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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】金属錯体及び金属錯体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 15/00 20060101AFI20220428BHJP
   C07F 15/02 20060101ALI20220428BHJP
   C07D 207/44 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
C07F15/00 A CSP
C07F15/02
C07D207/44
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018128370
(22)【出願日】2018-07-05
(65)【公開番号】P2020007251
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】古山 渓行
(72)【発明者】
【氏名】島崎 史佳
(72)【発明者】
【氏名】前多 肇
(72)【発明者】
【氏名】千木 昌人
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-188867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)又は(2)で表記される金属錯体。
【化1】
【化2】
(式中、Mは、Ru、Fe、Os、Co、Rh、Irからなる群から選択されるいずれかの金属イオンであり、Ar及びArはベンゼン環、ピリジン環又はこれらにメトキシ基(-OMe)、フルオロ基(-F)、トリフルオロメチル基(-CF)、ブロモ基(-Br)及びtert-ブチル基(-tBu)からなる群から選択されるいずれかの基が結合したものであり、Xは水素、アリール基、炭素数が6以下のアルキル基、チオアリール基または炭素数が6以下のチオアルキル基である。)
【請求項2】
前記式(1)又は(2)におけるMが8族または9族の遷移金属のイオンである、請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
前記式(1)においてArとArが異なる基である、請求項1又は2に記載の金属錯体。
【請求項4】
前記式(1)又は(2)におけるArが、ベンゼン環、ピリジン環、又は、これらにtert-ブチル基(-tBu)又はブロモ基(-Br)が結合したものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項5】
前記式(1)におけるArが、ベンゼン環またはこれにtert-ブチル基(-tBu)が結合したものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項6】
前記式(2)が以下の式(2-1)又は式(2-2)であり、式中のRがアリール基、炭素数が6以下のアルキル基、チオアリール基又は炭素数が6以下のチオアルキル基である、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属錯体。
【化3】
【化4】
【請求項7】
請求項1~6に記載の金属錯体の製造方法であって、
ピロリンジイミン化合物又はジイミノイソインドリン化合物と、ベンゾニトリル化合物又はシアノピリジン化合物と、金属化合物と、脱プロトン剤とを溶媒中で混合した混合物を還流する還流工程と、
前記還流工程で得られた生成物を分離する分離工程と、を有し、
前記ピロリンジイミン化合物は、下記の化学式(4)で表され、
【化5】
前記化学式(4)において、Ar はベンゼン環、ピリジン環又はこれらにメトキシ基(-OMe)、フルオロ基(-F)、トリフルオロメチル基(-CF )、ブロモ基(-Br)基及びtert-ブチル基(-tBu)からなる群から選択されるいずれかの基が結合したものであり、
前記ジイミノイソインドリン化合物は、下記の化学式(5)で表され、
【化6】
前記Xは水素、アリール基、炭素数が6以下のアルキル基、チオアリール基または炭素数が6以下のチオアルキル基であり、
前記ベンゾニトリル化合物は、ベンゾニトリルのベンゼン環に、メトキシ基(-OMe)、フルオロ基(-F)、トリフルオロメチル基(-CF )、ブロモ基(-Br)及びtert-ブチル基(-tBu)からなる群から選択されるいずれかの基が結合したものを含み、
