(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】シート状ワークの打抜き刃
(51)【国際特許分類】
B26F 1/44 20060101AFI20220428BHJP
B26F 1/40 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
B26F1/44 B
B26F1/40 B
(21)【出願番号】P 2021113205
(22)【出願日】2021-07-08
【審査請求日】2021-09-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515081350
【氏名又は名称】株式会社ティーエスインダストリー
(74)【代理人】
【識別番号】100081466
【氏名又は名称】伊藤 研一
(72)【発明者】
【氏名】冨田 昌嗣
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-094297(JP,A)
【文献】特開昭62-188698(JP,A)
【文献】実公昭45-022480(JP,Y1)
【文献】特開昭62-004599(JP,A)
【文献】特開昭63-312099(JP,A)
【文献】特開2005-297163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26F 1/00 - 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に刃部が加工され、基端側が打抜き装置の定盤に当接して移動規制される帯板鋼板からなるシート状ワークの打抜き刃であって、
上記刃部は焼入れ処理されると共に、
上記基端部は基端に向うに従って徐々に厚さが減少するテーパ部が形成され、
該テーパ部には
基端からの深さが0.05~3mm、長手方向幅が0.1~5mm、テーパ部の長手方向に対して4~130/inchの配置間隔とした多数の切欠きが形成されるシート状ワークの打抜き刃。
【請求項2】
請求項1において、
上記テーパ部は、基端に向かって徐々に厚さが減少する直線状の傾斜面としたシート状ワークの打抜き刃。
【請求項3】
請求項1において、
上記テーパ部は、基端に向かって徐々に厚さが減少する湾曲状の傾斜面としたシート状ワークの打抜き刃。
【請求項4】
請求項1において、
上記テーパ部は、基端に向かって徐々に厚さが減少する段差状としたシート状ワークの打抜き刃。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙器、ダンボール、プラスチックシート等のシート状ワーク打抜き装置の型に設けられ、該シート状ワークから所定形状の製品シートを打抜くトムソン刃と称されるシート状ワークの打抜き刃に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上記シート状ワーク打抜き装置にあっては、トムソン木型と称される平板状木型に製品シートの外形状や切込み及び折り目に対応してそれぞれ形成された溝にシート状ワークから製品シートを打ち抜く帯板鋼板からなる打抜き刃及び折り目を形成する同様の罫線刃をそれぞれ嵌め込んで保持し、該平板状木型を打抜き装置の上プラテン(定盤)の下面に対し、打抜き刃の刃先が下方を向いた状態で、必要に応じて金属板及び厚紙を設けて取り付け、上プラテン及び下プラテン相互を互いに近付く方向へ移動して平板状木型を下プラテン(面盤)上に載置されたシート状ワークに圧接して打抜き刃により切込みが形成された製品シートや切込みを打ち抜き形成すると同時に罫線刃により製品シートに折り目の罫線を形成している。
【0003】
しかしながら、上及び下プラテンの平行度及び平面度や打抜き刃の高さのばらつきによる刃先高さにむらがあり、下プラテンに対して打抜き刃の刃先を均一に押し当てようとすると、下プラテンに対して一部の刃先が過度に押し当って損傷してシート状ワークから製品シートを確実に打抜くことができなかった。特に、角部に応じて一部が押し曲げられた打抜き刃にあっては、該折り曲げ箇所が高さ方向へ圧縮されてその刃先高さが非曲げ箇所の刃先高さより低くなり、下プラテンに対して非曲げ箇所の刃先が過度に押し当って損傷しやすかった。
【0004】
また、平板状木型に対して打抜き刃が平面的に偏在する状態で打抜く場合には、打抜き装置や上プラテンの剛性不足により平板状木型の周縁部が中心部に対して微妙に撓んで湾曲状になって刃先高さが不均一になり、切残し等の切断不良が発生したり、刃先が損傷する恐れがあった。
【0005】
上記切断不良や打抜き刃の損傷を回避するため、打抜き加工作業に先立って下プラテンに対する打抜き刃の刃先の当たり具合を微調整するムラ取り作業を適宜行い、打抜き加工作業時に下プラテンに対して打抜き刃の刃先が均一に押し当るように刃先高さを調整する必要がある。
【0006】
