(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】精密な位置決めのための軸線方向動的応答軸受
(51)【国際特許分類】
G12B 5/00 20060101AFI20220428BHJP
F16C 29/00 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
G12B5/00 T
F16C29/00
(21)【出願番号】P 2018522773
(86)(22)【出願日】2016-11-02
(86)【国際出願番号】 US2016060033
(87)【国際公開番号】W WO2017079232
(87)【国際公開日】2017-05-11
【審査請求日】2019-08-14
(32)【優先日】2015-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511000957
【氏名又は名称】ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミシガン
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF MICHIGAN
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オクウダイア、チャイネダム イー.
(72)【発明者】
【氏名】ヨン、デオキュン ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ドン、シン
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-72606(JP,A)
【文献】特開平9-15359(JP,A)
【文献】特開2002-323584(JP,A)
【文献】特開2005-150753(JP,A)
【文献】仏国特許出願公開第2959345(FR,A1)
【文献】米国特許第5314254(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G12B 5/00
F16C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールを有する基部と、
ステージと、
軸線方向に移動するように前記レールに沿って摺動可能に設置された少なくとも1つの軸受部材と、
前記少なくとも1つの軸受部材を前記ステージに相互接続する動的応答接合部であって、
前記動的応答接合部が、前記少なくとも1つの軸受に対する前記ステージの前記軸線方向の移動を可能にする、前記軸線方向の第1コンプライアンスを有し、
前記第1コンプライアンスが、前記軸線方向における前記少なくとも1つの軸受部材の、摩擦によるコンプライアンスよりも大きく、
前記動的応答接合部が、前記軸線方向に直交する方向の第2コンプライアンスを有し、
前記第2コンプライアンスが前記第1コンプライアンスよりも小さい動的応答接合部と、
前記ステージを作動させるアクチュエータと、
前記ステージの移動を測定するセンサとを備える、軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本出願は、2015年11月2日付で出願された米国仮出願第62/249,589号の利益を主張するものである。上記出願の開示の全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は移動ステージに関し、より具体的には、軸線方向動的応答転がり軸受を装備した移動ステージに関する。
【背景技術】
【0003】
本項では本開示に関する背景情報が提供されるが、これは必ずしも先行技術分野ではない。本項では本開示の概要が提供されるが、これはその全範囲又はその特徴の全ての包括的な開示ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
様々な製造プロセスにおける精密な位置決めのために、精密移動ステージが設計される。精密ステージ用の軸受の選択肢の中では、特に、広い可動域及び真空適合性が求められる用途において、転がり軸受が最も費用対効果が高い。しかしながら、非線形摩擦の存在が、転がり軸受によって案内されるステージの精度及び速度に悪影響を及ぼす。この問題に対処する技術水準によってモデルベースの摩擦補償が行われるが、ロバストネスに問題があるため、実用での有用性が限定される。本発明は、動的応答接合部を用いることによって、簡潔且つモデルフリーで費用を抑えられる手法を提供することで、転がり軸受に案内されるステージにおける、摩擦による非線形効果の問題に対処する。
【0005】
