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特許7064836レーザ誘起プラズマ発光分析法を用いた金属スクラップの判別方法、金属スクラップ判別装置及び金属スクラップ選別システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】レーザ誘起プラズマ発光分析法を用いた金属スクラップの判別方法、金属スクラップ判別装置及び金属スクラップ選別システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/63 20060101AFI20220428BHJP
   B07C 5/342 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
G01N21/63 A
B07C5/342
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017175827
(22)【出願日】2017-09-13
(65)【公開番号】P2019052884
(43)【公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591065631
【氏名又は名称】ハリタ金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143410
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】葛谷 幹夫
【審査官】赤木 貴則
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-264238(JP,A)
【文献】米国特許第05798832(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0174325(US,A1)
【文献】特開2000-019113(JP,A)
【文献】特開2000-249655(JP,A)
【文献】特開2013-190411(JP,A)
【文献】米国特許第05847825(US,A)
【文献】特開2010-019607(JP,A)
【文献】特表平11-512967(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0264070(US,A1)
【文献】柏倉俊介、我妻和明,レーザ誘起プラズマ発光を用いた金属スクラップの迅速分析法の開発,廃棄物資源環境学会研究発表会講演集,第22回廃棄物資源循環学会研究発表会,日本,2011年,セッションID:P1-B1-8, pp. 1-2,doi:10.14912/jsmcwm.22.0.77.0
【文献】Gurell, J. et al. ,Laser induced breakdown spectroscopy for fast element analysis and sorting of metallic scrap pieces using certified reference materials,Spectrochimica Acta Part B,2012年06月30日,Vol. 74-75,pp. 46-50,doi:10.1016/j.sab.2012.06.013
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62-G01N 21/74
B07C 5/342
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ誘起プラズマ発光分析法を用いた金属スクラップの判別方法であって、
判別対象である金属スクラップにレーザ誘起プラズマを発生させるためのレーザ光を集光して照射する工程と、
レーザ光の照射により発生したレーザ誘起プラズマからの放射光を分光し、発光スペクトルを取得する工程と、
あらかじめ設定された判別に使用する成分元素のスペクトル線強度に基づいて、当該成分元素の濃度を算出する工程と、
各成分元素の濃度に基づいて、判別対象の合金種を判別する工程と、を備え、
照射するレーザ光を金属スクラップに集光する焦点距離は、金属スクラップの形状のばらつきに起因する金属スクラップ表面とレーザ光の光源との距離の変動がレーザ光のエネルギー密度の変動に及ぼす影響が小さくなる長焦点であって、レーザ光のエネルギー密度が成分元素の濃度分析が可能なエネルギー密度となる距離に固定して設定されており、
成分元素の濃度は、成分元素のスペクトル線強度と判別対象の主成分のスペクトル線強度との強度比に基づいて算出することを特徴とする金属スクラップの判別方法。
【請求項2】
照射するレーザ光のエネルギー密度は、測定環境の雰囲気ガスのブレークダウンプラズマが成分元素のスペクトル線強度の測定を阻害しないエネルギー密度に設定されることを特徴とする請求項1に記載の金属スクラップの判別方法。
【請求項3】
金属スクラップがアルミニウム合金であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属スクラップの判別方法。
【請求項4】
判別に使用する成分元素がSi、Zn、Cu、Mg及びMnであることを特徴とする請求項3に記載の金属スクラップの判別方法。
【請求項5】
Si、Zn、Cu、Mg及びMnの各濃度の順に、各濃度で設定された判別条件に基づいて、対応する合金種を順次判別することを特徴とする請求項4に記載の金属スクラップの判別方法。
