(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】部品組付装置の較正方法
(51)【国際特許分類】
B25J 13/08 20060101AFI20220428BHJP
【FI】
B25J13/08 A
(21)【出願番号】P 2018000462
(22)【出願日】2018-01-05
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】592129774
【氏名又は名称】株式会社FDKエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】片桐 匡教
(72)【発明者】
【氏名】水野 達也
(72)【発明者】
【氏名】友田 直行
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-067606(JP,A)
【文献】特開平02-083406(JP,A)
【文献】特開平02-198791(JP,A)
【文献】特開平04-141384(JP,A)
【文献】特開平04-336988(JP,A)
【文献】特開平08-118272(JP,A)
【文献】特開平11-191699(JP,A)
【文献】特開2007-185723(JP,A)
【文献】特開2011-143497(JP,A)
【文献】特開2011-177845(JP,A)
【文献】特開2012-076216(JP,A)
【文献】特開2014-104529(JP,A)
【文献】特開2015-174191(JP,A)
【文献】国際公開第2017/145349(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0320039(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 9/10-19/04
B23P 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端効果器を備えたスカラロボットと、所定の視野領域を撮影して画像データを出力するカメラと、制御部とを備えて所定の固定位置に設置されたワークに設けられた組付領域に部品を組み付ける部品組付装置の較正方法であって、
前記ワークの外形を模して、前記組付領域と同形状の基準領域を備えた基準点治具と、先端の平面形状が前記基準領域と同形状の棒状部を有する位置決め用治具と、前記棒状部の軸方向と交差する方向に突出するマーカー用治具とを用い、
前記制御部は、
前記カメラが撮影する前記視野領域内に直交座標系としてxy座標系を設定するとともに、前記末端効果器の水平方向への可動範囲内に直交座標系としてXY座標系を設定し、
前記カメラが撮影する前記固定位置に設置された基準点治具の前記基準領域の画像データを処理して当該基準領域の
輪郭を抽出するとともに、当該輪郭を形成する座標領域に基づいてカメラ基準点のxy座標を設定するカメラ基準点設定ステップと、
前記棒状部の先端が鉛直下方を向くように、前記位置決め
用治具が前記末端効果器に保持されている状態で、前記スカラロボットに対するティーチングにより、前記棒状部の先端を前記基準領域に位置合わせさせる位置合わせステップと、
前記位置合わせステップにより、
前記棒状部の先端において前記カメラ基準点に相当するロボット基準点のXY座標を設定するロボット基準点設定ステップと、
前記カメラ基準点と前記ロボット基準点との対応関係を記憶する基準点記憶ステップと、
前記マーカー用治具が鉛直方向に対して交差する方向に突出するように前記末端効果器に保持されている状態で、前記スカラロボットに、前記マーカー用治具の先端が前記カメラの視野領域内でX軸に沿って所定の距離Dだけ直線移動させるマーカー移動ステップと、
前記カメラから出力された前記マーカー移動ステップの前後での画像データに基づいて特定される前記X軸の方向とx軸との交差角度を求めるとともに、前記所定の距離Dと前記カメラの撮影領域内における前記マーカー用治具の先端の移動距離dとの対応関係とを求める補正ステップと、
を実行し、
xy座標系を前記XY座標系に変換するための変換式を求める、
ことを特徴とする部品組付装置の較正方法。
【請求項2】
請求項1に記載の部品組付装置の較正方法において、
前記位置
決め用治具が前記末端効果器に保持されている状態で、前記基準点治具を、前記
カメラ基準点を通る鉛直方向の軸周りに回転させて、異なる三つ以上の複数の回転状態で停止させ、
前記制御部は、前記複数の回転状態のそれぞれにおいて、前記位置合わせステップを実行するとともに、複数の前記位置合わせステップの実行機会毎に、前記末端効果器を水平面内で回転させる鉛直方向の軸のXY座標を記憶する回転軸座標記憶ステップと、
前記複数の位置合わせステップの実行機会にて記憶した前記軸のXY座標に基づいて、当該軸と前記末端効果器までのアーム長を計算するアーム長計算ステップと、
を実行して前記変換式を補正する、
ことを特徴とする部品組付装置の較正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平多関節ロボットとマシンビジョンを備えた部品組付装置の較正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水平多関節ロボットは、SCARA(Selective Compliance Assembly Robot Arm)などと呼ばれる周知の産業用ロボットマニピュレータであり、この水平多関節ロボット(以下、スカラロボットとも言う)を用いた部品組付装置は、組み付ける部品(以下、部品とも言う)を、組み付け先となる部品や製品(以下、ワークとも言う)の所定の位置に所定の態様(挿入、係合など)で組み付ける。スカラロボットは、複数の回転関節と、隣接する二つの回転関節間に架け渡されるリンクと、一端が回転関節に軸支されたアームとを備えている。アームの他端には、末端効果器あるいはエンドエフェクタと呼ばれる部品を着脱自在に保持する機構(以下、末端効果器とも言う)が取り付けられる。回転関節の回転軸方向を鉛直方向とすると、スカラロボットのアームは、普通、自身が軸支されている回転関節によって水平面と平行な面内で回転するとともに、回転関節に組み込まれた直動関節により、鉛直方向にも移動する。
【0003】
スカラロボットは、末端効果器の移動範囲内に座標を設定し、座標を指定するデータが入力されると、各関節に組み込まれたサーボモータを制御し、指定された座標に末端効果器を移動させる。そして、末端効果器の移動先では、あらかじめ設定された手順で末端効果器が保持している部品をワークに組み付ける。
