(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレーター(SERDS)
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20220428BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220428BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220428BHJP
A61P 5/30 20060101ALI20220428BHJP
A61K 31/69 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
C07F5/02 C
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P5/30
A61K31/69
(21)【出願番号】P 2018557799
(86)(22)【出願日】2017-05-05
(86)【国際出願番号】 US2017031297
(87)【国際公開番号】W WO2017192991
(87)【国際公開日】2017-11-09
【審査請求日】2020-04-28
(32)【優先日】2016-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517000081
【氏名又は名称】ザビエル・ユニバーシティ・オブ・ルイジアナ
【氏名又は名称原語表記】XAVIER UNIVERSITY OF LOUISIANA
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ガンジ
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ジアワン
(72)【発明者】
【氏名】ジェン,シロン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,チウ
(72)【発明者】
【氏名】グオ,シャンチュン
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/107474(WO,A1)
【文献】特表2001-520235(JP,A)
【文献】Journal of Medicinal Chemistry,2015年,58(8),P.3522-3533
【文献】International Journal of Cancer,2010年,Volume Date 2011, 128(4),P.974-982
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 5/00
A61K 31/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
及び式(
II)
:
【化1】
(式中、
R
1
=
【化2】
であり;
R
2
=H、OH、Me、Cl、F、又はCF
3
であり;
R
3
=(OH)
2
B、KF
3
B、NaF
3
B、
【化3】
であり;
R
4
=(HO)
2
B、KF
3
B、NaF
3
B、
【化4】
であり;
X=O、S、NH、OCH
2
、SCH
2
、NHCH
2
、CH
2
O、CH
2
S、又はCH
2
NH
2
であり;
置換基R
3
の結合点は、R
3
の置換基ホウ素原子上にあり、置換基R
4
の結合点は、R
4
の置換基ホウ素原子上にある)
からなる群から選択され
る化合物、
或いは、その塩、その溶媒和物、又はその塩の溶媒和物
。
【請求項2】
式(I):
【化5】
(式中、
R
1=
【化6】
であり;
R
2=H、OH、Me、Cl、F、又はCF
3であり;
R
3
=(OH)
2B、KF
3B、NaF
3B、
【化7】
であり;
R
4
=(HO)
2B、KF
3B、NaF
3B、
【化8】
であり;
置換基R
3の結合点は、R
3の置換基ホウ素原子上にあり、置換基R
4の結合点は、R
4の置換基ホウ素原子上にある
)
である
請求項1に記載の化合物、
或いは、その塩、その溶媒和物、又はその塩の溶媒和
物。
【請求項3】
式(II):
【化9】
(式中
、
R
1=
【化10】
であり;
R
2=H、OH、Me、Cl、F、又はCF
3であり;
R
3
=(OH)
2B、KF
3B、NaF
3B、
【化11】
であり;
R
4=(HO)
2B、KF
3B、NaF
3B、
【化12】
であり;
X=O、S、NH、OCH
2
、SCH
2
、NHCH
2
、CH
2
O、CH
2
S、又はCH
2
NH
2
であり;
置換基R
3の結合点は、R
3の置換基ホウ素原子上にあり、置換基R
4の結合点は、R
4の置換基ホウ素原子上にある
