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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】不飽和炭化水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 5/333 20060101AFI20220428BHJP
   C07C 11/08 20060101ALI20220428BHJP
   C07C 11/167 20060101ALI20220428BHJP
   B01J 23/62 20060101ALI20220428BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20220428BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220428BHJP
【FI】
C07C5/333
C07C11/08
C07C11/167
B01J23/62 Z
B01J23/63 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018025281
(22)【出願日】2018-02-15
(65)【公開番号】P2019137664
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】吉村 悠
(72)【発明者】
【氏名】木村 信啓
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-530394(JP,A)
【文献】特表2014-511258(JP,A)
【文献】特表2005-536498(JP,A)
【文献】Journal of Molecular Catalysis A: Chemical,2002年,184(1-2),P.203-213
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 5/00
C07C 11/00
B01J 23/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカン及びスチームを含む原料ガスを脱水素触媒に接触させて、オレフィン及び共役ジエンからなる群より選択される少なくとも一種の不飽和炭化水素を含む生成ガスを得る脱水素工程を備え、
前記脱水素触媒が、担体と、当該担体に担持されたスズ及び白金を含む担持金属と、を含有し、
アンモニアTPD法において200~500℃の温度領域で脱離するアンモニア量から規定される前記脱水素触媒の酸量が、3.00μmol/g以上10μmol/g以下である、不飽和炭化水素の製造方法。
【請求項2】
前記脱水素触媒の前記酸量が、4.00μmol/g以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記担体が、第4族元素を含む第一の金属酸化物と、第2族元素及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも一種を含む第二の金属酸化物と、を含有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第一の金属酸化物が、ZrO及びHfOからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第二の金属酸化物が、CaO及びLaからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記担体における前記第二の金属酸化物の含有量が、前記担体の全量基準で10質量%以下である、請求項3~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記アルカンがブタンを含み、前記オレフィンがブテンを含み、前記共役ジエンがブタジエンを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和炭化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカンの脱水素反応により得られる不飽和炭化水素は、様々な分野で、例えば工業製品の出発材料として、大量に必要とされている。例えば、不飽和炭化水素は、洗浄剤、ハイオクタンガソリン、薬品等の製造に使用されるほか、プラスチックの製造等にも利用されている。
【0003】
特にブテンは、メチルエチルケトン、アルキレートガソリン等の出発材料として広く利用されている。ブテンの製造方法としては、例えば、不均一脱水素触媒を用い、n-ブタンを直接脱水素する方法が知られている(例えば、特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-205135号公報
【文献】特開2015-027669号公報
【文献】米国特許出願公開第2014/0309470号明細書
