(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】コルベ電解カップリング反応によって第一級ジアミンを調製するための方法
(51)【国際特許分類】
C07C 209/68 20060101AFI20220427BHJP
C07C 211/09 20060101ALI20220427BHJP
C07C 227/22 20060101ALI20220427BHJP
C07C 229/08 20060101ALI20220427BHJP
C25B 3/29 20210101ALI20220427BHJP
【FI】
C07C209/68
C07C211/09
C07C227/22
C07C229/08
C25B3/29
(21)【出願番号】P 2020533181
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(86)【国際出願番号】 CN2017117626
(87)【国際公開番号】W WO2019119337
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】520036260
【氏名又は名称】パフォーマンス・ポリアミデス,エスアエス
(73)【特許権者】
【識別番号】508079739
【氏名又は名称】ローディア オペレーションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ウー, モンチア
(72)【発明者】
【氏名】ストレフ, ステファーヌ
(72)【発明者】
【氏名】マストロヤンニ, セルジョ
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】独国特許発明第00147943(DE,C2)
【文献】特開昭53-012806(JP,A)
【文献】特開平08-099942(JP,A)
【文献】特開平11-228586(JP,A)
【文献】特開2009-007316(JP,A)
【文献】国際公開第2016/146627(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106748806(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 209/00- 211/65
C25B 3/00- 3/29
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)のアミノ酸化合物から一般式(II)の第一級ジアミン
H
2N-T-COOX (I)
H
2N-T-T-NH
2 (II)
を、
- 溶媒と、
- 電解質と、
- 一般式(I)のアミノ酸化合物
を含む反応媒体中でのコルベ電解カップリング反応によって調製するための方法であって、
式中、
- Tが直鎖又は分岐C
1~C
10アルキレン基を表し、
- Xが
H又はアルカリ金
属を表し、
- 反応が、400mA/cm
2未満の電流密度下で行われる、方法。
【請求項2】
Tが直鎖又は分岐状C
1~C
6アルキレン基を表す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一級ジアミンが、1,10-デカンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,4-ブタンジアミン及び1,2-エチレンジアミンからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記アミノ酸化合物が、6-アミノヘキサン酸、5-アミノペンタン酸、4-アミノブタン酸、3-アミノプロパン酸及びアミノ酢酸からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記反応媒体中の前記アミノ酸化合物の濃度が0.05~2モル/Lである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、アセトニトリル、THF(テトラヒドロフラン)、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)、DMC(ジメチルカーボネート)、NM(ニトロメタン)、PC(プロピレンカーボネート)、EC(エチレンカーボネート)、トルエン、キシレン
