(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】育毛剤、並びにε‐ポリリジンおよび/またはシャクヤク抽出物の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 8/88 20060101AFI20220428BHJP
A61K 8/42 20060101ALI20220428BHJP
A61K 8/97 20170101ALI20220428BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
A61K8/88
A61K8/42
A61K8/97
A61Q7/00
(21)【出願番号】P 2016070627
(22)【出願日】2016-03-31
【審査請求日】2019-02-07
【審判番号】
【審判請求日】2020-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000112266
【氏名又は名称】ピアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】特許業務法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萬本 詩理
(72)【発明者】
【氏名】畑中 聖加
(72)【発明者】
【氏名】篠原 誠治
(72)【発明者】
【氏名】藤原 茂久
(72)【発明者】
【氏名】濱田 和彦
【合議体】
【審判長】森井 隆信
【審判官】冨永 みどり
【審判官】進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-108065(JP,A)
【文献】特開2012-121856(JP,A)
【文献】特開2006-347959(JP,A)
【文献】特表2008-540348(JP,A)
【文献】特表2014-510042(JP,A)
【文献】特表2005-521672(JP,A)
【文献】Oceanic Laboratorium Farmaceutyczno Kosmetyczne, Poland, Eyelash Enhancing serum, Mintel GNPD [online], 2015年10月, [検索日:2020年4月9日], <URL; https://www.mintel.com>)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
育毛のためにアンジオゲニンの産生を促進する
ための有効成分として、ε‐ポリリジンを含有する、育毛剤。
【請求項2】
育毛のためにVEGFの産生を促進する
ための有効成分として、シャクヤク抽出物、ビマトプロストの少なくともいずれか一方を
さらに含有する、請求項1に記載の育毛剤。
【請求項3】
前記ε‐ポリリジンを、0.0001重量%以上含む、請求項1に記載の育毛剤。
【請求項4】
前記シャクヤク抽出物を、0.0001重量%以上含む、請求項2に記載の育毛剤。
【請求項5】
前記ε‐ポリリジンと前記シャクヤク抽出物との重量比は、乾燥物換算で2.5:7.5~9:1である、請求項2または4に記載の育毛剤。
【請求項6】
クスノハガシワ抽出物と、アロエベラ抽出物とを、さらに含む、請求項1~5の何れかに記載の育毛剤。
【請求項7】
アンジオゲニンの産生を促進する
ための、ε‐ポリリジンの使用。
【請求項8】
アンジオゲニンおよびVEGFの産生を促進する
ための、ε‐ポリリジンおよびシャクヤク抽出物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛成長を有効に促進する成分を含む育毛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
米国のAllergan(アラーガン)社が緑内障の処置用に開発したLumigan(登録商標)点眼液について、下記特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1において、Lumigan点眼液には、睫毛の成長を促進させるのに有効であるBimatoprost(ビマトプロスト)が含まれることが見出されている。
【0004】
ビマトプロストは、哺乳動物において毛成長を刺激する医薬組成物として知られている。また、睫毛の外観の相違を引き起こす能力、移行領域での軟毛又は中間毛から硬毛への転換を刺激する能力、及び皮膚上の軟毛の成長を刺激する能力は、ビマトプロストが毛成長の刺激に多様な効果を持つ有効な薬剤であることを示している。
【0005】
そして、Lumigan点眼液を使用した患者の睫毛が伸びるという事例から、アラーガン社は、Lumigan点眼液に含まれる育毛成分(ビマトプロスト)を応用し、睫毛貧毛症治療薬として、Latisse(登録商標)(ラティース(登録商標))を開発し、米国で、LATISSE (bimatoprost ophthalmic solution) 0.03%として、日本で、グラッシュビスタ(登録商標)外用液剤0.03%5mLとして開発した。
【0006】
また、ビマトプロストは、プロスタグランジン構造類似体であり、睫毛の毛包に作用し、毛周期における成長期を延長することにより、睫毛の成長を促進させると考えられている(非特許文献1)。
【0007】
さらに、ビマトプロストは、睫毛の毛包のみならず、頭髪の毛包にも作用し、毛成長を促進させることがわかっている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2005‐521672号公報
【文献】特開2006‐347959号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Tauchi M, et al.:Br J Dermatol., 2010;162, 1186‐1197.
