(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】弁部材
(51)【国際特許分類】
E03C 1/22 20060101AFI20220428BHJP
E03C 1/23 20060101ALI20220428BHJP
E03C 1/232 20060101ALI20220428BHJP
A47K 1/14 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
E03C1/22 C
E03C1/23 Z
E03C1/232
A47K1/14 B
(21)【出願番号】P 2017253388
(22)【出願日】2017-12-28
【審査請求日】2020-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000157212
【氏名又は名称】丸一株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 温史
【審査官】中村 百合子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-155447(JP,A)
【文献】特開2004-183225(JP,A)
【文献】特開2017-115556(JP,A)
【文献】米国特許第02880425(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/22-1/33
A47K 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面に形成された排水口を備えた槽体と、
前記排水口の開閉を行う弁部材と、
前記槽体又は
前記槽体近傍に形成された開口に取り付けられ、
前記弁部材の昇降操作を行う操作部と、
前記操作部に加えられた操作を
前記弁部材へと伝達する伝達部材と、
から成る排水栓装置であって、
前記操作部は
前記槽体に対して変位可能な作動部と、
任意の向きに固定可能であり、
前記作動部の位置や方向を決める位置決め部材を備え
、
前記槽体又は前記槽体近傍に形成された開口は、筒状であって、上流側端部に鍔部を有するとともに、内部に排水流路を形成するフランジ部材が取り付けられており、
前記位置決め部材は、環状であって、前記フランジ部材の前記筒状部分に挿通されて、前記開口周縁と前記鍔部によって挟持される係止部と、
前記係止部に取り付けられるガイド部及び誘導部上部とからなり、下方に切り欠き部を有した位置決め部材本体と、から構成されることを特徴とする排水栓装置。
【請求項2】
前記槽体は側壁にオーバーフロー口を備え、
前記操作部は
前記オーバーフロー口に取り付けられていることを特徴とする
請求項1に記載の排水栓装置。
【請求項3】
前記伝達部材は
前記操作部側端部がワイヤ受けによって
前記フランジ部材内に固定され、
前記ワイヤ受けは前記フランジ部材に対して相対回転可能であって、
前記位置決め部材と
前記ワイヤ受けが係合することによって
前記位置決め部材と
前記ワイヤ受けは相対回転不能になることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の排水栓装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、槽体に配置された弁部材を作動させる排水栓装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の排水栓装置として、底面に排水口を有するとともに側壁にオーバーフロー口を備えた槽体に取り付けられる排水栓装置が知られている。当該排水栓装置は操作部に加えられた操作が伝達部材を介して弁部材へと伝わり、当該弁部材を昇降させることによって排水口の開閉を行う構造となっている。
【0003】