、ヘキサン、ペンタン、へプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン及びイオン性液体からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒がメタノール又はエタノールである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記電解質が塩基性電解質である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記電解質がアルコキシドである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記電解質が、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド及びカリウムエトキシドからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記反応媒体が水を含有しないか又は実質的に含有しない、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記アミノ酸化合物の、前記電解質に対するモル比が2:1~1:5の範囲である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記コルベ電解カップリングが直流下で行われる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
電流密度が100~200mA/cm
2である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
反応時間が2~6時間である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
反応温度が20~50
oCである、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記コルベ電解カップリング反応の前に以下の工程:
(a)ラクタムを加水分解して化合物(I)を提供する工程と、
(b)工程(a)において得られた前記化合物(I)を任意選択により脱水する工程を更に含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
- 溶媒と、
- 電解質と、
- 前記一般式(I)のアミノ酸化合物及
び前記一般式(II)の第一級ジアミン
H
2N-T-COOX (I)
H
2N-T-T-NH
2 (II)
(式中、
- Tが直鎖又は分岐状C
1~C
10アルキレン基を表し、
- Xが
H又はアルカリ金
属を表す)を含む組成物。
【請求項19】
水を含有しないか又は実質的に含有しない、請求項
18に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一級ジアミンをアミノ酸化合物から調製するための方法に関する。具体的には、本発明は、コルベ電解カップリング反応によるアミノ酸及び/又はその塩からの第一級ジアミンの調製に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族アミンは工業的にかなり重要であり、化学、農業、及び製薬などの現代技術のほとんどあらゆる分野において用途がある。特に、脂肪族ジアミンは、有機合成における有益な中間体である。特定の脂肪族ジアミン、例えば、直鎖脂肪族ジアミンは、ポリアミド及びポリウレタン樹脂の合成におけるモノマー原材料として、及び製薬及び農業用化学薬品の原材料のための中間体として特に有用である。
【0003】
脂肪族モノアミンは、金属水素化触媒の存在下で一価アルコールをアンモニアと縮合させることによって調製され得ることが知られている。同様に、脂肪族ジアミンは、水素化触媒の存在下で二価アルコールをアンモニアと縮合させることによって調製され得る。このように、相当するジオールのアミノ化によってジアミンを製造することは、製造プロセスにおいて水素化触媒を使用するためにあまり望ましくない。上記の全てを考慮して、水素化触媒を使用せずに第一級ジアミンを製造する改良されたプロセスを開発することが本技術分野において依然として大いに必要とされている。
【0004】
コルベ電解カップリング反応は、最も古い且つ公知の電気有機反応の1つであり、ラジカルRをもたらす脱カルボキシル反応によるカルボキシレートイオンRCOO-の一電子酸化として定義される。これらのラジカルは二量化して、コルベ電解カップリング反応によってより大きい分子R-Rを形成することができる。反応全体は、スキーム1によって要約される:
【0005】
Weiper-Idelmann et al,Acta Chemica Scandinavica 52(1998)pp.672-682は、コルベ電解カップリング反応による長鎖炭化水素を有する脂肪酸の二量化を報告している。米国特許第7582777号明細書には、C12~C26脂肪酸のコルベ電解カップリングによって長鎖(C22-C50)多価不飽和炭化水素を製造するための方法が記載されている。
【0006】
又、Haufe,J.et al,Chemie Ingenieur Technik,1970,vol.42,no.4,p.170-175には、下記のスキーム2としてコルベ電解カップリング反応による脂肪酸誘導体の二量化が報告されている:
2X-(CH2)n-COOH→X-(CH2)2n-X+2CO2+H2
スキーム2