【文献】Karzan G.Khindhir et al.:FASEB J.,2013:27(2), 557‐567.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1、非特許文献1及び非特許文献2において、上述のように、ビマトプロストは、睫毛及び頭髪の毛包に作用し、毛周期における成長期を延長させる作用を有することで、毛成長を促進させるのに有効であることが知られている。しかしながら、ビマトプロストが毛成長を促進させる詳細な育毛作用機序については全く知られていない。したがって、ビマトプロストの詳細な育毛作用機序の解明が望まれている。
【0011】
そこで、発明者らは、斯かる実情に鑑み、ラティース(ビマトプロスト)の育毛作用機序について、サイトカイン抗体アレイ法を用いて解析を行った。
【0012】
より具体的には、サイトカイン抗体アレイ法を用いて、約120種のサイトカインの中から、ラティース(ビマトプロスト)添加により産生量が変化するサイトカインを解析した。その結果、ビマトプロストが、特定のサイトカインのうち、血管新生因子の一種であるアンジオゲニンの産生を促進することを見出した。
【0013】
また、発明者らは、ビマトプロストによって産生量が変化するサイトカインについて、ELISA(Enzyme‐Linked ImmunoSorbent Assay)法で確認したところ、同じく血管新生因子であるVEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)の産生量が増加することを見出した。ビマトプロストの育毛作用機序の解析結果から、ビマトプロスト添加により、アンジオゲニン、VEGFが増加することで、毛成長(例えば、長さ、太さ等)を促進することが考えられた。
【0014】
そして、発明者らは、それらのサイトカイン(アンジオゲニン、VEGF)の産生を促進する物質をスクリーニングし、アンジオゲニン、VEGFの産生を促進する物質として、新たな知見を得た。すなわち、発明者らは、100種以上の素材についてスクリーニングを実施し、アンジオゲニン、VEGFの最も高い産生促進作用を持つものを見出した。
【0015】
本発明は、アンジオゲニンの産生を促進する成分を含むことで、毛成長を有効に促進する育毛剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の育毛剤は、アンジオゲニンの産生を促進する成分を含むことを特徴とする。
【0017】
上記構成の育毛剤によれば、アンジオゲニンの産生を促進する成分を含むため、アンジオゲニンの産生を促進する成分が、アンジオゲニンの産生を促進することにより、血管新生因子の一種であるアンジオゲニンが毛細血管の血流を促進し、毛成長を有効に促進することができる。
【0018】
本発明の一態様として、前記アンジオゲニンの産生を促進する成分は、ε‐ポリリジンを含む、のが好ましい。
【0019】
上記構成の育毛剤によれば、アンジオゲニンの産生を促進する成分として、ε‐ポリリジンを含むため、ε‐ポリリジンが、アンジオゲニンの産生を促進することにより、血管新生因子の一種であるアンジオゲニンが毛細血管の血流を促進し、毛成長を有効に促進することができる。
【0020】
本発明の他態様として、VEGFの産生を促進する成分をさらに含む、のが好ましい。
【0021】
上記構成の育毛剤によれば、VEGFの産生を促進する成分をさらに含むため、VEGFの産生を促進する成分が、VEGFの産生を促進することにより、血管新生因子の一種であるVEGFが毛細血管の血流を促進し、毛成長をさらにより有効に促進することができる。
【0022】
本発明のさらに他の態様として、前記VEGFの産生を促進する成分は、シャクヤク抽出物を含む、のが好ましい。
【0023】
上記構成の育毛剤によれば、VEGFの産生を促進する成分として、シャクヤク抽出物を含むため、シャクヤク抽出物が、VEGFの産生を促進することにより、血管新生因子の一種であるVEGFが毛細血管の血流を促進し、毛成長をさらにより有効に促進することができる。
【0024】
本発明のさらに別の態様として、前記ε‐ポリリジンを、0.0001重量%以上含む、のが好ましい。
【0025】
