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特許7064615AC-DCコンバータ、DC-DCコンバータおよびAC-ACコンバータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】AC-DCコンバータ、DC-DCコンバータおよびAC-ACコンバータ
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/12 20060101AFI20220427BHJP
   H02M 3/155 20060101ALI20220427BHJP
   H02M 5/293 20060101ALI20220427BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220427BHJP
【FI】
H02M7/12 A
H02M3/155 H
H02M5/293 Z
H02M7/48 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020550562
(86)(22)【出願日】2019-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2019040434
(87)【国際公開番号】W WO2020075867
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2020-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2018193799
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018204658
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019070746
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】大野 泰生
(72)【発明者】
【氏名】ハイダー ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ボルティス ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】コラー ヨハン ベー
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-023697(JP,A)
【文献】特開2009-095160(JP,A)
【文献】国際公開第2010/010710(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
H02M 3/155
H02M 5/293
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AC電圧を整流して整流電圧を生成する整流回路と、
前記整流電圧を降圧する降圧回路と、
インダクタと、
第1ダイオードおよび第1スイッチを含んで構成される前段側ハーフブリッジと第2ダイオードおよび第2スイッチを含んで構成される後段側ハーフブリッジとを間にコンデンサを挟んで組み合わせた非対称のフルブリッジ回路を備え前記整流電圧からDC電圧を生成するバッファ回路と、
前記バッファ回路の電圧を昇圧する昇圧回路と
を備え
制御部と、
を備え
前記制御部は、
昇圧動作時に、前記第1スイッチを常時OFFとし、前記第2スイッチを高周波数で動作させ、
降圧動作時に、前記第1スイッチを常時ONとし、前記第2スイッチを高周波数で動作させるように前記バッファ回路を制御することを特徴とするAC-DCコンバータ。
AC-DCコンバータ。
【請求項2】
前記第1スイッチおよび前記第2スイッチは、WBG半導体である請求項1に記載のAC-DCコンバータ。
【請求項3】
並列に接続された複数の前段側ハーフブリッジと、並列に接続された複数の後段側ハーフブリッジとを備える請求項1に記載のAC-DCコンバータ。
【請求項4】
AC電圧を整流して整流電圧を生成する整流回路と、
前記整流電圧を降圧する降圧回路と、
インダクタと、
第1スイッチおよび第3スイッチを含んで構成される前段側ハーフブリッジと第2スイッチおよび第4スイッチを含んで構成される後段側ハーフブリッジとを間にコンデンサを挟んで組み合わせた非対称のフルブリッジ回路を備え前記整流電圧からDC電圧を生成するバッファ回路と、
前記バッファ回路の電圧を昇圧する昇圧回路と
制御部と、
を備え
前記制御部は、
昇圧動作時に、前記第1スイッチを常時OFFとし、前記第2スイッチを高周波数で動作させ、
降圧動作時に、前記第1スイッチを常時ONとし、前記第2スイッチを高周波数で動作させるように前記バッファ回路を制御することを特徴とするAC-DCコンバータ。
【請求項5】
第1のDC電圧を降圧する降圧回路と、
インダクタと、
第1ダイオードおよび第1スイッチを含んで構成される前段側ハーフブリッジと第2ダイオードおよび第2スイッチを含んで構成される後段側ハーフブリッジとを間にコンデンサを挟んで組み合わせた非対称のフルブリッジ回路を備え前記第1のDC電圧から第2のDC電圧を生成するバッファ回路と、
前記バッファ回路の電圧を昇圧する昇圧回路と
制御部と、
を備え
前記制御部は、
昇圧動作時に、前記第1スイッチを常時OFFとし、前記第2スイッチを高周波数で動作させ、
降圧動作時に、前記第1スイッチを常時ONとし、前記第2スイッチを高周波数で動作させるように前記バッファ回路を制御することを特徴とするDC-DCコンバータ。
【請求項6】
第1のAC電圧を整流して整流電圧を生成する整流回路と、
前記整流電圧を降圧する降圧回路と、
インダクタと、
第1ダイオードおよび第1スイッチを含んで構成される前段側ハーフブリッジと第2ダイオードおよび第2スイッチを含んで構成される後段側ハーフブリッジとを間にコンデンサを挟んで組み合わせた非対称のフルブリッジ回路を備え前記第1のAC電圧からDC電圧を生成するバッファ回路と、
前記バッファ回路の電圧を昇圧する昇圧回路と、
前記DC電圧を第2のAC電圧に変換するインバータと
制御部と、
を備え
前記制御部は、
昇圧動作時に、前記第1スイッチを常時OFFとし、前記第2スイッチを高周波数で動作させ、
降圧動作時に、前記第1スイッチを常時ONとし、前記第2スイッチを高周波数で動作させるように前記バッファ回路を制御することを特徴とするAC-ACコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力を変換するAC-DCコンバータ、DC-DCコンバータおよびAC-ACコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
