IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタホーム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-設計支援システム 図1
  • 特許-設計支援システム 図2
  • 特許-設計支援システム 図3
  • 特許-設計支援システム 図4
  • 特許-設計支援システム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】設計支援システム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20220428BHJP
   E04B 1/18 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
G06F30/10
E04B1/18 A ESW
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018103086
(22)【出願日】2018-05-30
(65)【公開番号】P2019207591
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】504093467
【氏名又は名称】トヨタホーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100161230
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 雅博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直哉
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-069908(JP,A)
【文献】特開2013-125383(JP,A)
【文献】特開平11-120000(JP,A)
【文献】特開2011-253484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/398
E04B 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床部又は天井部に複数の小梁が横並びで設けられている建物において、前記床部又は前記天井部に設備機器を設置する際の設計支援を行う設計支援システムであって、
前記設備機器を有する前記建物についてのCADデータを取得する建物データ取得手段と、
その取得したCADデータ上で、前記設備機器が前記小梁と干渉するか否かを判定する機器干渉判定手段と、
前記設備機器が前記小梁と干渉すると判定された場合に、前記CADデータ上において、小梁を前記設備機器との干渉が回避される位置に回避小梁として配置し直す小梁配置変更手段と、
前記回避小梁が配置された後の前記CADデータ上で、前記回避小梁が前記設備機器とは異なる他部材に干渉するか否かを判定する他部材干渉判定手段と、
前記回避小梁が前記他部材と干渉すると判定された場合に、その干渉を回避すべくそれら両者の配置関係を前記CADデータ上でユーザが変更操作することを可能とする干渉回避操作手段と、
前記干渉回避操作手段により前記変更操作が行われた場合に、前記他部材干渉判定手段により前記両者の干渉が判定された干渉時における当該両者の配置関係に関する干渉時配置情報と、前記変更操作により前記両者の干渉が回避された後の当該両者の配置関係に関する干渉回避後配置情報とを対応付けて記憶部に記憶する記憶実施手段と、
を備えており、
前記記憶部に記憶された前記干渉時配置情報及び前記干渉回避後配置情報に関するデータベースが構築されており、そのデータベースを用いて前記建物としての対象建物についての設計支援が行われるようになっており、
前記建物データ取得手段は、前記対象建物についてのCADデータを取得し、
前記機器干渉判定手段は、前記取得したCADデータに基づき、前記対象建物において前記設備機器と前記小梁とが干渉するか否かを判定し、
前記小梁配置変更手段は、前記設備機器と前記小梁との干渉が判定された場合に、その干渉が回避される位置に前記回避小梁を配置し直し、
前記他部材干渉判定手段は、前記回避小梁が前記他部材に干渉するか否かを判定し、