【請求項6】
レーザ誘起プラズマ発光分析法を用いて金属スクラップの判別を行う金属スクラップ判別装置であって、
レーザ光を出力するレーザ発振器と、
前記レーザ発振器から出力されたレーザ光を判別対象である金属スクラップに集光照射する対物レンズと、
レーザ光が照射され金属スクラップから発生したレーザ誘起プラズマから放射される放射光を集光する集光手段と、
前記集光手段より集光された放射光を分光し、発光スペクトルを取得する分光器と、
前記分光器で取得した発光スペクトルのスペクトル線強度に基づいて、あらかじめ設定された判別に使用する成分元素の濃度を算出し、金属スクラップの合金種を判別する演算処理手段と、を備え、
前記対物レンズの焦点距離は、金属スクラップの形状のばらつきに起因する金属スクラップ表面とレーザ光の光源との距離の変動がレーザ光のエネルギー密度の変動に及ぼす影響が小さくなる長焦点であって、レーザ光のエネルギー密度が成分元素の濃度分析が可能なエネルギー密度となる距離に固定して設定されており、
請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の金属スクラップの判別方法を実施可能に構成されていることを特徴とする金属スクラップ判別装置。
【請求項7】
請求項6に記載の金属スクラップ判別装置と、
前記金属スクラップ判別装置に金属スクラップを搬送し、合金種を判別した後の金属スクラップを前記金属スクラップ判別装置から搬出する搬送装置と、
前記金属スクラップ判別装置から搬出された金属スクラップを合金種毎に振り分ける選別装置と、を備えたことを特徴とする金属スクラップ選別システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ誘起プラズマ発光分析法を用いた金属スクラップの判別方法、金属スクラップ判別装置及び金属スクラップ選別システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物・リサイクル問題に取り組み、環境と経済が両立した循環型社会を構築するために、Reduce(廃棄物の発生抑制)、Reuse(再使用)及びRecycle(再資源化)といういわゆる3R(スリーアール)を推進していくことが求められている。その中で、金属スクラップのリサイクルについては、例えば、アルミニウム合金スクラップの場合、従来より、回収したアルミニウム製品を溶解して含有元素を確定した後、鋳物やダイカスト用の2次合金用途に回されるカスケードリサイクルが主流である。
【0003】
ここで、アルミニウム合金スクラップは製品毎に添加元素が異なるため、溶解する前に元の合金種が判別できれば、いわゆる”product to product”の水平リサイクルが可能となり、アルミニウム合金スクラップの再利用率の大幅な向上が期待できる。
【0004】
そのためには、アルミニウム合金スクラップの成分元素の分析を短時間で高精度に行う方法が必要である。
【0005】
金属スクラップの成分元素の分析への適用が検討されている分析方法として、レーザ誘起プラズマ発光分析法(laser-induced plasma spectroscopy,LIPS)が挙げられる。LIPSは、高出力パルスレーザを試料に集光照射した際に生成されるプラズマを分光分析して、スペクトル線強度に基づいて試料の元素分析を行う方法である。LIPSは試料を前処理せずに大気中で直接分析でき、簡単な操作で瞬時に多元素の同時分析が可能という特徴を有しており、オンサイト分析法として有効な分析法である。
【0006】
金属スクラップの成分分析にLIPSを適用するためには、スクラップの形状に起因するスペクトル線強度の変動や分析結果のばらつき、等の課題を解決し、分析結果に基づいて多くの合金種から金属スクラップの合金種の判別方法を確立する必要がある。
【0007】
金属スクラップの成分分析にLIPSの適用を試みた例として、例えば、特許文献1、非特許文献1に開示された技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-209812号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Laser Induced breakdown spectroscopy for fast elemental analysis and sorting of metallic scrap pieces using certified reference materials。 (Spectrochim。 Acta Part B 74-75、 46-50 (2012)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の技術では、いずれもレーザを正確に試料表面に集光するために、スクラップまでの距離を計測するシステムと、集光手段の移動手段と、を備え、スクラップまでの距離に合わせて集光手段を移動させてレーザを照射する。
【0011】
そのため、分析装置が複雑な構造となる。また、分析結果のばらつきを抑制する手段を備えていないため、レーザ照射の回数を多くする必要がある。
【0012】