単相AC電源からの電力をDC電力に変換するAC-DCコンバータとして、整流回路と、平滑コンデンサとを備えるものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-067199
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
家電機器や産業機器では、通常単相AC電源からの電力をAC-DCコンバータでDC電力に変換し、これをインバータで三相AC電力に変換することでモータ制御を行う。このようなAC-DCコンバータは、通常AC電源からの電力をDC電力に変換する整流回路を含んで構成される。しかしながら、単相AC-DC電力変換を行うと、必然的に入力電力と出力電力との間に差が生じるため、電力に脈動が発生する。この脈動を吸収し補償するためにはバッファが必要である。従来このバッファは、大容量のDCリンクキャパシタで構成されることが一般的であった。この場合、DCリンクキャパシタに要求される静電容量は非常に大きいものとなる。例えば動作周波数がkW、電源電圧が100Vの場合、DCリンクキャパシタ容量はmFのオーダとなる。これを実現するためには、大容量の電解コンデンサを用いる必要がある。しかしながら電解コンデンサはサイズが大きく寿命が短いため、サイズ、コストおよび装置寿命などの点で大きなデメリットとなる。従って、DCリンクキャパシタに電解コンデンサが不要なAC-DCコンバータが求められる。
【0005】
本発明は、こうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、小容量DCリンクキャパシタの電解コンデンサレスAC-DCコンバータを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のAC-DCコンバータは、AC電圧を整流して整流電圧を生成する整流回路と、整流電圧を降圧する降圧回路と、インダクタと、第1ダイオードおよび第1スイッチを含んで構成される前段側ハーフブリッジと第2ダイオードおよび第2スイッチを含んで構成される後段側ハーフブリッジとを間にコンデンサを挟んで組み合わせた非対称のフルブリッジ回路を備え整流電圧からDC電圧を生成するバッファ回路と、バッファ回路の電圧を昇圧する昇圧回路とを備える。
【0007】
本発明の別の態様もまた、AC-DCコンバータである。このAC-DCコンバータは、AC電圧を整流して整流電圧を生成する整流回路と、整流電圧を降圧する降圧回路と、インダクタと、第1スイッチおよび第3スイッチを含んで構成される前段側ハーフブリッジと第2スイッチおよび第4スイッチを含んで構成される後段側ハーフブリッジとを間にコンデンサを挟んで組み合わせた非対称のフルブリッジ回路を備え整流電圧からDC電圧を生成するバッファ回路と、バッファ回路の電圧を昇圧する昇圧回路とを備える。
【0008】
本発明のさらに別の態様は、DC-DCコンバータである。このDC-DCコンバータは、第1のDC電圧を降圧する降圧回路と、インダクタと、第1ダイオードおよび第1スイッチを含んで構成される前段側ハーフブリッジと第2ダイオードおよび第2スイッチを含んで構成される後段側ハーフブリッジとを間にコンデンサを挟んで組み合わせた非対称のフルブリッジ回路を備え第1のDC電圧から第2のDC電圧を生成するバッファ回路と、バッファ回路の電圧を昇圧する昇圧回路とを備える。
【0009】
本発明のさらに別の態様は、AC-ACコンバータである。このAC-ACコンバータは、第1のAC電圧を整流して整流電圧を生成する整流回路と、整流電圧を降圧する降圧回路と、インダクタと、第1ダイオードおよび第1スイッチを含んで構成される前段側ハーフブリッジと第2ダイオードおよび第2スイッチを含んで構成される後段側ハーフブリッジとを間にコンデンサを挟んで組み合わせた非対称のフルブリッジ回路を備え第1のAC電圧からDC電圧を生成するバッファ回路と、バッファ回路の電圧を昇圧する昇圧回路と、DC電圧を第2のAC電圧に変換するインバータとを備える。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、プログラム、プログラムを記録した一時的なまたは一時的でない記憶媒体、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、小容量DCリンクキャパシタの電解コンデンサレスAC-DCコンバータを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係るAC-DCコンバータを示す機能ブロック図である。
図2】比較例に係るAC-DCコンバータを示す機能ブロック図である。
図3図2のAC-DCコンバータの電圧、電流および電力の時間変化を示す図である。(a)は入力電圧、入力電流および入力電力の時間変化を示す。(b)はDCリンク電圧、DCリンクキャパシタ電流およびDCリンクキャパシタ電力の時間変化を示す。
図4図2のAC-DCコンバータの昇圧動作を示す図である。
図5図4の昇圧動作時における入力電圧、整流電圧、DCリンク電圧、入力電流、インダクタ電流、平均降圧回路スイッチ電流、平均昇圧回路スイッチ電流、デューティサイクル、出力電力およびDCリンクキャパシタ電力の時間変化を示す図である。
図6図2のAC-DCコンバータの降圧動作を示す図である。
図7図6の降圧動作時における入力電圧、整流電圧、DCリンク電圧、入力電流、インダクタ電流、平均降圧回路スイッチ電流、平均昇圧回路スイッチ電流、デューティサイクル、出力電力およびDCリンクキャパシタ電力の時間変化を示す図である。
図8図1のAC-DCコンバータのバッファ回路の電流制御を示す図である。図(a)は第1の電流制御を示す。図(b)は第2の電流制御を示す。図(c)は第3の電流制御を示す。図(d)は第4の電流制御を示す。
図9図1のAC-DCコンバータの昇圧動作を示す図である。
図10図9の昇圧動作時における入力電圧、整流電圧、DCリンク電圧、入力電流、インダクタ電流、平均降圧回路スイッチ電流、平均昇圧回路スイッチ電流およびデューティサイクルの時間変化を示す図である。
図11図1のAC-DCコンバータの降圧動作を示す図である。
図12図11の降圧動作時における入力電圧、整流電圧、DCリンク電圧、入力電流、インダクタ電流、平均降圧回路スイッチ電流、平均昇圧回路スイッチ電流およびデューティサイクルの時間変化を示す図である。
図13図1のAC-DCコンバータのバッファキャパシタ電力、DCリンクキャパシタ電力、バッファキャパシタ電圧、平均バッファ電圧、バッファデューティサイクル、第1バッファデューティサイクルおよび第2バッファデューティサイクルの時間変化を示す図である。