上記構成の育毛剤によれば、ε‐ポリリジンを、0.0001重量%以上含むため、0.0001重量%といった微量で、毛成長をさらにより有効に促進することができる。
【0026】
本発明のさらに別の態様として、前記シャクヤク抽出物を、0.0001重量%以上含む、のが好ましい。
【0027】
上記構成の育毛剤によれば、シャクヤク抽出物を、0.0001重量%以上含むため、0.0001重量%といった微量で、毛成長をさらにより有効に促進することができる。
【0028】
本発明のさらに別の態様として、前記ε‐ポリリジンと前記シャクヤク抽出物との重量比は、乾燥物換算で2.5:7.5~9:1である、のが好ましい。
【0029】
上記構成の育毛剤によれば、ε‐ポリリジンとシャクヤク抽出物との重量比が、乾燥物換算で2.5:7.5~9:1である場合に、例えば、ヒト頭髪毛乳頭細胞の増殖を促進し、細胞数を相乗的に増加させることにより、毛成長をさらにより有効に促進することができる。
【0030】
本発明のさらに別の態様として、クスノハガシワ抽出物と、アロエベラ抽出物とを、さらに含む、のが好ましい。
【0031】
クスノハガシワ抽出物と、アロエベラ抽出物とは、養毛に有効であることが知られている(特許文献2)。上記構成の育毛剤によれば、クスノハガシワ抽出物と、アロエベラ抽出物とを、さらに含むため、育毛成分としてε‐ポリリジン、シャクヤク抽出物のみを含む場合に比し、毛成長をさらにより有効に促進することができる。
【発明の効果】
【0032】
以上のように、本発明によれば、毛成長を有効に促進する育毛剤を提供することができる、といった優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施形態に係る育毛剤の成分を用いて培養したヒト頭髪毛乳頭細胞の細胞数(比率)を示すグラフである。
【
図2】本発明の一実施形態に係る育毛剤の成分を用いて培養したヒト頭髪毛乳頭細胞の細胞数(比率)を示すグラフである。
【
図3】本発明の一実施形態に係る育毛剤の成分を用いて培養したヒト頭髪毛乳頭細胞の細胞数(比率)を示すグラフである。
【
図4】本発明の一実施形態に係る育毛剤の睫毛伸長作用の著効例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0035】
本実施形態に係る育毛剤は、毛成長を有効に促進するためのものである。
【0036】
発明者らは、上述のように、アンジオゲニンの産生を促進する成分に関する新たな知見を得た。本実施形態に係る育毛剤は、アンジオゲニンの産生を促進する成分を含むことを特徴とする。
【0037】
アンジオゲニンは、ヒト結腸癌(HT‐29細胞株)から単離され、血管新生を促進する活性を有するタンパク質として同定された。その後、アンジオゲニンは、血清中、及び乳中にも存在することが確認されており、血管内皮細胞培養系にて、DNA合成を促進する活性、及び血管内皮細胞の管腔形成を促進する活性を有し、さらに、リボヌクレアーゼ(RNase)活性を有することが明らかとなっている。
【0038】
本実施形態において、アンジオゲニンの産生を促進する成分は、ε‐ポリリジンを含む。
【0039】
ε‐ポリリジンとは、L又はD‐リシンのα‐カルボキシル基とε‐アミノ基がアミド結合してなるアミノ酸ポリマーである。
【0040】
本実施形態で用いられるε‐ポリリジンは、有機合成法又は微生物を用いた発酵法のいずれの方法で得られたものでもよく、例えば、特許第1245361号公報に記載されているStreptomyces albulus又はその亜種をグルコース及び無機塩からなる培地にて培養し、その培養液から分離することで得られる。
【0041】
本実施形態において、ε‐ポリリジンは遊離のものを用いてもよく、塩酸、硫酸、及びリン酸などの無機酸とε‐ポリリジンとで形成されるε‐ポリリジンの無機酸塩、酢酸、プロピオン酸、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、マレイン酸、アジピン酸、グルコン酸、及び乳酸などの有機酸とε‐ポリリジンとで形成されるε‐ポリリジンの有機酸塩、カプロン酸、ラウリン酸、及びステアリン酸などの中鎖及び長鎖の飽和脂肪酸とε‐ポリリジンとで形成されるε‐ポリリジンの飽和脂肪酸塩、並びにオレイン酸、リノール酸、及びアラキドン酸などの中鎖及び長鎖の不飽和脂肪酸とε‐ポリリジンとで形成されるε‐ポリリジンの不飽和脂肪酸塩などを用いてもよく、これらの混合物でもよい。
