(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20220428BHJP
B60K 35/00 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/00 A
(21)【出願番号】P 2018066534
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】菊地 裕太
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-004889(JP,A)
【文献】特開2016-045348(JP,A)
【文献】特開2017-067944(JP,A)
【文献】特開2016-161773(JP,A)
【文献】特開2012-056334(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0045738(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
B60K 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方(201)の幅が下方(202)の幅より短い虚像表示可能領域(200)内に虚像(V)を表示可能なヘッドアップディスプレイ装置において、
表示画像(M)を表示する表示器(10)と、
前記表示器(10)が表示する前記表示画像(M)の表示光を反射する第1反射面(20)と、
前記第1反射面(20)が反射する前記表示画像(M)の前記表示光を表示部材(2)に反射し、正のパワーを有する第2反射面(30)と、を備え、
前記第2反射面(30)は、前記虚像表示可能領域(200)の上方(201)に前記虚像
(V)を表示させる第1表示光(101)を反射する第1反射領域(H1)の幅(W1)が、前記虚像表示可能領域(200)の下方(202)に前記虚像(V)を表示させる第2表示光(102)を反射する第2反射領域(H2)の幅(W2)より小さく、前記第2反射領域(H2)の近傍の幅(W)の変化率が、前記第1反射領域(H1)の近傍の幅(W)の変化率より小さい、
ことを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記第2反射面(30)は、前記第1反射領域(H1)と前記第2反射領域(H2)との間に第3反射領域(H3)を有し、前記第2反射領域(H2)から前記第3反射領域(H3)までの間の前記第2反射面(30)の幅(W)の変化率が、前記第3反射領域(H3)から前記第1反射領域(H1)までの間の前記第2反射面
(30)の幅(W)の変化率より小さい、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記第2反射面(30)は、前記第2反射領域(H2)から前記第3反射領域(H3)までの間の前記第2反射面(30)の幅(W)の変化率が、前記第3反射領域(H3)から前記第1反射領域(H1)までの間の前記第2反射面
(30)の幅(W)の変化率より緩やかとする、
ことを特徴とする請求項2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記第2反射面(30)は、前記第2反射領域(H2)から前記第3反射領域(H3)までの間の前記第2反射面(30)の幅(W)の変化率がゼロである、
ことを特徴とする請求項2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、虚像を表示するヘッドアップディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドアップディスプレイ装置は、例えば、車両に搭載され、運転者の視線の先の風景(前景)に、各種の情報を重ねて表示するものである。運転者は、視線を前方の路面や物体に保ったままで、運転に必要な情報を視認することができる。
【0003】
特許文献1で知られているヘッドアップディスプレイ装置は、表示光を上方へ出射する表示器と、この表示器から出射された表示光を水平方向へ反射する第1ミラーと、この第1ミラーによって反射された表示光を更にウインドシールドへ向かって反射する第2ミラーと、を含む。表示器は、第2ミラーの下に配列されている。運転者は、ウインドシールドに映し出された表示光(表示像)を見て、車両前方の風景、つまり前景と共に見える虚像として、認識することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