図14図1のAC-DCコンバータの制御部を示す機能ブロック図である。
図15】実施の形態に係るAC-DCコンバータのバッファ回路を示す模式図である。
図16】実施の形態に係るAC-DCコンバータの別のバッファ回路を示す模式図である。
図17】実施の形態に係るAC-DCコンバータの別のバッファ回路を示す模式図である。
図18】実施の形態に係るDC-DCコンバータを示す機能ブロック図である。
図19】実施の形態に係るAC-ACコンバータを示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の実施の形態では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また説明の便宜のため、各図面では構成要素の一部を適宜省略する。特に断りのない限り、数値Aに関し、<A>はAの平均値、AはAの目標値を示す。本明細書では、電源側から出力側に向かう電流または信号の流れに沿って、上流側を「前段」または「入力」と、下流側を「後段」または「出力」と表記することがある。
【0014】
[第1実施の形態]
図1は、第1実施の形態に係るAC-DCコンバータ100の機能ブロック図である。AC-DCコンバータ100は、単相AC電源2の電源電力を出力DC電力に変換するコンバータとして機能する。出力DC電力は、直接、またはインバータにより三相AC電力に変換され、例えばポンプ、コンプレッサ、船や飛行機の電動アクチュエータ、ロボットアームなど多様な装置を駆動するために使用される。AC-DCコンバータ100は、整流回路10と、降圧回路20と、インダクタ30と、バッファ回路40と、昇圧回路50と、制御部90とを備える。
【0015】
単相AC電源2は、例えば商用電源や発電機であってよい。単相AC電源2は、AC-DCコンバータ100の整流回路10に、入力電圧v、入力電流iを出力する。
【0016】
整流回路10は、PFC(Power Factor Correction)機能を備えた整流回路であり、公知技術を用いて実現されてよい。整流回路10は、単相AC電源2から入力された入力電圧vを全波整流して整流電圧v(整流電流i)を生成する。その後整流回路10は、PFC機能を用いて電流波形から高周波を除去する。整流回路10は、整流電圧v、整流電流iを降圧回路20に出力する。
【0017】
降圧回路20は、整流回路10の後段に配置され、コンデンサCと、スイッチTと、ダイオードDとを備える。降圧回路20は、制御部90によりスイッチTが制御されることにより、整流電圧vを降圧回路電圧vに降圧する。降圧回路20は、インダクタ電流iをインダクタ30に出力する。降圧回路20の降圧動作の詳細は後で述べる。
【0018】
インダクタ30は、降圧回路20の後段に配置される回路素子であり、公知技術を用いて実現されてよい。インダクタ30は、インダクタ電流iに起因する磁気エネルギーを蓄積または開放する。
【0019】
バッファ回路40は、インダクタ30の後段に配置される。バッファ回路40は、ダイオードDC1およびスイッチTC1を含んで構成される前段側ハーフブリッジと、ダイオードDC2およびスイッチTC2を含んで構成される後段側ハーフブリッジとを、間にコンデンサCを挟んで組み合わせた、非対称のフルブリッジ回路を備える。バッファ回路40は、AC-DCコンバータ100内で直列に接続され、入力電力の脈動を能動的に補償する。このことからバッファ回路40を「シリーズアクティブバッファ」、「Siries Power Pulsation Buffer」または「SPPB」と呼ぶことがある。ダイオードDC1およびDC2は公知技術を用いて実現されてよい。スイッチTC1、TC2は要求されるスイッチング速度に応じて、MOS-FET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)で実現されてもよいし、より高速のGaN(窒化ガリウム)、SiC(シリコンカーバイド)などのWBG(Wide Band Gap)半導体で実現されてもよい。コンデンサCは、例えばフィルムコンデンサやセラミックコンデンサなどにより構成された小容量のコンデンサであり、大容量の電解コンデンサである必要はない。
【0020】
昇圧回路50は、バッファ回路40の後段に配置され、DCリンクキャパシタCPNと、スイッチTと、ダイオードDとを備える。昇圧回路50は、制御部90によりスイッチTが制御されることにより、バッファキャパシタ電圧vを昇圧回路電圧vに昇圧する。DCリンクキャパシタCPNは、例えばフィルムコンデンサやセラミックコンデンサなどにより構成された小容量のコンデンサであり、大容量の電解コンデンサである必要はない。DCリンクキャパシタCPNは、昇圧回路電圧vからスイッチングなどに伴うノイズを除去し、平滑なDCリンク電圧vPNを生成する。昇圧回路50は、生成したDCリンク電圧vPN、すなわち出力電圧vPNを外部に出力する。昇圧回路50の昇圧動作の詳細は後で述べる。
【0021】
制御部90は、バッファ電圧制御部92と、DCリンク電圧制御部94と、インダクタ電圧制御部96と、PWMユニット98とを備える。制御部90は、降圧回路20、バッファ回路40および昇圧回路50を制御して、整流電圧、バッファ電圧およびDCリンク電圧を調整する。制御部90の制御の詳細は後で述べる。
【0022】
[比較例の電圧制御]
実施の形態に係るAC-DCコンバータの電圧制御を説明する前に、比較例に係るAC-DCコンバータの電圧制御を説明する。図2は、比較例に係るAC-DCコンバータ200の機能ブロック図である。図1のAC-DCコンバータ100との相違点は、バッファ回路40を備えない点と、DCリンクキャパシタCPNが大容量の電解コンデンサで構成される点である。AC-DCコンバータ200では、DCリンクキャパシタCPNが入力電力の脈動を補償するとともに、エネルギーバッファとして機能する。これに対し、AC-DCコンバータ100のバッファ回路40は、入力電力の脈動を補償するだけであり、エネルギーバッファとしては機能しない。AC-DCコンバータ200の制御部91は、降圧回路20および昇圧回路50を制御して、整流電圧およびDCリンク電圧を調整する。AC-DCコンバータ200のその他の構成は、AC-DCコンバータ100の構成と共通である。
【0023】
図3(a)に、AC-DCコンバータ200の入力電圧v、入力電流iおよび入力電力pの時間変化を示す。図3(b)に、AC-DCコンバータ200のDCリンク電圧vPN、DCリンクキャパシタ電流iPNおよびDCリンクキャパシタ電力pPNの時間変化を示す。
【0024】