前記シアノピリジン化合物は、シアノピリジンのピリジン環に、メトキシ基(-OMe)、フルオロ基(-F)、トリフルオロメチル基(-CF 、ブロモ基(-Br))及びtert-ブチル基(-tBu)からなる群から選択されるいずれかの基が結合したものを含む、金属錯体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体及び金属錯体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属錯体は、金属と非金属の原子が結合した構造を有する化合物である。金属錯体は、特異な性質を示し、光、電気、磁気、触媒等の分野で利用されている。一例として金属錯体は、光材料、触媒材料等の様々な用途が期待されており、様々な検討が進められている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、フタロシアニンのルテニウム(Ru)錯体が記載されている。非特許文献1には、このRu錯体が600nm近傍の波長の光を吸収することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Pavel A. Stuzhin, Serguej I. Vagin, and Michael Hanack, Inorg. Chem. 1998, 37, 2655-2662.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属錯体は様々な用途での応用が記載されている。金属錯体は、構造、電子状態等によって異なる性質を示す。新規な金属錯体の開発、及び、新規な金属錯体を用いた既存の分野の進歩、新規の分野の開拓が求められている。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、新規な金属錯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、金属イオンに窒素が3配位で配位した2つの部分骨格を有し、この2つの部分骨格が互いにねじれの位置で金属イオンと結合した新規な金属錯体の作製に成功した。またこの金属錯体が、特異な特性を示すことを見出した。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0008】
(1)第1の態様にかかる金属錯体は、以下の式(1)又は(2)で表記される。
【0009】
【化1】
【0010】
【化2】
【0011】
式中、Mは、Ru、Fe、Os、Co、Rh、Irからなる群から選択されるいずれかの金属イオンであり、Ar及びArはベンゼン環、ピリジン環又はこれらにメトキシ基(-OMe)、フルオロ基(-F)、トリフルオロメチル基(-CF)、ブロモ基(-Br)基及びtert-ブチル基(-tBu)からなる群から選択されるいずれかの基が結合したものであり、Xは水素、アリール基、炭素数が6以下のアルキル基、チオアリール基または炭素数が6以下のチオアルキル基である。
【0012】
(2)上記態様にかかる金属錯体において、前記式(1)又は(2)におけるMが8族または9族の遷移金属のイオンであってもよい。
【0013】
(3)上記態様にかかる金属錯体の前記式(1)においてArとArが異なる基であってもよい。
【0014】
(4)上記態様にかかる金属錯体の前記式(1)又は(2)におけるArが、ベンゼン環、ピリジン環またはこれらにtert-ブチル基(-tBu)又はブロモ基(-Br)が結合したものであってもよい。
【0015】
(5)上記態様にかかる金属錯体の前記式(1)におけるArが、ベンゼン環またはこれにtert-ブチル基(-tBu)が結合したものであってもよい。
【0016】
(6)上記態様にかかる金属錯体の前記式(2)が以下の式(2-1)又は式(2-2)であり、式中のRがアリール基、炭素数が6以下のアルキル基、チオアリール基又は炭素数が6以下のチオアルキル基であってもよい。
【0017】
【化3】
【0018】
【化4】
【0019】
(7)第2の態様にかかる金属錯体の製造方法は、上記態様にかかる金属錯体の製造方法であって、ピロリンジイミン化合物又はジイミノイソインドリン化合物と、ベンゾニトリル化合物又はシアノピリジン化合物と、金属化合物と、脱プロトン剤とを溶媒中で混合した混合物を還流する還流工程と、前記還流工程で得られた生成物を分離する分離工程と、を有する。
