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特許7064768水耕栽培装置及びそれを用いた植物の作付け方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】水耕栽培装置及びそれを用いた植物の作付け方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20220428BHJP
【FI】
A01G31/00 604
A01G31/00 609
A01G31/00 611Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018235006
(22)【出願日】2018-12-15
(65)【公開番号】P2020092684
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2018227705
(32)【優先日】2018-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】313006234
【氏名又は名称】有限会社グリーンスペース造園
(74)【代理人】
【識別番号】100143362
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 謙二
(72)【発明者】
【氏名】小山 茂樹
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-226102(JP,A)
【文献】特開2014-226098(JP,A)
【文献】特表2017-525392(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0235164(US,A1)
【文献】実開昭60-067059(JP,U)
【文献】特開平06-245659(JP,A)
【文献】特開平02-060530(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0144740(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め用意された育成鉢内の苗或いは挿し木である植物を、該育成鉢から取り出して培養液を充填したタンク内に保持する栽培床で栽培するように構成した水耕栽培装置であって、
前記育成鉢から取り出した植物の根本周りを囲む発泡煉石と、
前記発泡煉石で根本周りを囲んだ植物を保持するメッシュポットと、
を備え、
前記栽培床は、前記メッシュポットを嵌脱自在に支持する貫通孔を複数個有し、前記タンクは、前記植物の成長に応じて、前記貫通孔の数が比較的多い栽培床の当該貫通孔から、前記メッシュポットが前記植物ごと抜き出されて、前記貫通孔の数が比較的少ない栽培床の当該貫通孔に嵌合されるように設定された、前記貫通孔の配置のパターンが異なる栽培床を交換可能に備えていることを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項2】
前記栽培床は、耐水性に優れる抽出法ポリスチレンフォーム、又は、耐水性において、該抽出法ポリスチレンフォームに及ばない発泡スチロールで製作するとともに、該栽培床の表面を遮光可能とし、
前記タンクは、前記抽出法ポリスチレンフォームだけで製作するとともに、該タンクの外側を遮光可能とすることを特徴とする請求項1記載の水耕栽培装置。
【請求項3】
前記貫通孔の配置のパターンが異なる栽培床ごとに前記タンクを設けるとともに、前記貫通孔の数が比較的少ない栽培床を備えた前記タンクを、前記貫通孔の数が比較的多い栽培床を備えた前記タンクよりも上側にして多段に構成することを特徴とする請求項1又は2記載の水耕栽培装置。
【請求項4】
前記メッシュポットは円錐台形状であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の水耕栽培装置。
【請求項5】
前記栽培床は、前記タンク内の培養液で浮遊する浮力体であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の水耕栽培装置。
【請求項6】
前記タンクは自動給水可能であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の水耕栽培装置。
【請求項7】