本教示の本質に係る幾つかの実施例によれば、ステージと、レールに沿って摺動可能に設置された少なくとも1つの軸受と、少なくとも1つの軸受をステージに相互接続する動的応答接合部とを有する、軸線方向動的応答転がり軸受を装備した精密移動ステージが提供される。動的応答接合部は、ステージが、軸受の高い剛性を維持するように所望の移動方向(例えば軸線方向)に直交する他の方向では固定されながらも所望の移動方向に移動できるように、十分に動的応答する。本明細書の記載から、更なる適用性の範囲が明らかとなろう。この概要における記載及び具体例は例示のみを目的とし、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
【0006】
本明細書で説明される図面は、全ての可能な実装ではなく選択された実施例のみの例示を目的とし、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本教示の本質に係る、軸線方向動的応答転がり軸受精密移動ステージの概略図である。
【
図2A】本教示の本質に係る、軸線方向動的応答転がり軸受ステージの三質量モデルである。
【
図2B】先行技術分野に係る、転がり軸受ステージの三質量モデルである。
【
図3A】100nmステップコマンドに応答する、軸線方向動的応答転がり軸受ステージ及び通常の転がり軸受ステージの整定時間を示すグラフである。
【
図3B】軸線方向動的応答転がり軸受ステージの制定時間に対する動的応答接合部の剛性の影響を示すグラフである。
【
図4A】典型的な正弦波変位プロファイルの位置対時間を示すグラフである。
【
図4B】異なる動的応答接合部の剛性による、軸線方向動的応答転がり軸受ステージの追従誤差を示すグラフである。
【
図5】軸線方向動的応答転がり軸受ステージのピーク追従誤差及び二乗平均平方根(RMS)追従誤差における動的応答接合部の剛性の影響を示すグラフである。
【
図6】梁の座屈を用いた負の剛性機構を示す概略図である。
【
図7A】一対の永久磁石間の引力を用いた負の剛性機構を示す概略図である。
【
図7B】一対の永久磁石間の反発力を用いた負の剛性機構を示す概略図である。
【
図8】本教示の本質に係る動的応答接合部の設計Iの概略図である。
【
図9】本教示の本質に係る動的応答接合部の設計Iの展開斜視図である。
【
図10】本教示の本質に係る、軸線方向動的応答転がり軸受ステージの斜視図である。
【
図11】本教示の本質に係る動的応答接合部の設計IIの概略図である。
【
図12】先行技術分野に係る粗密ステージの概略図である。
【
図13】本教示の本質に係る、軸線方向動的応答転がり軸受精密移動ステージの概略図である。
【0008】
複数の図面を通して、対応する参照符号が対応する部分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで、添付の図面を参照しながら、実施例の例をより完全に説明する。
【0010】
本開示がその範囲を当業者に対して完璧且つ完全に伝達するように、実施例の例が提供される。また、本開示の実施例を完璧に理解できるように、具体的な構成要素、装置及び方法の例といった多くの具体的な詳細が明記される。当業者には、具体的な詳細が必ずしも採用されなくてもよく、実施例の例が様々な形態で実施されてもよく、また、そのどちらも本開示の範囲を限定するものと解釈されるべきでないことが明らかとなろう。幾つかの実施例の例では、周知のプロセス、周知の装置構造及び周知の技術の詳細は説明されない。
【0011】
本明細書で使用される専門用語は、特定の実施例の例を説明するためだけのものであり、限定を目的とするものではない。本明細書で使用されているように、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈で明確に示されていない限り複数形も含むようになっていてもよい。「備えた」、「備える」、「含む」及び「有する」という用語は包括的であることから、記載の特徴、整数、ステップ、動作、要素及び/又は構成要素を特定するが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素及び/又はこれらのグループの存在又は追加を妨げるものではない。本明細書に記載の方法ステップ、プロセス及び動作は、実行の順序として具体的に特定されていない限り、必ずしも考察された又は示された特定の順序の実行を要するものとして解釈されることはない。また、追加又は代わりのステップが採用されてもよいことも理解されよう。
【0012】
