(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】低温靭性に優れた厚鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220427BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20220427BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/14
C21D8/02 B
(21)【出願番号】P 2020534887
(86)(22)【出願日】2018-12-14
(86)【国際出願番号】 KR2018015950
(87)【国際公開番号】W WO2019124890
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-08-11
(31)【優先権主張番号】10-2017-0178949
(32)【優先日】2017-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ウ‐ギョム
(72)【発明者】
【氏名】オム,ギョン‐グン
(72)【発明者】
【氏名】バン,キ‐ヒョン
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-148105(JP,A)
【文献】特開2013-245360(JP,A)
【文献】特開2013-204145(JP,A)
【文献】特開2007-321220(JP,A)
【文献】特開2012-229470(JP,A)
【文献】特開昭62-256916(JP,A)
【文献】特開昭62-174324(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0002956(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/00- 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.03~0.06%、Si:0.1~0.2%、Mn:1.0~2.0%、Al:0.01~0.035%、Nb:0.015~0.03%、Ti:0.001~0.02%、Ni:0.1~0.2%、N:0.002~0.006%、P:0.01%以下(0%は除く)、S:0.003%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、下記関係式1及び2を満たし、
微細組織は、面積分率で50~70%のポリゴナルフェライト及び30~50%のアシキュラーフェライトを含み、
セメンタイト及びMA相のうち1種又は2種を5%以下(0%を含む)さらに含み、
前記フェライトの平均結晶粒サイズは20μm以下であ
り、
厚鋼板の降伏強度は355MPa以上であり、
前記厚鋼板の-50℃における衝撃靭性は100J以上であることを特徴とする低温靭性に優れた厚鋼板。
[関係式1]
0.23≦[C]+[Si]+10*[Al]≦0.61
前記関係式1において、[C]、[Si]及び[Al]は各合金組成の含量(重量%)を意味する。
[関係式2]
1.35≦[Mn]+2*[Ni]+10*[Nb]≦2.7
前記関係式2において、[Mn]、[Ni]及び[Nb]は各合金組成の含量(重量%)を意味する。
【請求項2】
前記厚鋼板の引張強度は450MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の低温靭性に優れた厚鋼板。
【請求項3】
請求項1に記載の厚鋼板を製造するための方法であって、
重量%で、C:0.03~0.06%、Si:0.1~0.2%、Mn:1.0~2.0%、Al:0.01~0.035%、Nb:0.015~0.03%、Ti:0.001~0.02%、Ni:0.1~0.2%、N:0.002~0.006%、P:0.01%以下(0%は除く)、S:0.003%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、
下記関係式1及び2を満たす鋼スラブを1020~1100℃に加熱する段階と、
前記のように加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼材を得る段階と、
前記熱延鋼材を
1~8℃/secの冷却速度で450℃以下の冷却終了温度に冷却する段階と、を含み、且つ
前記熱間圧延は
900℃以上の温度で実施される再結晶域圧延及び
750℃以上で完了する未再結晶域圧延を含むことを特徴とする低温靭性に優れた厚鋼板の製造方法。
[関係式1]
0.23≦[C]+[Si]+10*[Al]≦0.61
前記関係式1において、[C]、[Si]及び[Al]は各合金組成の含量(重量%)を意味する。
[関係式2]
1.35≦[Mn]+2*[Ni]+10*[Nb]≦2.7
前記関係式2において、[Mn]、[Ni]及び[Nb]は各合金組成の含量(重量%)を意味する。
