(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】神経・精神疾患の病態評価装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/383 20210101AFI20220428BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
A61B5/383
A61B10/00 H
(21)【出願番号】P 2018544002
(86)(22)【出願日】2017-10-10
(86)【国際出願番号】 JP2017036699
(87)【国際公開番号】W WO2018066715
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2016199492
(32)【優先日】2016-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年4月7日 http://www.elsevier.com/locate/neulet “TMS-induced theta phase synchrony reveals a bottom-up network in working memory” 平成28年7月5日 FENS Forum of Neuroscience July 2-6 Copenhagen,Denmark “TMS-INDUCED EEG PHASE LOCKING VALUES REFLECT THE EFFECT OF ELECTROCONVULSIVE THERAPY FOR DEPRESSIVESTATE”
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】井出 政行
(72)【発明者】
【氏名】川崎 真弘
(72)【発明者】
【氏名】宮内 英里
(72)【発明者】
【氏名】北城 圭一
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0238104(US,A1)
【文献】特開2016-047239(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0224571(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0188330(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/369-5/386
A61B 10/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の脳において、前頭、側頭、頭頂及び後頭を含む第1の領域に経頭蓋磁気刺激に基づいて直接的に電磁気的刺激を与える信号発生部と、
前記第1の領域に前記電磁気的刺激が与えられた前記脳において前記第1の領域と前頭、側頭、頭頂を含む第2の領域とに対応する前記脳の部位からそれぞれの脳波を検出するための複数の電極を備える脳波検出部と、
複数の前記電極のそれぞれから得られた複数の前記脳波に基づいて前記電磁気的刺激が与えられた前記第1の領域に対応する前記脳の第1部位から前記第2の領域に対応する前記脳の第2部位への方向性を有する情報処理の流れを示す2つの前記脳波の関連性
について前記脳波を周波数解析して得られた位相同期度を演算することにより指標化し
、2つの前記脳波の関連性に有意性が認められた定量的な評価に基づいて神経・精神疾患の重症度を判定する演算部と、を備える、神経・精神疾患の病態評価装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記電磁気的刺激が与えられた前記第1部位の前記脳波と前記第2部位の前記脳波との間の前記位相同期度を演算し、前記位相同期度に基づいて、前記第1の領域と前記第2の領域との間の関連性を指標化する、
請求項1に記載の神経・精神疾患の病態評価装置。
【請求項3】
前記第1の領域は視覚野であり、
前記第2の領域は運動野であり、
前記信号発生部は、前記視覚野に前記電磁気的刺激を与え、
前記演算部は、前記視覚野の部位の前記脳波と前記運動野の部位の前記脳波との間の
前記位相同期度を演算し、前記位相同期度に基づいて、前記視覚野から前記運動野へと連結する関連性を指標化する、
請求項2に記載の神経・精神疾患の病態評価装置。
【請求項4】
コンピュータに、
被験者の脳において、前頭、側頭、頭頂及び後頭を含む第1の領域に経頭蓋磁気刺激に基づいて直接的に与えられる電磁気的刺激を生成させ、
前記電磁気的刺激が与えられた前記脳において前記第1の領域と前頭、側頭、頭頂を含む第2の領域とに配置された複数の電極により前記脳の複数の領域の部位からそれぞれの脳波を検出させ、
複数の前記電極のそれぞれから得られた複数の前記脳波に基づいて前記電磁気的刺激が与えられた前記第1の領域の第1部位から前記第2の領域の第2部位への方向性を有する情報処理の流れを示す2つの前記脳波の関連性
について前記脳波を周波数解析して得られた位相同期度を演算することにより指標化させ
、2つの前記脳波の関連性に有意性が認められた定量的な評価に基づいて神経・精神疾患の重症度を判定させる、
