芝成分よりもはるかに強く、霊芝抽出物における特有の活性成分は、相乗作用を有し、かつ霊芝抽出物は、肝毒性を増加させることがなく、良好な安全性を有する。これからわかるように、本発明で得られた霊芝抽出物により、効果増加及び減毒の有益な効果が得られた。
(2)本発明の霊芝抽出物は、細胞毒性が無く、多剤耐性細胞におけるローダミン123(Rh123)の蓄積を顕著に増加させることができ、その効果は他の霊芝単量体成分よりも強く、P-gp機能に対して抑制作用を有することを示している。且つ、HepG2/ADM細胞(ヒト肝臓癌薬剤耐性腫瘍細胞)のパクリタキセル、ビンクリスチン、ドキソルビシンに対する薬剤耐性を逆転させることができ、MCF-7/ADR細胞(ヒト乳癌薬剤耐性腫瘍細胞)のパクリタキセル、ドキソルビシンに対する薬剤耐性を逆転させることができ、P-糖タンパク質の機能に対して抑制作用を有する。
(3)本発明の霊芝抽出物の作用により、移植腫瘍のパクリタキセル、ビンクリスチンに対する感受性が回復され、パクリタキセルの体内副作用を増強させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例2における霊芝抽出物の高速液体クロマトグラフである。
図2】実施例4における細胞毒性試験の結果統計図である。
図3】実施例5における霊芝抽出物のHepG-2/ADM細胞のRh-123蓄積に対する影響結果の統計図である。ここで、Aは対照群であり、Bは試料群である。
図4】実施例6における霊芝抽出物のHepG-2/ADM異種移植腫瘍モデルに対するMDR逆転作用の結果統計図である。ここで、Aは処理後の16日目で、各群のマウスから切除したHepG-2/ADM腫瘍の大きさの代表的な画像であり、BはP-gp過剰発現のHepG-2/ADM移植腫瘍モデルにおける実験時間の経過に伴う腫瘍体積の変化の統計図であり、Cは、各群のマウスから切除したHepG-2/ADM腫瘍の腫瘍重量の平均値の統計図であり、Dは、P-gp過剰発現のHepG-2/ADM移植腫瘍モデルにおける実験時間の経過に伴う体重平均値の変化の統計図である。
図5】実施例7における霊芝抽出物の異なる群の異種移植腫瘍組織におけるP-gpタンパク質の発現レベルに対する影響の統計図である。ここで、Aは試料6(霊芝抽出物)を使用する場合及び試料6とパクリタキセルとを併用する場合のP-gp発現に対する効果を示しており、左側は3つの腫瘍サンプルの電気泳動図であり、右側は別の3つの腫瘍サンプルの電気泳動図であり、Bは試料6を使用する場合及び試料6とパクリタキセルとを併用する場合のP-gp発現に対する定量効果を示しており(左側の3つの腫瘍サンプルの電気泳動図に対する定量)、Cは試料6を使用する場合及び試料6とパクリタキセルとを併用する場合のP-gp発現に対する定量効果(右側の3つの腫瘍試料の電気泳動図に対する定量)を示している。
図6】実施例8における各群の代表的な病理組織切片図である。
図7】実施例9における霊芝抽出物のマウスのALT及びASTレベルに対する影響の統計図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の目的、技術的解決手段及び利点をよりよく説明するために、以下、図面及び具体的な実施例を参照しながら本発明をさらに説明する。
【0023】
実施例1 霊芝抽出物の調製
霊芝子実体を乾燥して粗粉に粉砕した後、10倍量の5%エタノールで加熱還流して3回抽出し、毎回3時間であり、濾過し、3回の抽出液を合わせた後、エタノール抽出液を得て、濃縮し乾燥させ、霊芝子実体アルコール抽出物、すなわち霊芝抽出物が得られた。
