IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ車体株式会社の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両用バッテリー取付構造 図1
  • 特許-車両用バッテリー取付構造 図2
  • 特許-車両用バッテリー取付構造 図3
  • 特許-車両用バッテリー取付構造 図4
  • 特許-車両用バッテリー取付構造 図5
  • 特許-車両用バッテリー取付構造 図6
  • 特許-車両用バッテリー取付構造 図7
  • 特許-車両用バッテリー取付構造 図8
  • 特許-車両用バッテリー取付構造 図9
  • 特許-車両用バッテリー取付構造 図10
  • 特許-車両用バッテリー取付構造 図11
  • 特許-車両用バッテリー取付構造 図12
  • 特許-車両用バッテリー取付構造 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】車両用バッテリー取付構造
(51)【国際特許分類】
   B60R 16/04 20060101AFI20220428BHJP
   H01M 50/20 20210101ALI20220428BHJP
【FI】
B60R16/04 E
H01M50/20
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018190847
(22)【出願日】2018-10-09
(65)【公開番号】P2020059354
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬木 真琴
(72)【発明者】
【氏名】小林 督矢
(72)【発明者】
【氏名】今井 康夫
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-108789(JP,A)
【文献】実開平04-085571(JP,U)
【文献】特開2017-114221(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02527205(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/04
H01M 50/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面にリブが設けられたバッテリーを車両に取付ける車両用バッテリー取付構造であって、
上記車両に固定されるバッテリートレイと、
上記バッテリーの上記リブを係止するために上記バッテリートレイの内壁面に設けられた係止部と、
上記係止部に係止された上記リブを押さえるための押さえ部材と、
上記押さえ部材を上記バッテリートレイに締付け固定する固定部材と、
を備え、
上記係止部及び上記押さえ部材の少なくとも一方には、上記バッテリーの取付け時に上記リブの上面に対向する対向面から上記上面と係合可能に突出した複数の係合突起が設けられ、上記複数の係合突起はいずれも、上記リブの上記上面に向けて突出し且つ上記対向面の傾斜に沿った線状係合突起であり、
上記バッテリートレイには、上記バッテリーをこのバッテリーが載置される載置面に沿って挿入出させるための開口部が設けられており、
上記線状係合突起は、上記バッテリートレイを上方から視たとき上記開口部における上記バッテリーの挿出方向と交差する方向に延びている、車両用バッテリー取付構造。
【請求項2】
上記係止部は、上記バッテリートレイの樹脂成形時に一体成形されており、
上記線状係合突起は、上記バッテリートレイの樹脂成形時の型抜き方向に延びるよう構成されている、請求項1に記載の車両用バッテリー取付構造。
【請求項3】
上記複数の係合突起は、上記バッテリートレイに置かれた上記バッテリーに対して上記車両の想定される衝突方向の後方側に位置するように構成されている、請求項1または2に記載の車両用バッテリー取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用バッテリー取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のバッテリー取付構造として、下記の特許文献1に開示のバッテリキャリアが知られている。このバッテリキャリアは、側面にリブを有するタイプのバッテリーに使用されるものであり、バッテリートレイとしてのベース部材と、そのベース部材にボルトにより固定されるクランプ部材と、を備えている。また、ベース部材の本体の側壁には、バッテリに向けて突出した係止部が設けられている。