前記貫通孔の配置のパターンが異なる栽培床ごとに前記タンクを設けるとともに、各タンク間で前記植物の植え付けと収穫とのタイミングをずらして作付けを行うことを特徴とする請求項~6のいずれか1項に記載の水耕栽培装置を用いた植物の作付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水耕栽培装置及びそれを用いた植物の作付け方法に関し、一般家庭での小規模な水耕栽培のみならず農業での大規模な水耕栽培にも好適である。
【背景技術】
【0002】
水耕栽培は、観賞用や食用の植物をその育成状態を容易に観察できるため、趣味と実益とを兼ねて採用される傾向にある。この水耕栽培装置として、培養液を別の貯液槽に蓄えず、栽培槽に直接供給して必須養分を溶解させ、作物の生育に適した濃度に調合しているものがある(例えば特許文献1参照)。この装置は、循環ポンプや配管類を必要とせず、栽培槽だけで足り、簡易で比較的手軽に取り扱えるため、一般家庭用として好適である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、植物を種子から育成すると変化を観察することができるようになるには、最低2週間程度かかるが、植物を苗から育成するとすぐに変化を観察することができる。かかる植物の苗は、例えば育成鉢(ポリエチレンフィルムポット)に土植えしたものが市販されている。しかしながら、育成鉢は通気性が悪く、蒸れやすいので、そこに植えた植物の苗は、なるべく早く植え替えることが好ましい。
【0004】
このため、上記特許文献1では、育成鉢から植物の苗を取り出して、根にはり付いた土を落とした上で、発泡スチロール製の栽培床を貫く定植孔に直接植え直している。この場合、植物の根がむき出しとなり、それが定植孔の周囲に当たって植え直しをしにくくしており、無理をすると、その植物の根を傷めてしまうおそれがある。かかる問題は、一般家庭での小規模な水耕栽培の普及を阻害する一因となっていると考えられる。
【0005】
また、上記特許文献1では、栽培床に植物体を定植する間隔は、その植物体の成長を考慮して大きくとる必要がある。このため、栽培床の面積当たりの収穫量が小さくなって、いわゆる生産効率が悪い。かかる問題は、農業での大規模な水耕栽培の普及を阻害する一因となっているとも考えられる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、一般家庭での小規模な水耕栽培のみならず農業での大規模な水耕栽培にも好適な水耕栽培装置及びそれを用いた植物の作付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ところで、一般家庭での水耕栽培ではさほどではないが、農業での水耕栽培ともなれば、それなりの経済性が要求される。そこで、本発明は、予め用意された育成鉢内の苗或いは挿し木である植物を、該育成鉢から取り出して培養液を充填したタンク内に保持する栽培床で栽培するように構成した水耕栽培装置であって、前記育成鉢から取り出した植物の根本周りを囲む発泡煉石と、前記発泡煉石で根本周りを囲んだ植物を保持するメッシュポットと、を備え、前記栽培床は、前記メッシュポットを嵌脱自在に支持する貫通孔を複数個有し、前記タンクは、前記植物の成長に応じて、前記貫通孔の数が比較的多い栽培床の当該貫通孔から、前記メッシュポットが前記植物ごと抜き出されて、前記貫通孔の数が比較的少ない栽培床の当該貫通孔に嵌合されるように設定された、前記貫通孔の配置のパターンが異なる栽培床を交換可能に備えていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明によれば、前記育成鉢から取り出した植物の根本周りを囲む発泡煉石と、前記発泡煉石で根本周りを囲んだ植物を保持するメッシュポットと、を備えているので、育成鉢から植物の苗等を取り出してその根本周りを発泡煉石で固定した状態で植え替えることができる。これにより、植え替え時に植物の根を傷めてしまうおそれがなくなる。
【0009】
また、前記栽培床は、前記メッシュポットを嵌脱自在に支持する貫通孔を複数個有し、前記タンクは、前記植物の成長に応じて、前記貫通孔の数が比較的多い栽培床の当該貫通孔から、前記メッシュポットが前記植物ごと抜き出されて、前記貫通孔の数が比較的少ない栽培床の当該貫通孔に嵌合されるように設定された、前記貫通孔の配置のパターンが異なる栽培床を交換可能に備えているので、栽培床を交換することで、植物を育成鉢から移植した直後は植物相互間の間隔を小さくしてできるだけ多くの植物を移植できる一方、その植物が成長するにつれて植物相互間の間隔を大きくして、その成長を妨げないようにすることができる。このように、植物の成長に応じて植物相互間の間隔を変えていくことで、収穫量を増大させて、生産効率が極めてよいものとなる。その結果、一般家庭での小規模な水耕栽培のみならず、農業での大規模な水耕栽培にも好適なものとなる。
