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特許7064910ろ布、バグフィルタ、及びこれを備えるガス処理設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】ろ布、バグフィルタ、及びこれを備えるガス処理設備
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/14 20060101AFI20220428BHJP
   B01D 46/02 20060101ALI20220428BHJP
   B01D 53/64 20060101ALI20220428BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
B01D39/14 B
B01D46/02 Z ZAB
B01D53/64 100
B01D53/86 250
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018047004
(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公開番号】P2019155295
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】勝木 将利
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 匠
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-130853(JP,A)
【文献】特開2006-122764(JP,A)
【文献】特開2004-148304(JP,A)
【文献】特開2017-213499(JP,A)
【文献】特開2005-095891(JP,A)
【文献】特開2004-195349(JP,A)
【文献】特開2003-126654(JP,A)
【文献】特開平10-066814(JP,A)
【文献】国際公開第2008/012878(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-14
B01D 46/02-08
B01D 53/64-88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維で形成された一枚のろ布基材と、
活性炭を含み、Hgの吸着能力を有する粒状の吸着剤と、
Hgの酸化を促進する能力を有する粒状の触媒と、
を備え、
前記吸着剤及び前記触媒は、前記ろ布基材に付着しており、
一枚の前記ろ布基材は、互に相反する側を向く第一面及び第二面を有し、
前記第一面における、前記吸着剤の密度に対する前記触媒の密度の割合は、前記第一面よりも前記第二面側である下流側の部分における、前記吸着剤の密度に対する前記触媒の密度の割合よりも高く、
前記吸着剤の密度に対する前記触媒の密度の割合が、前記下流側に向うに連れて次第に小さくなる領域を有する、
ろ布。
【請求項2】
請求項1に記載のろ布において、
前記第二面上には、前記吸着剤及び前記触媒が付着していない、
ろ布。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のろ布において、
前記吸着剤は、前記活性炭とハロゲン化物とを含み、
前記ハロゲン化物が前記活性炭に添着しており、
前記ハロゲン化物と前記活性炭とで粒状の添着活性炭を形成している、
ろ布。
【請求項4】
請求項3に記載のろ布において、
前記吸着剤は、粒状の前記添着活性炭と粒状の前記活性炭とが混在している、
ろ布。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のろ布で形成されたフィルタと、
前記フィルタを内部に収納するバグフィルタケースと、
を備え、
前記バグフィルタケースは、ガスが流入する入口と、ガスが流出する出口とを有し、
前記フィルタは、前記バグフィルタケース内を前記入口側の空間と前記出口側の空間と仕切り、且つ前記フィルタを形成する前記ろ布基材の前記第一面が前記入口側の空間を臨むよう、配置されている、
バグフィルタ。
【請求項6】
請求項5に記載のバグフィルタと、