前記回避小梁が前記他部材と干渉すると判定された場合に、前記データベースに記憶された前記干渉時配置情報及び前記干渉回避後配置情報に基づいて、それら両者の干渉を回避するよう、両者の配置関係について前記CADデータ上で変更を行う干渉回避手段を備えることを特徴とする設計支援システム。
【請求項2】
前記干渉回避手段は、前記データベースに記憶された前記干渉時配置情報及び前記干渉回避後配置情報を深層学習することで干渉回避に関する判断基準を作成し、その作成した判断基準に基づき、前記両者の配置関係について変更を行うことを特徴とする請求項に記載の設計支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設計支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の建物ユニットが互いに連結されて構成されたユニット式建物が知られている。建物ユニットは、柱、床大梁及び天井大梁が互いに連結されることで骨格が形成され、対向する床大梁の間には複数の床小梁が架け渡され、対向する天井大梁の間には複数の天井小梁が架け渡されている。
【0003】
ユニット式建物において、建物ユニットの床部に、トイレ設備や空調設備などの設備機器が設置される場合、その設備機器は床小梁と同じ高さ位置を含んで設置される場合がある。この場合、設備機器の設置位置等によっては設備機器が床小梁と干渉するおそれがある。このため、設備機器を床部に配置する際には、かかる干渉を回避するように設計を行う必要がある。
【0004】
なお、このような部材同士の干渉を設計時に判別するためのシステム等も一部で提案されている(例えば特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-256481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、設備機器を床小梁と干渉することなく床部に配置するに際しては、例えば次のような手順で設計を行うことが考えられる。まず、予め設計された建物(建物ユニット)のCADデータ上において、設備機器を当該建物の床部に配置し、その配置位置で設備機器が床小梁と干渉するか否かを判定する。そして、設備機器が床小梁と干渉する場合には、CADデータ上において、設備機器との干渉が回避される位置に床小梁を配置し直すことが考えられる。
【0007】
しかしながら、設備機器との干渉を回避すべく床小梁を配置し直した場合、今度は、その配置し直した床小梁が設備機器とは異なる他部材に干渉してしまうことが考えられる。その場合、設計者は、その床小梁と他部材との干渉を回避すべく、それら両者の配置関係を見直す必要が生じ、手間が発生する。また、このような見直しを建物ごとに行うのは非常に手間であり、設計工数の増大につながるおそれがある。
【0008】
なお、このような問題は、建物ユニットの天井部に、空調装置や換気装置などの設備機器を設置する際にも同様に生じうる問題である。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、建物において複数の小梁が並設された床部又は天井部に設備機器を設置する際の設計に関し工数低減を図ることができる設計支援システムを提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、第1の発明の設計支援システムは、床部又は天井部に複数の小梁が横並びで設けられている建物において、前記床部又は前記天井部に設備機器を設置する際の設計支援を行う設計支援システムであって、前記設備機器を有する前記建物についてのCADデータを取得する建物データ取得手段と、その取得したCADデータ上で、前記設備機器が前記小梁と干渉するか否かを判定する機器干渉判定手段と、前記設備機器が前記小梁と干渉すると判定された場合に、前記CADデータ上において、小梁を前記設備機器との干渉が回避される位置に回避小梁として配置し直す小梁配置変更手段と、前記回避小梁が配置された後の前記CADデータ上で、前記回避小梁が前記設備機器とは異なる他部材に干渉するか否かを判定する他部材干渉判定手段と、前記回避小梁が前記他部材と干渉すると判定された場合に、その干渉を回避すべくそれら両者の配置関係を前記CADデータ上でユーザが変更操作することを可能とする干渉回避操作手段と、前記干渉回避操作手段により前記変更操作が行われた場合に、前記他部材干渉判定手段により前記両者の干渉が判定された干渉時における当該両者の配置関係に関する干渉時配置情報と、前記変更操作により前記両者の干渉が回避された後の当該両者の配置関係に関する干渉回避後配置情報とを対応付けて記憶部に記憶する記憶実施手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、設備機器が床部又は天井部に設置される建物についてのCADデータが取得され、その取得されたCADデータ上で、設備機器が床部又は天井部の小梁と干渉するか否かが判定される。