【文献】米国特許第6,433,241号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
不飽和炭化水素の需要増加に伴って、製造装置の要求特性、運転コスト、反応効率等の特色の異なる、多様なアルカンの脱水素方法の開発が求められている。
【0006】
本発明は、不飽和炭化水素の新規製造方法として、アルカンを効率良く転化可能な、不飽和炭化水素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の担体及び特定の担持金属を有し、且つ、特定の酸量を有する脱水素触媒によって、アルカンを効率良く脱水素させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の一側面は、アルカン及びスチームを含む原料ガスを脱水素触媒に接触させて、オレフィン及び共役ジエンからなる群より選択される少なくとも一種の不飽和炭化水素を含む生成ガスを得る脱水素工程を備える、不飽和炭化水素の製造方法に関する。この製造方法において、上記脱水素触媒は、担体と、当該担体に担持されたスズ及び白金を含む担持金属と、を含有しており、アンモニアTPD法において200~500℃の温度領域で脱離するアンモニア量から規定される上記脱水素触媒の酸量は、3.00μmol/g以上である。
【0009】
一態様において、上記脱水素触媒の上記酸量は、4.00μmol/g以上であってよい。
【0010】
一態様において、上記担体は、第4族元素を含む第一の金属酸化物と、第2族元素及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも一種を含む第二の金属酸化物と、を含有していてよい。
【0011】
一態様において、上記第一の金属酸化物は、ZrO及びHfOからなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてよい。
【0012】
一態様において、上記第二の金属酸化物は、CaO及びLaからなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてよい。
【0013】
一態様において、上記担体における上記第二の金属酸化物の含有量は、上記担体の全量基準で10質量%以下であってよい。
【0014】
一態様において、上記アルカンはブタンを含んでいてよく、上記オレフィンはブテンを含んでいてよく、上記共役ジエンはブタジエンを含んでいてよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、不飽和炭化水素の新規製造方法として、アルカンを効率良く転化可能な、不飽和炭化水素の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0017】
本実施形態に係る不飽和炭化水素の製造方法は、アルカン及びスチームを含む原料ガスを脱水素触媒に接触させて、オレフィン及び共役ジエンからなる群より選択される少なくとも一種の不飽和炭化水素を含む生成ガスを得る脱水素工程を備える。
【0018】
本実施形態において、脱水素触媒は、担体と、当該担体に担持されたスズ及び白金を含む担持金属と、を含有している。また、アンモニアTPD法において200~500℃の温度領域で脱離するアンモニア量から規定される上記脱水素触媒の酸量は、3.00μmol/g以上である。
【0019】
本実施形態に係る製造方法によれば、特定の担体及び特定の担持金属を有し、且つ、特定の酸量を有する脱水素触媒を用いることで、高い転化率でアルカンを脱水素することができる。
【0020】
本実施形態で用いる脱水素触媒は、アルカンの脱水素反応を触媒する固体触媒であり、担体と、当該担体に担持されたスズ及び白金を含む担持金属と、を含む触媒である。担体は、例えば、無機酸化物担体であってよい。
【0021】
アンモニアTPD法において200~500℃の温度領域で脱離するアンモニア量から規定される脱水素触媒の酸量は、3.00μmol/g以上であり、4.00μmol/g以上であることがより好ましい。このような担体を用いることで、高い転化率でアルカンを脱水素することができる。また、アンモニアTPD法において200~500℃の温度領域で脱離するアンモニア量から規定される脱水素触媒の酸量は、15μmol/g以下であってよく、10μmol/g以下であってよい。
【0022】
本明細書中、触媒の酸量とは、アンモニアTPD法で測定される触媒の酸点の量を示す。アンモニアTPD法は、例えば、「丹羽;ゼオライト,10,175(1993)」に記載の装置及び測定条件で実施することができる。
【0023】
好適な一態様において、担体は、スピネル構造を有するMgAlを含有する担体であってよい。
【0024】
好適な他の一態様において、担体は、第4族元素を含む第一の金属酸化物を含有する担体であってよい。第一の金属酸化物としては、例えば、TiO、ZrO及びHfOが挙げられる。第一の金属酸化物は、ZrO及びHfOからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、ZrOを含むことがより好ましい。