ガス発生源からのガスを前記バグフィルタの前記入口に導く上流側配管と、
前記上流側配管中に、活性炭を含みHgの吸着能力を有する粒状の吸着剤を投入する吸着剤投入装置と、
を備えるガス処理設備。
【請求項7】
請求項6に記載のガス処理設備において、
前記ガス中のHg濃度を検知する濃度計と、
前記濃度計で検知されたHg濃度に応じて、前記吸着剤投入装置から前記上流側配管中に投入する前記吸着剤の量を制御する投入量制御装置と、
を備えるガス処理設備。
【請求項8】
請求項7に記載のガス処理設備において、
前記バグフィルタの前記出口に接続されている下流側配管を備え、
前記濃度計は、前記下流側配管を流れるガス中のHg濃度を検知する、
ガス処理設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ろ布、バグフィルタ、及びこれを備えるガス処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
バグフィルタとしては、例えば、以下の特許文献1に記載されているバグフィルタがある。このバグフィルタのろ布は、複数の繊維で形成されているろ布基材と、このろ布基材に付着している活性炭及び触媒とを有する。このろ布は、ろ布基材の中に活性炭及び触媒が混在し、これらが均一に分布されるよう製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-066814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
活性炭には、Hgの吸着能力があるため、上記特許文献に記載のろ布を用いても、ガス中のHgを除去することができる。しかしながら、ガス処理の分野では、Hgを効率的に除去することを要望している。
【0005】
そこで、本発明は、ガス中のHgを効率的に除去できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための本発明に係る一態様のろ布は、複数の繊維で形成された一枚のろ布基材と、活性炭を含み、Hgの吸着能力を有する粒状の吸着剤と、Hgの酸化を促進する能力を有する粒状の触媒と、を備える。前記吸着剤及び前記触媒は、前記ろ布基材に付着している。一枚の前記ろ布基材は、互に相反する側を向く第一面及び第二面を有する。前記第一面における、前記吸着剤の密度に対する前記触媒の密度の割合は、前記第一面よりも前記第二面側である下流側の部分における、前記吸着剤の密度に対する前記触媒の密度の割合よりも高い。前記吸着剤の密度に対する前記触媒の密度の割合が、前記下流側に向うに連れて次第に小さくなる領域を有する。
【0007】
活性炭にハロゲン化物が添着されていない通常の活性炭は、二価の水銀濃度が高いほど、水銀の吸着率が高まる。逆に、二価の水銀濃度が低く、0価の水銀濃度が高くなると、水銀の吸着率が低下する。このため、通常の活性炭で水銀の吸着率を高めるためには、この通常の活性炭を二価の水銀濃度が高い環境下に、この通常の活性炭を配置することが好ましい。
【0008】
本態様のろ布に対して、水銀を含むガスを上流側から下流側に向って流した場合、このガス中の水銀の多くは、ろ布基材の所定位置に多く付着している触媒により二価の水銀になる。その後、二価の水銀の多くは、所定位置よりも下流側に多く付着している活性炭に吸着される。
【0009】
よって、本態様では、触媒の酸化能力及び吸着剤の吸着能力を有効に機能させることができ、水銀を効率的に吸着することができる。また、本態様の吸着剤は、活性炭を含んでいるので、この活性炭でダイオキシン、重金属等も吸着することができる。
【0012】
また、以上のいずれかの態様のろ布において、前記第二面上には、前記吸着剤及び前記触媒が付着していなくてもよい。
【0013】
以上のいずれかの態様のろ布において、前記吸着剤は、前記活性炭とハロゲン化物とを含み、前記ハロゲン化物が前記活性炭に添着しており、前記ハロゲン化物と前記活性炭とで粒状の添着活性炭を形成していてもよい。
【0014】
添着活性炭は、二価の水銀濃度が変化しても、水銀の吸着率の変化は少なく、しかも、この吸着率は、2価の水銀濃度が100wt%のときの通常の活性炭の吸着率とほぼ一致する。また、通常の活性炭は、水銀の濃度に応じて吸着率が変わる関係で、水銀濃度が高いときに吸着した水銀の一部を、水銀濃度が低くなると離脱させてしまうことがある。一方、添着活性炭は、水銀を一旦吸着すると、特別な処理が施されない限り、この水銀を離脱させることはない。