【0024】
実施例2 霊芝抽出物の調製
霊芝子実体を乾燥して粗粉に粉砕した後、5倍量の95%エタノールで加熱還流して3回抽出し、毎回3時間であり、濾過し、3回の抽出液を合わせた後、エタノール抽出液を得て、濃縮し乾燥させ、霊芝子実体アルコール抽出物、すなわち霊芝抽出物が得られた。
本実施例で調製された霊芝抽出物の成分に対して高速液体クロマトグラフィー分析を行い、そのうち、8種類のトリテルペン(ガノデル酸A、ガノデル酸B、ガノデル酸C2、ガノデル酸G、ガノデル酸LM2、ガノデル酸H、ガノデル酸F、ルシデン酸)の合計含有量は9.45%で、エルゴステロールの含有量が0.21%で、霊芝多糖の含有量が2.8%であった。高速液体クロマトグラフィーのクロマトグラムを図1に示し、8種類のトリテルペンの各々の含有量を表1に示す。本発明の以下の実施例の中で薬理実験に用いられる治験薬はいずれも本実施例で得られた霊芝抽出物であり、実施例1の霊芝抽出物の効果は本実施例と類似しているので、ここでは詳細な説明を省略する。
【表1】
【0025】
実施例3 霊芝抽出物の成分範囲
発明者は、本発明の調製方法を利用して、異なる抽出パラメータで霊芝抽出物を調製し、且つ調製された霊芝抽出物の成分範囲をまとめた。本含有量比率の霊芝抽出物の調製方法は実施例2に示されている。
本発明の調製方法を利用して得られた霊芝抽出物の成分範囲を表2-1及び表2-2に示す。
【表2-1】
【表2-2】
【0026】
実施例4 腫瘍細胞の増殖実験
本実施例の腫瘍細胞の増殖実験に用いられる治験薬は、実施例2で得られた霊芝エタノール(95%)抽出物であり、そのうち、8種類のトリテルペン(ガノデル酸A、ガノデル酸B、ガノデル酸C2、ガノデル酸G、ガノデル酸LM2、ガノデル酸H、ガノデル酸F、ルシデン酸)の合計含有量が9.45%で、エルゴステロールの含有量が0.21%で、多糖の含有量が2.8%であった。
MTT法で細胞増殖を評価する。即ち、ヒト肝臓癌細胞株(HepG-2)又はヒト乳癌細胞株(MCF-7)を1ウェルあたり4×103細胞になるように96ウェルプレートに接種して一晩培養し、次に異なる濃度(31.25~1000.00μg/mL)の試料で細胞を48時間処理した。次いで、ウェル毎に20μl MTTを添加し、細胞を4時間インキュベートした。最後に、形成された紫色のホルマザン結晶体を150μl DMSOで溶解し、マルチモードマイクロプレートリーダー(Bio-Rad laboratories、USA)を用いて、490nm波長で、その吸光度を測定した。Graph Pad Prism5.0を用いてIC50値を計算した。
MTT試験により試料のヒト肝臓癌薬剤耐性細胞HepG-2/ADMに対する毒性効果を測定し、その結果を図2に示す。横座標は、試料の濃度であり、縦座標は、細胞生存率であった。HepG-2/ADM細胞でMTT細胞毒性アッセイを評価した。様々な濃度の試料で細胞を48時間処理し、細胞生存率を測定した。試料と対照品との吸光度の比から、細胞増殖に対する試料の抑制効果を計算した。結果の値は、3つの独立した試験の平均値±標準偏差(n=6)として計算された。図2から明らかなように、0~1000.00μg/mLの範囲内で濃度を次第に増加させた試料で48時間処理した場合、これらの細胞の増殖は抑制されなかった。1000.00μg/mLの試料で処理した場合、90%以上の細胞の生存が確認された。その結果、本発明の霊芝抽出物がヒト肝臓癌薬剤耐性細胞に対して細胞毒性がないことが分かった。従って、霊芝抽出物の多剤耐性に対する逆転作用についてさらに検討する。
【0027】
実施例5 腫瘍薬剤耐性逆転実験