特許文献1に記載の排水栓装置はオーバーフロー口に操作部が取り付けられており、弁部材の上昇時には操作部によってオーバーフロー口が閉塞される。これにより、使用者からはオーバーフロー口の内部の汚れ等を目視することが不可能となり、意匠性が向上する。又、弁部材の下降時にはオーバーフロー口が開口するが、槽体の内側に向けて突出するツマミ部がオーバーフロー口を覆い、目視を困難にしている。又、操作部は上下に変位する作動部を備えており、使用者は当該作動部に押動操作を加えることにより弁部材を昇降させることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のように作動部の変位方向が決まっている場合、操作部が所定の方向において固定される必要がある。又、操作部のデザイン等の理由によっても同様に、操作部が所定の方向において固定される必要がある。しかし、操作部が螺合により取り付けられている場合、槽体の厚みが0.1ミリメートル程度の範囲で変化するだけで、操作部の回転量は大きく変わり、回転量が変化することで、操作部の方向が全く変化してしまう。
従って、操作部を任意の方向において固定することは困難であった。又、接着やビス止めを用いた施工は大変煩雑である。
【0006】
本発明は上記問題に鑑み発明されたものであって、排水栓装置の施工性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の本発明は、底面に形成された排水口を備えた槽体と、
前記排水口の開閉を行う弁部材と、
前記槽体又は前記槽体近傍に形成された開口に取り付けられ、前記弁部材の昇降操作を行う操作部と、
前記操作部に加えられた操作を前記弁部材へと伝達する伝達部材と、
から成る排水栓装置であって、
前記操作部は前記槽体に対して変位可能な作動部と、
任意の向きに固定可能であり、前記作動部の位置や方向を決める位置決め部材を備え、
前記槽体又は前記槽体近傍に形成された開口は、筒状であって、上流側端部に鍔部を有するとともに、内部に排水流路を形成するフランジ部材が取り付けられており、
前記位置決め部材は、環状であって、前記フランジ部材の前記筒状部分に挿通されて、前記開口周縁と前記鍔部によって挟持される係止部と、
前記係止部に取り付けられるガイド部及び誘導部上部とからなり、下方に切り欠き部を有した位置決め部材本体と、から構成されることを特徴とする排水栓装置である。
【0008】
請求項2に記載の本発明は、前記槽体は側壁にオーバーフロー口を備え、
前記操作部は前記オーバーフロー口に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の排水栓装置である。
【0009】
請求項3に記載の本発明は、前記伝達部材は前記操作部側端部がワイヤ受けによって前記フランジ部材内に固定され、
前記ワイヤ受けは前記フランジ部材に対して相対回転可能であって、
前記位置決め部材と前記ワイヤ受けが係合することによって前記位置決め部材と前記ワイヤ受けは相対回転不能になることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の排水栓装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、位置決め部材が任意の向きに固定可能であることにより、作動部の位置や方向を自由に設定することが可能となる。これにより、作動部が所定方向に変位する構造である場合や、上下左右を有するデザインを有する場合において、支障無く施工することが可能となる。又、位置決め部材は任意の向きに固定可能であることから、特許文献1のように、取り付けのために槽体や槽体近傍に対して角形の開口を形成する必要はない。従って、開口の形成が容易となるとともに、位置決め部材の固定に際して螺合を用いることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】操作部を構成する各部材を示す分解斜視図である。
【
図5】
図4とは異なる方向視におけるワイヤ受けを示す斜視図である。
【
図7】(a)弁部材が下降状態にある時の操作部を示す正面図(b)弁部材が上昇状態にある時の操作部を示す正面図である。
【
図10】オーバーフロー時の排水の流れを示す参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の排水栓装置を、図面を参照しつつ説明する。尚、以下に記載する説明は実施形態の理解を容易にするものであり、これによって本発明が制限して理解されるものではない。又、以下の実施形態においては、特に断りの無い限り
図1に示す施工状態を基準として上下左右及び部材同士の位置関係を説明する。
【0013】