【請求項4】
前記再結晶域圧延は、900℃以上の温度で最後の2パスの圧下率をそれぞれ15~20%にして行われることを特徴とする請求項
3に記載の低温靭性に優れた厚鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記未再結晶域圧延の累積圧下率は30~40%であることを特徴とする請求項
3に記載の低温靭性に優れた厚鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記冷却終了温度は300℃以下であることを特徴とする請求項
3に記載の低温靭性に優れた厚鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記冷却の冷却速度は2~4℃/secであることを特徴とする請求項
3に記載の低温靭性に優れた厚鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温靭性に優れた厚鋼板及びその製造方法に係り、より詳しくは、海上風力モノパイル用鋼材及び建設などのインフラ産業用の構造用鋼材などに使用される高い強度及び優れた低温衝撃靭性を有する厚鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2000年代以降、環境問題及び温室効果ガスを低減するための新再生エネルギーに対する関心が高まっている。新再生エネルギーとは、新エネルギー(水素、燃料電池など)と再生エネルギー(太陽熱、風力、バイオマスなど)とを合わせて称する用語であって、その中でも風力発電は廃棄物が発生せず、公害のない環境にやさしい発電方式であることから、次世代エネルギー源として脚光を浴びている。
【0003】
風力発電のうち、陸上に設置される陸上風力発電は、騒音及び最適な風を形成する空間の制限などがあり、最近は海に建設する海上風力(offshore wind)発電が欧州を中心に急激な拡大を続けている。
このような海上風力発電は、陸上風力発電よりも遅れて実用化されたものの、騒音発生に対する懸念が少なく、強い風力及び広い面積を確保できるという様々な利点があり、技術水準が発展するにつれて、陸上風力発電に比べて海上風力発電の相対的優位性が次第に際立ってきている。
【0004】
このような海上風力発電の構造は、海底面に打ち込まれるモノパイル(monopile)部、モノパイルとタワー(tower)部を連結するトランジションピース(transition piece)部、電力を生産する設備を支えるタワー部に区分される。このうち、モノパイル及びトランジションピース部位は、海上風力発電機を支持する部分であって、極厚物、低温靭性の保証が可能な厚鋼板が使用される。より詳しくは、最大120mmの厚さで-50℃での衝撃靭性が確保されなければならず、降伏強度は350MPaを満たす鋼材が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】韓国公開特許第2017-0075867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的とするところは、高い強度及び優れた低温衝撃靭性を有する厚鋼板を提供することにある。
本発明のまた他の目的とするところは、高い強度及び優れた低温衝撃靭性を有する厚鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の低温靭性に優れた厚鋼板は、重量%で、C:0.03~0.06%、Si:0.1~0.2%、Mn:1.0~2.0%、Sol.Al:0.01~0.035%、Nb:0.015~0.03%、Ti:0.001~0.02%、Ni:0.1~0.2%、N:0.002~0.006%、P:0.01%以下(0%は除く)、S:0.003%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、下記関係式1及び2を満たし、微細組織は、面積分率で50~70%のポリゴナルフェライト及び30~50%のアシキュラーフェライトを含み、前記フェライトの平均結晶粒サイズは20μm以下であることを特徴とする。
【0008】
[関係式1]
0.23≦[C]+[Si]+10*[Al]≦0.61
前記関係式1において、[C]、[Si]及び[Al]は各合金組成の含量(重量%)を意味する。
[関係式2]
1.35≦[Mn]+2*[Ni]+10*[Nb]≦2.7
前記関係式2において、[Mn]、[Ni]及び[Nb]は各合金組成の含量(重量%)を意味する。
【0009】
前記微細組織は、セメンタイト及びMA相のうち1種又は2種をさらに含み、前記セメンタイト及びMA相のうち1種又は2種の分率は、面積分率で5%以下(0%を含む)であることがよい。
前記厚鋼板の降伏強度は355MPa以上であり、前記厚鋼板の-50℃における衝撃靭性は100J以上であることが好ましい。
前記厚鋼板の引張強度は450MPa以上であることがよい。