本実施例の腫瘍薬剤耐性逆転実験に用いられる治験薬は実施例2で得られた霊芝エタノール(95%)抽出物であり、そのうち、8種類のトリテルペン(ガノデル酸A、ガノデル酸B、ガノデル酸C2、ガノデル酸G、ガノデル酸LM2、ガノデル酸H、ガノデル酸F、ルシデン酸)の合計含有量は9.45%で、エルゴステロールの含有量が0.21%で、多糖の含有量が2.8%であった。
1.インビトロ薬剤耐性抑制活性試験
ヒト肝臓癌感受性細胞株HepG-2と薬剤耐性細胞株HepG-2/ADM、及び、ヒト乳癌感受性細胞MCF-7と薬剤耐性細胞MCF-7/ADRの2対の腫瘍薬剤耐性/感受性細胞株を選択した。
陽性対照薬はベラパミルであり、抗腫瘍陽性薬はパクリタキセル(paclitaxel)、ビンクリスチン(VCR)、ドキソルビシン(Doxorubicin、DOX)であった。
治験薬において、Sample 1(試料1)はガノデル酸A、Sample 2(試料2)はガノデル酸B、Sample 3(試料3)はガノデリン酸B、Sample 4(試料4)はガノデリオールF、Sample 5(試料5)は霊芝多糖、Sample 6(試料6)は本発明の実施例2の霊芝抽出物であった。
薬剤耐性逆転剤は、非毒性投与量で活性評価を行う必要があるため、MTT法を利用して細胞毒性を測定した。非毒性投与量又はIC10に相当する投与量で3つの投与量を設定し、且つそれぞれの陽性及び陰性の対照群を設け、陽性対照薬はベラパミルであった。
対数増殖期の細胞を96ウェルプレートに接種し、細胞を完全に接着させた後、元の培地を廃棄し、治験薬及び異なる濃度の抗腫瘍薬の両方を含有する培地を加え、ベラパミル(VRP)を陽性対照とした。72時間インキュベートした後、ウェル毎に30μlの5mg/mL MTT溶液を加えて4時間処理した。廃液を廃棄し、100μLのDMSOを加えて生成されたホルマザンを溶解して、マイクロプレートリーダーでそのOD値を測定し、且つPrism4.0ソフトウェアによりIC50を算出し、IC50により逆転剤の逆転倍数を算出し、逆転倍数(fold reversal、FR)で逆転効果の評価を示す:逆転倍数=単独投与IC50/併合投与IC50であった。霊芝抽出物の薬剤耐性ヒト肝臓がん細胞株HepG-2/ADM細胞に対する逆転作用の結果を表3に示し、霊芝抽出物の薬剤耐性ヒト乳がん細胞株MCF-7/ADR細胞に対する逆転作用結果表4に示す。
【表3】
【表4】
表3及び表4から明らかなように、本発明の霊芝抽出物は、HepG2/ADM細胞のパクリタキセル、ビンクリスチン、及びドキソルビシンに対する耐性を顕著に逆転させることができ、MCF-7/ADR細胞のパクリタキセル、ドキソルビシンに対する耐性を顕著に逆転させることができ、化学療法薬に対する感受性を向上させる。
本発明の霊芝抽出物は、腫瘍の薬剤耐性を顕著に逆転させる作用を有し、複数種の腫瘍細胞の複数種の抗腫瘍薬に対する耐性を逆転させることができ、且つ他の霊芝成分よりも強い効果を示す。同等投与量で、本発明の霊芝抽出物の効果は、他の霊芝トリテルペン単量体および霊芝多糖などの霊芝成分よりもはるかに強く、本霊芝抽出物における特有の活性成分が相乗作用を有することを示唆している。
2. 霊芝抽出物のHepG-2/ADM細胞でのRh-123蓄積への影響
ローダミン123(Rh-123)は、糖タンパク質の特異的な蛍光プローブ基質であり、糖タンパク質の機能を測定するためのものである。
(1)Rh-123蓄積試験
