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特許7064831マルチビーム描画装置においてパターン露光密度の変化により生じるパターン位置決めエラーの補償方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】マルチビーム描画装置においてパターン露光密度の変化により生じるパターン位置決めエラーの補償方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20220428BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
H01L21/30 541D
G03F7/20 521
G03F7/20 504
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2017114947
(22)【出願日】2017-06-12
(65)【公開番号】P2017224818
(43)【公開日】2017-12-21
【審査請求日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】16174185.5
(32)【優先日】2016-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509316578
【氏名又は名称】アイエムエス ナノファブリケーション ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(74)【代理人】
【識別番号】100119415
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 充
(72)【発明者】
【氏名】エルマー プラツグマー
【審査官】菅原 拓路
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-006992(JP,A)
【文献】特開2011-108968(JP,A)
【文献】特開平09-045602(JP,A)
【文献】特開平05-082426(JP,A)
【文献】特開2012-015246(JP,A)
【文献】特開2016-018995(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0320226(US,A1)
【文献】特開2016-174152(JP,A)
【文献】特開2015-228501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
H01J 37/317
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子マルチビーム露光装置においてターゲット上でのパターンの描画中のパターン位置決めエラーの補償方法であって、
複数のビームフィールドフレームを荷電粒子のビームを用いて露光することによってレイアウトが生成され、該ビームフィールドフレームはターゲット上のピクセルの2次元配置を表しかつ所与の時系列で描画されるものであり、
各ビームフィールドフレームはターゲット上に公称位置を有し、各ビームフィールドフレームにおいて各ピクセルは相対公称位置及び露光値を有し、
各ビームフィールドフレームに対し、それぞれのビームフィールドフレームにおけるピクセルの露光値の平均として、ローカルパターン密度値が定義され、該ローカルパターン密度はそれぞれのビームフィールドフレームを露光する際にターゲットに対し与えられる露光線量を定義し、かくしてビームフィールドフレーム(複数)の時系列に基づき時間の関数としてローカルパターン密度推移(evolution)を生成し、
ターゲット上でのビームフィールドフレーム(複数)の描画中、それらの実際の位置は、露光装置内におけるビルドアップ効果の結果としての位置決めエラーによって、それぞれの公称位置から逸れ、
該位置決めエラーはビームフィールドフレーム(複数)の夫々の描画時間中ローカルパターン密度推移に依存するものであり、
該方法は、以下のステップ:
・ローカルパターン密度と時間の関数として位置決めエラーの予測値を記述するための予め設定される変位挙動モデルのパラメータを設定すること、
・一連のビームフィールドフレームを提供し、該ビームフィールドフレームの描画時間を規定すること、
・前記一連のビームフィールドフレーム及び関連する描画時間に関するローカルパターン密度推移を決定すること、
・ローカルパターン密度推移及び前記変位挙動モデルに基づきビームフィールドフレーム(複数)についての位置決めエラーの値を予測すること、
・ビームフィールドフレームの各々について、それぞれのビームフィールドフレームについての位置決めエラーの夫々の予測値を用いて、位置決めエラーを補償するために夫々のビームフィールドフレームの位置を再配置すること、
を含む、
方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
ローカルパターン密度推移を決定するステップにおいて、一連の後続する期間(intervals)が規定され、各期間は複数のビームフィールドフレームの描画の時間を含み、該期間の各々に対し、代表的ローカルパターン密度が、それぞれの期間に含まれるそれぞれの複数のビームフィールドフレームから決定される、
方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記変位挙動モデルのパラメータは露光装置において実行されるインサイチュビーム位置測定によってその較正手順の一部として決定され、及び、該インサイチュビーム位置測定から得られる結果からそれぞれのパラメータが計算される、
方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の方法において、
変位挙動モデルのパラメータは露光装置において一連のテスト描画プロセスを実行することにより設定され、
該テスト描画プロセスは異なる値のローカルパターン密度を有するテストパターン(複数)の一連の露光を実行し、
各テスト描画プロセスにおいて、位置決めエラーの値が時間及び/又はローカルパターン密度の関数として測定され、及び、
パラメータは該テスト描画プロセス中に得られる位置決めエラーの値から計算される、
方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、
前記露光装置における一連のテスト描画プロセス中に、ビーム較正ターゲット(86)が使用され、該ビーム較正ターゲットは当該ビーム較正ターゲット上の定義された位置(複数)に配された複数の位置マーカー構造体を含む、
方法。
【請求項6】
請求項4に記載の方法において、
前記露光装置内における一連のテスト描画プロセス中に、マスク計測ターゲットが使用され、該マスク計測ターゲットは、規則的な配列で配置された複数のマーカーが配された表面を有する、
方法。
【請求項7】
請求項1~6の何れかに記載の方法において、
前記変位挙動モデルは、位置決めエラーの予測値を時間、現在のビームフィールドフレームのローカルパターン密度値、並びに時間及び先行するビームフィールドフレーム(複数)のローカルパターン密度値に依存する数式として記述する、
方法。
【請求項8】
請求項1~6の何れかに記載の方法において、
前記変位挙動モデルは、位置決めエラーの予測値を予め設定される期間の時間ウインドウ内における時間、現在のビームフィールドフレームのローカルパターン密度値、並びに時間及び先行するビームフィールドフレーム(複数)のローカルパターン密度値に依存する数式として記述する、
方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の方法において、
前記数式は、現在のビームフィールドフレームのローカルパターン密度値に依存する時定数ベース値と、先行するビームフィールドフレーム(複数)のローカルパターン密度値に依存しかつ時間の崩壊関数D(X,t)を含む少なくとも1つの崩壊関数期間との和、但し、
からなる、
但し、fはローカルパターン密度の関数としての変位の最終値であり、崩壊関数Dはスタート値(X)からの崩壊を時間(t)の関数として記述し、Dは減少する指数関数(e-t/τ)、それぞれの基準時間に対する時間の逆関数((t-t-1,(t-t-n)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるものとする、
方法。
【請求項10】
請求項7~9の何れかに記載の方法において、
前記数式は、各露光時点(t)に対し、先行する時点(複数)のローカルパターン密度の値と先行する時点(複数)について計算された状態関数の関数として計算される状態関数(φ(t))の関数、即ち、
として表される、
但し、関数f()は変位挙動を状態関数の関数として記述し、関数g()は状態関数の時間推移をローカルパターン密度の関数として又はローカルパターン密度とその時間導関数の関数として記述する、
方法。
【請求項11】
請求項1~10の何れかに記載の方法において、
荷電粒子のビームにおける電流変化(複数)に起因するビルドアップ効果が前記変位挙動モデルにおいて考慮され、該電流変化は装置及び基板の少なくとも1つの構成要素の時間的に変化する荷電を引き起こす、
方法。
【請求項12】
請求項1~11の何れかに記載の方法において、
時間的に変化する加熱及びその結果として生じる装置及び基板の少なくとも1つの構成要素の熱的機械的変形に起因するビルドアップ効果が、変位挙動モデルにおいて考慮される、
方法。
【請求項13】
請求項1~12の何れかに記載の方法において、
ローカルパターン密度推移は、一連のビームフィールドフレーム(複数)及び関連する描画時間に含まれるデータ、即ち当該一連のビームフィールドフレームに所望のパターンを定義するデータを計算するために役立つデータパスから得られるデータ、から決定される、
方法。
【請求項14】
請求項1~13の何れかに記載の方法において、
ローカルパターン密度推移は、露光装置に設けられるセンサ装置によって提供される、実際のローカルパターン密度の一連の測定から決定される、
方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、
センサ装置は、ターゲットに到達する電流(d2)の測定装置又はターゲットからの荷電粒子の後方散乱の検出器である、
方法。
【請求項16】
請求項14に記載の方法において、
センサ装置は、荷電粒子のビームのターゲットに到達しない部分の測定装置(d1)又はブランキングされたビーム部分のためのストッププレート(11)に接続された電流検出器である、
方法。
【請求項17】
請求項1~16の何れかに記載の方法において、更に以下のステップ、
所望の再配置距離に従ってターゲット上に生成されるようなビームフィールドフレームに対する再配置動作を可能にするビーム偏向装置を提供すること
を含む、
方法。
【請求項18】
請求項1~17の何れかに記載の方法において、
それぞれのビームフィールドフレームの位置を再配置するステップは、位置決めエラーの夫々の予測値の逆向き(inverse)の距離(変位)によって夫々のビームフィールドフレームの位置をシフトすることを含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は欧州特許出願EP16174185.5(2016年6月13日)の優先権主張に基づくものであり、同出願の全記載事項は引用を以って本書に繰り込み記載されているものとする。
本発明は、荷電粒子マルチビーム露光装置においてターゲット上にパターンを描画する際の或る種の改善に関し、より具体的には、荷電粒子マルチビーム露光装置においてターゲット上でのパターンの描画中のパターン位置決め(placement)エラーの補償方法に関し、とりわけ、複数のビームフィールドフレームを荷電粒子のビームを用いて露光することによってレイアウトが生成され、該ビームフィールドフレームはターゲット上のピクセル(複数)の2次元配置を表しかつ所与の時系列で描画されるものであり、各ビームフィールドフレームはターゲット上に公称位置(nominal position)を有し、各ビームフィールドフレームにおいて各ピクセルは相対公称位置を有しかつ露光値を有する、補償方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上述のタイプの方法及びそのような方法を使用する荷電粒子マルチビーム処理装置は従来技術において既知である。とりわけ、本出願人は、荷電粒子光学パターン定義(PD)装置及び該装置で使用されるマルチビーム描画方法に関し本出願人名義の幾つかの特許に記載されているような荷電粒子マルチビーム装置を実現している。例えば、EUVリソグラフィ用のマスクの及びインプリントリソグラフィ用のテンプレート(1×マスク)の、193nm液浸リソグラフィ用の最先端の複合フォトマスクを実現可能にする50keV電子マルチビーム描画機が実現されている。これはeMET(electron Mask Exposure Tool)又はMBMW(multi-beam mask writer)と称され、6”(6インチ)マスクブランク基板の露光のためのものである。更に、PML2(Projection Mask-Less Lithography)とも称されるマルチビームシステムは、シリコンウェハ基板上に電子ビーム直接描画(EBDW)を適用するために実現された。上記のタイプのマルチビーム処理装置は、以下においては、マルチビーム描画機、又は略してMBW、と称する。
【0003】
MBWの典型的な具体例として、本出願人は、基板における81.92μm×81.92μmの寸法のビームアレイフィールド内に512×512(=262,144)本のプログラマブルビームレットを含む20nmのトータルビームサイズを実現する50keV電子描画ツールを実現している。このシステム(以下において「MBMWツール」と称する)では、基板は、典型的には、電子ビーム感応性レジストで被覆された6”マスクブランク(これは6”×6”=152.4mm×152.4mmの面積と6”[1”]/4=6.35mmの厚みを有する)である;更に、マルチビーム描画はレジスト被覆150mmシリコンウェハに対しても可能である。
【0004】
MBMWツールのような典型的なMBWの電流密度は1A/cm以下程度しかない。20nmのビームサイズを使用し、262,144本のプログラマブルビームレットをすべて「オン」にした場合、最大電流は1.05μAである。この具体例では、MBWカラムの1シグマ(σ)ブラー(sigma blur)は、実験的に実証されているように、凡そ5nmである。