【0004】
スカラロボットに部品の組み付け位置の座標を指定する方法としては、周知のマシンビジョンを用いる方法がよく知られている。マシンビジョンは、撮像素子を備えたカメラと、カメラが出力する画像データを受信するための通信インタフェースを備えたコンピューターと、そのコンピューターに実装された画像処理プログラムとからなる基本構成を有している。また、コンピューターは、スカラロボットともデータ通信を行う。
【0005】
マシンビジョンは、画像処理プログラムの機能により、カメラの視野領域内に座標系を設定し、カメラからの画像データを画像処理することで、組み付け位置の座標を特定する。そして、コンピューターが、マシンビジョンの一機能として実装されているプログラム、あるいはマシンビジョンが出力するデータを処理するプログラムを実行することで、その組み付け位置の座標をスカラロボットの座標に置き換え、その座標をスカラロボットに指定する。
【0006】
なお、マシンビジョンの座標をスカラロボットの座標に変換する技術については、例えば、以下の特許文献1に記載された画像処理システムなどがある。また、本発明に関連して、以下の非特許文献1には、スカラロボットを操作して特定の位置の座標を記憶させたり、その位置までの動作を学習させたりする「ティーチング」について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】株式会社ゼネテック、”ロボット・オフライン・ティーチングとは?”、[online]、[平成29年12月19日検索]、インターネット<URL:http://www.mastercam.co.jp/robotmaster/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
マシンビジョンとスカラロボットを備えた部品組付装置では、部品の組み付け先となるワークの所定の位置(以下、組付位置とも言う)の座標をマシンビジョンにより特定し、その座標をスカラロボットの制御システムにフィードバックさせることで、部品を組付位置に組み付ける。そして、このような組み付け作業を行うためには、あらかじめ、部品組付装置を取り扱うユーザー側で、マシンビジョンの座標系とスカラロボットの座標系とを整合させておく較正作業(キャリブレーション)を行う必要がある。
【0010】
部品組付装置に対する較正作業は、最終的に、スカラビジョンの座標系をスカラロボットの座標系に変換するための計算式(以下、変換式とも言う)を求めることにある。一般的な較正方法の手順としては、まず、ワークにおける部品の組付位置を含む所定の領域をカメラで撮影させるとともに、マシンビジョンにその領域の画像データを処理させて部品の組付位置の座標を記憶させる。次いで、スカラロボットの末端効果器に芯金と呼ばれる位置合わせ用の治具を保持させておき、ユーザーがスカラロボットの操作入力装置であるティーチ・ペンダントを操作し、その芯金の先端を組付位置に案内する。そして、スカラロボットが、ティーチングにより記憶した組付位置の座標をマシンビジョン、あるいはコンピューターにおける所定のプログラムに受け渡す。マシンビジョン、あるいは所定のプログラムは、マシンビジョンが認識した組付位置の座標とスカラロボットから入力された組付位置の座標とに基づいて変換式を求める。部品組付装置による部品の組み付け作業では、カメラからの画像データに基づいてマシンビジョンが特定した組付位置の座標を上記変換式に代入して得た変換後の座標をスカラロボットに入力する。それによって、スカラロボットが、入力された座標に末端効果器を移動させて部品をワークに組み付ける。
【0011】
しかしながら、部品組付装置が、極めて小さな部品を、極めて高い精度で位置合わせしてワークに組み付ける「高精度組み付け」を行う場合、従来の較正方法では精度を確保することが難しくなる。特に、ワークの寸法誤差やワークにおける組付位置のずれが、許容される位置合わせ誤差よりも大きく、例えば、2mm~3mm程度の微少な部品をワークに組み付ける場合で、寸法誤差や組付位置のずれが100μm程度で、許容される位置合わせ誤差が100μm未満であるような高精度組み付けでは、従来の較正方法では、対応することが極めて難しくなる。そのため、難度の高い高精度組み付けに対応可能な較正方法が必要となる。なお、部品組付装置の較正作業を支援するための市販のシステムも存在するが、市販のシステムでは、要求される組み付け精度が達成できているか否かをユーザー側で確認することが難しい。
【0012】
また、普通、部品組付装置が備えるマシンビジョンとスカラロボットとでは、メーカーの違いなどにより、双方の制御システムが異なっている。そして、この制御システムの不整合が高精度組み付けをより困難にさせている。すなわち、ユーザーは、部品組付装置を導入する際、マシンビジョンとスカラロボットの双方の制御システムの親和性を検討し、さらに、それらの制御システムを用いて実施可能な較正方法を確認する必要がある。実施可能な較正作業に制約があれば、ユーザー側が較正作業に用いる制御システムを新規に構築することになり、時間的および経済的にユーザー側に大きな負担が掛かることになる。
【0013】
そこで、本発明は、部品組付装置において、マシンビジョンとスカラロボットの双方の制御システムの整合性に大きく依存することなく、極めて高精度の部品組み付け作業を部品組付装置に行わせることができる部品組付装置の較正方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、末端効果器を備えたスカラロボットと、所定の視野領域を撮影して画像データを出力するカメラと、制御部とを備えて所定の固定位置に設置されたワークに設けられた組付領域に部品を組み付ける部品組付装置の較正方法であって、
前記ワークの外形を模して、前記組付領域と同形状の基準領域を備えた基準点治具と、先端の平面形状が前記基準領域と同形状の棒状部を有する位置決め用治具と、前記棒状部の軸方向と交差する方向に突出するマーカー用治具とを用い、
前記制御部は、
前記カメラが撮影する前記視野領域内に直交座標系としてxy座標系を設定するとともに、前記末端効果器の水平方向への可動範囲内に直交座標系としてXY座標系を設定し、
前記カメラが撮影する前記固定位置に設置された基準点治具の前記基準領域の画像データを処理して当該基準領域の輪郭を抽出するとともに、当該輪郭を形成する座標領域に基づいてカメラ基準点のxy座標を設定するカメラ基準点設定ステップと、
前記棒状部の先端が鉛直下方を向くように、前記位置決め用治具が前記末端効果器に保持されている状態で、前記スカラロボットに対するティーチングにより、前記棒状部の先端を前記基準領域に位置合わせさせる位置合わせステップと、