そこで、本発明では、金属スクラップの形状等の影響をほとんど受けずに成分元素の分析を行うことができ、合金種を正確に判別することができるレーザ誘起プラズマ発光分析法を用いた金属スクラップの判別方法を提供することを目的とする。また、当該方法を実施可能な判別装置及び判別結果に基づいて金属スクラップを選別することができる金属スクラップ選別システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、レーザ誘起プラズマ発光分析法を用いた金属スクラップの判別方法であって、判別対象である金属スクラップにレーザ誘起プラズマを発生させるためのレーザ光を集光して照射する工程と、レーザ光の照射により発生したレーザ誘起プラズマからの放射光を分光し、発光スペクトルを取得する工程と、あらかじめ設定された判別に使用する成分元素のスペクトル線強度に基づいて、当該成分元素の濃度を算出する工程と、各成分元素の濃度に基づいて、判別対象の合金種を判別する工程と、を備え、照射するレーザ光を金属スクラップに集光する焦点距離は、金属スクラップの形状のばらつきに起因する金属スクラップ表面とレーザ光の光源との距離の変動がレーザ光のエネルギー密度の変動に及ぼす影響が小さくなる長焦点であって、レーザ光のエネルギー密度が成分元素の濃度分析が可能なエネルギー密度となる距離に固定して設定されており、成分元素の濃度は、成分元素のスペクトル線強度と判別対象の主成分のスペクトル線強度との強度比に基づいて算出する、という技術的手段を用いる。
【0014】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の金属スクラップの判別方法において、照射するレーザ光のエネルギー密度は、測定環境の雰囲気ガスのブレークダウンプラズマが成分元素のスペクトル線強度の測定を阻害しないエネルギー密度に設定される、という技術的手段を用いる。
【0015】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の金属スクラップの判別方法において、金属スクラップがアルミニウム合金である、という技術的手段を用いる。
【0016】
請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の金属スクラップの判別方法において、判別に使用する成分元素がSi、Zn、Cu、Mg及びMnである、という技術的手段を用いる。
【0017】
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の金属スクラップの判別方法において、Si、Zn、Cu、Mg及びMnの各濃度の順に、各濃度で設定された判別条件に基づいて、対応する合金種を順次判別する、という技術的手段を用いる。
【0018】
請求項6に記載の発明では、レーザ誘起プラズマ発光分析法を用いて金属スクラップの判別を行う金属スクラップ判別装置であって、レーザ光を出力するレーザ発振器と、前記レーザ発振器から出力されたレーザ光を判別対象である金属スクラップに集光照射する対物レンズと、レーザ光が照射され金属スクラップから発生したレーザ誘起プラズマから放射される放射光を集光する集光手段と、前記集光手段より集光された放射光を分光し、発光スペクトルを取得する分光器と、前記分光器で取得した発光スペクトルのスペクトル線強度に基づいて、あらかじめ設定された判別に使用する成分元素の濃度を算出し、金属スクラップの合金種を判別する演算処理手段と、を備え、前記対物レンズの焦点距離は、金属スクラップの形状のばらつきに起因する金属スクラップ表面とレーザ光の光源との距離の変動がレーザ光のエネルギー密度の変動に及ぼす影響が小さくなる長焦点であって、レーザ光のエネルギー密度が成分元素の濃度分析が可能なエネルギー密度となる距離に固定して設定されており、請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の金属スクラップの判別方法を実施可能に構成されている、という技術的手段を用いる。
【0019】
請求項7に記載の発明では、金属スクラップ選別システムが、請求項6に記載の金属スクラップ判別装置と、前記金属スクラップ判別装置に金属スクラップを搬送し、合金種を判別した後の金属スクラップを前記金属スクラップ判別装置から搬出する搬送装置と、前記金属スクラップ判別装置から搬出された金属スクラップを合金種毎に振り分ける選別装置と、を備えた、という技術的手段を用いる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、レーザ誘起プラズマ発光分析法を用いた金属スクラップの判別方法において、照射するレーザ光を金属スクラップに集光する焦点距離は、金属スクラップの形状のばらつきに対応し、レーザ光のエネルギー密度が成分元素の濃度分析が可能なエネルギー密度となる距離に設定されているため、金属スクラップの高さの変化に対して、照射されるレーザ光の面積の変化を小さくすることができるので、エネルギー密度の変動を小さくすることができる。また、成分元素のスペクトル線強度と判別対象の主成分のスペクトル線強度との強度比は、金属スクラップの高さの影響をほとんど受けない。これにより、金属スクラップの形状等の影響をほとんど受けずに成分元素の分析を行うことができ、合金種を正確に判別することができる。
【0021】
請求項2に記載の発明のように、照射するレーザ光のエネルギー密度は、測定環境の雰囲気ガスのブレークダウンプラズマが成分元素のスペクトル線強度の測定を阻害しないエネルギー密度に設定することが好ましい。これにより、スペクトル線強度を増大させることができ、そのバックグラウンドとの比LBR(Line-to-background ratio)を大きくすることができるので、分析精度を向上させることができる。
【0022】