【0042】
ポリリジンはこの他、合成法によるα‐ポリリジンも使用できるが、本目的にはε‐ポリリジンを用いるのが安全性の面から好ましい。又、ε‐ポリリジンは、該ポリリジン製剤又は化粧料組成物の剤型・形態により乾燥、濃縮、もしくは希釈等を任意に行い調製すればよい。
【0043】
なお、前記ε‐ポリリジンとしては、例えば、化粧料等の原料として市販されているものを用いることができる。
【0044】
本実施形態において、VEGFの産生を促進する成分をさらに含む。
【0045】
VEGFは、血管内皮細胞増殖因子ともよばれ、脈管形成及び血管新生に関与する一群の糖タンパク質である。VEGFは、主に血管内皮細胞表面にある血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)にリガンドとして結合し、血管内皮細胞の増殖、遊走、分化の促進、微小血管の血管透過性の亢進、単球・マクロファージの活性化等に関与する。
【0046】
本実施形態において、VEGFの産生を促進する成分は、シャクヤク抽出物を含む。
【0047】
シャクヤク(芍薬)(学名 Paeonia lactiflora)は、ボタン科の多年草であり、シャクヤク又は近縁植物の根は、消炎・鎮痛・抗菌・止血・抗けいれん作用等を有する生薬である。
【0048】
本実施形態で用いられるシャクヤクの使用部位は花、葉、茎、根など特に限定されるものではないが、根が特に好ましい。
【0049】
本実施形態で用いられるシャクヤク抽出物は、シャクヤクの粉砕物を、常温又は加温下で溶媒により抽出するか、又は、ソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得られる各種溶媒抽出液、その希釈液、その濃縮液、あるいはその乾燥末等のものである。
【0050】
抽出に用いる溶媒としては、通常の植物の抽出に用いられる溶媒であれば任意に用いることができる。例えば、水、メタノール、エタノール、プロピレングリコール、1,3‐ブチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、含水アルコール類、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン等の有機溶媒類等であり、それらは、単独あるいは組み合わせて用いることができる。
【0051】
本実施形態において、育毛剤は、ε‐ポリリジンを、0.0001重量%以上含む。好ましくは、育毛剤は、ε‐ポリリジンを、0.0005重量%以上含む。より好ましくは、育毛剤は、ε‐ポリリジンを、0.001重量%以上含む。
【0052】
本実施形態において、育毛剤は、シャクヤク抽出物を、0.0001重量%以上含む。好ましくは、育毛剤は、シャクヤク抽出物を、0.0005重量%以上含む。より好ましくは、育毛剤は、シャクヤク抽出物を、0.001重量%以上含む。
【0053】
本実施形態において、ε‐ポリリジンとシャクヤク抽出物との重量比は特に限定されるものではないが、重量比が、乾燥物換算で2.5:7.5~9:1であることが好ましい。
【0054】
クスノハガシワ抽出物と、アロエベラ抽出物とは、養毛に有効であることが知られている(特許文献2)。そこで、発明者らは、クスノハガシワ抽出物及びアロエベラ抽出物に、本実施形態に係るε‐ポリリジン及びシャクヤク抽出物を添加したものを、育毛剤として使用することを考えた。
【0055】
本実施形態において、育毛剤は、クスノハガシワ抽出物と、アロエベラ抽出物とを、さらに含む。
【0056】
本発明の育毛剤中には、一般に化粧料で用いられ、あるいは医薬部外品、医薬品等の育毛剤に用いられる各種任意成分を必要に応じて適宜配合することができる。このような任意成分として、例えば、精製水、エタノール、油性成分、保湿剤、増粘剤、防腐剤、乳化剤、薬効成分、粉体、紫外線吸収剤、色素、香料、乳化安定剤等を挙げることができる。
【0057】
また、本発明の育毛剤の形態は、液状、乳液、軟膏、クリーム、ゲル、エアゾール等外皮に適用可能な性状のものであれば問われるものではなく、必要に応じて適宜基剤成分等を配合して所望の形態の育毛剤を調製することができ、医薬品、医薬部外品又は化粧品等の多様な分野において適用可能である。