式中、X=CmH2m+1、CmH2m-1、-C6H5、-C5H4N、-CO-Oアルキル、-CO-NH2、-CO-アルキル、-CH(Oアルキル)2、-F、-Cl、-Br、-CN、-NH-CO-R、-NH-SO2-R、-OH、-OAlkyl、-O-CO-アルキル;n=l、2、3等である。しかしながら、XがNH2であるとき、第一級ジアミンを製造するアミノ脂肪酸のコルベ電解カップリングは、電解反応中に非保護アミノ基が酸化攻撃されるために達成され得ず、これは早くも1920年にFichter及びSchmidtの研究成果によって実証されている(Helv.Chim.Acta,(1920),vol.3,p.704)。又、Hans-Jiirgen Schfifer,“Recent Contributions of Kolbe Electrolysis to Organic Synthesis”,Topics in Current Chemistry,vol.152,p.92-143には、コルベ電解カップリング反応によってNH2-CH2COOHの原材料からNH2-CH2-CH2-NH2を製造することは成功していないと報告されている。
【0007】
上記の全てを考慮して、効率的且つ簡単な方法で第一級ジアミンを提供することができ、従って低コストの商業的な工業的方法として使用するのに適している、第一級ジアミン、特に1,10-デカンジアミンを調製するための改良された方法を提供することが依然として必要とされている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】液体クロマトグラフィースペクトロスコピーは、本発明の実施例1に従ってコルベ電解カップリング反応中に1,10-デカンジアミンが合成されることを実証する。
【0009】
定義
便宜上、本開示の更なる説明の前に、明細書、及び実施例において使用される特定の用語をここに記載する。これらの定義は、開示の他の部分を考慮して読まれ、且つ当業者によるように理解されるべきである。本明細書において使用される用語は、当業者に認識され公知である意味を有するが、しかしながら、便宜上及び完全性のために、特定の用語及びこれらの意味が以下に示される。
【0010】
冠詞「a」、「an」及び「the」は、冠詞の文法的対象の1つ又は2つ以上(即ち、少なくとも1つ)を指すために使用される。
【0011】
用語「及び/又は」は、「及び」、「又は」の意味並びにこの用語に関連する要素の他の可能な組み合わせを全て包含する。
【0012】
特許請求の範囲を含めた本明細書の全体を通して、用語「1つを含む」は、特に明記しない限り、用語「少なくとも1つを含む」と同じ意味であると理解されるべきであり、「~の間」は、その両端を含むと理解されるべきである。
【0013】
濃度の任意の範囲を明記する場合、任意の特定のより高い濃度が任意の特定のより低い濃度に関連付けられ得ることに留意すべきである。
【0014】
説明の継続において、特に明記しない限り、端の値は、与えられている値の範囲に含まれることが明記される。
【0015】
本明細書中で用いられるとき、用語「アミノ酸」は、それぞれのアミノ酸に固有の側鎖(R基)と共に、アミン(-NH2)及びカルボキシル(-COOH)官能基を含有する有機化合物である。
【0016】
本明細書中で用いられるとき、「アノード」は、それを通して規約電流が分極電気デバイス内に流れる電極である。
【0017】
本明細書中で用いられるとき、「カソード」は、そこから規約電流が分極電気デバイスを出る電極である。
【0018】
本明細書中で用いられるとき、用語「炭化水素基」は、炭素と水素結合とを含有する基を意味する。炭化水素基は直鎖、分岐状、又は環状であり得、酸素、窒素、硫黄、ハロゲン等のヘテロ原子を含有し得る。
【0019】
本明細書中で用いられるとき、用語「アルキル」は、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシルなど、直鎖、分岐状又は環状であり得る、飽和炭化水素基を意味する。
【0020】
本明細書中で用いられるとき、基又は基の一部として用語「アルケニル」は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含有し、且つ直鎖又は分岐状であり得る、脂肪族炭化水素基を意味する。基は直鎖に複数の二重結合を含有し得、それぞれの配向は独立にE又はZである。典型的なアルケニル基には、限定されないが、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル及びノネニルが含まれる。基は末端基又は架橋基であり得る。
【0021】
本明細書中で用いられるとき、用語「アリール」は、少なくとも1つの芳香環を含有する、架橋環及び/又は縮合環系などの一価芳香族炭化水素基を意味する。アリール基の例としては、フェニル、ナフチルなどが挙げられる。用語「アリールアルキル」又は用語「アラルキル」は、アリールで置換されたアルキルを意味する。用語「アリールアルコキシ」は、アリールで置換されたアルコキシを意味する。
【0022】