本実施形態は、操作部8に操作を加えることによって弁部材4を昇降させ、槽体Bの底面に形成された排水口11の開閉を遠隔的に行う排水栓装置である。又、本実施形態における排水栓装置は
図1乃至
図3に示すように、排水栓1、フランジ部材2、連結部3、弁部材4、伝達部材5、ワイヤ受け6、ロック機構7、操作部8、位置決め部材9から構成されている。
【0014】
槽体Bは上方が開放された箱状の浴槽であり、底面及び内側壁には円形の開口が形成されている。底面の開口には排水栓1が取り付けられているとともに、内側壁の開口にはフランジ部材2が取り付けられている。尚、底面に形成された開口は排水口11として機能し、内側壁に形成された開口はオーバーフロー口21として機能する。又、排水口11は排水栓1と排水器13によって挟持されており、オーバーフロー口21はフランジ部材2と連結部3によって挟持されている。
【0015】
排水栓1は上端に鍔部を有する筒状体であって、その内部には槽体B内の湯水等を排水として排出する排水口11として機能する排水流路が形成されている。又、筒状部分の外周には雄螺子部が螺刻されている。排水栓1は内部に形成された凸部にワイヤ固定部12が取り付けられており、当該ワイヤ固定部12には伝達部材5の一端である弁軸51が固定されている。又、排水栓1は筒状部分が上記槽体B底面に形成された開口に挿通された状態において、槽体B裏面に配置された排水器13と螺合されている。
排水器13は槽体Bの底面裏面に配置され、上方に形成された雌螺子部によって排水栓1下端に螺合されているとともに、その下流側には、内部に流入した排水を更に下流側の配管(図示せず)へと排出する排出口が形成されている。又、排水器13は側面より外側に向けて筒状の枝管部14が延設されており、当該枝管部14は可撓性を有するオーバーフロー管31を介して連結部3と連結されている。
【0016】
フランジ部材2は上流側端部(
図1における左方)に鍔部23を有する筒状体であって、その内部において、所定よりも高い位置まで貯留された湯水を排出するオーバーフロー流路として機能する排水流路が形成されている。又、筒状部分の外周には雄螺子部が螺刻されている。フランジ部材2は内部に形成された段部22にワイヤ受け6が取り付けられており、当該ワイヤ受け6に伝達部材5の他端である被取付部52が固定されている。フランジ部材2は上記槽体Bの内側壁に形成された開口に挿通された状態において、槽体B裏面に配置された連結部3に螺合されることによって、当該槽体Bの内側壁に形成された開口周縁を挟持している。
連結部3は槽体Bの内側壁裏面に配置され、オーバーフロー口21から水平方向に流入した排水を垂直方向へと排出する様に、排水流路が約90度屈曲された略L字状の排水配
管であって、上流側端部において形成された雌螺子部によって上記フランジ部材2に螺合されている。又、下流側端部には可撓性を有するオーバーフロー管31が取り付けられており、内部に流入した湯水を当該オーバーフロー管31を介して枝管部14へと排出する。
尚、上記オーバーフロー口21から連続するオーバーフロー流路内には、後述する伝達部材5が配設されている。
【0017】
弁部材4は外周面にパッキンが嵌着された蓋部材であり、弁部材4が下降している状態において、パッキンが排水口11の周縁と当接することにより、当該排水口11を水密に閉塞している。又、弁部材4は裏面において伝達部材5の一端に形成された弁軸51の先端が着脱自在に嵌合されており、操作部8の操作によって上方に向けて突出した弁軸51に突き上げられることによって上昇し、上記排水口11を開口されることが可能となっている。
【0018】
伝達部材5はアウターチューブ53、インナーワイヤ54より構成された、操作部8の変位を弁部材4へと伝達する部材であって、排水口11側端部に弁軸51を、操作部8側端部には被取付部52を備えている。尚、弁軸51はワイヤ固定部12によって排水栓1内部に固定され、被取付部52はワイヤ受け6によってフランジ部材2内部に固定されている。又、伝達部材5はその大部分がオーバーフロー口21から連続するオーバーフロー流路内に配置されている。
アウターチューブ53は中空の合成樹脂製のチューブ体であって、内部にはインナーワイヤ54が摺動可能に配置されている。
