(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-26
(45)【発行日】2022-05-10
(54)【発明の名称】立方晶窒化硼素焼結体
(51)【国際特許分類】
C22C 29/16 20060101AFI20220427BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220427BHJP
C22C 1/05 20060101ALI20220427BHJP
C22C 29/08 20060101ALI20220427BHJP
C04B 35/5831 20060101ALI20220427BHJP
B23B 27/14 20060101ALN20220427BHJP
B23B 27/20 20060101ALN20220427BHJP
【FI】
C22C29/16 B
B22F1/00 Q
C22C1/05 M
C22C29/08
C04B35/5831
B23B27/14 B
B23B27/20
(21)【出願番号】P 2021568124
(86)(22)【出願日】2020-11-04
(86)【国際出願番号】 JP2020041222
【審査請求日】2021-11-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 顕人
(72)【発明者】
【氏名】岡村 克己
(72)【発明者】
【氏名】濱 久也
(72)【発明者】
【氏名】石田 雄
(72)【発明者】
【氏名】長島 一成
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/066381(WO,A1)
【文献】特許第6744520(JP,B1)
【文献】特開昭55-031517(JP,A)
【文献】国際公開第2007/145071(WO,A1)
【文献】特開2010-229001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 29/16
C04B 35/5831
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
80体積%以上96体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記結合材は、炭化タングステン、コバルト及びアルミニウム化合物を含み、
前記立方晶窒化硼素焼結体の硬度Hbと、前記立方晶窒化硼素焼結体に酸処理を行い、前記立方晶窒化硼素焼結体中の前記結合材を実質的に除去した酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の硬度Haとが、Ha/Hb≧0.40を満た
し、
前記硬度Hbは、前記立方晶窒化硼素焼結体からなる厚み0.5mmの測定試料Aに対して、微小ビッカース硬さ試験機を用いて、荷重5kgの条件で測定され、
前記Haは、前記測定試料Aを、140℃に加熱した、塩酸、硝酸及び弗酸を含む酸溶液に投入し、密閉容器中で48時間以上酸処理して得られる測定試料Bに対して、前記微小ビッカース硬さ試験機を用いて、荷重5kgの条件で測定され、
前記測定試料Aにおけるコバルトの存在割合の平均値X1(質量%)に対する、前記測定試料Bにおけるコバルトの存在割合の平均値X2(質量%)の割合X2/X1が0.20以下である、立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項2】
前記Haと前記Hbとが、Ha/Hb≧0.53を満たす、請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項3】
前記Haと前記Hbとが、Ha/Hb≧0.55を満たす、請求項2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項4】
酸処理前の前記立方晶窒化硼素焼結体の熱拡散率Kbと、前記酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の熱拡散率Kaとが、Ka/Kb≧0.60を満たす、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項5】
前記Kaと前記Kbとが、Ka/Kb≧0.90を満たす、請求項4に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項6】
前記Kaと前記Kbとが、Ka/Kb≧0.95を満たす、請求項5に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項7】
酸処理前の前記立方晶窒化硼素焼結体の曲げ試験強度Tbと、前記酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の曲げ試験強度Taとが、Ta/Tb≧0.30を満たす、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項8】
前記Taと前記Tbとが、Ta/Tb≧0.35を満たす、請求項7に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項9】
前記Taと前記Tbとが、Ta/Tb≧0.40を満たす、請求項8に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項10】
前記立方晶窒化硼素粒子の平均粒子径は、0.4μm以上5μm以下である、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項11】
前記立方晶窒化硼素粒子の平均粒子径は、0.5μm以上3.5μm以下である、請求項10に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、立方晶窒化硼素焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
切削工具等に用いられる高硬度材料として、立方晶窒化硼素焼結体(以下、「cBN焼結体」ともいう。)がある。立方晶窒化硼素焼結体は、通常、立方晶窒化硼素粒子(以下、「cBN粒子」ともいう。)と結合材とからなり、立方晶窒化硼素粒子の含有割合によってその特性が異なる傾向がある。
【0003】
このため、切削加工の分野においては、被削材の材質、要求される加工精度等によって、切削工具に適用される立方晶窒化硼素焼結体の種類が使い分けられる。たとえば、立方晶窒化硼素(以下、「cBN」ともいう)粒子の含有割合の高い立方晶窒化硼素焼結体(以下、「High-cBN焼結体」ともいう。)は、焼結合金等の切削に好適に用いることができる。
【0004】
しかし、High-cBN焼結体は、突発的な欠損が発生しやすい傾向がある。この突発的な欠損は、立方晶窒化硼素粒子同士の結合力が弱く、立方晶窒化硼素粒子が脱落してしまうことに起因すると考えられる。たとえば、国際公開第2005/066381号(特許文献1)には、結合材の適切な選択により、High-cBN焼結体における突発的な欠損の発生を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、80体積%以上96体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記結合材は、炭化タングステン、コバルト及びアルミニウム化合物を含み、
前記立方晶窒化硼素焼結体の硬度Hbと、前記立方晶窒化硼素焼結体に酸処理を行い、前記立方晶窒化硼素焼結体中の前記結合材を実質的に除去した酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の硬度Haとが、Ha/Hb≧0.40を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本開示の立方晶窒化硼素焼結体(酸処理前)のSEM-EDS分析結果の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、酸処理後の本開示の立方晶窒化硼素焼結体のSEM-EDS分析結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、機械部品の急速な高機能化に伴い、機械部品となる被削材の難削化が加速している。これに伴い、切削工具の短寿命化によるコスト増という問題が顕在化している。このため、High-cBN焼結体のさらなる改良が望まれる。この点に鑑み、本開示は、工具材料として用いた場合に、工具の長寿命化を可能とする立方晶窒化硼素焼結体を提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、長い工具寿命を有することができる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