【0003】
このバッテリキャリアにおいて、バッテリーをベース部材の取付位置に配置することによって、バッテリーの複数の側面に設けられているリブの上面が係止部の下面に当接する。その後、バッテリーの残りの側面に設けられているリブがベース部材とクランプ部材とで上下から挟み込まれる。このバッテリキャリアによれば、クランプ部材とベース部材の係止部との両方によってバッテリーのリブを上方から抑え込んで保持できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-70089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、重量物であるバッテリーは、車両の衝突時などの状況下でバッテリートレイから持ち上がる方向に過大な応力を受ける。このとき、バッテリーを保持するためのバッテリー保持性能が低いと、バッテリーが上記の応力にしたがってバッテリートレイから浮き上がる方向に動いて滑り易くなるため、バッテリーが不安定な状態になり得る。
【0006】
ここで、上記のバッテリキャリアを使用した場合、上記の応力によってバッテリートレイから浮き上がろうとするバッテリーの動きを、クランプ部材とベース部材の係止部との両方によって規制できる。しかしながら、このバッテリキャリアでは、バッテリートレイに対するバッテリーのガタツキを十分に抑えることができず、車両の衝突時などのように過大な衝撃を受け得る状況下で要求されるバッテリー保持性能を得ることが難しい。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、バッテリー保持性能を高めることができる車両用バッテリー取付構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
側面にリブが設けられたバッテリーを車両に取付ける車両用バッテリー取付構造であって、
上記車両に固定されるバッテリートレイと、
上記バッテリーの上記リブを係止するために上記バッテリートレイの内壁面に設けられた係止部と、
上記係止部に係止された上記リブを押さえるための押さえ部材と、
上記押さえ部材を上記バッテリートレイに締付け固定する固定部材と、
を備え、
上記係止部及び上記押さえ部材の少なくとも一方には、上記バッテリーの取付け時に上記リブの上面に対向する対向面から上記上面と係合可能に突出した複数の係合突起が設けられ、上記複数の係合突起はいずれも、上記リブの上記上面に向けて突出し且つ上記対向面の傾斜に沿った線状係合突起であり、
上記バッテリートレイには、上記バッテリーをこのバッテリーが載置される載置面に沿って挿入出させるための開口部が設けられており、
上記線状係合突起は、上記バッテリートレイを上方から視たとき上記開口部における上記バッテリーの挿出方向と交差する方向に延びている、車両用バッテリー取付構造、
にある。
【発明の効果】
【0009】
上記の態様において、バッテリーは、車両に固定されるバッテリートレイに置かれた状態でこのバッテリートレイに取付けられる。バッテリーの取付け時に、バッテリートレイに設けられている係止部によってバッテリーのリブが係止される。そして、係止部に係止されたリブを押さえ部材で押さえた状態で、この押さえ部材を固定部材でバッテリートレイに締付け固定することによって、このバッテリートレイにバッテリーが取付けられる。
【0010】
このとき、係止部及び押さえ部材の少なくとも一方の対向面に設けられた複数の係合突起が、バッテリーのリブの上面に押し付けられることによって、バッテリーを保持するためのバッテリー保持性能が高まる。これにより、バッテリートレイに対するバッテリーのガタツキを複数の係合突起を利用して抑えることができる。
【0011】
また、バッテリーがバッテリートレイに取付けられた状態で車両の衝突時などのように過大な衝撃を受けた場合には、バッテリーがバッテリートレイに対して浮き上がる方向に応力を受けるため、複数の係合突起をバッテリーのリブの上面に押し付ける力が強まる。これにより、バッテリーが上記の応力によってバッテリートレイから外れようとする動きを防ぐことができる。
【0012】
以上のごとく、上記の態様によれば、バッテリー保持性能を高めることができる車両用バッテリー取付構造を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】バッテリーが取付けられた車両の一部を示す斜視図。