)
である
請求項1に記載の化合物、
或いは、その塩、その溶媒和物、又はその塩の溶媒和
物。
【請求項4】
R
1
=
【化13】
であり;
R
2
=Hであり;
R
3
及びR
4
=
【化14】
であり;
置換基R
3
の結合点は、R
3
の置換基ホウ素原子上にあり、置換基R
4
の結合点は、R
4
の置換基ホウ素原子上にある、
請求項2に記載の化合物、或いは、その塩、その溶媒和物、又はその塩の溶媒和物。
【請求項5】
R
1
=
【化15】
であり;
R
2
=Hであり;
R
3
及びR
4
=
【化16】
であり;
X=Oであり;
置換基R
3
の結合点は、R
3
の置換基ホウ素原子上にあり、置換基R
4
の結合点は、R
4
の置換基ホウ素原子上にある、
請求項3に記載の化合物、或いは、その塩、その溶媒和物、又はその塩の溶媒和物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物を含む、医薬組成物。
【請求項7】
増殖性疾患の処置に使用するための、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
癌の処置に使用するための、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
エストロゲン受容体の調節に使用するための、請求項6に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本国際出願は、2016年5月6日に出願された米国仮特許出願第62/332,541号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)の利益を主張する。
【0002】
連邦支援の研究又は開発に関する声明
本発明は、国立マイノリティ健康格差研究所(NIMHD)によって付与された、助成金番号5G12MD007595による政府の支援によってなされた。政府は発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
1.技術分野
本開示は、経口で生物学的に利用可能な選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレーター(SERD)及びその製造方法に関する。本開示はまた、これらのSERDを含む医薬組成物、及び癌を含むエストロゲン受容体介在病理発生の処置のためのその使用方法に関する。
【0004】
本明細書に記載のSERDは、乳癌、特にエストロゲン受容体(エストロゲン受容体陽性、又は「ER+」乳癌)を発現する乳癌についての、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)及びアロマターゼ阻害剤(AI)などの以前の内分泌療法の後でも疾患が進行する患者の処置としての、第1選択の補助的処方計画としての、又は第2選択の療法(setting)における有効な内分泌療法を提供することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
2.関連技術の説明
乳癌は、世界中の女性において最も一般的な癌であり続けており、2012年に診断された新規の症例は170万件を上回る(全体で2番目によく見られる癌である)。これは、全新規癌症例の約12%、女性の全癌腫の25%に相当する。乳癌症例の約80%はエストロゲン受容体陽性(ER+)であり[1,2]、これらの患者の大半に関し、内分泌療法は、補助療法及び進行癌に対する療法(adjuvant and advanced setting)の両者における適切な選択肢である。ER+乳癌の現在の内分泌療法には、SERM(例えばタモキシフェン、ラロキシフェン、トレミフェン)、アロマターゼ阻害剤(AI、アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾールを含む)及びSERD(フルベストラント)[3]の3つのレジメンオプションが含まれ、結果を最適にするために、これらは種々の順序で使用することができる。タモキシフェンは、閉経前の患者及びDCIS診断後に二次的化学予防を必要とする女性のための第1選択薬である。閉経後の女性では、進行までの期間がより良好であり、また副作用がより軽度であるために、一般にAIがタモキシフェンより好まれる[4,5]。しかし、進行した転移性乳癌を有する患者のほとんどは、最終的に、再発性及び/又は進行性疾患におけるERαの発現を保持しながら、タモキシフェン又はAI処置に対する耐性を発生する。この臨床情報は、フルベストラント(ほとんどのAI-又はタモキシフェン耐性乳癌はこれに対して交差耐性でない)を使用するための有望な処置上の根拠を提供する。