本発明者らはまず、より長寿命化が可能な立方晶窒化硼素焼結体を完成させるべく、High-cBN焼結体における結合材の原料として、WC(炭化タングステン)、Co(コバルト)およびAl(アルミニウム)を含む結合材原料粉末を用いることとした。これは、本発明者らのこれまでの研究により、このような結合材原料粉末を用いた場合に、立方晶窒化硼素粒子に対する結合材の結合力が特に高く、結果的に、耐摩耗性及び耐欠損性に優れた立方晶窒化硼素焼結体が得られることを知見しているためである。
【0011】
しかし、High-cBN焼結体においては、結合材の量が立方晶窒化硼素粒子の量に対して顕著に少ないため、結合材が立方晶窒化硼素粒子間に広く行き渡ることが難しい傾向がある。このため本発明者らは、結合材の最適化だけでは、High-cBN焼結体の長寿命化のブレイクスルーは図れないと考えた。
【0012】
そこで本発明者らは、結合材と立方晶窒化硼素粒子との結合力を高める従来の手法から大きく発想を転換し、立方晶窒化硼素粒子同士の結合力を高める手法はないかと考え、鋭意検討の結果、本開示の立方晶窒化硼素焼結体を得た。
【0013】
本開示は、上述のようにして完成されたものである。以下に、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0014】
(1)本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、80体積%以上96体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記結合材は、炭化タングステン、コバルト及びアルミニウム化合物を含み、
前記立方晶窒化硼素焼結体の硬度Hbと、前記立方晶窒化硼素焼結体に酸処理を行い、前記立方晶窒化硼素焼結体中の前記結合材を実質的に除去した酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の硬度Haとが、Ha/Hb≧0.40を満たす。
【0015】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、工具材料として用いた場合に、工具の長寿命化を可能とする。
【0016】
(2)前記Haと前記Hbとが、Ha/Hb≧0.53を満たすことが好ましい。これによると、工具寿命が向上する。
【0017】
(3)前記Haと前記Hbとが、Ha/Hb≧0.55を満たすことが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0018】
(4)酸処理前の前記立方晶窒化硼素焼結体の熱拡散率Kbと、前記酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の熱拡散率Kaとが、Ka/Kb≧0.60を満たすことが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0019】
(5)前記Kaと前記Kbとが、Ka/Kb≧0.90を満たすことが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0020】
(6)前記Kaと前記Kbとが、Ka/Kb≧0.95を満たすことが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0021】
(7)酸処理前の前記立方晶窒化硼素焼結体の曲げ試験強度Tbと、前記酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の曲げ試験強度Taとが、Ta/Tb≧0.30を満たすことが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0022】
(8)前記Taと前記Tbとが、Ta/Tb≧0.35を満たすことが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0023】
(9)前記Taと前記Tbとが、Ta/Tb≧0.40を満たすことが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0024】
(10)前記立方晶窒化硼素の平均粒子径は、0.4μm以上5μm以下であることが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0025】
(11)前記立方晶窒化硼素の平均粒子径は、0.5μm以上3.5μm以下であることが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0026】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)について説明する。ただし、本実施形態はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において「A~Z」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上Z以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Zにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とZの単位とは同じである。
【0027】
<実施形態1:立方晶窒化硼素焼結体>
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、80体積%以上96体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
該結合材は、炭化タングステン、コバルト及びアルミニウム化合物を含み、
該立方晶窒化硼素焼結体の硬度Hbと、該立方晶窒化硼素焼結体に酸処理を行い、該立方晶窒化硼素焼結体中の前記結合材を実質的に除去した酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の硬度Haとが、Ha/Hb≧0.40を満たす。
【0028】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、工具材料として用いた場合に、工具の長寿命化を可能とする。この理由は、以下(i)及び(ii)の通りと推察される。
【0029】
(i)本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、優れた強度及び靱性を有する立方晶窒化硼素粒子を80体積%以上96体積%以下含む。このため、立方晶窒化硼素焼結体も優れた強度及び靱性を有することができる。従って、該立方晶窒化硼素焼結体は、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有し、該立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、長い工具寿命を有することができる。
【0030】
(ii)本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、結合材は、炭化タングステン、コバルト及びアルミニウム化合物を含む。このような結合材は、立方晶窒化硼素粒子に対する結合材の結合力が特に高い。従って、該立方晶窒化硼素焼結体は、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有し、該立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、長い工具寿命を有することができる。
【0031】