本明細書では、入力電圧(単相AC電源2によって供給されるAC電圧)vは、振幅V、周波数fの正弦波であるとし、以下のように表す。
=V・sin(2πft)
力率=1の条件を満足するために、入力電流iは、入力電圧vと同じ周波数かつ同じ位相を持つ正弦波となるように制御される。すなわち入力電流iは、振幅をIとおくと、以下のように表される。
=I・sin(2πft)
従って、整流回路10に入力される入力電力pは、以下のようになる。
=v・i=V・sin(2πft)・I・sin(2πft)=P・(1-cos(2π・2ft))
ただしP=V・I/2とおいた。このように入力電力pは、入力電圧vの周波数fの2倍の周波数2fで脈動する。
【0025】
以下に述べるように、DCリンクキャパシタCPNはこの入力電圧vの脈動をバッファすることにより補償する。DCリンクキャパシタCPNは、内部に静電エネルギーEを蓄積する。
=1/2・CPN・vPN
ただしDCリンクキャパシタCPNの容量をCPNとおいた。これにより、DCリンクにコンデンサ電流iが流れる。そしてDCリンク電圧vPNには、入力電圧vの周波数fの2倍の周波数2fで振動するDCリンク電圧脈動ΔvPNが発生する。DCリンク電圧脈動ΔvPNは、平均出力電力<pPN>、平均DCリンク電圧<VPN>、入力電圧vの周波数fおよびDCリンクキャパシタCPNの容量CPNに依存し、以下のように表される。
ΔvPN=(<pPN>/2πf)・(1/(<VPN>・CPN))
すなわちこの脈動を補償して抑制するためには、DCリンクキャパシタCPNの容量CPNを十分大きくする必要がある。一般に正常なインバータ機能を実現するためには、DCリンク電圧脈動ΔvPNを平均DCリンク電圧vPNの数%以内に抑制する必要がある。例えば、Pが5kW、vPNが100V、fが50Hのとき、ΔvPN/vPNを5%以内に抑制するためには、DCリンクキャパシタCPNの容量は約3mF以上必要であることが分かる。この容量は非常に大きいため、大容量の電解コンデンサが必要となる。このような大容量の電解コンデンサには、サイズが大きく寿命も短いという問題がある。従って、DCリンクキャパシタの容量を小さくし、装置全体を電解コンデンサレスで構成することが求められる。
【0026】
図4に、昇圧動作時のAC-DCコンバータ200を示す。制御部91は、整流電圧vがDCリンク電圧vPNより小さいとき(v<vPN)昇圧動作が実行されるように降圧回路20および昇圧回路50を制御する。昇圧動作時、降圧回路20のスイッチTは常時ONとなる(T=ON)。従って降圧デューティサイクルdは1となる(d=1)。一方、昇圧回路50のスイッチTは高周波数(High Frequency:HF)で動作する(T=HF)。変調率はv/vPNとなり、これにより昇圧デューティサイクルdが算出される(d=m=v/vPN)。PFC動作を実現するために、整流電流iは整流電圧vに比例するように制御される(i∝v)。このとき整流電流iは入力電流iと等しい(i=i)。上述のように昇圧動作時、スイッチTは常時ONであるため、整流電流iはインダクタ電流iと等しい。すなわち、i=i=i=iが成立する。以上のように、i=iとなるように昇圧回路50のスイッチTを高周波制御することにより、RFC整流と昇圧動作とを同時に実現することができる。
【0027】
図5(ハッチングされていない部分)に、昇圧動作時における入力電圧v、整流電圧v、DCリンク電圧vPN、入力電流i、インダクタ電流i、平均降圧回路電流<i>TSW、平均昇圧回路電流<i>TSW、降圧デューティサイクルd、昇圧デューティサイクルd、出力電力pPNおよびDCリンクキャパシタ電力pCPNの時間変化を示す。ここで、<i>TSWは、電流iをスイッチング周期TSWで時間平均したことを示す(以下同様)。以下、スイッチング周期での時間平均を「平均」と略称する。
【0028】
図6に、降圧動作時のAC-DCコンバータ200を示す。制御部91は、整流電圧vがDCリンク電圧vPNより大きいとき(v>vPN)降圧動作が実行されるように降圧回路20および昇圧回路50を制御する。降圧動作時、昇圧回路50のスイッチTは常時OFFとなる(T=OFF)。従って昇圧デューティサイクルdは0となる(d=0)。一方、降圧回路20ではスイッチTは高周波数で動作する(T=HF)。変調率mはv/vPNとなり、これにより降圧デューティサイクルdが算出される(d=m=v/vPN)。PFC動作を実現するために、整流電流iは整流電圧vに比例するように制御される(i∝v)。昇圧動作時と異なりスイッチTが高周波動作するため、インダクタ電流iは整流電流iと等しくなく、昇圧回路電流iと等しい(i≠i、i=i=iCPN+iPN)。DCリンクキャパシタCPNの電力pCPNは、入力電力の脈動を補償するために±pPNで脈動する。これによりDCリンクキャパシタCPNの電流iCPNも±iPNで脈動する。以上のように、i=iCPN+iPNとなるように降圧回路20のスイッチTを高周波制御することにより、RFC整流と降圧動作とを同時に実現することができる。
【0029】
図7(ハッチングされていない部分)に、降圧動作時における入力電圧v、整流電圧v、DCリンク電圧vPN、入力電流i、インダクタ電流i、平均降圧回路電流<i>TSW、平均昇圧回路電流<i>TSW、降圧デューティサイクルd、昇圧デューティサイクルd、出力電力pPNおよびDCリンクキャパシタ電力pCPNの時間変化を示す。
【0030】
[実施の形態に係る電圧制御]
実施の形態に係る電圧制御について説明する。図1のAC-DCコンバータ100のバッファ回路40は、スイッチTC1およびTC2のONおよびOFFの組み合わせによって、4種類の電流制御を行うことができる。図8(a)に、バッファ回路40の第1の電流制御を示す。第1の電流制御時、スイッチTC1およびTC2はいずれもOFFである。このときインダクタ電流iは、2つのダイオードDC1およびDC2を通り、コンデンサCを正方向に導通して流れる。このときiCC=iであり、コンデンサCは充電される。すなわち第1の電流制御では、バッファ回路40は入力の超過電圧を充電することができる。この第1の電流制御は、インダクタ30に直列に、正の電力脈動バッファ電圧vPPBが印加された状態に相当する。図8(b)に、バッファ回路40の第2の電流制御を示す。第2の電流制御時、スイッチTC1およびTC2はいずれもONである。このときインダクタ電流iは、2つのスイッチTC1およびTC2を通り、コンデンサCを負方向に導通して流れる。このときiCC=-iであり、コンデンサCは放電される。すなわち第2の電流制御では、バッファ回路40は充電した電荷を出力側に供給することができる。この第2の電流制御は、インダクタ30に直列に、負の電力脈動バッファ電圧vPPBが印加された状態に相当する。図8(c)および図8(d)に、それぞれバッファ回路40の第3および第4の電流制御を示す。第3の電流制御時、スイッチTC1はONであり、TC2はOFFである。第4の電流制御時、スイッチTC1はOFFであり、TC2はONである。第3および第4の電流制御時は、インダクタ電流iは、コンデンサCをバイパスして流れる。このときiCC=0であり、コンデンサCは充電も放電もされない。