本明細書で使用される場合、用語「環状基」は、脂環式基、芳香族基、又は複素環基として分類される閉環炭化水素基を意味する。用語「脂環式基」は、脂肪族基の特性に似ている特性を有する環状炭化水素基を意味する。
【0023】
本明細書で使用される場合、本明細書で使用される用語「シクロアルキル」は、例えばシクロヘキシルなどの、3~8個の炭素原子を含むシクロアルキル基を意味する。
【0024】
「複素環基」は又、ベンゼン環と縮合した複素環基を意味してもよく、ここで、縮合環は、N、O及びSから選択される1つ又は2つのヘテロ原子と一緒に炭素原子を含む。
【0025】
本明細書中で用いられるとき、用語「ヘテロシクロアルカン」は、1つ以上の炭素原子をヘテロ原子で置き換えることによってシクロアルカンから形式上誘導される飽和へテロ環を意味する。
【0026】
本明細書で使用される場合、有機基に関する専門用語「(Cn~Cm)」(式中、n及びmはそれぞれ整数である)は、基が、1基当たりn個の炭素原子からm個の炭素原子までを含み得ることを示す。
【0027】
詳細な説明
本技術分野における上述の問題を克服する第一級ジアミンを調製するための改良された方法に関する絶え間ない研究によって、電流密度及び反応媒体中の水分の制御、並びに溶媒、電解質の適切な選択によってコルベ電解カップリング反応によって原材料としてアミノ酸化合物を使用することにより第一級ジアミンを有利に調製することができることを出願人は驚くべきことに見出した。本発明は、先行技術の方法のあらゆる欠点を克服することができる。
【0028】
本発明による反応装置は簡単であるので、工業化を達成する有望な方法である。又、反応媒体中の水素化触媒を避けることができる。更に、アミノ基を保護する工程は本発明の方法に必要ではない。
【0029】
本発明の目的は、一般式(I)のアミノ酸化合物[以下、化合物(I)]から一般式(II)の第一級ジアミン[以下、化合物(II)]
H2N-T-COOX (I)
H2N-T-T-NH2 (II)
を、
- 溶媒と、
- 電解質と、
- 一般式(I)のアミノ酸化合物を含む反応媒体中でのコルベ電解カップリング反応によって調製するための改良された方法を提供することであり、
式中、
Tが直鎖又は分岐状C1~C10アルキレン基を表し、
XがH+又はアルカリ金属カチオンを表し、
反応が、400mA/cm2未満の電流密度下で行われる。
【0030】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明によるコルベ電解カップリング反応は、一段階反応によって化合物(I)を化合物(II)により良く変換することができる。
【0031】
好ましい実施形態において、反応媒体は水を含まないか又は実質的に含まないことができる。
【0032】
本明細書中で用いられるとき、用語「実質的に含まない」は、若干量の水が反応媒体中に存在しているとき、この量が化合物(II)への化合物(I)の変換に有意に影響を与えないことを意味する(例えばp値カットオフがアルファ=0.05に任意に設定されたスチューデントのt検定を使用して、この量の水の存在下で得られた変換が、統計的な観点から、水の全く存在しない場合の変換とは有意に異なるかどうかを確認することができる)。したがって、いくつかの実施形態において、特に電解質がアルコキシドであるとき、反応媒体は、とりわけ反応の始めに、及び好ましくは反応中に反応媒体の全重量に基づいて有利には0.01重量%未満の水を含む。
【0033】
本明細書において使用される場合、本発明の媒体中の水の不存在に関連して使用される場合の用語「全く含まない」とは、反応が水を全く含まないことを意味する。
【0034】
好ましくは、Tは直鎖又は分岐状C1-C6アルキレン基を表し得るのが好ましい。
【0035】
好ましくは、Xはナトリウムカチオン又はカリウムカチオンを表し得るのが好ましい。
【0036】
本発明による好ましい化合物(II)は、1,10-デカンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,4-ブタンジアミン及び1,2-エチレンジアミンからなる群から選択され得る。より好ましい化合物(II)は1,10-デカンジアミンである。
【0037】
化合物(I)は、アミノ酸又はその相当するアルカリ金属塩であり得る。化合物(I)は又、アミノ酸とその相当するアルカリ金属塩との混合物であり得ることは理解されるはずである。
【0038】
好ましい化合物(I)は、6-アミノヘキサン酸、5-アミノペンタン酸、4-アミノブタン酸、3-アミノプロパン酸及びアミノ酢酸からなる群から選択され得る。より好ましい化合物(I)は6-アミノヘキサン酸である。
【0039】
本発明の好ましい反応は、以下の通りである:
- アミノ酢酸からの1,2-エチレンジアミンの調製;
- 3-アミノプロパン酸からの1,4-ブタンジアミンの調製;
- 4-アミノブタン酸からの1,6-ヘキサンジアミンの調製;
- 5-アミノペンタン酸からの1,8-オクタンジアミンの調製;
- 6-アミノヘキサン酸からの1,10-デカンジアミンの調製。