前記位置合わせステップにより、前記棒状部の先端において前記カメラ基準点に相当するロボット基準点のXY座標を設定するロボット基準点設定ステップと、
前記カメラ基準点と前記ロボット基準点との対応関係を記憶する基準点記憶ステップと、
前記マーカー用治具が鉛直方向に対して交差する方向に突出するように前記末端効果器に保持されている状態で、前記スカラロボットに、前記マーカー用治具の先端が前記カメラの視野領域内でX軸に沿って所定の距離Dだけ直線移動させるマーカー移動ステップと、
前記カメラから出力された前記マーカー移動ステップの前後での画像データに基づいて特定される前記X軸の方向とx軸との交差角度を求めるとともに、前記所定の距離Dと前記カメラの撮影領域内における前記マーカー用治具の先端の移動距離dとの対応関係とを求める補正ステップと、
を実行し、
xy座標系を前記XY座標系に変換するための変換式を求める、
ことを特徴とする部品組付装置の較正方法としている。
【0015】
本発明のその他の態様は、上記部品組付装置の座標較正方法において、
前記位置決め用治具が前記末端効果器に保持されている状態で、前記基準点治具を、前記カメラ基準点を通る鉛直方向の軸周りに回転させて、異なる三つ以上の複数の回転状態で停止させ、
前記制御部は、前記複数の回転状態のそれぞれにおいて、前記位置合わせステップを実行するとともに、複数の前記位置合わせステップの実行機会毎に、前記末端効果器を水平面内で回転させる鉛直方向の軸のXY座標を記憶する回転軸座標記憶ステップと、
前記複数の位置合わせステップの実行機会にて記憶した前記軸のXY座標に基づいて、当該軸と前記末端効果器までのアーム長を計算するアーム長計算ステップと、
を実行して前記変換式を補正する、
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、部品組付装置におけるマシンビジョンとスカラロボットの双方の制御システムの整合性に大きく依存することなく、極めて高精度の部品組み付け作業を部品組付装置に行わせることができる部品組付装置の較正方法が提供される。なお、その他の効果については、以下の記載によって明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例に係る較正方法によって較正される部品組付装置の構成を示す概略図である。
【
図2】上記部品組付装置が扱う部品とワークを示す図である。
【
図3】上記部品組付装置が備えるスカラロボットの構造を示す図である。
【
図4】上記部品組付装置が備えるマシンビジョンに付属する照明装置を示す図である。
【
図5】上記部品組付装置が備えるワーク固定部の構造を示す図である。
【
図6】上記部品組付装置が備えるリニアゲージの構成の動作を示す図である。
【
図7】上記実施例に係る較正方法において使用する基準点治具と位置決め用治具を示す図である。
【
図8】上記実施例に係る較正方法において、マシンビジョンの基準点とスカラロボットの基準点とを共通化させる手順を示す図である。
【
図9】上記実施例に係る較正方法において、マシンビジョンとスカラロボットの座標軸の交差角度を求める手順と、スケーリングとを行う手順とを示す図である。
【
図10】上記実施例に係る較正方法において、スカラロボットのアームの作動軸と末端効果器の保持軸との距離を補正する手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態について、添付図面を参照しつつ以下で説明する。なお、以下の説明に用いた図面において、同一または類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。また、図面によっては、説明の際に不要な符号を省略することがある。
【0019】
===部品組付装置の概略構成===
本発明の実施例に係る方法で較正される部品組付装置は、スカラロボットとマシンビジョンを備えて、極めて小さな部品をワークの所定の組付位置に極めて高い精度で位置合わせした状態で組み付ける「高精度組み付け」を行うことができる。
【0020】
図1に本実施例の方法によって較正される部品組付装置(以下、本装置1とも言う)の概略構成を示した。本装置1は、ハードウエアとして、末端効果器11を備えたスカラロボット10、カメラ20、カメラ20を所定の位置に設置したり、その設置位置から待避させたりするためのカメラ駆動部30、外部から供給されるワーク200を部品100の組み付け作業が行われる所定の設置位置に固定するワーク固定部40、およびコンピューターで構成される制御部50などで構成されている。
【0021】
そして、制御部50は、他のハードウエア(10、20、30、40)と所定の通信インタフェース(例えば、RS232C、USB、イーサネット(登録商標)など)を介して通信可能に接続され、自身に実装されている各種プログラムを実行することで、他のハードウエア(10、20、30、40)から転送されてくるデータを処理する。そして、そのデータ処理に基づいて他のハードウエア(10、20、30、40)を制御する。例えば、上記構成において、マシンビジョンは、カメラ20と制御部50に実装された画像処理ソフトなどを含んで構成され、制御部50はカメラ20からの画像データを周知の画像認識技術によって処理し、その処理の結果として、スカラロボット10に向けて所要の動作を実行させるための座標や命令文を含んだ制御データを出力する。
【0022】
なお、制御部50のハードウエアの形態はどのようなものであってもよい。例えば、1台のコンピューターであってもよいし、部品組付装置1が備えるそれぞれの構成(10、20、30、40)に対応して個別に用意された複数台のコンピューターであってもよい。スカラロボット10に制御部50の一部が組み込まれていてもよい。すなわち、スカラロボットのコントローラーと、スカラロボット以外の構成(20、30、40)に対応して用意された1台のコンピューターとで制御部50が構成されていてもよい。いずれにしても、上述した本装置1の基本的なハードウエア構成は、従来の部品組付装置と同様である。すなわち、本発明の実施例に係る較正方法は、スカラロボットとマシンビジョンとを備えた既存の部品組付装置にも適用可能である。
【0023】
===部品とワーク===
次に、本装置1が扱う部品100とワーク200について説明する。
図2に、本装置1による高精度組み付けの対象となる部品100とワーク200の概略を示した。
図2(A)は部品10の外観図であり、
図2(B)はワーク200の外観図である。