本発明の金属スクラップの判別方法は、請求項3に記載の発明のように、アルミニウム合金からなる金属スクラップの判別に好適に用いることができる。Alはスペクトル線が少なく、合金種の判別に用いる成分元素のスペクトルとの分離が容易であるからである。
【0023】
本発明では、アルミニウム合金の合金系に特徴的な主要添加元素の濃度の違いを利用する判別法を採用し、請求項4に記載の発明のように、判別に使用する成分元素をSi、Zn、Cu、Mg及びMnとした。また、請求項5に記載の発明のように、Si、Zn、Cu、Mg及びMnの順に、各濃度に基づいて対応する合金種を判別する判別方法を採用した。これによれば、まず、鋳物材と展伸材とを判別した後に、展伸材を各合金系として順次判別することができ、効率的に合金種を判別することができる。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、本発明の金属スクラップの判別方法により金属スクラップの合金種を判別する金属スクラップ判別装置を提供することができる。
【0025】
請求項7に記載の発明によれば、金属スクラップ判別装置に搬送装置及び選別装置を組み合わせることにより、本発明の金属スクラップの判別方法により金属スクラップの合金種を判別し、合金種毎に振り分ける金属スクラップ選別システムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】金属スクラップ選別システムの構成を模式的に説明図である。
図2】金属スクラップ判別装置の構成を模式的に説明図である。
図3】アルミニウム合金スクラップを判別するためのフローチャートである。
図4】アルミニウム合金の発光スペクトルの一例を示す説明図である。
図5】アルミニウム合金スクラップの合金種を判別するためのフローチャートである。
図6】レーザ光エネルギーが30 mJ、60 mJおよび90 mJ のときに観測された発光スペクトルの一例を示す図である。
図7】レーザ光エネルギーの発光スペクトルへの影響を評価するために、銅のスペクトル線強度とバックグラウンドを測定した結果を示す図である。
図8】スペクトル線強度とバックグラウンドとの比LBRをレーザ光エネルギーに対してプロットした図である。
図9】試料の高さを変化させたときのスペクトル線強度の測定を示す図である。(a)は成分元素の銅のスペクトル線Cu I 521.8 nm、(b)は母体のアルミニウムのスペクトル線Al I 396.1 nmである。
図10】各試料高さにおける銅とアルミニウムのスペクトル線強度比を示す図である。
図11】Cuの検量線を示す図である。(a)は分析用スペクトル線としてCu I 521.8 nmを用いたときの検量線、(b)は分析用スペクトル線としてCu I 324.7 nmを用いたときの検量線である。
図12】Si、Zn、Mg及びMnの検量線をそれぞれ示す図である。
図13】選別試験に用いたアルミニウム合金スクラップ試料を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る金属スクラップの判別方法、金属スクラップ判別装置及び金属スクラップ選別システムについて図を参照して説明する。以下、アルミニウム合金スクラップの判別方法を例に説明する。
【0028】
(金属スクラップ判別装置及び金属スクラップ選別システムの構成)
図1に示すように、金属スクラップ選別システムSは、金属スクラップ判別装置1と、搬送装置2と、選別装置3と、を備えている。
【0029】
搬送装置2は、金属スクラップ判別装置1に判別対象である金属スクラップMを搬送し、合金種を判別した後の金属スクラップMを金属スクラップ判別装置1から搬出する。搬送装置2として、ベルトコンベアや回転ステージなどを備えた公知の搬送手段を採用することができる。ここで、搬送装置2は、金属スクラップMを1つずつ格納し、移動可能なセルなどを設けてもよい。
【0030】
また、搬送装置2は、金属スクラップ判別装置1のパルスジェネレータ15(図2)から送出されるレーザパルスの繰返し周波数の同期信号により金属スクラップ判別装置1によるレーザ光照射のタイミングに合わせて、金属スクラップMを静止状態で判別した後に移動するSTOP/GO方式を採用することもできる。これによれば、静止状態でレーザ光を照射するため再現性の良い元素分析ができるので、判別精度を向上させることができる。また、判別後の金属スクラップMの振り分けが容易になることである。
【0031】
選別装置3は、金属スクラップ判別装置1から送出される判別対象の合金種の判別結果に基づいて、金属スクラップ判別装置1から搬出された金属スクラップMを合金種毎に振り分ける。
【0032】
金属スクラップ判別装置1は、レーザ誘起プラズマ発光分析法(laser-induced plasma spectroscopy, LIPS)を用いて金属スクラップを判別する装置である。
【0033】
図2に示すように、金属スクラップ判別装置1は、判別対象である金属スクラップMにレーザ誘起プラズマPを発生させるためのレーザ光Lを出力するレーザ発振器10と、レーザ発振器10から出力されたレーザ光Lを判別対象である金属スクラップMに集光照射する対物レンズ11と、レーザ光Lが照射され金属スクラップMから発生したレーザ誘起プラズマから放射される放射光を集光する集光手段12と、集光手段12より集光された放射光を分光し、発光スペクトルを取得する分光器13と、分光器13で取得した発光スペクトルのスペクトル線強度に基づいて、あらかじめ設定された判別に使用する成分元素の濃度を算出し、判別対象の合金種を判別するとともに、金属スクラップ判別装置1の制御を行う処理システム14と、を備えている。