プログラム。
【請求項5】
前記神経・精神疾患は、うつ病である、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の神経・精神疾患の病態評価装置。
【請求項6】
前記神経・精神疾患は、統合失調症、双極性障害、又は認知症である、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の神経・精神疾患の病態評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳波を検出するための脳波検出装置およびプログラムに関する。本願は、2016年10月7日に、日本に出願された特願2016-199492号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
うつ病、統合失調症、双極性障害、認知症等の神経・精神疾患の生物学的な基盤・機序は未だ解明されておらず、これら疾患の診断が臨床症状や問診にもとづいた基準(例えば、精神障害の診断基準DSM-5やうつ病問診尺度MADRSなど)により行われており、客観性は十分とはいえない。従って、これら神経・精神疾患の診断と適切な治療選択のために、より客観的な生物学的な診断マーカーの確立が必要である。
【0003】
それを目的として、うつ病等の神経・精神疾患の病態を反映する客観的な検査マーカー候補およびその評価手段として様々なモダリティが提案されている。例えば、脳波(Electroencephalogram:EEG)、脳磁図(Magnetoencephalography:MEG)、経頭蓋磁気刺激誘発脳波(Transcranial Magnetic Stimulation-Electroencephalogra:TMS-EEG),ポジトロンCT(PET), 核磁気共鳴イメージング(MRI)、近赤外光イメージング、などである。
【0004】
これらモダリティの中で、経頭蓋磁気刺激誘発脳波は、脳に定量的な刺激を与えた時の脳機能・応答を、脳活動に対応した時間分解能で評価でき、かつ臨床応用での簡便性に優れるという観点で有望である(非特許文献5、7)。経頭蓋磁気刺激誘発脳波(以下TMS-EEG)は、磁場の変化により脳表に局所的な渦電流を流し、その電磁気的な刺激に対する脳の複数の領域の反応に関し、脳波計測を通じて評価する方法である。
【0005】
一方、脳機能の評価・疾患の病態評価には、脳の各部位間の関連性が重要であることが判っている(非特許文献1、2、3、4)。さらに、脳の各部位間の関連性として、各部位の脳波の間の同期度・位相差の評価が重要であることも知られている。(非特許文献1,2,6)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】J.P. Lachaux, E. Rodriguez, J. Martinerie, F.J. Varela, Measuring phase synchrony in brain signals, Human Brain Mapping Volume 8, Issue 4 1999 194-208.
【文献】M. Kawasaki, K. Kitajo, Y. Yamaguchi, Fronto-parietal and fronto-temporaltheta phase synchronization for visual and auditory-verbal working memory, Frontiers in Psychology, Published online, 18 Mar 2014.
【文献】Alexander A. Fingelkurts and Andrew A. Fingelkurts, Altered Structure of Dynamic Electroencephalogram Oscillatory Pattern in Major Depression, biopsych, 12 11 2014.
【文献】Yuezhi Li, Cheng Kang, Xingda Qu, Yunfei Zhou, Wuyi Wang and Yong Hu, Depression-Related Brain Connectivity Analyzed by EEG Event-Related Phase Synchrony Measure, Frontiers in Psychology, Published online, 26 September 2016
【文献】Faranak Farzan, Mera S. Barr, Paul B. Fitzgerald and Zafiris J. Daskalakis, Combination of TMS with EMG & EEG_ Application in Diagnosis of Neuropsychiatric Disorders, InTech, EMG Methods for Evaluating Muscle and Nerve Function, Chapter 18, Published online, 11 January 2012