このムラ取り作業としては、上下プラテンが互いに近接するように移動してシート状ワークから製品シートを試し抜きして打抜き不良箇所をチェックし、打抜き不良がある場合には打抜き不良個所に対応する打抜き刃の基端と上プラテンの間に1枚又は複数枚の紙テープ等のスペーサを介在させて高さ調整し、切断不良や打抜き刃の損傷を回避しているが、このムラ取り作業に手間と時間が掛かり、打抜き作業効率が悪くなる問題を有している。
【0007】
上記問題を解決するため、特許文献1に示す打抜き刃が提案されている。該打抜き刃は、先端に刃部が、また後端部に背部が形成された帯板鋼鈑からなり、背部を後端に向かって徐々に幅狭になるテーパ状とし、打抜き作業に先立つ空打ち時に下プラテンに対する刃部の圧接(衝突)によりテーパ状の背部を塑性変形させることにより刃部が過度に損傷するのを防止しながらムラ取り作業を行っている。
【0008】
しかし、上記打抜き刃は、所定の打ち抜き回数を確保するには硬さを有した帯状鋼板で形成されているが、空打ち時に背部を塑性変形させるには、下プラテンに対して背部が塑性変形可能な力で押し当てる必要があり、その際の押し当て力により刃先が損傷するのを回避できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする問題点は、上プラテンと平板状木型の間に紙テープを介在させてムラ取り作業を行う場合には、その調整作業に手間と時間が掛かり、打抜き作業効率が悪くなる点にある。
【0011】
また、打抜き刃の後端部をテーパ状に形成して塑性変形可能にして打抜き刃の損傷を回避する場合には、背部を塑性変形させる力により刃部の損傷を有効に回避することができない点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、先端部に刃部が加工され、基端側が打抜き装置の定盤に当接して移動規制される帯板鋼板からなるシート状ワークの打抜き刃であって、上記刃部は焼入れ処理されると共に、上記基端部は基端に向うに従って徐々に厚さが減少するテーパ部が形成され、該テーパ部には基端からの深さが0.05~3mm、長手方向幅が0.1~5mm、テーパ部の長手方向に対して4~130/inchの配置間隔とした多数の切欠きが形成されることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、空打ち時に打抜き刃の基端部を容易に塑性変形させることにより刃部の損傷を回避しながら均一な刃先高さになるように調整することができ、長期にわたる打ち抜き作業を実行可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】シート状ワーク打打抜き装置に取り付けられる平板状木型を下から見た斜視図である。
【
図2】定盤に取り付けられた平板状木型で、
図1のA-A線に対応する縦断面図である。
【
図4】テーパ部の変更例を示す部分拡大断面図である。
【
図5】テーパ部の変更例を示す部分拡大断面図である。
【
図6】面盤に対する打抜き刃の片当たり状態を示す説明図である。
【
図7】テーパ部の塑性変形状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
基端部のテーパ部には基端からの深さが0.05~3mm、長手方向幅が0.1~5mm、テーパ部の長手方向に対して4~130/inchの配置間隔とした多数の切欠きを形成したことを最良の形態とする。
【実施例1】
【0016】
以下、本発明に係るシート状ワークの打抜き刃を図に従って説明する。
先ず、
図1及び2に示すようにシート状ワーク打ち抜き装置(図示せず)に装着される平板状木型1の概略について説明すると、ベニヤ合板等の平板状木型1には紙器、ダンボール、プラスチックシート等のシート状ワークから打抜かれる製品シート(図示せず)の外形状や切込み箇所及び折り目箇所に対応して溝3がそれぞれ形成され、外形状や切込みに応じた溝3には本発明に係る打抜き刃5が平板状木型1の正面(下面)から所定の刃先高さで突出するように嵌め込まれている。
【0017】
また、折り目に応じた溝3には罫線刃7が、平板状木型1の正面に対して上記打抜き刃5の突出高さより若干低い高さで突出するように嵌め込まれている。該罫線刃7に付いては、本願発明とは直接関係がないため、その詳細については省略する。
【0018】
なお、平板状木型1の下面には打抜き刃5の刃先から突出する高さのスポンジ等の弾性体9(一点鎖線で示す)が打抜き刃5の両側面に沿って設けられ、該弾性体9は後述する定盤11の下降に伴って面盤13に圧接して弾性変形し、打抜き刃5の刃先を面盤13に衝突可能にさせてシート状ワークから製品シートの打ち抜きや空打ち時における打抜き刃5の刃先高さを調整可能している。
【0019】
上記平板状木型1は金属製の定盤(上プラテン)11の正面(下面)に対し、必要に応じて金属板等を介して打抜き刃5の基端が当接して移動が規制された状態で取り付けられる。そしてシート状ワークから製品シートを打抜く際や、打抜き加工に先立つ空打ち時に、平板状木型1がセットされた定盤11を、下方に配置された面盤13に向かって打抜き刃5の刃先が面盤13の上面に押し当る(衝突)ストロークで移動させる。
【0020】