典型的なヘッドアップディスプレイ装置では、表示光をウインドシールドに向けて反射する第2ミラーは、拡大機能を有する凹面鏡であり、表示器が表示した画像を拡大してウインドシールドへ反射するため、表示する虚像が大きくなるに従い、表示光を反射する第2ミラーの反射面を大きくする必要があった。
【0006】
ミラーの反射面が大きくなると、ヘッドアップディスプレイ装置の外部から侵入する外光(典型的には、太陽光)により迷光が発生しやすくなるおそれがあった。
【0007】
本発明は、外光による迷光の発生を抑制するヘッドアップディスプレイ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様のヘッドアップディスプレイ装置は、上方(201)の幅が下方(202)の幅より短い虚像表示可能領域(200)内に虚像(V)を表示可能なヘッドアップディスプレイ装置において、表示画像(M)を表示する表示器(10)と、前記表示器(10)が表示する前記表示画像(M)の表示光を反射する第1反射面(20)と、前記第1反射面(20)が反射する前記表示画像(M)の前記表示光を表示部材(2)に反射し、正のパワーを有する第2反射面(30)と、を備え、前記第2反射面(30)は、前記虚像表示可能領域(200)の上方(201)に前記虚像Vを表示させる第1表示光(101)を反射する第1反射領域(H1)の幅(W1)が、前記虚像表示可能領域(200)の下方(202)に前記虚像(V)を表示させる第2表示光(102)を反射する第2反射領域(H2)の幅(W2)より小さく、前記第2反射領域(H2)の近傍の幅(W)の変化率が、前記第1反射領域(H1)の近傍の幅(W)の変化率より小さい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヘッドアップディスプレイ装置の小型化を図り、車両への搭載性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置の構成を示す図である。
【
図2】上記実施形態におけるヘッドアップディスプレイ装置が生成する虚像表示可能領域の例を示す図である。
【
図3A】上記実施形態における第2ミラーの形状を説明する図であり、左図は、第2ミラーの正面図であり、右図は、第2ミラーの幅の変化を示すグラフである。
【
図3B】上記実施形態における第2ミラーの形状を他の例を説明する図であり、左図は、第2ミラーの正面図であり、右図は、第2ミラーの幅の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置(以下では、HUD装置と呼ぶ)について図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は、HUD装置1の構成を示す図であり、視認者(主に運転者)3が前方を向いた際の左右方向(HUD装置1が搭載される車両の車幅方向とも言える)をX軸(左方向をX軸正方向)と規定し、上下方向をY軸(上方をY軸正方向)と規定し、前後方向をZ軸(前方をZ軸正方向)と規定する。なお、
図1には、虚像表示可能領域200の上領域201に虚像Vを生成する第1表示光101と、虚像表示可能領域200の下領域202に虚像Vを生成する第2表示光102のみを図示し、それ以外の表示光100は省略する。
【0013】
HUD装置1は、
図1に示すように、表示画像Mを表示する表示器10と、表示器10が表示する表示画像Mの表示光100をアイボックスに向けるリレー光学系である第1ミラー20及び第2ミラー30と、これら表示器10と第1ミラー20及び第2ミラー30を収納する図示しないハウジングと、HUD装置1の電気的な制御を行う図示しない制御部と、を備える。HUD装置1は、表示器10の表示面12を、リレー光学系を介して、視認者3の前方に位置するウインドシールド(表示部材の一例)2に映すことで、表示面12に対応した仮想的な虚像表示可能領域200を生成する。HUD装置1は、表示面12上に表示画像Mを表示することで、虚像表示可能領域200上に、表示画像Mに基づく虚像Vを表示する。
【0014】
前記ハウジングは、硬質の樹脂材料等から箱状に形成されている。前記ハウジングの周壁のうちウインドシールド2に対向する部位に開口(図示しない)が形成されている。前記開口部は、透明な樹脂材料等から形成された透光部(図示しない)により塞がれている。表示光100は、透光部を透過して前記ハウジング内からウインドシールド2に向かう。前記ハウジング内には、前記制御部を除くHUD装置1の各構成が内蔵されている。
【0015】