【0010】
本発明の低温靭性に優れた厚鋼板及びその製造方法は、重量%で、C:0.03~0.06%、Si:0.1~0.2%、Mn:1.0~2.0%、Sol.Al:0.01~0.035%、Nb:0.015~0.03%、Ti:0.001~0.02%、Ni:0.1~0.2%、N:0.002~0.006%、P:0.01%以下(0%は除く)、S:0.003%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、下記関係式1及び2を満たす鋼スラブを1020~1100℃に加熱する段階と、前記のように加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼材を得る段階と、前記熱延鋼材を450℃以下の冷却終了温度に冷却する段階と、を含み、且つ前記熱間圧延は再結晶域圧延及び未再結晶域圧延を含むことを特徴とする。
【0011】
[関係式1]
0.23≦[C]+[Si]+10*[Al]≦0.61
前記関係式1において、[C]、[Si]及び[Al]は各合金組成の含量(重量%)を意味する。
[関係式2]
1.35≦[Mn]+2*[Ni]+10*[Nb]≦2.7
前記関係式2において、[Mn]、[Ni]及び[Nb]は各合金組成の含量(重量%)を意味する。
【0012】
前記再結晶域圧延は、900℃以上の温度で最後の2パスの圧下率をそれぞれ15~20%にして行うことが好ましい。
前記未再結晶域圧延は750℃以上で完了することができる。
前記未再結晶域圧延の累積圧下率は30~40%であることがよい。
【0013】
前記冷却終了温度は300℃以下であることがよい。
前記冷却の冷却速度は1~8℃/secであることが好ましい。
前記冷却の冷却速度は2~4℃/secであることができる。
【0014】
前記課題の解決手段は、本発明の特徴を全て列挙したものではなく、本発明の様々な特徴及びそれによる利点と効果は、以下の具体的な実施例を参照することで、より詳細に理解することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、厚さが120mm水準であるにもかかわらず、優れた低温靭性特性及び350MPa以上の降伏強度を確保する厚鋼板及びその製造方法を提供することができる。
本発明によると、継続的な波と魚類、潮流、船舶などの衝撃による構造物の変形及び破壊に対する抵抗性を向上することで、海上風力電力産業分野に特に適した厚鋼板及びその製造方法を提供することができる。
本発明の鋼材を適用することで、海洋構造物の安定性確保及び寿命延長に効果的に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】発明例1の微細組織を観察した写真であって、光学顕微鏡を用いて200倍の倍率で撮影したものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、低温靭性に優れた厚鋼板及びその製造方法に関するものであって、以下では、本発明の好ましい実施例を説明する。本発明の実施例は、様々な形態に変形することができ、本発明の範囲が以下に説明される実施例に限定されるものと解釈されてはならない。本実施例は、当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に、本発明をより詳細に説明するために提供されるものである。
以下、本発明の鋼組成についてより詳細に説明する。以下、特に断らない限り、各元素の含量を示す%は重量を基準とする。
【0018】
本発明の一側面による低温靭性に優れた厚鋼板は、重量%で、C:0.03~0.06%、Si:0.1~0.2%、Mn:1.0~2.0%、Sol.Al:0.01~0.035%、Nb:0.015~0.03%、Ti:0.001~0.02%、Ni:0.1~0.2%、N:0.002~0.006%、P:0.01%以下(0%は除く)、S:0.003%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、下記関係式1及び2を満たす。
【0019】
[関係式1]
0.23≦[C]+[Si]+10*[Al]≦0.61
前記関係式1において、[C]、[Si]及び[Al]は各合金組成の含量(重量%)を意味する。
[関係式2]
1.35≦[Mn]+2*[Ni]+10*[Nb]≦2.7
前記関係式2において、[Mn]、[Ni]及び[Nb]は各合金組成の含量(重量%)を意味する。
【0020】
炭素(C):0.03~0.06%
炭素(C)は、固溶強化を引き起こし、ニオブ(Nb)などと結合して炭窒化物として存在し、引張強度を確保するために添加される元素である。本発明では、炭素(C)含量の下限を0.03%に制限する。但し、炭素(C)が過剰に添加される場合、MA相の形成を助長するだけでなく、パーライトが生成されて低温における衝撃特性を劣化させる虞があるため、本発明では、炭素(C)含量の上限を0.06%に制限する。したがって、本発明の炭素(C)含量は0.03~0.06%の範囲であることがよい。好ましい炭素(C)含量は0.032~0.06%の範囲であり、より好ましい炭素(C)含量は0.032~0.058%の範囲である。