実際、フルベストラントは非常に有効なSERDであることが証明されており、SERM又はAI処置後にも進行する乳癌の、現在唯一のFDA承認の処置薬である[6,7]。残念なことに、フルベストラントは、経口投与された場合、バイオアベイラビリティが非常に悪いため、その標準的な投与経路は筋肉内(i.m.)注射であり、このことによって、定常状態の血清濃度に達するまでに3~4ヶ月かかり、その使用の普及に負の影響が及んでいた[8]。さらに、最近認可された500mgの高用量でも、FINDER1とFINDER2の臨床試験では、フルベストラントのピーク血中濃度は25ng/mL未満にとどまっており[9,10]、患者におけるその最適効能は達成されなかった可能性があることを示唆している[7]。加えて、患者の血漿中のフルベストラント濃度が定常状態に達するまでに1ヶ月もかかる[7]。フルベストラントの有望な臨床的有用性及びその作用機序の理解の増大は、より高いバイオアベイラビリティ及び効能を有するSERDの開発に対する動機付けとなっている[11,12]。したがって、少なくとも改善された生物学的利用能を有するSERDが、依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態において、本開示のSERDは、後に示すSERD構造の例でより十分に表されているように、下記式(I):
【化1】
(式中、
【化2】
であり;
R
2=H、OH、Me、Cl、F、又はCF
3であり;
【化3】
であり;かつ
【化4】
であり、
置換基R
3の結合点は、R
3の置換基ホウ素原子上にあり、置換基R
4の結合点は、R
4の置換基ホウ素原子上にある)
の化合物である。式(I)のSERDの例はSERD1であり、式(I)のSERDを合成するための一般的な合成スキームを
図1に示す。
【0007】
別の実施形態において、本開示のSERDは、後に示すSERD構造の例でより十分に表されているように、下記式(II):
【化5】
(式中、
X=O、S、NH、OCH
2、SCH
2、NHCH
2、CH
2O、CH
2S、又はCH
2NH
2であり;
【化6】
であり;
R
2=H、OH、Me、Cl、F、又はCF
3であり;
【化7】
であり;かつ
【化8】
であり、
置換基R
3の結合点は、R
3の置換基ホウ素原子上にあり、置換基R
4の結合点は、R
4の置換基ホウ素原子上にある)
の化合物である。式(II)のSERDの例はSERD2であり、式(II)のSERDを合成するための一般的な合成スキームを
図2に示す。
【0008】
別の実施形態において、本開示のSERDは、後に示すSERD構造の例でより十分に表されているように、下記式(III):
【化9】
(式中、
【化10】
であり;
R
2=H、OH、Me、Cl、F、又はCF
3であり;
【化11】
であり;かつ
【化12】
であり、
置換基R
3の結合点は、R
3の置換基ホウ素原子上にあり、置換基R
4の結合点は、R
4の置換基ホウ素原子上にある)
の化合物である。式(III)のSERDの例はSERD3であり、式(III)のSERDを合成するための一般的な合成スキームを
図3に示す。
【0009】
別の実施形態において、本開示のSERDは、後に示すSERD構造の例でより十分に表されているように、下記式(IV):
【化13】
(式中、
R
1=H、OH、OMe、Me、Cl、F、又はCF
3であり;
R
2=H、OH、OMe、Me、Cl、F、又はCF
3であり;
R
4=H、F、又はClであり;
R
5=H、F、又はClであり;かつ
【化14】
であり、
置換基R
3の結合点は、R
3の置換基ホウ素原子上にある)
の化合物である。式(IV)のSERDの例はSERD4であり、式(IV)のSERDを合成するための一般的な合成スキームを
図4に示す。
【0010】
別の実施形態において、本開示のSERDは、後に示すSERD構造の例でより十分に表されているように、下記式(V):
【化15】
(式中、
R
1=H、OH、OMe、Me、Cl、F、又はCF
3であり;
R
2=H、OH、OMe、Me、Cl、F、又はCF
3であり;
R
4=H、F、又はClであり;
R
5=H、F、又はClであり;かつ
【化16】
であり、
置換基R
3の結合点は、R
3の置換基ホウ素原子上に
ある)
の化合物である。式(V)のSERDの例はSERD5であり、式(V)のSERDを合成するための一般的な合成スキームを
図5に示す。
【0011】
別の実施形態において、本開示のSERDは、後に示すSERD構造の例でより十分に表されているように、下記式(VI):
【化17】
(式中、
R
1=H、OH、OMe、Me、Cl、F、又はCF
3であり;
R
2=H、OH、OMe、Me、Cl、F、又はCF
3であり;
R
4=H、F、又はClであり;
R
5=H、F、又はClであり;かつ
【化18】
であり、
置換基R