干渉が判定された場合には、干渉が回避される位置に小梁が回避小梁として配置し直される。そして、その回避小梁が他部材と干渉するか否かが判定される。回避小梁が他部材と干渉する場合には、その干渉を回避すべく、ユーザにより、それら両者の配置関係がCADデータ上で変更操作される。この変更操作が行われることで両者の干渉が回避された場合には、干渉時における両者の配置関係と、干渉回避後における両者の配置関係とが対応付けて記憶部に記憶される。
【0012】
このような構成では、ユーザが、建物において回避小梁と他部材との干渉を回避すべく、両者の配置関係を変更操作する度に、両者の配置関係に関する情報が記憶部に都度記憶される。このため、多数の建物について、かかる記憶処理を行うことで、記憶部に、両者の配置情報に関するデータベースを構築することができる。したがって、データベース構築後は、データベースに記憶された配置情報に基づき、両者の干渉が回避されるよう両者の配置関係を自動で変更するようにすることが可能となる。例えば、データベースに記憶された配置情報からは、ユーザが過去に、両者の配置関係をどのように変更することで干渉を回避したかを把握することが可能であるため、その過去の干渉回避の仕方を参照して両者の配置関係を変更するといったことが可能となる。これにより、回避小梁と他部材とが干渉した場合に、その干渉を回避すべく、ユーザが両者の配置関係を見直す(変更する)手間を不要とすることができる。そのため、複数の小梁が並設された床部又は天井部に設備機器を設置する際において、その設計に係る工数低減を図ることが可能となる。
【0013】
第2の発明の設計支援システムは、第1の発明において、前記記憶部に記憶された前記干渉時配置情報及び前記干渉回避後配置情報に関するデータベースが構築されており、そのデータベースを用いて前記建物としての対象建物についての設計支援を行う設計支援システムであって、前記建物データ取得手段は、前記対象建物についてのCADデータを取得し、前記機器干渉判定手段は、前記取得したCADデータに基づき、前記対象建物において前記設備機器と前記小梁とが干渉するか否かを判定し、前記小梁配置変更手段は、前記設備機器と前記小梁との干渉が判定された場合に、その干渉が回避される位置に前記回避小梁を配置し直し、前記他部材干渉判定手段は、前記回避小梁が前記他部材に干渉するか否かを判定し、前記回避小梁が前記他部材と干渉すると判定された場合に、前記データベースに記憶された前記干渉時配置情報及び前記干渉回避後配置情報に基づいて、それら両者の干渉を回避するよう、両者の配置関係について前記CADデータ上で変更を行う干渉回避手段を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、記憶部に干渉時配置情報及び干渉回避後配置情報に関するデータベースが構築され、そのデータベースを用いて対象建物についての設計支援が行われる。この場合、回避小梁が他部材と干渉すると判定された際には、データベースに記憶された干渉時配置情報及び干渉回避後配置情報に基づき、両者の干渉を回避するよう、両者の配置関係がCADデータ上にて自動で変更される。これにより、ユーザが両者の配置関係を見直す(変更操作する)手間を省けるため、設計工数の低減を図ることが可能となる。
【0015】
第3の発明の設計支援システムは、第2の発明において、前記干渉回避手段は、前記データベースに記憶された前記干渉時配置情報及び前記干渉回避後配置情報を深層学習することで干渉回避に関する判断基準を作成し、その作成した判断基準に基づき、前記両者の配置関係について変更を行うことを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、深層学習を用いて干渉回避に関する判断基準が作成され、その作成された判断基準を基に、回避小梁と他部材との配置関係が変更される。この場合、深層学習を用いることで両者の干渉を回避した設計を好適に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】設計支援装置の概略構成を示す図。