(iii)本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素焼結体の硬度Hbと、該立方晶窒化硼素焼結体に酸処理を行い、該立方晶窒化硼素焼結体中の結合材を実質的に除去した酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の硬度Haとが、Ha/Hb≧0.40を満たす。このような立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子同士の結合力が高い。従って、該立方晶窒化硼素焼結体は、工具の使用中に立方晶窒化硼素粒子の脱落が生じ難く、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有し、該立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、長い工具寿命を有することができる。
【0032】
(組成)
本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体は、80体積%以上96体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える。すなわち本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体は、いわゆるHigh-cBN焼結体である。なお立方晶窒化硼素焼結体は、使用する原材料、製造条件等に起因する不可避不純物を含み得る。立方晶窒化硼素焼結体中の不可避不純物の含有割合(質量%)は、1質量%以下とすることができる。本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、不可避不純物からなることができる。
【0033】
立方晶窒化硼素焼結体中の立方晶窒化硼素粒子の含有割合(体積%)の下限は、80体積%以上であり、81体積%以上、82体積%以上とすることができる。立方晶窒化硼素焼結体中の立方晶窒化硼素粒子の含有割合(体積%)の上限は、96体積%以下であり、95体積%以下、94体積%以下とすることができる。立方晶窒化硼素焼結体中の立方晶窒化硼素粒子の含有割合(体積%)は、81体積%以上95体積%以下、82体積%以上94体積%以下とすることができる。
【0034】
立方晶窒化硼素焼結体中の結合材の含有割合(体積%)の下限は、4体積%以上、5体積%以上、6体積%以上とすることができる。立方晶窒化硼素焼結体中の結合材の含有割合(体積%)の上限は、20体積%以下、19体積%以下、18体積%以下とすることができる。立方晶窒化硼素焼結体中の結合材の含有割合(体積%)は、4体積%以上20体積%以下、5体積%以上19体積%以下、6体積%以上18体積%以下とすることができる。
【0035】
立方晶窒化硼素焼結体における立方晶窒化硼素の含有割合(体積%)は、誘導結合高周波プラズマ分光分析(ICP)による定量分析、走査電子顕微鏡(SEM)付帯のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)または透過型電子顕微鏡(TEM)付帯のEDXを用いて、立方晶窒化硼素焼結体に対し、組織観察、元素分析等を実施することによって確認することができる。本実施形態では、特に理由が無い限り、後述するSEMを用いる方法で、立方晶窒化硼素焼結体における立方晶窒化硼素粒子の含有割合を求めるものとする。
【0036】
SEMを用いた場合、次のようにして立方晶窒化硼素粒子の含有割合(体積%)を求めることができる。まず、立方晶窒化硼素焼結体の任意の位置を切断し、立方晶窒化硼素焼結体の断面を含む試料を作製する。断面の作製には、集束イオンビーム装置、クロスセクションポリッシャ装置等を用いることができる。次に、上記断面をSEMにて2000倍で観察して、反射電子像を得る。反射電子像においては、立方晶窒化硼素粒子が存在する領域が黒色領域となり、結合材が存在する領域が灰色領域または白色領域となる。観察する倍率は粒度によって適宜調整し、5視野以上観察及び分析した平均値を含有割合とした。
【0037】
次に、上記反射電子像に対して画像解析ソフト(たとえば、三谷商事(株)の「WinROOF」)を用いて二値化処理を行い、二値化処理後の画像から黒色領域(立方晶窒化硼素粒子が存在する領域)及び白色領域(結合相が存在する領域)の各面積比率を算出する。算出された面積比率を体積%とみなすことにより、立方晶窒化硼素粒子の含有割合(体積%)を求めることができる。なお、これにより結合材の体積%を同時に求めることができる。
【0038】
(立方晶窒化硼素粒子)
立方晶窒化硼素粒子は、硬度、強度、靱性が高く、立方晶窒化硼素焼結体中の骨格としての役割を果たす。立方晶窒化硼素粒子のD50(平均粒子径)は、工具寿命向上の観点から、0.4μm以上5μm以下が好ましく、0.5μm以上3.5μm以下が更に好ましい。
【0039】
立方晶窒化硼素粒子のD50は次のようにして求められる。まず上記の立方晶窒化硼素粒子の含有量の求め方に準じて、立方晶窒化硼素焼結体の断面を含む試料を作製し、反射電子像を得る。次いで、画像解析ソフトを用いて反射電子像中の各黒色領域の円相当径(等面積円の直径)を算出する。5視野以上を観察することによって100個以上の立方晶窒化硼素粒子の円相当径を算出することが好ましい。
【0040】
次いで、各円相当径を最小値から最大値まで昇順に並べて累積分布を求める。累積分布において累積面積50%となる粒径がD50となる。なお円相当径とは、計測された立方晶窒化硼素粒子の面積と同じ面積を有する円の直径を意味する。
【0041】
(結合材)
結合材は、難焼結性材料である立方晶窒化硼素粒子を工業レベルの圧力温度で焼結可能とする役割を果たす。
【0042】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、結合材は、WC、CoおよびAl化合物を含む。ここで、「Al化合物」とは、Alを構成元素として含む化合物を意味する。Al化合物としては、CoAl、Al2O3、AlN、およびAlB2、ならびにこれらの複合化合物等が挙げられる。次の理由から、WC、CoおよびAl化合物を含む当該結合材は、本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体の長寿命化に特に有効と考えられる。
【0043】
第1に、CoおよびAlは触媒機能を有するため、立方晶窒化硼素焼結体の製造時の焼結工程において、立方晶窒化硼素粒子同士のネックグロスを促進することができる。第2に、WCは、結合材の熱膨張係数を立方晶窒化硼素粒子の熱膨張係数に近づけるために有効と推察される。なお、上記の触媒機能とは、立方晶窒化硼素粒子を構成するB(硼素)および/またはN(窒素)が、CoまたはAlを介して拡散したり、析出したりすることを意味する。第3に、Coなどの金属成分は靭性向上の役割を果たし、適正量の結合材は耐欠損性を向上させる。
【0044】
立方晶窒化硼素焼結体に含まれる結合材の組成は、XRD(X線回折測定)およびICPを組み合わせることによって特定することができる。具体的には、まず、立方晶窒化硼素焼結体から、厚み0.45~0.50mm程度の試験片を切り出し、該試験片に対してXRD分析を実施し、X線回折ピークから決定される化合物、金属等を決定する。次に、試験片を密閉容器内で弗硝酸(濃硝酸(60%):蒸留水:濃弗酸(47%)=2:2:1の体積比混合の混合酸)に浸漬し、結合材が溶解された酸処理液を得る。該酸処理液に対してICP分析を実施し、各金属元素の定量分析を行う。そして、XRDの結果およびICP分析の結果を解析することにより、結合材の組成を決定する。
【0045】
本実施形態における結合材は、WC、CoおよびAl化合物の他に、他の結合材を含んでいてもよい。他の結合材を構成する元素として好適なものは、Ni、Fe、Cr、Mn、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Re等である。
【0046】
(硬度)
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、酸処理前の立方晶窒化硼素焼結体の硬度Hbと、立方晶窒化硼素焼結体に酸処理を行い、該立方晶窒化硼素焼結体中の結合材を実質的に除去した酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の硬度Haとが、Ha/Hb≧0.40を満たす。ここで、酸処理前の立方晶窒化硼素焼結体の硬度Hb(GPa)は、以下の手順で測定される。立方晶窒化硼素焼結体を厚み0.5mmまで加工して測定試料Aを準備する。FUTURE-TECH製ロードセル微小ビッカース硬さ試験機を用いて、荷重5kgの条件で、測定試料A(酸処理前の立方晶窒化硼素焼結体)の硬度を測定する。硬度の測定は6箇所で行い、該6箇所の硬度の平均値を、酸処理前の立方晶窒化硼素焼結体の硬度Hbとする。