第3および第4の電流制御は、インダクタ30に直列に0電圧が印加された状態に相当する。
【0031】
AC-DCコンバータ200では、変調率mは、整流電圧vと出力電圧(DCリンク電圧)vPNの比により算出された(m=v/vPN)。このように電圧比から変調率を算出する方法を「電圧変換アプローチ」と呼ぶことがある。これに対しAC-DCコンバータ100では、変調率mは、整流電流iと昇圧回路電流iのスイッチング周期における平均値<i>TSWとの比により算出される(m=i / <i>TSW)。このように電流比から変調率を算出する方法を「電流変換アプローチ」と呼ぶことがある。
【0032】
図9に、昇圧動作時のAC-DCコンバータ100を示す。制御部90は、整流電流iが平均昇圧回路電流<i>TSWより大きいとき(すなわち、m>1のとき)昇圧動作が実行されるように、降圧回路20、バッファ回路40および昇圧回路50を制御する。昇圧動作時、降圧回路20のスイッチTは常時ONとなる(T=ON)。従って降圧デューティサイクルdは1となる(d=1)。
一方、昇圧回路50のスイッチTは高周波数で動作する(T=HF)。PFC動作を実現するために、整流電流iは整流電圧vに比例するように制御される(i∝v)。このとき整流電流iは入力電流iと等しい(i=i)。上述のように昇圧動作時、スイッチTが常時ONであるため、整流電流iはインダクタ電流iと等しい。すなわち、i=i=i=iが成立する。昇圧動作の結果、インダクタ電流iは昇圧回路電流iに変換される。平均昇圧回路電流<i>TSWは、平均出力電流(平均DCリンク電流)<iPN>TSWと等しい(<i>TSW = <iPN>TSW)。
電力バランスの式
<v>TSW・i=vPN・<i>TSW
から、
=(vPN・<i>TSW)/ <v>TSW
となる。vPNおよび<i>TSWは既知であるため、i=iとなるように昇圧回路50のスイッチTを高周波動作させて<v>TSWを制御することにより、PFC整流を実現することができる。さらに上記の電力バランスの式から、
=(vPN / <v>TSW )・<i>TSW
となる。これより、vPN > <v>TSWのとき(すなわち、低電圧の<v>TSWが高電圧のvPNに昇圧されるとき)、インダクタ電流i(すなわち、整流電流i)は平均昇圧回路電流<i>TSWより大きいことが分かる。すなわち、AC-DCコンバータ100では、整流電圧vと出力電圧(DCリンク電圧)vPNの比とは独立に、整流電流iが平均昇圧回路電流<i>TSWより大きいとき(すなわち、m>1のとき)昇圧動作が実行される。
【0033】
昇圧動作時、制御部90は、スイッチTC1を常時OFFとし、スイッチTC2が高周波数で動作するようにバッファ回路40を制御する(TC1=OFF、TC2=HF)。このときバッファ回路40は、第1の電流制御(充電)と第4の電流制御(充放電なし)を高周波数で交代する。これによりバッファ回路40は電圧源として機能し、一定の出力電圧vPNを出力することができる。
【0034】
図10(ハッチングされていない部分)に、昇圧動作時における入力電圧v、整流電圧v、DCリンク電圧vPN、入力電流i、インダクタ電流i、平均降圧回路電流<i>TSW、平均昇圧回路電流<i>TSW、降圧デューティサイクルdおよび昇圧デューティサイクルdの時間変化を示す。
【0035】
図11に、降圧動作時のAC-DCコンバータ100を示す。制御部90は、整流電流iが平均昇圧回路電流<i>TSWより小さいとき(すなわち、m<1のとき)降圧動作が実行されるように、降圧回路20、バッファ回路40および昇圧回路50を制御する。降圧動作時、昇圧回路50のスイッチTは常時OFFとなる(T=OFF)。従って昇圧デューティサイクルdは0となる(d=0)。一方、降圧回路20のスイッチTは高周波数で動作する(T=HF)。PFC動作を実現するために、整流電流iは整流電圧vに比例するように制御される(i∝v)。このときインダクタ電流iは昇圧回路電流iと等しい(i=i)。整流電流iは、平均降圧回路電流<i>TSWと等しい(i=<i>TSW)。
電力バランスの式
・<i>TSW=<v>TSW・i
から、
<i>TSW = i・<v>TSW/v
となる。vおよびiは既知であるため、<i>TSW=iとなるように降圧回路20のスイッチTを高周波動作させて<v>TSWを制御することにより、PFC整流を実現することができる。さらに上記の電力バランスの式から、
<i>TSW =(<v>TSW / v)・i
となる。これより、<v>TSW < vのとき(すなわち、高電圧のvが低電圧の<v>TSWに降圧されるとき)、平均降圧回路電流<i>TSW(すなわち、整流電流i)は、インダクタ電流i(すなわち、昇圧回路電流<i>TSW)より小さいことが分かる。すなわち、AC-DCコンバータ100では、整流電圧vと出力電圧(DCリンク電圧)vPNの比とは独立に、整流電流iが平均昇圧回路電流<i>TSWより小さいとき(すなわち、m<1のとき)降圧動作が実行される。
【0036】
降圧動作時、制御部90は、スイッチTC1を常時ONとし、スイッチTC2が高周波数で動作するようにバッファ回路40を制御する(TC1=ON、TC2=HF)。このときバッファ回路は、第2の電流制御(放電)と第3の電流制御(充放電なし)を高周波数で交代する。これによりバッファ回路40は電圧源として機能し、出力電圧vPNを出力することができる。
【0037】
図12(ハッチングされていない部分)に、降圧動作時における入力電圧v、整流電圧v、DCリンク電圧vPN、入力電流i、インダクタ電流i、平均降圧回路電流<i>TSW、平均昇圧回路電流<i>TSW、降圧デューティサイクルdおよび昇圧デューティサイクルdの時間変化を示す。
【0038】
前述の通り、インダクタ電流iは以下のように表される。
> <i>TSWのとき(昇圧動作時):i=i
< <i>TSWのとき(降圧動作時):i=<i>TSW
すなわち、
=max(i、<i>TSW
である。ここでmax(a、b)は、a、bの大きい方の値を取ることを示す。図5、7、10および12に示されるように、このようにして得られるインダクタ電流iは、AC-DCコンバータ200から得られるインダクタ電流iより小さい。
【0039】
昇圧デューティサイクルdおよび降圧デューティサイクルdは、変調率mを用いて以下のように定められる。