図2(A)に示したように、部品100は、球形の第1部品101と五角柱状の第2部品102とで構成され、ともにゴムなどの弾性体からなる。そして、本装置1では、部品100をワーク200に組み付ける際、第1部品101と第2部品102とを互いに接触させた状態でスカラロボット10の末端効果器11に保持させる。具体的には、本装置1における末端効果器11は、対面する二本の指を離間、近接させるように水平方向に平行移動させて部品を摘まむ「グリッパー」であり、部品100は、その二本の指により、
図2(A)において白抜き矢印方向で示した水平方向両側から把持されることで末端効果器11に保持される。そして、太線矢印で示した鉛直下方向に移動されたのち、その移動先に待機しているワーク200の所定の組付領域に組み付けられる。
【0024】
ワーク200は、金属製で、
図1(B)に示したように、径が異なる二つの円柱部(201、202)を軸203方向に接続させた二段円柱状の外観を有している。本装置1では、部品100をワーク200に組み付ける際、ワーク200の軸203方向が鉛直方向に向きつつ、径が大きな円柱部201が上方となるように、当該ワーク200が上記ワーク固定部40により所定の設置位置に固定される。径が小さな下方の円柱部202は、上方の円柱部201を上下方向に貫通し、上端204が上方の円柱部201の上端面205対して僅かに突出している。そして、上方の円柱部201の上端面205には、矩形状の孔206が形成され、この孔(以下、組付孔206とも言う)の開口領域の中心が組付位置207であり、この組付位置207の座標が、部品100を組み付ける際にスカラロボット10が目標とする末端効果器11の移動先となる。そして、スカラロボット10は、この組付位置207に部品100を保持した末端効果器11を移動させるとともに、末端効果器11の指を制御し、部品100を組付孔206に挿入する。
【0025】
ところで、部品100は、
図2(A)に示したように、末端効果器11によって把持される方向の寸法を長さL1とし、水平面上で長さ方向と直交する方向の寸法を幅W1とすると、L1×W1≒3mm×2mmの外形寸法を有している。ワーク200の孔206の開口形状は略長方形であり、部品100は、自身の長さL1の方向と、組付孔206の長辺の方向とが平行となるように組付孔206に挿入される。しかし、本装置1が対象とするワーク200の組付孔206の長辺の長さL2は、部品100の長さL1よりも僅かに短い。したがって、本装置1は、部品100を圧縮した状態で末端効果器11に把持させつつ、その部品100を末端効果器11から押し出すようにして組付孔206に挿入する。そして、このような部品100の組み付け態様では、弾性体からなる柔らかい部品100を硬い金属からなるワーク200の組付孔206に挿入する際、部品100の一部が組付孔206の開口部の縁に接触し、部品100の一部が削れてしまう可能性がある。そのため、部品100をワーク200に組み付ける際には、末端効果器11によって保持された状態の部品100における鉛直
方向の軸
(以下、保持軸103と言うことがある)と組付位置207を通る鉛直方向の中心軸208とが同軸となるように高い精度で位置合わせを行う必要がある。そして、本装置1が行う高精度組み付けでは、部品100やワーク200の寸法誤差が0.1mm以上であるのに対し、部品100をワーク200の組付孔206に挿入する際の部品100表面と組付孔206の内面との設計上のクリアランスは、0.08mmとなっている。すなわち、本装置1には、位置ずれが0.02mm以下となる難度の高い高精度組み付けを行うことが求められている。そして、本装置1は、実施例に係る方法で較正されて、このような難度の高い高精度組み付けにも対応できるようになっている。
【0026】
===部品組付装置の具体的な構成===
実施例に係る較正方法では、従来の較正方法と同様に、スカラロボット10に対するティーチングと、マシンビジョンによる画像処理とを行って、スカラロボット10に設定された座標系とマシンビジョンに設定された座標系とを整合させている。しかし、実施例に係る較正方法では、ワーク200を模した治具やティーチングに際して末端効果器11に保持させる治具を用いるとともに、ティーチングの手順、およびマシンビジョンによるティーチング時にカメラ20が出力する画像データに対する処理の手順などの特徴を有している。それによって、本装置1が極めて高い精度で部品組み付け作業を行うことができるようになっている。以下では、まず、本装置1が備える、スカラロボット10、マシンビジョン、マシンビジョンに付帯するカメラ20以外のハードウエア構成、および高精度組み付けのための補助機構などについて説明し、その上で、上記治具の構成や較正方法の手順について説明する。
【0027】
<スカラロボット>
図3は本装置1が備えるスカラロボット10の概略構成図である。
図3に示したスカラロボット10は、鉛直方向に回転軸を有する三つの回転関節(12、13、14)と、各回転関節間(12-13、13-14)に架け渡された二本のリンク(15、16)と、先端側に末端効果器11が取り付けられたアーム
18と、このアーム
18を上下方向に昇降させるための直動関節17とを備えている。そして、アーム
18を下流側として、基端に向けて順次回転関節(14、13)とリンク(16,15)とを辿って最も上流側の回転関節12は、その回転軸112の位置が固定されている。スカラロボット10は、この最も上流にある回転軸112が固定されている点を原点O
xyzとしている。
【0028】
最も下流側にある回転関節14には、回転軸114と同軸に鉛直方向に昇降する直動関節17が内蔵され、直動関節17は、この回転関節14の回転軸(以下、作動軸114とも言う)の周りに回転する。そして、その直動関節17の下端にアーム18の一端が取り付けられている。したがって、最も下流の回転関節14により直動関節17が回転すると、アーム18は、作動軸114を中心として揺動する。
【0029】
スカラロボット10は、末端効果器11の動作状態や位置を指定する情報を、制御部50、あるいはティーチング・ペンダントに対するユーザーの操作入力により受け取ると、回転関節(12、13、14)や直動関節17を駆動するサーボモータやアクチュエーターを作動させ、末端効果器11を指定の動作状態で指定の移動先に移動させる。本装置1では、例えば、末端効果器11によって保持される部品100の中心位置を通って鉛直方向に延長する保持軸103上で、末端効果器11の下端の位置の座標を指定する。
【0030】