【0025】
第一の金属酸化物の含有量は、担体の全量基準で80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。また、第一の金属酸化物の含有量の上限は特に限定されず、例えば、担体の全量基準で99質量%以下であってよい。第一の金属酸化物の含有量が上記範囲であると、触媒劣化がより顕著に抑制され、高い活性がより長時間にわたり維持される傾向がある。
【0026】
上記態様において、担体は、第2族元素及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも一種を含む第二の金属酸化物を更に含有していてよい。
【0027】
第二の金属酸化物としては、例えば、MgO、CaO、SrO、BaO、La等が挙げられる。第二の金属酸化物のうち、第2族元素を含む金属酸化物としては、CaOが好ましい。また、第二の金属酸化物のうち、ランタノイドを含む金属酸化物としては、Laが好ましい。
【0028】
第二の金属酸化物の含有量は、担体の全量基準で20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。また、第二の金属酸化物の含有量の下限は特に限定されず、例えば、担体の全量基準で1質量%以上であってよい。第二の金属酸化物の含有量が上記範囲であると、触媒劣化がより顕著に抑制され、高い活性がより長時間にわたり維持される傾向がある。
【0029】
担体の比表面積は、例えば30m/g以上であってよく、50m/g以上であることが好ましい。これにより、アルカンの転化率が一層向上する傾向がある。また、担体の比表面積は、例えば1000m/g以下であってよく、500m/g以下であることが好ましい。これにより、工業的に好適に利用可能な十分な強度を有する担体とすることができる。なお、本明細書中、担体の比表面積は、窒素吸着法を用いたBET比表面積計で測定される。
【0030】
脱水素触媒における白金(Pt)の担持量は、脱水素触媒の全量基準で、例えば0.8質量%以上であってよく、好ましくは0.9質量%以上である。また、Ptの担持量は、脱水素触媒の全量基準で、例えば5.0質量%以下であってよく、好ましくは3.0質量%以下である。このような担持量であると、触媒上で形成されるPt粒子が脱水素反応により好適なサイズとなり、単位白金重量あたりの白金表面積が大きくなるため、より効率的な反応系が実現できる。
【0031】
脱水素触媒におけるスズ(Sn)の担持量は、脱水素触媒の全量基準で、例えば1.0質量%以上であり、好ましくは2.0質量%以上である。また、Snの担持量は、脱水素触媒の全量基準で、例えば5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下である。Snの担持量が上記範囲であると、アルカンの転化率が一層向上しやすくなるだけでなく、触媒劣化がより顕著に抑制され、高い活性がより長時間にわたり維持される傾向がある。
【0032】
担持される担持金属は、酸化物として担持されていてよく、単体の金属として担持されていてもよい。
【0033】
担持金属の担持方法は特に限定されず、例えば、含浸法、沈着法、共沈法、混練法、イオン交換法、ポアフィリング法が挙げられる。
【0034】
担持方法の一態様を以下に示す。まず、担持金属の前駆体(白金源及びスズ源)を含む溶液に担体を加え、溶液を含んだ担体を混練する。その後、乾燥により溶媒を除去し、得られた固体を焼成することで、担持金属を担体上に担持させることができる。
【0035】
上記担持方法において、担持金属の前駆体は、例えば、金属塩又は錯体であってよい。担持金属の金属塩は、例えば、無機塩、有機酸塩又はこれらの水和物であってよい。無機塩は、例えば、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、リン酸塩、炭酸塩等であってよい。有機酸塩は、例えば、酢酸塩、しゅう酸塩等であってよい。担持金属の錯体は、例えば、アルコキシド錯体、アンミン錯体等であってよい。
【0036】
担持金属の前駆体は、塩素原子を含まない金属源であることが好ましい。塩素原子を含まない金属源を前駆体に用いることで、触媒調整時の装置の腐食を防止できる。
【0037】
焼成は、例えば、空気雰囲気下又は酸素雰囲気下で行うことができる。焼成は一段階で行ってもよく、二段階以上の多段階で行ってもよい。焼成温度は、担持金属の前駆体を分解可能な温度であればよく、例えば200~1000℃であってよく、400~800℃であってもよい。なお、多段階の焼成を行う場合、少なくともその一段階が上記焼成温度であればよい。他の段階での焼成温度は、例えば上記と同じ範囲であってよく、100~200℃であってもよい。
【0038】
脱水素触媒は、成形性を向上させる観点から、成形助剤を更に含有していてもよい。成形助剤は、例えば、増粘剤、界面活性剤、保水材、可塑剤、バインダー原料等であってよい。
【0039】
脱水素触媒の形状は特に限定されず、例えば、ペレット状、顆粒状、ハニカム状、スポンジ状等の形状であってよい。