インナーワイヤ54は側面方向に可撓性を有する金属線であって、その一端が弁軸51に連結され、他端がロック軸72に連結されている。尚、インナーワイヤ54は操作部8側において、アウターチューブ53より露出しており、オーバーフロー口21から操作部8側へ延出されている。当該露出部分に係るインナーワイヤ54は誘導部上部92及び誘導部下部63に形成された溝部64内に収納されており、その端部が操作部8の変位方向に向くように屈曲されている。又、インナーワイヤ54は操作部8に操作が加えられた際、アウターチューブ53内部を摺動することで操作部8の変位を伝達可能となっている。
弁軸51は伝達部材5の排水口11側端部に形成された筒状体であって、外筒及び内筒から成る。外筒はアウターチューブ53が連結された中空の筒状体であって、内部に内筒が摺動可能に収納されているとともに、外周面がワイヤ固定部12に固定されている。内筒はインナーワイヤ54が連結された、上端が閉塞された中空の筒状体であって、内部にショックアブソーバスプリングが収納されているとともに、上端に弁部材4が嵌合されている。
上記弁軸51は操作部8に操作が加えられた際、インナーワイヤ54が排水口11側へと摺動することによって内筒が外筒より突出し、上記弁部材4を突き上げる。
被取付部52は外周面に突起が形成されており、ワイヤ受け6の係合部62に形成された切り欠きに当該突起が嵌合することで固定される。
【0019】
ワイヤ受け6は
図4及び
図5に示すように、伝達部材5の他端をフランジ部材2内に固定する部材であって、フランジ部材2の内周面と略同一の外径を有するリング部分を有し、当該リング部分の端部より延設された爪部61によってフランジ部材2の段部22に係合されている。爪部61は段部22との係合状態において、段部22の背面(
図1における右方)に位置し、当該爪部61によってワイヤ受け6はフランジ部材2に対して抜脱不能であるが回動可能に取り付けられている。又、ワイヤ受け6は取付部62、誘導部下部63、ケーシング65を備えている。
取付部62は略筒状であって、その中心軸がワイヤ受け6の中心軸に対して傾斜しているとともに、ワイヤ受け6の中心とは異なる位置に形成されている。当該取付部62には伝達部材5の被取付部52が挿通されており、切り欠きに被取付部52の突起が嵌合され
、被取付部52を操作部8側に固定している。従って、伝達部材5の操作部8側端部はワイヤ受け6の中心軸に対して傾斜している。
誘導部下部63は取付部62の上端より弧状に延設されているとともに、弧状部分の上面且つ中央において、長手方向に沿って溝部64が形成されている。尚、誘導部下部63は後述する位置決め部材9に形成された誘導部上部92の下面と対応する角度で屈曲している。
ケーシング65は誘導部下部63の下方であって、槽体Bの内側に配置され、軸方向が上下方向となるように形成された筒状体であり、内周面に固定ギアが形成されているとともに、内部にロック機構7を構成する各部材が収納されている。又、ケーシング65は下端に捕集部66を備えている。捕集部66は
図6に示すように、施工完了時において流入口82に配置され、湯水中のゴミや玩具が、オーバーフロー口21から排出されることを防ぐ。
【0020】
ロック機構7は操作部8の操作に伴い上昇した弁部材4の状態を保持するスラストロック機構と呼ばれる機構である。当該ロック機構7は上記ケーシング65及びケーシング65内部に配置された回転ギア71、ロック軸72、スプリングより構成されている。
図2等に示すように、ロック軸72はケーシング65の中心に配置されているとともに、ケーシング65の上面を貫通しており、中程から上端にかけて二股に分岐している。当該ロック軸72の分岐部分の間には上記誘導部下部63が配置されており、従って、伝達部材5の端部は上記ロック軸72に沿うようにして分岐部分の間に配置されている。ロック軸72の上端にはキャップ状のワイヤ押さえ73が取り付けられており、露出されたインナーワイヤ54の端部を固定しているとともに、当該インナーワイヤ54がロック軸72と連動するよう構成されている。又、ロック軸72はケーシング65内部を上下動可能に配置されており、回転ギア71が回動可能且つロック軸72に対して上下動不能に取り付けられている。ロック機構7は当該ロック軸72が下降した際、回転ギア71と固定ギアの噛合によってロック軸72の下降状態を保持することが可能となっているとともに、再度下降した際には回転ギア71と固定ギアの噛合が解除され、スプリングの弾性によってロック軸72を上昇させることができる。