【0005】
工業上の応用については、非常に厳しいMBW性能要求が、小さい限界寸法(CD(Critical Dimension);最小特徴サイズとも称される)の達成と高精度のパターン位置決めの達成に関して課されている。本出願人は、10%の均一ローカル(局所的)パターン密度(uniform local pattern density)を有するテストマスクによる描画プロセスのために、1nm未満の3シグマパターン位置決め性能を有するMBWを実現することは可能であった。ここで、用語「ローカル(局所的)パターン密度(local pattern density)」(LPdと略す、より正確な用語は「ローカル(局所的)パターン露光密度(local pattern exposure density)」であるかもしれない)は、関連するビームフィールドフレームにおけるピクセル(複数)の露光値の平均レベルを意味する。なお、LPdは、しばしば、すべてのピクセル(又は所与の最大数のピクセル)が最大露光値に設定されている100%の(仮想)パターンに対する相対値として表される。なお、LPdは、ターゲットに描画されるパターン全体の(グローバルな)パターン密度とは異なることに留意すべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】US6,858,118
【文献】US8,198,601
【文献】US8,222,621
【文献】US7,276,714
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
LPdは、パターンの描画中に大きく変化するが、その理由の一部は、パターン自体が露光されるべきピクセル(複数)の種々異なる密度の領域(複数)を含むからであり、そのため、ビームフィールドフレーム(複数)は、露光される領域に依存して変化するLPdを有することになろうが、その理由の一部は、MBW描画法は、同時に描画されるピクセル(複数)が互いに対し或る距離を置くことにあり、更には時間及び/又はターゲット上の位置の関数として見た場合にピクセル(複数)を描画するビームレット(複数)についてのパターン情報の畳み込みを行う(convolve)ことがある描画方法を伴うからである。従って、現実のパターンが描画される場合、一連のビームフィールドフレームは、しばしばフレーム毎にでさえ(隣り合うフレーム間でさえ)、LPdの大きな変化を伴うであろう。LPdの典型的な変化は、10%~75%の範囲であり得る。勿論、実際の適用に応じて、この範囲の幅はより広くにも、より狭くにもなり得る。
かくて、荷電粒子マルチビーム露光ツール及び該ツールにおいて利用可能な描画方法から出発し、パターン位置決めの際生じる位置合せオフセットを補償するための方策の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、パターンの描画中、ビームフィールド(複数)は、ビームフィールドの公称位置からの小さな位置決めオフセット(placement offset)を以って配置されることを見出した。このオフセットは、位置合せオフセット(registration offset)又はパターン位置決めエラー(pattern placement error)と称される。パターン位置決めエラーの発生は、MBWイメージングシステム内におけるビルドアップ効果(build-up effects)に遡る(由来する)。そのようなビルドアップ効果は、一般的に、ビーム電流(current)変化と基板に対する相対的なビーム位置への関連効果に起因する。とりわけ、ビルドアップ効果は、(ビーム(電子又はイオン)を生成するために使用される粒子の電荷に起因する)電気的負荷、(ブランキング装置内の電流に起因する)磁化又はイメージングシステムのある種の荷電粒子光学素子(例えば静電電極)の熱的機械的変形によって引き起こされ得る。本発明者は、このパターン位置決めエラーは、現在の見方とは異なり、描画プロセス中のLPdの推移ないし展開(evolution)・履歴(history)に依存することに気付いた。更に、本発明者は、位置合せオフセット(即ちパターン位置決めエラー)の挙動をLPd推移の観点から予測可能かつ再現可能な態様で記述することができることを見出した。
【0009】
それゆえ、所望のパターンを生成するために描画されるべきビームフィールドフレーム(複数)の適切なパラメータを考慮することによって位置合せオフセットを補償するための方策を見出すことが本発明の一目的である。
【0010】
本発明の一視点において、荷電粒子マルチビーム露光装置においてターゲット上でのパターンの描画中のパターン位置決めエラーの補償方法が提供される。該補償方法は、複数のビームフィールドフレームを荷電粒子のビームを用いて露光することによってレイアウトが生成され、該ビームフィールドフレームはターゲット上のピクセル(複数)の2次元配置を表しかつ所与の時系列で描画されるものであり、各ビームフィールドフレームはターゲット上に公称位置(nominal position)を有し、各ビームフィールドフレームにおいて各ピクセルは相対公称位置を有しかつ露光値を有する、方法である。
該方法において、ビームフィールドフレームに対して取得されたLPd値に基づき、かくしてビームフィールドフレーム(複数)の時系列に基づき時間の関数としてローカルパターン密度推移(ないし展開:evolution)が生成され、露光装置内において(しばしば、可逆的な)ビルドアップ効果の結果として位置決めエラーに起因するターゲット上でのビームフィールドフレームの描画中のずれ(deviations)を補償するために、本発明の方法は、以下のステップを含む、即ち、
・LPdと時間の関数として位置決めエラーの予測値を記述するための予め設定される変位挙動モデル(displacement behavior model)のパラメータを設定すること、
・一連のビームフィールドフレームを提供すること、
・該ビームフィールドフレームの描画時間を規定すること、
・前記一連のビームフィールドフレーム及び関連する(前記)描画時間に関するローカルパターン密度推移を決定すること、
・ローカルパターン密度推移及び前記変位挙動モデルに基づきビームフィールドフレームについての位置決めエラーの値を予測すること、
・ビームフィールドフレームの各々について及びそれぞれのビームフィールドフレームについての位置決めエラーの夫々の予測値を用いて、位置決めエラーを補償するために夫々のビームフィールドフレームの位置を再配置すること、
を含む。
ここで、各ビームフィールドフレームについて、1つのLPd値が、夫々のビームフィールドフレームにおけるピクセル(複数)の露光値の平均(値)として定義され、該LPd値は夫々のビームフィールドフレームを露光する際にターゲットに与えられる露光量(exposure dose)を定義し、かくして、ビームフィールドフレームの時系列に基づき時間の関数としてローカルパターン密度推移が生成され、ターゲット上でのビームフィールドフレーム(複数)の描画中に、それらの実際の位置は、露光装置内における(静電帯電効果、磁化及び熱的機械的効果のような)ビルドアップ効果の結果としての位置決めエラーによりそれぞれの公称位置(nominal position)からずれる。位置決めエラーは、ビームフィールドフレームの描画中のローカルパターン密度推移に依存する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、位置合せオフセットは描画プロセス中のLPdの推移に依存し、かつ位置合せオフセットの挙動は予測可能かつ再現可能な態様でLPd推移から導き出されるという本発明者によってなされた観察に基づく。実際に、本発明者は、相対位置決めエラーはLPdが長時間不変に維持される場合特有(ないし固有:unique)かつ有限な値に収束すること、及び、この収束は一般的に、時定数に対応するあるパラメータを有する崩壊関数(decay function)に従うこと、を見出した。更に、LPdが変化される場合、結果として生じる相対位置決めエラーの変化を崩壊関数(複数)の適切な組み合わせによって記述することがしばしば可能である。
【0012】
粒子光学システムにおいて再配置機能を実行するための1つの有利なアプローチは、所望の再配置距離に従ってターゲット上に生成されるような(1つの)ビームフィールドフレームに対する再配置動作(action)を可能にするビーム偏向装置を提供する(配する)ことによるものであり得る。
【0013】
とりわけ、位置決めエラーを予測するためのモデルに基づき、それぞれのビームフィールドフレームの位置を再配置するステップは、位置決めエラーの夫々の予測値の逆数(inverse)である距離によって夫々のビームフィールドフレームの位置をシフトすることを含んでもよい。
【0014】
更に、LPd推移が縮小(された)の時点のセット(各時点は一連の後の期間の1つを表す)に対して決定される場合(これらの時点の密度が時間に対するLPdの変化を記述するために十分であると仮定して)、達成される補償の質が過度に低下されない限り(低下されない範囲で)、ローカルパターン密度推移を決定するために、計算量を大きく減少できる。例えば、時間は、各々が複数のビームフィールドフレームの描画の時間(複数)を含む期間(複数:time intervals)に分割される。各期間に対し、1つの「代表的」LPdが、該期間に属するビームフィールドフレーム(複数)のLPd(複数)から決定される。例えば、これは、それぞれの期間における1つのフレーム(例えば最初のフレーム又は最後のフレーム)のローカルパターン密度値を選択することによって、又は、それぞれのタイムスロット(time slot)に属するビームフィールドフレーム(複数)のLPd値(複数)を平均することによって、行ってもよい。通常のかつ単純な選択肢として、期間(複数)は、均一な(同じ大きさの)期間(duration)を有してもよい。
【0015】
例えば、変位挙動モデルのパラメータを露光装置において実行されるインサイチュ(in-situ)ビーム位置測定によってその較正手順の一部として決定すること、及び、該インサイチュビーム位置測定から得られる結果からそれぞれのパラメータを(自動的に)計算することが可能である。ここで測定と関連して使用される用語「インサイチュ(in-situ)」とは、何らかの要素の露光装置への装着(ないし導入)又は露光装置からの除去をすることなく実行される測定プロセスに関するものとして理解されるべきものである。即ち、インサイチュ測定は、装置内に既に存在しているすべての要素をそのままに実行される。
【0016】
他のアプローチとしては、処理(露光)装置(processing apparatus)において一連のテスト描画プロセスを実行することにより変位挙動モデルのパラメータを設定し、該テスト描画プロセスは異なる値のLPdを有するテストパターン(複数)の一連の露光を、好ましくは変化する時系列(sequences in time)で、実行し、各テスト描画プロセスにおいては位置決めエラーの値が時間及び/又はLPdの関数として測定され、及び、パラメータ(複数)は該テスト描画プロセス中に得られる位置決めエラーの値(複数)から計算されることが可能である。
【0017】
多数の例の1つとして、露光装置における一連のテスト描画プロセス中にビーム較正ターゲットを使用してもよく、該ビーム較正ターゲットはターゲット上の定義された位置(複数)に配された複数の位置マーカー構造体を含み、該位置マーカー構造体(複数)及びこれらの位置は従来技術の位置測定方法を用いて検出することができる。これらの位置マーカー構造体は、ビームフィールドの位置、又は所望の公称位置に対し相対的な該ビームフィールド内のビームレットの1又は複数のサブグループの位置の「インサイチュ」測定を可能にする。例えば、ビーム較正ターゲットは、ファラデーカップのような電流測定装置の上方に配置されるアパーチャアレイ即ち金属シャドウマスクとして構成されてもよい。従って、ビーム較正ターゲットをビームフィールド又はビームサブグループ(複数)でスキャンすることによって、電流の値とそれぞれのスキャン位置とを関連付けることにより、それぞれの位置を決定することができる。
【0018】
他の一例として、露光装置における一連のテスト描画プロセス中に、マスク計測(metrology)ターゲットを使用してもよく、該マスク計測ターゲットは、規則的な配列で配置された複数のマーカーが配された表面を有する。これらのマーカーを検出し、それらの位置を測定することにより、これらの測定された位置は、それぞれのマーカーを露光(照射)したビームサブグループ(複数)の位置を決定するために使用することができる。
【0019】
更に、位置決めエラーの予測値を、好ましくは予め設定される期間の時間ウインドウ内における、時間、現在のビームフィールドフレームのローカルパターン密度値、並びに時間及び先行するビームフィールドフレーム(複数)のローカルパターン密度値に依存する数式として記述する変位挙動モデルを使用することも好適であろう。変位挙動モデルのパラメータを計算するために、現在のビームフィールドフレームのローカルパターン密度値に依存する時定数ベース値(time-constant base value)と、先行するビームフィールドフレーム(複数)のローカルパターン密度値に依存しかつ時間の崩壊関数を含む少なくとも1つの崩壊関数期間(decay-function term)との和からなる数式、即ち、
を使用してもよい。ここで、fは、LPdの値についての変位の最終値を表し、D(X,t)は、スタート値(第1独立変数X)からの崩壊を時間(第2独立変数t)の関数として記述する崩壊関数を表す。
【0020】
崩壊関数は、通常、指数関数(e-t/τ、τは較正測定から決定されるべき典型的な時定数)又は指数関数(複数)と異なる典型的時定数(複数)の線形結合に従うことが期待されるが、本出願人は、現実の適用においてはこれ(後者)で十分であることを見出した。尤も、通常は、崩壊関数はより一般的なものであることを除外するものではない。従って、より一般的には、崩壊関数Dは、減少する指数関数(e-t/τ)、それぞれの基準時間に対する時間の逆関数((t-t-1)、1より大きい指数についての時間の逆関数((t-t-n),n>1)又はこれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。
【0021】
或いは、数式は、各露光時点(t)に対し、先行する時点(複数)のローカルパターン密度の値と先行する時点(複数)について計算された状態関数の関数として計算される状態関数(φ(t))の関数、即ち、