【0015】
このため、本態様では、二価の水銀濃度に関わらず、安定して水銀が吸着され、且つ吸着した水銀の離脱を抑えることができる。
【0016】
前記添着活性炭を有する前記ろ布において、前記吸着剤は、粒状の前記添着活性炭と粒状の前記活性炭とが混在していてもよい。
【0017】
本態様では、粒状の前記添着活性炭と粒状の前記活性炭と混合率を変えることで、2価の水銀濃度に関わらず、安定して水銀が吸着され、且つ吸着した水銀を離脱させたくない場合や、水銀濃度が一時的に急増することが多数回起こっても、吸着剤の使用期間を長くした場合にも対応することができる。
【0018】
前記目的を達成するための本発明に係る一態様のバグフィルタは、
以上のいずれかの態様のろ布で形成されたフィルタと、前記フィルタを内部に収納するバグフィルタケースと、を備える。前記バグフィルタケースは、ガスが流入する入口と、ガスが流出する出口とを有する。前記フィルタは、前記バグフィルタケース内を前記入口側の空間と前記出口側の空間と仕切り、且つ前記フィルタを形成する前記ろ布基材の前記第一面が前記入口側の空間を臨むよう、配置されている。
【0019】
本態様では、フィルタを形成するろ布により、ガス中に含まれている塵等の粒状物を補足することができる。さらに、本態様では、このろ布が有している吸着剤により、ガス中に含まれている水銀を吸着することができる。
【0020】
前記目的を達成するための本発明に係る一態様のガス処理設備は、
前記バグフィルタと、ガス発生源からのガスを前記バグフィルタの前記入口に導く上流側配管と、前記上流側配管中に、活性炭を含みHgの吸着能力を有する粒状の吸着剤を投入する吸着剤投入装置と、を備える。
【0021】
ここで、前記ガス処理設備において、前記ガス中のHg濃度を検知する濃度計と、前記濃度計で検知されたHg濃度に応じて、前記吸着剤投入装置から前記上流側配管中に投入する前記吸着剤の量を制御する投入量制御装置と、を備えてもよい。
【0022】
また、前記投入量制御装置を備えるガス処理設備において、前記バグフィルタの前記出口に接続されている下流側配管を備え、前記濃度計は、前記下流側配管を流れるガス中のHg濃度を検知してもよい。
【0023】
前記目的を達成するための本発明に係る一態様のろ布の製造方法は、
複数の繊維で形成された一枚のろ布基材と、活性炭を含みHgの吸着能力を有する吸着剤を含有する吸着剤スラリーと、Hgの酸化を促進する能力を有する粒状の触媒を含有する触媒スラリーと、を準備する準備工程と、前記一枚のろ布基材で互いに相反する側を向く第一面と第二面とのうち、前記第一面に対して、前記第一面に対する前記第二面の側である下流側に向って、前記吸着剤スラリーを噴霧する吸着剤噴霧工程と、前記吸着剤噴霧工程後に、前記第一面に対して、前記下流側に向かって、前記触媒スラリーを噴霧する触媒噴霧工程と、を実行する。
【0024】
ここで、前記ろ布の製造方法において、前記触媒スラリー中の触媒濃度は、前記吸着剤スラリー中の吸着剤濃度より高くてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一態様によれば、ガス中のHgを効率的に除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態におけるろ布の断面図である。
図2】本発明の一実施形態におけるろ布の製造手順を示すフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態における吸着剤噴霧工程中のろ布基材の断面図である。
図4】本発明の一実施形態における触媒噴霧工程中のろ布基材の断面図である。
図5】二価の水銀の濃度と水銀の吸着率との関係を示すグラフである。
図6】本発明の一実施形態におけるバグフィルタの断面図である。
図7】本発明の一実施形態におけるガス処理設備の系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係るろ布、このろ布を備えるバグフィルタ及びガス処理設備の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0028】