【0058】
本発明の育毛剤は、脱毛の治療や予防に用いることが可能であり、例えば、男性性脱毛症の治療や予防、女性に多いびまん性脱毛症の治療や予防、円形脱毛症の治療等に広く用いることができる。なお、ここに示した脱毛疾患名は例示であり、これらの脱毛疾患に本発明の育毛剤の適用可能な疾患が限定されるものではない。さらに、本発明の育毛剤は、睫毛の育毛用として使用できる他、眉毛や頭髪の育毛用としても使用することができる。
【実施例】
【0059】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
<ラティース(ビマトプロスト)の育毛作用機序の解析>
【0061】
(サイトカイン抗体アレイ法によるスクリーニング実験)
発明者らは、ラティース(ビマトプロスト)の育毛作用機序について、サイトカイン抗体アレイ法を用いて解析を行った。
【0062】
より具体的には、サイトカイン抗体アレイ法を用いて、ラティース(ビマトプロスト)によって産生量が変化するサイトカインのスクリーニング実験を行った。約120種類のサイトカインの中から、ラティース(ビマトプロスト)添加により産生量が変化するサイトカインを解析した。
【0063】
サイトカイン抗体アレイ法は、マルチプレックスサンドイッチELISA技術をベースにした定量可能な抗体アレイ(Antibody Array)法であり、少ない試料容量で多数のサイトカインの定量を一度に行える技術である。
【0064】
(サイトカイン抗体アレイ法による測定)
まず、ヒト頭髪毛乳頭細胞(東洋紡株式会社製(CA60205a))を、毛乳頭細胞培養培地PCGM(東洋紡株式会社製(TMTPGM‐250))を用いて培養した。培養細胞を、サブカルチャー試薬セット(東洋紡株式会社製(CA090K))を用いて回収し、回収した細胞を、12wellマイクロプレートに1.0×105個/wellで播種し、PCGM培地で72時間培養した。1.0体積%のラティースを含むPCGM培地に交換して、さらに24時間培養した。
【0065】
培養上清を回収し、得られた培養上清中の各種サイトカインを、Human Cytokine Antibody Array G Series(RayBiotech社製)を用いて検出した。その結果を表1に示す。なお、アンジオゲニンの蛍光強度は、ポジティブコントロールの蛍光強度を1とした場合の値(比率)で示した。
【0066】
【0067】
表1の結果より、ラティース(ビマトプロスト)添加により産生量が変化するサイトカインとして、血管新生因子の一種であるアンジオゲニンの産生量が増加していることが分かった。
【0068】
(ELISA法によるスクリーニング実験)
発明者らは、ラティース(ビマトプロスト)によって産生量が変化するサイトカインについて、ELISA法で確認した。
【0069】
(ELISA法による測定)
ヒト頭髪毛乳頭細胞(東洋紡株式会社製(CA60205a))を、毛乳頭細胞培養培地PCGM(東洋紡株式会社製(TMTPGM‐250))を用いて培養した。培養細胞を、サブカルチャー試薬セット(東洋紡株式会社製(CA090K))を用いて回収し、回収した細胞を、48wellマイクロプレートに2.5×104個/wellで播種し、PCGM培地で72時間培養した。1.0体積%のラティースを含むPCGM培地に交換して、さらに24時間培養した。
【0070】
培養上清を回収し、得られた培養上清中のアンジオゲニン量を、Human ANG Immunoassay(R&Dシステムズ社製)を用いて測定した。その結果を表2に示す。なお、アンジオゲニン産生促進効果は、PCGM培地のみで培養した場合の産生量を100とした場合の値(比率)で示した。
【0071】
【0072】
表2の結果より、ラティース(ビマトプロスト)を添加したPCGM培地で培養したヒト頭髪毛乳頭細胞からのアンジオゲニン産生量は、コントロールに比し、39%増加することが明らかとなった。
【0073】
上記と同様に、得られた培養上清中のVEGF量を、Human VEGF Immunoassay(R&Dシステムズ社製)を用いて測定した。その結果を表3に示す。なお、VEGF産生促進効果は、PCGM培地のみで培養した場合の産生量を100とした場合の値(比率)で示した。