として表されてもよい。ここで、関数f()は、変位挙動を状態関数の関数として記述し、関数g()は、状態関数の時間推移(time evolution)をローカルパターン密度、及び適用可能であればその時間導関数、の関数として記述するものである。
【0022】
変位挙動モデルにおいては、荷電粒子のビームにおける電流(current)変化(複数)に起因するビルドアップ効果のような特別のケースが考慮されてもよい。これらの電流(current)変化(複数)は、例えば直接的なビーム相互作用又は粒子の後方散乱又はこの両者によって、(露光)装置及び基板の少なくとも1つの構成要素の時間的に変化する(時変:time-variant)荷電を引き起こす。
【0023】
変位挙動モデルにおいて考慮されるべきビルドアップ効果の他のタイプは、時変加熱及びその結果として生じる(露光)装置及び基板の少なくとも1つの構成要素の熱的機械的変形に起因する効果であり得る。これらの効果は、ローカルパターン密度の変化によって引き起こされるが、更に、熱的機械的変形を介して、基板上における意図しないビームの変位(displacement)を引き起こすであろう。
【0024】
ローカルパターン密度推移を決定するための有利なアプローチの1つは、一連のビームフィールドフレーム(複数)及び関連する描画時間に含まれるデータ、即ち当該一連のビームフィールドフレームに所望のパターンを定義するデータを計算するために役立つデータパスから得られるデータ、に基づく。
【0025】
ローカルパターン密度推移を決定するための他の適切なアプローチは、これは上記のアプローチと代替的に又はこれと組み合わせて実行し得るものであるが、露光装置に設けられるセンサ装置によって提供される、実際のローカルパターン密度の一連の測定を確立する。例えば、センサ装置は、ターゲットに到達する電流の測定装置、好ましくはターゲットからの荷電粒子の後方散乱の検出器であってもよい。センサ装置の構成の他の一例は、荷電粒子のビームのターゲットに到達しない部分を測定するよう構成された測定装置、好ましくはブランキングされたビーム部分のためのストッププレート(stopping plate)に接続された電流検出器である。
【0026】
更に、本発明の方法を実行するための荷電粒子マルチビーム処理装置の多くの有用な実施形態において、ターゲットに所望のパターンを描画するプロセスは、以下のステップ:
・放射に対し透過性の複数のアパーチャを有するパターン定義装置を提供すること、
・パターン定義装置を照明ワイドビームで照明すること、該ビームは前記複数のアパーチャを介して該パターン定義装置を横断し、以って、対応する複数のビームレットからなるパターン化ビームを形成する、
・ターゲットの位置に前記パターン化ビームからパターン像を形成すること、該パターン像は、ターゲット上の複数のパターンピクセルをカバーする前記複数のアパーチャの少なくとも一部の像を含む、及び、
・ターゲットとパターン定義装置の間の相対運動を引き起こし、ビーム露光が実行可能な領域にわたる経路に沿ったターゲット上における前記パターン像のステップ状運動を引き起こし、当該領域における複数のパターンピクセルを露光すること、
を含んでもよい。
【0027】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を付記する。
(形態1)荷電粒子マルチビーム露光装置においてターゲット上でのパターンの描画中のパターン位置決めエラーの補償方法が提供される。
該方法において、複数のビームフィールドフレームを荷電粒子のビームを用いて露光することによってレイアウトが生成され、該ビームフィールドフレームはターゲット上のピクセルの2次元配置を表しかつ所与の時系列で描画されるものであり、
各ビームフィールドフレームはターゲット上に公称位置を有し、各ビームフィールドフレームにおいて各ピクセルは相対公称位置及び露光値を有し、
各ビームフィールドフレームに対し、それぞれのビームフィールドフレームにおけるピクセルの露光値の平均として、ローカルパターン密度値が定義され、該ローカルパターン密度はそれぞれのビームフィールドフレームを露光する際にターゲットに対し与えられる露光線量を定義し、かくしてビームフィールドフレーム(複数)の時系列に基づき時間の関数としてローカルパターン密度推移(evolution)を生成し、
ターゲット上でのビームフィールドフレーム(複数)の描画中、それらの実際の位置は、露光装置内におけるビルドアップ効果の結果としての位置決めエラーによって、それぞれの公称位置から逸れ、
該位置決めエラーはビームフィールドフレーム(複数)の夫々の描画時間中ローカルパターン密度推移に依存するものであり、
該方法は、以下のステップ:
・ローカルパターン密度と時間の関数として位置決めエラーの予測値を記述するための予め設定される変位挙動モデルのパラメータを設定すること、
・一連のビームフィールドフレームを提供し、該ビームフィールドフレームの描画時間を規定すること、
・前記一連のビームフィールドフレーム及び関連する描画時間に関するローカルパターン密度推移を決定すること、
・ローカルパターン密度推移及び前記変位挙動モデルに基づきビームフィールドフレーム(複数)についての位置決めエラーの値を予測すること、
・ビームフィールドフレームの各々について、それぞれのビームフィールドフレームについての位置決めエラーの夫々の予測値を用いて、位置決めエラーを補償するために夫々のビームフィールドフレームの位置を再配置すること、
を含む。
(形態2)上記の補償方法において、ローカルパターン密度推移を決定するステップにおいて、一連の後続する期間(intervals)が規定され、各期間は複数のビームフィールドフレームの描画の時間を含み、該期間の各々に対し、代表的ローカルパターン密度が、それぞれの期間に含まれるそれぞれの複数のビームフィールドフレームから決定されることが好ましい。
(形態3)上記の補償方法において、前記変位挙動モデルのパラメータは露光装置において実行されるインサイチュビーム位置測定によってその較正手順の一部として決定され、及び、該インサイチュビーム位置測定から得られる結果からそれぞれのパラメータが計算されることが好ましい。
(形態4)上記の補償方法において、変位挙動モデルのパラメータは露光装置において一連のテスト描画プロセスを実行することにより設定され、
該テスト描画プロセスは異なる値のローカルパターン密度を有するテストパターン(複数)の一連の露光を実行し、
各テスト描画プロセスにおいて、位置決めエラーの値が時間及び/又はローカルパターン密度の関数として測定され、及び、
パラメータは該テスト描画プロセス中に得られる位置決めエラーの値から計算されることが好ましい。
(形態5)上記の補償方法において、前記露光装置における一連のテスト描画プロセス中に、ビーム較正ターゲットが使用され、該ビーム較正ターゲットは当該ビーム較正ターゲット上の定義された位置(複数)に配された複数の位置マーカー構造体を含むことが好ましい。
(形態6)上記の補償方法において、前記露光装置内における一連のテスト描画プロセス中に、マスク計測ターゲットが使用され、該マスク計測ターゲットは、規則的な配列で配置された複数のマーカーが配された表面を有することが好ましい。
(形態7)上記の補償方法において、前記変位挙動モデルは、位置決めエラーの予測値を時間、現在のビームフィールドフレームのローカルパターン密度値、並びに時間及び先行するビームフィールドフレーム(複数)のローカルパターン密度値に依存する数式として記述することが好ましい。
(形態8)上記の補償方法において、前記変位挙動モデルは、位置決めエラーの予測値を予め設定される期間の時間ウインドウ内における時間、現在のビームフィールドフレームのローカルパターン密度値、並びに時間及び先行するビームフィールドフレーム(複数)のローカルパターン密度値に依存する数式として記述することが好ましい。
(形態)上記の補償方法において、前記数式は、現在のビームフィールドフレームのローカルパターン密度値に依存する時定数ベース値と、先行するビームフィールドフレーム(複数)のローカルパターン密度値に依存しかつ時間の崩壊関数D(X,t)を含む少なくとも1つの崩壊関数期間との和、但し、
からなる、
但し、fはローカルパターン密度の関数としての変位の最終値であり、崩壊関数Dはスタート値(X)からの崩壊を時間(t)の関数として記述し、Dは減少する指数関数(e-t/τ)、それぞれの基準時間に対する時間の逆関数((t-t-1,(t-t-n)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるものとすることが好ましい。
(形態10)上記の補償方法において、前記数式は、各露光時点(t)に対し、先行する時点(複数)のローカルパターン密度の値と先行する時点(複数)について計算された状態関数の関数として計算される状態関数(φ(t))の関数、即ち、
として表される、
但し、関数f()は変位挙動を状態関数の関数として記述し、関数g()は状態関数の時間推移をローカルパターン密度の関数として又はローカルパターン密度とその時間導関数の関数として記述することが好ましい。
(形態11)上記の補償方法において、荷電粒子のビームにおける電流変化(複数)に起因するビルドアップ効果が前記変位挙動モデルにおいて考慮され、該電流変化は装置及び基板の少なくとも1つの構成要素の時間的に変化する荷電を引き起こすことが好ましい。
(形態12)上記の補償方法において、時間的に変化する加熱及びその結果として生じる装置及び基板の少なくとも1つの構成要素の熱的機械的変形に起因するビルドアップ効果が、変位挙動モデルにおいて考慮されることが好ましい。
(形態13)上記の補償方法において、ローカルパターン密度推移は、一連のビームフィールドフレーム(複数)及び関連する描画時間に含まれるデータ、即ち当該一連のビームフィールドフレームに所望のパターンを定義するデータを計算するために役立つデータパスから得られるデータ、から決定されることが好ましい。
(形態14)上記の補償方法において、ローカルパターン密度推移は、露光装置に設けられるセンサ装置によって提供される、実際のローカルパターン密度の一連の測定から決定されることが好ましい。
(形態15)上記の補償方法において、センサ装置は、ターゲットに到達する電流の測定装置又はターゲットからの荷電粒子の後方散乱の検出器であることが好ましい。
(形態16)上記の補償方法において、センサ装置は、荷電粒子のビームのターゲットに到達しない部分の測定装置又はブランキングされたビーム部分のためのストッププレートに接続された電流検出器であることが好ましい。
(形態17)上記の補償方法において、更に以下のステップ、
所望の再配置距離に従ってターゲット上に生成されるようなビームフィールドフレームに対する再配置動作を可能にするビーム偏向装置を提供すること
を含むことが好ましい。
(形態18)上記の補償方法において、それぞれのビームフィールドフレームの位置を再配置するステップは、位置決めエラーの夫々の予測値の逆向き(inverse)の距離(変位)によって夫々のビームフィールドフレームの位置をシフトすることを含むことが好ましい。
以下に、本発明の実施例を図面を参照してより詳細に説明する。なお、特許請求の範囲に付記した図面参照符号は専ら発明の理解を助けるためのものであり、本発明を図示の態様に限定することは意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】従来技術のMBWシステムの一例の縦断面図。
図2】従来技術のPDシステムの一例の縦断面図。
図3】ストライプを使用するターゲットに対する基本的描画ストラテジ。
図4】ターゲットに結像されるアパーチャの配置例。
図5】露光されるべきパターン例のピクセルマップの一例(図5(A)及び(B))。
図6】M=2、N=2でのアパーチャの配置(図6(A));「ダブルグリッド(double grid)」配置におけるピクセルのオーバーサンプリングの一例(図6(B))。
図7】1つのストライプの露光(図7(A));グレーレベルの露光(図7(B))。
図8】本発明に応じて補償されるLPd依存型位置決めエラーを説明するためのパターンレイアウトの一例。
図9】ストライプ露光中の2つの例示的ビームフィールドフレームの位置を示す図8の詳細図。
図10】LPdの関数としての変位Fの典型例。
図11】ビーム変位の時間推移の一例。
図12図11のビーム変位のグラフィカル表示。
図13】MBWのデータパスのフローチャート例。
図14】ストッププレートと関連付けられた電流測定装置を構成する、図1に示したタイプのMBWシステムの一例に応じた投影カラム(projecting column)の下側部分の縦断面図。
図15】基板の上方に配設された後方散乱電子検出装置を構成する、図1に示したタイプのMBWシステムの一例に応じた投影カラムの下側部分の縦断面図。
図16】「インサイチュ」法によるLPd関連変位のモデルを導出するための例示的テストレイアウト。
図17】従来技術のマスク計測法(metrology)によるLPd関連変位のモデルを導出するための他の例示的テストレイアウト。
図18図17の1つのマーカーの詳細図。
図19】ローカルパターン密度が一定に維持されている基準レイアウトの一例。
【実施例
【0029】
以下に幾つかの例示的実施形態(実施例)に基づいて本発明の詳細な説明を与える。なお、本発明は以下に説明する例示的実施形態に限定されるものではなく、これらの例示的実施形態は説明の目的で示したものであり、本発明の現時点において適切な具体化の例(複数)を示しているに過ぎない。具体的には、初めに、マルチビーム描画(MBW:multi-beam writer)ツールの一般的説明と、該ツールにおけるパターンの描画の仕方の説明が提供される(図1図7)。次に、図8図12を参照し、パターン位置決めエラー(位置合せオフセット)の発生及び本発明によって提案されるようなこれらのエラーの補償を、変化するローカルパターン密度を有するパターンの一例に基づいて、説明する。本開示の枠内において、用語「変位(displacement)」及び「位置決めエラー(placement error)」は相互変換可能に(同義に)かつ区別なく使用される。
【0030】
リソグラフィ装置