図2】実施形態1に係るバッテリートレイの斜視図。
図3図2のバッテリートレイの平面図。
図4図3のバッテリートレイの内壁面の一部をバッテリーの挿入方向について視た図。
図5図2においてバッテリーが挿入方向にスライドするときの様子を示す斜視図。
図6図2においてバッテリーが取付位置までスライドした後の様子を示す斜視図。
図7】実施形態1の車両用バッテリー取付構造の平面図。
図8図7のVIII-VIII線矢視断面図。
図9図8のA領域の部分拡大図。
図10図9において係合突起の突出高さとバッテリーのリブの潰し代寸法とを説明するための断面図。
図11】実施形態2の車両用バッテリー取付構造の平面図。
図12図11のXII-XII線矢視断面図。
図13図12のB領域の部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上述の態様の好ましい実施形態について以下に説明する。
【0015】
上記の車両用バッテリー取付構造において、上記複数の係合突起はいずれも、線状に延びる線状係合突起として構成されているのが好ましい。
【0016】
このバッテリー取付構造によれば、係合突起を線状に延ばすことによって、バッテリーのリブの上面に対する接触領域を増やすことができる。これにより、バッテリーが応力を受けたときにバッテリートレイから外れようとする動きを規制する抵抗力を高めることができる。
【0017】
上記の車両用バッテリー取付構造において、上記バッテリートレイには、上記バッテリーをこのバッテリーが載置される載置面に沿って挿入出させるための開口部が設けられており、
上記線状係合突起は、バッテリートレイを上方から視たとき、上記開口部における上記バッテリーの挿出方向と交差する方向に延びるように構成されているのが好ましい。
【0018】
このバッテリー取付構造によれば、バッテリーの挿出方向と交差する方向に延びている線状係合突起によって、バッテリーがバッテリートレイから開口部を通じて挿出方向へ移動しようとする動きを規制することができる。
【0019】
上記の車両用バッテリー取付構造において、上記係止部は、上記バッテリートレイの樹脂成形時に一体成形されており、上記線状係合突起は、上記バッテリートレイの樹脂成形時の型抜き方向に延びるよう構成されているのが好ましい。
【0020】
このバッテリー取付構造によれば、バッテリートレイの樹脂成形時に係止部に線状係合突起を設けることができ、線状係合突起を有する係止部の製造に係るコストを低く抑えることができる。
【0021】
上記の車両用バッテリー取付構造において、上記複数の係合突起は、上記バッテリートレイに置かれた上記バッテリーに対して上記車両の想定される衝突方向の後方側に位置するように構成されているのが好ましい。
【0022】
このバッテリー取付構造によれば、バッテリーにおいて車両の衝突時にバッテリートレイに対して浮き上がる方向の応力を受け易いリブに対して複数の係合突起を配置することができる。これにより、車両の衝突時にバッテリーを保持するためのバッテリー保持性能を高めることができる。
【0023】
以下、車両用バッテリー取付構造の具体的な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
なお、本実施形態の説明のための図面において、特にことわらない限り、車両前方を矢印FRで示し、車両内方を矢印INで示し、車両上方を矢印UPで示すものとする。
【0025】
また、バッテリートレイの奥行方向である第1方向を矢印Xで示し、バッテリートレイの幅方向である第2方向を矢印Yで示し、バッテリートレイの高さ方向である第3方向を矢印Zで示すものとする。このとき、第1方向Xのうちの一方向がバッテリーの挿入方向X1となり、第1方向Xのうちの逆方向がバッテリーの挿出方向X2となる。
【0026】
(実施形態1)
図1に示されるように、実施形態1に係る車両4は、車室内のフロア5とドアステップ6との間の段差部分に立設壁7を備えている。この立設壁7は、開口部7aを有し、この開口部7aが着脱式のカバー8によって被覆されるように構成されている。
【0027】
カバー8は、立設壁7から取外された状態で開口部5aを開放する。この開口部5aが開放された状態では、バッテリー2を車外から水平にスライドさせながらバッテリートレイ(以下、単に「トレイ」ともいう。)10に搭載することができ、或いはトレイ10に搭載されているバッテリー2を水平にスライドさせながらトレイ10から車外に取出すことができる。一方で、カバー8は、立設壁7に取付けられた状態で開口部5aを閉鎖する。
