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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】太陽電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0216 20140101AFI20220428BHJP
   H01L 31/0236 20060101ALI20220428BHJP
   H01L 31/18 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
H01L31/04 240
H01L31/04 280
H01L31/04 400
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2016170118
(22)【出願日】2016-08-31
(65)【公開番号】P2018037549
(43)【公開日】2018-03-08
【審査請求日】2019-07-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513114571
【氏名又は名称】株式会社マテリアル・コンセプト
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】小池 淳一
(72)【発明者】
【氏名】雑賀 真晃
(72)【発明者】
【氏名】須藤 祐司
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0060917(US,A1)
【文献】特開2002-270869(JP,A)
【文献】特開2013-143433(JP,A)
【文献】特開2014-209598(JP,A)
【文献】特開2014-007382(JP,A)
【文献】G. Poulain et al.,"Characterization of laser-induced damage in silicon solar cells during selective ablation processes",Materials Science and Engineering B,2013年,Vol.178,pp.682-685
【文献】Annerose Knorz et al.,"Selective Laser Ablation of SiNx Layers on Textured Surfaces for Low Temperature Front Side Metallizations",PROGRESS IN PHOTOVOLTAICS: RESEARCH AND APPLICATIONS,2009年,Vol.17,pp.127-136
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/20
Science Direct
Wiley Online Library
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属電極、反射防止膜及び半導体基板を含む太陽電池の製造方法であって、
前記半導体基板の上に反射防止膜を形成する工程と、前記金属電極の形成位置に対応する前記反射防止膜の領域にレーザー光を照射して、前記反射防止膜を部分的に除去する除去工程と、前記金属電極を形成する工程とを含み、
前記除去工程は、波長が380nm以上、500nm以下のレーザー光を照射し、
前記レーザー光は、パルスレーザー光及び連続発振レーザー光であり、
前記太陽電池が、受光面側に形成された前記金属電極の下部と前記基板との間に、前記反射防止膜の存在する部分と存在しない部分とを混在して有しており、前記反射防止膜の存在しない部分の平均面積率は、前記金属電極の下部の面積に対して、27%以上、80%以下であり、
前記半導体基板は、受光面側にピラミッド状のテクスチャ組織が形成されているとともに、前記反射防止膜の存在しない部分において前記テクスチャ組織が破壊された平坦状の形態を示しており、
前記反射防止膜の存在しない平坦状の部分は、その表面の中心線平均粗さ(Ra)が1.5μm以下であり、