本発明の好ましい実施形態の実施に好適なリソグラフィ装置の一例の概観を図1に示す。以下においては、本発明の開示に必要な限りでその詳細を示すが、理解の容易化のために、図1にはその各コンポーネントは夫々の寸法通りには(同じ縮尺では)示されていない。リソグラフィ装置1の主要コンポーネントは―この例では図1の紙面上下方向に推移するリソグラフィビームlb、pbの方向に従って―照明システム3、パターン定義(PD:pattern definition)システム4、投影システム5及び基板16を伴うターゲットステーション6である。装置1全体は、装置の光軸cwに沿った荷電粒子のビームlb、pbの妨げのない伝播を確保するために高真空状態に維持される真空室2内に収容される。荷電粒子光学システム3、5は、光学的カラムを形成する静電及び/又は磁気レンズによって実現される。
【0031】
照明システム3は、例えば、電子銃7、抽出(extraction)システム8及びコンデンサレンズシステム9を含む。尤も、電子の代わりに、一般的に、他の荷電粒子も使用可能であることに留意すべきである。電子以外では、これらは、例えば、水素イオン又はより重いイオン、荷電原子クラスタ又は荷電分子とすることができる。
【0032】
抽出システム8は、粒子を典型的には数keV、例えば5keVの所定のエネルギに加速する。コンデンサレンズシステム9は、電子源7から放射された粒子から、リソグラフィビームlbとして作用する幅広の実質的にテレセントリックな粒子ビーム50を形成する。次いで、リソグラフィビームlbは、夫々複数の孔(アパーチャとも称される)を有する複数のプレートを含むPDシステム4を照射する。PDシステム4はリソグラフィビームlbの経路の特定の位置に保持されるが、そのため、リソグラフィビームlbは複数のアパーチャ及び/又は孔を照射して、複数のビームレット(微細ビーム)に分割される。
【0033】
アパーチャ/孔の幾つかは、当該アパーチャ/孔が各アパーチャ/孔を貫通して通過するビームの部分即ちビームレット51がターゲットに到達することを可能にするという意味で入射ビームに対して透過性であるよう「スイッチオン」されておりないし「オープン」の状態にある。他のアパーチャ/孔は「スイッチオフ」ないし「クローズ」されている、即ち、対応するビームレット52はターゲットに到達できない。そのため、実質的に、これらのアパーチャ/孔はビームに対して非透過性(不透明)である。かくして、リソグラフィビームlbは、PDシステム4から出射するパターン化ビームpbに構造化される。スイッチオンされたアパーチャのパターン―リソグラフィビームlbに対して透過性であるPDシステム4の部分のみ―は、荷電粒子感応性レジスト17で被覆された基板16に露光されるべきパターンに応じて選択される。なお、アパーチャ/孔の「スイッチオン/オフ」は通常はPDシステム4のプレートの1つに設けられる適切なタイプの偏向手段によって実現されることに留意すべきである。従って、「スイッチオフ」されたビームレット52は(非常に小さいが十分な角度で)それらの経路から逸らされ、そのため、ターゲットに到達することはできず、専ら、リソグラフィ装置の何れかの部位で、例えば吸収プレート11で吸収される。
【0034】
次に、パターン化ビームpbによって表されるようなパターンは、電磁光学投影システム5によって基板16に投影され、該基板16において、ビームは「スイッチオン」されたアパーチャ及び/又は孔の像を形成(結像)する。投影システム5は、2つのクロスオーバー(交差)c1及びc2を以って例えば200:1の縮小を行う。基板16は、例えば、粒子感応性レジスト層17で被覆された6”マスクブランク又はシリコンウェハである。基板はチャック15によって保持され、ターゲットステーション6の基板ステージ14によって位置決めされる。チャック15はビーム較正ターゲット19も含み、例えば、該ターゲット19は、例えばその上部に金属シャドウマスク(metallic shadow mask)を有するファラデーカップ型の電流検出器として実現することができる。この金属シャドウマスクは、光学測定及び調整目的のために使用される1セットの基準構造体(複数)を含む。
【0035】
露光されるべきパターンに関する情報は、電子パターン情報処理システム18によって実現されるデータパスによってPDシステム4に供給される。データパスについては、以下の「データパス」の項で更に説明する。
【0036】
図1の例では、投影システム5は、好ましくは静電及び/又は磁気レンズを含み、場合によっては他の偏向手段を含む複数の一連の(並置される)電磁光学投影ステージ10a、10b、10cから構成される。これらのレンズ及び手段は、その応用は従来技術において周知であるため、象徴的な形態でのみ図示した。投影システム5は、クロスオーバーc1、c2を介した縮小結像を行う。両者のステージのための縮小倍率は、全体で数百分の1の縮小、例えば200:1縮小が得られるように選択される。このオーダーの縮小は、PD装置の小型化の問題を軽減するために、リソグラフィセットアップについてとりわけ好適である。
【0037】
投影システム5全体で、色収差及び幾何収差に関しレンズ及び/又は偏向手段を大幅に補償する方策が提供される。像を全体として横方向に即ち光軸cwに対し直角をなす方向に沿ってシフトする手段として、偏向手段12a、12b及び12cがコンデンサ[照明システム]3及び投影システム5に配される。偏向手段は、例えば、(図1に偏向手段12aによって示されているような)ソース抽出システム(source extraction system)12a[8]の近く又は図1に偏向手段12bによって示されているような2つのクロスオーバーの一方の近く、又は図1のステージ偏向手段12cと同様に相応の投影機の最終レンズ10cの後方に(下流に)位置付けられるマルチポール(多極)電極システムとして実現されることも可能である。この装置では、マルチポール電極アレンジメントは、ステージ運動に対する像のシフトのためのかつ荷電粒子光学アラインメントシステムと連携した結像システムの修正のための偏向手段として使用される。これらの偏向手段10a、10b、10c[12a、12b、12c]は、ストップ(吸収)プレート11と連携したPDシステム4の偏向アレイ手段と混同すべきではない。後者の偏向手段は、パターン化ビームpbの選択されたビームレットを「オン」又は「オフ」に切り換えるために使用されるものであるのに対し、前者の偏向手段は、単に、粒子ビームを全体として処理するものに過ぎないからである。軸方向(アキシャル)磁界を生成するソレノイド13を用いることによりプログラマブルビームの全体を回転することも可能である。
【0038】
図2の部分詳細図はPDシステム4の好適な実施形態の1つを示す。このPDシステム4は、順次の配置で積み重ねられた3つのプレート、即ち、「アパーチャアレイプレート(Aperture Array Plate)」(AAP)20、「偏向アレイプレート(Deflection Array Plate)」(DAP)30及び「フィールド境界アレイプレート(Field-boundary Array Plate)」(FAP)40を含む。なお、用語「プレート(plate)」は、関連する装置の全体形状に関するものであるが、必ずしも、プレートが単一のプレート要素として実現されていることを、これが通常はその具現化の好ましい態様であるとしても、意味しておらず、寧ろ、ある実施形態では、アパーチャアレイプレートのような「プレート」は複数のサブプレート(sub-plate)から構成可能であることに留意することは重要である。これらのプレート(複数)は、Z方向(図2の鉛直軸ないし紙面上下方向)に沿って所定の相互間隔をなして、互いに対し平行に配置されることが好ましい。
【0039】
AAP20の平坦な上面は、荷電粒子コンデンサ光学系/照明システム3に対する定義された電位(ポテンシャル)インターフェース(defined potential interface)を構成する。AAPは、例えば、肉薄化された中央部分22を有するシリコンウェハ(凡そ1mm厚)21の方形又は矩形片から構成されることも可能である。プレートは、水素又はヘリウムイオンを使用する場合に(US 6,858,118参照)とりわけ有利であるはずの導電性保護膜23で被覆されてもよい。電子又は重イオン(例えばアルゴン又はキセノン)を使用する場合、膜23は、膜23とバルク部分21、22との間に界面(interface)が形成されないように、バルク部分21と22の表面部分によって形成されるシリコンであってもよい。
【0040】
AAP20には、肉薄部分22を横断(貫通)する孔(複数)によって形成される複数のアパーチャ24が設けられる。アパーチャ(複数)24は、肉薄部分22に設けられるアパーチャエリア内に所定の配置で配され、以って、アパーチャアレイ26を形成する。アパーチャアレイ26におけるアパーチャ(複数)の配置は、例えば、ジグザグ(ないし千鳥状:staggered)配置又は規則的な矩形又は方形アレイ(図4参照)とすることも可能である。図示の実施形態では、アパーチャ(複数)24は、膜23に形成されるストレートなプロファイルと、AAP20のバルク層における「レトログレード(先太拡開的:retrograde)」プロファイルを備えて構成され、そのため、孔の下側開口部25はアパーチャ24の主要部における(開口部)よりも幅が広い。このストレートプロファイルとレトログレードプロファイルは何れも反応性イオンエッチングのような従来技術の構造化技術によって製造することができる。レトログレードプロファイルは、孔を貫通通過するビームのミラー帯電効果(mirror charging effects)を大きく減じる。
【0041】
DAP30は複数の孔33が設けられたプレートであり、該プレートにおいて、孔33の位置はAAP20のアパーチャ24の位置に対応し、かつ、孔33には孔33を貫通通過する個々のビームレットを選択的に夫々の経路から逸らすよう構成された電極35、38が配される。DAP30は、例えば、ASIC回路を備えたCMOSウェハの後処理によって製造することができる。また、DAP30は、例えば、方形又は矩形形状を有する一枚のCMOSウェハから作られ、肉薄化された(但し、22の厚みと比べて適切により肉厚であってもよい)中央部分32を保持するフレームを形成する肉厚部分31を含む。中央部分32のアパーチャ孔33は、24と比べて(例えば図示左右方向に凡そ2μmだけ)より幅が広い(径が大きい)。CMOS電子回路(electronics)34は、MEMS技術によって設けられる電極35、38を制御するために配される。各孔33の近くには、「アース(ground)」電極35と偏向電極38が配される。アース電極(複数)35は電気的に相互に接続され、共通のアース電位に接続されると共に、帯電を阻止するためのレトログレード部分36と、CMOS回路への不所望のショートカットを阻止するための絶縁部分37を含む。アース電極35は、シリコンバルク部分31及び32と同じ電位にあるCMOS回路34の部分に接続されてもよい。
【0042】
偏向電極38は静電電位が選択的に印加されるよう構成される;そのような静電電位がある電極38に印加されると、この電極38は対応するビームレットに対し偏向を引き起こす電界を生成し、該ビームレットをその公称経路(nominal path)から逸らすであろう。電極38もまた、帯電を回避するためにレトログレード部分39を有してもよい。電極38の各々はその低い部分(基部)においてCMOS回路34内の対応するコンタクト部位に接続される。
【0043】
アース電極35の高さは、ビームレット間のクロストーク効果を抑制するために、偏向電極38の高さよりも大きい。
【0044】
図2に示したDAP30を有するPDシステム4の配置は種々の可能性のうちの1つに過ぎない。1つのバリエーション(不図示)では、DAPのアース電極35と偏向電極38は、下流側ではなく寧ろ、上流側に配向(紙面上側に指向)されてもよい。更に、例えば埋設されたアース電極及び偏向電極を有するDAP構成も、当業者であれば案出することができる(本出願人名義の他の特許、例えばUS8,198,601B2参照)。
【0045】
FAPとして役立つ第3のプレート40は、下流側で縮小を行う荷電粒子投影光学系5の第1レンズ部分に指向するフラットな面を有し、そのため、投影光学系の第1レンズ10aに対する定義された電位インターフェースを提供する。FAP40の肉厚部分41は、薄肉化された中央部分42を有する、シリコンウェハの一部分から作られる方形又は矩形フレームである。FAP40には、AAP20とDAP30の孔24、33に(位置的に)対応するが、これらと比べて幅が広い複数の孔43が設けられる。
【0046】
PDシステム4は、とりわけその第1プレートであるAAP20は、ブロード荷電粒子ビーム50(ここで、「ブロード(broad)」ビームとは、該ビームがAAPに形成されたアパーチャアレイのエリア全体をカバーするのに十分に幅が広いことを意味する)によって照射される。そのため、該ビーム50は、アパーチャ24を貫通通過すると、千本単位で多数の(many thousands of)マイクロメートルサイズ(径)のビームレット(微細ビーム)51に分割される。ビームレット51は、DAPとFAPを妨げられることなく横断する(通過する)ことができる。
【0047】
既述の通り、偏向電極38がCMOS電子回路によって通電されると、偏向電極と対応するアース電極の間に電界が生じ、通過する対応するビームレット52は僅かであるが十分に偏向される(図2)。偏向されたビームレットは、その太さに比べて孔33及び43の幅が十分に大きいため、DAPとFAPを妨げられることなく横断する(通過する)ことができる。しかしながら、(一部の大きく)偏向されたビームレット52は、カラムのストッププレート11で除去される(図1)。このため、DAPによる影響を受けないビームレット51のみが基板に到達する。
【0048】
荷電粒子縮小光学系5の縮小倍率は、ビームレットの寸法、PD装置4におけるそれらの相互間距離及びターゲットにおける構造の所望の寸法の観点から適切に選択される。これにより、PDシステムにおいてはマイクロメートルサイズのビームレットが得られるのに対し、基板に対してはナノメートルサイズのビームレットを投影(投射)することができる。
【0049】
AAPによって形成される(無影響の)ビームレット51の束(ないし集合:ensemble)は、荷電粒子投影光学系の予め定められた縮小倍率Rで基板に投影(投射)される。その結果、基板に、BX=AX/R及びBY=AY/Rの幅を有する「ビームアレイフィールド(beam array field)」(BAF)が投影される。ここで、AX及びAYは夫々X方向及びY方向に沿ったアパーチャアレイフィールドのサイズを表す。基板におけるビームレット(即ちアパーチャ像)の公称幅(nominal width)は、bX=aX/R及びbY=aY/Rによって与えられる。ここで、aX及びaYは夫々DAP30のレベル(高さ)においてX方向及びY方向に沿って測定されるビームレット51のサイズを表す。従って、ターゲット上に形成される単独のアパーチャ像のサイズはbX×bYである。