図3に示すように、上記打抜き刃5は、例えば高さ23.6mm、厚さ0.7mmの帯状鋼板からなり、その先端部には所定の刃先高さ及び刃先角度(例えば、40°~50°)の刃部5aが、また基端部には所定のテーパ角(例えば10°~20°)、長さで、厚さが徐々に減少して基端面厚さが0~0.6mmになるテーパ部5bが形成されている。該テーパ部5bは打抜き刃5の塑性変形特性に応じてそのテーパ角や基端面厚さが任意に選択される。
【0021】
なお、上記基端面厚さは打抜き刃5の刃厚が0.7mmの場合についての数値を示したが、刃厚が0.9mmでは基端面厚さが0~0.8mm、刃厚が1.4mmでは基端面厚さが0~1.3mmの範囲で選択すればよい。
【0022】
また、該テーパ部5bとしては、図示する基端に向かって徐々に厚さが減少する直線形状の他に、
図4に示すように基端に向かって徐々に湾曲状に厚さが減少する形状、
図5に示すように基端に向かって徐々に段差状に厚さが減少する形状のいずれであってもよい。
【0023】
なお、上記打抜き刃5の高さや厚みは上記に限定されるものではなく、打抜こうとするシー状ワークの厚さやシート状ワークの積層数(一回の打抜き作業により打抜かれるシー状ワークの枚数)に応じて任意に選択される。
【0024】
上記打抜き刃5の刃部5aを含む先端部は高周波加熱等による焼入れ処理されて高硬度化されている。一方、テーパ部5bを含む基端部は焼入れ処理されておらず、先端部に比べて低硬度で、塑性変形しやすい金属特性になっている。
【0025】
そして上記テーパ部5bには多数の切欠き15が長手方向へ所定の間隔をおいて形成される。各切欠き15は、例えば深さ(基端からの深さ)が0.05~3mm、長手方向幅が0.1~5mmで、長手方向に対して4~130/inchの配置数になる間隔をおいて形成される。
【0026】
上記テーパ部5bのテーパ角や長さ及び基端面厚さや該テーパ部5bに形成される切欠き15の深さ、長手方向幅、単位当たりの個数は、テーパ部5bの塑性変形可能な力がシート状ワークに対する剪断力より高く、刃先の損傷可能力より低くなる範囲で適宜設定される。
【0027】
次に、平板状木型1を使用してシート状ワークから製品シートを打抜き加工する場合には、打抜き加工作業に先立って打抜き装置の面盤13上にシート状ワークが載置されていない状態で平板状木型1が装着された定盤11を面盤13に向かって移動し、打抜き刃5の刃先を面盤13の上面に押し当てるムラ取り作業のための空打ち作業を行う。なお、定盤11に平板状木型1を取り付けた際、該平板状木型1の溝3に嵌め込まれた打抜き刃5におけるテーパ部5bの基端面は定盤11の正面に対して当接状態になっている。
【0028】
空打ち作業は、
図6(
図6は折り曲げにより該箇所の高さが低くなった打抜き刃5の非折り曲げ箇所が面盤13に押し当った状態を示す。)に示すように定盤11や面盤13の平行度や平面度、打抜き刃5の高さに微妙なばらつきがあり、また平板状木型1に打抜き刃5が偏在して取り付けられた状態にあっては、定盤11や面盤13の剛性等から面板13に対する打抜き刃5の押し当て力が不均一になり、打抜き加工作業時に刃先の損傷や打抜き不良が発生するのを防止するために行う。
【0029】
この空打ち作業においては、一部の刃部5aが面盤13の上面に対して過度に押し当る高さむらがある場合には、
図7に示すように面盤13に対する刃先の押し当てに伴って過度に押し当った箇所に応じた打抜き刃5は、そのテーパ部5bが過度な押し当てに応じた力で圧縮されて塑性変形される。その際にテーパ部5bには多数の切欠き15が形成されてさらに脆弱化されているため、刃部5aが損傷する前にテーパ部5bを確実に塑性変形させることができる。
【0030】
上記テーパ部5bの塑性変形により面盤13に対して過度に押し当る箇所における打抜き刃5の刃先高さが他の箇所における刃先高さと一致するように低くさせられることにより打抜き刃5全体が一定の刃先高さになるように調整される。
【0031】
これにより空打ち動作時においては、切欠き15により脆弱化されたテーパ部5bの塑性変形により刃部5aに過度な押し付け力が作用して損傷するのを回避しながら打抜き刃5全体の刃先高さを一致させることができ、実際の打抜き加工時においてはシート状ワークから製品シートを確実に打抜くことができると共に優れた切れ味を長期時間にわたって維持することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 平板状木型
3 溝
5 打抜き刃
5a 刃部
5b テーパ部
7 罫線刃
9 弾性体
11 定盤
13 面盤
15 切欠き
【要約】
【課題】空打ち時に打抜き刃の基端部を容易に塑性変形させることにより刃部の損傷を回避しながら均一な刃先高さになるように調整することができ、長期にわたる打ち抜き作業を実行可能にするシート状ワークの打抜き刃を提供する。
【解決手段】基端に向って徐々に厚さが減少するように形成されたテーパ部に、基端から所定深さで、打抜き刃の長手方向に所定の間隔をおいて多数の切欠きを形成する。
【選択図】
図3