【0021】
シリコン(Si):0.1~0.2%
シリコン(Si)は、アルミニウム(Al)を補助して溶鋼を脱酸する役割を果たし、降伏及び引張強度を確保するために必要な元素である。本発明では、シリコン(Si)含量の下限を0.1%に制限する。但し、シリコン(Si)が過剰に添加される場合、炭素(C)の拡散を妨げてMA相の形成を助長する。これにより低温における衝撃特性を確保しにくくなるため、本発明では、シリコン(Si)含量の上限を0.2%に制限する。したがって、本発明のシリコン(Si)含量は0.1~0.2%の範囲であることがよい。好ましいシリコン(Si)含量は0.1~0.18%の範囲であり、より好ましいシリコン(Si)含量は0.12~0.18%の範囲である。
【0022】
マンガン(Mn):1.0~2.0%
マンガン(Mn)は、固溶強化による強度の増加に寄与する元素であるため、本発明では、このような効果を達成するために、マンガン(Mn)含量の下限を1.0%に制限する。但し、マンガン(Mn)が過剰に添加される場合、MnS介在物の形成及び中心部の偏析による靭性低下が懸念されるため、本発明では、マンガン(Mn)含量の上限を2.0%に制限する。したがって、本発明のマンガン(Mn)含量は1.0~2.0%の範囲であることがよい。好ましいマンガン(Mn)含量は1.2~1.8%の範囲であり、より好ましいマンガン(Mn)含量は1.4~1.8%の範囲である。
【0023】
アルミニウム(Al):0.01~0.035%
本発明において、アルミニウム(Al)は、鋼の主要な脱酸剤として機能するため、溶解状態を基準として0.01%以上添加する必要がある。但し、アルミニウム(Al)が過剰に添加される場合、Al2O3介在物の分率、サイズの増加により低温靭性を低下させる原因となる虞があり、シリコン(Si)と同様に母材及び溶接熱影響部のMA相の生成を促進して、低温靭性を低下させる原因となり得るため、本発明では、アルミニウム(Al)の含量を溶解状態を基準として0.035%以下に制限する。したがって、本発明のアルミニウム(Al)含量は0.01~0.035%の範囲であることがよい。好ましいアルミニウム(Al)含量は0.02~0.035%の範囲であり、より好ましいアルミニウム(Al)含量は0.02~0.03%の範囲である。
【0024】
ニオブ(Nb):0.015~0.03%
ニオブ(Nb)は、固溶又は炭窒化物を析出することで、圧延又は冷却中の再結晶を抑制して組織を微細化し、強度を増加させる元素である。本発明では、このような効果を達成するためにニオブ(Nb)含量の下限を0.015%に制限する。但し、ニオブ(Nb)が過剰に添加される場合、炭素(C)との親和力による炭素(C)集中現象を誘発してMA相の生成を促進する。これにより低温における靭性及び破壊特性が低下する虞があるため、本発明では、ニオブ(Nb)含量の上限を0.03%に制限する。したがって、本発明のニオブ(Nb)含量は0.015~0.03%の範囲であることがよい。好ましいニオブ(Nb)含量は0.018~0.03%の範囲であり、より好ましいニオブ(Nb)含量は0.018~0.025%の範囲である。
【0025】
チタン(Ti):0.001~0.02%
チタン(Ti)は、酸素(O)又は窒素(N)と結合して析出物を形成し、これらの析出物は組織の粗大化を抑制して微細化に寄与し、靭性を向上させる役割を果たす。本発明では、このような効果を達成するためにチタン(Ti)含量の下限を0.001%に制限する。但し、チタン(Ti)が過剰に添加される場合、チタン(Ti)系析出物が粗大化することにより素材破壊の原因となる虞があるため、本発明では、チタン(Ti)含量の上限を0.02%に制限する。したがって、本発明のチタン(Ti)含量は0.001~0.02%の範囲であることがよい。好ましいチタン(Ti)含量は0.005~0.02%の範囲であり、より好ましいチタン(Ti)含量は0.005~0.015%の範囲である。
【0026】
ニッケル(Ni):0.1~0.2%
ニッケル(Ni)は、衝撃靭性を低下させずに強度を向上させるのに有効な元素である。また、ニッケル(Ni)は、アシキュラーフェライトの形成を促進させる元素でもある。本発明では、このような効果を達成するために、ニッケル(Ni)含量の下限を0.1%に制限する。但し、ニッケル(Ni)が過剰に添加される場合、Ar3温度を低下させてベイナイトを形成させる虞があるため、本発明では、ニッケル(Ni)含量の上限を0.2%に制限する。これは、ベイナイトが形成される場合、極厚物における衝撃靭性が低下するリスクがあるためである。したがって、本発明のニッケル(Ni)含量は0.1~0.2%の範囲であることがよい。好ましいニッケル(Ni)含量は0.11~0.2%の範囲であり、より好ましいニッケル(Ni)含量は0.11~0.19%の範囲である。