【0028】
実施形態1の車両用バッテリー取付構造(以下、単に「バッテリー取付構造」ともいう。)1は、バッテリー2を車両4に取付けるための構造である。ここで、バッテリー2は、略直方体形状を有し、4つ側面2aの全ての底部にリブ3が設けられている。即ち、バッテリー2の側面2aの底部が外方へ張り出している。
【0029】
バッテリー取付構造1は、トレイ10と、後述の押さえ部材31及び固定部材33(図6参照)と、を備えている。トレイ10は、フロア5の下方空間に位置する金属製のパネル9に取付けられることによって車両4に固定されている。
【0030】
図2及び図3に示されるように、トレイ10は、バッテリー2が載置される載置面11aを有する底板部11と、バッテリー2を載置面11aに沿って挿入出させるための開口部12と、開口部12を除いて載置面11aの周りを囲むように底板部11に立設された3つの外周壁部13,14,15と、を備えている。このトレイ10は、樹脂材料で一体成形された樹脂成形品として構成されている。
【0031】
底板部11は、第1方向X及び第2方向Yによって規定される平面上に延在している。この底板部11は、トレイ10を上方から視たときの平面視形状が略方形となるように構成されている。この底板部11は、載置面11aから上方へ突出する補強用の複数のリブ(図示省略)を有するのが好ましい。
【0032】
底板部11は、それぞれが載置面11aから下方へ凹んだ3つの凹部16を備えている。第1の凹部16は、第2方向Yの中央位置であり且つ外周壁部13寄りの位置に配置されている。第2の凹部16は、外周壁部14寄りの位置であり且つ第1方向Xについて開口部12に近接した位置に配置されている。第3の凹部16は、外周壁部15寄りの位置であり且つ第1方向Xについて開口部12に近接した位置に配置されている。
【0033】
各凹部16の底面に、即ち載置面11aの低所に排水口16a及びボルト穴16bが設けられている。各排水口16aは、載置面11aの低所に底板部11を厚み方向である第3方向Zに貫通するように設けられており、載置面11aへ流入した水の排水のための水抜き穴として構成されている。各ボルト穴16bは、排水口16aと同様に底板部11を第3方向Zに貫通しており、トレイ10の底板部11と車両4のパネル9との締結のためのボルト部材18が挿入される挿入穴として構成されている。本実施形態では、底板部11に排水口16aとボルト穴16bが3つずつ設けられている。
【0034】
また、底板部11には、第2方向Yに離間して配置された2つのボルト穴17,17が設けられている。各ボルト穴17は、底板部11を第3方向Zに貫通しており、固定部材33が挿入される挿入穴として構成されている。
【0035】
外周壁部13は、第1方向Xを板厚方向として、底板部11の第1方向Xの両端部のうち開口部12とは反対側に設けられている。外周壁部14は、第2方向Yを板厚方向として、底板部11の第2方向Yの両端部の一方側に設けられ、外周壁部15は、第2方向Yを板厚方向として、底板部11の第2方向Yの両端部の他方側に設けられている。
【0036】
トレイ10の3つの外周壁部13,14,15は、バッテリー2を側方から囲む内壁面13a,14a,15aを有し、これらの内壁面13a,14a,15aには、バッテリー2のリブ3を係止可能な複数の係止部20が設けられている。
【0037】
複数の係止部20は、車両4の衝突時などのようにバッテリー2が過大な衝撃を受け得る状況下で、リブ3を係止して重量物であるバッテリー2の動きを規制することによって、このバッテリー2がトレイ10から抜け出すのを防ぐ機能を果たす。これら複数の係止部20は、バッテリー2の外表面を形成するケース部材よりも硬質の樹脂材料からなり、トレイ10の樹脂成形時に同時に成形されている。
【0038】
複数の係止部20は、外周壁部13の内壁面13aに設けられた2つの第1係止部20Aと、外周壁部14の内壁面14aに設けられた1つの第2係止部20Bと、外周壁部15の内壁面15aに設けられた1つの第3係止部20Cと、に分類される。
【0039】
各係止部20は、第1方向Xを長手方向として延在する平板状の第1係止片21と、この第1係止片21から第2方向Yの上方へ延出した平板状の複数の第2係止片22と、を有する。複数の第2係止片22はいずれも、側面視が略三角形をなすように構成されており、互いに間隔を隔てて配置されている。