3の結合点は、R
3の置換基ホウ素原子上にある)
の化合物である。式(VI)のSERDの例はSERD6であり、式(VI)のSERDを合成するための一般的な合成スキームを
図6に示す。
【0012】
別の実施形態において、本開示のSERDは、後に示すSERD構造の例でより十分に表されているように、下記式(VII):
【化19】
(式中、
【化20】
であり;かつ
【化21】
であり、
置換基R
1の結合点は、R
1の置換基ホウ素原子上にあり、置換基R
2の結合点は、R
2の置換基ホウ素原子上にある)
の化合物である。式(VII)のSERDの例はSERD7であり、式(VII)のSERDを合成するための一般的な合成スキームを
図7に示す。
【0013】
別の実施形態において、本開示のSERDは、後に示すSERD構造の例でより十分に表されているように、下記式(VIII):
【化22】
(式中、
【化23】
であり;かつ
【化24】
であり、
置換基R
1の結合点は、R
1の置換基ホウ素原子上にあり、置換基R
2の結合点は、R
2の置換基ホウ素原子上にある)
の化合物である。式(VIII)のSERDの例はSERD8であり、式(VIII)のSERDを合成するための一般的な合成スキームを
図8に示す。
【0014】
別の実施形態において、本開示のSERDは、後に示すSERD構造の例でより十分に表されているように、下記式(IX):
【化25】
(式中、
【化26】
であり;
【化27】
であり;かつ
【化28】
であり、
置換基R
2の結合点は、R
2の置換基ホウ素原子上にあり、置換基R
3の結合点は、R
3の置換基ホウ素原子上にある)
の化合物である。式(IX)のSERDの例はSERD9であり、式(IX)のSERD合成するための一般的な合成スキームを
図9に示す。
【0015】
別の実施形態において、本開示のSERDは、後に示すSERD構造の例でより十分に表されているように、下記式(X):
【化29】
(式中、
【化30】
であり;かつ
【化31】
であり、
置換基R
1の結合点は、R
1の置換基ホウ素原子上にあり、置換基R
2の結合点は、R
2の置換基ホウ素原子上にある)
の化合物である。式(X)のSERDの例はSERD10であり、式(X)のSERDを合成するための一般的な合成スキームを
図10に示す。
【0016】
好ましい実施形態において、SERDは、以下の構造を有し、SERD1と表示される下記式(I):
【化32】
の化合物である(
図1も参照のこと)。
【0017】
好ましい実施形態において、経口SERDは、以下の構造を有し、SERD2と表示される下記式(II):
【化33】
の化合物である(
図2も参照のこと)。
【0018】
好ましい実施形態において、経口SERDは、以下の構造を有し、SERD3と表示される下記式(III):
【化34】
の化合物である(
図3も参照のこと)。
【0019】
好ましい実施形態において、経口SERDは、以下の構造を有し、SERD4と表示される下記式(IV):
【化35】
の化合物である(
図4も参照のこと)。
【0020】
好ましい実施形態において、経口SERDは、以下の構造を有し、SERD5と表示される下記式(V):
【化36】
の化合物である(
図5も参照のこと)。
【0021】
好ましい実施形態において、経口SERDは、以下の構造を有し、SERD6と表示される下記式(VI):
【化37】
の化合物である(
図6も参照のこと)。
【0022】
好ましい実施形態において、経口SERDは、以下の構造を有し、SERD7と表示される下記式(VII):
【化38】
の化合物である(
図7も参照のこと)。
【0023】
好ましい実施形態において、経口SERDは、以下の構造を有し、SERD8と表示される下記式(VIII):
【化39】
の化合物である(
図8も参照のこと)。
【0024】
好ましい実施形態において、経口SERDは、以下の構造を有し、SERD9と表示される下記式(IX):
【化40】
の化合物である(
図9も参照のこと)。
【0025】
好ましい実施形態において、経口SERDは、以下の構造を有し、SERD10と表示される下記式(X):
【化41】
の化合物である(
図10も参照のこと)。
【0026】
一実施形態において、本開示は、SERD療法から臨床的利益を得ることができる、癌、特に乳癌を含む増殖性疾患の処置のための、少なくとも1つのSERDの形態の医薬組成物を提供する。この組成物は、処置的に有効な量の少なくとも1つのSERDを含み得る。
【0027】
したがって、本開示は、増殖性疾患(癌を含む)の治療及び予防のための、式I~Xのいずれか1つに係るSERD又はその組み合わせの使用に関し、前記増殖性疾患は、そのような使用から臨床的利益を得ることができるものである。
【0028】