要素又は層が他の要素又は層に対して「上」、「係合」、「接続」又は「連結」になっているといわれている場合、他の要素又は層に対して直接的に上、係合、接続又は連結していてもよいし、介在する要素又は層が存在してもよい。一方、要素が他の要素又は層に対して「直接的に上」、「直接的に係合」、「直接的に接続」又は「直接的に連結」になっているといわれている場合、介在する要素又は層は存在しない。要素同士の関係を説明するのに使用される他の語も同様に解釈されるべきである(例えば、「間」対「直接的に間」、「隣接」対「直接的に隣接」等)。本明細書で使用されているように、「及び/又は」という用語は、関連する1つ以上の記載項目のいずれか及び全ての組み合わせを含む。
【0013】
本明細書では、様々な要素、構成要素、範囲、層及び/又は部分を説明するのに第1、第2、第3等の用語が使用されているが、これらの用語によってこれらの要素、構成要素、範囲、層及び/又は部分が限定されるべきではない。これらの用語は、一方の要素、構成要素、範囲、層又は部分を他の範囲、層又は部分から区別するためだけに使用される。「第1」、「第2」及び他の参照用語といった用語は、本明細書で使用される際、文脈で明確に示されていない限り、配列や順序を意味するものではない。このため、後述の第1の要素、構成要素、範囲、層又は部分は、実施例の例の教示から逸脱することなく、第2の要素、構成要素、範囲、層又は部分と称されてもよい。
【0014】
「内側」、「外側」、「真下」、「下方」、「下側」、「上方」及び「上側」等といった空間関係用語は、図面に示すように、一方の要素又は特徴と1つ又は複数の他方の要素又は特徴との関係を説明するための記載を容易にするように本明細書で使用されてもよい。空間関係用語は、使用される又は動作する装置の、図面に示された配向以外の異なる配向を包含するようになっていてもよい。例えば、図面における装置が逆転した場合、他の要素又は特徴の「下方」又は「真下」にあると説明された要素は、他の要素又は特徴の「上方」に配向されるといえよう。このため、「下方」という用語例は、上方及び下方の配向の両方包含できる。又は、装置は(90度に回転するように又は他の配向に)配向されて、本明細書で使用されている空間関係記述もそれに伴って解釈される。
【0015】
(導入及び動機)
従来の機械加工から半導体製造及び検査までに亘る製造プロセスにおける精密な位置決めに、精密移動ステージが用いられる。精密ステージは、使用される以下の軸受の種類に基づく4つの大まかなカテゴリに分類できる。
・たわみ軸受
・磁気浮上軸受
・流体軸受(静圧及び気体静圧)
・機械軸受
【0016】
機械軸受に転がり軸受及びすべり軸受の両方が含まれてもよいことが理解されるべきである。通常、転がり軸受の方がより一般的である。考察のために、本明細書では転がり軸受について詳細に説明する。これは、しかしながら、具体的な主張がない限り、本開示及び請求項の範囲を限定するものとみなされるべきではない。
【0017】
たわみ軸受は、摩擦がなく、真空/クリーンルームに適合可能だが、短いストロークの移動(<1mm)への用途にしか適しておらず、本発明にはそぐわない。通常、長いストロークの移動(>25mm)には、磁気浮上軸受、流体軸受又は転がり軸受の中から選択される。
【0018】
磁気浮上軸受は、本質的に摩擦がないが、極めて高価である。磁気浮上軸受は、例えば(ASMLホールディング(ASML Holdings)、ウルトラテック社(Ultratec Inc.)、株式会社ニコン等の企業が作る)フォトリソグラフィー用のウェハースキャナーといった、最高機種である数百万ドルのステージのみに用いられる。磁気浮上軸受は、その費用障壁及び複雑性から、精密ステージの他の用途のほとんどについて、幅広い商用化や受け入れは行われていない。
【0019】
流体軸受は、静圧又は気体静圧のいずれであってもよい。摺動面間の摩擦を軽減するのに、静圧軸受には加圧されたオイルが採用され、気体静圧軸受には加圧された空気の薄い膜が用いられる。静圧軸受は摩擦の軽減及び優れた減衰特徴を提供するが、オイルによる汚染が容易に生じうるため、大量の精密ステージが用いられるクリーンルーム環境には不向きである。気体静圧(又は空気)軸受は、最低量の摩擦を有する。また、気体静圧軸受はクリーンルームに適合可能で、且つ磁気浮上軸受よりも比較的安価である。しかしながら、気体静圧軸受は真空には適合できないため、例えば電子顕微鏡法、薄膜スパッタ法及び収束イオンビームといった超高真空(UHV)において必ず行われる、ますます増加する精密ステージの用途に不向きとなってしまう。また、気体静圧軸受には、軸受を通る空気の流れで生じるジッタ(別名「エア・ハンマリング(air hammering)」)による位置内安定性の問題がある。
【0020】