【0040】
各係止部20の第1係止片21の下方には、バッテリー2がトレイ10の載置面11aを挿入方向X1にスライドしたときにこのバッテリー2のリブ3が挿入される挿入空間が形成されている。この挿入空間にリブ3が挿入されたとき、第1係止片21の下面21aは、バッテリー2のリブ3の上面3aに係合可能に対向する対向面23となる。
【0041】
対向面23は、リブ3の上面3aに概ね平行な面となるように構成されている。即ち、本実施形態では、リブ3の上面3aが水平面に対して傾斜した傾斜面であるため、対向面23もこの上面3aに倣った傾斜面になっている。リブ3の上面3aが水平面に沿った平面である場合には、対向面23もこの上面3aに倣った水平面であるのが好ましい。
【0042】
なお、上記のトレイ10の軽量化を図るためには、一般的な樹脂材料に比べて比重が小さい植物由来の植物フィラーを使用し、この植物フィラーを樹脂材料に混合するのが好ましい。例えば、木粉が20重量%、ガラス繊維が20重量%、ポリプロピレン樹脂が60重量%の割合で混合された樹脂材料を使用することができる。このような樹脂材料は流動性が高く、プレス工法に比べて生産性の高い射出成形に使用できる。このため、軽量のトレイ10を低コストで製造することが可能になる。
【0043】
図2図4に示されるように、第1係止部20Aの第1係止片21には、バッテリー2の取付け時にリブ3の上面3aに対向する対向面23から上面3aに係合可能に突出した複数の係合突起24が設けられている。
【0044】
複数の係合突起24は、リブ3の上面3aに向けて突出し且つ対向面23の傾斜に沿って延在している。また、図3及び図4に示されるように、一方の第1係止部20Aに設けられている複数の係合突起24はいずれも、第1方向D1に直線状に延びる線状係合突起として構成されている。他方の第1係止部20Aに設けられている複数の係合突起24はいずれも、第2方向D2に直線状に延びる線状係合突起として構成されている。係合突起24を、対向面23に設けられたリブということもできる。
【0045】
ここで、第1方向D1は、トレイ10を上方から視たとき、開口部12におけるバッテリー2の挿出方向X2と交差する方向であり、特にトレイ10の樹脂成形時に一方の第1係止部20Aの樹脂成形に使用される第1金型C1の型抜き方向である(図3参照)。また、第2方向D2は、トレイ10を上方から視たとき、開口部12におけるバッテリー2の挿出方向X2と交差する方向であり、特にトレイ10の樹脂成形時に他方の第1係止部20Aの樹脂成形に使用される第2金型C2の型抜き方向である(図3参照)。
【0046】
図5に示されるように、バッテリー2の取付作業では、先ずこのバッテリー2をトレイ10の載置面11aに沿って挿入方向X1にスライドさせ、図6中の予定の取付位置Pに配置する。
【0047】
バッテリー2が挿入方向X1にスライドして取付位置Pに配置されたとき、このバッテリー2の挿入方向X1の前側のリブ3は、2つの第1係止部20Aの第1係止片21の対向面23に対向し、この対向面23に設けられている複数の係合突起24に係合する。このため、第1係止部20Aは、取付位置Pまでスライドした後のバッテリー2の第3方向Zの動きを規制する機能を果たす。
【0048】
また、バッテリー2が挿入方向X1にスライドして取付位置Pに配置されるまでの間、このバッテリー2の挿入方向X1の左側のリブ3は、第2係止部20Bの第1係止片21の平滑な対向面23に係合し、且つこのバッテリー2の挿入方向X1の右側のリブ3は、第3係止部20Cの第1係止片21の平滑な対向面23に係合する。
【0049】
このため、第2係止部20B及び第3係止部20Cはいずれも、取付位置Pまでスライドした後のバッテリー2の第3方向Zの動きを規制する機能(第1係止部20Aと同様の機能)に加えて、第1係止片21の対向面23を平滑面とすることによって、バッテリー2を取付位置Pまで挿入方向X1に円滑にガイドする機能を兼ね備えている。
【0050】
図6及び図7に示されるように、取付位置Pに配置されたバッテリー2は、押さえ部材31と、ブラケット32と、固定部材33と、を用いてトレイ10に固定される。
【0051】