図2は、本実施形態のHUD装置1において、視認者3が前方を向いた際に表示部材2を介して視認される前景4と虚像Vとを示す図であり、実際には視認者3に視認されないが虚像表示可能領域200も図示してある。本実施形態のHUD装置1が生成する虚像表示可能領域200は、上領域201の幅(車幅方向Xの長さ)が、下領域202の幅より短い台形であり、右端(右辺)203の上側(Y軸正方向)が左側(X軸正方向)に向けて傾き、左端(左辺)204の上側(Y軸正方向)が右側(X軸負方向)に向けて傾く。虚像表示可能領域200は、全部又は大部分が、自車両が走行する車線(車道)と重なるように配置され、視認者3から見て、虚像表示可能領域200の右端(右辺)203と直線の車線(車道)の右端(
図2では反対車線との境界である中央線)との角度差と、左端(左辺)204と直線の車線(車道)の左端(
図2では路側帯との境界である車道外側線)との角度差とは、それぞれ±20[degree]以内である。なお、虚像表示可能領域200の上領域(上辺)201と下領域(下辺)202は、必ずしも平行でなくてもよい。
【0016】
図1に戻る。表示器10は、画像生成部11で生成した表示画像Mを表示面12に表示するものである。画像生成部11は、例えば、LCDからなる透過型表示デバイス、有機ELなどの自発光型表示デバイス、DMDやLCoS(登録商標)などを用いた反射型投射デバイス、あるいはレーザー光を走査するレーザー光投射デバイスなどである。表示面12は、画像生成部11が、透過型表示デバイスまたは自発光型表示デバイスである場合、表示デバイスの表面であり、画像生成部11が、反射型投射デバイス、レーザー光投射デバイスである場合、画像生成部11からの光が投射されるスクリーンである。
【0017】
表示器10は、表示面12上に表示画像Mを表示することで、第1ミラー20に向けて表示画像Mに基づく表示光100を出射する。表示器10は、虚像表示可能領域200の上領域201に対応する表示面12上の第1表示領域13から第1ミラー20の反射領域21に向けて出射し、虚像表示可能領域200の下領域202に対応する表示面12上の第2表示領域14から第1ミラー20の反射領域22に向けて出射する。なお、第1表示領域13からの第1表示光101の第2ミラー30までの光路長が、第2表示領域14からの第2表示光102の第2ミラー30までの光路長より長くなるように配置されてもよい。これにより、視認者3を基準に、虚像表示可能領域200の上領域201を下領域202より遠方に配置することができる。例えば、虚像表示可能領域200は、
図1に示されるY軸と概ね平行な位置からX軸を中心にCCW方向に90[degree]以内で傾けられてもよい。
【0018】
なお、表示器10の表示面12は、虚像表示可能領域200の上領域201の左右方向の長さに対応する表示面12の第1表示領域13の幅(X軸方向の長さ)が、虚像表示可能領域200の下領域202の左右方向の長さに対応する表示面12の第2表示領域14の幅(X軸方向の長さ)より短くなるように形成されてもよい。一般に、ウインドシールド2の面は曲面状である。また、表示面12から出射された表示光100は、複数のミラー(第1ミラー20,第2ミラー30)によって数回反射された後に、ウインドシールド2の面に映し出される。このため、通常は視認者に視認される虚像Vが歪む。これに対し、本実施形態のHUD装置1では、表示面12に表示される表示画像Mを、生じてしまう歪みを打ち消す方向に予め歪ませて表示させることによって、視認者に視認される虚像Vの歪みを相殺している。このことを踏まえると、台形の虚像表示可能領域200を生成するための最小限の表示面12の輪郭は、実際に生成される虚像表示可能領域200の形状(例えば、完全な台形)の相似形状を若干歪ませた形状とすることが好ましい。
【0019】
第1ミラー20は、平面鏡であり、表示器10で出射された表示光100を第2ミラー30に向けて反射する。なお、第1ミラー20は、虚像表示可能領域200の上領域201を生成する第1表示光101を反射する反射領域21の幅(X軸方向の長さ)が、虚像表示可能領域200の下領域202を生成する第2表示光102を反射する反射領域22の幅(X軸方向の長さ)より短くなるように形成されてもよい。
【0020】
他の例として、第1ミラー20は、反射面における直交する方向でそれぞれ異なる光学的パワーを有する自由曲面ミラーであり、表示器10で出射された表示光100を第2ミラー30に向けて反射し、反射した表示光100を第1ミラー20に到達する前に上下でクロスさせる曲率を有してもよい。具体的には、第1ミラー20は、虚像表示可能領域200の上領域201を生成する第1表示光101と下領域202を生成する第2表示光102とが、第2ミラー30との間でクロスするように収束させる正の光学的パワーを有していてもよい。