【0010】
また露地栽培では、屋外の過酷な環境下に置かれることが想定される。そこで、請求項2記載の発明のように、前記栽培床は、耐水性に優れる抽出法ポリスチレンフォーム、又は、耐水性において、該抽出法ポリスチレンフォームに及ばない発泡スチロールで製作するとともに、該栽培床の表面を遮光可能とし、前記タンクは、前記抽出法ポリスチレンフォームだけで製作するとともに、該タンクの外側を遮光可能とすることが好ましい。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、前記栽培床は、耐水性に優れる抽出法ポリスチレンフォーム、又は、耐水性において、該抽出法ポリスチレンフォームに及ばない発泡スチロールで製作するとともに、該栽培床の表面を遮光可能とするので、屋外の過酷な環境下にあっても、栽培床の劣化をおさえて、長寿命化を図るとともに、軽量で断熱性能がよく、しかも安価なものとなる。また、前記タンクは、前記抽出法ポリスチレンフォームだけで製作するとともに、該タンクの外側を遮光可能とするので、屋外の過酷な環境下にあっても、タンクの劣化をおさえて、長寿命化を図るとともに、装置が軽量で、断熱性、耐水性に優れ、しかも安価なものとなる。
【0016】
また、屋上等の限られたスペースでは、水耕栽培装置を多段に構成することが考えられるものの、上段に比べて下段は日が当たりにくい。その一方で、植物は苗等の段階では、過酷な日照は却って有害となる。そこで、請求項記載の発明のように、前記貫通孔の配置のパターンが異なる栽培床ごとに前記タンクを設けるとともに、前記貫通孔の数が比較的少ない栽培床を備えた前記タンクを、前記貫通孔の数が比較的多い栽培床を備えた前記タンクよりも上側にして多段に構成することが好ましい。
【0017】
請求項記載の発明によれば、前記貫通孔の配置のパターンが異なる栽培床ごとに前記タンクを設けるとともに、前記貫通孔の数が比較的少ない栽培床を備えた前記タンクを、前記貫通孔の数が比較的多い栽培床を備えた前記タンクよりも上側にして多段に構成するので、下段には苗などを移植した直後の植物を多く配置する一方、上段には成長した植物を少なく配置することで、生産効率がさらによくなる。
【0018】
請求項記載の発明のように、前記メッシュポットは円錐台形状であることが好ましい。
【0019】
請求項記載の発明によれば、前記メッシュポットは円錐台形状であるので、一の栽培床からメッシュポットを抜き出して、他の栽培床に嵌め込むことが容易となる。これにより、栽培床を交換しやすくなる。
【0020】
また、請求項記載の発明のように、前記栽培床は、前記タンク内の培養液で浮遊する浮力体であることが好ましい。
【0021】
請求項記載の発明によれば、前記栽培床は、前記タンク内の培養液で浮遊する浮力体であるので、栽培床の沈下状態がすなわち培養液の液面を表わしており、培養液不足を素人でも一目で判断することができるため、培養液の管理が極めて容易で、この状態に至ったときに培養液を確実に確保することができる。
【0022】
一方、栽培床を浮遊式にしたとしても、培養液不足となったタンクに、都度給水する必要があるので、農業での大規模な水耕栽培では、タンク内の培養液の管理が大変であることには違いない。そこで、請求項記載の発明のように、前記タンクは自動給水可能であることが好ましい。
【0023】
請求項記載の発明によれば、前記タンクは自動給水可能であるので、培養液不足となったタンクに、都度給水する必要がなくなる。また、より簡単な位置固定式の栽培床をも採用できて、農業での大規模な水耕栽培に好適である。
【0024】
また、土地に植物を直植えして露地栽培を行う場合には、同じ植物を連続して栽培することが困難となる、いわゆる連作障害が発生するが、水耕栽培ではそのような制約はない。そこで、請求項記載の発明のように、前記貫通孔の配置のパターンが異なる栽培床ごとに前記タンクを設けるとともに、各タンク間で前記植物の植え付けと収穫とのタイミングをずらして作付けを行うことが好ましい。
【0025】