1ウェル当たり1×105細胞になるように細胞を6ウェルプレートに接種し、一晩インキュベートした。細胞濃度が0.5mg/mLの試料溶液を37℃で48時間処理した後、10.0μM Rh-123染色液を用いて恒温、遮光で4時間培養した。上記のようにして、細胞を収集し、冷たいPBS溶液で3回洗浄した。最後に、細胞をPBS緩衝液中で懸濁させ、フローサイトメーターで細胞内のRh-123の蛍光強度を測定し、得られたデータをFlowJo7.6.1ソフトウェアで解析した。
(2)霊芝抽出物によるHepG-2/ADM細胞でのRh-123蓄積の増加
本研究において、試料のRh-123の蓄積は、P-糖タンパク質過剰発現のHepG-2/ADM細胞に影響を及ぼすことが検出された。細胞を500μg/mLの試料で4時間処理した後、フローサイトメトリーにより分析した。実験結果は、図3に示すように、P-タンパク質が発現しないヒト肝臓がん感受性細胞(Rh-123 accumulation in HepG-2)がヒト肝臓がん薬剤耐性細胞(Rh-123 accumulation in HepG-2/ADM)よりも高いレベルのRh-123を蓄積した。このことからわかるように、このヒト肝癌細胞株が大多数のP-タンパク質基質抗がん剤に対して非常に強い耐性を有する。フローサイトメトリー分析の対照群及び試料群のHepG-2/ADM細胞でのRh-123(10.0μM)の蓄積については、フローサイトメトリーにより細胞内の蛍光強度を測定することにより、細胞内のRh-123含有量を反映する。ここで、霊芝抽出物(Sample 6)の作用は最も強く、0.5mg/mL以下の霊芝抽出物は、多剤耐性細胞でのRh-123の蓄積を顕著に増加させることができる。この2つの結果は、いずれも霊芝抽出物がP-gp機能に対して抑制作用を有し、その作用が最も強いことを示している。
【0028】
実施例6 霊芝抽出物のHepG-2/ADM及びMCF-7/ADR異種移植腫瘍モデルに対するMDR逆転作用の試験
1.ヒト癌のヌードマウス異種移植腫瘍モデルの構築
P-gpにより仲介された多剤耐性の研究において、HepG-2/ADMおよびMCF-7/ADRは、研究に適した標的細胞である。本試験では、HepG-2/ADM及びMCF-7/ADRのヒト癌のヌードマウス異種移植腫瘍モデルが利用され、それが体内の多剤耐性の表現型を維持し、且つパクリタキセル及びビンクリスチンに対して耐性を有することを見出した。
実験全体で、抗腫瘍陽性薬はパクリタキセルおよびビンクリスチンであった。HepG-2/ADMおよびMCF-7/ADR細胞をそれぞれインビトロで培養、収集し、そして、ヌードマウスの片側にHepG2/ADMまたはMCF-7/ADR細胞(25%マトリゲルを含有する200μlリン酸塩緩衝液中の1×107個の細胞)を一回皮下注射した。腫瘍が見られる場合、腫瘍の長さおよび幅を測定して体積を計算した。腫瘍サイズが約100mm3になると、ヌードマウスを無作為に4つの群(5匹のヌードマウスを一群とする)に分け、そして、異なる治療方法で処理した。(a)control:生理食塩水(0.9%,i.p.,q2d×8)。(b)パクリタキセル(18mg/kg,i.p.,q2d×8)またはビンクリスチン(5mg/kg,i.p.,q1d×16)のみ。(c)試料(400mg/kg,i.g.,q1d×16)。(d)パクリタキセル(18mg/kg,i.p.,q2d×8)またはビンクリスチン(5mg/kg,i.p.,q2d×8)と試料(400mg/kg,i.p.,q1d×8)。マウスの体重、長さ及び幅を二日毎に記録し、以下の式に従って腫瘍の体積を算出した。

腫瘍の体積および処理時間に基づいて、腫瘍増殖曲線を描いた。対照群の腫瘍平均体積が1300mm3に達した直後(マウス個体差のため)、マウスをCO2窒息により安楽死させた。マウスから腫瘍組織を切除し、その重量を測定した。以下の式に従って増殖抑制率(IR)を算出した。