なお、スカラロボット10に設定された水平面上の座標をXY座標、上下方向の座標をZ座標とすると、末端効果器11の座標(X,Y,Z)は、作動軸114のXY座標、直動関節17の下端のZ座標、作動軸114のXY座標から保持軸103までの水平方向の長さ(以下、アーム長L3とも言う)、および直動関節17の下端から末端効果器11の下端までの上下方向の長さ(以下、効果器長L4とも言う)によって特定することができる。また、スカラロボット10は、ユーザーがティーチング・ペンダントを用いて操作したり、末端効果器11を手に持ったりして、末端効果器11を所定の位置に移動させるティーチング作業を受け付ける。そして、最終的な移動位置まで案内された末端効果器11の座標、各回転関節(12、13、14)の回転角度と回転軸(112、113、114)の座標、直動関節17の下端が最も上方にある状態を基準として下方にアーム18を移動させたときの降下量、あるいは最終的な移動位置に至るまでの各関節の状態(座標、回転角度、昇降量)の時系列を記述したデータを制御部50のメモリーなどに記憶する。そして、スカラロボット10は、ティーチング時に記憶されたデータを読み出して、ティーチング時の動作を再現する。
【0031】
<マシンビジョン>
上述したように、マシンビジョンは、カメラ20と制御部50に実装された画像処理プログラムを主体にして構成されている。カメラ20は撮像素子を備えたデジタルカメラであり、光学系を通して撮像素子に結像した画像を所定の形式の画像データに変換して制御部50に転送する。カメラ20は、本装置1がスカラロボット10により部品100の組み付け作業が開始されるのに先だって、カメラ駆動部30によって撮影位置まで移動される。なお、カメラ駆動部30は、本装置1の所定位置に設置されている。そして、カメラ駆動部30は、撮影位置において、カメラ20の視野領域の中心(レンズの光軸)が、設計上の組付孔206の開口中心を通るようにカメラ20を精密に移動させる。
【0032】
本装置1は、上述したように、末端効果器11によって保持された部品100を矩形状に開口する組付孔206に挿入する。組付孔206は開口面に対して下方に奥行きを有しており、組付孔206の開口面と底面との間には遠近差がある。そこで、カメラ20の光学系は、周知の両側テレセントリックレンズ、あるいはマクロレンズで構成され、撮影位置では組付孔206の開口面の高さ位置に合焦している。それによって、収差による像のボケや歪みが抑制され、組付孔206の開口面と底面の遠近差によって組付孔206の開口面と底面のそれぞれの輪郭が撮像素子に結像されないようになっている。すなわち、開口面における組付孔206の輪郭が正しい形状で撮像素子に結像される。本装置1では、カメラ20は、500万画素のモノクロ撮像素子と、マクロレンズとを備えている。また、組み付け作業に際してワーク200を撮影するときは、レンズの開口端と組付孔206の開口面との距離が65mmとなるようにワーク200に近接して設置される。なお、マクロレンズを用いてカメラ20をワーク200に近接して配置することは、上記の収差や遠近差に起因する問題を解消することに加え、カメラ20の設置スペースを小さくする効果も奏する。また、カメラ20は、被写体における8mm×6.7mmの面積を視野領域とし、1画素当たり3.3μmの解像度を有するものとなっている。そして、マシンビジョンは、カメラ20の視野領域内に二次元座標系(以下、xy座標系とも言う)を設定する。
【0033】
<エア吐出・吸引機構>
本装置1は、弾性体からなる部品100をその部品100よりも狭小な組付孔206に挿入する。そこで、本装置1にて部品100を組み付ける際、末端効果器11における二本の指の互いに対面する側の面に潤滑油を塗布しておくとともに、組付孔206の内部に潤滑剤を充填させておく。それによって、部品100の表面と組付孔206の内壁との摩擦を軽減させている。しかし、潤滑油が満たされた組付孔206を可視光による照明下でカメラ20を用いて撮影すると、潤滑油の表面で可視光が反射してしまう。そのため、マシンビジョンが、画像処理によって組付孔206の開口部の輪郭を正確に検出することが難しくなる。
【0034】
そこで、本装置1は、設置位置に固定されたワーク200の組付孔206の近傍に、パルスエアの吐出を行うノズルと、そのエアの吐出動作に同期してエアを吸引するためのノズルが、設けられている。本装置1による部品100の組み付け作業に先立って、ノズルによってパルスエアを吐出しつつ、エアを吸引すると、組付孔206とその近傍にある潤滑油が取り除かれるとともに、パルスエアによって飛散する潤滑油がエアとともに吸引される。それによって、飛散した潤滑油でワーク200の他の部位や本装置1が汚染されるのを抑止しつつ、組付孔206の内部と開口部の周囲を洗浄することができる。そして、マシンビジョンによる組付孔206の開口の輪郭検出が容易になる。
【0035】
<赤外線照明装置>
さらに、本装置1は、カメラ20での撮影時に、液体透過性に優れた近赤外線を被写体に向けて照射するための赤外線照明装置を備えている。
図4に、赤外線照明装置21を含むカメラ20の光学系の一例を示した。カメラ20のレンズ22の光軸23は、鉛直方向であり、レンズ22は下方に開口している。それによって、カメラ20は、鉛直下方に載置されたワーク200の組付孔206とその周囲を視野領域として撮影する。そして、赤外線照明装置21の筐体24の内方には、下方に向けて赤外線を照射する多数の赤外線LED25が周囲に配置されている。
図5に示した例では、筐体24はランプシェード状で下方が開放している。各赤外線LED25は、被写体となるワーク200の組付孔206に対し、上方外側から内側に向かって斜め下方方向に赤外線を照射するように筐体24の内方に保持されている。すなわち、液体透過性に優れた赤外線による照明光が、組付孔206の縁に斜めに照射される。それによって、カメラ20によって撮影される画像は、組付孔206の内方や周囲に潤滑油26が残存していても、組付孔206の開口の形状や輪郭が明確なものとなる。
【0036】
<ワーク固定部>
ワーク固定部40は、組み付け作業に際し、ワーク200を本装置1の所定の設置位置に高精度で固定する。
図5は、ワーク固定部40によってワーク200を固定した状態を示す概略図であり、ワーク200を、鉛直方向を含む面で切断したときの縦断面図に相当する。
図5に示したように、ワーク固定部40は、ワーク200の下方に突出して縮径された円柱部202が挿入される孔41を有する台座42とワーク200の拡径された円柱部201を把持する図示しない機構とを備えている。また、ワーク200は、上方の円柱部201の下端の所定位置に孔209が形成されており、台座42には、その孔209に係合する凸部43が上方に突出して形成されている。そして、ワーク200がワーク固定部40により所定の設置位置に固定されると、ワーク200は、台座42に対して固定される。