【0047】
酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の硬度Haの測定は、以下の手順で行う。塩酸(95%):硝酸(95%):弗酸(95%):水=2:1:1:2の体積比で配合した酸溶液を準備する。上記測定試料Aを、140℃に加熱した酸溶液に投入し、密閉容器中で48時間酸処理を行う。酸処理後の測定試料B(立方晶窒化硼素焼結体)を酸溶液から取り出す。測定試料Bについて、上記の酸処理前の立方晶窒化硼素焼結体の硬度Hbと同様の方法で、硬度の測定を6箇所で行う。該6箇所の硬度の平均値を、酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の硬度Haとする。
【0048】
なお、出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、上記硬度Ha及び硬度Hbの測定を、測定個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定か所を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0049】
上記の酸処理により、立方晶窒化硼素焼結体の結合材を実質的に除去できるものの、酸処理後も結合材成分が残存しうる。この理由は、下記の通りと推察される。酸処理は上記酸溶液にcBN焼結体を投入する手法である。よって、cBN焼結体内部に、酸性溶液が浸透できないような領域を複数のcBN粒子が形成している場合(3重点ともいう)は、酸処理後に結合材成分が残存すると考えられる。もしくはcBN焼結体中に酸化アルミニウムなどの酸溶液に不溶の特性を持つ物質が存在した場合も、酸処理後に結合材成分が残存すると考えられる。よって、CBN粒子同士の結合力を評価するのに十分な量の結合材を除去できれば、立方晶窒化硼素焼結体の結合材を実質的に除去したと評価できる。
【0050】
上記の酸処理により、立方晶窒化硼素焼結体の結合材が実質的に除去されていることの確認は、下記の手順で行うことができる。上記の測定試料A(酸処理前のcBN焼結体)をSEM(装置:日本電子製「JSM-7800F」(商標))で観察できるように、表面を研磨加工(#2000)する。測定表面の中心を含めるように、上記SEMでラインスキャンを実施する。ラインの幅は100μm以上とする。ライン幅が100μm以上であると、測定領域におけるcBN粒子及び結合材の偏りを低減することができる。
【0051】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体の酸処理前後のSEM-EDS分析結果の一例を、
図1(酸処理前)及び
図2(酸処理後)に示す。
図1及び
図2において、横軸は試料中の測定位置(μm)を示し、縦軸は元素の存在割合(wt%)を示す。
図1及び
図2に示されるように、該立方晶窒化硼素焼結体では、Al(アルミニウム)、W(タングステン)、Cr(クロム)、Co(コバルト)、B(硼素)、N(窒素)の存在が確認される。これらの元素のうち、炭素及び窒素は立方晶窒化硼素粒子に由来し、これら以外のタングステン、アルミニウム、クロム、コバルトは結合相に由来する。
【0052】
図2に示されるように、酸処理後は立方晶窒化硼素焼結体中のN(窒素)及びB(硼素)以外の元素(
図2では、W(タングステン)、Al(アルミニウム)、Cr(クロム)、Co(コバルト))は、いずれも存在割合が低下する。これは、酸処理を行うと、立方晶窒化硼素焼結体の結合材成分が酸処理液中に溶出するためである。
【0053】
上記ラインスキャンにおいて、立方晶窒化硼素焼結体のコバルト(Cо)の存在割合(質量%)を算出する。具体的には、立方晶窒化硼素焼結体を分析している領域におけるコバルト(Co)の存在割合(質量%)の平均値X1(質量%)を測定する。立方晶窒化硼素焼結体を分析している領域は、立方晶窒化ホウ素の構成元素である硼素と窒素の存在割合(at%)の合計が他の結合材成分よりも多い事により特定される。
【0054】
次に、上記の測定試料B(酸処理後のcBN焼結体)に対して、上記測定試料Aと同様の方法で上記SEMでラインスキャンを実施する。該ラインスキャンにおいて、立方晶窒化硼素焼結体のコバルト(Cо)の存在割合(質量%)を算出する。具体的には、立方晶窒化硼素焼結体を分析している領域におけるコバルト(Co)の存在割合の平均値X2(質量%)を測定する。立方晶窒化硼素焼結体を分析している領域は、立方晶窒化ホウ素の構成元素である硼素と窒素の存在割合(at%)の合計が他の結合材成分よりも多い事により特定される。
【0055】
X2/X1が0.20以下の場合、上記酸処理により、立方晶窒化硼素焼結体の結合材が実質的に除去されていることが確認される。よって、X2/X1が0.20以下である酸処理後のcBN焼結体の硬度の測定は、cBN粒子間の結合力を測定していることに相当する。
【0056】
なお、X2/X1が0.20超の場合は、酸処理の時間を48時間超に適宜調整することにより、X2/X1を0.20以下とすることができる。
【0057】
Ha/Hb≧0.40を満たす立方晶窒化硼素焼結体は、酸処理後も硬度低下率が小さい。酸処理を行うと、立方晶窒化硼素焼結体の結合材成分が酸処理液中に溶出する。よって、酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の硬度低下率が小さいことは、立方晶窒化硼素粒子同士の結合力が強固であることを示す。従って、該立方晶窒化硼素焼結体は、工具の使用中に立方晶窒化硼素粒子の脱落が生じ難く、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有し、該立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、長い工具寿命を有することができる。
【0058】
従来の立方晶窒化硼素焼結体を用いて、例えば焼結合金を加工した場合、加工中に立方晶窒化硼素粒子の脱落が生じやすく、刃先形状が鈍化し、加工部品にバリや、白濁が発生する傾向があった。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体では、上記の通り立方晶窒化硼素粒子同士の結合力が強く、脱落が発生しにくいので、加工後の被削材の面品位を良好にすることができる。
【0059】
Ha/Hbは、Ha/Hb≧0.40を満たし、Ha/Hb≧0.53が好ましく、Ha/Hb≧0.55が更に好ましい。Ha/Hbの上限は、例えば、1以下とすることができる。Ha/Hbは、1≧Ha/Hb≧0.40、1≧Ha/Hb≧0.53、1≧Ha/Hb≧0.55とすることができる。
【0060】
Haは、例えば、14GPa以上24GPa以下、15GPa以上23GPa以下、16GPa以上24GPa以下とすることができる。
【0061】
Hbは、例えば、34GPa以上45GPa以下、35GPa以上44GPa以下、37GPa以上43GPa以下とすることができる。
【0062】
(熱拡散率)
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、酸処理前の立方晶窒化硼素焼結体の熱拡散率Kbと、立方晶窒化硼素焼結体に酸処理を行い、該立方晶窒化硼素中の結合材を実質的に除去した酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の熱拡散率Kaとが、Ka/Kb≧0.60を満たすことが好ましい。ここで、酸処理前の立方晶窒化硼素焼結体の熱拡散率Kb(mm2/s)は、立方晶窒化硼素焼結体を底辺3.9mm、頂角80°、厚さ0.5mmの2等辺三角形に切り出して測定試料Cを準備し、該測定試料Cについて、NETZSCH社製キセノンフレッシュアナライザー(LFA467 HyperFlashu商標名)を用いて測定する。
【0063】
酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の熱拡散率Ka(mm2/s)の測定は、以下の手順で行う。上記測定試料Cに酸処理を行い、酸処理後の測定試料D(立方晶窒化硼素焼結体)を作製し、その熱拡散率Ka(mm2/s)を上記測定試料Cの測定で用いた装置にて測定する。酸処理の具体的な方法は、上記の硬度の測定における方法と同一であるため、その説明は繰り返さない。
【0064】
Ka/Kb≧0.60を満たす立方晶窒化硼素焼結体は、酸処理後も熱拡散率低下率が小さい。これは、立方晶窒化硼素粒子間の熱伝導性が優れていることを示す。該立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、特に鋳鉄加工に用いた場合、熱亀裂による損傷が低減され、長い工具寿命を有することができる。
【0065】
Ka/Kbは、Ka/Kb≧0.60が好ましく、Ka/Kb≧0.90がより好ましく、Ka/Kb≧0.95が更に好ましい。Ka/Kbの上限は、例えば、1以下とすることができる。Ka/Kbは、1≧Ka/Kb≧0.60、1≧Ka/Kb≧0.90、1≧Ka/Kb≧0.95とすることができる。
【0066】
Kaは、例えば、20mm2/s以上62mm2/s以下、30mm2/s以上60mm2/s以下、40mm2/s以上58mm2/s以下とすることができる。
【0067】
Kbは、例えば、39mm2/s以上65mm2/s以下、42mm2/s以上62mm2/s以下、50mm2/s以上60mm2/s以下とすることができる。
【0068】
(曲げ試験強度)
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、酸処理前の立方晶窒化硼素焼結体の曲げ試験強度Tbと、立方晶窒化硼素焼結体に酸処理を行い、該立方晶窒化硼素中の結合材を実質的に除去した酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の曲げ試験強度Taとが、Ta/Tb≧0.30を満たすことが好ましい。ここで、酸処理前の立方晶窒化硼素焼結体の曲げ試験強度b(GPa)は、立方晶窒化硼素焼結体を0.5mm×2mm×5.8mmの板状に切り出して測定試料Eを準備し、該測定試料Eについて、3点曲げ試験機を用いて、4mmスパン、ストローク速度0.5mm/minで曲げ試験強度(GPa)を測定する。10個の測定試料Eの曲げ試験強度の平均値を立方晶窒化硼素焼結体の曲げ試験強度Tb(GPa)とする。
【0069】
酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の曲げ試験強度Ta(GPa)の測定は、以下の手順で行う。上記測定試料Eに酸処理を行い、酸処理後の測定試料F(立方晶窒化硼素焼結体)を作製し、その曲げ試験強度を3点曲げ試験機を用いて、4mmスパン、ストローク速度0.5mm/minの条件で測定する。10個の測定試料Fの曲げ試験強度の平均値を酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の曲げ試験強度Ta(GPa)とする。酸処理の具体的な方法は、上記の硬度の測定における方法と同一であるため、その説明は繰り返さない。
【0070】
Ta/Tb≧0.30を満たす立方晶窒化硼素焼結体は、酸処理後も曲げ強度の低下率が小さい。これは、立方晶窒化硼素粒子同士の結合力が強固であることを示す。従って、該立方晶窒化硼素焼結体は、特に、高強度焼結合金の加工においても、優れた耐欠損性を示す。
【0071】
Ta/Tbは、Ta/Tb≧0.30が好ましく、Ta/Tb≧0.35がより好ましく、Ta/Tb≧0.40が更に好ましい。Ta/Tbの上限は、例えば、1以下とすることができる。Ta/Tbは、1≧Ta/Tb≧0.30、1≧Ta/Tb≧0.35、1≧Ta/Tb≧0.40とすることができる。
【0072】
Taは、例えば、0.35GPa以上1.2GPa以下、0.5GPa以上1.1GPa以下、0.65GPa以上1.0GPa以下とすることができる。
【0073】
Tbは、例えば、1.2GPa以上3.0GPa以下、1.5GPa以上2.7GPa以下、1.7GPa以上2.5GPa以下とすることができる。
【0074】
<実施形態2:立方晶窒化硼素焼結体の製造方法>
上記実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体の製造方法について説明する。ただし、該立方晶窒化硼素焼結体の製造方法は、以下の方法に限定されない。実施形態2の立方晶窒化硼素焼結体の製造方法は、例えば、粗粒立方晶窒化硼素粒子(以下、「粗粒cBN粒子」とも記す。)に微粒立方晶窒化硼素粒子(以下、「微粒cBN粒子」とも記す。)を付着させて立方晶窒化硼素原料粉末(以下、「cBN原料粉末」とも記す。)を得る「立方晶窒化硼素粉末処理工程」と、立方晶窒化硼素原料粉末と、WC、CoおよびAlを含む結合材原料粉末とを混合して混合粉末を調製する「混合粉末作製工程」と、混合粉末を焼結して立方晶窒化硼素焼結体を得る「焼結工程」と、を含むことができる。
【0075】
(立方晶窒化硼素粉末処理工程)
粗粒立方晶窒化硼素粉末(平均粒子径0.2~8μm、以下「粗粒cBN粉末」とも記す。)と、微粒cBN粉末(平均粒子径0.05~0.1μm、以下「微粒cBN粉末」)とを準備する。微粒cBN粉末と粗粒cBN粉末との体積比は、20:80~1:99とすることができる。
【0076】
(静電吸着)
微粒cBN粉末に試薬PSS(poly(diallyldimethylammonium chloride)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド)を添加して30分放置する。粗粒cBN粉末に試薬PDDA(poly(sodium 4-styrenesulfonate)、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)を添加して30分間放置する。その後、微粒cBN粉末及び粗粒cBN粉末を洗浄後、これらを遊星ミルで10分間混合して混合スラリーを得る。混合スラリーを24時間放置して乾燥させて、cBN原料粉末を得る。
【0077】
得られたcBN原料粉末では、粗粒cBN粒子の表面に微粒cBN粒子が静電吸着により付着している。粗粒cBN粒子間に、焼結性に優れる微粒cBN粒子が存在することにより、該cBN原料粉末を焼結した場合に、粗粒cBN粒子間の結合力が強化される。よって、得られたcBN焼結体は、酸処理後においても高い硬度を有することができる。
【0078】
(イオン注入)
上記の静電吸着により得られたcBN原料粉末に対して、イオン注入を行うことができる。イオン注入では、例えば、イオン注入装置(住友重機械工業製「SHX-II」(商標))にて、0.2~60KeVのエネルギーでイオン照射する。イオンとしては、コバルトイオン、カルシウムイオン、ニッケルイオン、鉄イオン、アルミニウムイオン等を用いることができる。
【0079】
イオン照射を行いcBN粒子表面に元素を添加することで、cBN粒子表面に存在する微量の酸化層や、cBN粒子表面の硼素と窒素との結合(B-N結合)が不安定となる。これにより、後述の焼結工程におけるコバルト等により生じる溶解再析出が促進され、粗粒cBN粒子間の結合力が更に強化される。よって、得られたcBN焼結体は、酸処理後においても高い硬度を有することができる。
【0080】
(アンモニア処理)
上記の静電吸着により得られたcBN原料粉末に対して、アンモニア処理を行うことができる。アンモニア処理では、例えば、cBN原料粉末を100~1400℃に加熱したアンモニア雰囲気中に投入し、30~540分放置する。
【0081】
アンモニア処理を長時間行うことにより、cBN粒子表面の酸素が分解され、さらに窒素(N)及び水素(H)がcBN粒子表面に原子レベルで修飾されると予想でき、後述の焼結工程において、cBN粒子間の結合が更に促進される。よって、得られたcBN焼結体は、酸処理後においても、高い硬度とともに、高い曲げ試験強度を有することができる。
【0082】
(混合粉末作製工程)
上記で得られたcBN原料粉末と、WC、CoおよびAlを含む結合材原料粉末とを混合粉末を作製する。結合材原料粉末は、立方晶窒化硼素焼結体の結合材の原料である。
【0083】