「ろ布の実施形態」
以下、本発明に係るろ布の一実施形態について、図1図5を参照して説明する。
【0029】
図1に示すように、本実施形態のろ布10は、複数の繊維で形成されているろ布基材11と、粒状の吸着剤17と、Hgの酸化を促進する粒状の触媒16と、を備える。
【0030】
ろ布基材11は、第一面12と第二面13とを有している。第一面12と第二面13とは、互に相反する側を向いている。第一面12と第二面13との間隔は、ろ布基材11の厚さである。以下、ろ布基材11の厚さ方向Dtで、第一面12に対する第二面13の側を下流側Dd、第二面13に対する第一面12の側を上流側Duとする。ろ布基材11中で、複数の繊維の相互間は、処理対象となるガスが通るガス流路14を形成する。
【0031】
ろ布基材11を形成する繊維は、例えば、ガラス繊維、ポリフルオロエチレン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリフェニレンサルファイド系繊維等が挙げられる。以上の繊維のうちで、耐熱性が高い繊維は、ガラス繊維及びポリフルオロエチレン系繊維である。繊維の直径は3~15μmが好ましい。繊維の織り方としては、綾織り、朱子織り、平織り等のいずれであってもよい。ろ布基材11である布の打ち込み密度は600~1200g/m2であることが好ましい。打ち込み密度が下限値以上であれば、ガス中の粉状物を充分に捕捉でき、上限値以下であれば、目詰まりを抑制できる。
【0032】
粒状の吸着剤17の平均粒径は、例えば、1μm~50μmである。ここでの粒状の吸着剤17は、水銀(Hg)を吸着する機能を有する粒状の活性炭である。なお、後述するように、粒状の吸着剤17として、粒状の添着活性炭を用いてもよい。さらに、粒状の吸着剤17として、粒状の活性炭と粒状の添着活性炭の混在物を用いてもよい。ここで用いる添着活性炭は、粒状の活性炭にハロゲン化物が添着された物質である。活性炭に添着されるハロゲン化物としては、例えば、臭素(Br)である。
【0033】
粒状の触媒16の平均粒径は、例えば、1μm~100μmである。触媒16は、担体と活性成分とを有する。触媒16の担体としては、チタン(Ti)、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、リン(P)、ボロン(B)から選ばれる少なくとも一種以上の元素を含む単一酸化物又は複合酸化物である。触媒16の活性成分としては、バナジウム(V)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)又はタンタル(Ta)の酸化物のうち少なくとも一種類の酸化物もしくは複合酸化物である。担体としては、少なくともチタン酸化物を用いることが好ましい。活性成分としては、少なくともバナジウム酸化物を用いることが好ましい。以上で例示した全ての活性成分は、いずれも、水銀を含む各種物質の酸化能力を有し、ダイオキシンも酸化分解できる。
【0034】
触媒16の組成は、特に制限されない。活性成分が五酸化バナジウムの一成分である場合には、担体100質量部に対して、活性物質1~20質量部であることが好ましい。活性成分が五酸化バナジウムと三酸化タングステンの二成分である場合には、担体100質量部に対して、五酸化バナジウムが1~10質量部、三酸化タングステンが2~25質量部であることが好ましい。
【0035】
粒状の吸着剤17及び粒状の触媒16は、いずれも、一枚のろ布基材11に付着している。一枚のろ布基材11中で、粒状の吸着剤17が分布している領域は、粒状の触媒16が分布している領域と一致していない。
【0036】
ろ布基材11の第一面12上には、粒状の触媒16が付着している。第一面12上における粒状の触媒16の付着量は、第一面12上における粒状の吸着剤17の付着量より多い。なお、ここでの付着量とは、単位面積当たりの付着物の質量である。粒状の触媒16の付着量は、第一面12から下流側Ddに向うに連れて次第に少なくなり、第二面13近傍では、実質的に0になる。一方、粒状の吸着剤17の付着量は、第一面12から下流側Ddに向うに連れて次第に多くなってから次第に少なくなり、第二面13近傍では実質的に0になる。触媒16及び吸着剤17は、第一面12と第二面13との間では、ろ布基材11中に形成されているガス流路14の内面に付着している。