前記金属電極の下部側に位置する半導体基板は、結晶質の構造を有する、太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記レーザー光は、出力が5W以上、80W以下である、請求項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記レーザー光は、バルス幅が1ピコ秒以上、50マイクロ秒以下のパルスレーザー光である、請求項またはに記載の太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記レーザー光は、出力密度が0.03mJ/cm以上、20J/cm以下のパルスレーザー光である、請求項のいずれか一項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記除去工程は、前記半導体基板を100℃以上、570℃以下に加熱する、請求項1~4のいずれか一項に記載の太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜を有する太陽電池及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン(Si)等の半導体を基板とする太陽電池セルは、入射光を効率良く基板内部に取り込むために、基板表面に反射防止膜を形成する。反射防止膜には、厚さが100nm程度の窒化珪素(SiN)等を用いるのが一般的である。
【0003】
太陽電池セル表面には、入射光によって基板内部で発電された電力を外部に取り出すための金属配線も形成される。金属配線は、細幅のフィンガー電極と太幅のバス電極とからなり、半導体基板と導通されている必要がある。
【0004】
反射防止膜は、一般的に絶縁性材料であるから、金属配線と半導体基板との電気的導通を確保するために、金属配線が形成される場所に位置する反射防止膜を除去する必要がある。このような反射防止膜を除去する手段としては、レーザー光を照射して除去する方法が報告されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、レーザー光を用いて反射防止膜を除去するとともに、半導体基板における反射防止膜を貫通して形成されたダメージ層を、化学的処理によって除去する方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、レーザー光を利用したドライエッチング工程で反射防止膜をエッチングし、その際にシリコン基板のエミッタ部に形成される損傷層をウェットエッチング工程で除去する方法が説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-050925号公報
【文献】特開2013-526053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これまで報告されてきた方法は、反射防止膜を除去する際に、基板のpn接合構造が回復不可能な損傷を受けるため、太陽電池の変換効率が劣化するという問題があった。そのため、反射防止膜の一部を除去し、その場所に金属配線を形成しても、発電効率の向上が困難であった。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、反射防止膜の除去処理に際して基板のpn接合構造の損傷を防止し、良好な変換効率を有する太陽電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、配線形成部の反射防止膜において除去された部分がどのような構造的特徴を有するかを検討するとともに、その構造を実現するために必要なレーザー光の条件およびレーザー光による反射防止膜の除去条件について鋭意検討し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明の以下のようなものを提供する。
【0011】
(1)本発明は、金属電極、反射防止膜及び半導体基板を含む太陽電池であって、受光面側に形成された前記金属電極の下部と前記基板との間に、前記反射防止膜の存在する部分と存在しない部分とを混在して有しており、前記反射防止膜の存在しない部分の平均面積率は、前記金属電極の下部の面積に対して、10%以上、80%以下である、太陽電池である。
【0012】
(2)本発明は、前記反射防止膜の存在しない部分は、その表面の中心線平均粗さ(Ra)が1.5μm以下である、(1)に記載の太陽電池である。
【0013】
(3)本発明は、前記金属電極の下部側に位置する半導体基板は、結晶質の構造を有する、(1)または(2)に記載の太陽電池である。
【0014】
(4)本発明は、金属電極、反射防止膜及び半導体基板を含む太陽電池の製造方法であって、前記半導体基板の上に反射防止膜を形成する工程と、前記金属電極の形成位置に対応する前記反射防止膜の領域にレーザー光を照射して、前記反射防止膜を部分的に除去する除去工程と、前記金属電極を形成する工程とを含み、前記除去工程は、波長が380nm以上、500nm以下のレーザー光を照射する、太陽電池の製造方法である。