図2】データベース構築処理の流れを示す機能ブロック図。
図3】設備機器が設置される建物ユニットのCADデータを示す図。
図4】データベース利用処理の流れを示す機能ブロック図。
図5】建物ユニットの構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を具体化した一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、複数の建物ユニットが互いに連結されて構成されるユニット式建物において、いずれかの建物ユニットの床部に設備機器が設置されることを想定している。そして、その設備機器を床部に設置する際の設計支援を行う設計支援装置について具体化している。以下では、その設計支援装置の説明を行うのに先立ち、まずユニット式建物を構成する建物ユニットの構成について簡単に説明する。図5は、建物ユニットの構成を示す斜視図である。
【0019】
図5に示すように、建物ユニット20は、その四隅に配設される4本の柱21と、各柱21の上端部及び下端部をそれぞれ連結する各4本の天井大梁22及び床大梁23とを備える。そして、それら柱21、天井大梁22及び床大梁23により直方体状の骨格(フレーム)が形成されている。柱21は四角筒状の角形鋼よりなる。天井大梁22及び床大梁23は断面コ字状の溝形鋼よりなり、その開口部が向き合うようにして設置されている。
【0020】
建物ユニット20の天井部には、対向する長辺部の各天井大梁22の間に所定の間隔で複数の天井小梁24が架け渡されている。また、建物ユニット20の床部には、対向する長辺部の各床大梁23の間に所定の間隔で複数の床小梁25が架け渡されている。天井小梁24と床小梁25とはそれぞれ同間隔でかつ各々上下に対応する位置に設けられている。天井小梁24はリップ溝形鋼よりなり、床小梁25は角形鋼よりなる。なお、天井小梁24及び床小梁25が「小梁」に相当する。
【0021】
本実施形態では、上述したように、ユニット式建物においていずれかの建物ユニット20に設備機器が設置されることを想定している。この場合、設備機器としては、トイレ設備や、空調機器等が設置されることが想定される。設備機器は、建物ユニット20の床部に設置され、その床部において床小梁25と同じ高さ位置を含んで配置される。このため、設備機器の配置位置等によっては設備機器が床小梁25と干渉してしまうおそれがある。
【0022】
そこで、建物ユニット20の床部に設備機器が設置される場合には、設備機器が床小梁25と干渉しないように設備機器と床小梁25との干渉を回避した設計を行う必要がある。本実施形態では、かかる設計を行うにあたり設計支援装置10を用いることとしており、以下においては、その設計支援装置10について図1を用いながら説明する。図1は、設計支援装置10の概略構成を示す図である。なお、設計支援装置10は、例えば建物メーカに設けられ、同メーカの設計者(ユーザに相当)により用いられる。
【0023】
図1に示すように、設計支援装置10は、パーソナルコンピュータにより構成され、建物についての各種設計を行うためのCADプログラム(詳しくは2次元CADプログラム)を有している。設計支援装置10は、制御部11と、操作部12と、表示部13と、記憶部14とを備える。制御部11は、建物に設備機器を設置する際の設計支援処理等、各種処理を行うものである。操作部12は、設計支援処理に必要な各種情報を入力するためのもので、キーボードやマウス等を備えて構成されている。表示部13は、設計支援処理に関する各種情報を表示するもので、ディスプレイからなる。記憶部14は、設計支援処理に必要な各種情報を記憶するものである。
【0024】
次に、設計支援装置10により行われる設計支援に関する各種処理について説明する。
【0025】
設計支援装置10は、あらかじめ設計されたユニット式建物(以下、建物Xという)を対象として、設計支援処理を行う。記憶部14には、建物XのCADデータ(設計データ)があらかじめ記憶されており、設計支援装置10は、その記憶部14に記憶された建物XのCADデータを用いて設計支援処理を行う。なお、建物XのCADデータには、建物X(詳しくは建物ユニット20)の床部に設置される設備機器(以下、設備機器Kという)のデータも含まれている。
【0026】