IR=1-(実験群の腫瘍の平均重量/対照群の腫瘍の平均重量)×100%
各群の試験の最後に、動物を安楽死させ、マウスの体重および腫瘍の重量を記録した。異種移植腫瘍組織を採取し、ウェスタンブロット分析のために、群毎に三つの腫瘍を液体窒素中で凍結させ、かつ、他の腫瘍を収集し、ホルマリン中で固着し、HE染色の研究を行った。
2. 霊芝抽出物の薬剤耐性癌細胞に対する全体的な抗癌効果
(1)ヌードマウスのHepG-2/ADM細胞異種移植モデルによる霊芝試料のインビボでのパクリタキセル耐性を逆転させる効果に対する評価
試料とパクリタキセルとの組み合わせにより、同様にマウスを処理し、HepG-2/ADM異種移植腫瘍モデルのMDR逆転効果を図4に示す。図4において、Aは、処理後の16日目で、各群のマウスから切除したHepG-2/ADM腫瘍の大きさの代表的な画像である。Bは、P-gp過剰発現のHepG-2/ADM移植腫瘍モデルにおける実験時間の経過に伴う腫瘍体積の変化を示しており、その処理過程は以下のとおりである。(a)control:生理食塩水(i.p.,q2d×8);(b)paclitaxel:パクリタキセルのみ(18mg/kg,i.p.,q2d×8);(c)Sample 6:霊芝抽出物のみ(400mg/kg,i.g.,q1d×16);(d)Sample 6+paclitaxel:パクリタキセル(18mg/kg,i.p.,q2d×8)及び霊芝抽出物(400mg/kg,i.g.,q1d×16)。折れ線グラフでの各点は、移植後の特定日の腫瘍体積(mm3)の平均値(n=5)を表し、且つ、各棒はSD/100を表す。対照群及びパクリタキセルのみの群に比べて、*は差異が顕著である(P<0.05)、**は差異が非常に顕著である(P<0.01)ことを表す。Cは、各群のマウスから切除したHepG-2/ADM腫瘍の腫瘍重量の平均値(マウス、n=5)を示しており、各列は測定値の平均値、棒はSDを表し、未処理の対照群と比べて、*は差異が顕著である(P<0.05)、**は差異が非常に顕著である(P<0.01)ことを表す。Dは、P-gp過剰発現のHepG-2/ADM移植腫瘍モデルでの実験時間の経過に伴う体重平均値の変化を示している。
図4から分かるように、生理食塩水群に比べて、投与量が18mg/kgであるパクリタキセルはマウスにおける腫瘍増殖をわずかに抑制することしかできず、該移植瘤がMDR表現型を保持してパクリタキセル治療に対して耐性を有することが示された。さらに、生理食塩水(陰性対照)、パクリタキセル(陽性対照)、霊芝抽出物で処理された動物間の腫瘍サイズに有意差は認められなかった。パクリタキセルのみで処理されたマウスは、腫瘍増殖抑制率が18.56%であり、霊芝抽出物とパクリタキセルとの組み合わせの群は、パクリタキセルのみの群及び霊芝抽出物のみの治療群に比べて、腫瘍増殖が顕著に抑制された。霊芝抽出物とパクリタキセルとの組み合わせの群は、腫瘍増殖抑制率が68.18%であり、パクリタキセルのみの群の18.56%よりも高い。この結果からわかるように、霊芝抽出物は、インビボでP-gpにより仲介されたMDRに対して顕著な逆転作用を有する。また、投与量試験では、霊芝抽出物とパクリタキセルとの組み合せの群に、死亡したり、体重が著しく減少したりすることが確認されなかった。このことから、組み合せ案で毒性・副作用の発生の増加がないことが分かった。
(2)ヒト癌のヌードマウスMCF-7/ADR細胞異種移植モデルによる霊芝試料のインビボでのビンクリスチン耐性を逆転させる効果に対する評価