【0040】
脱水素触媒は、前処理として還元処理が行われたものを用いてもよい。還元処理は、例えば、還元性ガスの雰囲気下、40~600℃で脱水素触媒を保持することで行うことができる。保持時間は、例えば0.05~24時間であってよい。還元性ガスは、例えば、水素、一酸化炭素等を含むものであってよい。還元処理を行った脱水素触媒を用いることで、脱水素反応の初期の誘導期を短くすることができる。なお、初期の誘導期とは、脱水素触媒中の担持金属のうち、還元されて活性状態にあるものが非常に少なく、触媒の活性が低い状態をいう。
【0041】
次いで、本実施形態における脱水素工程について詳述する。
【0042】
脱水素工程は、原料ガスを脱水素触媒に接触させてアルカンの脱水素反応を行い、不飽和炭化水素を含む生成ガスを得る工程である。
【0043】
原料ガスは、アルカンを含んでいる。アルカンの炭素数は、目的とする不飽和炭化水素の炭素数と同じであってよい。アルカンの炭素数は、例えば4~10であってよく、4~6であってよい。
【0044】
アルカンは、例えば、鎖状であってよく、環状であってもよい。鎖状アルカンとしては、例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等が挙げられる。より具体的には、直鎖状アルカンとしては、n-ブタン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-デカン等が挙げられる。また、分岐状アルカンとしては、イソブタン、イソペンタン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、2、3-ジメチルペンタン、イソヘプタン、イソオクタン、イソデカン等が挙げられる。環状アルカンとしては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。原料ガスは、アルカンを一種含むものであってよく、二種以上含むものであってもよい。
【0045】
原料ガスにおいて、アルカンの分圧は1.0MPa以下としてよく、0.1MPa以下としてもよく、0.01MPa以下としてもよい。原料ガスのアルカン分圧を小さくすることでアルカンの転化率が一層向上しやすくなる。
【0046】
また、原料ガスにおけるアルカンの分圧は、原料流量に対する反応器サイズを小さくする観点から、0.001MPa以上とすることが好ましく、0.005MPa以上とすることがより好ましい。
【0047】
原料ガスは、窒素、アルゴン等の不活性ガスを更に含有していてもよく、スチームを更に含有していてもよい。スチームを原料ガスに含有させることで、触媒の活性低下が顕著に抑制される傾向がある。
【0048】
原料ガスがスチームを含有するとき、スチームの含有量は、アルカンに対して0.5倍モル以上とすることが好ましく、1.0倍モル以上とすることがより好ましく、1.5倍モル以上とすることが更に好ましい。また、スチームの含有量は、例えば、アルカンに対して50倍モル以下であってよく、好ましくは10倍モル以下であり、より好ましくは4倍モル以下である。
【0049】
原料ガスは、上記以外に水素、酸素、一酸化炭素、炭酸ガス、オレフィン類、ジエン類等の他の成分を更に含有していてもよい。
【0050】
本実施形態において、生成ガスは、オレフィン及び共役ジエンからなる群より選択される少なくとも一種の不飽和炭化水素を含む。オレフィン及び共役ジエンの炭素数は、いずれもアルカンの炭素数と同じであってよく、例えば4~10であってよく、4~6であってよい。
【0051】
生成ガスは、不飽和炭化水素を一種含むものであってよく、二種以上の不飽和炭化水素を含むものであってよい。例えば、生成ガスは、オレフィン及び共役ジエンを含むものであってよい。オレフィンとしては、例えば、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン等が挙げられ、これらはいずれの異性体であってもよい。共役ジエンとしては、例えば、1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、イソプレン、1,3-ヘキサジエン、1,3-ヘプタジエン、1,3-オクタジエン、1,3-ノナジエン、1,3-デカジエン等が挙げられる。
【0052】
脱水素工程は、例えば、脱水素触媒を充填した反応器を用い、当該反応器に原料ガスを流通させることにより実施してよい。反応器としては、固体触媒による気相反応に用いられる種々の反応器を用いることができる。反応器としては、例えば、固定床型反応器、ラジアルフロー型反応器、管型反応器等が挙げられる。
【0053】
脱水素反応の反応形式は、例えば、固定床式、移動床式又は流動床式であってよい。これらのうち、設備コストの観点からは固定床式が好ましい。
【0054】
脱水素反応の反応温度、すなわち反応器内の温度は、反応効率の観点から300~800℃であってよく、500~700℃であってよい。反応温度が500℃以上であれば、アルカンが一層転化しやすくなる傾向がある。反応温度が700℃以下であれば、触媒劣化が抑制され、高い活性がより長期にわたって維持される傾向がある。