請求項記載の発明によれば、前記貫通孔の配置のパターンが異なる栽培床ごとに前記タンクを設けるとともに、各タンク間で前記植物の植え付けと収穫とのタイミングをずらして作付けを行うので、連作障害を回避して、生産効率がさらによくなる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、前記育成鉢から取り出した植物の根本周りを囲む発泡煉石と、前記発泡煉石で根本周りを囲んだ植物を保持するメッシュポットと、を備えているので、育成鉢から植物の苗等を取り出してその根本周りを発泡煉石で固定した状態で植え替えることができる。これにより、植え替え時に植物の根を傷めてしまうおそれがなくなる
また、前記栽培床は、前記メッシュポットを嵌脱自在に支持する貫通孔を複数個有し、前記タンクは、前記植物の成長に応じて、前記貫通孔の数が比較的多い栽培床の当該貫通孔から、前記メッシュポットが前記植物ごと抜き出されて、前記貫通孔の数が比較的少ない栽培床の当該貫通孔に嵌合されるように設定された、前記貫通孔の配置のパターンが異なる栽培床を交換可能に備えているので、栽培床を交換することで、植物を育成鉢から移植した直後は植物相互間の間隔を小さくしてできるだけ多くの植物を移植できる一方、その植物が成長するにつれて植物相互間の間隔を大きくして、その成長を妨げないようにすることができる。このように、植物の成長に応じて植物相互間の間隔を変えていくことで、収穫量を増大させて、生産効率が極めてよいものとなる。その結果、一般家庭での小規模な水耕栽培のみならず、農業での大規模な水耕栽培にも好適なものとなる。
【0027】
請求項記載の発明によれば、前記貫通孔の配置のパターンが異なる栽培床ごとに前記タンクを設けるとともに、各タンク間で前記植物の植え付けと収穫とのタイミングをずらして作付けを行うので、同じ植物を連続して栽培することにより、生産効率がさらによくなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態1に係る水耕栽培装置の全体構成を示す正面図である。
図2】本実施形態1に係る水耕栽培装置の平面図である。
図3】本実施形態1に係るメッシュポットと浮力体との縦断面図である。
図4】本発明の実施形態2に係るタンクと浮力体との説明図であって、(a)は平面図、(b)は(a)中のX-X線断面図、(c)は斜視図である。
図5】本実施形態2に係る浮力体の説明図であって、(a)は18孔の場合、(b)は11孔の場合、(c)は6孔の場合をそれぞれ示す平面図である。
図6】本実施形態2に係る水耕栽培装置の平面的な配置を示す斜視図である。
図7】本実施形態2に係る水耕栽培装置の立体的な配置を示す斜視図である。
図8】本実施形態2に係る水耕栽培による露地栽培可能期間を示す図表である。
図9】本実施形態2に係る水耕栽培装置の給排水部を示す模式図である。
図10】本実施形態2に係る水耕栽培装置の自動給水設備を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1に係る水耕栽培装置100の全体構成を示す正面図、図2はその平面図、図3は本実施形態1に係るメッシュポット10と浮力体1との縦断面図である。本実施形態1では、一般家庭での小規模な水耕栽培について説明する。
【0030】
図1図2に示すように、この水耕栽培装置100は、植物の苗9を土植えした図示しない育成鉢の内容物を取り出し、水洗により根を傷めない程度に土を取り除いた植物の苗9の根本周りを発泡煉石3で囲んでメッシュポット10に入れ、このメッシュポット10を栽培床としての浮力体1で取り囲んでタンク5内の培養液4で浮かす一方、そのタンク5内の散気球12で培養液4中に散気されるようになっている。培養液4中に有機物(藻類)が発生すると、培養液4中が酸素不足となり、植物の根9が育成しにくくなるから、この散気により培養液4中に酸素を補充するためである。なお、培養液4は、例えばハイポネックス(商品名)を水で希釈して使用するものであり、発泡煉石3は、例えばハイドロボール(商品名)である。この発泡煉石3に代えて、グラスウールや軽石などを使用してもよい。
【0031】
タンク5は、上部が開放された直方体状をなしており、その各辺に設けられた枠体14において、底面を除く全ての周面(前後左右面)を構成するように、透明のガラス板がそれぞれ嵌め込まれている。透明のガラス板を使用しているのは、植物の根のはり具合など育成状態を観察するためである。かかる目的がない場合は、底面を含めて不透明の合成樹脂(プラスチック)や、詳しくは後述する抽出法ポリスチレンフォーム(例えばスタイロフォーム(登録商標))等で構成してもよい。
【0032】