【発明の効果】
【0020】
上記態様にかかる金属錯体は新規であり、様々な用途への応用が期待できる。また上記態様にかかる金属錯体の製造方法によれば、新規な金属錯体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】単結晶X線構造解析から求められた実施例1の結晶が有する分子構造である。
図2】実施例1の結晶の高分解能マススペクトル測定の結果である。
図3】実施例1の金属錯体の光吸収スペクトルを示す。
図4】実施例2の結晶の高分解能マススペクトル測定の結果である。
図5】単結晶X線構造解析から求められた実施例3の結晶が有する分子構造である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態について詳細に説明する。以下の説明で用いる化学式等は、本発明の特徴をわかりやすくするために模式的に示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0023】
「金属錯体」
本実施形態にかかる金属錯体は、以下の式(1)又は(2)で表記される。
【0024】
【化5】
【0025】
【化6】
【0026】
式中、Mは、6配位の正八面体型の立体構造を選択できる金属イオンである。具体的にはMは、Ru、Fe、Os、Co、Rh、Irからなる群から選択されるいずれかの金属イオンである。Mは、8族又は9族の遷移金属のイオンであることが好ましく、Ru又はFeであることがより好ましい。
【0027】
また式中、Ar及びArはベンゼン環、ピリジン環又はこれらにメトキシ基(-OMe)、フルオロ基(-F)、トリフルオロメチル基(-CF)、ブロモ基(-Br)及びtert-ブチル基(-tBu)からなる群から選択されるいずれかの基が結合したものである。
【0028】
式(1)においてArとArとは同じ官能基である必要はなく、ArとArとは異なる官能基でもよい。またAr及びArはそれぞれ結合する場所ごとに異なる官能基でもよい。金属イオン、配位子、配位子に結合した官能基Ar、ArおよびXの種類および位置を変えると、強いピーク波長が生じる位置が近赤外領域内において変化する。例えば、金属イオンがRuよりFeの場合、配位子が式(2)で表記されるものより式(1)で表記される錯体の場合、ピーク波長は長波長側にシフトする。すなわち、官能基を調整することで、吸収波長を変えることができる。用途に応じて異なる最適な吸収波長は異なる。
【0029】
式(1)又は(2)におけるArは、ベンゼン環、ピリジン環またはこれらにブロモ基(-Br)基が結合したものであることが好ましい。また式(1)におけるArは、ベンゼン環またはこれにtert-ブチル基(-tBu)が結合したものであることが好ましい。
【0030】
Xは水素、アリール基、炭素数が6以下のアルキル基、チオアリール基、炭素数が6以下のチオアルキル基である。Xは全てが同じ官能基である必要はなく、それぞれ異なる官能基でもよい。式(2)の金属錯体は、Xが以下の関係にある式(2-1)又は式(2-2)であることが好ましい。
【0031】
【化7】
【0032】
【化8】
【0033】
式(2-1)及び式(2-2)中におけるRはアリール基又は炭素数が6以下のアルキル基である。式(2-1)はオルト位であり、式(2-2)はパラ位である。Rが、接続する主骨格に対して対称な位置にあるため、安定しやすい。
【0034】
以下の式(1-1)は、式(1)の具体的な一例である。式(1-1)においてPhはフェニル基であり、BuPhはtert-ブチルフェニル基である。
【0035】
【化9】
【0036】
以下の式(2-1-1)は、式(2-1)の具体的な一例である。式(2-1-1)においてPhはフェニル基であり、BuPhはtert-ブチルフェニル基である。
【0037】
【化10】
【0038】
式(1)及び式(2)(式(1-1)、式(2-1)、式(2-2)及び式(2-1-1)を含む)で示す金属錯体は、八面体の中心に位置する金属イオンと、八面体の頂点の位置で金属イオンを取り囲む6つの配位子(窒素)と、を有する。6つの配位子の内の3つは、一つのフタロシアニン部分骨格の一部である。フタロシアニン部分骨格は、以下の式(3)で表記されるフタロシアニンの点線で囲まれた一部分を意味する。
【0039】
【化11】
【0040】