上記ロック機構7は作動部81の下方に配置されており、ロック軸72の上端がワイヤ押さえ73を介して作動部81の裏面に当接している。従って、作動部81の上下動に応じてロック軸72も上下動する。又、ロック軸72の軸方向は上下方向となるように配置されていることから、ロック軸72の軸方向と作動部81の変位方向、及びロック軸72に固定されたインナーワイヤ54端部の軸方向は略平行となっている。
【0021】
図6及び
図7に示すように、操作部8は正面視において略円形であって、フランジ部材2に取り付けられ、槽体B内側に向けて突出している。又、操作部8は作動部81、位置決め部材9を備えている。
【0022】
作動部81は
図2や
図10に示すように、底面及び背面(
図1における右方)が開放された箱体であって、正面視において両隣に位置決め部材9のガイド部91が配設されている。又、
図7に示すように、作動部81は槽体Bに対して上下方向にのみ変位可能となっており、弁部材4が上昇状態に有る時、操作部8は正面視略円形となり、弁部材4が下降状態にある時、作動部81が一決め部材81よりも下方に突出する。又、作動部81はワイヤ押さえ73を介してロック軸72及びインナーワイヤ54と当接している。又、作動部81内部には、ロック機構7が収納配置されてなる。
ここで、上述の通り作動部81は底面及び背面が開放された箱体であるが、当該作動部81は施工完了時において、その背面及び側面には位置決め部材9が配置されることから、底面のみが開放された状態となる。この時、開放された底面は流入口82として機能するとともに、オーバーフロー口21へと連通する排水流路が形成される。尚、当該流入口82から連続する排水流路は槽体B内に所定高さよりも上方まで貯留された湯水が排出さ
れるオーバーフロー流路として機能するが、槽体B内から排出される湯水は流入口82以外に、作動部81と位置決め部材9との隙間からも流入する。従って、流入口82はあくまでオーバーフロー口21へ排水が流入する際の主な流入経路であり、オーバーフローした排水が必ずしも流入口82より流入するものではない。
【0023】
位置決め部材9は
図7及び
図8に示すように、正面視略円形であり、上記作動部81が取り付けられた状態において、当該作動部81の両隣となる位置にガイド部91が形成されている。又、位置決め部材9は中央近傍に上記ワイヤ受け6の誘導部下部63と合致する誘導部上部92を有するとともに、当該誘導部上部92の下方においてフランジ部材2が挿通される開口を備えており、当該開口には係止部93が取り付けられている。
誘導部上部92は上記誘導部下部63と合致する弧状に形成されており、弧状部分の中央において、長手方向に沿って溝部64が形成されている。又、誘導部上部92は誘導部下部63と係合されている。
ガイド部91は上記作動部81の水平方向の幅と略同一の間隔を有して槽体Bの内側に向けて突設されている。
係止部93は環状の部材であって、フランジ部材2の筒状部分に挿通されていると共に、位置決め部材9に対して裏面より取り付けられており、施工時にはフランジ部材2の鍔部23が係止される。これにより、位置決め部材9はフランジ部材2の鍔部23と槽体B側壁によって挟持されている。
【0024】
ここで、位置決め部材9は、誘導部上部92と誘導部下部63が係合することによってワイヤ受け6が位置決め部材9に対して相対回転することを防止するとともに、ガイド部91が作動部81の両隣に配置されることによって作動部81が位置決め部材9に対して相対回転することを防止している。即ち、位置決め部材9はワイヤ受け6の向きを決めるとともに、ガイド部91を作動部91の両隣に配置することにより、作動部91の位置や方向を決める作用を奏する。
【0025】
上記各部材より構成された排水栓装置は、以下のように施工される。尚、特に記載しない場合であっても、水密が必要とされる部材同士の接続は、必要に応じて接着剤やパッキン等の水密部材を介して水密に接続されるものである。
【0026】
まず、排水器13と連結部3をオーバーフロー管31で接続する。そして、排水栓1を槽体B底面の開口に挿通させ、排水器13を螺合させる。次に、フランジ部材2の筒状部分に係止部93を挿通し、当該係止部93を位置決め部材9に取り付ける。そして、フランジ部材2を槽体B側壁に形成された開口に挿通し、連結部3と螺合させる。この時、