ヒト癌のヌードマウスMCF-7/ADR細胞異種移植モデルにおいて、霊芝抽出物とビンクリスチンとの組み合わせの群の場合、腫瘍増殖抑制率は76.52%であり、ビンクリスチンのみの群の24.31%よりも高い。このことから、霊芝抽出物がヒト乳癌MCF-7/ADR細胞のビンクリスチンに対する耐性を逆転させることが分かった。
したがって、ヒト癌のヌードマウス異種移植モデルでは、霊芝抽出物が、糖タンパク質(P-gp)により仲介された腫瘍多剤耐性(MDR)を逆転させた。
【0029】
実施例7 霊芝抽出物のP-gpタンパク質レベルへの影響
1.Western blot 分析
腫瘍組織を溶解緩衝液(20mMTris-HCl pH 7.4、2mM EDTA、500mMバナジン酸ナトリウム、1% Triton X-100、0.1% SDS、10mM NaF、10mg/mLロイペプチン、および1mM PMSF)中に入れ、CoolBoxTM XTシステム(Sigma)で均質化させた。ブラッドフォード法を用いてタンパク質濃度を定量化した。4~12%SDS-PAGE法で40mgのタンパク質溶液を分離し、次にPVDF膜に移し、脱色シェーカー上で5%の脱脂粉乳で2時間振動密閉してから、ブロッキングバッファーを廃棄し、4℃の一次抗体(1:1000)中で一晩インキュベートし、PBSTで洗浄した後、1:2000の割合で二次抗体を加えて37℃で1時間インキュベートし、増強化学発光検出システム(Thermo Fisher社)で分析した。
2.霊芝抽出物によるP-gpのタンパク質レベルの変化がない
P-gpにより仲介されたMDRに対する逆転作用は、P-gpの機能を抑制する、またはその発現を低下させることによって達成することができる。本研究においては、各群の3つの腫瘍についてタンパク質発現レベルを分析した。P-gp発現レベルは、ウェスタンブロッティングにより分析された。GAPDHは、ローディングコントロールに使用された。ウェスタンブロット画像で3つの独立した実験の結果を示す。
霊芝抽出物の異なる群の異種移植腫瘍組織におけるP-gpタンパク質の発現レベルに対する影響の結果を図5に示す。ここで、Aは試料6(霊芝抽出物)を使用する場合及び試料6とパクリタキセルとを併用する場合のP-gp発現に対する効果を示しており、左側は3つの腫瘍サンプルの電気泳動図であり、右側は別の3つの腫瘍サンプルの電気泳動図であり、Bは試料6を使用する場合及び試料6とパクリタキセルとを併用する場合のP-gp発現に対する定量効果(左側の3つの腫瘍サンプルの電気泳動図に対する定量)を示しており、Cは試料6を使用する場合及び試料6とパクリタキセルとを併用する場合P-gp発現に対する定量効果(右側の3つの腫瘍サンプルの電気泳動図に対する定量)を示している。図5からわかるように、400mg/kgの霊芝抽出物は、移植腫瘍組織中のP-pg発現を大きく変化させることがない。さらに、この研究では、パクリタキセル治療群は、腫瘍組織中のP-pg発現をわずかに増加させることができた。このことから、MDRの逆転がそのmRNAまたはタンパク質レベルを低下させることではなく、P-gpの排出機能を直接抑制することにより実現される可能性が高いことは示唆されている。
【0030】
実施例8 腫瘍組織の病理学的検査-HE染色実験
異種移植組織を4%のポリホルムアルデヒドに固着して、標準作業でパラフィンに包埋し、回転式ミクロトームで5μmの切片を切除し、ヘマトキシリンとエオシンを用いて染色し、附属したデジタルカメラ(Leica ICC50)のLeica DM750顕微鏡でガラススライドを検査した。各群の代表的な病理組織切片図を図6に示す。ここで、controlは対照群、paclitaxelはパクリタキセル群、Sample6は霊芝抽出物群、Sample6+paclitaxelは霊芝抽出物及びパクリタキセル群である。