【0040】
化合物(I)はとりわけ、アルカリ性又は酸性条件下でのラクタムの加水分解から得られ得る。例えば、6-アミノヘキサン酸又は塩は、スキーム3及びスキーム4によって示されるアルカリ性又は酸性条件下でのカプロラクタムの加水分解から得られ得る。
【0041】
ラクタムの例は、置換又は非置換ε-ラクタム、置換又は非置換δ-ラクタム、置換又は非置換γ-ラクタム、置換又は非置換β-ラクタム、置換又は非置換α-ラクタムであり得、好ましくは非置換ε-ラクタム、非置換δ-ラクタム、非置換γ-ラクタム、非置換β-ラクタム又は非置換α-ラクタムからなる群から選択され得る。最も好ましいラクタムはε-ラクタム(カプロラクタム)である。
【0042】
このように、方法は、コルベ電解カップリング反応の前に以下の工程:
(a)ラクタムを加水分解して化合物(I)を提供する工程と、
(b)工程(a)において得られた化合物(I)を任意選択により脱水する工程を更に含み得る。
【0043】
反応媒体中の化合物(I)の濃度は0.05~2モル/L、好ましくは0.1~0.6モル/Lである。
【0044】
本発明のコルベ電解カップリング反応のための溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、アセトニトリル、THF(テトラヒドロフラン)、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)、DMC(ジメチルカーボネート)、NM(ニトロメタン)、PC(プロピレンカーボネート)、EC(エチレンカーボネート)、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ヘキサン、ペンタン、へプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン及びイオン性液体から選択され得る。前記イオン性液体は、テトラアルキルアンモニウムハロゲン化物、テトラアルキルアンモニウム過塩素酸塩、テトラアルキルアンモニウムテトラフルオロホウ酸塩などのアルキルアンモニウム塩であり得る。
【0045】
上記の溶媒は独立に又は混合物の形態で使用され得ることは理解されるはずである。
【0046】
溶媒は好ましくは、メタノール又はエタノールなどのアルコールである。
【0047】
電解質は、溶媒中に溶解されるのが容易であり且つ電気化学反応を妨げない化合物であることは当業者によって理解され得る。電解質として使用される無機化合物は、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であり得る。電解質として使用される有機化合物は、メトキシド及びエトキシド、又はイオン性液体、特に、テトラアルキルアンモニウムハロゲン化物、テトラアルキルアンモニウム過塩素酸塩、テトラアルキルアンモニウムテトラフルオロホウ酸塩などのアルキルアンモニウム塩であり得る。
【0048】
電解質として使用される無機化合物の例はとりわけ:
- 塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム及び臭化カリウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウムなどのハロゲン化物。
- 硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウムなどの硝酸塩。
- 過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸マグネシウムなどの過塩素酸塩である。
【0049】
電解質として使用される有機化合物の例はとりわけ:
- メトキシド及びエトキシド
- 臭化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラオクチルアンモニウム、塩化テトラオクチルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウムハロゲン化物である。
【0050】
好ましくは、電解質はとりわけ塩基性電解質であり得、より好ましくはナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド及びカリウムエトキシドからなる群から選択されるアルコキシドであり得る。
【0051】
好ましい実施形態において、反応媒体は、メタノール、ナトリウムメトキシド及び一般式(I)のアミノ酸化合物を含み得る。
【0052】
化合物(I)の、電解質に対するモル比は、2:1~1:5、好ましくは1:2~1:4の範囲であり得る。より好ましくは、範囲は、1:2.5、1:2.6、1:2.7、1:2.8、1:2.9、1:3.0、1:3.1、1:3.2、1:3.3、1:3.4、1:3.5に等しいか又はこれらの値の間で得られる任意の範囲であり得る。
【0053】