=min(m、1)
=1-min(1/m、1)
ここでmin(a、b)は、a、bの小さい方の値を取ることを示す。
【0040】
インダクタ30の電力バランスを保ち、インダクタ電流iの変動を防ぐため、バッファ回路40は以下の条件を満足するバッファ電圧vPPBを印加する。
<vPPB>TSW=<v>TSW-<v>TSW
ここで、降圧動作時におけるスイッチノード電圧<v>TSWおよび昇圧動作時におけるスイッチノード電圧<v>TSWは、それぞれ変調率mで定められる。
【0041】
バッファデューティサイクルdは、以下のように、平均バッファ電圧<vPPB>TSWとバッファキャパシタ電圧vとの比で定められる。
=<vPPB>TSW/v
ここで、
|<vPPB>TSW|<|v|(すなわち、-1<d<1)
が常に成立する点に注意する。これにより、バッファキャパシタ電圧vの最小値は、平均バッファ電圧<vPPB>TSWの最大値によって定められる。さらに整流電圧vが0の場合であっても、バッファ回路40はDCリンク電圧vPNを完全に補償する必要がある。従って、
>vPN
が常に成立する。
【0042】
バッファ回路40の前段側ハーフブリッジのデューティサイクルdC1(以下、「第1バッファデューティサイクルdC1」と呼ぶ)と、後段側ハーブリッジのデューティサイクルdC2(以下、「第2バッファデューティサイクルdC2」と呼ぶ)とは、バッファデューティサイクルdから求められる。バッファデューティサイクルdは、入力電力pの脈動の2倍の周波数で振動する。d>0のとき、バッファキャパシタCはインダクタ30に正方向に接続され(TC1=OFF、TC2=OFF)、入力の超過電力はバッファ回路40に充電される。一方d<0のとき、バッファキャパシタCはインダクタ30に負方向に接続され(TC1=ON、TC2=ON)、充電された電荷が出力側に放電される。以上のことから、バッファ回路40の前段側ハーフブリッジ(TC1=およびDC1)は、バッファ電圧vPPBの極性を決定することが分かる。すなわち、デューティサイクルdが正のとき常にTC1=OFFとなり(dC1=0)、デューティサイクルdが負のとき常にTC1=ONとなる(dC1=1)。一方、バッファ回路40の後段側ハーフブリッジ(TC2=およびDC2)は、高周波でパルス幅変調される。これにより、バッファ回路40に蓄積される(またはバッファ回路40から開放される)エネルギーの大きさが制御される。第2バッファデューティサイクルdC2は以下のように求まる。
C2=1-dC1-d
【0043】
図13に、バッファキャパシタ電力pCC、DCリンクキャパシタ電力pCPN、バッファキャパシタ電圧v、平均バッファ電圧<vPPB>TSW、バッファデューティサイクルd、第1バッファデューティサイクルdC1および第2バッファデューティサイクルdC2の時間変化を示す。
【0044】
以上説明したように、降圧デューティサイクルd、昇圧デューティサイクルd、第1バッファデューティサイクルdC1および第2バッファデューティサイクルdC2を算出して、降圧回路20、バッファ回路40および昇圧回路50を制御することにより、入力AC電力から脈動を補償し、所望の大きさのDC電力を生成することができる。バッファ回路40のコンデンサCは大容量である必要はないため、電解コンデンサでなく、例えばフィルムコンデンサやセラミックコンデンサで実現することができる。
【0045】
次に図14を参照して、AC-DCコンバータ100の制御部90による制御を詳細に説明する。図14は、AC-DCコンバータ100の制御部90の機能ブロック図である。制御部90は、バッファ電圧制御部92と、DCリンク電圧制御部94と、インダクタ電圧制御部96と、PWMユニット98とを備える。
【0046】
バッファ電圧制御部92には、目標バッファキャパシタ電圧v と、フィルタFvcからの平均バッファキャパシタ電圧<v>とが入力される。入力された目標バッファキャパシタ電圧v は2つに分岐される。2つに分岐された目標バッファキャパシタ電圧v の一方から、平均バッファキャパシタ電圧<v>が減算され、平均バッファキャパシタ電圧差δ<v>が算出される(δ<v> = v - <v>)。平均バッファキャパシタ電圧差δ<v>は電圧制御器Rvcに入力され、目標平均バッファキャパシタ電流<iCC >に変換される(δ<v>→<iCC >)。目標平均バッファキャパシタ電流<iCC >は、2つに分岐された目標バッファキャパシタ電圧v の他方と乗算され、目標平均バッファキャパシタ電力<pCC >が算出される(<pCC > = v ・<iCC >)。目標平均バッファキャパシタ電力<pCC >は、フィルタFPBから出力された平均目標昇圧回路電力<p >と加算され、平均目標入力電力<p >が算出される(<p > = <pCC > + v )。平均目標入力電力<p >は、2・|v|/<v(入力電圧の絶対値|v|と、平均入力電圧<v>の逆数の2乗との積の2倍により算出される)と積算され、目標整流電流i が算出される(i =<p > ・ 2・|v|/<v)。目標整流電流i は、インダクタ電圧制御部96に出力される。
【0047】
DCリンク電圧制御部94には、目標DCリンク電圧vPN と、昇圧回路50からのDCリンク電圧vPNとが入力される。入力された目標DCリンク電圧vPN は2つに分岐される。2つに分岐された目標DCリンク電圧vPN の一方から、DCリンク電圧vPNが減算され、DCリンク電圧差δvPNが算出される(δvPN = vPN - vPN)。DCリンク電圧差δvPNは電圧制御器RvPNに入力され、目標キャパシタ電流iCPN に変換される(δvPN→iCPN )。目標キャパシタ電流iCPN は、キャパシタ電流iCPNと加算され、目標昇圧回路電流i が算出される(i =iCPN +iCPN)。目標昇圧回路電流i は2つに分岐され、その一方は、2つに分岐されたDCリンク電圧vPN の他方と乗算され、目標昇圧回路電力p が算出される(p =i ・vPN )。目標昇圧回路電力p は、フィルタFPBに入力される。フィルタFPBから、平均目標昇圧回路電力<p >が出力される。2つに分岐された目標昇圧回路電流i の他方は、インダクタ電圧制御部96に出力される。
【0048】