【0037】
<リニアゲージ>
マシンビジョンは、カメラ20の視野領域を二次元座標で認識する。制御部50は、マシンビジョンの座標系で記述された部品の組付位置の座標を、スカラロボット10側に設定されている水平面上の座標系で記述した座標に変換する。そして、本装置1は、部品100とワーク200の組付孔206との水平面内での位置合わせについては、以下で説明する較正方法によって極めて高い精度で制御できるようになっている。
【0038】
しかし、スカラロボット10は、直動関節17によって末端効果器11を鉛直上下方向に移動させるように構成されている。すなわち、スカラロボット10は、部品100の組付位置を三次元座標で管理している。したがって、上下方向の位置(以下、高さ位置とも言う)については、マシンビジョンとは異なる原理で部品100の組み付け位置を認識する必要がある。そして、本装置1には、高さ位置合わせについても極めて高い精度が求められている。
【0039】
具体的には、本装置1において、部品100をワーク200の組付孔206に挿入する際、末端効果器11が、弾性のある部品を下方に押し出す。このとき、末端効果器11の高さ位置が僅かに上方にずれただけでも、部品100の寸法より狭小な組付孔206に部品100を挿入することができない。その反対に、高さ位置が下方にずれると、部品100が組付孔206の底に当接し、その底に部品100の打痕が付く。そして、組付孔206の底に打痕が付いたワーク200は不良品として処理される。しかも、ワーク200は、高さ方向にも寸法誤差がある。そのため、ワーク200をワーク固定部40により所定の設定位置に固定する機会毎に、ワーク200における組付孔206の開口面の高さ位置を正確に測定し、末端効果器11の鉛直下方向への降下量を調整する必要がある。そして、本装置1は、ワーク200における組付孔206の開口面の高さ位置を高い精度で測定するためのリニアゲージを備えている。
【0040】
図6にリニアゲージ60の概略構造と動作を示した。
図6(A)、(B)に示したように、リニアゲージ60は、水平方向に突出する棒状あるいは板状のカーソル部61と、そのカーソル部61を上下方向に移動させるためのアクチュエーター62とを備え、カーソル部61の移動量に関するデータを制御部50に向けて出力するように構成されている。
【0041】
リニアゲージ60は、ワーク200が設定位置に固定されると、制御部50の制御により、カーソル部61を、例えば、
図6(A)に示した基準の高さ位置から下降させ、
図6(B)に示したように、カーソル部61の下面を、ワーク200において、組付孔206が形成されている面に当接させる。そして、リニアゲージ60は、カーソル部61が初期位置から組付孔206の開口面までの移動量Δhを示すデータを制御部50に向けて出力する。
【0042】
制御部50は、スカラロボット10から末端効果器11の下端のZ座標と、二本の指が対面する領域の中心位置のXY座標とからなる三次元座標(X,Y,Z)を常時監視し、その三次元座標(X,Y,Z)を制御部50に随時出力している。制御部50は、部品の組み付け動作を開始する前に末端効果器11のZ座標と、リニアゲージ60による開口面までの移動量Δhとに基づいて、開口面のZ座標を特定する。あるいは、制御部50に、リニアゲージ60のカーソル部61の高さ位置とZ座標との対応関係をあらかじめ記憶させておき、リニアゲージ60は、カーソル部61の高さ位置に応じた数値を制御部50に出力するように構成されていてもよい。
【0043】
なお、リニアゲージ60は、ワーク200に対して、極めて高い寸法精度で作製、設置されている。それによって、本装置1は、ワーク200の開口面のZ座標を高い精度で測定できるようになっている。なお、カメラ駆動部30がカメラ20の高さ位置を調整できるように構成されていれば、リニアゲージ60によって測定したワーク200の開口面の高さ位置に応じてカメラ20の高さ位置を調整し、カメラ20の視野領域を常に一定に維持することができる。
【0044】
一方、部品100の組付位置のXY座標については、マシンビジョンに設定された座標系(以下、xy座標系とも言う)とスカラロボット10に設定されたXY座標系とが異なる。マシンビジョンとスカラロボット10を個別に見れば、マシンビジョンは、自身のxy座標系における位置を極めて高い精度で認識することができ、スカラロボット10は、アーム18の所定箇所に末端効果器11が正確に取り付けられてさえいれば、XYZ座標系で指定された位置に末端効果器11を高い精度で移動させることができる。しかし、マシンビジョンが認識した組付位置の座標をスカラロボット10の座標に変換する際に誤差が生じれば、本装置1は、高精度組み付けを行うことができない。そして、本発明の実施例に係る較正方法は、マシンビジョンとスカラロボット10の双方の二次元座標系を正確に整合させるものである。以下に、本装置1の較正方法の手順について説明する。
【0045】
===較正方法===
<較正用治具>
実施例に係る本装置の較正方法では、種々の治具を用いる。本実施例では、ワーク200を模して組付孔206と同形状の孔(以下、基準孔とも言う)を備えた治具(以下、基準点治具とも言う)と、末端効果器11に保持させて使う治具(以下、位置決め用治具とも言う)とを用いる。
【0046】
図7に基準点治具70と位置決め用治具80とを示した。
図7に示したように、基準点治具70は、形状と外形寸法がワークと同じで、ワーク200に対して細部が簡略化されている。そして、ワーク200と同様にワーク固定部40によって所定の設置位置に固定される。基準点治具70の上端面71には、組付孔206と同じ位置に同じ形状の基準孔72が形成されている。そして、基準孔72の開口の中心が、組付位置207に相当する基準点73であり、実施例に係る較正方法では、後述するように、この基準点73の座標をマシンビジョンとスカラロボット10とで共通化させる。
【0047】
また、基準点治具70は、ワーク200と同様に、拡径された上方の円柱部(第1円柱部74とも言う)と下方の縮径された円柱部(以下、第2円柱部75とも言う)が接続された形状を有し、第1円柱部分74は、さらに、同径の二つの円柱部(74a、74b)が積層された構造を有し、上層の円柱部(以下、上層円柱部74aとも言う)は、下層の円柱部(以下、下層円柱部74bとも言う)に対し、基準位置73を通る鉛直方向の軸(以下、基準軸76とも言う)周りに回転可能に構成されている。
【0048】