【0050】
なお、図2に示した個別ビームレット51、52は、2次元のX-Yアレイに配置された、遥かにより多数のビームレット、典型的には千本単位で多数のビームレットを代表していることに留意することが重要である。本出願人は、例えば、イオンに対する縮小倍率がR=200であるマルチビーム荷電粒子光学系と、千本単位で多数の(例えば262,144本)のプログラマブルビームレットを使用する電子マルチビームカラムを既に実現している。本出願人は、基板における凡そ82μm×82μmのBAFを有するそのようなカラムを既に実現している。これらの実例は、単に、説明の目的のために示したに過ぎず、本発明を限定する例として理解すべきではない。
【0051】
パターン生成
図3によれば、PDシステム4によって定義されるパターン像pmはターゲット16上に生成される。荷電粒子感応性レジスト層17によって被覆されるターゲット面は、露光されるべき1又は2以上のエリアr1を含むであろう。一般的に、ターゲット上に露光されるパターン像pmは、パターン化されるべきエリアr1の幅よりも通常は十分に小さい有限のサイズy0を有する。従って、スキャニングストライプ露光法が使用される。この方法では、ターゲットは、ターゲット上におけるビームの位置が不断に(perpetually)変化されるよう、入射ビーム下で運動される。即ち、ビームはターゲット面で全面的に効率的にスキャンされる。ここで、本発明の目的のためには、ターゲット上におけるパターン像pmの相対運動のみが重要であることを強調しておく。相対運動によって、パターン像pmは、通常一様な幅y0を有する一連のストライプs1,s2,s3,...sn(露光ストライプ又はスキャニングストライプ)が形成されるよう、エリアr1の全面に亘り動かされる(走査される)。スキャニングストライプ(複数)は直に隣り合っていてもよく、或いは、(部分的に)重なり合っていてもよい。スキャニングストライプ(複数)の完全なセットは、基板表面の全エリアをカバーする。スキャニング方向sdは同一であってもよく、或いは、隣り合うストライプ間で互い違い(逆方向)であってもよい。各ストライプは、一連のビームフィールドフレームを含むが、これらの内容及び配列(sequence)は、ターゲット上に露光されるべきパターンに応じて予め決定されている。
【0052】
図5Aは、10×18=180ピクセルのサイズを有する画像化パターンレイアウトpsの単純な一例を示す。この例では、露光領域のあるピクセルp100は、100%のグレーレベル401に露光されており、他のあるピクセルp50は、フルグレーレベルの50%(402)にのみ露光されている。残りのピクセルは、0%線量(dose)403に露光されている(即ち全く露光されていない)。図5Bは、50%レベルの実現の仕方を示す。即ち、各ピクセルは数回露光されるが、0%~100%のグレーレベルを有するピクセルについては、グレーレベルは、活性化される(activated)ピクセルに応じて露光の回数を相応に選択することによって実現される。グレーレベルは、活性化された露光を露光の総数で割った結果(活性化された露光を分子、露光の総数を分母とする分数)である。この例では、50%レベルは、4回のうち2回を選択することにより実現される。勿論、本発明が現実に適用される場合、標準的な像のピクセル数はいっそう多いであろう。しかしながら、図5A及び図5Bでは、ピクセル数は、理解の容易化のために、180しかない。更に、一般的に、一層多くの段階のグレーレベルが0%~100%のスケール内において使用されるであろう。
【0053】
かくして、パターン像pm(図3)は、露光されるべき所望のパターンに応じた線量値(dose values)で露光される複数のパターンピクセルpxから構成される。尤も、PDシステムのアパーチャフィールドにはアパーチャは有限の数しか存在しないため、サブセットのピクセル(複数)pxしか同時に露光できないことに留意すべきである。スイッチオンされるアパーチャ(複数)のパターンは、基板に露光されるべきパターンに応じて選択される。このため、実際のパターンでは、ピクセルのすべてが完全な線量で露光されるのではなく、ピクセルのあるものは実際のパターンに応じて「スイッチオフ」されるであろう。各ピクセルに対し(換言すれば、該ピクセルをカバーする各ビームレットに対し)、ターゲットに露光ないし構造化されるべきパターンに依存して該ピクセルが「スイッチオン」されるか「スイッチオフ」されるかにより、ピクセル露光サイクル毎に、露光線量は変化されることができる。
【0054】
基板16が連続的に動かされる間に、ターゲット上のパターンピクセルpxに応じた同じ像要素が、一連のアパーチャの像(複数)によって複数回カバーされることができる。同時に、PDシステムにおけるパターンは、PDシステムのアパーチャを介して、ステップ毎に(段階的に:step by step)シフトされる。従って、ターゲット上のある位置における1つのピクセルについて考えた場合、すべてのアパーチャが当該ピクセルをカバーしたときにこれらのアパーチャがスイッチオンされるとすれば、露光線量レベルは最大になるであろう。即ち、100%に対応する「ホワイト」シェード(“white”shade:白グレード)が生じるであろう。「ホワイト」シェードに加えて、最小(「ブラック(black)」)露光線量レベルと最大(「ホワイト(white)」)露光線量レベルの間を補間するであろうより低い線量レベル(「グレーシェード(gray shade)」とも称される)に応じてターゲットにおいてピクセルを露光することも可能である。グレーシェードは、例えば、1つのピクセルの描画に関与し得るアパーチャ(複数)のサブセットのみをスイッチオンすることによって実現し得る。例えば、16のアパーチャのうちの4つは、25%のグレーレベルを与えるであろう。他のアプローチは、関係するアパーチャのためのブランキングされない(unblanked)露光の持続時間を減じることである。かくして、1つのアパーチャ像の露光持続時間は、グレースケールコードで、例えば整数で、制御される。露光されるアパーチャ像は、ゼロと最大露光持続時間及び線量レベルに対応する所与の数のグレーシェードの1つの現れである。グレースケールは、通常、グレー値のセット、例えば0,1/(n-1)...i/(n-1),...1(但し、nはグレー値の数、iは整数(「グレーインデックス(gray index)」、0≦i≦n))、を定義する。尤も、一般的には、グレー値は等間隔(equidistant)である必要はなく、0と1の間の非減少的数列(non-decreasing sequence)を形成する。
【0055】
図4は、基本的レイアウトに応じた、PD装置のアパーチャフィールドにおけるアパーチャ(複数)の配置を示し、更に、以下において用いる幾つかの量及び略語も説明する。図示されているのは、ターゲットに投影されるアパーチャ像(複数)b1の配置であり、これは暗いシェード(黒)で示されている。主軸X及びYは、夫々、ターゲット運動の前進の方向(スキャニング方向sd)及び(その)直交方向に対応する。各アパーチャ像は、方向X及びYに沿って夫々幅bX及びbYを有する。アパーチャ(複数)は、夫々MX及びMY(個の)アパーチャを有する横列(即ち行:lines)及び縦列(rows)に沿って配置され、各横列及び各縦列の夫々において隣り合うアパーチャ間のオフセットは夫々NX及びNYである。その結果、各アパーチャ像には、NX・bX・NY・bYの面積を有する観念的なセル(升目:cell)C1が属し、アパーチャアレンジメントは矩形状に配列されたMX・MY(個)のセルを含む。以下において、これらのセルC1は「露光セル(exposure cell)」と称する。ターゲットに投影される完全なアパーチャアレンジメントは、[BX=MX・NX・bX]×[BY=MY・NY・bY]の寸法を有する。以下の説明においては、矩形グリッドの特殊例としての方形グリッドを想定し、b=bX=bY、M=MX=MY及びN=NX=NY、Mは整数とするが、これらはすべて説明を目的としたものであり、発明全体に如何なる限定を付するものではない。かくして、「露光セル」は、ターゲット基板上にN・b×N・bのサイズを有する。
【0056】
隣り合う2つの露光位置間の距離は、以下において、eで表す。一般的に、距離eは、アパーチャ像の公称(nominal)幅bと異なり得る。最も単純な例ではb=eである。これは、2×2露光セルC3の配置例についての図6Aに示されており、1つのアパーチャ像bi0は1つのピクセル(の公称(nominal)位置)をカバーする。図6Bに示されている(及びUS8,222,621及びUS7,276,714の教示に合致しているように)、他の興味深い例では、eは、アパーチャ像の幅bの分数b/o(但しoは、o>1、好ましくは(但し必須ではない)整数、これはオーバーサンプリングファクタとも称する)であり得る。この例では、アパーチャ像(複数)は、異なる複数の露光過程の中で、空間的に重なり合い、形成されるべきパターンの位置決め(placement)のより大きな解像度を可能にするであろう。そのため、あるアパーチャの各像は、一度に、複数のピクセル即ちo個のピクセルをカバーするであろう。ターゲットに結像されるアパーチャフィールドのエリア全体は、(NMo)個のピクセルを含むであろう。アパーチャ像の位置決め(placement)の観点から、このオーバーサンプリングは、ターゲットエリアを単にカバーするために必要であろうものとは(間隔がより細かいために)異なるいわゆる位置決めグリッド(placement grid)に対応する。
【0057】
図6Bは、位置決めグリッド、即ちo=2、N=2のパラメータを有する露光セルC4を有するアパーチャアレイの像、と組み合わせたo=2のオーバーサンプリングの一例を示す。これによれば、各公称位置(図6Bの小さい方形フィールド(複数))に4つのアパーチャ像bi1(破線)がプリントされているが、これらは、正規の(regular)グリッド上でX方向及びY方向の両方においてピッチeでオフセットされている。アパーチャ像のサイズは依然として同じ値bであるのに対し、位置決めグリッドのピッチeは今やb/o=b/2である。従前の公称位置に対するオフセット(位置決めグリッドのオフセット)もb/2のサイズである。同時に、各ピクセルの線量及び/又はグレーシェードは、対応するピクセルをカバーするアパーチャ像のために適切なグレー値を選択することによって、適合(減少)され得る。その結果、サイズaのエリアがプリントされるが、位置決めグリッドはより精細であるために位置決め精度は向上する。図6B図6Aを直接的に対比することにより、アパーチャ像(複数)の位置は位置決めグリッドにおいて従前よりも2倍(一般的にはo倍)精細に配置されている一方で、アパーチャ像(複数)自体は重なり合っていることが分かる。露光セルC4は、今や、描画プロセス中に処理されるべき(No)の位置(即ち「ピクセル」)を、従って、oの倍率(factor)(o倍)だけ従前よりも多くのピクセルを含む。これに応じて、アパーチャ像の寸法b×bを有するエリアbi1は、図6Bにおいてo=2でオーバーサンプリングされる場合(「ダブルグリッド(double grid)」ともいう)、o=4ピクセルに関係付けられる。勿論、oは他の任意の整数値、とりわけ4(「クワッドグリッド(quad grid)」、不図示)又は8であってもよく、或いは、21/2=1.414のような1より大きい非整数値であってもよい。
【0058】
連結(interlocking)グリッド(o>1)の場合、「ディザリング(dithering)」によってグレーシェードの数を増加しつつ、線量分布を均一に維持できることに留意することは重要である。これの基礎は、グレーシェードは何れの公称グリッドにおいても等しいことである。これは、ダブル連結グリッドでは、実現可能な有効線量レベルの数は非連結グリッドの場合より4倍大きいことを意味する。一般的にいえば、オーバーサンプリングされる露光グリッド(即ちo>1)は、何れも、X及びY方向にb/oの距離だけシフトされるo個までの公称グリッドから構成される。従って、ある線量レベルから次の線量レベルへのステップはo個のサブステップに分割することができるが、この場合、これらのo個のグリッドの1つのみの線量レベルが増大される;これは、すべてのサブグリッドが公称レベルを露光するまで、他のグリッドに対し繰り返すことができる。当業者であれば分かる通り、基板におけるビーム形状は、機械ブラー(machine blur)とアパーチャプレートの縮小されたアパーチャ形状の畳み込み(convolution)である。幅bを露光グリッド定数eの自然数倍に設定することによって、換言すればo=b/eを整数にすることによって、基板上における均一な線量分布を得ることができる。そうでない場合、線量分布は、エイリアシング効果(aliasing effects)のために、露光グリッドに、周期性がある最小値と最大値を有し得る。多数のグレーシェードは、より良い特徴位置決め(feature placement)を可能にする。従って、グレーレベル(階調)数の増加は、ピクセル位置ごとのグレーシェードが所定の数に限定されている場合、適切(重要)である。
【0059】
図7Aは、本発明のために適切なピクセルの露光スキームを示す。図示されているのは、紙面頂部(より早い)から紙面底部(より遅い)に進行する時間で示した一連のフレームである。この図におけるパラメータ値はo=1,N=2である。更に、MX=8及びMY=6の矩形ビームアレイが想定されている。ターゲットは常に左側に動くのに対し、ビーム偏向は図の左側に示されているようにのこぎり歯状(seesaw)関数で制御される。長さT1の各期間中は、ビーム像は(「位置決めグリッド」の位置に対応する)ターゲット上のある位置に固定された状態に留まる。従って、ビーム像は、位置決めグリッドシークエンスp11,p21,p31を通過するように示されている。位置決めグリッドの1つのサイクルは、ターゲット運動(速度)vのために、期間(time interval)L/v=NMb/v内に露光される。各位置決めグリッドにおける露光のための時間T1は、長さL=vT1=L/(No)=bM/Noに対応するが、これは「露光長さ(exposure length)」と称する。
【0060】