【文献】Arjan Hillebrand, Prejaas Tewarie, Edwin van Dellen, Meichen Yu, Ellen W. S. Carbo, Linda Douw, Alida A. Gouw, Elisabeth C. W. van Straaten, and Cornelis J. Stam, Direction of information flow in large-scale resting state network is frequency-dependent, PNAS, vol.113, no.14 pp.3867-3872, Published online, 5 April 2016
【文献】Masahiro Kawasaki, Yutaka Uno, Jumpei Mori, Kenji Kobata, and Keiichi Kitajo, Transcranial magnetic stimulation-induced global propagation of transient phase resetting associated with directional information flow, Frontiers in Human Neuroscience, Volume 8, Article 173, 25 March 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献5、7で開示されているTMS-EEG手法では、脳の局所的に一定の部分に与えられた電磁気的な刺激に対する脳の複数の領域の反応に関して脳波計測により評価する方法を開示しているが、神経・精神疾患の病態評価の為に重要となる脳の複数領域の間の脳波の同期・関連性を評価する手段として、脳波位相差に基づく位相同期度の検出は教示されていない為に、神経・精神疾患の病態評価・判定には適さない、という問題がある。
【0008】
非特許文献1,2,6で開示されているEEG,MEG等による計測手法では、脳の領域間の脳信号の位相差に基づく方法が開示されているが、TMSによって誘発される位相同期については教示していない為に、神経・精神疾患の病態評価・判定には適さない、という問題がある。
【0009】
本発明は、脳に与えられた電磁気的な刺激に対する脳の複数の領域の反応に基づいて、それぞれの領域の相互の関連性を評価し、神経・精神疾患の病態を評価するための脳波検出装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の脳波検出装置は、被験者の脳において、所定の領域に電磁気的刺激を与える信号発生部と、前記所定の領域に前記電磁気的刺激が与えられた前記脳において複数の領域からそれぞれの脳波を検出するための複数の電極を備える脳波検出部と、複数の前記電極のそれぞれから得られた複数の前記脳波に基づいて前記電磁気的刺激が与えられた前記所定の領域に対応する前記脳の部位と前記複数の領域に対応する前記脳の部位とのそれぞれの相互の関連性を評価する演算部と、を備える。
【0011】
本発明は、このような構成により、信号発生部により脳の所定の領域に与えられた電磁気的刺激に対する脳の反応を、複数の領域から脳波検出部によりそれぞれの脳波を検出することで、それぞれの領域の相互の関連性を評価することができる。
【0012】
本発明の脳波検出装置において、信号発生部により脳の所定の領域に与えられた電磁気的刺激に対する脳の反応を、複数の領域から脳波検出部によりそれぞれの脳波を検出することで、前記複数の領域に含まれる任意の2つの領域の脳波間の位相差に基づく位相同期度を評価することで、前記任意の2つの領域の間の相互の関連性を評価してもよい。
【0013】
本発明の脳波検出装置において、前記演算部は、前記電磁気的刺激が与えられた前記所定の領域と前記複数の領域の中の一つの領域との二点間の位相同期度を演算し、前記位相同期度に基づいて、前記二点間に対応する前記脳の部位の関連性を指標化してもよい。
【0014】
本発明は、このような構成により、演算部が演算する位相同期度により、電磁気的刺激が与えられた脳の反応を指標化することができ、脳の機能を定量的に測定できる。
【0015】
本発明の脳波検出装置において、前記信号発生部は、前記脳の視覚野の部位に前記電磁気的刺激を与え、前記演算部は、前記視覚野と運動野の脳の部位との関連性を指標化してもよい。
【0016】
本発明のプログラムは、コンピュータに、被験者の脳において、所定の領域に与えられる電磁気的刺激を生成させ、前記電磁気的刺激が与えられた前記脳において配置された複数の電極により前記脳の複数の領域からそれぞれの脳波を検出させ、複数の前記電極のそれぞれから得られた複数の前記脳波に基づいて前記電磁気的刺激が与えられた前記脳の部位と前記複数の領域とのそれぞれの相互の関連性を算出させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る脳波検出装置によると、脳の所定の部分に与えられた電磁気的な刺激に対する脳の複数の領域の反応に基づいて、それぞれの領域の相互の関連性を評価することで、神経・精神疾患の病態を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】脳波検出装置1の構成を示すブロック図である。