押さえ部材31は、バッテリー2の取付け時に、バッテリー2のリブ3を係止部20で係止した後で使用される。この押さえ部材31は、係止部20で係止されているリブ3とは別のリブ3(本実施形態では、バッテリー2の挿入方向X1の後側のリブ3)の上面3aに対向する対向面31aを有し、この対向面31aを介して当該リブ3の上面3aを押さえる機能を有する。対向面31aは、リブ3の上面3aに倣って傾斜した傾斜面になっている。
【0052】
ブラケット32は、トレイ10の底板部11を挟んで押さえ部材31と反対側に配置されて、リベット(図示省略)によって底板部11に仮止めされる。このブラケット32は、押さえ部材31との間にバッテリー2のリブ3を挟み込む機能を有する。
【0053】
固定部材33は、押さえ部材31をトレイ10に締付け固定するためのものであり、本実施形態ではボルト部材として構成されている。押さえ部材31とブラケット32との間にバッテリー2の挿入方向X1の後側のリブ3が挟み込まれた状態で固定部材33が締付けられると、このリブ3は、この固定部材33による固定方向(図6中の下向き)の締め付け力によってトレイ10の載置面11aに押し付けられるように付勢される。
【0054】
図8に示されるように、トレイ10は、3つの凹部16のそれぞれにおいて、ボルト部材18によってパネル9に締結固定されている。特に、このトレイ10は、開口部12寄りの2つの凹部16のそれぞれにおいて、ブラケット32の延出片32aをパネル9との間に挟んだ状態でボルト部材18によって締結固定されている。
【0055】
このように、トレイ10及びブラケット32をパネル9に共締めすることによって、バッテリー2が受ける応力は、ブラケット32の延出片32aを介して、樹脂製のトレイ10に比べて強度の高い金属製のパネル9に伝わり易くなる。これにより、トレイ10の変形やトレイ10からのバッテリー2の外れを防ぐ機能が高まる。
【0056】
図9に示されるように、バッテリー2が取付位置Pに配置されたとき、このバッテリー2の挿入方向X1の前側のリブ3は、第1係止部20Aの第1係止片21の対向面23から突出している複数の係合突起24に接触する。このとき、第1係止部20Aは前述のようにバッテリー2の外表面よりも硬質であるため、複数の係合突起24は、バッテリー2が挿入方向X1にスライドすることに伴ってこのバッテリー2のリブ3の上面3aに食い込む。即ち、バッテリー2のリブ3の上面3aが複数の係合突起24によって押し潰される。
【0057】
これにより、対向面23に複数の係合突起24を備えていない構造に比べると、バッテリー2の取付け時におけるバッテリー保持性能が高まる。この場合、第1係止部20Aの対向面23は、他の係止部20B,20Cの対向面23に比べると、バッテリー2のリブ3を強固に保持することができる。
【0058】
また、バッテリー2の取付け後に、車両4が挿出方向X2に前方衝突して、このバッテリー2が上向きの応力を受けたときには、この応力によって複数の係合突起24がバッテリー2のリブ3の上面3aに食い込む度合いが強まる。
【0059】
図10に示されるように、第1係止部20Aの係合突起24の突出高さをHaとしたとき、バッテリー2のための所望の保持性能を得るために、この突出高さHaを0.5mm以上に設定するのが好ましい。バッテリー2の寸法や組付けのバラツキを考慮した場合、特に好ましくは、突出高さHaを1~3mm程度に設定する。また、バッテリー2に対する係合突起24の過剰な干渉を避けるために、この係合突起24の曲率半径Rを0.5~3mm程度に設定するのが好ましい。
【0060】
一方で、第1係止部20Aの係合突起24によるバッテリー2のリブ3の潰し代寸法(食い込み寸法)をHbとしたとき、係合突起24による保持性能を考慮した場合、この潰し代寸法Hbを0.1~1.0mm程度に設定するのが好ましい。特に好ましくは、この潰し代寸法Hbを0.5mm程度に設定する。
【0061】
バッテリー2の外表面の材料がPP(ポリプロピレン)樹脂やHDPE(高密度ポリエチレン)樹脂である場合、これらの樹脂材料よりも硬質の樹脂材料を第1係止部20Aの係合突起24に使用するのが好ましい。
【0062】
この硬質の樹脂材料として、前述のように、木粉が20重量%、ガラス繊維が20重量%、ポリプロピレン樹脂が60重量%の割合で混合された樹脂材料のほか、ポリプロピレン樹脂にガラス繊維或いはガラス繊維マットが混合された樹脂材料などが挙げられる。このような樹脂材料は、剛性をあらわす曲げ弾性率(MPa)がPP樹脂やHDPE樹脂よりも大きく、バッテリー2の外表面の材料よりも硬質の樹脂材料として使用するのに有効である。曲げ弾性率が大きい材料は、曲げ弾性率が小さい材料に比べて剛性が相対的に大きい。