【0021】
第2ミラー30は、主に表示器10に表示された表示画像Mを拡大して、ウインドシールド2に映す機能を有する凹状の自由曲面ミラーであり、第1ミラー20が反射した表示光100をウインドシールド2に向けて反射する。なお、第2ミラー30は、虚像Vの歪みを抑制する機能を有していてもよい。第2ミラー30は、第1反射領域H1が、第2反射領域H2より自車両の進行方向と反対方向(Z軸負方向)に配置される。言い換えると、第1反射領域H1は、前後方向Zにおいて、第2反射領域H2より視認者3の近くに配置される。また、第2ミラー30を回転又は/及び移動させる駆動部30aがさらに設けられていてもよい。
(第2ミラー30の形状)
【0022】
図3A,
図3Bは、第2ミラー30の形状を示す図であり、左図は第2ミラー30の正面図であり、右図は第2ミラー30の幅Wの変化を示すグラフであり、横軸が第2ミラー30の幅Wを示し、縦軸が第2ミラー30の縦方向の位置Hである。第2ミラー30は、虚像表示可能領域200の上領域201を生成する第1表示光101を反射する第1反射領域H1と、虚像表示可能領域200の下領域202を生成する第2表示光102を反射する第2反射領域H2と、第1反射領域H1と第2反射領域H2との間の第3反射領域H3と、を備え、第2反射領域H2から第3反射領域H3までの間の第2ミラー30の幅Wの変化率を、第3反射領域H3から第1反射領域H1までの間の第2ミラー30の幅Wの変化率より小さくする。すなわち、虚像表示可能領域200の下領域202を生成する第2表示光102を反射する第2反射領域H2から途中(第3反射領域H3)までの間の第2ミラー30の幅Wを、
図3Aに示すように均等にしてもよく、
図3Bに示すように他の領域と比較して緩やかに変化させてもよい。
【0023】
以上に説明したように、本実施形態のHUD装置1では、視認者3から見て、虚像表示可能領域200の上領域201に虚像Vを表示させる第1表示光101を反射する第1反射領域H1の幅W1を、虚像表示可能領域200の下領域202に虚像Vを表示させる第2表示光102を反射する第2反射領域H2の幅W2より小さくし、第2反射領域H2の近傍の幅Wの変化率を、第1反射領域H1の近傍の幅Wの変化率より小さくしている。このように、第2表示光102を反射する第2反射領域H2近傍の幅Wが広範囲(H2からH3)で長く保たれているため、虚像Vを表示可能な虚像表示可能領域200が、上領域201の幅が下領域202の幅より短いHUD装置1において、視認者3の目の高さが変化する又は目の高さが違う別の視認者3が自車両に搭乗した場合であっても、第2表示光102を幅Wが長い第2反射領域H2近傍で表示部材2に向けて反射することができる。言い換えると、視認者3の目の高さが変化する又は目の高さが違う別の視認者3が自車両に搭乗した場合であっても、第2表示光102の一部が第2ミラー30の反射面から外れにくくすることができる。
【0024】
なお、少なくとも第2ミラー30の反射面の形状が、
図3A、
図3Bで示した形状であればよく、第2ミラーの外形形状がこのような形状でなくてもよい。例えば、矩形状の樹脂板又はガラス板の表面に、
図3A、
図3Bで示した形状の反射面を形成してもよい。この場合、反射面が形成されていない領域は、余分な領域となるが、反射面のサイズを小さく抑えることができるため、迷光を低減させることができる。
【0025】
以上のように、本出願において開示する技術の例示として実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施形態にも適用することができる。また、本出願で開示する各構成要素を組み合わせて、新たな実施例とすることも可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 :HUD装置(ヘッドアップディスプレイ装置)
2 :ウインドシールド(表示部材)
3 :視認者
4 :前景
10 :表示器
11 :画像生成部
12 :表示面
13 :第1表示領域
14 :第2表示領域
20 :第1ミラー
30 :第2ミラー
100 :表示光
101 :第1表示光
102 :第2表示光
200 :虚像表示可能領域
201 :上領域
202 :下領域
H1 :第1反射領域
H2 :第2反射領域
H3 :第3反射領域
M :表示画像
V :虚像