【0034】
レーザ発振器10として、波長1064nmの基本波のNd:YAGパルスレーザ(パルス幅10ns)を発振する発振器を採用した。本実施形態では、パルスエネルギーは10-100mJ/pulseに調整し、繰り返し周波数は10Hzとした。ここで、繰り返し周波数は、搬送装置2が応答可能な周波数に設定することができる。
【0035】
対物レンズ11として、通常LIPSで使用される焦点距離が数-20cm程度の凸レンズではなく、長焦点、例えば焦点距離が600mmの凸レンズを用いる。これにより、様々な大きさや形状の金属スクラップMの分析が可能となる.
【0036】
また、短焦点の対物レンズを用いると、金属スクラップMの高さの変化に対して、照射されるレーザ光の面積が大きく変化するため、エネルギー密度の変動が大きくなり、正確な分析を行うことができない。また、焦点ずれが大きくなるのにつれてエネルギー密度が大きく低下するため、発光スペクトルのスペクトル線強度が低下して分析を行うことが困難になる。例えば、「レーザ生成プラズマの発光特性に与えるレーザの焦点ずれの影響」(中部大学工学部紀要 第31巻 p.79(1995)には、レーザ光を焦点距離50mmの対物レンズで集光し、焦点ずれ量を-7mm-+7mmで変化させたところ、当該範囲内でスペクトル線強度が大きく低下することが報告されている。
【0037】
このため、従来のLIPSでは、金属スクラップMの高さに応じて、対物レンズを移動させる必要があった。本発明では、長焦点の対物レンズ11を採用しているので、金属スクラップMの高さの変化に対して、照射されるレーザ光の面積の変化を小さくすることができるので、エネルギー密度の変動を小さくすることができる。これにより、金属スクラップMの高さに応じて対物レンズを移動させなくても正確な分析を行うことができ、対物レンズの移動機構を設ける必要がない。
【0038】
集光手段12は、金属スクラップMから放射される放射光を集光し、分光器13に入力する。ここで、集光手段12は、レーザ光Lの入射光軸に近接して配置されることが好ましい。レーザ光軸方向には、放射光の一部が必ず発生するため、金属スクラップMの表面が傾斜しているときでも、放射光を確実に測定できるからである。本実施形態では、集光手段12として光ファイバを用いるが、光ファイバに代えて、ミラーや集光レンズを用いることもできる。
【0039】
分光器13は、検出器を内蔵しており、集光手段12より集光された放射光を分光し、発光スペクトルを取得し、処理システム14に送出する。ここで、金属スクラップ判別装置1によりアルミニウム合金の金属スクラップを判別するために、判別に必要な成分元素であるAl、Si、Zn、Cu、Mg及びMnのスペクトルを測定可能なように、測定波長範囲の広い分光器を使用する。例えば、測定波長域が200-700nm程度の多元素のスペクトル線を同時に測定することができる分光器を採用する。
【0040】
処理システム14は、演算処理手段である演算部14aと、制御部14bと、を備えている。
【0041】
演算部14aには、分光器13により取得された発光スペクトルのスペクトル線強度から各測定対象成分の濃度を取得するために予め実験的に求められた、スペクトル線強度と濃度との関係を示す検量線が記憶されている。検量線は、金属スクラップMの合金種を判別するために必要な成分元素毎に作成されており、本実施形態ではSi、Zn、Cu、Mg及びMnの検量線がそれぞれ記憶されている。
【0042】
演算部14aでは、検量線を用いて金属スクラップMの成分元素の濃度を算出し、判別対象の合金種を判別する。金属スクラップMの合金種の判別結果は、選別装置3に送出される。
【0043】
制御部14bは、レーザ光Lの出力など、金属スクラップ判別装置1の制御を行う。
【0044】
(金属スクラップの判別方法)
本発明に係る金属スクラップの判別方法について、アルミニウム合金スクラップの判別方法を例に説明する。
【0045】
まず、金属スクラップ判別装置1において判別可能な寸法に調整された金属スクラップMを搬送装置2により金属スクラップ判別装置1に搬送する。ここで、搬送装置2として、金属スクラップMを1つずつ格納するセルを備えた搬送装置を例に説明する。
【0046】
搬送装置2は、金属スクラップMが格納されたセルが金属スクラップ判別装置1の測定位置に到達すると、搬送を停止する。
【0047】
図3にアルミニウム合金スクラップを判別するためのフローチャートを示す。ステップS1では、レーザ発振器10から出力されたレーザ誘起プラズマPを発生させるためのレーザ光Lを、対物レンズ11により集光し、金属スクラップMに照射する。ここで、照射するレーザ光Lのエネルギー密度は、測定環境の雰囲気ガス、本実施形態では大気、のブレークダウンプラズマが成分元素のスペクトル線強度の測定を阻害しない強度に設定されている。これにより、スペクトル線強度を増大させることができ、そのバックグラウンドとの比LBR(Line-to-background ratio)を大きくすることができるので、分析精度を向上させることができる。
【0048】
続くステップS2では、レーザ光Lの照射により発生したレーザ誘起プラズマPからの放射光を分光器13により分光し、発光スペクトルを取得する。発光スペクトルのデータは処理システム14に送出される。図4に発光スペクトルの一例を示す。
【0049】