【0015】
(5)本発明は、前記レーザー光は、出力が5W以上、80W以下である、(4)に記載の太陽電池の製造方法である。
【0016】
(6)本発明は、前記レーザー光は、バルス幅が1ピコ秒以上、50マイクロ秒以下のパルスレーザー光である、(4)または(5)に記載の太陽電池の製造方法である。
【0017】
(7)本発明は、前記レーザー光は、出力密度が0.03mJ/cm以上、20J/cm以下のパルスレーザー光である、(4)~(6)のいずれかに記載の太陽電池の製造方法である。
【0018】
(8)本発明は、前記レーザー光は、パルスレーザー光及び連続発振レーザー光である、(4)~(7)のいずれかに記載の太陽電池の製造方法である。
【0019】
(9)本発明は、前記除去工程は、前記半導体基板を100℃以上、570℃以下に加熱する、(4)~(8)のいずれかに記載の太陽電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、反射防止膜の除去処理に際して基板のpn接合構造の損傷を防止することができるので、良好な変換効率を有する太陽電池及びその製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例におけるサンプル表面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を示す図である。(a)は、レーザー光照射前のサンプル表面を示す図であり、(b)は、レーザー光照射後のサンプル表面を示す図である。
図2】反射防止膜が除去された領域を、FIBにより加工した断面のSEM写真を示す図である。
図3】反射防止膜が除去された領域の断面の透過電子顕微鏡写真を示す図である。
図4】反射防止膜が除去された領域の断面を模式的に示す図である。
図5】レーザーで反射防止膜が除去されたサンプルの暗電流(I)と電圧(V)の関係を説明するための図である。
図6】パルスレーザー光の出力密度を変化させて照射したときのサンプル表面のSEM写真を示す図である。(a)は、出力密度が0.55J/cm、(b)が0.61J/cm、(c)が0.76J/cm)で照射したときの図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明する。本発明は、以下の実施
形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて
実施することができる。
【0023】
(太陽電池)
本実施形態に係る太陽電池は、金属電極、反射防止膜及び半導体基板を含み、受光面側に形成された前記金属電極の下部と前記基板との間には、前記反射防止膜の存在する部分および存在しない部分が混在して有しており、前記反射防止膜が存在しない部分の平均面積率は、前記金属電極下部の面積のうち、10%以上、80%以下である。
【0024】
太陽電池の最大出力(Pmax)を開放電圧(Voc)と短絡電流(Isc)との積で除した値は、曲線因子(フィルファクター、FF)と呼ばれ、式で表すと、FF=Pmax/(Voc×Isc)である。FFが大きい太陽電池は、多くの電力を取り出すことができる。本実施形態に係る太陽電池は、半導体基板の受光面側に反射防止膜が形成されており、金属電極の形成場所を反射防止膜が部分的に除去された位置に金属電極が形成される。金属電極下部の面積のうち、反射防止膜の存在しない部分の面積率が10%未満であると、金属電極と半導体基板との接触抵抗率が増大し、直列抵抗が過度に高くなるため、十分なFFが得られない。他方で、上記の面積率が80%を超えると、反射防止膜を大きな面積で除去するに伴って半導体基板のダメージが過度に大きくなるため、Vocが低下する。そのため、金属電極の下部の面積のうち、上記の反射防止膜が存在しない部分の面積率を10%以上、80%以下とすることにより、太陽電池特性が顕著に劣化することなく、金属電極とシリコン基板との良好な接触状態を得ることができる。当該面積率の下限は、20%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましい。当該面積率の上限は、70%以下がより好ましく、60%以下がさらに好ましい。
【0025】
金属電極であるバス電極やフィンガー電極の下部に対応する場所に位置する反射防止膜を選択して除去することができる。フィンガー電極の下部に対応する場所に位置する反射防止膜を除去する場合は、バス電極に対応する反射防止膜の除去に比べて、Vocの増加を抑えられる効果があるから、フィンガー電極下部の反射防止膜だけを除去してもよい。