浮力体1は、やや扁平な異型のものではあるが、平面視では長方形状をなしており、タンク5の上部の枠体14による開口よりもわずかに大きい寸法となっている。この枠体14が、タンク5の最上部において、浮力体1のさらなる上昇を止めて、植物の苗9の過大な傾きを防止するストッパ手段としての機能を有する。また、浮力体1の平面視での略中央には、メッシュポット10を立姿勢で嵌め込み可能な貫通孔1aが1個だけ形成されている。
【0033】
図3に示すように、メッシュポット10は、前記育成鉢を一回り大きくしたような円錐台形状をなしており、その周面10bと底面10cとには、その中に詰める発泡煉石3は通過できないが、植物の苗9の根がはり出したときに通過できるような大きさの貫通孔が複数形成されているものである。また、メッシュポット10の上端にはフランジ10aが形成されており、このフランジ10aが前記浮力体1の貫通孔1aに係止されて、メッシュポット10が浮力体1に一体化されるようになっている。
【0034】
そして、浮力体1の貫通孔1aの外側が二重構造1b、さらに外側が一重構造1cとなっている。二重構造1bは、中空とするか、或いは、発泡スチロールや抽出法ポリスチレンフォームを封入したものとする。そして、かかる構成の浮力体1で、メッシュポット10の上部のみを支持することができるようになっている。浮力体1に比べてメッシュポット10がかなり高い場合には、全体の重心が高くなって、その浮力体1を培養液4に浮かせたときに不安定となりやすいからである。一重構造1cの片隅には、給排水口11が設けられている。
【0035】
図からは明らかでないが、透明なガラス製のタンク5の場合は、その周面が不透明で遮光性のある断熱材で覆われている。遮光することで、有機物の発生を抑えるとともに、その断熱作用により、タンク5内の温度をほぼ一定に維持するためである。ただし、タンク5の上部は開放されているので、不透明で遮光性のある浮力体カバー2で覆われている。遮光することで、有機物の発生を抑えるものである。
【0036】
図1図2に示すように、前記散気球12と、この散気球12にエアーホースジョイント8を介して接続されたエアーホース7と、このエアーホースにエアーを供給するエアーポンプ6と、このエアーポンプ6に電力を供給する電源コード13とがエアー供給手段に相当する。
【0037】
以下、本水耕栽培装置100の使用方法を説明する。
【0038】
市販の植物の苗9を土植えした育成鉢を用意しておく。そして、最初に発泡煉石3をメッシュポット10に少量入れておく。その一方で、育成鉢から取り出した苗9の根を傷めないように注意を払いながら水洗して土を取り除いておく。そして、土を取り除いた苗9を、前記発泡煉石3を少量入れたメッシュポット10の中に置き、その苗9の茎周りに、さらに発泡煉石3を入れて、メッシュポット10の中にその苗9を固定する。
【0039】
メッシュポット10を浮力体1の貫通孔1aに嵌め込み、浮力体1の表面を浮力体カバー2で覆う。タンク5の底部に、外部のエアーポンプ6とエアーホース7により接続された散気球12を設置し、エアーホース7をエアーホースジョイント8でタンク5の枠体14に固定する。
【0040】
タンク5内に培養液4を半分程度注ぎ入れ、浮力体1をタンク5に入れてから、前記給排水口11を通じて、タンク5内に培養液4を注ぎ入れて液量調整する。ここでタンク5内に培養液4を注ぎ入れると、浮力体1が上昇し、やがて枠体14に当接して止まる。このとき、タンク5内は最大液位WLまで培養液4で満たされているので、ただちにその注ぎ入れを中止する。電源コード13を図示しない電源に接続して、エアーポンプ6を駆動させると、空気泡が発生する。その後は、培養液4の補充を行う。
【0041】
以上説明したように、本実施形態1によれば、育成鉢から取り出して水洗した植物の苗9を発泡煉石3で囲んでメッシュポット10に入れて固定し、このメッシュポット10を浮力体1で取り囲んでタンク5内の培養液4で浮かすように構成したので、育成鉢から植物の苗9を取り出して容易に植え替えることができる。これにより、植え替え時に植物の根を傷めてしまうおそれがなくなる。植え替え後は、植物の根9を培養液4中に伸ばしていき、その培養液4の増減で浮力体1が昇降することで、培養液4の現在量を知ることができる。そして、適宜タイミングで培養液4を追加するなどして、十分に成長させた植物を収穫することができる。その結果、一般家庭での小規模な水耕栽培を満喫することができる。
【0042】
(実施形態2)