フタロシアニンは、広いπ共役を有する。フタロシアニン部分骨格も、広いπ共役を有する。式(1)及び式(2)で示す金属錯体は、フタロシアニン部分骨格を2つ有し、2つのフタロシアニン部分骨格は金属錯体に対してねじれの位置で結合している。このように、ねじれの位置で2つのフタロシアニン部分骨格が金属イオンに対して結合した金属錯体は新規なものである。
【0041】
式(1)及び式(2)で示す金属錯体は、波長が700nm以上の近赤外の光も吸収できる。例えば、非特許文献1に記載のように、フタロシアニンのルテニウム(Ru)錯体の吸収波長は600nm以下である。近赤外に吸収波長を有する金属錯体は、様々な用途が期待できる。例えば、この金属錯体は色素増感型の太陽電池が利用できる光の波長範囲を広くできる。またこの金属錯体は、触媒反応の反応効率を高めることができる。
【0042】
式(1)及び式(2)で示す金属錯体が、700nm以上の長波長域に吸収を有する理由は明確にはなっていない。一般に式(3)で示されるフタロシアニンは、広いπ共役を有することで、光の吸収ピーク波長が長波長側に存在すると言われている。式(1)及び式(2)で示す金属錯体は、フタロシアニン部分骨格をねじれの位置で有し、フタロシアニンのルテニウム(Ru)錯体よりも共役系が広がる範囲は狭い。それにも関わらず、フタロシアニンのルテニウム(Ru)錯体よりも長波長側に吸収ピーク波長を有することは驚くべきである。
【0043】
式(1)及び式(2)で示す金属錯体は、フタロシアニン部分骨格同士の共役系が八面体の中心に位置する金属イオンを介して繋がっているのではないかと考えられる。フタロシアニンのRu錯体は、配位子であるフタロシアニンのπ-π遷移により光の吸収ピーク波長が決定する。これに対し、式(1)及び式(2)で示す金属錯体は、金属イオンと配位子であるフタロシアニン部分骨格との間における電荷移動遷移(CT遷移)の寄与が大きいのではないかと考えられる。すなわち、式(1)及び式(2)で示す金属錯体は、金属イオンを介して広い共役系を維持しつつ、π-π遷移と異なるCT遷移により光を吸収するため、光の吸収ピーク波長が長波長側にシフトするのではないかと考えられる。
【0044】
上述のように、本実施形態にかかる金属錯体は新規な構造を有し、様々な用途への応用が期待される。また本実施形態にかかる金属錯体の中には、波長が700nm以上の近赤外の光を吸収できるものもある。可視光より長波長域の光を吸収する金属錯体を用いると、色素増感型太陽電池の発電効率を高めることができる。また可視光より長波長域の光を吸収する金属錯体を水素製造触媒として用いると、反応効率を高めることができる。
【0045】
「金属錯体の製造方法」
本実施形態にかかる金属錯体の製造方法は、ピロリンジイミン化合物又はジイミノイソインドリン化合物と、ベンゾニトリル化合物又はシアノピリジン化合物と、金属化合物と、脱プロトン剤とを溶媒中で混合した混合物を還流する還流工程と、還流工程で得られた生成物を分離する分離工程と、を有する。
【0046】
まずピロリンジイミン化合物又はジイミノイソインドリン化合物と、ベンゾニトリル化合物又はシアノピリジン化合物と、金属化合物と、脱プロトン剤とを溶媒中で混合した混合物を作製する。
【0047】
ピロリンジイミン化合物(以下の式(4))又はジイミノイソインドリン化合物(以下の式(5))は、フタロシアニン部分骨格をなす原料である。ピロリンジイミン化合物は、以下の式(4)で示すようにピロリンジイミンの一部がArで置換されたものを含むことを意味し、ジイミノイソインドリン化合物は、以下の式(5)で示すようにピロリンジイミンの一部がXで置換されたものを含むことを意味する。
【0048】
【化12】
【0049】
【化13】
【0050】
ピロリンジイミン化合物は、式(1)で示す金属錯体の部分骨格をなし、ジイミノイソインドリン化合物は式(2)で示す金属錯体の部分骨格をなす。作製する金属錯体に応じて使用する原料を変える。
【0051】
ベンゾニトリル化合物又はシアノピリジン化合物は、式(1)及び式(2)で示す金属錯体において、フタロシアニン部分骨格と八面体の頂点の位置に位置する窒素とをつなぐ部分になる。ベンゾニトリル化合物は、ベンゾニトリルのベンゼン環に、メトキシ基(-OMe)、フルオロ基(-F)、トリフルオロメチル基(-CF)、ブロモ基(-Br)及びtert-ブチル基(-tBu)からなる群から選択されるいずれかの基が結合したものを含むことを意味する。シアノピリジン化合物は、シアノピリジンのピリジン環に、メトキシ基(-OMe)、フルオロ基(-F)、トリフルオロメチル基(-CF、ブロモ基(-Br))及びtert-ブチル基(-tBu)からなる群から選択されるいずれかの基が結合したものを含むことを意味する。