【
図2】脳波検出装置1の具体的な構成の一例を示す図である。
【
図3】WMのための試行に用いられる画面の表示を示す図である。
【
図4】試行により検出された電極E間の検出結果を示す図である。
【
図5】試行により所定の値を示した電極対の平均カウント数を示すグラフである。
【
図6】TMSを与えるための二相性刺激器具を示す図である。
【
図7】被験者にECTを行った結果を示す図である。
【
図8】被験者にECTを行った結果を示す図である。
【
図9】被験者にECTを行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態の脳波検出装置を、図面を参照して説明する。
【0020】
[装置構成]
図1は、脳波検出装置1の構成の一例を示すブロック図である。脳波検出装置1は、例えば、脳波検出部2と、演算部3と、信号発生部4とを備える。
【0021】
図2は、脳波検出装置1の具体的な構成の一例を示す図である。脳波検出部2は、例えば、被験者Hの頭部を覆うように形成されたキャップ部2aを備える。キャップ部2aの内側には、被験者Hの頭部の複数の領域から脳波を検出するための複数の電極が配置されている。脳波検出部2は、複数の電極を備えることにより、被験者Hの脳における複数の領域からそれぞれの脳波を検出する。
【0022】
信号発生部4は、例えば、被験者Hの脳表に局所的な渦電流(TMS)を与える。信号発生部4は、例えば、TMSの信号を生成する刺激発生装置4aと、刺激発生装置4aにより生成された信号に基づいてTMSの電磁パルスを発生させるコイル部4bとを備える。コイル部4bは、例えば、8の字のコイル形状に形成されている。
【0023】
演算部3は、例えば、脳波検出部2の複数の電極のそれぞれから得られた複数の脳波に基づいて電磁気的刺激が与えられた所定の領域に対応する脳の部位と複数の領域に対応する脳の部位とのそれぞれの相互の関連性を評価する。
【0024】
演算部3は、例えば、脳波検出部2の複数の電極から脳波を取得する脳波計測部3aと、脳波計測部3aにより計測された脳波の波形を解析して解析結果を出力する波形解析部3bと、刺激発生装置4aを制御する刺激コントローラ3cとを備える。
【0025】
波形解析部3bは、例えば、脳波計測部3aにより計測された電磁気的刺激が与えられた所定の領域と、脳の複数の領域の中の一つの領域との二点間の脳波波形の位相同期度を演算する。位相同期度については後述する。
【0026】
波形解析部3bは、例えば、演算した位相同期度に基づいて、脳における上記の二点間に対応する脳の部位の関連性を指標化する。刺激コントローラ3cは、刺激発生装置4aを制御して、被験者Hの脳表に与えるTMSをコイル部4bから生成させる。
【0027】
脳波計測部3a、波形解析部3b、及び刺激コントローラ3cのうち一部または全部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。
【0028】
上述の装置構成により、従来のTMS-EEG手法では不可能であったうつ病等の神経・精神疾患の重症度を判定する指標を構築する為に、まずは健常者の被験者を募り、脳の聴覚、視覚、言語などの基本能力の情報処理に重要な役割を果たす作業記憶(ワーキングメモリ)の機能を、TMS-EEGでの異なる脳部位間の脳波位相同期を指標として評価・判定するシステムを構築した。
【0029】
なぜなら、ワーキングメモリの異常は、うつ病、統合失調症、双極性障害、認知症等の神経・精神疾患と深く関連していると考えられるからである。ワーキングメモリ機能を評価する為に、ワーキングメモリを使用すると考えられる課題(WMタスク)を被験者に実施してもらい、その過程でのTMS-EEG脳波位相同期を評価した。
【0030】
1はじめに:
健常者を用いた脳の基本機能であるワーキングメモリを司る部位間の関連性の評価実験について
【0031】
従来より、脳の前頭葉と感覚野との間のグローバルなシータ波の位相同期は、ワーキングメモリ(Working Memory :WM)の実行(エグゼクティブ)プロセスに関連する複数の脳領域間を連結するという説が提案されている。しかし、この脳における各領域間の相互作用に関する連結ネットワークの指向性(すなわち、前頭葉から視覚野へのトップダウンか、または視覚野から前頭葉へのボトムアップなのか、等の方向依存的な関連性)については、ほとんど知られていなかった。
【0032】
ワーキングメモリ(WM)の脳神経における実体は、独立した複数のシステムから構成されると考えられている。すなわち、執行を司るシステムは前頭前野に位置し、維持システムのための後頭感覚野、視覚WMのための頭頂野及び聴覚WMのための側頭野を含むなど、異なるシステムを含んでいると考えられている。最近の人間のEEG脳波の研究では、大規模な位相同期による脳の広範囲(グローバル)におけるネットワークがWMで重要な役割を持っていることを示す。具体的には、分散した複数の脳領域におけるシータ波リズムが互いに相互作用すると考えられる。また、低周波同期は、執行システム機能に関連して、前頭葉と後頭後部感覚野とを連結することが示唆されている。
【0033】