【0074】
【0075】
表3の結果より、ラティース(ビマトプロスト)を添加したPCGM培地で培養したヒト頭髪毛乳頭細胞からのVEGF産生量は、コントロールに比し、16%増加することが明らかとなった。
【0076】
また、表2及び表3の結果から、ラティース(ビマトプロスト)を添加したPCGM培地で培養したヒト頭髪毛乳頭細胞からの、アンジオゲニン及びVEGFの産生量が増加することが明らかとなった。これにより、ラティース(ビマトプロスト)のアンジオゲニン及びVEGFを介した育毛作用機序の一部が明らかとなり、ラティースの有効成分であるビマトプロストは、アンジオゲニン及びVEGFの産生量を増加させることにより、育毛作用に関与している可能性が高い。
【0077】
<ラティース(ビマトプロスト)の育毛作用機序から得られた新育毛理論>
【0078】
(製造例1)
シャクヤク(Paeonia lactiflora)の根の乾燥物100gを粉砕後、1Lの50%エタノールに浸漬し、60~80℃で3日間抽出し、抽出液から溶媒を除去し、5.1gの抽出物を得た。
【0079】
ε‐ポリリジンとしては、「ポリリジン 10」(一丸ファルコス株式会社製)を用いた。
【0080】
(毛乳頭細胞のアンジオゲニン産生能に対するε‐ポリリジンの促進作用)
発明者らは、ヒト頭髪毛乳頭細胞からのアンジオゲニン産生を促進させる作用を確認するために、ビマトプロスト及びε‐ポリリジンの各濃度におけるアンジオゲニン産生量を、以下のように測定した。ヒト頭髪毛乳頭細胞(東洋紡株式会社製(CA60205a))を、毛乳頭細胞培養培地PCGM(東洋紡株式会社製(TMTPGM‐250))を用いて培養した。培養細胞を、サブカルチャー試薬セット(東洋紡株式会社製(CA090K))を用いて回収し、回収した細胞を、48wellマイクロプレートに2.5×104個/wellで播種し、PCGM培地で72時間培養した。
【0081】
乾燥物換算で各濃度(0.0001重量%、0.0005重量%、0.001重量%、0.005重量%及び0.01重量%)のビマトプロスト又はε‐ポリリジンを含むPCGM培地に交換して、さらに24時間培養した。
【0082】
培養上清を回収し、得られた培養上清中のアンジオゲニン量を、Human ANG Immunoassay(R&Dシステムズ社製)を用いて測定した。その結果を表4に示す。なお、アンジオゲニン産生促進効果は、PCGM培地のみで培養した場合(コントロール)の産生量を100とした場合の値(比率)で示した。
【0083】
【0084】
表4の結果から、ビマトプロストは、0.0001重量%の濃度で、132%のアンジオゲニン産生量を示し、0.01重量%の濃度まで、アンジオゲニン産生量を微増させていたのに対して、ε‐ポリリジンは、0.0001重量%の濃度で、146%のアンジオゲニン産生量を示し、0.0005重量%の濃度で、アンジオゲニン産生量を188%まで増加させた。その後、ε‐ポリリジンは、0.001重量%~0.01重量%の濃度において、192%~181%とビマトプロストよりも有意に高いアンジオゲニン産生量を示した。これにより、ε‐ポリリジンは、ビマトプロストに比し、アンジオゲニン産生量を有意に増加させることが明らかとなった。
【0085】
(毛乳頭細胞のVEGF産生能に対するシャクヤク抽出物の促進作用)
発明者らは、ヒト頭髪毛乳頭細胞からのVEGF産生を促進させる作用を確認するために、ビマトプロスト及びシャクヤク抽出物の各濃度におけるVEGF産生量を、以下のように測定した。ヒト頭髪毛乳頭細胞(東洋紡株式会社製(CA60205a))を、毛乳頭細胞培養培地PCGM(東洋紡株式会社製(TMTPGM‐250))を用いて培養した。培養細胞を、サブカルチャー試薬セット(東洋紡株式会社製(CA090K))を用いて回収し、回収した細胞を、48wellマイクロプレートに2.5×104個/wellで播種し、PCGM培地で72時間培養した。
【0086】
乾燥物換算で各濃度(0.0001重量%、0.0005重量%、0.001重量%、0.005重量%及び0.01重量%)のビマトプロスト又はシャクヤク抽出物を含むPCGM培地に交換して、さらに24時間培養した。