結合材原料粉末は、次のようにして調製することができる。まず、WC粉末、Co粉末およびAl粉末を準備する。次に、各粉末を所定の比率となるように混合し、これを真空下で熱処理(たとえば1200℃)して金属間化合物を作製する。当該金属間化合物を湿式のボールミル、湿式のビーズミル等で粉砕することにより、WC、CoおよびAlを含む結合材原料粉末が調製される。なお、各粉末の混合方法は特に制限されないが、効率よく均質に混合する観点から、ボールミル混合、ビーズミル混合、遊星ミル混合、およびジェットミル混合などが好ましい。各混合方法は、湿式でもよく乾式でもよい。
【0084】
cBN原料粉末と、結合材原料粉末とは、エタノール、アセトン等を溶媒に用いた湿式ボールミル混合により混合されることが好ましい。また、混合後は自然乾燥により溶媒が除去される。その後、熱処理(たとえば、真空下で850℃以上)により、表面に吸着された水分等の不純物を除去することが好ましい。
【0085】
上記結合材原料粉末は、WC、CoおよびAlの他に、他の元素を含んでいてもよい。他の元素として好適なものは、Ni、Fe、Cr、Mn、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Re等である。
【0086】
(焼結工程)
上記で得られた混合粉末を容器に充填して真空シールする。真空シールの温度は850℃以上が好ましい。これは、シール材の融点を超える温度である。
【0087】
次に、超高温高圧装置を用いて、真空シールされた混合粉末を焼結処理して立方晶窒化硼素焼結体を得る。焼結条件は特に制限されない。例えば、圧力4.5~10GPa、温度1200℃以上1900℃以下の条件で、15分間焼結処理することができる。
【0088】
焼結時に、混合粉末に高圧高温をかけた後、低圧から高圧への圧力変化を繰り返すと、cBN粒子の表面が欠け、活性が高い新生面が現れ、cBN粒子間の結合力が強化される。この効果は、特に、静電吸着で粗粒cBN粒子に微粒cBN粒子を付着させていた場合に顕著である。よって、得られたcBN焼結体は、酸処理後においても、高い硬度とともに、高い熱拡散率を有することができる。
【実施例】
【0089】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0090】
[実施例1]
<試料1-1>
(混合粉末作製工程)
結合材原料粉末を準備する。WC粉末、Co粉末、およびAl粉末を準備し、これらを重量%でWC:Co:Al=43:40:17の比率で配合した。なお、各粉末の平均粒子径は2μmであった。これを、熱処理(真空下、950℃、30分間)して均一化し、その後、超硬ボールミルで微粉砕した。これにより、平均粒子径1μmの結合材原料粉末を得た。
【0091】
cBN原料粉末(平均粒子径1μm)と結合材原料粉末とを、体積%でcBN原料粉末:結合材原料粉末=95:5の比率で配合し、エタノールを用いた湿式ボールミル法により均一に混合した。その後、表面の水分等の不純物除去のために、真空下にて900℃で混合した粉末に脱ガス熱処理を実施した。以上により、混合粉末が作製された。
【0092】
(焼結工程)
次に、得られた混合粉末を焼結することにより、立方晶窒化硼素焼結体を作製した。具体的には、混合粉末を、WC-6%Coの超硬合金製円盤に接した状態で、Ta製の容器に充填して真空シールした。これを、ベルト型超高圧高温発生装置を用いて、7.0GPa、1700℃で15分間焼結した。これにより、立方晶窒化硼素焼結体が作製された。
【0093】
<試料1-2>
(cBN粉末処理工程)
まず、cBN原料粉末を作製した。粗粒cBN粉末(平均粒子径1μm)と、微粒cBN粉末(平均粒子径0.1μm)とを、体積比で粗粒cBN粉末:微粒cBN粉末=8:1となるように準備した。
【0094】
微粒cBN粉末に試薬PSSを添加して30分放置した。粗粒cBN粉末に試薬PDDAを添加して30分間放置した。その後、微粒cBN粉末及び粗粒cBN粉末を洗浄後、これらを遊星ミルで10分間混合して混合スラリーを得た。混合スラリーを24時間放置して乾燥させて、cBN原料粉末を得た。
【0095】
得られたcBN原料粉末をSEMで観察したところ、粗粒cBN粒子の表面に微粒cBN粒子が付着(静電吸着)していることが確認された。
【0096】
(混合粉末作製工程)
次に、結合材原料粉末を準備する。WC粉末、Co粉末、およびAl粉末を準備し、これらを重量%でWC:Co:Al=43:40:17の比率で配合した。なお、各粉末の平均粒子径は2μmであった。これを、熱処理(真空下、950℃、30分間)して均一化し、その後、超硬ボールミルで微粉砕した。これにより、平均粒子径1μmの結合材原料粉末を得た。
【0097】
cBN原料粉末と結合材原料粉末とを、体積%でcBN原料粉末:結合材原料粉末=95:5の比率で配合し、エタノールを用いた湿式ボールミル法により均一に混合した。その後、表面の水分等の不純物除去のために、真空下にて900℃で混合した粉末に脱ガス熱処理を実施した。熱処理後のcBN原料粉末をSEMで観察したところ、粗粒cBN粒子の表面に微粒cBN粒子が付着していることが確認された。以上により、混合粉末が作製された。
【0098】
(焼結工程)
次に、得られた混合粉末を焼結することにより、立方晶窒化硼素焼結体を作製した。具体的には、混合粉末を、WC-6%Coの超硬合金製円盤に接した状態で、Ta製の容器に充填して真空シールした。これを、ベルト型超高圧高温発生装置を用いて、7.0GPa、1700℃で15分間焼結した。これにより、立方晶窒化硼素焼結体が作製された。
【0099】
<試料1-3>
試料1-3は、下記の点以外は試料1-2と同様の方法で立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
「cBN粉末処理工程」での粗粒cBN粉末と微粒cBN粉末との体積比を、表1の「cBN粉末処理」の「静電吸着」の「粗粒:微粒(体積比)」欄に記載の通りとした。
cBN原料粉末と結合材原料粉末とを、体積%でcBN原料粉末:結合材原料粉末=80:20の比率で配合した。
【0100】
<試料1-11>
cBN原料粉末と結合材原料粉末とを、体積%でcBN原料粉末:結合材原料粉末=97:3の比率で配合したこと以外試料1-3と同様の方法で立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
【0101】
<試料1-12>
cBN原料粉末と結合材原料粉末とを、体積%でcBN原料粉末:結合材原料粉末=65:35の比率で配合したこと以外、試料1-3と同様の方法で立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
【0102】
<試料1-4、試料1-5、試料1-13~試料1-19>
試料1-4、試料1-5、試料1-13~試料1-19では、下記の点以外は試料1-2と同様の方法で立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
「cBN粉末処理工程」での粗粒cBN粉末と微粒cBN粉末との体積比を、表1の「cBN粉末処理」の「静電吸着」の「粗粒:微粒(体積比)」欄に記載の通りとした。
「焼結工程」での圧力を、表1の「焼結工程」の「圧力(GPa)」欄に記載の通りとした。
粗粒cBN粉末の平均粒子径を、表1の「原料」の「粗粒cBN粒子径(μm)」欄に記載の通りとした。
【0103】
<試料1-6~試料1-10>
下記の点以外は試料1-2と同様の方法で、試料1-6~試料1-10の立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
「cBN粉末処理工程」を以下の手順で行った。粗粒cBN粉末(平均粒子径1μm)と、微粒cBN粉末(平均粒子径0.1μm)とを、体積比で粗粒cBN粉末:微粒cBN粉末=8:1となるように準備した。
【0104】
微粒cBN粉末に試薬PSSを添加して30分放置した。粗粒cBN粉末に試薬PDDAを添加して30分間放置した。その後、微粒cBN粉末及び粗粒cBN粉末を洗浄後、これらを遊星ミルで10分間混合して混合スラリーを得た。混合スラリーを24時間放置して乾燥させて、cBN原料粉末を得た。
【0105】
得られたcBN原料粉末に、イオン注入装置にて、100KeVのエネルギーで表1の「cBN粉末処理」の「イオン注入」の「注入元素」欄に記載の元素を照射した。例えば、試料1-6では、コバルト(Co)を照射した。
【0106】
照射後のcBN原料粉末をTEM-EELSで観察したところ、粗粒cBN粒子の表面に微粒cBN粒子が付着(静電吸着)し、さらに表面付近にCoが存在していることが確認された。