転がり軸受は、様々な選択肢の中で最も費用対効果が高い。転がり軸受は、可動域が300nm未満の空気軸受ステージに匹敵する精度を提供し、優れた位置内安定性を有する。転がり軸受は、少量の潤滑油を差しても、クリーンルーム環境内をひどく汚染することはない。市販の転がり軸受ベースの移動ステージは、エアロテック社(Aerotech Inc.)からのANTシリーズ及びニューポート社(Newport Corporation)からのXMシリーズを含む。転がり軸受は、空気軸受ステージの代わりに、低費用で幅広い精密な位置決めに適用できる点で非常に魅力的であり、現時点では、磁気浮上軸受の代わりに、真空への適合が求められる用途にも唯一対応可能である。しかしながら、非線形摩擦の存在が、マクロ変位(例えばすべり)及びマイクロ変位(例えば予すべり)の両方の摩擦状態におけるステージの精度及び速度に悪影響を及ぼす。
【0021】
すべり状態では、摩擦は、静摩擦、クーロン摩擦及び粘性摩擦を含むストライベック曲線によって特徴付けることができる。スティックスリップは、速度反転における高度に非線形な挙動によってしばしば生じる現象である。この現象の影響は、移動ステージによる円運動が生じた場合に、象限の位置におけるスパイク(グリッチ)として目立つことが多い。一方、予すべり状態では、摩擦は、転がり/すべり要素間の弾性変形による非線形ばねとして機能する。この摩擦は、ステージがその所望の位置のミクロン内に到達するほど顕著になり、2地点間位置決めを行う同等の無摩擦ステージよりも整定時間が5~10倍長くなる。こうした長い整定時間は、転がり軸受に案内されるステージを用いるプロセスの処理能力を著しく妨害する。
【0022】
(技術水準)
摩擦の非線形効果を緩和する2つの主な方法は、回避及び補償である。例えば、非線形摩擦は、軸受/潤滑油の選択及び摩擦する機械要素の数の減少によって回避できる。摩擦が完全に回避できない場合、モデルフリー及び/又はモデルベースの補償技術によって、摩擦による悪影響を更に軽減できる。
【0023】
モデルフリーの手法では、高利得のフィードバック制御(例えば剛性PD又は高い積分利得)によって外乱除去を増加させるが、センサノイズ及びモデル化誤差によってシステムが不安定になりやすくなる。モデルベース技術では、フィードフォワード又はフィードバック制御部を介して、摩擦の近似モデルによる補償制御力が生じる。
【0024】
フィードフォワード摩擦補償(FF-FC)では、ステージの基準速度と組み合わせられたステージの摩擦挙動のモデルによって、近々生じる摩擦力が予測される。そして、予測された摩擦力がステージの制御入力へと注入されて、ステージの実際の摩擦を事前に取り除く。FF-FCは、摩擦モデルの精度が極めて高いと非常によく機能する。しかしながら、特に予すべり状態における摩擦が極めて予測し難く、精密なモデル化が困難である点が問題である。このため、FF-FC方法には、その性能を容易に低下させてしまうロバストネスの不足という問題がある。この問題の解決策としてモデルパラメータ適応が試されてきたが、適応スキームの収束は、識別信号が十分に豊富でない(又は持続性がない)ことが多いため、困難で時間がかかることが多い。FF-FC方法の他の主な問題は、摩擦を予測するのに基準速度に依存することである。ステージが所望の位置につこうとしている際、実際の速度は異なる場合も基準速度がゼロになってしまう。このため、摩擦モデルの精度が高くても、整定性能を向上しようとする場合に、基準速度と実際の速度との相違がFF-FC方法の実行を妨害してしまう。
【0025】
フィードバック摩擦補償(FB-FC)では、摩擦の力を予期したり取り除いたりするのに、システムの実際の状態(例えば速度、位置)が(基準の状態と同時に)利用される。これにより、FF-FCスキームでの整定の間に停滞速度コマンドが生じることに関する問題が緩和される。しかしながら、フィードバックの使用で予測段階用の制御システムが不安定になることがある。
【0026】
フィードバック摩擦補償の手法では、利得スケジューリング制御部や摩擦観測部等による外乱除去の向上に、システムの実際の状態(例えば位置及び速度)が用いられる。摩擦のモデルを採用するFB-FC方法(例えば観測部ベース方法や利得スケジューリング制御部等)には、摩擦の変動性に起因したロバストネスの問題がある。文献には、モデルパラメータの適応を通したモデルベースの摩擦補償方法のロバストネスを向上するための複数の方法が提案されている。しかしながら、適応スキームの収束は、識別信号が豊富でない(又は十分な持続性がない)ため、不確かで時間がかかることが多い。
【実施例1】
【0027】
(軸線方向動的応答転がり軸受ステージの構想)
本教示は、軸線方向に動的応答する接合部を使用することで、転がり軸受に案内されるステージにおける摩擦の非線形効果を緩和する、簡潔且つモデルフリーの手法を提案する。