位置決め用治具80は、上下方向に軸81を有する棒状の部位(以下、芯金部82とも言う)と、当該芯金部82の側方に、芯金部82に対して交差する方向に突出する棒状の部位(以下、突起部83とも言う)が接続された形状を有している。芯金部82の下端84は、基準孔72に係合する形状に形成されている。また、突起部83は、直動関節17に対するアーム18の突出方向と同方向に突出している。そして、突起部83には、上下方向に貫通する孔85が形成され、この孔85には、後述するマーカー部が取り付けられる。
【0049】
<基準点の較正>
本実施例に係る較正方法では、マシンビジョンが認識するxy座標系を、スカラロボット10が認識するXY座標系に正確に変換する。それによって、本装置1は、個々のワーク200の外形寸法や組付孔206の寸法などに誤差がある場合でも、マシンビジョンが認識した組付孔206のxy座標から変換されたXY座標に基づいて末端効果器11を組付位置に正確に移動させることができる。そして、xy座標系をXY座標系に変換するために、まず、マシンビジョンに設定されるxy座標系における基準点(以下、カメラ基準点(x0,y0)とも言う)と、スカラロボット10に設定されるXY座標系における基準点(以下、ロボット基準点(X0,Y0)とも言う)とを共通化する。
【0050】
図8に、カメラ基準点(x
0,y
0)とロボット基準点(X
0,Y
0)とを共通化する手順の概略を示した。
図8(A)は、カメラ基準点(x
0,y
0)の設定手順を示す図であり、カメラ20の視野領域120の概略を示している。
図8(B)は、ロボット基準点(X
0,Y
0)の設定手順を示す図であり、鉛直上方からスカラロボット10と基準点治具を見たときの平面図を示している。
【0051】
まず、ワーク200に代えて基準点治具70をワーク固定部40により所定の設置位置に固定する。また、カメラ駆動部30によってカメラ20を撮影位置に移動させ、カメラ20に基準孔72を含む領域を撮影させる。
図8(A)に示したように、マシンビジョンは、カメラ20が撮影している視野領域120内にxy座標を設定している。この例では、矩形状の視野領域120の特定の頂点をxy座標系の原点O
xyとして、その頂点で直交する二辺の延長方向に、それぞれx軸とy軸を設定している。そして、マシンビジョンは、カメラ20が撮影した視野領域120の画像データを画像認識技術により解析して、基準孔72の輪郭を抽出し、その輪郭を形成する座標領域に基づいて基準孔72の開口の中心位置をカメラ基準点として特定する。そして、このカメラ基準点のxy座標(x
0,y
0)をカメラ基準点として適宜なメモリーに記憶する。すなわち、カメラ基準点(x
0,y
0)を設定する。
【0052】
次に、基準点治具70を設置位置に残して、カメラ20を撮影位置から待避させた上で、スカラロボット10の末端効果器(
図7、符号11)に位置決め
用治具(
図7、符号80)を保持させる。そして、
図8(B)に示したように、スカラロボット10に対してティーチングを行い、位置決め用治具80の芯金部(
図7、符号82)を基準孔72に挿入する。スカラロボット10は、このティーチングにより記憶した末端効果器11の移動先のXY座標をロボット基準点(X0,Y0)に設定する。そして、制御部50は、カメラ基準点(x0,y0)とロボット基準点(X0,Y0)とを対応付けして自身のメモリーに記憶する。それによって、マシンビジョンとスカラロボット10の双方で基準点が共通化される。
【0053】
<座標軸の角度補正とスケーリング>
上述したようにマシンビジョンとスカラロボット10の双方の基準点を共通化したならば、次に、マシンビジョンとスカラロボット10の双方の座標軸(x軸とX軸、y軸とY軸)の交差角度を補正するとともに、双方において認識する距離を整合させる。すなわち、マシンビジョンが認識したワーク200の組付位置にスカラロボット10の末端効果器11を正しく誘導する必要がある。そのためには、末端効果器11をロボット基準点(X0,Y0)に対し、どの方向に、どの程度の距離だけ移動させるのかをスカラロボット10に指示する必要がある。そこで、マシンビジョンの座標軸(x軸、y軸)とスカラロボット10の座標軸(X軸、Y軸)との交差角度を補正するとともに、双方の距離を整合させるスケーリングを行う。
【0054】
図9に、本実施例の較正方法において、座標軸(x軸とX軸)の角度を補正しつつスケーリングを行う手順を示した。
図9(A)は、当該較正手順におけるスカラロボット10の動作を示す図であり、スカラロボット10を上方から見たときの図を示している。
図9(B)は、当該較正手順におけるカメラ20の視野領域120の画像を示している。
【0055】
まず、座標軸(x軸とX軸)の角度補正とスケーリングとを実行するために、末端効果器11に先端が鋭利な棒状の部材(以下、マーカー部86とも言う)を取り付ける。本実施例では、
図9(A)に示したように、鋭角二等辺三角形状のマーカー部86の底辺側を、
図2に示した面205と同じ高さで末端効果器11に取り付ける。そして、制御部50に実装された較正処理用のプログラムを実行し、カメラ20の視野領域120内でマーカー部86の先端がX軸とY軸の一方の座標軸方向に所定の距離Dだけ移動するようにスカラロボット10を駆動する。本実施例では、マーカー部86をX軸方向に距離D=5mm移動させている。また、カメラ20のレンズ(
図4、符号22)の開口端とマーカー部86との距離は、先の基準位置73の共通化における基準孔72の開口面とレンズ22の開口端との距離に等しい。すなわち、カメラ20の視野領域120に対応する被写体の面積が一定に維持されるようにしている。なお、マーカー部86は、鉛直方向に対して交差する方向に突出して鋭利な先端部が形成された専用の治具を使ってもよい。いずれにしても、末端効果器11に保持されてマーカー部86として機能する治具があればよい。
【0056】
一方、マシンビジョンは、
図9(B)に示したように、視野領域120内で移動するマーカー部86をカメラに撮影させ、その移動の開始時点と終了時点とで撮影した画像データ、あるいはマーカー部86の移動の開始から終了までの映像データを解析する。そして、マシンビジョンは、マーカー部86の先端の移動方向とx軸とX軸との交差角度αを特定するとともに、マーカー部86の先端の移動開始時における撮像素子の画素と、移動終了時における画素とを特定し、そのマーカー部86の移動の開始と終了の二つの時点に対応する二つの画素間を結ぶ直線上にある画素数を特定する。そして、その画素数をカメラ20の視野領域120内での移動距離dとして記憶する。制御部50は、マシンビジョンによって特定される移動距離dと末端効果器11の移動距離Dとの対応関係、およびx軸とX軸との交差角度αを記憶する。
【0057】
===部品組み付け動作===