ビームレット(複数)は、ターゲットと一緒に、1セットの像要素の露光中にLの距離にわたって動かされる。換言すれば、すべてのビームレットは、期間T1中、基板の表面に関し固定された(一定の)位置に維持される。距離Lに沿ってターゲットと共にビームレットを動かした後、ビームレットは瞬間的に(極めて短時間内に)配置転換(再配置:relocate)されて、次の位置決めグリッドの像要素(複数)の露光が開始される。位置決めグリッドサイクルの位置p11...p31を経ての完全な1サイクルの後、シークエンスは、X方向(スキャニング方向)に平行な長手方向オフセットL=bNMを付加して、新たに開始する。ストライプの始まりと終わりにおいては、露光方法は連続的なカバーを生じないこともあり得るため、完全には埋められない(露光されない)長さLのマージンが存在し得る。
【0061】
なお、図7Aでは、実際のパターンに応じて個々のアパーチャを開閉するために必要な時間は省略されている。実際は、DAPの偏向装置(複数)及び偏向マルチポール(multipole)システム(複数)は、再配置及び過渡的振動のフェードアウト後にアパーチャの状態を安定化(整定)するために、所定の安定化期間(setting time)Tを必要とする。安定化期間Tは、ピクセル露光サイクルT1の(極めて)小さい部分である。従って、完全なピクセル露光サイクルT1より寧ろ、専ら使用可能時間Tu=T1-Tがピクセルの露光のために使用される。期間Tuは、適切な線量が対応するピクセルに供給されることを保証するピクセル露光期間である。尤も、以下においては、TはT1と比べて無視できる程小さいと仮定し、TuとT1は以下では区別しない(同じものとして取り扱う)。
【0062】
使用可能露光時間Tuは、処理(address)可能なグレーシェードの数に対応するg個の時間枠(タイムスロット:time slot)に分割される。gの値の一例はg=16(4ビット)であろう。ピクセル露光は、Tu以内に使用される時間枠の合計である、所望のグレーシェードに応じて活性化される。時間Tu以内に1つのピクセルに適用される線量がg個のグレーレベルにデジタル化されれば、ブランキングセル全体(general blanking cell)をg回Tuの間にリロード(reload)することが可能である。ブランキングアレイにある各ブランキングセルは、露光期間T1(又はより正確には利用可能時間Tu)中にその個別グレーシェードを受け取る。
【0063】
図7Bは、g=5として単純化した例における異なるグレーシェードを有する2つのピクセルの露光を示す。安定化期間Tの相対的サイズは著しく誇張して示されている。g=5に応じて、利用可能期間Tuの各々に5つの時間枠がある。第1ピクセルp71は、100%(即ち「ブラック」)のグレーシェードで露光され、第2ピクセルp72は60%のグレーシェードで露光される。ピクセルp72については、対応するブランキング電極の2つの時間枠が(1つの)グレーシェードされるピクセルを生成する。この例では、60%は5のうちの2を有するグレーシェードに相当するため、それらのうちの2つは―任意の順序で―スイッチオンに設定される。他方、ピクセルp71については、対応するブランキング電極は、5つのすべての時間枠中に活性化され、その結果、Tuの間に露光され(deposited)得る最大線量を有するブラックピクセルを生成する。
【0064】
データパス(Datapath)
図13は、本発明におけるデータパスの一例のフローチャートを示す。データパスは、描画ツールの処理システム18(図1)においてリアルタイムで実行されるのが好ましい。一変形例においては、データパスの計算(複数)の一部又は全部が、例えば適切なコンピュータにおいて、予め実行されていてもよい。
【0065】
完全なパターン像は大量の画像データを含むため、これらのデータを効率的に演算するためには、露光されるべきピクセルデータを、好ましくはリアルタイムで、生成する高速データパスが適切であろう。露光されるべきパターンは、典型的にはベクトルの形式で、例えば長方形、台形その他の一般の多角形のようなジオメトリ(幾何学的形状ないし構造:geometries)の集合体(collection)として記述されるが、これらは、通常、より良好なデータ圧縮を提供し、従って、データ記憶に対する要求を小さくする。従って、データパスは、3つの主要部分から構成される:
・ベクトル型物理的補正プロセス(ステップ160)、
・ベクトルをピクセルデータに変換するラスタ化プロセス(ステップ161~163)、
・描画プロセスのための一時記憶のためのピクセルデータのバッファリング(ステップ164)
【0066】
データパスは、ステップ160において、露光されるべきパターンPDATAが供給されると、開始する。ステップ160では、露光されるべきパターンPDATAは、場合によっては幾何学的に重畳する、多数の小データチャンク(small data chunks)に分割される。ベクトルドメインに適用可能な補正(例えば近接効果補正)は、すべてのチャンクに対し独立に、場合によっては並行的に、実行されてもよく、結果として得られたデータは、以降のステップの演算速度を改善するような態様で記憶され、コード化される。出力は、チャンクの集合体であるが、この場合、すべてのチャンクはジオメトリの集合体を含む。
【0067】
ステージ[ステップ]161:ラスタ化(Rasterization)RAST。すべてのチャンクのジオメトリ(複数)が、ラスタグラフィックアレイに変換されるが、この場合、ピクセルグレーレベルは、対応するアパーチャ像の物理的線量を表す。1つのジオメトリの内部に完全に含まれるすべてのピクセルには(その)多角形の色が割り当てられ、他方、1つのジオメトリのエッジを横切るピクセルの色は、該ジオメトリによってカバーされるピクセルの面積(area)の部分(fraction)によって重みが付けられる。この方法は、ジオメトリの面積とラスタ化後の全線量の間に線形的関係があることを示唆している。線量(複数)は、最初に、浮動小数点数として計算される;その後でのみ、これらは、PD装置によってサポートされるような線量値の離散的セットに変換される。ラスタ化の結果、ピクセルデータは、それぞれのピクセルについての公称線量値Pを表す浮動小数点数の形式で存在するであろう。
【0068】
ステージ[ステップ]162:ピクセルベースの補正(Pixel based corrections)CORR(アパーチャフィールド(全体)にわたるビーム50の均一な電流密度からのずれの補償及び/又はDAP30における個々の欠陥のあるビーム偏向器の補正等)。この種の補正方法は、本発明の構成要素ではないので、ここでは説明を省略する。
【0069】
ステージ[ステップ]163:ディザリング(Dithering)DITH。ディザリングプロセスは、畳み込まれた、場合によっては補正された、線量値データを、予め設定されたグレー値スケールに基づいて、グレー値データに変換する。これは、隣接するピクセル(複数)についての丸めエラーの平均化を確実に行う位置依存型丸めプロセス(rounding process)であり、オーバーサンプリングとの組み合せにより、単独のアパーチャに利用可能な線量値の離散セットによる場合より、遥かに精細な線量変化に対処するものである。これは、ヴィジュアル画像データのピクセルグラフィックへの変換のための既知のアルゴリズムによって実現することができる。このステージにおいて(本発明の構成要素ではない)付加的な補正を、これらが実際の補正(例えば欠陥アパーチャ補正)に依存するディザリングの直前直後にピクセルドメインに適用可能であれば、適用することも可能である。
【0070】
ステージ[ステップ]164:ピクセルパッケージング(Pixel packaging)PPACK。ステージ164から得られるピクセル像は、位置決めグリッドシークエンスに従って分類され、描画ツールの処理装置18(図1)に設けられたピクセルバッファPBUFに送られる。ピクセルデータは、十分な量のデータが典型的には少なくともストライプの長さについて存在するまでバッファリングされ、ストライプの露光をトリガする。データは、描画プロセス中バッファから取り出される。ストライプの描画が完了した後、上述のプロセスが、次のストライプのような次の領域のパターンデータに対し、新たに開始される。
【0071】
変化するローカルパターン密度の効果
図8は、レジスト被覆シリコンウェハのようなターゲット上に生成されるべきパターンレイアウト(略称:レイアウト)の一部の単純化した一例を示す。レイアウトは、空間的に変化するローカルパターン密度(LPdと略する)を有するが、これは、図8においては複数の異なるハッチングを有するエリアとして示されている。これに応じ、密な(dense)パターン(複数)が描画されるべきターゲットの領域(複数)は、低密度の当該領域よりもより大きな露光線量を受けるであろう。というのは、基盤のより大きな割合が露光される必要があるからである。LPdは、この構造的密度についての尺度(measure)であり、ターゲット上に生成されるべきレイアウトパターンに寄与するビームフィールドフレームを介して供給される平均線量を記述する。とりわけ、図8に示したレイアウトは、それぞれがローカルパターン密度の夫々特有な(specific)値(これは夫々の領域全体において十分に一定である)と関連付けられている3つの領域を含む。一般的に、所与のLPdに関連付けられた領域―ローカルパターン密度領域(LPdR)と称する―は、複雑な形状を有し、LPdRの数は種々異なり得ることが認められるであろう。例えば、LPdRは、別々の(分離した)コンポーネントエリア(複数)及び/又は異なるLPdの周囲エリア(複数)から構成されてもよい。更に、現実のレイアウトにおいて、複数のLPdRの境界をまたがるLPdの遷移(変化)は完全に急峻なものである必要はなく、狭い範囲にわたって緩やかなものであってもよい。なお、簡単化のため、図8には、この緩やかな遷移は記載されていない。ターゲットは、図8及び図9においてはその境界が破線で示されているスキャニングストライプstrに沿って露光される。図示の例では、スキャニングストライプの1つ(s1)のイメージング中、パターン像pm(点付き方形で図示)は、スキャニングストライプs1に沿ってスキャニング方向sdに一連の位置を介して移動するが、図8においてはこの一連の位置の2つのみがハイライトされている、即ち、より小さいLPdを有する領域pd1における公称位置p1からより大きいLPdを有する領域pd2における公称位置p2に移動する様子が示されている。
【0072】
既述のとおり、本発明者は、(1つの)パターンの描画中、パターン像の実際位置(即ちビームフィールドの現在(current)位置におけるビームフィールドフレーム)が、ローカルパターン密度に依存する位置決めエラーによってビームフィールドの公称位置から変位すること、更には、(この位置決めエラーは)LPdの現在(current)値のみにはそれほど依存せず、LPdの推移(evolution)に依存することを見出したのである。
【0073】
LPdが描画プロセス中に変化する場合、このことは、カラムの描画特性に影響を及ぼし得る(通常は及ぼす)。例えば、ブランキングされた及びブランキングされていないビームは、露光装置の異なるコンポーネントに、とりわけ(静電電極のような)粒子光学カラムのコンポーネント又は(例えばレジスト荷電による)基板上に、電荷蓄積(ビルドアップ)を引き起こし得るが、そのようなビルドアップは、静電的相互作用によるビームフィールドの空間的変位を誘導し、その結果、ターゲット表面に生成される画像に対し位置合せオフセットが引き起こされることになる。ブランキングされるビームとブランキングされないビームの割合はLPdに応じて変化するため、ビルドアップ電荷の分布も、緩やかではあるが、変化することになる。静電的ビルドアップに加えて、他の(可逆的)効果も位置合せオフセットに寄与し得る。例えば、LPdの変化は、しばしば、ビームレットのオンオフ切り替えの活性の増大を伴うが、これは、粒子光学カラムのある種のコンポーネントの温度を変化させる傾向があるが、これは、(熱的膨張による)コンポーネントの物理的変異を誘導し、これにより、カラムのイメージング特性に影響を及ぼす(熱的機械的ビルドアップ)。更に、ローカルパターン密度は、その制御回路を流れかつブランキング電極の制御のために必要な電流が場合によりLPdに依存して変化する強さを有する磁界をビルドアップ(生成)し得るブランキングアレイの仕事負荷(work load)に対しても影響を及ぼす。LPdが所与の値に変化するときは常に、光学システムはLPd値に特異的に(uniquely)対応する状態に向かう傾向があるという点で、これらのすべてのビルドアップ効果は可逆的である。
【0074】
位置合せオフセットについては図9に示されているが、これは、ストライプs1における2つの例示的ビームフィールドフレームの(公称)位置p1、p2についての図8の細部を示している。ビームフィールドは位置p1から公称位置p2に移動するとき、領域pd1の境界を横断して領域pd2に入る。ビームフィールドが公称位置p2に到達するまでに、領域pd2は異なるLPd値を有するため、2つの領域pd1及びpd2についてのLPd変化によって誘導されるようなカラムのイメージング特性の変化は、公称位置p2から実際位置p21へのパターン像のビームフィールドの相対変位F21を引き起こすことになる。従って、以下に説明するようにして決定される、変位F21の逆向き(inverse)の変位(即ち距離)を表す補償ベクトルによってパターン像を公称位置p2に戻すことが必要である。なお、図において、変位F21は視認性の向上のために大きく誇張して示されているが、実際には、典型的な変位の大きさは0.1nm~20nmのオーダー、即ち、典型的には、最大でも1つのピクセル(20nm)の大きさであること、ビームフィールドpmの大きさは、既述の通り、その倍数(多数倍)であることに留意することは重要である。
【0075】
ローカルパターン密度推移(Local Pattern Density Evolution)
ビーム位置決めエラーは、ローカルパターン密度が変化するや即座に起こるわけではない。寧ろ、ビーム変位は、上述したようなビルドアップ効果の結果として推移し、LPdの実際の値が十分に長い時間にわたって変化しなかった後でのみ、安定的な値をとることになる。この安定的な値は、「漸近的(asymptotical)」変位と称される。図10は、LPdの関数としての、漸近的変位f(Lpd)=F(LPd,t→∞)の典型例を示す。なお、(図中の)矢印(複数)は、一定に維持された所与のローカルパターン密度についての実際の変位Fの漸近的挙動を表している。所与のローカルパターン密度LPdに対し、ビーム変位Fは、LPdのそれぞれの実際の値について漸近的変位F(LPd,t→∞)の特異的かつ有限の値に接近するであろう。
【0076】