図1に示すように、1つ以上の動的応答接合部16を介して1つ以上の軸受部材14(例えば転がり軸受及び/又はすべり軸受といった機械軸受部材)に連結するステージ部材12を有する、軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ10が提供される。軸受部材14は、転がり及び/又はすべり移動といった関連する移動のために、レール18に連結する。幾つかの実施例では、軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ10は、図示のように、各接続インターフェースに設置された動的応答接合部を介して複数の軸受部材14に連結しているステージ部材12を備える。幾つかの実施例では、軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ10は以下の特徴を含んでもよい。
【0028】
P-1)各軸受部材14はステージ部材12に固くは接続されないが、動的応答接合部16(例えばたわみ)によって取り付けられる。
【0029】
P-2)動的応答接合部16は、ステージ部材12の移動方向(例えば軸線方向)に対して、直交する他の方向(例えば水平及び鉛直)では固定しながら、十分な動的応答を可能にする。動的応答接合部16と軸受部材14との組み合わせられた剛性は、軸線方向に直交する方向の軸受部材14単体の剛性と同位である。
【0030】
P-3)動的応答接合部16は、摩擦の非線形性並びに予すべり状態及びすべり状態の両方におけるヒステリシスを軽減するローパスフィルタとして機能する。
【0031】
以下のような追加の特徴によって、軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ10の性能を最適化し且つそれを更に「知的」にすることができる。
【0032】
P-4)自由及び/又は拘束減衰層を取り付けることで、及び/又はステージ部材12の作動力20を通した動的減衰制御によって、動的応答接合部16の減衰係数を増加することができる。
【0033】
P-5)軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ10を最適化するように、知的監督制御部22が動的応答接合部16の剛性を補償することができる。幾つかの実施例では、知的監督制御部22は、補償力を印加するのに、軸線の状態の推測又は測定を用いることができる。幾つかの実施例では、知的監督制御部22は、補償力をフィードフォワード又はフィードバックで印加するのに、推測又は測定された軸受14の位置と組み合わせられた、動的応答接合部剛性である、測定されたステージ12の位置の情報を用いることができる。
【0034】
P-6)ステージ部材12動作の機能として、マグネトレオロジー又はエレクトロレオロジー流体といったスマート材料を追加して、動的応答接合部16の剛性及び減衰を調整することができる。例えば、動的応答接合部16の剛性は、低速度及び/又は短距離の移動の間は低く維持されてもよい。これによって、ステージ部材12に作動力20を与えるアクチェーター24が、ステージ部材12を位置決めするのに大量の力を提供する必要がなくなる。高速度及び/又は長距離の移動の間は、動的応答接合部16及び軸受部材14のばね質量による過度な振動から生じる悪影響を緩和するように、動的応答接合部16剛性を増加させてもよい。
【0035】
P-7)動的応答構成要素(例えば動的応答接合部16)を設計する際に、剛性について先進的な手法を採用することで、同様の利益を得ることができる。剛性は、変位が少ないときは低く維持されて、問題のある予すべり摩擦を緩和する。大きな移動を経験すると、たわみ(例えば動的応答接合部16)が著しく固くなり、ステージ部材12と軸受部材14との間を固く接続するように機能する。これらの追加の特徴によって、性能及びロバストネスを向上させる、半動的なたわみ機構を作り出される。
【0036】
P-8)代わりに、動的応答接合部16をロックするのに係合/非係合機構26を追加でき、これによって、動的応答接合部16をより固いブロックへと変えることができる。高速度及び/又は大きな移動の間、軸受14は更に通常の軸受部材のように機能し、ばね質量の振動による悪影響が緩和される。
【0037】