ところで、実施形態1では、一般家庭での小規模な水耕栽培を想定して、1本の植物の苗9を育成するようにしているが、農業での大規模な水耕栽培では、複数本の植物の苗9を同時に育成したいものである。この実施形態2はそのような場合を考慮したものである。図4は本発明の実施形態2に係る水耕栽培装置200のタンク205の上部開口部に浮力体201Aが上下方向に移動可能に嵌合している状態を示す説明図であって、(a)は平面図、(b)は(a)中のX-X線断面図、(c)は斜視図である。図5はタンク5の上部開口部に嵌合可能な浮力体201A~Cの平面図である。なお、本実施形態2において、上記実施形態1と共通する要素には同一符号をつけて、重複説明をなるべく省略する。
【0043】
図4図5に示すように、本実施形態2の水耕栽培装置200A~Cでは、栽培床としての浮力体201A~Cをそれぞれ備えている。浮力体201Aは、平面視で貫通孔201aが合計18個の井桁状に配置された長方形状をなしており、浮力体201Bは、平面視で貫通孔201aが合計11個の千鳥状に配置された長方形状をなしており、浮力体201Cは,平面視で貫通孔201aが合計6個の井桁状に配置された長方形状をなしている。そして、浮力体201A~Cは、いずれもタンク205の上部開口部よりもやや小さい寸法となっている。
【0044】
タンク205は、抽出法ポリスチレンフォーム製であり、浮力体201A~Cは、いずれも発泡スチロール製、或いは、抽出法ポリスチレンフォーム製である。ここで、抽出法ポリスチレンフォームは、軽量で、断熱性、耐水性に優れ、かつ安価である。一方、発泡スチロールは、耐水性において、抽出法ポリスチレンフォームに及ばないものの、その他の点では同等以上の性能を有している。ただし、ともに日が当たると劣化しやすいため、特に露地栽培の場合には、タンク205の外側と浮力体201A~Cの表面とを黒ビニール等の遮光性材料で被覆するか、水溶性のペンキで塗装しておくことが好ましい。
【0045】
図6は本実施形態2に係る水耕栽培装置200A~Cを平面的に配置した場合を示す斜視図、図7は本実施形態2に係る水耕栽培装置200A,Bを立体的に配置した場合を示す斜視図、図8は本実施形態2に係る水耕栽培による露地栽培可能期間を示す図表である。
【0046】
まず図6に示すように、水耕栽培装置200A~Cを平面的に配置する場合について説明する。図6では省略しているが、水耕栽培装置200A~Cは、複数台ずつあって、地面上にレール状に敷設したサポート部材上に、それぞれシリーズに配置されているものとする。そして、最初に植物の苗9を育成鉢からメッシュポット10に植え替えるが、その手順は上記実施形態1で述べたとおりである。メッシュポット10に植え替えた植物の苗9を、水耕栽培装置200Aの浮力体201Aの貫通孔201aに嵌合させる。水耕栽培装置200A~Cのタンク205と浮力体201A~Cとは必ずしも1:1に対応させて設ける必要性はなく、水耕栽培装置Aは、水耕栽培装置200B,Cの浮力体201B,Cを浮力体201Aに取り換えたものであってもよい。その状態で育成しつづけると、やがて隣り合う植物同士が干渉するまで成長する。
【0047】
ついで、水耕栽培装置200Aの浮力体201Aの18個の貫通孔201aからメッシュポット10を植物9ごと抜き出して、それを水耕栽培装置200Bの浮力体201Bの11個の貫通孔201aに嵌合させる。このとき、1台の水耕栽培装置200Aに対して3台の水耕栽培装置200Bを使用することになる。水耕栽培装置200A~Cのタンク205と浮力体201A~Cとは必ずしも1:1に対応させて設ける必要性はなく、水耕栽培装置Bは、水耕栽培装置200A,Cの浮力体201A,Cを浮力体201Bに取り換えたものであってもよい。その状態で育成しつづけると、やがて隣り合う植物同士が干渉するまで成長する。
【0048】
ついで、水耕栽培装置200Bの浮力体201Bの11個の貫通孔201aからメッシュポット10を植物9ごと抜き出して、それを水耕栽培装置200Cの浮力体201Bの6個の貫通孔201aに嵌合させる。このとき、1台の水耕栽培装置200Bに対して2台の水耕栽培装置200Cを使用することになる。水耕栽培装置200A~Cのタンク205と浮力体201A~Cとは必ずしも1:1に対応させて設ける必要性はなく、水耕栽培装置Cは、水耕栽培装置200A,Bの浮力体201A,Bを浮力体201Cに取り換えたものであってもよい。その状態で育成しつづけると、やがて隣り合う植物同士が干渉するまで成長する。この時点で植物9を収穫することができる。
【0049】