【0027】
窒素(N):0.002~0.006%
窒素(N)は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)などと反応し析出物を形成して、再加熱時にオーステナイト組織を微細化することにより、強度と靭性向上に寄与する元素である。本発明では、このような効果を達成するために窒素(N)含量の下限を0.002%に制限する。但し、窒素(N)が過剰に添加される場合、高温で表面クラックを誘発し、析出物を形成しても、なお残留するNは原子状態で存在して靭性を低下させるため、本発明では、窒素(N)含量の上限を0.006%に制限する。したがって、本発明の窒素(N)含量は0.002~0.006%の範囲であることがよい。好ましい窒素(N)含量は0.003~0.006%の範囲であり、より好ましい窒素(N)含量は0.003~0.005%の範囲である。
【0028】
リン(P):0.01%以下(0%は除く)
リン(P)は、粒界偏析により鋼を脆化させる元素であるため、本発明では、リン(P)含量の上限を0.01%に制限する。但し、リン(P)は、製鋼工程で流入する代表的な不純物元素であり、鋼中のリン(P)を完全に除去することは費用及び時間節約の面で好ましくない。したがって、本発明ではリン(P)含量の下限から0%を除くことができる。
【0029】
硫黄(S):0.003%以下(0%は除く)
硫黄(S)は、主にマンガン(Mn)と結合して低温靭性を阻害するMnS介在物を形成するため、本発明では、低温靭性及び低温疲労特性を確保するために、硫黄(S)含量の上限を0.003%に制限する。但し、硫黄(S)も製鋼工程で流入する代表的な不純物元素であり、鋼中の硫黄(S)を完全に除去することは費用及び時間節約の面で好ましくない。したがって、本発明では、硫黄(S)含量の下限から0%を除くことができる。
【0030】
銅(Cu)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)
銅(Cu)は、衝撃特性を大きく低下させない成分であるが、鋼の強度向上には大きく寄与しない成分である。また、銅(Cu)が過剰に添加される場合、熱衝撃による鋼板の表面クラックが発生する虞があり、本発明では、低コストの成分系のためにCuの添加を排除する。
【0031】
クロム(Cr)及びモリブデン(Mo)は、カーバイド形成により強度を容易に高めることができる成分である。但し、極厚物鋼材におけるクロム(Cr)及びモリブデン(Mo)は、板の冷却速度に応じて粗大なカーバイドを形成し、衝撃靭性を阻害する虞があるため、本発明では、クロム(Cr)及びモリブデン(Mo)の添加を排除する。
【0032】
[関係式1]
0.23≦[C]+[Si]+10*[Al]≦0.61
前記関係式1において、[C]、[Si]及び[Al]は各合金組成の含量(重量%)を意味する。
前記関係式1によって算出される値が0.23未満である場合、鋼材の降伏強度が350MPaに達しなくなり、前記関係式1によって算出される値が0.61を超える場合には、MA相の形成が促進されて数%のMA相分率を有するようになるため、衝撃特性が低下する虞がある。したがって、本発明では、関係式1によって算出される値が0.23~0.61の範囲を満たすように、炭素(C)、シリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の相対的な含量範囲を調整することが好ましい。
【0033】
[関係式2]
1.35≦[Mn]+2*[Ni]+10*[Nb]≦2.7
前記関係式2において、[Mn]、[Ni]及び[Nb]は各合金組成の含量(重量%)を意味する。
関係式2は、強度確保に有用なアシキュラーフェライトの分率確保に関連する。すなわち、本発明では、30~50面積%のアシキュラーフェライトを確保するために、関係式2によって算出される値が1.35~2.7の範囲を満たすように、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)及びニオブ(Nb)の相対的な含量範囲を調整する。
【0034】
本発明において、上記の鋼組成以外の残りはFe及び不可避不純物であることがよい。不可避不純物は、通常の鉄鋼製造工程で不本意に混入し得るものであって、これを完全に排除することはできない。通常の鉄鋼製造分野の技術者であれば、その意味を容易に理解できる。また、本発明は、前記の鋼組成以外の他の組成の添加を完全に排除するものではない。
【0035】
以下、本発明の微細組織についてより詳細に説明する。
本発明の一側面による低温靭性に優れた厚鋼板は、面積分率で50~70%のポリゴナルフェライト(PF)と、30~50%のアシキュラーフェライト(AF)を微細組織として含むことができる。