図9に示すように、フランジ部材2の鍔部23と槽体Bの内側璧との間に位置決め部材9が配置された状態となり、鍔部23が係止部93に係止されることによって、槽体B内側壁に形成された開口周縁とフランジ部材2によって位置決め部材9が挟持される。一方、当該螺合中において、位置決め部材9はフランジ部材2に対して回動可能となっており、その方向を自由に変更することができる。従って、位置決め部材9は槽体Bに対して任意の向きにおいて固定可能であり、作業者は位置決め部材9を把持し、操作部8が垂直方向に変位可能となるように向きを調整した後、フランジ部材2と連結部3を増し締めし、位置決め部材9が回動不能となるまで螺合させる。これにより、位置決め部材9の向きが固定されることとなる。
次に、フランジ部材2に対して、伝達部材5を弁軸51側端部より挿通する。この時、伝達部材5はオーバーフロー管31に誘導され、弁軸51は枝管部14より容易に排水器13の内部に到達する。そして、作業者は排水栓1の内部より弁軸51を引き出し、ワイヤ固定部12に弁軸51を固定した後、当該ワイヤ固定部12を排水栓1に取り付ける。そして、弁軸51と弁部材4を嵌合させることで排水栓1側の施工が完了する。
次に、伝達部材5の被取付部52をワイヤ受け6の取付部62に固定し、インナーワイヤ54端部にワイヤ押さえ73を取り付けた後、ワイヤ受け6をフランジ部材2に取り付ける。この時、誘導部上部92と誘導部下部63が係合し、溝部64内にアウターチューブ53より露出したインナーワイヤ54が配置される。又、この時、誘導部上部92と誘導部下部63の係合に伴いワイヤ受け6と位置決め部材9が回動不能に固定される。
最後に、位置決め部材9のガイド部91間に作動部81を配置し、排水栓装置の施工が完了する。
【0027】
以上、施工手順において、作動部81の取り付け位置や方向を決めるワイヤ受け6は位置決め部材9と係合することによりその向きが固定される。又、作動部81が変位する際には、作動部81の両隣に配置されたガイド部91によって作動部81の作動がガイドされる。即ち、本発明においては、位置決め部材9によって作動部81の位置や方向が決定されているものである。
【0028】
上記のように施工が完了した排水栓装置は、排水口11から排水が排出される排水口流路と、オーバーフロー口21から排水が排出されるオーバーフロー流路が形成されている。
【0029】
上記排水栓装置は、弁部材4が下降している状態において、弁部材4の周囲に嵌着されたパッキンが排水栓1の上面と水密に当接することにより、排水口11を閉塞している。当該弁部材4の下降状態より作動部81に押動操作を加えると、作動部81の下降に伴いインナーワイヤ54が排水栓1側へと摺動し、弁軸51の内筒が外筒より突出し、弁部材4が突き上げられて上昇する。この時、ロック機構7が作動し、当該弁部材4の上昇状態が保持される。弁部材4が上昇状態となることにより、排水口11が開放され、槽体B内の湯水が排水口11より排出可能となる。
再度作動部81に押動操作が加えられると、上記ロック機構7が作動し、弁部材4の上昇状態の保持が解除されることにより、弁部材4が下降する。これにより、弁部材4が排水口11を閉塞し、槽体B内に湯水を貯留することが可能となる。
【0030】
一方、排水口11が閉塞された状態において、槽体B内の水位が所定以上となった場合、
図10に示すように、槽体B内の湯水はオーバーフロー口21より排出される。尚、
図10においては、発明の理解を容易にするため、
図2の状態よりワイヤ受け6、伝達部材5の記載を省略するとともに、オーバーフロー時の排水の流れを矢印にて記載している。ここで、オーバーフロー口21は操作部8によって覆われているが、作動部81は底面が開放されて流入口82が形成されている。従って、槽体B内の溢れ水は流入口82より作動部81の裏側を通じてオーバーフロー口21より湯水を排出することができる。又、オーバーフロー口21から排出される湯水は、連結部3及びオーバーフロー管31を通じて枝管部14より排水器13内へと流入する。
尚、