【0026】
反射防止膜は、半導体基板の表面におけるキャリアの再結合を抑制するとともに、入射光の反射を低減して半導体基板への光の入射量を増加させるために設けられるものである。本実施形態に係る太陽電池は、反射防止膜として、窒化ケイ素(SiN)、酸化ケイ素(SiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al)などの材料を使用することができる。
【0027】
半導体基板は、単結晶シリコン基板または多結晶シリコン基板を用いることができる。シリコン基板にホウ素の(B)等のアクセブター型不純物をドーピングしたp型シリコン基板や、リン(P)等のドナー型不純物をドーピングしたn型シリコン基板を用いてもよい。シリコン以外の他の半導体物質からなる基板であってもよい。
【0028】
本実施形態に係る太陽電池は、前記反射防止膜が存在しない領域の表面の中心線平均粗さ(Ra)が1.5μm以下であることが好ましい。本明細書における「中心線」は、断面の表面部において、中心線の上部に含まれる凸部の面積と凹部の面積とが約10%以下の誤差で等しい直線をいうものとする。
【0029】
太陽電池は、入射光の反射を抑制するために、通常、基板表面をアルカリ溶液でエッチングすることにより、高さが3~5μm程度のピラミッド状のテクスチャ組織が形成されている。反射防止膜の存在しない領域に形成される金属電極は、当該テクスチャ組織の表面に沿って形成される。そのため、上記のような表面粗さの比較的大きいテクスチャ組織が存在すると、金属電極と基板との密着性が良好でなく、界面接触抵抗の増加を招く可能性がある。これに対して、反射防止膜の存在しない領域の表面を、中心線平均粗さ(Ra)が1.5μm以下の平坦状となるように形成すると、金属電極は、シリコン基板の上に連続的に接合して良好な密着性を有するため、界面接触抵抗が低減して、FFを向上させることができる。
【0030】
本実施形態に係る太陽電池は、前記金属電極の下部側に位置する半導体基板は、結晶質の構造であることが好ましい
【0031】
レーザー光照射などの方法により金属電極の下部側に位置する反射防止膜の部分を除去した場合、そのときの処理条件によっては、さらに下部に位置する半導体基板の表面部は、非晶質構造に変化することがある。基板表面に非晶質構造が存在すると、太陽光によって生成されたキャリアの寿命と易動度が悪化し、太陽電池の多くの特性因子が劣化する。そのため、金属電極の下部側に位置する半導体基板が結晶質構造を保持することは、太陽電池の特性因子の劣化を抑制できる点で好ましい。
【0032】
(太陽電池の製造方法)
本実施形態に係る金属電極、反射防止膜及び半導体基板を含む太陽電池の製造方法は、前記半導体基板の上に反射防止膜を形成する工程と、前記金属電極の形成位置に対応する前記反射防止膜の領域にレーザー光を照射して、前記反射防止膜を部分的に除去する除去工程と、前記金属電極を形成する工程とを含む。
【0033】
上記の反射防止膜を部分的に除去する工程は、波長が380nm以上、500nm以下のレーザー光を用いて、所定の領域に当該レーザー光を照射することが好ましい。
【0034】
光子のエネルギー(単位:eV)は、「1240/波長(nm)」の式によって求められる。例えば、波長が380nm以上、500nm以下である光子のエネルギーは、2.48eV以上、3.1eV以下に相当する。その一方で、室温における物質のバンドギャップエネルギーは、シリコン(Si)において1.1eV、反射防止膜に用いられるSiNにおいて5.2eV、SiOにおいて8.9eV、ZnOにおいて3.4eVなどのレベルにある。そのため、本発明に係る太陽電池の製造方法で用いられるレーザー光は、反射防止膜(SiN)に吸収されず、シリコンにのみ吸収される。
【0035】
また、380nm以上、500nm以下の波長領域におけるシリコンの吸収係数は、1×10/cm~1×10/cmの範囲にある。そのため、シリコンは、効率的にレーザー光を吸収して加熱され、反射防止膜を分解除去することができる。波長が380nm未満であると、光子のエネルギーが大きすぎて、シリコンが過度のダメージを受ける。波長が500nmを超えると、光子のエネルギーが小さいため、シリコンが十分に加熱されず、反射防止膜の分解除去が困難である。以上のことから、反射防止膜の除去に用いられるレーザー光の波長は、その下限が380nm以上が好ましく、400nm以上がより好ましい。当該波長の上限は、500nm以下が好ましく、480nm以下がより好ましい。
【0036】
本実施形態で用いられるレーザー光の出力は、5W以上、80W以下であることが好ましい。