設計支援装置10により行われる設計支援処理としては、建物XのCADデータ上で設備機器が床小梁25と干渉するか否かを判定し、干渉する場合には設備機器Kと干渉しない位置に床小梁25を配置し直す小梁配置変更処理がある。そこで、以下ではまず、この小梁配置変更処理について図2及び図3を参照しながら説明する。図2は、データベース構築処理の流れを示す機能ブロック図である。図2中の各ブロック31~33,35~39は制御部11により実現され、データベース34は記憶部14により構築されている。また、図3は、設備機器Kが設置される建物ユニット20のCADデータを示す図である。図3では、建物ユニット20の床部を上方から見た平面視データが示されている。
【0027】
図2に示すように、建物データ取得部31は、記憶部14より建物XのCADデータを読み出して取得する。この場合、建物XのCADデータのうち、少なくとも設備機器Kが設置される建物ユニット20のCADデータを取得する。図3(a)には、その取得されたCADデータが示されている。図3(a)に示すように、建物ユニット20の床部には設備機器Kが設けられている。また、建物ユニット20の床部には、設備機器Kの他に、空調用のダクト部材Dが設けられている。ダクト部材Dは、隣り合う床小梁25の間を通じて上下に延びている。なお、建物データ取得部31が建物データ取得手段に相当する。
【0028】
また、建物データ取得部31により取得されるCADデータでは、建物ユニット20の各床小梁25の間隔が標準間隔(標準ピッチ)とされている。この標準ピッチで各床小梁25が配置された状態が床小梁25の標準配置状態となっている。
【0029】
機器干渉判定部32は、建物データ取得部31により取得した建物XのCADデータに基づいて、設備機器Kが床小梁25と干渉するか否かを判定する。この場合、建物XのCADデータ上で設備機器Kと床小梁25とが重複しているか否かを判定し、その判定結果に基づき上記判定を行う。図3(a)の例では、設備機器Kと床小梁25とが重複しているため、設備機器Kが床小梁25と干渉すると判定される。なお、機器干渉判定部32が機器干渉判定手段に相当する。
【0030】
小梁配置変更部33は、機器干渉判定部32により設備機器Kが床小梁25と干渉すると判定された場合に、CADデータ上で、床小梁25を設備機器Kとの干渉が回避される位置に回避床小梁25(以下、符号を25aとする)として配置し直す(再配置する)。図3(a)の例では、上述したように、設備機器Kが床小梁25と干渉するため、この場合、図3(b)に示すように、設備機器Kと干渉する床小梁25に代えて、回避床小梁25aが配置される。図3(b)の例では、2本の回避床小梁25aが、設備機器Kを挟んだ両側に新たに配置されている。なお、回避床小梁25aが回避小梁に相当する。
【0031】
小梁配置変更部33による処理に関し具体的に説明すると、小梁配置案データベース34には、小梁配置変更部33において回避床小梁25aを配置(再配置)する際の小梁再配置案が複数記憶されている。小梁再配置案としては、設備機器の種類ごとに、回避床小梁25aの配置パターンが異なる複数の再配置案が記憶されている。例えば、設備機器の両側に配置する各回避床小梁25aの配置間隔(ピッチ)が異なる複数の再配置案が記憶されている。小梁配置変更部33では、設備機器Kの種類に対応する小梁再配置案を小梁配置案データベース34から読み出し、その読み出した小梁再配置案にしたがい回避床小梁25aを再配置する。
【0032】
なお、機器干渉判定部32により設備機器Kが床小梁25と干渉しないと判定された場合には、小梁配置変更部33における処理が不要であるため、その時点で一連の処理を終了する。また、小梁配置変更部33が小梁配置変更手段に相当する。
【0033】
ここで、上述したように、設備機器Kとの干渉を回避すべく、床小梁25を回避床小梁25aとして配置し直した(再配置した)場合、その再配置した回避床小梁25aが設備機器Kとは異なる他部材に干渉してしまうことが考えられる。そこで、本設計支援装置10では、こうした点に鑑み、回避床小梁25aが他部材と干渉するか否かを判定するようにしており、干渉する場合にはその旨を設計者に知らせるようにしている。これにより、設計者に対して、回避床小梁25aと他部材との干渉を回避すべく、それら両者の配置関係について見直しを促すことを可能としている。
【0034】