以上の手順によって較正された本装置1にて部品組み付け作業を実施する際、制御部50が固定位置に設置されたワーク200をカメラ20に撮影させ、組付位置207の座標(x,y)を特定し、その組付位置207の座標(x,y)を制御部50に転送する。制御部50は、カメラ基準点(x0,y0)とその組付位置(x,y)との誤差に基づいて、スカラロボット10の末端効果器11をロボット基準点(X0,Y0)からどの方向にどれだけの距離だけ移動させればよいのかを計算し、末端効果器11の移動先のXY座標を特定する。また、リニアゲージ60のカーソル部61をワーク200において組付孔206が形成されている面に当接させて、カーソル部61の移動量ΔhからZ座標を特定する。そして、特定されたXYZ座標に末端効果器11を移動させ、部品100を組付孔206に挿入する。
【0058】
以上説明したように、実施例に係る較正方法では、基準点治具70、位置決め用治具80、およびマーカー部86を用いてxy座標系からXY座標系への変換式を求めることができる。そして、ロボットが認識する座標と長さを、カメラ側に認識させることができる。
【0059】
===アーム長の補正===
上述したように、スカラロボット10は、末端効果器11の位置を特定するために、作動軸114と保持軸103との距離であるアーム長L3を用いている。そして、スカラロボット10は、ユーザー入力によってこのアーム長L3の設定値を変更できるようになっている。ところで、一般的なスカラロボット10は、様々な末端効果器11をユーザー側で交換可能に取り付けられるようになっている。しかし、末端効果器11を設計上の位置に全く誤差のない状態で取り付けることは極めて難しい。そのため、上記アーム長L3の誤差が要求される部品100の組付誤差を超えてしまう可能性がある。そこで、本実施例の補正方法には、アーム長L3の誤差を補正する手順も含まれている。以下に、そのアーム長L3の誤差を補正する手順について説明する。
【0060】
図10にアーム長L3の誤差を補正する手順を示した。当該手順では、上記の基準点治具70を用いる。また、末端効果器11に上記の位置
決め用治具80を保持させる。上述したように、基準点治具70は、第1円柱部(
図7、符号74)が上下方向に二つの円柱部(74a、74b)を積層させた構造を有している。そして、上層円柱部74aは、下層円柱部74bに対して基準軸76周りに回転するように構成されている。
【0061】
そこで、まず、
図10(A)に示したように、上層円柱部74aを下層円柱部74bに対して所定の回転状態となるように固定する。ここでは、まず、上層円柱部74aと下層円柱部74bとが同軸に配置された基準回転状態で固定する。そして、スカラロボット10に対するティーチングにより、基準点治具70の基準孔72に位置
決め用治具80の芯金部82を挿入する。制御部50は、このときの作動軸114の座標(X1,Y1)を記憶する。
【0062】
次に、
図10(B)に示したように、上層円柱部74aを下層円柱部74bに対して基準点治具70を基準回転状態に対して所定の角度θだけ所定の方向(正方向または+方向)に回転させる。本実施例では、θ=+15゜に設定している。それによって、基準孔72は、基準回転状態に対して基準軸76周りにθ=+15゜傾く。そして、同様にしてティーチングを行い、制御部50が、そのときの作動軸114の座標(X
2,Y
2)を記憶する。さらに、
図10(C)に示したように、基準点治具70を基準回転状態に対して逆(-)方向に所定の角度θ=15゜だけ回転させてティーチングを行い、そのときの作動軸114の座標(X
3,Y
3)を記憶する。
【0063】
図10(D)に示したように、制御部50が、上記の三つの回転状態(基準回転状態(θ=0゜)、θ=+15゜、θ=-15゜)でのティーチングに際して記憶した三つの座標(X
1,Y
1)、(X
2,Y
2)、(X
3,Y
3)は、半径φの円周
300上の点である。制御部50は、記憶した三つの座標(X
1,Y
1)、(X
2,Y
2)、(X
3,Y
3)に基づいて、半径φを計算する。そして、スカラロボット10にこの半径φをアーム長L3として設定する。それによって、アーム長L3が設計値に対して誤差があったとしても、保持軸103の水平面上のXY座標を正確に特定することができる。
【0064】
なお、アーム長L3の補正手順において記憶させる作動軸114のXY座標は3点に限らない。最低3点あれば、半径φを特定することができる。もちろん、基準点治具70の回転角度も基準の0゜に対して±15゜でなくてもよい。
【0065】
===その他の実施例===
上記実施例の方法によって較正される部品組付装置1における部品の組み付け動作の態様としては、ワーク200の組付孔206に部品100を挿入する態様に限らない。例えば、ワーク200の表面に設けられた所定の平面形状を有する組付領域に部品100を載置したり接着したりするような態様であってもよい。
【0066】
本装置1では、スカラロボット10に末端効果器11の移動先のZ座標を、リニアゲージ60を用いて特定していた。もちろん、レーザー光や超音波を用いた周知の測距装置を用いることもできる。いずれにしても、実施例に係る較正方法の特徴は、マシンビジョンによって特定された水平面内のxy座標を、スカラロボット10における末端効果器11の水平面内のXY座標に高精度で変換することにある。
【0067】
実施例に係る較正方法では、水平面上の「点」である組付位置のずれを補正していたが、組付孔206が鉛直方向の軸周りに傾いて形成されている場合でも、マシンビジョンは、当然のことながら、その傾きをx軸に対する回転角度として認識することができる。そして、制御部50は、組付孔206の傾きに応じ、組付位置207における末端効果器11を回転させる角度を求めることができる。もちろん、ワーク固定部40に、組付孔206の傾きを相殺するようにワーク200を回転させる機構を設けてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 部品組付装置、10 水平多関節ロボット(スカラロボット)、11 末端効果器、12~14、回転関節、15,16 リンク、17 直動関節、18 アーム、
20 カメラ、30 カメラ駆動部、40 ワーク固定部、50 制御部、
60 リニアゲージ、70 基準点治具、72 基準孔、73 基準位置、74a 上層円柱部、74b 下層円柱部、76 基準軸、80 位置決め用治具、82 芯金部、83 突起部、86 マーカー部、100 部品 101 第1部品、
102 第2部品、103 保持軸、112、113 回転軸、
114 回転軸(作動軸)、200 ワーク、206 組付孔、207 組付位置、
Oxy マシンビジョンの原点、OXY スカラロボットの原点