しかし、WMにおけるこのような相互作用のネットワークの指向性は明確ではない。すなわち、感覚野から前頭葉への信号(ボトムアップ)あるいは前頭葉から感覚野への信号(トップダウン)のいずれの指向性であるかは明確ではない。経頭蓋磁気刺激とEEGに基づく従来の研究では、単一パルスのTMSによる脳の特定の神経領域の刺激により、局所の同期を操作でき、かつ安静時脳波の同期の空間伝搬を誘導することができるということを示唆している。
【0034】
従って、WMタスク中におけるEEGの脳波リズムのうち、TMSにて誘導される変化に着目することにより、WM関連脳領域の中のネットワークの指向性をこの方法により識別し得る。例えば、TMS刺激が前頭皮質に送られたときに位相同期が変化した場合は、指向性がトップダウンである可能性が高い。対照的に、TMSが感覚皮質に送られたときに位相同期が変化した場合は、指向性がボトムアップである可能性が高い。したがって、本研究では、WMネットワークの方向性を明確化することを目指している。
【0035】
実験において、二種類のWM操作タスク[聴覚WMタスク(An Auditory WM Task:AWM)と視覚WMタスク(A Visual WM Task:VWM)]が実施された。両タスクにおいて、単一パルスTMSが脳の3つのターゲット領域(前頭前野、視覚野、聴覚野)に与えられた。タスクは、疑似TMS条件及びTMS無し条件で行われた。
【0036】
2.方法
2.1.参加者
EEG実験の参加者は、正常または矯正された正常な視力、通常の聴力、及び通常の運動性能を有する、10人の健康な右利きのボランティア(4人の女性を含む;平均年齢=23.5±1.1年、範囲20-33歳)である。すべての参加者は書面によるインフォームドコンセントを提出し、実験が行われる前に、手順が(ヘルシンキ宣言に従って)理化学研究所の倫理委員会によって承認された。
【0037】
2.2.聴覚ワーキングメモリタスク
図3は、WMのための試行に用いられる画面の表示を示す図である。聴覚に関する試験において参加者は、イヤホンを着け、60センチメートル離れて配置されたコンピュータ画面に直面して試験を行った。各試験の開始時に、参加者はイヤホンを通して聴覚刺激として1秒間で提示される1桁の数字Nを暗記することが求められた(
図3(a)参照)。2秒間の保持間隔の後、別の1桁の数字Nが1秒間聴覚刺激として提示され、参加者は、記憶した以前の数字Nに、提示される数字Nを足し算するよう求められた。
【0038】
白の固定点5がグレーの固定点6(テストディスプレイ)になった後、この思考的な足し算(「操作段階」)が3回繰り返され、プローブ数が聴覚刺激として提示された。参加者は、ボタンを押して、プローブ数が2秒以内(赤い固定点7となったとき)に暗算の合計Mと一致したかどうかを決定することが求められた。試行間間隔(Inter-Trial Interval:ITI)の持続時間は2秒に設定された。刺激は心理物理学ツールボックスの拡張機能を持つMatlab 2010(登録商標)を使用して生成された。
【0039】
2.3.視覚的ワーキングメモリタスク
図3(b)に示されるように、視覚に関する各試行の開始時に、5×5の正方形グリッドDと1×1の赤い円10が1秒間、コンピュータの画面Dに表示される。参加者は、画面Dに表示される赤い円10の位置を暗記する。2秒間の保持間隔の後、参加者は思考によって1秒間に(「操作段階」)、画面Dの中央に提示された白い矢印12に従って赤い丸10をグリッドD内で移動する。矢印12は上方向、下方向、右方向、または左方向に向けられる。
【0040】
参加者は、この思考的な操作を3回繰り返すように求められる。その後、赤い円10の思考的に決定されたグリッドD内の位置が視覚的プローブ(テストディスプレイ)に一致したかどうかを確認するために、赤い円10がディスプレイに示される。実験におけるボタン押し、ITIの期間、及び刺激の作成はAWMタスクと同様である。
【0041】
2.4.TMS
各試行では、コイル部4bから単一パルスTMSからなる3つのパルスPがタスクの操作段階の間、前頭(Fz)、側頭(TP7)、または頭頂(PZ)の領域に与えられる。具体的には、各操作キュー(AWMタスクのための
図3(a)における音符記号SまたはVMMのタスクのための
図3(b)における白の矢印12の付いた数)のために、TMSの単一パルスPが非同期(0、500、1000ミリ秒)に開始される3つのキューTMS刺激の1つとして適用される。
【0042】
実験では、TMSを与えるための二相性刺激器具(信号発生部4)(Magstim Rapid, Magstim社、英国:
図6参照)に接続された70mmのリング直径の8の字コイルが使用された。各セッションを通じてコイル位置及び向きを維持するために、カメラスタンドのフレキシブルアームを使用した。実験を行う前に、各参加者のTMS強度は、人差し指をけいれんにさせるための最小強度である95%の運動閾値として決定された。TMSのプラシーボ効果を試験するために、疑似TMS状態が、頭頂から15cm離れた場所にTMSパルスPを供給することにより行われた。
【0043】
2.5.実験手順
各参加者は以下の10の別々のセッションを完了した。10の別々のセッションは、2WMタスク(AWMとVWMタスク)×5TMS条件(前頭、側頭、頭頂、疑似、及びTMS無)のカウンターバランス順序で構成される。各セッションは24件の試験(72TMSアプリケーション)で構成されていた。すべての参加者はEEG測定セッションの前に十分に訓練した。