図11は、図10の漸近ビーム変位曲線F(LPd,t→∞)に基づく、ビーム変位Fの経時的推移の一例を示す。図11の記載は単純化されており、そのため、例えば凡そ100msの一定の期間によって離隔された時点を表す時間t0,t1,...t13における状態の実が図示されており、他方、中間の時間(複数)については、LPd推移の既述の簡単化のために、更には明確性の向上のために、省略されている。延長された時間にわたりLPd=0.1を有するビームフィールドフレームを描画した後、時間t0におけるビーム変位は、漸近値F(LPd=0.1,t→∞)の近くに収束した(settled)。次に、後続する時間t1,...,t10において、0.75に近いLPdを有するビームフィールドフレームが描画される。その結果、ビーム変位は緩やかに(漸進的に)変化するが、この場合、絶対値がゼロを通過して変化するため方向も変化し、ゆっくりとF(LPd=0.75,t→∞)に接近する。次に、時間t11から出発し、ビームフィールドフレームは0.25のLPdで描画される。従って、時間t11で、ビーム変位Fは再びより急速に変化し、今や漸近値F(LPd=0.25,t→∞)に向って移行する。
【0077】
図12は、図11の変化の様子をグラフィカルに表したものであり、ビーム像が1つのストライプ(図12では、図8及び図9の紙面横方向とは異なり、紙面縦方向(上下方向)に延在している)に沿って、それぞれ0.1、0.75及び0.25のLPdを有する領域pd1、pd7及びpd2を経由して移動している間における、ビームフィールドフレームの公称位置及び変位位置(displaced position)を示している。ビームフィールドフレームの公称位置は、ドット状ハッチングが付された長方形として図示されており、他方、実際のフレーム位置は境界が点線で表された長方形として図示されている。
【0078】
なお、図12の例は単純化されており、そのため、時間t0,t1,...t13におけるビームフィールドフレームのみが図示されており(他方、フレーム同士が重なって図示が煩雑になるのを回避するために、これらの間のすべてのビームフィールドフレームは省略されている)、すべての変位F,F,F,...F13は同じ方向に沿って配向されるように図示されていることに留意することは重要である。省略事項を補った完全な態様については、当業者であれば、個々に与える説明に基づいて容易に再現できるはずである。更に、ビームフィールドフレームに対する変位F~F13の相対的な大きさは、視認性の向上のために、大きく誇張されている。実際には、変位の値は、パターン像pmの大きさと比べると微小ではあるが、パターン像内の個々のピクセルpxの大きさ及び/又は間隔(spacing)と比べると相当な大きさであり、従って、像フィールドが現実の量の変位を以ってドリフトすることにより、露光の質は測定可能な劣化に至り得る。
【0079】
位置合せオフセット(Registration Offset)の補償
図9図12に示したように位置合せオフセットの結果として生じる像フィールドの位置決めエラーを補正するために、本発明は、記憶されたローカルパターン密度に与えられる変位を推定(評価)する(estimate)モデルを提案する。オペレーション中、時間tにおいて、像フィールドは、測定又は計算されたパターン密度LPd(t’),t’<tに基づくモデルによって推定される変位
の逆にシフトされる。一般的に、モデルは、好ましくは予め設定される期間(duration)の時間ウインドウ内において、時間、現在の(current)ビームフィールドフレームのローカルパターン密度値、並びに、先行するビームフィールドフレーム(複数)の時間及びローカルパターン密度値に依存する数式を含むことができる。
【0080】
例えば、パラメータ化されたファミリーの関数(複数)をオペレーションの前に観察されたずれ(deviations)に適合させる(あてはめる)ことによってモデルを実現することができる。即ち、時間tまでの記憶されたローカルパターン密度値LPd:[-∞,t]→[0,1]に与えられる時間tにおける推定変位(estimated displacement)

で与えられる。ここで、
を[-∞,t]における実数値関数(real-valued functions)の空間とすると、
は、実験的に決定されたパターン密度(複数)とそれらの対応するずれ(ないし偏差:deviations)が適切に(例えば最小二乗法で)適合する(fit)よう選択される、パラメータθのセットに依存する(場合によっては非線形の)演算子である。これらの関数の結果は、2成分ベクトルであり、ターゲット表面の平面内における2次元オフセットベクトルとしてヴィジュアル化することができる。一般的に、既述の通り、変位
は、LPd値それ自体にのみ依存する最終値f(LPd)に収束する。
【0081】
モデルLθの単純な選択は、例えば、単一指数インパルス応答
と変位方向
を有する線形時間不変(time-invariant)フィルタ
(又はその時間離散的な類似物)であろう。ここで、モデルパラメータ(複数)は、
である。また、複数のそのような項を(例えば線形に)組み合わせてもよく、又は、非線形又は効果(effects)又は変位方向(複数)のより複雑な挙動を含んでもよい。
【0082】
また、変位又は基礎をなすLPd依存状態(例えば蓄積電荷)についての微分方程式(ないし離散的設定の場合、差分方程式)を特定することによってモデルを形成することも好適であり得る。例えば、上記の線形時間変化モデルは、常微分方程式
を満足する。この微分方程式は、更に、例えばオイラー前進法(Euler forward method)によって、時間で離散化して、新たな(更新した)式
を得てもよい。このアプローチは、時間tn+1における変位
を計算するためには、最後の(現在の1つ前の)推定変位
と現在のローカルパターン密度LPd(t)のみが既知であればよいという利点を有する。
【0083】
類似するがより一般的な態様で、変位を生成するカラムの状態φ(例えば蓄積電荷)についてのn次常微分方程式
を、ある所望の時間的(in time)挙動を達成するために選択することができる。上式の左辺は、LPd及びその誘導パラメータ(ないし導関数:derivatives)に依存する状態φの時間推移を記述する物理モデルに対応する(場合によっては非線形の)微分演算子である。換言すれば、関数gは、位置合せオフセットを引き起こす効果を記述する物理モデルを表す。そのパラメータは、位置合せオフセットの補償のために十分な精度で、較正実験から決定することができる。例えば、式
は、φが
を満足するものとすると、適切な初期条件と組み合わせることにより、ローカルパターン密度及び定数τに依存する速度で指数的にチャージし、緩和時間τでディスチャージし、M及びmで特定される最大及び最小変位で飽和する、方向
における変位をもたらす。関連する定数
は、例えば測定した変位(複数)に適合する(ないしあてはめる:fitting)ことによって推定することができる。時間離散化にオイラー前進法を適用すると、得られる新たな(更新された)式は、

となる。次の変位
を推定するためには、この場合も、現在の(最後に推定した)状態φ(LPd,t)とローカルパターン密度LPd(t)のみが既知であればよい。
【0084】
更に、nφのそのような状態を組み合わせるアプローチを用いて
を得てもよい。ここで、状態φ(k=1,...nφ)は、微分方程式
(又はその時間離散的類似物)を満足し、関連する異なる変位方向
と最小/最大チャージ
で、複数の速度
でのチャージ及びディスチャージを達成する。
【0085】
関連するパラメータθを得るための1つの可能性は、推定した変位
を、オペレーション前に、測定された変位F(LPd,t)に適合させる(ないしあてはめる)ことよるものである(なお、この場合も、LPdは時間tまでの記憶されたローカルパターン密度値を表す)。即ち、
を最小化することによるものである。ここで、Dは、変位挙動を決定するパラメータθのセットに関する適切な距離関数(ないし尺度関数:metric)である。距離関数の例には、例えば、
及び
が含まれる。ここで、αは重み係数である。換言すれば、距離関数は、必要に応じて適切な重みが付けられた、複数の関数の差分及び/又は複数の関数の差分同士の商の差分から組み立てられるノルム(norm)(例えば2次ノルム(quadratic norm))であってよい。後者の距離関数が小さいαで使用される場合、変位の変化の良好な推定が更に強調される。このことは、ビーム変位が急速に変動する高速作用成分と大きな変位を引き起こす低速作用成分を含む場合に適切であり、そうでなければ、最小化されるべき誤差項(error term)を支配するであろう。
【0086】
本発明の好適な具体化例において、上述のモデルの1つは、実際の測定データに適合され(あてはめられ)てもよい。好適には、これらの測定データは、時間とローカルパターン密度の関数としての変位が所与の所望の精度の範囲内で再現可能であることを保証するために、関連する時間尺度(time-scale)、期間(duration)及びローカルパターン密度変化(variation)の少なくとも1つをカバーするような態様で記憶されてもよい。換言すれば、当該関係を明らかにするために、LPd及びビームフィールドの変位の追跡(track)を可能にする方法の提供はしばしば好都合である。本発明によれば、任意の時点におけるLPdは、以下のバリエーションの1つ又は好適な組み合わせに応じて導き出される。
【0087】
効率的なアプローチの1つは、データパスからのデータからLPdを直接計算することである。とりわけ、これは、ピクセルデータが位置決めグリッドシークエンスに応じてソートされる図13のステージ[ステップ]164のピクセルパッケージングにおいて効率的に実行することができる。このステップでは、期間Tu内におけるタイムスロット毎にビームフィールドフレームの各ピクセル(又はビームレット)の露光時間はスケジュール設定されているので(図7B)、スイッチオンされるビームレットの数とタイムスロット毎のビームレットの総数の比を演算することによりLPdを導き出すことができる。任意的に、この比の値は、上述のモデル(複数)及びMBMWの変位挙動に関連して適切に選択されたより長い期間(time interval)について、追加的に、平均化してもよい。データパスはリアルタイムで動作するので、変位補正のために必要とされる実際のLPd値もリアルタイムで利用可能である。なお、ピクセルが実際に露光される前に、ピクセルデータはPBUFにバッファされているため、LPd推移は、実際には僅かに前もって既知であり、このことは、補正スキームを実際の変位に同期化することに関して好都合である。
【0088】
本発明の他の一実施形態では、LPdは、データパスでは計算されず、その代わりに、実際のLPd値の一連の測定を提供する物理的センサを介して直接測定される。ここで、好都合でありかつ最新技術を用いて実現可能な2つの特別な具体化例を考えることができる。第1のケースは、既述のように、偏向されたビームレット52が、冒頭において説明したMBMWのコンセプトに応じてカラムのストッププレート11でフィルタリングされる(絞られる)(図1)という事実から出発する。従って、任意の時点において、基盤に到達するビームレットの数Nと、ストッププレートに到達するビームレットの数Nは、足し合わされると、利用可能なビームレットの総数Nになる。比N/Nは、LPdの尺度(ないし大きさ:measure)であり、N=N+Nという事実に基づき、この比は、1-N/Nに書き換えることができるので、比N/Nを決定するために十分である。尤も、この値は、ストッププレート11に接続された電流測定装置によって容易に特定することができる。図14は、電流計d1がストッププレート11に電気的に接続されているレイアウトの一例を示す。電流計d1は、この状況において生じる小電流、典型的には数pA(ピコアンペア)の範囲の電流、を測定する電流測定装置として役立つ。ここで、N/N=I/Iが成り立つが、この場合、Iは、任意の時点における測定電流に相当し、基準値Iは、ブランキングされたすべてのビームレットと、付加的な較正ステップにおいてオープンな(利用可能な:open)すべてのビームレットとの間の、ストッププレートにける電流(currents)の差を測定することによって求められる(測定される:gauged)。
【0089】
第2のバリエーションでは、ターゲットの到達するビームレットの数を測定する検出器d2が、LPdを決定するために使用可能である。例えば、図15に示したように、後方散乱電子(BSE)検出器d2が、光学カラムの(終)端部に配設される。基板からの後方散乱電子の数は基板に到達するビームレットの数Nと相関関係にあるため、BSE検出器からの信号は、増倍係数(multiplicative constant)又は単調増加関数(monotone scaling function)に至るまで、LPdを表すために使用することができる。勿論、上記3つのバリエーション、即ち、データパスによるもの、ストッププレートにおける電流測定装置によるもの、BSE検出器のような最終(段)検出器によるもの、はすべて、LPdの一層改善された推定(値)を得るために、任意の組み合わせで使用してもよい。
【0090】
最後に、上記のモデル(複数)の1つを較正及び適合(あてはめ)するために、ビームフィールドフレームの変位を決定するための有利な具体化例として、更に2つの変形形態を以下に説明する。
【0091】