【0055】
反応圧力、すなわち反応器内の気圧は0.01~1MPaであってよく、0.05~0.8MPaであってよく、0.1~0.5MPaであってよい。反応圧力が上記範囲にあると、脱水素反応がより進行し易くなり、一層優れた反応効率が得られる傾向がある。
【0056】
脱水素工程を、原料ガスを連続的に供給する連続式の反応形式で行う場合、重量空間速度(以下、「WHSV」という。)は、0.1h-1以上であってよく、1.0h-1以上であってもよく、100h-1以下であってよく、30h-1以下であってもよい。ここで、WHSVとは、連続式の反応装置における、触媒質量に対する原料ガスの供給速度(供給量/時間)の比(供給速度/触媒質量)である。なお、原料ガス及び触媒の使用量は、反応条件、触媒の活性等に応じて更に好ましい範囲を適宜選定してよく、WHSVは上記範囲に限定されるものではない。
【0057】
脱水素工程では、反応器に上記脱水素触媒(以下、第一の脱水素触媒ともいう。)以外の触媒を更に充填してもよい。
【0058】
例えば、本実施形態では、反応器の第一の脱水素触媒より後段に、オレフィンから共役ジエンへの脱水素反応を触媒する第二の脱水素触媒が更に充填されていてもよい。第一の脱水素触媒は、アルカンからオレフィンへの脱水素反応の反応活性に優れるため、第一の脱水素触媒の後段に第二の脱水素触媒を充填することで、得られる生成ガス中の共役ジエンの割合を高めることができる。
【0059】
また、本実施形態に係る脱水素方法は、脱水素工程で得られたオレフィンを含む生成ガス(以下、第一の生成ガスともいう。)を、第二の脱水素触媒に接触させてオレフィンの脱水素反応を行い、共役ジエンを含む第二の生成ガスを得る工程(以下、第二の脱水素工程ともいう。)を更に備えていてもよい。このような脱水素方法によれば、共役ジエンをより多く含む生成ガスを得ることができる。
【0060】
第二の脱水素触媒としては、オレフィンの脱水素反応の触媒であれば、特に制限無く用いることができる。例えば、第二の脱水素触媒としては、貴金属触媒、Fe及びKを含有する触媒、Mo等を含有する触媒等を用いることができる。
【0061】
第二の脱水素工程における脱水素反応の条件は、第一の脱水素工程における脱水素反応の条件と同様であってよい。
【0062】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例
【0063】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0064】
[触媒合成例1]
<触媒A-1の調製>
Pt濃度100g/Lのジニトロジアミン白金硝酸溶液0.101mLを0.601mLの水で希釈させた溶液Aを用意し、この溶液Aに1.0gのMgAl担体を加え、混練した。その後、130℃のオーブン中で一晩乾燥させ、乾燥後の固体を、空気流通下、550℃で3時間焼成した。次いで、スズ酸ナトリウム三水和物66.6mgを0.689mLの水に溶解させた溶液Bを用意し、この溶液Bに焼成後の固体1.0gを加え、混練した。その後、130℃のオーブン中で一晩乾燥させ、乾燥後の固体を、空気流通下、550℃で3時間焼成した。次いで、得られた固体中に含まれるナトリウム化合物をイオン交換水で除去した。最後に、550℃で2時間の水素還元を行い、Pt及びSnが担持された触媒A-1を得た。なお、触媒A-1において、Ptの担持量は1.0質量%、Snの担持量は2.6質量%であった。
【0065】
アンモニアTPD法において200℃~500℃の温度領域で脱離するアンモニア量から規定されるA-1の酸量は、3.31μmol/gであった。
【0066】
[触媒合成例2]
<触媒A-2の調製>
MgAl担体に代えてZrO-CaO担体(Z-2920、第一稀元素化学工業株式会社、第一の金属酸化物:98.2質量%(ZrOが約96質量%、HfOが約2質量%)、第二の金属酸化物:1.8質量%(CaO:1.8質量%))を用いたこと、溶液Aに代えて希釈水の量を1.299mLとした溶液を用いたこと及び溶液Bに代えてスズ酸ナトリウム三水和物の溶解に用いた水の量を1.387mLとした溶液を用いたこと以外は、触媒合成例1と同様にして触媒調製を行い、触媒A-2を得た。得られた触媒A-2において、Pt及びSnの担持量は、触媒A-1におけるPt及びSnの担持量と同様であった。
【0067】
アンモニアTPD法において200℃~500℃の温度領域で脱離するアンモニア量から規定される触媒A-2の酸量は、7.02μmol/gであった。
【0068】
[触媒合成例3]
<触媒A-3の調製>
MgAl担体に代えてZrO-La担体(Z-1799、第一稀元素化学工業株式会社、第一の金属酸化物:90.9質量%(ZrOが約89質量%、HfOが約2質量%)、第二の金属酸化物:9.1質量%(Laが9.1質量%))を用いたこと、溶液Aに代えて希釈水の量を1.105mLとした溶液を用いたこと及び溶液Bに代えてスズ酸ナトリウム三水和物の溶解に用いた水の量を1.193mLとした溶液を用いたこと以外は、触媒合成例1と同様にして触媒調製を行い、触媒A-3を得た。得られた触媒A-3において、Pt及びSnの担持量は、触媒A-1におけるPt及びSnの担持量と同様であった。