【0037】
言い換えると、本実施形態では、第二面13よりも上流側Duの所定位置における、吸着剤17の密度に対する触媒16の密度の割合が、所定位置よりも下流側Ddの部分における、吸着剤17の密度に対する前記触媒16の密度の割合よりも高い。また、本実施形態のろ布10は、吸着剤17の密度に対する触媒16の密度の割合が、下流側Ddに向うに連れて次第に小さくなる割合変化領域19を有する。本実施形態において、所定位置は、第一面12の位置である。また、本実施形態において、第二面13上には吸着剤17及び触媒16が実質的に付着していない。なお、付着物の密度とは、ろ布基材11の単位体積当たりの付着物の質量である。
【0038】
次に、以上で説明したろ布10の製造方法について、図2に示すフローチャートに従って説明する。
【0039】
まず、一枚のろ布基材11と、吸着剤17を含有する吸着剤スラリーと、触媒16を含有する触媒スラリーと、を準備する(S1:準備工程)。吸着剤スラリーは、水に粒状の吸着剤17を混入させて形成する。触媒スラリーは、水に粒状の触媒16を混入させて形成する。吸着剤スラリー中の吸着剤17の濃度は、触媒スラリー中の触媒16の濃度よりも低いことが好ましい。具体的には、吸着剤スラリー中の吸着剤17の濃度が5wt%以上で15wt%未満であり、触媒スラリー中の触媒16の濃度が15wt%以上であることが好ましい。吸着剤スラリー中の吸着剤17の濃度は、5wt%以上で12wt%未満がより好ましい。
【0040】
次に、図3に示すように、吸着剤スラリーを下流側Ddに向って第一面12に対して噴霧する(S2:吸着剤噴霧工程)。この結果、吸着剤スラリー中の吸着剤17は、ろ布基材11の第一面12、ろ布基材11の複数のガス流路14の内面に付着する。この吸着剤噴霧工程(S2)では、吸着剤スラリーの噴霧圧力及び噴霧流量を調節することで、粒状の吸着剤17の付着量は、第一面12から下流側Ddに向うに連れて次第に多くなってから次第に少なくなり、第二面13近傍では実質的に0にすることができる。
【0041】
次に、図4に示すように、触媒スラリーを下流側Ddに向って第一面12に対して噴霧する(S3:触媒噴霧工程)。この結果、触媒スラリー中の触媒16は、ろ布基材11の第一面12、ろ布基材11の複数のガス流路14の内面に付着する。但し、触媒16は、ろ布基材11の複数のガス流路14の内面に既に付着している吸着剤17が障害物となる上、触媒スラリー中の触媒16の濃度が吸着剤スラリー中の吸着剤17の濃度より高いため、ガス流路14の奥側、つまり、下流側Ddへ入り込み難い。このため、触媒スラリー中の触媒16の多くは、ろ布基材11の第一面12に付着する。また、触媒スラリー中の残りの触媒16は、複数のガス流路14の内面中で、上流側Duの部分に付着する。
【0042】
以上のように、吸着剤噴霧工程(S2)を実行した後、触媒噴霧工程(S3)を実行することで、一枚のろ布基材11中の粒状の吸着剤17の分布及び粒状の触媒16の分布が、先に説明した分布になる。
【0043】
次に、吸着剤17及び触媒16が付着したろ布基材11を乾燥させる(S4:乾燥工程)。以上で、本実施形態のろ布10が完成する。
【0044】
なお、準備工程(S1)中で、触媒スラリーを形成する工程は、触媒噴霧工程(S3)より前に実行していればよく、吸着材噴霧工程(S2)の前に実行する必要性はない。
【0045】
次に、以上で説明したろ布10の効果について説明する。
【0046】
触媒16は、前述したようにガス中の物質を酸化させる能力を有する。このため、ガス中に0価の水銀が含まれていた場合、触媒16は、以下に示すように、この0価の水銀を酸化させて、二価の水銀にする。
Hg→Hg2++2e
【0047】
活性炭のみで、この活性炭にハロゲン化物が添着されていない通常の活性炭では、図5に示すように、二価の水銀(Hg2+)の濃度が高いほど、水銀の吸着率が高まる。逆に、二価の水銀濃度が低く、0価の水銀(Hg)の濃度が高くなるほど、水銀の吸着率が低下する。このため、通常の活性炭で水銀の吸着率を高めるためには、この通常の活性炭を二価の水銀濃度が高い環境下に配置することが好ましい。
【0048】