本発明によるコルベ電解カップリング反応は、400mA/cm2未満、好ましくは200mA/cm2未満及びより好ましくは100mA/cm2未満の電流密度下にある。同時に、本発明によるプロセスは好ましくは、少なくとも20mA/cm2、好ましくは少なくとも30mA/cm2及びより好ましくは少なくとも50mA/cm2の電流密度下で行われる。
【0054】
好ましい実施形態において、電流密度は100~200mA/cm2である。
【0055】
少なくとも1つのアノード及び1つのカソードを反応媒体中に浸漬することは当業者によって理解され得る。アノードとカソードとの間の電流密度及び電位は、ポテンショスタット/ガルバノスタットデバイス又は任意の直流(DC)電源装置によって制御され得る。
【0056】
アノード及びカソードは、貴金属、遷移金属、金属合金、及び炭素などの導電材料の中から選択される。具体的に、アノードは、白金、白金めっきチタン、イリジウム、金、パラジウム、二酸化鉛、ガラス状炭素又は炭素電極から選択され得る。アノードとして白金、白金めっきチタン及びガラス状炭素を使用することが好ましい。カソードは電流フローのための通路を提供し、このため良い導電率を有する材料が好ましい。このようなカソードは、白金、金、パラジウム、炭素のなかから選択され得る。
【0057】
飽和カロメル電極、Ag/AgCl電極、Agイオン電極、固体Pt電極などの従来の参照電極は、ポテンショスタット/ガルバノスタットデバイスが使用される時に本発明において任意選択により使用され得る。
【0058】
上記の電極は、当業者によって製造され得る、シート、プレート、箔、円柱、ベルト、ディスク、ネット、発泡体又は任意の他の形状など、異なった形状のバルク電極として直接に使用され得る。又、電極を多孔性又は階層性であるように製造して表面積を増加させることができる。
【0059】
アノードとカソードとの間の印加電位を制御して、第一級ジアミンの分解又は重合を避けることができる。前記電位は1~15Vの間、好ましくは12V以下である。
【0060】
コルベ反応はバッチ又は連続モードのどちらかで行われ得る。連続モードで行うとき、所望の電圧に保持されて電流フローを維持する、狭い間隙(<1mm)を有する一対の電極を通って反応混合物は連続的に流される。プロセスを拡大するために、一連の狭い間隙の電気化学反応器(セル)を並列又は直列のどちらかで積み重ねることができる。反応混合物を保有するリザーバを任意選択により所望の温度、20~50℃に加熱して溶解性を維持することができる。
【0061】
本発明による反応温度は、20~50℃、好ましくは室温である。電解体積が増加するとき、電解溶液の温度が上昇し、したがって電解槽を水槽中に浸漬することによって温度を維持することが好ましい。又、均一な温度を維持するために電解質溶液を撹拌することが好ましい。
【0062】
本発明によるコルベ電解カップリングの反応時間は、0.5~36時間、好ましくは1~10時間、より好ましくは2~6時間の間である。
【0063】
本発明によるコルベ電解カップリング反応は有利には、電解槽中の一切の反応性ガスの存在を避けるように注意しながら実施される。これらの反応性ガスは、とりわけ酸素、水及び二酸化炭素であり得る。O2及び水は、最も反応性があるものであり、それ故回避されるべきである。反応体、溶媒及び電解質は有利には無水であり得る。
【0064】
又、本発明は、
- 溶媒と、
- 電解質と、
- 一般式(I)のアミノ酸化合物及び/又は一般式(II)の第一級ジアミン
H2N-T-COOX (I)
H2N-T-T-NH2 (II)
とを含む組成物に関する。
【0065】
好ましくは、本組成物は、
- 溶媒と、
- 電解質と、
- 一般式(I)のアミノ酸化合物を含む。
【0066】
有利には、上記の組成物は水を含有しないか又は実質的に含有しないことができる。
【0067】
又、本発明は、この方法によって得られ得る第一級ジアミンに関する。
【0068】
以下の実施例は、本発明の実施形態を例示するために含められる。言うまでもなく、本発明は、記載される実施例に限定されない。
【0069】
実験の部
原材料
1,10-デカンジアミン(純度>97%)はJ&Kから入手され、6-アミノヘキサン酸(ACAと省略、99%)はJ&kから入手された
ナトリウムメトキシド(MeONaと省略、無水物、99%)はJ&Kから入手され、
メタノール、水和物、HPLC銘柄、(純度>99.9%)はMerckから入手された
H2SO4、(純度>95%)はSinopharmから入手された
NaOH、(純度>96%)はSinopharmから入手された
【0070】
実施例1
電解前に、電解溶液をArで脱気してO2及びCO2を除去し、O2と、反応中に形成されるラジカルとの反応を避けた。他方、この工程を使用して、CO2と水酸化物との反応を避け、メタノール溶液中の不溶性炭酸塩を形成することができる。全ての原材料は無水であるのがよい。
【0071】