ここで、土地に直植えして露地栽培を行う場合には、同じ植物を連続して栽培することが困難であるが、水耕栽培ではそのような制約はない。また、水耕栽培による露地栽培可能期間は、植物の種類により異なる。図8に示す例において、例えばチンゲンサイを例にとれば、植え付けは同図中の平行破線で示す領域のように1月~12月の1年をとおして行えるが、収穫は同図中の平行斜線で示す領域のように3月~11月となっている。そこで、1月~2月の間に植え付けを行い、3月~4月の間に収穫するとよいことがわかる。すると、3月~4月の間にはつぎの植え付けを行うと、5月~6月の間に収穫することができる。以下同様である。このような作付け計画を実行することで、同じ植物を連続して栽培することにより、大量に収穫することができる。他の植物についても同様であり、いずれも生産効率が良くなることはいうまでもない。
【0050】
以上説明したように、本実施形態2の水耕栽培装置200A~Cでは、浮力体201A~Cの貫通孔201aの配置のパターンを、植物9の成長に応じて変えることができるので、植物9を育成鉢から移植した直後は植物相互間の間隔を小さくしてできるだけ多くの植物を移植できる一方、その植物が成長するにつれて植物相互間の間隔を大きくして、その成長を妨げないようにすることができる。このように、植物9の成長に応じて植物相互間の間隔を変えていくことで、生産効率が極めてよくなる。その結果、一般家庭での小規模な水耕栽培のみならず、農業での大規模な水耕栽培にも好適なものとなる。
【0051】
そして、貫通孔201aの配置のパターンが異なる浮力体201A~Cごとにタンク205を設けるとともに、各タンク205間で植物9の植え付けと収穫とのタイミングをずらして作付けを行うことができるので、同じ植物9を連続して栽培することにより、生産効率がさらによくなる。
【0052】
なお、本実施形態2では、水耕栽培装置200A~Cの台数が多くなり、水耕栽培装置200A~Cを平面的に配置しておくのでは、それなりのスペースが必要となる。そこで、屋上での栽培のように、スペースに制限がある場合には、水耕栽培装置200A~Cを立体的に配置することが考えられる。かかる変形例では、図7に示すように、水耕栽培装置200Aを下段に配置し、水耕栽培装置200B(又は200C)を上段に配置する。植物が苗の状態では日照はそれほど必要とされないのに対して、ある程度成長した植物には十分な日照が必要となるからである。
【0053】
また、水耕栽培装置200A~Cを建屋内に配置する場合は、上記実施形態2の平面的な配置、その変形例の立体的な配置のいずれにおいても、できるだけ日照がよくなるような配置とすることが好ましい。
【0054】
図7では、二段構成の場合を示すが、各水耕栽培装置200A,B(又はC)は、例えば屋上の天井面上に立設した支柱250で支持されている。この支柱250を利用して、保温用ビニール251等を取り付けることもできる。さらに、三段構成の場合もありうる。
【0055】
また、上記実施形態1では、育成鉢は1種類の植物の苗9を土植えしたものを使用し、ているが、土中に挿し木したものを使用してもよく、上記実施形態2では、それらを適宜組み合わせてもよい。
【0056】
また、上記実施形態1,2では、エアーポンプ6の電源は特に規定していないが、例えばソーラー電源を使用して省エネを図ることができる。
【0057】
また、上記実施形態1,2では、メッシュポット10を使用しているが、これに代えて、スリット構造やパンチングボードなどを使用してもよい。
【0058】
また、上記実施形態1,2では、水耕栽培装置100,200A~Cとしているが、それらは完成品に限らず、タンク5,205A~C、浮力体1,201A~C、メッシュポット10などの各パーツから組み立てて完成させる、いわゆる水耕栽培キットであってもよい。
【0059】
また、上記実施形態1,2では、栽培床として、タンク5,205内の培養液4中にメッシュポット10を浮遊させる浮力体1,201A~Cを採用しているが、例えば自動給水設備を設けることにより、位置固定式の栽培床を採用することもできる。
【0060】