また、本設計支援装置10では、設計者により、CADデータ上で回避床小梁25aと他部材との配置関係について見直し(変更)が行われた場合に、その変更前の両者の配置関係と、変更後の両者の配置関係とを対応付けて記憶部14に逐次記憶するようにしている。これにより、本設計支援装置10では、回避床小梁25aと他部材との配置関係に関するデータベースを構築することが可能となっている。そして、本設計支援装置10では、データベース構築後、そのデータベースを用いて、回避床小梁25aと他部材との干渉を回避すべく、それら両者の配置関係をCADデータ上で自動で変更する処理を行うようにしている。これらの処理は、本設計支援装置10による特徴的な処理となっており、以下においては、その処理の内容について詳しく説明する。
【0035】
まず、データベースを構築する際の処理について説明する。当該処理においてはまず、他部材干渉判定部35において、回避床小梁25aが再配置された後のCADデータ(図3(b)参照)に基づき、回避床小梁25aが設備機器K以外の他部材に干渉するか否かを判定する。この場合、CADデータ上で回避床小梁25aが他部材と重複しているか否かを判定し、その判定結果に基づき上記判定を行う。図3(b)の例では、各回避床小梁25aのうち一方の回避床小梁25aがダクト部材Dと重複している。このため、その回避床小梁25aが他部材であるダクト部材Dと干渉していると判定される。なお、他部材干渉判定部35が他部材干渉判定手段に相当する。
【0036】
干渉状態表示部36は、他部材干渉判定部35において回避床小梁25aが他部材と干渉すると判定された場合に、その干渉状態における建物XのCADデータ(図3(b)参照)を表示部13に表示させる。これにより、設計者は回避床小梁25aと他部材(ダクト部材D)とが干渉することを知ることができる。なお、他部材干渉判定部35にて回避床小梁25aが他部材と干渉しないと判定された場合には、その時点で一連の処理を終了する。
【0037】
干渉時配置情報記憶部37は、他部材干渉判定部35において回避床小梁25aが他部材と干渉すると判定された場合に、その干渉時におけるそれら両者の配置関係に関する干渉時配置情報を記憶部14に記憶する。この場合、干渉時配置情報として、両者の配置関係を示すCADデータ情報(例えば図3(b)のCADデータ)を記憶する。但し、干渉時配置情報として、CADデータ情報に代え、両者の配置関係を示す寸法情報等を記憶するようにしてもよい。
【0038】
ここで、回避床小梁25aが他部材と干渉する場合には、その干渉を回避すべく、設計者により、CADデータ上において回避床小梁25aと他部材との配置関係を変更する変更操作が操作部12を用いて行われる。この場合、設計者は、当該操作をCADデータが表示された表示部13を見ながら行う。この変更操作が行われることで、回避床小梁25aと他部材との干渉が回避される。図3(c)の例では、回避床小梁25aとダクト部材Dとのうち、回避床小梁25aの位置が変更されることで、それら両者25a,Dの干渉が回避されている。なお、操作部12が干渉回避操作手段に相当する。
【0039】
干渉回避判定部38は、設計者による上記変更操作が行われた後、CADデータに基づいて、回避床小梁25aと他部材との干渉が回避されたか否かを判定する。例えば、設計者により上記変更操作が済んだことを示す所定の操作が操作部12を用いて行われると、干渉回避判定部38において上記の判定が行われるようにすることが考えられる。
【0040】
配置情報記憶部39は、干渉回避判定部38により回避床小梁25aと他部材との干渉が回避されたと判定された場合に、その干渉回避後におけるそれら両者の配置関係に関する干渉回避後配置情報を記憶部14に記憶する。この場合、干渉回避後配置情報として、両者の配置関係を示すCADデータ情報(例えば図3(c)のCADデータ)を記憶する。また、配置情報記憶部39では、干渉回避後配置情報を、干渉時配置情報記憶部37において記憶した干渉時配置情報と対応付けて記憶部14に記憶する。なお、配置情報記憶部39が記憶実施手段に相当する。
【0041】
上述したデータベース構築処理(図2)によれば、記憶部14に、建物における干渉時配置情報と干渉回避後配置情報とが対応付けられた状態で都度記憶される。このデータベース構築処理が多数の建物を対象として行われると、記憶部14には、それら各建物の干渉時配置情報及び干渉回避後配置情報が記憶(蓄積)される。この場合、記憶部14には、それら配置情報に関するデータベースが配置情報データベース43として構築される。なお、配置情報データベース43が「データベース」に相当する。
【0042】