【0052】
金属化合物は、式(1)及び式(2)で示す金属錯体の金属イオンの化合物である。金属化合物は、金属塩、金属水酸化物、金属カルボニル化物等を用いることができる。例えば金属イオンがRuの場合は、RuCl、Ru(CO)12等を用いることができる。
【0053】
脱プロトン剤は、分子からプロトンを除去する材料である。分子からプロトンを除去することで共役塩基が作られる。脱プロトン剤は、DBU(ジアザビシクロウンデセン)、DBN(ジアザビシクロノネン)、TMG(テトラメチレングアニジン)等を用いることができ、DBUを用いることが好ましい。
【0054】
溶媒は、2-エトキシエタノール、2-メトキシエタノール、エチレングリコール、N,Nジメチルアミノエタノール、1-ペンタノール等を用いることができる。
【0055】
次いで、作製した混合物を還流する。還流は希ガス雰囲気化が行うことが好ましく、Ar雰囲気下で行うことが特に好ましい。還流は、1時間以上30時間以下行うことが好ましい。
【0056】
還流後の溶液に混合溶液を加え、吸引ろ過する。ろ過後の生成物を分離して金属錯体を得る。混合溶液は、例えば水とメタノールとを1:1で混合した溶液を用いることができる。分離は、クロマトグラフィー、再結晶等の方法を用いることができる。
【0057】
上述の金属錯体の製造方法によれば、式(4)で示すピロリンジイミン化合物を原料として式(1)で示す金属錯体を作製することができ、式(5)で示すジイミノイソインドリン化合物を原料として式(2)で示す金属錯体を作製することができる。
【0058】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例
【0059】
(実施例1)
実施例1では、以下の化学反応を行い、金属錯体を合成した。
【0060】
【化14】
【0061】
アルゴン雰囲気下で、上記反応式中の(4-1)で示されるピロリンジイミン化合物(91.4mg、0.25mmol)と、RuCl・nHO(22.6mg、0.11mmol)と、DBU(0.1mL、0.67mmol)と、ベンゾニトリル(0.10mL、0.97mmol)及び2-エトキシエタノール(0.5mL)を混合し、混合物を5時間還流した。
【0062】
次いで還流後の溶液に、メタノール:水=1:1の混合溶液を十分に加え、吸引ろ過を行った。ろ過で残留した固体を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:ヘキサン=2:1)で精製し、得られた結晶をメタノールにて洗浄した。その結果、黄緑色の結晶(7.6mg、6.2μmol)を収率4.9%で得た。
【0063】
得られた黄緑色の結晶を以下の条件で、NMR(核磁気共鳴)を用いて分子構造を測定した。
1H NMR(500MHz,CDCl3)δ=9.53(s,4H),7.98(d,J=8.5Hz,8H),7.78-7.80(m,8H), 7.50(d,J=8.0Hz,8H),7.28-7.29(m,12H),1.41(s,36H).
【0064】
図1は単結晶X線構造解析から求められた実施例1の結晶が有する分子構造である。図1に示すように、上記の式(1-1)で表記される金属錯体であることが確認された。
【0065】
また高分解能マススペクトル測定を用いて、元素分析を行った。図2は、実施例1の結晶の高分解能マススペクトル測定の結果である。図2において(a)は実測値であり、(b)は理論値である。実測値と理論値が一致しており、式(1-1)で表記される分子であることが確認された。
HRMS-MALDI(m/z) Calcd for C76H76N10Ru[M]+:1230.53130. Found:1230.52900.
【0066】
また作製した結晶(金属錯体)の光吸収スペクトルを求めた。光吸収スペクトルは、結晶のクロロホルム溶液を調製し、測定した。この金属錯体の吸収ピーク波長は、767nmであった。図3は、実施例1の金属錯体の光吸収スペクトルを示す。また図3では、比較例1としてテトラアザポルフィリンのルテニウム(Ru)錯体の光吸収スペクトルを同時に図示した。
UV-vis(CHCl3max(10-4ε):767nm(3.5),345nm(6.3).