【0044】
2.6.EEG記録
EEG記録は、TMS用脳波電極キャップ(脳波検出部2)(EASYCAP社、ドイツ)を用いて、国際10/10システムに基づいた配置の67[ch]頭皮電極(銀/塩化銀)によって実施された。サンプリングレートは、1000[Hz]であった。参照電極は、左右の乳様突起に配置した。電極インピーダンスは、10[kΩ]未満に維持された。また、左右の眼球それぞれにつき水平、垂直に配置された頭皮電極(計4[ch])は、眼球電図(EOG)の記録に使われた。EEG信号は、脳波計(Brainamp MR+ Brain Products社、Germany)を用いて増幅、記録された。
【0045】
2.7.EEGデータの前処理
実験において、被験者Hから脳波検出部2により取得されるEEGデータが、例えばコンピュータにより実現される演算部3によって分析される。EEGデータは、操作のための指示開始から操作期間の3秒の区分に分割される。分析において、線形補間が使用され、TMSアーチファクト(-1から7ミリ秒にポストTMS開始)の影響を受けたEEGデータポイントが削除される。EEG区分は、インフォマックス独立成分分析(Info-Max Independent Components Analysis :ICA)に従う。
【0046】
大幅に垂直または水平EOGと相関していたICAの成分は、まばたきによるアーチファクトとして排除される。ICA訂正されたデータは、残りのコンポーネントのための回帰を使用して再計算される。体積伝導誤差を排除するために、各電極の位置の電流源密度解析が行われ、頭皮表面上の電位分布に球状ラプラス演算子が適用される。
【0047】
2.8.ウェーブレット解析
以下、演算部3における脳波の解析処理について説明する。
【0048】
解析において、モレットウェーブレット関数が使用され、ウェーブレット変換が適用される。6つの時点が分析のために選択される(0、500、1000、1500、2000、2500ミリ秒)。各TMSアプリケーションの各時点での位相は、複雑モレットウェーブレットw(T、F)関数によって起因する入り組んだEEG信号s(t)の、元のアークタンジェントである:
【数1】
【0049】
ここで、σ
tはガウシアン窓の標準偏差である。使用されるウェーブレットは、2から20ヘルツ(1[Hz]のステップ)の範囲のfで、一定の比率(f/σ
f=7)によって特徴付けられる。任意の2つの電極間の位相関係を指標化するために、位相同期度(Phase Locking Values:PLV、位相の同期性)は時刻(t)と周波数(F)で、次のように計算される:
【数2】
ここで、Δθ
jk(t、f、n)は、j番目とk番目の電極と間の位相差であり、例えば、Nは、解析対象とした試行回数であり、例えば、N=20[回]であり、nは各試行のインデックスである。実験では、ボンフェローニ補正付きウィルコクソン符号順位検定を使用して、最初の被験者ごとにPLVを計算し、操作期間の各時点のPLVとベースライン期間(すなわちITI)の平均PLVとが比較される。
【0050】
分析において、関心領域(Region-Of-Interest:ROI)が分析され、本出願の発明者の以前の研究を参考に、代表的な前頭、側頭、及び頭頂電極としてのFz、TP7、及びPzが選択される。これらの3つのROI電極と他の電極との間におけるPLVが評価される。
【0051】
3.結果
3.1.行動の結果
AWM中の対象平均精度率(±s.d.)は、無し、前頭、側頭、頭頂、及び疑似TMS条件のために、それぞれ、96.7±1.3,96.0±0.8,97.2±0.6,96.3±1.0,及び96.5±1.2[%]であった。VWM中の対象平均精度率(±s.d.)は、無し、前頭、側頭、頭頂、及び疑似TMS条件のために、それぞれ、96.9±1.3,95.6±1.3,96.0±1.1,96.3±1.5,及び95.6±0.9%であった。2因子ANOVAは、タスクの主効果(F1,90=0.42,p=0.52)、TMS条件(F4,90=0.26,p=0.90)、及び有意な相互作用(F4,90=0.14,p=0.97)を明らかにしなかった。これらの結果は、異なる条件の間でのEEG比較がタスクの難易度やTMSの効果のいずれによっても影響されなかったことを示している。
【0052】
3.2.EEG結果
結果に基づいて、各時点でPLVを示す電極対は、ベースライン期間の平均PLVよりも有意に高かったということが識別された(p<0.05;ボンフェローニ補正)。以前の研究は、シータ同期変調を調査しているので、本出願の発明者は、前頭と他の電極との間、側頭と他の電極との間、及び頭頂部と他の電極との間のシータ範囲(例えば、4ヘルツ)PLVに着目した。
【0053】
図4は、試行により検出された電極E間の検出結果を示す図である。図示するように、電磁気的刺激を受けた脳において、脳波検出部2は、脳の複数の領域からそれぞれの脳波を検出する。図示するように、AWM(VWM)作業中におけるTMS無し、前頭TMS、側頭TMS(頭頂TMS)の状態における各時点でのROI電極Eと他の電極Eとの間の有意なペアが示されている。図示するように、代表的な結果として1000[ms]-TMSの結果が示されている。