通常、動的応答接合部16がない場合、軸受部材14は、予すべり状態において非線形摩擦に遭遇すると「詰まって」しまうため、軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ10の精度及び速度に直接影響を与えることがある。しかしながら、動的応答接合部16があれば、摩擦によって軸受部材14が詰まっても、動的応答接合部16がステージ部材12の移動を小さくできるため(μm~mmレベル)、ステージ部材12からの非線形摩擦の影響を最小限に抑えられる(又は分離できる)。その結果、軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ10は、1つのセンサ及び1つのアクチュエータによる、広範囲且つ最大積載量が大きい精密な位置決めを実現でき、これによって、先行技術分野に係る粗密ステージよりも費用を著しく削減できる。
【0038】
なお、
図1では1つのレール18及び2つの軸受14をもつステージを用いて、軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ10が示されているが、他のステージ構造も適用可能である(例えば、2つのレール18及び4つの軸受14をもつステージ又は他の変化例)。
【0039】
(コンプライアンス増大ステージのシミュレーションに基づいた分析)
図2Aは、(作動力F
aによって閉ループ制御される)軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ10の簡潔な三質量モデルを示す。質量m
sのステージ部材12を質量m
bの各軸受14に接続する各動的応答接合部16は、剛性kをもつばね及び係数cをもつダンパーによってモデル化される。摩擦力F
fは、以下の式に基づくLuGreモデルによって定義される。
【0040】
【0041】
xは、相対運動する2つの面の間の変位を表し、zは内部摩擦の状態を表し、σ0はマイクロ剛性を表し、σ1及びσ2はそれぞれマイクロ減衰係数及びマクロ減衰係数を表す。動的定常状態g(x)は、クーロン摩擦Fc、静摩擦Fs及びストライベック速度Vsを用いたストライベック曲線によって特徴付けられる。
【0042】
軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ10は、予すべり状態及びすべり状態に関する2つの事例、すなわち、2地点間移動における整定挙動及び円運動における追従実行によって評価される。シミュレーションは、発明者ら自家製の精密移動ステージの特定のパラメータに基づいて実行される。
【0043】
図3Aは、100nmステップコマンドに対する、軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ10の整定挙動を示し、±10nmが整定範囲として用いられる。
図2Bに示すように、ベースラインステージモデルは、ステージ部材12と軸受部材14との間に固い接続を有する。動的応答接合部16(k=105N/m,c=238N・s/m)によって、案内用の軸受部材14のみを有するベースラインステージが増大することで、整定時間を約50%短縮できる。
図3Bは、接合剛性(減衰比3%)の関数として整定時間を示している。接合剛性が高い場合、更なるコンプライアンスによる利点はごく僅かだが、LuGreモデルのマイクロ剛性に関連する臨界剛性を下回るkでは、整定時間を大幅に短縮できる。
【0044】
図4は、0.5mmの振幅及び1mm/sの最高速度をもつ正弦波基準信号を用いた、軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ10の追従実行のシミュレーションを示す。ベースラインステージには、1.6μmに及ぶ追従誤差を伴う、速度反転における大きな象限グリッチ(誤差スパイク)の問題がある。増大ステージは、k=10
5N/m及びc=238N・s/mの動的応答接合部16を用いると、ピーク追従誤差は43%、RMS追従誤差は22%、それぞれ削減できる。コンプライアンスが更にk=10
3N/mまで減少すると、ピーク誤差は98%、RMS誤差は95%、それぞれ削減できる。
図5に示すように、象限グリッチの軽減における接合剛性の減少の影響は、2地点間移動の整定時間の短縮と一致しており、この手法が予すべり状態及びすべり状態の両方における非線形摩擦を緩和することが可能であることを示している。
【0045】
また、この分析は、両方の事例において移動方向の接合剛性が減少するほど、軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ10の性能が向上することを示唆している。剛性が減少すると、動的応答接合部16のローパスフィルタ効果が向上し(例えば等価遮断周波数が減少)、これによって、摩擦の非線形性をより確実に緩和することができる。
【0046】
(動的応答接合部の設計)