【0069】
アンモニアTPD法において200℃~500℃の温度領域で脱離するアンモニア量から規定される触媒A-3の酸量は、4.59μmol/gであった。
【0070】
[触媒合成例4]
<触媒B-1の調製>
MgAl担体に代えてZrO-La担体(Z-3027、第一稀元素化学工業株式会社、第一の金属酸化物:60.2質量%(ZrOが約58質量%、HfOが約2質量%)、第二の金属酸化物:39.8質量%(Laが39.8質量%))を用いたこと、溶液Aに代えて希釈水の量を1.399mLとした溶液を用いたこと及び溶液Bに代えてスズ酸ナトリウム三水和物の溶解に用いた水の量を1.487mLとした溶液を用いたこと以外は、触媒合成例1と同様にして触媒調製を行い、触媒B-1を得た。得られた触媒B-1において、Pt及びSnの担持量は、触媒A-1におけるPt及びSnの担持量と同様であった。
【0071】
アンモニアTPD法において200℃~500℃の温度領域で脱離するアンモニア量から規定される触媒B-1の酸量は、2.83μmol/gであった。
【0072】
[触媒合成例5]
<触媒B-2の調製>
MgAl担体に代えてTiO担体(STR-100N、堺化学工業株式会社)を用いたこと、溶液Aに代えて希釈水の量を1.099mLとした溶液を用いたこと及び溶液Bに代えてスズ酸ナトリウム三水和物の溶解に用いた水の量を1.187mLとした溶液を用いたこと以外は、触媒合成例1と同様にして触媒調製を行い、触媒B-2を得た。得られた触媒B-2において、Pt及びSnの担持量は、触媒A-1におけるPt及びSnの担持量と同様であった。
【0073】
アンモニアTPD法において200℃~500℃の温度領域で脱離するアンモニア量から規定される触媒B-2の酸量は、2.83μmol/gであった。
【0074】
(実施例1)
1.0gの触媒A-1を管型反応器に充填し、反応管を固定床流通式反応装置に接続した。次に、水素及びNの混合ガス(水素:N=1:1(mol比))を125mL/minで流通させながら、反応管を550℃まで昇温し、当該温度で2時間保持した。続いて、反応管を550℃に保持しながら、N及びスチーム(水)の混合ガス(N:スチーム=5.3:3.2(モル比))を54.5mL/minで20分間流通した。その後、n-ブタン、N及びスチーム(水)の混合ガス(原料ガス)を反応器に供給し、原料ガス中のn-ブタンの脱水素反応を行った。ここで、原料ガスにおけるn-ブタン、N及びスチームのモル比は、1.0:5.3:3.2に調整した。管型反応器への原料ガスの供給速度は、60.9mL/minに調整した。触媒全量に対するWHSVは1.0h-1に調整した。管型反応器の原料ガスの圧力は大気圧に調整した。
【0075】
反応開始時から60分が経過した時点で、脱水素反応の生成物(生成ガス)を管型反応器から採取した。なお、反応開始時とは、原料ガスの供給が開始された時間である。採取された生成ガスを、熱伝導度検出器を備えたガスクロマトグラフ(TCD-GC)を用いて分析した。分析の結果、生成ガスがブテン及び1,3-ブタジエンを含有することが確認された。上記ガスクロマトグラフに基づき、採取された生成ガス中のブタン濃度(単位:質量%)を定量した。
【0076】
生成ガス中のブタン濃度から、60分経過時点におけるブタン転化率を算出した。なお、60分経過時点のブタン転化率は、下記式(1)により定義される。
=(1-M/M)×100 (1)
式(1)におけるRは、60分経過時点のブタン転化率であり、Mは、原料ガス中のn-ブタンのモル数であり、Mは、60分経過時点の生成ガス中のn-ブタンのモル数である。
【0077】
算出の結果、反応開始時から60分経過時点におけるブタン転化率は、58.0%であった。
【0078】
(実施例2)
触媒A-1に代えて触媒A-2を用いたこと以外は実施例1と同様の操作により、n-ブタンの脱水素反応及び生成ガスの分析を行った。反応開始時から60分経過時点におけるブタン転化率は、72.4%であった。
【0079】
(実施例3)
触媒A-1に代えて触媒A-3を用いたこと以外は実施例1と同様の操作により、n-ブタンの脱水素反応及び生成ガスの分析を行った。反応開始時から60分経過時点におけるブタン転化率は、72.4%であった。
【0080】
(比較例1)
触媒A-1に代えて触媒B-1を用いたこと以外は実施例1と同様の操作により、n-ブタンの脱水素反応及び生成ガスの分析を行った。反応開始時から60分経過時点におけるブタン転化率は、50.3%であった。
【0081】
(比較例2)
触媒A-1に代えて触媒B-2を用いたこと以外は実施例1と同様の操作により、n-ブタンの脱水素反応及び生成ガスの分析を行った。反応開始時から60分経過時点におけるブタン転化率は、19.8%であった。
【0082】
実施例1~3及び比較例1~2の結果を表1に示す。
【0083】
【表1】