【0037】
レーザー光の出力は、5W未満であると、光子エネルギーがシリコン基板に吸収されて基板が加熱されても、自然冷却による温度低下が顕著となるため、反射防止膜の分解除去が困難である。その一方で、レーザー光の出力が80Wを超える範囲では、レーザー光が照射された領域の周辺まで広範囲にわたってシリコン基板が加熱されるため、シリコン基板が融解する可能性がある。シリコン基板の融解が生じると、金属電極の下部側周辺の基板表面におけるテクスチャ組織が破壊されることにより、反射率の増大を招くとともに、pn接合構造がダメージを受けることにより、太陽電池特性の低下を招く。そのため、反射防止膜の除去に用いられるレーザー光の出力は、その下限については、5W以上が好ましく、10W以上がより好ましい。その上限については、80W以下が好ましく、50W以下がより好ましい。
【0038】
本実施形態に係る太陽電池の製造方法は、レーザー光のパルス幅が1ピコ秒(ps)以上、50マイクロ秒(μs)以下のパルスレーザー光を用いることが好ましい
【0039】
パルスレーザー光のパルス幅が5ps未満であると、レーザー光の出力を前記の範囲内で一定に保持したとしても、レーザー照射時間の増加にともない、シリコン基板に蓄積される熱エネルギーが増加し続けて、基板の熱的状態が安定しないため、反射防止膜を再現性良く除去することが困難である。
【0040】
パルスレーザー光のパルス幅が50μsを超える範囲では、レーザー光出力が大きいときは、シリコン基板が過度に加熱されて、テクスチャ組織の破壊やpn接合の損傷(ダメージ)を招く恐れがある。その一方で、レーザー光出力が小さいときは、シリコン基板が充分に加熱されないため、反射防止膜の除去が困難である。このように、パルス幅が50μsを超えると、その出力条件に依存して相反する作用が発現するため、最適なプロセス条件の範囲が非常に狭くなり、量産時の歩留まりを悪化させる原因となる。よって、反射防止膜の除去工程は、パルス幅が1ps以上、50μs以下のパルスレーザー光を用いて、反射防止膜を除去することが好ましい。
【0041】
本実施形態で用いられるレーザー光は、出力密度が0.03mJ/cm以上、20J/cm以下のパルスレーザー光であることが好ましい。
【0042】
パルスレーザー光の出力密度が0.03mJ/cm未満であると、シリコン基板に投入される熱量が小さく、シリコン基板の温度が十分に上昇しないため、反射防止膜を分解除去することが困難である。他方で、当該出力密度が20J/cmを超えると、シリコン基板の温度が過度に上昇して、反射防止膜の除去範囲を制御するのが困難になるため、好ましくない。
【0043】
異なるテクスチャ組織を有する種々のシリコン基板において、良好な変換効率を得るためには、パルスレーザー光の出力密度の下限は、0.03mJ/cm以上が好ましく、0.05mJ/cm以上がより好ましい。当該出力密度の上限は、20J/cm以下が好ましく、より好ましくは、10J/cm以下、0.5J/cm以下である。
【0044】
本実施形態に係る製造方法は、反射防止膜の除去工程において、パルスレーザー光及び連続発振レーザーを照射することが好ましい。
【0045】
パルスレーザー光と連続発振(CW)レーザー光を同時に照射することにより、シリコン基板を局所的に安定した高温に維持することができる。そのため、パルスレーザー光が照射されて加熱された基板部分は、非晶質構造に変化させるような急冷状態を避けることができ、良好な結晶質構造を有する基板が得られる。
【0046】
本実施形態に係る製造方法は、反射防止膜の除去工程において、半導体基板を100℃以上、570℃以下に加熱することが好ましい。
【0047】
シリコン基板の温度が100℃未満であると、レーザー光を照射した部分と照射しない部分との温度差が拡大し、熱応力の発生によって基板に割れが生じる恐れがある。また、前記温度が570℃以上であると、セル裏面に形成されたアルミニウム(Al)電極とシリコン基板との共晶反応温度が577℃であるため、Al電極の融解が生じたり、シリコン基板中にAlが過度に拡散することにより、太陽電池特性の劣化を招く。
【実施例
【0048】
以下に実施例を挙げて、本発明についてさらに詳細に説明する。本発明は、これらの実施例により制限されるものではない。まず、反射防止膜として、プラズマ支援型化学気相成長(PECVD)法によって形成された窒化珪素(SiN)膜を用いた実施例について説明する。
【0049】
(実施例1)