インダクタ電圧制御部96には、目標整流電流i と、目標昇圧回路電流i と、インダクタ電流iと、バッファキャパシタ電圧vとが入力される。入力された目標整流電流i は3つに分岐される。3つに分岐された目標整流電流i の1番目から、目標昇圧回路電流i が除算され、変調率mが算出される(m=i /i )。3つに分岐された目標整流電流i の2番目は、目標昇圧回路電流i から除算され、変調率の逆数1/mが算出される(1/m=i /i )。3つに分岐された目標整流電流i の3番目は、目標昇圧回路電流i と大小比較される。入力された目標昇圧回路電流i は3つに分岐される。3つに分岐された目標昇圧回路電流i の1番目から、目標整流電流i が除算され、変調率の逆数1/mが算出される(1/m=i /i )。3つに分岐された目標昇圧回路電流i の2番目は、目標整流電流i から除算され、変調率mが算出される(m=i /i )。3つに分岐された目標昇圧回路電流i の3番目は、目標整流電流i と大小比較される。変調率mは1と大小比較され、比較の結果小さい方が降圧デューティサイクルdとして定義される(d=min(m、1))。
【0049】
降圧デューティサイクルdは2つに分岐される。2つに分岐された降圧デューティサイクルdの一方は、PWMユニット98に出力される。変調率の逆数1/mは1と大小比較され、比較の結果小さい方が、昇圧デューティサイクルdの基となる量1-dとして定義される(1-d=min(1/m、1))。2つに分岐された降圧デューティサイクルdの他方には、入力電圧vの絶対値|v|が乗算され、降圧回路電圧vが算出される(v=d・|v|)。昇圧デューティサイクルdの基となる量1-dは2つに分岐される。2つに分岐された量1-dの一方は、昇圧デューティサイクルdに変換された後、PWMユニット98に出力される(1-d→d)。2つに分岐された量1-dの他方には、目標DCリンク電圧VPN が乗算され、昇圧回路電圧vが算出される(v=(1-d)・VPN )。前述の通り、目標整流電流i (3つに分岐されたものの3番目)と目標昇圧回路電流i (3つに分岐されたものの3番目)とは大小比較され、比較の結果大きい方が目標インダクタ電流i として定義される(i =max(i 、i ))。目標インダクタ電流i から、インダクタ電流iが減算され、インダクタ電流差δiが算出される(δi=i -i)。インダクタ電流差δiは、電圧制御器RILに入力され、目標インダクタ電圧v に変換される(δi→v )。降圧回路電圧vから、昇圧回路電圧vと目標インダクタ電圧v とが減算され、目標バッファ電圧vPPB が算出される(vPPB =v-v-v )。目標バッファ電圧vPPB から、バッファキャパシタ電圧vが除算され、バッファデューティサイクルdが算出される(d=vPPB /v)。算出されたバッファデューティサイクルdは、PWMユニット98に出力される。
【0050】
PWMユニット98には、降圧デューティサイクルdと、昇圧デューティサイクルdと、バッファデューティサイクルdとが入力される。PWMユニット98は、降圧デューティサイクルdと、昇圧デューティサイクルdと、バッファデューティサイクルdとに基づいてパルス幅変調を行い、降圧回路スイッチング信号Sと、昇圧回路スイッチング信号Sと、第1バッファスイッチング信号SC1と、第2バッファスイッチング信号SC2とを生成する。PWMユニット98は、降圧回路スイッチング信号Sを降圧回路20に、昇圧回路スイッチング信号Sを昇圧回路50に、第1バッファスイッチング信号SC1と第2バッファスイッチング信号SC2とをバッファ回路40に、それぞれ出力する。
【0051】
本実施の形態によれば、電解コンデンサを必要とすることなく、単相AC電力から所望の大きさのDC電力を生成することができる。
【0052】
バッファ回路40のスイッチTC1およびTC2は、GaN、SiCなどのWBG半導体で実現されてもよい。WBG半導体のスイッチング速度は、従来のSiベースのMOS-FETに比べて約10倍速い。従って、バッファ回路40のスイッチTC1およびTC2をWBG半導体とすることにより、高周波数の単相AC電力から所望の大きさのDC電力を生成することができる。
【0053】
バッファ回路は、スイッチTC1およびスイッチTC3を含んで構成される前段側ハーフブリッジと、スイッチTC2およびスイッチTC4を含んで構成される後段側ハーフブリッジとを、間にコンデンサCを挟んで組み合わせた非対称のフルブリッジ回路を備えるものであってもよい。すなわちバッファ回路は、バッファ回路40のダイオードDC1に代えてTC3を含み、ダイオードDC2代えてスイッチTC4を含むものであってもよい。図15に、このようにして構成されたバッファ回路48を模式的に示す。バッファ回路48は、バッファ回路40と同様に、スイッチTC1、TC2、TC3およびTC4のONおよびOFFの組み合わせによって、前述の4種類の電流制御を実現できる。さらにダイオードの代わりにスイッチを用いることで、より高速のスイッチングを行うことできる。この構成によれば、より高周波数の単相AC電力から所望の大きさのDC電力を生成することができる。
【0054】
バッファ回路は、図1のバッファ回路40にハーフブリッジを並列に追加したものであってもよい。図16に、このようにして構成されたバッファ回路49aを模式的に示す。バッファ回路49aは、ダイオードDC11、DC12、…、DC1nおよびスイッチTC11、TC12、…、TC1nを含んで構成される前段側ハーフブリッジと、ダイオードDC21、DC22、…、DC2nおよびスイッチTC21、TC22、…、TC2nを含んで構成される後段側ハーフブリッジとを、間にコンデンサCを挟んで組み合わせた非対称のフルブリッジ回路を備える。ただしnは2以上の整数である。すなわちバッファ回路49aは、バッファ回路40に、前段側ハーフブリッジと後段側ハーフブリッジをそれぞれn個ずつ並列に追加した構成となっている。バッファ回路49aも、バッファ回路40と同様に、スイッチTC11、TC12、…、TC1n、TC21、TC22、…、TC2nのONおよびOFFの組み合わせによって、前述の4種類の電流制御を実現できる。バッファ回路49aは、前段側ハーフブリッジと後段側ハーフブリッジにハーフブリッジを並列に追加したことにより各スイッチのスイッチング負荷を低減することができる。従って各スイッチのスイッチング速度は、バッファ回路40のスイッチより遅くてもよい。この構成によれば、比較的速度の遅いスイッチを用いて、高周波数の単相AC電力から所望の大きさのDC電力を生成することができる。
【0055】