図6から明らかなように、霊芝抽出物とパクリタキセルとの協同作用で、移植腫瘍組織に面積の大きな細胞核の凝縮、腫瘍細胞細胞質の空胞化及び壊死した腫瘍細胞が認められ、同時にリンパ細胞及び形質細胞浸潤の腫瘍組織の充血があり、このことから、霊芝抽出物の作用で、HepG-2/ADM移植腫瘍のパクリタキセルに対する感受性が回復されたことを示唆している。
【0031】
実施例9.霊芝抽出物インビボ副作用の研究
1.血液化学分析
Drew Trilogy Analyzer(Diamond Diagnostics, Holliston, MA, USA)を使用して血漿中アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)レベルを測定した。
2.霊芝抽出物によるパクリタキセルのインビボ副作用の増強がない
肝毒性および心筋症は、パクリタキセルの2つの危険な副作用であり、うっ血性心不全および肝不全を引き起こす。霊芝抽出物のマウスのALT及びASTレベルへの影響の統計図を図7に示す。生理食塩水群に比べて、パクリタキセルは血液中のAST濃度を軽微に増加させることができる。パクリタキセルおよび霊芝抽出物を併用してヌードマウスを治療することは、これらの動物におけるALTまたはAST濃度を増加させることができない。このことから、組み合わせ案により、毒性・副作用の発生率を増加させることがないことを示している。
【0032】
以上のように、本発明の霊芝抽出物は、MDR腫瘍細胞に対して細胞毒性を有さず、多剤耐性腫瘍細胞におけるローダミンRh 123の蓄積を顕著に増加させることができ、その作用は、他の霊芝単量体成分よりも強い。インビトロ実験およびインビボ実験のいずれかにおいても、本発明の霊芝抽出物は複数種腫瘍のパクリタキセル、ビンクリスチンおよびドキソルビシンに対する多剤耐性を顕著に逆転し、パクリタキセル、ビンクリスチンおよびドキソルビシンの抗腫瘍作用を回復した。同等投与量で、本発明の霊芝抽出物の効力は、他の霊芝トリテルペン単量体および霊芝多糖よりもはるかに強く、本霊芝抽出物における特有の活性成分が相乗作用を有することを示唆している。本発明の霊芝抽出物の組み合わせ群における動物が死亡したり、体重が顕著に低下したりすることが無く、パクリタキセルのインビボ肝毒性の副作用を増加させることなく、実験動物の肝臓のALTまたはASTレベルを変化させることもない。このことから、霊芝抽出物は、肝毒性を増加させることなく、良好な安全性を有することを示唆している。本発明の霊芝抽出物は、腫瘍薬剤耐性タンパク質P-gpの発現を変化させることがなく、その薬剤耐性逆転機序は、そのmRNAあるいはタンパク質レベルを低下させることではなく、薬剤耐性タンパク質の排出機能を直接抑制することにより実現されると考えられる。本発明の霊芝抽出物は、効果増加及び減毒の有益な効果が得られる。
【0033】
なお、前述の実施例は、単に本発明の技術的手段を説明するためのものであり、本発明の保護範囲を限定することを意図するものではない。好ましい実施例を参照して本発明について詳細に説明したが、当業者は、本発明の技術的手段の要旨及び範囲を逸脱することなく、本発明の技術的手段に対して変更または等価置換を行うことができることが理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7