図16は、露光領域(全体)にわたるLPdの実質的な(大きな)変化を含むテスト露光が用意される第1バリエーションに関する。図16は、例えば、6”×6”×1”/4石英ガラス板80からなる6”フォトマスクブランク81の典型的なターゲットエリアのためにデザインされる、例示的な位置合せ較正ターゲットを示す。また、典型的には133mm×104mmのマスクパターンフィールド83を有する導電性マスキング層を示す。このマスクパターンフィールドの内部には、異なるパターン密度の複数のエリアがあり、例えば、0%のパターン密度の空エリアpd00、10%のパターン密度のエリアpd10から、25%のパターン密度のエリアpd25、50%のパターン密度のエリアpd50、更には100%のパターン密度のエリアpd100に至るまでの種々のパターン密度のエリアがある。この特定の実施形態においては、石英ガラスプレート80が電子(ビーム)感応性レジストで実際に被覆されることは必要ではない。なぜなら、すべての変位は、基準位置ターゲットREFを含むビーム較正ターゲット86(これは図1のコンポーネント19と同じ)を介して「インサイチュ」で測定されるからである。換言すれば、この具体化例においては、クロム被覆フォトマスクブランクのようなテストブランク上において、ダミーの露光のみが実行される。このことは、MBMWは実際に露光を実行しておりかつ線量及び関連するLPdを基板に通常の態様で送達(供給)するのに対し、露光が実行されたターゲット上の構造に対しては後に注意が払われない(考慮されない)ことを意味する。その代わりに、その間にLPd関連変位が変化する時間スケール(典型的な時間スケールは分(minutes)のオーダーである)が1つのストライプを描画するために必要とされる時間スケール(典型的には数秒のオーダー)より有意により大きいとすれば、ビーム位置測定は、ストライプ間において、即ち1つのストライプの終了後かつ次のストライプの開始前に、実行すれば十分である。なお、これらの測定は、必ずしもすべてのストライプ間で実行される必要はなく、寧ろ、これらの測定は、夫々、その描画時間がLPd関連変位が変化する時間スケールを超えない合理的数のストライプ(の通過ないし描画)後に実行される。例えば、再び図16を参照すると、パターン密度25%でエリアpd25を露光する1つのストライプs25において、該ストライプ内の2つの位置(換言すれば2つの時点)におけるそれらの公称位置p1、p2に対する変位p1_disp及びp2_dispは、LPd変位モデルの所要の精度の範囲内で、十分に同じ(同程度)である。同等の変位がそのストライプの終端においてp3に対しp3_dispに維持されかつ直ちには消失しないので、ステージは、軌道s25に沿って「インサイチュ」ビーム較正ターゲット86に直接的に移動され、そこで、変位を観察(検出:observed)することができる。好適には、この措置を全マスクエリアに対し、十分に多くの回数で、パターン密度変化を適切に選択しつつ、繰り返してもよい。例えば、ダミー露光は、種々のパターン密度の遷移(transitions)を経ながら、左上TLから右下BRまでマスクパターンフィールド83の全エリアにわたって実行される。再び図16を参照すると、TLからBRまでストライプ毎に露光することによりエリア全体を露光し、各ストライプにおいてはビームフィールドは実質的に(effectively)方向sdに移動し、一連のビームフィールドフレームは、0%→100%、100%→0%、0%→25%、25%→0%、0%→50%、50%→0%、0%→10%及び10%→0%のLPd遷移を受ける。1又は複数のストライプの終了後、再び、ビーム較正ターゲット86において現在の(current)変位が測定される。変位を測定するというこのコンセプトは、ビーム位置決め精度に対する現代の要求に対し通常は十分な精度を有する。とりわけ、変位が、例えば基板加熱又は基板荷電のようなターゲットに生じる効果よりむしろ光学カラムに生じるビルドアップ効果によって支配される場合にそうである。
【0092】
図17は、変位をLPdと時間の関数として決定する第2バリエーションの一例を示す。これは、とりわけその中で変位が変化する時定数(time-constants)が小さい場合、第1バリエーションの代わりに又はそれに加えて使用することができる。図17は、既述のテスト露光に類似する類似テスト露光が実行される方法を示す。この場合、変位を「インサイチュ」で測定する代わりに、ブランク91(例えば、図16に示したものに類似する、6”フォトマスク)内の石英ガラス板90上に形成される電子(ビーム)感応性レジストを用いる実露光(real exposure)が実行される。これをセットアップするために、アライメントのための複数のアライメントパターン92と、後のステージで既知のマスク位置合せ計測ツール(これは本発明を構成するものではない)を用いて測定される、マスクパターンフィールド93を横断するよう配される複数のマーカー99が必要とされる。好ましくは、1つのマーカー99の寸法Pdm_x及びPdm_yは、これらがMBWの1つのビームフィールドに適合するよう選択される。例えば、本出願人によって実現されたMBMWについては、各マーカーの高さPdm_y及び幅Pdm_xは82μm未満である。更に、すべてのマーカー99からなる構造体(entity)は、マスクパターンフィールド93の内部に配置された一定の(規則的な)、例えば矩形の、グリッドを構成する。図17は、寸法がNgY=9及びNgX=4のグリッドによるそのようなアレンジメントの一例を示す。なお、少数のグリッドポイントしか含まないこの図示の構造は明瞭化のためにのみ例示したに過ぎず、実際の具体化例では、グリッドポイントの数は、例えばNgY=32及びNgX=32又はNgY=27及びNgX=29又はこれらより更に多いように、遥かにより多くなるよう選択されることに留意すべきである。グリッドは一般的にはマスクパターンフィールド83[93]の全体の大きなエリアをカバーするよう構成されるため、グリッドポイントの数が増加により効果的により精細なグリッドが得られる。そのため、グリッドポイントの数が多くなるほど、一層より高精度で変位を観察することができる。変化するパターン密度pd00、pd10、pd25、pd50及びpd100を有するエリア(複数)に埋め込まれたグリッドを露光することにより、パターン密度が一定に維持されている他のテストマスクに、例えば図19に示したような複数のマーカー990を有する対応するマスクパターンフィールド930内部に1つのゼロのパターン密度pd00を有する基準マスク900に露光される同じアレンジメントを有するグリッドに対するずれ(偏差:deviations)は、相対変位をすべての位置(locations)において任意の時点で次の既知のマスク位置合せ計測によって測定するために使用される。この第2バリエーションは、変位状態(order)の極めて急速な変化も観察可能であり、かつ、上述の数学モデルの1つを考慮可能であるという利点を有する。更に、このバリエーションは、加熱(heating)や荷電(charging)のようなレジスト効果がLPd依存変異に対し無視できる程度の寄与しかしない場合に重要になるであろう。
【0093】
本発明は以下の形態をとることも可能である。
(形態1)荷電粒子マルチビーム露光装置においてターゲット上でのパターンの描画中のパターン位置決めエラーの補償方法が提供される。
該方法において、複数のビームフィールドフレームを荷電粒子のビームを用いて露光することによってレイアウトが生成され、該ビームフィールドフレームはターゲット上のピクセルの2次元配置を表しかつ所与の時系列で描画されるものであり、
各ビームフィールドフレームはターゲット上に公称位置を有し、各ビームフィールドフレームにおいて各ピクセルは相対公称位置及び露光値を有し、
各ビームフィールドフレームに対し、それぞれのビームフィールドフレームにおけるピクセルの露光値の平均として、ローカルパターン密度値が定義され、該ローカルパターン密度はそれぞれのビームフィールドフレームを露光する際にターゲットに対し与えられる露光線量を定義し、かくしてビームフィールドフレーム(複数)の時系列に基づき時間の関数としてローカルパターン密度推移(evolution)を生成し、
ターゲット上でのビームフィールドフレーム(複数)の描画中、それらの実際の位置は、露光装置内におけるビルドアップ効果の結果としての位置決めエラーによって、それぞれの公称位置から逸れ、
該位置決めエラーはビームフィールドフレーム(複数)の夫々の描画時間中ローカルパターン密度推移に依存するものであり、
該方法は、以下のステップ:
・ローカルパターン密度と時間の関数として位置決めエラーの予測値を記述するための予め設定される変位挙動モデルのパラメータを設定すること、
・一連のビームフィールドフレームを提供し、該ビームフィールドフレームの描画時間を規定すること、
・前記一連のビームフィールドフレーム及び関連する描画時間に関するローカルパターン密度推移を決定すること、
・ローカルパターン密度推移及び前記変位挙動モデルに基づきビームフィールドフレーム(複数)についての位置決めエラーの値を予測すること、
・ビームフィールドフレームの各々について、それぞれのビームフィールドフレームについての位置決めエラーの夫々の予測値を用いて、位置決めエラーを補償するために夫々のビームフィールドフレームの位置を再配置すること、
を含む。
(形態2)上記の補償方法において、更に以下のステップ、
所望の再配置距離に従ってターゲット上に生成されるようなビームフィールドフレームに対する再配置動作を可能にするビーム偏向装置を提供すること
を含むことが可能である。
(形態3)上記の補償方法において、それぞれのビームフィールドフレームの位置を再配置するステップは、位置決めエラーの夫々の予測値の逆向き(inverse)の距離(変位)によって夫々のビームフィールドフレームの位置をシフトすることを含むことが可能である。
(形態4)上記の補償方法において、ローカルパターン密度推移を決定するステップにおいて、一連の後続する期間(intervals)が規定され、各期間は複数のビームフィールドフレームの描画の時間を含み、該期間の各々に対し、代表的ローカルパターン密度が、それぞれの期間に含まれるそれぞれの複数のビームフィールドフレームから決定されることが可能である。
(形態5)上記の補償方法において、前記変位挙動モデルのパラメータは露光装置において実行されるインサイチュビーム位置測定によってその較正手順の一部として決定され、及び、該インサイチュビーム位置測定から得られる結果からそれぞれのパラメータが計算されることが可能である。
(形態6)上記の補償方法において、変位挙動モデルのパラメータは露光装置において一連のテスト描画プロセスを実行することにより設定され、
該テスト描画プロセスは異なる値のローカルパターン密度を有するテストパターン(複数)の一連の露光を、好ましくは変化する時系列で、実行し、
各テスト描画プロセスにおいて、位置決めエラーの値が時間及び/又はローカルパターン密度の関数として測定され、及び、
パラメータは該テスト描画プロセス中に得られる位置決めエラーの値から計算されることが可能である。
(形態7)上記の補償方法において、前記変位挙動モデルは、位置決めエラーの予測値を、好ましくは予め設定される期間の時間ウインドウ内における、時間、現在のビームフィールドフレームのローカルパターン密度値、並びに時間及び先行するビームフィールドフレーム(複数)のローカルパターン密度値に依存する数式として記述することが可能である。
(形態8)上記の補償方法において、前記数式は、現在のビームフィールドフレームのローカルパターン密度値に依存する時定数ベース値と、先行するビームフィールドフレーム(複数)のローカルパターン密度値に依存しかつ時間の崩壊関数D(X,t)を含む少なくとも1つの崩壊関数期間との和、但し、
からなる、
但し、fはローカルパターン密度の関数としての変位の最終値であり、崩壊関数Dはスタート値(X)からの崩壊を時間(t)の関数として記述し、Dは減少する指数関数(e-t/τ)、それぞれの基準時間に対する時間の逆関数((t-t-1,(t-t-n)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるものとすることが可能である。
(形態9)上記の補償方法において、前記数式は、各露光時点(t)に対し、先行する時点(複数)のローカルパターン密度の値と先行する時点(複数)について計算された状態関数の関数として計算される状態関数(φ(t))の関数、即ち、
として表される、
但し、関数f()は変位挙動を状態関数の関数として記述し、関数g()は状態関数の時間推移をローカルパターン密度、及び適用可能であればその時間導出関数、の関数として記述することが可能である。
(形態10)上記の補償方法において、荷電粒子のビームにおける電流変化(複数)に起因するビルドアップ効果が前記変位挙動モデルにおいて考慮され、該電流変化は装置及び基板の少なくとも1つの構成要素の時間的に変化する荷電を引き起こすことが可能である。
(形態11)上記の補償方法において、時間的に変化する加熱及びその結果として生じる装置及び基板の少なくとも1つの構成要素の熱的機械的変形に起因するビルドアップ効果が、変位挙動モデルにおいて考慮されることが可能である。
(形態12)上記の補償方法において、ローカルパターン密度推移は、一連のビームフィールドフレーム(複数)及び関連する描画時間に含まれるデータ、即ち当該一連のビームフィールドフレームに所望のパターンを定義するデータを計算するために役立つデータパスから得られるデータ、から決定されることが可能である。
(形態13)上記の補償方法において、ローカルパターン密度推移は、露光装置に設けられるセンサ装置によって提供される、実際のローカルパターン密度の一連の測定から決定されることが可能である。
(形態14)上記の補償方法において、センサ装置は、ターゲットに到達する電流(d2)の測定装置、好ましくはターゲットからの荷電粒子の後方散乱の検出器であることが可能である。
(形態15)上記の補償方法において、センサ装置は、荷電粒子のビームのターゲットに到達しない部分の測定装置、好ましくはブランキングされたビーム部分のためのストッププレートに接続された電流検出器であることが可能である。
(形態16)上記の補償方法において、前記露光装置における一連のテスト描画プロセス中に、ビーム較正ターゲットが使用され、該ビーム較正ターゲットは当該ビーム較正ターゲット上の定義された位置(複数)に配された複数の位置マーカー装置を含むことが可能である。
(形態17)上記の補償方法において、前記露光装置内における一連のテスト描画プロセス中に、マスク計測ターゲットが使用され、該マスク計測ターゲットは、規則的な配列で配置された複数のマーカーが配された表面を有することが可能である。
【0094】
本発明の全開示(特許請求の範囲及び図面を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態の変更・調整が可能である。また、本発明の特許請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせないし取捨選択が可能である。すなわち、本発明は、特許請求の範囲及び図面を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。特に、本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が、別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。また、本開示において引照した刊行物の全記載事項は、引用を以って本書に繰り込み記載されているものとし、必要に応じ参照できるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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