バッファ回路は、図15のバッファ回路48にハーフブリッジを並列に追加したものであってもよい。図17に、このようにして構成されたバッファ回路49bを模式的に示す。バッファ回路49bは、スイッチTC11、TC12、…、TC1n、TC31、TC32、…、TC3nを含んで構成される前段側ハーフブリッジと、スイッチTC21、TC22、…、TC2n、TC41、TC42、…、TC4nを含んで構成される後段側ハーフブリッジとを、間にコンデンサCを挟んで組み合わせた非対称のフルブリッジ回路を備える。ただしnは2以上の整数である。すなわちバッファ回路49bは、バッファ回路48に、前段側ハーフブリッジと後段側ハーフブリッジをそれぞれn個ずつ並列に追加した構成となっている。バッファ回路49bも、バッファ回路48と同様に、スイッチTC11、TC12、…、TC1n、TC31、TC32、…、TC3n、TC21、TC22、…、TC2n、TC41、TC42、…、TC4nのONおよびOFFの組み合わせによって、前述の4種類の電流制御を実現できる。バッファ回路49bは、前段側ハーフブリッジと後段側ハーフブリッジにハーフブリッジを並列に追加したことにより各スイッチのスイッチング負荷を低減することができる。従って各スイッチのスイッチング速度は、バッファ回路48のスイッチより遅くてもよい。この構成によれば、比較的速度の遅いスイッチを用いて、より高周波数の単相AC電力から所望の大きさのDC電力を生成することができる。
【0056】
[第2実施の形態]
図18は、第2実施の形態に係るDC-DCコンバータ300の機能ブロック図である。DC-DCコンバータ300は、DC電源3からの電力を別のDC電力に変換するコンバータとして機能する。変換されたDC電力は、直接、またはインバータにより三相AC電力に変換され、例えばポンプ、コンプレッサ、船や飛行機の電動アクチュエータ、ロボットアームなど多様な装置を駆動するために使用される。DC-DCコンバータ300は、降圧回路20と、インダクタ30と、バッファ回路42と、昇圧回路50と、制御部90とを備える。DC-DCコンバータ300は、整流回路10を含まない点でAC-DCコンバータ100と異なる。降圧回路20、インダクタ30、昇圧回路50および制御部90の構成と動作はAC-DCコンバータ100のものと同じであるので、説明を省略する。
【0057】
バッファ回路42は、ダイオードDC1およびスイッチTC1を含んで構成される前段側ハーフブリッジと、ダイオードDC2およびスイッチTC2を含んで構成される後段側ハーフブリッジとを、間にコンデンサCCを挟んで組み合わせた、非対称のフルブリッジ回路を備える。AC-DCコンバータ100では、商用単相AC電源から入力周波数50-60kHzの入力電圧が入力する。この場合、バッファ回路40のスイッチTC1、TC2は10kHz-100kHzのスイッチング周波数で動作する。これに対し、DC電源から供給されるDC電力は、AC電力のような振幅の大きな脈動は含まないが、リップルと呼ばれる振幅の小さい波形の乱れを含む。リップルの周波数は通常100kHz-200kHzである。従ってこのリップルを補償するために、バッファ回路42のスイッチTC1、TC2はリップル周波数の約10倍、すなわち1MHz-2MHzのスイッチング周波数で動作する。このためバッファ回路42のスイッチTC1、TC2は、例えばGaN、SiCなどの高速のWBG半導体で構成される。
【0058】
本実施の形態によれば、電解コンデンサを必要とすることなく、DC電源からのDC電力からリップルを補償して、所望の大きさのDC電力を生成することができる。
【0059】
[第3実施の形態]
図19は、第3実施の形態に係るAC-ACコンバータ400の機能ブロック図である。
AC-ACコンバータ400は、単相AC電源2からの電力を三相AC電力に変換するコンバータとして機能する。変換された三相AC電力は、例えばポンプ、コンプレッサ、船や飛行機の電動アクチュエータ、ロボットアームなど多様な装置を駆動するために使用される。AC-ACコンバータ400は、整流回路10と、降圧回路20と、インダクタ30と、バッファ回路40と、昇圧回路50と、インバータ60と、制御部90とを備える。
整流回路10、降圧回路20、インダクタ30、バッファ回路40、昇圧回路50および制御部90の構成と動作はAC-DCコンバータ100のものと同じであるので、説明を省略する。
【0060】
インバータ60は、DCリンク電圧vPNから三相AC電圧を生成する。インバータ60は公知技術を用いて実現されてよい。三相AC電圧は、例えばU相、V相およびW相からなり、2π/3の位相差で交番するものである。
【0061】
本実施の形態によれば、電解コンデンサを必要とすることなく、単相AC電力から所望の大きさの三相AC電力を生成することができる。
【0062】
以上、本発明の実施の形態を基に説明した。この実施の形態は例示であり、種々の変形および変更が本発明の特許請求の範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【0063】
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施の形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施の形態と重複する説明を適宜省略し、実施の形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0064】
(第1変形例)
第1実施の形態では、AC-DCコンバータは、ダイオードの後段にバッファ回路を1つ備えるものであった。これに限られず、AC-DCコンバータは、ダイオードの後段に複数のバッファ回路を備えるものであってもよい。本変形例によれば、各バッファ回路の処理負荷を低減できるので、より高周波数の単相AC電力から所望の大きさのDC電力を生成することができる。
【0065】
(第2変形例)
第1実施の形態では、AC-DCコンバータは、入力電圧の周波数の2倍の周波数で振動する入力電圧の脈動を補償するものであった。これに限られず、AC-DCコンバータは、入力電圧周波数の4倍(2次高周波)、8倍(4次高周波)、12倍(6次高周波)といった、入力電力脈動の高周波成分を補償してもよい。本変形例によれば、入力電力の高周波ノイズを抑制できるので、より平滑なDC電力を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、電力を変換するAC-DCコンバータ、DC-DCコンバータおよびAC-ACコンバータに関する。
【符号の説明】
【0067】
2・・単相AC電源、 3・・DC電源、 10・・整流回路、 20・・降圧回路、 30・・インダクタ、 40・・バッファ回路、 42・・バッファ回路、 48・・バッファ回路、 49a・・バッファ回路、 49b・・バッファ回路、 50・・昇圧回路、 60・・インバータ、 90・・制御部、 92・・バッファ電圧制御部、 94・・DCリンク電圧制御部、96・・インダクタ電圧制御部、 98・・PWMユニット、 100・・AC-DCコンバータ、 110・・AC-DCコンバータ、 300・・DC-DCコンバータ、 400・・AC-ACコンバータ
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