本実施形態のろ布10に対して、水銀を含むガスを上流側Duから下流側Ddに向って流した場合、このガス中の水銀の多くは、ろ布基材11の第一面12に多く付着している触媒16により二価の水銀になる。なお、二価の水銀の多くは、ガス中に含まれる塩素等と結合する。その後、二価の水銀の多くは、ろ布基材11のガス流路14中に多く付着している通常の活性炭に吸着される。
【0049】
仮に、通常の活性炭の分布及び触媒16の分布が、ろ布基材11の厚さ方向Dtでほぼ均一であるとする。この場合、ろ布基材11中の上流側Duの部分に位置している活性炭は、二価の水銀濃度が低い環境に置かれることになるため、水銀の吸着率が低い。このため、このろ布では、水銀を効率的に吸着することができない。
【0050】
一方、本実施形態のろ布10は、ろ布基材11の上流側Duの部分に触媒16が多く付着し、この位置よりも下流側Ddに通常の活性炭を含む吸着剤17が多く付着しているので、多くの通常の活性炭は、二価の水銀濃度が高い環境に置かれることになる。よって、本実施形態のろ布10では、水銀を効率的に吸着することができる。また、本実施形態の吸着剤17には活性炭が含まれているので、ダイオキシン等の有害物質も吸着することができる。
【0051】
ここで、仮に、以下の二種類のろ布が存在するとする。第一のろ布は、二枚のろ布基材を有し、第一のろ布基材に粒状の触媒16が付着し、第二ろ布基材に粒状の吸着剤17が付着しているろ布である。第二のろ布は、吸着剤17又は触媒16が、ろ布基材を構成する繊維に練り込まれているろ布である。
【0052】
第一のろ布は、二枚のろ布基材を有するので、ガスの圧力損失が大きくなる上に、製造コストがかさむ。一方、本実施形態のろ布10は、ろ布基材11が一枚のみである。このため、本実施形態ののろ布10では、第一のろ布より、ガスの圧力損失を抑えることができる上に、製造コストを抑えることができる。
【0053】
第二のろ布は、吸着剤17又は触媒16が、ろ布基材を構成する繊維に練り込まれているため、必ずしもろ布基材中のガス流路に吸着剤や触媒が存在することにならず、ガスと吸着剤17又は触媒16との接触率が低く、水銀の吸着率が低くなる。一方、本実施形態のろ布10は、ろ布基材11の第一面12やろ布基材11のガス流路14の内面に吸着剤17や触媒16が付着している。このため、本実施形態のろ布10では、第二のろ布よりも、ガスと吸着剤17との接触率及びガスと触媒16との接触率が高く、水銀の吸着率を高めることができる。
【0054】
「ろ布の変形例」
以上の実施形態のろ布基材11中の厚さ方向Dtにおける所定位置は、第一面12の位置である。しかしながら、この所定位置は、第二面13よりも上流側Duの位置であればよく、第一面12と第二面13との間の位置であってもよい。
【0055】
このようなろ布を製造する方法としては、例えば、以下の二つの方法がある。第一の方法では、吸着剤スラリー中の吸着剤17の濃度を上記実施形態よりも低くすると共に、触媒スラリー中の触媒16の濃度を上記実施形態よりも低くする。さらに、各スラリーの噴霧圧力を上記実施形態よりも高くする。また、第二の方法では、先に、触媒スラリーを、ろ布基材11の第二面13に対して、上流側Duに向って噴霧してから、吸着剤スラリーを、ろ布基材11の第二面13に対して、上流側Duに向って噴霧する。この第二の方法では、第二面13に粒状の触媒16や粒状の吸着剤17が付着することになる。
【0056】
以上の実施形態の吸着剤17は、通常の活性炭のみである。しかしながら、前述したように、粒状の吸着剤17として、粒状の添着活性炭を用いてもよいし、粒状の活性炭と粒状の添着活性炭の混在物を用いてもよい。
【0057】
通常の活性炭は、図5を用いて前述したように、二価の水銀の濃度が低下するに連れて、水銀の吸着率が低下する。一方、通常の活性炭にハロゲン化物を添着した添着活性炭は、同図に示すように、二価の水銀の濃度が変化しても、水銀の吸着率の変化が少なく、しかも、この吸着率は、二価の水銀濃度が100wt%のときの通常の活性炭の吸着率とほぼ一致する。また、通常の活性炭は、水銀の濃度に応じて吸着率が変わる関係で、水銀濃度が高いときに吸着した水銀の一部を、水銀の濃度が低くなると離脱させてしまうことがある。一方、添着活性炭は、水銀を一旦吸着すると、特別な処理が施されない限り、この水銀を離脱させることはない。
【0058】