提案される増大転がり軸受ステージ(及び動的応答接合部16)には、アクチュエータやセンサを追加することなくたわみ機構を適用できる。動的応答接合部16の役割は、ステージ部材12と軸受部材14との間にある程度のコンプライアンスを設けることである。このため、基板の追加負荷が、軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ10の位置決め性能に大きく影響を及ぼすことはない。動的応答接合部16及び軸受部材14は直列に配置されるため、直交方向における動的応答接合部16の鉛直方向剛性及び水平方向剛性は、組み合わせ構造体が有する剛性が、軸受部材14単体の剛性と同位になるように、その軸線方向剛性(例えば移動方向の剛性)よりも大きくなければならない(例えば軸受部材14の高い剛性は犠牲にならない)。三次元における動的応答接合部16の剛性が全て連結されると、非線形摩擦の緩和についての高い性能の実現(例えば低い軸線方向剛性)及び軸受部材14の優れた剛性(他の直交方向における高い剛性)の間ではっきりと妥協が生じる。
【0047】
極めて低い軸線方向剛性の実現が可能な方法は、負の剛性機構と、それと並列のたわみ機構(正の剛性)とを組み合わせた複合接合部設計を用いることである。この発想は、たわみによって、直交方向における剛性を維持しながら最低限の軸線方向剛性を実現する動的応答接合部16を設計するものである。負の剛性は、移動方向における剛性を更に減少させるために、たわみと並行に実現される。一般に用いられる、負の剛性を実現するための2つの方法、すなわち双安定座屈梁及び永久磁石(PM)を検討する。
【0048】
予め圧縮された梁から、簡潔な負の剛性構造を作り出すことができる。
図6に示すように、梁は、オイラー梁モデルによって予測される第1座屈モードに対する限界力よりも大きな水平方向の力F
crによって、事前に組み込まれる。他の力Fが移動方向に印加されると、梁は、座屈効果によって、一方の安定状態から他方の安定状態へと切り替わる(これは飛び移り現象として知られている)。このプロセス中の等価剛性は負性であり、これは分析的にも経験的にも実証できる。より大きな負の剛性が求められる場合には、大きな事前負荷力を梁に印加することが提案される。この高位の座屈モードでは、軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ10は、構造的に欠陥を有したり不安定になったりしやすくなる。
【0049】
負の剛性を提供する他の手法は、永久磁石の使用である。
図7Aに示すように、同じ大きさの一対の永久磁石(PM)40,42が、ステージ部材44(鉄鋼材製)の両側に配置される。各PM40,42とステージ部材44との間の距離が等しい場合(すなわちd
1=d
2)、両側の引力が完全に打ち消されて、ステージ部材44における合力がゼロになる。ここで、ステージ部材44が僅かに左に向かって移動する場合を検討すると(すなわちd
1>d
2)、左側からの引力(すなわちPM42とステージ44との間)が右側からの引力(すなわちPM40とステージ44との間)よりも大きくなる。このため、ステージ部材44は合力によって更に左に移動する。負の等価剛性は、2つの隙間の差異が大きくなるほど大きくなる。このように負の剛性が増加することから、衝突を防止するために、たわみの正の剛性を、一対の永久磁石による最大の負の剛性よりも大きくなるように設計する必要がある。
【0050】
代わりの方法として、反発力を代わりに使用することができる(
図7B参照)。なお、PM1 40及びPM2 42の極性は、矢印で示されるように逆方向に配置される。2つの永久磁石40,42が完全に一直線に並んでいる場合(d=0)、システムは平衡状態となり、水平方向(又は移動方向)に一切力が存在しない状態になる。ここで、再びステージ部材44が僅かに左に移動した場合、ステージ部材44を更に左に押し出す反発力が生じる。この実施例の負の剛性は、2つの永久磁石間の隙間が増加するほど減少する。なお、交互極性配列及びハルバッハ配列といったこのPM配列はどちらの配置にも使用でき、高い力密度を提供する。
【0051】
(軸線方向動的応答軸受の設計I)
図8は、たわみ機構46を一対の永久磁石40,42と組み合わせる動的応答接合部16の可能な設計の側面図を示す(
図7Bに記載の手法を使用)。たわみ46は、直交方向と移動方向との間の高い剛比による、鉛直板ばね構造によって設計される。ステージ部材12は、底にPM40が取り付けられた中央プラットフォーム上に設置される。軸受部材14は、他方のPM42が取り付けられた外側プラットフォームに設置されて、水平方向の負の剛性を提供する。その剛性はたわみ46の剛性と同等であり、軸受部材14とステージ12との間の相対運動が小さい場合に、組み合わせ構造体の剛性がおおよそゼロになるようになっている。なお、対のPMの他の二方向における有効剛性は、それらの方向におけるたわみの剛性よりも極めて小さいため、与える影響はほんの僅かである。