シリコン太陽電池セルを次のように作製した。シリコン基板の受光面側に、KOH溶液による異方性化学エッチングで高さが3~5μmのピラミッド状のテクスチャを形成した。その上にPECVD法で厚さ80nmのSiN層(反射防止膜)を形成した。また、受光面の反対側に、AlペーストとAgペーストをスクリーン印刷し、大気中800℃において5秒の焼成を行って裏面電極を形成した。
【0050】
次に、上記の作製されたセルを、280℃に加熱されたホットプレート上に配置し、受光面側のSiN層に対して、予め設定したパターンに沿ってレーザー光を走査した。走査したパターンは、後工程で形成されるフィンガー電極と同じパターンを用いた。レーザー光の直径は40μmとし、レーザー光の走査速度は100μm/分で行った。レーザー光の波長は450nmとし、出力が8WのCWレーザー光と30Wのパルスレーザー光とを重ね合わせて照射した。パルスレーザー光のパルス幅は10μsとし、周波数を1kHzで行った。
【0051】
これらの条件でレーザー光によるSiN層の除去を行った。その後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、シリコン基板表面におけるレーザー光が照射された部分と照射しない部分の各組織を観察した。さらに、X線エネルギー分光装置(EDS)により、上記の各部分における組成分析を行い、SiN層の分布を調べた。
【0052】
SEMによる観察結果を図1の(a)、(b)に示す。図1(a)は、レーザー光が照射されていない部分の基板表面であり、テクスチャ組織を有するシリコン基板表面が示されていた。「×」で表示されたレーザー光の未照射領域1においてEDS分析を行った。当該EDS分析によると、この領域1にはSiN層が形成されていたことを確認できた。
【0053】
図1(b)は、レーザー光が照射された部分の基板表面であり、テクスチャ組織の一部が破壊された形態を示していた。「○」(白丸)で表示されたレーザー光の照射領域2をEDS分析した。当該EDS分析によると、この領域2にはSiN層が除去されてシリコン基板が露出していた。同様な観察を、レーザー光が照射された部分の合計5か所で行い、SiN層が除去された領域の面積比率を測定し、平均面積比率を算出した。この測定結果によると、当該各部分の面積比率は、21%、23%、35%、39%、41%であったので、平均面積比率は、約32%であった。
【0054】
面積比率の測定方法は、次のとおりである。SEMによって撮影した画像において、SiN層が除去された領域を目視で決定した後、その画像を印刷した。印刷された画像において当該除去された領域を黒色で色塗りを行った後、それをスキャンして明暗を二値化した電子データを作成した。その後、画像処理ソフトImage Jを用いて、上記の2値化データから黒色部分の面積比率を得た。
【0055】
次に、SiN層が除去された部分(以下、「SiN除去部」ということもある。)の断面を観察するために、集束イオンビーム顕微鏡(FIB)を用いてサンプルを加工し、断面を作製した。具体的には、サンプル表面に5kVのGaイオンを照射して穴を掘り、垂直な壁(断面)を形成した。FIBに付属するSEMにより当該断面の表面部を観察し、当該表面部の凹凸状態を調べた。その代表的なSEM画像の写真を図2に示す。
【0056】
図2に示す断面について、SiNが除去された部分におけるシリコン表面の中心線平均粗さ(Ra)を測定した。同様の観察を合計5か所で行い、Raを測定した。その平均を算出すると、約0.6μmであった。
【0057】
Raの測定方法は、次のとおりである。SEM画像の表面部において、ほぼ平行に直線を引き、直線の上部に含まれる凸部の面積と凹部の面積とが約10%以下の誤差で等しくなるように当該直線の位置を微調整して、中心線を得る。次に、中心線で分けられた凸部の面積(A1)及び凹部の面積(A2)、中心線の凸部の全長(L1)及び凹部の全長(L2)を得る。Raは、(A1/L1+A2/L2)÷2により求められる。
【0058】
さらに、FIBを用いて断面の薄片サンプルを作製した。FIB加工に先立ってSiN層表面を金(Au)でコーティングすることで観察中のチャージアップ効果を抑制するとともに、FIB加工部をカーボン膜でコーティングすることでFIB加工中にサンプル表面が除去されることを防止した。透過電子顕微鏡(TEM)により、当該サンプルを観察した結果を図3に示す。シリコンの表面近傍部分において点欠陥の集合体や転位などの格子欠陥は観察されなかった。図3において白抜きの矢印で示すように、黒い線状のコントラスト(ベンドコントアー)3が現れており、基板は、SiN層の下地の単結晶構造が表面まで連続した構造を有していることを確認できた。
【0059】