このため、二価の水銀の濃度に関わらず、安定して水銀が吸着され、且つ吸着した水銀を離脱させたくない場合には、吸着剤17として、粒状の添着活性炭のみ、又は、粒状の添着活性炭の混合率が高い粒状の活性炭との混合物を用いてもよい。逆に、水銀濃度が一時的に急増することが多数回起こり得る場合には、吸着剤17の使用期間を長くするために、粒状の活性炭のみ、又は、粒状の添着活性炭の混合率が低い粒状の活性炭との混合物を用いてもよい。
【0059】
「バグフィルタの実施形態」
以下、本実施形態のバグフィルタについて、図6を参照して説明する。
【0060】
本実施形態のバグフィルタ20は、以上で説明した実施形態又はその変形例のろ布で形成されている複数のフィルタ21と、複数のフィルタ21を収納するバグフィルタケース22と、フィルタ支持部材24と、排出機25と、を備える。
【0061】
以上で説明した実施形態又はその変形例のろ布は、袋状に縫製されて、フィルタ21を形成する。ろ布基材11の第一面12は、袋状のフィルタ21の外面21oを成し、ろ布基材11の第二面13は、袋状のフィルタ21の内面21iを成す。
【0062】
バグフィルタケース22は、ガスが内部に流入する入口22iと、ガスが内部から流出する出口22oとを有する。入口22iは、バグフィルタケース22の第一側板22aに形成され、出口22oは、バグフィルタケース22の第二側板22bに形成されている。排出機25は、バグフィルタケース22の下部に接続されている。この排出機25は、例えば、ロータリーバルブで、バグフィルタケース22内に溜まった塵等の粉状物を外部に排出する。
【0063】
フィルタ支持部材24は、バグフィルタケース22内に配置され、複数の袋状のフィルタ21を支持する。
【0064】
バグフィルタケース22内は、複数の袋状のフィルタ21とフィルタ支持部材24とにより、入口側の空間23iと出口側の空間23oとに仕切られている。フィルタ支持部材24に支持されている袋状のフィルタ21の外面21oは、入口側の空間23iを臨み、フィルタ21の内面21iは、出口側の空間23oを臨んでいる。よって、フィルタ21を形成するろ布基材11の第一面12は、入口側の空間23iを臨み、ろ布基材11の第二面13は、出口側の空間23oを臨んでいることになる。
【0065】
本実施形態のバグフィルタ20では、入口22iから流入したガス中に含まれる塵等の粉状物をフィルタ21で捕捉し、この粉状物を排出機25から外部に排出することができる。さらに、本実施形態のバグフィルタ20は、以上で説明した実施形態又はその変形例のろ布で形成されているフィルタ21を備えているので、このろ布でガス中の水銀を効率的に除去することができる。フィルタ21を通過したガスは、出口22oから外部へ排気される。
【0066】
「ガス処理設備の実施形態」
以下、本実施形態のガス処理設備について、図7を参照して説明する。
【0067】
本実施形態のガス処理設備は、以上で説明した実施形態のバグフィルタ20と、複数の配管32,33と、吸着剤投入装置34と、ガス冷却器35と、ブロワー36と、を備える。
【0068】
配管32,33としては、上流側配管32と下流側配管33とがある。上流側配管32は、ゴミ焼却炉等のガス発生源31とバグフィルタ20の入口22iとを接続する。下流側配管33は、バグフィルタ20の出口22oと煙突37とを接続する。ブロワー36は、下流側配管33中に設けられ、バグフィルタ20内のガスを吸引して、このガスを煙突37に送る。
【0069】
吸着剤投入装置34は、上流側配管32に接続されている。この吸着剤投入装置34は、粒状の吸着剤が蓄えられるタンク34tと、タンク34tから吸着剤を上流側配管32内に投入するフィーダ34fと、を有する。このフィーダ34fは、例えば、ロータリーフィーダである。
【0070】
ガス冷却器35は、上流側配管32中であって、吸着剤投入装置34よりガス発生源31側に設けられている。このガス冷却器35は、ガス発生源31からのガスの温度をフィルタ21の耐熱温度未満に下げる。
【0071】
ガス発生源31がごみ焼却炉の場合、水銀温度計等、水銀を含む含水銀物が他のゴミと共に投入されることがある。ゴミ焼却炉には、このような含水銀物が不定期に投入されることが多い。このため、ゴミ焼却炉から排気されるガス中の水銀濃度は、スパイク状に増加することがある。つまり、ゴミ焼却炉から排気されるガス中の水銀濃度は、極めて短時間のうちに増加し、極めて短時間のうちに減少する。また、ガス中には、ダイオキシン等の有害物質が含まれることが多い。