本設計支援装置10では、配置情報データベース43が構築された後、その配置情報データベース43を用いて、回避床小梁25aと他部材との干渉を回避すべくそれら両者の配置関係をCADデータ上で変更する処理を行うこととしている。そこで、以下では、配置情報データベース43を用いた処理の内容について図4に基づき説明する。図4は、データベース利用処理の流れを示す機能ブロック図である。なお、図4中の各機能ブロック31~33,35,41,42は制御部11により実現され、配置情報データベース43は記憶部14により構築されている。
【0043】
図4に示すように、データベース利用処理では、データベース構築処理と同様、まず建物データ取得部31において、処理対象となる建物についてのCADデータを記憶部14より取得する。以下では、この建物を、データベース構築処理(図2)の際の処理対象である建物Xと区別して、建物Xaという。なお、建物Xaが「対象建物」に相当する。また、データベース利用処理では、CADデータの取得後、データベース構築処理と同様、機器干渉判定部32による処理と、小梁配置変更部33による処理と、他部材干渉判定部35による処理とを行う。
【0044】
干渉回避部41は、他部材干渉判定部35において回避床小梁25aが他部材と干渉すると判定された場合に、配置情報データベース43に記憶された配置情報(干渉時配置情報及び干渉回避後配置情報)に基づいて、回避床小梁25aと他部材との干渉を回避するよう、CADデータ上でそれら両者の配置関係を変更する。上述のデータベース構築処理においては、他部材干渉判定部35にて回避床小梁25aと他部材との干渉が判定された場合、設計者が、自らの変更操作により、それら両者の配置関係を変更して干渉回避を行うこととなっていた。これに対して、データベース利用処理では、回避床小梁25aと他部材との干渉が判定された場合、干渉回避部41において、回避床小梁25aと他部材との配置関係が自動で変更され、両者の干渉が回避されるようになっている。なお、干渉回避部41が干渉回避手段に相当する。
【0045】
ここで、配置情報データベース43には、上述したように、干渉時配置情報と干渉回避後情報とが互いに対応付けて記憶されている。このため、配置情報データベース43に記憶されたそれらの情報から、過去に設計者が、回避床小梁25aと他部材との干渉を変更操作によって回避する際、それら両者の配置関係をどのように変更して干渉を回避したか、その干渉回避の仕方についての傾向を把握することができる。そこで、干渉回避部41では、まず配置情報データベース43に記憶(蓄積)された多数の配置情報を深層学習することにより、干渉回避に関する判断基準を作成するようにしている。例えば、配置情報データベース43に記憶された配置情報(干渉回避後配置情報)には、回避床小梁25aと他部材との干渉が回避された際のそれら両者の離間寸法が記憶されている。このため、その記憶された離間寸法に関する情報から、回避床小梁25aを他部材からどれだけ離間させて干渉回避を行ったかを把握することができる。したがって、この場合、干渉回避する際の離間寸法についての判断基準を作成することが考えられる。具体的には、かかる判断基準として、干渉回避する際における両者の最低離間寸法を設定することが考えられる。
【0046】
判断基準を作成した後は、その判断基準に基づいて、CADデータ上で回避床小梁25aと他部材との配置関係を変更する。判断基準として、回避床小梁25aと他部材との最低離間寸法を作成する先の例では、その最低離間寸法に基づき、両者の配置関係を変更する。つまり、両者の間隔を最低離間寸法以上確保するように、両者の配置関係を変更する。
【0047】
干渉回避状態表示部42は、干渉回避部41により回避床小梁25aと他部材との干渉が回避された状態のCADデータを表示部13に表示させる。これにより、設計者は回避床小梁25aと他部材との干渉がどのように回避されたか確認することができる。
【0048】
以上、詳述した本実施形態の構成によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0049】
取得された建物XのCADデータ上で、設備機器Kが床小梁25と干渉するか否かが判定され、干渉が判定された場合には、干渉が回避される位置に床小梁25が回避床小梁25aとして配置し直される。そして、その回避床小梁25aが他部材と干渉するか否かが判定され、回避床小梁25aが他部材と干渉する場合には、その干渉を回避すべく、設計者により、それら両者の配置関係がCADデータ上で操作部12を用いて変更操作される。この変更操作が行われることで両者の干渉が回避された場合には、干渉時における両者の配置関係と、干渉回避後における両者の配置関係とが対応付けられた状態で記憶部14に記憶される。