【0087】
培養上清を回収し、得られた培養上清中のVEGF量を、Human VEGF Immunoassay(R&Dシステムズ社製)を用いて測定した。その結果を表5に示す。なお、VEGF産生促進効果は、PCGM培地のみで培養した場合(コントロール)の産生量を100とした場合の値(比率)で示した。
【0088】
【0089】
表5の結果から、ビマトプロストは、0.0001重量%の濃度で、105%のVEGF産生量を示し、0.01重量%の濃度まで、VEGF産生量を微増させていたのに対して、シャクヤク抽出物は、0.0001重量%の濃度で、105%のVEGF産生量を示し、0.0005重量%の濃度で、VEGF産生量を119%まで増加させた。その後、シャクヤク抽出物は、0.001重量%~0.01重量%の濃度において、132%~201%とビマトプロストよりも有意に高いVEGF産生量を示した。これにより、シャクヤク抽出物は、ビマトプロストに比し、VEGF産生量を有意に増加させることが明らかとなった。
【0090】
(試験例1)
(ヒト頭髪毛乳頭細胞の増殖に対する作用試験)
ヒト頭髪毛乳頭細胞(東洋紡株式会社製(CA60205a))を、毛乳頭細胞培養培地PCGM(東洋紡株式会社製(TMTPGM‐250))を用いて培養した。培養細胞を、サブカルチャー試薬セット(東洋紡株式会社製(CA090K))を用いて回収し、回収した細胞を、96wellマイクロプレートに2.0×103個/wellで播種し、PCGM培地で24時間培養した。
【0091】
乾燥物換算で合計濃度を0.0001重量%に固定し、ε‐ポリリジン:シャクヤク抽出物=0:10,1:9,2.5:7.5,5:5,7.5:2.5,9:1,10:0となるようなε‐ポリリジン及びシャクヤク抽出物の混合物を含むPCGM培地に交換して、さらに培養を続けた。7日間培養した後、Cell Counting Kit‐8(株式会社同仁化学研究所製(CK04))を用いて、細胞数を測定した。なお、細胞増殖促進効果は、PCGM培地のみで培養した場合(コントロール)の細胞数を100とした場合の値(比率)で示した。
【0092】
試験例1の結果を表6に示し、表6をグラフ化したものを
図1に示す。
【0093】
【0094】
(試験例2)
乾燥物換算での合計濃度0.0001重量%に代えて、乾燥物換算での合計濃度を0.0005重量%とした点以外は、試験例1と同様にして細胞数を測定した。その結果を表7に示し、表7をグラフ化したものを
図2に示す。
【0095】
【0096】
(試験例3)
乾燥物換算での合計濃度0.0001重量%に代えて、乾燥物換算での合計濃度を0.001重量%とした点以外は、試験例1と同様にして細胞数を測定した。その結果を表8に示し、表8をグラフ化したものを
図3に示す。
【0097】
【0098】
表6~表8に明らかなように、乾燥物換算での合計濃度が0.0001重量%、0.0005重量%及び0.001重量%の場合において、ε‐ポリリジン及びシャクヤク抽出物を組み合わせることにより、毛乳頭細胞の増殖が相乗的に促進されることが分かった。
【0099】
<ヒト睫毛に対する作用試験>
そこで、発明者らは、表9に示す処方を用いて、育毛剤(実施例1及び比較例1)を製造し、ヒト睫毛に対する育毛効果確認試験を行った。
【0100】
【0101】
評価対象として、24~39歳の女性21名を、実施例1使用群12名及び比較例1使用群9名に分類した。実施例1又は比較例1を、同型容器(マスカラ型容器)に充填したものを付属のブラシで、12週間、評価対象に、毎朝晩1日2回、睫毛とその根元に塗布させた。そして、以下の評価方法により、評価対象の毛成長促進作用を調べた。
評価方法:1.長さ評価
2.太さ評価
3.アンケート評価
【0102】
1.長さ評価
睫毛の生え際のカーブに合わせて、ほぼ同心円状の睫毛長さ測定目盛りが配置された睫毛スケールを用いて、最長睫毛長さ(mm)を測定した。その結果を表10に示す。
【0103】
【0104】
表10の結果から、比較例1を使用した9名の平均の最長睫毛長さは、7.39mm(0週)から7.86mm(12週)へと0.47mm伸びたのに対して、実施例1を使用した12名の平均の最長睫毛長さは、7.54mm(0週)から8.15mm(12週)へと0.61mm伸びた。したがって、実施例1は、比較例1に比し、睫毛の長さを有意に伸長させることが分かった。