図6に示すように、流入口82には捕集部66が配置されているため、大型のゴミや玩具等が流入口82を通じて排出されてしまうことはない。又、捕集部66により、使用者が流入口82より装置内に指等を入れてしまうことを防ぐこともできる。
【0031】
本発明においては、オーバーフロー口21は操作部8によって目視不可能となるよう覆われているため、意匠性を向上させることが可能となる。一方で、弁部材4の状態に関わらず、オーバーフロー口21は常に開放状態にあることから、オーバーフロー口21から連続する排水配管の流量は低下しない。
【0032】
又、施工の際において、位置決め部材9が任意の向きにおいて固定可能であり、作動部81は位置決め部材9によってその位置や方向が決められる。従って、本発明においては、作業者が任意の方向に位置決め部材9を固定するように調整し、施工性を向上させることが可能となる。上記実施例の場合、作動部81が槽体B内面に沿って上下動するように
構成し、且つ流入口82が作動部81の下方に設けられているため、使用において流入口82が使用者に目視されることが無く、排水口11の開口/閉口の状態に関係なく意匠性が良い。
上記実施例に代えて、操作部8を、例えば作動部81が槽体B内面に沿って左右に動作することで排水口11を開閉すると共に、流入口82は作動部81の下方に設けるような構成としても、使用において流入口82が使用者に目視されることが無くなり、排水口11の開口/閉口の状態に関係なく意匠性が良い排水栓装置とすることができる。
又、本発明においては、槽体Bの内側壁に形成された開口周縁とフランジ部材2によって位置決め部材9を挟持固定する構造であるため、操作部8を取り付けるための開口を円形とすることが可能となる。即ち、位置決め部材9の位置や向き決めを行うために開口を矩形にする必要がないため、開口の形成が容易である。又、開口を円形とすることが可能であることから、部材同士の組み立てに螺合を使用することが可能であり、ビス止めや接着による煩雑な組み立て方法を必要としない。
【0033】
本発明の実施形態は以上であるが、本発明の排水栓装置は上記実施形態の形状に限られるものではない。例えば、上記実施例の場合、作動部81が槽体B内面に沿って上下動するように構成し、且つ流入口82が作動部81の下方に設けられているため、使用において流入口82が使用者に目視されることが無く、排水口11の開口/閉口の状態に関係なく意匠性が良い。
上記実施例に代えて、操作部8を、作動部81が槽体B内面に沿って左右に動作することで排水口11を開閉すると共に、流入口82は作動部81の下方に設けるような構成としても、使用において流入口82が使用者に目視されることが無くなり、排水口11の開口/閉口の状態に関係なく意匠性が良い排水栓装置とすることができる。
又、本発明の排水栓装置は浴槽の排水栓装置に限られるものではなく、洗面台やキッチンに使用されても良い。
又、上記実施形態においては、操作部8や伝達部材5をオーバーフローの配管と兼用するように構成しているが、本発明は上記実施形態に限定されるものでは無く、操作部8の取り付けや伝達部材5を挿通する為だけの開口を槽体Bに設ける構成として、オーバーフローの配管の無い槽体に採用したり、オーバーフローの配管とは独立した操作部8や伝達部材5を備えた構成としても良い。
又、上記実施形態において、操作部8が取り付けられる開口は槽体Bの内側壁に形成されていたが、槽体Bの外側壁や縁部に設けられていても良く、又、槽体B近傍の壁面に形成されていても良い。前述の通り、操作部8や伝達部材5の施工に、オーバーフローの配管は必須では無いため、槽体Bの外側壁や縁部に本発明の操作部8を設けても特に問題は生じない。
【符号の説明】
【0034】
1 排水栓
11 排水口
12 ワイヤ固定部
13 排水器
14 枝管部
2 フランジ部材
21 オーバーフロー口
22 段部
23 鍔部
3 連結部
31 オーバーフロー管
4 弁部材
5 伝達部材
51 弁軸
52 被取付部
53 アウターチューブ
54 インナーワイヤ
6 ワイヤ受け
61 爪部
62 取付部
63 誘導部下部
64 溝部
65 ケーシング
66 捕集部
7 ロック機構
71 回転ギア
72 ロック軸
73 ワイヤ押さえ
8 操作部
81 作動部
82 流入口
9 位置決め部材
9a 位置決め部材本体
9b 切り欠き部
91 ガイド部
92 誘導部上部
93 係止部
B 槽体