【0054】
図5は、試行により所定の値を示した電極対の平均カウント数を示すグラフである。図示するように、(0[ms],500[ms],1000[ms],1500[ms],2000[ms],及び2500[ms])の6レイテンシの間で、そして(0[ms],500[ms],及び1000[ms])の3TMSアプリケーションのタイミングの間で、ITIの期間(P<0.05;ボンフェローニ補正)のシータ(4ヘルツ)PLVに比べ操作期間のシータ(4ヘルツ)PLVが有意に高いシータ(4ヘルツ)PLVを示す電極対の平均カウント数が示されている。
【0055】
TMS無しの条件は、AWM(VWM)作業中における前頭と他の領域の電極Eとの間及び側頭(頭頂部)と他の領域の電極Eとの間のペア、といったいくつかの重要なペアを含んでいた。これらの結果は、前頭TMS及び疑似TMS条件からのものと同様であった。感覚野TMS(すなわち、側頭TMSと頭頂部TMS)条件は、TMS無し、前頭TMS、及び疑似TMS条件(P<0.05;多重比較ボンフェローニ補正によるカイ二乗テスト)と比較して、前頭と他の電極との間及びTMS標的と他の電極Eとの間の有意なペアの数を有意に増加させることが示された。
【0056】
これらの傾向は、(有意なペアの数)TMS使用タイミング間でほぼ同じであった。EEGデータの単一の時点を使用して分析を行うと、上記の結果は、ノイズや極端なポイントに敏感となり得る。したがって、分析は、単一の時点よりも長い時間窓にわたって平均化をやり直しする必要がある。そこで、PLVデータは100ミリ秒の時間窓にわたって平均化された。TMS使用の開始から-50[ms]から50[ms]の範囲ですべての条件の下で、同じ統計分析が行われた。
【0057】
結果として、重要な連結性を示す電極Eの数は、TMS無の下で0(前頭電極から)及び0(側頭電極から)、前頭TMSの下に0(前頭電極から)及び0(側頭電極から)、側頭TMSの下で7(前頭電極から)及び8(側頭電極から)、であった。
【0058】
聴覚WM状態の間では、視覚WM状態の間で、TMS無の下で3(前頭電極から)及び3(頭頂電極から)、前頭TMSの下で4(前頭電極から)及び3(頭頂電極から)、及び側頭TMS下で7(前頭電極から)と8(頭頂電極から)であった。これらの結果は、単一の時点のデータを用いた分析の結果とほぼ同じであった。
【0059】
4.議論
本実施形態は、TMSによって誘発されるシータ波位相同期(略してシータ位相同期)における機能変化を計測することにより、WMでのボトムアップネットワークを明らかにした。シータ波位相同期は、関連する脳領域間のグローバルな連結を反映していることを示唆する以前の研究と一致して、シータ位相同期はWMタスク関連の以下の領域間で観察された。領域間は、VWMタスク中の前頭と頭頂領域の間及びAWMタスク中の前頭および側頭領域の間であった。
【0060】
単一パルスTMSが安静時の脳のネットワーク間でグローバルな位相同期と情報の流れを調節することを示唆した以前の研究から予想されるように、TMSは、WMのタスクの実行中にグローバルシータ位相同期により脳活動を操作した。実施形態のEEGデータは、TMS-対象領域間のシータ波位相同期におけるTMS誘導変化量に有意な差があることを明らかにした。また、シータ位相同期におけるTMS誘導変化は、ネットワーク指向がトップダウンというよりはむしろボトムアップであることを示した。VWMタスク時の頭頂TMSの状態においては、前頭と頭頂の両方の領域から誘導されたシータ位相同期が増加した。
【0061】
AWMタスク時の側頭TMSの状態においては、前頭と側頭の両方の領域から誘導されたシータ位相同期が増加した。AWMタスク時の頭頂TMSの状態、そして、VWMタスク時の側頭TMSの状態では、シータ位相同期にわずかな変化があったが、これらの結果は、モダリティ種類固有のものである。したがって、WMタスク中のネットワークの指向性は、ボトムアップであった可能性がある。
【0062】
前頭TMSの状態では、VWMとAWMのタスクの両方からの結果がTMS無の状態に類似していたことに注意すべきである。これらの結果は、前頭TMSの状態で誘発されるシータ位相同期の増加がなかったことを示している。このように、これらの結果は、WMタスク中のネットワークの指向性は、トップダウンではなかったことを示している。ここで、疑似TMSの状態で結果がTMS無しの状態に類似していたことに注意すべきである。
【0063】
これらの結果は、本出願の発明者の到達した結論が、実験時に伴うTMSパルス時の「クリック」という音によって誘起される聴覚由来応答によっては、影響を受けないことを示唆している。誘発されるシータ位相同期は、TMSが前頭葉ではなく感覚野に与えられたときにのみに増加した。したがって、WMのタスクの間に用いられる情報ネットワークは、トップダウンというよりはむしろボトムアップであったと主張することができる。
【0064】
この提案は、EEG信号に対するTMSの影響に関する以前の発見によってサポートされている。以前の研究では、TMSは、TMS-対象領域だけでなく関連するTMS無し対象領域においても脳の活性化を操作することが示されている。また、運動野でなく、感覚野への単一パルスTMSは、安静時に感覚野と運動野との間でのシータ位相同期を増大させる。