本開示の医薬組成物は、当業者に公知の任意の形態であり得る。例えば、いくつかの実施形態では、医薬組成物は、経口送達のための製品の形態であり、前記製品形態は、濃縮物、乾燥粉末、液体、カプセル、ペレット及び丸薬からなる群より選択される。他の実施形態では、本開示の医薬組成物は、静脈内、皮内、筋肉内及び皮下投与を含む非経口投与のための製品の形態である。本明細書に開示される医薬組成物は、担体、結合剤、希釈剤、及び賦形剤をさらに含み得る。
【0029】
また、他の態様において、本開示は、新規SERD化合物及びその薬学的に許容される塩;新規SERD化合物を単独で、又は少なくとも1つのさらなる処置剤と組み合わせて、薬学的に許容される担体と共に含む医薬組成物;新規SERD化合物の、単独、又は少なくとも1つのさらなる処置剤と組み合わせてのいずれかでの、乳癌を含む増殖性疾患の処置における、疾患の診断の任意の段階での使用に関する。さらなる処置剤との組み合わせは、新規SERD化合物を、任意の公知の処置剤と組み合わせる形態を取ることができる。
【0030】
本開示に係る化合物の塩には、全ての無機及び有機塩、特に、薬学的に許容される全ての無機及び有機塩、特に、薬学において慣習的に使用される、薬学的に許容される全ての無機塩及び有機塩が含まれる。
【0031】
本開示の1つの態様は、全ての無機及び有機塩、特に、薬学的に許容される全ての無機及び有機塩、特に、薬学において慣習的に使用される、薬学的に許容される全ての無機塩及び有機塩を含む、本開示に係る化合物の塩である。
【0032】
塩の例には、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、チタン、メグルミン、アンモニウム、場合によりNH3又は1~16個のC原子を有する有機アミン由来の塩、例えばエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジメチルアミノエタノール、プロカイン、ジベンジルアミン、N-メチルモルホリン、アルギニン、リジン、エチレンジアミン、N-メチルピペリジン及びグアニジニウム塩が含まれるが、これらに限定されない。
【0033】
塩には、水不溶性塩、及び特に水溶性塩が含まれる。
【0034】
当業者によれば、本開示に係る式(I)~(X)の化合物及びそれらの塩は、例えば、結晶形態で単離された場合、様々な量の溶媒を含み得る。したがって、本開示に係る式(I)~(X)の化合物の全ての溶媒和物、特に全ての水和物、ならびに本開示に係る式(I)~(X)の化合物の塩の全ての溶媒和物、特に全ての水和物は、本開示の範囲内に含まれる。
【0035】
本開示に係る化合物及びその塩は、互変異性体の形態で存在していてよく、これは本開示の実施形態に含まれる。
【0036】
本開示の化合物は、その構造に依存して、異なる立体異性体形態で存在し得る。これらの形態には、立体異性体又は光学的立体配座異性体(鏡像異性体及び/又はジアステレオ異性体(アトロプ異性体のそれらを含む))が含まれる。したがって、本開示は、エナンチオマー、ジアステレオ異性体、ならびにそれらの混合物を含む。それら鏡像異性体及び/又はジアステレオ異性体の混合物から、純粋な立体異性体を、当技術分野で公知の方法、好ましくはクロマトグラフィー、特にアキラル又はキラル相を用いる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の方法で単離することができる。本開示はさらに、ラセミ体を含む、上記の立体異性体の混合物の全てを、その比に関係なく含む。
【0037】
本開示の化合物は、その構造に依存して、様々な安定同位体形態で存在し得る。これらの形態には、1つ以上の水素原子が重水素原子で置換されたもの、1つ以上の窒素原子が15N原子で置換されたもの、又は炭素、フッ素、塩素、臭素、硫黄若しくは酸素が、それぞれの元の原子の安定同位体で置換されたものが含まれる。
【0038】
本開示に係る化合物及び塩のいくつかは、異なる結晶形(多形体)で存在していてよく、これは本開示の範囲内にある。
【0039】
SERD化合物、SERD化合物を合成する方法、SERD化合物を製造する方法、及びSERD化合物を使用する方法を提供することは、本開示のさらなる目的である。
【0040】
本開示の別の目的は、癌(内分泌関連癌を含むが、これに限定されない)などの増殖性疾患の兆候に、また再発の治療及び予防に有効な量の、少なくとも1つのSERD化合物を含む組成物、例えば医薬組成物を提供することにある。
【0041】
本開示のさらなる目的は、癌及び癌に関連する病的状態の治療及び予防のための少なくとも1つのSERDを含む組成物を含むキットである。キットの組成物は、少なくとも1つの担体、少なくとも1つの結合剤、少なくとも1つの希釈剤、少なくとも1つの賦形剤、少なくとも1つの他の処置剤、又はそれらの混合物を含み得る。