図9は本実施形態2に係る水耕栽培装置の給排水部210を示す模式図、図10は本実施形態2に係る水耕栽培装置の自動給水設備220を示す模式図である。ここでは、図9図10に示すように、タンク205は、地面206上に前記サポート部材としてのC型鋼207とブロック208とで支持されている。タンク205の底面の貫通孔205aには、その底面の厚みよりも若干短い金属製パイプ212が挿通されている。この金属製パイプ212の上端にきっちり締め付け具211に対して、下端にゆるく螺合させた締め付け具211を締め付ける。必要に応じてパッキン205bをタンク205と締め付け具211,213との間にそれぞれ介装しておくとよい。すると、金属製パイプ212と締め付け具211,213とが一体となって、タンク205の底面を上から下に向けて圧縮し、タンク205の底面の上面を締め付け具211の上面とほぼ面一とすることができる。なお、タンク205の底面の貫通孔205aの上部を若干削っておくと確実に面一とすることができる。
【0061】
ついで、締め付け具213の下端に塩ビ管214a、エルボ215、塩ビ管214b、ティー215a、塩ビ管214c、バルブ218、塩ビ管214d、合成樹脂製チューブ216を順に取り付ける。チューブ216は塩ビ管214cにバンド217で固定される。ここで、地面206との干渉しないように、ティー215aの取り付けの向きは図示とは異なり、紙面の手前に向けて、その先に塩ビ管214eを介してバルブ219が取り付けられている。
【0062】
そして、バルブ218に水道管を接続してバルブ219を閉じた状態でバルブ218を開くと、水道水が給排水部210を通り、図9中の符号PからQに向かうようにして、タンク205内に供給されることになる。一方、タンク206内の培養液は、バルブ218を閉じた状態でバルブ219を開くと、給排水部210を通り、図9中の符号RからSに向かうようにして、タンク205外に排出されることになる。このとき、タンク205内の残液がほとんどなくなり、掃除等その後の処理が非常に簡単になる。
【0063】
図10に示すような自動給水設備220を備えたとすると、ここでは、バルブ218には、前記水道管に代えて、タンク205とほぼ同じ高さ位置に配置した給水タンク221の出口に接続される。給水タンク221には、フロート式の自動給水弁222が付設されており、バルブ219を閉状態とするとともに、バルブ218を開状態としておく。タンク205内の液面が下がると、給水タンク221の液面との差が生じ、これにより給水タンク221から給排水部210を介してタンク25内に自動的に給水される。すると、給水タンク221の液面が下がるので、自動給水弁222が動作して、その給水タンク221内に自動給水される結果、その水面が復帰する。このようにして、タンク205に自動給水が行われることにより、培養液不足となったタンク205に、都度給水する必要がなくなる。したがって、より簡単な位置固定式の栽培床をも採用できて、農業での大規模な水耕栽培に好適となる。
【0064】
また、上記実施形態1では、浮力体1の貫通孔1aの数を1個とし、上記実施形態2では、浮力体201A~Cの貫通孔201aの数を、それぞれ18個、11個、6個としたが、配置可能な数であればその他の数であってもよいし、配列の仕方も任意である。例えば浮力体201Aの貫通孔201aを千鳥状に配置すると、合計28個の貫通孔201aを配置することができる。ただし、タンク205、浮力体201A及びメッシュポット10の大きさによるのはもちろんである。
【0065】
また、上記実施形態1では、タンク5の容量が小さいので、給排水口11を浮力体1の片隅に設けて、そこから給排水を行うことで足りるが、上記実施形態2では、タンク205の容量が大きいので、特に排水時の残量を少なくするためには、なるべく底部から排水できるようにすることが好ましい。
【符号の説明】
【0066】
100,200A~C 水耕栽培装置
1,201A~C 浮力体(栽培床に相当する。)
1a,201a~c 貫通孔
2 浮力体カバー
3 発泡煉石
4 培養液
5,205 タンク
205a 貫通孔
205b パッキン
6 エアーポンプ(エアー供給手段に相当する。)
7 エアーホース(エアー供給手段に相当する。)
8 エアーホースジョイント(エアー供給手段に相当する。)
9 植物(の苗又は挿し木、茎、根)
10 メッシュポット
11 給排水口
12 散気球(エアー供給手段に相当する。)
206 地面
207 C型鋼
208 ブロック
210 タンクの給排水部
211,213 締め付け具
212 金属製パイプ
214a~214e 合成樹脂製パイプ
215 エルボ
215a ティー
216 チューブ
217 バンド
218,219 バルブ
220 自動給水設備
221 給水タンク
222 自動給水弁
【先行技術文献】
【特許文献】
【0067】
【文献】実開昭63-199548号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10