【0067】
(実施例2)
実施例2では、以下の化学反応を行い、金属錯体を合成した。
【0068】
【化15】
【0069】
アルゴン雰囲気下で、上記反応式中の(5-1)で示されるジイミノイソインドリン化合物(304.5mg、0.74mmol)と、RuCl・nHO(45.5mg、0.22mmol)と、DBU(0.3mL、2.0mmol)と、ベンゾニトリル(0.5mL、4.9mmol)及び2-エトキシエタノール(1.5mL)を混合し、混合物を3時間還流した。
【0070】
次いで還流後の溶液に、メタノール:水=1:1の混合溶液を十分に加え、吸引ろ過を行った。ろ過で残留した固体を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:ヘキサン=4:1)で精製し、得られた結晶をメタノールにて洗浄した。その後、HPLCカラムで単離することで緑色の結晶(16.7mg、12.5μmol)を収率3.4%で得た。
【0071】
得られた緑色の結晶を以下の条件で、NMR(核磁気共鳴)を用いて分子構造を測定した。
1H NMR(500MHz,CDCl3)δ=9.26(s,4H),8.54(s,4H),7.84-7.86(m,8H),7.29-7.34(m,28H),1.35(s,36H).
【0072】
NMRから実施例2の結晶が有する分子構造が、上記の式(2-1-1)で表記される金属錯体であることが確認された。
【0073】
また高分解能マススペクトル測定を用いて、元素分析を行った。図4は、実施例2の結晶の高分解能マススペクトル測定の結果である。図4において(a)は実測値であり、(b)は理論値である。実測値と理論値が一致しており、式(2-1-1)で表記される分子であることが確認された。
HRMS-MALDI(m/z) Calcd for C84H80N10Ru[M]+:1330.56282. Found:1330.56178.
【0074】
また作製した結晶(金属錯体)の光吸収スペクトルを求めた。光吸収スペクトルは、結晶のクロロホルム溶液を調製し、測定した。この金属錯体の吸収ピーク波長は、717nmであった。
UV-vis(CHCl3max(10-4ε):717nm(3.4),331nm(8.1),284nm(7.5).
【0075】
(実施例3)
実施例3では、以下の化学反応を行い、金属錯体を合成した。実施例3は、式(1)で表記される錯体のMイオンが、Feイオンとなっている点で、実施例1と異なる。
【0076】
【化16】
【0077】
アルゴン雰囲気下、上記反応式(4-1)で示されるピロリンジイミン化合物(180.3mg、0.50mmol)と、FeCl・6HO(54.0mg、0.20mmol)と、DBU(0.2mL、1.3mmol)と、ベンゾニトリル(0.32mL、3.1mmol)とを、2-エトキシエタノール(1.0mL)と混合し、混合物を2.5時間還流させた。
【0078】
次いで還流後の溶液に、メタノール:水 =1:1の混合溶液を十分に加え、吸引ろ過を行った。ろ過で残留した固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl)で精製し、得られた固体をメタノールで洗浄した。その結果、黒色結晶(4.7mg、4.0μmol)を収率1.6%で得た。
【0079】
得られた黒色結晶を以下の条件で、NMR(核磁気共鳴)を用いて分子構造を測定した。
1H NMR(500MHz,CDCl3)δ=10.31(s,4H),7.91-7.89(m,8H),7.82(d,J=8.5Hz,8H),7.44(d,J=8.5Hz,8H),7.34-7.33(m,12H),1.38(s,36H).
【0080】
NMRから実施例3の結晶が有する分子構造が、上記の式(1-2)で表記される金属錯体であることが確認された。
【0081】
また図5は単結晶X線構造解析から求められた実施例3の結晶が有する分子構造である。図5に示すように、単結晶X線構造解析からも上記の式(1-2)で表記される金属錯体であることが確認された。
【0082】
また作製した結晶(金属錯体)の光吸収スペクトルを求めた。光吸収スペクトルは、結晶のクロロホルム溶液を調製し、測定した。この金属錯体の吸収ピーク波長は、880nmであった。
UV-vis(CHCl3max(10-4ε):880nm(2.3),374nm(4.9).