続くステップS3では、あらかじめ設定された判別に使用する成分元素のスペクトル線強度に基づいて、当該成分元素の濃度を算出する。金属スクラップMにレーザ光が照射されると、レーザ誘起プラズマが発生する。成分元素が励起状態から下準位に遷移する際に、成分元素に固有の波長のプラズマ光を放射する。放射光の強度は原子数にほぼ比例するので、成分元素に固有の波長のスペクトル線強度から当該成分元素の濃度を算出することができる。
【0050】
成分元素の濃度の算出は、処理システム14の演算部14aにおいて、図11(B)及び図12に示すように、演算部14aに記憶されているSi、Zn、Cu、Mg及びMnの検量線に基づいて行う。検量線は、標準試料を用いて各成分元素の濃度とスペクトル線強度の関係をプロットして作成されており、成分元素のスペクトル線の強度と主成分であるアルミニウムのスペクトル線Al I 396.1 nmとの強度比を縦軸に、成分元素の濃度を横軸にとってプロットしたものである。
【0051】
ここで、金属スクラップMは様々な形状をしているため、高さが異なり、観測されるスペクトル線強度が変化する。実施例に示すように、成分元素とアルミニウムのスペクトル線強度の高さに対する変化はほぼ同様な傾向を示しているため、両者の比をとることにより試料高さの違いによるスペクトル線強度の変動を補正することができる。これにより、金属スクラップMの形状(例えば、凸凹など)の影響を受けにくく、高精度に測定することができる。そこで、成分元素の濃度の分析には、成分元素のスペクトル線と母体のアルミニウムのスペクトル線の強度比を用いることにした。これにより、スペクトル線強度のばらつきを極めて小さくすることができるので、レーザ光の照射を1回行うだけで、正確な分析を行うことができる。
【0052】
続くステップS4では、各成分元素の濃度に基づいて、判別対象の合金種を判別する。
【0053】
アルミニウム合金は大別すると鋳物・ダイカスト材と展伸材に分けられ、展伸材は主要添加元素の種類によって1000系-8000系の8種類の合金系に分類される(JIS H 4000:2014)。ここで、同じ合金系でも添加元素の濃度は個々に異なるため、スクラップ選別では各合金系について一定の成分規格を設定する必要がある。
【0054】
表1に成分規格の一例を示す。実際のアルミニウム合金のスクラップの再利用を考慮して、6種類の合金系に分類したもので、鋳物・ダイカスト材及び展伸材の4000系合金は鋳物・ダイカスト材のADC12に再利用する。
【0055】
【表1】
【0056】
アルミニウム合金スクラップを選別するには、濃度の成分元素の分析値を各合金系の成分規格値と比較することにより行う。ここで、すべての成分元素を判定する方法は必ずしも有効な選別方法ではない。低濃度元素のスペクトル線強度は弱いためバックグラウンドの影響を受けやすく、判定元素に低濃度元素を含めると判別できない場合が生じるからである。
【0057】
本発明では、各合金系に特徴的な主要添加元素の濃度の違いを利用して効率的に判別する判別法を見出した。図5にアルミニウム合金の合金種を判別するためのフローチャートを示す。
【0058】
まず、鋳物材と展伸材のSi濃度の違いを利用し、Si濃度(重量%。以下の成分元素についても同じ)の下限値を2%として、2%を超えたものを、Si濃度が高い4000系も含めて鋳物材ADC12として判別する。
【0059】
次に、展伸材を各合金系に選別する。まず、添加元素のZn濃度の下限値を2%として、2%を超えたものを7000系と判別する。
【0060】
続いて、Cu濃度の下限値を1.5%として、1.5%を超えたものを2000系と判別する。
【0061】
続いて、Mg濃度の下限値を1.5%として、1.5%を超えたものを5000系と判別する。
【0062】
最後に、Mn濃度の下限値を0.5%に設定して、0.5%を超えたものを3000系と判別し、0.5%以下であったものを、1000系を含む6000系と判別する。
【0063】
必要に応じて、上記6000系と判別された金属スクラップMについて、更に判別を進めることもできる。Mg濃度の上限値を0.3%として、0.3%未満のものを1000系、0.3%以上のものを6000系と判別する。
【0064】
更に、他の成分元素に着目して、更に細かく合金種の判別を行うこともできる。また、8000系を判別する場合には、3000系を判別した後にFe濃度の下限値を0.6%に設定して、0.6%を超えたものを8000系と判別し、0.6%以下のものを、1000系を含む6000系と判別する。
【0065】
なお、上記の判別に用いる成分元素の濃度の閾値は、規格の変更などに応じて適宜適切な値に設定することができる。
【0066】
金属スクラップMの合金種の判別結果は、格納されたセルの情報と関連付けされて、演算部14aから選別装置3に送出される。
【0067】
合金種を判別した後のアルミニウム合金スクラップは、搬送装置2により金属スクラップ判別装置1から搬出され、選別装置3に送られる。
【0068】
選別装置3では、金属スクラップ判別装置1から送出される判別対象の合金種の判別結果に基づいて、金属スクラップ判別装置1から搬出された金属スクラップMを合金種毎に振り分ける。スクラップの振り分けには、判別結果に対応して合金種別に用意されたスクラップ受け入れ口がセルに対して移動する「受け」方式や、合金種別スクラップ受け入れ口が固定され、セルから金属スクラップMを判別結果と一致した受け入れ口に落とす「落とし」方式など、各種方式を採用することができる。
【0069】
(変更例)
本発明の金属スクラップの判別方法は、鉄系材料など各種金属スクラップの判別にも適用することができる。例えば、鉄系材料からなる金属スクラップの判別は、成分元素Ni、Cr、Mo、Mnなどに着目して行うことができる。