【0052】
図9は、SolidWorks(登録商標)を用いた提案設計Iの詳細なCAD製図を示す。小さな永久磁石が、上部及び下部の配列を形成するように交互の極性で配置されて、磁場強度を増加するようになっていることに注目されたい。
図10は、自家製の精密移動ステージにおける、実際に製造された動的応答接合部16の実装を示す。表1は、たわみ、対のPM、軸受部材14及び組み合わせ構造体の剛性値のシミュレーションをまとめたものである。なお、鉛直方向及び水平方向における動的応答接合部16と軸受部材14との組み合わせられた剛性は、軸受部材14単体の剛性と同位であり、軸受の高い剛性が犠牲にならないことを示唆している。
【0053】
【0054】
(軸線方向動的応答軸受の設計II)
図11は、たわみ機構46を二対の永久磁石50及び52と組み合わせる動的応答接合部16の代わりの設計の上面図を示す。軸受部材14は動的応答接合部16の外側プラットフォームに接続され、ステージ部材12は中央プラットフォームに取り付けられる。水平方向及び鉛直方向における寄生運動を最小限に抑えるように、対称的な水平方向板ばねによって、正の剛性が提供される。
【0055】
(粗密ステージと軸線方向動的応答転がり軸受ステージアセンブリとの比較)
低費用の精密な位置決め且つ大きな可動域を実現するために、通常、所謂「粗密」ステージが、摩擦現象を緩和するのに用いられる(通常、ニューポート社、PI社、エアロテック社等の企業から市販されている)。
図12は、転がり軸受とたわみ軸受とを組み合わせる粗密ステージの概念を示す。転がり軸受は広範囲の粗い移動を生み出すのに使用され、たわみ軸受は狭い範囲の細かな(又は精密な)移動を生み出すのに使用される。粗密ステージの構成では、粗ステージ及び密ステージのどちらも制御する必要がある。このため、少なくとも2つのアクチュエータ及び2つのセンサが必要となる。一方では、1つの広範囲アクチュエータ(例えばリニアモータ又はボールねじ)が転がり軸受粗ステージを駆動し、センサ(例えばリニアエンコーダ)が粗ステージの変位の測定に用いられる。他方では、狭範囲アクチュエータ(例えばボイスコイル又は圧電アクチュエータ)が、その変位が高分解能センサ(例えば容量性プローブ、レーザー干渉計)によって測定される密ステージを駆動する。粗密ステージは、2つのベアリング、2つのアクチュエータ及び2つのセンサを使用するため、かさばり且つ比較的費用が高くなる。一方、最適な位置決めを行うように粗密ステージを適合させるには、通常、複雑な制御部又は軌道生成スキームが必要となる。また、粗密ステージは、密ステージの質量によって負荷容量が限定され、その限られた空間によって、通常、密アクチュエータの力が小さく弱くなる。密ステージの運動状態は、そこに配置される基板からの重い負荷による悪影響を受けることがある。
【0056】
図13に示すように、幾つかの実施例では、軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ10が、(従来の粗密ステージと比較して)上下逆構成の動的応答接合部16(例えばたわみ)及び軸受部材14を用いる。動的応答接合部16は、ローパスフィルタ効果を作るようにステージ部材12と軸受部材14とを接続するのに用いられる。動的応答接合部16によって、軸受部材14が摩擦によって「詰まって」しまっても細かな位置決め(又は僅かな移動)が可能なため、従来の軸受部材14の非線形摩擦の影響を緩和できる。主要ステージのみを精密に制御すればよいため、本発明で必要なのは1つのアクチュエータ及び1つのセンサのみである。このため、軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ10の費用は、粗密ステージと比べて大幅に削減される。一方、ステージの質量が比較的大きく、強力なアクチュエータを使用してステージ12を直接的に作動させるため、軸線方向動的応答軸受ステージアセンブリ10はより十分な負荷容量を有する。
【0057】
この実施例の上記の説明は、例示及び説明を目的として提供されている。包括的にすること又は本開示を限定することを意図するものではない。特定の実施例の個別の要素又は特徴は、概してその特定の実施例を限定するものではないが、具体的に示されたり説明されたりしていなくても、適用可能な場合には置き換え可能であり、選択された実施例に使用することができる。同じことが、多くの点で変化してもよい。こうした多様性は本開示から逸脱するものと見なされるものではなく、全てのこうした変形例が、本開示の範囲内に含まれるようになっている。