【0083】
(実施例4)
実施例4では、以下の化学反応を行い、金属錯体を合成した。実施例4は、式(2)で表記される錯体のMイオンが、Feイオンとなっている点で、実施例2と異なる。
【0084】
【化17】
【0085】
アルゴン雰囲気下で、上記反応式中の(5-1)で示されるジイミノイソインドリン化合物(300.4mg、0.73mmol)と、FeCl・6HO(82.2mg、0.30mmol)と、DBU(0.3mL、2.0mmol)と、ベンゾニトリル(0.5mL、4.9mmol)とを、2-エトキシエタノール(1.5mL)と混合し、混合物を3時間還流した。
【0086】
次いで還流後の溶液に、メタノール:水=1:1の混合溶液を十分に加え、吸引ろ過を行った。ろ過で残留した固体を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:ヘキサン=3:1)で精製し、得られた結晶をメタノールにて洗浄した。その後、HPLCカラムで単離した後、クロロホルム-メタノールの混合溶媒系で再結晶化することで茶黒色の結晶(2.5mg、1.9μmol)を収率0.53%で得た。
【0087】
得られたで茶黒色結晶を以下の条件で、NMR(核磁気共鳴)を用いて分子構造を測定した。
1H NMR(500MHz,CDCl3)δ=9.90(s,4H),8.44(s,4H),7.93(d,J=6.0Hz,8H),7.23-7.36(m,28H),1.34(s,36H).
【0088】
NMRから実施例4の結晶が有する分子構造が、上記の式(2-1-2)で表記される金属錯体であることが確認された。
【0089】
また作製した結晶(金属錯体)の光吸収スペクトルを求めた。光吸収スペクトルは、結晶のクロロホルム溶液を調製し、測定した。この金属錯体の吸収ピーク波長は、822nmであった。
UV-vis(CHCl3max(10-4ε):822nm(2.5),451nm(1.2),353nm(5.7),290nm(7.4).
【0090】
(実施例5)
実施例5では、以下の化学反応を行い、金属錯体を合成した。実施例5は、式(1)で表記される錯体のArを、パラ-ブロモフェニルとした点で、実施例1と異なる。
【0091】
【化18】
【0092】
アルゴン雰囲気下、上記反応式(4-1)で示されるピロリンジイミン化合物(90.2mg、0.25mmol)と、RuCl・nHO(22.5mg、0.11mmol)と、DBU(0.1mL、0.67mmol)と、4-ブロモベンゾニトリル(110.9mg、0.61mmol)とを、2-エトキシエタノール(0.5mL)と混合し、混合物を29時間還流させた。
【0093】
次いで還流後の反応混合物をクロロホルムで抽出し、有機層を水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで脱水した。溶媒を留去し、固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (CHCl:ヘキサン=2:1)で精製し、得られた固体をメタノールで洗浄した。その結果、黄緑色結晶(2.1mg、1.4μmol)を収率1.1%で得た。
【0094】
得られた黄緑色結晶を以下の条件で、NMR(核磁気共鳴)を用いて分子構造を測定した。
1H NMR(500MHz,CDCl3)δ=9.44(s,4H),7.93(d,J=8.6Hz,8H),7.65(d,J=8.6Hz,8H),7.50(d,J=8.6Hz,8H),7.42(d,J=9.2Hz,8H),1.41(s,36H).
【0095】
NMRから実施例5の結晶が有する分子構造が、上記の式(1-3)で表記される金属錯体であることが確認された。
【0096】
また作製した結晶(金属錯体)の光吸収スペクトルを求めた。光吸収スペクトルは、結晶のクロロホルム溶液を調製し、測定した。この金属錯体の吸収ピーク波長は、765nmであった。
UV-vis(CHCl3max(10-4ε):765nm(2.3),693nm(0.5),350nm(4.6).