【0070】
本発明の金属スクラップの判別方法によれば、レーザ光の照射を1回行うだけで、迅速に正確な分析を行うことができるので、金属スクラップMを停止させることなくレーザ光を照射して合金種を判別することができる。
【0071】
(実施形態の効果)
本発明の金属スクラップの判別方法及び金属スクラップ判別装置1によれば、照射するレーザ光Lを金属スクラップに集光する焦点距離は、金属スクラップの形状のばらつきに対応し、レーザ光のエネルギー密度が成分元素の濃度分析が可能なエネルギー密度となる距離に設定されているため、金属スクラップの高さの変化に対して、照射されるレーザ光の面積の変化を小さくすることができるので、エネルギー密度の変動を小さくすることができる。また、成分元素のスペクトル線強度と判別対象の主成分のスペクトル線強度との強度比は、金属スクラップの高さの影響をほとんど受けない。これにより、金属スクラップの形状等の影響をほとんど受けずに成分元素の分析を行うことができ、合金種を正確に判別することができる。
【0072】
本発明の金属スクラップの判別方法は、アルミニウム合金からなる金属スクラップの判別に好適に用いることができる。アルミニウム合金の合金系に特徴的な主要添加元素の濃度の違いを利用する判別法を採用し、1回のレーザ光照射により、鋳物材と展伸材とを各合金系として順次判別することができ、効率的に合金種を判別することができる。
【0073】
金属スクラップ判別装置1に搬送装置2及び選別装置3を組み合わせることにより、本発明の金属スクラップの判別方法により金属スクラップMの合金種を判別し、合金種毎に振り分ける金属スクラップ選別システムSを構築することができる。
【実施例
【0074】
本発明の効果を検証するために、アルミニウム合金スクラップの判別試験を行った。
【0075】
(金属スクラップ選別装置)
実施例で使用した金属スクラップ判別装置の仕様を表2に示す。レーザ光は、Nd:YAGレーザ光を使用し、対物レンズは焦点距離が600mmの長焦点の凸レンズを用いた。分光器は、アルミニウム合金の判別に必要な成分元素であるAl、Si、Zn、Cu、Mg及びMnのスペクトルを測定可能なように、測定波長範囲の広い分光器を使用する。本実施例では、測定波長域は245-680nmであり、多元素のスペクトル線を同時に測定することができる。
【0076】
【表2】
【0077】
レーザ光は繰返し周波数10Hzで動作させ、分光器の露光時間は100msに設定した。スペクトル線強度はレーザ光1ショットのときの強度とした。
【0078】
(試料)
標準試料には、日本軽金属(株)の発光分析用アルミニウム合金標準試料(AC1A、 AC2B、 AC3A、 AC4C、 AC5A、 ADC10、 ADC12、 3SNDC2、7075NDC2)とALCOA社のアルミニウム標準試料Cuシリーズ(CU-1B、 CU-2B、 CU-3B、 CU-4A、 SA-1973、 CU-6D、 CU-7B)を用いた。これら16個の標準試料の主要添加元素の組成を表3に示す。また、アルミニウム合金スクラップの選別に用いる成分元素(Cu、Si、Zn、Mg、Mn) の分析線を同定するために、純金属試料の銅(純度99.9%)、ケイ素(99.999 %)、亜鉛(99.5 %)、マグネシウム(99.95 %)、マンガン(99.9 %)及びアルミニウム(99.9 %)を用いた。選別用のアルミニウム合金は、鋳物材と展伸材を含むスクラップ試料を用いた。
【0079】
【表3】
【0080】
(レーザ光エネルギーとスペクトル線強度)
LIPSでは、スペクトル線強度はレーザ光エネルギーに大きく依存し、特に大気中ではガスブレークダウンの影響により、レーザ光エネルギーを増大させても必ずしもスペクトル線強度が増大しない場合がある。そこで、まず、レーザ光エネルギーとスペクトル線強度の関係について調べた。図6は、レーザ光エネルギーが30 mJ、60 mJおよび90 mJ のときに観測された発光スペクトルの一例である。試料にはアルミニウム標準試料(CU-7B)を用いた。いずれの場合も、母体のアルミニウムと成分元素の銅のスペクトル線が観測されているが、レーザ光エネルギーが60 mJと90 mJのときのスペクトル線強度は30 mJのときの強度より減少している。一方、バックグラウンドはレーザ光エネルギーとともに増大している。
【0081】
レーザ光エネルギーの発光スペクトルへの影響を定量的に評価するために、レーザ光エネルギーを10 mJから100 mJまで変化させて、銅のスペクトル線Cu I 521.8 nmの強度とバックグラウンドを測定した。図7に測定結果を示す。スペクトル線強度はレーザ光エネルギーとともに増大し、30 mJ付近で最大となり、その後減少している。これに対して、バックグラウンドは20 mJを超えるあたりからレーザ光エネルギーに比例して増大している。このような現象が生じる原因は、試料上方で生成される雰囲気ガスのブレークダウンプラズマによるものである。すなわち、大気中でレーザ光エネルギーを大きくしすぎると、空気のブレークダウンプラズマによってレーザ光エネルギーが吸収され、試料のアブレーション効率が減少するとともに、バックグランド発光を増大させるためである。このことは、図6のスペクトルにおいて、レーザ光エネルギー30 mJの場合にわずかに観測される窒素のスペクトル線N II 500 nmの強度が、60 mJと90 mJでは急激に大きくなっていることからも明らかである.