本発明の極厚物鋼材において、-50℃における中心部の衝撃靭性と-60℃における疲労特性を実現するためには、フェライトの粒度及び転位密度などが重要であり、MA相とセメンタイトを最小化することが重要である。微細なポリゴナルフェライトは衝撃靭性吸収エネルギーを向上させ、針状フェライトは強度を増加させるため、二つの微細組織の組み合わせは衝撃靭性及び強度の確保において重要な要素である。
【0036】
ポリゴナルフェライトの分率が50面積%未満である場合、針状アシキュラーフェライト及び軽い2次相の分率増加により-50℃における衝撃靭性の確保が難しくなり得る。また、ポリゴナルフェライトの分率が70面積%を超える場合、針状アシキュラーフェライトの分率低下により強度の確保が不十分になる虞がある。
一方、前記アシキュラーフェライトの分率が30面積%未満である場合、目的とする水準の強度を確保できないという問題が生じる虞がある。また、アシキュラーフェライトの分率が50面積%を超える場合、目的とする水準の低温靭性を確保できないという問題が生じる虞がある。
【0037】
セメンタイト及びMA相のうち1種又は2種の分率は、面積分率で、5%以下(0%を含む)であることがよい。セメンタイト及びMA相は低温衝撃靭性の確保に好ましくないため、本発明では、これらの形成を積極的に抑制する。好ましくは、セメンタイト及びMA相のうち1種又は2種の分率は、面積分率で、3%以下(0%を含む)であることがよく、さらに好ましくは、セメンタイト及びMA相のうち1種又は2種の分率は、面積分率で、1%以下(0%を含む)である。
また、前記フェライトの平均結晶粒サイズは20μm以下であることがよい。これは、フェライトの平均結晶粒サイズが20μmを超える場合、結晶粒の成長により強度及び低温靭性が共に低下する虞があるからである。
【0038】
本発明の一側面による低温靭性に優れた厚鋼板は20~120mmの厚さを有することが好ましい。また、本発明の一側面による低温靭性に優れた厚鋼板は、355MPa以上の降伏強度、及び-50℃で100J以上の衝撃靭性を有することがよく、450MPa以上の引張強度を有することがよい。
【0039】
以下、本発明の製造方法についてより詳細に説明する。
本発明の一側面による低温靭性に優れた厚鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.03~0.06%、Si:0.1~0.2%、Mn:1.0~2.0%、Sol.Al:0.01~0.035%、Nb:0.015~0.03%、Ti:0.001~0.02%、Ni:0.1~0.2%、N:0.002~0.006%、P:0.01%以下(0%は除く)、S:0.003%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、下記関係式1及び2を満たす鋼スラブを1020~1100℃に加熱する段階と、前記のように加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼材を得る段階と、前記熱延鋼材を450℃以下の冷却終了温度に冷却する段階と、を含み、且つ前記熱間圧延は再結晶域圧延及び未再結晶域圧延を含むことができる。
【0040】
[関係式1]
0.23≦[C]+[Si]+10*[Al]≦0.61
前記関係式1において、[C]、[Si]及び[Al]は各合金組成の含量(重量%)を意味する。
[関係式2]
1.35≦[Mn]+2*[Ni]+10*[Nb]≦2.7
前記関係式2において、[Mn]、[Ni]及び[Nb]は各合金組成の含量(重量%)を意味する。
【0041】
鋼スラブ加熱段階
前記のように組成される鋼スラブを1020~1100℃に加熱する。本発明のスラブ合金組成は、前記の厚鋼板の合金組成と対応するため、本発明のスラブ合金組成に関する説明は、前記の厚鋼板の合金組成に関する説明に代える。
スラブ加熱時の加熱温度が高すぎると、オーステナイトの結晶粒が粗大化して硬化能の増大によりベイナイト組織が発現するため、靭性を低下させる虞があり、加熱温度が低すぎると、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)などが十分に固溶されない場合が発生し、強度の低下をもたらす。したがって、本発明では、スラブ加熱温度を1020~1100℃の範囲に制限する。
【0042】
熱延鋼材を得る段階
前記のように加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼材を得る。熱間圧延は、再結晶域圧延及び未再結晶域圧延を含む。
再結晶域圧延は900~1050℃の温度で行うことが好ましい。熱間圧延時に再結晶域圧延は、900℃以上で最後の2パスの圧下率をそれぞれ15~20%にすることが好ましい。これは、オーステナイトの完全な再結晶化、オーステナイトの微細化及び成長抑制のためである。
未再結晶域圧延は830℃~Ar3温度で開始し、Ar3温度以上、約750℃以上で完了することが好ましい。未再結晶域圧延時に、例えば、厚さ100~120mmの厚物鋼材の場合、30~40%の累積圧下率を有することがよい。