【0097】
(実施例6)
実施例6では、以下の化学反応を行い、金属錯体を合成した。実施例6は、式(1)で表記される錯体のArを、4-ピリジルとした点で、実施例1と異なる。
【0098】
【化19】
【0099】
アルゴン雰囲気下、上記反応式(4-1)で示されるピロリンジイミン化合物(181.3mg、0.50mmol)と、RuCl・nHO(31.3mg、0.15mmol)と、DBU(0.2mL、1.3mmol)と、4-シアノピリジン(332.8mg、3.2mmol)とを、2-エトキシエタノール(1.0mL)と混合し、混合物を3時間還流させた。
【0100】
次いで還流後の溶液に、メタノール:水=1:1の混合溶液を十分に加え、吸引ろ過を行った。ろ過で残留した固体を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=100:1)で精製した。その後、HPLCカラムで単離した後、単離した固体をメタノールで洗浄することで緑色の結晶(7.2mg、5.8μmol)を収率2.3%で得た。
【0101】
得られた緑色結晶を以下の条件で、NMR(核磁気共鳴)を用いて分子構造を測定した。
1H NMR(500MHz,CDCl3)δ=9.62(s,4H),8.59(d,J=5.2Hz,8H),7.95(d,J=8.6Hz,8H),7.66(d,J=5.8Hz,8H),7.55(d,J=8.1Hz,8H),1.42(s,36H).
【0102】
NMRから実施例6の結晶が有する分子構造が、上記の式(1-4)で表記される金属錯体であることが確認された。
【0103】
また作製した結晶(金属錯体)の光吸収スペクトルを求めた。光吸収スペクトルは、結晶のクロロホルム溶液を調製し、測定した。この金属錯体の吸収ピーク波長は、732nmであった。
UV-vis(CHCl3max(10-4ε):732nm(2.3),664nm(0.5),350nm(3.1).
【0104】
(実施例7)
実施例7では、以下の化学反応を行い、金属錯体を合成した。
【0105】
【化20】
【0106】
アルゴン雰囲気下、上記反応式(5-2)で示されるジイミノイソインドリン化合物(174.8mg、0.50mmol)と、RuCl・nHO(62.2mg、0.30mmol)とを2-エトキシエタノール(5mL)に溶解させた。その後、DBU(0.22mL、1.5mmol)及びベンゾニトリル(0.31mL、3.0mmol)を順次加え、混合物を3時間還流させた。
【0107】
次いで還流後の溶液を室温まで冷却後、メタノール:水=1:1の混合溶液を十分に加え、吸引ろ過を行った。ろ過で残留した固体を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl)で精製し、得られた結晶をメタノールにて洗浄した。その結果、緑色結晶(3.9mg、2.7μmol)を収率1.3%で得た。
【0108】
得られた緑色結晶を以下の条件で、NMR(核磁気共鳴)を用いて分子構造を測定した。
1H NMR(500MHz,CDCl3)δ=9.26(s,4H),8.01-7.99(m,8H),7.52(s,4H),7.28-7.27(m,12H),3.22(t,8H,J=7.5Hz),1.97-1.94(m,8H),1.62-1.59(m,8H),1.47-1.43(m,8H),0.96(t,12H,J=7.5Hz).
【0109】
NMRから実施例7の結晶が有する分子構造が、上記の式(2-2-1)で表記される金属錯体であることが確認された。
【0110】
また作製した結晶(金属錯体)の光吸収スペクトルを求めた。光吸収スペクトルは、結晶のクロロホルム溶液を調製し、測定した。この金属錯体の吸収ピーク波長は、745nmであった。
UV-vis(CHCl3max(10-4ε):745nm(3.3),683nm(1.1), 418nm(2.3), 335nm(4.2),304nm(4.2),272nm(7.3).
図1
図2
図3
図4
図5