【0082】
また、スペクトル線強度に加えて、そのバックグラウンドとの比LBR(Line-to-background ratio)が大きいことが重要である。図8は、図7の結果を用いて計算したLBRをレーザ光エネルギーに対してプロットしたものである。この結果から、LBRはスペクトル線強度と同様、レーザ光エネルギーが30 mJ付近で最大となることがわかる。なお、30 mJのときのスペクトル線強度は100mJのときの約2倍であるのに対して、LBRは約7倍になっている。したがって、レーザ光エネルギーは30 mJに設定した。
【0083】
(試料の高さとスペクトル線強度)
分析対象となるアルミニウム合金スクラップは様々な形状をしているため、試料毎に高さが異なり観測されるスペクトル線強度が変化する。そこで、試料の高さとスペクトル線強度の関係について調べた。試料の高さは試料ステージを上下することによって変化させ、試料表面が対物レンズの焦点位置にあるときの高さを0 mmとした。
図9は、試料の高さを0mmから20mmまで変化させたときのスペクトル線強度の測定結果で、(a)は成分元素の銅のスペクトル線Cu I 521.8 nm、(b)は母体のアルミニウムのスペクトル線Al I 396.1 nmである。いずれの場合も、スペクトル線強度は試料の高さが高くなるにつれて減少している。これは試料を上方へ移動すると試料表面でのレーザ光のビーム径が大きくなり、レーザ光パワー密度が減少するためである。試料の高さの違いによるスペクトル線強度の変化は定量分析精度を低下させるため、分析に際しては試料の高さを一定に保つことが必要となるが、スクラップ試料は場所によって厚さが異なるため、常に一定の試料高さで分析することは困難である。
【0084】
しかし、図9から分かるように、銅とアルミニウムのスペクトル線強度の高さに対する変化はほぼ同様な傾向を示しているため、両者の比をとることにより試料高さの違いによるスペクトル線強度の変動を補正することが期待できる。そこで、各試料高さにおける銅とアルミニウムのスペクトル線強度比を計算した。その結果、図10に示すように、強度比は試料高さの影響を受けずに焦点ずれ量が片側20mmという広い範囲でほぼ一定となることがわかる。この結果から、アルミニウム合金スクラップ試料の成分分析には、成分元素のスペクトル線と母体のアルミニウムのスペクトル線の強度比を用いることにした。
【0085】
(検量線)
標準試料を用いて各成分元素の濃度とスペクトル線強度の関係をプロットして検量線を作成した。
【0086】
まず、成分元素の1つであるCuの検量線を作成した。図11に結果を示す。分析用スペクトル線としてCu I 521.8 nmとCu I 324.7 nmを用い、アルミニウムのスペクトル線 Al I 396.1 nmとの強度比を縦軸に、銅の濃度を横軸にとってプロットしたものである。スペクトル線強度は10回の測定の平均値で、標準試料にはALCOA社のアルミニウム標準試料を用いた。分析線にCu I 521.8 nmを用いた場合、スペクトル線強度比は元素濃度に比例して直線的に増加しているのに対して、Cu I 324.7 nmの場合はスペクトル線の自己吸収の影響により検量線は湾曲している。しかし、アルミニウム合金に含まれる銅の濃度範囲(-5%)では、Cu I 521.8 nmに比べてCu I 324.7 nmの方が元素濃度に対するスペクトル線強度変化が大きく、強度も約2倍高くなっている。さらに、スペクトル線Cu I 521.8 nmは、空気のブレークダウンによって生ずるバックグラウンドおよび窒素スペクトルの影響を受け、銅の濃度が低いときスペクトル線強度の分析精度が低下する場合がある。したがって、銅の分析線にはCu I 324.7 nm(図11(B))を採用した。
【0087】
同様にして、標準試料には日本軽金属(株)の発光分析用アルミニウム標準試料を用いて他の成分元素のSi、Zn、Mg及びMnのスペクトル線について調べ、各元素の分析線として、Si I 288.1 nm、Zn I 334.5 nm、Mg I 383.8 nmおよびMn I 403.0 nmを選定した。図12に各元素の検量線を示す。
【0088】
Mnの極低濃度の領域以外では、成分元素の濃度とスペクトル線強度比の間に良好な比例関係が認められた。これにより、アルミニウム合金スクラップの検量線を用いた成分分析が可能である。
【0089】
なお、分光器として、例えば、測定波長域が200-400nmであり波長分解能が高い分光器を用いた場合には、より精度の良いスペクトル線強度測定が可能になる。このとき、Zn及びMgの分析線として、より精度の良いスペクトル線である206.1nm、285.2nmをそれぞれ採用することもできる。
【0090】
(アルミニウム合金の判別)
図4のフローチャートに基づいて判別試験を行った。試料にはアルミニウム合金標準試料から3種類の鋳物材(AC1A、 AC2B、 ADC12)と2種類の展伸材(3SNDC、 7075)を用いた。表4は、各試料について2回ずつ分析して得られた主成分元素濃度と判別結果である。鋳物材はADC12として、また展伸材は主成分元素の応じた合金系に判別されている。なお、鋳物材のAC1AはSi濃度が2%未満のため、展伸材の2000系として判別されている。この結果から、いずれの試料も添加元素に相当する合金系に判別され、図5のフローチャートに基づいてアルミニウム合金が判別できることが確認できた。
【0091】
【表4】
【0092】
次に、実際のスクラップ試料の選別を行った。図13に選別試験に用いたアルミニウム合金スクラップ試料を示す。アルミニウム合金スクラップ試料は、鋳物系合金7個、展伸材の6000系合金114個の合計121個である。鋳物系試料は1から7、展伸材6000系試料は8から121までの通し番号を記入し、分析、選別を行った。その結果、1から7までの試料は鋳物材(ADC12)として、また残りの114個はすべて6000系として選別され、形状や厚みが異なるスクラップ試料も選別できることが確認できた。
【符号の説明】
【0093】
1…金属スクラップ判別装置
2…搬送装置
3…選別装置
10…レーザ発振器
11…対物レンズ
12…集光手段
13…分光器
14…処理システム
14a…演算部
14b…制御部
15…パルスジェネレータ
L…レーザ光
M…金属スクラップ
P…レーザ誘起プラズマ
S…金属スクラップ選別システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13