【0065】
5 結論
要約すると、上記実験では、WMタスク中にTMSによって誘発される前頭野シータ振動の増加の観測に基づいて、WMでのボトムアップネットワークの存在が明らかにされた。我々のアプローチは、グローバル位相同期を操作することにより、情報の流れを同定する手法だが、他の認知処理のネットワーク指向性を評価するためにも有効であろう。
【0066】
上記のように、健常者において、脳の聴覚、視覚、言語などの基本能力の情報処理に重要な役割を果たす作業記憶(ワーキングメモリ)の機能を、TMS-EEGでの異なる脳部位間の脳波位相同期を指標として評価・判定するシステムを構築したことを確認した。
【0067】
次に、同じ装置構成により、うつ病等の神経・精神疾患の病態を判定する指標を構築する為に、下記のように、うつ病患者に適用した。
【0068】
5.うつ病重症度の評価への適用例
電気的に患者の脳を刺激する電気けいれん療法(Electro Convulsive Therapy:ECT)は、重度のうつ病性障害や統合失調症などの精神疾患における重度のうつ状態や難治症例に対する治療法の一つである。ECTの有効性に関する臨床的証拠があるが、治療の詳細な神経機構は明らかではない。精神疾患患者におけるEEG振動の同期は、健常者のものと異なることが報告されている。
【0069】
うつ病を判定する指標を構築するために、安静時における経頭蓋磁気刺激(Transcranial Magnetic Stimulation :TMS)脳波(Electro Encephalo Graphy :EEG)について、電気けいれん療法前後での比較実験を実施した。
【0070】
本出願の発明者は、電気けいれん療法により治療されたうつ状態の患者に対し、治療前後で後頭葉(視覚野)を刺激した際のTMS-EEGを比較したところ、脳波の位相同期の指標であるPLVが改善することを発見した。ここでは、ECTの有効性に関する神経証拠を調査するために、ECT前と後の目が閉じた安静時に、抑うつ状態を有する患者からEEGデータを測定した。
【0071】
図7~
図9は、被験者にECTを行った結果を示す図である。いずれもEEG測定中、一次運動野または一次視覚脳領域へのTMSで脳のネットワークが変調された。EEGデータの時間-周波数のウェーブレット解析が行われ、脳領域間のPLVが算出された。
図7~
図9にてPLVは、横軸は時間、縦軸は周波数としてプロットしてある。
【0072】
図7には、ECTの前後でのうつ病重症度の問診評価尺度(MADRS)の得点および、ECT前後での脳内ネットワーク同期度(PLV)を示してある。MADRSの点数が高いほど、うつ病は重症である。ここでは、EEG測定中、一次視覚脳領域へのTMSで脳のネットワークが変調された。その結果、脳における視覚野と運動野の領域との間の低周波PLVは、ECT前よりもECT後のTMSアプリケーションの開始時に増加した。
【0073】
TMSは運動野ではなく、視覚野が刺激される際、PLVが強化されることが観察された(
図8)。(以前の研究では、TMS-変調低周波PLVが安静時の脳のネットワーク内の領域間の関係を評価することができることを提案している。)
【0074】
TMS効果(視覚野TMS刺激のPLV値に関してのECTによる改善)の患者個人差を
図9に示す。患者個人ごとに、ECT後のMADRS値(PLVプロット右側の数値)がECT前の値より改善(減少)することに対応して、PLV値が改善(位相同期度増大)している。つまり、TMSによって誘発されるEEGの同期度(PLV)は、うつ病のためのECTの有効性の神経証拠を示す。すなわち、TMSによって誘発されるEEGの同期度(位相差に基づくPLV)を検出することにより、神経・精神疾患の病態を評価することが可能となる。
【0075】
まとめると、本出願の発明者は、TMSによって誘発されるPLVがうつ病のためのECTの有効性の神経証拠を示すことを示し、さらに本出願の発明者は、ECTおよび他の精神科治療の有効性を評価するための新しい方法として、TMSによって誘発されるPLVのさらなる使用法を示唆している。
【0076】
以上説明した脳波検出装置1によれば、脳に与えられた異なる電磁気的な刺激に対する脳の複数の領域の反応に基づいて、それぞれの領域の相互の関連性を評価することができる。即ち、脳波検出装置1によれば、脳における二点間に対応する脳の部位の関連性を指標化することができ、うつ病等の神経・精神疾患の病態を定量的に評価することができる。脳波検出装置1によれば、うつ病患者を経時的に計測することによって、うつ病の治療状態を観察することができ、電気的刺激療法、あるいは、薬物による療法などの治療法を選択する指標として用いられ得る。
【0077】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0078】
1…脳波検出装置、2…脳波検出部、2a…キャップ部、3…演算部、3a…脳波計測部、3b…脳波解析部、3c…刺激コントローラ、4…信号発生部、4a…刺激発生装置、4b…コイル部、5~7…固定点、10…赤い円、12…矢印、E…電極、N…数字、M…合計、P…パルス