図4は、図3で観察された断面の構造を模式的に示したものである。シリコン基板の表面に形成されたテクスチャ―組織の上に反射防止膜のSiN膜が配置している。その上に、Auコーティングとカーボンコーティングが形成されている。
【0060】
図1(a)、(b)、図2図3に示した組織を有するサンプル表面に、スパッタ法でバリア層を形成し、銅ペーストをスクリーン印刷法で塗布した後に、焼成して配線を作製した。バリア層、銅ペースト、および焼成方法については、本出願人による特許第5598739号ならびに特許第5735093号に記載したものと同様の条件、方法を用いた。具体的には、Mn層を8nm形成してバリア層とし、銅ペーストを印刷した後に350℃にて5分の酸化焼成を行い、さらに450℃で5分の還元焼成を行った。酸化時の雰囲気は、Ar+1%Oであり、還元時の雰囲気は、Ar+5%Hであった。このサンプルのダイオード特性を評価するために、水銀プローブを受光面と裏面に接触し、暗電流―電圧関係を測定した。その結果を図5に示す。上記の作製されたサンプルは、図5中の「Condition F,G,H」に相当する。それぞれのサンプルは、パルスレーザー光の出力条件を変えて作製し、Fが20W、Gが25W、Hが30Wの各パルスレーザー光が照射された。
【0061】
図5中において「比較試料」の曲線は、フォトリソグラフ法によってSiN層を除去し、バリア層と銅ペースト電極を形成し、変換効率が19%を示したサンプルの測定結果である。上記の作製されたサンプル(Condition F,G,H)は、比較試料と同等の電気特性が得られており、レーザー光照射によってシリコン基板のpn接合がダメージを受けていないことが分かる。そして、これらのサンプルにバリア層と銅配線を形成して変換効率を測定した。その結果は、15~18.5%の範囲であった。
【0062】
パルスレーザー光の出力密度(J/cm)を変化させて、SiN層の除去を行ったサンプルのSEMで観察した結果を、図6の(a)、(b)、(c)に示す。図6(a)が0.55J/cm図6(b)が0.61J/cm図6(c)が0.76J/cmの出力密度でパルスレーザー光を照射したものである。
【0063】
いずれの出力密度においても、テクスチャ表面には、白いコントラストを有する部分とそれ以外の灰色のコントラストを有する部分が観察された。EDSで分析した結果によると、前者の白色コントラスト部分は、SiN層が除去され、Si表面が露出していた。後者の灰色コントラスト部分は、SiOが形成されていた。また、ピラミッド状のテクスチャ組織の谷部分が深く抉られており、その傾向は、出力密度の増加とともに顕著であった。
【0064】
また、これらのサンプルにバリア層と銅配線を形成して暗電流-電圧関係を測定した。順方向バイアス(図5における正電圧の領域)においては、小さい電流値を示し、測定された変換効率は、10~14%の範囲であった。
【0065】
(実施例2)
実施例1で使用したシリコン太陽電池セルのサンプルと同様に、シリコン基板の受光面側には、KOH溶液による異方性化学エッチングで高さが3~5μmのピラミッド状のテクスチャを形成した。その上にPECVD法で厚さ80nmのSiN層を形成した。また、受光面の反対側には、AlペーストとAgペーストをスクリーン印刷し、大気中800℃において5秒の焼成を行って裏面電極を形成した。
【0066】
次に、上記のセルを280℃に加熱されたホットプレート上に配置し、受光面側のSiN層に対して、予め設定したパターンに沿ってパルスレーザー光を走査した。走査したパターンは、後工程で形成されるフィンガー電極と同じパターンを用いた。レーザー光の直径は40μmとし、レーザー光の波長は450nmで行った。パルスレーザー光のパルス幅、出力密度、走査速度を変えることにより、図1(b)に「○」(白丸)で表示されたレーザー光の照射領域2におけるSiN除去部の平均面積率を変えることができた。このようにして作製したサンプルにバリア層と銅配線を形成し、太陽電池特性である曲線因子(FF)、開放電圧(Voc)、表面抵抗(Rs)を測定した。代表的な結果を表1に示す。
【0067】
表1によると、SiN除去部の平均面積率が10%以上であると、FFが75%以上を示した。また、当該平均面積率が80%を超えると、Vocが630mV未満に低下した。高いVocを維持するためには、当該平均面積率が80%以下であることが必要であった。このように、SiN除去部の面積率は、10%以上、80%以下であることが、FF及びVocの観点から好ましいことを確認できた。
【0068】
【表1】
【0069】