【0042】
本明細書中に開示されるSERD化合物による臨床適応症の処置方法は、処置有効量のSERDを、それを必要とする患者に投与することによって実施することができ、この処置有効量は、1mg/kg/日、2mg/kg/日、3mg/kg/日、4mg/kg/日、5mg/kg/日、10mg/kg/日及び20mg/kg/日の、患者に対するプロドラッグの投与を含み得る。或いは、約0.001mg/kg/日~約0.01mg/kg/日、又は約0.01mg/kg/日~約0.1mg/kg/日、又は約0.1mg/kg/日~約1mg/kg/日、又は約1mg/kg/日~10mg/kg/日、又は約10mg/kg/日~約100mg/kg/日の範囲の量もまた意図される。
【0043】
ある態様において、少なくとも1つのSERD化合物は、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、又は98%以上の純度を有する。好ましくは99%以上である。
【0044】
本開示の1つの態様は、本明細書に開示される化合物、ならびにそれらの合成に使用される中間体である。
【0045】
以下に示され説明される本発明の特定の特徴は、添付の特許請求の範囲に指摘されているが、本発明は、特定された詳細に限定されることを意図するものではない。これは、図示された本発明の形態及び詳細、並びにその操作における種々の省略、変更、置換及び変更が、本発明の精神から何ら逸脱することなくなされ得ると、当業者が理解することによる。本発明の特徴は、それが「臨界的」又は「必須」であると明示的に述べられていない限り、臨界的でも必須でもない。
【0046】
本開示の実施形態のこれら及び他の特徴、態様及び利点は、以下に説明される次の説明、特許請求の範囲及び添付図面を考慮すると、よりよく理解されるであろう。
【0047】
本開示の性質、目的及び利点のさらなる理解のために、以下の詳細な説明を参照すべきであり、これは以下の図面と併せて読まれ、その中では、同様の参照番号は同様の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】SERD1の調製のための一般的な合成スキームを示す。
【
図2】SERD2の調製のための一般的な合成スキームを示す。
【
図3】SERD3の調製のための一般的な合成スキームを示す。
【
図4】SERD4の調製のための一般的な合成スキームを示す。
【
図5】SERD5の調製のための一般的な合成スキームを示す。
【
図6】SERD6の調製のための一般的な合成スキームを示す。
【
図7】SERD7の調製のための一般的な合成スキームを示す。
【
図8】SERD8の調製のための一般的な合成スキームを示す。
【
図9】SERD9の調製のための一般的な合成スキームを示す。
【
図10】SERD10の調製のための一般的な合成スキームを示す。
【
図11】T47D-KBfc細胞における、代表的なSEEDの抗エストロゲン作用を示す。
【
図12】MCF-7 E3増殖アッセイにおける、代表的なSERDの効果を示す。
【
図13】エストロゲン受容体α(ERα)発現に対するSERD4の効果を示す。ウェスタンブロットは、GDC-810、SERD4及びGW-7604によって、それぞれ用量依存的に劇的に下方制御された、MCF-7細胞におけるERタンパク質発現を示している。
【
図14】エストロゲン受容体α(ERα)発現に対するSERD9の効果を示す。ウェスタンブロットは、A.フルベストラント、B.SERD9によって、用量依存的に劇的に下方制御されたERタンパク質発現を示している。
【
図15】SERD4及びSERD9の、高い親和性でのエストロゲン受容体α(ERα)への結合を示す。
【
図16】SERD4及びGW7604の、10mg/kg/日の経口(p.o.)での単回投与後の、ラットにおける経口バイオアベイラビリティを示す。
【
図17】SERD9の、5mg/kgのp.o.ので単回投与後の、マウスにおける経口バイオアベイラビリティを示す。
【
図18】乳癌異種移植片を有するマウスにおける、皮下注射によって投与されたフルベストラントの有効性と比較した、2種の用量で経口投与された場合のSERD9の有効性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
詳細な説明
本開示をさらに説明する前に、本開示は、以下に記載される開示の特定の実施形態に限定されないことが理解されるべきである。これは、その特定の実施形態の変形がなされ得、添付の特許請求の範囲に含まれるためである。使用される用語は、特定の実施形態を説明するためのものであり、限定することを意図するものではないことも理解されたい。代わりに、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によって確定される。