100mlの容積を有する円筒形ガラス容器内で、1.97gの6-アミノヘキサン酸(15mmol)を100mlのメタノール内に溶解し、1.62gのナトリウムメトキシド(30mmol)を支持電解質として添加する。白金アノード(1*2cm2の白金箔)及び白金カソード(2*2cm2のPtネット)は、2つの電極間を10mmの距離にして提供され、定電流制御される電解が200mA/cm2で行われる。実験中、電位の上限は12Vに設定された。電解の際、多量の気泡が発生し、電解溶液温度の上昇が観察された。電解溶液をほぼ同じ温度に維持するために、電解槽を水槽中に浸漬し、電解温度を室温に維持することが好ましい。反応は、非水電解質を180rpmで連続的に撹拌しながら4時間室温で行われた。
【0072】
反応生成物は高性能液体クロマトグラフィーによって分析される。UPLC-MS(SQD2を有するWaters Acquity H-Class)を反応生成物の分析のために使用した。1,10-デカンジアミン及び6-アミノヘキサン酸をそれぞれ標準試料として、0.1~2ppm及び0.2~10ppmの範囲の濃度で、溶離剤(アセトニトリル:H2O=90:10)中に希釈した。
【0073】
2つの試料を高性能液体クロマトグラフィー分析のために調製した。試料1は、溶離剤としてアセトニトリル:H
2O=90:10を使用して、本発明の実施例1に従ってコルベ電解カップリング反応後に反応生成物を20倍希釈することによって得られ、次に0.22μmの有機フィルターで濾過されて沈殿物を除去した。試料2は、上記の1,10-デカンジアミン標準試料を添加して溶離剤としてアセトニトリル:H
2O=90:10を使用して、実施例1に従ってコルベ電解カップリング反応後に得られた反応生成物を40倍希釈することによって得られた。試料1及び2の液体クロマトグラフィースペクトロスコピーは
図1に示される。
【0074】
上記の2つの試料のLCスペクトロスコピーから見ることができるように、所望の生成物、すなわち1,10-デカンジアミンを表す、RT=2.71分におけるピーク位置は、試料1及び2において同じ位置を保っている。一方では試料2のRT=2.71分におけるピーク強度は、1,10-デカンジアミンを導入後に2倍になる。他方、RT=2.35分における副生成物ピークは、1,10-デカンジアミンを添加後に50%減少する。全てのこれらの結果は、1,10-デカンジアミンが本発明の実施例1によるコルベ電解カップリング反応中に合成されることを実証する。
【0075】
実施例2~実施例4
表2に示されるように異なった電流密度がコルベカップリング反応において使用されること以外、実施例2~4を実施例1と同じ方法で調製した。
【0076】
【0077】
この実施例において、全ての他の反応パラメーターを実施例1に記載されたのと同じに維持しながら、アノードとカソードとの間の電流密度の影響を調べた。反応生成物を実施例1に記載された通りの方法に従ってUPLC-MSによって分析した。反応変換率及び収率を表2に要約した。表2に示されるように、電流密度がより高くなると試薬6-アミノヘキサン酸の変換がより高くなり得るが、より多くの副生成物をもたらし得る。電流密度が低いと、1,10-デカンジアミンの選択率がより高くなり得る。しかし6-アミノヘキサン酸の変換率は低い。上記の実験結果に基づいて、好ましくは電流密度は100~200mA/cm2の間である。
【0078】
実施例5~6
低減された電極距離(10mmから4mmに低減)及び反応時間(4時間から2時間)以外、実施例5及び6を実施例1と同じ方法で調製した。300及び400mA/cm2の高めの電流密度を調べた。
【0079】
この実施例において、アノードとカソードとの間の電流密度の影響を実施例1~4と比べて低減された電極距離及び反応時間で調べた。反応生成物を実施例1に記載された通りの手順に従ってUPLC-MSによって分析した。反応変換率及び収率を表3に要約した。
【0080】
【0081】
実施例7~10
6-アミノヘキサン酸(ACA)及びナトリウムメトキシド(MeONa)について異なったモル濃度を使用すること以外、実施例7~10を実施例1と同じ方法で調製した。実施例によると、6-アミノヘキサン酸とナトリウムメトキシドとの間のモル比を1:1として一定に維持し、全ての他の反応パラメーターを実施例1と同じに維持して、試薬6-アミノヘキサン酸の濃度の影響を調べた。これらの実施例の反応生成物は、実施例1に記載されたのと同じ手順に従ってUPLC-MSによって分析した。反応変換率及び収率を表4に示されるように要約した。
【0082】
【0083】
実施例11
6-アミノヘキサン酸とナトリウムメトキシドとの間の他のモル比がコルベ電解カップリング反応において使用されること以外、実施例11を実施例1と同じ方法で調製した。実施例によると、全ての他の反応パラメーターを実施例1に記載されたのと同じに維持しながら、6-アミノヘキサン酸とナトリウムメトキシドとの間のモル比(1:1、1:2及び1:3)の影響を調べた。反応試料は、実施例1に記載されたのと同じ手順に従ってUPLC-MSによって分析した。又、相当する変換及び収率を表5に示した。表5から見ることができるように、ACAの、MeONaに対する最適化された比は1:3である。
【0084】