【0072】
本実施形態のガス処理設備では、吸着剤投入装置34から上流側配管32中に定常的に一定量の粒状の吸着剤が投入される。上流側配管32中に投入された吸着剤は、この上流側配管32中を流れるガス中に含まれるダイオキシン等を吸着する。上流側配管32中を流れるガス中に含まれる塵や、ダイオキシン等を吸着した吸着剤は、バグフィルタ20内のフィルタ21で捕捉される。このフィルタ21で捕捉された塵や吸着剤は、フィルタ21から払い落とされた後、排出機25により外部へ排出される。よって、フィルタ21が有している吸着剤17は、水銀やダイオキシン等を吸着するためにほとんど使用されない。
【0073】
ガス発生源31から排気されるガス中の水銀濃度がスパイク状に増加した場合、吸着剤投入装置34から上流側配管32中に定常的に投入する吸着剤の量を極めて多くしていない限り、この吸着剤で水銀の多くを吸着することができない。本実施形態では、吸着剤投入装置34からの吸着剤で吸着できない水銀を、バグフィルタ20のフィルタ21が有している吸着剤17で吸着する。
【0074】
以上のように、本実施形態では、吸着剤投入装置34から投入する吸着剤の量を抑えつつも、スパイク状に増加するガス中の水銀も除去することができる。
【0075】
なお、吸着剤投入装置34から投入する吸着剤は、バグフィルタ20のフィルタ21に含まれる吸着剤17と同様、通常の活性炭のみであってもよいし、添着活性炭のみでもよいし、通常の活性炭と添着活性炭との混合物であってもよい。
【0076】
また、以上の実施形態では、吸着剤投入装置34から上流側配管32中に定常的に一定量の粒状の吸着剤を投入する。しかしながら、ガス処理設備は、図7に示すように、ガス中のHg濃度を検知する濃度計38と、濃度計38で検知されたHg濃度に応じて、吸着剤投入装置34から上流側配管32中に投入する吸着剤17の量を制御する投入量制御装置39と、を備えてもよい。この投入量制御装置39は、濃度計38で検知されたHg濃度が予め定められた値を超えると、吸着剤投入装置34から投入する吸着剤17の量を多くする。
【0077】
濃度計38は、下流側配管33に設けてもよいし、上流側配管32もしくは煙突37に設けてもよい。濃度計38を下流側配管33に設けた場合、この濃度計38で検知されたHg濃度が高くなった時点で、水銀を含むガスの少なくとも一部がバグフィルタ20内に流入している。このため、濃度計38で検知されたHg濃度が予め定められた値を超えてから、吸着剤投入装置34から上流側配管32に投入する吸着剤の量を多くしても、この吸着剤では、ガス中に含まれる一部の水銀のみしか吸着できない。一方、濃度計38を上流側配管32に設けた場合、この濃度計38で検知されたHg濃度が高くなった時点で、水銀を含むガスがバグフィルタ20内に流入している可能性が小さい。このため、濃度計38で検知されたHg濃度が予め定められた値を超えてから、吸着剤投入装置34から上流側配管32に投入する吸着剤の量を多くすることで、この吸着剤でガス中に含まれる多くの水銀を吸着することができる。但し、濃度計38を上流側配管32に設けると、この濃度計38の検出端が塵等に覆われ、連続的に水銀濃度を検知できなくなる場合がある。このため、濃度計38を上流側配管32に設ける場合には、この濃度計38の検出端が塵等に覆われないような構造にするか、若しくは、検出端が塵等で覆われたとしても、この塵等を払い落とす構造にする必要がある。
【符号の説明】
【0078】
10:ろ布
11:ろ布基材
12:第一面
13:第二面
14:ガス流路
16:触媒
17:吸着剤
19:割合変化領域
20:バグフィルタ
21:フィルタ
21i:内面
21o:外面
22:バグフィルタケース
22a:第一側板
22b:第二側板
22i:入口
22o:出口
23i:入口側の空間
23o:出口側の空間
24:フィルタ支持部材
25:排出機
31:ガス発生源
32:上流側配管
33:下流側配管
34:吸着剤投入装置
34t:タンク
34f:フィーダ
35:ガス冷却器
36:ブロワー
37:煙突
38:濃度計
39:投入量制御装置
Dt:厚さ方向
Du:上流側
Dd:下流側
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7