【0107】
<試料1-20>
下記の点以外は試料1-4と同様の方法で、試料1-20の立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
「混合粉末作製工程」において、cBN原料粉末:結合材原料粉末=60:40の比率で配合した。
【0108】
<試料1-21>
下記の点以外は試料1-4と同様の方法で、試料1-20の立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
「混合粉末作製工程」において、cBN原料粉末:結合材原料粉末=97:3の比率で配合した。
「焼結工程」において、超硬合金製円盤を用いずに焼結した。
【0109】
<評価>
(立方晶窒化硼素の含有率)
各立方晶窒化硼素焼結体中の立方晶窒化硼素の含有率をSEMを用いて測定した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載されているためその説明は繰り返さない。結果を表1の「cBN焼結体」の「cBN含有率(体積%)」欄に示す。
【0110】
試料1-1~試料1-19では、混合粉末中のcBN原料粉末の割合よりも、立方晶窒化硼素焼結体中の立方晶窒化硼素の割合の方が小さい。これらの試料では、焼結工程において、混合粉末を超硬合金製円盤に接した状態で焼結する。このため、焼結中に混合粉末中に超硬合金成分が流入し、混合粉末中のcBN原料粉末中の混合比率が変化して、表1に記載の通りの割合になったと推察される。
【0111】
<結合材の組成>
各立方晶窒化硼素焼結体から、長さ6mm、幅3mm、厚み0.45~0.50mmの試験片を切り出し、該試験片に対してXRD分析を実施した。次に、密閉容器内において、各試験片を140℃の弗硝酸(濃硝酸(60%):蒸留水:濃弗酸(47%)=2:2:1の体積比混合の混合酸)に48時間浸漬し、結合材が溶解された酸処理液を得た。当該酸処理液に対してICP分析を実施した。そして、XRD分析の結果およびICP分析の結果から、結合材の組成を特定した。
【0112】
全ての試料において、少なくともWC、Co、およびAl化合物が存在することが確認された。なおAl化合物に関し、XRDにおいて明瞭なピークが検出されなかった。これはXRD装置にCu線源を用いているためCoによるバックグラウンドノイズが大きいため、少量のAl化合物が検出できなかったと推察された。
【0113】
<硬度>
各立方晶窒化硼素焼結体の酸処理前の硬度Hb(GPa)を測定した。各立方晶窒化硼素焼結体の酸処理後の硬度Ha(GPa)を測定した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載されているためその説明は繰り返さない。上記Ha及びHbに基づき、各試料のHa/Hbを算出した。結果を表1の「cBN焼結体」の「Ha/Hb」欄に示す。
【0114】
なお、各酸処理後の測定試料(立方晶窒化硼素焼結体)において、上記X2/X1を測定したところ、全ての測定試料において、X2/X1は0.09以下であり、立方晶窒化硼素中の結合材が実質的に除去されていることが確認された。上記X2/X1の測定方法の詳細は、実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。
【0115】
<切削試験:焼結合金切削>
作製された各立方晶窒化硼素焼結体を用いて切削工具(基材形状:TNGA160404、刃先処理T01225)を作製した。これを用いて、以下の切削条件下で切削試験を実施した。
【0116】
切削速度:180m/min.
送り速度:0.1mm/rev.
切込み:0.2mm
クーラント:DRY
切削方法:端面連続切削
旋盤:LB4000(オークマ株式会社製)
被削材:円筒状焼結部品(住友電工焼結合金社製の焼結合金D-40の端面切削:HRB75)
【0117】
評価方法:切削距離0.1km毎に刃先を観察し、逃げ面摩耗量を測定した。最大逃げ面摩耗量が200μm以上となる時点の切削距離を測定した。切削距離は横軸切削距離km、縦軸最大逃げ面摩耗量を各々の試料についてプロットし、プロット間を直線で補間しグラフを得たうえで、グラフの値が200μmとなる切削距離を読み取った。切削距離が長いほど、工具寿命が長いことを示す。結果を表1の「切削試験」の「切削距離(km)」欄に示す。
【0118】
【0119】
<考察>
試料1-1、試料1-20、試料1-21は比較例に該当する。試料1-2~試料1-19は実施例に該当する。試料1-2~試料1-19(実施例)は、試料1-1、試料1-20、試料1-21(比較例)に比べて、工具寿命が長いことが確認された。
【0120】
[実施例2]
<試料2-1>
試料2-1では、試料1-4と同様の方法で立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
【0121】
<試料2-2~試料2-5>
試料2-2~試料2-5では、下記の点以外は試料2-1と同様の方法で立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
「焼結工程」において、7GPaまで加圧した後、1700℃まで加熱した。その後、焼結時間15分の間で、表2の「焼結工程」の「加圧プロファイル(GPa)」に記載の通り、圧力を変化させた。例えば、試料2-2では、焼結時間15分の間で圧力を7GPa→6GPa→7GPaと変化させた。
【0122】
<試料2-6>
cBN原料粉末と結合材原料粉末とを、体積%でcBN原料粉末:結合材原料粉末=80:20の比率で配合したこと以外、試料2-5と同様の方法で立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
【0123】
<試料2-7>
cBN原料粉末と結合材原料粉末とを、体積%でcBN原料粉末:結合材原料粉末=65:35の比率で配合したこと以外、試料2-5と同様の方法で立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
【0124】
<試料2-8>
cBN原料粉末と結合材原料粉末とを、体積%でcBN原料粉末:結合材原料粉末=97:3の比率で配合したこと以外、試料2-5と同様の方法で立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
【0125】
<評価>
各立方晶窒化硼素焼結体について、立方晶窒化硼素の含有率、結合材の組成、硬度を測定した。それぞれの測定方法は、実施例1と同様であるため、その説明は繰り返さない。
【0126】
各試料の立方晶窒化硼素の含有率を表2の「cBN焼結体」の「cBN含有率(体積%)」欄に示す。
結合材の組成は、全ての試料において、少なくともWC、Co、およびAl化合物が存在することが確認された。なおAl化合物に関し、XRDにおいて明瞭なピークが検出されなかったことから、Al化合物は、複数のAl化合物からなる複合化合物であると推察された。
各試料のHa/Hbを表2の「cBN焼結体」の「Ha/Hb」欄に示す。
【0127】
<熱拡散率>
各立方晶窒化硼素焼結体の酸処理前の熱拡散率Kb(mm2/s)を測定した。各立方晶窒化硼素焼結体の酸処理後の熱拡散率Ka(mm2/s)を測定した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載されているためその説明は繰り返さない。上記Ka及びKbに基づき、各試料のKa/Kbを算出した。結果を表2の「cBN焼結体」の「Ka/Kb」欄に示す。
【0128】
なお、各酸処理後の測定試料(立方晶窒化硼素焼結体)において、上記X2/X1を測定したところ、全ての測定試料において、X2/X1は0.09以下であり、立方晶窒化硼素中の結合材が実質的に除去されていることが確認された。上記X2/X1の測定方法の詳細は、実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。
【0129】
<切削試験:鋳鉄ミリング評価(残WET)>
作製された各立方晶窒化硼素焼結体を用いて切削工具(基材形状:SNGN090308LE、ホルダ:RM3080R、SNGN090308、刃先処理T01225)を作製した。これを用いて、以下の切削条件下で切削試験を実施した。
【0130】
切削速度:1000m/min.