また、SiN除去部をFIBで断面加工し、図2に示したような組織観察を行って、表面の中心線平均粗さ(Ra)を測定した。同じ条件で作製したサンプルを用いて、バリア層と銅配線を形成し、伝送長法(通称TLM法、Transfer Length Method)によって界面接触抵抗率を、テープテストによって配線の基板との密着強度を評価した。テープテストでは、粘着テープ(商品名3Mスコッチテープ)を配線上部に貼りつけて指で強くこすって密着し、テープを引き剥がすときに、銅配線が基板から剥離したか否かを評価した。剥離しなかったときを「良好」、剥離したときを「不適」と評価した。これらの測定結果を表2に示す。
【0070】
表2に示すように、Raが1.5μm以下であるとき、界面接触抵抗は、0.3mΩcm以下であり、テープテストによる配線の密着性が優れていた。この結果によると、Raが1.5μm以下であると、太陽電池特性が良好であることを確認できた。
【0071】
【表2】
【0072】
(実施例3)
実施例1で使用したシリコン太陽電池セルのサンプルと同様に、シリコン基板の受光面に、KOH溶液による異方性化学エッチングで高さが3~5μmのピラミッド状のテクスチャを形成した。その上にPECVD法で厚さ80nmのSiN層を形成した。また、受光面の反対側に、AlペーストとAgペーストをスクリーン印刷し、大気中800℃において5秒の焼成を行って裏面電極を形成した。
【0073】
次に、上記のセルを280℃に加熱されたホットプレート上に配置し、受光面側のSiN層に対して予め設定したパターンに沿ってパルスレーザー光を走査した。走査したパターンは後工程で形成されるフィンガー電極と同じパターンを用いた。レーザー光の直径は40μmとし、レーザー光の走査速度は100μm/分で行った。出力を30Wに揃えた種々のレーザー光源を用いて波長を変化させて、SiN層の除去を行った。さらに、SiN層除去部にバリア層を形成し、銅配線を形成した後に、太陽電池特性を測定した。得られた結果を表3に示す。
【0074】
表3に示すように、波長が380nm未満であると、Vocが630mV未満と低下した。シリコン基板がダメージを受けてキャリアが再結合したと考えられる。他方で、波長が500nmを超えると、Rsが3mΩを超過し、高抵抗層が残留していることを示した。ここでは、パルスレーザー光の事例を示したが、CWレーザー光を用いても同様の結果が得られた。これらの結果から、レーザー光の波長は、380nm以上、500nm以下であると、良好な太陽電池特性が得られた。
【0075】
【表3】
【0076】
(実施例4)
実施例1で使用したシリコン太陽電池セルのサンプルと同様に、シリコン基板の受光面に、KOH溶液による異方性化学エッチングで高さが3~5μmのピラミッド状のテクスチャを形成した。その上にPECVD法で厚さ80nmのSiN層を形成した。また、受光面の反対側に、AlペーストとAgペーストをスクリーン印刷し、大気中800℃において5秒の焼成を行って裏面電極を形成した。
【0077】
次に、上記のセルの受光面側のSiN層に対して予め設定したパターンに沿ってパルスレーザー光を走査した。走査したパターンは後工程で形成されるフィンガー電極と同じパターンを用いた。レーザー光の直径は40μmとし、レーザー光の走査速度は100μm/分で行った。パルスレーザー光およびCWレーザー光の各波長を450nmとし、出力を1Wから100Wの範囲で変化させて、両方のレーザー光を同時に照射した。また、パルス幅は0.1psから100μsの範囲で変化した。さらにパルスレーザー光の出力密度は0.01mJ/cmから3J/cmの範囲で変化した。また、基板温度を室温から600℃まで変化した。
【0078】
上記の実施条件において、レーザー光の出力が5W以上80W未満であるとき、パルス幅が1ps以上50μm未満であるとき、出力密度が0.03mJ/cm以上20J/cm未満であるときに、変換効率が15~18.5%であり、従来の銀ペーストのファイヤースルー法で金属配線を形成したセルと同等の性能を得ることができた。
【0079】
また、基板100℃以上570℃未満に加熱すると、レーザー加工の際に基板が割れることなく、また裏面のAl電極が溶けることなく、反射防止膜を除去でき、このセルの変換効率を測定した結果は、約18%であった。
【0080】
上記では、反射防止膜としてPECVD法によって形成されたSiN膜を用いた場合を示した。SiNと同等の性能を有する絶縁材料であれば、同等の結果が得られる。本実施例で得られた結果は、SiNに限定されず、酸化物、炭化物などの他の反射防止膜においても同様の結果が得られる。
【符号の説明】
【0081】
1 レーザー光の未照射領域
2 レーザー光の照射領域
3 ベンドコントアー
図1
図2
図3
図4
図5
図6