【0050】
このような構成では、設計者が、建物Xにおいて回避床小梁25aと他部材との干渉を回避すべく、両者の配置関係を変更操作する度に、両者の配置関係に関する情報が記憶部14に都度記憶される。このため、多数の建物について、かかる記憶処理を行うことで、記憶部14には、両者の配置情報(詳しくは干渉時配置情報及び干渉回避後配置情報)に関する配置情報データベース43が構築される。この配置情報データベース43が構築された後は、干渉回避部41において、配置情報データベース43に記憶された配置情報に基づき、両者の干渉が回避されるよう両者の配置関係が自動で変更される。例えば、データベースに記憶された配置情報からは、ユーザが過去に、両者の配置関係をどのように変更することで干渉を回避したかを把握することが可能であるため、その過去の干渉回避の仕方を参照して両者の配置関係を変更するといったことが可能となる。これにより、回避小梁と他部材とが干渉した場合に、その干渉を回避すべく、設計者が両者の配置関係を見直す(変更する)手間を不要とすることができる。そのため、複数の床小梁25が並設された床部に設備機器Kを設置する際において、その設計に係る工数低減を図ることが可能となる。
【0051】
具体的には、干渉回避部41では、配置情報データベース43に記憶された配置情報を深層学習することにより干渉回避に関する判断基準が作成され、その作成された判断基準を基に、回避床小梁25aと他部材との配置関係が変更される。この場合、深層学習を用いることで両者の干渉を回避した設計を好適に行うことが可能となる。
【0052】
本発明は上記実施形態に限らず、例えば次のように実施されてもよい。
【0053】
・上記実施形態では、他部材干渉判定部35において、回避床小梁25aが再配置された後のCADデータに基づき、回避床小梁25aが他部材に干渉するか否かを判定するようにしたが、かかる判定を設計者(ユーザに相当)の入力操作に基づき行うようにしてもよい。例えば、データベース構築処理(図2)の際に、他部材干渉判定部35において、かかる入力操作に基づく判定を行うことが考えられる。
【0054】
入力操作に基づく判定は、例えば次のように行うことが考えられる。小梁配置変更部33により回避床小梁25aの再配置が行われた後、その再配置後のCADデータを表示部13に表示させるようにする。これにより、設計者はCADデータ上で回避床小梁25aが他部材と干渉するか否かの確認を行えるようになる。また、設計者により確認された干渉の有無に関する情報を設計者が操作部12を用いて入力できるようにする。そして、他部材干渉判定部35では、その入力された干渉の有無の情報に基づいて、回避床小梁25aが他部材と干渉するか否かの判定を行うようにする。
【0055】
・上記実施形態では、干渉回避部41において、深層学習を用い回避床小梁25aと他部材との干渉を回避する配置変更を行ったが、かかる配置変更は必ずしも深層学習を用いて行う必要はなく、制御プログラムによる処理によって行ってもよい。
【0056】
・上記実施形態では、ユニット式建物の建物ユニット20において複数の床小梁25が並設された床部に設備機器を設置する際に、設計支援装置10を用いる場合を例として説明したが、例えば、建物ユニット20において複数の天井小梁24が並設された天井部に設備機器を設置する際に設計支援装置10を用いてもよい。この場合、設備機器としては、空調装置や換気装置、照明装置等が設置されることが考えられる。
【符号の説明】
【0057】
10…設計支援装置、11…制御部、12…干渉回避操作手段としての操作部、14…記憶部、20…建物ユニット、25…小梁としての床小梁、25a…回避小梁としての回避床小梁、31…建物データ取得手段としての建物データ取得部、32…機器干渉判定手段としての機器干渉判定部、33…小梁配置変更手段としての小梁配置変更部、35…他部材干渉判定手段としての他部材干渉判定部、39…記憶実施手段としての配置情報記憶部、41…干渉回避手段としての干渉回避部、43…データベースとしての配置情報データベース、D…他部材としてのダクト部材、K…設備機器、X…建物、Xa…対象建物としての建物。
図1
図2
図3
図4
図5