【0050】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈がそうでないと明確に指示していない限り、複数形を含む。本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、そうでない定義がされない限り、本開示が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0051】
本明細書中で使用される場合、用語「最小化する」又は「低減する」、或いはその派生語は、特定の生物学的効果の完全又は部分的阻害を含む(これは、用語「最小化する」又は「低減する」が使用されている文脈から明らかである))。
【0052】
本開示に係る化合物は、
図1~10に示すスキームに従って調製することができる。
【0053】
下記表1は、様々な乳癌細胞株における代表的なSERDの細胞毒性を示す。
【表1】
【0054】
本開示に係る化合物は、それ自体公知の方法で、例えば、溶媒を減圧下で留去し、得られた残渣を適当な溶媒から再結晶させること、又は、適当な担体材料上でのクロマトグラフィーのような、慣用の精製方法の1つに供することによって、単離及び精製される。さらに、十分に塩基性又は酸性の官能性を有する本開示の化合物の逆相分取HPLCは、塩(例えば、十分に塩基性である本開示の化合物の場合、トリフルオロ酢酸塩又はギ酸塩、又は、十分に酸性である本開示の化合物の場合、アンモニウム塩)の形成をもたらす。このタイプの塩は、当業者に公知の様々な方法により、その遊離塩基形態又は遊離酸形態にそれぞれ変換すること、或いはその後の生物学的アッセイで塩として使用することのいずれも可能である。加えて、本開示の化合物の単離中の乾燥プロセスは、痕跡量の共溶媒、特に蟻酸又はトリフルオロ酢酸などを完全に除去せず、溶媒和物又は包接錯体を与えることがある。当業者は、その後の生物学的アッセイにおいて使用するのに、どの溶媒和物又は包接錯体が許容され得るかを認識するであろう。本明細書に記載の、単離された本開示の化合物の特定の形態(例えば、塩、遊離塩基、溶媒和物、包接錯体)は、必ずしも、特定の生物学的活性を定量するために前記化合物を生物学的アッセイに適用することができる唯一の形態ではないことが理解されるべきである。
【0055】
本開示に係る式(I)~(X)の化合物の塩は、遊離化合物を適切な溶媒(例えば、アセトン、メチルエチルケトン又はメチルイソブチルケトンのようなケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン又はジオキサンのようなエーテル、塩化メチレン又はクロロホルムなどの塩素化炭化水素、若しくはメタノール、エタノール又はイソプロパノールなどの低分子量脂肪族アルコール)に溶解する(前記溶媒が所望の酸又は塩基を含むか、又は、次いで前記溶媒に所望の酸又は塩基を添加する)ことによって得ることができる。酸又は塩基は、一塩基性又は多塩基性の酸又は塩基が関与するかどうか、またどの塩が所望であるかに応じて、等モル量比又はそれとは異なる量比で、塩の調製に用いることができる。塩は、濾過、再沈殿、塩の非溶媒による沈殿、又は溶媒の蒸発によって得られる。得られた塩を遊離化合物に変換することができ、それを今度は塩に変換することができる。このようにして、薬学的に許容されない塩(例えば、産業規模での製造におけるプロセス生成物として得ることができるもの)を、当業者に公知の方法によって、薬学的に許容される塩に変換することができる。
【0056】
本明細書中に引用された全ての参考文献は、各参考文献が参照により組み込まれると具体的かつ個々に示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。いかなる参考文献の引用も、出願日前のその開示についてのものであり、先行発明であるとの理由でそのような参考文献に本開示が先行すると認められないことの自認と解釈されるべきではない。
【0057】
上記の各々の要素、又は2つ以上の要素が一緒になって、上記のタイプとは異なる他のタイプの方法においても、有用な用途を見出す場合があることが理解されよう。さらに分析せずとも、前述のことは、本開示の要旨を十分明らかにしているので、現在の知識を適用することにより、先行技術の観点から、添付の特許請求の範囲に記載された本開示の一般的な、又は特定の態様の必須の特性をかなり構成する特徴を省略することなく、他者がそれを種々の用途に容易に適合させることができる。前述の実施形態は単なる例示として提示されている。本開示の範囲は、下記の特許請求の範囲のみによって限定されるものである。
【0058】
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