【0105】
上記睫毛スケールによる長さ評価において、著効例として、実施例1使用群12名の中で、実施例1の使用前に最長睫毛の長さが8.0mmであったが、実施例1の使用12週後の最長睫毛の長さが10.5mmと、2.5mm伸長した例もあった(
図4及び表11を参照のこと)。
【0106】
【0107】
2.太さ評価
マイクロスコープで撮影した睫毛の100倍拡大画像より、睫毛の太さが60μmより太い毛(太毛)の割合を太毛率として、睫毛の太毛率を調べた。比較例1の太毛率を100とした時の実施例1の太毛率を、表12に示す。
【0108】
【0109】
表12の結果から、上記評価対象において、実施例1の使用開始時から12週間で、太毛率が100%から126%まで増加した。したがって、実施例1は、睫毛の太毛率を有意に増加させることが分かった。
【0110】
3.アンケート評価
また、使用後に、上記評価対象にアンケートをとり、表13及び表14に記載の各項目について、5段階の評価(有効、やや有効、変化なし、やや悪化、悪化)を行った。その結果を表13及び表14に示す(表中の数字は回答割合(%、小数点第一位四捨五入))。
【0111】
【0112】
【0113】
表13及び表14から明らかなように、実施例1を使用した被験者群では、育毛に関する各項目について有効、あるいはやや有効であったと評価している割合が、比較例1を使用した被験者群に比して顕著に高く、実施例1では、高い育毛効果が見られた。
【0114】
以上のように、本実施形態に係る育毛剤によれば、アンジオゲニンの産生を促進する成分が、アンジオゲニンの産生を促進することにより、血管新生因子の一種であるアンジオゲニンが毛細血管の血流を促進し、毛成長を有効に促進することができる。
【0115】
また、ε‐ポリリジンが、アンジオゲニンの産生を促進することにより、血管新生因子の一種であるアンジオゲニンが毛細血管の血流を促進し、毛成長を有効に促進することができる。
【0116】
また、VEGFの産生を促進する成分が、VEGFの産生を促進することにより、血管新生因子の一種であるVEGFが毛細血管の血流を促進し、毛成長をさらにより有効に促進することができる。
【0117】
また、シャクヤクが、VEGFの産生を促進することにより、血管新生因子の一種であるVEGFが毛細血管の血流を促進し、毛成長をさらにより有効に促進することができる。
【0118】
また、ε‐ポリリジンを、0.0001重量%以上含むため、0.0001重量%といった微量で、毛成長をさらにより有効に促進することができる。
【0119】
また、シャクヤクを、0.0001重量%以上含むため、0.0001重量%といった微量で、毛成長をさらにより有効に促進することができる。
【0120】
また、ε‐ポリリジンとシャクヤク抽出物との重量比が、乾燥物換算で2.5:7.5~9:1である場合に、ヒト頭髪毛乳頭細胞の増殖を促進し、細胞数を有意に増加させることにより、毛成長をさらにより有効に促進することができる。
【0121】
また、クスノハガシワ抽出物と、アロエベラ抽出物とを、さらに含むため、育毛成分としてε‐ポリリジン、シャクヤク抽出物のみを含む場合に比し、毛成長をさらにより有効に促進することができる。
【0122】
以下に、本発明の育毛剤における処方例を示す。
【0123】
(処方例1)
本処方例は、ヘアクリームの処方例であり、その組成は表15の通りである。なお、配合量は重量%である。
【0124】
【0125】
(処方例2)
本処方例は、ヘアローションの処方例であり、その組成は表16の通りである。なお、配合量は重量%である。
【0126】
【0127】
(処方例3)
本処方例は、アイラッシュジェルの処方例であり、その組成は表17の通りである。なお、配合量は重量%である。
【0128】
【0129】
なお、本発明の育毛剤は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更し得ることは勿論のことである。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の育毛剤は、毛成長を有効に促進することができるため、産業上の利用可能性が非常に高い。