熱間圧延後の熱延鋼材の厚さは20~120mmであることができる。
【0043】
熱延鋼材冷却段階
前記のように、熱間圧延によって得られた熱延鋼材を450℃以下の冷却終了温度に冷却する。
最終鋼材の強度及び微細組織を実現するために、熱延鋼材の冷却は水冷によって施されることが好ましい。例えば、熱延鋼材を1~8℃/secの冷却速度で450℃以下の冷却終了温度に冷却することができる。これは、表面と中心部の冷却速度の差により物性の差が現れることを抑制するためであり、冷却終了温度が450℃より高い場合、MA相の形成が促進されて衝撃靭性の劣位をもたらす。より好ましい冷却終了温度は300℃以下であり、より好ましい冷却速度は2~4℃/secである。熱延鋼材は常温まで冷却することができる。
【0044】
本発明の一側面による製造方法により製造された厚鋼板は、微細組織として、50~70面積%のポリゴナルフェライトと、30~50面積%のアシキュラーフェライトを含むことができ、5面積%以下(0%を含む)のセメンタイト及びMA相のうち1種又は2種をさらに含むことができる。このとき、フェライトの平均結晶粒サイズは20μm以下であることがよい。
本発明の一側面による製造方法により製造された厚鋼板は、355MPa以上の降伏強度及び-50℃で100J以上の衝撃靭性を有することができ、450MPa以上の引張強度を有することができる。
【0045】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。但し、後述する実施例は、本発明を例示してより具体化するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。
下記表1の成分組成をもって表3の成分関係式を有する溶鋼を準備した後、連続鋳造を用いてスラブを製造した。前記スラブを下記表2の製造条件で熱間圧延及び冷却して熱延鋼材を製造した。
【0046】
下記表1において、各元素含量の単位は重量%である。発明鋼A~Cは本発明で規定する成分範囲を満たす鋼材であり、比較鋼D~Gは本発明で規定する成分範囲を満たさない鋼材である。比較鋼Dは[C]+[Si]+10*[Al]の値がその含量を満たさず、比較鋼Eは[C]+[Si]+10*[Al]の値がその含量を超え、比較鋼Fは[Mn]+2*[Ni]+10*[Nb]の値がその含量を満たさず、比較鋼Gは[Mn]+2*[Ni]+10*[Nb]の値がその含量を超えた鋼材である。
工程条件のうち900℃以上の再結晶域圧延における最後の2パスの圧下率には19%を適用し、未再結晶域圧延の累積圧下率には37%を適用し、熱間圧延を施した。前記のように製造された熱延鋼材に対して微細組織及び機械的物性を測定し、その結果を下記表3に示した。一方、発明例1に対して微細組織を観察し、その結果を
図1に示した。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
表1乃至3に示したとおり、本発明で提示した合金組成及び製造条件を全て満たす発明例1乃至3は、降伏強度350MPa、引張強度450MPa以上を確保することができ、-50℃における衝撃靭性が100J以上であることが分かる。また、
図1に示したとおり、発明例1の場合、平均結晶粒サイズが20μm(マイクロメーター)以下であり、ポリゴナルフェライトと針状アシキュラーフェライトが適正な割合で均一に分布していることが確認できる。このことから、本発明で解決しようとした極厚物材の強度及び靭性確保においてこの微細構造が重要な要素であることが分かる。
【0051】
一方、比較例1の場合、本発明で提示した合金組成は満たしているものの、製造条件の中で冷却終了温度を満たしておらず、-50℃における衝撃特性に劣っていることが分かる。これはMA相の多量生成によるものと判断される。
比較例2、3、4、及び5の場合、本発明で提示した製造条件は満たしているが、合金組成を満たしておらず、強度又は衝撃靭性特性が十分に確保されていないことが分かる。
【0052】
具体的に比較例2の場合には、[C]+[Si]+10*[Al]の値が含量範囲に達しておらず、針状フェライト分率の減少をもたらし、強度の低下を示す結果となった。比較例3の場合には、[C]+[Si]+10*[Al]の値が規定の範囲を超えることにより、MA相の形成が促進されてMA相分率が上昇するため、衝撃靭性に劣っていることが分かる。比較例4及び5の場合には、[Mn]+2*[Ni]+10*[Nb]の値が規定範囲に達していないか、又は超えた場合であって、規定範囲に達していない場合には、強度の低下を示しており、超えた場合は、針状フェライトの増加により衝撃靭性が低下していることが分かる。
【0053】
以上、実施例を参照して説明したが、当該技術分野における熟練した当業者であれば、下記の特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び領域から逸脱しない範囲内で、本発明を多様に修正及び変更できることを理解すべきである。