送り速度:0.15mm/rev.
切込み:0.4mm
クーラント:エマルション96 水で20倍に希釈
設備:NEXUS 530C-II HS(ヤマザキマザック株式会社製)
被削材:FC250パーライト板2枚を同時加工
【0131】
評価方法:20パスごとに刃先を確認し、100μm以上のチッピング又は欠損が出た場合を工具寿命とした。1パス当たりの除去体積は切込み量(0.4mm=0.0004cm)×被削材の切削面の面積(cm2)×2(枚)にて計算した。除去体積が長いほど、工具寿命が長いことを示す。結果を表2の「切削試験」の「除去体積(cm3)」欄に示す。
【0132】
【0133】
<考察>
試料2-1~試料2-8は実施例に該当し、いずれも工具寿命が長いことが確認された。
【0134】
これらのうち、試料2-2~試料2-8はKa/Kb≧0.60を満たし、工具寿命が特に長いことが確認された。これらの試料では、焼結工程において、圧力を高圧→低圧と繰り返し変化させたため、粗粒cBN粒子に静電吸着で付着した微粒cBN粒子が、粗粒cBN粒子同士の結合を促進させたためと推察される。
【0135】
[実施例3]
<試料3-1>
試料3-1では、試料1-4と同様の方法で立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
【0136】
<試料3-2~試料3-6>
試料3-2~試料3-6では、下記の点以外は試料3-1と同様の方法で立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
「cBN粉末処理工程」において、静電吸着により得られたcBN原料粉末に対してアンモニア処理を行った。アンモニア処理の温度及び時間を表3の「アンモニア処理」の「温度、時間」欄に示す。
「焼結工程」での圧力を、表3の「焼結工程」の「圧力(GPa)」欄に記載の通りとした。
【0137】
<試料3-7>
cBN原料粉末と結合材原料粉末とを、体積%でcBN原料粉末:結合材原料粉末=80:20の比率で配合したこと以外、試料3-6と同様の方法で立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
【0138】
<試料3-8>
cBN原料粉末と結合材原料粉末とを、体積%でcBN原料粉末:結合材原料粉末=65:35の比率で配合したこと以外、試料3-6と同様の方法で立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
【0139】
<試料3-9>
cBN原料粉末と結合材原料粉末とを、体積%でcBN原料粉末:結合材原料粉末=97:3の比率で配合したこと以外、試料3-6と同様の方法で立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
【0140】
<評価>
各立方晶窒化硼素焼結体について、立方晶窒化硼素の含有率、結合材の組成、硬度を測定した。それぞれの測定方法は、実施例1と同様であるため、その説明は繰り返さない。
【0141】
各試料の立方晶窒化硼素の含有率を表3の「cBN焼結体」の「cBN含有率(体積%)」欄に示す。
結合材の組成は、全ての試料において、少なくともWC、Co、およびAl化合物が存在することが確認された。なおAl化合物に関し、XRDにおいて明瞭なピークが検出されなかったことから、Al化合物は、複数のAl化合物からなる複合化合物であると推察された。
各試料のHa/Hbを表3の「cBN焼結体」の「Ha/Hb」欄に示す。
【0142】
<曲げ試験強度>
各立方晶窒化硼素焼結体の酸処理前の曲げ試験強度Tb(GPa)を測定した。各立方晶窒化硼素焼結体の酸処理後の曲げ試験強度Ta(GPa)とした。具体的な測定方法は、実施形態1に記載されているためその説明は繰り返さない。上記Ta及びTbに基づき、各試料のTa/Tbを算出した。結果を表3の「cBN焼結体」の「Ta/Tb」欄に示す。
【0143】
なお、各酸処理後の測定試料(立方晶窒化硼素焼結体)において、上記X2/X1を測定したところ、全ての測定試料において、X2/X1は0.09以下であり、立方晶窒化硼素中の結合材が実質的に除去されていることが確認された。上記X2/X1の測定方法の詳細は、実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。
【0144】
<切削試験:高強度焼結合金切削>
作製された各cBN焼結体を用いて切削工具(基材形状:CNGA120408、刃先処理T01225)を作製した。これを用いて、以下の切削条件下で切削試験を実施した。
【0145】
切削速度:170m/min.
送り速度:0.1mm/rev.
切込み:0.13mm
クーラント:DRY
切削方法:端面断続切削
旋盤:LB4000(オークマ株式会社製)
被削材:スプロケット(住友電工焼結合金社製の焼結合金DM-50(焼入)の端面切削:HV440)
【0146】
評価方法:0.5km毎に刃先を観察し、逃げ面摩耗量を測定した。逃げ面の欠損幅が100μm以上となる時点の切削距離を測定した。切削距離が長いほど、工具寿命が長いことを示す。結果を表3の「切削試験」の「切削距離(km)」欄に示す。
【0147】
【0148】
<考察>
試料3-1~試料3-9は実施例に該当し、いずれも工具寿命が長いことが確認された。
【0149】
これらのうち、試料3-4~試料3-9はTa/Tb≧0.35を満たし、工具寿命が特に長いことが確認された。この理由は、アンモニア処理時間が長いため、CBN表面の酸素がより低減されたことで、CBN同士の結合力が向上したためと推察される。
【0150】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【要約】
立方晶窒化硼素焼結体は、80体積%以上96体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、前記結合材は、炭化タングステン、コバルト及びアルミニウム化合物を含み、前記立方晶窒化硼素焼結体の硬度Hbと、前記立方晶窒化硼素焼結体に酸処理を行い、前記立方晶窒化硼素焼結体中の前記結合材を実質的に除去した酸処理後立方晶窒化硼素焼結体の硬度Haとが、Ha/Hb≧0.40を満たす。