【0063】
次に、上述の実施形態1の作用効果について説明する。
【0064】
上記のバッテリー取付構造1によれば、バッテリー2は、車両4に固定されるトレイ10に置かれた状態でこのトレイ10に取付けられる。バッテリー2の取付け時に、トレイ10に設けられている係止部20によってバッテリー2のリブ3が係止される。そして、係止部20に係止されたリブ3を押さえ部材31で押さえた状態で、この押さえ部材31を固定部材33でトレイ10に締付け固定することによって、このトレイ10にバッテリー2が取付けられる。
【0065】
このとき、第1係止部20Aの対向面23に設けられた複数の係合突起24が、バッテリー2のリブ3の上面3aに押し付けられることによって、バッテリー2を保持するためのバッテリー保持性能が高まる。これにより、トレイ10に対するバッテリー2のガタツキを複数の係合突起24を利用して抑えることができる。
【0066】
また、バッテリー2がトレイ10に取付けられた状態で車両4の衝突時などのように過大な衝撃を受けた場合には、バッテリー2がトレイ10に対して浮き上がる方向に応力を受けるため、複数の係合突起24をバッテリー2のリブ3の上面3aに押し付ける力が強まる。これにより、バッテリー2が上記の応力によってトレイ10から外れようとする動きを防ぐことができる。
【0067】
従って、バッテリー保持性能を高めることができるバッテリー取付構造1を提供することが可能になる。
【0068】
上記のバッテリー取付構造1によれば、複数の係合突起24をいずれも線状に延ばすことによって、バッテリー2のリブ3の上面3aに対する接触領域を増やすことができる。これにより、バッテリー2が応力を受けたときにトレイ10から外れようとする動きを規制する抵抗力を高めることができる。
【0069】
上記のバッテリー取付構造1によれば、バッテリー2の挿出方向D2と交差する方向に延びている線状の係合突起24によって、バッテリー2がトレイ10から開口部12を通じて挿出方向へ移動しようとする動きを規制することができる。
【0070】
上記のバッテリー取付構造1によれば、トレイ10の樹脂成形時に第1係止部20Aに線状の係合突起24を設けることができ、線状の係合突起24を有する第1係止部20Aの製造に係るコストを低く抑えることができる。
【0071】
以下、上述の実施形態1に関連するその他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。他の実施形態において、上述の実施形態1の要素と同一の要素には同一の符号を付しており、当該同一の要素についての説明は省略する。
【0072】
(実施形態2)
図11に示されるように、実施形態2のバッテリー取付構造101は、トレイ110の第2係止部20B及び第3係止部20Cと、押さえ部材131とのそれぞれの構成について、実施形態1のバッテリー取付構造1のものと相違している。
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0073】
バッテリー取付構造101のトレイ110において、外周壁部14の内壁面14aに設けられた第2係止部20Bは、第1係止部20Aと同様に、その第1係止片21の下面21aである対向面23に複数の係合突起24が設けられている。同様に、外周壁部15の内壁面15aに設けられた第3係止部20Cは、その第1係止片21の下面21aである対向面23に複数の係合突起24が設けられている。
【0074】
図11及び図12に示されるように、押さえ部材131の対向面31aには、係合突起24と同様の機能を果たす複数の係合突起34が設けられている。複数の係合突起34は、リブ3の上面3aに向けて突出し且つ対向面31aの傾斜に沿って延在している。また、複数の係合突起34は、トレイ110を上方から視たとき、開口部12におけるバッテリー2の挿出方向D2と交差する方向に延びるように構成されている。
【0075】
図13に示されるように、押さえ部材131とブラケット32との間にバッテリー2の挿入方向X1の後側のリブ3が挟み込まれた状態で固定部材33が締付けられると、このリブ3は、この固定部材33による固定方向(図13中の下向き)の締め付け力によってトレイ110の載置面11aに押し付けられるように付勢される。
【0076】
ここで、押さえ部材131は、バッテリー2の外表面よりも硬質の金属材料からなる。これにより、押さえ部材131の対向面31aに設けられている複数の係合突起34は、固定部材33による締め付け力によってこのバッテリー2のリブ3の上面3aに食い込む。即ち、バッテリー2のリブ3の上面3aが複数の係合突起34によって押し潰される。この係合突起34は、係合突起24と同様に、前述のような突出高さHaに設定されるのが好ましい。
【0077】
また、複数の係合突起24,34は、バッテリー2の全ての側面のリブ3のいずれかに対応して設けられている。このため、車両4の前方衝突、後方衝突、右方の側面衝突、左方の側面衝突を想定したとき、複数の係合突起24,34のいずれかは、想定される全ての衝突方向の後方側に位置することになる。
【0078】
実施形態2のバッテリー取付構造101によれば、バッテリー2において車両4の衝突時にトレイ110に対して浮き上がる方向の応力を受け易い全てのリブ3に対して複数の係合突起24或いは複数の係合突起34を配置することができる。また、実施形態1に比べて、バッテリー2のリブ3の上面3aに食い込む箇所の数を増やすことができる。これにより、車両4の衝突時にバッテリー2を保持するためのバッテリー保持性能を高めることができる。
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0079】
この実施形態2に特に関連する変更例として、第1係止部20A,第2係止部20B,第3係止部20Cのうちの少なくとも1つについて、第1係止片21の対向面23の複数の係合突起24が省略された構造を採用することもできる。また、押さえ部材131において対向面31aの複数の係合突起34が省略された構造を採用することもできる。
【0080】
本発明は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変形が考えられる。例えば、上述の実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0081】
上述の実施形態では、第1係止部20Aの対向面23に設けられた複数の係合突起24がいずれも、直線状に延びる線状係合突起である場合について例示したが、これに代えて、複数の係合突起24の全部或いは一部が曲線状に延びる線状係合突起である構造や、複数の係合突起24の全部或いは一部が点状の係合突起である構造などを採用することもできる。また、線状係合突起が延びる方向は一方向のみに限定されるものではなく、必要に応じて適宜に変更可能である。
【0082】
上述の実施形態では、係止部20がトレイ10,110と一体成形される場合について例示したが、これに代えて、係止部20を別部材としてトレイ10,110に後付けするようにしてもよい。
【0083】
上述の実施形態では、車両4のうちフロア5の下方空間に配置されるトレイ10,110について例示したが、トレイ10,110の配置場所はフロア5の下方空間に限定されるものではなく、車両4のうちバッテリー2の搭載位置の要請に応じた適宜の箇所にトレイ10,110を配置することができる。
【0084】
また、上記の実施形態や、他の変更例に鑑みた場合、以下のような態様を採り得る。
【0085】
一つの態様として、
「車両に固定される車両用バッテリートレイであって、
側面にリブを有するバッテリーを側方から囲む内壁面に設けられた係止部を備え、
上記係止部には、上記バッテリーの取付け時に上記リブの上面に対向する対向面から上記上面と係合可能に突出した複数の係合突起が設けられている、車両用バッテリートレイ。」
という態様を採り得る。
【0086】
この態様によれば、係止部の対向面に設けられた複数の係合突起が、バッテリーのリブの上面に押し付けられることによって、バッテリーを保持するためのバッテリー保持性能が高まる。これにより、バッテリートレイに対するバッテリーのガタツキを複数の係合突起を利用して抑えることができる。
【符号の説明】
【0087】
1,101 車両用バッテリー取付構造
2 バッテリー
2a 側面
3 リブ
3a 上面
4 車両
10,110 バッテリートレイ
11a 載置面
12 開口部
13a,14a,15a 内壁面
20 係止部
20A 第1係止部(係止部)
20B 第2係止部(係止部)
20C 第3係止部(係止部)
23 対向面
24,34 係合突起(線状係合突起)
31,131 押さえ部材
31a 対向面
33 固定部材
D1,D2 型抜き方向
X2 挿出方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13